【省エネ】省エネ法の大転換 担当課の手腕に期待


【業界スクランブル/省エネ】

経済産業省の省エネルギー小委員会(6月30日)において、「非化石エネルギーの導入拡大に伴う省エネ法におけるエネルギーの評価と需要の最適化」が議論された。単なる「エネルギー消費原単位」の改善のみを求めていた省エネ法から、「非化石エネルギーの導入拡大」の評価も加えた「実質的な需要側脱炭素法」への大転換である。当然、CO2排出量削減のためには、「省エネ深掘り」と「非化石導入拡大」を両輪で進めることが必須だが、後者を担う地球温暖化対策推進法は単なる報告制度であり、削減誘導という点では極めて限定的であった。今回、何らかの形で非化石導入拡大が努力義務の一部として組み込まれれば、省エネ法が、需要家の脱炭素実現を強力かつ総合的に誘導する最大かつ唯一の政策手法となる。企業の脱炭素促進制度としては、EUのC&T(キャップ・アンド・トレード)制度が有名だが、直接排出のみの規制であり、「新しい省エネ法」の方が全てのエネルギー消費・非化石導入をカバーしており、優秀な制度といえる。

オブザーバーの業界団体意見は、結局、自分たちの負担増加に反対ということだが、産業配慮で、全体の規制強化を断念していたら、高いCO2削減目標は実現できない。必要な業界配慮は、産業政策として減免措置で対処すればよいだけである。

脱炭素社会実現のためには、燃料側のCO2排出量が課題であり、燃料の省エネ努力の比重を高めることが必要となる。今までは電力の省エネ評価にげたを履かせて高く評価していたが、全電源評価による評価指標是正だけでなく、燃料の省エネ推進のための補助制度などの支援策も検討する必要がある。また、燃料側の非化石導入評価としては、国のインベントリ上でも評価される「再エネ熱証書でのオフセット都市ガス」と、日本の排出量削減には貢献しない「カーボンニュートラルLNG」の扱いも整理することが必要である。

需要側のトランスフォーメーションのツールを所有し、温室効果ガス削減誘導の執行責任を担うことになる省エネ課の今後の手腕に期待したい。(N)

【住宅】省エネの概念 CNで変わるか


【業界スクランブル/住宅】

資源エネルギー庁の省エネポータルサイトには「省エネルギーは、エネルギーの安定供給確保と地球温暖化防止の両面の意義をもっています」との説明がある。需要の削減が、海外からの化石燃料調達削減につながるのはその通りである。ただ、家庭向けへの説明では、2050年カーボンニュートラル(CN)実現に向け方向転換が必要だろう。要約すると、「節電:家庭のエネルギー消費の50%以上は電気であり、家庭で節電を進めるためには、三つの方法があります。①カット:消費電力を減らすことです。節電と省エネの両方に効果があります。②シフト:電気を使う時間帯をずらすことです。エネルギーを使う量は変わらないので、節電にはなりますが、省エネにはなりません。③チェンジ:ほかの方法に切り替えることです。省エネになるかどうかは場合によります」と記載されている。まだ、①減らすことが重要で、②③の方策はマイナス評価である。

しかし、CNを目指すのであれば、再生可能エネルギーの拡大は不可欠であり、夕方から夜の電力ピークを解消することが重要課題になると考える。そのため、時間帯によっては「②ずらす」は「①減らす」より評価が優先されるべきである。

例えば、蓄電池に昼間PVの余剰電力を充電し、日没後放電する場合、充放電ロス分だけ消費電力は増加し、省エネではないが、安定供給には寄与できる。もっと大きなずらしでは、翌日は悪天候でPVの発電量が期待できないとすると、前日の晴天昼間にPVの余剰電力でエコキュートに2日分の貯湯を行う。これも熱損失の分は省エネではないが、安定供給、再エネの利用拡大につながる。

このように発想転換をしないとCNの実現は困難であると考える。再エネは偏在するため安定供給が重要課題であり、需要をずらすことは有効対策になる。 エネ庁の記述が「減らす」偏重ではなく、「ずらす」や「切り替える」の意義も明確にすることを期待する。CNにはルールチェンジが必要である。(Z)

【太陽光】脱炭素で加速化 新社会の実現へ


【業界スクランブル/太陽光】

 昨年10月、菅義偉首相が2050年カーボンニュートラルを宣言し、21年4月には30年度のCO2排出量を13年度比46%削減する政府目標が掲げられた。まずは30年度の目標達成に向けた計画設定が重要であるが、従来の対応の延長線上では間に合わないため、関係する国の各省庁の横断的な対応が加速している。

その手段として、再生可能エネルギー電源の主力電源化、省エネの促進、CO2の回収、この回収したCO2と再エネ電源で製造した水素を合成した燃料のe-fuel生成に関連する技術開発、電力系統に関連するルールや法令の見直しなどが挙げられる。

再エネ電源の主力として期待される太陽光発電は、住宅や工場などの屋根やその周辺地域に設置できる。需要地に近接設置でき、電力需給システムとして理想的なものでもある。今後、EVの普及が進むと、充電に伴う電力需要が急増するため、電源、送配電網の増強が必要となる。太陽光が発電している時間帯に充電すれば余剰電力を有効活用できる。

また、送電網を介さない電力供給によって、送電網で発生する電力損失の抑制など、省エネにも寄与する。また、太陽光発電は、蓄電池と組み合わせることで天候に左右される変動電源から安定電源になるほか、火力発電のような電力系統の周波数・電圧の変動緩和に係るサポート制御が可能になり、アグリゲーションなどの電力制御も容易になる。さらに、停電時の予備電源として活用する電力レジリエンスや輸入燃料に依存しない電力セキュリティーの強化にもつながる。このような利点を有効にするためには、将来を見据えた技術開発の推進、系統整備の計画、関係法令・グリッドコードの整備が急務となる。これらは国や電力広域的運営推進機関が中心となり、現在対応中だ。

太陽光発電は地域密着型の電源である。太陽光発電の利点の一例は前述の通りであるが、太陽光発電の大量普及に伴う関連する産業やサービスの活性化による地域経済への貢献も大きい。太陽光発電を中心とした新しい社会の実現に期待したい。(T)

【再エネ】資源外交から転換 脱炭素外交へ


【業界スクランブル/再エネ】

 国内再生可能エネルギー企業の海外展開が拡大している。最近2年ほどの動きをみても、自然電力(ベトナム・太陽光)、ジャパン・リニューアブル・エナジー(台湾・太陽光)、イーレックス(カンボジア・水力)、レノバ(ベトナム・陸上風力)、ユーラスエナジーホールディングス(チリ・太陽光ほか多数)などの取り組みが挙げられる。

海外での再エネ開発は、洋上風力に代表されるような再エネの輸出産業化や、JCM(二国間クレジット制度)による排出削減価値の獲得などを通じた脱炭素と経済成長の両立の観点から、重要性がさらに高まるだろう。日本政府もCEFIA(Cleaner Energy Future Initiative for ASEAN)やAETI(Asia Energy Transition Initiative)といったプラットフォームを立ち上げ、海外での排出削減への貢献に動き出している。

一方、英国やドイツ、デンマークなどは、既にアジア市場における再エネ開発の実績を積み上げている。これらの国は、地場企業だけでは事業化が困難な陸上風力や洋上風力を主なターゲットに、現地大使館によるプロモーション、公的な貿易金融などを駆使し、自国企業による事業への入り込みや受注獲得を全面的に支援する体制を構築。支援は案件形成段階の技術的面にも及び、企業と政府の二人三脚による対応が特徴だ。

これまで日本は、海外における化石資源権益の確保を目的として、政治的な根回しとトップダウンのアプローチによる「資源外交」を展開してきた。しかし、今後求められるのは欧州勢が展開するような「脱炭素外交」であり、これには「資源外交」とは異なるアプローチが必要だ。そもそも再エネは「権益」ではなく地域資源を生かす「事業」である。よって、資源の価値を最大化するための「パッケージ型の付加価値提案力」が問われることになる。海外事業における金融面の支援の重要性は論をまたないが、それ以前の事業化のための環境整備が肝になるということだ。日本政府にも、そうした新たなアプローチへの転換に向けた「脱炭素外交」に大きく踏み出してもらいたい。(C)

【メディア放談】政治とエネルギー 揺れる与党のエネルギー政策


<出席者>電力・石油・ガス・マスコミ業界関係者/4名

都議選で自民党は予想外の敗北を喫し、総選挙も情勢は厳しいようだ。

エネルギー政策には政治の安定が不可欠だが、雲行きが怪しくなった。

―7月の都議選は大方の予想に反して、自民党は惨敗に近い結果となった。

電力 選挙戦の最終日に過労で入院していた小池百合子都知事が応援に出て、都民ファーストに同情票が集まったといわれている。だけど、自民党が負けた本当の理由は、コロナ対策だと思う。

ガス 同感。デルタ株がまん延して、感染者が増えてきた。東京・大阪などの大都会で、自民党の支持率が急落している。このまま総選挙に突入すると、自民党はかなり議席を減らすことになる。

石油 政府・与党幹部は秋の総裁選・総選挙に向けて、「ホップ、ステップ、ジャンプでいく」と言っていた。まず都議選で圧勝し、東京五輪・パラリンピックを成功させ、衆院選で勝つという構図だった。

 ところが、楽観視していた初めの都議選でつまずいた。五輪も無観客が決まり、宿泊・飲食業者は不満を募らせている。これでコロナ感染者が急増したら、衆院選も厳しい結果になりそうだ。

エネ基で新増設見送り 沈黙守る「長老」議員

―自民党=原発維持・推進、野党=原発反対という構図で考えると、自民党が議席を減らすことはエネルギー政策への影響も大きい。カーボンニュートラル、それにCO2排出46%削減の目標を達成するには、原発の稼働や新増設・リプレースなどが欠かせないが。

電力 もちろん、自民党内には原発立地地域の出身議員を中心に、原子力は欠かせないと考える議員は多くいる。だが、衆院で過半数の議席を得ている今も、党として原発に寛大になったわけではない。原子力推進の象徴だったエネルギー基本計画での新増設・リプレース記載も結局、見送られた。

マスコミ 与野党問わず、常に政治家の頭の90%を占めているのは選挙のことだ。福島事故から10年たったが、今も原発への反感は強い。もし自民党が原発推進だけの政党ならば、多くの国民の支持は得られない。

 党内には河野太郎行政・規制改革相、小泉進次郎環境相をはじめ、反原発派議員が少なからずいる。エネルギー政策を真面目に考えている議員にとっては、こういう人たちの発言や態度は無責任としか映らないだろう。

 だけど、河野さんや小泉さんがいることは、党にとって、そんなに悪いことじゃない。都心部を中心に、一定の有権者の支持をつなぎ留めている面がある。

石油 そういう面もあるかもしれない。だが、やりすぎじゃないか。河野さん、小泉さん、それに金融機関を通じて酒類の提供停止の圧力をかけようとした西村康稔経済再生担当相。この3人への役所の評判は非常に悪い。官僚からすると、西村さんのやったことは普通はあり得ない。3人とも事務方の言うことを聞かず、半ば思い付きで物事を進めているという。

マスコミ 安倍晋三前首相が月刊誌で、次の首相候補を挙げている。加藤勝信官房長官、下村博文政調会長、茂木敏充外相、岸田文雄前政調会長の4人。河野さん、小泉さんはともかく、総裁選に立候補したこともある西村さんの名前を挙げなかったことは意味深だった。

電力 エネ基での原発の扱いの件も、再エネ拡大しか念頭にない小泉さんが大分、いろいろと動いたようだ。不思議なのは細田博之さんや額賀福志郎さんのような、エネルギー関連議員の「長老」が、小泉さんたちがやりたい放題やっていることに、声を上げないことだ。さすがにある幹部は「調子に乗るな」と一喝したようだが。

ガス 小泉さんは今までも、ことあるごとに脱原発を主張してきた。今回エネ基のことで、党内に150人近くいる原発推進の議員を完全に敵に回したと思う。ただ「これで政治家として一皮むけた」という人もいる。脱原発を政治信条として、今後もぶれないで主張していくということだ。

―一方、都議選の敗北で自民党内がぎくしゃくしだしたようだ。

マスコミ 3A(安倍前首相、麻生太郎財務相、甘利税調会長)と二階俊博幹事長との関係は相当、深刻らしい。岸田派の林芳正元文部科学相が、参院からくら替えし衆院選に山口3区から立候補する。この選挙区には二階派の重鎮で、官房長官、文科相を歴任した河村建夫さんがいる。二階さんとしたら、完全にけんかを売られたと思うだろう。

 二階さんは、中央政界復帰がうわさされる小池都知事との関係が良い。脱炭素化を目指す中、きちんとしたエネルギー政策を進めるには、自民党がしっかりしてもらわないと困る。だけど総裁選も絡んで、これから一波乱あるかもしれない。

太陽光の発電コスト 朝日の「偏向報道」再び

―話題を変えるが、経産省が7月12日に2030年の電源別の発電コストの試算を公表した。太陽光発電が原発を下回ったことで、各紙大きく取り上げている。

電力 朝日は「発電コスト最安、原子力→太陽光」、毎日は「発電費最安は太陽光」。いずれも13日の朝刊一面で扱った。ただ今回、「朝日はひどいな」と思った。太陽光など出力が天候で変わる電源を系統につなぐと、変動を吸収する火力発電が必要になる。そういった系統安定化費用について全く触れず、龍谷大の大島堅一さんに「原発が経済性に優れている根拠はなくなった」と言わせている。

 毎日も同じように、大島さんの主張を掲載している。しかし、東大の荻本和彦さんの「(系統安定化費用が)含まれていない要素も多い」とのコメントを掲載して、わずかだがバランスを取ろうとしている。

―朝日だけ読んでいる国民は、完全に「洗脳」されてしまうな。

【石炭】120年に一度 竹の花の枯死


【業界スクランブル/石炭】

 米東海岸でセミの大量発生が始まった。17年周期で現れることから「周期ゼミ」「素数ゼミ」などと呼ばれる。17年に一度だけ大量発生を迎えるとは何とも不思議だ。これだけ気温が上昇し、土も一定の温度に上昇すると、「ブルードX」と呼ばれるセミの集団が一気に姿を現す。17年間、木の根元で生きてきた何十億匹ものセミの幼虫が地中からはい出て、羽化し、餌を食べて繁殖の相手を探し始める。これはセミの氷河時代の生存戦略がいまに続いているためだといわれている。

一方、120年に一度しか咲かない「竹の花」が2021年に入って日本各地で開花し続けている。歴史から見るこの示唆は諸現象の「完全なパラダイムシフト」への徴候といえるかもしれない。

竹という植物は、花が咲くと、竹林ごと一斉に枯れてしまう。竹を主食にするジャイアントパンダにとっては試練の年になるが、一斉に新しい竹の生命群が誕生する意味がある。すなわち完全に刷新されるということに気付く。

竹の開花後の枯死では、若い竹も古い竹も完全に枯れてしまうので、中途半端な再生産ではなく、「完全に消えて」「完全に生まれ変わる」。例えば大規模な枯死のあった 08年という年を「逆」から見てみれば、確かに大変な状況の年だったかもしれない。「リーマンショック」だ。多くの人々の考え方が、一気に変転した年でもあった。価値観の変転、あるいは完全なる生まれ変わりの年だったように思える。

1960年代の枯死の時がどうだったかというと、日本では高度経済成長に突入し、産業構造が大きく変化した。エネルギー革命が進展し、蒸気機関車は徐々に見られなくなった。「石炭利用200年」の歴史の間に竹の花が何度咲いたかは分からないが、いくつかのタイムエポックがあったことは間違いない。未来から振り返ったとき、21年は「脱炭素」へとシフトチェンジするエポックメイキングのタイミングだったと、記憶されることになるのだろうか……。(C)

消費行動に変化の兆し 当たり前の基準が変わる


【リレーコラム】岩船由美子/東京大学生産技術研究所 特任教授

 あるシンポジウムで、カーボンニュートラル(CN)に向けて、地球温暖化・エネルギー問題を各消費者に「わがこと化」してもらうためにどうすればいいだろう、という議論になった。環境問題のわがこと化とは、環境にいいことをしたいという気持ちを持てるか、実際にそれを行動に移せるか、の二段階ある。後者は行動時にどの程度のコストなり時間なり手間なりを負担できるか、というレベルもあるだろう。CN実現のためには、ドラスティックな対策が必要である。国際エネルギー機関が言うように、建物で燃焼系の暖房給湯機は禁止しなくてはならないかもしれないし、屋根への太陽光発電の義務化が必要かもしれない。しかし今春設置された「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」では、住宅の省エネ基準の適合義務化や太陽光発電の義務化が検討されたが、結局後者は消費者負担などを理由に見送られた。国が一般消費者の私財への義務化に踏み込むのは容易ではない。

環境配慮の行動が浸透

温暖化問題は、一般的に被害が顕在化するまでのタイムラグが長く、実感が持ちにくいため、優先順位が低いといわれてきた。特に日本では、異常気象との関連は懸念されるものの、人々の関心が薄く、グレタさんのような活動に対しては、冷笑的な反応が多かったように思う。私も長いこと、家庭部門の省エネ、低炭素化に取り組んできたが、環境配慮型の消費者というものを前提としない、つまり性善説は期待しないでどう仕組みを作るべきか、という視点で考えてきた。

しかし、ここにきて日本でも、人々の消費行動が変化しているように思う。プラスチック利用や再配達削減など、負担の小さい範囲から環境に配慮した行動が浸透しつつある。エコな製品の選択の幅も広がり、民法テレビ番組の中でSDGsを取り扱った番組も多くなった。フランスでは電車で2時間半以内で行ける国内線空路を全面禁止するという。より大きな負担を許容するような消費者が日本にも今後増える可能性も十分期待できる。

エネルギーに関する環境配慮行動はコストがかかるので、プラスチックのようにはいかないかもしれないが、このような消費者の変化を捉え、適切な情報を提供し、省エネ・低炭素な暮らしが積極的に選択されるようなムードを作っていけないものだろうか。テレビの喫煙シーンも、会議でのペットボトルの利用も当たり前だったものが当たり前でなくなった。当たり前の基準は変わる。エネルギーに関する当たり前の基準もきっと変わる。

いわふね・ゆみこ 1991年北海道大学大学院電気工学専攻修士課程修了。三菱総合研究所入社。住環境計画研究所、東京大学生産技術研究所エネルギー工学連携研究センター講師、准教授を経て2015年4月から現職。

※次回はLooop電力事業本部エネルギー戦略部の渡邊裕美子さんです 。

【宮沢洋一 参議院議員】拙速な議論をすべきではない


みやざわ・よういち 1974年東京大学法学部卒、大蔵省(当時)入省。92年首相首席秘書官、2000年衆議院議員(当選3回)、08年内閣府副大臣、10年参院議員(当選2回)、14年経済産業相。自民党税制調査会長などを歴任。

自民党内の「税制のプロ」として、脱炭素化政策を踏まえた税金の在り方に取り組む。

だが、カーボンプライシングの導入には市民生活、産業への影響から拙速な議論にくぎを刺す。

2015年10月、自民党税制調査会長のポストに就いた。現在も税調小委員長として、市民生活や企業活動に大きな影響を与える税制について、さまざまな利害を調整する重責を担う。

昨年10月、菅義偉首相は50年カーボンニュートラルを宣言した。また、今年4月には30年度に温室効果ガス排出を13年度比で46%削減すると表明。エネルギー・環境政策は、脱炭素化の方向に大きくかじを切った。再生可能エネルギーの普及拡大や原子力などの在り方に加え、地球温暖化防止策としてカーボンプライシング(CP)の導入についても検討が加速することになる。

だが、CPについては、導入を前提とした議論が拙速に進むことにくぎを刺す。「30年度46%削減を意識したカーボンプライシングについては、十分に気を付けなければいけない。導入して消費者や企業の負担が増えることになった場合、市民生活への悪影響や企業が生産拠点を海外に移すなど、経済に打撃を与えかねない」

長年税制に取り組んだ政治家として、CPは制度そのものが、「仕組みとして非常に難しい」と話す。「これから伸びる企業や成長する産業の分野が損をして、衰退産業が得するようにしてはいけない。省エネなどに熱心に取り組んだ企業や国民が損をする制度は導入してはいけない」。現実的で実効性・公平性のあるCPが望まれるが、「乗り越える知恵はなかなか出てこない」と認める。例年、難題が持ち込まれる党税調に、また一つ大きな課題が増えたことになる。

一方、EUが導入に前向きな炭素国境調整措置(炭素価格が低い国で作られた製品を輸入する際に、炭素の価格差を事業者に負担させる仕組み)には目を光らせている。「ヨーロッパが実際に実行し始めたら、当然、対抗措置を考えなければならない」と注意を怠らない。

脱炭素化の柱の一つである電気自動車(EV)。しかし、ガソリン車などと同じく道路を利用しながら、揮発油税など燃料諸税を支払っていない。EVの大量普及、また電化などの拡大を前に、石油石炭税、温暖化対策税、揮発油税など現在の化石燃料関連税制の見直しを求める声がある。これらの声に真摯に耳を傾ける。

「カーボンニュートラルを目指す中で、化石燃料の税制を今後、どうするか考えなければならない状況になっている。電気もつくるときはかなりのCO2を排出する。まして日本は、世界を見ても太陽光発電や風力発電に最も向いてない地域の一つ。そういった要素を勘案して、税の仕組みを考えていかなければいけない」。税制のプロとして、手腕を振るう考えだ。

菅首相の脱炭化政策を評価 税制などで政策を支援

政治家一族に生まれ、幼少時、「将来は自分も政界に」との思いがあった。だが大学卒業後、大蔵省(当時)に入省し、日夜陳情や交渉に明け暮れる政治家の姿を目のあたりにして、「大変な仕事だな」と気持ちに揺れが生じる。

1993年6月18日、伯父・宮沢喜一首相の政権に対して、衆議院で内閣不信任案が可決される。自国開催の先進国首脳会議(東京サミット)を7月7日に控えながら、宮沢首相は衆院を解散。総選挙になるが、首相は地元に帰らず、代わりに選挙区を回ることに。「これでもう、政治の世界から抜け出られなくなった」。その後、元首相の政策秘書を経て、2000年の衆院選で初当選を果たす。

14年10月に経済産業相に就任。前年の13年にポーランドで開かれたCOP21 (第21回気候変動枠組み条約締約国会議)では、各国に排出削減目標の作成を求めていた。この策定作業では、次の2点を官僚に指示した。①基準年を最新のものにすること、②再エネ、原子力などの割合に幅を持たせること―。結果として、「30年度26%削減」と現実的な削減目標がつくられた。

その経験を踏まえて、「46%削減」について、「かなり高い目標。さらに排出量を減らすのは大変な作業になるだろう」と話す。さらに50年目標については、「現在は存在しない技術がないと達成できない。カーボンニュートラルは30年度目標の先にあるのではなくて、おそらく異次元のことを行わなければ達成できない。それがこの問題を難しくしている」と見ている。とはいえ、菅首相の判断を「大変大切なことであり、良いこと」と評価。税制などさまざまな面で脱炭素化の政策を支援していく意向だ。

趣味のゴルフはコロナ禍で足が遠のいている。最近はもっぱら料理で気分転換。半日かけてシチューをつくったり、夫人と交互に酒肴をつくり、晩酌を楽しむことも。

【石油】産油国の決裂 脱炭素の影


【業界スクランブル/石油】

 7月5日、OPEC(石油輸出国機構)プラス閣僚協議が事実上決裂した。サウジとロシアが事前合意した8月以降の減産緩和(増産)方針について、アラブ首長国連邦(UAE)が異議を唱え決議できなかった。UAEの主張は減産の基準生産量の増量である。基準である2018年10月生産量は原油生産能力に比して小さ過ぎるというものだ。

予想外の展開に、市場も直後は「8月以降の増産はない」と、WTI先物は時間外で75ドル台から77ドル目前まで上昇したが、6、7日と続落して72ドル台となり、不安定な動きを示した。

過去、UAEは石油政策でも外交政策でもサウジと同一歩調を取ってきたが、近年、不協和音が聞こえている。カタールとの国交回復でも、イエメンからの軍事撤退でも、イスラエルとの和平でも、サウジと対応が異なった。

特に反発したのは、サウジによる海外企業に対する24年以降の政府取引におけるリヤドへの中東本社・地域本部設置義務である。現在、本邦企業を含め中東本部はドバイに置かれることが多い。これは「ポスト石油」を見据えたUAEの長年の努力の成果である。UAEにすれば、ビジョン2030もアラムコ株式上場も難航しているサウジによる横暴である。その意味でOPECプラスでは、UAEはサウジと最後まで対立しない。

明らかに、今年に入りサウジもOPECプラス参加各国も、脱炭素を意識し、原油高価格誘導政策に転換した。「稼げる間に稼ぐ」ということだ。いつもとは違い、原油が高くなると違反増産に走る産油国も出ていない。サウジも、スイング拒否・シェア優先から自主減産を宣言、高価格政策に転換した。その中で、脱炭素に準備万端なUAEがわがままを言った、ということだろう。したがって、昨年3月の協議決裂時のように、サウジが増産で安値価格戦争を仕掛けることはない。石油需要が本格的に減少を始めるまでの間、原油価格は高止まりする可能性が高い。(H)

【マーケット情報/8月20日】原油急落、感染拡大で需要減少の観測強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み急落。20日時点で、米国のWTI先物価格はバレル62.32ドルとなり、前週比で6.12ドル下落。北海原油を代表するブレント先物も、前週比5.41ドル安の65.18ドルまで値を下げた。いずれも5月20日以来、3カ月ぶりの安値だ。

新型コロナウイルスの変異株が猛威を振るうなか、世界各地で感染が拡大してる。ニュージーランドとイランは、ロックダウンを再導入。日本も緊急事態宣言の対象地域と期間を拡大しており、石油需要が冷え込むとの見方が広がった。

また、経済活動の減速に加えて、欧米では、ガソリン需要が盛り上がりを見せる夏季のドライビングシーズンが終わりに近づいている。実際、米エネルギー情報局が毎週発表する統計では、ガソリン在庫が増加。買いを慎重にさせる材料となった。

さらに、米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが先週発表した国内の石油掘削リグの稼働数が、前週から8基増えて405基となり、2020年4月以来の最高を記録。OPECプラスによる協調減産で7月の遵守率が前月を3ポイント下回る109%に低下したことも、価格を押し下げる要因となった。

【8月20日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=62.32ドル(前週比6.12ドル安)、ブレント先物(ICE)=65.18ドル(前週比5.41ドル安)、オマーン先物(DME)=65.70ドル(前週比4.39ドル安)、ドバイ現物(Argus)=65.33ドル(前週比4.57ドル安)

【コラム/8月23日】菅政権に目立つ左派アジェンダ推進派 心ある議員は脱炭素政策に造反すべき


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

菅政権の下での温暖化対策の暴走が止まらない。ついに日本のエネルギー政策の根幹を定めるはずのエネルギー基本計画の案にまで無謀なCO2削減目標が書き込まれた。過大な再生可能エネルギーと省エネが見込まれており、このまま突き進めば日本経済は壊滅する。

日本国民は莫大な経済負担について未だに知らされないままだ。だが早晩、経済負担が明らかになり、異論が噴出するようになるだろう。

英国では今まさにその状態になっている。

家庭のガス暖房、ガソリン車禁止 英国政権の対策案に与党内からも批判 

英国政府は、家庭の暖房において主流であるガスを禁止して電気式のみにする、さらにはガソリン自動車を禁止して電気自動車のみにする、といった政策を、年末に主催する気候変動国際会議(COP26)に間に合うよう検討していた。

だが、その費用が世帯当たりで数百万円に上るという試算が白日の下に晒されると、ジョンソン政権のお膝元の保守党議員、ベーカー元ブレグジット担当閣外相が公然と反旗を翻した。

同氏は大衆紙サンに「脱炭素-ガス使用禁止で貧しい人が寒さに震える」と題した記事を書いた。

「これまで国民は脱炭素のコストを知らされていなかった。ボリス・ジョンソン党首が、高価で効きの悪い暖房を国民に強制し、さらには自動車の保有を諦めさせたりしたら、保守党は有権者から手痛い報いを受けることになるだろう。脱炭素のコストは、人頭税よりも大きな政治危機をもたらすのではないか。」

最後に言及している人頭税とは、文字通り人に対して課する税で、サッチャー政権時の1989年に強引に導入されたが、強い反対に遭った。保守党内でも異論が続出し、1990年のサッチャー退陣後、廃止された。

英国では、ブレクジット論争の時に、多くの大衆が左派的なEUの政策を嫌い労働党支持から保守党支持に回った。今その大衆が、左派エリートの贅沢な趣味であるCO2削減策を押し付けられ、経済負担を負わされつつある。ベーカーら英国保守党員は、このままでは大衆の支持を失い、保守党が政権を失うと恐れている。

脱炭素政策への造反議員は約30人ほどに達しているとみられ、夏休み明けにはグループを結成して活動を始める予定だという。この中には、比較的貧しいイギリス北部の工業・農業地域である「赤い壁」選出の議員が多く入っている。

「赤い壁」とは、かつて英国労働党の岩盤支持選挙区であったのでそう呼ばれていた。だがブレクジット論争の時に、保守党は大衆の支持を得て、それを切り崩していくつかの選挙区を奪った。このせっかくの勝利が、ガスボイラー禁止といった経済負担の大きい政策によって台無しになり、議席を失う結果となることを、保守党議員は恐れている。

英国では、本来はもちろん「保守」であるはずの英国保守党のボリス・ジョンソン政権が、リベラルのアジェンダである「脱炭素」にまい進してきた。

これまでは威勢の良い(無謀な)数値目標を言っていただけなのでさしたる反発も無かったが、具体的な政策の検討が始まったとたん、お膝元の与党議員が公然と反旗を翻した訳だ。今、政権は、ガスボイラーの禁止は止めて、補助金などの他の政策で置き換える方向で検討中だという。

日本の46%減目標の費用水準は毎年20兆円 消費税倍増に匹敵か

では日本はどうか。これまでの再エネの実績では、2.5%のCO2削減のために2.5兆円の賦課金が徴収されている。つまりCO2の1%削減には1兆円かかる勘定だ。

さて現行のエネルギー基本計画案ではCO2目標を26%から46%まで20ポイントも深堀りしている。1%あたり1兆円のペースだとすると、この費用は毎年20兆円となる。これは奇しくも現在の消費税と同じ額だ。

つまり現行のエネルギー基本計画案は消費税倍増に匹敵する経済負担になるのだ。

このまま突き進めば、日本でも規制や税があらゆる部門に導入され、その経済負担は消費税率の20%への倍増に匹敵するものになる。消費税の2%増税でも大騒ぎになるのに、消費税率の実質倍増であれば、政治危機が訪れるのは間違いない。

日本の菅政権では、左派のアジェンダを推進する人々が目立ってきた。そこには個々の議員が何をやっても与党の岩盤支持層は絶対に投票してくれるという驕りが垣間見られる。だが国民の経済と安全をもっと真剣に考えないと、遠からず厳しい審判が下るのではないか。与党支持者であっても、その議員への投票を拒否するかもしれない。

これまで日本のエネルギー政策形成では、製造業の団体が間接的に消費者の利益を代弁する形で政府と交渉してきた。しかしもはやこの歯止めは壊れてしまった。かくなる上は、エネルギー消費者である企業や国民にその経済負担について良く知ってもらい、政治家に圧力をかけて貰うしかない。エネルギー業界関係者は、そのような説明の労を惜しまず取らねばならない。それにより政治バランスを変え、政策を少しでも正常化してゆかないと、状況はますます取返しが着かなくなる。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。

運転員の不注意で大事故に TMI事故はこう起きた


【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.5】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問

1979年3月、米TMI(スリーマイルアイランド)発電所で炉心が溶融する事故が起きた。

炉心溶融は原子炉の圧力上昇に気付き、注水した途端に発生している。

前号の溶融炉心図に続いて、今回はTMI事故の説明に入る。

事故は1979年3月28日午前4時に起きた。発端はトラブル発生による原子炉の停止後に、開いた安全弁が閉じなかった故障に始まる。それに気付いた運転員が弁の元栓を閉じたのが約2時間後だ。蒸気の流失は止まったが、その時点で原子炉の水位は半減していたが、運転員はそれに気付かなかった。このぼんやりが、トラブルを大事故に拡大させた。

元栓が閉じたので、行き場のなくなった崩壊熱は、原子炉の温度・圧力を上昇させる。圧力上昇に気付いた運転員は圧力を下げようとして、停止していた一次冷却ポンプを動かして水を入れた。この途端に、炉心溶融が起きた。トラブルから3時間後のことだ。

原子炉圧力は下がるどころか急上昇した。それも2分間に5・5Mpという、無茶苦茶な上昇だ。運転員は慌てて安全弁の元栓を開いて減圧を試みたが、圧力は下がらない。なぜなら、炉心熔融が起きるような巨大な発熱が炉内で誕生していたからだ。

同時に、一次冷却配管の放射線指示が急上昇している。燃料破損が起きた事は明かだ。発電所に緊急事態宣言が発令された。

午後3時間15分、ポンプを止めたところ原子炉圧力は少し低下した。だがその間に、安全弁からの蒸気を水に戻すレットダウン・タンクが、2度にわたり破壊した。10時間後には、格納容器の内部で水素爆発が起きた。

注水で圧力が急上昇 前代未聞の不可解な事故

以上がTMI事故の概要だ。圧力を低下させるために原子炉に水を入れたら、圧力が急上昇して燃料棒が溶け、発電所の放射線が上昇した。前代未聞の不可解な事故だ。

原子炉内部の損傷は、前報のスケッチ図の通りだ。炉心は熔融し、その上に燃料デブリが堆積している。だが、炉心の外周にある燃料棒や制御棒案内管は、炉心溶融などどこ吹く風とばかりに元の状態で残っている。以上がわれわれの知る、世界で最初の炉心溶融の実体だ。

ところが、原子炉の外は大荒れで、大嵐の跡のさながら全面的な破壊だ。2度にわたるレットダウン・タンクの破壊、10時間後の格納容器内部での水素爆発、記録にはないがその他にもいろいろあったろう。

タンクの破壊には諸説あるが、最初の破裂は水素の大量流入による過圧破壊、二度目の破壊は水素爆発と、僕は考えている。

水素の大量発生は、原子炉の場合、高温のジルカロイと水の酸化反応しか考えられない。蒸気発生器の二次側にたまっていた復水が、冷却材ポンプの作動によって一挙に原子炉に送られ、高温のジルカロイと反応して大量の水素ガスを発生させたのが、原子炉圧力急上昇の原因だ。

さらに考えれば、ジルカロイ・水反応は大きな発熱反応であるから、この熱で炉心溶融が起きたとの説が出るのも当然だ。

レットダウン・タンクが破壊すると、原子炉で発生した水素ガスは、安全弁を通って格納容器へ直行し、中の空気と混じって爆発性ガスと化す。このガスが10時間後に、何らかの衝撃によって爆発した。TMIで見た格納容器内部の写真では、エレベータ付近に破壊が集中していたという。爆発は一度だけだったらしい。制御室の運転員は、この爆発音をダンパーの閉じる音と聞き違えている。運転員の証言は信頼がおけないのだ。

その後のTMIの経過は、原子炉冷却水に混入した水素ガスを約1月かけて除去し、4月末に事故終結宣言の発布に至った。NRCデントン部長の采配である

TMIの格納容器への入構は、今日なお特別許可が必要という。炉心熔融を起こした水素ガスは放射能を伴っているため、格納容器内部の汚染が非常に高いからだ。

話を廃炉に移す。事故後約15年たった90年代中頃、TMIは遠隔操作機械を使って熔融炉心の約98%を取り出した。これで廃炉が始まるかと思ったのだが、邪魔が入った。溶融燃料の運搬先で反対運動が起きたからだ。

予定の運搬先は、ニューメキシコ州の南、メキシコ国境近くにあるWIPP(Waste Isolation Pilot Plant)という名の核廃棄物の隔離埋設試験施設だ。原爆の開発・製造でできた放射性廃棄物を処分する目的で作った、地下約600m深さにある岩塩層の施設だ。

反対運動は、同じニューメキシ州の北部にある有名別荘地、サンタフェで起きた。WIPPから300㎞も北に離れているが、反対運動は成功し、運搬は休止となった。取り出された溶融炉心は、今、アイダホ州にある国立研究場(旧NRTS)の仮置き場で保管中という。


発端は原子炉の停止後に開いた安全弁が閉じなかった故障だった

依然高い放射能線量 進まない廃炉工事

その後、TMIの廃炉工事は進んでいない。残余の溶融炉心と格納容器内部に付着した放射能の線量が高く作業に適さないとの理由だが、その通りであろう。

熔融炉心が出す放射能による汚染には毒性の強いプルトニウムが混入しているので、除染工事の方法や、工事費用の見積りが難しいのであろう。

その先輩が再処理工場だ。使用済みの燃料からウランやプルトニウムを回収した後の廃棄物には、天然には存在しなかった放射性物質が含まれる。これらの体内への取り込みを防ぐために工場は各種の防護設備を備えているが、廃棄物がこぼれたりするとその除染作業は大変だ。

炉心溶融が起きた炉の廃炉工事は、再処理工場に似ている。汚染全体にプルトニウムそのほかの放射能の付着があり、除染費用のめどが付かないのだ。

お金の話が出たついでに、事故炉の廃炉費用について述べる。TMIの溶融炉心取り出し費用はざっと1000億円だった。チェルノブイリで新設した石棺全体を覆う建造物の費用が1700億円だ。

福島第一発電所の廃炉予算は、事故直後に東京電力が計上したのは約2兆円だったが、16年12月に経済産業省が発表した原子力損害賠償・廃炉等支援機構の試算は8兆円に跳ね上がっている。その理由は不明確だが、額は諸外国と較べて数倍高い。

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いしかわ・みちお  東京大学工学部卒。1957年日本原子力研究所入所。北海道大学教授、日本原子力技術協会(当時)理事長・最高顧問などを歴任。

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.1 https://energy-forum.co.jp/online-content/4693/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.2 https://energy-forum.co.jp/online-content/4999/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.3 https://energy-forum.co.jp/online-content/5381/

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.4 https://energy-forum.co.jp/online-content/5693/

【火力】「不労所得」発言 前提は正しいか


【業界スクランブル/火力】

 今冬の供給力不足への対応については、梶山弘志経済産業相から5月に出された対策指示に基づき電力・ガス基本政策小委員会などで検討が鋭意進められ、何とか必要な供給力を確保できるめどが付いた。だが今回も、事の本質である供給責任の在り方を定めたルールの適正化について、議論が深まることはなかった。

今回の検討では、再調整をしてもなお不足となる見込みの東京エリアの来年1月2月について、約50万kWを送配電事業者が調整力公募の形で募集することになった。しかし、必要な供給力は、本来供給力確保義務を負う小売り事業者が確保すべきものである。

問題点は、小売りがスポット市場からの調達を念頭に調達先未定とすることが認められているルールに不備があると考えるのが自然だと思うが、供給力が不足するのは、市場を厚くしない旧一の発電事業者の対応が悪いとする問題点のすり替え、あるいは責任転嫁ともとれる意見が委員の中からも聞かれた。

しかし、発電サイドから見れば、ベースロード市場やグロスビディングなどにより適正価格での玉出しと内外無差別の方策が徹底されており、必要となる利益が見込めないのに市場を厚くしろと言われても無理な相談というものだ。実際、今の発電事業では十分な利益が見込めないため、新規参入者は自ら電源を持つリスクを回避し、市場からの調達に走ったのではないか。

また、複数の委員から休止火力の再開により発電事業者が不労所得を得るのではないかという発言があったのは大変残念だ。発電所の休止は、S+3Eに気を配りながら長距離マラソンを走り切り、ようやくゴールにたどり着いたようなものだ。今回のように、無事ゴールして安堵した途端に「トラックもう一周!」と言われた場合の負担感の大きさを察してもらえないものか。このようにルールに関する不具合が生じた場合、実は前提が間違っていたのが原因というのは、往々にしてあることだ。ルールを作った方々は、発電所の維持に相応のコストがかかり続けるという単純な理屈を正しく理解できていなかったと思われる。(S)

関心高まるSMRは原子力を救うか 国内での新設実現は困難の指摘も


【多事争論】話題:SMRの実現可能性

受動的安全性などの特性でSMR(小型モジュール炉)に関心が高まっている。

しかし、低廉・安定的な電力供給で実績のある軽水炉を優先すべきとの声も多い。

〈まず再稼働と運転制限の見直しが優先 新型炉開発は海外とのアライアンスで

視点A:田中隆則(日本原子力学会フェロー)

2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、原子力をどのように位置付けるのかが検討課題となっている。世界においてはSMR(Small Modular Reactor)を中心とした新型炉の開発導入が進もうとしているが、日本では、どうであろうか。

SMRの特徴の一つは、安全性の向上が分かりやすい形で実現されることにある。これは、出力規模を下げることにより、動的な安全系を採用しなくてもフルパッシブ系で安全性能を達成できる点にある。しかし、スケールメリットに反するとして、日本においては開発の主流とはならなかった。

これまで日本ではスケールメリットによるコスト低減と、成熟技術の活用の観点から出力規模を上げる方向で発電用原子炉の開発導入が進められてきた。筆者が開発を担当していた次世代軽水炉(APWR、ABWRを安全面、コスト面で発展させたもの)もそのような路線に沿ったプロジェクトであった。

しかし、大型炉は、欧米での最新の経験から、建設期間の長期化やその間の電気事業や原子力安全規制の見直しなどによる投資リスクが極めて大きいことが認識されるようになってきた。そのことから、小さな投資で早期に回収が図れるSMRが注目されるようになった。コスト面についても、パッシブ系の採用による設備の簡素化を進めるとともに、原子炉格納容器内に圧力容器など主要な原子炉系機器を収めたモジュール化を最大限推し進めることにより原子炉システム全体を工場生産型としてコストと工期を抑え、大型炉に対する競争力を持つ可能性が見えてきた。

また、地球温暖化対策として、再生可能エネルギーの大幅な導入が目指される中、同じくゼロエミッション電源であり安定電源でもある原子力を組み合わせて活用するとの考えから、安全性が高く柔軟な運用に適したSMRを電源のみならず熱源としても利用し、再エネの出力変動に対応させるとの構想も生まれている。

極めて難しいSMR新設の実現 最大の課題は福島事故後の安全規制

このように注目されているSMRであるが、残念ながら、日本においてその新設を実現するのは、極めて難しい。

まず、最大の点は、規制の問題である。既設炉の再稼働でさえ、福島第一原子力発電所事故から10年以上を経過しても、PWR10基にとどまっており、BWRにおいては1基も実現していない。ましてや、これまでの原子炉と構造が大きく異なるSMRの審査に要する期間を見通すことは困難である。米国においては、審査の予見性を高めるため、DC(設計承認)制度や正式な審査の前に規制上の課題を見出すためのPre-Application Reviewといった制度が設けられた。英国は、DGA(一般設計評価)により、正式な審査とは別に設計段階で規制上の課題を特定するような制度を設けている。

また、カナダは、特にSMRを想定し、許認可と別にベンダーへのサービスとして、Pre-Licensing Vender Design Reviewを行っている。このように、海外の規制機関では、SMRのような新型炉の申請者のリスクを低減するとともに、審査側の対応力を上げるための取り組みがなされている。だが、日本において、このような取り組みを期待することは難しい。

また、プラントメーカーの開発は既に海外から大きく後れを取っている。これは、従来、新型炉の開発は、発注者である電気事業者の意向を受け、自らリスクを取ることなく進めてきたことに起因するものかもしれない。ベンチャー的な挑戦姿勢への本気度が問われている。

次に政府の役割であるが、SMRを国内において導入するのは、前述のような理由で現実的でない。そのため、国内のエネルギー政策と切り離さざるを得ない。その開発を支援するのであれば、必然的に海外のプロジェクトに参画し、海外で事業を進めることが現実的な路線となる。しかし、英国のホライゾン・プロジェクトを逃し、海外での事業実績が皆無の原子力産業が国際展開を実現するのは容易ではない。日本がメインプレイヤーの一角を占めるには、国際的なアライアンスづくりに向けた具体的な戦略が求められる。 政府がまず取り組むべきは、既設炉の再稼働と建設中の発電炉の早期完成の支援、さらには40年運転制限制の見直し(運転休止期間の除外、60年超運転も可能に)である。なお、技術開発においては新型炉だけではなく、日本のものづくりの力を生かし、3Dプリンターによる原子炉機器の製造技術や、シミュレーター技術を生かしたデジタルツインなどのイノベーションへの取り組みも求められる。

たなか・たかのり 1979年京大大学院原子核工学研究科修士課程修了、通商産業省(現経済産業省)入省。2017年から21年6月まで原子力環境整備促進・資金管理センター専務理事。

【原子力】出力でなく仕事量 再エネ過信で亡国も


【業界スクランブル/原子力】

 カーボンニュートラルが果たして本当に実現できるか―。掛け声だけでなく、相当真剣になって取り組まないと実現できないし、道を誤れば国家滅亡の愚を招く。

世界の製鉄の53%は中国で行われており、日本には減少の余地がない。炭素排出の塊のセメントも同様にカーボンニュートラルに変更できるかといえば無理だ。水素製造も水を電気分解するなら大量の電力が必要だ。電力も原発なしではうまく行くはずはない。小泉進次郎環境相は再生可能エネルギーだけで何とかなる、うまくいくという。そうしたうそをテレビなどで声高に発信する人も多い。

EVなどで電化が進めば、現状1兆kW時程度の電力需要が2兆kW時くらいに増大する。太陽光や風力は出力(kW)では意味がなく、仕事量(kW時)での評価が不可欠。CO2カーボン排出の多いもの・少ないものをいっしょくたにして石炭火力をまとめてつぶすのでは、電力の安定供給はできない。また、再エネ一本足打法では、再エネ賦課金の負担が大きくなるばかりでわが国の国民負担や産業競争力の問題が大きくなるばかりだ。

既存の原発27~30基はどうにかして動かしていかないといけないが、現状はやっと9基プラス40年超の美浜3号機の1基の計10基しか再稼働していない。ところが中国は、原発を40基くらい建設しようとしており、そこで作った電力でいろいろなことができ、いろいろな商売ができる。経済産業省も産業界も、カーボンニュートラルの国民負担増の懸念を述べることをやめ、国家予算をぶんどることばかりに熱を上げている。

こうした我田引水的な掛け声を簡単に信用してはいけない。カーボンニュートラルで日本の雇用が失われることがないようにする留意が大切だ。既に日本の現状にはGDP、技術力、生産性などの点で懸念は少なくないが、このまま日本が三流国家に陥り、裸の王様にならないようにすることが急務だ。(S)