次代を創る学識者/磐田朋子・芝浦工業大学副学長環境システム学科教授

持続可能なエネルギーシステムの在り方を一貫して模索してきた。
ロシア発の危機が続く中、多様なアプローチで研究を深化させていく。

小学生で湾岸戦争のニュースを目の当たりにし、石油を巡り戦争が起きている現実に衝撃を受けた。いつの時代もエネルギーが戦争の発端になり得る中、資源のない日本は持続可能なエネルギーをどう確保すべきか―。磐田朋子・芝浦工業大学教授の研究の根底にはこうした問題意識が流れている。
学生時代、所属研究室の主流は化石燃料分野だったが、再生可能エネルギーの中でも暮らしに身近な廃棄物発電のライフサイクルアセスメントを研究テーマに選択。生ごみの処理から発電利用、メタン発酵の廃液から作る液肥の農業利用など、システム全体の導入可能性を検討した。結果、新システムを実装する上では「特に需要サイドの視点から最終的な利用形態まで考え、全体の最適化を図ることが必要だ」と痛感した。
その後所属した研究機関では、分散型システムを組み合わせて自給率最大化を目指す研究など、民生部門にフォーカス。東日本大震災後の電力需給ひっ迫局面では、独自予測を基に予備率が3%を切った際、約60自治体を対象とした節電要請にも取り組んだ。
現在はデマンドレスポンス(DR)や、行動変容を促すナッジなどにも研究範囲を広げる。「工業大学=技術開発のイメージだが、普及するためには合意形成や心理学の研究も重要。民生分野の課題を広い視点から解決するアプローチが求められている」と指摘する。

屋根上太陽光拡大は急務 「脱炭素先行地域」にも関与

一貫して化石燃料偏重への危機感を持つが、日本でのメガソーラーは景観問題や地域共生、生態系への影響といった面から、将来にわたって持続可能とは言い難い。建物や農地など、管理できる範囲内で再エネを拡大すべきとの立場だ。補助金施策の効果は限定的と捉え、改正建築物省エネ法での新築への省エネ基準適合義務化や、東京都の新築住宅への太陽光設置義務化条例のような規制強化が必要だと説く。「パネル設置では耐震性能の問題が大きく、規制強化で一定の改善が見込める。他方、化石燃料高騰傾向も考えれば、規制強化しにくい既存ストックへのアプローチが喫緊の課題だ」と強調。引き続き心理・行動学的手法とハード対策を駆使し、DRの効果最大化や、開口部の断熱性能向上、家庭にパネル設置を促すための研究などを進めていく。
環境省の「脱炭素先行地域評価委員会」委員も務める。現在第三回を募集中で、回を重ねるごとに、持続的なビジネスを成立させる意識の高まりを感じるという。実は芝浦工大も、さいたま市や埼玉大、東京電力パワーグリッドとの共同計画が先行地域に選ばれた。芝浦工大は実験設備が多く、校舎の新設も予定するが、磐田教授のこれまでの研究成果を生かし、実験などの質を落とさずに電力需要の実質CO2フリー化を目指す。
2月1日には同大初の女性副学長に就任。社会的重要性が増す研究の深化に加え、学内のダイバーシティーけん引への期待もかかる。

いわた・ともこ 2007年東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻博士取得。同研究科助教、建築研究所、科学技術振興機構低炭素社会戦略センターを経て、17年から芝浦工業大学システム理工学部環境システム学科に着任。

【マーケット情報/3月24日】原油反発、景気と需要の回復期待が広がる

【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み反発。景気の回復期待と金融不安の緩和から、買いが優勢だった。

米国では、連邦準備制度理事会(FRB)が金利引き上げの終了を示唆したことから、景気と需要の回復期待が広がった。また、米シリコンバレー銀行の破綻に始まった金融不安に対し、主要経済国の中央銀行がドル供給の拡充で合意するなど、緩和策を打ち出したことも強材料となった。欧州では、スイスの大手投資銀行UBSが、経営不安にあったクレディ・スイスの買収で合意に至ったことも、市場は好感した。

他方で、クウェート西部における原油流出も材料視された。国営クウェート石油会社(KOC)は、生産への影響はないとしつつも、非常事態宣言を発した。

一方、米エネルギー省長官は、年内の戦略備蓄への補充は困難との見通しを示した。米政権は補充の方針を示していたが、施設の改修作業が補充開始の障害となっている。また、米原油在庫は2021年5月以来の高水準に至るなど適正水準を上回っているが、油価への影響は限定的だった。また、フランスでは、労働争議の影響で複数の製油所が停止したが、油価の下方圧力には至らなかった。

【3月24日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=69.26ドル(前週比ドル2.52高)、ブレント先物(ICE)=74.99ドル(前週比ドル2.02高)、オマーン先物(DME)=75.18ドル(前週ドル0.25高)、ドバイ現物(Argus)=75.06ドル(前週比ドル0.14高)

【メディア放談】続・電力業界の不祥事 問題続出で「最大のピンチ」か

<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ/4名

大手電力の一連の不祥事問題は収まるどころか拡大する一方だ。

電力システム改革10年の節目に、業界は最大のピンチを迎えるのか。

 ―大手電力の一連の不祥事問題は全く収まる気配がない。むしろ次々に新たな事実が発覚している。

石油 石油業界は電力より早く再編が進み、かつて不正問題でもエネルギー業界内で真っ先に突き上げられた。翻って今、電力は四面楚歌だろう。談合は許されない時代に変わり、特に厳しく追及している読売の記事には記者の怒りを感じる。ただ他紙からは、エネルギー危機ほどの熱量は感じない。

―一連の不祥事が電力業界最大のピンチとなるかもしれない。

ガス というか、自らまいた種だ。電力システム改革第一弾の施行から10年という節目にうみが出た。総括原価時代から見直さなければならなかったことが、経営全体で徹底できていなかった。閲覧した情報を営業に使ったと指摘されたのは今のところ関西電力だけだが、今後他社でも発覚する可能性がある。ただ、強力なライバルが存在しない地方電力がなぜ不正閲覧をしたのかについては、クエスチョンが残る。

石油 システム改革のうみについて、有識者のコメントを用いてビシッと指摘するような記事を期待しているが、これまで政策議論に関わってきた有識者が自らの意見を否定することは難しいのだろう。

電力 電力のコンプライアンスが徹底されてこなかったことは問題だ。他方で自由化以降、大手電力の体力を削るような政策が次々実施され、燃料高騰局面では電気を売れば売るほど赤字でも耐えてきたと言う側面もある。ようやく規制料金値上げを各社が申請したものの、持続的に電気事業を営んでいくために必要な設備投資を行えるような環境整備が必要だ。この点について、政府には不祥事問題とは別の議論として進めて欲しい。

問題の余波どこまで エネ業界全体にも影響か

石油 一方、電力の規制料金値上げ申請に関する公聴会が各地で開催されているが、四国電力の公聴会では意見陳述人がゼロだったね。消費者にとって値上げは腹立たしいはずだが、新聞の投書欄でも批判する内容は意外と見当たらない。

ガス 地域間の電気料金格差を指摘する記事も出てきた。ほかの公共料金と比べて、これまで電力の内外価格差はほぼなかったが、今後は差が拡大していく。一般紙も、電力会社ごとの個別事情を踏まえた分析記事をもっと書くべきだ。

マスコミ 東京電力ホールディングス(HD)にメガバンクが4000億円の緊急融資を実施する件だが、昨年からHDはエナジーパートナー(EP)の増資を計5000億円を引き受けたのだから、この対応は当たり前。EPの経営問題とHDの資金繰りの話について、日経などは冷静に報じるべきだろう。いずれにせよ各電力の資金繰り問題が今後表に出てくる。業界でくくらずに各社の状況を掘り下げることが重要で、中でも東電の経営計画に注目している。

―電力の不祥事問題は、今後どのような展開が予想されるだろうか。エネルギー業界全体への波及もあり得るか。

石油 依然、エネルギー危機は続いている。東洋経済の特集は力が入っていて、国内外のさまざまな著名人にインタビュー。その中でサハリン2の停止リスクとガス危機長期化に警鐘を鳴らす記事がある。そんな状況下で今後、ガスにまで不正問題の影響が飛び火してしまうと、安定供給上のリスクが高まってしまうのではないか。

ガス 電力の不祥事問題の解明は途中経過で、不正閲覧の規模がどこまで広がるか。また中部電力と東邦ガスのカルテル問題も年度が明ければ表に出てくる。ガス業界も無関係ではいられない。

マスコミ 与党議員からはエネ庁にシステム改革の非を認めるよう迫る声も出始めた。電力・ガス事業部長はこれまで電気事業連合会の社長会に出ていたが、カルテル問題発覚後は出席しないようになった。また、アンバンドリングが徹底できていないことや、不祥事があっても電気事業法上の業務改善命令発出しかできないなど、さまざまな問題が表面化した。これらをまとめて検証する場が今後設定されるだろうが、いずれにせよ電力有利の改革とはならなそうだ。

ガス そこで問われるのが業界紙の立ち位置。業界のことを一番知っている。電気新聞の報道は業界に遠慮しすぎ。起きていることについては、忖度せず客観的に報じる姿勢が必要だろう。

―電気新聞にせよガスエネルギー新聞にせよ「プラウダ」や「人民日報」になってはいけないな。小誌も自戒しないと……。

高浜4号の緊急停止 PWR稼働への影響は

―ところで1月末、原子炉格納容器外で中性子の急減を検出したとして、高浜4号が自動停止した。政府の原子力政策のてこ入れに水を差さなければよいが。

電力 関電が原子力規制委員会に今回の理由を報告した後、規制委がどう対応するかによる。悪い言い方をしようと思えばいくらでもできる。現規制委員長らは以前のメンバーほど変な物言いはしない印象だが、どう出るかな。

マスコミ 情報があまり出てこなかったので、メディアも書きにくかった。今後については、規制委は基本横展開させるので、対応が決まった暁にはPWR(加圧水型炉)全てで実施するだろう。下手をすればPが一斉に停止する事態もあり得るよ。

電力 関電は福井県の使用済み核燃料の県外搬出問題も抱えている。今年中にけりをつけなければ、美浜3号、高浜1、2号が停止する。6月の青森県知事選は、むつ市長の宮下宗一郎氏有利との見方もある。もちろんまだ勝敗は読めないが宮下氏が勝った場合、青森の原子力事業はより対応が難しくなる。

―原子力問題は引き続き楽観視できないな。

マーケットの歴史から学ぶ リスクマネジメントの重要性

【リレーコラム】野澤 遼/enechain代表取締役

 新卒で電力会社に入ってから20年近くが経つ。その間、電力会社、トレーダー、コンサルタント、そしてenechainを創業してからはマーケットの運営者として、一貫してマーケットと相対する仕事に携わってきた。

ジェットコースターのような20年だった。歴史を振り返ると、2008年にWTIが最高値を付けたかと思うと、リーマンショックで価格は5分の1近くに急落した。11年の東日本大震災直後にはLNGを買いあさったが、再エネ導入が進むと余剰に苦しんだ。COVID―19以降はJKMが2ドルを割ったが、ロシア侵攻以降は燃料価格が現在進行形で暴騰している。ブラックスワンは思ったよりたくさんいるなというのが率直な感想だ。

マーケットは分からない。だからこそ痛感するのは地に足のついたリスクマネジメントの重要性である。私は米国の資源商社でPJMなどの電力トレードに携わったが、米国の電力実務の現場ではEarnings At Risk(EaR)に代表されるリスクマネジメント手法が驚くほど浸透している。EaRだけでは不安だからモンテカルロなどでストレステストも実施する。ボラタイルな市況では、トレーダーとリスクマネージャーがアカデミックな理論を交えて喧々諤々と議論する。ヘッジの考え方も浸透しており、四半期決算ではCFOが自社のヘッジポリシーやヘッジ状況を資本市場に向けて発信するのが一般的だ。

恒常的なリスクヘッジが必須

翻って日本の電力取引の現場はどうか。20年初のスポット高騰を機にリスクマネジメントの重要性を認識した会社は多いが、喉元すぎれば熱さを忘れるよろしく、足元のスポット価格が下がればヘッジをしなくなる会社はまだ多い。米国時代に聞いて忘れられないのが「アメリカですらリスクマネジメントカルチャーが浸透するには10年かかった」という言葉だ。日本は自由化してまだ日が浅いのだから、こうなるのも当然といえば当然だ。

先日、eScanという自社が抱えるリスク量を捕捉できる、日本では初となるリスクマネジメントシステムをリリースした。加えて、enechainは日本最大のヘッジマーケット運営者として流動性を提供し、ヘッジ取引によりリスクをマネージするところにも強くコミットしている。「日本に真のリスクマネジメントカルチャーを根付かせたい、そのために大きなマーケットをつくりたい」とenechainを創業して4年、カルチャーの浸透に向けてようやく一合目。米国で聞いた言葉を胸に、残りの人生を懸けてこの取り組みを続けていきたい。

のざわ・りょう
東大経済学部卒、ペンシルバニア大経営大学院卒。関西電力、資源商社を経て、ボストンコンサルティンググループでエネルギー企業向けトレーディングやリスク管理などのコンサルティングに従事。2019年にenechainを設立。

※次回は東北電力エナジートレーディングの和泉高宏さんです。

【関 芳弘 衆議院 経済産業委員会 筆頭理事】「原子力、正面から真剣に」

せき・よしひろ 1989年関西学院大学経済学部卒、住友銀行(現三井住友銀行)入社。2005年9月衆院初当選(兵庫3区)。13年自民党副幹事長、14年経済産業大臣政務官、15年英国国立ウェールズ大学経緯英大学院修了(MBA取得)。16年環境副大臣、18年経産副大臣を経て、22年10月から衆院経済産業委員会筆頭理事。

「人のためになる仕事を」と政治を志し、環境副大臣、経産副大臣などを歴任。

エネルギー問題解決のため、環境対策と経済合理性の両立に奔走する。

徳島県で生まれ育ち、「人のためになる仕事がしたい」と政治を志した。関西学院大学在学中、松下政経塾に合格。卒業後は政治の世界に飛び込もうとしたが、そんな自身を諭したのは、魚市場で長年働き続けた父の言葉だった。「『政治家になりたいのなら、汗を流して働く人の苦しみや涙が分かる人間になってからだ』とカミナリを落とされた」。住友銀行(現三井住友銀行)に入行し、融資・外回り業務などを経験した。

「銀行に勤めた理由は、経済を一番知ることができる業界だったから。世界経済のひずみから戦争は始まる。経済を安定させる政治家になりたいと思っていた」。企業と対話を重ね、彼らが融資を求めて何をしたいのか、金融的流通の側面から経済の在り方を学んだという。「問題解決のためには、システムの整合性が重要。いかに論理的に競争に勝ち抜く体制を作り上げていくか、それを考えるのが好きだった」と銀行員時代を振り返る。その後は、住友銀行とさくら銀行の合併対応にも奔走。17年間にわたるサラリーマン生活を送ったのち、2005年9月の衆議院選挙に兵庫3区から出馬、初当選を果たした。

13年には自民党副幹事長に就任。以降は経済産業副大臣や環境副大臣などを歴任し、22年10月に衆議院経済産業委員会の筆頭理事に就いた。経済の立て直しや経済安全保障対策で存在感を示し、特にエネルギー問題には「原発の再稼働について、1期生の時から長く力を入れて取り組んできた」と話す。22年12月には、岸田文雄首相がGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で、東日本大震災以降停滞していた原発の建て替えや稼働延長について言及した。これを踏まえて、エネルギー全体における原子力の電源比率を、第六次エネルギー基本計画にある目標数値の20~22%まで進める必要があると説く。福島第一原発の事故対応や高レベル放射性廃棄物の最終処分など問題は山積しているが、「原子力発電は、われわれにとって正面から真剣に取り組まなければいけない課題」と解決に全力を尽くす姿勢を示している。

世界各国と日本のエネルギー事情の違いについては、元銀行勤務の視点から「エネルギー問題に関して、日本ほどオブリゲーションのある国家はない」と指摘。他国へのエネルギー依存度が高い日本の現状を危惧している。他方、欧州のような安定した風力、遠浅の海岸がなく、広大な太陽光適地もない日本が、過度な再生可能エネルギーにかじを切る政策はすでに限界にきていると警鐘を鳴らす。「日本には再エネを生かす環境があまり残っていない。水素や合成メタン技術に目を向けたいが現状は割高で、今後はエネルギー単価をいかに下げていくかが重要だ」。環境問題解決と経済合理性の両立を目指すことで、世界と競争の舞台に立てると主張する。

エネルギーミックスの重要性を実感 原子力活用で踏み込んだ提案を

エネルギー確保の重要性については「日本と資源国が、政治的に親密ではない場合もある」と分析。資源国自身が政情不安定な場合の問題もあり、自国にエネルギー資源がない日本は、電力の安定供給には再エネと火力、原子力のエネルギーミックスが重要だと話す。「エネルギーミックスを達成した後は、S(安全)プラス3E(安定供給、経済、環境)から外れない形で、環境に配慮した比率へと変化させていくのが望ましい」。党内でも再エネと原子力の比率についてはさまざまな意見があり、調整や議論を深めたいという。

一方で、原子力の活用は地域住民の心情などに配慮が不可欠と指摘。使用済み核燃料の最終処分地選定など、自治体側から手を上げにくい政策に関して国が責任をもって主導するべきだと話し、「経済産業委員会の筆頭理事として政府の法案に対応していく。政府には原子力活用に関して一歩踏み込んだ提案をしてほしい」と期待を寄せる。

エネルギー問題解決のために、自民党内や国会で議論を重ねる毎日だが、根底には「愛と緑と商売繁盛」という自身の基本理念がある。人を愛する心と緑を慈しむ気持ちを大事にして、国を豊かにするために、古い制度を改革する必要があると話す。この理念は環境副大臣、経産副大臣の際にも生かされ、自身の政治人生の礎となっている。

現在は職務もあり余暇が取れない状況ではあるが、中国戦国時代に活躍した将軍「楽毅」 についての小説を愛読。考え方に共感を覚えたという。奸計により国を追われた楽毅が、亡命をとがめる王の手紙に対し、国への変わらぬ忠節を示した「報遺燕恵王書」は、三国志の諸葛亮孔明も尊敬する名文と言われている。「責任ある立場になって、国のために自身がどうあるべきかを考えるようになった」。組織の中で責任を持ち、戦略を考え、国を支えるために汗をかき続ける。

【需要家】消費者の行動変容 情報提供進化に期待

【業界スクランブル/需要家】

厳冬期を迎え、各社の節電チャレンジへの取り組みが活発化している。本誌2月号特集「家庭用エネルギーの新潮流」ではゲームや競争原理を生かした情報提供の事例が紹介されており、取り組みの進度は事業者によって濃淡がありそうだ。情報提供の方法、内容、タイミングは消費者の行動変容に与える影響が大きいと感じる。

SNS全盛時代に、メール配信だけでは節電アナウンスに気付いてもらえない懸念がある。また節電行動は金額換算にすると少額で大きなインセンティブになりにくく、社会規範に訴える、またはランキングで競争を促すなど、行動してもらうための工夫も必要である。

将来的にはAI(人工知能)の発展も情報提供の在り方に大きな影響を与えそうだ。「Chat GPT」という話題のAIチャットでは、こちらからのさまざまな問いかけに対し、AIを活用して自然な回答が生成される。例えば、「カーボンニュートラル実現に向けた需要家の役割は?」と聞くと、「環境に配慮した選択をする:需要家は、環境に優しい製品やサービスを選ぶことができます」といったように、違和感のない回答が返ってくる。

今後は消費者に一方通行で情報を提供するだけでなく、節電、設備購入などにおいてAIと双方向でやり取りを行う時代が来るのかもしれない。またAIによる学習機能を活用して、情報提供の内容もより精緻化、パーソナライズ化が進むと思う。

このような情報入手に慣れてしまうと、情報の真偽を疑うことや、自分で考える習慣が希薄化する懸念はあるが、それ以上に技術進歩に対する大きな可能性を感じている。事業者のノウハウ蓄積と技術活用により、エネルギーに関わる情報提供の大きな進化に期待したい。(K)

【再エネ】供給側から需要家側へ 取り組み活発化

【業界スクランブル/再エネ】

最近、企業による再生可能エネルギー活用に関するCMや記事を見る機会が増えてきた。以前は太陽光・風力発電などの製造や設置を行う企業のPRが多かった気がするが、このところ大型ショッピングセンターや大手コンビニチェーン、不動産会社、保険会社など、再エネ使用側の取り組みが目立っている。

現在の再エネ導入に関する動向は、以前の「供給側主導」から「需要側主導」に大きくシフトしてきているように感じる。新エネルギー財団が実施する「新エネ大賞」においても、数年前からイオンや東急不動産、三井不動産、ヒューリックなど需要側企業の再エネを活用した取り組みの受賞が目立っている。具体的には、自社使用電力の100%再エネ化を目指す取り組みはもちろんのこと、FIT(固定価格買い取り制度)終了後の家庭用太陽光発電の電力買い取りやPPA(電力購入契約)による再エネ導入、証書による賃貸ビルの再エネ化など、さまざまな形で再エネの活用に取り組んでいる。

また、世の中でたくさん電気を使用していると思われがちな業界が顕著な取り組みを始めており、代表例の一つが24時間営業のコンビニである。いつも明るい照明、店舗内の大型冷蔵庫などは大量電力消費の象徴のように感じている人も多いと思う。そのコンビニが昨今、非常に頑張り、店舗屋根上への太陽光発電の設置やオフサイトPPAなどによって、店舗電力の100%再エネ化を目指している。 その他にも、大量の電気を使用する鉄道会社などでも、自社の再エネ施設の環境価値を高めるため非化石証書を活用するなど、積極的な再エネ化が進んでいる。今後も需要側企業の工夫を凝らした再エネ導入に期待したい。(K)

【コラム/3月23日】混迷の電力システム改革~情報漏洩問題にみる自由化固執の人々

飯倉 穣/エコノミスト


1,電力改革の行き詰まり
 電力システム改革は、昨今電力販売に熱心な営業マンを生む一方、電力供給不安もばら撒いている。21年1月の電力卸価格の高騰・需給逼迫懸念以来、22年6月電力需給逼迫注意報、そして晩秋、冬季の電力需給逼迫警戒・節電を再度呼びかけた。
 節電に追われる越冬中に、電力事業者の倫理を問う情報漏洩(不正閲覧)問題が発覚した。この事案を受けて電力供給システムを混迷する動きも登場する。報道は伝える。「不正閲覧「大手電力に蔓延」送配電部門「所有権分離を」有識者会議 政府案目指す」(朝日23年3月3日)、「小売・送配電の資本分離案 電力不正閲覧巡り有識者会議 実現にはハードル高く」(日経同)。
提案は、迷走する現電力システムの合理的な見直しでなく、電力自由化の不都合を更に助長すると思われる。情報漏洩と電力システム再改革を考える。


2,不正閲覧は、現行法での対応問題、競争浸透の副産物 
 情報漏洩は、商道徳と公正競争問題である。電力託送業務で知り得た新電力の顧客情報を、閲覧可能な電力側の社員・委託先が閲覧し、営業に活用すれば不正である。
 電力・ガス取引監視等委員会が、報告徴収したところ、大手電力10社中7社で情報閲覧があり、顧客対応や一部営業に使用されたことが判明した。営業用に使用する行為は、電気事業法(23条等)で禁止されている。一般送配電事業者は、顧客情報を託送供給及び電力量調整供給業務(及び再エネ特措法の業務)以外に提供できない。当該規定は送配電事業者の中立性の確保を図る趣旨である。違反があれば、経産大臣が、行為の停止・変更命令、業務改善命令を行う。命令違反となれば罰則・罰金である。
 故に今回の情報漏洩(一部不正閲覧)問題は、現行法で対応可能である。今回違反行為ありの前提で、さらに厳罰を求める声もあるが、現行制度を考慮すれば、制度変更は不要である。また情報漏洩が、競争の視点でもし不公正取引なら、独禁法の適用(2条9項)もある。現実の行為を調査し、違反する行為があれば、現行法で適正に処分すれば十分である。
 皮肉となるが、現状は、電力システム改革(自由化)の狙い通り、販売面で自由化浸透中ということであろう。電気の商品化を前提とする販売競争が認められる(安定供給上問題続出だが)。経験論で言えば、日本における競争市場は、しばしば販売・収益獲得のために様々な局面で適法行為のみならず、脱法行為もあり、また行き過ぎで違法行為も見られる。この意味で電力業界は競争状態になっている。
問題があるとすれば、改革後の法体系・制度が、電力の供給不安を出現させたことである。

3,再エネタスクフォース提案の「罰則強化と所有権分離」は不要
この事案を受けて、再生可能エネルギー等規制等総点検タスクフォースは,公正な競争の確保というお題目で提言を行った(23年3月2日)。
概述すれば、不正閲覧は、発送電分離の基本要件が確保されず、公正な競争を揺るがしかねない。現行法令上の事業許可・登録の取り消しなど厳正な処分を行い、改めて公正な競争環境の整備を目指し、行為規制の強化や所有権分離を含む構造改革を実施すべきである。
具体的には第一に現行法令で、真相の徹底究明、厳正な処分の実施、第二に今後の制度改正で、行為規制の抜本的強化、罰則の強化、行政上の制裁のさらなる強化、電取委の権限強化と組織拡充、更なる送配電事業の中立、所有権分離の実現を求める。
その意図は様々あろうが、提案は、自由化後の電力システムの欠陥を無視した「どさくさ紛れ」か「火事場泥棒」的である。現行規程を徒に搔きまわしても混乱するばかりである。電力供給の安定・低廉の視点か見れば、有識者の提案を離れて基本に戻り、改革後の電力システムの再検討・再考が必要である。


4,不祥事が適切な対応を歪めることに留意
提案の動きを見ると、1990年代の経済金融混乱への対応や思い付きの構造改革が思い出される。現在の雇用不安定・経済の停滞は、90年代の対応不首尾の延長にある。国民感情・マスコミ誘導に煽られた一連の金融問題処理等である。政府(行政)、政治、エコノミスト等は、「バブルの結末でほとんど真実を無視し、崩壊の原因を別の要因に見つける行動に走った」(ガルブレイス「バブルの物語」参照)。
ゼロ成長経済を直視せず、需要崩落・過剰能力の実態を把握できず、また金融問題に抜本的に取り組まず、経済不振打開(バブル崩壊後)を、内外格差・高物価構造・日本型システムに求め、構造改革旗印の市場崇拝の規制緩和・中央省庁嫌気の地方分権を崇めた。構造改革お題目の電力システム改革もその一つである。
そして政治家・官僚・企業・民間金融機関の不祥事が、報道の煽りを招来し、国民感情を突き上げ、金融問題処理の時期・方法を歪め、構造改革信奉となった。いつの世も不祥事は、物事の処理を歪める。
 今回の事案は、情報漏洩という不祥事で、電力自由化論者が、これを奇貨として、電力システム改革の不都合をさらに混迷の方向に誘導している。不祥事を起こしたサイドへの厳正な対応は、対応として行い、有識者の有識程度を勘案して、他の問題に拡散させないことが重要である。


5,議論すべきは、電力自由化による供給不安定
繰り言になるが、電磁気学・経済学の論理から、電力自由化という市場任せは、ここ数年の軌跡から明らかなように非合理的で電力需給を混乱させている。
自由化は、市場競争で効率を上げ、安い電力の安定供給可能を喧伝し進められた。電力供給不足や停電が起きても市場が、価格変動で、供給投資や節電を促し、需給調整する。競争による効率化で電気料金が下がる。卸電気市場等を整備すれば、誰でも供給・販売に参加可能で消費者に利益をもたらすと、論者は強弁した。
結果は、「あなたに合った電気を選べる時代」と同時に「電力供給の不安定、価格のボラテイリテイ、輸入エネルギーへの適応力低下、そして需要家の戸惑い」という事象である。安定供給の要となる投資は生起しなかった。そして自由化された市場は非効率で、国監視・管理の市場・事業となった。電力自由化は、電力システム国有化現象であった。そしてある意味で企業理念の蒙昧、経営不在、従業員のモラル低下を誘発する。
電磁気学等の法則に沿えば、安定性で発送電一貫体制が合理的かつ自然あり、且つ発送電一体の相互連結が、限界費用に基づく発電の効率性を確保するうえで優位である。発送電分離なら、ホールドアップ問題(不確実性)が発生し、リスク回避で過少投資となり、予備力低下を招き、且つ供給義務の所在が不透明なため、安定供給が覚束なくなる。発送電分離は、垂直統合の相互連結と発送電のコンビネーションの合理性を無視している。
 電力の安定供給は、電源確保で適切な予備率、適切な電源投資が依然重要であり、ピーク対応の低稼働電源も必要である。それらの投資を回収するため、また安定的な燃料調達には、コスト(固定費・変動費・燃料費)プラスフィー(報酬)の料金が、依然合理的である。


6,基本に戻ろう
 今回の情報漏洩が販売面で公正な競争を歪めるとしたら、当然市場における不正競争は、本来独禁法の問題である。電力システムの特異性から、電気事業法の各規定があるとすれば、その法律の定めに従い、淡々と処分を行えば足りる。
 今回提案のあった罰則・制裁強化、電取委の権限強化(自由化と矛盾するが)、所有権分離等は、電力の安定供給や効率化・価格低廉と関係希薄で、本質論のすり替えである。ある意味で電力システム改革の失敗を糊塗している。今後は、電力供給の安定性向上を目指す視点で提言すべきであろう。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

生活を直撃するエネルギー危機 省エネ深掘りの好機となるか

【多事争論】話題:エネルギー価格高騰と省エネ

昨年来のエネルギー価格急騰がさまざまなもののコストアップ要因となっている。

この危機をばねに家庭の省エネを一段と進めることは可能か。専門家の提言を紹介する。

〈  健康快適で電気代も安心な暮らし 全員に届ける仕組み作りが急務

視点A:前 真之/東京大学大学院 工学系研究科准教授

2022年の家計調査によると、電気ガスなどの光熱費負担は全国平均で年間22万8000円。昨年の19万円から2割の増加となっている。激変緩和措置で一息ついている感はあるものの、4月から電力会社の値上げが相次ぐ中、電気代の負担はますます大きくなっている。

1970年代の石油危機以降、住宅でもエネルギーコストを下げる工夫はさまざまに試行されてきたが、確実に効果があると実証されているのは「断熱」「設備」「再エネ」の3点セットだ。従来はエアコンなど設備の高効率化が重視されてきたが、近年は伸び悩みが顕著。断熱は室内環境を健康快適に保ち空調負荷を減らすために不可欠だが、普及が著しく停滞している。24年前の99年に定められた断熱等級4を満たす住宅ですら、全体の13%にすぎない。最近になり家の寒さが深刻な健康被害をもたらす「ヒートショック」により、ようやく断熱の重要性が認識されつつある。

恐ろしいことだが、日本の住宅ではいまだに最低限の断熱と設備の省エネ性能が義務化されておらず、無断熱でエネルギーを浪費する新築住宅が堂々と販売されている。本来は20年の義務化が閣議決定されていたが、国土交通省の独断で無期延期になっていた。ようやく22年6月の通常国会において25年からの適合義務化が決定したが、「国交省は国民を寒さと電気代の苦しみに放り出した」とのそしりを免れない。

最後の再エネについては、住宅スケールで現実的なのは屋根載せ太陽光発電一択。エネルギー消費と光熱費の削減効果は、3点セットの中でも一番大きい。しかしその普及は依然停滞しており、18年には全5361万戸に対し太陽光有は219万戸、搭載率はわずか4%。新築でも屋根載せ太陽光のゼロエネルギー住宅(ZEH)の割合は、直近の21年ですら戸建の16%、集合の7%にすぎない。

断熱も屋根載せ太陽光も普及停滞 できない言い訳探しは終わりに

普及停滞を打破すべく、東京都が太陽光の設置義務化を打ち出したところ、すさまじい「太陽光ヘイト」ともいうべき罵詈雑言がネット(および一部エネルギーメディア)を中心に吹き荒れた。その多くは、メガソーラー固有の問題や、FIT(固定価格買い取り制度)の買い取り価格引き下げに伴う誤解を、ことさらに吹聴するものである。最近はネタ切れしたのか、シリコン原料がもっぱら生産されるウイグルのジェノサイド問題が、最後のよりどころとなっている。

繰り返すが、太陽光発電ほど住宅で省エネと電気代削減効果が大きく、成熟してコスト競争力がある対策は存在しない。今、世界で問題になっているのは、太陽光パネルのように極めて重要なパーツを一国の一地域に依存してきたリスクであり、間違っても「太陽光発電はいらない」などという話ではない。人権や環境の価値観を共有する陣営内でのサプライチェーン再構築は不可欠であるが、これは個々の自治体や企業ではなく、国、そして世界が連携して対応すべき問題である。

そもそも国交省・経済産業省・環境省合同の「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」においては、「30年に新築戸建6割に太陽光設置」の目標が明記されている。さらに国交省の役割として、「住宅・建築物分野における省エネルギーの徹底、再生可能エネルギー導入拡大に責任を持って主体的に取り組む」と強調されている。 東京都の苦闘ばかりが注目されるが、本来率先して汗をかくべきなのは国交省なのだ。

「〇〇を義務化すると家が高くなって買えない人が出る」は、国交省の定番の言い訳。しかし、断熱や太陽光はライフサイクルではむしろ大きな利益をもたらす。解決すべきは、「全ての人にその恩恵を届ける仕組み作り」ただ一つである。例えば新築においては、断熱や太陽光による光熱費の低減効果を収入合算し、住宅ローンの総額を増やせばよい。実際に一部の銀行で始まっている。賃貸においても、性能表示や光熱費目安の表示が有効であろう。住宅に関わる全ての関係者が知恵を出し合い、「できる方法」「できる仕組み作り」にだけ注力すべきである。できない言い訳探しはもうたくさんだ。

地域の人たちが安心して電気を使えるよう、尽力されている電力関係者がたくさんいることは筆者もよく知っている。しかし、「エネルギーは国民の生活を支える」ためにあり、その逆はありえない。GX(グリーントランスフォーメーション)が一部の巨大企業や輸入商社の利権維持で終わってよいはずはない。日本に暮らす全ての人がエネルギーの不安がなく暮らせる、真の脱炭素社会の実現を願ってやまない。

まえ・まさゆき 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了。建築研究所研究員、東京大学大学院工学系研究科客員助教授を経て2008年4月から現職。博士(工学)。専門分野は建築環境工学。

【火力】更新でLNG費用減 200億円削減の衝撃

【業界スクランブル/火力】

今冬の電力供給も綱渡りの状況だ。世界的な燃料資源獲得競争激化の影響もあるが、老朽化した火力設備の休廃止が拡大する一方で、脱炭素や電力自由化によって火力投資が進まないことが要因となっている。新規電源の建設は、短期的には大きな経済的負担を伴うためショートポジション中心の自由化市場においては敬遠されがちだが、中長期的には、供給力の確保のみならず経済的にもCO2削減の観点からも大きな効果があることをご存じだろうか。

このほど完成した東北電力の上越1号機やJERAの姉崎新1号機は最新鋭のLNG焚きコンバインドサイクル設備で、熱効率は従来型比3割向上となる約63%(低位発熱量基準)を誇っている。この効果を定量的に示すと、年間の燃料使用量で約20万t、CO2排出量で54万t程度の削減となる。(1基65万kW、利用率70%の場合)燃料費削減効果は、直近のLNG価格1t10万円で計算すると年間200億円にもなり、CO2の削減効果は太陽光発電80万kW相当を建設した場合と同等となる。衝撃的な効果だ。

このように火力の熱効率向上は、エネルギー資源を効率良く使うとともにCO2の排出量抑制の効果もあり、需要側の対策である省エネと同等の効果を発揮する。この効果がユニット1基から叩き出されることを考えると、乾いた雑巾を絞るようだといわれる省エネと比較しても実効性の高い施策といえるのではないだろうか。

確かに、火力新設で今すぐ脱炭素が実現するわけではない。しかし老朽火力設備の新陳代謝を促し、将来カーボンフリー火力への改造を念頭に健全な設備を確保しておくのは大きな意味がある。GXを着実に推進するためには、ライフサイクルを見通した取り組みが肝要だ。(F)

【追悼】故千葉昭氏を偲ぶ~競争時代だからこそ「公益の心」を重視 ライフラインを守る使命貫く

努力と抱負な識見で 進むべき道を示した

四国電力社長を務められた千葉昭氏が1月12日、亡くなられた。

的確な判断と行動力は、四国地域を超え大きな存在感を発揮した。

「千葉さんはわが社の『太陽』でした」―。四国電力会長の佐伯勇人氏は、師とも仰ぐ元上司を万感込めそう追悼した(1月17日付電気新聞)。親分肌で気さくな人柄だけではない。同社員約4000人の多くの顔と名前を覚え込むといった人知れぬ努力と豊富な識見は、同社のみならず広く電気事業と地域発展に向け「切れ味の良い判断」となり「進むべき道を的確に示し」(佐伯氏)ていった。

千葉昭氏は、1946年香川県生まれ。実家はお寺で自身僧籍を持っていた。69年に京大経済学部を卒業し四国電力入社。2000年取締役、03年常務、05年副社長を経て09年社長に就任した。15年会長に就き、同年四国経済連合会会長に。19年相談役に退いた。

この間、企画を中心に営業、総務、燃料各部門から原子力本部、情報通信本部まで幅広く経験。周囲は「リーダーシップがあり上位者とも臆することなく渡り合い、対人能力に長けていた。いずれ会社を背負って立つ人」と一目置いていたが、高松支店長時の98年2月、電力マン人生の節目となる出来事に遭遇する。18万7000Ⅴの坂出送電鉄塔倒壊事件(未解決)だ。高さ73mの鉄塔台座部分のボルトが抜かれ停電被害などをもたらした特異な事件は、復旧の現場責任者として「苦い思い出」となった。それでも100日間という短期間での復旧を果たし、やがて社内の語り草となっていく。

ライフラインを守る電気事業の使命を改めて確認した千葉氏は副社長時広報部門も担当、電力自由化時代到来から事業の効率性を追求する一方で、CSR(企業の社会的責任)を重視し企業のマイナス情報を出すことにためらうなと社員に呼び掛けた。競争時代だからこそ事業の公益性にこだわった。

その姿勢は社長就任2年目、11年2月末に発表した長期ビジョン「しあわせのチカラになりたい。」に表れている。ほっこりした平易なビジョン名、またグループ共通の価値観として「公益の心」を盛り込み、低炭素など時代の変化に対応する道筋を示した。

しかし3・11後の困難な情勢はエース電源、伊方発電所を停止に追い込み、需給と収支は一挙に緊迫。再稼働に向け全戸訪問や原子力本部を松山市に移転させるなど、先頭に立って指揮し奔走した。再稼働と料金値上げ問題が差し迫る中、茂木敏充経産相(当時)との差しの場面では、発送電分離の電力システム改革への協力を強く迫られた。

懸案への対処を通じ千葉氏の存在感は高まった。相談役に退いてからも新幹線の実現などに力を注ぎ、「元気を与えてくれる」(佐伯氏)人となりは、危機の時代にこそ必要とされていた。信条とした公益の心、改めてかみしめたい。

文/中井修一 電力ジャーナリスト

ESGで不動産の価値向上を支援 手付かずの市場拡大狙う

【エネルギービジネスのリーダー達】伊藤 幸彦/GOYOH 代表取締役

不動産価値を向上させるサービスを手掛けるGOYOHを2018年に立ち上げた。

オーナーに働きかける独自のビジネスで日本の不動産の持続可能性を追求する。

いとう・ゆきひこ 早稲田大学高等学院を中退。2006年、バックパッカーとして訪れていたニューヨークで民泊事業を立ち上げ、08年に帰国しアスタリスクを設立。国内外の不動産投資ファンド向けのコンサルティングなどを手掛ける。18年にGOYOHを設立し代表取締役に就任。

集合住宅やオフィスビルなど、不動産価値向上のためのサービスを提供するスタートアップ企業GOYOH(ゴヨウ)。2018年に創業、脱炭素化をはじめESG(環境・社会・ガバナンス)に取り組むためのデータを可視化し、施策を提案するサービスツール「EaSyGo」を軸に、機関投資家など不動産オーナーに提案活動を行っている。

オーナー目線でデータを可視化 現場の行動変容を促す

本格的にサービスを開始したのは21年だが、既に外資系投資ファンドが保有・運用するオフィスビルや賃貸住宅、高級リゾート、ショッピングセンターといった50物件ほどで、脱炭素や社会課題解決のためのプログラムを導入するサービスを手掛けてきた。

「欧米市場と同じように、しっかりと省エネに取り組まなければ不動産の価値が棄損されてしまう社会が、もう間もなく日本にも到来する。持続可能な不動産を目指すためにはハードを整備するだけでは不十分で、そこで働く人や住む人に行動変化を促し着実に不動産の脱炭素化・ESGに貢献していきたい」と語るのは、伊藤幸彦代表取締役だ。

同社のように不動産テックと呼ばれる企業は国内にも存在しているが、その多くが管理会社やビルメンテナンス会社を対象にしている。しかし、ESGの目標を立て予算を決めるのはあくまでも不動産運用者や機関投資家などのオーナー。参入障壁の高いこの層に食い込み提案活動ができることは同社の大きな強みとなる。

実のところ、不動産オーナーが把握できるCO2排出量はビル全体の15%程度にすぎず、その多くがテナントや居住者の行動によるものだ。ここで対策を講じなければ抜本的な改善にはつながらない。機関投資家の目線でCO2排出量や電力利用量などを解析し、それに合わせてテナントや居住者に省エネ行動を促したり、省エネのための設備を最適化したりするための仕掛けを提案。一方で、それを現場で実現するためテナントや居住者に対し、利便性や快適性、地域貢献などの「やりがい」を提供し、それによって省エネや節電などの行動変容を促すのが同社の役割だ。

例えば外資系の不動産投資会社が保有・運用する東京・月島の高層マンション群「リバーシティ21 イーストタワーズI」では、EaSyGoと連動した専用ポータルサイトを住民に提供している。

コミュニティーの持続可能性を可視化。健康、省エネ、防災・災害対応、地域交流などをテーマにしたプログラムを、他社の先端テクノロジーやサービスと連携しながら提供している。住民にとってはよりよい生活環境が創出され、投資会社は経年により低下しかねない不動産価値の向上につながる。まさに、オーナーと住民でウィンウィンの関係を創出しようというわけだ。

なぜ、創業したばかりの同社が、こうした不動産オーナーの信頼を得て事業を展開することができているのか―。それは、前身のアスタリスク社でベントール・グリーンオークなど世界のESG不動産をリードする投資ファンドの事業パートナーとして、機関投資家に出資を募るビジネスに携わってきたからにほかならない。

社員数は12人と少数ながら、グローバルな金融、不動産といったさまざまな分野の最前線で経験を積んだ精鋭ばかり。伊藤氏自身も、不動産脱炭素のための枠組みであるCRREM(Carbon Risk Real Estate Monitor)に、グローバル科学委員として参加している。

バックパックで70カ国を旅 富裕層向けビジネス

高校中退後、バックパッカーとして70カ国以上を旅した。23歳の時にニューヨークで民泊ビジネスを立ち上げ、08年のリーマンショックを機に日本でも起業。以来、海外から日本の不動産に投資を呼び込んだり、世界中に生活やビジネス拠点を持つ超富裕層にサービスを提供したりといったビジネスを立ち上げてきた。世界中を旅行し、さまざまな国の文化や人と接しコミュニケーションを取った経験は、相手の懐深く入り込むスキルとして身に付き、仕事に生かされているという。

月島のリバーシティ21のポータルサイトでは、こども食堂に寄付したり、住民同士で不用品を交換し合ったりといったプログラムを提供しており、エネルギーの使用量削減はもとより、このプログラムを通じて何食分の食事をこども食堂に寄付できたかなどを目にすることができる。「社会に貢献していることを実感し、それが何よりも仕事のモチベーションになる」と伊藤氏。

今後は、業界唯一無二の存在感を発揮しながら、「不動産のESGを実現するためにさまざまな分野のテクノロジーやスタートアップ企業と連携を深めていきたい」と言う。それによって手付かずの市場を拡大し、同社の規模拡大を目指す構えだ。

【原子力】待ったなし! 「核のごみ」の処分

【業界スクランブル/原子力】

核燃料サイクルの実現のため、2030年度までに泊原発3号機や浜岡4号機などを含めて12基以上でプルサーマル発電計画が進められている。だが、多くは福島第一原発事故を受けて停止し、再稼働の前提となる審査が難航するなど見通しは立っていない。電源開発も青森県にプルサーマル専用の大間原発を建設中で30年度の稼働を予定しているが、原子力規制委員会の審査が遅れている。

核燃サイクルの中核は再処理工場で、フル稼働すると年約7tのプルトニウムが製造される。プルサーマル発電ができる原発が増えないまま同計画の再処理が進むと、プルトニウムの供給過剰に陥る。

既に日本は海外に委託して再処理した分を含め、すでに約46tのプルトニウムを保持している。このままでは核兵器の原料にもなり得るとみられており、米国は余剰分の削減を求めている。保有量の8割を占める海外保管分の削減に取り組むことにしているが、急がなければならない。

一方、核燃サイクル最大の課題は、使用済み核燃料を再処理して出る「核のごみ」の行き先が未定なことだ。処分地選定の最初のステップである文献調査に応じたのは、北海道寿都町と神恵内村のみ。次の概要調査に進むには両町村長と北海道知事の同意が必要だが、鈴木直道知事は反対の姿勢を崩していない。

核のごみの処分や核燃サイクルを断念することになれば、青森県との約束に沿って高レベル放射性廃棄物などを原発立地地域に持ち帰ることになる。

まずは2町村の概要調査への移行が大切。それには文献調査への応募自治体を増やすことが欠かせない。国は原発立地自治体との「協議の場」をつくるなど、処分地選定に本腰を入れる。もう待ったなしだ。(S)

【検証 原発訴訟】原発訴訟を左右する判断の枠組み 裁判所は行政の審査過程をどう扱う

【最終回 志賀判決】森川久範/TMI総合法律事務所弁護士

最終回は、福島事故前に民事で唯一原子炉の運転差止めを認めた、志賀原発を巡る判決を取り上げる。

地裁と高裁で判断が割れたが、その理由は、福島事故後の原発訴訟の傾向にも通じるものがある。

これまで伊方最判(最高裁判決)、もんじゅ最判の考察後、福島第一原子力発電所事故後の裁判例を概説してきた。連載最後である今回は、この事故前に民事訴訟で原子炉の運転の差止めを認めた唯一の判決である2006年3月24日の金沢地裁判決(地裁判決)と、この判決を取り消した09年3月18日の名古屋高裁金沢支部判決(高裁判決)を扱いたい。問題となったのは、北陸電力が設置する志賀原子力発電所の2号炉(本件原子炉)である。

地裁が積極的に事実認定 異なる判断枠組みを採用

地裁判決は、立証責任等の判断枠組みについて、「原告ら(住民)において、被告(北陸電力)の安全設計や安全管理の方法に不備があり、本件原子炉の運転により原告らが許容限度を超える放射線を被ばくする具体的可能性があることを相当程度立証した場合には、公平の観点から、被告において、原告らが指摘する『許容限度を超える放射線被ばくの具体的危険』が存在しないことについて、具体的根拠を示し、かつ、必要な資料を提出して反証を尽くすべき」であり、「これをしない場合には、上記『許容限度を超える放射線被ばくの具体的危険』の存在を推認すべきである」とした。原子炉の運転差止めでよく用いられる伊方最判の判断枠組みを修正し、行政機関の審査過程も踏まえる判断枠組み(22年2月号参照)とは異なる判断枠組みを採用した。

地裁判決がこの判断枠組みを採用する理由の一つとして、「原子炉周辺住民が規制値を超える放射線被ばくをすれば、少なくともその健康が害される危険があるというべき」と述べた点は、放射線防護の考え方と放射線による健康影響とを混同していると思われる。加えてこの判断枠組みでは、行政機関の審査過程を踏まえないために、裁判所が積極的に事実認定に乗り出す方向になる。現に地裁判決では、「安全審査を経て通商産業大臣による本件原子炉の設置変更許可がなされているからといって当該原子炉施設の安全設計の妥当性に欠ける点がないと即断するべきものではなく、検討を要する問題点ごとに、安全審査においてどこまでの事項が審査されたのかを個別具体的に検討して判断すべきである」と打ち出した。

そして、「現在の地震学の知見に従えば、対応する活断層が確認されていないから起こり得ないとほぼ確実にいえるプレート内地震の規模は、マグニチュード7.2ないし7.3以上というべきである」と積極的に認定して、「設計用限界地震として想定した直下地震の規模であるマグニチュード6.5は小規模にすぎるのではないかとの強い疑問を払拭できない」などと耐震設計上の不備を述べた。本件原子炉の運転によって、周辺住民が許容限度を超える放射線を被ばくする具体的危険が存在することを推認すべきと判断して、運転の差止めを命じた。運転の差止めを認めるためには、伊方最判の判断枠組みを踏襲しない必要があったものと思われる。

なお、この判決で問題となった耐震設計審査指針は、06年9月の大幅改訂前の1978年の指針であり、現在の新規制基準とも大きく異なる。新規制基準から見ると、設計に用いる地震の想定が甘かった点は否めないところである。

一方、高裁判決は立証責任等の判断枠組みについて、「本件原子炉の安全性については、控訴人(北陸電力)の側において、まず、その安全性に欠ける点のないことについて、相当の根拠を示し、かつ、必要な資料を提出した上で主張立証する必要」があると指摘。「控訴人がこの主張立証を尽くさない場合には、本件原子炉に安全性に欠ける点があり、その周辺に居住する住民の生命、身体、健康が現に侵害され、又は侵害される具体的危険性があることが事実上推認されるものというべきである」とした。

ただし、本件原子炉施設が安全審査の指針などの定める安全上の基準を満たしていることが確認された場合には、本件原子炉の安全性について主張立証を尽くしたことになり、「本来主張立証責任を負う被控訴人(住民)らにおいて、被控訴人らの生命、身体、健康が現に侵害され、又は侵害される具体的危険があることについて、その主張立証責任に適った主張立証を行わなければならない」とした。結局は、住民側に具体的危険性があることの主張立証責任を負わせたに等しく、行政機関の審査過程を尊重した判断枠組みである。

高裁判決がこのような判断枠組みを採用した背景には、地裁判決後の06年9月、それまでに蓄積された地震学などの知見を反映させて耐震設計審査指針が改訂され、当該指針が審査基準となっていたこと。さらに北陸電力が当該指針に照らした耐震安全性評価(耐震バックチェック)を行っていたことなどを、「時機に後れた攻撃防御方法ということはできない」としていることからも、それらについての考慮があったことがうかがわれる。

福島事故後に目立つ傾向 裁判所独自の厳しい態度

福島第一原子力発電所事故後は、民事訴訟で運転差止めを認めたものは地裁レベルで3件あり、仮処分では、地裁レベルの決定3件と高裁レベルの決定2件がある。事故後の社会の風潮もあると思われるが、裁判所が、行政機関の審査過程の尊重を基礎とした伊方最判の判断枠組みを修正した判断枠組みを用いながらも、実際には行政機関の審査過程を尊重せずに、独自に厳しい態度で臨む場合もある。

裁判所独自の厳しい姿勢が目立つ

その場合に大切なことは、裁判所の独自の考え方が尊重されるほどにきちんと審査を実施したのか、そして信頼される審査実績を積み重ねることであろう。もちろんどのような判断枠組みを用いるかのみで結論が変わるものではないが、それでもどのような判断枠組みを用いるかが結論に大きな影響を与えることも、やはり否定し難い。主張立証責任の判断枠組みでは、誰が何について主張立証責任を負っているか、主張立証に失敗した場合には何が推定されるのかが重要である。今後も原発訴訟の行方を注視していきたい。

最後に、1年間にわたりご愛読いただき、感謝いたします。

・【検証 原発訴訟 Vol.1】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8503/

・【検証 原発訴訟 Vol.2】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8818/

【検証 原発訴訟 Vol.3】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8992/

・【検証 原発訴訟 Vol.4】https://energy-forum.co.jp/online-content/9410/

・【検証 原発訴訟 Vol.5】https://energy-forum.co.jp/online-content/9792/

・【検証 原発訴訟 Vol.6】https://energy-forum.co.jp/online-content/10115/

・【検証 原発訴訟 Vol.7】https://energy-forum.co.jp/online-content/10381/

・【検証 原発訴訟 Vol.8】https://energy-forum.co.jp/online-content/10786/

・【検証 原発訴訟 Vol.9】https://energy-forum.co.jp/online-content/11164/

・【検証 原発訴訟 Vol.10】https://energy-forum.co.jp/online-content/11397/

・【検証 原発訴訟 Vol.11】https://energy-forum.co.jp/online-content/11790/

もりかわ・ひさのり 2003年検事任官。東京地方検察庁などを経て15年4月TMI総合法律事務所入所。22年1月カウンセル就任。17年11月~20年11月、原子力規制委員会原子力規制庁に出向。

【石油】原油は下がる ガソリンは下がらず

【業界スクランブル/石油】

原油価格は下がってきたのに、ガソリン価格が下がらないのはなぜか―。

そう尋ねられて、筆者は驚いた。質問の主がエネルギー問題の権威だったからだ。

「経産省が毎週、補助金支給額をガソリン平均価格が基準価格(1ℓ当たり168円)になるように調整しているからです。原油価格が上がれば補助金は増額され、逆に下がれば減額されます」

「補助金の目的は、価格を下げることではなく、発動時点(2022年1月末)の水準に抑制(安定)させることですから、制度設計上、そのようになるのです」

この補助金、3兆円を超える巨額が投じられている割には世の中に知られていない。補助金の対象が、ガソリンだけではなく、灯油や軽油、重油、ジェット燃料にも出ていることすら知られていない。

確かに国会での審議もなく、コロナ対策の予備費から支出されて、反対の声も出ずにいつの間にか始まったものだ。また、計算方法も複雑で説明が難しいという難点もある。

石油元売り会社がポケットに入れていると思い込んでいる人もいる。元売り会社は、原油輸入代金支払いの増加分の補助金で、スタンド向け卸価格を抑制している形だ。補助金のトンネルを請け負っているだけなのである。

既に今年1月から補助金制度自体の縮減は始まっている。ただ、限度額(2月31円)の縮減ということで、支給額が18円40銭(2月第1週)と大きく下回っていることから、当面、実害は出ない。

ただ、この6月以降は、支給額自体が月5円ずつ減額されるもようで、9月末には廃止される予定になっている。この「出口戦略」、大きな宿題になりそうだ。(H)