【コラム/1月18日】制度は続くよ、どこまでも 年明け


加藤真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長

新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

さて、怒涛の2021年も終わり、2022年が幕開けしました。2050年カーボンニュートラル宣言が発出されてから早1年以上が経ち、電気事業を取り巻く状況も大きく動き始めています。

本コラムでは、昨年に続き、電気事業制度の状況について網羅的にお話させていただきます。前回は電力需給に関するテーマで書かせていただいたので、制度周りの話は約半年ぶりになります。

足元3か月で開催された審議会は100本以上

筆者は主に経産省・環境省で開催されるエネルギー周辺の審議会等をウォッチし、企業や団体向けにレポートを配信していますが、足下10~12月に開催された審議会を数えてみると、その数は110本にもなりました。つまり、1日1本以上の割合で開催されていることとなります。

12月は特に終盤で多くの審議会が開かれましたが、いつものように各審議会等と取り上げられたテーマを筆者独自に区分したマップ(表1)を見てみると、電気事業のサプライチェーンの上流、つまり資源・燃料分野から下流、小売や需要、更にはデジタル化や省エネ、保安、環境・地域に至るまで、幅広に議論されていることが解ると思います。

【電力】インバランスの還元 遡及的指示にがく然


【業界スクランブル/電力】

 この冬も前回に引き続き、電力需給のひっ迫と市場価格の高騰が懸念されている。その冬本番を前に、端境期の2021年11月もスポット価格の月平均が1kW時当たり18円超と高圧小売料金を超える水準となった。冬場に備えて設備点検や燃料在庫の積み増しが行われた可能性が言われている。

端境期にもかかわらず電力価格が上昇する事象は、欧州でも起きている。膨大なガス貯蔵能力を持つ欧州でもこのようになることに驚いた一方、現段階でとはいえ、けた違いにガス貯蔵能力が小さい日本がこの程度で済んでいることは感謝すべきことともいえる。

他方、政府は、前回冬の電力価格高騰の事後措置として、インバランス料金の一部を小売り電気事業者へ還元することを決めたようだ。この点については、制度の遡及の是非は置いておくにしても、内閣府の再エネタスクフォース(TF)の構成員の一人が「市場設計に瑕疵があったのだから、電力会社を経済産業省が説得して一部を還元すべき」と主張し、ひどくあきれたことを覚えているが、結果的にそうなったことになる。

筆者の勝手な思い込みかもしれないが、規制改革推進会議の主要メンバーであった同人ともあろう者の口から前時代的な行政指導を思わせる主張が飛び出したことに耳を疑った。この件は、同じ経産省出身の有識者が「市場設計の瑕疵があったというなら、立法措置を講じて還元原資を公金で手当てすべき」というもっともな指摘をSNS上で投げかけていたが、まともな反応がなかったように見えた。前回冬に日本よりも電力需給が悲惨なことになった米国テキサス州でも遡及的な救済措置は講じられたが、あちらは立法措置を伴っている。それが当然と思うが文化の違いなのだろうか。

政府はコロナ禍対応でも、酒類販売業者に対して酒の提供停止に応じない飲食店と取引をしないという法的根拠が曖昧な要請を発出ししようとし、直後に撤回したことがあった。それを発表した大臣も経産省出身であったのは偶然だろうか。(T)

前門の習近平、後門のプーチン


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

いつの間にか、われわれは習近平(中国)とプーチン(ロシア)の顔色をうかがいながら電力や都市ガス用の石炭やLNGを買わなければならなくなった。

燃料の需要側で立ちはだかるのは中国だ。2021年前半、年率16%増という電力需要を背景に石炭、ガスを買いまくり価格を高騰させた。一般炭では世界の海上貿易の約3倍、30億tの巨大な国内市場を持ち、さらにその石炭市場の一部がガスにシフトし始めた。この国の動きに世界中が右往左往している。

一方、ガスの供給で存在感を増したのがロシアだ。脱石炭でガスの重要性が高まる欧州だが、オランダやノルウェーなど域内供給が減少、期待のLNGは中国の爆買いでひっ迫、振り向けば供給の3割を担うロシアがにらんでいたというわけだ。日本にとっては対岸の火事ではない。19年ごろから欧州のパイプラインガスとLNGの市場がほぼ一体化し、欧州でのガスひっ迫は即、日本が買うLNG市場を絞り上げ、さらに競合する石炭相場もつり上げるのだ。

20年10月、不足する石炭、ガスに対し習は「金に糸目をつけず確保せよ」と指令し,相場は急騰した。このときプーチンは「ガスの供給を増やす」と言って相場を落ち着かせたが、その後、目立った供給増はみられず、市場は上げに転じている。この冬、多くの国々の電力・ガス供給の生殺与奪をこの二人が握っているといっても過言ではない。現在、ロシアがウクライナ国境に大軍を展開していることに対し、米国は制裁をちらつかせるが、ガスを人質に取られるEUは強い態度で対処できるだろうか。

エネルギー安全保障の要諦は「自前」「選択肢」「備蓄」であろうと思っているが、欧州やわが国の現状はどうだろう。なすすべもなくおびえているばかりでは情けない。

【マーケット情報/1月14日】原油上昇、供給不足感が支え


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。供給不足感が需要後退の予測を上回り、買いが優勢となった。

OPECプラスの増産が、計画を下回るとの見方が台頭している。OPECプラスは、当初の計画通り、2月も日量40万バレルの追加増産で合意。ただ、ロシアやナイジェリアなど、一部加盟国の生産が追い付いていない状況だ。実際、12月の増産量は、計画を日量10万バレル下回る日量30万バレルに留まっている。

また、リビア産原油の供給不調も、逼迫感を強めた。在庫不足と悪天候で、東部輸出港からの出荷が滞った。さらに、同国では12月20日から1月11日まで、生産不調を背景に、西部輸出港でフォースマジュールが宣言されていた。カザフスタンでも、治安悪化で一時的に、一部油田での生産が停止していた。

加えて、米国の週間在庫が減少。さらに、米エネルギー情報局は、今年の国内生産予測に下方修正を加えた。

需要面では、変異株の感染拡大による経済減速、および石油需要後退の見通しが根強い。中国の民間製油所は、原油輸入の削減に踏み切った。ただ、価格の弱材料とはならなかった。

【1月14日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=83.82ドル(前週比4.92ドル高)、ブレント先物(ICE)86.06ドル(前週比4.31ドル高)、オマーン先物(DME)=86.06ドル(前週比3.07ドル高)、ドバイ現物(Argus)=83.11ドル(前週比2.67ドル高)

寿都・神恵内に「分断」見当たらず 平穏さ取り戻し新たな挑戦


【寿都町・神恵内村の文献調査】

高レベル放射性廃棄物処分場選定の文献調査が行われている北海道寿都町と神恵内村。

マスコミは「住民の分断」を強調するが、澤田哲生氏が現地で受けた報道とは違う印象を報告する。

澤田哲生(東京工業大学助教)
さわだ・てつお 1980年京都大学理学部物理学科卒。三菱総合研究所、ドイツ・カールスルーエ研究所客員研究員などを経て2000年から現職。専門は原子核工学。

2021年11月中旬、私は6人の大学生のスタディーツアーに同行し、神恵内村に入った。ちょうどその夜、NHK北海道スペシャルが放映されていた。番組タイトルは『核のごみ~埋まらない溝~』。その番組の最後のナレーションが奮っている。

全国には少なくない自治体がこの問題に手を上げようとしていることを私は知っている。どこの自治体も、今次の事態を受けて政府・役所・事業者がどう出ていくのかをじっくりと注視している。

今こそ政治の決断と実行力が求められているのではないか。そうすれば、この処分地問題は前に進む―その実感を寿都と神恵内の地を踏んで、ひしひしと感じた。

「選挙が終わって、分断が残った」

しかしその後、つぶさに見た神恵内村には分断の「ぶ」の字もない。そして、寿都町では慎重派が〝文献調査の中止〟を直前に実施された町長選の争点に無理やり押し出してきたが、それも成らず町は平穏を取り戻していた。選挙が終わって残ったのは、実は反対派の内部分裂であった。

新聞、テレビなどメディアにとっては実に意にそぐわない状況がそこにはあった。

神恵内の爽やかな朝 数多くの観光スポット

神恵内村の朝を伝統の宿「きのえ荘」で迎えた。夜明け前に目覚めた私は眼下に広がる前浜を見下ろした。ひとりサーファーが波間に浮かんでいた。そして、空には満月が黄金色に煌めいていた。なんとも神々しく爽やかな朝である。ここの女将はいつも朗らかでお話し上手。いつでも泊まりたい居心地のいい宿である。

観光スポットに恵まれた神恵内村
提供:時事

宿を後にし、私たちはバスに乗って村内の観光スポットを経巡った。神恵内村はニセコ積丹小樽海岸国定公園内にある。美しい海岸沿いには奇岩が次々と現れ、その麓に袋澗がある。袋澗とは、漁獲したニシンを一時的に保管する大型の生簀である。明治から昭和にかけてニシン漁が沸騰した頃の名残である。あちこちに点在するので袋澗巡りのツアーもあるとか。

その後、村の新庁舎を訪ねた。髙橋昌幸村長自らが案内してくれた。庁舎を入るとすぐ目につくのは誰でも利用できる憩いのスペース。そしてその奥には幼児専用の可愛らしいトイレがある。これは村民を心から愛する村長の肝いりのトイレである。

新庁舎には津波を始め災害対策が十分に盛り込まれている。この庁舎は泊原子力発電所から30㎞圏内にある。庁舎の屋上付近には、非常用電源と庁舎内の空気を浄化するベントシステムが備えられていた。

いま神恵内村では新たな挑戦が始まっている。ニシンは去ったが、神恵内村はウニの名産地。ウニ漁は夏場が最盛期である。ところが、最近は陸の生簀でウニの養殖に取り組んでいる。餌は昆布ではなくなんとキャベツなどの野菜。温度調整をして、冬でも殻内に卵が入るように管理し出荷する。これをもって〝冬ウニ〟と称す。今後の期待の星である。

神恵内村を後にし、美しい海岸沿いに約1時間。寿都町を一躍有名にした日本初の町営風力発電所が見えてくる。

その脇に明治12年(1879年)建造の鰊御殿の威風堂々たる姿がある。御殿にはくぎを一本も使っていないという。実に見事な仏壇を始め、さまざまな細工に金箔がふんだんに貼られている。見飽きることのない建築遺産がここにある。この御殿を構えたのは越前から移住してきた民で鰊景気を先導したのである。かつて北前船でこの地域と越前は、物流と人流で結ばれていた。

寿都町が最近力を注いでいるのはバジルの水耕栽培である。近くのハウスには2ⅿほどに育ったバジルの灌木が並ぶ。ハウスの管理は、電気は風車の再生可能エネルギーで、熱源はバイマスボイラーで賄われている。その結果、寒さに弱いバジルも通年で収穫できるようになった。〝風のバジル〟と銘打ちブランド化に成功した。『壽』というバジル焼酎、そしてバジルソフトクリームがいま熱い。

寿都町名物のバジルソフトクリーム

著しい人口の減少 地方自治体が背負うツケ

片岡春雄町長のこれまでの町政20年間に人口は1200人減った。漁業や水産加工業などの地場産業はいまひとつ伸びない。小泉純一郎政権下で行われた地方交付税改革は、結果的に町の地力を奪っていった形だ。その中で寿都はもがいてきた。その結果が町営風力発電であり今回の文献調査への応募である。

私には、寿都の文献調査への応募は、相変わらず〝日本にオンカロはない〟と吠えまくる小泉氏への意趣返しのようにも映る。過去20年、小泉政治の不見識かつ無責任な政治の重いツケを地方が背負わされたのだ。それは何も寿都や神恵内だけではない。全国の地方自治体全てが同じ負の遺産を背負い込んでいる。

寿都の町中で聞いた話では、文献調査への応募からこれまでに、いわゆる反対派からは、北大OBの地質学者などが2度にわたって地層処分は危険であるとの論を披瀝する会合が催されたという。話を聞いても、語尾が全て〝こういう危険な可能性があるかもしれない〟という?(疑問符)で終わっていて、全く説得力がなかったとのこと。

一方、推進派の話は今までのところ一度もないという。政府・役所・事業者は一体何をしているのだろうか。これじゃあまるで三すくみの見殺し状態ではないか。

高橋・神恵内村長(左)と

全国から勇断にエール 問われる政治の決断

ただ、悪い話ばかりではない。文献調査への応募以降、寿都へのふるさと納税は増えているという。全国からこの町の勇断へのエールが集まっているのである。

全国には少なくない自治体がこの問題に手を上げようとしていることを私は知っている。どこの自治体も、今次の事態を受けて政府・役所・事業者がどう出ていくのかをじっくりと注視している。

今こそ政治の決断と実行力が求められているのではないか。そうすれば、この処分地問題は前に進む―その実感を寿都と神恵内の地を踏んで、ひしひしと感じた。

将来に火種を残したCOP26 途上国からの突き上げは必至


【ワールドワイド/環境】

第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)は、グラスゴー気候協定を採択して閉幕した。

 議長国英国は21世紀半ばまでに全球カーボンニュートラル(CN)を確保し、気温上昇目標を1・5℃抑制にすることを最も重視していた。その布石として英国は6月開催の先進国首脳会議(G7)で1・5℃目標、2050年CN、排出削減対策を講じていない石炭火力からの脱却、海外における石炭火力への公的融資の停止などの野心的な方針を首脳声明に盛り込んだ。COP直前に行われたイタリアが議長を務める主要20か国・地域(G20)サミットでは中国、インド、ロシアなどの反対でG7と比べ後退した内容となり、COP26でこれを超える合意はできないと思われていた。

 しかしグラスゴー気候協定では、①1・5℃目標を実現できるよう努力を決意する、②30年に全球排出量を10年比45%削減、21世紀半ばのネットゼロへ、③2020年代を「勝負の10年」とし、野心レベルをスケールアップする作業計画をCOP27で採択、④締約国は必要に応じてパリ協定の温度目標に整合的な形で22年末までに自国の目標を見直し強化を求める、⑤削減対策の取られていない石炭火力のフェーズダウン、非効率な化石燃料補助金のフェーズアウトに努める―点などが盛り込まれた。石炭火力は当初案の「フェーズアウト」が「フェーズダウン」になったとはいえ、G20より明らかに前進した表現だ。

 英ジョンソン首相は「歴史的合意」として成果を誇示するが、課題は多い。1・5℃目標や50年全球CNを目指すということは、50年までの限られた炭素予算を巡る先進国、途上国の対立激化を招くことになる。途上国は先進国に対し50年CNの大幅な前倒しと途上国支援の大幅な上積みを要求するだろう。また石炭火力のフェーズダウンは年限を特定したフェーズアウトに強化、対象を化石燃料全体に拡大するなど、より過激な議論が生ずることは確実だ。パリ協定は温室効果ガス削減に着目し具体的手段では各国の自主性を尊重するものであったが、選択肢を縛る傾向が見え始めている。

 欧米諸国は1・5℃目標、CNを押し込むことに成功したが、その代償として途上国からの目標引き上げ要求、資金援助拡大要求を間断なく受けることになるだろう。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

故幕田圭一氏を偲んで


【追悼】

東北電力の社長、会長を務めた幕田圭一氏が逝去された。

燃料の多様化を図り、安定供給に心血を注いだ。

自他ともに認める東北人。ダンディーな面も兼ね備えていた

東北の繁栄に生涯を尽くす 「孫子」を指南役に産油国と交渉

 言葉の端にかすかに残る訛りと、人との付き合いを大事に丁寧を尽くす幕田圭一氏の語り口調は、「典型的な東北人」を思わせ、一方で音楽を愛し、ダンディを感じさせる所作からは、若いころ東京支社で仕えた国際肌の実業家、東北電力初代会長の白洲次郎氏に通じるものを想起させる。生地が伊達政宗の重臣が拓いた城下町宮城県白石市、そこをたどれば「伊達者」との人物表現も出てこよう。

1935年生まれ、福島大学経済学部を卒業し58年東北電力に入社した。「東京でなく東北で働きたい。日本のためになる仕事を」(『週刊ダイヤモンド』2002年6月15日付)と考えていた幕田氏にとって電力再編成後「日本の復興は東北から、東北の復興は電力から」をスローガンにしていた同社の入社に迷いはなかったろう。人生の大半を同社と需要家を結ぶ東北地域の発展に捧げた。

幕田氏が社長、会長になるまでの経歴は、二つに集約される。燃料部門と東京支社であり、いずれも同社の弱みの補強と密接に関わる。同社は高度成長期「火主水従」路線への転換が遅れ、1962年の料金値上げが進出企業の反発を呼び、政治問題化した苦い歴史を持つ。以来政・官の中心地東京での情報収集や人脈づくりは重要命題となり、電気事業連合会調査部への出向、支社の次長、副支社長、支社長を含め13年間東京で過ごした。「よく江戸づめという言葉を使っていて、その通りの行動でした」と当時の部下は語る。

第一次石油ショック直後の75年、新設された燃料部の副調査役に着任すると当時燃料部長の明間輝行部長(元社長・会長)とLNGなどを求め二人三脚で世界各地を飛び回った。インドネシアとの契約交渉や海外炭の導入など数ある功績の中でも特筆されるのは、石油資源開発との新潟―仙台間の天然ガスパイプライン共同事業だろう。ほぼ東北全域にパイプラインは延伸され、企業誘致の促進剤となった。何よりも東日本大震災の折には、仙台圏のライフラインの確保と早期復旧に貢献した。

その大震災では、幕田氏が手塩にかけて育てた「仙台フィルハーモニー」が、復興コンサートとして被災者や被災地域に直接音楽を届けた。「お寺の境内でもミニコンサートが開かれ、幕田氏は私財を費やし支援していた」という。

座右の書とした「孫子」は、資源国との交渉の指南役とした。「相手の立場になって考え、一歩先を読んで準備する」。備えと互いの利益を追求する方針は、幅広い人脈をベースに幕田経営の根幹となり、安定供給につながっていった。

21年11月28日、心不全のため86歳で逝去。家族の相次ぐ不幸にも見舞われたが、人への温かみを終生失わなかった。

文|中井修一 (元電気新聞編集局長)

需給構造が変化する中国 季時別電気料金体系を見直し


【ワールドワイド/経営】

中国では、電力需給の安定化を目指して1980年代から時間帯別電気料金の導入が始まった。現在までに全国31省(自治区・直轄市を含む)のうち29省で主に一般商工業向けの時間帯別料金が導入されており、上海市や四川省など一部地域では季節別料金も適用されている。

 国家発展改革委員会(発改委)は2021年7月、家庭電化の進展といった最近の需要構造や、季節・時間帯により出力変動する再生可能エネルギーの急増などを踏まえ、各省政府に対して季時別料金体系の見直しと導入拡大を求める通達を発出した。

 中国の小売料金は、用途別に区分され、供給電圧ごとに料金設定されている。時間帯別料金の場合、「ピーク(峰段)」「フラット(平段)」「ボトム(谷段)」の3種の時間帯区分が設けられるのが一般的だが、さらに多くの区分を設定している例もあり、その時間帯も地域によって異なる。今回の通達では、現状の季時別電気料金が昨今の状況変化への対応として不十分であり電力の市場取引割合の増加も反映されていないとして、見直しに向けた具体的方針を示した。

 まず再エネ比率など地域の需給状況を科学的に反映させた時間帯区分とすること、そして地域系統の最大・最小電力差が40%以上ある省(北京のほかGDPや人口の多い重要地域が含まれる)では、時間帯別料率に4倍以上の格差を設定(それ以外の省でも原則3倍以上)し、料金体系を最適化することを求めた。また過去2年間における最大電力の95%以上の需要が発生した時間帯をハイピーク(尖峰)として、ピーク時料金よりも原則20%以上高くすることや、逆に再エネ設備などの割合が大きく、余剰電力が発生する地域ではディープボトム(深谷)料金の設定を可能とした。

 今回の季時別料金見直しによる直接的な影響には、料率格差拡大に伴うピークシフト効果などが考えられるが、現地ではこれにより電力貯蔵設備の経済性が向上し、その拡充が進むとの観測から蓄電池メーカーの株価が上昇した。また発改委は今後、季時別料金の対象に家庭用需要家を加えることも示唆しており、歴史的に安価に据え置かれてきた家庭用料金水準の適正化に繋がるとも見られる。

 中国の電力需給構造は近年大きく変化してきており、それに対応した料金制度改革は避けて通れないものと思われる。野心的な再エネ・電力貯蔵設備の拡充目標を掲げる中、電気料金面での改革がどう進められるか今後も注目される。

(工藤歩惟/海外電力調査会調査第一部)

上流で進む環境対策の現実解 負荷の低い深海探鉱が活発化


【ワールドワイド/資源】

 米内務省海洋エネルギー管理局は2021年11月17日、バイデン政権発足後初のメキシコ湾大陸棚石油・天然ガス鉱区入札結果を公表した(第257回)。

 「気候危機」対応を公約した大統領就任を受けて、当初3月に予定されていた入札が延期されるなど上流開発企業の関心低下が懸念されたが、ふたを開けてみると18年の第250回入札と並ぶ33社が応札。最高値入札額の合計は19年の第252回(2億4400万ドル)に次ぐ1億9200万ドルと活発な札入れが行われ、脱炭素化の流れの中でも欧米企業が探鉱開発を継続する姿勢が確認された。

 最高値の札を入れたのは米独立系企業オクシデンタル・ペトロリウムで、水深800m超の2鉱区に600~1000万ドルで入札した。他方、入札の合計額が最大だったのはシェブロンの34件4700万ドルで、オクシデンタル(30件3900万ドル)、BP(46件2900万ドル)が続いた。シェブロンは水深1600m超の鉱区に400万ドル超の入札を2件行っており、シェールオイルに比べ温室効果ガス排出密度の低い深海油田開発への関心の高さを見て取れる。

 深海鉱区と並び注目されたのがエクソンモービルの浅海鉱区への大規模な入札(94件1500万ドル)だ。同社は21年4月19日にヒューストン運河周辺工業地帯に1000億ドルを投資し30年に年5000万t、40年には年1億tのCO2を回収貯留するCCS事業の構想を発表している。今回入札したテキサス州沖合の浅海鉱区の成熟油田をまとめて確保し、CCSに使用しようというものだ。

 バイデン政権が3月に鉱区入札を停止した背景には、40年近く前に定められた国有地における資源開発の費用負担が開発企業に有利なため、環境に対する負荷、すなわち納税者の負担が過大であるという批判がある。内務省は11月26日にロイヤルティ引き上げや探鉱期間短縮などの改善策を報告しており、また上院で審議中の財政調整法案にも入札最低価格や探鉱作業義務など開発企業により大きな負担を求める内容が含まれているが、法案成立にはなお紆余曲折が予想されている。

 法改正に長い時間を要する状況下で、企業は現行の入札制度を活用して環境負荷に考慮しながら探鉱開発を継続している。カーボンニュートラル対応が完了した後も一定量は必要と見込まれる石油・天然ガス供給にコミットする点で持続可能な社会的責任を果たすもので、合理的な対応といえよう。

(古藤太平/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部担当審議役)

【コラム/1月14日】グレート・リセットは実現するか? 3つのグローバル・シナリオを考える


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

資本主義が大きく変わり「グレート・リセット」されて、2050年にはCO2排出量がゼロになる(=脱炭素)、という将来シナリオがある。このような将来シナリオは今や、国連、G7(主要7カ国)政府、日本政府、日本経団連などの大手経済団体、NHK・日本経済新聞・朝日新聞などの大手メディアが共有する「公式の将来」となっている。

だが、この将来像の技術的・経済的・政治的実現可能性は極めて乏しい。それにも関わらず、今日本の主要企業は軒並み、公式にはこの「脱炭素」を掲げている。

正にこのために、事業を預かる現場では混乱が起きている。不可能に向かって突き進むという事業計画を立て、実施しなければならないからだ。

ありそうにない将来像に基づいて事業を計画・実施することは、企業としての経営判断・投資判断を大きく歪め、利益を損ない、事業の存続すら危うくする。

そもそも将来は不確実であるため、複数の将来シナリオを描いた上で、ロバスト(強じん)な事業計画を立てる必要がある。これがシェル流のシナリオプランニングの思想と手法の要諦である。

筆者は、このシェル流のシナリオプランニングの実践として、3つの異なるグローバルシナリオを検討した。以下に手短に紹介する。なお詳しくは論文を参照されたい。

①「再起動」シナリオ、またはグレート・リセット・シナリオ 

概要

これは、国連、G7諸国政府、日本政府、経団連など大手経済団体、NHK・日本経済新聞・朝日新聞などの大手メディアが共有する「公式の将来」のシナリオである。このシナリオでは、資本主義が大きく変わり「グレート・リセット」されて、50年にはCO2排出量がゼロになる(=脱炭素)。原動力は、環境問題に目覚めた国民である。それが政治を動かし、金融機関・企業が投資をすることで再生可能エネルギー・電気自動車などのグリーン技術が発達し、それが普及することで実現する。

展開

1. ドイツの新政権では緑の党が入閣し、50年となっていたCO2ゼロの目標年を45年に前倒しして、22年のG7議長国として他国に同調を求めた。支持率低迷にあえぐ英国ボリス・ジョンソン首相と米国バイデン大統領がこれに合わせて、一層野心的な目標を発表した。

2.日本もこれに前後してCO2ゼロの目標年を45年に前倒しをする。これに合わせて30年のCO2削減目標も46%から54%へといっそうの深堀をした。

3.世界的なエネルギー危機は、OPEC(石油輸出国機構)、ロシアによる原油の増産、ロシアとカタールによる天然ガスの増産、および中国の石炭増産によって緩和する。エネルギー価格が下がったことで、脱炭素政策への支持が継続する。

4.コロナ禍後の、諸国政府による大型財政支出継続は継続する。これによってグリーン投資にも膨大な資金が投入される。

帰結

A)再生可能エネルギー・EVは順調に拡大し、不要になった石油・ガス価格はIEA(国際エネルギー機関)のネットゼロ・シナリオで予言されたように低迷する。

B)環境・人権と経済安全保障を重視する先進国では、重要鉱物の採掘業・精錬業と製造業が復活する。

C)国連気候会議では毎年、継続的に諸国の脱炭素政策が強化される。

D)産業を取り戻し、環境対策に率先して取り組むG7は、リーマンショック以来の地政学的な失地を回復し、世界のリーダーとして復権を果たす。

②「脱線」シナリオ、またはグレート・デレイル・シナリオ

概要

このシナリオでは、グレート・リセットを目指した政策がことごとく裏目に出て、G7が衰退し、中国が世界の支配的地位を占めるようになる。

展開

「再起動」シナリオ1~4に同じ

帰結

A) G7諸国ではCO2排出量が厳しく制限されるようになり、これに排水・土壌汚染などの環境規制強化も追い打ちをかけ、化石燃料の生産・供給、およびエネルギー集約産業の工場が次々に閉鎖され、弱体化する。

B) 石油・ガス市場の支配力は、G7諸国のIOCs(国際大手石油会社)から、OPECプラスのNOCs(国営石油会社)へとバランスを大きく変える。

C) レアアース、太陽光発電用結晶シリコンなどの重要鉱物の生産・精錬、およびそれを用いた材料・部品・最終製品生産などを含め、あらゆる製造業の中国へのシフトが進む。

D) 毎年行われるCOPは、産業の空洞化をグリーンな活動な成果だとPRするG7諸国による「グリーンウオッシュ」の祭典と化す。

E) 地政学バランスはG7から中国およびOPECプラスに大きく移る。自信を深めた中国の介入によって台湾は1国2制度を経たのちに併合される。

③「反動」シナリオ、またはグレート・リアクション・シナリオ

概要

このシナリオでは、国民の反発を招いてグレート・リセットが失敗し、グリーン・バブルが崩壊する。脱炭素政策も忘れ去られるようになり、化石燃料が復権する。

今、先進国は無謀な脱炭素目標を競い、世界中でエネルギー価格が高騰し、インフレも高じている。この行き着く先は、と考えると、このシナリオにも蓋然性がある。

展開

1. 米国議会において審議されているビルド・バック・ベター法案は、民主党マンチン議員らの造反によってグリーンな政策は骨抜きになり、バイデン政権のもとではCO2削減は進まないことが明らかになる。

2.コロナ後の景気刺激策、放漫な財政、エネルギー・資源価格高騰などによるインフレが進み、米国各地で暴動に発展。食料品店などが略奪に合う。

3.米国政府はインフレ対策として急遽金融引き締めに入り、株価は大幅に下がる。株安は世界に波及。政策的な支援を得る見込みながなくなったEVや再エネ産業はとりわけ大きく値を下げ、グリーンバブル崩壊となった。

4.早くもレームダックとなったバイデン政権は22年11月の中間選挙でも大敗。米国の「30年CO2半減、50年CO2ゼロ」という目標は全く達成される見込みが立たなくなった。

5.22年末のCOP27はエジプトで、23年末のCOP28はUAE(アラブ首長国連邦)で開催される。だがグリーンバブルの崩壊を受けて、ダボス資本家は参加を取りやめ、グリーンウオッシュの祭典では無くなる。COPはもっぱら途上国が先進国に援助の増額を巡る交渉の場となって、南北問題を扱う国連機関であるUNCTAD(国際連合貿易開発会議)と変わり映えがしなくなる。気乗りのしないG7諸国は首脳を派遣しなくなり、メディアの関心もなくなる。

帰結

A) 次期大統領を狙うトランプは連日、バイデン批判を繰り広げる。「インフレを招き国を破壊したのはバイデンのグリーン政策だ。24年にはパリ協定から脱退し、脱炭素政策は全てキャンセルする」。そして24年、その通りのことが起きる。

B) 日本でも政変が起きて、共和党とのエネルギー・環境政策の協調が図られる。エネルギー基本計画は見直されて、土砂災害と人権問題によって人気が凋落した「再エネ最優先」政策は撤廃される。

C) 米国共和党が推薦する科学者が日本の国会にも招聘されて証言を行い、50年CO2ゼロという目標に科学的根拠が無いことを訴え、国民の支持を得るようになる。同目標は政府計画から撤廃される。

3つのグローバル・シナリオのうち、いずれの蓋然性が高いだろうか。

もちろん、他のグローバル・シナリオもさまざまであろう。どのような将来像があり得るだろうか。

そして、政府の計画、企業の事業計画は、あり得る複数の将来シナリオに適応できるものになっているだろうか。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。

次世代原子炉を日立が受注 「朗報」に朝日は冷ややか


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

 日本の原子力業界にとって久々に元気が出るニュースだろう。読売2021年12月4日「日立・GE、次世代原発受注、カナダで」「重大事故時、安全停止」である。

「日立製作所と米ゼネラル・エレクトリック(GE)の合弁会社、GE日立ニュークリア・エナジーは2日、カナダの電力会社から次世代原子炉『小型モジュール炉(SMR)』を受注したと発表した」と記事にある。

「受注したのは、出力30万kW級の沸騰水型SMR。出力を従来型の原発の3分の1以下に抑え、小型化した。カナダのオンタリオ州ダーリントンに建設し、28年の稼働を目指す。約30万世帯分の発電を行う計画だ」。研究開発ではない。実用炉の建設だ。意義は大きい。

SMRは設備の小型化と簡素化を特徴とする。安全性も高いとされる。「建設費を従来の原発の5分の1程度に抑え、重大事故でも冷却水を自動循環させ安全に停止させる」。まずは規制当局の審査が控える。万全を期したい。

同日の日経は、「安全性が長所とされる一方で、運転実績はほとんどなく稼働時のトラブルといった不測の事態への予見も立てにくい。既存の原発のような国際的な規制も未整備」とくぎを刺す。

読売の記事にある通り、「世界的な脱炭素の流れを受け、発電時に温室効果ガスを排出しない原子力発電への関心は再び高まっている」。建設・運転の成否は、原子力の未来にも関わろう。

日経は、「今回手掛ける小型原子炉は日立が強みを持つ軽水炉の技術を使い、国内で培った工法のノウハウを活用できる。技術・技能の伝承につながりそうだ」と日本にとっての意義も指摘する。

ビジネス面でも期待は大きい。「(SMRは)規格化された部材一式を工場で造って現地で組み立てるのが特徴。既存の原発で5~7年かかっていた工期を約3年に短くできる」(日経)。

反原発の立場が鮮明な朝日は冷ややかだ。同日記事で「放射性廃棄物が出ることは従来の原発と同じだ。建設費が大型炉よりかからないといっても、出力の規模は小さく発電コスト全体で見ると安くなるとは限らない。廃炉にも巨額の費用が想定される」と、従来通りの原子力批判を展開する。

どんな電源もメリット、デメリットがある。太陽光発電など再生可能エネルギーの多くはクリーンなイメージの一方で、発電量が安定しない。設置による大規模な自然破壊も起きている。原子力は発電の安定性、高いエネルギー密度が強みだ。朝日記事は、またか、と思わせる内容である。

無論、おのおのの電源ごとに課題への地道な取り組みは欠かせない。原子力では特に既設炉の安全確保が最優先だが、隣国の対応が不信を広げている。

中国広東省台山市にある台山原子力発電所1号機のトラブルだ。21年6月に米CNNが「放射性物質が漏れた」と報じた。運転を担う中国広核集団は燃料棒の損傷を認め、運転を止めた。

1号機はフランスが開発した欧州加圧水型炉だ。中仏が原因を調査している。ロイター11月30日「設計上の欠陥が原因か」は、フランスのNGOへの内部告発を踏まえ、「原子炉圧力容器の設計上の欠陥で振動が発生し燃料が損傷した可能性がある」と報じた。本当なら厳格な対処が求められる。

「不透明な中国の原発情報公開」(日経6月24日)との批判は今も続く。ありきたりの批判よりも、メディアが追及すべき重要な問題である。

いかわ・ようじろう(デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員)

IEA「世界エネルギー見通し」公表 「電化技術」で日本の強み生かす時


【世界エネルギー見通し】

 国際エネルギー機関(IEA)が2021年10月に発表した「世界エネルギー見通し(WEO2021)」。発表の際に、IEAのビロル事務局長は「COP26において政策決定者のガイドブックとなるようなエネルギー分野の進むべき道のりに必要な意思決定のポイントをまとめた」と話し、同時にIEAは今後のエネルギー事情への理解を深めようと、インターネット上に無料でアクセスできるようにした。

今回のWEO2021では「厳しいながらも50年までにCO2排出量のネットゼロへの達成可能な道筋シナリオ」「各国が既に公約した達成シナリオ」「現時点で各国が実施している政策を反映したシナリオ」―の三つのシナリオを提示している中で、CO2削減対策技術として随所に「電化」や「ヒートポンプ」というワードをちりばめていることが特筆される。

「電源の電化と最終消費段階の電化」「電化はあらゆるシナリオで重要な役割を果たす」「化石燃料を使った暖房様式が課題であり、既存暖房設備の更新時期にヒートポンプ導入のインセンティブを各家庭へ与えることは大切な施策」「産業分野における低温度帯域の電化推進」――などだ。

電化をちりばめた世界エネルギー見通し

日本が主導するHP技術 細やかな技術力で脱炭素へ

では、日本の産業はどのように挑むべきなのか。

一つはヒートポンプ(HP)技術の世界展開であろう。「家庭用エアコンに代表されるヒートポンプ技術は日本が世界をリードしている」とは誰もが口をそろえること。同様の技術によるエアtoウォーター、つまり日本でいうところのエコキュートに類する技術製品は、日系企業によって、欧州でも導入が進んでいる。

一方、ルームエアコンのような汎用品が主体の家庭分野と違って、特殊なエンジニアリング技術を要する産業分野はどうか。こちらも、日本の技術力を生かせる領域だ。昨今、中国や東南アジアでは、日本の大手エネルギー会社が、現地の多様なニーズに応えながら、エネルギーサービスを通じて省エネ・低炭素化を進めるケースが増えている。

以前、中国企業関係者が言ったセリフがある。「ヒートポンプ排熱の利用など考えたこともない。そういう発想は全くなかった」。例えば、日本の常識である排熱利用技術は省エネ・脱炭素化を進める最短の方策である。そんな「日本の技術力」が広く認知されれば、日本企業が脱炭素化に向けて活躍する場面はもっと増えるはずだ。

火力発電所で新たに実証 カーボンニュートラルへ取り組み加速


【東北電力】

 地球温暖化問題への対応として世界的に気運が高まる脱炭素化。こうした中、東北電力グループは、“カーボンニュートラルチャレンジ2050”を旗印に、その実現に向けて取り組むこととしている。

具体的なロードマップとして、2030年度には、CO2排出量を13年度比で半減させる目標も掲げ、さまざまな施策を展開する。

その一環として、石炭火力の能代火力発電所(秋田県能代市)では、木材を加熱して半炭化させたバイオマス燃料「ブラックペレット」の混焼実証に向けた検討を始めた。同社の石炭火力発電所では、既に木質チップの混焼を行っているが、混焼率のさらなる向上によるCO2の排出量削減が狙いだ。

ブラックペレットは木質チップよりも高い熱エネルギーを有するほか、既存の設備を改造せずに扱えるといった特長がある。カーボンニュートラル(CN)に向けた有効策の一つとして、24年度以降の本格運用を目指している。

また、バイオマス燃料の知見獲得に向けて、秋田火力発電所(秋田県秋田市)では、構内の遊休地を利用し、原料となる植物の試験栽培も開始した。栽培しているのは、いずれもイネ科のソルガム、エリアンサス、ジャイアントミスカンサスの3種。21年7月、40m四方の土地に計約700株分の種や苗を植えつけたところ、短期間で大きな草丈に成長。寒冷な東北地方の気候風土でも生育できる種があることが確認された。

秋田火力構内で青々と生い茂る「ソルガム」

ペレット化に向け乾燥 火力発電で混焼

栽培した植物の一部については刈り取り後、ペレット化に向けた乾燥の工程を進めている。刈り取り時期を分散させることによる乾燥状況の差異についても検証する計画だ。

今後は栽培した植物の収穫量や性状などを踏まえて、ブラックペレット化や能代火力発電所での混焼についても検討し、バイオマス燃料に関する知見の上積みを図る。

同社は、能代火力発電所の1プラント(60万kW)にブラックペレットを10%程度混焼した場合、およそ30万t程度のCO2を削減できると試算。石炭火力発電所の脱炭素化を見据え、一部バイオマス燃料の地産地消の可能性を探る取り組みに期待が膨らむ。

こうした火力電源の脱炭素化に向けた取り組みに加え、同社は、「再エネと原子力の最大限活用」と「電化とスマート社会実現」を大きな柱に据え、CNに向けた取り組みを加速していく考えだ。

高い熱エネルギーのブラックペレット

脱炭素社会への移行シナリオ 需要側の行動変容への呼応を


【オピニオン】志田龍亮/三菱総合研究所政策・経済センター主任研究員

 2020年10月末に菅義偉前首相が所信表明演説にて「2050年までにカーボンニュートラル(CN)の実現を目指す」と宣言してから約一年が経過した。この一年で世界の脱炭素に向けた潮流は大きく加速し、CNを宣言した国は現在、130カ国を超えるまでになった。先日開催されたCOP26では「産業革命以降の平均気温上昇を1.5℃未満に抑える」という従前の努力目標が、目指すべき共通のゴールとして事実上格上げされることになった。今後、先進国では1.5℃目標と整合する、より野心的なNDC(国別排出削減目標)の提示、新興国への資金協力が求められるであろう。

しかしながら、脱炭素化への道筋はいまだ課題山積である。足元では化石燃料を始めとして世界的に資源価格が高騰しており、欧州・中国・インドなどでは電力需給の逼迫も問題になっている。これは、コロナ禍からの経済回復、気象条件といった一過性の要因もあるが、「化石燃料への新規投資の停滞」といった脱炭素化に向けた構造変化も大きな引き金になっている。

日本でも燃料価格高騰を受けたガソリン価格上昇などにより生活への影響が出始めているほか、今冬は東京エリアを中心として電力の供給力不足も懸念されている状況にある。火力発電の拙速なフェードアウトは安定供給を脅かしかねず、加速する脱炭素化の潮流と、足元の問題対処とのバランスに苦慮している。

問題なのは「2050年CNの絵姿」と「足元のエネルギー需給構造」をつなぐ線が見えないこと、すなわち、脱炭素化社会構築に向けた現実的な移行シナリオの不在ではないだろうか。

こうした移行シナリオの検討には、安定供給を見据えた供給側の視点はもちろん必要だが、それと同時に需要側の新しい動きに着目することが重要と考える。

三菱総合研究所では20年9月に「2050年カーボンニュートラル達成に向けた提言」を発表し、CN達成のためのキーポイントの一つとして、「需要側の行動変容」を挙げている。従前のエネルギー政策はともすれば供給側に焦点が当たりがちだったが、昨今では需要側の動きがエネルギーシステムに変革を迫っている。RE100やSBTといった企業の自主的なイニシアチブはもちろんのこと、一般消費者でもエシカル消費の拡大が企業行動に影響を与えている。また、一部の企業では脱炭素化対応のため自社のサプライチェーンを見直す動きも出始めているほか、脱炭素化への着実な移行を支えるトランジションファイナンスも大きな動きとして現れている。CNに向けた移行を考える際には、こうした需要側の行動変容と正しく呼応することが必要だろう。

22年は改正電気事業法が施行され、FIP制度の開始や配電ライセンス導入など電気事業の環境が大きく変わる年でもある。激変する足元の事業環境への対応と併せ、CNに向けた移行シナリオの在り方について本格的に向かい合うべき時期に来ている。

しだ・りゅうすけ 2008年三菱総合研究所入社。20年から研究提言チーフとしてエネルギー分野での自社研究・政策提言の取りまとめを担当。博士(工学)。

【コラム/1月11日】新しい資本主義を考える~岸田流投げ入れに下村治経済論を期待


飯倉 穣/エコノミスト

1,「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」の閣議決定があった(2021年11月19日)。そして財政的裏付けとなる令和3年度補正予算が成立した(12月20日)。

報道は「経済対策 見えぬ「賢い支出」最大の55兆円分配重視 これで日本は変わるのか」(日経11月20日)、「過去最大の補正予算成立35兆9895億円財源の6割借金」(朝日12月21日)と伝えた。

 経済対策は、未来社会を切り拓く「新しい資本主義」の起動として成長戦略と分配戦略を掲げる。岸田文雄首相は、所信表明演説で「1980年代以降、世界の主流となった市場や競争に任せれば全てがうまくいくという新自由主義的な考えは、世界経済の原動力になった反面、多くの弊害も生み出しました。・・我が国としても、成長も分配も実現する「新しい資本主義」を具体化します。・・我々には、協働・絆を重んじる伝統や文化、三方良しの精神などを、古来より育んできた歴史があります。・・人がしっかりと評価され、報われる、人に温かい資本主義を作れるのです。」と述べた(12月6日)。

 政府は、「新しい資本主義実現会議(第1回10月26日))で、ビジョン審議中である。改めて市場と政府のバランスを念頭に置いた新資本主義の有様を考える。

2,今回補正予算は、新資本主義の起動で一般会計8兆2千億円を措置する。成長戦略予算6兆2千億円で、中身は科学技術立国(大学ファンド、研究開発、半導体、蓄電池等)、デジタル田園都市国家構想、経済安全保障(半導体生産拠点確保等)である。分配戦略は1兆9千億円、子育て世帯給付、労働移動円滑化、医療・福祉従事者の収入引上げ等である。

 一見すれば、各官庁の旧来施策の読替・延長や経費積み増しが目立つ。各目玉予算の前提となる大学経営の姿(創造力強化)、企業の経営力強化に不要な投資家重視のコーポレートガバナンス等の見直し、安定的な雇用を支える産業的方策が不明瞭である。威勢のいい金銭面の対応でなく、これまでの経済対策で失敗している過去の制度改革・規制緩和等の見直しが、資本主義再構築により肝要である。

3,資本主義とは何か。現代的意味では「資本という貨幣を媒介として、生産手段の私的所有を前提として、自由市場で利益獲得を目的に商品・サービスの生産を、雇用を通じて行う経済システム」となろう。そして生産活動への関与と生まれる成果の配分が関心事になる。活動の中心が、私人=企業と考えれば、まさにステークホルダー(資本提供者(投資家)、経営者、働く人、取引先等)の関係こそ大事である。

4,経済システムの姿は、市場の効率性を前提としつつ、地理的・歴史的条件、国の成り立ち、政治・経済・社会的状況等で様々である。現代は、専制国家を除き、人間尊重の理念(自治、人権、社会的貢献)を具現化した自由・民主主義体制を獲得・受容し、市場経済ベースでは市場と政府の適切なバランスが重要とされる。(ステイグリッツ「人間が幸福になる経済とは何か」2003年)

1980年代以降、経済行き詰まりの打開策として新自由主義・市場経済重視の政策とグローバル資本主義が持て囃された。市場重視、資本移動の自由、大国都合の自由競争論理、規制緩和が、キーワードとなった。日本経済は、実績好調だったが、米国流経済学信奉者の横行で米英の風潮に巻き込まれていく。

グローバル化で一部短中期的に成功を収めた国も、「金融栄えて、働く一般人は今一」であった。日本は、30年間為替変動と米国要求に揺らいだ。その結果、経済成長は年平均成長率実質0.7%、名目0.5%(米国実質2.3%、名目5.4%)であった。そして名目GDP比一般政府債務残高20年254%(90年度末約38%)である。就業者の非正規割合は、20年37.2%(2,090万人、02年29.4%)に上昇し、雇用不安が継続している。これが構造改革で求めた資本主義の外見である。今こそグローバル資本主義に加え市場と国の役割を再考すべきである。

5,求められているものは何か。経済の基本の考え方、経済運営の在り方と過去の構造改革の見直し等である。第一に経済の基本としてグローバル経済に対し国民経済の考えを確認したい。繰り言になるが、下村治流なら、経済は、自国民が自国の領土の上に創意工夫で築いていくものである。成長の活路を徒に海外に求めず、内外経済均衡を意識した経済運営の姿が基本である。

第二に米商務省報告「日本株式会社」(毎日72年)の調査以来、米国は、対日要求・協議で、日本経済を支える枠組み(強さ)の制度変更を求めてきた。日本は、とりわけ90年代以降雇用軽視・消費者余剰重視・内実無視で流通、運輸業、金融、エネルギー(含む電力自由化)等の規制緩和、独禁法運用、民営化等を強要された。

規制緩和対象は、抑々市場の失敗を矯正するため規制しており、それを十分考慮せず、消費者重視名目・競争一辺倒で無理に変更した経緯がある。その結果過当競争を招来し、企業利益の縮小、過少投資、雇用削減・雇用条件劣化を招いている。一連の改革の再評価・見直しが必須である。

第三に米国の優れた点で模倣できなかったことを再勉すべきである。政府は、1969年「模倣から創造へ」と謳い、技術導入・キャッチアップ一段落を意識した。そしてわが国独自の技術革新(創造)を期待した。国民性として創造力が弱い国である。それが今日の状況を招いている。今回のコロナワクチン開発の惨めさを思う。引き続き先進国等の勉強が必須である。とりわけ世界で最も国際競争力のある米国大学、米国国立研究所の姿、行政制度等である。

第四に市場経済の核心である民間企業に対する無用な行動規制・監視の改廃が必要である。投資金融の影響を受け、コーポレートガバナンスと称する経営介入(含む株主代表訴訟等)が企業活動を委縮させている。経営者の右往左往は、社員の創意工夫を低下させる。生産活動に係るステークホルダー軽視でもある。国民国家として雇用を第一に考えれば、他にも多々改善点がある。

新資本主義という岸田流の器に投げ入れで下村治博士の描いた経済論が組み込まれることを期待したい。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。