持続可能な社会の構築 工学者は連携して挑戦を


【オピニオン】岸本喜久雄/日本工学会会長

新型コロナウイルス感染症は世界的な大流行となり、われわれに「新しい社会様式」への転換を迫った。その中で、デジタルトランスフォーメーションとともに環境問題への意識の変化も見られ、カーボンニュートラル社会の実現が強く希求されるようになった。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は「持続可能な社会の実現に向けた技術開発総合指針2020」を公表している。そこでは、CO2排出量を2050年時点で実質ゼロにするためには世界で年間約400億tの削減が必要で、従来技術だけでは毎年1000兆円規模のコストがかかると試算している。

一方,コロナ禍による世界の経済的損失は1000兆円規模と推定されている。これと比較してもカーボンニュートラル社会の形成のためには莫大な投資を必要としていることが想像できる。実現のためには革新的技術の開発が必要であり、その担い手となるべき工学関係者の役割は大きい。

日本工学会は、1879年に工部大学校(東京大学工学部の前身)の第1回卒業生23人によって創立された、日本で最初の工学系学術団体である。わが国の工学の発展に伴い、分野ごとに個別の学会が設立されるのに伴って、1922年に個人会員制から学協会を会員とする体制に変更され、現在に至っている。現在は約100学協会により構成されている。わが国の工学系学術団体の原点であるとの認識の下に、学協会の連合体組織であることを生かして、工学および工業の進歩発展を図ることを目的に活動している。

日本工学会は、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の援助の下に68年に設立された世界工学団体連盟(WFEO)に日本学術会議とともに72 年に加盟が承認された。2015年には第5回世界工学会議(WECC2015)を主催し、わが国の「社会を支える工学」「社会イノベーションを創る工学」の実践例を世界に発信し、会議での議論を「WECC2015 京都宣言」として公表した。

ユネスコは、WFEOが創立50周年を迎えたことを契機にエンジニアの活動を広く人々に認識してもらい、あわせてSDGsの推進に貢献することをアピールする目的で創立日の3月4日を「世界エンジニアリングデイ」として採択した。これを受けて、世界各国で記念行事が開催されるようになった。わが国でも、日本工学会が日本学術会議、日本工学アカデミーや関係学協会の協力を得て世界エンジニアリングデイ記念シンポジウムを開催している。第2回の本年は「多様性と包摂性のある社会のための工学の未来」をテーマとした。

環境問題をはじめ多くの社会課題の解決には工学分野を専門とする人々の弛まない挑戦が求められる。日本工学会は工学に携わる技術者・研究者の活躍を支援するとともに、「未来社会のための工学の挑戦」のために分野を越えた連携の推進を目指している。このような活動に多くの皆さまの参画をお願いしたい。

きしもと・きくお 1975年東京工業大学工学部機械物理工学科卒。87年ケンブリッジ大客員研究員、95年東工大教授、2012年東工大副学長、大学院理工学研究科工学系長・工学部長。

【マーケット情報/4月9日】原油下落、需要後退の懸念強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

4月1日から9日までの原油価格は、主要指標が軒並み下落。需要後退の観測が台頭した。

新型コロナウイルスの感染再拡大を背景に、移動や経済活動の自粛が再導入されている。インドでは、一部地域がロックダウンを再開。また、ブラジルで変異株の感染者数が増加していることから、周辺国が国境を封鎖、あるいはブラジルからの出入国を規制。日本では、東京や大阪など一部都道府県がまん延防止等重点措置を導入し、外出や飲食店の営業、イベント等を制限。経済が冷え込み、石油需要が後退するとの懸念が広がっている。

また、米国の新大統領は、直ちに対中関税を取り下げることはないと改めて強調。米中貿易摩擦が続くとの見方が台頭し、経済および石油需要回復に対する不透明感が一段と強まった。

一方、米国の週間在庫統計は、製油所の高稼働と生産減により減少。加えて、OPECプラスの3月産油量は前月比で増加し、価格の下落をある程度抑制した。

【4月9日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=59.32ドル(前週比ドル2.13安)、ブレント先物(ICE)=62.95ドル(前週比1.91ドル安)、オマーン先物(DME)=61.07ドル(前週比1.37ドル安)、ドバイ現物(Argus)=61.00ドル(前週比0.33ドル安)

【コラム/4月12日】2020年度の棚卸と21年度に向けて


加藤真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長

2020年度が終わり、2021年度が始まった。

20年度は新型コロナウイルス感染症拡大の影響に伴い、生活や働き方のスタイルが一変する1年であった。緊急事態宣言が解除されたとはいえ、まだ予断を許さない状況であることに変わりない。そして、エネルギー業界の世界も大きな変化があった年度であった。

そこで、今回は20年度を振り返りつつ、21年度以降の特に電気事業に関する制度設計について簡単に書いていくこととする。

20年度の大きな2つの動き

まず、20年度には大きく2つの動きがあった。一つは、6月に成立・公布された「エネルギー供給強靭化法」。もう一つは10月に菅首相の所信表明演説で出された「2050年カーボンニュートラルの実現」。

前者は、電事法、再エネ特措法、JOGMEC法の束ね法として、エネルギーセキュリティの確保、レジリエンス強化、再エネ大量導入に向けた各施策が盛り込まれている。

この法律は22年4月に施行(一部、前後するもあり)されるため、20年度の夏以降、具体的な制度設計が進められている。

後者は、成長戦略の柱として経済と環境の好循環を掲げ、その中でグリーン社会の実現に最大限注力することを目的に発出されてものである。これにより、政府は新しい成長戦略を立て、そのもとで、投資促進、経済成長を目指していく。すでに成長戦略の14の重要分野について2050年までのロードマップや目標が出されている。エネルギー分野でも洋上風力や蓄電池といった分野で産業ビジョンや導入目標が議論、整理されてきている。

新たに浮き彫りになった課題

こうして大きな政策・方針のもとで走り始めた日本のエネルギー業界であるが、12月中旬以降に起きた電力需給におけるkWh不足と、それに端を発した卸電力取引所価格の断続的な高騰により、市場設計の在り方に課題が投げかけられた。

3月末までに事象の検証・報告がなされ、新電力に対してインバランス料金および再エネ特定卸料金の分割支払い措置が実施されている。

制度設計については、情報公開や供給力確保、リスク管理、セーフティーネットの在り方等の論点を取り上げ、現時点においても議論は継続中である。

この4月で電力小売全面自由化から6年目が始まる。まだまだ市場は成熟しておらず、丁寧かつスピーディーな制度設計、措置を取ることが求められるだろう。

20年度に整理されたこと(3月28日時点)

ざっと20年度に整理されてきたことを以下に挙げてみる。

・エネルギー基本計画見直し

第6次計画は今年夏頃に策定となるが、現状の整理、2050年目標、2030年の政策といった順に議論が展開され、現時点では2050年のシナリオ分析と関係者ヒアリングを踏まえた2030年の政策策定が並行して進展している。

 ・カーボンプライシング

従前より環境省の小委で検討、中間整理されていたが、経産省の研究会を加え、あらためて議論が始まっている。まずは国内外の情勢、検討の視座を整理し、複数ある手法(炭素税、クレジット、国境調整など)の状況確認、想定される枠組みが議論されている。

 ・非効率石炭フェードアウト

第5次エネ基に織り込まれた内容だが、本格的に議論が始まったがの昨年7月の梶山経産大臣の会見以降。方向性としては、省エネ法による規制的措置、容量市場等と整合した誘導措置、一部の大手事業者に対するフェードアウト計画の策定の三本柱で議論が進み、方向性が纏まりつつある。

・再エネ特措法改正

強靭化法に盛り込まれている再エネ特措法改正の諸施策について、詳細設計が整理された。具体的には、FIP・地域活用電源の各種要件、太陽光パネル廃棄処理費用の外部積立、長期未稼働案件の失効要件、交付金の返還等になる。これらは今年夏頃には省令等が改正される予定である。

・容量市場

24年度分メインオークション実施・約定結果公表から、次回以降の入札のあり方について見直しの議論が始まっている。供給曲線の設定、入札価格の事前確認制、オークション回数の2段階化、維持管理費用設定の明確化、小売への激変緩和、非効率石炭退出の誘導措置など整理が進むが、こちらは内閣府のタスクフォースでもゼロベースでの見直しとの意見が出ており、まだ完全に決着はついていない。

活況呈するグリーンファイナンス 模索続く再エネ投資の最適解


【識者の視点】中島みき/国際環境経済研究所・主席研究員

2050年の脱炭素社会実現に向け、企業による再生可能エネルギーへの投資意欲が高まっている。
再エネの市場統合が進む中、新たなビジネスの可能性を探る動きが注目される。

2050年カーボンニュートラルに向けた動きが加速している。

ESG(環境・社会・統治)投資は、18年に16年比4倍に拡大。20年時点の資産残高は約310兆円で、日本の総運用資産に占める割合は51・6%をになっている。17年に約2000億円だったグリーンボンドの国内の発行総額は、20年に1兆円を突破した。

再生可能エネルギーの導入が加速されている印象を受けるが、現実はそう単純ではない。ESG投資は、環境のみならず社会、企業統治も考慮した投資をいい、必ずしも再エネ投資とは限らないのだ。

グリーンボンドに関する公表データを見ると、太陽光発電事業に関連するものが多いが、新規建設に伴う資金調達のみならず、(第三者からの)既存の設備取得に伴うリファイナンス資金も一定数見受けられる。既存設備を売買するセカンダリーマーケットでの取引も、新規の投資としてカウントされはするが新たな再エネ設備が追加されるわけではない。

再エネ投資は拡大するも 設備の増加は限定的

実際、資源エネルギー庁の資料で再エネの年度別導入量を見てみると、導入量の大宗を占める事業用太陽光の導入量は、14年度の857万kWをピークに低下し、至近3カ年は480~490万kW前後で横ばいが続いている。無論、新規の建設資金を投じてから運転開始までには一定の期間を要するためタイムラグはあるが、前述した資金の伸びほど拡大していないことは明らかだろう。

事業用太陽光の買取単価は、制度導入当初(12年度)の40円から毎年、コストの低減傾向に従って低下。17年度からは段階的に入札制が導入され、20年度には平均落札価格が11円台となった。

政府の調達価格等算定委員会は、システム費用がトップランナー水準でkW 14・2万円、土地造成費が同0・4万円、そして接続費が同1・35万円程度と想定している。

この水準では林地開発を伴う大規模造成は困難であり、多額の接続費用を要する立地地点のプロジェクトの実行は難しい。おのずと限定的な地点で、中小規模案件が開発のメインにならざるを得ない。

全国銀行協会によれば、大規模案件の資金調達には、レバレッジ効果により事業者の収益性を高められるプロジェクトファイナンスが活用されることが多い。

格付け機関が公表する評価ポイントでは、極めてプレーンな太陽光開発プロジェクトの場合、スポンサーの想定するキャッシュフローをベースに、DSCR(Debt Service Coverage Ratio=元利返済前のネットキャッシュフローを元利金返済額で除したもの)の要求水準は、格付けAレンジで1・5前後、BBBレンジで1・3台の前半と考えられている。もちろん、個々のプロジェクトのリスクによるが、この水準のキャッシュフローを生み出せるかが焦点だ。

新規開発のハードルが高くなると、メガソーラーを獲得したい事業者はセカンダリー市場へと向かう。最近では、ガス・石油会社も含めたエネルギー企業はもとより、RE100の加盟企業やサプライチェーンの要請を受けた事業会社などの関心も高まっている。

楽天が日本郵政と提携 電力・ガス販売に弾み


電力・ガスの小売り業界の中で、楽天グループの存在感が急速に高まっている。最大の理由は、全国に物流網も持つ日本郵政と資本業務提携を結んだことだ。

「世界に類を見ない新しい提携のパターン」。3月12日、楽天の三木谷浩史社長はこうぶち上げた。今回の提携では、楽天が実施する第三者割当増資を日本郵政が引き受け、3月中に1500億円を出資。これにより日本郵政は8・32%を出資する、楽天の第4位の株主となった。今後、物流面で両社が持つデータを共有しながら、配送拠点やシステムを共同で構築。また全国の郵便局で、携帯電話など楽天サービスの申し込みを受け付けるようにするという。

これまで楽天はポイント加算や1年間無料サービスを武器に〝楽天経済圏〟への顧客取り込みに力を入れてきた。サービスをたくさん利用するほどトータルでの割安感が強まり、解約しづらくなる効果を狙う。その際ネックだったのが窓口となる店舗の少なさだが、日本郵政との提携で解消されることになるのか。4月1日付に設立される楽天エナジーの展開にも弾みをつけそうだ。

関電が新増設に言及 水素社会に向け新型炉導入


関西電力が2月末に発表した「ゼロカーボンビジョン2050」で「高温ガス炉、小型モジュール炉(SMR)の活用」をぶち上げ、関電幹部の会見でも言及されたことが話題となっている。

大手電力の50年ゼロエミ宣言は、JERA、沖縄電力、中国電力、Jパワーが公表している。その中で中国電とJパワーがCO2フリーの電源である原発の活用に言及しているが、新増設にまで踏み込んでいるのは関電のみだ。

注目は、水素製造を目的とした高温ガス炉建設やSMRなど次世代炉の導入を明記し、「原子力を活用することで水素社会の実現にも貢献する」という他社にはない特徴を打ち出していること。関電幹部はビジョンについて「打ち出したからにはしっかりと取り組んでいく」と話している。

意気上がる関電だが、これまでSMRなどの新型炉には消極的だった。それだけに「内々にどんな方針転換があったのか」(大手電力幹部)と勘繰る向きもある。 とはいえ50年カーボンニュートラル実現という難題達成には原子力の活用は不可欠で、野心的なビジョンに希望を感じた原子力関係者は多いだろう。関電の取り組みに大きな期待がかかる。

福島原発事故10年の教訓 エネ戦略は国民的議論で


【論説室の窓】竹川正記/毎日新聞論説委員

10年前の東日本大震災・福島第一原発事故で日本はエネルギー政策の転換を迫られた。

だが、政府はこの間、問題先送りを続けてきた揚げ句、「脱炭素化」を一足飛びに進めようとしている。

「十年ひと昔」というが、2011年3月11日以降の福島第一原発危機の記憶は今も鮮明だ。1、3、4号機が連続して水素爆発を起こし、一時はメルトダウン(炉心溶融)による放射性物質拡散の深刻な影響が東日本全域に及ぶことも想定された。欧州の大使館員や外資系企業の社員らは相次いで東京を離れた。同盟関係にある米国大使館はとどまったが、追随していれば、東京はパニックに陥っていたかもしれない。

財務省幹部が当時「国民に仕える身として逃げるわけにはいかない。家族にも東京に残るように言い渡した」と語った姿が今も印象に残る。私も正直、同じような思いだった。避難を迫られた福島の人々と比べようもないが、原子炉の冷温停止が確認されるまで東京でも緊迫感が続いた。

電力不足で石炭火力依存 問題先送りを続けた政府

深刻な電力不足に見舞われた首都圏では3月14日以降、約2週間にわたり断続的に計画停電が実施された。電力不足からの脱却が当面の最優先課題となり、原料が安価な石炭を中心に火力発電が急ピッチで増強された。

当時はシェールガス革命が本格化しておらず、LNGの輸入コストは割高だった。バブル崩壊以降の長期的な経済低迷による税収減少と累次の景気対策に伴う歳出膨張で国の財政状況は既に主要国で最悪の水準だった。財務省内では「LNG輸入が急増すれば、慢性的な経常赤字に陥り、国債暴落など財政危機の引き金になりかねない」と懸念する声もあった。

一方で、LNGに比べて発電時のCO2排出量が多い石炭火力への依存は、地球温暖化対策に逆行するジレンマが指摘されていた。

「安全神話」が崩壊した原発の位置付けを含めてエネルギー戦略をどう見直し、電力の安定供給と温暖化対策の両立を目指すかは、大震災直後から日本が突き付けられた最大の課題だった。

旧民主党政権は12年に「革新的エネルギー・環境戦略」を発表し、「30年代に原発稼働ゼロ」を掲げた。代替電源として再生可能エネルギーの普及を急ぐとし、太陽光発電などの固定価格買い取り制度(FIT)を導入した。買い取り価格を高く設定したため、設備導入が比較的容易な太陽光発電は確かに伸びた。だが、海外で再エネの主力となっている風力発電導入は進まなかった。日本の大手電機メーカーが軒並み風車製造から撤退したのもそんな事情からだ。

再エネにとって、日本は欧米などに比べて気候や地理的条件が悪い。基幹電源化を目指すなら、蓄電池開発や送電網の増強など包括的な推進策が必要だった。しかし、旧民主党政権のエネルギー政策はそんなスケール感が乏しく、脱原発・脱炭素依存に全くの力不足だったと言わざるを得ない。

13年末に自民党の安倍晋三政権(当時)に交代して以降、水面下で原発回帰の道が探られた。原発はカーボンフリー電源で、再エネと異なり発電量が天候に左右されない。安倍政権下で策定されたエネルギー基本計画は原発を「重要なベースロード電源」と明記。30年度の電源構成目標の原発比率は20~22%とした。

しかし、国民の不興を買うことを恐れてか、肝心の再稼働の判断は原子力規制委員会と地元自治体に丸投げした。地元住民の不安解消に欠かせない避難計画策定にも積極的に関与しなかった。原発の位置付けはあいまいなままで、国民の不信は払拭されなかった。

この結果、大震災後に再稼働した原発は9基に止まり、18年度の原発比率はわずか6%。エネ基の目標は「絵に描いた餅」となっている。再エネ比率は17%と大震災前から倍増したが、発電の不安定さは解決されていない。

にわか仕立ての脱炭素化 原発の位置付け定まらず

原発の再稼働停滞の穴埋めと再エネの調整電源を引き続き担う火力発電の割合は7割超と高止まりし、日本は世界的な脱炭素化の潮流に大きく出遅れた。専門家は政府の無策ぶりをエネルギー版「失われた10年」と批判する。

菅義偉政権は昨年10月、50年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル(CN)」を宣言したが、にわか仕立ては明らかだ。経済産業省はCNに向けてグリーン成長戦略を策定したが、技術革新への期待感を総花的に網羅した「作文」の域を出ず、実効性が疑われている。原発に関する記述は「可能な限り依存度を下げつつも最大限活用」と矛盾に満ちている。

カーボンニュートラル宣言はにわか仕立てが否めない

関係筋によると、政府や経産省は「まずは野心的なCN目標をぶち上げて、世論の脱炭素化ムードを醸成することが重要」と考えているという。その上で再エネ活用にはコストや技術面で限界があることを国民に徐々に浸透させ、その延長線上で原発のリプレースや新増設方針を打ち出すシナリオを描いているとされる。

だが、福島原発事故の影響は今も続いている。避難者がいまだに数万人に上り、廃炉作業は何十年続くか分からない。そんな状況下で「脱炭素化」を隠れみのにするような原発復権論が国民に受け入れられるとは到底思えない。

CN目標達成への道筋づくりは菅首相や経産省が喧伝するようなバラ色の絵図にはならない。日本にとってオイルショック以上の厳しい試練となるだろう。電源の脱炭素化を進めるには、産業構造や生活スタイルの抜本的な転換も必要だからだ。世論調査では、原発への不信や不安が大きい一方、「即時廃止」を求める意見は少数派にとどまっている。日本のエネルギーの現状を直視した国民の冷静な認識が背景にあるのだろう。

そうならば、政府がまずやるべきはこの10年間のエネルギー無策を真摯に反省することだ。その上で、国民と幅広く対話しながら原発の位置付けも含めたCN目標実現の道筋を探ることだろう。有識者会合のお墨付きを得て新たなエネ基や電源構成目標を決めても再び「絵に描いた餅」になるだけだ。国民の理解なしにエネルギー政策の見直しは進まない。3・11が遺した貴重な教訓だ。

目指すはLP託送業務革命 完全無人化の充填基地をオープン


【日本瓦斯】

「ニチガスが目指しているのは、地域の特性や増え続ける社会課題を解決するソリューションの実装。新しい技術を現場に導入し続けることで、新技術のトキワ荘や梁山泊になりたい」

手塚治虫を慕い、赤塚不二夫、石ノ森章太郎、藤子不二雄などの漫画界の巨匠が切磋琢磨したトキワ荘や、108人の英傑が集った中国文学の水滸伝に登場する梁山泊―。これらになぞらえて同社和田眞治代表取締役社長執行役員が目指しているように、社外を含むさまざまな能力を持った人々が連携してデジタルトランスフォーメーション(DX)技術を導入し、LPガスの充填・配送業務の効率化を進めているニチガス。その集大成ともいえる世界最大級のLPガスハブ充填基地「夢の絆・川崎」が3月16日にオープンした。

流線形の屋根が特徴的な「夢の絆・川崎」

夢の絆は川崎市浮島地区にあり、基地の広さは約8700坪。最大充填能力は一般的な充填基地の100倍となる5万t/月で、14連全自動回転充填機を3基、30tのLPGタンクを2基、容器検査所、研修センターなどを完備。世界最大級の規模を誇っている。

充填業務の完全無人化 他社と連携し改革目指す

最大の特徴は、容器の仕分けや充填、車両および作業員の入退場といったバックヤード業務の管理を無人で行っている点だ。

そもそも同社には、LPガスの自動検針を行える「スペース蛍」というIoT端末がある。同端末は定期的に自社クラウドサービス「雲の宇宙船」に各種データをアップロードする機能を搭載。この機能を活用し、同社では作業員が手作業でチェックせずともLPガスボンベ残量を自動で識別するなど高度なデータ利用を行っている。

夢の絆ではこうしたデータの活用に加え、LPガスボンベに装着されたバーコードタグを基地各所に設置されているカメラで読み取ることで、AIが最適なレーンに自動で振り分け、千葉、神奈川、茨城県など首都圏各地にあるデポステーションへの配送で使用されるトレーラーもGPSやバーコードによる管理がなされている。積載するLPガスボンベの数量や基地レーンへの誘導などが全て自動的にドライバーに指示される。

また夢の絆のデータや各デポステの在庫データ、またその他保安情報や顧客情報なども、全て雲の宇宙船で共有されている。容器の検査から充填、車両への積載、配送先の指示、実配送など、LPガス託送の各工程で徹底したDX化を図ることで高度化を実現した。

和田社長は3月16日に開催した会見で「テクノロジーが世の中を変えていく。当社もやっと入り口に立てた。競い合う競争から、共に創り出す共創の時代に向かいたい」と話すなど、競合会社とも共創の輪を広げる意欲を示している。

インバランスで大激震 新電力業界再編の現実味


一般送配電事業者が1月のインバランス料金(確定値)を公表した3月5日、新電力業界に激震が走った。1kW時当たりの月間平均価格が78円となり、速報値に比べ19円も上回ったからだ。特に、需給が厳しかった11、12の両日は、500円を超える時間帯も。速報値の段階で「この水準であれば事業を継続できる」と、資金調達に奔走した新電力関係者にとっては青天のへきれき以外の何物でもない。

資源エネルギー庁は、事業者の負担増を考慮し一定の要件を満たせばインバランスの分割払いを認める特別措置について、従来の5か月から9か月に回数を増やす追加支援を打ち出したが、効果のほどは未知数だ。

新電力関係者の一人は、「多くが4月以降の事業継続を念頭に、速報値ベースの支払いを踏まえた資金調達をしていた。追加融資を引き出せない限り、事業継続が危ぶまれる新電力も出てくるだろう」と、業界へのインパクトを語る。 事業からの撤退か譲渡か、はたまた大手資本の受け入れか―。最善の選択を模索する動きが水面下で活発化している。

ガス協会の新会長に本荘氏 手渡された重たいバトン


日本ガス協会の会長が4月1日付で、広瀬道明・東京ガス会長から、本荘武宏・大阪ガス会長に交代する。従来会長人事は6月1日付だったが、近年の傾向として事業者のトップ交代が年度替わりの4月1日付で行われていることを踏まえ、前倒しした。

交代会見でひじタッチする新旧会長(左が本荘氏)

「日本ガス協会にとって大変重要な局面に差し掛かっている。責任の重さを痛感している」。3月18日に行われた新旧会長の交代会見で、本荘氏はこう強調した。

菅政権の看板である「2050年カーボンニュートラル(CN)実現」に対応すべく、広瀬氏が昨年11月24日にぶち上げた都市ガス業界の脱炭素化ビジョン。水素、メタネーション(合成メタン)、バイオガスといった革新的イノベーションを段階的に導入しながら50年の脱炭素化を目指すもので、「大手から地方への横展開」が大きな課題となっている。

「CNアクションプランの策定」という重たいバトンを広瀬氏から受け取った本荘氏。この日の会見では「地域活性化に貢献する地方ガス事業者へのサポートを強化するなど、お客さま、社会、そしてガス事業者が満足する『三方よし』となるよう、誠心誠意努力していく」と意気込みを語った。その手腕に期待が掛かる。

【覆面座談会】原発リスクを正しく伝えず 原子力規制委の無責任体質


テーマ:原子力の安全規制

原子力規制委員会が発足して来年で10年。この間、原子力発電所の再稼働が認められたのは9基にすぎない。カーボンニュートラル宣言で原発の役割が見直される中、規制委の在るべき姿について専門家が語り合った。

〈出席者〉  A電力業界人 B学識者 Cジャーナリスト

―原子力規制委員会が2012年9月に発足し、新体制による安全規制行政が来年で10年目を迎える。「功罪」の両面があると思う。まず、これまでの規制行政を振り返って感想を聞きたい。

A まず「功」として、やはり原発の安全性を圧倒的に向上させたことは事実だ。厳しい規制基準を作り、安全審査では、炉心溶融などの重大事故が起きてもセシウム137の放出が100テラベクレルを超えないことを「合格」の基準とした。さらに安全目標として、放出量が100テラベクレルを超える重大事故が起きる頻度を100万炉年に1回程度としている。

 設備面での安全性を評価するために、PRA(確率論的リスク評価)が必要となり、その活用が進んだこともよかったと思っている。運転管理の点でも、米国流の新検査制度の導入を評価している。事業者の現場での自主的な安全性向上を促すことになった。これから事業者は、新制度にしっかり応えていくことが大切になる。

B 安全性が向上したのは、事業者に膨大な費用を負担させて設備を造らせたためだ。ある意味で当たり前だろう。

 私は規制委には「五つの大罪」があると思っている。①法的根拠のない「田中私案」で原発を全て止めたこと、②安全目標の最上位概念である死亡確率を棚上げにしたこと、③科学的・合理的ではない「活断層」審査を行っていること、④特重(特定重大事故等対処施設)のような不必要な施設を事業者に強要していること、⑤適合性審査に予見性がないこと―の五つだ。

 中でも、死亡確率の安全目標を棚上げにしたことの責任は重い。棚上げにしたことで、新規制基準によって原発の安全性が確保されたのか、今も国民には曖昧なままになってしまっている。

A もちろん、事業者として言いたいことは山ほどある。新規制基準の適合性審査のスピードが遅く、東日本の原発の多くが稼働していない。重大事故対策の設備も、本当に全て必要かという疑問がある。しかし、われわれとしては、それらが「合格」の基準として決まってしまったからには、受け入れざるを得ない。

C 私も思いつくのは、Bさんと同じで、まず「罪」の面だ。再稼働が遅れている最大の理由の断層調査で、「神学論争」を繰り返している。規制委が耐震・対津波の基準を作る際、それまで原子力耐震を担ってきた工学系の学者の声をほとんど聞かなかった。

一方で、変動地形学など理学系の学者の主張を大きく取り入れ、結果として地震や津波のリスクは「青天井」になってしまった。

 それで、不毛な議論を延々と続けることになった。BWR(沸騰水型軽水炉)は1基も動いていないし、PWR(加圧水型軽水炉)でも、泊原発1~3号機のように塩漬け状態のプラントが出ている。

 行政手続法は、申請が出た場合「遅滞なく審査を開始しなければならない」と定めている。規制委は、福島事故後の「狂騒状態」の中で生まれた組織なので、当初は行政組織としての体をなしていなかった。それは仕方のない面もあった。しかし、今も行政手続法にのっとった許認可行政をしていない組織だと思っている。

安全目標・死亡確率を棚上げ 説明責任を果たしているか

―死亡確率を利用した安全目標を棚上げにしたことには批判が多くある。

A 死亡確率は、「原発にはこれだけのリスクがあります」と世の中に知らしめて、自動車・飛行機事故や自然災害などと比較して、原発事故のリスクが低いことを理解してもらうための指標だ。これを明らかにしないと、膨大な費用をかけて安全対策をしながら、それが何のためだったのか国民は理解できない。事業者も、安全対策の設備などによって「これだけ安全性が向上しました」と、確信を持って言うことができない。

―なぜ定めないのか。

B 田中俊一前委員長に決める考えがなかった。田中さんは新規制基準ができた後、最初に稼働した川内原発について、記者から「安全になったと言えるか」と問われて、「安全だとは私は言わない」と答えている。死亡確率という究極の安全目標がグレーだからそう言うほかなかったのだろう。自ら棚上げにしておきながら、こんな無責任な発言はない。

 田中さんは以前の著作で、「科学者は社会的責任を果たすべきだ」と述べている。だが、死亡確率の棚上げは、まさにその社会的責任の放棄そのものである。自家撞着が甚だしい。

A 国民から見ると、規制委が合格を出しながら、委員長が「安全だとは私は言わない」と発言したら、「何のための審査なんだ」と思ってしまう。

 世界の多くの国が安全目標として、死亡確率は1炉年当たり10のマイナス6乗と定めている。つまり、死亡する頻度は100万年に1回ということだ。

原子力規制委員会は死亡確率を利用した安全目標を棚上げにしている

東西で難航する原発再稼働 「海輪氏を東電会長に」の声も


東日本大震災から10年が経過した今も、原子力発電所の再稼働が相変わらず難航している。

東京電力の柏崎刈羽原発では、昨年9月の中央制御室への社員不正侵入に続き、今年1月には不正侵入者を検知する設備を作業員が壊していた問題が発覚。原子力規制委員会が調査を行ったところ、複数の検知設備で故障があり事後対策が不十分だったことが分かった。これを受け、規制委の更田豊志委員長は3月16日の会見で「深刻な事案」だとして、追加検査を指示。検査には1年以上かかるとみられ、再稼働はさらに遠のいた格好だ。

柏崎刈羽の追加検査に乗り出す原子力規制委

エネルギー関係者は「東電のカバナンスに問題があるのは明らか。女川再稼働に道筋を付けた東北電力の海輪誠会長を東電ホールディングス会長に抜てきし、原発部門を切り離すぐらいの思い切った改革が必要ではないか」と話す。

一方、福井県の杉本達治知事との合意により、美浜3号機など40年超えの原発再稼働にこぎつけたはずの関西電力。だが12日の県議会では最大会派・県会自民党の同意が得られず、判断見送りの事態に陥った。こちらも再稼働への影響は必至の状況だ。

東西での相次ぐ失策に、関係者からは深いため息が漏れている。

脱炭素化に欠かせない原子力 福島事故の「呪縛」を解くときに


【カーボンニュートラルと原子力発電】文/石川和男

菅義偉首相が宣言したカーボンニュートラルの実現に、原子力発電は大きく貢献する。

電力安定供給の電源としても欠かせず、その果たす役割を冷静に見直すべきときが来ている。

菅義偉首相が昨年、2050年カーボンニュートラルを宣言した。いま国はエネルギー基本計画の改定作業を行っている。その中で50年に向けて再生可能エネルギー電源の主力化や、化石燃料の高効率利用などの政策がこれから、示されるようになるだろう。

しかし、カーボンニュートラルに圧倒的な貢献をするのが原子力発電であることは論をまたない。エネルギーに関わる政界・官界人や業界関係者は皆、それを分かっている。ただ、福島第一原子力発電所事故から10年が経つにもかかわらず、そのことを言い出しにくい空気がある。

この閉塞感を打破するためには、やはりまず政権与党が原子力についてきちんと発言するべきだ。エネルギー政策は経済産業省の主管だが、政治が発言しないと経産官僚も行動を起こす勇気は出ない。電力会社やメーカーなど民間も同じだ。

政治が官と民を奮い立たせて、まずは、電力の大量安価安定供給が期待できる既設の原発をフル活用するようにしなければいけない。原子力規制委員会の審査と並行させつつ、国が前面に出て再稼働を進めていくべきだ。

運転開始から40年を超えた発電所の稼働も非常に重要になる。規制委の新規制基準を理由にして、数多くの発電所が廃炉になった。それらのリプレースをするには、かなりの時間がかかる。すると、残った発電所を60年間運転させて、その間にリプレースのための財源を稼がなければならない。

40年超えの原子力発電所について、現場を知らないマスコミは「老朽原発」と書くが、「老朽化」というのは揶揄でしかない。アメリカでは60年を超えて80年認可を経て、100年運転への動きもある。海外でも運転延長は増えつつあり、新規制基準の下で日本でもようやく光が見えてきた。

40年超え運転では、関西電力が尽力して、高浜1・2号機、美浜3号機が稼働を始めようとしている。日本原電の東海第二も40年超え運転の認可を受け、安全性向上対策工事を進めており、再稼働に向けてぜひとも頑張ってもらいたい。

前提となる自治体の了解 国が地元に感謝の意を

再稼働は立地する県や市町村の理解を得ることが条件になる。福井県は知事、県議会、多くの県民、地元自治体も理解のある態度を示している。そういった地元に対して、国がきちんと感謝の意を表すことが大切だ。経済産業大臣だけでなく、首相も謝意を示して、「国が最後まで面倒を見ます」と述べるべきだろう。

しかし、廃炉が決まったものを除いて、建設中を含めて36基の発電所が60年運転するとしても、自然体では40年以降、設備容量は大きく減少する。新しいエネルギー基本計画では、新規の建設について前向きな言及をすることが必要になる。

36基(建設中を含む)が60年運転するとしても、2040年代以降、設備容量は大幅に減少する
※資源エネルギー庁資料より

50年に向けて、これから再エネの普及拡大を進めていくことになるが、高いコストが大きな課題になる。多額の費用がかかる再エネの開発をしていくために、原子力発電とパッケージにして進めていくことを提唱する。

原子力発電所を建設し、運営するのは大手の電力会社だ。その大手電力会社には、新しい発電所を建設した場合、発電量に合わせて再エネの開発をしてもらう。例えば、100万kW級の発電所をつくったならば、10万kWくらいの再エネ設備を保有してもらう、あるいは再エネの電力を調達してもらう―という仕組みだ。

再エネの固定価格買い取り制度(FIT)が始まって、太陽光発電やバイオマス発電の設備が国中で増えるようになった。12〜14年までのFIT価格はバブルをあおるような価格で、売り抜いてもうけようとする投機筋が多く参入してきた。

それで、山の斜面を切り崩すなどをして太陽光パネルを設置するようになり、地元の人たちの反発を買っている。バイオマス発電も同じように〝迷惑施設扱い〟だ。輸入液体燃料を中心として、FITの認定を取っても、地元との調整がうまくいかず、なかなか竣工できない施設が多い。

再エネの開発で、地元ときちんとした関係を築ける事業者は少ない。しかし、大手電力会社ならばうまくやっていける。もし再エネを本格的に普及拡大させていくならば、原子力発電とのパッケージは欠かせないと思っている。

大手電力会社は、別に再エネで収益を得なくてもよい。減価償却費程度を稼げば十分。その代わり、原子力発電の方で利潤を得る。それによって、新規の原子力発電所や再エネ、送電線への投資を行っていく。

電力小売りの全面自由化で総括原価方式はなくなり、電力会社は原子力発電所に投資した費用を確実に回収できる手段をなくした。これでは、誰も新しい原子力発電所をつくろうとは思わない。発電部門と送配電部門については政策的、法的に投資回収を担保する仕組みをつくらなければいけない。「容量市場」では投資はそれほど進まないのではないかと非常に心配だ。

送配電網協議会が発足 調整力を広域・効率的に調達


送配電網協議会が4月1日、電気事業連合会から独立した組織として発足する。協議会は昨年10月、電事連内に設置されたが、より中立性・透明性を確保するため、電力会社との間に明確な一線を引くことにした。

会見に臨む(左から)平岩芳朗理事・事務局長、土井義宏会長、坂本光弘副会長

一般送配電事業者と連携し、①系統・需給運用、②設備計画、③需給調整市場―などについて主に技術的な面の業務を進める。1日に開設する需給調整市場では、市場運営部を設け窓口業務を担当。また、大規模災害が発生した際は、一般送配電事業者間などの協調を図る役割を担う。

当面の課題は、需給調整市場への対応だ。一般送配電事業者(沖縄電力を除く)と協議会は3月17日、電力需給調整力取引所(EPRX)を設立した。周波数維持など系統安定化に必要な調整力は、これまで一般送配電事業者がエリアごとに公募で調達してきた。今後は、EPRXでの広域調達に移していく。

調整力の公募は、大手電力による発電・送配電間の取引が大半を占めていた。需給調整市場についても、「参入条件や必要なコストを考えると、大手電力のリソースのみが参加する市場になるのでは」(新電力関係者)との懸念がある。どう全国のさまざまな発電事業者やデマンドレスポンス(DR)事業者などから効率的な調達を行い、国民負担の低減につなげるか、手腕が問われる。

今冬のような電力危機への対応も急がれる。平岩芳朗事務局長は、「長時間のkW時不足での不足量の把握や評価の方法、エリア間の融通調整をより円滑に実施する仕組みを関係機関に提案していく」と述べている。送配電事業者の組織として、停電防止の重責も担う。

【マーケット情報/4月1日】欧米原油上昇、需給逼迫観が強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

3月26日から4月1日までの原油価格は、北海原油を代表するブレント先物と、米国原油の指標となるWTI先物が上昇。一方、中東原油の指標となるドバイ現物は、前週比で下落した。

スエズ運河は29日に通行を再開したものの、原油タンカーの運航に遅れが生じている。また、米国の週間在庫統計は減少を示した。加えて、中国国営シノペックは、今年の原油処理量を前年比で5.7%増に引き上げる計画。供給逼迫と中国の需要増加で、需給が引き締まるとの見方が強まり、欧米原油に対する上方圧力となった。

一方、OPECプラスは5~6月にかけて、産油量を徐々に増加させる予定。また、サウジアラビアは、日量100万バレルの自主的減産を、5~7月にかけて段階的に縮小していくと発表。供給増加の見通しが、ドバイ現物の重荷となった。

【4月1日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=61.45ドル(前週比ドル0.48高)、ブレント先物(ICE)=64.86ドル(前週比0.29ドル高)、オマーン先物(DME)=62.44ドル(前週比0.20ドル高)、ドバイ現物(Argus)=61.33ドル(前週比1.18ドル安)

*4月2日が祝日だったため、4月1日の価格と比較