<出席者>電力・石油・ガス・マスコミ/4名
2021年は、エネルギー・環境政策がクローズアップされた年だった。
今年は、脱炭素化の影響によるエネルギー価格の上昇に注意が必要になる。
――まず2021年のエネルギー・環境報道を振り返ってもらいたい。
電力 20年12月に菅義偉首相が50年カーボンニュートラルを宣言した。それから始まって、21年の4月には30年にCO2排出を46%削減すると言明する。ちょうど、エネルギー基本計画の改定の時期で、昨年はひさびさにエネルギー・環境問題が大きく取り上げられた年だった。
その中でどういう報道がなされていたか。まず、産業界が期待する日経は小泉進次郎前環境相が「いまや脱炭素新聞ですね」というほど、小泉氏の肩を持つ報道が目立った。
――エネ基の改定では、自民党内に原発の位置付けを明確にしたい動きがあった。
ガス エネ基の議論は政治主導で動いていた。コロナ対応もあって、菅さんはエネルギー政策にあまり関心を示さなかった。それで、再エネしか眼中にない閣内の「KK」、河野太郎氏と小泉氏が好き勝手にできた。それに対して、自民党内に強い反発が起きた。
エネ政策が政治主導に 出色だった産経報道
――そういう動向がなかなか伝わってこなかった。
ガス エネルギー問題は、本来は経産省に詰める経済部の記者が追うネタだ。ところが21年は、政治家の思惑が交錯しながら、政治主導で物事が進んでいった。そうなると、政治部の記者の出番となる。
政治記者が与党のキーパーソンを取材して、何が起きているのかを正しく伝えたのは唯一、産経だけだった。
マスコミ 確かに産経の報道は出色だった。エネルギー政策は、本来は日経が詳しく伝えなければならない。ところが、編集方針が再エネ推進の内容に大きく傾いたこともあって、経産省は日経に不信をいだいていた。それもあって、産経が完全に日経のお株を奪ってしまった。
電力 自民総裁選では核燃料サイクルの是非も話題になった。21年、エネルギー議論が盛り上がったことはよかったと思う。
石油 年末には、COP26があって、原油高の中、OPECプラスの対応も注目された。それらの記事を見てつくづく思ったのは、日本のマスコミの報道が薄っぺらいこと。やはりロイターやブルームバーグなど、海外の通信会社にかなわない。
COP26の記事も、日本メディアの報道は表面的なものばかりだった。ところがニューズウィーク誌のSNSを見ると、先進国と途上国がいかに対立したが、手に取るように分かった。一般の人はともかく、海外情報が必要な業界人にとっては、もう日本のメディアは必要ないんじゃないか。
――新聞離れが激しくなっていると思う。各紙は電子版に力を入れている。
石油 日経テレコンの一人勝ちだ。ただ、記事をプリントアウトしていくと、ばかみたいな金額になるから、利用するのは企業に限られてしまう。
個人で使うとなると、やはり日経電子版。市況やフィナンシャルタイムズの翻訳も読める。読売は新聞をとっていれば無料。毎日は独自ネタの面白い記事がある。ただ、月1000円が割に合うかは疑問。朝日は、どういう基準で画面を構成しているのかよく分からない。とてもお勧めできない。
価格上昇の三つの要素 避けられない国民負担増
――原油、天然ガス、石炭の値段が上がっている。脱炭素化の動きと無関係ではなさそうだ。
マスコミ 産経などが「グリーンインフレーション」という言葉を使い始めている。
――どういう意味?
石油 脱炭素化によって三つ要素での価格が上昇していくことだ。①急に脱炭素化を進めることで、化石燃料の需給バランスが崩れて起こるもの、②脱炭素化にかかる巨費の製品への価格転嫁によるもの、③炭素税導入によるもの―の三つだ。
おそらく、これから深刻な問題になっていく。本来ならばマスコミが詳しく取り上げるべきだが、紙面を割く新聞はほとんどない。
マスコミ 朝日が代表格だが、再エネが拡大すれば新産業が興り雇用が増えて経済は成長する、さらに燃料費が掛からないから電気代もいずれ下がる、とする論調がある。もう、そんな夢物語を語るのはいい加減にしてほしい。
脱炭素化は、確実に国民にとっては負担増になる。まして原発依存低減を進める限り、負担はより増していく。政治もマスコミも、そこから逃げないでほしい。
――今年のエネルギー政策とマスコミ報道にはどんな期待が。
ガス クリーンエネルギー戦略を打ち出した岸田文雄首相が、「クリーンの意味は」と聞かれて、「現実的なエネルギー転換」と答えている。
今まで、エネルギー政策は供給サイドの話ばかりだった。それが需要サイド、中でも電化が困難なところでの熱の効率利用を考え始めるのかな、と思った。それと原子力だ。もっとも、夏の参院選前に原子力について言及するのは難しいかもしれない。
電力 21年、新聞で「おや」と思ったのは、6月の毎日の「公害化する太陽光発電」の記事。エネルギーフォーラムならともかく、毎日でもこういう記事が載るようになった。もともと、毎日の調査報道は評価していた。今までの論説などに捉われないで、もっとどんどんと記者が自由な視点で記事を書いていくと、かなり面白い紙面になるかもしれない。
――毎日は経営がかなり厳しいと聞く。その分、自由に記事を書かせているのかもしれない。日経を購読しているけれど、毎日に代えようかな。