再エネと原発が共存共栄 ハイブリッドに関心高まる


カーボンニュートラルを実現するのに、最も費用対効果のいい方法は何か―。最近、米国で関心が高まっているのが、原子力発電と再生可能エネルギーを組み合わせた「ハイブリッドシステム」だ。

太陽光・風力発電などの電気と原発の電気を統合して、電力グリッドに一箇所で接続。蓄電池も組み合わせ、変動する再エネの電気を安定的に供給する。また、蓄熱機も併設し、原発の排熱や余剰の電気などを利用して、水素などの製品をつくる。「収益を最適化できるシステム」(業界関係者)と期待は高い。

ただ、課題もある。需給のバランスを保つために、電気・熱の需要を正確に把握しなければならない。そのためAIなどを活用して、情報を統合的に処理するシステムの開発が必要になる。

最大の課題は、再エネを信奉する人たちの「原発嫌い」だ。ある原子力関係者は「再エ推進派の人たちに再エネと原発は共存すべきだと主張すると、一笑に付される」という。

手段を選んでいては、地球温暖化は防止できない。再エネ信奉者には、柔軟な対応を期待したいのだが……。

脱炭素へエンジ産業の「覚悟」 ピンチをチャンスにできるか


【業界紙の目】宗敦司/エンジニアリング・ジャーナル社編集長

脱炭素化が急速に進む中で、エンジニアリング産業も事業構造の大転換に本腰を入れている。

これまでのノウハウも生かしつつ、この激変を乗り越えチャンスをつかめるか、各社の戦略が試される。

プラントビジネスの事業環境は急速な変化が進んでいる。日本のエンジニアリング会社が得意とする大規模LNGプラントは、2019年の記録的な規模の発注量から一転し、20年はわずか1件にとどまった。そして今年はカタールの大規模LNGプロジェクトが発注となったものの、最終投資決定が予定されていた案件の約半分は先送り、もしくは中断となっている。

実行が予想されるLNGプロジェクトも、今後はCCUS(CO2回収・利用・貯留)を併設するよう計画を変更している。また石炭火力発電は世界的に投資からの撤退が進み、日本の石炭火力プラントメーカーも今後の新規受注を諦めているのが実情だ。

水素・アンモニアに積極姿勢 洋上風力では温度差も

その一方で、水素や燃料アンモニア関連のプロジェクトが世界各地で立ち上がってきた。発電設備は昨年の投資減少から今年は増加に転じるとみられているが、IEA(国際エネルギー機関)では発電設備投資の70%が再生可能エネルギーとなると予測している。

脱炭素化はプラント市場に大きな影響を与えており、エンジニアリング産業がこれまで軸足としてきた分野の多くで持続可能性に疑問が生じ、事業分野のシフトは必須となった。4月以後、エンジニアリング会社の多くが、こうした状況に対応した事業の長期ビジョンや経営計画を相次ぎ公表している。その多くは、既存の事業分野を継続しつつ、新規事業の育成を図っていくというものだ。

専業エンジ会社の事業の基本はEPC(設計、調達、建設)である。特に大型のプラント建設プロジェクトのEPCで日本は優位性を確保してきた。そのノウハウそのものは、化石資源関連以外の分野でも生かすことができる。

例えば、ガス処理や石油精製、LNG、石油化学プラントには、水素や燃料アンモニア関連技術も使われており、プラント建設そのもののノウハウはさほど変わらない。実際、千代田化工建設や日揮ホールディングス、東洋エンジニアリングはこれまでも、水素やアンモニア設備について長年の実績がある。これらの設備の規模はこれまでより飛躍的に大きくなるのだが、スケールアップもエンジニアリング会社の得意分野だ。そのため、各社はこれらの分野に積極的に取り組んでいくことを表明している。

30年以後は、既存のEPC分野の比率は50%程度となり、新規分野のEPCやサービス事業、あるいは事業運営などが残りを占めるという事業イメージを描く。分野の広がりだけでなく、EPC以外の仕事に幅を広げようとしている点が注目される。

再エネに関しても建設実績は多く保有している。ただ、今後主力となる洋上風力は各社で若干温度差があり、日揮ホールディングスは積極的だが、東洋エンジニアリングは日鉄エンジニアリングとのコラボレーションの中で対応していく程度だ。

一方、これまで積極的に洋上風力に取り組んでこなかったJFEエンジニアリングは、180度方向転換する方針だ。JFEグループが取り組みを強化する中、国内で初めて基礎構造物であるモノパイルの生産工場を、約400億円を投じて構築する計画を打ち出している。

相次ぐ組織変更 分野横断で技術を統合

脱炭素化は、エンジニアリングビジネスそのものを大きく変化させてきている。

IHIはプラント事業ユニットとボイラー事業ユニットを統合して新たに「カーボンソリューション」ユニットとした。三菱重工業も今年、三菱パワーを本体に統合する。ほかにもプラント事業関連分野の組織やセグメントを変更する重工メーカーは多い。

その理由は、今後求められる脱炭素化エンジニアリングは、従来事業の枠を突破しなければ実現できないからだ。

例えば川崎重工業は液化水素チェーンの確立を図っているが、これにはプラントビジネスだけでなく船舶も関与する。そのためセグメントを「エネルギーソリューション&マリン」とした。住友重機械工業も、同様に船舶や産業機械とプラント事業のセグメントを統合。「エネルギー&ライフライン」として、液化空気エネルギー貯蔵、バイオマスの地域別事業展開、バイオリアクター展開などを進める。こうした動きに象徴されるように、脱炭素化は個別技術で対応するのではなく、分野横断的に各種技術を統合したソリューションを展開していかなければならない。

川重などが豪州ビクトリア州に建設した水素液化基地

ケミカルや航空機燃料なども、これまでのようにナフサなどの安定した原料を使用できなくなると、バイオマス由来や再エネ由来の原料、さらにCO2から合成した炭素循環原料を使っていく必要がある。LNGも先述のようにCCUS設備付きが標準となり、カーボンニュートラルLNGでなければ販売できなくなる。

これらの脱炭素化需要を満たしていくには、まずCO2を回収する技術が必須だ。CO2回収が低コストで可能となればガスタービン複合発電は将来的に適用可能だし、石炭火力の復権もあり得る。

また、化石資源由来の水素やアンモニアもクリーン化することができる。さらに再エネ由来の水素と、回収したCO2を電気分解することで得られるCO(一酸化炭素)を組み合わせた合成ガスを原料に、触媒反応を用いて液体炭化水素を合成するFT合成(フィッシャー・トロプシュ法)技術経由で、各種の燃料製造や化学品原料の製造も可能となる。

これら技術のほとんどをエンジ業界は既に持っている。そして自社技術に限らず、廃棄プラスチックのガス化リサイクルなど他業界が保有する技術をいかに組み合わせ、脱炭素社会に実装していくか。その統合化ソリューションを構築していく上でも、エンジ産業が重要な役割を担うことになる。

エンジ産業の覚悟は示された。脱炭素をチャンスとし、前進していくのみだ。

〈エンジニアリングビジネス〉〇1981年創刊〇発行部数:1万部〇読者構成:エンジニアリング会社、プラントメーカー、機器ベンダーなど

震災復興と支援への感謝を発信 東京・秋葉原で「東北ハウス」開催


【東北ハウス実行委員会】

東京五輪・パラリンピックが開催される今年は、東日本大震災から10年目にも当たる。この節目の年に、東京・JR秋葉原駅前のアキバ・スクエアで、復興を着実に進めている姿と、東北と新潟の魅力を国内外の人たちに伝える「東北ハウス」が7月22日から8月7日まで開催される。

岩手・宮城・福島の人たちが映像で感謝を伝える

コロナ禍で五輪会場への海外観客の受け入れは見送りとなり、外国人の入国や行動は制限される。だが、五輪開催に合わせて訪日する人はおり、また日本に関心を持つ人も増える。

東北ハウスの目的は、この機会に①震災時に海外から寄せられた支援に感謝の気持ちを伝える、②復興に向けて着実に歩んでいる姿を紹介する、③豊かな東北・新潟の魅力を伝える―ことだ。

また、コロナ禍でアキバ・スクエアを訪れる来場者が通常よりも少なくなることを考慮。そのため、コンテンツの大半をウェブ上で公開し、国内外に発信するバーチャル開催を8月24日から来年の1月24日まで展開する。

国内外に感謝の気持ちを 「酒と食」のコーナーも

入場すると、まず「感謝のパネル」が来場者を迎える。岩手・宮城・福島県の8人(組)が映像で登場。復興にまつわるエピソードや、支援への感謝の気持ちなどを伝える。

会場で目を引くのは、半円形の巨大なパノラマスクリーン(円周34m)。東北・新潟の豊かな自然の風景や夏祭りの様子などを、圧倒的な迫力で体感してもらう。風景は360度カメラを搭載した大型ドローンで撮影。また、複数の通常サイズの映像を180度の映像に合成するなど、意欲的なオリジナル作品を上映する。

主催は、東北・新潟の自治体、経済団体、企業などで構成する東北ハウス実行委員会。委員長を務める海輪誠氏(東北経済連合会会長)は、「これまでの各方面からの復興支援に対する感謝の気持ちや、復興を成し遂げつつある現在の姿のほか、豊かな自然や文化、祭りといった東北・新潟の魅力を伝えるべく、官民が一体となって取り組みました」と話す。

東北ハウスでは、伝統工芸の製作を実体験したり、東北・新潟が誇る「酒と食」を味わえたりするコーナーもある。海輪委員長は「多くの皆さんの来場を心よりお待ちしています」と話している。

東北・新潟の「酒と食」を味わえるコーナーもある

政治決着の温室ガス46%削減 安定供給とコストにも配慮を


【論説室の窓】井伊重之/産経新聞論説委員

菅首相が打ち出した温室効果ガスの排出削減を達成するには、エネルギー転換が欠かせない。

転換は国民に「痛み」を強いるため、きちんと説明し理解してもらう必要がある。

菅義偉首相が米国主催の気候変動問題に関する首脳会議で、2030年度までに温室効果ガスを13年度比で46%削減する目標を表明した。従来の政府目標は26%の削減だったが、ここから7割以上も増やす野心的な目標だ。そして菅首相は「さらなる高みを目指す」として50%削減まで挑戦する姿勢も示した。

地球温暖化防止に向け、先進各国は温室ガスの削減を競い合っている。日本も他国に負けないような高い理想を掲げるのは理解できる。だが、化石燃料からの脱却を図る温室ガスの削減は、将来の国民生活や産業に大きな影響を与える取り組みだ。それだけ重要な目標が政治主導で進み、政府内で建設的な議論がないままに決定したのは問題だ。唐突に数字だけが独り歩きする意思決定システムに危うさを感じる。

首相自ら数値目標を決断 「46%」の根拠はあいまい

今回の新たな政府目標の策定を巡り、菅首相は政治主導による決着にこだわった。最終的な数値は誰にも知らされず、初めて明らかにされたのは首脳会談の直前に開催された、菅首相がトップを務める地球温暖化対策推進本部の場だった。菅首相は自ら数値目標を決断することで、温暖化対策を率いる姿勢を示した。

これは昨年9月の首相就任後、国会で初めて表明した「50年に温室ガス排出を実質ゼロにする」というカーボンニュートラル宣言と同じ構図だ。菅首相が宣言を出した直後、経済産業省幹部は「あれは私たちが提案したものではない。これから苦労する産業界には覚えていてほしい」と苦い表情で語っていた。

そもそも46%削減の根拠はあいまいだ。新たな削減目標を策定するに当たり、従来の手法で積み上げを目指した経産省は「40%程度が限界」としていた。

これに対し、環境省は50%削減を主張していた。小泉進次郎環境相が気候変動問題のケリー米大統領特使と数回にわたって会談し、「米バイデン政権の意向だ」として50%削減を強く求めたことで両省の調整は難航した。

落としどころとして両省の間をとって「45%」が浮上したが、最後になって菅首相はさらに1%を積み増す形で46%を表明し、米国と足並みをそろえる協調姿勢をみせた。新型コロナウイルスの感染拡大防止が進まずに内閣支持率の低下に直面する中で、首相自らが主導する形で地球温暖化防止に向けた新たな削減目標を打ち出した格好だ。

この数値目標が公表された直後、テレビ番組に出演した小泉環境相は「くっきりとした姿が浮かんだわけではない。おぼろげながら浮かんできた」と発言し、根拠があいまいだとの批判を浴びた。最後は菅首相の政治判断で決まった数値目標だけに、本人にしてみれば、おぼろげな姿しか浮かばなかったのは当然かもしれない。

さまざまな政治的な思惑が交錯する中で決まった温室ガスの削減目標だが、その実現には高いハードルが待ち受ける。従来の13年度比26%削減という目標も高い数値だったが、そこから目指すべき山はさらに高くなった。特にほとんど根回しがないまま厳しい削減目標を突きつけられた産業界にとってみれば、「これは環境ファッショではないか」(鉄鋼大手)との恨み節も聞こえてくる。

重油や石炭などの化石燃料を使う自家発電設備を保有する鉄鋼や製紙、セメント、化学などのエネルギー多消費型産業は今後、エネルギー転換に伴う厳しい痛みを強いられる。中には工場閉鎖に追い込まれたり、日本からの脱出を迫られたりする事態も予想される。そうした企業が立地する企業城下町の自治体も厳しい対応を迫られるのは確実だ。そうした痛みを具体的に説明しない政府の姿勢は無責任でもある。

温室ガス排出削減の課題は、火力発電の低炭素化だ。日本全体のCO2(二酸化炭素)排出量のうち、発電所を中心とするエネルギー部門が4割を占める。原発の再稼働が進まない中で、現在の電源比率は7割以上を石炭やLNG(液化天然ガス)などの火力発電が占めている。次期エネルギー基本計画で示す30年度の電源構成では、火力発電の比率を全体の4割程度まで落とす目標になるが、実際にどこまでその比率を下げることができるかは不透明だ。

一方で太陽光などの再生可能エネルギーは大幅に引き上げられて4割程度まで引き上げる方針だが、既に太陽光パネルの設置に適した土地は少ないとされる。山の斜面を切り開いてパネルを設置する手法は、景観だけでなく、土砂崩れを引き起こす原因にもなりかねない。自治体による規制条例も相次いでおり、今後は公共施設の屋根などへの設置が進む見通しだが、電力系統の強化を含めて課題は多いといえる。

政策は環境ばかりに重点 安定供給・コストは二の次に

注意したいのは一連の温室ガスの排出削減について、政府は成長戦略の一環と位置付けていることだ。菅首相も「地球温暖化防止に向けて新たなイノベーション(技術革新)を引き出す」と意欲を示している。水素やアンモニア、CO2の地中貯留など新たな技術開発を進め、その商用化を通じて投資を進めることで新たな産業の育成につなげようとしている。

首相は政治主導の決着にこだわった

しかし、政府のエネルギー政策は三つのEが基本である。エネルギーセキュリティー(安定供給・安全保障)とコストなどの経済効率性、そして環境である。現在の政策は温室ガスの排出削減という環境ばかりに重点が置かれており、安定供給やコストには焦点が当たっていない。エネルギーとは手段にすぎず、それをいかに効率よく利用するかでその価値が決まる。どんなに環境性能が高いエネルギーでもコストが高く、利用されなければ、エネルギー本来の役割は果たせない。

成長戦略として始まった温室ガスの排出削減について、安定供給を目的とする現実的なエネルギー政策として着地させるには、まだ時間がかかりそうだ。

石炭火力輸出にまた逆風 G7サミットで方針見直し


6月13日に閉幕したG7サミット(主要7カ国首脳会議)の宣言では、途上国への石炭火力輸出について、5月下旬の気候・環境相会合の合意からさらに踏み込んだ方針を示した。排出削減対策を講じていない石炭火力への新たな公的支援について、気候・環境相会合では「終了に向けた具体的ステップを21年中に取る」としたところ、首脳宣言では「21年末までの終了に今コミットする」と言及。政府は首脳宣言を反映する形で17日にインフラ輸出戦略の方針を見直した。

これまでは、脱炭素化を目指す国に対して超々臨界圧以上の高効率技術に限るなどとしていたが、今後は排出削減対策が講じられているか否かで判断する。問題は「排出削減対策」が何を指すかだ。首脳宣言には具体的記述はなく、公的支援の縮減について「限られた例外を除き」との文言もあり、線引きははっきりしていない。

梶山弘志経済産業相は18日の会見で「排出削減対策がどういうものかということが今後の議論の対象になる。国内での議論や国際的なルール作りをしっかりやっていく」と説明した。

米国内で新型原発を建設へ ゲイツ氏「脱炭素へ必要」


米国で有数の石炭産出量を誇るワイオミング州。30年までに温室効果ガス半減を目指すバイデン政権と歩調を合わせ、6月にナトリウム冷却型の第4世代原子炉第一号の誘致を決定した。日本でも新型原子炉を推進すべくリプレース議連が発足する中、20年前から議論されてきた第4世代原子炉の建設に期待が高まる。

ワイオミング州に建設される新原発の完成イメージ
提供:テラパワー社公式HPより

運営主体は、大富豪ビル・ゲイツ氏が会長を務める原子力ベンチャーのテラパワー社と、著名投資家のウォーレン・バフェット氏が所有する電力会社のパシフィコープ。連邦政府もこのナトリウム冷却材を用いた原子炉に期待しており、昨年10月にエネルギー省はテラパワー社へ8000万ドル(88億円)の資金提供を行っていた。7年後の運転開始を目指し、建設費は約10億ドル(1095億円)。新原発は、34・5万㎾の発電能力を有し、必要に応じて50万㎾まで引き上げられる。

ゲイツ氏は、ナトリウム原子炉は設計を簡素化したことにより安全で、発電コストが低いと強調。何より、気候変動問題の解決に向けて「原発は必要だ」と言い切った。日本の原発の新増設、リプレースの行方を占う意味でも、米国の次世代原子炉の行方が注目される。

【覆面ホンネ座談会】都市ガスは座礁資産化するか 炭素実質ゼロで迫られる決断


テーマ:ガス事業者のCN生き残り戦略

2050年カーボンニュートラル(実質ゼロ・CN)に向け、都市ガス業界では大手は既に戦略を示したものの、地方の動向はよく見えてこない。約200社はどう生き残りを図るべきなのか。そして将来の都市ガス事業の姿やいかに。

〈出席者〉 A大手ガス事業者  B地方ガス事業者  Cコンサル  D金融関係者

――50年実質ゼロは半世紀前のLNG導入に匹敵する大きな挑戦で、業界全体での達成には実にさまざまな課題があると思う。

A 昨年10月の菅義偉首相のカーボンニュートラル宣言を聞いた時は正直厳しいと思ったが、その直後、広瀬道明・日本ガス協会前会長がガス事業者の生き残りに向けチャレンジする方針を明言。そして今年6月に工程表としてアクションプランが発表された。エネルギーの実質ゼロというと電源の脱炭素化や電化が注目されがちだが、それ一辺倒で実現できるものではない。エネルギー消費の約6割は熱であり、トランジション(移行)期においても特に高温熱を使う産業分野や既築住宅など、電化に向かない分野の着実なCO2削減に都市ガス業界が貢献できる。

 昨年のチャレンジ宣言時には、50年には9割をメタネーション(合成メタン)ガスで、残りを水素や、CO2クレジットを活用したCNLNGで、といった数値目標を掲げた。それに対し今回は、①30年46%減への貢献、②メタネーション実装への挑戦、③水素直接供給への挑戦―の三つのアクションで取り組む方針を示した。各社社長がメンバーとなる委員会を設置し具体化していくそうだ。

B ガス自体の脱炭素化は事業存続の命綱になると期待している。ただ、中小にはそれにコミットできるリソースがない。中長期の事業継続を考えたとき、地方ガスとしての生き残りにこだわるつもりは正直ない。確かに電化シフトが進んでも、ガスによる熱供給は残るだろう。だが脱炭素以前に、人口減少・少子高齢化に伴う市場のシュリンクの方が深刻だ。導管資産や雇用の維持はガス事業一本では難しい。地方ではどの産業も疲弊し、このままでは共倒れだ。異業種連携で新電力事業など総合インフラ事業体を新しくつくることで、ガス事業継続の道も見えてくる。まず持続可能なまちづくりを進め、その上でCNガスの供給体制を整えないと意味がない。

電化との競争本格化へ 需要家サイドへの提案が鍵

C 実質ゼロ化へのイノベーションも重要だが、トランジションで累積排出量をいかに抑えるか、つまりコージェネなど天然ガスの高効率利用の一層の深掘りも重要だ。ガス業界は、電力セクターがどう仕掛けるかを考えつつ、低炭素化という武器を生かした貢献策を追求する必要がある。現場はエネルギー間競争を意識しており、トランジションでの競争に劣後すれば、地方の事業者は存続できない。

 電化シフトが実質ゼロの処方箋といった流れができつつあるが、電源の低炭素化が進まないうちから電化が必要、というロジックはふに落ちない。例外的にEV(電気自動車)はメーカーの対応やインフラ普及に時間がかかるので早めに電化を進めることは理解できる。しかし他分野の電化がCO2削減に即貢献するわけではない。まずは足元の低炭素化を軸にした競争に注力すべきだ。

世界的な電化シフトのうねりに都市ガス事業者はどう立ち向かうのか

D メタネーションは50年に向けた長期視点、30年46%減はほぼ明日の話と区別した上で、両輪の取り組みが求められる。50年についてはメタネーション一本足ではリスキーで、幅のあるシナリオを想定し、手立てをきちんと考えていくべきだ。30年の局面では、全体で非化石電源を2~3倍増やせなければ、ガス会社に一層のCO2削減のしわ寄せが行くことも予想される。そこで電力への進出も当然考えられるし、カーボンクレジットを使った対策も頭に入れる必要がある。

 メタネーションは供給サイドの視点だが、先ほど出たように需要家サイドがガス会社生き残りのキーワードになる。各社は今後、顧客のニーズに合わせてエージェント的にガス、熱、電気をどう調達するかを考えるべきだ。それは電力業界にはない強みになる。Bさんが言った異業種連携はこれにつながる話で、こうしたプラットフォームは重要だ。

A CNLNGのクレジットの活用については、CO2の削減量がどこに帰属するかが課題になる。パリ協定のルールでも扱いを検討中だが、わが国が世界に先駆けた仕組みを発信する必要がある。経産省の官民協議会でも議題として取り上げられるようだ。

D 同感。しかし欧米では公的機関の検討より、民間によるボランタリーマーケットの動きの方が圧倒的に早いことが、京都議定書の時との相違点だ。日本も後手に回るとクレジットを高値でつかまされる羽目になるよ。

現場作業の進捗を「見える化」ICT・IoTで新しい働き方を


【中部電力パワーグリッド】

中部電力子会社の中部電力パワーグリッドはこのほど、ICT・IoTを活用し、現場作業の業務進捗や設備状態を事務所などからいつでもどこでも「見える化」する、「らくモニサービス」を開始した。同サービスは、自治体や法人向けに三つのサービスを展開する。

「らくモニCamera」で進捗管理

一つ目は現場作業の情報を管理する「らくモニIoT」。二つ目は作業場所に設置し、自動撮影が可能なサービス「らくモニCamera」。最後にセキュリティーの高い通信サービスを安価で提供する「らくモニSIM」だ。

三つの「らくモニ」サービスに共通するのは、現場の設備状況や作業状況を事務所からでも遠隔監視によりリアルタイムで把握できる点だ。

「らくモニ」の全貌 新しい働き方の実現へ

らくモニIoTは、現場作業員の位置情報など、GPS端末を用いて現場の情報を把握し、クラウドで一元管理する。現場の働き方改革を推進し、協力会社とスムーズに連携するなど、遠隔での情報共有が容易になる。具体的には、GPS端末を携帯した作業員の位置情報を事務所や在宅などで管理し、作業員はスマホで作業の進捗状況などを報告することができる。

らくモニCameraは、現場に設置する自動撮影カメラからデータのクラウドサービスまで、ワンストップで提供するサービス。会社や在宅からでも現場を写真撮影することができる。あらかじめ設定した日時に定時撮影も可能だ。 自動撮影カメラが活躍するのは、作業現場の着雪状況を監視したい時。会社や自宅からでも撮影指示ができるので、除雪タイミングをいつでもチェックできるため、現場出向削減や安全品質向上につながる。

らくモニSIMは、同社が携帯電話会社から通信回線を借り、自治体や法人向けにデータ通信サービスを提供するサービス。最大の特長は、データ通信量を現場間でシェアすることができるため、実質料金が安くなる点だ。NTTドコモとauのエリアで選ぶことができる。また、閉域通信とSIM間通信も実現するプランもあるため、インターネットにつながらない環境下においても安心して通信することができる。

中部電力パワーグリッドでは、らくモニサービスを利用することで、現場作業の見える化を可能にし、業務の効率化やリモートワークの定着など、新しい働き方を実現する構えだ。

先行地域100カ所で脱炭素 「再エネ交付金」構想が進行


地域の脱炭素化への移行を後押しするため、政府が6月9日に地域脱炭素ロードマップを策定した。再生可能エネルギーのほか、省エネや電化、電動車の活用などを組み合わせ、地域課題の解決も図る。2030年度までに「脱炭素先行地域」100カ所以上をつくるとしているが、資金支援のスキームとして、エネルギー対策特別会計を活用した新たな交付金構想が浮上。8月末までに具体化し、環境省が22年度概算要求に盛り込む予定だ。

自家消費型太陽光など再エネ活用を駆使する

小泉進次郎環境相は会見で原発立地地域への交付金を引き合いに出し、「今までだったら電源立地交付金、これからは再エネ立地交付金だという議論を正面からしていきたい」と強調。ただ、「電源立地対策」ではなく、再エネや省エネの推進などを図る「エネルギー需給構造高度化対策」に組み込む形で調整されるとの見方もある。

気になるのがFIT(固定価格買い取り制度)との関係。環境省は「FIT電源の活用は排除しないが、賦課金を受け取っている事業者がさらに交付金も受け取るような形はイメージしていない」(環境計画課)と「二重取り」は認めないという。ただ、地域の脱炭素化のためには一層の公的資金の投入は避けられそうもない。

貸付配管問題に行政のメス LP減少には歯止め掛からず


LPガス需要の減少に歯止めが掛からない。電力・都市ガス全面自由化による競争激化のあおりを受け、全電化や都市ガスへのシフトが加速。最盛期の1996年度に約1970万tだった需要規模は、2020年度には1200万t台へ。全国の利用世帯数もついに2000万を割り込んだという。販売店数は90年代に3万数千店あったが、現在は半分の約1万7000店程度にまで減少している。

賃貸住宅のオーナーにとっても貸付配管は魅力的だった

「全国のガス利用世帯をLPガスと都市ガスが二分していると言われていた話も、今は昔。その差は着実に広がっている。90年代後半、業界全体が21世紀は2000万t時代の幕開けだと盛り上がっていたのがウソのようだ」。LP業界の幹部はこう嘆く。

そんな中、LP業界が顧客囲い込みの商慣行として長年続けてきた集合住宅向けの「貸付配管」に行政のメスが入った。エネ庁と国土交通省はこのほど、LP業界や不動産業界の団体に対し、LP仕様の集合住宅については入居希望者にガス料金の明示を求める通知を出したのだ。従来、配管などガス設備の貸与料が料金に含められ、「LPガス物件はガス代が不透明で高い」との批判を招いてきたが、入居前から料金水準を確認できるようにすることで、利用者保護を図る狙いがある。

「あくまで行政指導なので実効性は大いに疑問だが、そもそも今は脱炭素化対応などで『太陽光+電化設備』という物件が増えつつある。LP仕様は自然淘汰されていくだろう」(前出幹部)

コロナ禍による在宅増加で販売業者の足元の収益は改善されているものの、潮流は「脱LP」。新たな一手が求められている。

【イニシャルニュース】福島原発事故に翻弄 原子力学識者の悲哀


福島原発事故に翻弄 原子力学識者の悲哀

福島第一原発事故から10年。当時原子力界をリードしていた学識者の中にも、世間の批判を浴びた人たちがいた。

親しい原子力業界関係者が集まり、当時の学識者を評価する会合が開かれた。それぞれを「能力」「迫力」「人柄」の3分野で5段階で評価し合い、点数を決めるものだ。

会合出席者の同情を集めたのが、福島事故時に安全委員長に就いていたM・H氏。能力・人柄は5点だが迫力は1点。福島事故では、ヒステリー状態になったK首相に話を聞いてもらえず、なすすべもなく耐えていた。事故後、公の場に出ることもほとんどない。「温厚な人柄で学者としても一流なだけに残念」(関係者)との声が聞かれる。

3分野で全て5点の評価を得たのは一人のみ。M・S元安全委員長だ。国営原子力研究機関で初のプロパー理事長を務め、原子力規制行政でも実績を積んだ。福島事故の後も、産業界が設立した安全関連の組織の会長に乞われて就任している。

新設された規制委員会の長に就任したT・S氏の評価は、バラツキがあった。能力4点、迫力5点だが人柄は1点。新組織での専横的な進め方が批判されていたが、さらに「目下の者に横柄」(関係者)な態度で評価を下げている。

福島事故に直面した学識者の評価は

番外編は、経産省の安全保安院の長だったT・N氏。事故発生時に首相から質問され、「私は文系です」と答えひんしゅくを買った。だが、「コピーを人に任せず、自分で取るような人」(経産省関係者)。経済学部を首席で卒業した能吏でもあり、事務系ながら事故時にトップに就いていた巡り合わせを気の毒に思う関係者は多い。

エネ庁幹部叱責 K大臣の政策能力は?

2050年カーボンニュートラル実現を標榜する現政権。その意向を受け、再エネ導入推進のためにスタートしたK大臣直轄のタスクフォース(TF)だが、最近の傍若無人ぶりに本来自陣営であるはずの再エネ関係者からさえすこぶる評判が悪い。

再エネ事業者のA氏は、「特定の新電力や再エネ事業者を厚遇するような公平性に欠く議論が繰り広げられており、このままでは将来の再エネ普及にとって、マイナスにはなってもプラスにはならない」と目を覆う。

TFの議論に反発する人たちが口々に言う共通ワードがある。それは、「まるでかつての民主党政権を見ているよう」―だ。

6月3日の会合では、TF側が策定中の第6次エネルギー基本計画に「再エネ最優先の原則」を明記するよう要望したのに対し、エネ庁幹部が回答には審議会での議論を踏まえる必要があることもあり、「エネルギー政策の原則は『S+3E』だ」と述べるにとどめ、回答を見送る場面があった。これに対し、K大臣は「言葉遊びはいい加減にしてもらいたい」と強い口調で言い放った。

学識者のX氏はその様を「どう喝だ」と言い、「『原則』は審議会でさえ変えることは難しい。その場で即断など役人にできないことなど大臣なら知っているはずだ。審議会に諮るにしたって大臣判断になるし、梶山大臣にK大臣の指示に従えと言っているようなものだ」と憤る。

何より、エネ庁側から出席していたM部長は、再エネ振興に尽力してきた功労者。エネ基議論に携わるZ教授も、「K大臣には、エネルギー政策の担当能力がないと言わざるを得ない」ときっぱり言う。

地球環境産業技術研究機構(RITE)が試算した、再エネ大量導入時の統合コストにもおかんむりの様子だったが、「そもそもTFには、再エネの系統統合についてまともに議論できる人はいない。K大臣にとっては不幸な話だ」(X氏)。

TFが主張するように再エネが安いのであれば、そもそも「再エネ最優先」をエネ基に明記しなくても市場原理で主力電源化は進むはず。実はそうではないということを、大臣も周囲の人々もよく分かっているのかもしれない。

エネルギー業界からは、「現政権がよもやエネルギー安定供給に相反するようなことはするまいと信じてきたが、このまままい進するならこれ以上支持はできない」との声も聞こえる。

未来の総理大臣と目されるK大臣。ワクチンのみならず、エネルギーを巡る言動も画面を通じて国民は注視していることをお忘れなきよう。

小泉環境相の珍問答 業界紙が大々的に報道

〈菅首相、角栄氏創設「電源三法」改正視野 脱炭素化へ「再エネ交付金」制度創設 政府内で検討へ 切り込み隊長は小泉環境相〉

これは、環境分野の大手業界紙K新聞6月16日付1面トップ記事の見出しである。メイン8文字・サブ10文字前後、漢字の羅列・単語の重複はNG、可能な限りシンプルにといった新聞見出しのセオリーをことごとく無視した文章が気になって内容が頭に入ってこないが、要は再エネ主力電源化に向けて立地地域に政策資金を投入する目的で「電源三法」を改正するという内容。それを菅義偉首相が判断したと報じていることから、インパクトは絶大だ。

記事を書いたのは、この業界の名物・ベテラン記者のK氏。独特の切り口やツッコミが持ち味で、小泉進次郎環境相も定例会見でたびたび名指しするなど、「環境官僚で知らない人はいない」(環境省A氏)と言われるほどだ。

再エネ交付金を重ねて強調した小泉環境相

そんなK氏と小泉氏が業界紙重鎮記者S氏を交え、6月11日の会見で珍問答を繰り広げた。口火を切ったのはS氏。国の専門家会議がまとめた地域脱炭素工程表に関連して、担い手となる再エネ事業者の多くが中小で財務基盤が脆弱な問題を投げ掛けた。

これに対し、小泉氏は「ポイントの一つが、複数年度にわたる自治体に対する資金支援を抜本的に見直し、『再エネ立地交付金』のような新たなスキームをつくることだ」と強調。その上で「再エネ立地交付金をどのような制度設計にするか、議論を通じて明らかにしていく」と述べた。

これにすかさずK氏が食らいついた。エネルギー対策特別会計の電源立地地域交付金制度を引き合いに、再エネ交付金創設に向け梶山弘志経産相と話をつけたのかと質問したのだ。小泉氏は政府部内の調整はこれからだとしながら、次のように回答した。

「電源立地交付金の使い道については、一部からは批判もある。本当にそれ、電力と関係あるんですかという。再エネ立地交付金は、よりよいものにしたい。そして国が全面的に資金支援する形で(国策民営の下で)日本から再生可能エネルギーメジャーを生み出していく」

冒頭のK紙は、小泉氏が電源三法の改正を視野に入れているという前提で、会見でのやり取りを事細かに記している。ただ関係者によると、政府が想定しているのは、おそらくエネルギー需給勘定をベースにしたもので、電源立地対策ではないとのこと。なお電源三法所管の経産省関係者はK紙報道に対し、冷ややかな姿勢を見せている。

脱炭素傾倒のN紙 行き過ぎで方針微修正

ここ数年、再生可能エネルギーや水素など新エネ重視の方針から「脱炭素新聞」と言われることもある大手経済紙のN紙。裏事情に通じたS誌には、N紙を「脱炭素商売」とやゆする記事も掲載された。記事は、O会長の方針で編集と営業が一体となり、広告や協賛金狙いで報道がゆがんでいると批判している。

一方の企業側も、そんなN紙の編集方針を利用しつつ、営業戦略として再エネなどには宣伝費用をかけ、自社のPRに力を注いでいる。

ただ、ここに来てN紙はその方針を微修正し始めたようだ。これまでは新エネの技術開発絡みのネタであれば、中身を問わず紙面を割く傾向にあった。しかし「玉石混交がすぎる」との批判があったのか、さすがにその方針が露骨すぎるとして、実装まで多くの課題を包含する水素やアンモニア、全固体電池については、上層部から記者に対して慎重に取り扱うよう指示があったという。

現場記者の中には、過度な脱炭素・再エネ追求は非現実的との考えを持つ人も少なくないと聞く。今回の編集方針修正は、「中正公平」「経済の平和的民主的発展を期す」という社是に立ち返る第一歩となるのか。

【マーケット情報/7月2日】米国、中東原油が続伸、需給逼迫の観測強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油の指標となるWTI先物と、中東原油を代表するドバイ現物が続伸。需給逼迫の見込みで、引き続き買いが優勢となった。一方、北海原油の指標となるブレント先物は、前週比で小幅に下落した。

米国では、製油所の高稼働で、週間在庫統計が6週連続で減少。また、インドでは、新型コロナウイルスの感染拡大が減速し、ロックダウンが緩和。車による移動が増え、6月前半の燃料需要が前月同期比で増加した。それにともない、国営製油所が徐々に稼働率を引き上げている。

さらに、米国が、親イラン武装勢力を空爆したと発表。米国とイランの関係悪化にともない、米国の対イラン経済制裁が継続し、イラン産原油の供給回復が見込めないとの予測が強まった。

欧州でも、ワクチン普及が進み、ロックダウンの緩和、および燃料需要の増加が続く。ただ、英国では、新型ウイルスのデルタ変異株の感染が拡大。欧州諸国は、英国からの入国規制を導入し、航空機用燃料の需要回復は限定的との見方が広がった。加えて、オーストラリアやマレーシアも、デルタ変異株の感染者数増加を受け、ロックダウンを再導入。ブレント先物の重荷となった。

OPEC+の8月以降の生産計画は、アラブ首長国連邦の意見に相違があり、合意に至らず。方針の決定は、5日に持ち越された。

【7月2日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=75.16ドル(前週比1.11ドル高)、ブレント先物(ICE)=76.17ドル(前週比0.01ドル安)、オマーン先物(DME)=74.39ドル(前週比0.98ドル高)、ドバイ現物(Argus)=73.73ドル(前週比0.16ドル高)

【コラム/7月5日】英国の電力自由化を振り返る


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

英国は、1990年に欧米先進国ではいち早く電力の小売自由化に踏み切った。当初は、小売の部分自由化であったが、1999年には全面自由化に移行している。卸電力市場では、小売自由化の開始とともに集中的な取引制度である強制プールが導入されたが、主要な発電事業者による市場支配力の行使が排除できなかったため、2001年に相対取引制度であるNETA(New Electricity Trading Arrangements)が導入された。NETAは、2005年にはイングランド・ウェールズのみならずスコットランドもカバーするBETTA( British Electricity Trading and Transmission Arrangements )に発展している。NETAの導入時に、英国政府は需給調整市場の設立のみに責任を負い、取引に強制プールのような規制的な要素を排除し、民間の自由な市場活動を重視した。

しかし、その後10年ほど経ち、英国は急速に規制に回帰するようになった。その背景にあるのは、市場メカニズムに依存するだけでは、低炭素社会の実現や供給保障の確保は困難と判断したことが挙げられる。そのため、英国政府は、2011年に電力市場改革 (Electricity Market Reform: EMR)を発表し、自由化市場の下での低炭素電源促進のために、1)再生可能エネルギー電源、原子力、CCS設置の石炭火力等を対象に差金決済型の固定価格買取制度(Contract for Difference Feed-in Tariff: FIT-CFD)の導入(2014年から実施)、2)CO2排出価格の下限値の導入(2013年から実施)、3)新設火力のCO2排出基準(年間450g/kWh)の導入(2014年に建設許可を受けたプラントから適用)を決めるとともに、供給保障の確保としては、キャパシティメカニズム (Capacity Market: CM)を導入することとなった(2018年から実施)。

また2019年には、英国政府は、原子力発電に対して、FIT-CFDとは異なる新たな価格設定方式として規制資産ベース(regulatory asset base: RAB)の価格設定を提案している。FIT-CFDは、政府と原子力発電事業者との間で合意された投資回収に必要な基準価格(strike price)と卸価格に基づき算定される指標価格(reference price)との差を事後的に決済するものである。これに対して、RABは、資本収益率も考慮し、すべての費用を積み上げ総収入を決定し、費用は最終的に需要家に転嫁するものである。しかも、FIT-CFDとは異なり、建設段階から安定的な収入を得られるようにし、大きな影響を及ぼす経済的、政治的リスクへの対処にも政府が支援するとしている。これは、独占時代の総括原価主義への回帰といってよいであろう。

また、同じ2019年には、高齢者や経済的に困窮している需要家層が多く契約している標準料金が割高に設定されているとのマスコミ等からの批判を受け、価格競争は完全には機能していないとして価格上限規制を導入している。

1990年の電力自由化から20年ほど、英国は自由化の旗手として、欧米各国のお手本を示したが、現在では最も規制色の強い国となってしまった。自由化当初は、多くの識者は、環境保全や供給保障の確保は市場の自由化と基本的に矛盾しないと述べていた。果たしてその見解は正しかったのであろうか。実際は、市場の自由化が環境保全や供給保障の問題の解決を難しくしたというのが正解であろう。言い換えれば、自由化市場に大幅な制約を設けなければ、環境保全や供給保障の問題の解決は難しいことを、英国の例は示したといえるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

地域資源を生かし再エネの導入を拡大 カーボンニュートラルへ挑戦


【東北電力】

東北電力グループは、再生可能エネルギーをカーボンニュートラルに向けた重要な電源と位置付け、「再エネ電源の開発」と「再エネ発電事業の持続的・安定的なサポート」の両面から、再エネの導入拡大を図ることで、地域の再エネポテンシャルを最大限に活用する方針だ。

地域における責任ある事業主体として、再エネの導入拡大を図る

同社グループは、1951年の創立以来、70年にわたり、東北6県および新潟県において、豊かな自然を生かし、多様な電源開発に取り組んできた。

創立70年の経験を生かし 再エネの有効活用へ

地域の豊富な再エネポテンシャルを生かすべく、さらなる再エネの導入拡大に向け、200万kWの新規開発を目標に掲げ、積極的に取り組んでいる。今年4月末時点で持分出力を約55万kWまで積み上げている。

これまでの取り組みで得られた知見やノウハウを最大限に活用し、太陽光、陸上風力、着床式、さらには浮体式の洋上風力までを見据え、2030年以降、できるだけ早期の目標達成を目指す考えだ。

また、21年4月には、地域の再エネ電源の持続的かつ安定的な運営をサポートする「東北電力リニューアブルエナジー・サービス」を設立した。

電気事業のノウハウと、技術者などの人的ネットワークを生かし、再エネ電源のメンテナンスやオペレーション、技術者のトレーニングなどのサービスを提供する。再エネ発電事業者と協議を進めており、今後も積極的な営業活動を展開していく考えだ。

東北電力リニューアブルエナジー・サービスの基本サービス

東北電力グループは、世界的な脱炭素の動向を踏まえ、「東北電力グループ“カーボンニュートラルチャレンジ2050〟」のもと、「再エネや原子力の最大限の活用」と「スマート社会実現事業の展開」を中心に、カーボンニュートラルに向け、主体的に挑戦していく。

太陽光被害のまん延防止ならず FIT機能不全ぶりの実態


政権が再エネ拡大路線を進む中、トラブルの被害者はFITの機能不全ぶりを嘆き続けている。

エネ庁は段階的に対応を強化するが、初期に導入された不適切設備への対応は後手後手が続く。

5月末、50 kW未満の小型太陽光発電設備を巡る訴訟が、東京高等裁判所で始まった。小型太陽光を巡る訴訟で高裁まで行くのは初の例だという。原告は山梨県北杜市の住民ら。太陽光の乱開発に悩む同市の近況は、本誌6月号の特集で報じた通りだ。この訴訟のケースでは、斜面の上に建つ家を囲むように並ぶパネルにより、さまざまな悪影響が生じたと住民側が主張。事業者にパネル撤去と損害賠償を求めたが、甲府地裁での第一審では原告の請求がいずれも棄却された。この判決が高裁で覆るのか否か、注目されている。

原告は、電磁波障害や低・高周波音による健康影響、眺望障害、生活妨害など、さまざまな問題点を訴えている。例えば、パネル下で暖められた空気が流れ込み住宅内の温度が上昇。住民が5カ所で30分ごとに1年間測定したデータを提示したが、甲府地裁は信頼性に欠けると判断した。また、住民はパワーコンディショナーの電磁波が原因とみられる呼吸困難や息苦しさといった健康被害を主張。医師の診断書を提出したが、WHO(世界保健機関)などの見解を理由に、これも採用されなかった。

一方、当該設備がFIT(固定価格買い取り制度)法や電気事業法違反であるとの訴えについては、特に何の判断も示されず。そして訴訟の途中で裁判長の交代があり、後任の裁判長は原告が求めた現地視察に応じないまま判決を下した。

地裁判決は到底受け入れられないとして、原告は控訴。事業者は訴訟中にもパネルをたびたび増設しており、原告側は当初と状況が変わっているとして、高裁で改めて裁判官の現地視察を求めるとともに、気温データについても詳しく説明したいと訴えた。しかし裁判長は、証拠の検証や現地視察は必要なしと判断。このまま8月頭には判決が言い渡される予定だ。

原告側の梶山正三弁護士によると、太陽光訴訟で住民側の勝訴は1例にとどまるという。梶山氏は「FIT法や電事法で求める項目を強制する構造になっていないことは制度的な欠陥だ。例えば太陽光発電の架台については日本工業規格で定める強度の確保を求めているが、チェックするシステムもないし、違反してもFIT認定に影響がない」と強調する。

裁判に発展した設備は係争中も増設が続いた

たびたび制度見直しも 初期認定設備の是正難しく

このようなトラブルは後を絶たず、防護柵や標識がないケースもいまだ散見される。資源エネルギー庁新エネルギー課は「地元とのさまざまなトラブルが生じていることは承知している」(清水淳太郎課長)とし、これまで数回実施した法や省令の改正に加え、現在も複数の措置を準備していると説明する。

例えば20年の法改正では、全ての事業用太陽光に対する廃棄等費用の確保を担保する仕組みを措置。また10~50 kW未満の太陽光に対し、20年度から一定の自家消費比率を求めるなどの「地域活用要件」を設け、小型設備の規律強化を進める。ほかにも、FIT認定取得後の未稼働案件対策として、一定期間内に運転開始しない場合の認定失効制度を創設する。エネ庁は、特に未稼働案件には段階的に対策を講じ、措置が一定程度仕上がっているとの見解を示す。

確かに今後新たに導入される設備に対する規律は強化されているが、問題は初期の緩い網を抜けて急増した不適切設備への対応が追い付いていない点だ。

エネ庁は不適切設備の情報提供フォームを設けているが、数の多さに地方の経済産業局の人手が間に合っておらず、違法設備を放置しやすい構造が常態化しつつある。エネ庁は対応のスピードアップに向け、取り締まりに関する補助作業への予算措置を講じるものの、現状は一歩一歩の改善になってしまっていると釈明する。

例えば北杜市のトラブルは主に、規制が緩かった50 kW未満への意図的な設備分割の案件に多い。設備分割は14年の省令改正で禁止されたが、一度認定された設備への事後対応は難しいという。同一事業と思しき一区画に標識が複数枚あるような場合でも、1年さかのぼって事業者や地権者が別々であれば、別物の事業であると判断されてしまう。

2030年の太陽光導⼊⾒通し出所:資源エネルギー庁作成資料

また16年の法改正では、関連法令の遵守など、基準に適合しない事業に対する認定取り消しができるようになった。しかしこうした認定取り消しは、19年に沖縄県内の8件の太陽光設備に対し、農振法違反などを理由に取り消しとした1回だけだ。エネ庁は、取り消しに至らずとも途中の指導などで改善するケースがあると説明するが、実態はその説明通りなのか、検証が必要だろう。

人手不足改善されず さらなる対応は条例頼み

エネ庁は違反設備に対し、遡及適用も含めたさらなる規制強化や、認定失効の迅速化・強化といった対応には及び腰だ。

「再エネとの共生の在り方は地域によってさまざま。全国一律の基準を設けるよりも、地域の実情に応じた条例の策定が重要」(清水課長)との考えから、条例策定のサポートを強化するとしている。しかしFITが機能不全のままでは、自治体に負担のしわ寄せが行くだけだ。

関係者の中には、現在は未稼働案件への対策強化を受け稼働が進みつつあることや、カーボンニュートラルの盛り上がりの裏でネガティブな報道も増えていることから、トラブルが目立ちやすいと語る人もいる。そんな見解を、トラブルに悩む当事者はどう受け止めるだろうか。

政権が再エネ拡大路線を突き進む中、「温暖化ガス30年46%減目標の達成にはリードタイムの短い太陽光導入の加速が不可欠」といった声が強まっているが、トラブルを見逃してしまう構造の抜本見直しも待ったなしだ。