再エネの出力変動対策 重要性増すガス火力の役割


【オピニオン】上田絵理/日本政策投資銀行産業調査部産業調査ソリューション室課長

皆さんは、今年8月のカリフォルニア州での非常事態宣言をご存じだろうか。最近は、新型コロナウイルス感染拡大の際に良く耳にする言葉だが、そうではない。この夏、カリフォルニア州では、気候変動を背景とする非常事態が生じた。

カリフォルニア州は、北米の中でも気候変動対策を積極的に推進しており、2017年には、温室効果ガスを1990年比で50年までに80%削減する法律を制定している。具体的には、45年までに再エネ比率を100%、35年までに州内で販売される新車すべてをZEV(ゼロエミッション車)にすることを目指し、規制緩和や促進策の導入に取り組んでいる。

一方、急速な再エネやEV導入には課題もある。家庭用太陽光から系統電力への切り替えが進む夕刻に、帰宅後のEV充電が集中し、系統電力需要が急増するダックカーブ問題である。カリフォルニア州では、系統用蓄電池設置の義務化など、ダックカーブ問題解消に向けた取り組みを積極的に進めてきた。しかし、今年の8月は、熱波でダックカーブ問題が深刻化し、非常事態を宣言するに至った。

8月中旬、カリフォルニア州では、デスバレーで54.4℃を記録するなど、異常な暑さが続き、冷房需要が急増。夕刻の系統電力需要は、通常を大幅に上回る水準となった。電力供給量は不足し、計画停電を余儀なくされた。急速な再エネシフトに対し、再エネの出力変動をバックアップする体制が不十分であったことが、計画停電に至った要因である。

再エネの出力変動対策の代表例として、今後最も導入が進むと予想されるのは、蓄電池である。しかし、蓄電池は、一時的な需給変動とは相性が良いが、大規模・長期間の場合は役不足となる。蓄電されている電力を使い切ってしまったら、それ以上は出力できないためである。今回も蓄電池だけでは不十分ではないかという声もある。欧州に、蓄電池とガス火力のポートフォリオアセットから、調整力を提供している事業者がいる。太陽光・風力の短時間変動は蓄電池で、風力の長期停止はガス火力を活用する。ガス火力は、CO2への対応が必要不可欠になっていくであろうが、長期間発電を継続できるという利点も忘れてはならない。

また、デジタルの活用も急務である。今回の計画停電に際しては、電力供給力の確保や電力使用量の削減要請は、一部メールで行われていた。デジタル環境を整備し、デマンドレスポンスを拡大していくことも重要となるだろう。

日本政府は先日、50年ネットゼロを掲げた。日本も再エネの主力電源化に向け、再エネ投資をより加速させていくだろう。特に注目される洋上風力は、メンテナンスに相応の時間を要するため、ガス火力の役割は考えていた以上に重要になる可能性もある。再エネ主力電源化に向けては、今回のカリフォルニア州の例を教訓に、ガス火力や蓄電池、デジタル化による需給調整などを総合的に活用し、出力変動をバックアップしていく体制も構築していかなければならない。

うえだ・えり 2004年入行。07年から企業金融第5部にてエネルギー業界への国内外の投融資業務に携わり、14年から現職。「2050年に向けたガス事業の在り方研究会」委員。

深刻化する「石炭離れ」 残るは三菱だけの異常事態


「現在のエネルギー業界を象徴する出来事だね」。東芝の一連のニュースを見た大手電力会社の関係者は、そう漏らした。

東芝は11月4日、仮想発電所(VPP)で世界最大手の独ネクスト・クラフトベルケと新会社を設立すると発表。さらに11日には、石炭火力発電所の新設受注を停止すると発表した。海外でも米GE、独シーメンス・エナジーなど重電大手が石炭火力新設からの撤退を表明するなど、先進国での「石炭離れ」は深刻だ。

この流れに呼応するように、経団連は11月17日に公表した新成長戦略の中で、脱炭素社会構築に向けた提言として、イノベーションの加速や再エネへの重点支援を強調。一方で、石炭のみならず、LNGを含めた既存火力の利活用については全く言及しなかった。

政府は脱炭素社会を目指す上で、CO2を回収・貯留・利用するCCUSや水素・アンモニア利用などを通じ、高効率火力を使い続ける方針を堅持している。業界内で「ゼロエミッション火力」に期待する声は多いが、実行する重電は三菱パワーだけという異常事態になってしまうのか。

コロナ関連研究の最新動向 欠かせない異分野連携の視点


【業界紙の目】中村直樹/科学新聞編集長

新型コロナのワクチンや治療薬だけでなく、ポストコロナ時代を見据えた研究開発が進んでいる。キーワードは「異分野の連携」。エネルギー業界の既存技術が活用できる可能性もありそうだ。

新型コロナウイルス感染症の拡大により、世界の死者は120万人を超え、各国の経済にも大きなマイナス影響が出ている。新型コロナのワクチンや治療薬の開発が世界中で進んでいるが、過去十数年を振り返ると、MERSやSARS、デング熱、ジカ熱、新型鳥インフルエンザなど、新興・再興感染症が次々と発生しており、新型コロナが終息したとしても、その後、新たな感染症が発生・流行することは想像に難くない。

そうした中、現在の新型コロナに対抗しながらも、新たな脅威にも対応できるポストコロナ時代を見据えた研究開発が進んでいる。

工学的アプローチも加速 センシングやLEDを活用

新型コロナなどの呼吸器系ウイルスの感染は、ウイルスに感染した人の呼気などが、直接あるいは間接的に他の人に触れることで起こる。つまり、感染し呼気などで体外にウイルスを排出している人を特定できれば、ウイルスの拡大は抑え込むことができる。

現在行われているPCR検査では、鼻や喉の奥にある粘膜からサンプルを採取して分析するのだが、約3割は偽陰性(感染しているのに未感染と判定される)が出てしまう。大きな原因の一つが、喉の奥でウイルスが増殖するのではなく、肺の奥で増殖しているケースだ。喉の奥ではウイルスの数が非常に少なく、サンプルにほとんど含まれないため、偽陰性と判定されてしまう。

東北大学と島津製作所は10月、呼気を集めて質量分析装置で検査する方法を開発した。肺の奥でウイルスが増殖していても捉えることができ、偽陰性はなくなる。またウイルスだけでなく、さまざまな物質を同時に検出できるため、体内の異常を早期に診断することもできる。もちろん、新たなウイルスにも対応可能だ。ただし、5分間チューブをくわえて呼気を集め、結果が出るまで1時間程度待たなければならない。また高額な質量分析装置を使うため、病院や検査センターでないと使えない。

理想は、居酒屋やイベント会場の入り口で簡単にウイルスを排出しているかどうかを判定できるシステムである。これが可能になれば、参加者はマスクや三密対策なしに交流できるようになる。実は、そうした技術開発も進んでいる。アイポアという日本のベンチャー企業が実用化を目指しているセンシングシステム「eInSECT」だ。

もともとは2019年3月末で終了した内閣府のプロジェクトで開発が進められていた技術である。コアとなるのが、スマートナノポアセンシング技術。厚さ50 nmの薄膜に直径10 nm~10 µmの穴を開けておき、薄膜に電流を流しておく。小さな穴を物質が通過するとイオン電流や電気浸透流が変化し、それを数学的に解析することで、穴を何が通ったのかを判別することができる。機械学習を使うことで、人間の目では解析が難しい微量な変化をすぐに捉えることができる。

スマートナノポアセンシング技術のイメージ
提供:内閣府

大学病院などで行った試験では、インフルエンザウイルス、RSウイルス、コロナウイルス、アデノウイルスを1パルス(ウイルス2個)で82・2%の精度で識別できるようになった。さらに唾液に含まれるインフルエンザウイルスについては、A型とB型を91%、A型とAの亜型を76%の精度で識別できた。この結果はウイルス1個の検出精度なので、20個のウイルスでの識別率は100%になる。また同じプロジェクトで開発した水フィルムデバイスでは、大気中1㎖に10個含まれるバイオエアロゾルの捕集ができる。

これらを組み合わせて将来的には、息を吹きかけるだけでウイルスを排出しているのかどうか、それはどのウイルスなのかを瞬時に判別することも可能になるだろう。しかも、センサ自体は非常に小さいため、装置の小型化も可能だ。

14年にノーベル賞を受賞した名古屋大学の天野浩教授らが開発した深紫外(波長400nm以下)LED(発光ダイオード)は、1分間照射するとウイルスが99%不活化し、10分間では99・9%を不活化することができる。既に複数のメーカーが、マスクや医療器具などの消毒用装置として販売している。

また、深紫外LEDで清浄にした空気によるエアシャワーや、深紫外LEDを組み込んだ空調システムの開発も進む。例えば、医師が診察時、清浄な空気を間に挟んで患者と向き合えば、マスクなしで発熱患者を診察することができる。また、コロナ患者を受け入れる病院内の隔離区画をエアシャワーで区切り、区画内の空気を深紫外LEDで無毒化して循環させれば、病院スタッフの負担を大幅に軽減できるようになる。

ポストコロナの市場開拓 エネ業界の技術に可能性も

新型コロナウイルスに対して、同じバイオ系の土俵で勝負するのがワクチンや治療薬だが、今回紹介したセンシングシステムとLEDは、工学的アプローチからポストコロナ社会の新たなマーケットを切り拓くものだ。異なる分野の研究が他の分野に大きく貢献することや、異分野の協働で新たな発見やイノベーションにつながる成果を生み出すというのは、現在の最先端技術開発領域では、重要なアプローチの一つになっている。

エネルギー業界の技術開発動向について詳しくはないが、例えば、可燃性のガスや液体を使う業界が持っている静電気制御技術を活用すれば、静電気でウイルスや花粉、細菌などを集めることができる。これを空調に利用すれば効率よく空気を清浄化できるし、壁紙に利用すれば、住宅の花粉症対策にも活用できる。熱流体の制御技術は、調理家電にも使えそうだ。

各社の既存技術が、他の業界で未解決だった課題を解決したり、異業種の技術連携で新たな製品やサービスが生まれたりすることもある。国立社会保障・人口問題研究所の人口動態推計によると、15年時点で1億2709万人の日本の人口は、53年に1億人を割り、65年には8808万人になるという。人口減少はエネルギー消費の低下に直結することから、異業種・異分野の連携によって新たな道を見いだす必要があるだろう。

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大ガスが突然の社長交代 新中計視野に攻めの経営へ


大阪ガスが突然の社長交代だ。10月29日、藤原正隆副社長が来年1月1日付で社長に昇格する人事を発表した。本荘武宏社長は代表権のない会長に就く。

大阪ガス経営陣(左から尾崎裕会長、藤原氏、本荘氏)
提供:大阪ガス

藤原氏は1982年京都大学工学部を卒業後、同社に入社。執行役員エネルギー事業部エネルギー開発部長、大阪ガスケミカル社長などを経て、2016年から副社長兼経営企画本部長を務めている。同社の幹部異動は4月1日が恒例化しており、1月1日は異例のこと。29日の会見では、この点に記者からの質問が集中した。

これに対し、本荘社長は「次期中期経営計画の検討を10月初めに着手した。新社長が来年1月から最後の詰めを行い、覚悟を持って自分自身で計画を発表し実行するのが一番良いと考えた」と説明。その上で「ぜひ4月からのロケットスタートで新中計を推進してほしい」と期待を示した。

藤原副社長によると、新中計の主な課題は「エネルギー競合の激化、脱炭素化、デジタル化」への対応になる見通し。「自ら先頭に立って皆を引っ張っていくタイプ」と自称するだけあって、リーダーシップが持ち味。大ガスの強みである攻めの経営をさらに昇華させていくのか。人脈づくりに長けるとされる手腕にも要注目だ。

温室効果ガスを「実質ゼロ」へ 現実的な道筋の提示が重要に


【論説室の窓】黒川茂樹/読売新聞論説委員

菅義偉首相が2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標を表明した。脱炭素への世界的な流れに沿ったもので、実現に向けた道筋を示すことが重要になる。

10月26日の菅義偉首相の所信表明演説は、各方面に波紋を広げた。温室効果ガスの排出量を2050年に「実質ゼロ」にするという約束は、唐突に映ったからだ。

自民党総裁選以来、菅首相は「縦割り打破」と規制改革を強調し、携帯電話料金の引き下げや、行政手続きを円滑化するデジタル庁の創設など、国民が恩恵を感じやすい政策に熱心だった。一方、エネルギー政策への思い入れを感じさせる発言は見当たらず、「そもそも関心が薄いのでないか」との見方が根強かった。

世界の主要国では脱炭素の取り組みが加速している。コロナ禍への対応に追われる中でも、温暖化対策を経済成長につなげようという狙いはおおむね一致している。

欧州連合(EU)は2019年12月、50年までに域内で排出される温室効果ガスの実質ゼロを実現し、それに向けて経済成長を図る戦略「欧州グリーン・ディール」を発表した。

米大統領選で勝利した民主党のジョー・バイデン氏も「50年までの実質ゼロ」を掲げ、10年間で2兆ドル(200兆円強)を環境・インフラ投資に投じるという。バイデン氏は就任当日にパリ協定に復帰し、主要国が集まる気候サミット開催の意向を示してきた。

世界の金融市場では、企業の環境問題などへの取り組みを考慮したESG投資の勢いを増している。米アップルのように、取引先企業に対して使用電力を全て再生可能エネルギーに切り替えるよう求める動きが強まっている。

日本は16年に「50年までに80%削減」を約束し、昨年夏には「今世紀後半のできるだけ早期に『脱炭素社会を目指す』」との長期戦略を閣議決定しているが、日本も遅かれ早かれ、踏み込まざるを得なくなる。そう考えれば菅首相が公約したタイミングは良かったのかもしれない。

本気度はどの程度なのか、現時点で見えにくいが、次第に輪郭がはっきりしてくるはずだ。

成長戦略と結びつけるには イノベーションが不可欠

菅首相が今回、温暖化対策を成長戦略の柱に据えようとした点は注目されよう。

所信表明演説では「もはや温暖化への対応は経済成長の制約ではない。積極的に温暖化対策を行うことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながるという発想の転換が必要だ」と強調した。

経済団体トップは、野心的な目標設定を好意的に受け止めつつ、実現に向けた具体策が重要になるという立場だ。

経団連の中西宏明会長は「わが国の今後のポジションを確立する英断であり、高く評価する」とのコメントを発表し、経済成長との両立を図るにはイノベーションの創出を国家戦略に位置づけるべきだと強調した。

日本商工会議所の三村明夫会頭は「総理は相当の覚悟で言ったと思う」とした上で、「先進国の一員として最大限努力するのは総論としてはその通りだが、具体的にどう実行するか」と指摘している。三村氏は、14年まで7年余り経済産業省の総合資源エネルギー調査会長を務めた論客で、菅内閣の成長戦略会議のメンバーだ。

今後は同会議などで、現実的かつ中身のある議論を進めなければならないだろう。

再エネ開発50万kWを目指す 達成に向けて新組織も発足


【四国電力】

菅義偉首相が2050年カーボンニュートラルを宣言するなど、再生可能エネルギーの重要性は増している。四国四県の暮らしを支える四国電力は、再エネ電源開発量50万kWに向けてさまざまな取り組みを行っている。

欧州を中心に環境投資が活発化する中、菅義偉首相は2050年までにCO2排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を宣言した。さらに世界最大のCO2排出国・中国も60年までにカーボンニュートラル達成を目指すと表明。世界各国で脱炭素社会の構築に向けた活動が加速し始めた。

電力に対する考え方のパラダイムシフトが巻き起こる中、民間でも自社で使用する電気を再生可能エネルギーで賄う「RE100」に注目が集まっている。環境に配慮した経営に関心を寄せる経営者は多い。

再エネを求める声が日に日に高まっている中、四国電力はグループ全体で太陽光、風力、水力などの再エネ電源を、30年度までに国内外で50万kW導入・開発する目標を掲げている。

同社の2000年度以降の再エネ電源開発量は、国内外全体で約17万kW(20年9月末時点、共同事業は発電所出力に対して、同社グループの出資比率分を開発量として計算)。これまで行ってきた再エネ開発の取り組みや50万kW目標をどう達成するのかについて、再生可能エネルギー部開発推進室の立川貴重室長、事業開発室国際事業部の矢野博嗣事業開発ユニットリーダーに話を聞いた。

30年ぶりの新規水力も 海外で洋上風力に出資参画

四国電力が国内で開発した再エネ量17万kWのうち、最も古くから活用しているのが水力だ。

2000年度以降、既設発電所の出力増強などを実施し、20年9月末時点で約3万kW増加。増強工事は主に設備修繕のタイミングに合わせて行われており、水圧鉄管を流れる水を羽根車(ランナー)に導くケーシングや、水のエネルギーを発電機に伝えるランナーを効率の良い物に交換した。

こうした既存設備の更新だけではなく、水力での取り組みについて矢野氏は「ダムの維持流量を活用した発電や、発電余力のある設備の取水量を増加させることで出力を増やすなど、既存インフラを最大限活用しながら進めています」と説明する。

さらに愛媛県久万高原町では、「取水施設から発電所まで1セットでの開発としては約30年ぶりとなる水力発電所新規開発」(立川氏)も計画。出力は1900kWで、着工は21年を予定している。

小泉氏が寿都町で講演 町内の対立が先鋭化も


小泉純一郎元首相が11月3日、高レベル放射性廃棄物(HLW)処分場選定の文献調査を実施する北海道寿都町で講演を行った。調査に反対する町民団体が招いたもので、弁護士の河合弘之氏、城南信用金庫元理事長の吉原毅氏が同行している。

小泉氏は「処分場をつくるあてがない」と強調した
提供:朝日新聞

河合氏によると講演のきっかけは、文献調査に反対する小野有五・北大名誉教授と河合氏が旧知だったこと。河合氏が小野氏から寿都町の状況を聞き、河合氏や吉原氏が役員を務める反原発団体の会合で小泉氏に伝えたところ、講演を快諾したという。

小泉氏はフィンランドの最終処分場「オンカロ」を視察した印象として、「地下400mでも水が漏れていた。こんな衝撃はなかった」と危険性を強調。さらに原発について、「日本にはどこにも核のごみの処分場をつくるあてがない」と批判した。

しかし、寿都町は「その候補地になってもいい」と手を挙げた場所。その地で原発批判をするのは明らかな矛盾だ。町では町長宅に火炎瓶が投げ込まれるなど、反対運動が先鋭化し始めている。

小泉氏が住民同士の対立をあおりかねない発言を続けるならば、首相経験者としての尊厳が問われそうだ。

米政権交代で中東が不安定化 原油価格は乱高下の懸念


11月3日に投票が行われた米大統領選の開票結果を受け、民主党のバイデン政権が誕生する可能性が濃厚になっている。トランプ大統領は「敗北」を受け入れず、裁判などで徹底抗戦する構えだが、旗色は極めて悪い。そうした中、中東情勢の不安定化を懸念する声が高まり始めている。

海外メディアの報道などによると、鍵を握るのがイスラエルだ。トランプ大統領はここ数年、イスラエルとアラブ諸国の緊張緩和に力を入れてきた。トランプ政権の仲介によって、イスラエルとの国交正常化に合意したアラブ諸国は、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、スーダンの3カ国に上る。そして、サウジアラビアもこれに加わる見通しだ。

ところがバイデン氏は、米国とサウジの関係を見直すことを公約に掲げている。オバマ政権時代から民主党とサウジは関係が良くない上、イスラエルやサウジと敵対するイランとの関係改善を狙うバイデン氏の外交姿勢は、中東における米国のプレゼンスに大きな変化をもたらす可能性が高い。

もしオバマ政権時代の中東政策に立ち返ることになれば、どうなるか。「(イランの核合意が復活したりすれば)わが国は、行動に打って出るしかなくなる。結果、イランとイスラエルの暴力的な対決につながる」。イスラエルの閣僚の一人はバイデン氏当確の報を受け、こんな見解を示したという。事と次第によっては、イスラエルとアラブ諸国の国交正常化路線も修正を余儀なくされよう。いずれにしてもトランプ氏主導による中東の〝関係正常化〟政策は、政権交代によって大きな転機を迎えることになりそうだ。

バイデン氏の当確で盛り上がる米ホワイトハウス周辺
提供:朝日新聞社

米ロ関係は悪化か 高まる軍事的緊張

そんな情勢下、がぜん存在感を増しそうなのがロシアだ。プーチン大統領は昨年10月中旬、12年ぶりにサウジを訪問し、サルマン国王やムハンマド皇太子と会談した。それまで両国はシリア情勢を巡って対立的関係にあったが、プーチン、サルマン両氏は「サウジとロシアのエネルギー協力が、中東の安定と安全保障にとって重要」との認識で一致した。以来、両氏の関係は緊密に。去る9月にも電話会談を行い、エネルギー分野を中心とした二国間の関係強化を確認し合ったという。

最大の問題は、バイデン氏が「安全保障上、最大の脅威」とロシアを名指ししていることだ。「プーチン大統領とバイデン氏の相性は決して良くない」。ロシア情勢の専門家はこう指摘する。

「米国がイランとの関係を修復し、ロシア、サウジとせめぎ合うようなことになると、軍事的緊張は急速に高まっていく。戦争などの地政学リスクが原油価格の高騰を引き起こすのは、火を見るよりも明らかだ」(経済産業省関係者)

原油情勢を巡っては、米国のパリ協定復帰による脱炭素化の加速や、コロナ禍の再拡大で石油需要が減退し、「今後、原油価格は下落に向かう」と予想する向きも少なくない。さまざまな思惑が交錯する中、わが国は油価の乱高下に備える必要がありそうだ。

【マーケット情報/12月4日】原油続伸、需給逼迫観が強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続伸。需給逼迫観の強まりが、価格を支えた。

英国が、米製薬ファイザーとドイツBiotechが共同開発した、新型コロナウイルスのワクチン使用を承認。感染拡大に歯止めがかかり、経済活動および石油需要が回復するとの期待が高まった。他方、中東では、イランの核科学者が殺害されたことで情勢が一段と緊迫化。供給不安が強まった。

OPECプラスは3日、1月以降の生産増加で合意。ただ、1月における増産幅の合計は、当初の予定を下回る日量50万バレルに留まり、価格を下押すには至らなかった。OPECプラスは当初、日量200万バレルの増産を計画していた。

一方、OECDは新型ウイルスのワクチン効果を悲観。石油需要の回復には時間がかかるとの見方を示し、価格の上昇を幾分か抑制した。

【12月4日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=46.26ドル(前週比0.73ドル高)、ブレント先物(ICE)=49.25ドル(前週比1.07ドル高)、オマーン先物(DME)=49.41ドル(前週比1.11ドル高)、ドバイ現物(Argus)=48.85ドル(前週1.60ドル高)

移動に新たな価値を創造 企業に活力もたらすイノベ事業


【関西電力】

新規事業領域開拓に向け新部署を設置するなど、イノベーション創出に注力する関西電力。今年2月にはモビリティ会社「ゲキダンイイノ」を設立。新たな価値創造に向け、挑戦を続けている。

イノベーションの創出を目標に掲げ、2019年7月に経営企画室に「イノベーションラボ」を立ち上げた関西電力。ラボは新規事業のかじ取りや開発支援を行うグループと、新事業や新サービスの創出を加速させるユニットで構成される。

ユニットには「社会インフラ」など、電気事業と関連の深いユニットもあるが、「文化・エンタメ」、「農業・食料」、「ライフデザイン」など、非エネルギー分野をテーマにしたユニットも多い。そうした非エネルギー分野のユニットの中でも、ひときわ存在感を示している事業が、「Mobility」と「文化・エンタメ」のクロスボーダー領域として事業展開する「iino」だ。

ゆっくり移動する電動車 移動に新たな価値を提供

「iinoは、A地点からB地点までいかに遠くに早く到達するかを目的とした移動のために開発されたモビリティとは違い、移動自体を楽しむモビリティです」

イノベーションラボに所属する児玉純平氏はそう説明する。

そもそもiinoとは、17年に同社内の若手メンバーを中心に立ち上がったプロジェクト。歩行者とほぼ同じ速度の時速5㎞で進むモビリティに乗るというアイデアは、ごみ収集車の背後に乗っている作業員を見て「ちょこっと乗って、ちょこっと降りる移動は楽しそうだ」と着想を得たという。

プロジェクトのキーワードは「時速5キロのモビリティ」。移動における新たな価値を創造すべく、事業化に向けた取り組みを進めてきた。19年1月には第一弾の取り組みとして、ヘッドスパ専門店「悟空のきもち」を展開するゴールデンフィールド社とコラボし、ゆっくりと移動しながら施術を受けられる実証事業を実施。同年3月には大阪府や大阪市と協力して、大阪城公園で車両の上で茶の湯や日本舞踊、和楽器を楽しめるインバウンドを想定したアクティビティなどを提供している。

そして、今年2月10日には「ゲキダンイイノ合同会社」として正式に事業化。児玉氏は「利用した方からは『道行く人たちとのコミュニケーションも増えたし、iinoに乗ったことで普段は気が付かなかった町の風景にも気が付くことができた』と新しい体験を楽しんでもらえています。利便性にいろいろなものを共存させ、地域の魅力を再発見できるようなサービスを提供していきます」と話す。移動に付加価値をもたらすサービスを柱に据え、主に大型商業施設や観光地、リゾートホテルなどでサービスを展開する方針だ。

車両は「type-S」と「type-R」の2種類をラインアップしており、いずれも自動運転で走行する電動車両。車体の設計から自動運転システムに至るまで、プロジェクトチーム内で独自開発をしたそうだ。type-Sは最大乗車人数5人で、主に大型商業施設などの敷地内や都市部の歩行者空間で走行することを想定したモデル。type-Rは観光地やリゾートでのラグジュアリーな体験できるモビリティサービスを行う―などの特徴がある。

今年11月1日から5日にかけては、栃木県宇都宮市大谷地域にある採石場跡地を改装した大谷資料館と、日本一の竹林として有名な若山農場でtype-Rを利用したサービスを実施。いずれも映画のロケ地としても使用される場所である。これは竹林や採石場内をゆっくりと移動しながら、有名シェフによる地元の旬の食材を使った料理を楽しむというもの。

参加者は各場所それぞれ1日限定2組という、高級感あふれるサービスで、参加者からは「会員制になったら会員になりたい」と感想が寄せられたそうだ。

今年は宇都宮市でサービスを提供した(大谷資料館)

さらにiinoには移動に新しい価値観を提供するだけではないポテンシャルも秘めている。「iino事業は関西電力とあまり関係がないように見えますが、自動運転や蓄電池、無線給電など将来のモビリティ分野におけるイノベ―ションの可能性も多く含まれており、電気事業との親和性もあります。街と共存しながら、移動にイノベーションも起こしたいですね」と児玉氏は抱負を語った。

事業アイデアが450件 次世代に向けイノベを加速

関西電力ではラボ設立前から、イノベーションに向けた取り組みとして、社員が事業アイデアをプレゼンして起業につなげる「かんでん起業チャレンジ制度」を1998年に創設。事業創出を加速する施策として2018年からグループ会社も含めた社員から新規事業のアイデアを募集するコンペ「アイデア創出チャレンジ」を毎年開催するほか、優れたアイデアには社外インキュベーターのサポートを得つつ、事業プランを練り上げる。

特に、今年で3年目となるアイデア創出チャレンジの応募件数は450件を超えた。450件という数は、一企業の社内コンペの応募件数としても、異例の数字だ。

こうした社内制度を活用して、現在は4社が事業を続けている。「かんでんエルファーム」、「気象工学研究所」は起業してから15年以上事業が続く息の長い企業である。近年も、現地の暮らしに溶け込んだ旅を提供する旅行会社「TRAPOL」、関電病院の看護師が提案した、咀嚼・嚥下障害から発想を得た、誰でも心地よく使えるオリジナルカトラリーの販売や同じ悩みを持つ人たち向けのコミュニティーを提供する「猫舌堂」が事業化を果たしている。

同グループに所属する岡田康伸チーフマネージャーは「少子高齢化や省エネ技術の進展によって、電気需要は減少します。そのためイノベーションに向けた取り組みが企業成長の重要なカギになります。推進グループの一員として、旧来の電気事業者の枠組みを越えた取り組みを行える文化を醸成していきたいですね」と話している。

業務のデジタル化では業界をリードする関西電力だが、イノベーション分野については「先行する企業に比べるとまだまだです」と語る岡田氏。新事業領域開発に向け取り組みを加速していく構えだ。

福島処理水の海洋放出に暗雲 自民党内に生じる不協和音


福島第一原発から出る処理水の海洋放出を巡る問題が揺れている。梶山弘志経済産業相が海洋放出に踏み切る意向を固め、10月27日の政府決定に向け動いていたものの、自民党・総合エネルギー調査会会長代理の山本拓衆院議員が自身のウェブサイトで海洋放出反対を表明。結局、安全性への国民不安が根強いことなどを理由に、27日の決定は見送られた。

「東京電力が発表した汚染水の二次処理の試験結果で、6核種が検出された。二次処理をしても、事故由来の核種が残り続けており、通常の原子力発電所の排水と同視することはできない。それを海洋放出することは、風評被害の拡大を招くことになる」

山本氏は海洋放出反対の根拠についてこう述べた上で、次のような解決策を提示している。①旧型の即席タンクを撤去した跡地を活用すれば、さらに9万7000㎥分のタンクを確保することができる、②2024年夏ごろまではタンクが満杯にならず、今から4年もの猶予期間ができる、③この間に地下水・雨水の建屋流入水対策を行うことで、新規汚染水を発生させない完全循環(閉ループ)の冷却システムが可能となり、海洋放出の必要がなくなる―。

山本議員によれば閉ループでの処理水の完全循環が可能という
提供:朝日新聞社

これに対し東電側は、原子炉格納容器の止水対策に課題が多いことや高線量下での現場作業を伴うなどの理由から、閉ループの早期実現は困難との見解だ。

山本氏は11月11日、経産省の審議官らと共に福島原発を視察。処理水対策について説明を受けたものの、海洋放出反対の主張は変えていない。梶山経産相との関係も含め、自民党内に生じた不協和音がどうなるのか。今後の展開から目が離せない。

女川原発がトップバッターに BWRの再稼働に地元同意


「東北電力がBWR(沸騰水型軽水炉)のトップバッターになるとは思わなかった」。ある電力業界関係者はこう話す。

11月18日、村井嘉宏・宮城県知事、亀山紘・石巻市長、須田善明・女川町長は女川原子力発電所2号機(出力82・5万kW)の再稼働に同意した。

女川原発2号機の再稼働はBWRでは初になる
提供:朝日新聞社

東北電力は2022年度の再稼働を目指している。女川原発は東日本大震災で被災した。その発電所が、BWRでは再稼働の初号機になることを想定する業界関係者は少なかった。

運転再開は東北電力の経営に好影響をもたらす。稼働には、年間約300億円の燃料費削減効果がある。また同社は非効率と区分される亜臨界圧、超臨界圧の石炭火力を合計290万kW、保有する。非効率石炭火力フェードアウトの方針が示される中、これらが廃止になった後、温室効果ガスを出さない原発の再稼働は東北電力のCO2排出係数を大きく改善する。

BWRでは、既に柏崎刈羽原発6、7号機が原子力規制委員会の新規制基準適合性審査に「合格」している。だが、地元同意が高いハードルになり再稼働の見通しはついていない。その中で被災した原発が運転を再開することは、「住民との信頼関係がいかに大切かを示している」(業界関係者)。震災後の東北電力の地元へのきめ細かい対応が、いち早い再稼働に結び付いた。

まだ課題もある。原発の周辺道路は道幅が狭く、重大事故発生時に30㎞圏内の住人が避難した場合、渋滞が予想されている。広域避難計画に関連し、女川町・石巻市議会は国道などの整備を求める意見書を県に提出した。国の積極的な対応が求められている。

再エネ拡大を狙う規制緩和策の盲点 さらなる乱開発の温床となる懸念


河野太郎規制改革相や成長戦略会議の下で、再エネのためのさらなる規制緩和の検討が加速している。だが安易な規制緩和の追求は、さらなる再エネの乱開発と環境悪化を招く温床となりかねない。

「規制改革などの政策を総動員し、グリーン投資のさらなる普及を進める」―。菅義偉首相の2050年カーボンニュートラル(実質ゼロ)宣言の号令の下、再エネのさらなる拡大のための規制緩和の検討が始まっている。

まず動きを見せたのが河野太郎規制改革相だ。河野氏は10月26日の首相の宣言に先立ち、日本経済新聞のインタビューで、再エネ拡大を促すために既存の制度を総点検すると表明。規制緩和の対象として、①太陽光では農地法や農業振興地域法、自治体ごとの設置規制、②陸上風力では国・自治体の占有許可や森林法、③洋上風力では再エネ海域利用法や船舶法、④送電網に関する国の運用指針―を挙げた。河野氏は20日の会見でも、「再エネの規制緩和について経済界からの要望が非常に強い」と強調し、具体化に向けた作業を進めていると説明した。

そしてもうひとつの舞台となるのが、未来投資会議から衣替えされた成長戦略会議だ。安倍政権下では、首相が議長を務める未来投資会議が司令塔となり、規制改革推進会議で詳細を詰め、さまざまな規制改革が実行された。翻って、菅政権下の成長戦略会議は、首相ではなく加藤勝信官房長官が議長を務める。また、未来投資会議では経済産業省の意向が強く反映されていたのに対し、現在は和泉洋人首相補佐官の影響力が強いといった違いはある。ただ、メンバーには安倍政権のブレーンの顔ぶれもちらほら。年末に成長戦略の中間取りまとめを、来年6月に戦略を策定する予定だ。

農地での再エネ導入量は拡大 FIT以降に制度変更

「規制緩和で再エネ拡大を」というのは耳障りの良いストーリーだが、果たして真に必要な政策なのか。例えば太陽光については、耕作放棄地へのパネル設置を阻む壁として、農地転用を規制する農地法などが名指しされた。ただ農地法関連でも、FIT導入以降、再エネ拡大を促すための制度変更は実施されている。

農地法に基づく農地転用許可制度は、農業生産性などで区分して、優良な農地は農業に利用し、転用は生産性の低い農地に促していく仕組みだ。さらに、農林漁業と調和が取れ、地域活性化につながる再エネ開発を促す目的で、14年に「農山漁村再エネ法」が施行された。同法で認定を受けると、通常は農地法上転用が原則不許可の区分でも、転用が許可される。また、農業生産をしながら農地の上部で太陽光発電を行う「営農型発電」の促進に向けても、農地法の運用を改善した。

太陽光パネル設置に伴う農地転用許可の実績は、11~18年度までの合計で5万9202件、9968haに上る。農水省はさらなる規制緩和について「これまでも規制改革推進会議の要請に応えてきた。まずは現行の仕組みの活用を考えてほしい」(農村計画課)と語る。

農業政策に詳しい有識者からも、反対の声が挙がっている。山下一仁・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹は、「食料安全保障上、一番重要なのは農地資源。それを再エネのためにと安易に切り売りしてよいのか」と警鐘を鳴らす。宅地への転用や耕作放棄地の拡大で、農地面積は1960年代以降減少を続けるが、農地資源の減少への危機意識が農水省内でも希薄になっているという。「食料安全保障のリスク増大より、農地での再エネ拡大による便益が上回るのなら規制緩和をすべきかもしれないが、そうした検証はない。温暖化のためなら、むしろ森林吸収源対策に力を入れるべきだ」(山下氏)と強調する。

温暖化が進めば食料安保は一層重要になるはずだが……

農地法の規制緩和はこれまでも数度実施されてきたが、農業振興や農村地域の活性化などにつながる形で行われてきた。それに比べ、今回の規制緩和は性質が異なると指摘。「一度農地転用の規制のくびきを逃れれば、最初は再エネ発電を行っていても、後に宅地転用するなど、悪用される可能性がある」と訴える。

さらに農業経済学が専門の鈴木宣弘・東大教授は「再エネ振興などを大義名分にし、農林漁家が守ってきた資源が取り上げられるような法改正を、規制緩和の名目で進めようとしている構造を見抜く必要がある」と強調する。

オトモダチ企業のため? 森林や漁業の規制緩和も

鈴木教授によると、農地法関連以外にも、再エネ開発に関わる農水省所管の法改正がここ数年、続けざまに行われたという。例えば、森林経営や管理の効率化を目的に制定・改定された森林関連2法の実態は、木質バイオマス発電での利益拡大を狙う企業のための措置ではないか、とみている。

19年施行の「森林経営管理法」では、民有林について「経営意欲が低い」と市町村に判断された森林所有者から、意欲や能力があるとされた素材生産業者などに経営管理を委託できるようにした。さらに、今春から施行された改正「国有林野管理経営法」では、国有林の所有権は国のままで、最長50年、民間事業者が伐採できる権利を創設した。だが事業者には植林の義務がなく、全国一律で国税として市町村が賦課徴収する「森林環境税」で負担される可能性がある。

同様に漁業法改定は、水産政策の改革という名目で洋上風力に参入しやすくすることが目的、とみることもできる。これらの枠組みは、安倍政権下の未来投資会議がトップダウンで決めてきたが、菅政権でも同様の構造が繰り返される可能性がある。鈴木教授は「重要なことは、農地や山や海はコモンズ(共用資源)だということ。しかし規制緩和の実態は、政権のオトモダチ企業の儲けを増やすための制度変更だ。再エネ事業であっても資源・環境破壊につながりかねず、本末転倒。これ以上は許容できない」と批判する。

公益的事業への新規参入が全て悪というわけではないが、安易な規制緩和を進める前に、まずは既に実施された制度変更の運用実態の検証が必要だ。そして再エネトラブルが多発している現状を踏まえれば、乱開発を抑制する規制措置こそ検討すべきだろう。

「温暖化ガス実質ゼロ」の衝撃 化石エネ業界は不気味な沈黙


「わが国は2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち50年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」―。

菅首相が初の所信表明演説を行った衆院本会議
提供:朝日新聞社

菅義偉首相は10月26日、就任後初の所信表明演説を衆院本会議で行い、50年までに国内の温室効果ガス排出を実質ゼロにする方針を表明した。これまでの政府目標だった「50年80%」削減からさらに踏み込んだもので、エネルギー業界の関係者の間には大きな衝撃が走った。

すぐさま反応したのは、電力業界だ。電気事業連合会は同日、池辺和弘会長名で「極めてチャレンジングな目標と受け止めており、目標達成には、再生可能エネルギーや原子力発電の活用といった従来の取り組みに加え、抜本的な革新的技術を生み出すイノベーションが重要であると考えている」「地球温暖化対策と、電力産業の進化・発展が両立できるよう、主体的・総合的に取り組んでいきたい」などとするコメントを発表。実質ゼロ目標に意欲的に取り組む姿勢をアピールした。

「われわれをつぶす気か」 処方せんはあるものの……

これと対照的なのが、化石エネルギー業界である。日本ガス協会、石油連盟、全国石油商業組合連合会、日本LPガス協会、全国LPガス協会、石炭エネルギーセンターなどの業界団体は一様に沈黙。11月中旬現在まで、不気味なほどの静けさを保っているのだ。大手都市ガス会社の関係者が言う。

「われわれの取り組みとしては、メタネーション(水素とCO2からメタンを合成する技術)の活用があるが、その普及には技術、コストの両面で課題が山積している。化石業界は、低炭素化ならまだしも、脱炭素化と言われた途端『打つ手なし』の状況に追い込まれてしまう。そこが、原子力、再エネというノンカーボン手段を持つ電力業界と決定的に違うところだ」

石油・LPガスを扱う大手特約店の幹部も、口をそろえる。

「プロパネーションなどという言葉を最近聞くようになったが、あまりに非現実的。カーボンニュートラル宣言は、全国にあるガソリンスタンド3万業者、LPガス販売1万8000業者に対し、まさに死刑宣告を突き付けるようなものだ。ひと昔前なら、業界の重鎮が『われわれをつぶす気か』と筵旗を立てて、国会周辺で抗議デモを行ったに違いない」

脱炭素化はいまや世界の潮流になっている。欧州諸国はもとより、中国も「2060年CO2実質ゼロ」目標を宣言。米国もバイデン政権が誕生すれば、パリ協定復帰で脱炭素化の取り組みが加速するのは確実だ。「脱炭素社会の流れに乗れない業界や企業は、いずれ市場からの退出を余儀なくされるだろう」(大手電力会社幹部)

現在、国のエネルギー基本計画の議論が行われているが、50年目標の各論に入るほど紛糾は避けられそうもない。水素、アンモニア、CCS(CO2回収・貯留)―。化石業界にも脱炭素化の処方せんはあるが、その効力や副作用は未知数。活路を見いだせるのか。

カーボンゼロ宣言を裏読み 菅政権が描く原発稼働シナリオ


首相の「カーボンニュートラル宣言」で、滞っていたエネルギー政策が一気に動き出そうとしている。菅政権はこの絶好の機会を利用し、いよいよ原発問題に真正面から向き合うことができるのか。

菅義偉首相は就任後初の所信表明演説で、国内の温室効果ガスの排出を2050年までに実質ゼロとする「カーボンニュートラル」を目指す方針を表明した。国内では驚きを持って受け取られ、海外からは称賛の声が相次いだ。

初の所信表明の目玉として大きなインパクトを与える狙いは成功した。だが、カーボンニュートラル宣言は安倍晋三政権時から着々と準備していた構想であるとともに、その安倍政権が手付かずだった原子力発電所の稼働を推進することとセットだという見方が浮上している。

菅首相の宣言でエネルギー政策の行方はどうなるのか
提供:内閣広報室

安倍政権時に政府は温室効果ガスの排出量を「50年に80%削減」と長期戦略で位置付けていた。今回のカーボンニュートラル宣言は従来の方針を転換して、CO2やメタンなどの温室効果ガス排出量を、森林吸収や排出量取引などで吸収される量を差し引いて全体としてゼロにするというものだ。

菅首相は以前から気候変動問題に熱心だった形跡はない。安倍政権の官房長官時代は、温室効果ガスを大量に排出する石炭火力発電の輸出について「日本の石炭火力は効率がいいんだろ」と言い放ち、輸出を止めたい勢力を一蹴したぐらいだ。「気候変動対策と経済成長がつながるという理屈が腑に落ちていない」(政府関係者)という程度の認識だった。

首相の方針転換に公明党の影 国際社会へのアピールに利用

その菅首相が方針転換した背景には、蜜月とされる公明党の存在が大きい。

9月中旬。公明党の支持母体である創価学会の幹部らが都内で会合を開いていた。学会幹部の携帯電話に菅首相が直電した。学会幹部は菅首相の電話に学会内に気候変動対策を訴える声が多いと話し、新たに結ぶ自公合意の項目に脱炭素戦略の文言を入れるよう進言した。菅首相は政権運営を円滑にするために忠実に応え、自公合意文書に項目を追加したのだ。

菅首相は持ち前のスピード感を発揮して、首相就任直後の9月27日、経済産業省参与の水野弘道氏と会談した。水野氏は年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の元理事だが、金融マン時代に培った欧米人脈に通じて、ここ数年欧州で広がる先鋭的な気候変動対策を訴える人物の一人だ。小泉進次郎環境相も水野氏の影響を大きく受けている。

水野氏は菅首相との会談で政策提言をした。「産業界、省庁間で既に50年ネットゼロ目標に表立って反対する勢力もない」「日本が中国より10年早い目標を立てるのは不可能ではなく、しかも表明した瞬間に、菅総理の名前が国連や国際社会で知られることになる」という具合だ。

菅首相は首相就任前から何かと外交に弱い、国際社会に知名度がないとの悪評判が立っていたが、そんなイメージを払拭するチャンスと捉えたのだ。菅首相は10月初旬に経産省と環境省の幹部と面談した後、すぐさま和泉洋人補佐官にカーボンニュートラル宣言をするよう命じた。

ここまで見ると、菅首相の決断でカーボンニュートラル宣言が出されたかのように錯覚するが、実際は安倍政権当時から政府内では水面下で調整が続けられていた。新型コロナウイルスの感染が拡大した今年春以降も着々と準備は進んでいた。

当初、経産省が描いていた案は米大統領選挙の結果が出る12月以降に発表するという段取りだった。実際、安倍政権末期には未来投資会議(現在は成長戦略会議)で、「50年カーボンニュートラル」が議題に挙がる可能性もあったほどだ。

党内に推進本部設置 二階派が主導権握る意味

うに、政権は次の一手を打ち始めた。

11月4日、自民党は50年カーボンニュートラルを実現するため、党内に「50年カーボンニュートラル実現推進本部」を新設した。本部長には二階俊博幹事長が就いたが、実動部隊は福井照衆院議員、伊藤忠彦衆院議員、福山守参院議員と、全て二階派で占められている。

知性派の福井氏、伊藤、福山両氏はそれぞれ環境副大臣、環境政務官経験者だけに気候変動対策にはもってこいの人選だが、そもそも推進本部の設置は突如官邸から降ってきたのだという。ある事情通は「二階幹事長は政務調査会に下ろさず、すべて自分の一存で決めてしまった」と語る。

これは何を意味するのか。二階幹事長は政権を支えているのは自分だという意識があると言われているが、実は原発推進のためだという声も上がる。

「二階さんは関西電力との関係や経産大臣の歴任などで、原発には一定の理解がある。温室効果ガス排出量の8割がエネルギー起源。ゼロを目指すには原発の稼働がないと苦しい。原発の議論を後押しするためにつくられた機関だと考えられる」(前出の事情通)

世間には、いまだ東京電力福島第一原発事故の後遺症が残り、世論も原発稼働に反発する向きが強い。50年カーボンニュートラルは格好の隠れみのになるというのだ。安倍政権時代、政権が言いづらいことを党に背負わせるという図式があったが、菅政権になっても変わっていない。

国土強靱化を二階派が利権を漁ったように、大きな利権となる再エネ利権を新たな二階派の食いぶちにするという見方もあるが、原発推進の議論に影響力を持つとの見方も絶えないある政府関係者は「世論の動向次第だが、50年カーボンニュートラルという国際公約を実現するためには原発の稼働を拡げることはやむを得ないという議論に収斂させていくのではないか」と予言する。

凍結していた原発稼働の議論が気候変動対策の促進によって解禁されるというなんとも皮肉な話だ。菅政権が安倍政権との鮮明な違いを見せられるかは、国際社会での知名度ではなく、原発問題に真正面から対峙できるかどうかにかかっている。