【米山隆一 立憲民主党 衆議院議員】再稼働の是非は住民投票で


よねやま・りゅういち 1967年新潟県北魚沼郡湯之谷村生まれ。灘高校、東京大学医学部卒業。医師、弁護士。4回の国政選挙落選を経て2016年、新潟県知事に就任。21年衆議院議員選挙で初当選。今年10月の衆院選では柏崎刈羽原発のお膝元である新潟4区で当選した。

医師・弁護士として活躍したが、子どもの頃から夢見た政治への道を諦められなかった。

順風満帆とは言えない政治家生活だが、論戦にめっぽう強く、存在感は際立っている。

豪雪地帯で米どころの新潟県北魚沼郡湯之谷村(現在の魚沼市)で生まれた。幼い頃から勉強が得意で、政治への関心も高かった。「冬場は往復1時間かけて通った通学路が、消雪パイプが整備されて20分で行けるようになった。政治の力はすごいと思った」

地元の小学校卒業後は、新潟大学付属長岡中学校に進学。高校は全国の名だたる進学校を複数受験したが、地方からの受験は体力的にも厳しかった。「最初に灘高校から合格通知が来たので、そこで受験をやめた」

東京大学理科三類に合格したが、ここで人生に〝迷走〟することになる。医学部に進み1992年に医師免許を取得したものの、その後は同大大学院経済学系研究科に進学。「教養学部(1・2年)時代、中曽根康弘政権のブレーンだった政治学者の佐藤誠三郎氏のゼミに参加した。そこで『政治家を目指すなら法律だけ勉強してもダメ。マクロ経済学が絶対に必要』という佐藤氏の言葉に感銘を受けた」。ところが、96年には同大学院医学系研究科に入り、再び医学の道に戻った。「地盤・看板・カバンがなく、人付き合いも得意ではなかった。政治家は半ば諦めていた」。この頃、司法試験にも合格した。

単位取得退学後は放射線医学総合研究所、ハーバード大学附属マサチューセッツ総合病院で研究員として勤務。2003年には医学博士を取得し、東大先端科学技術研究センター特任講師も務めた。

念願の政治家転身を果たしたが、順風満帆とはいかなかった。最初の選挙は05年の衆院選、いわゆる郵政選挙だった。自民党公認で新潟5区から立候補したが、無所属で立候補した田中真紀子氏に敗れた。政権交代が実現した09年の衆院選でも、直前に民主党入りした田中氏に惜敗。その後は医師・弁護士として働きながら、12年の衆院選に日本維新の会から出馬。田中氏と自民党前職の長島忠美氏の後塵を拝した。翌年の参院選にも新潟選挙区から出馬したが、当選できなかった。

政治への思いが実を結んだのは、16年の新潟県知事選だった。泉田裕彦前知事の柏崎刈羽原子力発電所の再稼働「慎重路線」を継承し、無所属で出馬。自公と連合新潟が推薦した前長岡市長の森民夫氏を破り当選を果たした。だが18年4月、〝文春砲〟による買春疑惑で辞任。わずか1年半の知事生活だった。

20年にはタレントの室井佑月さんと結婚。同年の衆院選に無所属で出馬し当選。22年には立憲民主党に入党し、今年10月の衆院選では柏崎市と刈羽村を含む新潟4区で当選した。

小売事業者の経営に直結 インバランス料金制度見直しの行方


【多事争論】話題:インバランス料金制度

電力・ガス取引監視等委員会において、インバランス料金見直しに向けた検討が始まった。

2年間の暫定期間を経て、料金水準の妥当性を疑問視する声も聞こえてくる。


〈電力小売りの事業環境を踏まえた見直しの課題と対策案〉

視点A:小鶴慎吾/エネット取締役需給本部長

小売電気事業者の視点から、インバランス料金制度の見直し議論に対する考えを述べたい。小売市場が価格競争から脱炭素時代を見据えたサービス競争へ移行する中、電力自由化の進展により電源調達環境は改善しつつあるが、系統全体の需給状況の信頼性(広域予備率など)には課題が残る。こうした事業環境を踏まえ、制度を見直す際の課題と対策案を以下の3点に絞って提示する。


現状では同時同量順守に限界 手段の多様化と流動性拡大が不可欠

1点目は、「計画値同時同量順守のための手段」に関する課題である。計画値同時同量は小売事業者が果たすべき重要な義務であるが、供給力確保と正確な計画順守を達成するためには、多様な電源調達手段の確保が不可欠である。しかし、旧一般電気事業者の卸入札において通告変更オプションがないエリアが大半である中、常時バックアップが廃止され、オプションがある場合でもその価値が低下するなどその手段が限られている現状がある。

また、リスク回避手段として期待される電力先物市場やベースロード(BL)市場についても、さらなる活性化が必要だ。先物市場では直近月や半年先の商品が売り出され、流動性が高まりつつあるが、長期商品やその流動性に課題が残っており、BL市場についてもさらなる活性化が必要だ。引き続き小売事業者が計画値同時同量を順守するための電源調達手段やリスク回避手段の多様化、流動性の拡大などの取り組みが必要である。

2点目は、補正料金算定インデックスが参照する「広域予備率」の課題である。現在、需給調整市場における調達不足の影響で、週間・翌々日時点の予備率がエリアごとに顕著に低下し、実態に即した数値にならず、シグナルとして機能していない。この状況下でC値やD値を引き上げても、新たなデマンドレスポンス(DR)を効率的かつ適切に確保できるか、仮に確保できたとしてもその機能が十分か、社会的コストを最小化できるかは不透明である。現在、資源エネルギー庁や電力広域的運営推進機関において、広域予備率の実績検証や今後の在り方が検討されている。今冬に向けた暫定対策も検討中であるが、広域予備率はインバランス料金に直結し、小売事業者、ひいては需要家の負担にもつながるため、見直しには慎重であるべきだ。広域予備率適正化に向けて恒久対策がまとまり、通年で効果が確認できてから、インバランス料金の見直しを検討すべきと考える。

【政策・制度のそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2024年12月号)


適格事業者認定制度の狙い/原発立地地域の電気料金

Q 原子力発電所が立地する地域において、どのような支援策を講じていますか。また、一般家庭や企業の電気料金はどうなっていますか。

A 原子力発電所などの施設が立地する地域には、その立地の状況に応じて「電源立地地域対策交付金」が毎年度交付されています。これは電気を大量消費する都市部で享受している利益を、電気の生産地である立地地域に還元すべきとの考えに基づき措置されているものです。

立地地域の自治体では、この交付金を活用し、道路・水道などの公共用施設の整備や、観光発信・地場産業支援などの地域活性化、医療・社会福祉施設の整備、企業誘致など、さまざまな事業に活用されています。

この交付金を活用し、自治体において実施可能な事業として、原子力発電所などの施設の立地地域の一般家庭や企業を対象として「原子力立地給付金」という事業があります。この給付金事業を実施するか否かは自治体の判断になりますが、実施する自治体においては、毎年度10月1日に小売電気事業者などから電気の供給を受けている家庭や企業を対象に、契約内容に基づいた給付金を給付しています。

また、原子力発電施設などの周辺地域における企業立地支援として「原子力発電施設等周辺地域企業立地支援事業」を実施しています。

雇用を増加させる事業所の新たな立地や設備の増設を行った企業などに対して、支払った電気料金の実績に基づき、電気料金のおおむね4割程度を約8年間にわたって補助金として交付するものです。 このような事業を通じて、原子力発電所などが立地する地域の振興や福祉の向上に取り組んでいます。

回答者:西村 陽/大阪大学大学院招聘教授


Q 原子力発電所が立地する地域において、どのような支援策を講じていますか。また、一般家庭や企業の電気料金はどうなっていますか。

A 原子力発電所などの施設が立地する地域には、その立地の状況に応じて「電源立地地域対策交付金」が毎年度交付されています。これは電気を大量消費する都市部で享受している利益を、電気の生産地である立地地域に還元すべきとの考えに基づき措置されているものです。

立地地域の自治体では、この交付金を活用し、道路・水道などの公共用施設の整備や、観光発信・地場産業支援などの地域活性化、医療・社会福祉施設の整備、企業誘致など、さまざまな事業に活用されています。

この交付金を活用し、自治体において実施可能な事業として、原子力発電所などの施設の立地地域の一般家庭や企業を対象として「原子力立地給付金」という事業があります。この給付金事業を実施するか否かは自治体の判断になりますが、実施する自治体においては、毎年度10月1日に小売電気事業者などから電気の供給を受けている家庭や企業を対象に、契約内容に基づいた給付金を給付しています。

また、原子力発電施設などの周辺地域における企業立地支援として「原子力発電施設等周辺地域企業立地支援事業」を実施しています。雇用を増加させる事業所の新たな立地や設備の増設を行った企業などに対して、支払った電気料金の実績に基づき、電気料金のおおむね4割程度を約8年間にわたって補助金として交付するものです。このような事業を通じて、原子力発電所などが立地する地域の振興や福祉の向上に取り組んでいます。

回答者:森本 要/資源エネルギー庁電力・ガス事業部電力基盤整備課電源地域整備室長

【需要家】電力需要増へ 問われる産業政策の綱さばき


【業界スクランブル/需要家】

「2030年度に約1500万kWの需要増の可能性」―。10月末に国の審議会で示された見通しだ。1月に電力広域的運営推進機関が同様の見通しを示してから9カ月で、増加幅は3倍超に拡大した。二つの数字の定義は異なると思われるが、いずれもデータセンターと半導体工場という高負荷率の大口需要の増加が主因だ。

特に増分の大半を占めるデータセンターは、大規模施設の誘致・集積が進む千葉県印西市のようなケースがある一方、同県流山市や東京都昭島市では地域合意形成でつまずくケースもみられ、慎重な見極めが必要だ。ただし、社会的必要性による導入進展は不可避であり、適正な導入を図る上でも、集積や分散化の誘導など見通しを持ちやすくする施策が待たれる。

半導体工場は、事業化確度はある程度見込める反面、量産体制の確立や景気動向に伴う生産変動、中長期的な投資の不確実性などから、電力需要面で不透明感が残る。国は、足元で、半導体分野に対して4兆円近い支援を決めてきたが、財務省の審議会では戦略的対応の必要性が指摘され、新たな支援方式の検討に着手した。産業振興に向けて多面的な措置を講じ、電力供給事業者を含むステークホルダー間のリスクや負担の分散化を図るべきだろう。

また、いずれの事業も、脱炭素化に向けて再エネや原子力の電力調達を志向すると見込まれる。その際、供給適地への需要誘導が期待される反面、発電事業の投資期間との整合や需要の不確実性をカバーする工夫、さらには、電源アクセスに係る公平性担保といった課題に目を向ける必要がある。(P)

有害廃棄物を無害な資源に再生 新たな価値付与し多様な市場拓く


【エネルギービジネスのリーダー達】坂本光代/ESSH代表

有害重金属を無害化させるセメント混和剤「Z.E.R.O」でアップサイクル事業を展開する。

成分調査から納品まで一気通貫の体制を武器に、多様な分野への参画を目指す。

さかもと・みつよ 1984年青森県生まれ。千葉工業大学工学部生命環境科学科卒業後、富士フィルター工業に入社。約12年間、セールスエンジニアとして、国内製油所・油槽所・航空・自衛隊・製鉄所などを担当。退職後、2019年3月にESSHを設立。

クロムやカドミウム、鉛などの有害重金属が含まれる産業廃棄物を新たな資源に変える―。環境ベンチャー企業のESSH(エッシュ)はこうした特許技術(申請中)を使い、廃棄物をレンガなどの建材に再生させるアップサイクル事業を展開している。2019年3月に坂本光代氏が設立した。


成分調査から納品まで 一気通貫型モデル構築

事業の要となる技術が、有害重金属を化学反応によって無害化させる機能を有する、液体状のセメント混和剤「Z.E.R.O」だ。

鉄くずや汚泥、ガラスなど多様な産業廃棄物をセメントと練り混ぜて固化させる。セメントと廃棄物を混ぜた全体量に対し、わずか約0・4%の液量しか必要としない。粉末状のセメント固化剤と異なり液体であるため、運搬や混合が容易で、全体の作業効率を向上させる。

特筆すべきは、廃棄物を燃やすことなく成形できる点だ。一般的な粉末のセメント固化剤は、対象処理物を粉砕・溶解し、成型させる必要があるが、Z.E.R.Oを添加すると、この熱処理による一連のプロセスを省略できる。燃焼時に排出されるCO2を削減できるため、業界を横断する脱炭素のキーテクノロジーになる可能性を秘める。CO2削減量は自社計算ツールで算出し、可視化する。

同社は産業廃棄物に含まれる成分の調査から薬剤の調合、納品までを一気通貫で行うビジネスモデルを構築している。多様な廃棄物に対応できる体制を整えていることが強みだ。

坂本氏は「SDGs(持続可能な開発目標)や脱炭素の動きも追い風となり当初から手応えがあった」と設立当時を振り返る。予想を上回る市場のニーズにビジネスの可能性を感じた坂本氏は、21年に技術を知財化し、事業を本格化させた。

設立時、30種類程度だった薬剤は、用途や廃棄物の種類に応じて試行錯誤を重ね、今では48種類まで増えた。今後、セメントを使わずに廃棄物とZ.E.R.Oだけで固化させる技術の研究も進めている。

設立から約5年、上下水道汚泥やガラスなどの固化で実績を積み上げた。23年には、ユアサ商事とバウハウス丸栄と協力し、眼鏡メーカー「JINS」店舗内で処理予定だったアイウェアを、リニューアルオープンする店舗内で再利用するプロジェクトに携わった。900本分のアイウェアを循環型セメントパネルに加工し、カウンターや本棚などの一部に利用した。これにより焼却処理で生じていたはずの約45‌kgのCO2を削減した。

エネルギー分野では23年を境に、太陽光、風力発電事業者からの依頼が急増した。「洋上風力のブレードは大規模で、そのまま廃棄する場合は手間がかかり、費用もかさむ。こうした観点から資材に変えたいとのニーズが増えている」と説明する。 坂本氏が環境問題に関心を持ったのは幼少期。自然豊かな青森で生まれ育ち、農園を営む親戚がいたことが影響している。


幼少期からの思いが再燃 技術を継承しビジネス化

千葉工業大学工学部卒業後、国内油槽所向けフィルターなどを手掛ける富士フィルター工業で約12年間、セールスエンジニアとして勤務。新規顧客獲得賞を2年連続受賞するなど輝かしい実績を残すものの、環境問題への思いは常に念頭にあった。

幼少期からの思いに火が付いたのは、退職後にバングラデシュに渡航した時のことだ。ごみ問題の現実を目の当たりにし、リサイクル事業に本格的に取り組もうと決意した。

具体的なビジネスモデルを模索する中、Z.E.R.Oの基となるセメント混和剤の技術を見つけた。これは、高度経済成長期に廃棄土のリサイクルを目的として日本で開発されたものだが、製品化はされていなかった。

現在、この開発者の息子で技術を継承した石田和政技術開発主幹と二人三脚で技術のブラッシュアップに取り組んでいる。

研究開発以外にも取り組みの幅を広げた。「CO2を削減した実感を持ってほしい」との思いで、同社が納品し、削減したCO2量に対し、ポイント付与させる仕組みとアプリを今年リリースした。削減したCO2100kg当たり100ポイント付与され、利用者はアプリを通じて確認できる。ポイントを使い、地元地域の商品や福祉施設利用者の製品を購入できる。環境配慮に加え、地域循環や福祉支援につなげる狙いがある。

事業が軌道に乗る中、坂本氏は二児の母としても多忙な日々を送る。「土日も仕事で大変だが、やりたかったリサイクル事業に携わることは幸せだ。両立はやればできる」と力強く語る。 取材時には目を輝かして今後の展望を語った。リサイクルを通じ新たな価値を生み出す同社の取り組みに期待がかかる。



【再エネ】陸上風力の導入停滞 規制など合理的見直しを


【業界スクランブル/再エネ】

現行のエネルギー基本計画では、陸上風力発電の2030年導入目標は洋上風力の3倍超で約18‌GWとなっている。洋上風力は再エネ海域利用法に基づき着実に案件形成が進められ、公募済容量は約5GWに達する。一方、陸上風力の導入量は約6GWにとどまり、目標の達成には約10‌GWの認定済未稼働案件の運転開始、さらに2GWの追加的案件形成が必要である。

未稼働の要因は、景観や環境影響に関する地域の懸念を踏まえた計画変更、保安林解除手続きの長期化・停滞、環境アセスの長期化とこれらによる事業性低下にある。また、追加的案件形成が伸び悩んでいる要因として、事業適地の開発規制、温対法ゾーニングと事業適地のミスマッチ、インフレや円安によるコスト増、出力制御量の増加、同一地番の活用制限などが挙げられる。

これまでも再エネ導入拡大に向け規制緩和などが進められてきたが、保安林解除のハードルは依然高く、温対法のゾーニングでも国有林や保安林、農地などへの設置を一律で禁止するケースがある。陸上風力の導入拡大には、このような開発規制エリアでも、発生する影響を回避・低減できる場合には設置を認めるなど、適切な環境保全を前提とした合理的な運用に見直すことが望まれる。また、ネガティブゾーニングだけでなく、国・自治体・事業者が連携し、現実的なポジティブゾーニングをより積極的に推進していく必要がある。

環境アセスは10年ごとに実施される法制度の見直しの検討が行われている。環境保全と地域共生を大前提としながら、陸上風力導入拡大につながる合理的な見直しとなることを期待したい。(S)

日本版シュタットベルケ目指して 僧侶が経営する新電力が事業拡大中


【事業者探訪】TERA Energy

社会に必要な活動を支えるため、僧侶が設立した新電力が順調に事業を拡大している。

市場に調整力を拠出するサービスも始めた他、神社仏閣への分散型電源普及にも一役買う。

仏教都市ならでの新電力が京都市に存在する。僧侶4人が設立した、その名もテラエナジーだ。〝ソーシャルグッド〟な活動と再生可能エネルギーの活用にこだわり、2018年の設立以降、販売量を順調に伸ばしてきた。沖縄以外の全国に供給し、低圧~特別高圧の顧客数は3300件ほど。6月の販売電力量は全国の新電力で82位(2590万kW時)だった。これほどの規模の新電力をなぜ僧侶が運営するに至ったのか―。

何足ものわらじを履く竹本代表

代表取締役の竹本了悟氏は、浄土真宗派の西照寺(奈良県葛城市)住職を務めながら、同社の経営に取り組む。広島県の寺の次男として育ち、自分の生き方を模索する中、まず自衛官を務めたが家族を犠牲にしかねない働き方などに疑問を感じて退官。大学院で哲学・仏教を学び直し、宗教者として人々の孤独に寄り添う道を歩むと決意した。

浄土真宗本願寺派の本山である西本願寺の研究職員として社会課題解決の研究に取り組みつつ、NPO法人・京都自死・自殺相談センター(Sotto)を設立。現在も同法人理事を務める。助けを求める人は多く、窓口は常時パンク状態に。社会に必要な活動を次代につなぐため、ボランティアベースでなく、安定して資金を稼ぐ方法を模索するようになった。

そんな折、シュタットベルケの存在を耳にした。「エネルギー事業の収益で地域の他の社会インフラを維持する仕組みに感銘を受けた。寄付付き電気でSottoの運営支援というアイデアを思いついた」(竹本氏)


寄付付き再エネ由来を提供 適正価格にこだわり

竹本氏は起業を一念発起し、志を共有した他の僧侶3人とともに企業経営、そして電力事業を一から勉強した。顧客情報管理システム(CIS)は当初外部の利用を検討したが、費用の高さに悩んでいたところ、米国勤務を経て帰国した市内のシステムエンジニアから「ニュースを見て活動を応援したい」との連絡が。結局、彼が独自でシステムを構築してみせた。受給管理についてはみんな電力(現アップデーター)のシステムを、料金を抑えてもらい利用。そして同社のサポートを受けつつ、バランシンググループ(BG)も独自で運用し事業開始にこぎつけた。その後インバランスリスクの高まりを感じ、2年前からは同社のBGを活用する。

神社仏閣への分散型設備導入が進む(壬生寺)

料金の特徴は、まず寄付付きであること。料金に上乗せせず、同社の純利益から105団体に寄付し、顧客に「この団体を応援したい」と思ってもらうことを目指す。例えば22年4月からの1年間で、売上高18億円のうち2300万円を寄付した。

また、再エネ由来を志向し、電源構成の8割をFIT(固定価格買い取り)が占め、非化石証書付きのオプションもある。従量料金も基本料金もできるだけシンプルな構成とし、顧客への分かりやすさを重視する。

さらなるこだわりが適正価格販売だ。市場価格が安い時期に固定価格で利ザヤを稼ぐモデルが一般的だったが、同社は市場連動1本で勝負。「インフラ事業は誠実であるべきで、固定価格でもうけ過ぎることを避けたかった」(同)ためだ。現在は、21年初頭の市場価格スパイクの経験からニーズが高まった固定価格プランも用意する。

こうした戦略で3年前の市場価格高騰時も赤字を回避。多くの他電力が高圧以上への供給を停止する中、これらの顧客を積極的に取りに行き、同社の市場連動の顧客離脱も1~2割で済んだ。「手数料を抑え、長いスパンで見れば今でも市場連動の方が顧客にメリットがあると思っている。中長期の視点で腹を据えた戦略が重要だ」(同)。なお、24年度決算(25年6月期)では売上高80億円を見込む。

【火力】応札ゼロが証明 予備電源制度の現場軽視


【業界スクランブル/火力】

今年もはや師走である。緊迫する国際情勢や長引く残暑などの影響はあったものの、幸いなことに著しい電力不足や卸価格の高騰などは起こらなかった。しかし、表面的に平穏であっても、水面下での供給力不足はのっぴきならない状況となっている。

背景をみると、再生可能エネルギー比率の増加や脱炭素の取り組み、デジタル化の進展による需要増などの要因が絡み合っているが、電力システム改革で整備を進める市場制度が思惑通り機能していないことによる影響も無視できない。予備電源制度もその一つで、9月30日を期限に東西で100万kWずつ募集したものの、発電事業者からの応札はゼロだった。

予備電源は、想定を超える需給ひっ迫時に休止中の電源を再稼働させ、供給力不足を補うという仕組み。主に経年火力が対象で、休止している間は手間とコストを極力かけないようにするが、再稼働時には適切な設備の点検と修繕が必須となる。その際、停止中の状況や経年化の影響で思わぬ不具合に見舞われることも多く、再稼働に係る費用を事前に正確に把握することは極めて難しい。

予備電源の募集要項によると、事前に提出された想定立ち上げコストを上回らないことを確認するとされている。これでは発電事業者にリスクがのしかかるばかりで、こんな制度に応札できないのは当然の結果だったのである。

遅ればせながら事業者へのアンケートを始めたようだが、このことは現場の実情を理解しないで制度をつくったことを示している。火力発電への配慮が足りない市場制度が、供給力不足を引き起こしているのである。(N)

エネルギー伝道者として 国の将来見据えた選択訴える


【リレーコラム】関口美奈/リゾナンシア代表

バブル崩壊後、不良債権売却が始まる直前に米国から帰国した私は、いきなり日本経済の怒涛の波に放りこまれた。アーサー・アンダーセン(現KPMG)というコンサル会社の米ダラスから東京に転籍直後、不良債権の買い手が外資ファンドであったため、英語要員として不良債権売却支援チームにアサインされた。日本の会計規則も知らなかった私に、時価評価の不良債権評価はありがたかったが、今ではあり得ない残業や休日返上が続いた。

ほどなくしてエネルギーに出会う機会がやってきた。バブル期の不動産投資で財政危機に陥った商社の風力発電事業に関するM&A案件に携わったのだ。その頃は再生可能エネルギーに関する世間の認知は低く、事業価値を正しく認識できる買い手も多くはなかった。

当該事業は、2000年に東京電力が買収し、社名をユーラスエナジーと変更した。が、11年の東日本大震災による原子力発電所事故で資金を要した同社は、持ち分の半分を豊田通商に譲渡。その後豊田通商は徐々に持ち分を増やし、22年完全子会社化した。ユーラスは今では日本有数の再エネ電力事業者だ。


自由化を機に国内ニーズ生じる

08年、リーマンショック後に投資家は変動幅が大きい株式市場を敬遠、行き場を失った資金が余っていた。そんな投資家に、欧州で始まった再エネブームへの意欲を探ったところ、長期安定かつ将来的な香り漂う再エネに強い関心が示された。グローバルネットワークを活用し、海外の再エネ投資に力を入れた。そんな頃に震災が起き、自由化に向かう国内市場に新たなコンサルニーズが生まれたことをきっかけに、KPMG社内でエネルギーセクター事業を立ち上げ、セクター統括責任者を10年超務めた後、独立した。私自身は、エネルギーについて専門的に勉強したことはない。エネルギーの知識は全て業務を通じて学んだ。そんな私がいまだにエネルギーに携わり価値創出ができるのかと自問する。

エネルギー・電力は生活に不可欠であるが、あまり深く理解されていない。政治に任せればどうにかしてくれるのだろうか。多く人々に自分達の使うエネルギー・電力をもう少しだけ知り、この国の将来に向けて今何を選択すべきか考えてほしいという思いが募る。エネルギー貧国に暮らし、いくつかの悲劇を経験した私達が客観的、合理的にこの問題と向き合うことは、それ自体が大きな試練かもしれない。

深い知見を有する専門家が多い中、必ずしも専門家でない私は、エネルギー・エバンジェリストとして業界の来し方行く末を俯瞰し、感情的でないストーリーを語っていきたい。

せきぐち・みな 大学卒業後、テキサス州立アーリントン校大学院でMBAを取得。2012年から現KPMG Japanおよび同アジア・パシフィック地域でエネルギー・インフラストラクチャー統括責任者。22年、リゾナンシアを設立した。

次回は、マトリクスKの近藤寛子代表です。

【原子力】原子力の必要性は明白 関係者は政局の心配無用


【業界スクランブル/原子力】

先の総選挙では原子力への理解者を多数失った。自民党への不信感が強い中、新総裁誕生の雰囲気を利用して政策論争に時間をかけず選挙に打って出る作戦は、政党支部への2000万円支給問題で功を奏さず、与党全体が国民の厳しい判定を受ける失策となった。この結果を受けて、エネルギー政策への影響を心配する向きもあろう。

しかしロシアのウクライナ侵略と北朝鮮の参戦から抑止力としての安全保障政策はもとより、戦地から遠い国でもエネルギーと食料供給の確保、ひいては経済全体に悪影響を被っている現状からエネルギー政策の重要性は国民に理解されている。またカーボンニュートラルを目指す政策も、欧州が国境炭素税で脅している以上、無視できない。原子力エネルギーの必要性は火を見るより明らかである。

万が一、政権交代が起ころうとも、日本維新の会も国民民主党も原子力活用に賛成だし、立憲民主党の野田佳彦代表は福島事故から約1年後に大飯3、4号機の再稼働を容認した実績がある。再稼働を実現できたのは電力会社が迅速に緊急安全対策をとったからであり、現在は新規制基準により原発の安全性は一段と向上している。従って、どんな政権でも原子力積極活用の方向に変わりはないだろう。原子力関係者は心配せずに前を向いて仕事に励むべきだ。

一方、経産省のエネルギー政策当局は第7次エネ基の素案をいつ発表するか慎重に見極めようとしているはずで、問題は閣議決定に臨む総理である。難しい政局対応に忙殺される石破茂首相に、いまだきちんとしたエネルギー政策のレクができていないとすれば心配である。(H)

【シン・メディア放談】電気・ガス補助事業で不祥事 同情するが復活だけはもう勘弁


〈業界人編〉電力・石油・ガス

エネルギー補助金は市場機能をゆがめただけでなく、
透明性の面でも問題があった。

─資源エネルギー庁が電気・ガス料金への補助金を巡って、不十分な審査で業務委託の承認をしていたことが会計検査院の調査で分かった。

ガス 事務局業務は広告代理店大手の博報堂が319億円で受けた。同社はその約7割で子会社に委託、子会社はさらに約8割で別会社に再委託。委託率が5割を超える場合は理由を書類で説明する必要があるが、博報堂の提出書類に理由の記載はなし。エネ庁にもこれらの委託を承認した記録がなかった。

電力 博報堂にほぼ丸投げだったのだろう。電気・ガス補助金はスピード勝負だった。どれくらいの手間がかかるのかは分からないが、料金の引き落とし期日は決まっている。本来であれば役人が一連の流れをある程度把握しておくべきだが、気を遣う余裕もないのだろう。

石油 補助金の業務委託といえば、かつては納税義務のない公益法人(外郭団体)が担っていた。そして団体の専務理事の多くは天下り。世間の目が厳しくなり外郭団体への委託は減ったが、代わりに請け負うようになったのが広告代理店だ。


電通の次は博報堂 事務作業に事業者も疲弊

電力 今回の不祥事を聞いて思い出したのが、新型コロナ禍での持続化給付金。電通やパソナが設立した社団法人に支払われた業務手数料が多すぎると騒がれた。社団法人が電通に95%で再委託していて、下請けは最大9次まであった。驚いた人も多かっただろう。

ガス 今回はそこまでの大騒動にはなっていないが、大きい額を請け負っているわけだし、電通の次は博報堂で「やっぱりね」という感じだ。

電力 電通の時もスピード重視だったからね。今回と同じように問題が起こりやすい環境だった。行政改革で官僚の数が減ったし、1人の役人がカバーする範囲が大きすぎる。補助金制度を活用する以上、こうした問題がなくなることはない。スピードを求められているなら、なおさらだ。

電力 受託業者の事務作業も大変だろうが、電力・ガス会社の苦労も相当なものだ。例えば電気料金の請求書に「値引き額」を掲載する欄がない。こうしたシステム上の不備について、コストをかけて見直すのか。それとも「激変緩和」というだけに、一時的な措置にとどめるのか。細かい事務作業にみんな疲弊していたよ。

ガス LPガスは自治体を通じての補助金だったが、担当者は「もう二度とやりたくない」と言っていた。一方、ガソリンなどの燃料油補助金は直接補助。エネ庁が30社くらいの元売りと輸入業者に補助金を投入している。事務手続きは楽だし、エネ庁の担当官が担当すると計算もラフ。電気・ガスのように間接補助で業者に任せると細かくチェックされる。

石油 業界団体で補助金業務を担当したが、本当にややこしい。手慣れた人でないと作業が滞ってしまう。それに会計検査院の検査は厳しい。検査院の聴聞室に通ったが、いろいろと事細かに聞かれて疲れた。逆に言えば、よく働いている。

【石油】日米の民意は生活重視 環境政策は後退か


【業界スクランブル/石油】

日本では衆院選で自民党が少数与党に転落し、米国では大統領選で勝利したトランプ氏の復帰が決まった。この結果は賃金や雇用を問題視するなど生活を大切にする有権者の民意の表れだろう。

また選挙で環境政策が聞こえなくなり、欧州では緑の党の後退が目立つ。環境重視が「票」にならない時代が来た。

国内では、環境政策に逆行した燃料油補助金やガソリン税の「トリガー条項」について議論する機運も高まり、EV化の議論はどこかに行った。やはり国民が、現在の脱炭素政策は高くつく、物価が上がる、エネルギー転換で賃金・雇用が減るという事実に気が付いたのだろう。

米大統領選で民主党候補のハリス氏が近代石油産業誕生の地で知られる激戦州のペンシルベニアで、シェールオイル・ガス生産の中核技術「水圧破砕法」を禁止するつもりはないと明言した。水質汚濁の懸念や石油・ガスの増産につながる同技術の禁止を主張していたが、その主張が一転。トランプ陣営は、左派・環境派であったハリス氏の過去の発言との矛盾を指摘した。

この点についてバイデン氏は当時の大統領選で沈黙し、ペンシルベニア州を制した。シェール技術は米国を最大産油国に押し上げてコストを下げ、国際競争力の向上や国際収支の改善につながった。

トランプ氏は、石油・ガスの増産を主張するが、今後のエネルギー政策は不透明で、原油価格には下降要因も上昇要因もある。当初、「パリ協定」の再脱退を掲げ、EV推進に反対していたが、起業家イーロン・マスク氏の応援を受けてからは発言しなくなった。とにかく、予測不能な要素が増えている。(H)

【ガス】液石法省令改正から半年 競争の舞台は戸建てに


【業界スクランブル/ガス】

7月2日に「過大な営業行為の制限」などに関する液石法改正省令が施行され、半年ほど経過した。これまで賃貸集合住宅について駆け込み営業による切り替えの声が盛んに聞こえ、経済産業省の通報フォームにもこれらの案件が殺到した。一方、施行後の競争は戸建てにシフトし、いわゆる紹介斡旋業者(ブローカー)の旧態依然な営業手法が展開されているようだ。

関東の事業者によると、戸建て住宅の切り替えで暗躍しているのが「正規代理店」と呼ばれるブローカーだ。最近は新聞勧誘業を母体とする保安を知らない事業者が、以前の新聞勧誘のごとく委任状にはんこを求め、エリアを決め集中的に切替えを行っている。勧誘に使われるのが、安価な販売価格、菓子折り、商品券などで、その額はまちまち。昔、洗剤や野球のチケットなどで新聞を勧誘していたのと同様だ。しかし、明確な断りを入れても2、3回は訪問し、長時間の居座りも常態化。これらは特商法違反と言えるだろう。切り替えなかった場合も、無理やり景品を置いていくというからタチが悪い。

激戦区では「突然訪問してきたガス会社を名乗る者から、断ってもしつこく勧誘を続けてくるといったトラブルの相談が寄せられている」と警察が注意喚起する。経産省は「利益供与行為については過大なものかどうかにかかわらず一切行わない方向で取り組むこと」と方向性を示すが、競争の範囲内としてイタチごっこになってしまうのか―。

経産省が通報フォームを立ち上げて12月で1年が経つ。一定の抑止力にはなっているが、ズルをする人が得をしないよう、毅然とした対応を望みたい。(F)

EVとBESSで中国勢攻勢 テスラとの競争激化


【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題

トランプ前大統領が再選し、世界が新政権発足に向けた動きに注目している。中でも、私財を投入し献身的に選挙運動に貢献したテスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)はトランプ氏の再選直後、ウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談に同席し、その言動と影響力に世界の関心が寄せられている。

マスク氏は11月、ドイツ連立政権崩壊に際し、ドイツのショルツ首相に「愚か者」と暴言を吐いた。止まらない激情ぶりは、3月の環境保護運動過激集団の放火によるテスラのドイツ工場閉鎖などが背景にあると考えられる。今後、米国の対中国貿易政策が注目されるが、ここでは、その背景となるマスク氏率いるテスラと中国製品との競合関係について整理したい。

中国のEVメーカーは2021年にBYDや上海汽車が世界のEV販売トップ10に入り、テスラに脅威を与えた。1位のテスラは上海ギガファクトリーなどで価格の低下を図り、販売を増加させたが、23年にはBYDがテスラに迫る勢いで成長し、販売台数はテスラの181万台に次ぐ約157万台に達した。BYDは低コストのリチウム鉄リン酸塩(LFP)電池技術を強みに、欧州、ラテンアメリカ、アジア市場への輸出が好調だ。25年3月には、中国スマートフォン大手のシャオミが新規参入し、ポルシェのタイカンに対抗する1700万円の高級EVを発売すると発表。テスラとの競合が予想される。

中国のEV躍進の背景には政府の政策がある。中国政府は、消費者には購入補助や免税といった金銭的インセンティブを与える一方、完成車メーカーや自動車の輸入事業者に対しては、新エネルギー車を作らなければガソリン車の輸出や生産ができないという規制を設けた。結果として、新エネルギー車(その8割はEV)の国内販売台数は年々増え続けた。

ここを米政府がたたく。今年5月、中国からの輸入EVに対する制裁関税を25%から4倍の100%に引き上げた。さらに、この競争はEVにとどまらずエネルギー貯蔵システム(BESS)にも広がっている。BESS製品は、太陽光や風力発電からの余剰電力を蓄電し、需要が高まる時間帯に放電する。今後拡大する再生可能エネルギー市場に極めて重要なインフラだ。

テスラは「パワーウォール」などのBESS製品を提供し、23年、北米を中心に世界市場の15%とトップシェアを保持している。一方で、中国企業は世界シェアのトップ10社のうち6社を占め、その存在が際立つ。特に中国のサングロウは低コスト製品を武器に北米市場でテスラと競合を深めている。EVバッテリー大手のCATLやBYDも米国市場への参入を進めている。

テスラと中国企業との競争は今後の激化が予想される。激しい人格のマスク氏は、米政府の対中国政策に大きな影響を与えるものと考えられる。

(平田竹男/早稲田大学大学院スポーツ科学研究科教授、早稲田大学資源戦略研究所所長)

中国が誇張する「電力新幹線」


【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

英BBCが11月16日、中国の超高圧送電(UHV)の現状を紹介した。「電力の新幹線」と同国は誇る。高圧なので同じ電力なら電流は小さく熱損失を抑えながら効率的に遠くへ送電できる。総延長は4万8000kmと地球の円周を超え、需要の多い東部の都市などに西部から電力を届ける。

近年は、西部砂漠地帯から太陽光、風力発電の電力を送る意義を政府が強調しており、広い国土を生かして大規模なクリーンエネルギー利用を実現する最先端の送電網と喧伝する。さらに、この技術で世界規模の電力網を中国主導で構築する野望を抱き、国連などで各国に参加を呼びかけている。記事中に言及はないが、日本は最大の標的となっており、送電網連系による影響力拡大、供給力支配の意図が以前から指摘されてきた。

ただ運用の実態は怪しいらしい。UHVで送電される太陽光と風力は発電量が安定しないため3割に達しておらず、政府は水力で水増しして再生可能エネルギーは5割以上と発表している。それでも残る空きは石炭火力発電で穴埋めしており、クリーンな送電網かどうかが疑われる。そうでもしないと、UHV整備に投じてきた1.6兆元(32兆円)の資金を回収できないという。

長距離送電網ならではの課題もある。例えば四川省の水力発電所の多くはUHV向けに建設されたため地域の電力網に接続されていない。同省は今夏、電力不足に陥ったが、こうした水力の電力は東部に送られてしまった。加えて、大規模な送電網は一部が故障すれば大停電のリスクがあるとの米国の専門家の懸念も紹介されている。

記事は、多くの研究者がUHV技術は環境問題の唯一の解ではないと考えていると指摘する。中国の野望達成はそう容易ではない。

(井川 陽次郎/工房YOIKA代表)