【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表
原子力は頼りにならない、と思われているせいではないか。
その現状を憂える国際エネルギー機関(IEA)の報告書について報じた国内メディアはごく一部だった。一つが日経7月1日「温暖化ガス、50年にゼロなら…IEA『原子力投資3倍超に』」だ。
報告書は6月30日に公表。「世界のエネルギー供給に占める原子力の割合は2020年で5%。32カ国で413ギガワット」だが、「50年に排出を実質ゼロにするには」「原子力への投資を3倍超に引き上げ」「容量を倍増させる必要がある」と試算したという。
問題は、この記事が触れていない部分だ。報告書は「先進国で稼働中の原子力発電所は30年までに3分の1に縮小する」と見積もり、「2017年以降、世界で建設を始めた31基の原子炉のうち27基はロシアか中国の設計」と指摘したうえで、先進国の技術力の衰退に警鐘を鳴らしている。
ロシアのウクライナ侵略はエネルギー危機をもたらした。原子力でもロ・中の支配が進めば、エネルギー安全保障やセキュリティー上のリスクが増す。報告書の核心はそうした懸念だろう。米CNBCも4日、「ロ・中が原子炉設計を支配、IEA警告」と伝える。
日経は平和ボケか。
こちらも肝心の要素がない。朝日6月24日夕刊「いま聞く、核のごみ処分場、反対の訳は」だ。
高レベル放射性廃棄物の最終処分場について「日本に適地はない」と主張する札幌管区気象台の予報官を紹介する。「北海道寿都町で最終処分場の議論が始まり2年。寿都の歴史に詳しい気象庁職員」なのだという。
何を根拠に「適地はない」と言うのか。首をひねりながら読むと根拠を示さずに「思います」。処分場は地下深くに建設されるが、この職員は日本列島の地下データをきちんと分析したのか。記者も、裏付け取材をしたのか。記事は不誠実に見える。
同じ朝日系列では、テレビ朝日6月27日「スーパーJチャンネル」がネット炎上した。節電を訴えるニュースで「家庭における電気の使用割合」を円グラフで紹介した際、もとになった資源エネルギー庁の資料から「テレビ・DVD」の8.2%を省いたためだ。
ITmedia ビジネスオンラインテレビ6月30日の検証によれば、テレビ・DVDはエアコン、照明、冷蔵庫に次いで4番目に電力を消費する。節電のためテレビを消そう、では視聴率が下がると心配したのか。不誠実極まりない。
お花畑かと驚いたのは日本テレビ系列の元人気アナウンサーで、今も活躍する辛坊治郎氏だ。
7月初め、太陽光発電を絶賛するネット発信が相次いだ。2日ツイッターで「『原発動かしたら電力不足解消』は間違い。関東の人が熱中症で死なないのは、太陽光パネルのおかげ。土下座して感謝すべき」。4日は「未来の日本のエネルギーは全て太陽光。否定する人がいたら、経産省に洗脳されている。お馬鹿さん!」。
産経4日「電力需給逼迫、再エネ弱点鮮明、太陽光、半日で予測一転」は、「日射は低下するが、まだ気温が高く需要が高止まりしている夕方に、受給が逼迫」と解説する。日射低下時の電源不足を補う有力候補が原子力だ。
「全て太陽光」も、例えば富士山が噴火して、広域で火山灰がパネルに積もったら電力は確保できるのか。冬の豪雪は大丈夫か。
平和ボケ、不誠実、お花畑。メディア情報のうのみは危ない。
いかわ・ようじろう デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。









