地熱発電の普及に向けて研究実施 「地上」「地下」「社会」の課題解決を支援


【電力中央研究所/窪田ひろみ サステナブルシステム研究本部 気象・流体科学研究部門 上席研究員】

くぼた・ひろみ 筑波大学大学院修了後、電力中央研究所入所。環境リスク学、社会心理学、毒性学が専門領域で、地熱発電研究にも従事。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、自治体主催の地熱会議等の委員を務める。2017年7月から現職。

地熱発電事業者向けツールの開発など、電中研では地熱の有効利用に向けた研究を行っている。

これら研究や各種機関の委員も務める窪田ひろみ上席研究員に、地熱発電の現状と展望などを聞いた。

 ――日本の地熱資源のポテンシャルは世界第3位と言われていますが、地熱開発はなかなか進展していません。その課題は。

窪田 発電を行うには地下から蒸気や熱水を取り出す必要があります。これらの有無や利用可能量は掘削してみないと正確に把握できないため、ポテンシャル試算量の全てが発電に利用できる訳ではありません。また掘削費用は高額であり、有望地の絞り込みには開発リスクが伴うため、民間企業では手を出しにくいのが現状です。

 近年、自然公園内での開発に係る規制緩和により開発可能な地域が増えましたが、熱源までの道路、送電線などの整備が新たに必要となり、開発の難易度は未だ高いといえます。さらに地域関係者との丁寧な協議など、時間とコストが掛かります。太陽光や風力などの再生可能エネルギーと異なり、「地上」「地下」「社会」に係るさまざまな配慮が必要です。

――諸課題の解決へ、電中研はどのような研究を行っていますか。

窪田 「社会」の課題を解決するには、開発候補地が抱える地域事情や開発に対する考えを事業者側が理解しなければなりません。また地熱発電の意義やしくみ、開発による便益やリスクなどを地域関係者に分かり易く伝える必要があります。これに関しては、地熱開発に伴う地域産業への経済効果を可視化する手法の調査をNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)事業として進めています。

 「地上」「地下」の技術的な面では、例えば石油天然ガス・金属鉱物資源機構と高温岩体発電技術を使って圧力により地中に人工的な亀裂を作り、隙間にCO2を注入して蒸気を作る「カーボンリサイクルCO2地熱発電技術」の共同研究を進めています。他にも配管などを腐食させる硫化水素のIoTモニタリング手法開発など、安全な発電所操業に向けた技術開発もNEDO事業で行っています。

地熱発電の運営を手助け 事業者向けにツールを開発

――「GeoShinkTM(ジオシンク)」と「事業性評価支援ツール」を地熱事業者向けに開発しました。

窪田 FIT導入以降、余剰の温泉や温泉熱を活用した数十から数百kW程度の小規模地熱発電が80件程度増加しました。しかし、設備等のトラブルが多い発電所もあり、全体的に設備利用率は低く、多くの事業者は想定していた程の収益を得られていません。

 ひとたび発電設備に故障などのトラブルが起きれば、修理完了までに長期間を要することもあります。発電停止中は売電収益を得られず、FIT対象期間も延長できません。このためNEDO事業で、デジタル技術を使って設備の異常予兆の検知や健全性診断が可能な「ジオシンク」と、定期点検費用、維持管理費用などの支出と、FIT価格などを入力することで、発電事業のキャッシュフローを分かりやすく表示する「事業性評価支援ツール」を共同開発しました。

GeoShinkTMのシステム図

――両ツールにはどのような特徴がありますか。

窪田 「ジオシンク」は、発電設備の稼働状況のモニタリングデータを解析するツールです。数値の変動を監視することで、故障やトラブルの発生原因を遠隔地から早期に検知することが可能です。

 「事業性評価支援ツール」は、電中研とエンジニアリング協会(ENAA)が共同開発したエクセルベースの家計簿のようなツールです。

 トラブル要因や対策内容・費用だけでなく、写真形式のデータも登録可能で、紙の領収書や交換部品など、メンテナンスにかかる各種データを一元管理する機能もあります。またジオシンクでの発電電力量の分析結果の一部を計算モデルに搭載しているので、売電収入の近似値を算出できます。事業収支の観点から最適な点検スケジュールといったシミュレーションを事業者自身で行えるので、事業者の最適な設備運用や収益性の向上に繋がることが期待されています。

「地元」「事業者」の橋渡し 持続可能な地熱発電に貢献

――研究の展望を教えてください。

窪田 現在の専門領域は主にリスクコミュニケーションや事業性評価で、事業者と地域関係者の相互理解や信頼醸成に資する事業者側の改善策などを研究しています。例えば、事業者は地熱開発により地域が得られる便益や開発リスクなど、地域の関係者が知りたいあらゆる情報に対応する必要があります。

 また地域関係者の信頼を得るためには的確な説明だけではなく、誠意や誠実な対応・態度が重要です。このような学術的・科学的な内容を分かりやすく伝える方法や対話の場づくりなど、双方向的なコミュニケーションを支援しています。

―地熱エネルギー利活用推進に向けて意気込みを。

窪田 地熱発電は現在の電源構成の中で0・2%に過ぎませんが、原子力、水力と同じくベースロード電源としての役割を果たし、更に熱利用により省エネにも貢献しています。

 持続可能な地熱資源エネルギー利用により地域内で便益が循環し、地域社会の問題解決にも役立つ環境づくりに貢献したいと考えています。

【マーケット情報/12月3日】原油続落、需給緩和観さらに強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続落。需給緩和観が一段と強まり、売りが優勢となった。ドバイ現物は前週から6.93ドルの急落となった。

新型コロナウイルスのオミクロン変異株の感染が拡大している。世界保健機構(WHO)は2日時点で、同変異株の感染を23か国で確認。また、日本、豪州、イスラエルなど、さらに複数の国が入国規制を再導入した。これにより、燃料消費の減少や、経済の停滞および石油需要後退への懸念が広がった。

そんななか、OPECプラスは、1月も当初の計画通り日量40万バレルの増産で合意。「必要に応じて、迅速に産油量を調整する」と声明を出したものの、需給の引き締め要因にはならなかった。加えて、米国も計画通り、戦略備蓄5,000万バレルを放出すると発表した。

一方、米国とイランの核合意復帰を巡る会合は、米国がイランを批判し、進展のないまま終了。米国の対イラン経済制裁は解除されず、イラン産原油の供給増加は当分見込めないとの予測が強まった。また、米国の週間在庫は減少。ただ、価格下落の抑制にはならなかった。

【12月3日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=66.26ドル(前週比1.89ドル安)、ブレント先物(ICE)69.88ドル(前週比2.84ドル)、オマーン先物(DME)=70.82ドル(前週比5.62ドル安)、ドバイ現物(Argus)=70.49ドル(前週比6.93.ドル安)

【コラム/12月6日】再エネのグローバルスタンダードとローカライゼーション


渡邊開也/リニューアブル・ジャパン株式会社 執行役員 管理本部副本部長兼社長室長

2021年10月に第6次エネルギー基本計画が閣議決定され、また、英国のグラスゴーでは10月31日から11月13日まで、約200カ国・地域の代表が集まり、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が開催された。

COP26の成果文書である「グラスゴー気候合意」が採択され主な合意としては、①気温上昇を1.5度に抑える努力を追求②必要に応じて22年末までに30年の削減目標を再検討③排出削減対策の取られていない石炭火力の段階的削減へ努力④先進国による2020年までの年間1000億ドル資金目標が未達成であることへの多くの途上国からの批判――といったところだ。

地球温暖化に対して世界各国がそれぞれの利害を超えて取り組んでいくというのは、言わずもがな地球温暖化対策に向けた取り組みがグローバルスタンダードになるということかと思う。更にその具体的な手段として再生可能エネルギーの普及を図るというのもグローバルスタンダードと言ってよいだろう。

その一方で、グローバルスタンダードを実現するためには、「ローカライゼーション」が大切になってくると考える。

ところでローカライゼーションとは何だろう? 一番ピンと来るのは言語だろう。フェイスブックやツイッターは、それを使う人の言語に対応していないとなかなか普及しない。私もフェイスブックは知人のフランス人に紹介されて英語版しかない時に使い始めたが、やがて日本語対応してから、日本国内で一気に拡がっていったと思う。また天気予報のアプリはスマホの位置情報と連動して、自分の住んでいる地域や旅行先の天気予報が見られる。これもローカライゼーションで、新聞の地域紙面や地域情報誌、ポータルサイトの表示や求人広告の表示が地域限定で出るのもローカライゼーションだ。挙げだしたらきりがない。

その点で、ある意味第6次エネルギー基本計画もローカライゼーションと言えると思う。

私がどうしてローカライゼーションを話題にするのかというと、「最近の脱炭素社会に向けての論調の中に、日本という観点でのローカライゼーションはあるのか?」「開発にあたって地域におけるローカライゼーションを意識する観点が具体的にあるのか?」ということを思ったからである。

例えば風力発電の場合、発電所のメンテナンスは、風車の製造会社が手掛けるのが一般的だ。しかし、その製造会社はほぼ全てが外資系企業であり、日本はあくまでone of themの市場だ。果たしてどこまでローカライゼーションをしてくれるのだろうか? 日本の気候や土地柄(景観なども含めて)風車を開発しようというインセンティブは働くのだろうか?

先日、たまたま日本の風力発電を研究されている方のお話を聞くことができたのだが、私の記憶が正しければその方は風速30-40m/秒でも発電する風車で、大きさも大きくない中小型風車を研究しているとのことだった。また太陽光発電所をデジタルに運営管理するソフトウェアの開発をしているスタートアップの会社とお話をしたが、元々は数百MW規模の発電所をデジタルマッピングして管理していくというコンセプトで開発していたのだが、日本では低圧が多いので、そういう規模の小さい発電所をデジタルで一元管理するというニーズがあるとのことだった。

エネルギーというのは人々のインフラなので、資本の理論だけでなく、地域の特性も踏まえて開発するということを改めて意識すべきではないだろうか?

COP26の開催に合わせて化石賞をいただいたという脱炭素の推進で欧米に対して気後れし、グローバルスタンダードという名のもとに進めるのではなく、テクノロジーの進化はよりカスタマイズできることにあると考えるのであれば、四季折々の姿がある気候、国土の約7割が森林、少子高齢化が進む人口構造や地域の過疎化等々、再生可能エネルギーの普及に際しては、ローカライゼーションを意識していくべきではないだろうか?

出典:https://www.env.go.jp/press/files/jp/117098.pdf

「気温1.5度内追求」COP26閉幕、石炭火力は段階的削減: 日本経済新聞 (nikkei.com)

世界を覆うガス供給不安 欧州発の価格高騰止まらず


世界的なエネルギー価格高騰と供給不安が続いている。11月17日、欧州天然ガス価格の指標であるオランダの「TTF」の翌月先物が、1MW時当たり101・60ユーロ(100万BTU当たり33・7ドル)を付けた。

10月末にロシアのプーチン大統領が欧州のガス貯蔵施設への供給増を表明して以降、価格は下落傾向にあったが、約1カ月ぶりに高騰に転じた。これは前日の16日に、ドイツ政府が露―独をバルト海経由で結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の承認手続きの一時停止を表明し、再び供給懸念が生じたためだ。

ノルドストリーム2の稼働遅れの影響は深刻

例年であれば90%近くまで充填されている欧州の天然ガス地下貯蔵は、年初の厳冬による激減から回復しきっておらず、現在も7割程度にとどまっている。市場関係者は、「ロシアから十分な供給が見込めなくなる。このまま今冬も厳冬で消費が加速するようなことになれば、来年2~3月ごろには在庫が枯渇する」と語り、燃料不足により欧州各国が停電危機に見舞われる恐れを示唆する。

基地の整備とLNGの市場化の進展で欧州の輸入量が一気に増えた2019年以降、世界のガス・LNG価格は相関を強めている。日本にとっても、欧州のガス価格高騰と需給危機は対岸の火事ではなく、実際、TTFにつられる形でJKM先物も高止まりしている。

さらなる懸念は12月以降、日本の電力・ガス会社の多くが長期契約を結ぶマレーシア産LNGの供給量が、生産設備の問題から大幅に減少する可能性が出てきたことだ。電力・ガス会社の調達計画に狂いが生じることになれば、スポット調達の争奪戦と価格高騰に拍車を掛けることになりそうだ。

【イニシャルニュース】自民党入りしたH氏 乱開発阻止の本気度は?


自民党入りしたH氏 乱開発阻止の本気度は?

10月31日の衆院選に無所属で立候補し、自民党公認のY氏らに圧倒的な差を付けて当選したH氏。これまでの「無所属の自民党特別会員」という立場を脱し自民党への入党が認められ、政治家として新たな一歩を踏み出した。

そんなH氏の選挙区では、メガソーラーの乱開発が問題となっている。H氏はこれに批判的な立場を表明、地元住民の支持も集めているが、関係筋によると、「H氏は再エネ業界との関係が深いのもまた事実」だという。

H氏は、地元のZ社が出資する再エネ企業の経営者X氏と親交がある。X氏は、再エネ系団体で中心的な役割を果たしており、K知事ともつながりがある人物だ。

「今回衆院議員となったH氏を巡っては、K知事の後釜を引き続き狙ってくるのではないかと噂されている。K知事はかねて再エネ寄りの政策を取っており、Z社グループやX氏の支援を受けている。知事の座を狙うにしても、国会議員を続けるにしても、彼らの協力は不可欠なので、太陽光開発規制にどこまで本気になれるかは微妙な立場だと思う」(再エネ関係者)

一方で、地域の温泉業界からはH氏に対する批判的な声が聞こえる。「H氏は以前、特定の地熱業界幹部の意向だけを聞いて地熱発電を推進し、温泉業界の声には耳を傾けようとしなかった。そんな人物が太陽光反対を叫んだところで、信頼することはできない」(地熱発電関係者)

また、地域の水力事業を手掛ける企業の幹部は「4年前の総選挙に際し、H氏は太陽光の強引な開発手法が批判された企業の子会社から大金を借り入れた経緯がある。太陽光開発を批判する資格はないのでは」と手厳しい。

今回の衆院選の結果を見るまでもなく、地元におけるH氏の人気は圧倒的。だからこそ、政治的な事情やパフォーマンスばかりではなく、地域住民に寄り添う真摯な姿勢が求められる。

くすぶり続けるB連合 電力幹部が悔やむ過去

BWR(沸騰水型炉)の再稼働がなかなかスピードアップしない。ようやく最近、女川2号、そして島根2号の新規制基準への適合が認められたものの、これらに続くプラントの見当がつかない状況だ。さらに女川2号も工事完了は2022年度を目標としており、BWR稼働ゼロの状況は当面続くことになる。

こうした中、BWR連合構想が再注目されている。19年に東京電力、中部電力、日立、東芝の4社が原発の共同事業化検討で合意した後、表立った動きは出ていない。

新政権でBWR連合に注目が

しかし、昨年来の柏崎刈羽発電所での核物質防護に関する一連の不祥事が後を引いていること、さらにBWR連合を志向していると言われている嶋田隆氏が、岸田政権の筆頭首相秘書官に就任したことなどから、再び動きがあるのではないかという憶測が一部で流れている。政府内からも「BWRが動かない限り、原子力は次のステップには行けない」といった焦りが聞こえてくる。

電力会社幹部によると、実は水面下ではかつて、BWR連合につながる議論がある程度進んでいた時期があったと言う。「電力システム改革で発送電分離を決める時、原子力を切り離すという話も出ていた。しかし結局、表に出ることはなかった。現状を考えれば、当時議論が煮詰まらなかったことは返す返すも残念だ」(某大手幹部X氏)。

ただ、立地地域はこうした構想について「そんな話が出ているのか。しかし看板が変っても地域住民にとっては意味がない話」(K市担当者)と、中央の動きを冷ややかに見ている。

卸電力市場暴騰の前触れか スポット上昇の要因を探ると


昨冬のような卸電力市場価格暴騰の前触れなのか――。

冬本番を前に、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場価格が例年になく高い水準で推移している。10月以降、時間帯によって1kW時当たり50円を超え、11月17日には一時65円の高値を付けた。

この季節外れの価格上昇について、電力業界関係者は「点灯時間帯と太陽光発電の出力減が重なるタイミングで大量の買い注文が出ている。それに見合う売り札がなく、買い手が価格を釣り上げざるを得ないのだろう」と分析する。

この背景にあるのが、アジアのLNGスポット指標「JKM」の高騰。100万BTU(英国熱量単位)当たり40ドル近く(発電単価約30円/kW時相当)で高止まっている。一方、卸電力価格のスパイクは1日に1コマあるかどうか。平均20円を下回っていては、発電事業者は消費を抑制し次の受け入れまでしのぐしかない。

発電事業者は、稼働ユニットを絞ったり価格の安い時間帯に買い札を入れたりしているのに加え、11月に入り、西日本の各社が燃料制約からLNG火力に出力制限をかけている。

11月上旬以降、複数のLNG火力で燃料制約が生じている(写真は新大分発電所)

燃料価格と卸電力価格のいびつな関係を解消しない限り、機動的な燃料調達は不可能だ。「世界がLNG争奪戦を繰り広げる中、厳冬にならずとも売り札不足に陥ることは十分にあり得る」(前出の関係者) 東北電力が追加的な燃料調達を考慮した卸電力市場への入札を決めるなど、電力価格に燃料指標をより反映させるための見直しが進む。新電力にとっては厳しい限りだが、昨冬のように200円/kW時に張り付く事態を回避するには、受け入れざるを得ないようだ。

「太陽光の乱開発は許さない」 自治体首長の本腰に事業者は?


本誌が報じた山梨・甲斐、静岡・函南両市町の太陽光乱開発問題に動きがあった。

反対運動の高まりを受け、事態改善へ本腰を入れる自治体首長。事業者の対応はいかに。

 「単なる私の思い過ごしならいいのだが……」

静岡県函南町軽井沢の山あいで進む大型メガソーラー建設計画を巡り、計画変更を届け出た事業者に対し町側が「不同意」を通知したことが明らかになった。建設反対を訴える住民側にとっては朗報のように見えるが、全国再エネ問題連絡会の山口雅之・共同代表の表情はなぜかさえない。その理由について、順を追って説明しよう。

この計画は、中部電力系工事会社のトーエネックが、2018年4月に国のFIT(固定価格買い取り制度)認定IDを取得。不動産開発会社のブルーキャピタルマネジメントが、発電所の施工を手掛ける事業構成になっている。

これに対し、土砂災害の誘発などを心配する地元住民らが反対運動を展開。去る7月3日には、軽井沢地区から東にわずか4㎞ほどの距離にある熱海市伊豆山で大規模な土石流災害が発生し多くの人命が奪われたことで、地元の不安は頂点に達した。しかしトーエネックは計画続行の姿勢を変えず、同月26日に「函南町自然環境等とエネルギー発電事業との調和に関する条例」(再エネ条例、19年10月施行)に基づく「再エネ発電事業届出書」を町に提出した。

この条例には、町長の同意なしに施設を設置できないとする規定がある。「本計画は不同意の要件である事業抑制区域に該当するため同意はあり得ない」とする住民側の訴えをよそに、町では事業者が条例施行前に静岡県に林地開発許可申請を行っているため、「事業に着手済み」と解釈。遡及適用は難しいとして、同意・不同意の判断を見送る姿勢を示していた。

突然の計画変更の狙いは 「不同意」に不可解な点

「伊東市と伊豆メガソーラーパークの訴訟を巡る東京高裁の判例(4月21日付)からも明らかな通り、遡及問題は起こり得ない。にもかかわらず町が法的根拠なく判断を1カ月以上放置するなら、町長に対する義務付け訴訟もあり得る」。住民側の強硬姿勢を背景に動いたのは、町ではなく、トーエネック。事業届出から3週間後の8月24日に突如、発電出力や運転開始時期などの計画を変更する旨を届け出たのだ。すると、町側は変更部分には条例適用が可能と判断。10月27日、防災上の危険など14項目を理由に「不同意」を通知するに至ったわけだ。

この結果、メガソーラーの設置は事実上認められないことになり一件落着か。と思いきや、前出の山口代表は「まだ安心はできない」とした上で、こう続けた。

「今回の不同意については、事業者によるトラップの可能性が考えられる。何よりトーエネックとブルーは条例施行から2年もの間、届け出を拒み続けていたのに、7月に一転申請に踏み切り、そのわずか3週間後に今度は変更を届け出たこと自体が不自然だ。今後、事業者は変更届を取り消すなどで不同意の効力をなくすシナリオを描いているのかも。今回の件でひとまず住民を安心させ、油断を生じさせる狙いがありそう」

山口氏によれば、町が事業者とつながっている可能性も否定できない。「町は条例制定前から計画推進の意思があったと認められる公文書が存在する」ためだ。また再エネ条例に定める事業抑制区域の件を、不同意理由に明記しなかったことも不可解だという。ともあれ、結果的には事業者の変更届のおかげで、町は義務付け訴訟を回避できた格好になった。

表向き反対の立場を取る自治体が、実は水面下で事業者と手を結んでいるケースは決して珍しいことではない。前出の伊豆メガソーラーパークの訴訟では、原告側の小野達也・伊東市長が係争の最中に被告側の事業者と計画推進に向けての密約を交わしていたことが発覚、謝罪に追い込まれた。

「町長の不同意を受け事業者が撤退するのか、それとも懸念していることが現実となるのか、今後の動きを注視していく」(山口氏)

もちろん、全国を見渡せば事業者寄りの自治体ばかりではない。太陽光の乱開発に対して、厳しい姿勢で挑む自治体も少なからずある。その代表が山梨県だ。

発電所の建設予定地は災害危険エリアに(函南町)

「信頼の土台が破壊された」 事業者撤退劇に知事激怒

「(甲斐市菖蒲沢の大型メガソーラーについて)安全確保のための対応をしてくださいと申し入れをしてきたが、責任を感じていないような形で(発電所を)譲渡したことは、社会的責任の欠如と言わざるを得ない。極めて不誠実な行為で、強い憤りを禁じ得ない」

長崎幸太郎知事は11月12日に開いた臨時会見で、メガソーラー事業者が県の要請に従わず発電所譲渡に踏み切ったことを、強い口調で非難した。問題の事業者は何と函南町と同じ、トーエネック、ブルーの2社である。

関係筋や報道によると、ブルー社が林地開発許可を受け昨年から工事を手掛けてきたメガソーラーの運営権利(FIT認定ID)を、トーエネックが取得。その後、調整池や水路、太陽光パネルの設置などで不正や欠陥が判明し、地元から不安の声が高まっていた。

こうした中、長崎知事は8月末にトーエネックの幹部を県庁に呼び、設備の工事と維持管理に万全を期すよう要請。同社側は「法令に従い、責務を果たしたい」と工事をやり直していたが、11月11日に担当者が来庁。ブルー社から「責任をもって設備を完成させるため買い戻したい」との提案があり、施設を譲渡する旨を伝えた。県側は「受け入れられない」と再考を求めたものの、翌12日に両社は譲渡契約を交わしたという。

「申し入れが完全に無視され、信頼の土台が破壊された」「場合によっては人の命が関わる問題を放擲して逃げ去るのは、あまりにも無責任」―。長崎知事の会見発言は痛烈だ。これを受け、トーエネックでは「譲渡後も工事の状況を現場で確認し、必要に応じて指導する」と説明。15日には藤田祐三社長ら幹部が県を訪れ、「知事の意向に配慮できず、おわびします」と謝罪した。

内情を知る関係者によれば、トーエネックの撤退劇は親会社の意向を踏まえたものとみられる。今後、函南町の案件からも同様に手を引く可能性もあるが、問題はそのやり方だ。「地域にきちんと理由を説明した上で、立つ鳥跡を濁さないよう最大限の配慮をもって撤退するのが筋。夜逃げのような態度が許されると思ったら大間違いだ」(山梨県関係者)

太陽光事業がコンプライアンス問題に発展するとは。FIT制度化の10年前には想像し得なかったような事態が現実化している。

電力での信頼性と安定性が高評価 ガス・水道の遠隔検針サービスを開始


【四国電力送配電】

電力スマートメーターによる実績を携え、ガスや水道での検針サービスを開始した四国電力送配電。 半年で無線通信端末の出荷台数が1万台を超え、四国の発展につながる新サービスも視野に入れる。

 「モノ」をインターネットに接続し、離れた場所から計測・制御したり、モノ同士の通信を可能にするIoT。既存のモノに付加価値を付け、暮らしを便利にする。

四国電力送配電は、送配電ネットワークを活用して新たな価値の創造に取り組んでいる。今年4月、電力スマートメーター(スマメ)を活用した「IoT向け通信回線サービス」を開始した。同社第1号の新規事業だ。

サービスは、ガスや水道のメーターなどに同社の無線通信端末を接続。電力スマメ用通信システムを介して、ガス・水道事業者に検針値などの情報を提供する。検針値や異常警報などの遠隔取得のほか、ガスではLPガスボンベの残量把握、開閉栓などの遠隔操作に利用できる。検針・保安業務の効率化や高度化につながるため、インフラ事業者からの注目を浴びている。

ガスメーターの多くは既に遠隔検針に対応した設計になっているため、現在のメーターに無線通信端末を接続するだけで利用可能だ。

「IoT向け通信回線サービス」のシステム構成図

電力スマメの信頼と安定性 長期的なコストも削減

同社のシステムの強みは、①四国全域に設置した電力スマメを使う、②電力検針での安定的な稼働実績がある、③強固な暗号化通信によるセキュリティー確保、④長期にわたるサービスの提供が可能―な点だ。

①と②は、設置済みの電力スマメの99%をカバーしており、電力の遠隔検針において既に7年間の稼働実績を有している。プラチナバンドと呼ばれる920MHz帯の近距離無線で、密で高い通信品質を保つ。③は、無線通信端末を遠隔操作して、ファームウェアの更新も可能だ。

④は、導入事業者にコスト面での大きなメリットをもたらす。遠隔検針には通信事業者などの回線を使う方法があるが、通信方式が変わるとその影響を受け、その都度無線通信端末の取り換え費用が発生する可能性がある。電力スマメを活用すれば、通信方式の変更には電力スマメ側で対応できるため、無線通信端末の取り換えが不要。事業者は取り換え費用が発生しないメリットがある。

こうした強みを持ちながらも、同社がガス・水道事業者にサービスを展開するのは初めて。なぜ送配電会社がサービスを提供するのかを説明するところからの営業活動だった。地道に何度も足を運び意見交換をして他業界の課題を知るとともに、ニーズに合うサービスを提案して導入につなげた。

企画部SM活用事業PJTの亀井聖司さんは「誠意が伝わり、『亀井さんと一緒に仕事がしたいから契約する』と言ってもらった時の達成感は何ものにも代えがたい大きな喜びでした。販売して終わりではなくそこから始まるサービスなので、これからもより強い信頼関係を築いていきたい」と話す。同じ思いでメンバーが力を合わせ、サービス開始から半年足らずで累計出荷数が1万台を突破。年間目標を達成した。

現在、四国にある約1000社のLPガス事業者のうち、大手の事業者を皮切りに着々と導入が進んでいる。

島しょ・山間部などで検証 水道事業にも大きな期待

水道については、全国のほとんどのメーターが遠隔検針に対応しておらず、無線通信端末を取り付けるにはメーターごと交換しなければならない。地面の下に設置するため強固な防水機能も必要だ。

導入にはハードルが上がるが、検針業務の効率化が求められているのは水道業界も同じ。四国に限らず、水道管の老朽化による漏水対応も喫緊の課題だ。水道メーターが遠隔検針に対応すれば細かい粒度で世帯ごと、短時間ごとのデータが取れるので、2カ月に1度の検針では発見されにくい漏水も発見されやすくなる。水道管設備の効率的な更新計画に活用できる。

こうしたことから水道業界でも遠隔検針への対応が本格的に検討され始めている。

同社は今年9月から、香川県女木島と愛媛県愛南町の水道メーターで実証試験を始めた。

女木島では香川県広域水道企業団と共同で集落の30世帯に設置。これまで高松市からフェリーに乗り、山道を登って検針していた業務が効率化できる。現地水道メーターの指針値と遠隔取得した指針値の整合性を確認し、検証を進める。漏水などの警報情報も提供し、水道使用量の見える化サービスも提案する予定だ。

愛南町では山間部などでの実証試験となる。一人暮らし世帯が多い、山あいに点在する22カ所に取り付けた。いずれも将来の遠隔検針の利活用に向けて、積極的に実証・評価を推進している。

ガスや水道といった新たな事業分野への展開について、奥村貴博副リーダーは「ガス・水道事業者の方との情報交換で、インフラに共通する課題が浮き彫りになった。人口減少による収入減をどうカバーしていくか、総合的な知見が増えた」と実感している。電力の遠隔検針に使用しているスマメ通信網をガスや水道でも活用することは、社会全体のコスト削減にもつながると力説する。

同社は自社の通信網の信頼と安定性を、今後は遠く離れて住む家族の見守りサービスにも発展させたいと考えている。

電力のネットワークを生かした第1号の新規事業が次々に連鎖して、時代や暮らしに応じた新しい価値を生み出していきそうだ。

四国の活性化に貢献したいと語る奥村副リーダー(右)と亀井さん

どうする!? 熱エネルギーの脱炭素化 「エネ庁のアキレス腱」の声も


第六次エネルギー基本計画が閣議決定され、脱炭素社会実現に向けた動きが加速している。

その大きな鍵を握るのは、最終エネルギー消費の7割を占める熱利用分野だが、課題は山積している。

政府が掲げる2050年カーボンニュートラル(CN)社会の実現は、不可逆的な流れとして社会全体に大きな構造転換を促そうとしている。

10月に閣議決定された第六次エネルギー基本計画には、「従来の発想を転換し、積極的にCNに向けた取り組みを行うことで、産業構造や社会経済の変革を見出し、次なる大きな成長につながる『経済と環境の好循環』を作っていくことが求められる」と明記されている。

これを実現するには、行政、研究開発機関、エネルギー供給事業者、そして産業界を中心とした需要家が一体となって、産業の競争力を維持向上させながら脱炭素化を実現するためのイノベーションへの挑戦に、待ったなしで挑戦していく必要がある。

エネ基議論では、とかく電源構成比率(エネルギーミックス)の数値ばかりが注目されがちだ。今回のエネ基を巡る報道を見ても、ほぼ再生可能エネルギー比率や原子力の最大限活用の是非に終始していたと言って過言ではない。

それに加えて、10月末から英国で開かれていた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)を巡っては、各国が石炭火力の低減・廃止をどう宣言するか、しないのかといったニュース一辺倒で、あたかも電源の脱炭素化さえ実現できれば、気候変動問題の全てが解決できるかのような報道が目立った。

これでは、こうした報道に触れる国民の多くが、CO2排出問題=電源問題であると思っても不思議ではない。

新技術の社会実装へ 具体的な道筋示せ

しかし、忘れてはならないのは、日本の最終エネルギー消費のうち直接的な電力として利用されるのは約3割に過ぎず、残りは化石燃料を用いた熱利用が占めているということだ。需要側で省エネと電化がある程度進むとはいえ、30年度の断面でもその構造が大きく変わることはない。

それは50年に至っても同様だ。脱炭素社会を実現するということは、極論すれば化石燃料を使わないということ。しかし、日本は産業用の熱需要が多く、電化以外を認めないとなれば製造業が衰退し雇用が維持できなくなる恐れが大きい。

エネ基が掲げる、脱炭素社会の追求による「経済と環境の好循環」を創出するには、未利用熱エネルギーの有効活用と熱源の脱炭素化に資する技術の確立を急ぐと同時に、社会実装に向けた具体的な政策を示さなければならない。それがなければ、50年脱炭素化など絵に描いた餅に終わる。

脱炭素社会の鍵を握るのは熱エネルギーだ

しかし、熱エネルギーについて、再エネなど電力分野と同様に長期的な政策やロードマップを描くことは、そう簡単ではない。課題は主に三つあるようだ。

一つ目は、熱は、投入エネルギー(石油、石炭、天然ガスなど)、供給・利用設備(ボイラー、工業炉、ヒートポンプ、コージェネレーションシステムなど)、熱の形態(温水、蒸気など)、利用温度(10℃以下の冷熱~1000℃以上の超高温熱)といった、供給や利用方法が事業所によって千差万別であるということ。このため、需給実態の把握は困難を極める。

二つ目は、簡単な道のりではないとはいえ、電力分野が再エネや原子力など脱炭素化に向けた技術的な活路がそれなりに見出せているのに対し、「熱エネルギーの獲得、活用、再利用といった基礎的な技術が圧倒的に不足している」(大口需要家)ことだ。

蒸気や温水などによる低温帯の熱需要については、ヒートポンプなどの電化技術による脱炭素化が期待される。一方、電化が困難な高温帯の領域では、水素やアンモニア、合成メタンなど合成燃料の活用による脱炭素化、特に産業部門においては、水素還元製鉄や人工光合成などのイノベーションが不可欠となる。だが現時点では、これらが技術的、コスト的なハードルを越えられるかは未知数だ。

最後に、エネルギー政策を主導する資源エネルギー庁の組織的な問題がある。関連政策が広範に及ぶことから、政策によって担当課がエネ庁内で分散してしまっており、トータルで熱政策を語れる部署がないのだ。 何より、「電力」「ガス」「石油」といった供給側の政策を手掛ける同庁にとって、需要家の取り組みが主軸となる熱エネルギー政策は「不得意」。エネ庁幹部でさえ、「熱エネルギーはエネ庁のアキレス腱だ」と言わざるを得ないのが実情だ。熱政策に本腰を入れるために、まずは組織体制の見直しを図る必要があるかもしれない。

CNの国際基準主導へ 官民の総合力問われる

いずれにしても、今すぐに熱源を水素に切り替えられるわけではなく、現状では企業需要家は、電化なのか、天然ガスシフトなのか、次の数十年を見据えた設備投資計画を描くことすらままならない。「技術革新に合わせてどう設備更新計画を描くのか、その羅針盤を示すのがエネ庁の役割だ」(エネ庁OB)

まずは、電化が可能な領域以外では、熱源をより低炭素なガスに切り替えた上で、技術が確立した暁にはそのガスを脱炭素化していくことが選択肢の一つとなる。都市ガス業界が将来のCN技術として注力するメタネーションは、再エネ由来の水素とCO2を反応させ合成メタンを生成する仕組み。利用時にCO2が排出されるが、回収するCO2と相殺されCNであるとみなし得る。

ただ、こうした技術が確立したとしても、今のところこれらをCNとして定義付ける制度が国内にも国際的にも存在していない。特に欧州各国は、化石燃料を活用し続ける仕組みには否定的で、国際標準化の前途は多難。

いかに世界に協力国を作り、熱分野のカーボンニュートラルの国際基準づくりを主導していくのか。つまり、政府がCOPやG20といったハイレベルな交渉の中で発信力を高められるか―。官民の総合力が問われている。

「1.5℃」追求の努力を確認 COP26の合意が示す意味


「気候危機」包囲網は狭まる一方だ。英国で11月13日までの14日間開催された温暖化防止国際会議・COP26。成果文書には、世界の気温上昇を「(産業革命前から)1.5℃に抑える努力を追求することを決意する」と明記。そこからバックキャストし、世界のCO2排出量を2030年までに10年比45%減、今世紀半ばに実質ゼロとすることのほか、各国に対しては22年末までに30年目標を強化することを求めた。

「グラスゴー気候合意」が採択され拍手を受けるシャルマ議長(中央)ら
提供:dpa/時事通信フォト

世界自然保護基金ジャパンの気候エネルギー・海洋水産室長の山岸尚之氏は「1.5℃のピン止めと30年目標の強化が割と素直に示された。1.5℃を巡ってはこれまでの表現と明確な差はないが、このパラグラフで特筆されたことが重要。各国の問題意識の変化が表れている」と強調する。

英国がこだわった項目の一つである石炭も焦点に。文書では、排出削減対策を講じていない石炭火力発電の段階的削減と、化石燃料への非効率な補助金の段階的廃止に向けた努力を加速するとした。当初の議長案はストレートな「石炭のフェーズアウト」だったが、インドや中国が反発し「石炭火力のフェーズダウン」で落ち着いた。ただ、「期限や拘束力はないものの、成果文書に書き込めるところまで石炭に関する国際認識が揃ってきたことは大きい」(山岸氏)。

本筋であるパリ協定の実施指針の交渉では、JCM(二国間クレジット制度)などに関わる6条(市場メカニズム)の内容が決着。クレジット拠出国と利用国双方での「ダブルカウント」防止や、〝ゾンビクレジット〟と一部で呼ばれる京都議定書時代のクレジットの扱いが争点だった。結果、国別目標や国際部門間取引でのダブルカウント防止や、13年以降に登録されたクレジットは条件付きで利用を認め、実施指針が完成した。

「有志連合」をアピール 温度上昇見通しが異なる訳

英国は分野ごとに国や企業などでつくる「有志連合」もアピールした。日本が「脱エンジン車」とともに乗らなかった「脱石炭」では、先進国は30年代、途上国は40年代の石炭火力建設や新規投資の停止に、46カ国・地域が合意した。岸田文雄首相は首脳級会合で、変動性再生可能エネルギーの拡大には「既存の火力発電をゼロエミッション化し活用することも必要だ」とスピーチ。アジアの脱炭素化のけん引役を強調したが、賛同が広がったとは言い難い。

また、複数団体が今後の温度上昇への見解を示し、IEA(国際エネルギー機関)は各国が目標を達成すれば1.8℃に抑えられるとした一方で、UNEP(国連環境計画)は2.7℃まで上がると発表。分析の差は目標ベースか政策ベースかによるもので、山岸氏は「各国が真剣に取り組めば1.8℃に抑えられる希望が見えたが、政策的にはその域に達していない。各国が国内政策の強化を模索するべきで、これは日本にも当てはまる」と指摘する。

ただ別の視点で見ると、COP26の意味合いは大きく異なってくる。詳しくは『覆面ホンネ座談会』をご覧ください。

【マーケット情報/11月26日】原油続落、需給緩和の見通し強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続落。新型コロナウイルス変異株の台頭で、需給緩和観がさらに強まった。米国原油を代表するWTI先物は7.95ドル、北海原油の指標となるブレント先物は6.17ドルの急落となった。

世界保健機構(WHO)は、アフリカ大陸南部で新たに発見された新型コロナウイルスのオミクロン変異株が、高い感染力を持つと警告。英国や米国、シンガポールなど複数の国家が、アフリカ南部への渡航制限を導入した。これにより、燃料消費が鈍るとの観測が強まった。また、変異株の感染拡大で、経済が冷え込み、需要回復に歯止めがかかるとの懸念が広がった。

供給面では、米国に加え、日本、韓国、インドなど複数の国が、戦略備蓄の放出を決定。加えて、米国の週間在庫が増加。米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが発表した国内の石油掘削リグの稼働数は、前週から6基増加して467基となり、需給緩和観を強めた。

一方、OPECプラスが、1月の生産計画を見直す可能性も台頭している。新たな変異株の感染拡大や、戦略備蓄の放出が懸念材料となっている。ただ、現時点では、方向性が定まっておらず、価格への影響は限定的となった。

【11月26日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=68.15ドル(前週比7.95ドル安)、ブレント先物(ICE)72.72ドル(前週比6.17ドル)、オマーン先物(DME)=76.44ドル(前週比4.63ドル安)、ドバイ現物(Argus)=77.42ドル(前週比3.77ドル安)

【コラム/11月29日】電力システム改革の陥穽を考える~安定供給喪失と弥縫策継続の情けなさ


飯倉 穣/エコノミスト

1,電力小売全面自由化の合言葉「あなたに合った電気を選べる時代」の登場で電力システム改革(電力自由化)は一段落した。自由化論者は、地域独占の安定供給義務に代わる市場機能で電力需給は安定すると心底思っていたであろうか。 

数年経ず、経済産業大臣が、今冬の電力需給に警告を発した(21年5月14日)。忘れた頃に「経産省 発電用燃料を追加調達 冬に備え電力会社に促す」(日経10月27日)、「経産省 厳冬なら電力「厳しい」供給余力 過去10年で最低」(朝日同)、「予備率 東京電力管内3.1% 全国10エリア中7エリア3%台 10年ぶり」と報道があった。

現在大震災もなく国際的なエネルギー危機も耳にしない。自由化成功勝手売込の中で、経産相の発言である。自由化で安定強化という経産省主張に疑問を抱く。これは電力市場に我が物顔で介入を画策する意図的発言と疑う。この国の改革は、電力の安定供給に不安を抱かせている。供給義務(責任)の再議論に陥っている電力の供給体制改革の陥穽を改めて考える。

2,電力自由化は、米国要求に阿ね、政官民の思惑が交差する「経済改革研究会中間報告(平岩レポート)」(1993年11月8日)の「経済的規制は原則自由・例外規制」の仕掛けから始まった。紆余曲折を経て卸電力市場の自由化(95年)、高圧部門の小売り自由化・卸電力取引所の創設(03年)となった。東日本大震災当時、民主党政府主因の需給不安を背景に、電力に市場機能を貫徹させ、市場失敗なら政府介入当然という考えで電力システム改革が論じられた。

市場競争で効率を上げ安い電力の安定供給をお題目に電力自由化は進められた。規模の経済を軽視・発送電一貫体制を弊害視した。大口需要者への需要価格弾力性の導入(電力料金で需給バランス決定)、ピーク抑制・過大施設不要(予備率引き下げ)、新規参入の推進(誰でも電源投資可能)、送電線開放、小売り自由化等が基本的発想であった。実現すれば需要家の選択が拡大し、また競争は、供給企業の効率化を促し、コスト削減で料金も低下すると喧伝された。(八田達夫「電力システム改革をどう進めるか」12年12月)。そして発送電分離、小売市場の自由化が完成する(20年)。

3,現在、経産省(20・21年度統計)は、新電力のシェア20%、大手電力の域外進出4%、小売り電気事業者の登録件数727者、電源構成大手電力シェア59%、新エネ(再エネ)導入比率21%、卸電力取引所の取引平均価格11.2~6.8円(乱高下無視)、卸取引市場シェア40%(経産省指導で)等の数値を挙げ、電力自由化成功を示す。

岡目八目なら、経産省の評価と異なり、現実は、再エネの導入負担、政府介入による電力取引所の運営の不適切さ等々の問題があり、また料金高止まりも目立つ。予備率の考えは、従来8%程度であったが、経産省主導で3%目標となり、その数値に近づいた結果、電力供給危機宣言である。この改革は、明らかに政治・経産省主導の間違いである。

4,思えば、電力システム改革の本質を問う議論もあった(南部鶴彦「エナジー・エコノミクス第2版」17年5月)。日本における9電力・地域独占廃止に対する根本的な困難を指摘している。

電磁気学の法則に沿えば、安定性で発送電一貫体制が合理的かつ自然あること。且つ発送電一体の相互連結が、限界費用に基づく発電の効率性を確保するうえで優位であること。

発送電分離の入札制度では、市場取引費用の最小化とならず、効率性喪失となること。限界費用料金は、ベース時間帯の赤字を招き投資回収が困難になるため、二部料金制(固定と変動の組合せ)が合理的であること。発送電分離なら、ホールドアップ問題(不確実性)が発生し、リスク回避で過少投資となり、予備力低下を招き、且つ供給義務の所在が不透明なため、安定供給が覚束なくなること。容量市場(予備力)を、市場メカニズムで確保することは、需要曲線と供給曲線が明確でないと価格付けが困難で、政府の恣意的な需要曲線では、発電増設のインセンテイブがわかないこと等を指摘した。垂直統合=独占=悪という単純発想は、垂直統合の相互連結と発送電のコンビネーションの合理性を無視していることを検証している。

電力という通常の商品と違う「電場(同時同量)」の供給に相応しい供給体制は、供給責任の明確化、地域独占、発送電一体の経営形態、第三者アクセス容認、2部料金制、総括原価、公的なコスト監視の仕組みがより適切であり、公益事業体制は合理的な解であると述べている。

新自由主義・市場重視というお題目で改革という美名の下実施された電力システム改革(電力自由化=小売り自由化+発送電分離+官支配電力広域的運営推進機関+官製日本卸電力取引所+取引への官の介入)は、もう一度範囲の経済・自然独占の原点に立ち返り、公益事業・地域独占・総括原価という電力体制の振り出しに戻り再考すべきである。

5,この30年間の政治経済社会改革(含む構造改革)の推移をみると、多くの政策で当初の狙いは良さそうに見え、マスコミ報道に煽られ、国民の一部不満が過大評価され、実施に移されたものが多い。長期的に見れば、見込み違いで、当初の思惑とは異なる結果となっている。

例えば、政治では選挙制度変更(小選挙区)、行政面の政治主導(忖度日常化)、成長期待の財政再建(成長なくして財政再建なしで財政破綻状態)、金融緩和による経済活性化(日銀B/S肥大化のみ)、経済成長狙いのモットー政策(改革なくして成長なし、三本の矢等の無理論・現実無視)、金融制度改革による金融機能低下、投資家重視の企業ガバナンス改革による企業活力の削弱等々枚挙に暇がない。

電力システム改革も、作られた市場(改革後電力システム)で競争による効率化コストダウン、自発的な電源投資は生起しなかった。安定供給義務の廃止で期待された市場機能は安定供給に寄与しなかった。リスク最小化、利潤追求の企業行動から見れば当然の結果である。商売上一定価格で販売が確実なFIT制度利用の再エネは活況を呈したが、不確実性の高い電源投資を抑制することは当然である。電場(同時同量)の提供という特殊性からくる供給の安定性を確保するには、地域独占・料金規制・供給義務を課すことの方が現実に適していたということであろう。

様々な構造改革は、本来必要か否かの理論的詰めが少なく(根拠の調査報告書稀有)、米国要求対応で進められてきた経緯がある。政治主導の実体無視で官僚の思惑と「ためにする議論」が好きな御用学者の空論が、歴史的かつ自然発生的な民間市場を荒廃・歪曲する構図を演出した。

このような構造改革に伴う負の連鎖の見直しも新しい資本主義を掲げる岸田政権の経済政策の課題であろう。それが経済の安定、そして成長の鍵となる。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

【省エネ】脱炭素社会の実現 自治体の役割は


【業界スクランブル/省エネ】

日本が脱炭素社会を実現するうえで、地方公共団体の役割は極めて重要である。地方公共団体側も認識しており、2021年7月末現在で、東京都・京都市・横浜市を始めとする432の地方公共団体(40都道府県、256市、10特別区、106町、20村)が「2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロ」を表明している。残る、秋田県、石川県、茨城県、埼玉県、愛知県、山口県、福岡県の表明も期待される。

地方公共団体の役割は大きく二つあり、「自らの率先実施」と「規制、補助政策などによる民間誘導施策」である。率先実施としては庁舎や学校の新築・改修におけるZEB実現、公営住宅のZEH・ZEH-M(マンション)および所有車両のゼロエミッション化などが挙げられる。ZEBやZEHはエネルギー購入費用が下がる分、建設コストが増加するが、一般に自治体発注は地元事業者が受注するケースが多いため、資金・技術が地元に残るメリットがある。特に地元事業者がZEB・ZEHの省エネ技術導入経験を得られることは貴重であり、当該地方公共団体内のZEB・ZEHの普及拡大に貢献する効果もある。また低所得者向けの公営住宅をZEH化することは、低所得者のエネルギーコスト負担を削減する福祉政策としても有効であり、英国でも低所得者向け公営住宅へのヒートポンプ給湯暖房機導入などのプロジェクトが進められている。

民間誘導施策としては、PV・省エネ設備の補助金制度が効果的だが、地方公共団体主導のPR活動も重要だ。協賛企業からのノベルティを景品として、家庭向けのエネルギー消費削減活動を実施して効果を挙げた自治体もあり、今後、少なくとも100カ所つくられる「脱炭素先行地域」で、さまざまな工夫をこらしたて取り組むことが期待される。また、規制強化においても、建築確認の際の脱炭素書類申請・自治体版CASBEE活用、自治体版C&T制度導入、太陽光発電所のウェルカムゾーン設定など、さまざまな独自の取り組みを実施することも可能であり、規制強化も含めた脱炭素促進施策を検討することが必要である。(N)

【住宅】具体的な省エネ政策 曖昧な再エネ政策


【業界スクランブル/住宅】

今年8月に「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」が公表された。内容は省エネ、再エネに分けて説明されている。「あり方」に関しては、省エネは2030年には新築で、50年にはストック平均でZEH・ZEB基準の省エネ性能を確保するとの具体的な目標が記載されているのに対して、再エネは、30年は「新築戸建住宅の6割において太陽光発電設備が導入される」、50年は「導入が合理的な住宅・建築物における太陽光発電設備等の再生可能エネルギー導入が一般的となる」とやや抽象的な表現にとどまっている。

「進め方」に関しても、省エネはボトムアップ対策では「省エネ基準への適合義務化」、ボリュームゾーンのレベルアップ対策では「建築物省エネ法に基づく誘導基準等をZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能に引き上げ、整合させる」、トップアップ政策は「ZEH+やLCCM住宅などの取組の促進」、と具体的な方向が示されているのに対して、再エネは、「将来における太陽光発電設備の設置義務化も選択肢の一つとしてあらゆる手段を検討し、その設置促進のための取組を進める」とのことで公表段階では具体的な方向はまだ定められずと受け取った。カーボンニュートラル実現には再エネ導入は不可欠であるが、再エネに関しては誤解による否定的な意見もある中で、特に住宅用太陽光発電に関しては、適切な情報発信・周知を建築主への伝達する仕組みの構築し、建築主に理解してもらうことが再エネ拡大の原点になると考える。

この資料を読んで最も心配なのは、国土交通省の役割は「住宅・建築物分野における省エネルギーの徹底、再生可能エネルギー導入拡大に責任を持って主体的に取り組む」という記述である。行政トップの強い要請で記載されたと漏れ聞くが、「再エネ」と「国交省」の組み合わせには違和感がある。具体的にはZEHの3省合同体制の延長で運営されるものと推察するが、カーボンニュートラルのために省庁の垣根を超えた総合的な取り組みを期待する。(Z)

【太陽光】一定規模で導入増 RE100に期待


【業界スクランブル/太陽光】

資源エネルギー庁はFIT制度開始以降、3カ月ごとにFIT案件に関し導入量を発表している。この資料を集計すると、2012年度939万2000kW、15年度916万kW をピークに導入量は減少したが、18~20年度までの3年間は毎年約570万kW前後で推移している。特に20年度は10kW以上50kW未満の低圧設備に自家消費30%以上の要件が付け加えられたため導入量は減少したが、未稼働案件の稼働が増えたことによる2000kW以上の特別高圧設備の導入量が増加したことにより、全体の導入量は19年度と比べ若干増加した。業界の外部の人たちからは、コロナ禍の影響やFIT価格の値下がりも加わって20年度の導入量は減少しているのではとの声もあったが、このデータを見る限り脱炭素に向かって太陽光発電設備の導入量は一定の規模を維持していると思える。

第六次エネルギー基本計画では、菅義偉前首相のカーボンニュートラル宣言を受けて36~38%までに引き上げる目標を掲げている。その中で主力電源となる太陽光発電は6400万kWから1億2000万kW程度まで大幅に導入量を拡大する必要が出てきた。経済産業省の審議会などで導入量引き上げは難しいとの意見が出ているが、FITの設備導入状況のデータを見る限りは、22年からのFIP導入を控え、発電側課金などの政策の方向性が決定されていない現状でも、太陽光発電設備を導入しようとしている事業者の意欲は旺盛であると思える。改正温対法や、今後検討されるであろう再エネ導入を後押しする政策などがさらなる太陽光発電設備の導入につながっていくと考えられる。

ここ最近増加している脱炭素を目指す企業、例えばRE100企業による太陽光発電設備を使った電気の自家発電自家消費やPPAはFIT制度に頼らない再生可能エネルギー導入の切り札になりうると思える。政府は企業の自家発電自家消費やPPAの拡大を後押しする政策を進め、再エネ賦課金による国民負担の低減を図るとともに、電気を使用する事業者が自ら脱炭素に動く太い流れを作っていってほしいと願う。(T)