【メディア放談】選挙とエネルギー問題 政治の季節にエネルギー危機


<出席者>電力・石油・ガス・マスコミ業界関係者/4名

自民党総裁選に衆院選と、世の中の話題は政治一色となった。
一方で、化石燃料価格の高騰が、生活・産業を脅かそうとしている。

―自民党総裁選、衆議院選挙と「政治の季節」が続いた。エネルギー環境問題も争点の一つになっている。

電力 総裁選では、河野太郎氏の「核燃料サイクル中止」発言があり、原子力事業についてマスコミの注目度が高まった。中止の是非はともかく、世間が原子力や核燃サイクルについて目を向けて、考える機会になり、良かったと思っていた。

 ところが衆院選に入ると、一気に関心が薄れてしまった。地方電力の人たちに聞いても、「エネルギー問題は争点になっていない」と言っている。新型コロナウイルスは収束の兆しが見えたが、依然、景気は悪く、商工業だけでなく農林水産業も疲弊している。やはり、今はエネルギー問題は二の次のようだ。

ガス 自民党の選挙戦略も影響している。党内には今も原発の新増設、リプレースに強くこだわる議員がいる。だが、国民的に不人気な原子力の政策は、選挙ではなるべく触れたくない。それで、新増設を明記しなかったエネルギー基本計画を閣議決定して、とりあえず来年7月の参院選まで、政府はこの方針のままでいく考えだ。今の基本計画なら、公明党も文句は言わない。

 ただ、参院選後は分からない。岸田文雄首相が所信表明演説で「クリーンエネルギー戦略」と言い出したことに注目している。「グリーン」ではなく「クリーン」とした意味は何か。永田町界隈では、「原発はクリーンエネルギー。新増設を進めることだ」と見ているようだ。

石油 それで原発再稼働が進めばいい。だが、柏崎刈羽がいい例で、いくら政府が力を入れても、立地地域の事情を見ると楽観的には考えられない。

 今、ものすごい勢いで、世界中で石炭、石油、天然ガスの価格が上がっている。産経論説委員の井伊重之さんが、「化石燃料の逆襲が始まった」(10月10日)とのコラムを載せて、電力危機が起きた中国の事情を紹介して、日本での電力やガス料金の高騰に警鐘を鳴らしている。

 1973年に第四次中東戦争が起きてオイル危機が起きた。今は、それに次ぐエネルギー危機が起きかねない状況だ。残念なことに、そういった記事が他の紙誌ではあまり見られない。

電力・ガス高騰は必至 再エネで何とかなるか

―行き過ぎた脱炭素政策と自由化の弊害が出始めている。

マスコミ まさに自業自得だ。天然ガスのスポット価格が昨年の同じ時期に比べて10倍に膨れ上がった。当然だ。どの国も脱炭素政策に力を入れれば、火力発電の燃料を石炭から天然ガスに代える。

 自分の国に膨大なガス田がある米国、ロシアのガスに依存できる欧州はまだいいだろう。石炭からガスに転換している中国も、一方で猛烈な勢いで原発開発を進めている。だが、原発依存度の低減を目指しながら、老朽化した石炭火力を止めざるを得ない日本はどうすればいいんだ。今の温暖化防止政策では、天然ガスの「一本足打法」にならざるを得ない。

―いずれ再エネで何とかなる、という人もいる。

マスコミ 一般の人たちは、電力のロードカーブ(電力負荷曲線)が分からない。だから、「再エネが普及すれば、何とかなるんじゃないか」と言う。確かにこの国が1年中、5月のゴールデンウィークのような非需要期ならば再エネだけでいい。しかし、そんなわけにはいかない。

 朝日、毎日、日経などの編集幹部は、そういう事情が分かっている。それでいながら、再エネのメリット・デメリットを読者に伝えず、「開発を急げ」と繰り返している。おそらく、これから冬、夏に電力料金は跳ね上がる。最悪、計画停電もあるかもしれない。その時に、某与党代議士のように「再エネの普及が遅れたからこうなった」と書くようなら、無責任極まったとしか言いようがない。

―業界関係者としては専門紙に期待したいが。

電力 岸田首相が衆議院を解散した10月14日、電気新聞は一面でエネルギー・環境を巡る各党ごとの政策を表にして掲載している。原子力政策の違いがよくまとまっていた。

バラマキ批判の狙いは 原子力で同じ構図も

―話は変わるが、財務省の矢野康治事務次官が文藝春秋に寄稿した「バラマキ批判」の記事が話題になっている。

電力 衆院選前の各党の「大盤振る舞い」を見かねてのことだろう。岸田首相の派閥「宏池会」は、もともと財政規律を重視するグループ。それに岸田さんは政調会長の時、コロナ禍で生活に困っている減収世帯などへの30万円給付案を、公明党の強力な横車で一律10万円給付に変えさせられたことがある。

―その10万円は、使われずに多くが貯蓄に回ってしまったといわれている。

電力 岸田さんの面子がつぶされだけでなく、生活困窮者の支援や景気向上にもあまり役立たなかった。公明党はまた、18歳以下の子供に一律10万円給付と言い出している。衆院選前なので岸田さんも同意せざるを得なかったが、寄稿は首相側の意向も踏まえて、公明党をけん制する狙いもあったのではないか。

ガス ただ、矢野さんは菅義偉前首相のひきで次官に就いた人。「どうせなら、菅政権の時に言ってくれよ」と思った。

―自民党、公明党の間には原子力発電の新増設・リプレースなどでも同じような構図がある。経済産業省にも矢野さんのような役人がいればいいが。

【再エネ】原子力出力制御 本格的に検討を


【業界スクランブル/再エネ】

第六次エネルギー基本計画(案)を読み込んでみると、当に電力システムのパラダイムシフトとも言うべき時代にきていると感じる。

戦後日本政府は、早期復興を優先するため、全国9エリアで地域の電力会社が発電、送電、配電の全てを担う画一的電力システムを作り、主要電源は水力中心→火主水従→原主火従と変遷してきた。ただし1996年の京都議定書発効から、本格的に温暖化対策を意識したエネルギー政策が必要になり、2011年の東日本大震災と福島原子力発電所の事故以降は、3E+Sの方針の元、抜本的な電力システム改革を進めてきた。

今般のエネ基では、“野心的”と形容詞が付くほど高い30年の再生可能エネルギー導入目標が設定され、官民学を総動員してその導入促進策を議論し、同時に電力システム改革、脱炭素化、自給率向上、そして原子力のさらなる安全確保を進める内容である。その一方、改正再エネ特措法の施行により、これまで優遇措置を受けてきた変動再エネの風力・太陽光発電は、固定価格買い取り制度、インバランス特例の廃止などにより、一般市場への統合を目指す必要があり、これまで以上に精緻な事業計画、事業規律の元での安定した事業を進める事が要求される。また、既に九州電力管内では、太陽光発電の大量導入により、春秋好天時の軽負荷時間帯には出力を抑制制御する状況になっており、調整力の確保のため、政府はEVの充電時期を活用した需要側制御も含めた対応を検討している。

再エネ大量導入に伴う電力システムのさらなる変革が避けられない中で、ベースロード電源と呼ぶ原子力は出力制御しないままで本当に良いのだろうか。原子力の再稼働が叫ばれる中、最終処分方法と並行し、原発の出力制御も検討するべきである。再エネ導入で10年以上先を走るドイツでは、04年に原電の出力制御を実施済みである。日本国内でも、原発の導入が盛んだった1980年代には出力制御が検討された経緯もあり、新技術開発と合わせてしっかり検討するべきと考える。(S)

3億kWの太陽光発電の導入 日本の風景はどうなるか


【リレーコラム】加藤丈佳/名古屋大学未来材料・システム研究所教授

小生は、毎年年末に実家で餅つきをする。朝6時から竈の火を起こし、二升のもち米を蒸し、石臼で10枚位をつく、家族総出で一日がかりの行事である。火の番は小学校高学年の頃から息子の担当であり、今や薪の燃やし方(燃料の扱い方)は小生よりも上手い。薪は、祖父が生前にどこからか調達した廃材などをこつこつと割って備蓄したものであり、ごみ焼却所行であったはずの廃材を、餅つきの燃料と言う付加価値をつけて、使えているのではないかと考えている。

今は新たな薪の調達はないが、備蓄量はあと10年分位ある。これだけあれば、大災害が発生して電気やガスの供給が途絶えても、一週間は湯を沸かしたり、暖をとったりできそうである。発電用にスターリングエンジン発電機を購入しようかと考えなくもない。

もっとも、都市部において薪の備蓄がある住宅はほとんどなく、災害時のエネルギー供給源として思い浮かぶのは太陽光発電(PV)である。卒FITのPVも出始めており、自家消費率を上げるために電気自動車や定置用蓄電池を導入する場合も増えるであろう。さらにカーボンニュートラルが実現する状況であれば、各住宅の屋根にPVが設置され、自立分散的に災害時の電力供給源を確保できるかもしれない。

どのような導入が望ましいか

山間部の集落であれば、災害時に燃料となる木材を確保できそうだが、ここでも災害時のエネルギー供給源の主役はPVかもしれない。環境省の再生可能エネルギーに関するゾーニング基礎情報によれば、耕作放棄地のPV導入ポテンシャル(レベル3)は8000万kWに達する。環境共創イニシアチブの「地域の系統線を活用したエネルギー面的利用事業」では、こうしたPVなどを活用し、災害等による大規模停電時に電力供給を継続できる地域マイクログリッドの構築が検討されている。先日、同事業に参画する山間の自治体に行き、民家に隣接する耕作放棄地にPVが点在する光景を見てきた。同様の光景はあちこちで見かけるが、まだ違和感がある。他の自治体で、緩やかな北斜面に逆バンクをつけて設置した設備を見たこともある。

カーボンニュートラルを実現するために3億kWものPV導入が必要との試算もある。しかし、無理な導入が増えると、導入適地の理解が得られなくなり、目標達成が難しくなるのではないか。3億kWの導入時にはどのような光景が広がっているのかについてしっかりとしたイメージを持ち、望ましい導入のあり方を議論することが重要であろう。

かとうたけよし 1996年3月名古屋大学大学院工学研究科にて博士(工学)を取得後、同大学理工科学総合研究センターエネルギーシステム寄附研究部門助手、国際応用システム分析研究所(IIASA)研究員などを経て、2015年4月より現職。

次回はENEOS中央研究所の古関恵一さんです。

【石炭】CNへ現実的方策 最適技術の結合


【業界スクランブル/石炭】

9月5日のクリーン・コール・デーに併せて、今年も国際会議が行われた。石炭フロンティア機構(旧石炭エネルギーセンター)主催、NEDOJOGMEの共催で、日本はもとより米国、インドネシア、豪州などの各国政府・国際関係機関、企業・学術関係者などによる講演が行われた。次に会議の趣旨を紹介する。

カーボンニュートラル(CN)を2050年もしくはそれ以降に達成する目標を世界各国が掲げている。しかし、その国の実情や自然条件や地理的条件、経済性条件などの異なる状況においては、全ての国がCNを達成するのは困難だ。また再生可能エネルギー技術の導入を推し進める中、再エネだけで電力を賄うこともなかなか難しい。今後もなお多くの国々では、現在使用している化石燃料、特に埋蔵量が多く安定して供給が可能な石炭を使わざるを得ない。

CNにおいて重要なことは、極力CO2排出を押さえるとともに、排出されたCO2を実質的にゼロにすることである。「石炭を使わない」という意味ではない。再エネ導入を最大限に推進しながら、非効率な石炭火力発電所のフェードアウトを進め、それ以外の発電所に対しては徹底したCO2低減策を講じることが必要だ。具体的には既設の石炭火力発電でのバイオマス、アンモニアの混焼、専焼火力への転換など、CO2低減策、さらには発生したCO2回収・利用・貯留(CCUS)が挙げられる。

その国の実情や自然条件、地理的条件、経済的条件によりCNに向けた最適な技術の組み合せを見つけることが各国の現実的なCNの解になるのではないだろうか。そのような新しい石炭の使い方、CCUSによるCO2削減により、CNに貢献する進化し拡大した広義の革新的なクリーンコールテクノロジー(Innovative CCT)を社会実装に向けて最大限に利用していくことが、今後の世界の石炭火力の新しい道である。

全体としてそんな趣旨だったが、全くその通りであろう。異論を挟む余地は見当たらない。(C)

【田村麻美 国民民主党 参議院議員】常に働く者の視点で


たむら・まみ 1999年同志社大学神学部卒、ジャスコ(現イオンリテール)入社。2017年UAゼンセン役員、19年参院議員(当選1回)。参院資源エネルギー委員会理事。

スーパーマーケットの店頭に立っていたが、働く者の待遇改善を求めて国会議員に。
脱炭素化政策を進める中でも、「雇用と地域コミュニティーを守ることが大切だ」と訴える。

子どものころから、日常の生活に密着したスーパーマーケットの仕事に、人一倍の愛着を感じていた。大学を卒業すると、就職先として迷うことなく大規模小売店を選択。ジャスコ(現イオンリテール)に入社した。

食料品売り場などのフロアに立つ日々。自ら知恵を絞って店頭に並べた商品が献立を豊かにし、消費者に喜ばれる仕事にやりがいを感じていた。「将来は店長になりたい」。こう夢を膨らませた。

ところが、思わぬ壁にぶつかる。当時、全国に転勤のできる社員しか店長にはなれない社員区分の規定があった。2001年、職場の同僚と結婚。転居を伴う異動はしない社員区分へ変更をせざるを得なかった。働く者が将来の道を断念しなければならない規定を何とか変えたい――。

労働運動に関わるきっかけだった。06年からは専従役員として、組合活動に専念することに。17年にはUAゼンセン(全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟)の役員にも就いた。

スーパーマーケットには、社員と同じように働きながら、社会保障などの待遇面で大きな差があるパートタイマーが多く働いている。「改善するには、国の制度を変えなければいけない」。働く者の処遇を改善しようと奔走する姿が、UAゼンセン幹部の目にとまった。参議院選挙への出馬を打診され、19年7月の参院選比例区に国民民主党から立候補。26万324票を得て初当選を果たした。

パートタイマーの多くは、社会保険制度の第3号被保険者(配偶者の収入で主として生計を立てている)として働いている。パートでの年間収入が130万円を超えると、配偶者の扶養が適用されず、保険料を支払わなければならない。

そのため、仕事に生き甲斐を見出しながら、自ら労働時間を制限するパートタイマーが少なくない。少子・高齢化社会を迎え、今後、確実に労働人口は減っていく。その中で、熱意を持って自分の仕事に取り組む人たちを守っていかなければならない。国会議員となり、社会保険制度の見直しが大きな政策課題になっている。

もう一つ大きな課題がある。小売り業で働く者をカスタマーハラスメントから守ることだ。自身にも苦い経験がある。食料品売り場でパンコーナーの責任者だった時のこと。パンが値引きの対象でなかったことに腹を立てた買い物客から、約1時間、罵詈雑言を浴びせられた。何とか耐えたが、悪質なクレーマーの対応をすることで、トラウマを抱えたり、退職してしまう同僚もいた。

消費者教育推進法という法律がある。消費者の利益を守り、同時に消費行動が社会・経済・環境に影響を及ぼすことの自覚を促すことなどを目的とする。「この法律を改正し、カスタマーハラスメントの抑止にむけた教育を盛り込みたい」。政治家として、ぜひ実現したいと力を込めた。

CCUSの技術確立に期待 脱炭素化で雇用と地域を懸念

参院資源エネルギーに関する調査会に所属して約1年がたつ。今年、策定作業が行われたエネルギー基本計画では、原子力の位置付けが大きな焦点になった。国民の間で意見が分かれる原発については、「推進するにしても、安全性の確保をどう国民に伝えるかが課題。国民が求めているのは信頼に基づく安心。政府が説明をし尽くして信頼を得ていくしかない」と考えている。

菅義偉前首相が打ち出した「2050年カーボンニュートラル」に異論はない。だが、総額2兆円のグリーンイノベーション基金については、「温暖化対策のあらゆる技術で革新を追求するとしたら少なすぎる。有望なものを選択して、資金を集中すべきだ」と不満がある。期待するのは、CCUS(CO2回収・利用・貯留)でのイノベーションだ。UAゼンセンには帝人、旭化成、東レなどの化学会社、東洋紡、カネボウなどの繊維会社も加盟している。それらの企業人と交流する中で、国内に製造業を残すためにも、CCUSの技術を確立することが欠かせないとの思いを強くした。

国として脱炭素化を進める中で、今後、非効率な火力発電所が廃止となり、太陽光・風力発電などに置き換わっていく。懸念しているのは、その時に雇用が守られ、地域の衰退を防ぐことができるか、だ。「労働者と地域のコミュニティーを守ることを大切にしなければならない」。労組出身議員として、こう強く訴えていくという。

国会議員としては珍しい神学部の卒業生。「うちは曹洞宗。キリスト教とは無縁」というが、労働者が抱えるさまざまな問題について熱く語る姿からは、日々真剣に働く人たちへの確かな愛が伝わってくる。

【石油】コスト上昇は不可避 エネ転換に痛みあり


【業界スクランブル/石油】

英国グラスゴーで第26回気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が始まった。今回は、各国の排出削減貢献量(NDC、国別貢献目標)と石炭火力発電所が焦点になるという。行き過ぎた議論にならないことを祈るばかりである。

ただ、最近の国内報道を見ていると、ひところの脱炭素歓迎一色から、慎重な論調も見受けられるようになった。注目されるのは、乗用車の電動化の問題点として、エンジン自動車から電動化で部品点数が半減されるため、自動車関連の就業者540万人のうち、製造に係る約100万人の雇用が懸念されるとする報道であった。

エンジン技術は産業技術の中核であり、多くの中小企業が関わっているが、バッテリーとモーターのユニット化で、産業構造は大きな転換を迫られる。それだけではない。自動車整備業界やガソリンスタンド業界の業態・雇用に係る問題もある。

また、自動車業界の主張である現在の火力依存の電源構成では電動化は脱炭素にはならないことや、製造から廃車までのライフサイクルアセスメント(LCA)の排出量が大きく変わらないことも、報道されるようになった。非化石電源中心のヨーロッパと日本では、乗用車電動化の意味は大きく異なる。

仮に、電源の脱炭素化(CCS付火力発電所を含む)に成功し、化石燃料の電化が進むとしても、カーボンニュートラル実現には、産業用燃料などの水素化・アンモニア化・バイオ化、さらには、化石燃料の消費が残る部分の森林吸収源・CCUS(CO2回収・利用・貯留)による相殺・吸収も必要であり、依然、課題は山積している。

いずれの対策も、電力料金をはじめエネルギーコストの上昇は明らかであり、国民負担の増大も懸念される。フランスでは、自動車燃料への炭素税課税問題を契機とする「イエローベスト」運動の前例もあり、政治的に強行されたカーボンニュートラルだけに、政治的にそれがどこまで支持されるかが疑問である。(H)

崩壊熱でなく冷水注入が引き金に 炉心溶融の真因を探る


【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.8】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問

TMI事故・福島事故で起きた炉心溶融の原因は何だろうか。
原子炉停止後の崩壊熱で起きるとの学説には、疑問符が付く。

炉心溶融は、これまで原子炉停止後の崩壊熱によって起きると教えられてきたが、この学説は怪しい。崩壊熱は停止直後こそ大きいが、1日たてば10分の1に減衰する弱い発熱だ。高温になるにつれて巨大化する輻射放熱に抗して、炉心を熔融させる力はない。この間違いを明確にしておかないと今後の話が読者を混乱させる。炉心溶融説についての問題点を述べ、次いで誤りを正した説を述べる。

ジルカロイが水・蒸気と反応 炉心溶融は簡単に起きず

福島事故全体の共通点といえば、炉心溶融と水素爆発(2号機は水素放出)だ。なぜ溶融と爆発が共通して起きたのか、その解明が本論解決の鍵となる。
爆発を起こした水素量は炉ごとに違うが、おおむね数百㎏といわれる。これほど大量の水素をつくる手段は化学反応しかない。原子炉にはこの化学反応が起きる理由が存在し、事故過程で顕在化したに相違ない。金属は一般に、高温になると水と反応して水素を発生する。原子力材料で水と激しく反応する金属といえば、燃料の被覆管、ジルカロイがその代表だ。TMI事故もチェルノブイリ事故も、爆発はジルカロイ・水反応による水素発生で起きた。
ジルカロイは、温度800℃くらいから水や蒸気と反応を始め、温度上昇につれて反応が激しくなる。反応熱は大きく586KJ/Molもある。この熱量を目安で示せば、仮に燃料棒を包む被覆管が全て反応したとすれば、中にある二酸化ウラン(UO2)ペレットが溶融する熱量の約2倍に相当する。炉心溶融は熱量的に十分に可能だ。
炉心から水がなくなると、炉心温度は崩壊熱で上昇する。高温でのジルカロイ・水反応は激しいから、反応が起きると大量の水素ガスが一時に発生する。ジルカロイ・水反応(ジルカロイ燃焼ともいう)は、溶融、爆発の両方を兼ねる。
その実例が、8月号で述べたTMI事故だ。TMI事故では、高温の炉心に冷水を注入した途端に、原子炉圧力が80気圧から150気圧に、一気に上昇した。その間わずか2分だ。炉心に大発熱が起きたことは確かで、直後に炉心溶融が起き、水素爆発が発生した。
表は冷水注入と爆発の時刻を示したものだ。ご覧の通り、福島事故もTMI事故も、炉心に冷水を注入した後に水素爆発が起きている。表は、冷水注入によってジルカロイ・水反応が発生し、炉心溶融が起きたことを示している。

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冷水注入と爆発の時刻


ここでジルカロイ・水反応の説明に入る。ジルカロイが酸化すると、管表面は薄い酸化皮膜で覆われて黒色に変わる。この黒い皮膜が、炉心溶融を操る黒幕なのだ。
ジルカロイの酸化皮膜は組織が緻密で、水や蒸気の透過を容易に許さない。加えて強靱で、その融点は2700℃と非常に高い。従って、この皮膜に守られた燃料棒も強靱だ。米国のPBF(Power Burst Facility)実験PCM―1では、出力を定格出力の約3倍とし被覆管温度が1500℃の状態で15分間保持したが、その間燃料棒は体形を崩さず、林立状態を保っていた。
燃料棒温度が1000℃くらいに上昇すると、柔らかくなった被覆管は原子炉圧力に圧されてペレットに密着する。その表面に生じた強靱な被膜は燃料棒を締め付けて変形を阻むから、燃料棒は体形を保つと考えられる。炉心溶融は簡単には起きないのだ。
だが、酸化皮膜にも弱点がある。温度が200℃くらいになると膜は脆くなる。その結果、高温で形体を保っていた燃料棒は、実験後に被覆管が壊れて、燃料棒はバラバラになって出てくる。冷えて収縮しようとする酸化膜を、まだ温度の高いペレットがそれを許さないので、脆くなった皮膜にひびが入り、締め付け力が失われる結果、燃料棒は壊れてバラバラになる。これがデブリで、燃料実験で常に見られる現象だ。
炉心溶融に話題を戻す。問題は、酸化膜にひびが入る時の燃料棒の温度だ。いま仮に、燃料棒温度が1200℃だったとする。この状態で冷水を注入すると皮膜が壊れて、これまで被膜で保護されていた高温のジルカロイが水と接触でき、燃料棒の溶融が始まる。炉心溶融の始まりだ。
だが、燃料棒温度が700℃の時は何ごとも起きない。700℃のジルカロイは水と反応できないから、燃料棒が壊れて、多少の放射能が出るだけだ。
述べてきたように、炉心溶融の発生は、冷水注入時点での燃料棒温度で決まる。これが炉心溶融についての新しい結論だ。

【火力】エネルギーの不足 気候変動より脅威


【業界スクランブル/火力】

第六次エネルギー基本計画の素案が示されてから3カ月、その間国際的にはCOP26やG20サミットを控え、また国内では自民党総裁選から衆議院議員選挙に向かう中で、エネルギー問題に大きな注目が集まっているものの現実味のある仕上りとは言い難い。

2030年温室効果ガス46%削減、50年カーボンニュートラルという目標は、政治的スローガンとしてのインパクトは充分であるが、その派手な部分にばかりに目を奪われてしまい、目標実現のための具体的方策の検討が一向に進まないことを危惧している。カーボンニュートラルに向けて、再生可能エネルギーを増やし、一方でCO2を排出する火力発電を減らしていく流れはよいとしても、こんな大雑把なやり方で複雑なエネルギー問題を上手く解決しきれるはずもない。

現状、日本の発電電力量に占める化石燃料の割合は4分の3程度であるが、世界全体でみても未だ6割強が化石燃料に依存しており大きな差異はない。仮に火力発電をいきなり止めてしまったら、過半の供給源が失われることになり、たちまち電力危機に陥ることになる。再エネの普及が進んだ九州地方などでは、再生可能エネルギーが余剰になり出力抑制をすることが増えているが、1年8760時間を通してみると、余剰になる時間帯はほんのわずかであり、再エネだけでは全然足りず火力や原子力などの安定電源に頼らねばならないのである。

このように言うとタチの悪い脅しのようであるが、欧州や中国でも脱炭素の圧力の中で天然ガスの価格高騰や電力不足が目の前で顕在化している。わが国でも昨冬の需給ひっ迫が問題になったが、世界的な脱炭素の潮流が影を落としていたのは間違いない。

気候変動が脅威というのであれば、難しくても複数の脱炭素シナリオを試行錯誤していく必要がある。だからと言って、目の前でエネルギー不足を引き起こすシナリオは、その時点でサスティナブルであるとはいえない。エネルギー不足は、人類にとって気候変動以上の脅威になるということを忘れてはならない。(S)

【マーケット情報/11月19日】原油下落、需給緩和観が強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。需給緩和の観測が一段と強まり、売りが優勢となった。

米国に加え、中国や日本など複数の国が、インフレ抑制に向けて戦略備蓄を放出する可能性が台頭。また、米エネルギー情報局は、12月の国内シェールオイル生産量が前月比で増加するとの見方を示した。さらに、国際エネルギー機関は、世界の産油量が11~12月に合計で日量150万バレル増加すると予測。OPECも、世界の原油在庫が12月から増加に転じると予想し、需給逼迫感を緩めた。

加えて、米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが発表した国内の石油掘削リグの稼働数は、前週から7基増加し、461基となった。

一方、欧州の一部地域は、新型コロナウイルスの感染再拡大で、外出規制などを再導入。経済の冷え込みや燃料消費の減少による、需要後退の見通しが強まった。

米大統領は、エネルギー価格高騰を受け、連邦取引委員会に相場操縦の調査を要請。燃料価格の上昇が抑制されるとの見方も、価格の重荷となった。

【11月19日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=76.10ドル(前週比4.69ドル安)、ブレント先物(ICE)78.89ドル(前週比3.28ドル)、オマーン先物(DME)=81.07ドル(前週比0.72ドル安)、ドバイ現物(Argus)=81.19ドル(前週比0.19ドル安)

【コラム/11月22日】電気事業のコアビジネスの拡大


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

前回のコラム(10/18)では、電気事業者が新たな価値創出を図っていくためには、事業分野の拡大が求められていること、また、そのためには異業種他社との協調(セクターコンバージェンス)が有効であることを述べた。さらに、ドイツのシュタットヴェルケを対象とした業界団体BDEWの調査では、電気事業者は、コアビジネスに近い分野での事業拡大と異業種他社との協調に最大のポテンシャルを見出していることを指摘した。今回のコラムでは、その実態を少し詳しくみてみたい。

同調査では、企業の約7割は、蓄電池を含む分散型電源、スマートメータリング、エレクトロモビリティの事業分野の拡大と他産業との連携が最も強く発展していくと考えている。

 蓄電を含む分散型電源は、ほとんどの企業が従事しており、他社との協調が最も進んだ分野である。この分野への顧客の需要は高く、また企業間の協力体制も整っている。協調は、これまで、コンポーネントサプライヤー、エネルギー分野のパートナー、最終顧客、施工業者などとの間で行われている。コンポーネントサプライヤーとの協調は、太陽光発電設備や蓄電池などの分野で行われている。蓄電池を含む分散型電源の分野は、顧客への近接性や技術的なノウハウでシュタットヴェルケは競争優位に立っており、付加価値の約30%を稼ぎ出している。

スマートメータリングについては、ドイツでは、スマートメータゲートウェイ(SMGW)機能の政府認証が2020年初めとなり、現在その設置が佳境に入っている。この分野では、他のエネルギー供給事業者、ICTサービスプロバイダー、メーター・SMGWメーカーなどの部品サプライヤー、また住宅会社との連携は、不可欠であり、また着実に進展している。

BDEWの調査によると、スマートメータを用いた活動として、すでに実施またはこの1~2年のうちに実施するビジネスは、エネルギー供給と計量の組み合わせ (72%)、消費の見える化(71%)、変動料金(61%)、エネルギーマネジメント(59%)、一括検針(55%)、ディスアグリゲーション(21%)、第3者へのデータ提供(9%)となっている(カッコ内は調査対象企業に占める割合)(BDEW 2020)。スマートメータの設置のみにとどまらない活動の拡大は、異業種他社との協調の進展を示している。

なお、現段階で、第三者へのデータ提供について検討を行っている企業は少ない。その理由としては、SMGWを有するスマートメータの設置が始まったばかりであること、データを扱ったビジネスの経験がないこと、そして、最も重要なこととして、住民の高いロイヤルティを獲得しているシュタットヴェルケにとって、データセキュリティ確保に関しての懸念は払拭しきれていないことが挙げられる。しかし、業界団体BDEWは、データは「宝の山」であるして、プラットフォーマーの意義を強調している。

エレクトロモビリティについては、政府の政策と相俟って、電気事業者の関わりも活発化していくと考えられる。ドイツ連邦政府は、2019年10月に、気候保護法を閣議決定し、温室効果ガス削減のために、電気自動車を2030年には700~1000万台までに増大させ、そのため、充電ポイントの数を約100万に引き上げることを目指すこととなったまた、連邦政府は、電気自動車の普及促進のために、種々の税制上の優遇措置を導入し、充電ポイントの増大のために、給油所や顧客駐車場での充電設備の設置を義務付けることとなった。

エレクトロモビリティの拡大は、自動車産業だけでなく電力産業にとっても大きな関心事であり、電力企業はこの分野に従事することにより追加的な収益を獲得できる。また、充電インフラの拡大は、電力ビジネスや地域との近接性ゆえに、電力会社は競争上の優位に立つことができる。このため、シュタットヴェルケの79%は、すでに充電ステーションの運営を行っている(BDEW 2020)。これに対して、デジタルモビリティプラットフォームやモビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)に従事する企業は、現在、それぞれ20%、12%であるが、至近年に従事する企業を含めると、それぞれ36%、24%である(BDEW 2020)。

エレクトロモビリティの分野では、シュッタヴェルケは、これまでのところ、主に他のエネルギー供給事業者、ICTサービスプロバイダー、住宅企業と協調している。現在では、調査対象企業のうち、自動車業界と協力している企業はわずか8%にとどまっているが(BDEW 2019)、エレクトモビリティの大幅拡大と充電ステーションの大量増加という政治的目標が掲げられる中で、シュタットヴェルケにとって、包括的なエコシステムの確立が急務となっている。

わが国の電気事業も、ドイツ同様、ビジネスの拡大は漸進的に進められてきたが、その際コアビジネスの延長線上に最大のポテンシャルを見出すことができるだろう。本コラムで紹介したドイツの電気事業における新たな価値創出のためのコアビジネスの拡大と他社との協調の実態は、わが国電気事業にとっても参考になるところが多いだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【原子力】河野家「親中企業」 太陽光普及で安泰


【業界スクランブル/原子力】

自民党総裁選を振り返る。「100%再エネを、それでコストも安い」などと言っていた河野太郎氏(実は再エネ100%なら膨大な調整電力が必要なためコストが4倍になること意図的に無視していた)。敗北は、再処理否定・最低保障年金への消費税投入などの点で掲げる政策にリアリティーが皆無なことが明々白々になった結果といえる。だが、河野氏が地方党員・党友票に強かった点がやはり注目される。

自民党国会議員が、河野一族のズブズブ親中を知らないはずはないだろう。河野家が経営する太陽光発電関連企業「日本端子株式会社」の本社は神奈川県平塚市にあり、土地建物は河野洋平氏が所有。洋平氏が会長、同氏の次男である河野二郎氏が社長。国内の2工場(大磯工場、花泉工場)の他に国内に3支店、1営業所他。海外では中国に三つの子会社。

河野太郎氏は日本端子から合計約3000万円の政治献金を受けている(他のファミリー企業からのものも含めると7000万円弱)。太郎氏は1993年、日本端子の取締役に就任した。この会社は、95年に「北京日端電子有限公司」を設立。96年には香港に、12年には独立資本で「昆山日端電子科技有限公司」を開業している。

中国との合弁の相手方は国営の資産管理会社が大株主となっているから、「日端」は潰れない保証をもらったも同然だ。河野家が政府計画の電源構成を太陽光発電の普及に持っていけばいくほど、中国の河野企業は儲かる。日端の売上高は155億円、相手方の売り上げは2兆3000億円と150倍もの差がある。要するに中国側から見れば河野父子は抱え込んだ“身内”なのである。

こうしたことに気が付かない地方の自民党党員・党友には注意を喚起したい。一方で、高市早苗氏の議員票が河野氏を大きく上回ったことは意味がある。政策、ディベート力、推進力と実行力、どこをとっても河野氏はもちろん、岸田文雄氏をも凌駕している資質を備えていることが明らかになったのではないか。(S)

需給ひっ迫危機をどう避けるか 問われる小売り事業者の供給力確保義務


【多事争論】話題:小売りの供給力確保義務

昨年末からの冬の電力需給ひっ迫で、供給力不足の懸念が広まった。

小売り事業者が安定供給にどう役割を果たすべきか、議論が不可欠になっている。

〈  CN移行期の課題が顕在化 プレーヤーの行動改革が不可欠〉

視点A:竹廣尚之 エネット取締役需給本部長

国内の電力市場全体を取り巻く環境が昨冬の需給ひっ迫、そしてカーボンニュートラル(CN)の潮流を受けて大きく変化している。本稿では、供給力確保の課題に対し、各プレーヤーに求められる役割や事業制度として検討すべき点について、今後の事業環境変化を見据えながら考えてみたい。昨冬の需給ひっ迫は、LNG在庫不足によるkW時不足と寒波での需要増が重なったことが直接的な原因だが、背景には限界費用ゼロの再生可能エネルギー導入拡大とそれに伴うスポット市場価格の低下、火力の退出増傾向による供給力低下もあった。この教訓から、燃料不足の予兆を把握するために広域機関によるkW時モニタリングが試行されるとともに、国による燃料ガイドラインが整備された。東京電力エリアにおける今冬の供給力不足へも速やかに対応し、調整力公募による追加供給力の調達が行われることにもなっている。

これまで東日本大震災などの災害時などを除けば、安定供給がある意味所与の条件として小売り競争が行われてきた。しかし今後は、 小売り事業者も3E+Sのうちエネルギーの安定供給に貢献しつつ競争する時代に突入したと感じている。小売り事業者は、相対取引や先物・先渡・ベースロード(BL)・スポット市場を最適に組み合わせ、リスクをマネジメントしながら健全な競争の中で脱炭素へと移行する需要家ニーズに適応し、個社の提供価値を組み合わせてその存在意義を示していくものと考える。大手電力会社の発販一体が続く状況下で需給構造の変化が急速に進むことが予想される中、供給力確保をどう実現していくべきか。

顕在化した広域的な供給力不足 小売り事業者の役割の議論熟さず

昨冬に顕在化した通り、広域的に供給力が不足し追加的な調達手段がほぼ失われた際に、どこまで市場原理に依存し小売りの供給力確保義務をどう扱うかの議論は熟されていない。系統全体で供給力不足が想定される時には、一定のルールを整備した上で安定供給を一般送配電事業者が担い、小売り事業者は顧客との接点を生かし需要抑制・シフトなどの取り組みで需給に貢献する形も考えられる。

CNへの移行期における課題が既に顕在化しているが、各プレーヤーの行動態様を変える契機が訪れているともいえる。市場支配力のある事業者にとってみれば、内外無差別の徹底やBL市場への対応、余剰電源の限界費用での市場供出など多くの措置が取られ、あらゆる行為についての監視の目も厳しく相当に大変な対応が発生している。一方で、利潤最大化行動のもとで新規参入者との相対取引・交渉に臨み、収益を追求することには極論すれば何ら制約はない。新電力もまた、ヘッジの重要性を再認識させられ昨年の今頃と状況は大きく変わっている。

第1・2回BL市場は、取引が適切に実施された前提で考えれば、上昇局面にある燃料市場の動向をどう見切るか、あるいは別策でどうヘッジできるかによって価格目線が変わる中、売り手、買い手とも踏み込んだ価格で臨めなかったと考える。資源価格が想定できない値動きをする状況下、燃料費調整なしのオークションであり交渉で歩み寄るアプローチが取れない仕組みの中、約定が難しい。

一方、この約定結果は次年度の相対交渉を進める一つの価格インジケーターになり得る。市場と並行して売り手と買い手が利潤最大化を追求し、早期の交渉によって計画的に売買先を確保できれば、全てではないが、供給力確保問題の一部は経済合理性や個社の商取引力の問題へと変化していく。

いみじくもニーズが高まった常時バックアップは、小売りが高需要期に有効活用する電源として合理的な価格水準で安定供給に資する卸メニューとして位置付ければ、トランジション期に適合する柔軟性電源として役割を発揮するだろう。その際は、もはや補助的な役割を想起させる名称ではなく再エネと共生する重要電源として再定義するのではないか。

通信では激しい競争の末、NTT東西が光アクセスを「サービス卸」へと見直し、さまざまなパートナーのサービスと組み合わせ新たな価値を提供する「道具」として活用されることへと転換を図った。電力の世界でそのまま当てはまるものではないが、データを有効活用する環境は整いつつある。新規参入の立場で見える景色は、今持っている前提や先入観によってもたらされていることに気付く必要があり、前提が変わればプレーヤーの行動も一気に変化することを考えておく必要がある。

供給力確保の問題は制度設計で整理する部分とともに、プレーヤーの行動変革に依存する部分も大きい根の深いテーマである。

たけひろ・なおゆき 1993年NTTファシリティーズ入社。2015年エネルギー事業本部技術部担当部長、19年から同社取締役。21年4月から需給本部を担当。

【LPガス】料金問題の改善へ 政府通知の効力は


【業界スクランブル/LPガス】

LPガス料金透明化・取引適正化などの諸問題について、消費者団体、事業者団体、行政、学識経験者が一堂に会し意見交換や議論を行う、恒例の「LPガス懇談会」が全国9カ所の経済産業局管内単位で開かれている。7月からスタートし、10月までに6地区まで完了した。議論の中心は、賃貸集合住宅の設備料金問題だ。6月1日に経産省と国土交通省が、所管するLPガス業界団体、賃貸住宅関連団体に対して「LPガス料金の情報提供」に関する文書を通知した。懇談会では、消費者団体からその実効性についての疑問が出され、徹底に向けて官民関係者のさらなる活動の強化を訴える声が挙がる。

設備の無償貸与の問題は、設備費をLPガス事業者が負担することによるLPガス料金の高騰。さらに、入居者は料金に不満があっても受け入れるしかなく、事実上、消費者の選択の余地がないことにある。この商習慣はLPガス業界の長年の課題であり、資源エネルギー庁担当者は、LPガスに対する不信感となりLPガス離れの一つの要因になると懸念を表明していた。

通知から5カ月程度が経過するが、そのような通知の存在も知らない賃貸住宅関連事業者、不動産業者が多いという。実際に不動産業を兼業するLPガス事業者は、通知は回っておらず、目にしたこともないと話す。国交省の指導が行き渡っていないということか。

一方で、商習慣はコスト面からも大手LPガス事業者を中心に一般化してきた側面もある。大手LPガス事業者も真剣に是正に向けた取り組みを進める時期にきているといえるだろう。

北海道の消費者団体は、解決方法として三部料金制の普及拡大と、今回の取り組みにおける法的拘束力を要望する。高値、不透明というイメージを改善しなければ、業界自体がジリ貧となってしまうと指摘する。今後、オール電化が再び普及拡大するのは必至であり、賃貸住宅のエネルギーも同様だ。今こそ賃貸住宅関係業界とLPガス業界、行政が膝を付き合わせて話をする必要がある。(F)

危機感を持った脱炭素宣言 新たに始めた二つの取り組み


【私の経営論(上)】津田維一/富士瓦斯社長

昨年10月26日、菅義偉前首相が表明した「2050年カーボンニュートラル(CN)宣言」は日本社会に大きな衝撃を与えた。コロナ禍にあって先行き不透明な状況の中、唐突とも思えたこの宣言により、私たちは脱炭素社会に向けた変革に否応なしに向き合わざるを得なくなった。

低炭素に資するLPガス CNを境に風向き変わる

私が社長を務める富士瓦斯(フジガス)は東京世田谷で70年近く続くLPガス販売会社である。30年近くLPガスの販売を生業にしてきた私は時計の針が急に速く回り始めたような感覚を覚えた。CN宣言の前まで、LPガスは化石燃料の中では比較的環境負荷が低く、低炭素社会の到来はLPガスにとっては追い風と考えていた。

ところが、この日を境に日本では低炭素から脱炭素に一気に風向きが変わった。社会全体の再生可能エネルギーへのシフトに伴い、LPガス市場の縮小は避けられない。暮らしを支えるエネルギーを販売してきたはずが、このままでは従業員が後ろめたい思いで商売をしなければならなくなる。今は強い危機感を持ってしまう。

そんな中、フジガスでは現在二つの取り組みが進行している。一つはカーボンオフセットのためのクレジットの調達・開発であり、もう一つがLPガス発電機の販売網の構築だ。これらはCNとレジリエンスの両立を目指すことでもある。

そもそも脱炭素というコンセプトは、温室効果ガスの排出を抑えることで温暖化による気候変動を防ぐという考え方である。特にCO2の排出、その中でも化石燃料の利用がとりわけ問題視されている。LPガスは日本全国のほぼ半分の家庭で使われており、国土カバー率はほぼ100%、民生用のエネルギーとしては極めて重要な役割を果たしている。しかし、燃焼時には必ずCO2を排出する。50年までにLPガスのCN化が必要だが、水素とCO2からLPガスを合成するプロパネーションの技術はいまだめどが立っていない。

フジガスでは輸入元売りのアストモスエネルギーが世界に先駆けて調達したCNLPガスの販売を今年10月から開始している。このガスは海外で認証されたクレジットによってカーボンオフセットされている。現状では植林や省エネなどの手法によりカーボンオフセットを行ってクレジットを付与するという形での供給を考えていくしかない。現在のところ、カーボンオフセットについては電力市場が先行しており、LPガス市場ではまだまだ需要サイドでの動きが鈍いというのが実態だ。とはいえ、近い将来、炭素税などのカーボンプライシングの導入が予想されており、フジガスでは、国内外でのクレジットの調達と独自の植林活動などによるクレジット開発に取り組んでいる。

本来であれば、プロパネーションの実現が望まれるが、LPガス業界は中小零細企業の集合体であり、電力・都市ガス業界と違って多額の研究開発投資の担い手が存在しないという課題もある。

先進国の多くが脱炭素への動きを加速しているが、気候変動というのは地球規模での対策が必要であり、先進国だけでCN化に成功したとしても、それだけでは気候変動を止めることはできない。今後も温暖化による自然災害の増加や激甚化が続くというシナリオにも備えておくことは大切である。東日本大震災以降、LPガスはその特長である可搬性、インフラフリーである点などから、その災害対応力は高く評価されている。

災害対応分野で存在感 LPガス発電機に注力

フジガスでは事業継続マネジメントシステム(BCMS)の国際規格であるISO22301を取得し、自社の災害対応力を高めるとともに、事業者間の連携を図るためのLPガス災害対応コンソーシアムを設立するなど、災害対応市場におけるコラボレーションを積極的に行ってきた。

昨年、ガス設備メーカーのI・T・Oが販売するLPガスによる都市ガス発生システム「BOGETS」を足立区の小中学校に設置した際も、当社がLPガスのシリンダーを1400本立てさせていただくなど、災害対応分野でのLPガスの存在感は高まっている。

LPガス発電機が採用された「いすみ市マイクルグリッド構想」

この領域で最も普及が期待されているのが、LPガス発電機だ。フジガスでは関電工のLPガス発電機の開発にも参加させていただいているが、千葉県いすみ市での地域マイクログリッドプロジェクトでもLPガス発電機が採用されている。今後、電気自動車の普及やさまざまな社会インフラの革新、DX化が進む中で、バックアップ用の分散型電源の普及は大きな社会課題となるだろう。LPガスは石油と違って長期間の備蓄でも劣化しないという特長があり、非常用発電機の燃料としては最適である。フジガスではLPガスの供給にとどまらず、発電機本体の販売、施工、メンテナンスの全国ネットワークの構築を最重要ミッションと考えている。LPガス発電機の取り扱いにおいては、LPガスに加えて電気とエンジンの知識も必要となるため、協業先であるLPガス販売事業者にノウハウの提供を行っている。

50年に向かって、LPガス市場は縮小を避けることできないだろう。縮小していく市場において、輸入基地の設備更新を行い、国内の二次基地や物流網を維持していくためには、サプライチェーン全体の効率化、合理化が絶対条件であり、そのためには系列を越えた協業が必要になる。私はLPガス業界にとって、脱炭素時代のキーワードは協業とイノベーションだと考えている。次回はこの二点について言及していきたい。

つだ・これかず 1993年東京大学法学部卒、商社系LPガス販売会社入社。95年家業である富士瓦斯に入社、2014年から現職。05年一橋大学大学院商学研究科にてMBA(経営学修士)を取得。スタディス社長、NPO法人LPガス災害対応コンソーシアム副理事長も務める。

【都市ガス】中国がLNG手配 奪い合い発生か


欧州のエネルギー価格が9月に入って急騰している。特に、イギリスでは電力価格が一時的にkW時当たり400円弱まで急騰し、ガス価格も昨年同期の10倍前後に高騰しているのだ。フランスやドイツでも高騰幅は比較的小さいものの、同様の傾向を示している。この結果、英国では現時点で7社以上の電力小売り事業者が破綻に追い込まれている。この状況は昨冬の日本の電力市場の高騰を想起させる。

なぜ、欧州でこのような市場高騰が起きたのだろうか。さまざまな原因が複層的に重なっているようだ。需要サイドでは、コロナ禍が収まりつつある中での需要急増。供給サイドでは、環境問題から発電所や熱需要が石炭から天然ガスに移行する中、昨年の欧州での厳冬によるガス貯蔵量減、無風無光期間が続いたことでの再生可能エネルギー(風力・太陽光)の稼働率低下、電力連系線の火災事故、ロシアからの欧州市場向け天然ガス供給量の減少などに加え、電力自由化促進で下流部門しかない電力事業の新規参入者が価格競争で体力を失いつつある中で市場高騰の影響をもろに受けたことで、結果的に破綻数が増加することになった。

問題は、この影響が日本エネルギー市場にも及ぶかどうかだ。現在、東アジアLNGスポット価格(JKM)は百万BTU(英国熱量単位)当たり30ドル前後と、昨冬をも上回る価格レベルとなっている。特に、石炭から天然ガスへの移行を進める中国の電力需給については、今冬12月の電力消費量が昨年12月と比べ200億kW時ほど増加すると予想されている。日本の昨年12月の消費量が700億kW時強であることから、中国の増量分が大規模であることが容易に想像できる。中国政府から各企業に対して、スポットLNG調達の早期手配の指示があったようだ。

現在のJKM価格を見ると、既に今冬に向けたLNGスポットの奪い合いが発生している可能性は十分ある。昨冬の経験を生かして、資源エネルギー庁や電力・ガスなどのエネルギー事業者が準備を怠っていないことを期待したい。(G)