故幕田圭一氏を偲んで


【追悼】

東北電力の社長、会長を務めた幕田圭一氏が逝去された。

燃料の多様化を図り、安定供給に心血を注いだ。

自他ともに認める東北人。ダンディーな面も兼ね備えていた

東北の繁栄に生涯を尽くす 「孫子」を指南役に産油国と交渉

 言葉の端にかすかに残る訛りと、人との付き合いを大事に丁寧を尽くす幕田圭一氏の語り口調は、「典型的な東北人」を思わせ、一方で音楽を愛し、ダンディを感じさせる所作からは、若いころ東京支社で仕えた国際肌の実業家、東北電力初代会長の白洲次郎氏に通じるものを想起させる。生地が伊達政宗の重臣が拓いた城下町宮城県白石市、そこをたどれば「伊達者」との人物表現も出てこよう。

1935年生まれ、福島大学経済学部を卒業し58年東北電力に入社した。「東京でなく東北で働きたい。日本のためになる仕事を」(『週刊ダイヤモンド』2002年6月15日付)と考えていた幕田氏にとって電力再編成後「日本の復興は東北から、東北の復興は電力から」をスローガンにしていた同社の入社に迷いはなかったろう。人生の大半を同社と需要家を結ぶ東北地域の発展に捧げた。

幕田氏が社長、会長になるまでの経歴は、二つに集約される。燃料部門と東京支社であり、いずれも同社の弱みの補強と密接に関わる。同社は高度成長期「火主水従」路線への転換が遅れ、1962年の料金値上げが進出企業の反発を呼び、政治問題化した苦い歴史を持つ。以来政・官の中心地東京での情報収集や人脈づくりは重要命題となり、電気事業連合会調査部への出向、支社の次長、副支社長、支社長を含め13年間東京で過ごした。「よく江戸づめという言葉を使っていて、その通りの行動でした」と当時の部下は語る。

第一次石油ショック直後の75年、新設された燃料部の副調査役に着任すると当時燃料部長の明間輝行部長(元社長・会長)とLNGなどを求め二人三脚で世界各地を飛び回った。インドネシアとの契約交渉や海外炭の導入など数ある功績の中でも特筆されるのは、石油資源開発との新潟―仙台間の天然ガスパイプライン共同事業だろう。ほぼ東北全域にパイプラインは延伸され、企業誘致の促進剤となった。何よりも東日本大震災の折には、仙台圏のライフラインの確保と早期復旧に貢献した。

その大震災では、幕田氏が手塩にかけて育てた「仙台フィルハーモニー」が、復興コンサートとして被災者や被災地域に直接音楽を届けた。「お寺の境内でもミニコンサートが開かれ、幕田氏は私財を費やし支援していた」という。

座右の書とした「孫子」は、資源国との交渉の指南役とした。「相手の立場になって考え、一歩先を読んで準備する」。備えと互いの利益を追求する方針は、幅広い人脈をベースに幕田経営の根幹となり、安定供給につながっていった。

21年11月28日、心不全のため86歳で逝去。家族の相次ぐ不幸にも見舞われたが、人への温かみを終生失わなかった。

文|中井修一 (元電気新聞編集局長)

需給構造が変化する中国 季時別電気料金体系を見直し


【ワールドワイド/経営】

中国では、電力需給の安定化を目指して1980年代から時間帯別電気料金の導入が始まった。現在までに全国31省(自治区・直轄市を含む)のうち29省で主に一般商工業向けの時間帯別料金が導入されており、上海市や四川省など一部地域では季節別料金も適用されている。

 国家発展改革委員会(発改委)は2021年7月、家庭電化の進展といった最近の需要構造や、季節・時間帯により出力変動する再生可能エネルギーの急増などを踏まえ、各省政府に対して季時別料金体系の見直しと導入拡大を求める通達を発出した。

 中国の小売料金は、用途別に区分され、供給電圧ごとに料金設定されている。時間帯別料金の場合、「ピーク(峰段)」「フラット(平段)」「ボトム(谷段)」の3種の時間帯区分が設けられるのが一般的だが、さらに多くの区分を設定している例もあり、その時間帯も地域によって異なる。今回の通達では、現状の季時別電気料金が昨今の状況変化への対応として不十分であり電力の市場取引割合の増加も反映されていないとして、見直しに向けた具体的方針を示した。

 まず再エネ比率など地域の需給状況を科学的に反映させた時間帯区分とすること、そして地域系統の最大・最小電力差が40%以上ある省(北京のほかGDPや人口の多い重要地域が含まれる)では、時間帯別料率に4倍以上の格差を設定(それ以外の省でも原則3倍以上)し、料金体系を最適化することを求めた。また過去2年間における最大電力の95%以上の需要が発生した時間帯をハイピーク(尖峰)として、ピーク時料金よりも原則20%以上高くすることや、逆に再エネ設備などの割合が大きく、余剰電力が発生する地域ではディープボトム(深谷)料金の設定を可能とした。

 今回の季時別料金見直しによる直接的な影響には、料率格差拡大に伴うピークシフト効果などが考えられるが、現地ではこれにより電力貯蔵設備の経済性が向上し、その拡充が進むとの観測から蓄電池メーカーの株価が上昇した。また発改委は今後、季時別料金の対象に家庭用需要家を加えることも示唆しており、歴史的に安価に据え置かれてきた家庭用料金水準の適正化に繋がるとも見られる。

 中国の電力需給構造は近年大きく変化してきており、それに対応した料金制度改革は避けて通れないものと思われる。野心的な再エネ・電力貯蔵設備の拡充目標を掲げる中、電気料金面での改革がどう進められるか今後も注目される。

(工藤歩惟/海外電力調査会調査第一部)

上流で進む環境対策の現実解 負荷の低い深海探鉱が活発化


【ワールドワイド/資源】

 米内務省海洋エネルギー管理局は2021年11月17日、バイデン政権発足後初のメキシコ湾大陸棚石油・天然ガス鉱区入札結果を公表した(第257回)。

 「気候危機」対応を公約した大統領就任を受けて、当初3月に予定されていた入札が延期されるなど上流開発企業の関心低下が懸念されたが、ふたを開けてみると18年の第250回入札と並ぶ33社が応札。最高値入札額の合計は19年の第252回(2億4400万ドル)に次ぐ1億9200万ドルと活発な札入れが行われ、脱炭素化の流れの中でも欧米企業が探鉱開発を継続する姿勢が確認された。

 最高値の札を入れたのは米独立系企業オクシデンタル・ペトロリウムで、水深800m超の2鉱区に600~1000万ドルで入札した。他方、入札の合計額が最大だったのはシェブロンの34件4700万ドルで、オクシデンタル(30件3900万ドル)、BP(46件2900万ドル)が続いた。シェブロンは水深1600m超の鉱区に400万ドル超の入札を2件行っており、シェールオイルに比べ温室効果ガス排出密度の低い深海油田開発への関心の高さを見て取れる。

 深海鉱区と並び注目されたのがエクソンモービルの浅海鉱区への大規模な入札(94件1500万ドル)だ。同社は21年4月19日にヒューストン運河周辺工業地帯に1000億ドルを投資し30年に年5000万t、40年には年1億tのCO2を回収貯留するCCS事業の構想を発表している。今回入札したテキサス州沖合の浅海鉱区の成熟油田をまとめて確保し、CCSに使用しようというものだ。

 バイデン政権が3月に鉱区入札を停止した背景には、40年近く前に定められた国有地における資源開発の費用負担が開発企業に有利なため、環境に対する負荷、すなわち納税者の負担が過大であるという批判がある。内務省は11月26日にロイヤルティ引き上げや探鉱期間短縮などの改善策を報告しており、また上院で審議中の財政調整法案にも入札最低価格や探鉱作業義務など開発企業により大きな負担を求める内容が含まれているが、法案成立にはなお紆余曲折が予想されている。

 法改正に長い時間を要する状況下で、企業は現行の入札制度を活用して環境負荷に考慮しながら探鉱開発を継続している。カーボンニュートラル対応が完了した後も一定量は必要と見込まれる石油・天然ガス供給にコミットする点で持続可能な社会的責任を果たすもので、合理的な対応といえよう。

(古藤太平/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部担当審議役)

【コラム/1月14日】グレート・リセットは実現するか? 3つのグローバル・シナリオを考える


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

資本主義が大きく変わり「グレート・リセット」されて、2050年にはCO2排出量がゼロになる(=脱炭素)、という将来シナリオがある。このような将来シナリオは今や、国連、G7(主要7カ国)政府、日本政府、日本経団連などの大手経済団体、NHK・日本経済新聞・朝日新聞などの大手メディアが共有する「公式の将来」となっている。

だが、この将来像の技術的・経済的・政治的実現可能性は極めて乏しい。それにも関わらず、今日本の主要企業は軒並み、公式にはこの「脱炭素」を掲げている。

正にこのために、事業を預かる現場では混乱が起きている。不可能に向かって突き進むという事業計画を立て、実施しなければならないからだ。

ありそうにない将来像に基づいて事業を計画・実施することは、企業としての経営判断・投資判断を大きく歪め、利益を損ない、事業の存続すら危うくする。

そもそも将来は不確実であるため、複数の将来シナリオを描いた上で、ロバスト(強じん)な事業計画を立てる必要がある。これがシェル流のシナリオプランニングの思想と手法の要諦である。

筆者は、このシェル流のシナリオプランニングの実践として、3つの異なるグローバルシナリオを検討した。以下に手短に紹介する。なお詳しくは論文を参照されたい。

①「再起動」シナリオ、またはグレート・リセット・シナリオ 

概要

これは、国連、G7諸国政府、日本政府、経団連など大手経済団体、NHK・日本経済新聞・朝日新聞などの大手メディアが共有する「公式の将来」のシナリオである。このシナリオでは、資本主義が大きく変わり「グレート・リセット」されて、50年にはCO2排出量がゼロになる(=脱炭素)。原動力は、環境問題に目覚めた国民である。それが政治を動かし、金融機関・企業が投資をすることで再生可能エネルギー・電気自動車などのグリーン技術が発達し、それが普及することで実現する。

展開

1. ドイツの新政権では緑の党が入閣し、50年となっていたCO2ゼロの目標年を45年に前倒しして、22年のG7議長国として他国に同調を求めた。支持率低迷にあえぐ英国ボリス・ジョンソン首相と米国バイデン大統領がこれに合わせて、一層野心的な目標を発表した。

2.日本もこれに前後してCO2ゼロの目標年を45年に前倒しをする。これに合わせて30年のCO2削減目標も46%から54%へといっそうの深堀をした。

3.世界的なエネルギー危機は、OPEC(石油輸出国機構)、ロシアによる原油の増産、ロシアとカタールによる天然ガスの増産、および中国の石炭増産によって緩和する。エネルギー価格が下がったことで、脱炭素政策への支持が継続する。

4.コロナ禍後の、諸国政府による大型財政支出継続は継続する。これによってグリーン投資にも膨大な資金が投入される。

帰結

A)再生可能エネルギー・EVは順調に拡大し、不要になった石油・ガス価格はIEA(国際エネルギー機関)のネットゼロ・シナリオで予言されたように低迷する。

B)環境・人権と経済安全保障を重視する先進国では、重要鉱物の採掘業・精錬業と製造業が復活する。

C)国連気候会議では毎年、継続的に諸国の脱炭素政策が強化される。

D)産業を取り戻し、環境対策に率先して取り組むG7は、リーマンショック以来の地政学的な失地を回復し、世界のリーダーとして復権を果たす。

②「脱線」シナリオ、またはグレート・デレイル・シナリオ

概要

このシナリオでは、グレート・リセットを目指した政策がことごとく裏目に出て、G7が衰退し、中国が世界の支配的地位を占めるようになる。

展開

「再起動」シナリオ1~4に同じ

帰結

A) G7諸国ではCO2排出量が厳しく制限されるようになり、これに排水・土壌汚染などの環境規制強化も追い打ちをかけ、化石燃料の生産・供給、およびエネルギー集約産業の工場が次々に閉鎖され、弱体化する。

B) 石油・ガス市場の支配力は、G7諸国のIOCs(国際大手石油会社)から、OPECプラスのNOCs(国営石油会社)へとバランスを大きく変える。

C) レアアース、太陽光発電用結晶シリコンなどの重要鉱物の生産・精錬、およびそれを用いた材料・部品・最終製品生産などを含め、あらゆる製造業の中国へのシフトが進む。

D) 毎年行われるCOPは、産業の空洞化をグリーンな活動な成果だとPRするG7諸国による「グリーンウオッシュ」の祭典と化す。

E) 地政学バランスはG7から中国およびOPECプラスに大きく移る。自信を深めた中国の介入によって台湾は1国2制度を経たのちに併合される。

③「反動」シナリオ、またはグレート・リアクション・シナリオ

概要

このシナリオでは、国民の反発を招いてグレート・リセットが失敗し、グリーン・バブルが崩壊する。脱炭素政策も忘れ去られるようになり、化石燃料が復権する。

今、先進国は無謀な脱炭素目標を競い、世界中でエネルギー価格が高騰し、インフレも高じている。この行き着く先は、と考えると、このシナリオにも蓋然性がある。

展開

1. 米国議会において審議されているビルド・バック・ベター法案は、民主党マンチン議員らの造反によってグリーンな政策は骨抜きになり、バイデン政権のもとではCO2削減は進まないことが明らかになる。

2.コロナ後の景気刺激策、放漫な財政、エネルギー・資源価格高騰などによるインフレが進み、米国各地で暴動に発展。食料品店などが略奪に合う。

3.米国政府はインフレ対策として急遽金融引き締めに入り、株価は大幅に下がる。株安は世界に波及。政策的な支援を得る見込みながなくなったEVや再エネ産業はとりわけ大きく値を下げ、グリーンバブル崩壊となった。

4.早くもレームダックとなったバイデン政権は22年11月の中間選挙でも大敗。米国の「30年CO2半減、50年CO2ゼロ」という目標は全く達成される見込みが立たなくなった。

5.22年末のCOP27はエジプトで、23年末のCOP28はUAE(アラブ首長国連邦)で開催される。だがグリーンバブルの崩壊を受けて、ダボス資本家は参加を取りやめ、グリーンウオッシュの祭典では無くなる。COPはもっぱら途上国が先進国に援助の増額を巡る交渉の場となって、南北問題を扱う国連機関であるUNCTAD(国際連合貿易開発会議)と変わり映えがしなくなる。気乗りのしないG7諸国は首脳を派遣しなくなり、メディアの関心もなくなる。

帰結

A) 次期大統領を狙うトランプは連日、バイデン批判を繰り広げる。「インフレを招き国を破壊したのはバイデンのグリーン政策だ。24年にはパリ協定から脱退し、脱炭素政策は全てキャンセルする」。そして24年、その通りのことが起きる。

B) 日本でも政変が起きて、共和党とのエネルギー・環境政策の協調が図られる。エネルギー基本計画は見直されて、土砂災害と人権問題によって人気が凋落した「再エネ最優先」政策は撤廃される。

C) 米国共和党が推薦する科学者が日本の国会にも招聘されて証言を行い、50年CO2ゼロという目標に科学的根拠が無いことを訴え、国民の支持を得るようになる。同目標は政府計画から撤廃される。

3つのグローバル・シナリオのうち、いずれの蓋然性が高いだろうか。

もちろん、他のグローバル・シナリオもさまざまであろう。どのような将来像があり得るだろうか。

そして、政府の計画、企業の事業計画は、あり得る複数の将来シナリオに適応できるものになっているだろうか。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。

次世代原子炉を日立が受注 「朗報」に朝日は冷ややか


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

 日本の原子力業界にとって久々に元気が出るニュースだろう。読売2021年12月4日「日立・GE、次世代原発受注、カナダで」「重大事故時、安全停止」である。

「日立製作所と米ゼネラル・エレクトリック(GE)の合弁会社、GE日立ニュークリア・エナジーは2日、カナダの電力会社から次世代原子炉『小型モジュール炉(SMR)』を受注したと発表した」と記事にある。

「受注したのは、出力30万kW級の沸騰水型SMR。出力を従来型の原発の3分の1以下に抑え、小型化した。カナダのオンタリオ州ダーリントンに建設し、28年の稼働を目指す。約30万世帯分の発電を行う計画だ」。研究開発ではない。実用炉の建設だ。意義は大きい。

SMRは設備の小型化と簡素化を特徴とする。安全性も高いとされる。「建設費を従来の原発の5分の1程度に抑え、重大事故でも冷却水を自動循環させ安全に停止させる」。まずは規制当局の審査が控える。万全を期したい。

同日の日経は、「安全性が長所とされる一方で、運転実績はほとんどなく稼働時のトラブルといった不測の事態への予見も立てにくい。既存の原発のような国際的な規制も未整備」とくぎを刺す。

読売の記事にある通り、「世界的な脱炭素の流れを受け、発電時に温室効果ガスを排出しない原子力発電への関心は再び高まっている」。建設・運転の成否は、原子力の未来にも関わろう。

日経は、「今回手掛ける小型原子炉は日立が強みを持つ軽水炉の技術を使い、国内で培った工法のノウハウを活用できる。技術・技能の伝承につながりそうだ」と日本にとっての意義も指摘する。

ビジネス面でも期待は大きい。「(SMRは)規格化された部材一式を工場で造って現地で組み立てるのが特徴。既存の原発で5~7年かかっていた工期を約3年に短くできる」(日経)。

反原発の立場が鮮明な朝日は冷ややかだ。同日記事で「放射性廃棄物が出ることは従来の原発と同じだ。建設費が大型炉よりかからないといっても、出力の規模は小さく発電コスト全体で見ると安くなるとは限らない。廃炉にも巨額の費用が想定される」と、従来通りの原子力批判を展開する。

どんな電源もメリット、デメリットがある。太陽光発電など再生可能エネルギーの多くはクリーンなイメージの一方で、発電量が安定しない。設置による大規模な自然破壊も起きている。原子力は発電の安定性、高いエネルギー密度が強みだ。朝日記事は、またか、と思わせる内容である。

無論、おのおのの電源ごとに課題への地道な取り組みは欠かせない。原子力では特に既設炉の安全確保が最優先だが、隣国の対応が不信を広げている。

中国広東省台山市にある台山原子力発電所1号機のトラブルだ。21年6月に米CNNが「放射性物質が漏れた」と報じた。運転を担う中国広核集団は燃料棒の損傷を認め、運転を止めた。

1号機はフランスが開発した欧州加圧水型炉だ。中仏が原因を調査している。ロイター11月30日「設計上の欠陥が原因か」は、フランスのNGOへの内部告発を踏まえ、「原子炉圧力容器の設計上の欠陥で振動が発生し燃料が損傷した可能性がある」と報じた。本当なら厳格な対処が求められる。

「不透明な中国の原発情報公開」(日経6月24日)との批判は今も続く。ありきたりの批判よりも、メディアが追及すべき重要な問題である。

いかわ・ようじろう(デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員)

IEA「世界エネルギー見通し」公表 「電化技術」で日本の強み生かす時


【世界エネルギー見通し】

 国際エネルギー機関(IEA)が2021年10月に発表した「世界エネルギー見通し(WEO2021)」。発表の際に、IEAのビロル事務局長は「COP26において政策決定者のガイドブックとなるようなエネルギー分野の進むべき道のりに必要な意思決定のポイントをまとめた」と話し、同時にIEAは今後のエネルギー事情への理解を深めようと、インターネット上に無料でアクセスできるようにした。

今回のWEO2021では「厳しいながらも50年までにCO2排出量のネットゼロへの達成可能な道筋シナリオ」「各国が既に公約した達成シナリオ」「現時点で各国が実施している政策を反映したシナリオ」―の三つのシナリオを提示している中で、CO2削減対策技術として随所に「電化」や「ヒートポンプ」というワードをちりばめていることが特筆される。

「電源の電化と最終消費段階の電化」「電化はあらゆるシナリオで重要な役割を果たす」「化石燃料を使った暖房様式が課題であり、既存暖房設備の更新時期にヒートポンプ導入のインセンティブを各家庭へ与えることは大切な施策」「産業分野における低温度帯域の電化推進」――などだ。

電化をちりばめた世界エネルギー見通し

日本が主導するHP技術 細やかな技術力で脱炭素へ

では、日本の産業はどのように挑むべきなのか。

一つはヒートポンプ(HP)技術の世界展開であろう。「家庭用エアコンに代表されるヒートポンプ技術は日本が世界をリードしている」とは誰もが口をそろえること。同様の技術によるエアtoウォーター、つまり日本でいうところのエコキュートに類する技術製品は、日系企業によって、欧州でも導入が進んでいる。

一方、ルームエアコンのような汎用品が主体の家庭分野と違って、特殊なエンジニアリング技術を要する産業分野はどうか。こちらも、日本の技術力を生かせる領域だ。昨今、中国や東南アジアでは、日本の大手エネルギー会社が、現地の多様なニーズに応えながら、エネルギーサービスを通じて省エネ・低炭素化を進めるケースが増えている。

以前、中国企業関係者が言ったセリフがある。「ヒートポンプ排熱の利用など考えたこともない。そういう発想は全くなかった」。例えば、日本の常識である排熱利用技術は省エネ・脱炭素化を進める最短の方策である。そんな「日本の技術力」が広く認知されれば、日本企業が脱炭素化に向けて活躍する場面はもっと増えるはずだ。

火力発電所で新たに実証 カーボンニュートラルへ取り組み加速


【東北電力】

 地球温暖化問題への対応として世界的に気運が高まる脱炭素化。こうした中、東北電力グループは、“カーボンニュートラルチャレンジ2050”を旗印に、その実現に向けて取り組むこととしている。

具体的なロードマップとして、2030年度には、CO2排出量を13年度比で半減させる目標も掲げ、さまざまな施策を展開する。

その一環として、石炭火力の能代火力発電所(秋田県能代市)では、木材を加熱して半炭化させたバイオマス燃料「ブラックペレット」の混焼実証に向けた検討を始めた。同社の石炭火力発電所では、既に木質チップの混焼を行っているが、混焼率のさらなる向上によるCO2の排出量削減が狙いだ。

ブラックペレットは木質チップよりも高い熱エネルギーを有するほか、既存の設備を改造せずに扱えるといった特長がある。カーボンニュートラル(CN)に向けた有効策の一つとして、24年度以降の本格運用を目指している。

また、バイオマス燃料の知見獲得に向けて、秋田火力発電所(秋田県秋田市)では、構内の遊休地を利用し、原料となる植物の試験栽培も開始した。栽培しているのは、いずれもイネ科のソルガム、エリアンサス、ジャイアントミスカンサスの3種。21年7月、40m四方の土地に計約700株分の種や苗を植えつけたところ、短期間で大きな草丈に成長。寒冷な東北地方の気候風土でも生育できる種があることが確認された。

秋田火力構内で青々と生い茂る「ソルガム」

ペレット化に向け乾燥 火力発電で混焼

栽培した植物の一部については刈り取り後、ペレット化に向けた乾燥の工程を進めている。刈り取り時期を分散させることによる乾燥状況の差異についても検証する計画だ。

今後は栽培した植物の収穫量や性状などを踏まえて、ブラックペレット化や能代火力発電所での混焼についても検討し、バイオマス燃料に関する知見の上積みを図る。

同社は、能代火力発電所の1プラント(60万kW)にブラックペレットを10%程度混焼した場合、およそ30万t程度のCO2を削減できると試算。石炭火力発電所の脱炭素化を見据え、一部バイオマス燃料の地産地消の可能性を探る取り組みに期待が膨らむ。

こうした火力電源の脱炭素化に向けた取り組みに加え、同社は、「再エネと原子力の最大限活用」と「電化とスマート社会実現」を大きな柱に据え、CNに向けた取り組みを加速していく考えだ。

高い熱エネルギーのブラックペレット

脱炭素社会への移行シナリオ 需要側の行動変容への呼応を


【オピニオン】志田龍亮/三菱総合研究所政策・経済センター主任研究員

 2020年10月末に菅義偉前首相が所信表明演説にて「2050年までにカーボンニュートラル(CN)の実現を目指す」と宣言してから約一年が経過した。この一年で世界の脱炭素に向けた潮流は大きく加速し、CNを宣言した国は現在、130カ国を超えるまでになった。先日開催されたCOP26では「産業革命以降の平均気温上昇を1.5℃未満に抑える」という従前の努力目標が、目指すべき共通のゴールとして事実上格上げされることになった。今後、先進国では1.5℃目標と整合する、より野心的なNDC(国別排出削減目標)の提示、新興国への資金協力が求められるであろう。

しかしながら、脱炭素化への道筋はいまだ課題山積である。足元では化石燃料を始めとして世界的に資源価格が高騰しており、欧州・中国・インドなどでは電力需給の逼迫も問題になっている。これは、コロナ禍からの経済回復、気象条件といった一過性の要因もあるが、「化石燃料への新規投資の停滞」といった脱炭素化に向けた構造変化も大きな引き金になっている。

日本でも燃料価格高騰を受けたガソリン価格上昇などにより生活への影響が出始めているほか、今冬は東京エリアを中心として電力の供給力不足も懸念されている状況にある。火力発電の拙速なフェードアウトは安定供給を脅かしかねず、加速する脱炭素化の潮流と、足元の問題対処とのバランスに苦慮している。

問題なのは「2050年CNの絵姿」と「足元のエネルギー需給構造」をつなぐ線が見えないこと、すなわち、脱炭素化社会構築に向けた現実的な移行シナリオの不在ではないだろうか。

こうした移行シナリオの検討には、安定供給を見据えた供給側の視点はもちろん必要だが、それと同時に需要側の新しい動きに着目することが重要と考える。

三菱総合研究所では20年9月に「2050年カーボンニュートラル達成に向けた提言」を発表し、CN達成のためのキーポイントの一つとして、「需要側の行動変容」を挙げている。従前のエネルギー政策はともすれば供給側に焦点が当たりがちだったが、昨今では需要側の動きがエネルギーシステムに変革を迫っている。RE100やSBTといった企業の自主的なイニシアチブはもちろんのこと、一般消費者でもエシカル消費の拡大が企業行動に影響を与えている。また、一部の企業では脱炭素化対応のため自社のサプライチェーンを見直す動きも出始めているほか、脱炭素化への着実な移行を支えるトランジションファイナンスも大きな動きとして現れている。CNに向けた移行を考える際には、こうした需要側の行動変容と正しく呼応することが必要だろう。

22年は改正電気事業法が施行され、FIP制度の開始や配電ライセンス導入など電気事業の環境が大きく変わる年でもある。激変する足元の事業環境への対応と併せ、CNに向けた移行シナリオの在り方について本格的に向かい合うべき時期に来ている。

しだ・りゅうすけ 2008年三菱総合研究所入社。20年から研究提言チーフとしてエネルギー分野での自社研究・政策提言の取りまとめを担当。博士(工学)。

【コラム/1月11日】新しい資本主義を考える~岸田流投げ入れに下村治経済論を期待


飯倉 穣/エコノミスト

1,「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」の閣議決定があった(2021年11月19日)。そして財政的裏付けとなる令和3年度補正予算が成立した(12月20日)。

報道は「経済対策 見えぬ「賢い支出」最大の55兆円分配重視 これで日本は変わるのか」(日経11月20日)、「過去最大の補正予算成立35兆9895億円財源の6割借金」(朝日12月21日)と伝えた。

 経済対策は、未来社会を切り拓く「新しい資本主義」の起動として成長戦略と分配戦略を掲げる。岸田文雄首相は、所信表明演説で「1980年代以降、世界の主流となった市場や競争に任せれば全てがうまくいくという新自由主義的な考えは、世界経済の原動力になった反面、多くの弊害も生み出しました。・・我が国としても、成長も分配も実現する「新しい資本主義」を具体化します。・・我々には、協働・絆を重んじる伝統や文化、三方良しの精神などを、古来より育んできた歴史があります。・・人がしっかりと評価され、報われる、人に温かい資本主義を作れるのです。」と述べた(12月6日)。

 政府は、「新しい資本主義実現会議(第1回10月26日))で、ビジョン審議中である。改めて市場と政府のバランスを念頭に置いた新資本主義の有様を考える。

2,今回補正予算は、新資本主義の起動で一般会計8兆2千億円を措置する。成長戦略予算6兆2千億円で、中身は科学技術立国(大学ファンド、研究開発、半導体、蓄電池等)、デジタル田園都市国家構想、経済安全保障(半導体生産拠点確保等)である。分配戦略は1兆9千億円、子育て世帯給付、労働移動円滑化、医療・福祉従事者の収入引上げ等である。

 一見すれば、各官庁の旧来施策の読替・延長や経費積み増しが目立つ。各目玉予算の前提となる大学経営の姿(創造力強化)、企業の経営力強化に不要な投資家重視のコーポレートガバナンス等の見直し、安定的な雇用を支える産業的方策が不明瞭である。威勢のいい金銭面の対応でなく、これまでの経済対策で失敗している過去の制度改革・規制緩和等の見直しが、資本主義再構築により肝要である。

3,資本主義とは何か。現代的意味では「資本という貨幣を媒介として、生産手段の私的所有を前提として、自由市場で利益獲得を目的に商品・サービスの生産を、雇用を通じて行う経済システム」となろう。そして生産活動への関与と生まれる成果の配分が関心事になる。活動の中心が、私人=企業と考えれば、まさにステークホルダー(資本提供者(投資家)、経営者、働く人、取引先等)の関係こそ大事である。

4,経済システムの姿は、市場の効率性を前提としつつ、地理的・歴史的条件、国の成り立ち、政治・経済・社会的状況等で様々である。現代は、専制国家を除き、人間尊重の理念(自治、人権、社会的貢献)を具現化した自由・民主主義体制を獲得・受容し、市場経済ベースでは市場と政府の適切なバランスが重要とされる。(ステイグリッツ「人間が幸福になる経済とは何か」2003年)

1980年代以降、経済行き詰まりの打開策として新自由主義・市場経済重視の政策とグローバル資本主義が持て囃された。市場重視、資本移動の自由、大国都合の自由競争論理、規制緩和が、キーワードとなった。日本経済は、実績好調だったが、米国流経済学信奉者の横行で米英の風潮に巻き込まれていく。

グローバル化で一部短中期的に成功を収めた国も、「金融栄えて、働く一般人は今一」であった。日本は、30年間為替変動と米国要求に揺らいだ。その結果、経済成長は年平均成長率実質0.7%、名目0.5%(米国実質2.3%、名目5.4%)であった。そして名目GDP比一般政府債務残高20年254%(90年度末約38%)である。就業者の非正規割合は、20年37.2%(2,090万人、02年29.4%)に上昇し、雇用不安が継続している。これが構造改革で求めた資本主義の外見である。今こそグローバル資本主義に加え市場と国の役割を再考すべきである。

5,求められているものは何か。経済の基本の考え方、経済運営の在り方と過去の構造改革の見直し等である。第一に経済の基本としてグローバル経済に対し国民経済の考えを確認したい。繰り言になるが、下村治流なら、経済は、自国民が自国の領土の上に創意工夫で築いていくものである。成長の活路を徒に海外に求めず、内外経済均衡を意識した経済運営の姿が基本である。

第二に米商務省報告「日本株式会社」(毎日72年)の調査以来、米国は、対日要求・協議で、日本経済を支える枠組み(強さ)の制度変更を求めてきた。日本は、とりわけ90年代以降雇用軽視・消費者余剰重視・内実無視で流通、運輸業、金融、エネルギー(含む電力自由化)等の規制緩和、独禁法運用、民営化等を強要された。

規制緩和対象は、抑々市場の失敗を矯正するため規制しており、それを十分考慮せず、消費者重視名目・競争一辺倒で無理に変更した経緯がある。その結果過当競争を招来し、企業利益の縮小、過少投資、雇用削減・雇用条件劣化を招いている。一連の改革の再評価・見直しが必須である。

第三に米国の優れた点で模倣できなかったことを再勉すべきである。政府は、1969年「模倣から創造へ」と謳い、技術導入・キャッチアップ一段落を意識した。そしてわが国独自の技術革新(創造)を期待した。国民性として創造力が弱い国である。それが今日の状況を招いている。今回のコロナワクチン開発の惨めさを思う。引き続き先進国等の勉強が必須である。とりわけ世界で最も国際競争力のある米国大学、米国国立研究所の姿、行政制度等である。

第四に市場経済の核心である民間企業に対する無用な行動規制・監視の改廃が必要である。投資金融の影響を受け、コーポレートガバナンスと称する経営介入(含む株主代表訴訟等)が企業活動を委縮させている。経営者の右往左往は、社員の創意工夫を低下させる。生産活動に係るステークホルダー軽視でもある。国民国家として雇用を第一に考えれば、他にも多々改善点がある。

新資本主義という岸田流の器に投げ入れで下村治博士の描いた経済論が組み込まれることを期待したい。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

青森・風間浦村も応募か 文献調査に関心高まる


電力業界が長年頭を痛めてきた高レベル放射性廃棄物の処分場選定が前進し始めている。2020年、北海道寿都町・神恵内村で文献調査が開始。それに刺激を受けたのか、調査への応募を検討する自治体が増えている。

青森県風間浦村では21年12月、村議会の一般質問で、冨岡宏村長が「原子力関連施設を含めて、企業・産業誘致の勉強を始めた」と答弁。文献調査に応募か―。マスコミが駆けつける騒ぎになった。しかし、「再エネを本命に考えている。いずれにしても勉強から始める段階」(村関係者)。風間浦村では過去に地熱発電の調査をしたことがあり、地熱・風力を中心に検討するようだ。だが、文献調査の可能性も否定できない。

全国的に文献調査への関心は高まる一方だ。ガラス固化体の保管状況を見ようと、青森県六ケ所村の使用済み燃料再処理工場を見学に訪れる自治体関係者が絶えないいう。文献調査を行う自治体が増えれば、寿都町・神恵内村の概要調査への移行もスムーズになる。

ようやく進む処分場の選定作業。それに呼応するように、原発再稼働も進展してもらいたい。

エネルギー・環境を調査した50年 社会問題の最前線に立ち続ける


【日本エヌ・ユー・エス/近本一彦 代表取締役社長

原子力や国際協力など、官民のプロジェクトを支え続けてきた日本エヌ・ユー・エス。

これまで積み重ねた50年の歩みと今後の展望について、近本一彦社長に話を聞いた。

ちかもと・かずひこ 1986年東海大学大学院工学研究科修了、日本エヌ・ユー・エス入社。2009年リスクマネジメント部門長、14年理事・新ビジネス開発本部長、15年取締役、20年から現職。

 ――日本エヌ・ユー・エスは2021年6月に創業50周年を迎えました。

近本 当社は原子力分野のコンサルティングやエンジニアリング・サービスを行う米NUSと、プラントエンジニアリング会社である日揮、東京電力の合弁会社として、1971年6月3日に創業しました。当時の主な業務は米国の原子力規制関連の情報をNUSから入手・翻訳して電力会社に提供することでしたが、発電所建設の前段階で必要になる環境アセスメントの調査も行うようになりました。

――原子力や環境問題など、創業当時と現在とでは社会情勢は大きく変わっています。

近本 原子力では、スリーマイルアイランド(TMI)やチェルノブイリ、そして福島第一原子力発電所の事故が起きました。また環境分野についても、創業当時の環境問題と言えば、イタイイタイ病や水俣病などの公害問題が中心でしたが、今は気候変動対策、マイクロプラスチックも大きく取り上げられるようになりました。

――現在はどのような事業を行っていますか。

近本 当社は海外の原子力規制情報を各社に提供し、安全性評価・解析を行う原子力事業部門に加え、環境アセスメント、温暖化対応、大気・海洋環境、化学物質、水産資源、国際条約対応などを手掛ける環境事業部門、最新IT技術と専門知識の組み合わせによるソリューションを提案するシステム開発事業―の3本柱で事業を進めています。さらに水素サプライチェーンや水素社会構築を支える水素・アンモニア関連事業やCCUS(CO2回収・利用・貯留)、二国間クレジット制度(JCM)、激甚化する災害への対策など、時代の変化に応じて、さまざまな分野の事業を請け負っています。

時代に応じた業務を実施 CCUS・JCMも

――さまざまなエネルギー・環境分野の事業に取り組まれていますが、CCUSやJCMの取り組みについてお聞かせください。

近本 まずCCUSは、これまで当社が環境アセスメントの調査を数多く行ってきたことや、法改正に従事した実績を買われ、CCS(CO2回収・貯留)の調査業務受注するようになりました。21年7月からはインドネシア・グンディガス田で行われるCCS事業を主導してきました。これはガス田の掘削井にCO2を注入しながら生産することで、CO2貯留と高効率生産を両立するCO2―EGRを行うというもので、現地企業では国営石油会社のプルタミナや学術機関などが参加し、日本側ではJパワーと日揮グローバルが参加しています。

CO2を古いガス田に注入し、ガス田に残ったガスを圧力で押し出しつつ、CO2を地中に貯留する
出典:経済産業省ウェブサイト

――JCM関連はどうですか。

近本 当社では90年代から水力発電所や石炭・天然ガス火力の環境アセス業務のほか、クリーン開発メカニズム(CDM)の開発や組成支援をしています。その後も環境省や経済産業省、国際協力機構(JICA)などの予算を活用した環境技術導入に関する実現可能性調査も実施し、脱炭素に向けた制度構築支援や政策提言を行ってきました。中でも、最近では都市間連携の枠組みを利用した富山市と愛媛県の海外事業のコンサルティングを行っています。

 富山市ではモルディブ・マレ市と連携して、公共交通システムや再生可能エネルギー、有機性廃棄物の循環利用設備などの導入支援を行っています。昨今はゼロカーボンシティ宣言を行う自治体も増えています。地元が持つ技術を海外に展開することで、世界の省エネと経済発展を両立できます。当社としてもこうした事業を支援したいと考えています。

常に社会問題の最前線に 気の利く人材を世に提供

――今後の展望はありますか。

近本 例えばマイクロプラスチック問題は、ここ数年の間に欧州で問題提起されたことで日本でも大きく扱われるようになりましたが、当社は環境省や自治体とともに十数年前から取り組んできたテーマでした。社内では、われわれの業務は先見の明をつけ続けることだと話しています。世の中をウォッチすることで、社会問題の最前線に常に立っていることが重要です。

――常に最前線に立ち続けるためには何が必要ですか。

近本 少し高い視座を持つことではないでしょうか。日常業務を行う中で少し周囲に目配せをすることだけでも広い視野を持つことができますし、少し気の利く人材になることで、新たな仕事につながることもあります。

 これまで「エネルギー」と「環境」は異なる分野として論じられてきましたが、SDGs(持続可能な開発目標)に代表されるように社会問題はより複雑さを増してボーダーレス化しています。当社ではこうした状況下でも、若手社員を中心に横断的な取り組みが行われているのは非常に心強いと思います。また当社は技術性評価に強みのある会社でしたが、現在はLCA(ライフサイクルアセスメント)や経済波及効果など、経済性の観点も求められています。官民のニーズに応えられるよう鍛錬を積み、社会問題にコンサルティングの力で貢献していきます。

迅速に世に出たコロナワクチン 日本で開発が進まないワケ


【業界紙の目】中村直樹/科学新聞 編集長

コロナ禍でm(メッセンジャー)RNAワクチンが1年以内に開発・生産された。

欧米で新型コロナワクチンが迅速に開発できた理由と、いまだそれができない日本に足りないものは何か。

 この原稿を書いている2021年12月初め時点では、日本国内の新型コロナウイルスの感染は落ち着いているものの、オミクロン株の出現と世界での感染拡大、国内での患者の発生により、予断を許さない状況になってきている。

新型コロナウイルスは、その表面にスパイクタンパク質という多数の突起を持っており、それが人間の細胞のACE2受容体(細胞表面にあるタンパク質が結合する部分)と結合し、ウイルスを構成するRNAゲノム(人間のDNAに相当する)を細胞の中に流し込むことで感染する。ウイルスのRNAゲノムは人間の細胞が持つシステムを利用して細胞内で自分のコピーを作り、それを細胞の外に出すことで増えていく。そして次の細胞に結合してさらに増殖する。

こうしたウイルスに対して、人間の身体は二つの免疫システムで対抗している。一つは自然免疫と呼ばれ、体外から入ってきたウイルスや細菌などを、それらの種類には関係なく攻撃する。もう一つは獲得免疫で、一度入ってきたウイルスを覚えておいて、それに特化した対抗手段でウイルスの増殖を抑えたり、攻撃したりする。

ワクチンは、この獲得免疫の役割を強化する。つまり、ウイルスが最初に細胞に取り付くときの目印となるACE2受容体と似たものを作ってウイルスのスパイクタンパク質に被せてしまうことで、そもそも感染できなくする。また、対象のウイルスを攻撃する能力も強化する。

ウイルスの許容量がカギ 欧米ではmRNA研究に実績

ウイルスが自分のコピーを作るときにミスをすることがある。このRNAゲノムのコピーのミスによって、いろいろな変異が起こるが、ダーウィンの進化論でいう適者生存によって、たまたま環境に適して生き残ったものが変異株と呼ばれる。そのため、市中に出回るウイルスの種類は、初期の武漢株からアルファ株やベータ株に変異し、より感染力の高いデルタ株に置き換わってきた。

また、ワクチンを2回打ったのにどうして感染するのか。一言でいうと、自然免疫とワクチンで強化した獲得免疫による許容量を超えるウイルスが喉や肺などに入ったためだ。呼吸する以上、人体内には常にウイルスや細菌が入ってくるが、免疫システムが攻撃して感染を防いでいる。例えば居酒屋で飲んだ時、近くに感染者がいたとして、○分間に入ってくるウイルス量は自然免疫で対抗できるが、それ以上経つと許容量を超えて感染する。ワクチンで免疫を押し上げると許容ウイルス量が増えて、□時間までは免疫システムが入ってきたウイルスに対応するが、それを超えると感染してしまう。同じ空間にウイルスを排出する感染者が多いほど、感染までの時間は短くなる。従って2回打っていても許容量を超えれば感染する。

新型コロナウイルスのワクチンとして最初に登場したのが、mRNAワクチン。mRNAは、体内でさまざまな情報を伝えることでタンパク質を作らせたり、免疫の機能を強化したりする。上手く利用すれば、さまざまな病気の治療に使えるのではないかと1970年代から考えられてきたが、成功しなかった。mRNAを体外から入れると激しい拒絶反応が起こり、細胞が死んでしまうからだ。

この拒絶反応を防ぐ方法を開発したのが、ハンガリー人の女性研究者カタリン・カリコ博士。彼女は70年代に当時社会主義国家だったハンガリーから米国に研究者として渡りmRNAの研究を続け、2005年に拒絶反応を抑えることに成功する。しかしペンシルベニア大学では冷遇され、09年には上級研究員から非常勤研究員に降格されてしまう。それでも諦めず研究と講演活動を進めていると、ドイツのビヨンテック社(08年設立)の創業者ウダル・サヒン博士と出会い、同社のバイス・プレジデントに就任し、mRNAワクチンの開発に取り組む。

ワクチンと言うと、日本では感染症に対するものというイメージが強いが、世界の研究界で主流になっているのはさまざまな疾患に対するワクチンだ。ビヨンテックが開発を進めていたのは、ガン、インフルエンザ、ジカウイルスに対するワクチンで、18年からはファイザーと共同でmRNAを使ったインフルエンザワクチンの開発に着手していた。

20年1月に中国・武漢で発生した新型コロナウイルスに関する論文が出ると、同社はすぐにワクチンの検討を始め、3月にはファイザーと共同研究契約を締結し、4月には臨床試験を開始。11月には臨床試験の結果が出て、FDA(米食品医薬品局)での認可を得て、接種が始まる。

日本は基礎研究不足 ベンチャー巡る環境も不利

凄まじいスピード感で開発が進んだ欧米と異なり、日本では新型コロナワクチンは開発できなかった。さまざまな理由があるが、一つはワクチン開発の基礎研究が不十分だったことだ。一部の研究者はmRNAワクチンも検討していたが、カリコ博士の40年来のノウハウに敵うはずもない。また不活化ワクチンなどについても、感染症に対する研究資金が元々少ない。新型インフルエンザ流行時(09年)から数年間は増えたものの、その後予算は縮小され、多くの研究者が離れていった。

国産ワクチンの流通はいつになるのか

決定的な違いは、創薬系ベンチャーと大企業の姿勢だ。米国では、新薬の約半分がベンチャー発であり、そうしたベンチャーには投資が集まり、製薬大手も投資や買収に活発に取り組んでいる。一方、日本では創薬ベンチャーが増え始めたものの、ベンチャーキャピタルの投資はIT系に集中し、時間のかかる創薬系への投資は少ない。また大手製薬企業も買収や投資、共同には消極的だ。こうした姿勢を変えない限り、同様の危機に対応することは難しいだろう。

日本政府は、ワクチン開発・生産体制強化戦略を閣議決定し、今回の補正予算でも8101億円を計上しているが、重要なことは、基礎研究から実用化に至る継続的なエコシステムを構築できるかどうかだ。

〈科学新聞〉〇1946年創刊〇発行部数:週4万部〇読者構成:大学、公的研究機関、民間研究機関、科学機器メーカー、官公庁、自治体など

ガス事業の課税方式変更 全面見直しには至らず


政府・与党の2022年度税制改正大綱が決定し、都市ガス事業者12社や製造事業を行う新規参入者を対象とする事業税の課税方式が見直されることになった。現行では、一般の事業者よりも負担が重くなりやすい収入金課税の方式が採られており、小売り全面自由化後の競争激化や、22年に控える東京・大阪・東邦の大手3社の導管分離を踏まえ、業界側がほかの事業者と同じ所得割方式に見直すよう要望していた。

これに対し、強硬な反対姿勢を見せたのが地方税収を安定的に確保したい総務省。結果的に、西部、北海道、静岡、京葉など大手3社以外については全面的に所得割に見直す一方、大手3社とそのエリア内にある製造事業者については、課税額の4割についてのみ所得割と「付加価値割」「資本割」の外形標準課税を組み合わせる課税方式を採用することになった。

課税方式見直しにより、税負担の軽減につながるものの、ガス導管の普及促進のために設けられている固定資産税特例が廃止されるため、実質の軽減効果は半減する見通し。規制が残る導管部門は、今回の見直しの対象外だけに、業界関係者にとっては腑に落ちない結果と言えそうだ。

原油価格高騰で異例の判断 国家備蓄放出から見えるもの


【論説室の窓】関口博之/NHK 解説委員

原油価格が高騰する中、政府はバイデン米大統領の呼び掛けに応じ、初の国家備蓄放出に踏み切った。

カーボンニュートラルを目指す中、「移行期」には最適な現実解を求めることも必要になる。

 原油高騰が続く中、日本政府は2021年11月24日、石油備蓄の「放出」を決めた。アメリカのバイデン大統領の協力呼び掛けに応じたもので、日本のほか、中国、インド、韓国、英国が協調して放出することとなった。過去に備蓄放出を主導したIEA(国際エネルギー機関)が参加せず、インドや中国といったIEA非加盟国が加わる。アジアの主要消費国と米英が組んだ形で、日本エネルギー経済研究所の小山堅首席研究員は「異例の組み合わせという点にも注目すべきだ」としている。

日本にとって国家備蓄の放出は初めてだ。ちなみに1991年の湾岸戦争時や2011年の東日本大震災の際に備蓄放出は行われたが、これは民間備蓄についてだった。石油備蓄法は放出を、紛争などによる供給途絶の恐れや災害時、つまり供給が不足する事態に限定していて、価格の抑制を目的とした放出は想定していない。このため政府は、今回の事実上の放出も「定期的な油種の入れ替えを前倒しするもの」との説明だ。いずれにしても異例の判断であることは間違いない。

国家備蓄は紛争など供給不足を想定している

数百万バレルを放出 価格高騰を抑止できるか

21年9月末時点での備蓄は国家備蓄が国内消費量の145日分、民間備蓄が90日分、産油国共同備蓄が6日分となっている。国家備蓄・民間備蓄とも目標値を大きく越えているが、実際に石油元売りや商社などへ今後、売却される量は1~2日分、数百万バレルにとどまる見込みだ。一方、アメリカは今後数か月で5000万バレルを放出するとしている。

では、これが原油の価格を抑え、反転させることにつながるのか。業界関係者の多くは、マーケット規模に比べこの程度の量では効果は限定的だと見る。いわば口先介入的な効果にとどまるとの見方だ。となると今回の日本の立ち位置も「お付き合い的参加」ということになろう。10月後半に1バレル85ドルを付けたWTI先物価格は、アメリカの備蓄放出の観測を織り込んで、11月中旬に76ドル台まで下がった後、協調放出が発表された後はいったん、78ドル台まで上げる形となった。

次の焦点は産油国側の出方になる。そもそもバイデン政権の協調放出の呼び掛けは、大幅増産に否定的なOPEC(石油輸出国機構)プラスを牽制する目的で行われている。産油国側が反発し、いわばしっぺ返しに出てくることも考えられた。市場が固唾を飲んで見守る中、21年12月2日のOPECプラスは、1月の生産も既定方針通り増産を続けることを決めた。消費国と産油国の全面対立は、ひとまず杞憂に終わった。折しも新型コロナの新たな変異株「オミクロン株」が各国で確認され、世界経済への悪影響への懸念から原油価格が急落したこともあって、増産を見送るのではないかという観測もあったが、OPECプラスは毎月40万tの小幅増産は維持した。景気の先行きが不透明だからこそ、今はアメリカなどとの衝突は回避しようと考えたとみられる。 

一方、少し長い目で見た場合、今回の備蓄放出の対応は、中東産油国と独自の友好関係を築いてきた日本にとって、アメリカと中東産油国との間で板挟みになりかねないおそれもはらんでいる。この点について石油連盟会長のENEOS杉森務会長は「産油国にも日本の立場は理解されている。関係悪化は心配していない」とするが、今後も資源外交上、神経を使わざるを得ない課題だ。

それ以上に俯瞰した視点でみると、高騰と足元での価格の乱高下が、「脱炭素化」という大きな潮流の中で起こっていることに注目すべきだろう。折しも11月13日に閉幕したCOP26(気候変動枠組み条約締約国会議)は1・5℃目標に向けた努力の追求を明記し、何らかの形でカーボンニュートラル、あるいはそれに近い目標を表明した国も排出量全体の9割に達した。総じてみれば気候変動問題への大きな前進といえる。

こうした脱炭素の機運が加速する中で、必然的に化石燃料の資源開発への投資は縮小されてきている。近年は投資家や金融機関による投融資案件の選別も進んでいる。IEAによれば、原油や天然ガスの開発や生産に投じられた資金は、20年には前年比で3割も減ったとされる。そのIEA自身も、50年のカーボンニュートラル(ネットゼロ)から逆算すれば、化石燃料への新規の開発投資は不要になるとの趣旨を21年5月の報告書に盛り込み、波紋を呼んだ。

思惑が市場を不安定に 「移行期」の難しさを露呈

化石燃料の生産が先細りしていくという展望がリアルなものとなってくる一方で、人類はしばらくは化石燃料に頼らざるを得ないのも現実だ。となればいずれ化石燃料の需給ひっ迫が起こるのではないか、こうしたことが意識される中で、原油にしろ天然ガスにしろ、石炭にまで価格上昇の圧力が掛かってきている。まさに脱炭素を見越した市場の動きと言っていいだろう。実需の反映だけでなく、こうした思惑が市場を不安定なものにし、価格の振れ幅をより大きくしかねない。ここに「移行期」であればこその難しさがある。

考えてみれば、COP26で脱炭素化へ国際社会が決意を固めた直後に、一転して〝産油国に石油の増産を要求している〟というのは皮肉な事態だ。そこにわれわれが抱える矛盾があるともいえる。だとすれば理想論をかざすだけでなく、「最適な現実解」を求めていくことも重要だろう。たとえば化石燃料を脱炭素化して使い続けるという発想だ。例えばアジアでの火力発電でのCCUSの実装しかり、同じく火力発電での水素・アンモニアの混焼もそうだろう。

こうした「移行期を乗り切る」戦略をわれわれは考えていく必要がある。一定の期間、一定の上流投資を続けていくことも考えれば、産油国などと消費国の協力・協調も必要になる。「最適な現実解」を模索するため、日本が持っている中東産油国との良好な関係という外交的な資産を有効に使い、橋渡し役を果たすことが重要になってくると思われる。

経産省がCP議論を加速 炭素取引新市場の検討開始


経済産業省が、カーボンプライシング(CP)の一環として創設する「カーボンクレジット市場」に関する議論をスタートさせた。2022年度中に実証を始める予定だ。同省は将来的な排出量取引制度の導入を見据えており、ほかにも企業の自主的な取り組みを促す「カーボンニュートラルトップリーグ」に取り組む。CP政策をけん引し、炭素税議論を封じ込める狙いもあるようだ。

12月8日に新たな検討会を設置。新市場の基本設計などを議論し、報告書を22年春に取りまとめる。企業の間ではカーボンニュートラルLNGなどクレジットの活用が盛んになっているが、民間主導のクレジットには多様な方法論や性質のものが混在する。どんなクレジットがNDC(国別目標)に計上できるかなど、用途に応じた活用方針を整理していく。

一部では、カーボンニュートラルへの企業の足並みをそろえるため、50年までのどこかの段階で義務的な排出量取引の導入が必要になるとの意見が出ている。その時期は、新市場やトップリーグ、代替技術開発の進捗などに左右されることになる。