【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表
アニメ「サザエさん」の磯野波平さんは、公式サイトによると54歳だ。一本だけ毛が残る頭頂部から、もっと高齢と見られがちだが、実は若い。サラリーマンなら働き盛りである。末娘のワカメちゃんは9歳らしいので、まだまだ引退できない。
読売4月28日夕刊「40年超原発、再稼働へ、美浜・高浜3基、福井知事同意」のニュースに波平さんを思い出した。記事の脇に「脱炭素へ、原発活用を」との解説がつく。運転開始から40年を超えたが、まだ働け、である。
これまでが大変だった。
「2011年の東京電力福島第一原発事故を受けた改正原子炉等規制法で、原発の運転期間は『原則40年』と定められ、原子力規制委員会が特別に審査して認可した場合、1回に限り、最長20年の延長を認めている」
「3基は1974~76年に運転を開始し、定期検査で2011年に停止。16年に延長が認可された」「識者による県の原子力安全専門委員会も3基の安全性に問題はないとの報告書を提出している」
これを踏まえた解説には「原発の新規建設は地元の同意を得るまでにハードルが高い上に、安全対策にかかる費用も増大しており、議論は停滞が続く。既設の原発を長期間、最大限活用する取り組みは、国のエネルギー政策上も重要だ」とある。ごもっとも。
対照的なのは朝日だ。なんとしても負のイメージを発信したいのだろう。同日夕刊で「老朽原発再稼働、福井知事が同意」と「老朽」をことさら強調している。
辞書によれば、老朽とは「老いて役立たなくなる」だ。「朽」は「腐ってボロボロ」を意味する。どこがボロボロか。大変なので読み返したが、書いてない。
翌29日の朝日「時時刻刻」は「原発延命、懸念棚上げ」だ。老いて朽ちて瀕死状態なので「延命」した、と言いたげだが、老朽化した部品は特定していない。
関連しそうなのは「劣化した設備や装置は修理や新型への交換ができても、原子炉そのものは換えられない」の部分だが、規制委のコメントとして「厳正かつ慎重に審査しており、結果には自信を持っている」とある。原子炉がボロボロという訳ではなさそうだ。
新聞の根幹は事実に基づいた報道である。それに値するか。
同日日経「原発再開、苦難の一歩」は「高齢化」の言葉を使うが、やはり40年で高齢とする理由は書かれていない。そもそも改正原子炉等規制法の「原則40年」が政治の産物とされ、科学的根拠はない。欧米には実際、40年以上現役の原子炉がいくつもある。
事実に基づかず、不安や不満を煽るだけの報道は、社会を混乱させ、人々を不幸にする。その悪影響は、長期間にわたる。
産経28日「『従軍慰安婦』表現は不適当、『強制連行』も、政府答弁書決定」は、隣国の反日を助長した朝日記事に関連する。
「答弁書では、1993年の河野洋平官房長官談話で用いられた『いわゆる従軍慰安婦』との表現に関し、朝日新聞が虚偽の強制連行証言に基づく報道を取り消した経緯を指摘し『「従軍慰安婦」という用語を用いることは誤解を招く』と明記した」
文部科学省の教科書検定では「従軍慰安婦」との表現を使ったものが合格している。隣国の反日の主力材料でもある。報道が生んだ不毛の軋轢と言えよう。
残念ながら、当の朝日は、この件を全く報じていない。
いかわ・ようじろう デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。