【原子力】世界的な電力不足 タクソノミーに影響


【業界スクランブル/原子力】

2020年冬、西日本を中心に電力需給が綱渡り状態といえるほどひっ迫したことは記憶に新しい。当時、日本卸電力取引所(JEPX)の電力前日スポット市場の取引価格は、kW時当たり200円(通常は8~16円)を超えた。東日本大震災以降、全国の原発が長期停止したため、火力発電所の新設計画が大量に浮上。だが、固定価格買い取り制度(FIT)を背景に、再生可能エネルギーの導入が予想を超える速度で進んだ。そのため火力発電の稼働率低下の懸念が生じて、新設計画からの撤退や老朽火力の休廃止が相次ぎ、供給力が構造的に不足する状況に陥ったことが、電力不足の原因にあげられる。21年度冬も電力需給の予備率は、安定供給に最低限必要な約3%に低下し、東京電力ではマイナス0・3%に落ち込む見通しだ。

追加供給力を賄うために不可欠なのが天然ガスだが、欧州でも既に同価格が高騰しており、今後中国による買い漁りが進めば、火力発電の燃料不足は深刻化し、電力不足に拍車がかかる。電力不足は日本だけではないのだ。このためEUでは、来年の運用開始を予定する持続可能な事業分類(タクソノミー)に原子力を含めるかどうかの、議論が大詰めを迎えている。10月22日の会見でフォンデアライエン欧州委員長は「安定的なエネルギー源として原子力が必要」として、脱炭素実現には再エネとともに原子力が不可欠との姿勢を示した。

電力の約7割を原発に依存しているフランスのマクロン大統領は同じ22日、「われわれの気候変動目標を達成するために原発を利用する必要性について、これほど明確かつ広範な支持が表明されたことはこれまでなかった」と述べた。既に天然ガスの価格高騰を受け、フランスを中心とするEU加盟10カ国は10月中旬、原発を支持する共同声明を発表した。独やオーストリア、ルクセンブルクなどは、放射性廃棄物の長期保管問題を指摘して原発に強く反発している。近日中に決定するとみられるEUのタクソノミーの中身に注目が集まっている。(S)

変貌する中国のエネルギー事情 隣国との向き合い方の視座


【多事争論】話題:中国のエネルギー危機と日本

中国で全省の3分の2もの地域で停電が頻発し、日本も成り行きを注視していた。

エネルギー事情が変貌する巨大な隣国に、われわれはどのように付き合うべきなのか。

〈燃料インフラの共有利用へ 東アジア大の枠組みを構築すべきだ〉

視点A:山田 光 スプリント・キャピタル・ジャパン代表取締役

今年1月の電力ひっ迫を契機として、政府もエネルギー関係者も日本の置かれている状況を振り返るようになった。一方から見ると、脱炭素政策が性急過ぎた、あるいは化石電源の退出が早過ぎたという批判になる。だが他方から見ると、脱炭素政策の実施が遅すぎた、あるいは再生可能エネルギー導入策が不徹底だったという批判になる。

日本の特徴は、四方を海に囲まれ、送電線も燃料パイプラインも隣国とつながっておらず、再エネが十分に電力供給できるようになるまでは、電力の需給を燃料確保に依存している点だ。その特徴を踏まえて、燃料の卸市場を国内およびアジアで構築しようというビジョン、あるいは2030、40年の電力市場のビジョンを作ったとはあまり思えない。

もう一つの特徴は、欧米に比べて電力の自由化がかなり遅れたこと、そして自由化あるいは市場化における企業行動が途に就いていない段階で脱炭素シフトを余儀なくされている点である。これらの点で、今の中国のエネルギー危機と電力ひっ迫は、日本の今後の市場設計の在り方と市場参加者の行動を見直す上で重要な教訓だと言える。

まず中国は石炭主体の計画経済である。社会主義で情報が統制され、資源の生産・調達やエネルギー供給が国家管理されており、その中で、北京ほか各地の大気汚染を改善すると同時に脱炭素を理由に石炭火力発電を削減する方針となった。だが石炭は、中国国内で大量に生産され、一次エネルギーの約55%、発電用燃料の63%を占める(20年の数値。BP資料より)。日本の約8倍の7800TW時の発電量のうち、約5000TW時を担う石炭火力を減らすのはそう簡単ではない。

石炭火力を抑制する一方で、天然ガスシフトを試みた。しかし天然ガスの一次エネルギーでの利用割合は約12%程度しかなく、発電ミックスではわずか約3%であるが、それでも年間約250TW時の天然ガス火力発電を、一気に20倍に引き上げるのは容易ではない。中国のエネルギー市場はあまりに巨大であり、脱炭素に向け石炭の生産や輸送を変え、天然ガスのパイプライン建設やLNG受入基地を整備するにも、一気に方向転換するのは不可能に近い。

2番目の論点としては、中国経済における電力供給の重要性である。中国は世界の工場であり、電気はサプライチェーンの重要なエネルギーである。中国共産党が脱炭素を目標とし、資源・エネルギー政策のシフトを図ろうとしても、CO2排出削減のために発電をストップすれば世界経済への影響、そして日本経済へのインパクトは計り知れない。

中国において、石炭火力をベースにした電力供給構造をシフトするには、中央政府による綿密な計画と周到な準備が必要であるが、ハードルは高い。やはり、文殊の知恵を借りるという意味で、市場システムを上手に利用して、国全体としてエネルギーのリスク管理を行うべきである。中央集権では無理がある。

電力と燃料市場を一体化 広域運用・管理の仕組みが不可欠

中国よりも規模が小さい日本においては、エネルギー制度の脱炭素シフトははるかにスムーズにできる。電力と燃料の市場を一体化したデザインを構築し、供給力と信頼度を維持しながら市場メカニズムを上手く利用し、再エネの変動リスクを量と価格の面で最適にコントロールする仕組みを導入すべきだ。

電力の供給力確保では、電力と燃料インフラの広域運用・一体管理が一つのアイデアである。燃料パイプラインが未整備であるため、燃料で発電し送電網を通じて電気として送ることで広域のエネルギー供給の安定化を図り、将来は電力インフラと燃料受入基地の広域一体運用も考えられる。平常時と緊急時のデータ整備と開示のプラットフォームを作り、さらに全国のエネルギー利用の最適化モデル運用が求められる。

燃料取引では海外のプレーヤーとのコラボも重要だ。最近の九州電力・INPEX・PTTのアライアンスや、関西電力・ポスコのコラボは、民間の商流を構築し、平常時の安定化が緊急時の安定化になる点で画期的だ。政府がこの流れをサポートし、東アジア大でのインフラの共通利用のためのフレームワークを構築し、今後、LNG調達を拡大する中国に対しても長期スパンでこの枠組みに参加してもらうよう働きかけるべきだろう。

電力の供給力確保という点ではドイツの戦略リザーブの考え方が参考になる。必要な電源を送電事業者が契約して残すと言う考え方だ。さらに予備力確保では、電力(エナジー)と予備力(アンシラリー)を共最適化している米国のRTOのシステムも、今後の再エネ導入における系統運用には欠かせない。

やまだ・ひかる 慶応大学経済学部卒。バンク・オブ・アメリカ東京支店、モルガン・スタンレー東京支店などを経て1995年にエネルギーコンサルティング会社であるスプリント・キャピタル・ジャパンを設立。

再び脚光浴びるクリーンテック 投資には忍耐強い資本が不可欠に


【羅針盤(第二回)】巽 直樹 (KPMGコンサルティングプリンシパル)

世界の脱炭素に向けた潮流の中で、再びクリーンテックが注目されている。

今回は、過去を振り返り、現状を見た上で、未来の展望を考えたい。

 前回、GX戦略における要諦があるならば、環境と経済のトレードオフを乗り越えなければならないことを指摘した。このためにはクリーンテック分野での投資の加速による技術開発が必要と考えられている。しかし、クリーンテックの世界はこれまで順風であったわけでは決してない。

過去のグリーンバブル クリーンテック投資の現実

2008年ごろ、米国で当時のオバマ大統領が、選挙期間中からグリーンニューディールを政策として打ち出した。これを契機に、日本・ドイツ・中国などでも同様の政策を掲げる動きが広がった。米国の政策はリーマンショック後の景気対策の側面が強かったが、インターネットやバイオテクノロジーに続く第3の巨大ビジネスチャンスとして、クリーンテック革命とも呼ばれるブームが起こった。

前回に比べると、今回の脱炭素ムーブメントでのクリーンテック興隆は、米国のみではなく世界に広がっており、要素技術の種類も多様化しているため、投資先の選択肢も増えている。ただ、欧米のVC・CVCの投資領域を見る限り、エネルギーマネジメント、カーボンリサイクル、電気自動車、太陽光発電などに偏っており、水素、アンモニアなどの代替燃料やその他の再生可能エネルギーに広がりが見られない印象を受ける。

ビル・ゲイツのブレークスルー・エナジーでディレクターを務めるベンジャミン・ガディ博士らは、クリーンテックVC在籍当時の2016年に公表したMIT(マサチューセッツ工科大学)のワーキングペーパーで、クリーンテック投資におけるVCモデルは破綻していると結論付けている。

VCによる投資ファンドの運用期間は10年程度が基本であり、今日でいうところのデジタルやヘルスケアなどの領域で、短期のリターンを狙うことに適する。クリーンテックの場合、投資回収期間が10年では短すぎて上手くいかないのだ。ほかにも、分散投資の多様性、個々の企業のリスクリターンや母数と生存確率の水準なども異なり、これだけ投資環境が違うものに、他領域でのアプローチを当てはめるのは最初から無理がある。

図はPEファンドの中でもVC・CVCなどの投資期間と、クリーンテック投資をメインとするファンドのそれが15~20年程度に及ぶことをイメージして比較したものである。投資先の企業単体のパスのイメージであるため、クリーンテックのスタートアップ(SU)の成長性がVC投資先と比較して低いわけではなく、投資回収が遅いことを示している。

例えば、デジタル分野と環境・エネルギー分野にそれぞれ特化したファンドを比較した際、リスクリターンが異なる資産で構成されるポートフォリオにおける投資先企業の組み合わせ次第では、運用期間の長い後者が不利になるとは限らない。また、後者では戦略リターンだけではなく財務リターンを重視している場合すらある。これはもはやVCモデルではなく、同じPE投資の中でもインフラファンドなどのアプローチに近い。

こうした投資には忍耐強い資本が不可欠といわれる。近年、大富豪が資産管理目的で設立するファミリーオフィスや、政府系や国富ファンドなどの国家資本ベースの機関投資家がこの分野で存在感を増している。これらのPE投資がクリーンテック投資に向かい、一部では収益化しているともいわれている。しかし、世界全体で見れば、まだ一部の話に過ぎない。

クリーンテック投資の未来 グリーンフレーション招く

技術分野でもサービス分野でも、企業が飛躍的な成長を遂げるためにイノベーションが必要となることに異論を唱える人は少ない。これについては、画期的な最新の技術開発から、枯れた技術の組み合わせによる発明、行動経済学で言うところのフレーミング効果によるサービスモデルの創出など、さまざまな手段で幅広い領域で起こり得る。シュンペーターが説いた「新結合」が必要なのである。

GX戦略のコンセプト(イメージ)

しかしこうしたイノベーションが産まれないまま膨大なコストがかかるだけの地球温暖化対策を進めることは、マクロ経済的に極めて危険な状態に陥る可能性もある。実際、コロナ禍で膨らんだ金融緩和は流動性相場を出現させ、多くの資産市場でバブルを発生させている。これはグリーンファイナンスの世界も例外ではない。

世界最大の資産運用会社ブラックロックのラリー・フィンクCEOは、今年6月のインタビューにおいて、グリーンな世界の実現を可能とする技術を手に入れていない現状のままでは、はるかに高いインフレに直面すると警鐘を鳴らしている。脱炭素化を無理に進めるとグリーンフレーションを招くと指摘されている所以だ。

この頃から欧州のガス価格は上昇を続け、これに端を発したエネルギー価格全般の高騰を招いた。さらにこれがエネルギー以外の資源価格全般に波及し、20年に一度のレベルといわれるインフレの足音が世界中に響き始めている。コロナ不況からの回復が望めないまま、スタグフレーションとなる可能性も懸念されている。

このような環境では不確実性の高いスタートアップ投資においてリスクを取ることがますます難しくなる。こうなるとしばらくは負の連鎖になるため、地球温暖化対策における新たな解決手段を獲得することも遅れる可能性がある。

10月、フォン・デア・ライエン欧州委員長がEU首脳会議後の記者会見において、「安定電源として原子力が必要」と発言し、大きな話題となった。人類がいま手に入れている利用可能な技術に思いが至れば、至極当然な流れだと考えることは誤りであろうか。

たつみ・なおき 博士(経営学)、国際公共経済学会理事。近著に『まるわかり電力デジタル革命EvolutionPro』(日本電気協会新聞部)、『カーボンニュートラル もうひとつの″新しい日常〟への挑戦』(日本経済新聞出版)。

【LPガス】社会実装の第一歩 グリーン化で協議会


【業界スクランブル/LPガス】

 LPG輸入元売りのアストモスエネルギー、ENEOSグローブ、ジクシス、ジャパンガスエナジー、岩谷産業の大手5社が、LPGのグリーン化事業を共同して進めるため、「日本グリーンLPガス推進協議会」を新たに設立した。協議会では、水素とCO2を合成させ、メタノールなどへの改質プロセスを経たうえで、100%に近い収率でLPGを製造する新たな技術(プロパネーション・ブタネーション)の確立を目指すもので、北九州市立大学と連携する。

フィッシャー・トロプシュ法をはじめとする従来の燃料合成技術では、CO2を一酸化炭素に置換する必要があり非効率な面があった。だが新技術ではCO2を直接水素と効率的に反応させ、高い収率でのLPG製造が可能になるという。また、LPGと類似した特性を有するジメチルエーテルからLPGを製造する技術の確立に向け、大手触媒メーカーとの共同研究開発など二つのプロジェクトを併行して進める方針だ。グリーンLPガスの合成に係る技術開発を今後10年で集中的に行い、2030年までに技術を確立し、商用化を実現。50年には需要の全量をグリーンLPガスに代替し、海外から調達する業界構造からカーボンニュートラル(CN)に貢献する業態への転換を目指す。

大きく変革するエネルギー業界だが、50年の世の中がどうなっているかを見通すことは難しい。第四次産業革命と言われるDXによる技術革新もそうだが、コロナ禍を機に潮流となったリモートワークなど誰が想像できただろうか。今後もどのような先進技術が開発されるかわからない。CN宣言、30年温暖化ガス46%削減目標などで、一気に削減対象のエネルギーとなったLPガス。しかし、政府のグリーン成長戦略ではCN化が図られても、LPガスは50年時点で約6割の需要が維持されるとされている。同協議会の初代会長に就いた小笠原剛アストモスエネルギー社長は「グリーンLPガスの社会実装につなげていくための第一歩」としており、スピード感をもった対応に期待したい。(F)

【マーケット情報/12月17日】欧米原油、需要後退懸念を映して下落


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、欧米の先物価格が下落。新型コロナウイルスのオミクロン変異株の感染拡大が経済活動を抑制し、石油需要が伸び悩むとの観測が売りを促した。

欧州の複数国が、移動規制を強化。本来なら冬季休暇で旅行者が増え、ジェット燃料の需要が高まる時期にあるだけに、その影響は大きい。また、バーレーンやオマーンなどの中東諸国も、移動や集会を制限する方針を示し、需給が緩むとの懸念が強まった。

さらに、イラン外相が、国際原子力機関との核合意復帰に向けた話し合いで進展があったと発表。米国の対イラン経済制裁が解除され、イラン産原油の供給が増加するとの予見が高まったことも、売り戻しを誘う材料となった。

ただ、米国では、石油需要の兆しが出ている。米エネルギー情報局が発表した最新の週間統計によると、同国の軽油消費量が2003年1月以来の高水準を記録。また、ジェット燃料在庫は過去7年間で最低の水準まで減少した。原油在庫も前週比460万バレル減の約4億2830万バレルとなり、価格の下落を幾分か相殺した。

【12月17日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=70.86ドル(前週比0.81ドル安)、ブレント先物(ICE)73.52ドル(前週比1.63ドル安)、オマーン先物(DME)=73.24ドル(前週比0.52ドル高)、ドバイ現物(Argus)=73.37ドル(前週比0.43ドル高)

【コラム/12月20日】経済安保には要注意


福島 伸享/衆議院議員

 米中対立が高まる中で、経済安保の機運が盛り上がっている。年明けの次期通常国会には、我が国の経済安保の骨格となる法案が提出される予定となっており、今年の通常国会にはその前段としてのNEDO法等改正案が提出され、可決された。今回の法改正は、半導体を製造する企業の工場立地に補助金を出すための基金をNEDOに積めるようにするものだ。補正予算で計上されている予算額は、約6,000億円! そのうちの約4,000億円が、現在熊本に建設が予定されている台湾のTSMCという世界最大の半導体メーカーに交付される方向になっている。

 コロナ禍などの影響で世界の半導体の流通が大幅に減り、自動車などの生産が滞っている。日本国内に生産拠点を作るというのは、一見素晴らしい政策のように見えるが、実際にはそうはならないだろう。TSMCの半導体の売り上げのうち日本向けは元々わずか4~5%。世界中の需要がTSMCに集まる中で、日本は魅力的な売り先ではない。おそらく日本に新たに作る工場は、日本向けの製品というより、中国や韓国向けの製品を作る工場になるだろう。TSMCは日本の企業ではなく、日本政府は何ら経営に影響を与えられないから、「補助金をつけるから日本企業のために半導体を作れ」と言っても思ったようには行動はしない。

経産省の担当課長にこの点を問い質すと、「TSMCはちゃんと配慮しますと言っている」と答えるが、ビジネスの世界で契約書も何もない口頭での発言を元に何らかの決断をすることはありえない。TSMCが日本に来ることで日本への技術移転が期待できるかといえば、そもそも来る工場は先端製品ではなく汎用製品の工場だし、わざわざ「技術上の情報管理のための体制整備」を補助認定の基準にしていて、日本側に情報が渡らないようになっている。つまり、この法律では、日本のメリットになることが何ら保証されていないのだ。

このような、日本人の税金を原資として前代未聞の4,000億円もの政府資金を一外国企業に補助する法改正を、衆議院経済産業委員会のたった2時間半の審議で通してしまっていいのか?今ごろ6,000億円の予算措置をするなら、20年前に同額の予算を日本企業に講じていれば、ここまで日本の半導体産業が衰退することはなかったかもしれない。

私が、無所属で勝ち上がった猛者5人で組んでいる会派は同法案に反対したが、与党に加え、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党もこの法案には賛成した。4年ぶりに国会に戻ってきて、劣化した官僚組織とそこが作る政策を無批判に通すだけの無能な政治こそが、日本の衰退の一番の根本原因であることを改めて実感する。読売新聞の報道によると、「経済安保の司令塔」を内閣府に設置するともいう。中身のない政策を隠すための常套手段は、新しい組織の設置と日本版〇〇と銘打った海外の制度を真似た制度を作ることだ。

 経済安保が、生き馬の目を抜くグローバルビジネスの中で、日本がカモになるだけの制度にならないか、キャッチフレーズやタイトルに踊らされることなく冷静に分析することが必要だ。

【プロフィール】東京大学農学部卒。通商産業省(現経産省)入省。調査統計、橋本内閣での行政改革、電力・ガス・原子力政策、バイオ産業政策などに携わり、小泉内閣の内閣官房で構造改革特区の実現を果たす。2021年10月の衆院選で当選(3期目)

多角化からLPガス販売に特化 快進撃を続ける都心戦略とは


【私の経営論(中)】津田維一/富士瓦斯社長

前回は当社のカーボンニュートラルと防災市場における取り組みについて書かせていただいた。今回はそのような取り組みを推進する企業風土になった契機である都心戦略について説明していきたい。

国内のLPガス販売数量は1996年の2000万tをピークに減少を続け、2020年度には1294万tとなり、市場規模は3分の2にまで縮小している。96年というのは液石法の大改正があった年でもあった。当時、ブローカーによる「ビン倒し」と呼ばれる顧客争奪戦が激化しており、LPガス業界にも弊社にも大きな転換点となった年であった。

フジガスは54年の創業以来、卸売りとオートガス販売に注力していたが、80年代以降は販売店の商権買収と郊外への営業所の出店によって、直売を中心とした業態へと転換を進めていた。一方で創業者は成長が見込めないLPガスに見切りをつけ、さまざまな多角化を行い、脱LPガス路線を目指していた。95年、26歳の私は北海道の同業他社での修行を終え、取締役社長室長として着任した。当時は創業者の後を受けた実母が社長に就任しており、多角化もうまくいかず、ビン倒しが激化しはじめ、社内は混乱していた。

安易な多角化の愚を悟った私はガス以外の事業を全て整理し、LPガスに特化することで成長戦略を描けないかを考えるようになった。とはいえ、資本力のないフジガスが価格差別化で勝負するのは自殺行為であり、簡単には答えが見つからなかった。考え抜いた結果、今でも当然のように行われているハウスメーカーに対する設備の無償貸与による新規物件の獲得を停止し、LPガスの新たな市場を切り開く道を選択した。この選択は社内では多くの反対を受け、幹部社員の退職などもあったが、自社のジリ貧状況を理解していた一部の社員の後押しもあって策定されたのが「都心戦略」である。

他社が敬遠する質量販売 LPの強みと積極展開

96年にスタートした都心戦略は、①同業他社との協業による効率化、②LPガスの都心需要の開拓、③都市ガス市場での機器販売、という三つの施策からなる。

①同業他社との協業については、配送の受委託を推し進め、世田谷区にある充填工場の稼働率をあげるとともに、拠点を統合、面的集約によって顧客密度を上げ、配送効率、業務効率をあげることができた。むやみな商圏の拡大、直売顧客数への固執をやめたことで、同業他社との協業、協調路線に転換することが可能となり、その結果、不毛なビン倒しによる損失も大きく軽減できた。現在では全国の協業先のご協力もあり、47都道府県でのガス供給を行っている。

②都心需要の開拓においてまず取り組んだのが、小型容器による質量販売である。LPガス販売の多くは50‌kgもしくは20‌kg容器によるメーター販売であり、小型容器を使った売り切りの質量販売は、手間がかかる、儲からない仕事として、多くの販売事業者から敬遠されていた。当社も、依頼があってもお断りをしている状況であった。しかし、LPガスの特長である「可搬性」「簡易性」「安全性」を最もアピールすることができる販売形態であり、なんとか販売を拡大できないかと考えていた。

その時に出会ったのが屋外暖房機の「パラソルヒーター」であり、大井競馬場での大量採用を契機に質量販売の専従部隊が編成された。その後も、燃焼によるCO2によって蚊をおびき寄せる蚊取り機「モスキートマグネット」の取り扱いを開始。勢いに乗る質量販売部隊は、当時増えつつあった食のイベントや音楽フェスの飲食ブース、学園祭の模擬店などのLPガス供給を軒並み獲得していった。

自社で企画、開発した屋外用ガス暖房機「DAN」

そして、この快進撃を支えたのは保安最優先の姿勢であった。現在でも業界内で質量販売というのは事故が起きやすいとのイメージがあり、敬遠されている。実は配管を使った供給よりもシンプルであり、事故が起きづらいはずなのだが、保安意識の低い販売店が充分な保安上の措置を怠るために事故が起きてしまっていた。そこで私たちは質量販売であっても保安機器としてガスメーターを設置するなど、さまざまな保安対策を講じることとした。その分コストも増加するが、保安最優先の考え方を理解していただけない場合には販売をしないという姿勢が結果的にお客さまからの支持につながったと考えている。防災需要など都心部でのLPガス市場の可能性は奥深く、今後地方都市でも大いに期待できると確信している。

都市ガス向けに機器販売 クレーム減手法が好評

③都市ガス市場での機器販売については、LPガス販売事業者として蓄積したガス器具の販売、施工のノウハウは、地元の都市ガスユーザーに対しても十分アピールできると考え、集合住宅の給湯器交換に絞ってマーケティングを行うことにした。LPガス市場では、集合住宅の給湯器はオーナーや管理会社から無償での交換を求められるケースも多く、社内で不安の声もあったが、質量販売同様に専従部隊を作って知恵を絞り、「壊れない給湯器プラン」の販売を開始。都市ガスエリアの集合賃貸住宅の管理会社をターゲットにし、壊れた際に一台一台交換するのではなく、「期限管理による壊れる前の一括交換」で管理の手間と入居者のクレームを減らす手法は好評を得た。事前の現場調査による機種や設置状況の物件情報の蓄積によって故障時のスピード対応も可能となった。分譲集合住宅への販売も開始し、5年ほどで都市ガス市場での機器販売は売り上げの3分の1を占めるまでになった。

これらのLPガスにこだわった施策はリフォーム、太陽光発電、ウォーターサーバーといった多くの同業他社の多角化戦略とは一線を画するものであり、現在の発電機販売やカーボンニュートラルLPガスの販売につながる土壌となったと考えている。

つだ・これかず 1993年東京大学法学部卒、商社系LPガス販売会社入社。95年家業である富士瓦斯に入社、2014年から現職。05年一橋大学大学院商学研究科にてMBA(経営学修士)を取得。スタディス社長、NPO法人LPガス災害対応コンソーシアム副理事長も務める。

【私の経営論(上)】https://energy-forum.co.jp/online-content/7052/

【都市ガス】LNGは供給過剰も 柳の影に怯えるな


【業界スクランブル/都市ガス】

 昨冬、旧一般電気事業者のみならず都市ガス事業者のLNG在庫量が減少し、天然ガス発電所の稼働抑制を余儀なくされたことから、1カ月にも及ぶ卸電力市場価格の高騰を招いたことは、まだ記憶に新しい。今冬が厳冬との見通しがある中、昨冬と同じようにLNG不足が発生して市場高騰を引き起こすのではないか、という不安がつきまとう。そのためか、12月〜3月の先物・先渡し電力価格はkW時当たり30円を上回っている。

今年も中国が石炭火力停止分の電力確保のため、天然ガス火力の稼働率アップに向けてスポットLNGを買い漁り、東アジアLNGスポット価格(JKM)を百万BTU(英国熱量単位)当たり30ドル前後と、昨冬をも上回る価格レベルに高騰させている状況にある。今冬も昨冬同様にスポットLNGの奪合いが発生し、LNG不足に陥る可能性はあるのだろうか。

資源エネルギー庁は昨冬のような事象を発生させないため、旧一電のLNG在庫量のモニタリングを開始した。夏季ピークを過ぎた9月末実績は約250万tと昨年同時期(約160万t)を上回っている。例年がおおむね180万t前後であることから、今年は十分余裕があると判断できる。今夏は想定よりも低需要で、各社のLNG在庫が余剰気味であることが数字に出ている。ラニーニャの影響を受けている今冬は厳冬予想だが、暖冬になる可能性もあり、その場合はLNGタンクが満杯になるタンクトップの恐れもあるという。

そもそも旧一電のLNG契約量は余剰傾向。競争激化による需要減、再エネの急増、METI主導でのシェールガスLNG購入、原子力の再稼働などが重なり、需給のバランスが崩れ、オーバーサプライとなっているのだ。従って、スポットLNGを奪い合うというよりも余剰LNGを市場で売却して需給調整を行っている状況だ。都市ガス事業者も含め日本のエネルギー企業は利益最大化のために供給支障が生ずるような過度のLNG売却などはしない。冷静に現状を見て判断すべきだ。柳の影に怯えてはいけない。(G)

プライム市場への移転にハードル より高度な企業ガバナンスが必須


【論点】プライム市場の創設/荻野零児 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 シニアアナリスト

東京証券取引所は来年4月から市場を「プライム」「スタンダード」「グロース」の三つに区分する。

プライム市場は高い企業ガバナンスが求められ、気候変動に関する企業情報も量と質の一層の充実が求められる。

 東京証券取引所(東証)は、2022年4月4日に新たな市場区分をスタートする予定である。

現在の東証の市場区分は、市場第一部、市場第二部、マザーズ、ジャスダックと四つに分かれている(図表1参照)。このうち、市場第一部は、いわゆる東証一部と呼ばれ、上場会社数は2173社(21年9月末)である。

TOPIX(東証株価指数)は、東証一部の時価総額の合計を指数化したものである。また、日経平均株価(225銘柄)を構成する上場企業は、東証一部から採用されている。

東証によると、現在の市場区分には次の二つの課題がある。第一に、各市場区分のコンセプトがあいまいであり、多くの投資者にとっての利便性が低い。第二に、上場会社の持続的な企業価値向上の動機付けが十分にできていない。

これらの課題を踏まえて、見直し後の市場区分は、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場の三つに分かれる。これら市場の上場基準は、各市場区分のコンセプトに応じて、流動性やコーポレート・ガバナンスなどに関する定量的・定性的な基準が設定される。なお、流動性とは、株式市場に出回る株式の数や金額を示す尺度であり、流動性が高いほど、投資家にとって売買しやすい銘柄であると判断される。

出所:東京証券取引所の資料に基づきMUMSS作成

定量的な上場基準を設定 年末までに移行先を選択

図表2は、プライム市場のコンセプトを示している。そして図表3は、プライム市場の上場基準の3種類の項目と考え方を示している。東証は、各項目における定量的な上場基準を設定している。例えば、流動性の項目では、株主数や流通株式数、流通株式時価総額、売買代金の定量的な上場基準が設定されている。

新市場区分への移行プロセスの今後のスケジュールは次の通りである。21年12月30日までに、上場会社は、移行先となる市場区分を主体的に選択することになっている。そして、22年1月11日に、日本取引所グループ(JPX)のホームページで、上場会社の新市場区分の選択結果が公表される予定である。

東証一部の業種分類のうち、エネルギーと関連性が高い業種の上場会社数は次の通りである。鉱業6社、石油・石炭製品9社、電気・ガス業22社(21年9月末)。見直し後の市場区分であるプライム市場でのエネルギー関連の上場会社の数が注目される。

東証は、新しい市場区分において、上場会社に、上場後も継続して各市場区分の新規上場基準の水準を維持することを求めている。図表3に示したように、プライム市場の上場基準では、①株式の流動性、②ガバナンス、③経営成績・財務状態―の三つの項目が注目点となる。

株式の流動性を改善させる方策は、流通株式を増やす工夫も必要であるが、経営の「王道」は、株式市場における企業価値である時価総額(=株価×株式数)を向上させることである。株式市場における企業価値は、財務パフォーマンスと非財務ファクターの二つの観点から評価されていると考える。

財務パフォーマンスは、上場基準の③経営成績・財務状態の項目に該当する。企業価値の向上のためには、エクイティ・スプレッド(=ROE・株主資本コスト)の財務に関する生産性KPI(重要業績評価指標)の中長期的な改善がキードライバーになると考える。

非財務ファクターについては、②のガバナンスが重要な課題となっている。図表3に示すように、プライム市場の上場基準では、東証が策定したコーポレートガバナンス・コード(一段高い水準の内容を含む)の全原則の適用が求められている。このコードは21年6月に改訂され、プライム市場上場会社のみに適用される原則も載っている。

例えば、原則4―8(独立社外取締役の有効な活用)では、プライム市場上場会社の独立社外取締役の人数についての言及がされている。

気候変動リスク開示を要求 エネ企業への注目度高まる

また、原則3―1(情報開示の充実)の補充原則では、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益などに与える影響について、(中略)TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)、または、それと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきであるとする。

プライム市場に上場するエネルギー会社は、コーポレートガバナンス・コードの一般的な原則は当然として、プライム市場上場会社のみに適用される原則への適応についての進捗への注目度合いが高まると考える。

おぎの・れいじ 1988年国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)入社。2001年企業調査課に異動し、電力・ガス・石油セクターを担当。

【新電力】再エネ制度の歪み 需要の不利益も


【業界スクランブル/新電力】

 英国で10月31日から開催されているCOP26では、46カ国が石炭火力発電所の廃止・新規建設停止に署名するなど、温室効果ガス抑制に向けた動きが加速していることが実感できるものとなった。

一方、世界中でエネルギー価格の上昇が止まらない。10月のJEPX前日スポット市場における24時間平均の約定価格はkW時当たり12.06円となり、1月以来の水準となった。海外でも市場価格は高止まりしており、英国ではkW時当たり0.179ポンド(27.48円)、フランスでは0.173ユーロ(22.42円)、ドイツでも0.140ユーロ(18.13円)となり、非常に高い水準の価格が継続している状況となっている。エネルギー価格高騰を受けて、欧州では原発新設に向けた機運が高まっている。英国はサイズウェルCの建設を決定したほかフランスは原発6カ所の建設を決定した。英仏両国の原子力推進政策は「脱炭素」の目標に向け必要な手当を講じたものであり、再エネ偏重の政策・事業環境が変化しつつある。

さて、本題の日本の新電力の事業戦略であるが、相変わらず「再エネメニュー」が幅を利かせている。非化石価値の価格が非常に低く、またPPAとの組み合わせも、再エネ賦課金の負担を逃れることができるといった制度の歪みを突いたビジネスモデルになっており、制度設計が変わった場合には需要家のコストメリットが創出できなくなる恐れが高い。さらに危惧される事態として、一部で再エネのインバランスリスクを需要家に負担させるビジネスモデルが勃興しつつある。需要家側はスキームのリスクをよく理解せずに契約しているケースが散見され、今後インバランス価格が大きく変動し、需要家が予期せぬリスクを負う可能性も否定できないと考えられる。

前述の通り、欧州では再エネにとどまらず、脱炭素目標に向けた取り組みが加速している。新電力がいつまでも再エネに偏重した取り組みに留まり、リスクを需要家に押し付けているようでは、いつか社会から見捨てられはしないか、大変に心配である。(M)

【電力】グリーンとクリーン 言い換えの真意


【業界スクランブル/電力】

 2021年のCOP26は、化石燃料の品薄、価格上昇が世界的に起きている中、英国グラスゴーで開催されている。この原稿を書いている段階ではどんなアウトプットに至るか不明であるが、大きな成果が出るとは思えず、総選挙直後にもかかわらず岸田総理がわざわざ出向くほどのものかと思っていた。もっとも、就任したばかりの岸田総理にとっては、得難い首脳外交の機会であったのかもしれない。実際、数時間の滞在の中でバイデン米国大統領をはじめ精力的に首脳会談をこなしたようである。

さて、COP26世界リーダーズ・サミットでの岸田総理のスピーチであるが、筆者は次の箇所が印象的であった。

「議長、日本は、アジアを中心に、再エネを最大限導入しながら、クリーンエネルギーへの移行を推進し、脱炭素社会を創り上げます」

どこが印象に残ったかというと、総理はグリーンといったん発言したあと、クリーンエネルギーと言い換えている。クリーンとグリーンの違いに明確な定義があるわけでは多分ないが、筆者はクリーンエネルギーには原子力が含まれると勝手に思っている。そして、これも筆者の妄想かもしれないが、これは意識的であったかもしれないと思った。

さて、報道によると日本は2年連続、化石賞を受賞したそうである。理由は「脱炭素の発電としてアンモニアや水素を使うという夢を信じ込んでいる」とのことであるが、欧州でも昨年あたりからグリーン水素への取り組みは活発であるし、自然変動性の再エネの出力変動を調整する火力をグリーン水素キャリアで稼働させれば、効率的な脱炭素エネルギーシステムの一つの答えになりうる。化石賞の主催者である団体のメンバーである自然エネ財団の報告書でもグリーン水素の輸入にメリットがあることが言及されている。

この主催団体は考えが硬直化していないか。他方で、化石賞報道のヤフコメをみると、化石賞に批判的なコメントが結構見られる。ほっとするものがある。(T)

COP26参加のインド・モディ首相の思惑


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

COP26期間中の11月2日、英国とインドが世界の電力系統の連系を改善する計画を発表したとロイターが報じた。例えば、日没を迎えた国が太陽光が注いでいる国から電力供給を受けることができるというわけだ。今や“お祭り”と化したCOPの場では、こうした壮大な構想がポンと出てくるようだ。もっとも、計画の内容や費用、資金調達などには触れられず唐突感は否めない。エネルギーの専門家からは、「再エネ利用には多くの送電線の整備が必要だと強調するようなもの」「時差を跨いだ送電は旧ソ連などが構想したが進ちょくしていない。系統技術は進歩したが多額の費用がかかる」など、厳しいコメントが飛ぶ。海、砂漠、山岳地帯などの地形的障壁も指摘されている。

ではなぜ、両国はこの構想の発表に至ったのか。今回のCOPでは、主要排出国である中国、ロシアの首脳が欠席。英国のジョンソン首相としては、会議の成功を印象づけるために世界3位のCO2排出国であるインドのモディ首相の参加は必須だったのであろう。もともとインドは、気候変動への努力を表明するかどうかも疑問視されていた。結果的にモディはグラスゴーにやってきて、その前日に2070年のネット・ゼロを宣言した。英国と共同での計画発表に関し、「モディは先進国の援助があれば前向きに脱化石燃料に向かうことを示したのだ」との声もある。結局、ジョンソンはインドの貢献を称え、モディは先進国の援助の必要性を強調するということで折り合ったということか。

先進国の援助次第というこの計画も、50年後のネット・ゼロも、具体的な約束をしたとは言えまい。それでもモディは欠席裁判によってこの祭りの生贄になることは免れたというわけだ。

日本が栄えある「化石賞」受賞 加熱する化石燃料バッシング


【ワールドワイド/環境】

11月2日、衆院選に勝利した岸田文雄首相は最初の外遊先として英国・グラスゴーのCOP26に参加。演説で「2050年カーボンニュートラルを長期戦略の下で実現する。30年度に13年比46%減を目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続ける」との目標を改めて表明した。

 さらに温暖化問題解決に向け、①アジアを中心に再生可能エネルギーを最大限導入しながら化石燃料火力を水素、アンモニアなどのゼロエミッション火力に転換するため1億ドル規模の先導的な事業を展開、②先進国全体で年間1000億ドルの資金目標の不足分を補うべく5年間で官民合わせて600億ドルの支援に加え、新たに今後5年間で最大100億ドルの追加支援を用意、③25年までに適応分野での支援を倍増し官民合わせて約148億ドルの支援、④森林分野への約2・4億ドルの支援―を打ち出している。

 ところが同日、国際環境NGO気候ネットワークが豪州、ノルウェー、日本に「化石賞」を授与した。授賞理由として「岸田首相は火力発電所を推進している。脱炭素の発電としてアンモニアや水素を使うという夢を信じ込んでいる」と述べたという。当面は化石燃料に依存せざるを得ないアジア地域で、まずは石炭から天然ガスに燃料転換を行い、既存石炭火力をアンモニア、水素混焼から専焼に転換する考え方は極めてまっとうだ。化石燃料の脱炭素化に関わる技術を語っているのに「火力発電の推進だ」と断じるのは、いかにも再エネしか認めない環境NGOらしい。

 石炭を標的にしたバッシングは今や化石燃料全体に及んでいる。先進国は30年代、途上国は40年代の石炭フェードアウトをめざす「脱石炭連合」が発足当初の23カ国から、当初不参加だったドイツ、ポーランドらが参加して46カ国になった。中国、インド、米国、日本などは参加していない。22年度末までに全化石燃料に対する公的融資を停止するとの宣言に米国、カナダなど25カ国と国際金融機関が名を連ねたが、日本、中国などは未参加。これら枠組みに参加していないとの理由で、また化石賞をもらうかもしれない。

 上流投資の落ち込みなどでコロナ禍からの経済回復に伴う化石燃料需要増に供給が追い付かず、各地でエネルギー危機が生じている現実と比べると、COPの議論は別な惑星であるかのようだ。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

米国の分散型エネルギー資源 政策優遇でビジネス成長


【ワールドワイド/経営】

 米国では、住宅向け太陽光や蓄電池、電気自動車などの分散型エネルギー資源(DER)が増加している。

 背景には、電気料金の節減、電力のクリーン化、自然災害への備えに関する需要家意識の高まりがある。こうした中、カリフォルニア州を中心に需要家側に設置されたDERをアグリゲート(集約)して活用するビジネスが広がりを見せており、同州では2021年10月現在、22社がDERアグリゲーターとして登録されている。

 その一例として、09年に設立されたスタートアップ企業のStem(ステム)が挙げられる。同社は「Athena」と呼ばれるAIソフトウェア・プラットフォームを付帯した蓄電池のリースを通じてアグリゲーションビジネスを始めている。Athenaは消費電力量、充放電量、電力単価などさまざまな要素を複合的に分析する機能を備えており、需要家側に設置された蓄電池の充放電管理を最適化し、エネルギーコストの削減を可能にする。需要家利益を最大化するよう蓄電容量の一部を電力取引市場へ入札する機能も具備し、入札のタイミングや入札量を自動的に決定する。現在はパイロットプロジェクト段階であるが、将来的には需要家の蓄電池をアグリゲートし、同州の独立系統運用機関であるカリフォルニアISOの電力取引市場への入札を自動制御することを目指している。

 カリフォルニア州では業務用電気料金が高いことや、DER導入を図るインセンティブプログラムが整備されていたことなどから、ステムは早くから蓄電池のリース事業により、商業用需要家を獲得してきた。しかし米国内ではテスラやフルーエンスなどの蓄電池メーカーが躍進するほか、エネル、シェル、トタルなどの欧州エネルギー事業者が米蓄電池メーカーの買収により事業拡大を図り、事業者間の需要家獲得競争が激化した。ステムはAIを活用したビジネスで差別化し、顧客基盤と収益の維持・拡大を狙っている。

 同社のようなビジネスモデルを展開している事業者は、カリフォルニア州やニューヨーク州などのDER導入に積極的な州に集中している。これらの州では、DERの導入を促す料金制度や補助金制度が存在しており、ビジネスの成長は州政府の支援策により支えられている。今後、バイデン政権の下で連邦大でもアグリゲーターの参入が可能となる市場環境整備が進むと、DERアグリゲーションビジネスの事業性はさらに高まるものと期待されている。

(長江 翼/海外電力調査会調査第一部米国グループ)

中東初の「ネットゼロ」計画 国営会社が脱炭素化に本腰


【ワールドワイド/資源】

 アラブ首長国連邦(UAE)は10月7日、中東で初めて2050年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにする計画を発表した。6000億ディルハム(約18兆円)を再生可能エネルギーやクリーンエネルギーに集中投資を行う。湾岸諸国では、サウジアラビアとバーレーンがUAEに追随して、10月下旬に(UAEより10年遅い)60年までに「ネットゼロ」を実現するとの目標を発表した。

 UAEの積極的な「ネットゼロ」計画は、同国が世界有数の産油国でありながら再エネなどのクリーンエネルギー分野で豊富な経験と蓄積を持つことが背景にある。06年に設立された再エネ企業Masdarは世界各地で太陽光発電、風力発電のプロジェクトを手掛け、すでに30カ国以上で200憶ドル規模の事業を展開している。19年には世界最大級のスワイハン太陽光発電所(117万7000kW)、20年には中東初の原子力発電所(バラカ原発)が稼働した。早くから再エネ事業の重要性を認識していたUAEは、11年に正式発足した国際再生エネルギー機関(IRENA)の本部のアブダビ誘致を実現したが、気候変動問題へのさらなる貢献姿勢を示すため、23年のCOP28の開催地候補として名乗りを上げ、誘致活動を本格化している。

 カーボンニュートラル実現の鍵を握るとされる水素・アンモニア事業については、アブダビ国営石油会社(ADNOC)が中心となって進めている。ADNOC、Mubadala、ADQの3社がアブダビ水素同盟を結成し、主にADNOCが炭化水素由来のブルー水素、他社がグリーン水素の開発を行う。同社は、仏トタルおよび英BPと脱炭素化に関する協力協定を締結し、INPEX、JERA、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)とはグリーンアンモニア生産のFS実施に関る共同調査契約を締結した。

 UAEは、「本業」の石油ガス事業の強化にも余念がない。ADNOCは石油生産能力(現状日量400万バレル)を30年までに500万バレルに引き上げる計画を予定通り進める考えである。脱炭素の流れのもと、中長期的に需要縮小も予想される中、UAEは石油・天然ガス上流投資を続け必要な埋蔵量を確保した上で「最後の供給者」のポジションを確保する考えであろう。

 ADNOCは、さらにパイプライン操業会社の株式売却や子会社の新規株式公開(IPO)など、保有資産の売却(収益化)を推進し、資金調達の一助としている。

(猪原 渉/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部)