【気候危機の真相Vol.06】小島正美/ジャーナリスト
温暖化報道の常識が「CO2犯人説」である限り、「気候危機」に傾く世論を覆すことはできない。状況を改善するには「反論の余地のない事実」をリスト化し、メディアに突き付ける手が有効だろう。
いったん人々の脳に刻まれたイメージを覆すのは容易ではない。地球温暖化の犯人はCO2だというのも、その例であろう。ではどうしたら凝り固まったイメージを解きほぐすことができるのだろうか。いまだ悪魔のようなイメージで見られる遺伝子組み換え(GM)作物を例に考えてみたい。
GM作物は1996年から米国を中心に普及し始め、今では約30カ国で栽培され、世界中で流通している。家畜のえさや食用油の原料など幅広く浸透しているにもかかわらず、今なお「がんを起こす」とか「自閉症の原因」とかトンデモ言説を信じる人が多い。
GM作物での失敗に学ぶ 温暖化報道の「常識」崩せるか
それは、誤った言説が登場したときに「それは間違いなくウソです」と打ち消す作業を科学者やマスコミがしてこなかったからだ。例えばGM作物では、2012年にフランスの大学教授が「組み換え作物を食べるとがんになる」とマウスの実験を発表した。当時西欧で大きく報道され、その悪いイメージは一気に人々の脳内にインプットされた。しかしその後、世界中の政府機関が実験の不備を指摘した。さらにEUの欧州委員会は完璧なマウスの再現試験を行い、当該の実験は完全に否定されたが、マスコミは一行も報じない。
おかしな言説を流布させないために必要なことは、そのおかしな言説が発生するたびに科学者集団が素早く打ち消し、マスコミに取り上げてもらうよう巧みに広報していくしかない。
では、温暖化問題はどうだろうか。言うまでもなく新聞やテレビは洪水や台風で大災害が起きるたびに温暖化のせいだと報じる。森林火災があれば、これも温暖化の影響だと簡単に報じる。これは、すでにメディアの記者たちの頭に「CO2のせいで地球が温暖化し、やがて海面が上昇し、異常気象が頻発し、地球は危機的状況に陥る」という構図が出来上がっているためである。CO2犯人説は科学的に正しいと思い込んでいるからだ。
では、記者たちの頭の中の構図をひっくり返すには、どうすればよいのだろうか。そのためには、記者たちが信じていることに対して、「それはウソだ」と示し、そのウソをニュースにしてもらうしかない。GM作物でも記者たちが危ないと思っている限り、一般市民の考えが変わるはずはない。
その実現手段は、ウソだという確かな事実を記者たちに突き付けることだ。反論の余地がないほど確かな科学的事実なら、記者たちの心も揺れるはずだ。
温暖化問題で一般に信じられている言説とは異なり、「えー、そうだったの」と皆が驚くであろう確かな事実とは何か。それを明確にして示すのが「科学重視派」の科学者の役割である。一般的には「温暖化懐疑派」と呼ばれるが、彼らは気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の言説を疑っているのではない。「こちらの言説の方が科学的で正しい」と主張しているわけなので、懐疑派という言葉はやめたい。
では、記者たちに知ってほしい確かな事実とは何か。私なりにその「確かな事実」を見つけようと、『地球温暖化「CO2犯人説」は世紀の大ウソ』(丸山茂徳氏ら著)や『「地球温暖化」の不都合な真実』(マーク・モラノ著)、『CO2温暖化論は数学的誤りか』(木本協司著)を読んでみた。それぞれ説得力を感じたが、私のような門外漢が特に知りたいのは、どの論が、CO2犯人説(IPCC派といってもよい)からの反論を跳ね返すほど確実性に富む科学的事実なのかという点だ。
反論の余地ない事実提示を 共感得るかは科学者の腕次第
例えば、温暖化で絶滅すると危惧されるホッキョクグマは絶対に減っていない、いやむしろ1950~60年代よりも増えているという事実が確実であるならば、これは「確かな事実」のリストに加えることができる。
温暖化と異常気象の発生の関係はどうだろうか。坪木和久・名古屋大学教授が著した近著『激甚気象はなぜ起こる』を読むと、「温暖化懐疑論はもはや無意味である。温暖化という気候変動は現実に進んでおり、それに伴って気象が激甚化している。その原因は人間活動にある」(4ページと338ページ)と述べているが、過去100年の統計を見れば、おそらく無関係だと主張できるだろう。仮にそうならば、「異常気象と温暖化は無関係」という確かな事実をリストに載せることができる。
そもそもIPCCの気候予測モデルがパラメーターをちょっと変えれば、どんな予測でも可能にしてしまう怪しげなものだ(いわゆるチューニング問題)という印象を、丸山氏らの本を読んで持ったが、このことを一般市民に分かる形でどう解説するかが科学者の腕の見せどころである。コンピューターを用いた温暖化シミュレーションに根本的な誤り(雲や水蒸気と気温の関係など)があれば、それもリスト化できるだろう。マーク・モラノ氏は「『科学者の97%が人為的温暖化説に合意』はウソだ」と言っているが、その辺りもリストに加えられたら面白い。
こうしてリストを作っていけば、文句が出ようのない確かな事実をメディアに突き付けることができる。その案を作成してみた(別表)。大事なのは、それを大衆の面前に分かりやすい形でビジュアルに示すことだ。このリストづくりは、記者たちに向けてはニュースのネタになるはずだ。
最後に再度強調したい。CO2犯人説を確実に否定できる「えー、そうだったの」という確実な事実だけを分かりやすく解説した本をぜひ緊急出版してほしい。ニュースの素材になるような本なら反響を呼ぶはずだ。
こじま・まさみ 1951年生まれ。愛知県立大卒業後、毎日新聞社入社。生活報道部編集委員として食の安全、健康・医療問題などを担当し、2018年退社。「食生活ジャーナリストの会」代表。