再エネ100%で危機回避? あまりに能天気な東京新聞


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

実用日本語表現辞典によると、「能天気」には相手をさげすむニュアンスがあるため「楽天的」と言い換えた方がいいらしい。東京3月3日「ウクライナ侵攻、世界でエネルギー危機」に、どちらを使うべきか少し悩んだ。

見出しは「わき出る原発回帰論」「戦時には標的、少ない供給量、核ゴミ未解決」で、締めは識者のコメントだ。「再生可能エネルギー100%になれば、今回のような事態でもあわてなくて済む」という。

日本の電源構成をご存じか。最も比率が大きいのは4割近くを占めるLNGで、石炭の約3割が続く。再エネは2割弱にすぎない。目前の危機に太陽光発電や風力発電などの再エネでは対応できない。そもそも再エネ100%が怪しい。

日経クロステック2月8日「日本の再エネ、狭い国土と安定供給に難」は「太陽光発電や風力発電は広い設置面積を必要とする割に発電量が小さい」と指摘する。

例に挙げるのは「日本最大級の太陽光発電所『瀬戸内 Kirei 太陽光発電所』」だ。「約260ha(東京ドーム56個分)の敷地を持ち、最大出力235MW。一般家庭約8万世帯分に相当する電力を供給できる」。だが、「この数字は最新の火力発電所1基の出力に満たない」。非力である。

事態は深刻だ。特に欧州は、天然ガスの4割をロシアから輸入している。中でもドイツは依存度が5割を超える。ロシア制裁のため大幅な引き下げが必要だ。

日本のロシア依存ははるかに低い。それでも日経3月4日「商社や電力、LNG調達に奔走、輸入量8%がロシア産」と、業界は対応を急ぐ。燃料費上昇を抑えるには、安全性が確認された原子力発電所の安定稼働が欠かせない。

同日、国際エネルギー機関(IEA)が発表した「脱ロシア依存に向けた10の計画」は「ロシアとの新たなガス供給契約を結ばない」や「輸入を他国に切り替える」を提言した。「再エネ導入加速」「原子力発電活用の最大化」も挙げた。総力戦である。

ロシアはエネルギー資源を背景に欧州への影響力を強めてきた。しかも欧州は脱炭素のため天然ガスの利用拡大に期待する。ウクライナを侵略しても欧州に大したことはできまい。ロシアはそう考えていた、との指摘は多い。

対するウクライナは国際的な世論工作に力を入れ、欧米など多くの国を味方に付けた。情報戦は実際の戦闘に劣らずしれつだ。

読売3月5日社説「原発が標的に、プーチン氏は正気を取り戻せ」は、「原子力施設への攻撃は取り返しのつかない大惨事を招きかねない。人類と文明社会に対する許しがたい暴挙である」と指弾した。ロシア軍がウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所を攻撃した、と現地の通信社が伝えたことを踏まえている。

ロシア側はツイッターで同日、攻撃は「ウクライナの破壊工作グループ」による挑発行為で、「西側メディアがあおり立てたヒステリー」と主張した。両国が発信する情報は多くが食い違う。

何が事実か。日本の記者はほとんど戦地におらず、直接の取材は少ない。戦地の住民へのネット取材もあるが、最新情勢は海外メディアの記者がネットで伝えるニュースから判断するしかない。

1990年の湾岸戦争で憎悪をあおった虚偽告発(ナイラ証言)など紛争に世論工作はつきものだ。能天気なエネルギー報道を含め冷静にニュースを読み解きたい。

いかわ・ようじろう デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

『太陽の都』*の幻想 ソーラーパネルの否定的側面


【オピニオン】セルゲイ・デミン/ロスアトム東南アジア日本支店代表

新型コロナウイルスによるパンデミック以前の15〜20年よりも、この2年間の方が世界は変わっている。原始的な消費の時代が終わり、創造の時代が始まる。持続可能な開発は、あらゆるレベルの生産の基盤になりつつある。エネルギー分野も例外ではない。

私たちは、エネルギー生産をできるだけ環境に配慮したものにしようと努めている。その点から、いま、多くの人たちによって万能薬として提供されている、太陽光発電や風力発電など「グリーンエネルギー」という選択肢を批判的に見ることは非常に重要である。

例えば、非常に「グリーン」なソーラーパネルは、有害な半導体の製造工程を経て作られている。パネルは、比較的効率の低い結晶シリコン製だ。比較的効率の高いパネルは、ガリウムとヒ素の化合物で有害なガリウムヒ素をベースに作られている。

使用済みソーラーパネルの処理の際にも、パネルに大きな炭素と化学物質の足跡が残っていることは、結論付けられている。そのうち、大量リサイクルの問題が人類の関心事になるだろう。 

電力は安定的に供給することが不可欠である。時間帯に左右されるソーラーパネルは、信頼性に欠けることがある。この意味では、風力発電も同じように信頼性が低い。このようなソースが広く使われることはユートピア的な発想と言わざるを得ない。

可変エネルギーを完全になくせとは言わない。しかし、われわれは原子力発電をもう一度見直す必要があると確信している。

原子力発電は、低炭素で信頼性の高い唯一の基礎電源である。天候に左右されず、24時間体制で送電網に接続されている。原子力発電所の敷地は、同規模の太陽光発電所よりもはるかに小さな面積を占める。

原子力発電を続けることは、今後、何年にもわたる予測可能な電力価格とエネルギー自立を意味する。

原子力、放射線、環境の安全確保を含め、使用済み核燃料や放射性廃棄物を取り扱う技術を、ロスアトムを含む世界有数の企業は数多く持っている。

一方では持続可能性への関心が高まり、他方ではエネルギー消費の増加が予想されることから、エネルギー源である原子力への需要が高まることになる。このことの理解は広まっており、脱原発支持派が2019年の60%から36%に低下しているドイツの世論調査が非常に示唆的である。

 再生可能エネルギーだけで持続可能なエネルギーシステムを持つことは不可能であることを認識し、21世紀に『太陽の都』を建設するという約束を盲信することをやめるべきだと思っている。

原子力発電所を閉鎖しても、自然エネルギーが増えるわけではなく、炭化水素が増えることを認識しなければならないのだ。

*トマソ・カンパネラによる哲学的作品で古典的なユートピアの一つ

セルゲイ・デミン 1990年モスクワ国際関係大学卒、ノーヴォスチ通信社入社。石油・天然ガス会社、大手不動産会社幹部を経て、2015年からロスアトム・インターナショナル・ネットワーク社東アジア地域副社長。日本語、英語に堪能。

大震災機に地産地消へ本腰 官民連携で目指す持続可能な地域


【地域エネルギー最前線】神奈川県小田原市

カーボンニュートラルの実現に向け、地域社会はそれぞれどんな戦略を描いているのか。

各地の挑戦を追う連載初回は、東日本大震災を機に官民連携を進めた小田原市を取り上げる。

11年前の東日本大震災は、多くの地域にエネルギーの地産地消を意識づけるきっかけとなった。神奈川県小田原市も、計画停電に伴う市民生活への影響や、観光業などの地域経済が打撃を受けた経験から、エネルギーシステムの在り方を再考するようになった。

震災後に環境省の再生可能エネルギー関連事業に市が採択され、地元企業などと立ち上げた検討会が、現在に至る一連の取り組みの土台となった。地元商工会議所には温暖化対策に積極的な企業が多く、多様な主体がエネルギーの地産化に関わる機運が醸成された。

2012年4月に市は、専門部署となるエネルギー政策推進課を設置。事業者への奨励金などで再エネの利用促進を図る条例や、エネルギー計画を制定した。その延長線上で19年、50年カーボンニュートラル(CN)という長期目標を掲げ、その後全国的に広がった自治体の「ゼロカーボン宣言」の先駆けとなった。今春には、22年度から環境省が着手する「脱炭素先行地域」第一弾にも応募した。

地域ではこの間さまざまなプロジェクトが展開されてきたが、いずれにも市は出資せず民主導の形を貫いている。「再エネは持続可能なまちづくりのために必要なインフラ。その事業が自走し、地域経済を回していくことが最も重要だ」(山口一哉・市エネルギー政策推進課長)との考えからだ。 

軌道に乗る「0円ソーラー」 屋根置き太陽光さらに拡大へ

まず手を付けたのは再エネ電源の拡充だ。地元企業二十数社が出資した発電事業者「ほうとくエネルギー」が中心となり、太陽光をメインに導入を進めた。徐々に拡大する地産電源を活用するため、再び地元企業が出資した地域新電力の「湘南電力」も誕生。売電収益の一部をパートナー企業に還元するなど、地域循環を意識した経営方針を取る。現在約3800件の顧客を抱えている。

都市部で有望な屋根置き太陽光の導入加速が急務となる中、力を入れているのが第三者所有モデルの「0円ソーラー」だ。パネル設置費用の一部に県の補助金を活用し、残りは湘南電力が負担して10年間で電気代から回収。導入実績は約180カ所まで増えた。ほうとくエネルギー立ち上げから関わり、現在湘南電力の経営も担う小田原ガスの原正樹社長は「自前電源を増やすだけでなく、顧客が地域で再エネを生み出す主体になるという側面にも大きな意義がある」と強調する。

21年度は0円ソーラーの環境価値を地域内で循環させる実証も行った。市や湘南電力のほか、新電力向けサービスを展開するエナリス、CO2削減可視化サービスを提供するゼロボードが参加した。環境価値をJ―クレジット化し、電気とセットで販売するメニュー「湘南のカーボンフリー」を活用。顧客の和菓子店が、同メニューで商品の「カーボン・オフセット」を実現するとともに、削減したCO2の量に応じ店で使えるクーポンを0円ソーラー所有者に還元する。スキームにはクレジット化の煩雑さなど課題も多いが、この経験を次のビジネスにつなげていく。

「地元の商品を地元の電気でオフセットし、発電側と利用者間の絆も生まれる。こうした試みを引き続き模索しつつ、持続的なインフラを地域で担う必要性を市民にも認識してもらいたい」(原氏)。

CNを見据えた市の現在の再エネ導入目標は30年度15万kW。現状の5倍で、屋根置き可能な建物の3分の1に相当するチャレンジングな水準だが、地域全体を巻き込んでその達成を目指していく。

【北神圭朗 有志の会 衆議院議員】「平和で豊かな日本を次世代に」


きたがみ・けいろう 1992年京都大学法学部卒、大蔵省(現財務省)入省。2005年衆院議員。拉致問題特別委員会筆頭理事、経済産業大臣政務官、内閣府大臣政務官(原子力損害賠償支援機構担当)、首相補佐官などを歴任。

湾岸戦争での日本のあいまいな対応をきっかけに、「祖国に貢献したい」と政治家を志す。

幼少時から米国に長く滞在するが、政治活動の底流には「日本人の魂」がある。

 「北神さんは腰が低いなあ」。大蔵省の調査企画課(当時)に勤めていたときのこと。ある大手都市銀行からの出向者に、こう言われたことがある。調査企画課には、金融機関から10人ほどが出向し、職員と机を並べて働いていた。いずれも優秀な銀行マン。だが、大蔵省のキャリア官僚から見れば、「民」の人たち。尊大な態度に、眉をひそめる出向者もいた。

しかし、北神圭朗氏には、そもそも相手の所属や地位で対応を変えるという意識がなかった。米国滞在18年の帰国子女、京大法学部、大蔵省、衆議院議員―。絵に描いたようなエリートコースをたどる。だが、生い立ちや国会議員になるまでの経緯などを聞くと、経歴から思い浮かぶエリート像とはかけ離れた政治家の姿が浮かび上がる。

1967年、まだ1ドル360円の時代。父・泰治氏は夫人と生後9カ月の圭朗氏を連れて米国に渡った。大企業から派遣されたわけでも、就職口の保証があったわけでもない。高いドルを稼いで、日本に戻って一旗揚げる―。そんな考えだけの、やや無謀な渡米だった。

決して治安良好とはいえない加州ロサンゼルスのダウンタウン。ここに住居を定め、日本からボルトやナットを仕入れて販売する事業を始める。米国のネジ業界は、コネもないアジア人がすぐに入り込める世界ではなかった。差別的な発言は日常茶飯事。売掛金の回収に赴き、拳銃を突き付けられたことも。そんな体験を重ねながら、ビジネスの足場を築いていった。

一方、圭朗氏は米国での暮らしが水に合った。小学校から成績は常にトップクラス。自由で個性を重視する米国で、充実した学園生活を送る。そんな圭朗氏にも、週に一度、気持ちが沈むことがあった。ロサンゼルス郊外に日本人のための補習校、朝日学園がある。通うのは主に米国に赴任した企業人の子女。泰治氏は土曜日、この学園に通うことを子供たちに義務付けた。「お前、漢字もろくに書けないのか」。現地の学校のクラスメートの視線から一転、朝日学園では日本人生徒から見下される存在に。気が付くと、劣等生のレッテルを貼られていた。

やがて問題児扱いになり、教師は両親を呼び、「周りの子供たちに迷惑。無理に通わせることはない」と退学を勧告。しかし、泰治氏はやめることを許さなかった。日本人としての自覚をなくしたら、自分たちは根無し草になってしまう―。激しい差別や不条理に向き合って痛感した「日本人の魂」を持つことの大切さ。それを子供たちにも、しっかり胸に刻んでほしかった。

自民党の強固な地盤で立候補 選挙で鍛えられ役に立つ政治家に

帰国し京大に入学。湾岸戦争での日本のあいまいな態度に違和感を覚え、「自分も祖国に貢献できる」と考え始める。前原誠司氏(現国民民主党代表代行)の選挙応援などをしながら、政治の道に進むことを決心。「そのためには、まず財政の勉強」と大蔵省に入る。約10年間、官僚として働き、2003年、民主党公認で衆議院選挙に出馬した。

選挙区は、自ら京都4区を選んだ。野中広務元自民党幹事長が7回当選を重ねた、強固な自民党の地盤だ。「初陣」は野中氏の後継者を相手に落選。それから選挙での戦績は四勝四敗(参議院選一敗、衆院繰り上げ当選を含む)。楽な選挙は一度もない。だが、4区を選択したことを後悔していない。「政治家の仕事は人に動いてもらうこと。この選挙区で人間が鍛えられれば、役に立つ政治家になれる」。民主党が大敗した12年を除き、選挙のたびに1万票ほど得票数を増やしている。21年の総選挙では、自民候補に約1万6000票の差をつけて当選を果たした。

11年9月、野田内閣の経済産業大臣政務官に就任。真っ先に取り組んだのは、原発の再稼働だった。福島第一原発事故を受けて関西電力の原発が停止し、近畿圏の電力需給は危機的な状況に陥る。停電回避に大飯原発の再稼働が欠かせなかったが、枝野幸男経産相も経産官僚も原発事故で委縮、腰が重い。そのため自ら周辺自治体の首長との交渉を行い、強硬に反対していた橋下徹・元大阪府知事とは直談判。「暫定的な再稼働」とすることで了解を得た。

いま最大の課題は、人口減少に歯止めをかけることだ。全人口に占める現役世代が減り始め、このままでは国力は衰退の一途をたどる。先祖が築いた平和で豊かな日本を次の世代につないでいく―。強い信念を持ち、少子化対策などに取り組んでいる。

かばんには折口信夫の『口訳万葉集』をしのばせている。時折ページを開き、劣等生として過ごした朝日学園での日々を思い返すという。

【マーケット情報/4月8日】原油続落、需給緩和感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。供給増加と需要後退の見通しが一段と強まり、価格が続落した。

国際エネルギー機関の加盟国は、今後6か月間に渡り、戦略備蓄(SPR)を追加で1憶2,000万バレル放出する計画。このうち6,000万バレルは米国からで、同国が3月末に発表した1億8,000 万バレルのSPR放出の一部となる。米国の放出分と合わせて、合計で2億4,000万バレルの原油が追加で供給される見通しだ。

また、米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが先週発表した国内の石油掘削リグの稼働数は546基となり、前週から13基増加。2020年4月以来の最高を記録した。

中国・上海におけるロックダウン延長も、価格下落の要因となっている。上海では新型コロナウイルスの感染拡大が続いており、移動や経済活動に対して厳しい制限が敷かれている。これにより、移動用燃料の消費減少や、経済の冷え込みにともなう石油需要後退の予測が一段と強まった。

一方、OPECプラスの3月産油量は日量3,806万バレルとなり、2021年2月以来初めて前月比で下落した。また、当初の生産計画を日量148万バレル下回り、価格下落をある程度抑制した。

【4月8日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=98.26ドル(前週比1.07ドル安)、ブレント先物(ICE)=102.78ドル(前週比1.61ドル安)、オマーン先物(DME)=97.82ドル(前週比3.36ドル安)、ドバイ現物(Argus)=98.30ドル(前週比2.88ドル安)

ロシア軍のウクライナ侵攻 呼び覚まされた「エネルギー安保」


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.1】関口博之/経済ジャーナリスト

ロシアによるウクライナ侵攻が世界経済を暗雲で覆った。核大国であるロシアの軍事力行使は、国際秩序を揺るがすだけでなく、平時には当たり前のエネルギーの安定供給がいかに死活的に重要かを、改めて思い知らせた。

プーチン大統領の戦争に、西側諸国はかつてない経済制裁で対抗した。全面的な軍事衝突の事態を避けるには、西側には経済制裁しか現実的な手立てはない。国際決済網である国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアの大手銀行を排除したことは、ロシアを貿易体制から締め出す強力な手段だ。制裁は(露中銀保有の外貨準備凍結も含め)間違いなくロシア経済に打撃を与え、確実に効いていく。ただ、それは日本を含め西側諸国の経済にも跳ね返る。その「覚悟」は必要だ。

その際、いわば「人質」にされるのがロシアからのエネルギー供給だ。欧州は天然ガスの4割強、原油の3割弱をロシアに依存する。EUはSWIFTからの遮断でもロシア最大手のズベルバンクやガスプロムバンクは外した。エネルギー調達に決済の道を残すためだ。ガスや原油の途絶というリスクを自国民に背負わせるわけにはいかない。「覚悟」の一方でエネルギー安全保障上の「細心」の判断が求められる。EUはそのことを体現した。ただしそれも、ロシアが自ら供給を絞り、経済制裁への報復に出れば元も子もないが。

キエフ近郊から逃げる避難民
提供:ANA/時事通信フォト

日本にとっての「覚悟」と「細心」は何になるだろうか。WTI原油先物が3月7日、1バレル130ドルと13年8カ月ぶりの高値を付けるなど、エネルギー高騰が日本経済への一段の重石になるのは間違いない。政府はガソリン価格などの抑制に石油元売りへの補助金を拡充し、国民生活への打撃を抑える考えだ。ただ、この資源高は、ある意味、対ロ包囲網の国際連帯のコストを分かち合うものともいえる。

むしろ今、「細心」になるべきは、極東での石油ガス開発プロジェクトだろう。「サハリン2」からシェルが撤退を決め、「サハリン1」はエクソンモービルが撤退表明した。いずれもロシア国策企業と欧米メジャー、日本企業が権益を持つ。サハリン2は三井物産・三菱商事が参画し、LNG生産量の6割は日本の電力・ガス会社向けだ。サハリン1には国も間接出資する。長い経緯のある資源開発事業に欧米メジャーがいち早く撤退を表明したことは日本勢には衝撃だ。国際世論の風圧もあるが、ここは日本勢としては軽々に手を引くとは言えない。慎重な判断がいる。ロシアからのLNG調達は輸入量の8%余を占めているのだ。

このコラム、初回から歴史的局面に遭遇することになった。NHK解説委員時代も世界経済の外的ショックは多く経験してきた。リーマンショック、トランプショック、ブレグジットしかり。ただ達観してみると、どこかで世界経済に働く「復元力」「治癒力」も実感する。ウクライナ危機にもこれが効くだろうか。少し引いた目で見届けたい、と思った矢先に欧州最大級の原発をロシア軍が制圧。暗雲が晴れる兆しはない。

せきぐち・ひろゆき
経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

原発攻撃への不安広がる 国は自衛隊活用など検討へ


ウクライナにある複数の原発をロシア軍が武力攻撃したことを巡り、わが国でも原発攻撃への不安が広まっている。

国内最多の原発が立地する福井県の杉本達治知事は3月8日、岸信夫防衛相や山口壮環境相兼原子力防災担当相を訪れ、原発の防御や安全対策、攻撃時の避難経路確立などを求める要請書を提出。「地域住民は大きな不安を抱いている」と訴えた。

すると翌9日、原子力規制委員会の更田豊志委員長が国会の場で、原発が攻撃を受けた場合「放射性物質をまき散らす懸念がある」と発言。山口環境相も11日の会見で原発攻撃による被害想定について「チェルノブイリの時よりもすさまじく、町が消えてしまうぐらいの話」との見解を示した。

一部報道によれば、政府は軍事攻撃を想定し、自衛隊を活用した原発防衛策を検討する構えだ。外交・防衛の基本方針「国家安全保障戦略」などに反映させるという。原発を巡っては、エネルギー危機対策の一環として早期再稼働を求める政治的な動きが活発化しており、大前提となる安全安心の確保が急務となっている。

原子力再構築を国会で訴求 萩生田経産相の心動かしたか


【永田町便り 第一回】福島伸享/衆議院議員

今年の通常国会では「提案型野党」を標榜する野党第一党の物分かりが良すぎる国会対応のせいか、戦後2番目に早いタイミングで衆議院を予算案が通過した。国会の花形委員会とされる予算委員会の議論も盛り上がることはなかった。そんな中、私は萩生田経済産業大臣と以下のような原子力政策に関する議論を行った。

第六次エネルギー基本計画では、原子力の比率を2019年度の6%から20年度には22%にすると言っている。しかし私の地元の東海第二や柏崎刈羽など個々の状況を見れば、それが絵に描いた餅なのは明らかだ。私は「国が本気でやろうとしているのか。やるつもりがないんだったらやらなくてもいいんですよ、原発なんて。やるというんだったらちゃんとやるべきではないですか」と訴えた。

私は、拙著『エネルギー政策は国家なり』で、安倍政権時代、原子力をエネルギー政策の中核に据えながら、政権は安定しているにもかかわらず、肝心の原子力政策の無為無策を約10年間続けるうちに原子力産業は衰退し、なし崩しに「脱原発」が進んでいることを指摘した。

これらを萩生田大臣に紹介しながら、「この国自身が原子力政策全体の体系、今の現実を踏まえた上で、どういう産業として、将来どういう姿を描くのか……3.11の後、それがなくなってしまっている。それを示していないからこそ、どうせ国も本気でやらないだろう、絵に描いた餅だろう、そう思って受け入れられていないのが現実の姿だと思う」として、国が本気で原子力政策の再構築に取り組むべきことを渾身の思いを込めて訴えた。

再稼働かゼロの二項対立 本質的議論から逃げてきた

この訴えに、大臣も政治家としてちょっと心が動いたのか、官僚が書いた答弁を読み上げた後に、「これから先どうするのかと、熱い思いで話をされた。私も感ずるところはあります」として、「国際情勢を見ても、やはり国民の暮らしに電気は絶対必要です。それを守っていくために、コストと責任をどう見合っていくかということが政治家に課せられた使命だ」と、自分の役割として取り組む決意を語ってくれた。

この議論が、停滞する原子力政策をどれくらい動かす力になったかは分からない。原発問題では、再稼働かゼロかの政治の二項対立の中で、政治家たちが本質的な議論や判断から逃げ続けてきたことが、今の状況を生んでしまっている。萩生田大臣には、私との議論を通じて政治家として何かを感じていただき、自らの役割を自覚し行動することを強く期待したい。文部科学大臣時代の働きぶりなどから、それができる政治家であると思っている。

本質的なエネルギー政策を国会で展開し、この欄で紹介していく予定なので、ご期待をいただきたい。

ふくしま・のぶゆき
1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

システム改革の集大成 大手ガス導管3社が発足


東京・大阪・東邦の大手都市ガス3社の導管部門の法的分離が4月1日に実施される。2020年の大手電力会社の送配電部門の法的分離に遅れること2年、電力システム改革に追従する形で進められてきたガスシステム改革が総仕上げを迎えた。

国内の都市ガス導管の総延長は約26.6万㎞(21年3月末時点)。このうち、60%近い約15.8万㎞を大手3社が保有している。法的分離の狙いは、大規模な導管ネットワークを保有する3社によるガス製造・小売り事業との兼業を禁じることで、導管運用の中立化の強化を図り、小売り事業者間の競争を促進することにある。

「単に導管部門を別会社化するだけでは意味がない」と語るのは、大手都市ガス会社の幹部。新設された導管3社は、導管によるガス供給の安定性と効率性の向上というこれまでの役割に加え、新たな需要開拓や脱炭素化に向けたメタネーション技術の確立、スマートメーターを活用したサービスなど、新規の事業分野に主体的に取り組んでいくことになる。

本格的な脱炭素化時代を見据え、3社が都市ガス業界発展のけん引役となることこそが、導管分離の真の意義だといえそうだ。

排出量取引か炭素税か 手法を明確化し議論深掘りを


【業界紙の目】濱田一智/化学工業日報 編集局行政グループ記者

「カーボンプライシング(CP)の賛否は?」との問いは、大ざっぱすぎて正確性を欠く。

政府内でCPの検討が進むが、どの手法に関する議論なのかを明確にしないと話がかみ合わない。

カーボンプライシング(CP)に関する議論がかまびすしい。CPを巡っては、やれ経済産業省が反対で環境省が賛成だとか、やれ経団連が前向きな姿勢を示し始めたとか、いささか雑に語られる傾向がある。だがCPは読んで字のごとく炭素価格付け政策の総称にすぎず、排出量取引や炭素税といった性格の異なるものが混在している。これらを区別しないと議論の解像度が低くなる。

さらに話をややこしくしているのが政府、とりわけ経産省が多用する「成長に資するCP」との表現だ。だがCPの中でも炭素税は明らかに税金であり、税金が「成長に資する」と言われても直感的には理解しにくい。どういうことだろうか。

CPの三つの手法 どれが「成長に資する」のか

始まりは1年半前にさかのぼる。翌年に控えたCOP26の開催も見据え、菅義偉前首相が2020年10月の所信表明演説で「50年カーボンニュートラル宣言」を行い、同年末、温暖化対策を経済成長につなげる「グリーン成長戦略」を政府が発表した。そこでは「CPなどの市場メカニズムを用いる経済的手法は、産業の競争力強化やイノベーション、投資促進につながるよう、成長に資するものについてちゅうちょなく取り組む」とした。

そして21年2月に経産省が立ち上げた「世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等の在り方に関する研究会」が、端的に「成長に資するCP」と表現した。これ以降は「成長に資する」との枕詞を冠するのが通例になった。

さて、CPは冒頭に述べた通り、炭素価格付け政策全般を意味する。しばしば引き合いに出されるのが排出量取引、クレジット取引、炭素税だ。(他に企業が自主的に価格付けして投資家へのアピール材料に使うインターナルCPなどもあるが、とりあえず除外する)

排出量取引とクレジット取引の発想は近い。いずれも排出削減に金銭価値を付与して市場で取引させるというものだ。

排出量取引は、政府が企業ごとに炭素排出量の上限(キャップ)を決め、上限を超過してしまう企業と超過せず余裕がある企業との間で売買する「キャップ&トレード」に象徴される。

クレジット取引は、企業が削減策を講じない場合の排出量見通し(ベースライン)と、講じた場合の排出量の差を、クレジットと見なして売買する「ベースライン&クレジット」が典型だ。各国でクレジット取引の専門市場を設立する動きがあり、経産省もその流れに乗って「カーボン・クレジット市場」の創設を日本で進めている。

これらと比較すると炭素税は単純明快。炭素排出量に応じて税金を課すだけだ。日本では、石油石炭税の「上乗せ部分」に当たる温暖化対策税が炭素税としての性質を持つ。だが「本体部分」は排出量と比例しておらず、ここを改変して一層本格的な炭素税を導入すべしとの意見は強い。

炭素税で経済成長は強弁? 以前の議論と整合性取れるか

この三つをCPと総称するにしても、「成長に資する」という観点で見ると様相は異なる。排出量取引やクレジット取引は、なるほど成長に資する余地があるかもしれない。実際、経産省もカーボン・クレジット市場の狙いとして「世界のESG(環境・社会・統治)投資を誘導し、脱炭素時代の情報ハブを日本に引き込む」と気宇壮大な理念を掲げている。

翻って炭素税はどうか。実はCPについては経産省の研究会が発足する以前から、つまり「成長に資する」の枕詞が付く以前から、環境省の有識者会議が数年にわたり議論を重ねてきた。炭素税も当然議題に上ったが、あくまでも「外部不経済を内部化する」といったとらえ方で、経済成長に寄与するといったトーンは控えめだったはずだ。

従って「成長に資するCP」というときのCPが何を意味するかに注意を向ける必要がある。これが炭素税を指すとの解釈は、環境省の数年来の議論と、果たして整合性が取れるだろうか。

炭素税を肯定する論拠として、導入しないと気候変動対策に後ろ向きなメッセージになるとのレピュテーションリスクを挙げる論者もいるが、だからといって導入が「成長に資する」というのは強弁ではないだろうか。

反論はあり得る。「成長に資する」とは日本全体にとっての話であって、炭素税を課される企業にとっての話ではない、と。

確かに、いわゆる「二重の配当」論によれば、炭素税には環境改善効果(第一の配当)と、経済全体の活性化効果(第二の配当)が期待できるという。だが、大の虫を生かして小の虫を殺すには、それ相応の説得力が要る。「外部不経済の内部化」という理屈で押し通せるものだろうか。

環境省はCP議論を長年続けるが……

ここで改めて「成長に資するCP」の来歴を確かめておきたい。

まず20年末に政府のグリーン成長戦略がCPを「市場メカニズムを用いる経済的手法」と位置付け、「(CPで)成長戦略に資するものについてちゅうちょなく取り組む」と述べた。次いで21年2月に経産省が「世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等の在り方に関する研究会」を立ち上げ、枕詞をつけて「成長に資するCP」と呼び始めた。通底するのが「経済的手法」という言葉だ。

そもそも温暖化対策には規制的手法(法律など)や情報的手法(省エネラベルなど)もある。これらと違って経済的インセンティブに働きかけるのが経済的手法で、その代表格がCPということになる。それを前提に、CPならよろず良しではなく「成長に資するCP」に限定した。

こうした沿革を踏まえれば、CPというぼんやりしたキャッチフレーズをあげつらうことが不毛だと分かる。排出量取引の話なのか炭素税の話なのか、それは成長に資するのか――。主張がかみ合わない空中戦を避けるためにも、論点をクリアにしなければならない。

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天然ガス価格と真逆の動き EU排出権価格が一時急落


ロシア軍のウクライナ侵攻以降、国際エネルギー市場は大荒れだ。そうした中、EU―ETS(欧州排出権)価格も乱高下しているが、興味深いことに、欧州の天然ガスの価格指標であるTTFと真逆の動きを見せている。

欧州排出権価格は昨年来上昇を続け、ロシアの軍事侵攻前は1t当たり約95ユーロと最高値に近い水準だった。しかし戦争開始直後に価格は急降下、3月7日には60ユーロを切る水準にまで下がった。その後TTF価格が落ち着きを見せると排出権価格は上昇に転じ、22日時点では80ユーロ程度まで戻している。

当初、軍事侵攻に伴い欧州のガス不足や価格高騰が予想される局面では、石炭の利用が拡大し、それを相殺するため排出権価格は上昇すると見られていた。しかし実際には一時急落した。理由としては、欧州のエネルギー価格急騰を防ぐために欧州委員会が排出枠の供給をコントロールした、または欧州の脱炭素化が進まなくなるとの認識が市場で広まった、などの見方がある。今後再びガス価格が上昇に転じた際、排出権価格がどう動くのか、要注目だ。

【コラム/4月8日】ポストFIT時代における太陽光発電ビジネスの展望


渡邊開也/リニューアブル・ジャパン株式会社 社長室長

先月、3月16日から18日まで東京ビッグサイトにてPV EXPOが開催された。コロナ禍でまん延防止等重点措置の実施期間中であるにもかかわらず、感染予防対策(受付の自動登録等)が施され、多くの方が来場した印象である。
 PV EXPOの2日目の3月17日のお昼の時間から弊社代表を務める眞邉勝仁がREASP(リアスプ:一般社団法人再生可能エネルギー長期安定電源推進協会)の代表理事として「ポストFIT時代における太陽光発電ビジネスの展望」と題して基調講演を行った。事前のWEB予約では満員御礼状態で、主催者側が直前に受付枠を増やしたようであったことからも(私も恥ずかしながら予約できずに直前に再度WEBアクセスしたら空席ありになって予約した)、表題に対する業界関係者の関心が高いテーマであったのではないだろうか。今回はこの講演でREASP代表理事として眞邉がお伝えしたかったことを聴講した者として改めて記したいと思う。

 講演の中でポイントとして伝えたかったことは次の2つである。①Non-FITのマーケットは確実に拡大する、②ただ徐々に、そして指数関数的に拡大する、ということである。

では、2021年はNon-Fitは進んでいたのだろうか?恐らく、総論としてはいずれそちらの方向に向かっていくのだろう、つまり「①Non-FITのマーケットは確実に拡大する」と思っていても、周囲を見渡すとなかなか実現していない、「②徐々に、そして指数関数的に拡大する」の「徐々に」の部分に対しても余り実感がないなあというのが一般的な見方ではないだろうか?

ではその要因は具体的に何なのか?ということで5つの要因を挙げていた。

  1点目はコロナ禍においてパネルや架台等の部材コストが上昇したことだ。FIT単価が年々下がっていく中で部材コストが逆に上昇するということは、事業採算性が悪化することを意味する。また講演した先月には顕著になっていなかったが、最近の急激な円安傾向はたとえドルベースでのコストが落ち着いたとしても円ベースでは悪化することを意味する。2点目はNon-Fitはスタートしたばかりの新しい仕組みであり、開発リスクをどうとるかということを試行錯誤している段階であるということ。3点目は系統・許認可等の事業者サイドがコントロールできない問題があること。4点目は金融機関がデッドサイドとしてNon-Fitの案件に取り組むようになるには事業者サイドに比べてタイムラグがあるということ。5点目は需要家の迷いがあるということである。

 ただし、その現状を悲観するのではなく、徐々に、そして指数関数的に拡大することを念頭におくべきであるとのことであった。なぜなら、第6次エネルギー基本計画では2030年度の再エネ比率は36~38%であり、その主力は太陽光(14~16%)と風力(5%)である。2019年度の太陽光発電導入量実績は55.6GWであるが、2030年度の太陽光発電導入目標(野心的水準)は117.6GWと約2倍、61.8GWの成長余地があることになる。仮に1MW=1億円の市場とするならば、6兆円のマーケットが今後約10年間で創出されることになるのである。その中で事業者として努力すべきことは、コストの削減、土地の確保、事業モデルの工夫であり、事業者では難しいことは、系統、許認可、土地利用の拡大ということであった。

 繰り返しになるが、Non-Fitの時代はまだ実感はないかもしれないが、どこかのタイミングでブレイクスルーが起こり、そこから指数関数的に拡大する6兆円市場なのである。その遠い先には、2050年のカーボンニュートラルの実現があるのだが、それはゴールではなく通過点である。その実現に向けて「信じること、諦めないこと」というのが何より大切なのである。

【プロフィール】1996年一橋大学経済学部卒、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。2017年リニューアブル・ジャパン入社。2019年一般社団法人 再生可能エネルギー長期安定電源推進協会設立、同事務局長を務めた。

敦賀総合研修センターが開設10周年 原子力安全と人材育成の充実を図る


【日本原子力発電】

地元をはじめ国内の技術者や学生、海外からの研修生などが利用する敦賀総合研修センター。

原子力発電専業会社ならではの机上と実地を組み合わせた体系的で多彩な研修コースを設置している。

国の第六次エネルギー基本計画では、2030年におけるエネルギー需給見通しの原子力割合は20~22%と示されている。一方、現在、新規制基準に適合し、再稼働した原子炉は10基、19年度の電源構成では6%にとどまる。プラント運転経験のない者にどう技術を習得させるかが喫緊の課題だ。そうした中、今年の10月で10周年を迎えるという福井県敦賀市にある日本原子力発電(日本原電)敦賀総合研修センターを訪れた。

日本原電は、1968年に茨城県の東海村で研修業務を開始して以降、50年以上にわたる原子力安全と人材育成の経験および実績を持っている。

12年10月に開設された敦賀総合研修センターは、原子力安全の観点から人材育成のさらなる充実を図るため、社員研修はもとより、地元をはじめとする国内の技術者や学生、また海外からの研修生などを対象とした体系的な研修を実施する施設となっている。

同センター教務グループの和佐尚浩グループマネージャーより研修センターの特徴と取り組みについて説明を受けた本誌が、順を追って紹介する。

運転現場を模擬した設備 リアルな訓練に取り組む

まず、同センターの主要施設は、運転訓練設備、保修訓練設備、安全体感設備に大別される。

「運転訓練設備」では、敦賀発電所2号機運転員専用の中央制御室操作訓練施設「フルスコープシミュレータ」がある。ここでは、東日本大震災で経験した全交流電源喪失の他あらゆる事故時の訓練が繰り返し行われている。特徴的なのは、フルスコープシミュレータと別に現場盤室があり、中央制御室外の発電所現場にある操作盤や現場弁の操作がシミュレーションできる。中央制御室運転員と現場運転員が連携して訓練するもので、実際に現場操作盤や操作弁が現場のどこにあるかを理解していないと操作できない。さらに、現場機器が起動した際の様子を記録した動画で機器の運転音を確認するなど、原子力発電の運転経験の少ない運転員には有効な訓練である。

敦賀発電所2号機(PWR=加圧水型原子炉)と東海第二発電所(BWR=沸騰水型原子炉)の異なる原子炉を有する日本原電には、双方の解析データを使用し、原子力プラントの挙動を模擬することが可能な「教育シミュレータ」がある。これは、原子力発電の系統が俯瞰的に「見える化」された、日本原電のオリジナルだ。

全交流電源喪失を想定したフルスコープシミュレータ訓練

「保修訓練設備」では、机上では学べない現物による機器の構造や原理について実習を通して学ぶ。ポンプ、弁、水タンク、熱交換器、支持構造物、計測機器などにより構成されるループ設備は、発電所実機と同様の設備・機器で構成され、実動するポンプやモーター、バルブなどによりダイナミックな流体の流れを再現できる。保修員は、ループ設備を有効活用して機器の分解点検や機器の運転状態監視測定のスキルや勘所を学ぶ。

ループ設備は、保修員に限らず、運転員の現場での異常早期発見能力を向上させる訓練にも利用されている。ループ設備を現場に見立て、あらかじめ設備に仕掛けたトラップを運転員巡視で探させ、また、異常発見時の対処方法についても考えさせるという運転経験者の提案による自主訓練である。水と蒸気(熱)の挙動(水の流動・沸騰・相流・伝熱など)、ポンプ性能、キャビテーションを理解するための実習装置は、現象が視認できるため理解しやすく、若手社員や学生の基礎実習に有効である。

電気・計測制御設備を学ぶために、高圧・低圧開閉装置、電動機、電動弁、無停電電源装置、訓練用シーケンサー装置、炉外核計装盤、放射線監視盤などが備えられており、基礎的な知識の習得、実務訓練からトラブル対応の訓練が行われる。

原子力発電の専業会社である日本原電は、東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故を教訓に、社員およびグループ会社社員が避難された方々の放射線測定をできるように、放射線管理の実習としてスクリーニング研修にも力を入れている。この研修は、日本原電が「社員の多能工化」を図るために企画し、社員の専門外技量付与となっている。

ループ設備で異常早期発見訓練を行う運転員

「安全体感設備」では、高所・玉掛け・火気作業や電気工事などに潜む危険性を、安全に身をもって体感できる。ここでは、安全帯荷重体感(ぶら下がり)や、衝撃を体で覚える墜落荷重体感、アーク溶断による火花体感など、作業安全に必要な動作や安全のための感度を磨く体験ができるようになっている。これらの研修では、過去に経験したトラブル事例や、ヒヤリハット事例の振り返りも行われ、安全第一の発電所運営に大きく寄与している。

更田路線と決別できるか 問われる山中委員長の手腕


政府は原子力規制委員会の更田豊志委員長の後任として、現在委員を務めている山中伸介氏を充てる人事案を衆参両院の議院運営委員会に示した。後任については、元規制庁幹部などの名前が取り沙汰されていたが、核燃料の安全性研究の専門家として大阪大学で長く教鞭を取った山中氏が就任することになった。 

山中委員長で規制委はどう変わるか

原子力業界からは諦観と期待、両方の声が聞こえる。豊富な知見と人柄の良さから、阪大の教室を訪れる電力関係者は少なくなかった。しかし規制委の委員に就くと、「特重(特定重大事故等対処施設)の経過措置延長に反対するなど、電力会社に強硬姿勢だった更田氏に忖度し、学者として主体性がみられなかった」(ジャーナリスト)。

一方、期待する声も多い。審査・規制での予見可能性の欠如など、田中俊一前委員長、更田委員長の下では、電力会社と連携して安全性向上と再稼働を目指すという姿勢がみられなかった。「田中氏、更田氏の路線と決別して、NRC(米原子力規制委員会)のように事業者とのコミュニケーションを重視する組織にしてほしい」(業界関係者)。燃料価格高騰などさまざまな点から原発の重要性、必要性が増している。新委員長、どう規制行政を導くだろうか。

その場しのぎでとどまらせずに 石油政策の抜本的見直しを


【論説室の窓】吉田博紀/朝日新聞論説委員

脱炭素を目指す過程で、石油と今後どう付き合うべきか。ただでさえ、一筋縄ではいかない問題だ。

そこに新たな地政学リスクまで加わった今、石油政策を一から作り直す必要があるのではないか。

統計の発表を1日余り前倒ししてでも、周知を優先させた異例な対応ぶりに、政策のイレギュラーさが表れていた。

日本エネルギー経済研究所石油情報センターが発表する石油製品価格調査は、月曜日時点の全国と各都道府県の平均を、2日後の水曜日午後2時に発表するのが原則だ。しかし、1月24日の結果は、全国平均だけとはいえ翌25日午前、資源エネルギー庁から明らかにされた。

「初回は適用前にご理解いただけるような時間があった方がいいと考え、大臣と相談して集計を前倒しした」(担当者)

この日発表されたレギュラーガソリンの価格はℓ当たり170・2円。「コロナ下における燃料油価格激変緩和対策事業」が、2日後の木曜日から発動されるという宣言だった。

事の起こりは前年11月16日。3日後の取りまとめに向けて、政権初となる緊急経済対策を検討する最中、萩生田経済産業大臣が岸田首相を官邸に訪れた。10兆円の大学ファンド創設や半導体の国内生産を支援する基金などと並ぶ対策の柱として、ガソリンなどに対する補助金が打ち出された。

ガソリン価格は直近まで10週連続で値上がりし、7年ぶりの高値水準になっていた。家計や企業収益の悪化を心配し、凍結されているトリガー条項を解除して店頭価格を引き下げるべきとの議論も起きた。そこで急きょ考えられたのが、新しい補助金だった。

ガソリンの全国平均価格が170円に達したら、石油元売りなどに対し、対象4油種で1ℓ当たり5円を上限に補助。その分卸値を下げてもらい、ガソリンなどの店頭価格の上昇を抑える。こう概要を書くと単純に見えるが、方針が報じられた後にはさまざまな課題が指摘された。

元売り各社が補助金分を全て卸値に反映させるのをどう担保するのか。卸値が下がっても、店頭価格は小売業者が自由に決めるため、消費者に恩恵が十分届かないかもしれない。電気・ガスや食品、日用品など幅広く値上がりしているのに、なぜ燃料油だけ税金で価格を抑えようとするのか―。実務面でも、対象の油種をどうするかなど、細かな調整がギリギリまで続いたという。

補助金制度は石油業界にも不評だ

「現場知らぬ人の思い付き」 業界からは不満の声も

補助金は石油業界からも不評だった。家庭で月50ℓのガソリンを自家用車に使うとして、補助額は月250円。業者にかかる手間と、消費者への恩恵が見合わないのでは、との疑問があった。ある業界関係者は「天下の愚策。現場を知らない人の思い付きだ」と言い切った。

実際に発動された後、ドバイ原油価格は上がり続けたが、ガソリンの店頭平均価格は2月中、170円近辺で踏みとどまった。同庁の担当者は「迅速に、かつ灯油や重油にまで幅広く補助が出せた。トリガー条項ではこうはいかなかった。ホッとしている」と話した。

とはいえ、小売価格に政府が直接、働きかけようとしたとも取れるやり方は、市場経済の原則から見て感心できるものではない。

「目的のためには手段を選ばず」のような手法は、これだけではなかった。

緊急経済対策が発表された翌日の11月20日、岸田首相は、同様に石油価格高騰に悩む米国政権からの要請を受け「法的に何ができるか、いま検討を進めている」と石油備蓄の放出に言及。そしてその4日後、「米国と歩調を合わせ、石油備蓄法に反しない形で国家備蓄石油の一部売却を決定した」と表明した。

石油備蓄法は備蓄の放出を、供給途絶の恐れや災害時に限定し、価格引き下げを目的とする放出は想定されていない。そこで、備蓄している石油の入れ替えを、各国の放出に合わせて前倒しするとの「理屈」をひねり出した。「正面から考えたら放出できないので、工夫したということだ」と首相周辺は打ち明ける。

日米だけでなく中国、インド、韓国、英国と協調したこともあってか、直後こそ原油先物価格は下落したが、年が明けると市況は再び値上がりに転じた。「口先介入」以上の効果は得られなかったといえる。

カーボンプライシングを意識 化石燃料課税の再整理が必要

この半世紀余りの世界経済の成長を支えてきた原動力は、増えるエネルギー需要に応える形で供給能力を増強させた石油だった。これからも世界のエネルギー需要は増え続けるとみられるが、世界が脱炭素を志向する中で主役は再生可能エネルギーに移り、石油の需要はその従属変数になる流れになっている。需要予測の不確実性が増せば、新たな投資が鈍ることは避けられない。

このように、需給双方の事情からかつてないボラティリティーにさらされることになる石油政策が、これまでの延長上にあっていいはずがない。3月4日には、ウクライナ侵攻を受けて激変緩和措置の補助上限を25円に拡大したが、そのようなその場しのぎの対応を続けていても、急激に変貌する現実からの乖離を解消することはできないだろう。

80を超える国や地域でカーボンプライシングの導入が進んでいることもあり、石油にはしばらく価格上昇圧力がかかると予想される。脱炭素を目指す上では、それは必ずしも悪いこととは言い切れないが、価格が急上昇すれば、エネルギー多消費産業や低所得者らが負担に耐え切れなくなる恐れもある。どんな構えで価格に向き合うべきか、腰を据えた対応が求められる局面だ。その中では、課税目的も税率も品目ごとにばらばらな化石燃料課税の整理も視野に入れる必要がある。

備蓄についても見直すべき点がありそうだ。取り崩せる要件は時代に合っているのか。今後の石油需要を見越した適切な備蓄量とはどのぐらいなのか。

産油国との関係を良好に保つ努力も忘れることなく、石油政策の新たなパッケージを作り上げる時期を迎えているのは疑いない。