原発回帰に冷ややかな独電力 コスト・エネ政策が障壁に


【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題

ドイツではシュレーダー政権下の2000年以降、原子力発電は政府補助金で拡大し続けた再生可能エネルギーに押され始め、新規建設はなくなり、既設の運転で何とか持ちこたえた。10年10月の改正原子力法で既設原発の運転継続が規定されたが、翌年3月の福島第一原発事故で状況は一変してしまう。反原発の世論に火が付き、メルケル前政権は、6月に原子力法を改正し、22年末までの段階的な撤退を決めることになった。ところがその年の2月にウクライナ戦争が勃発し、エネルギー不足が生じる中、ショルツ政権はさらに原子力法を改正することで稼働していた最後の3基の閉鎖を22年末から3カ月半延長した。そして23年4月15日以降、稼働した原発はない。

2月23日に投票が行われる議会選挙では、最大野党のCDU・CSU(キリスト教民主・社会同盟)が原発回帰の公約を掲げる。だが、ドイツ最大の発電事業者RWEのクレバーCEO(最高経営責任者)は昨年12月末のマスコミ紙で、同社としての原発への回帰を一蹴し、当時発電量の6%を占めていた3基の時代は終わったと断言した。同氏は「3基を再稼働させるには、長い期間にわたる許認可プロセス、バックフィット投資、専門的な資格を持つ運転員の育成などが必要で、電力会社はこれを行う意思があるのか」と紙上に疑問を投げかけ、新規建設に関しても見込みはないとした。建設には10年以上が必要で、当然コストも膨らむ。政府が新設を望むのであれば、政府自身が経済的なリスクを引き受けなければならないとの見方だ。

ドイツ最大電力EONのビルンバウムCEOも1月21日付のハンデルスブラット紙のインタビューで、「ドイツにおいて資金を新しい原発へ投資する民間の電力会社は存在しないであろう」と述べ、ドイツが原発から撤退したのは大きな誤りであるとした。再稼働には技術・規制の両面で要求が高く、時間もかかる。また、脱原子力の決定を覆すことは不可能であると見ている。同氏は、新たな政府による決定が4年後に再び引き継がれることがあてにできないとし、「過去15年間のエネルギー政策の混乱下では、どの電力会社も原発には投資しないであろう」と答えた。

このように、ドイツでは民間の大手電力会社はエネルギー政策への不安から原発から手を引いている。新しい政権が原発支持を打ち出しても4年後にこれが継続される保証はない。さらにドイツでは、原子力の専門知識がなくなり、建設できるメーカーがない。欧州では少なくとも建設コストが計画通りに維持されたプロジェクトはなく、建設費は、計画よりも2~3倍高くなっている。このため、ドイツでは従来の原発建設方式は受け入れられるものではない。今後、取り組むことが可能な技術はSMR(小型モジュール炉)と核融合となるが、これらはせいぜい中期的に実用可能となる見通しであるか、ようやく開発に着手した段階に過ぎない。

(弘山雅夫/エネルギー政策ウォッチャー)

【新電力】リスク回避策が足かせ? 新局面の新電力経営


【業界スクランブル/新電力】

某大手発電事業者が、相場操縦の疑いで電力・ガス取引監視等委員会から勧告を受けたことが、業界では話題になっている。故意はなかったものと信じているが、卸価格高騰に委員会が目を光らせていることが明確となり、旧一電発電部門は限界費用での玉出しを、これまで以上に順守していくのであろう。実際、昨年度・今年度とも電力卸価格(東京エリア)で50円を超えるコマは発生していない。新電力各社にとり、少なくとも制御不能な価格高騰により経営を脅かされるリスクは著しく低下している。

ただ、これにより新電力は新たな経営課題に取り組む局面を迎えたと筆者は考える。

数年前の電力卸価格高騰を教訓に、火力発電所を建設・買収あるいは、大手発電事業者と割高な長期卸供給契約を締結した新電力も多いと聞く。経営リスク回避の施策が、経営の足かせとなるとは皮肉である。特に火力発電所を保有した新電力は深刻だ。今後、卸市場高騰による利益は見込めず、発電した電力の卸市場販売による逆ザヤ、また逆ザヤ回避のために発電所休止も、それが原料の最低引取料未達ペナルティ発生という「無間地獄」に陥る可能性がある。

また、それ以外の新電力も、今後は大手発電事業者の限界費用での玉出し増加が、新規事業の目玉として推進するFIP転太陽光事業に与える影響を十分検討すべきである。卸市場高騰リスク低下により、新電力は卸市場調達比率を高めるであろう。その結果、火力電源の卸市場供給時間帯・量は増え、0・01円コマ発生の減少に繋がると筆者は見ている。この点、新電力各社は、どう考えるのであろうか?(S)

脱炭素に傾斜し過ぎたIEA トランプ政権で強まる風当たり


【ワールドワイド/環境】

第2次トランプ政権誕生で2050年ネットゼロエミッションシナリオを唱道してきたIEA(国際エネルギー機関)に対する風当たりが強まりそうだ。最近、米シンクタンク National Centre for Energy Anlytics が「エネルギー妄想:ピークオイル予想―IEA World Energy Outlook 2024の石油シナリオの批判」と題するレポートを発表した。

「IEAは長年にわたりエネルギー情報と信頼性の高い分析を出してきたが、加盟国政府がパリ協定に署名したことを受け、そのミッションをエネルギー転換の推進に転換した。この結果、世界エネルギー見通し(WEO)において政策立案者に対して、歪曲された危険なほど間違った見方を提示している。WEO24年の中心シナリオではエネルギー転換の継続的な進展により、今世紀末までに、世界経済は石油、天然ガス、石炭の追加使用なしに成長を続けることができるとされているが、これは実現可能性がない。IEAのアウトルックでは現状維持(BAU)シナリオが排除されており、中心シナリオでは各国のエネルギー転換計画が完全に実施されることを想定しているが、現実にはほとんどの国が予定より大幅に遅れている。真実ではないことを信じ込むことは妄想である。IEAの分析は、何兆ドルもの投資決定だけでなく、広範囲にわたる地政学的な影響を及ぼす政府政策にも影響を与え続けている。誤解を招く見通しを提示することで、世界をリードするエネルギー安全保障の監視機関としての長年の実績を自ら傷つけている」と、厳しく批判している。

筆者のニール・アトキンソンは最近までIEAの石油産業・市場課長であった。現実を踏まえ地道に市場分析してきた彼が「30年に石油需要がピークアウトする」というシナリオがIEAのメッセージとなっていることにフラストレーションを溜めたとしても不思議ではない。

昨年12月には、上院エネルギー商業委員会の重鎮ジョン・バラッソ上院議員も「IEAの設立の理由を忘れてしまった」との報告書を発表し、脱炭素への傾斜を強く批判した。イーロン・マスクは国際機関への拠出金などに大ナタを振るうだろう。IEAへの拠出金の凍結など、ドラスチックな対応もあり得る。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【コラム/3月18日】米国における原子力発電に関する世論動向


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

前々回のコラムで原子力発電を支持する世論が世界的に増大していることを述べたが、本コラムでは、原子力発電に対する好意的な世論が記録的な高さを維持している米国に焦点を当て、その実態を紹介したい。

Bisconti Research(2024年5月)によれば、 米国では原子力発電に関する賛否は、40年前にはほぼ半々だったが、その後、賛成が反対を上回り、その差は拡大してきた。この傾向は2021年以降顕著となっており、2024年の調査では、77%対23%と賛成が反対を圧倒した(「強く」と「やや」を含む)。また、同調査では、原子力発電の運転ライセンス更新と新設に関する支持は、2021年以降過去最高レベルに達していることもわかった。連邦政府の安全基準を満たした原子力発電の運転ライセンス更新に対する支持は、2021年の86%から2024年には88%に上昇している。また、原子力発電所を「確実に」(“definitely”)新設することに対する支持は、2021年の69%から2024年には71%に増大している。

さらに、2024年の調査では、原子力発電に対する支持は、同電源に関する知識が深いほど高まることが示されている。このことは、これまでの調査結果とも合致している。原子力発電に関する知識が乏しい回答者では64%がその利用を支持しているのに対して、知識が豊富な回答者では88%が支持している。また、性別も原子力発電に対する賛否に関連している。男性の86%が原子力発電を支持しているのに対し、女性は70%であった。世代と原子力発電に対する賛否との関連については、ミレニアル世代(1981~1996年生まれ)の75%を除き、その他のすべて世代、すなわちベビーブーマー世代(1946~1964年生まれ)、ジェネレーションZ(1997~2012年生まれ)、ジェネレーションX(1965~1980年生まれ)で支持率は約80%であった。

Bisconti Researchの調査では、学歴との関係についても示されている。大学卒業生の 82% が原子力発電を支持しているのに対し、大学を卒業していない回答者では支持は74%であった。また、支持政党では、共和党支持者と自認する回答者の 85% が原子力発電を支持しているのに対し、民主党支持者と自認する回答者では支持は78%であった。さらに、原子力発電に対する態度が最も肯定的な地域は、北東部と南部で、それぞれの支持率は79% と 78%であった。また、西部では 75%、中西部では 74% の支持率であった。

なお、地域における原子力発電に対する賛否については、ミシガン大学の研究者が2008年から2023年までのソーシャルメディアプラットフォームX(旧Twitter)上の米国の位置情報付き投稿126万件を分析し、2024年8月に発表した論文で、州ごとの結果を示している。それによれば、50州のうちアラスカとデラウェアを除く48州の人々は原子力発電に関して否定的よりも肯定的な態度をとっていることを明らかにしている。

Bisconti Researchの調査では、原子力の利用に関して、77%対23%と賛成が反対を圧倒していることを述べたが、そこには、「強く」と「やや」が含まれている。強く賛成する人は32%、強く反対する人は6%と、前者は後者の約5倍に上るが、やや賛成とやや反対が全体の62%を占めている。これらは、どちらかと言えば中間派とも言えるわけで、ある出来事で意見が容易に変化しうるグループと考えられる。わが国でも、米国における原子力利用に対する支持の高さが紹介されることがあるが、このように移ろいやすい意見が大半であることにも注目する必要がある。

また、同調査では、上述したように原子力発電に対する支持は、同電源に関する知識が深いほど高まることが示された。前々回のコラムでも、原子力発電に対する世界的な世論動向に関するSavantaの調査結果を紹介する中で、調査対象20か国全体で、同様の結果が得られていることを述べた。原子力PAの改善のためには、原子力技術の知識基盤の拡大と国民への教育が、必須条件といえるだろう。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【電力】脱炭素電源投資促進へ 立ちふさがる重い宿題


【業界スクランブル/電力】

本誌が刊行される頃には、第7次エネルギー基本計画が閣議決定されているであろう。今回の計画は、一部政治圧力が押し付けた再エネ最優先のスローガンに合わせるために、2030年に向けて電力需要の減少を想定していた前回から一転、40年に向けて電力需要の増加を想定している。しかし、これはGX・DXがうまく進展していることが前提であり、そうでなければ日本経済とともに、電力需要もシュリンクしてしまう可能性がある。

そうしたことから、エネ基では「脱炭素電源の確保ができなかったために、(略)⽇本経済が成⻑機会を失うことは、決してあってはならない」と、電源確保に向けて力強く宣言している。こうした決意を表すことは間違いなく必要なのだが、問題は実際に誰が脱炭素電源に投資するかだ。

そうしたこともあり、「投資回収の予見性を確保する仕組み」は、近年の制度議論のキーワードになっている。

電力小売自由化が始まった2000年以降、電力需要の伸びは鈍化から減少のトレンドをたどっているが、それ以前は年200億kW時程度の増勢を示していた。その頃は、投資回収の予見性を確保する仕組みとして総括原価方式があり、加えて当時の一般電気事業者が法的独占の担保とセットで供給責任を負っていた。

しかるに、今の電力システムには供給責任を負う事業者が不在である。つまり、投資回収の予見性を確保する制度だけの一本足打法だ。供給責任を誰も負っていないから、必要な投資を促すには、脱炭素電源への投資が他分野の投資よりも魅力的となるような制度設計が必要だ。これは重い宿題である。(V)

世界で急増する「気候訴訟」 海外投資へのリスクにも


【ワールドワイド/市場】

近年、気候変動への関心の高まりとともに「気候訴訟」が国際的に注目を集めている。これは、気候変動に関する法、政策、科学的課題などを扱う訴訟の総称であり、気候目標や政策、企業活動などさまざまな方面への影響力を強めている。

気候訴訟は2000年代後半から増加し、特に15年のパリ協定締結後に急増した。英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのグランサム気候変動環境研究所によれば、23年時点で2666件の気候訴訟が係属しており、その約70%が15年以降に提起された。気候訴訟は、住民や環境NGO(非政府組織)が原告となるケースが多い。その代表例が、15年にペルーの農民Saúl Luciano Lliuya氏がドイツのエネルギー大手RWEを相手取った訴訟である。

同氏の居住地近くのパルカコチャ湖では、氷河融解による水位上昇が進み、決壊の危険が高まっている。これを気候変動による影響と主張し、世界的にCO2排出量が多い同社に部分的責任を求めた。米国の環境NGOであるClimate Accountability Instituteによると、RWEの累積排出量は世界全体の0・47%を占めるとされ、この割合に基づき洪水対策費用の0・47%にあたる約1万7千ユーロを請求した。第1審では棄却されたが、控訴裁判所では審理継続が認められ、1月現在は証拠調べの段階。請求額は高額ではないが、気候変動の国境を越えた賠償責任を1企業に負わせる初の判例となる可能性があり、注目されている。

この訴訟はドイツの環境NGOであるGermanWatch が「気候の公平性」を訴えるキャンペーンの一環として原告を支援している。「気候の公平性」とは、気候変動における歴史的責任の不均衡を是正しようとする考えである。CO2排出は主に先進国によるものである一方、その影響は経済、地理的理由から発展途上国や低所得者層に集中しやすい。この不公平を是正しようとする取り組みが、同気候訴訟の背景にはある。

日本における気候訴訟の件数は1月時点で5件と少ない。法制度や司法消極主義などが理由とされるが、国際的に気候訴訟のリスクが増大しているのは事実である。その影響は政府や企業、金融機関や保険会社にも波及し、海外投資へのリスクも増大している。将来は国際的な動向に呼応した新たな判決が下される可能性もあり、国内でも無関係と一概にはいえないだろう。

(藤原 茉里加/海外電力調査会・調査第一部)

アサド政権崩壊で原油不足 米・イランとの関係悪化も懸念


【ワールドワイド/資源】

シリアでは昨年12月、アサド家による53年間の支配に終止符が打たれた。反体制勢力の「シャーム解放機構」が11月末に大規模軍事作戦を始めてから、12月8日までにアレッポやダマスカスなど主要都市が陥落し、アサド政権が崩壊した。

シリアでは2011年の「アラブの春」を機に内戦が始まり、原油生産が日量30~40万バレルから数万バレル程度まで減少した。国際石油市場への影響は見られていないが、アサド政権を支持してきたイランからの原油供給が断たれたことで、政権崩壊直後からシリア国内はエネルギー危機に陥っている。

シリア最大のバニヤス製油所(精製能力日量10万バレル)は原料不足で12月13日に稼働を停止し、電力・ガス不足により同国の1日の電力供給はわずか2時間にとどまる。新政権が国内統治体制の確立と近隣アラブ諸国との関係構築を急ぐ一方で、国民生活を支えるエネルギー供給も重大な課題となっている。

新政権は原油・ガス・電力の確保のために多方面に働きかけている。原油供給では、アサド政権による原油輸入を妨げてきた広範な制裁について、米国政府は1月6日にエネルギー輸入に関する6カ月間の制裁免除を発効した。これを受けて新政権は同月中旬に原油・石油製品の購入に関する入札を開始した。

ただ、シリア政府の安定性や支払い能力が疑問視される中、十分な供給量が確保できるかは不確かだ。またガス・電力の観点では、既存パイプラインを通じたヨルダン経由でのガス輸入や、トルコ・ヨルダンからの電力輸入、トルコ・カタールからそれぞれ40万kWの発電船2隻を調達するなどのアプローチが追求されている。新政権は近隣諸国との良好な関係構築を進めており、関係諸国からの支援が期待される。

シリアでの新政権成立は周辺諸国の動向と相まって、長期的にはイランの米国との関係変化につながる可能性がある。イランは周辺諸国で「抵抗の枢軸」と呼ばれる親イラン民兵組織を支援してきたが、ガザのハマスとレバノンのヒズボラはイスラエルとの紛争で大きな被害を受け、親イランであったシリアのアサド政権も崩壊した。米国内には、イランの「手下」が弱体化していく状況をイランとの核開発交渉を優位に進める好機とする見方もある。トランプ政権もイランとの「取引」を示唆しており、イランの国際社会への関与に変化の兆候が生じている。

(豊田耕平/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2025年3月号)


【エナジー宇宙/ニチガス系が春日部市と「ゼロカーボンシティ」目指す】

ニチガスの100%子会社で、LPガスなどのインフラを担うエナジー宇宙(吉田恵一社長)はこのほど、埼玉県春日部市と「ゼロカーボンシティ」に向けた連携協定を結んだ。同市と連携するエネルギー事業者は東京電力パワーグリッドに次いで2社目。市は「市・事業者・市民で明日を耕せ ゼロカーボンで生まれ変わる田園都市」をスローガンに、2028年までに調達電力の70%以上を再エネとし、市庁舎では100%を目指している。ハイブリッド給湯機器などの家庭用省エネ機器販売で実績があるニチガスの知見を活用するとともに、カーボンオフセットガスなどで最適なエネルギー利用を図る。


【コージェネ財団/大賞表彰式で高砂熱学など3件が理事長賞を受賞】

コージェネレーション・エネルギー高度利用センター(コージェネ財団)は2月6日、「コージェネシンポジウム2025」を開き、優れたコージェネシステムに贈る「コージェネ大賞2024」の表彰式を行った。理事長賞を受賞したのは、民生用部門が「高砂熱学イノベーションセンターへの導入事例」(高砂熱学工業など)、産業用部門が「味の素九州事業所での改善事例」(日鉄エンジニアリングなど)、技術開発部門が「水素30%混焼対応 高効率8MW級ガスエンジンKG-18-T.HMの開発」(川崎重工業)。各部門の講演のほか、新しい街づくりに関する意見交換などを行った。


【国際環境経済研究所/水素・アンモニア社会実現をテーマに最新事情紹介】

国際環境経済研究所は1月31日、「水素・アンモニア社会実現の課題」と題する講演会を開いた。同研究所所長の山本隆三氏が、昨年視察した欧州の水素事情に触れ、「トランプのエネルギー政策と欧米のエネルギー戦略」をテーマに講演した。次に登壇した主席研究員の塩沢文朗氏は、「水素・アンモニア利用の課題」に焦点を当て発表。この中で塩沢氏は、現在の日本の水素・アンモニアの利活用状況について説明し、昨今の人材不足や物価高により水素やアンモニアへの投資リスクの拡大が見込まれると指摘しながらも、製造時にCO2を回収するブルーアンモニアの導入拡大が予想されるとの見方を示した。


【ニチコン/新型蓄電システムで電気代の削減に貢献】

家庭用蓄電池などを手掛けるニチコンは2月13日、太陽光発電、蓄電池、EVのエネルギーを制御するトライブリッド蓄電システムのフラッグシップモデル「ESS-T5/T6シリーズ」を今年秋に発売すると発表した。自宅の太陽光パネルで発電した電力を最大限に活用して蓄電池とEVに同時に充電できることが特徴で、電気代の削減につながるという。


【関電工/創立80周年を記念したセミナー開催】

関電工は2月5日、都内で創立80周年を記念したセミナーを開催した。オンラインによる聴講者を含めて計1500人近くが参加。「次世代道路革命 電気設備と走行中ワイヤレス充電が描く未来」や「生成AIの進展とインフラ建築業界における活用」などをテーマに、社会の変化に直面するインフラ・建設業界の今後の課題について有識者らが講演した。


【茨城大学原子科学研究教育センター、日本原子力発電/漫才コンビとエネルギー問題を楽しく学ぶセミナー】

茨城大学原子科学研究教育センターと日本原子力発電は1月29日、同大水戸キャンパスで「エネルギー問題と政策~エネルギー問題から人材育成まで~」と題するセミナーを開催した。漫才コンビのU字工事や資源エネルギー庁原子力立地政策室長の前田博貴氏によるトークセッションなどを行い、大盛況で閉幕した。電気事業連合会と日本原子力文化財団が協力。

理想のモビリティ社会構築へ 目指すべき方向性とは


【モビリティ社会の未来像】古川 修/電動モビリティシステム専門職大学教授・学長上席補佐

本連載も本稿が最終回となったので、最後のまとめとしてモビリティ社会の目指す方向性を提言する。日本のモビリティ社会において解決すべき重要な社会課題は、①交通事故死をゼロとする安全性の向上、②地方での交通弱者の移動の確保―の二点が挙げられる。

モビリティ社会の目指す方向性は


安全性向上については、全ての自動車を自動運転にすれば、人間が運転する時よりも交通事故は減少するという説がある。グーグル社系列のWaymo社では、完全自動無人タクシーが人間が運転している自動車よりも85%事故率が少ないことを公表している。しかし、それだけでは自動運転車が人間が運転するよりも安全性が高いとは言えない。なぜなら、Waymo社の無人タクシーは限定された地域の道路だけで運用されているからだ。限定地区以外の道路交通事情ではAIが想定していなかった交通状況の変化が起こって、交通事故に至る可能性がある。

また、Waymo社では2530万マイルの無人走行で一度も重大事故を起こしていないことを公表している。しかし、これも世界最大の科学・教育計算機学会である米国計算機学会「ACM」の投稿論文に、この走行マイル数では安全であることを確証するには不十分であり、110億マイルの走行が必要である、と否定されている。

では、交通事故死をゼロとするための自動運転技術の使い方とは何か。それは、完全自動運転ではなく、あくまでドライバーが運転する自動車を高度なAIが支援して運転ミスをカバーする究極のADAS(先進運転支援システム)の開発を目指すことである。

従来のADASの何が問題であるかというと、ドライバーの運転意図が分からないことによる支援機能の限界があることだ。例えば衝突軽減ブレーキでは、衝突回避支援を行うことが難しい。これは、ドライバーがブレーキではなくステアリング操舵で回避する意図を持っている可能性があるからである。この運転意図を、道路交通環境情報やドライバーの操作データ情報を基に、高度なAIが把握できるようになれば、衝突事故をゼロとする可能性が高くなる。

後者の地方の交通弱者の移動の確保では、自動運転をそのまま導入しようとしても、社会実装が難しいことが、日本全国で実施されてきた実証実験で示されている。それは安全の担保と導入・運営コストの低減を両立させることが難しい点である。この課題については、コスト低減には限界があるので、自動運転走行の価値をより高くして、コストに見合うサービスとしてビジネス化することが必要である。

例えば、社会生活に必要なデータ連携をして、自動走行中に移動先での買い物、診療、娯楽、各種手続きなどを先回りして済ませる利便性向上や、住民の観光客の移動を融合させるビジネス化などが考えられる。それには、単なる自動運転の採用ではなく、地域の移動需要や社会生活に基づいて、モビリティ社会を総合的にデザインするアプローチが必要とされる。

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ふるかわ・よしみ 東京大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。ホンダで4輪操舵システムなどの研究開発に従事。芝浦工業大教授を経て現職。

大規模災害に新たな備え 寺社×科学技術で減災へ


【オピニオン】稲場圭信/大阪大学大学院人間科学研究科教授

京都市が環境省の「脱炭素先行地域」に選定され、防災をからめて文化遺産などの関連施設に太陽光パネルと蓄電池を設置し、脱炭素転換を推進している。寺社が連携先に入っていることが先進的である。このような寺社と自治体の連携は、防災の取り組みでは東日本大震災後に全国に広がっている。

東日本大震災の被災地では小学校や公民館などの指定避難所の多くが被災する一方で、高台にあった100以上の寺社が避難所となった。昨年の能登半島地震では、地震直後、津波警報が発令されて高台などの安全なところにある35ほどの寺社に1000人ほどが避難した。地震が年末年始の帰省期間中に発生したことから、住民以外の避難者も多く、避難所不足の問題も指摘された。既存の指定避難所では、広域災害時の避難者を十分に受け入れられない状況が日本各地で散見されている。

避難所不足に対応するため、筆者らは全国1741自治体を対象に宗教施設との災害時協力に関する調査票を昨年8月に送付し、1143自治体から回答を得た。その結果、協力関係にある自治体は5年前の調査時の329から418に増え、27.1%の増加になり、宗教施設数は2065から2999に増え、45.2%増加していることが判明した。この調査は全国基礎自治体全数の約3分の2が回答しているため、全国で災害時に利用される宗教施設数は約4500と推定され、自治体と宗教施設の災害時協力が進展していることが示唆された。

大災害時には、光ファイバーなどの固定通信網や、携帯電話サービスなどの大手キャリアサービスは、輻輳による通信障害やインフラ設備自体の被災が想定される。そこで、大阪大学では企業と共同で、風力発電、太陽光発電、蓄電池、通信、カメラといった機器を備えた独立電源通信装置を開発して、特定小電力無線(Wi-SUN FAN)によるテキスト送受信や画像伝送の実験をし、成功させている。共同研究の成果の仕組みが大阪発であることから、名称を「たすかんねん」とした。今後、「たすかんねん」が避難所、事業所や寺社などに設置されることを期待している。

今、自治体の多くが災害時の情報共有に課題を感じている。筆者らは全国の指定避難所と寺社などの宗教施設を登録した避難所情報システム「災救マップ」(https://map.respect-relief.net/)を開発、運営している。災救マップは自治体にとって費用負担が少なく、簡単に使える避難所情報共有システムである。災害時に迅速に地域住民に避難指示、避難所情報、道路の危険箇所を共有することができる。

完璧な防災システムは無い。是非、上記のような地域資源と科学技術を活用して欲しい。

いなば・けいしん 東京大学文学部卒。ロンドン大学大学院博士課程修了、宗教社会学博士。利他主義、地域資源と科学技術による減災が専門。フランス国立社会科学高等研究院、神戸大学などを経て、2016年から現職。

進化する建築物の脱炭素化 ZEBの次はライフサイクルで


【脱炭素時代の経済評論 Vol.12】関口博之 /経済ジャーナリスト

改正建築物省エネ法が4月に全面施行される。これまでは300㎡以上のビルのみに義務付けられていた省エネ基準適合が、原則全ての新築住宅・ビルに義務付けられる。建築分野の脱炭素化が一歩前進する。

国は2030年までに省エネ基準を、新築はZEB・ZEH(ネットゼロエネルギービル・ハウス)水準に引き上げ、50年にはストック平均でもZEB・ZEH水準の確保を目指している。しかし現状では省エネ基準を満たさない(基準導入以前の)建物が延床面積の6割以上に上る。それだけ既存ビルの省エネ改修が重要になる。

大成建設の次世代技術研究所(完成予想図)
提供:大成建設

ビルオーナーにしてみると、どこを変えれば省エネ性能の向上になるか、コストはどうなる、テナントの理解は得られるか、といった課題に直面する。このため環境省は改修による「省エネ・CO2排出削減ポテンシャルの見える化」調査も支援する。

しかし既存ビルでは新築のように一からの最新設計はできない。外壁断熱、高効率空調、LED照明の導入などが主な手段だが、環境省が加えて推奨するのが「ダウンサイジング」だ。ビル建設時にはどんな使用実態になるか見通せないため、設備は余裕をもった過大な容量になっていることが多い。これを実情に合わせ、より小さい設備・機器に切り替えるダウンサイジングをすれば、改修費用も抑えられ、ランニングコストも削減できるというわけだ。

建築物の脱炭素化の重要性は去年のCOP29でも再確認された。それとともに今、国際的な潮流として注目されているのが建築物に関する「ライフサイクルカーボン」の考え方だ。建築物の資材製造から施工、使用、修繕、解体に至るまでの環境負荷をトータルに捉えるものだ。建物の使用時のエネルギー消費を「オペレーショナルカーボン」、建設から改修、解体までに要するCO2排出を「エンボディドカーボン」と呼ぶ。従来のZEBは「オペレーショナルカーボン」のルールだが、脱炭素化の概念は拡大している。

欧州委員会は既に加盟国に対し、28年までに1000㎡超の新築建築物にライフサイクル全体でのCO2排出量を算定し開示することを義務付けている。

日本でも産官学連携の下、「ゼロカーボンビル推進会議」が発足。国土交通省や経済産業省、環境省などによる連絡会議では今年度中に建築物のライフサイクルカーボン削減に向けた基本構想をまとめることにしている。制度化に向けては建材ごとのCO2原単位の算定方法など、国際的にも通用する基準を早期に整備する必要がある。

ゼロカーボンビルを実践しようという企業も現れている。大成建設は埼玉県幸手市に建設中の技術研究所で、国内初のライフサイクル全体でCO2排出量ネットゼロの実現を目指している。鋼材はリサイクルを想定し、電動式の建設重機も導入、現場事務所もリユースの太陽光パネルで覆いZEB化した。ビル自体には窓ガラスや手すりと一体化した太陽光発電システムを備える。

「このビルはライフサイクルカーボンの算定はしていますか?」そうテナントが聞いてくる日も遠くないかもしれない。


・【脱炭素時代の経済評論 Vol.01】ブルーカーボンとバイオ炭 熱海市の生きた教材から学ぶ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.02】国内初の水素商用供給 「晴海フラッグ」で開始

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.03】エネルギー環境分野の技術革新 早期に成果を刈り取り再投資へ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.04】欧州で普及するバイオプロパン 「グリーンLPG」の候補か

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.05】小売り全面自由化の必然? 大手電力の「地域主義」回帰

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.06】「電気運搬船」というアイデア 洋上風力拡大の〝解〟となるか

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.07】インフレ円安で厳しい洋上風力 国の支援策はあるか?

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.08】これも「脱炭素時代」の流れ 高炉跡地が〝先進水素拠点〟に

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.09】割れる世界のLNG需給予測 日本は長期契約をどう取るか

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.10】開発機運高まる核融合 「産業化」目指す日本の強み

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.11】新エネ基の明確な「メッセージ」 投資促す「シグナル」になるか

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せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

ファンダメンタルズは改善も ぜい弱性続くガス・LNG市場


【マーケットの潮流】白川 裕/国際エネルギー機関「IEA」アナリスト

テーマ:世界のガス・LNG 市場

昨年のガス・LNG市場は、旺盛な需要に対して新規LNG供給が少なくひっ迫した。

アジアを中心とした旺盛な需要と新規LNG供給の伸び悩みで、今年も同様の状況が続きそうだ。

昨年の欧州ガス価格やそれにリンクするスポットLNG価格は、2022年のエネルギー危機時より低下したものの、そのレベルはいまだ以前の2倍の高値にある。ここでは、国際エネルギー機関(IEA)の最新のガス市場四半期報告書に基づき、世界のガス・LNG市場の需給や価格の動向について概観する。

主なスポットLNGおよびガス価格とフォワードカーブ(2022~2025)


危機前の2倍の高値 ひっ迫状態続く

TTF(オランダガス取引ハブ価格指標)に代表される欧州ガス価格とJKM(北東アジアスポットLNG査定価格)に代表されるスポットLNG価格は、以前は、LNG価格が欧州ガス価格をほぼ常に上回っていたが、エネルギー危機以降は、需給がよりひっ迫する欧州ガス価格が上回る状況が散見されるようになった。

2月上旬時点で、TTFとJKMはそれぞれ、100万BTU(英国熱量単位)当たり15ドル/16ドル程度と危機前の2倍の高値をキープしており、これはまさにガス・LNG市場のひっ迫を表している。

さらに今年は、秋口まで例年のコンタンゴ(期近物の価格よりも期先の価格が高く値付けされている状態)ではなく、高原状にガス先物フォワードカーブの高値が継続しており、欧州地下ガス貯蔵在庫の積み上げコストの上昇が懸念されている。今後2年のうちには米国やカタールからの新たなLNG供給が始まり、欧州のロシアLNG輸入が減少するとともに、フォワードカーブは徐々に低下する。

昨年の世界のガス消費量は、現時点のデータで前年比2・8%増の4兆2100億㎥となった。主に中国とインドにけん引されたもので、アジアが需要増加分の40%以上を占めた。アメリカ大陸は、主に電力部門の増加に支えられ、同1・7%増と緩やかな伸び。21年と比べガス消費量が2割も低下した欧州では産業用を中心に需要が回復したが、いまだ危機以前の水準を大きく下回ったままである。

今年の世界のガス市場も、需要の増加と供給のひっ迫を背景に脆弱な状態が続く。需要は前年比1・9%増の4兆2900億㎥となり過去最高を更新し、その増加の半分以上をアジア市場が占める。LNG生産量は、「プラケミンLNG Phase1」「コーパスクリスティLNG Stage3」「アルタミラF―LNG」「LNGカナダ」などの北米の液化施設の立ち上げにけん引され、5%増加すると予測される。

180度転換した日米首脳共同声明 「ジャパン・ファースト」の政策展開を


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

当初どうなることかと思われた石破茂首相とトランプ米国大統領の初めての首脳会談は、それなりに成果の多いものとなった。心配された石破首相とトランプ大統領の相性も決して悪いものではなかったようだ。日米首脳共同声明では、エネルギー分野について「米国の低廉で信頼できるエネルギー及び天然資源を解き放ち、双方に利のある形で、米国から日本への液化天然ガス輸出を増加することにより、エネルギー安全保障を強化する」ことや「先進的な小型モジュール炉及びその他の革新炉に係る技術の開発及び導入に関する協力の取組を歓迎」することが確認された。

これらは、パリ協定からの離脱を表明し、「掘って、掘って、掘りまくれ」と化石燃料の復権を目指すトランプ政権のエネルギー政策の転換を背景とするものだが、中期的にも日本のエネルギー安全保障に資する歓迎すべきものだ。たった1年前の昨年4月、バイデン政権時の当時の岸田文雄首相との日米首脳共同声明で、「日米両国は、気候危機が我々の時代の存亡に関わる挑戦であることを認識し、世界的な対応のリーダーとなる意図を有する」としたことから、180度転換している。

一昨年のわが国のGX推進戦略では、「既に欧米各国は、ロシアによるウクライナ侵略を契機として、これまでの脱炭素への取組を更に加速させ、国家を挙げて発電部門、産業部門、運輸部門、家庭部門などにおける脱炭素につながる投資を支援し、早期の脱炭素社会への移行に向けた取組を加速している」としているが、そもそもの前提がひっくり返ったのだ。


主体・自立性なき政策 GX推進は変わらず

だからといって世界のGX推進の流れは変わることはないだろう。トランプ政権下の米国でも、GXに関する新たな技術開発や産業は生まれ続けるだろう。問題は、「欧米では」などと前置詞を付けながら、主体性や自立性のないわが国のエネルギー政策のあり方だ。トランプ政権でのエネルギー政策の大転換にみられるように、どこの国でも政策の転換はあり得ることであり、気候変動問題は国際政治の中では所与の絶対的なものではない。試験問題を与えられてそれを解くことばかりしてきた日本の秀才たちは、つい気候変動問題を所与の問題として捉えがちだ。

「気候危機の世界的な対応のリーダーになる」などと優等生ぶるのではなく、少資源国としていかに現実的に中長期的なエネルギーの安定供給を実現するのか、そのためにどのような産業構造を構築していくのか、「ジャパン・ファースト」のエネルギー政策を策定する重要性を、トランプ大統領に気付かされた。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

淀川にガスセンサー工場を新設 製造拠点の分散化で有事に対応


【新コスモス電機】

「世界中のガス事故をなくす」という思いを胸に、半世紀以上にわたってガスセンサーの開発・製造を行ってきた新コスモス電機は1月、大阪市淀川区の本社エリアに、新たなガスセンサー工場となる「淀川工場」を設立した。

同工場は主に、同社製電池式ガス警報器の基盤である「MEMS(微小電子機械システム)センサ」の製造を担当。本格的に稼働が始まれば、ガスセンサーの製造能力は現行の2倍にまで高まる見込みだ。

淀川工場の外観写真

これまで、MEMSをはじめとしたガスセンサーの製造は、兵庫県三木市の「コスモスセンサセンター」(CSC)で一貫して行われてきた。CSCが稼働した2014年当初は、問題がないように思われた一拠点体制だが、近年のガス警報器の受注増加傾向や、BCP(事業継続計画)対策の重要性を実感した同社は、製造拠点の分散化に着手。第二拠点として淀川工場を新設し、有事にも供給可能な生産体制を構築した。

約30億円を投じて建設された新工場は地下1階、地上6階建てとなっており、1階は部品・製品の搬出入に関わる物流機能を備え、3~5階はガスセンサーの製造フロアとして使用される。中でも3階には、MEMSセンサの製造工程が集約されており、センサ素子形成、組み立て、通電による安定化処理や品質検査に至るまでを一気通貫で行う。製造フロアには、同社製のガス検知器や酸素濃度計が設置されており、現場従業員が安心して作業できる環境が整っている。


地域の防災力向上に貢献 グローバル展開も視野に

また、新工場は大阪市の「津波避難ビル」に指定されている。

警備員が常駐し、避難者の受け入れを24時間体制で行うことが可能。最大収容人数は154人で、3日分の物資を備蓄している。23年には大阪市淀川区との包括連携協定を締結し、その一環として同社製火災警報器「PLUSCO(プラシオ)」300台を寄贈した。これらの取り組みは、「防災能力の向上に貢献し、地域の皆様への感謝を示す」(髙橋良典社長)といった姿勢の表れと言える。

1月23日に行われた開所式で、髙橋社長は「今後、海外でのガス警報器の需要増に対応すべく、当社ではグローバル展開を推進していく。淀川工場はその軸となる」と新工場の意義を述べた。世界中の人々の安全・安心を実現する―同社の挑戦はまだまだ続く。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2025年3月号)


NEWS 01:第7次エネ基が閣議決定 パブコメは過去最多の4万件

政府は2月18日、第7次エネルギー基本計画を閣議決定した。昨年末に示された原案から大きな変更点はなかった一方、パブリックコメント(意見公募)の多さが際立った。経済産業省によると、今回の意見公募は約4万件に達し、前回の約6000件を大幅に上回った。福島第一原子力発電所の事故後で、過去最多だった第4次の約1万8000件の記録を更新し、「原発回帰」を鮮明にした今回のエネ基への国民の関心の高さを示した。

原発回帰に対する関心の高さが浮き彫りに

「エネルギー政策に対する国民の強い関心の表れ」。武藤容治経産相は同日の閣議後記者会見で、今回寄せられた意見公募についてこう見解を示した。

意見公募では、福島第一原発事故を踏まえ、有事の際の避難計画や最終処分方法が確立していない中、原発を推進すべきでないといった意見が多かった。

こうした指摘を踏まえ、原子力政策の原案から大枠自体は変更しなかったものの「原子力の安全性やバックエンドの進ちょくに関する懸念の声があることを真摯に受け止める必要がある」との文言を追加した。武藤経産相は、「懸念の声があることも事実として受け止め、不安を払しょくできるよう、なぜ原子力が必要なのかを今後も丁寧に説明していく」と強調する。

業界からは賞賛する声が多かった半面、環境派からの反発が顕著となった。こうした対立の構図はいつまで続くのか。


NEWS 02:容量市場の約定額過去最高に 制度の妥当性に疑問符も

将来の供給力を確保する手段として、果たして最適な仕組みになっているのか―。2020年度に初回オークションが実施された容量市場。1月29日には、28年度を実需給年度とする5回目のメインオークションの結果が公表されたが、同制度を巡っては、その妥当性に否定的な意見が常につきまとっている。

電力広域的運営推進機関によると、今年度の約定総容量は前年度比0・7%減の1億6621万kW。1kW当たりの約定単価は同41・8%増の1万1134円で、約定総額は同40・8%増の1兆8506億円に上り、過去最高に達した。

これにより、28年度に小売電気事業者が負担する拠出金額は1兆6935億円と試算され、26年度の7734億円、27年度の1兆1986億円からさらに増大することになる。

この結果については、「限界電源の維持管理費用の高騰を反映したものだろう」というのが電力業界関係者の大方の見方。新電力関係者も「小売事業者の多くが、単価が上がること自体は不可避だと認識している」と言い、必ずしも否定的ではない様子だ。

むしろ問題視するのは「現行制度のままでは、容量市場が需給ひっ迫を回避することに貢献しそうにない」という点だ。実際今年度は、容量市場と需給調整市場が全面開始となったにもかかわらず、夏季には、広域予備率低下に伴う供給力準備通知が発出されたり、インバランス料金が高騰したりといった事態に陥った。

前出の新電力関係者は「小売りの負担が増大しているにもかかわらず、供給力・調整力を確保できないツケを回されているような状況だけは勘弁してもらいたい」と、早急な制度設計の改善を求める。


NEWS 03:関電が新ロードマップ公表 福井県の容認は得られるか

関西電力が2月13日、福井県内の3原発に貯蔵する使用済み燃料の新たな搬出計画(ロードマップ)を公表した。県外搬出を求める杉本達治知事は2023年10月、同社が提示した旧ロードマップを容認していたが、昨年8月に青森県の六ヶ所再処理工場のしゅん工時期が延期になったことで、見直しを迫られていた。

新ロードマップの最大のポイントは、再処理工場への具体的な搬出量と時期を明示した点だ。

各電力会社からの搬出は28年度に始まる予定だが、関電は30年度までの3年間で同工場での再処理量の約6割に相当する198tの搬出を見込む。自民党のベテラン県議は「カルテル問題などで他電力との関係性が難しい中、よく交渉してくれた」と評価する。また使用済みMOX燃料の研究目的のためのフランス搬出容量枠を従来の200tから400tに増やし、各サイトでの貯蔵量が32年度をピークに減少する見通しをグラフで示した。今後、杉本知事は県議会や自治体の意見を聞いた上で認否を判断する。

本来、県外での中間貯蔵やサイト内での乾式貯蔵は核燃料サイクルの枠外で、サイクル実現までの「つなぎ」の役割に過ぎない。17日の県議会全員協議会では、再処理工場の審査のさらなる延長を懸念する声が与野党から相次いだ。

「国策のアクセルとブレーキを同時に踏んでいる状況だ」「これまでの審査では次々と新たな論点が出てきて、ゴールポストを動かされていた。しゅん工は他力本願的なのでロードマップの実効性担保には足りていないのでは」─。

現在、原子力規制委と日本原燃はこれまで以上に進ちょく状況を丁寧に管理しながら審査を進めている。「26年度中のしゅん工」に期待するほかない。


NEWS 04:地層処分巡る不適切発言 “バイアス報道”の真相

「話にならない…。政府の責任者として深くおわびを申し上げる」

高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定を巡る不適切発言問題は、石破茂首相が2月3日の衆議院予算委員会で謝罪する事態にまで発展した。

ミスリードの報道は瞬く間に広がった

事の顛末はこうだ。原子力発電環境整備機構(NUMO)が1月23日、東京都中央区で対話型全国説明会を開催。地層処分に関する説明を終えた後、参加者とNUMO職員らが九つのグループに分かれて質疑を行った。問題となったのは報道陣に公開された三つのグループのうち、経済産業省の幹部が参加した質疑だ。最も報道陣に近く、内容が聞こえやすい位置にあった。参加者からの「北方領土に建設してはどうか」との意見に対して、NUMO幹部が「一石三鳥四鳥という趣旨か」、経産省幹部が「魅力的な提案だが実現は難しい」と発言した。

しかし、現場では問題にならず、北海道新聞による第一報は5日後の28日だった。後日、同紙の記者が録音した音声を聞き直して記事化したのだという。

当初マスコミの多くは発言部分について、「一石三鳥四鳥だ」とNUMO幹部が提案に賛同しているかのように報じていた。だが、実際は「一石三鳥四鳥という趣旨ですね」と質問者に確認するための発言だった。多くのメディアが「だ」を訂正したが、原子力報道のバイアスを再認識した一件だった。