<出席者>電力・石油・ガス・マスコミ業界関係者/4名
自民党総裁選に衆院選と、世の中の話題は政治一色となった。
一方で、化石燃料価格の高騰が、生活・産業を脅かそうとしている。
―自民党総裁選、衆議院選挙と「政治の季節」が続いた。エネルギー環境問題も争点の一つになっている。
電力 総裁選では、河野太郎氏の「核燃料サイクル中止」発言があり、原子力事業についてマスコミの注目度が高まった。中止の是非はともかく、世間が原子力や核燃サイクルについて目を向けて、考える機会になり、良かったと思っていた。
ところが衆院選に入ると、一気に関心が薄れてしまった。地方電力の人たちに聞いても、「エネルギー問題は争点になっていない」と言っている。新型コロナウイルスは収束の兆しが見えたが、依然、景気は悪く、商工業だけでなく農林水産業も疲弊している。やはり、今はエネルギー問題は二の次のようだ。
ガス 自民党の選挙戦略も影響している。党内には今も原発の新増設、リプレースに強くこだわる議員がいる。だが、国民的に不人気な原子力の政策は、選挙ではなるべく触れたくない。それで、新増設を明記しなかったエネルギー基本計画を閣議決定して、とりあえず来年7月の参院選まで、政府はこの方針のままでいく考えだ。今の基本計画なら、公明党も文句は言わない。
ただ、参院選後は分からない。岸田文雄首相が所信表明演説で「クリーンエネルギー戦略」と言い出したことに注目している。「グリーン」ではなく「クリーン」とした意味は何か。永田町界隈では、「原発はクリーンエネルギー。新増設を進めることだ」と見ているようだ。
石油 それで原発再稼働が進めばいい。だが、柏崎刈羽がいい例で、いくら政府が力を入れても、立地地域の事情を見ると楽観的には考えられない。
今、ものすごい勢いで、世界中で石炭、石油、天然ガスの価格が上がっている。産経論説委員の井伊重之さんが、「化石燃料の逆襲が始まった」(10月10日)とのコラムを載せて、電力危機が起きた中国の事情を紹介して、日本での電力やガス料金の高騰に警鐘を鳴らしている。
1973年に第四次中東戦争が起きてオイル危機が起きた。今は、それに次ぐエネルギー危機が起きかねない状況だ。残念なことに、そういった記事が他の紙誌ではあまり見られない。
電力・ガス高騰は必至 再エネで何とかなるか
―行き過ぎた脱炭素政策と自由化の弊害が出始めている。
マスコミ まさに自業自得だ。天然ガスのスポット価格が昨年の同じ時期に比べて10倍に膨れ上がった。当然だ。どの国も脱炭素政策に力を入れれば、火力発電の燃料を石炭から天然ガスに代える。
自分の国に膨大なガス田がある米国、ロシアのガスに依存できる欧州はまだいいだろう。石炭からガスに転換している中国も、一方で猛烈な勢いで原発開発を進めている。だが、原発依存度の低減を目指しながら、老朽化した石炭火力を止めざるを得ない日本はどうすればいいんだ。今の温暖化防止政策では、天然ガスの「一本足打法」にならざるを得ない。
―いずれ再エネで何とかなる、という人もいる。
マスコミ 一般の人たちは、電力のロードカーブ(電力負荷曲線)が分からない。だから、「再エネが普及すれば、何とかなるんじゃないか」と言う。確かにこの国が1年中、5月のゴールデンウィークのような非需要期ならば再エネだけでいい。しかし、そんなわけにはいかない。
朝日、毎日、日経などの編集幹部は、そういう事情が分かっている。それでいながら、再エネのメリット・デメリットを読者に伝えず、「開発を急げ」と繰り返している。おそらく、これから冬、夏に電力料金は跳ね上がる。最悪、計画停電もあるかもしれない。その時に、某与党代議士のように「再エネの普及が遅れたからこうなった」と書くようなら、無責任極まったとしか言いようがない。
―業界関係者としては専門紙に期待したいが。
電力 岸田首相が衆議院を解散した10月14日、電気新聞は一面でエネルギー・環境を巡る各党ごとの政策を表にして掲載している。原子力政策の違いがよくまとまっていた。
バラマキ批判の狙いは 原子力で同じ構図も
―話は変わるが、財務省の矢野康治事務次官が文藝春秋に寄稿した「バラマキ批判」の記事が話題になっている。
電力 衆院選前の各党の「大盤振る舞い」を見かねてのことだろう。岸田首相の派閥「宏池会」は、もともと財政規律を重視するグループ。それに岸田さんは政調会長の時、コロナ禍で生活に困っている減収世帯などへの30万円給付案を、公明党の強力な横車で一律10万円給付に変えさせられたことがある。
―その10万円は、使われずに多くが貯蓄に回ってしまったといわれている。
電力 岸田さんの面子がつぶされだけでなく、生活困窮者の支援や景気向上にもあまり役立たなかった。公明党はまた、18歳以下の子供に一律10万円給付と言い出している。衆院選前なので岸田さんも同意せざるを得なかったが、寄稿は首相側の意向も踏まえて、公明党をけん制する狙いもあったのではないか。
ガス ただ、矢野さんは菅義偉前首相のひきで次官に就いた人。「どうせなら、菅政権の時に言ってくれよ」と思った。
―自民党、公明党の間には原子力発電の新増設・リプレースなどでも同じような構図がある。経済産業省にも矢野さんのような役人がいればいいが。