A 池辺さん、本当は今期で辞めるつもりだったとは思う。ただ、昨年4月に公正取引委員会が談合の疑いで大手電力・ガス会社への立ち入り調査を行った問題が続く中で、今このタイミングでというわけにはいかなかったのではないか。立ち入り調査の対象になっていない東北電力の樋口康二郎社長の名前も取り沙汰されたけど、電事連会長の職務が大変なためか、難色を示したといううわさもある。ただ池辺さんとしては、電事連の会長を辞めたら、社長も辞めざるを得ない。まだやり残したことがあるんだろう。
B 現状だと電事連会長は動かしようがないという大方の予想はその通りだったね。
C 中部電については、やはり公取委による調査が進行中という立場では、会長職を受けようがなかったのではないかと思う。関西電力にしても、元幹部の金品受領問題を巡る株主代表訴訟がまだ続いているし、今年は交代のタイミングではなかった。
D 原発の問題や談合疑惑の問題などがなければ、他の事業者が引き受けた可能性もあるが、今の状況ではおのずとこうなる。池辺さんは人格者だし、九州電の経営が順調にいっている。以前だと、電事連のトップは経団連のトップに就くような立場だったけど、今はそういうポジションではない。会長職を受ける事情は変わってきている。
難局下で電事連会長を続投する池辺和弘・九州電力社長
しばらく続く東電の現行体制 「次」狙うのは守谷氏か永澤氏か
――そうした中で、東京電力の人事については、どう見ているか。
B このところ、小早川智明社長の評価が上がっている。ポジションは人をつくるよね、みたいな声が業界からも聞こえ始めた。現行の体制で、経営再建計画の「第五次総合特別事業計画」の策定まではやっていくのだろう。ただ福島原発の廃炉や処理水の海洋放出、柏崎刈羽原発の再稼働の関係があるから、どのタイミングで代わるのか。通常なら3年後で、そこが交代の一つの目安だと思うけど、一方で「小早川さんの次が見当たらない」という見方も少なくない。
D 小早川さんに関しては、当初はいろんな評価があったが、経営者として経験を積んで、少なくとも経済産業省の信頼は得ている。またお隣の東北電の幹部の評価も「小早川さんは信頼できる」と、この数年で変わっている。ただ昨年は危なかった。不祥事が重なり社長の首が飛んでもおかしくない状況だった。昨年に交代があれば、社内外の人望が厚い文挟誠一副社長はあり得たかもしれないね。小早川さんに対する評価は確かに上がってきたけど、ある意味、社内グループのまとめ役が文挾さんの仕事。東電が抱える問題に見通しがつくまで、小早川・文挟体制は代えないほうがいいだろう。
C 私も、東電は現行の体制がしばらく続くと聞いている。小林喜光会長、小早川社長、吉野栄洋取締役を中心に、あと3年ほどはこの体制でいくだろう。その間に小林さんを中心に、構造改革、あるいは解体というシナリオを描いて退いていく流れではないかな。小早川さんの後任を巡っては、文挟さん待望論があったが、この2年から3年のスパンというシナリオを考えると、年次から見て文挾さんの可能性は低い。手堅いのは、守谷誠二副社長かな。今回の人事で、ホールディングス(HD)専任の最高リスク管理責任者になった。関係者の中には、東京電力リニューアブルパワー社長に昇格した永澤昌さんの他、大穴で常務執行役員の長﨑桃子さんという声もあって、正直ちょっと分からない。永澤さんはすごく力のある方だと思うが、社内をまとめられるか微妙。優秀過ぎるので、敵をつくりやすいところがある。
A 守谷さんには、JERAの発足をうまくまとめ上げてきた実力がある。経産省側のウケもいいし、申し分ないのではないか。ただ昔に比べて、東電のトップ人事が業界に与える影響の大きさが激減していることには、一抹の寂しさも感じるね。
D 今年も来年も社長交代はないとなれば、年次からいって守谷さんもはじかれる可能性がある。となると、永澤さんの可能性が十分にあり得るし、世間に対する象徴的な人事としては長﨑さんもあり得る。総特の実施を軸としたHD経営の中心は結局経産省なので、経産省との関係性にさえ問題がなければ誰が社長になってもちゃんと回るだろう。
――他の大手電力の幹部人事で注目しるところはあるか。
B 大手電力会社の社長を見ると、交代して間もない人が多い。社長歴が長いのは、東電の小早川社長と、中国電力の清水希茂社長ぐらいだね。
D 中国電は三隅火力2号機の運転開始にめどが立ったので、それを花道に交代という見方もあったが、交代させてもらえなかった。では次は誰か、瀧本夏彦副社長を推す声が多く、最有力なのは間違いない。船木徹常務も抜群に実力があるが、ある意味敵も多い。また船木さんは交渉相手としては、とってもタフでやりづらいという話を聞くので、参謀として抜群に優秀。瀧本さんと船木さんは関係もいいので、瀧本社長、船木副社長という体制が最も落ち着くのではないかな。
C 中国電の社長交代がなかった背景としては、公取委の問題とも関係がありそうだ。その公取委の調査を受けていない東北電については、今回の人事で副社長に上がった石山一弘さんが、樋口社長の後任候補だと聞いている。50Hz地域で初となる女川原子力2号機の再稼働が目下の大きな経営課題だろう。
D 同感。経験や人望などからいって石山さんは有力だろう。ただ、他にも優秀な役員がいる。まだ分からないと思う。
B 次という意味では、中部電の伊藤久德さんが石山さん同様に今回副社長に上がったのは、林社長の次を見据えての準備だと見ている。中部電はとりわけ再生可能エネルギー事業に力を入れていて、2030年度までの10年間で1兆円という戦略投資を掲げている。そうした中で、系統畑で技術系の伊藤さんに期待する向きは多い。
A 私が注目しているのは、日本原子力発電とJパワー(電源開発)だ。原電の村松衛社長は、これまでも交代がささやかれながら結局は続投している。後任には、東電の文挟さんの名前が挙がっているけど、誰もやりたがらないので、人選は難航するかもしれない。
D Jパワーは今回の役員人事で大きな入れ替わりがあった。社長候補だった南之園弘巳さんが副社長から降りたことで、残念がっている人も多いようだ。でもこれで何人かに絞られた。次の社長は今年昇任した役員の誰かだろう。社長になれる人材は豊富なので、本当にタイミングだけだ。