【マーケット情報/1月28日】原油続伸、需給さらに引き締まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続伸。政情悪化を背景とした供給不安が一段と強まり、需給が引き締まった。

ロシアのウクライナ侵攻の可能性が高まっている。これにより、米国がロシアに経済制裁を加え、ロシア産原油の供給が滞るとの懸念がさらに強まった。また、中東勢は減少したロシア産の供給をカバーしきれないとの予測が台頭。サウジアラビア、クウェイト、イラクは既に、2022年のターム契約に基づく供給量を定めており、調整が困難とみられている。加えて、アラブ首長国連邦は、武装勢力フーシのミサイル攻撃を迎撃したと発表。同国は17日にも、フーシによるミサイル攻撃を受けており、中東情勢が一段と緊迫化する見通しだ。

供給不安が広がるなか、世界各国で引き続き、新型コロナウイルス感染防止の規制緩和が進んでいる。需要回復の見込みで、需給逼迫観がさらに強まった。

【1月28日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=86.82ドル(前週比1.68ドル高)、ブレント先物(ICE)=90.03ドル(前週比2.14ドル高)、オマーン先物(DME)=87.42ドル(前週比2.19ドル高)、ドバイ現物(Argus)=87.80ドル(前週比2.55ドル高)

【省エネ】コージェネの貢献 バイオマスで増大


【業界スクランブル/省エネ】

 コージェネの国内累積導入量は1330万kWを超えており、日本の省エネルギーに大きく貢献している。エネルギー使用合理化の判断基準に、「年間を総合して廃熱及び電力の十分な利用が可能であることを確認し、適正な種類及び規模のコージェネレーション設備の設置を行うこと」と示されている通り、中間期における空調熱需要の減少影響が少ない産業用途の方が高い年間総合効率実績を達成しやすく、大型機器の導入も多いため累積導入容量も産業用の方が多い。

また、近年はCO2削減や再エネ発電連携も重要視されており、デンマークのオーデンセにある3万5000kWのコージェネはバイオマス利用によりCO2排出ゼロで、デンマークに多い風力発電の出力変動に対応するために、毎分8%の電力出力変動を実現するシステムを構築している。RE100テクニカルクライテリアの更新に伴いFAQが8月に更新されたが、不明確だったコージェネ電力の扱いが明確になった。コージェネ電力をグリーン化するには「燃料をバイオマスガスなどに切り替える」か、「同一ガスネットワーク内のグリーンガス証書を燃料使用に適用」が必要とされ、「海外の森林証書などを用いたカーボンニュートラルLNG購入」や「グリーン電力証書購入」ではRE100適用外となった。さらに、敷地内コージェネの所有をエネルギーサービス事業者などに所有させたとしても、化石燃料使用コージェネという選択が「100%再生可能エネルギーを目指すRE100」としてサポートできる戦略ではないと明言している。

コージェネの重要な役割として、BCP対策もあるが、非常用発電としての化石燃料使用はRE100も許容していることから、「バイオマスコージェネ(同一系内のバイオマス証書利用も含む)」「グリーン水素コージェネ」「オンサイトPV+蓄電池」「石油貯蔵もしくはガス導管接続の非常用発電機」が脱炭素社会に拡大すべきBCP対策となるだろう。よって、今後は日本でもバイオマスコージェネをいかに拡大させるかが重要課題となる。(M)

【住宅】脱炭素化が加速 課題はコスト


【業界スクランブル/住宅】

 住宅業界における脱炭素化に向けた動きが加速している。2021年8月にカーボンニュートラルの実現に向けた「住宅の省エネ対策のあり方に関する具体的ロードマップ」が示された。このロードマップ実現の軸は「省エネルギーの徹底」と「再生可能エネルギーの導入拡大」だ。具体的な30年に目指すべき住宅・建築物の姿として「新築される住宅・建築物についてはZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能を確保」「新築戸建て住宅の6割において太陽光発電設備を導入」、50年に目指すべき姿として「ストック平均でZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能を確保」「導入が合理的な住宅・建築物における太陽光発電設備などの再生可能エネルギー導入が一般的となる」とした。

国の方針が決まったことを受け、今後実現に向けた取り組みを進めていかなければならない。消費者の認知や住宅会社の技術力も課題には挙げられているが、一番の課題はコストだ。14年に国が掲げたエネルギー基本計画では「住宅について20 年までにハウスメーカーなどが新築する注文戸建住宅の半数以上でZEHの実現を目指す」としていたが、19年時点でまだ約20%という低い数字となっている。なぜか。そもそも住まいは高額商品であること、断熱性能の高い家に住みたい、と考える人はいても、実際に買おうと考える人はそのコストの高さから他の希望と比較し、結果、断熱性能以外の部分に費用をかけることが多い。また、近年ではコロナ禍で消費者の賃金は上がらず、住宅会社においては、各種建材の価格高騰を受け、商品価格にコストアップ分を転嫁し始めている。

しかし、断熱性能の高い住まいの住民を対象にしたあるアンケートでは、入居後に「光熱費の安さ」「断熱性能の高さ(夏冬の快適性)」が入居前に感じていたメリットを上回る結果が出ている。リアルな体験をすることで住まいに対する満足度が向上しているのだ。住宅会社は省エネ住宅に住まうべきメリットをさまざまな形でお客さまに伝え、住まい手のコストに対する意識を変えないことには普及は進まない。(Z)

【太陽光】地域との共創 求められる電源へ


【業界スクランブル/太陽光】

 2021年10月に第六次エネルギー基本計画が閣議決定され、30年のエネルギーミックスにおいて、太陽光発電は現時点の導入量からほぼ倍増を目指すことになった。国全体で太陽光発電を導入促進するさまざまな補助金などの仕組みが出来ているが、目標達成には、土地・系統の制約、コストなどの課題も多い。

一方、太陽光発電は、適切な設計、運営管理ができていない発電所も一定数存在し、アレイの支持物強度が不足し強風などで壊れそうな発電所、適切な排水計画になっておらず保守管理を行っていないことで雨水などの影響により、土砂が発電所の外に流出している発電所、またフェンスや標識がないなどのルールを守っていない発電所もある。そのような発電所は見た目からも地域住民に不安を与え、迷惑をかける可能性があることから、太陽光発電をネガティブに感じている人もおり、受け入れられていないケースも散見される。

そうした中、経済産業省の審議会では、太陽光発電設備の10~50kWを新たに「小規模事業用電気工作物」と位置づけ、技術基準の維持義務、基礎情報の届出、使用前自己確認制度の導入等の保安規律適正化のために規制を強化する方向で議論が進んでいる。50~500kWも使用前自己確認制度が新たに導入される方向だ。発電事業者や事務処理を行う方にとって手続きが煩雑になるが、今後安全・安心な太陽光発電を導入促進していく意味で効果のある施策だと考える。

太陽光発電は、地産地消が可能で災害時には地域で活用できる電源であり、本来は「地域に求められ共に創るエネルギー」であると考える。法令などのルールを守りながら適切に設計・施工し保守管理を行うと、太陽光発電はFITの20年間だけでなく、それ以上の長い期間発電し続け、温室効果ガス削減だけでなく地域共創エネルギーとして地域に貢献することができる。発電事業者、設計・施工者などにはこのようなことを改めて認識してもらい、太陽光発電設備を法令などに基づきしっかりと造っていただいて、適切に維持管理・運営してもらいたい。(T)

【コラム/1月26日】洋上風力発電の入札結果


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

経済産業省と国土交通省は、昨年12月24日、着床式洋上風力発電の整備促進区域である「秋田県能代市・三種町・男鹿市沖」、「秋田県由利本荘市沖」および「千葉県銚子市沖」におけるFIT(Feed- in Tariff)価格の入札結果を発表したが、共同事業体「秋田能代・三種・男鹿オフショアウィンド」(三菱商事連合)がすべての地域を総取りしたことが注目を浴びた。同共同事業体は、「秋田県能代市・三種町・男鹿市沖」、で13.26円/kWh 、「秋田県由利本荘市沖」で11.99円/kWh、 「千葉県銚子市沖」で16.49円/kWhの価格を提示し落札したが、これは市場破壊レベルの価格をして受け取られている。確かに、入札上限価格の29円/kWh、2021年度の着床式洋上風力発電の固定価格買取制度価格の32円/kWhと比べると約半値またはそれ以下であり、急速に価格が低下している。業界は今後、さらに価格が一気に下がっていくのか戦々恐々としているとのことである。このニュースを聞いて思い出したのは、ドイツでの洋上風力発電の入札結果である。

同国では、再生可能エネルギー電源の増大は低炭素化に貢献しているとの評価があるものの、ますます膨大となっている再生可能エネルギー電源の支援コストが問題となっていた。そのため、支援コストの抑制のために、2017年から、FIP(Feed-in Premium)制度から再生可能エネルギー電力の販売に際して事業者に支払われるプレミアムを入札で決める制度に移行することになった。連邦ネットワーク規制庁(BNetzA)は、2017年4月13日に、ドイツの北海地区での洋上風力事業の第1回入札(上限1550MW)の結果を発表したが、落札した4件のうち3件はプレミアム0での落札であった(プレミアム0で落札した事業者は、Dong EnergyとEnBW)。また、落札価格の加重平均は、0.44セント/kWhであった。このニュースを、電力関係者は大きな驚きをもって受け止めた。当時、洋上風力発電事業者の入札上限は、12セント/kWhだったからである。その後、洋上風力発電に関する第2回の入札結果が、2018年4月27日に、また第3回の入札結果が2021年9月9日に発表されたが、最低落札価格はやはり0であった。第3回の入札では、複数の入札者が0オファーを出したため、くじびきで落札者を決めるという珍事が起きた。

事業者がプレミアム0で入札する理由を、第1回の入札例でみると、まず、プロジェクトの開始時期である2024~ 2025年までに、発電機の一層の大型化(13~15MW)が可能となり、発電機の設置個所の減少と1基当たりの発電量の増大により、建設・運営のコスト低減が見込まれることが挙げられる。次に、今後建設される発電機を既存発電機とともに集中的に配置させることで、運営コストの低減が見込まれることが指摘できる。さらに、規制当局は、発電機の寿命を25年から30年に延長することを認めたこともプレミアム0での入札を可能にした理由として挙げられる。

しかし、これらの理由があったとしても、プレミアム0で落札したプロジェクトが実際にペイするかどうか分からない。そのため、資金調達コストが増大し、投資の不確実性が増すという指摘もある。0入札の拡大に危機感をもつ洋上風力発電事業者協会(BWO)は、資金調達コストを低減し、プロジェクト実施の確実性を担保するために、英国型の差額決済取引型固定価格買取制度(Contract for Difference Feed- in Tariff: CfD FIT)の適用を望んでいる。類似の制度は、デンマーク、イタリア、フランスでも採用されている。入札制度を巡る紆余曲折は今後もありそうだが、せっかく芽生えた洋上風力発電の完全自立への道を遅らせることはあってはならいだろう。

注目しなくてはならないのは、ドイツでは、再生可能エネルギー電源の開発リスクを、事業者が積極的にとる例が増えているという事実である。その背景には、ますます多くの事業者は、エネルギー転換はリスクよりもチャンスのほうが大きいと考えていることが指摘できる。そして、その経営マインドの変化には競争入札の導入が関係している。「リスクを取らずんば、リターンは得ず」。これはビジネス界の常識である。わが国の再生可能エネルギー業界でも、この常識がいち早く定着化するとともに、再生可能エネルギー支援のための国民負担が大幅に低減することが望まれる。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【メディア放談】2022年のエネルギー報道 グリーンインフレーションに備えよ


<出席者>電力・石油・ガス・マスコミ/4名

2021年は、エネルギー・環境政策がクローズアップされた年だった。

今年は、脱炭素化の影響によるエネルギー価格の上昇に注意が必要になる。

 ――まず2021年のエネルギー・環境報道を振り返ってもらいたい。

電力 20年12月に菅義偉首相が50年カーボンニュートラルを宣言した。それから始まって、21年の4月には30年にCO2排出を46%削減すると言明する。ちょうど、エネルギー基本計画の改定の時期で、昨年はひさびさにエネルギー・環境問題が大きく取り上げられた年だった。

 その中でどういう報道がなされていたか。まず、産業界が期待する日経は小泉進次郎前環境相が「いまや脱炭素新聞ですね」というほど、小泉氏の肩を持つ報道が目立った。

――エネ基の改定では、自民党内に原発の位置付けを明確にしたい動きがあった。

ガス エネ基の議論は政治主導で動いていた。コロナ対応もあって、菅さんはエネルギー政策にあまり関心を示さなかった。それで、再エネしか眼中にない閣内の「KK」、河野太郎氏と小泉氏が好き勝手にできた。それに対して、自民党内に強い反発が起きた。

エネ政策が政治主導に 出色だった産経報道

――そういう動向がなかなか伝わってこなかった。

ガス エネルギー問題は、本来は経産省に詰める経済部の記者が追うネタだ。ところが21年は、政治家の思惑が交錯しながら、政治主導で物事が進んでいった。そうなると、政治部の記者の出番となる。

 政治記者が与党のキーパーソンを取材して、何が起きているのかを正しく伝えたのは唯一、産経だけだった。

マスコミ 確かに産経の報道は出色だった。エネルギー政策は、本来は日経が詳しく伝えなければならない。ところが、編集方針が再エネ推進の内容に大きく傾いたこともあって、経産省は日経に不信をいだいていた。それもあって、産経が完全に日経のお株を奪ってしまった。

電力 自民総裁選では核燃料サイクルの是非も話題になった。21年、エネルギー議論が盛り上がったことはよかったと思う。

石油 年末には、COP26があって、原油高の中、OPECプラスの対応も注目された。それらの記事を見てつくづく思ったのは、日本のマスコミの報道が薄っぺらいこと。やはりロイターやブルームバーグなど、海外の通信会社にかなわない。

 COP26の記事も、日本メディアの報道は表面的なものばかりだった。ところがニューズウィーク誌のSNSを見ると、先進国と途上国がいかに対立したが、手に取るように分かった。一般の人はともかく、海外情報が必要な業界人にとっては、もう日本のメディアは必要ないんじゃないか。

――新聞離れが激しくなっていると思う。各紙は電子版に力を入れている。

石油 日経テレコンの一人勝ちだ。ただ、記事をプリントアウトしていくと、ばかみたいな金額になるから、利用するのは企業に限られてしまう。

 個人で使うとなると、やはり日経電子版。市況やフィナンシャルタイムズの翻訳も読める。読売は新聞をとっていれば無料。毎日は独自ネタの面白い記事がある。ただ、月1000円が割に合うかは疑問。朝日は、どういう基準で画面を構成しているのかよく分からない。とてもお勧めできない。

価格上昇の三つの要素 避けられない国民負担増

――原油、天然ガス、石炭の値段が上がっている。脱炭素化の動きと無関係ではなさそうだ。

マスコミ 産経などが「グリーンインフレーション」という言葉を使い始めている。

――どういう意味?

石油 脱炭素化によって三つ要素での価格が上昇していくことだ。①急に脱炭素化を進めることで、化石燃料の需給バランスが崩れて起こるもの、②脱炭素化にかかる巨費の製品への価格転嫁によるもの、③炭素税導入によるもの―の三つだ。

 おそらく、これから深刻な問題になっていく。本来ならばマスコミが詳しく取り上げるべきだが、紙面を割く新聞はほとんどない。

マスコミ 朝日が代表格だが、再エネが拡大すれば新産業が興り雇用が増えて経済は成長する、さらに燃料費が掛からないから電気代もいずれ下がる、とする論調がある。もう、そんな夢物語を語るのはいい加減にしてほしい。

 脱炭素化は、確実に国民にとっては負担増になる。まして原発依存低減を進める限り、負担はより増していく。政治もマスコミも、そこから逃げないでほしい。

――今年のエネルギー政策とマスコミ報道にはどんな期待が。 

ガス クリーンエネルギー戦略を打ち出した岸田文雄首相が、「クリーンの意味は」と聞かれて、「現実的なエネルギー転換」と答えている。

 今まで、エネルギー政策は供給サイドの話ばかりだった。それが需要サイド、中でも電化が困難なところでの熱の効率利用を考え始めるのかな、と思った。それと原子力だ。もっとも、夏の参院選前に原子力について言及するのは難しいかもしれない。

電力 21年、新聞で「おや」と思ったのは、6月の毎日の「公害化する太陽光発電」の記事。エネルギーフォーラムならともかく、毎日でもこういう記事が載るようになった。もともと、毎日の調査報道は評価していた。今までの論説などに捉われないで、もっとどんどんと記者が自由な視点で記事を書いていくと、かなり面白い紙面になるかもしれない。

――毎日は経営がかなり厳しいと聞く。その分、自由に記事を書かせているのかもしれない。日経を購読しているけれど、毎日に代えようかな。

【再エネ】ミックスの壁高く 風力の課題解決急務


【業界スクランブル/再エネ】

第六次エネルギー基本計画における2030年の電源構成見通し(電力量)は、50年のカーボンニュートラルからのバックキャストで、野心的目標として既存水力約10%を含む再生可能エネルギー36~38%と再稼働含む原子力20~22%を確保し、非化石比率約60%を目標にしている。具体的には順調に拡大する太陽光発電と、価格低減を含む洋上中心の風力発電拡大と、徹底した安全性確保による原子力再稼働である。

ただし風力発電は現在の陸上風力約5GW(1GW=100万kW)を18GWにし、新設洋上風力を約6GW導入しても、30年断面では全体の約5.5%程度である。太陽光発電は100GWで約15%の供給量を見込み、水力が約10%としている。国も再エネ主力電源化のカギを握る洋上風力発電の競争力強化については、①魅力的な国内市場創出、②投資促進・サプライチェーン形成、③次世代技術開発と国際連携―を方針とし、さまざまな課題解決策を探っている。

市場創出では、再エネ海域利用法と政府主導による案件形成があり、地域からの情報を収集し、有望区域の公表を行い、促進区域の指定、事業者選定、占有許可を進める。さらには日本版セントラル方式での導入拡大に向けた実証事業を計画中で、事前調査、地域共生を国の主導で進める方針である。また、洋上風力の産業競争力強化に向けても、風車のサプライチェーン構築と、将来拡大が見込まれる浮体構造物に関する要素技術開発にも取り組み、25年頃の実海域での実証事業を計画している。

一方、主要大型風車メーカーが欧米と中国にしか存在しない現状から、技術開発が立ち遅れているのも現実で、大幅な建設コスト低減に向けた画期的な浮体式洋上風車の開発に期待が高まっている。また、比較的建設コストの低い陸上風力については、30年以降も引き続き導入拡大を進める必要があり、大口径翼による経済性の改善に合わせて、地域主導も含み、陸上エリアでの積極的なポジティブゾーニングを進める事が期待されている。(S)

【コラム/1月25日】原子力に光は見えてきたか?


福島 伸享/衆議院議員

2022年は、EUの欧州委員会が原子力を持続可能な環境に資する投資として認定する方向である、というニュースで幕を開けた。1/3の日経新聞には「日本、米高速炉計画に参加」との見出しが躍り、ビル・ゲイツ氏が出資するテラパワー社や米国エネルギー省が推進する高速炉開発計画に日本原子力研究開発機構や三菱重工が協力する、との報道が流れた。1/17に開会した通常国会の施政方針演説でも、岸田首相はこれからとりまとめる「クリーンエネルギー戦略」の中の一分野として、「革新原子力」を例示している。

今年は、3.11後の原子力冬の時代の雪融けの年となるようにも思える。実際、1/11に私の地元で行われた「茨城原子力協議会新春のつどい」では、同協議会の内山会長や日本原子力研究開発機構の児玉理事長からは、期待の思いが溢れていた。

しかし、実際はどうか?足元をもう一度見直してみなければならない。「新春の集い」では、東海第二原発の再稼働問題を抱える大井川茨城県知事は、「今日はマスコミが多く来ているので発言に注意しなければ」と当たり障りのない官僚原稿を読んでサッと帰る素っ気ない対応に終始した。地元東海村の山田村長は「原子力発祥の地としての矜持を持って」と、国の曖昧な政策の間で翻弄される首長としての悲壮感を持った挨拶をされた。多くの国民が原子力に忌避感を持つ3.11後の原子力冬の時代は、原発再稼働に関しては何ら変わるところはない。

私が原発の立地を担当していた1990年代は、「トイレなきマンション」と言われながらも、高速増殖炉を開発し、六ケ所村の核燃料再処理施設を稼働させ、高レベル廃棄物の地層処分を進める準備をしている、と核燃料サイクルの説明をすることで何とか原子力に対する信用を得ようとしていた。しかし、現在ではもんじゅは廃炉となり、あれから四半世紀以上が経っても核燃料再処理施設は稼働していない。政策体系が破綻して完結しておらず、今後我が国の原子力産業がどのようになっていくのかが不透明な中で、国民の理解や信用を得るのは難しいだろう。「海外ではこうなっているから」という「出羽守(でわのかみ)」の論法も、もはや通じまい。

そうは言っても、世界は原子力の復権に向けて少しずつ動いている。だからこそ、日本が主体的に我が国の原子力産業をどうするのか、官民の役割分担を明確しながら誰が担い、どのようなファンディングをしていくのか、何をターゲットに技術開発を進めていくのか、原子力政策の体系的な再構築を図ることが、今こそ必要である。ただ原発の再稼働を進めるといった数字を掲げているだけでは、世論は変わらず、何も進まない。その際、平成までの国の研究機関が中心となった単線的な技術開発一辺倒や、地域独占企業による運営を前提とした産業論では、再び停滞と失敗の歴史を繰り返すことになるだろう。

2022年、原子力にとって一筋の光は見えてきた。原子力のルネサンスを興すためには、単に世界の時流に乗ろうとしたり、他国の政策に同調するだけではなく、その前に我が国の原子力政策自体の抜本的な再構築を始めなければならないのだ。「革新原子力」と言っている岸田首相に、果たしてその視点と覚悟はあるだろうか。

【プロフィール】東京大学農学部卒。通商産業省(現経産省)入省。調査統計、橋本内閣での行政改革、電力・ガス・原子力政策、バイオ産業政策などに携わり、小泉内閣の内閣官房で構造改革特区の実現を果たす。2021年10月の衆院選で当選(3期目)

脱炭素化と経済秩序 果たして両立できるのか


【リレーコラム】柳生田 稔/出光興産フェロー CNX・洋上風力担当

46億年の地球の歴史を1年に例えると、12月31日に人類が誕生し産業革命が始まったのが同23時59分58秒だという。46億年かけてできた化石燃料を凌駕する経済的な代替エネルギーを見つけることは容易ではない。

カーボンニュートラル(CN)を達成するためには再エネの大量導入に加え、系統の安定度を保つために必要なガス火力発電所のLNG代替燃料として安価なCO2フリー燃料の確保が重要な課題となるが、いずれにしても大幅なエネルギー価格の上昇は避けられず、これを国民が負担せざるを得ないと考えれば、少なくとも係るコストを国内で循環させることを優先するという考え方も重要である。

再エネ拡大に向けて最も優先されるべきは電力系統の増強である。日本は国土が狭く人口密度が高いので、再エネの導入地点から需要地への直接移送による需給調整が効率的だ。再エネ事業者にとっての最大のリスクは出力抑制による発電機会の減であり、無制限抑制のリスクを許容することはファイナンスの観点も含めて事業化へのハードルが高まる。系統増強は必須だが、CN達成にはこれだけでは足りず、需給調整の限界を上回る再エネの大量導入が必要となる。これを進めるには、蓄電・水素製造などにより、有価で余剰電力を吸収することで再エネの事業性を確保することが必須のセットと考える必要がある。

既存インフラ活用の重要性

発電用途のCO2フリー燃料として期待されるのが水素だが、課題はコストである。特に海外からグリーン水素を液化して運んでくるサプライチェーンを想定すると、そのインフラほぼ全てを新設する必要があり、例えば大型ガス火力発電所1カ所に必要な燃料水素を生産するための設備投資は優に1兆円を超える。他方で、LNGを原料として国内で水素を製造し、排出されるCO2をCCSするというブルー水素のサプライチェーンであれば既存インフラの多くを活用することができ、相対的に安価な水素が製造できる可能性がある。これら海外依存型のコストをいかに下げるかという取り組みも重要であるが、上述の余剰吸収としての水素製造であれば、再エネ大量導入のインセンティブとしての必要性に加え、国内でのコスト循環、あるいは地産地消によるエネルギーロス低減の観点から、これを優先するという考え方も重要である。

昨今の脱炭素に関する世論の論調から化石燃料に関する投資が困難な状況となっているが、足元の安定供給の責務を果たしつつ、経済秩序を保てる正しいトランジションを改めて認識したい。

やぎゅうだ・みのる 1988年東京都立大学工学部卒、昭和シェル石油に入社。製油所でのプラント建設、LNG発電所建設などのエンジニアリング経験を経て、2011年より電力事業を担当。出光興産との統合を経て、21年7月から現職。

※次回は九電みらいエナジー社長の水町豊さんです。

【石炭】日の丸技術の結集 IGCC運転開始


【業界スクランブル/石炭】

エネルギー資源の大部分を輸入に頼る日本にとって、石炭は石油や天然ガスと比べ価格が安く、埋蔵量も多いため、将来にわたって安定供給が見込める大切なエネルギー資源である。しかし、石炭は燃やした時のCO2排出量が他の化石燃料に比べて多いのが課題で、その課題を克服するには、発電効率を高め、少ない石炭で発電量を増やすことにより、CO2排出量を低減していく必要がある。こうした高効率化などによる環境に調和した石炭利用技術は「クリーンコールテクノロジー」の主要技術であり、その中でも注目されてているのが、石炭ガス化複合発電(IGCC)である。

石炭ガス化とは、固体燃料である石炭を可燃性ガスに転換すること。2021年11月、福島県の広野町で建設中であった広野IGCC発電所が勿来発電所に次いで、運転が開始された。出力は54万3000kWでIGCCとしては世界最大級だ。最新鋭の従来型石炭火力発電と比較しても、CO2排出量を約15%低減すると共に石炭灰はガス化炉内で溶融し、ガラス状のスラグになり、このスラグはセメントの原材料や路盤材として再利用され、次世代のSDGsを先取りする。世界最高の熱効率によりCO2排出量の削減に貢献し、また福島を技術の世界的拠点として、海外の技術者から注目されることになるだろう。

石炭ガス化炉、ガスタービン、蒸気タービンなどを組み合わせた複雑なシステムであるIGCCプラントを効率よくまとめあげ、確実に運用する高度のエンジニアリングを達成した技術者の努力に敬意を払いたい。今後もIGCCの周辺では、新たな技術が産声を上げていくことで、このところ逆風下の石炭利用に光明が照らされることを期待したい。

世界最高レベルの効率を誇るJ形ガスタービンの投入や、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を組み合わせたトリプルコンバインドサイクル発電(石炭ガス化燃料電池複合発電:IGFC)などが実現すれば、今後は発電効率が65%を超える発電システムも現実味を帯びてこよう。(C)

【マーケット情報/1月21日】原油続伸、需給緩和感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続伸。需要回復の見通しと供給不安で逼迫観が強まり、買いが一段と優勢になった。

新型コロナウイルス・オミクロン変異株への警戒感が緩和し、需要回復への楽観が広がっている。欧州では、移動規制の緩和で、航空便の予約が増加。また、中国東部でも、移動規制の解除でガソリン消費が回復している。さらに、米金融会社ゴールドマン・サックスは、2022~23年の原油価格予想を大幅に上方修正。供給不足に加えて、想定よりも変異株の影響が限定的であったことを根拠としている。

供給不安も、価格の上方圧力として働いた。武装勢力フーシが、アラブ首長国連邦の石油施設をミサイルで攻撃。これにより、中東情勢が悪化し、原油の輸出が滞るとの懸念が強まった。また、米国は、ロシアのウクライナ侵攻の可能性に対し、経済制裁を示唆。ロシア産原油の供給が減少するとの予測が台頭し、需給逼迫観を強めた。

一方、中国北部と日本の一部地域では、変異株の感染拡大を受け、移動および経済活動の制限を再導入。燃料消費の減少や、経済減速にともなう石油需要後退への見通しが強まり、価格上昇を幾分か抑制した。

【1月21日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=85.14ドル(前週比1.32ドル高)、ブレント先物(ICE)=87.89ドル(前週比1.83ドル高)、オマーン先物(DME)=85.23ドル(前週比1.45ドル高)、ドバイ現物(Argus)=85.25ドル(前週比2.14ドル高)

【吉良 州司 衆議院議員 有志の会代表】「資源小国がどう生き抜くか」


きら・しゅうじ 1980年東京大学法学部卒、日商岩井(現双日)入社。2003年衆院議員(大分1区)。民主党政調・外務部門会議座長、外務政務官、外務副大臣などを歴任。21年有志の会代表。当選6回。

「冒険にあふれた人生」を求めて日商岩井に入社し、海外IPPなどに奔走する。
国会議員としては、ライフワークとしてエネルギー安全保障に精力を注ぐ。

特に教育環境に恵まれていたわけではない。勉強はそれなりにで、スポーツ大好き少年だった。しかし、県立高校から文系最難関の東大文科1類に進む。周囲を見渡すと、進学校を出て、官僚や弁護士、一流企業を目指すエリート意識の塊のような学生ばかり。違和感を覚えるようになる。

大分県で過ごした子供時代。野球や陸上、いろいろな球技などスポーツに熱中する一方、人生の意義について考えることもあった。結論は、「どうせいつか死ぬなら、冒険にあふれた人生を送ろう」。法律の勉強はそこそこに、海外への道が開ける国際関係論などに聞き入った。東大文1に保証されたエリートコースに乗るつもりは、はなからなかった。

やがてきた就職シーズン。日商岩井(現双日)を受けた親友が「面白い会社だ」と言う。「では、行ってみようか」。何も知らなかったが訪れると、迎えてくれたのは魅力あふれる人たちばかり。気持ちが動いた。

当時、面接を受けた商社は3社。イラン・ジャパン石油化学の破綻で倒産もあり得た三井物産、ロッキード事件で集中砲火を浴びた丸紅、ダグラス・グラマン事件で自殺者も出た日商岩井―。いずれも、いわくつきの企業だ。この3社に絞ったのには理由があった。「わざわざ問題を抱えた会社に来るのは、世間の価値観に迎合しないものの見方をする学生だろう。一生付き合うには面白い連中に違いない」。三井物産からは内定が出たが、「破天荒な人たちがいるところで、好きなように仕事をしてみたい」という気持ちが優った。悩みに悩んだ末、日商岩井を選択する。

まず人事部に4年間。続いて自ら希望して1年間、ブラジルに留学。帰国すると電力プロジェクト部に籍を置いた。大分県庁への出向(約2年)を挟んで、電力プロジェクト部に復帰。ちょうど、日本輸出入銀行(現国際協力銀行)などのファイナンスを受けた海外IPPプロジェクトが急速に増えてきた時だった。やがて米ニューヨークに赴任。国際金融公社(IFC)などの公的ファイナンスを取り込み、投資・融資資金を集め主に途上国での発電事業に奔走した。

冷や汗を流す経験もした。パキスタンでのIPPプロジェクトでは、建設途中にこの国が核実験を実施。怒った米国輸出入銀行は融資を撤回すると言い出した。説得すると、今度はムシャラフ参謀総長がクーデーターを起こす。米輸銀は手を引き、プロジェクトは八方ふさがりに。何とか手を尽くすことで、結果として発電所は建設された。修羅場を踏むことで、プロとしての自覚が深まった。

勝算ゼロの大分知事選 周囲に押されて衆院選出馬

2003年、大分県知事選に無所属で出馬する。「人生の後半は、海外を駆け巡った商社マンの経験を生かして、地方を活性化したり、故郷の若い人たちに世界への道を開くことをしたい」。周囲から「勝算ゼロ」と呼ばれた選挙に挑んだのは、そんな動機からだった。家族は猛反対。企業・団体・組合などの支援は皆無。だが、投票日4日前のマスコミの予想で、経済産業省出身の対立候補をリードする。結果として敗れるが、約29万票を獲得。互角の戦いになった。

「選挙はこの知事選だけ」。そう思っていたが、知事選を応援した支援者が〝善戦〟に熱くなっていた。押されて03年の衆院選に無所属で立候補し当選。院内会派民主党・無所属クラブを経て、民主党に入党。05年、09年と当選を重ね、民主党政権では外務大臣政務官、外務副大臣を務めた。

議員バッジを付けても、胸に秘めた生来の「反骨心」は変わらない。福島第一原発事故には与党議員として直面。原発事故から6カ月後、雑誌に菅直人首相(当時)の退陣を求める論文を寄稿する。題は「国益観念なき総理の即時退陣を願う」。資源を調達し、電気を安定的に国民、産業に届けることがいかに難しいか、商社での経験から知り尽くしている。それだけに首相の座にとどめてはいけなかった。政府の対応にも不満が募った。原発は国が計画、建設、運転を認可し、電力会社が稼働させる国策民営。だが、東京電力だけに責任を押し付けた。「原子力損害賠償法の三条但し書きを適用しなかったことは痛恨の極み」と振り返る。

民主党から希望の党、国民民主党を経て、21年の総選挙では無所属で出馬。当選後、同じく無所属の4議員と「有志の会」を結成、代表を務める。政治家としてのライフワークは将来世代優先政治の実現と経済安全保障。中でもエネルギー安全保障に精力を注ぐ。原発依存度の低減には異論はない。だが、代替電源を開発しないまま、再エネに頼ろうとする風潮には強い危機感を覚えている。資源小国日本がどう国際社会の中で生き抜いていくか―。生涯をかけて追及していく。

【石油】補助金と備蓄取崩し 市場介入の必要性


【業界スクランブル/石油】

2021年後半から高騰する原油価格により高値で安定している石油製品価格への影響を軽減するため、政府は11月19日の緊急経済対策に、ガソリン価格が170円を超えた場合、それ以上の値上がりを回避するため、石油元売り会社に対し最大5円を補助するとの方針を決定した。また24日には、23日のバイデン米大統領の要請に応じ、わが国で初めての国家石油備蓄の放出も決定した。

この二つの決定は、いずれもガソリンや灯油などの石油製品の価格がさらに高騰することを防ぎ、コロナ禍からの回復基調にある日本経済への追加的な負荷を軽減することが目的である。中でも国家備蓄の放出は、わが国としては初めての対応であること、および石油備蓄法上の放出要件、すなわち緊急時や災害時とは実質的に異なる目的で実施されること、の2点で注目を集めた。

わが国の石油価格政策は、今回のような市場介入的な対応ではなく、需給環境の改善により価格抑制の実現を図ってきたところだが、OPEC(石油輸出国機構)に対して増産を要請したものの回答はなく、バイデン氏のお膝元の米国市場でもシェールオイルの大幅な生産拡大の動きは見られないなど、需給改善の見通しは暗い。やはり脱炭素の影がちらつくのだろう。

現状市場では、コロナ禍からの回復、脱炭素に向けたエネルギー転換という二つの課題を克服することが求められている。この中でマーケットの安定を確保しつつこれを実現するためには、産消双方の緊密な連携に加え、ある程度の市場への介入が必要となるかもしれない。市場が混乱すると、その最大の犠牲者は高エネルギー価格に耐えきれない社会的弱者や途上国だからである。

健全なエネルギー市場を回復、維持しつつ経済を成長軌道に乗せるためには、非常に微妙な政策運営が必要であり、課題は絞り込む必要がある。コロナの収束まで脱炭素政策の一時的なスローダウンもやむなし、と筆者は考えるがいかがだろうか。(H)

福島第一原発を破壊 水素爆発と放射能汚染


【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.10】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問

炉心溶融で生まれた水素ガスは5階フロアに上昇し爆発した。

ガスは濃い放射能を伴い、廃炉工事を困難にしている。

廃炉工事は発電所の壊れ方に大きく関係する。今回は2、3号機の水素爆発による破壊と汚染を中心に述べる。

BWR(沸騰水型軽水炉)の格納容器は、水素爆発防止のために空気を排除し窒素ガスに置換しているから、福島での爆発は原子炉で起きたのではない。全て空気の存在する原子炉建屋の5階フロアーでの発生だ。

原子炉の溶融で誕生した水素が5階に至る道筋は、格納容器を出て、その上にある遮へいプラグを押し上げて流入する経路だ。水素は軽いからこの道の通過が得意で、爆発を起こした水素は全てこの道を通っている。溶融炉心生まれの水素ガスは濃い放射能を伴っているから、汚染跡をたどれば道筋は自然に分かる。

2、3号機の炉心溶融は圧力容器の中で起きた。水素ガスが発生すれば圧力容器の圧力は上昇する。水素は軽い上に、溶融炉心から出てきたので温度が高い。軽い水素ガスは圧力容器の頂部に集結して上ぶたの締め付けボルトを熱で伸ばして、圧力上昇との合わせ技で上ぶたを押し上げて、フランジの合わせ目に隙間を作った。この隙間から水素は格納容器に漏れ出た。

格納容器に出た水素は、同じ手口(圧力と熱膨張)で格納容器上ぶたのフランジに隙間を作り、上の小空間に流出した。小空間の上には重量約600t、厚さ約2ⅿの遮へいプラグが置かれていて、5階フロアーの床を兼ねている。水素ガスは、この重い遮へいプラグをガス圧力で持ち上げて、運転フロアーに流入した。ガス圧力が下面に掛かるとプラグが容易に持ち上がることは、第6回で述べた。

以上が、炉心で発生した水素が5階に到った経路の説明だ。この道筋は覚えておいてほしい。

開口部から水素が流出 爆発を免れた2号機

2号機は、1号機爆発のあおりで、5階フロアーの壁の一部をなすブローアウト・パネルが落下し、大きな開口部ができていた。5階に流入した水素ガスは、この開口部から柱状の気塊となって流出したので、空気と混じることはなく、爆発は生じなかった。従って2号機には爆発による被害はない。

被害の主体は強い汚染だ。汚染は水素ガスが通過した道筋に限定されているが、その放射線は強烈で、入域は今なお許されないという。2号機の被害は、この他に、炉心溶融がある。汚染による被害とどちらが難事は、廃炉工事終了の後に分かる事柄だ。廃炉での苦労を見守るしかない。

3号機の爆発は、5階フロアーでまず起き、原子炉建屋下階の爆発がそれに続いた。爆発の引き金は、持ち上げられた遮へいプラグが落下した時の着地衝撃だ。

3号機は、丸1日にわたってジルカロイ燃焼がじくじくと続いた。恐らく燃料棒の温度が低く、反応は細々と続いたのであろう。しかし丸1日掛けて発生した水素は大量で、格納容器からの漏れもあって、原子炉建屋全体に水素は漏れ出ていた。この漏れによる下層階の爆発は強烈で、噴煙が600mの高さに立ち昇ったという。

黒煙をあげる3号機

爆発した水素は強い放射能を伴っているので、廃炉工事に先立つがれきの取り片付け作業には十分な注意が必要だ。壊れたコンクリートなどは水素の流出と爆発との2度の汚染を受けており、表裏両面が汚染している可能性もある。

じくじくと続いた長時間の反応で格納容器に出た放射能は、格納容器スプレーによって洗い落されて、濃い汚染となって床に染みついている。この汚染は、溶融炉心と同一の放射能であるから、両者の区別はつかない。

東京電力は、3号機の溶融炉心は格納容器床に落下していると発表しているが、どうだろうか。僕は疑問を持つ。

その根拠は二つある。一つは、爆発後も原子炉の水位が東電報告書に記録されていることで、圧力容器が健全である事を示している。圧力容器が健全なのに、その中にある熔融炉心が格納容器の床に落下することは物理的にあり得ない。 二つは、東京電力発表の圧力容器底部の温度推移測定のグラフだ。2012年以降の温度は2、3号機が全く同じで、春夏秋冬、等量の崩壊熱が圧力容器の中で発生していたことを示している。言い換えれば、2、3号機に残った燃料は等量で、2号機と同じく、全燃料が3号機に残っていることとなる。

以上の理由から、格納容器床の高い放射線は溶融炉心から出たものではなく、沈殿した放射能が出す放射線と考えるのだが、このような主張を述べるのは、溶融炉心が圧力容器の中にあれば廃炉工事は楽であり、計画も変わるからだ。東電のご一考を待つ。

【火力】発電事業者は不在 3者勉強会の行方


【業界スクランブル/火力】

昨年に行われたCOP26では、これからの10年を重要と位置付けるグラスゴー合意を採択し、世界中が共通の目標に向け努力することが合意された。これまでのCOPは、遥か先の目標に向け、各国が裏付けのないまま高い理念を掲げることを競争しているかのようだったが、「これから10年」とうたった以上、今年からは絵に描いた目標ではなく、具体的な取組内容や実績などを評価する地に足の着いた〝プレッジ&レビュー〟の基本思想に立ち戻り議論することが重要だ。

COP26と同時期に、国内では脱炭素化社会実現に向けた課題と対応策についての議論がスタートした。具体的には、今後の火力発電の役割整理や需給ひっ迫時における電力調達の最適化を検討してはどうかと電力・ガス基本政策小委員会に提案された。背景として、日本の電力系統でも自然変動電源の拡大、電力自由化、燃料資源の高騰などさまざまな要因により供給力不足や調整力不足が顕在化し始めていることがある。

火力発電の役割整理については、時間切れのため議論が深まらなかったが、火力に焦点を当てる今までなかった視点での検討であり、今後の展開に期待したい。

一方、電力調達の最適化というのは、需給ひっ迫時に生じるスポット市場と需給調整市場の競合回避を目指そうというもの。遠因として小売りの供給力確保義務と送配電事業者の周波数維持義務の役割分担が曖昧なことがあげられるのだが、まずはJEPX、電力広域的運営推進機関、送配網協議会の3者を中心とした勉強会を立ち上げるらしい。しかし、市場の管理者が集まっただけで、果たして良い知恵が出るのだろうか。

そもそも需給は、需要(小売り)と供給(電源)のバランスで決まるものであり、送配電設備は電気の通り道でしかない。需要のあり方も千差万別だが発電側もさまざまなスペックの設備があり、最適な運用方法を見つけるためには当事者同士が話を突き合せることから始める必要がある。こういった検討は大歓迎だが、地に足がついたものとするためは、発電事業を熟知したメンバーも参加することが絶対必要だ。(S)