【火力】高需要期の補修 正確な需要想定を


【業界スクランブル/火力】

コロナ禍やカーボンニュートラルの話題ほど世間の関心が高いとはいえないが、今年の夏および冬の電力供給力不足がじわりと問題になっている。電力広域的運営推進機関(OCCTO)では、毎年度末に各電気事業者からの届け出を基に翌年度の供給計画を取りまとめているが、そこで明らかになった供給力不足についてひと月かけて調整してもなお懸念を払拭することができず、5月14日に梶山弘志経済産業相から対策を早急に取りまとめるようにとの指示が出された。

対応案として発電・小売り事業者に対する供給力確保の働き掛けや需要家に対する協力要請などが示されているが、既に一度調整が行われており残された時間も少ない。今からできることはそう多くはない。

供給力不足については、今夏よりも来冬の方が厳しいとされ、冬期の高需要期に補修停止する火力設備が相当数あることがその一因であるとOCCTOから指摘されているが、果たしてどうなのだろうか。

火力設備は、高温・高圧の過酷な運転条件にさらされているため、安定運転のためには適切な補修が欠かせない。当然のこととして、なるべく小売り・流通側から示される需給バランスに余裕のある時期に停止作業を行うよう調整しているが、法定点検の期限や工事力を均平化する必要もあり、高需要期に一定量の補修を行うことは避けられない。無理やり補修時期を前後にずらすこともできるが、今度は、時期変更で停止が増えた期間の需給がタイトになってしまうだろう。

そもそも、発電事業者に最適な補修計画を求めるのであれば、なるべく正確な需要想定が必要だ。国の検討の中でも供給力確保義務の在り方が検討の俎上に載せられている。むしろここからスタートすべきなのではないか。この議論になると、自前の発電所を持つのが難しい中小の事業者にまで一律に義務を課すのが妥当か、という話になるが、大小問わず自社の販売想定をリアルに持ち、そのためのリスクを取るのは事業者として当然。本質を改善せず、結果の対応だけ発電側に回すのというのは付け焼き刃でしかない。(S)

新築住宅への太陽光義務化 見送りは妥当か否か


【多事争論】話題:住宅・建築物への太陽光義務化

新築の公共建築物を対象に、太陽光発電設備設置の原則義務化が決まった。

新築住宅への義務化は見送られたが、議論を巡りさまざまな意見が出ている。

〈30年46%削減達成に不可欠義務化予告と環境整備が急務〉

視点A:諸富 徹 京都大学大学院経済学研究科教授

今年4月に設けられた「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会(あり方検討会)」は、省エネ、断熱、そして創エネを通じて、住宅・建築物が脱炭素にどう貢献すべきかを検討している。最大の論点の一つが、住宅への太陽光発電設備の義務化である。だが本稿執筆時点では結局、義務化は見送りになる公算が高い。本当にそのような結論でよいのか。本稿では、検討会委員として議論に参画する立場から、住宅の太陽光発電義務化の必要性と意義を述べたい。

結論的に言えば、菅義偉首相が表明した2030年温室効果ガス46%削減という日本の目標を達成するには、太陽光発電の住宅への設置義務化が不可欠となる。

この点を定量的に確かめてみよう。50年にカーボンニュートラルを最小コストで実現する方途をモデル計算で求めた自然エネルギー財団らの研究によれば、必要削減量の約半分をエネルギー転換(電力)部門で実現しなければならない。そのためには石炭火力発電を段階的に縮小して30年までには全廃とし、代わって再生可能エネルギーを少なくとも発電総量の40%まで増加。太陽光発電の設備容量は倍増以上、風力発電は6倍以上に達する必要があるという。

経済産業省総合資源エネルギー調査会は、46%目標を受けて再エネの拡大目標を精査中であるが、風力に加えて、現在「さらなる検討が必要」と表記されている太陽光をいかに上乗せできるかに成否がかかっている。潜在的に拡大余地が大きいのが、住宅・建築物などの屋根に設置する太陽光発電と、ソーラーシェアリングである。限られた時間で迅速かつ安価で大量に再エネを導入するには、既に確立された技術で、コストが低下し続けている太陽光の推進が最有力な選択肢となる。

住宅政策上も重要な取り組み 課題克服し関係者の対応促すべき

あり方検討会では、太陽光発電の義務化に対して環境整備がなされれば将来は導入可能であるとしても、現状では困難との意見が多く出された。理由の一つは、設置義務化が住宅価格の上昇をもたらし、消費者には受け入れ難いというものである。だが、太陽光パネルを設置すれば余剰電力を売電できるほか、自家消費することで電力会社への支出を削減できる。これによって初期コストは12~15年で回収でき、以後は経済メリットを享受し続けることができる。

もう一つの理由として、建築事務所や一般工務店の半数近くが住宅の一次エネルギー消費性能や外皮性能についての計算ができない、という実情が国土交通省によって明かされている。省エネ、断熱、創エネに関して日本の住宅の水準を引き上げることは、単にエネルギー政策上の要請だけでなく、住宅の質を引き上げ居住性能を高める上でも必須である。日本の住宅の断熱性能が悪いために、毎年多くの人々がヒートショックで亡くなっている実態はよく知られるようになってきた。

省エネ基準の適合義務化と今後の基準引き上げに付いてくるのが難しい中小工務店・建築士には、スキル向上の研修機会の提供や、簡易計算ソフトの開発で彼らが容易に計算を実行できるよう支援する必要がある。だが、そのことを理由にして、日本の住宅政策を停滞させることは避けねばならない。

太陽光発電の義務化の見送りは、30年までに最大限に再エネを伸ばす有力な手立てを諦めることを意味し、46%目標達成は遠のくことになる。確かに今すぐの義務化は難しいかもしれない。だが将来時点での義務化を決め、それを予告することで事業者に対応を促すことなら即可能だ。具体的には25年、遅くとも30年には義務化を導入すると決めた上で、それまでの期間を課題克服と環境整備の準備期間とすべきであろう。

太陽光義務化はカリフォルニア州が20年に導入済みで、京都府も同年から条例に基づく住宅の再エネ義務化という画期的な取り組みを行っている。これは貴重な「社会実験」であり、得られた貴重な教訓を、全国的な義務化の制度設計に反映させるべきである。

これからの住宅は、分散型エネルギーシステムの不可欠なピースになっていく。そうした方向にこそ、住宅産業の新しい発展可能性が開けるだろう。太陽光発電、蓄電池、電気自動車の3点セットは、21世紀の住宅に不可欠な設備となり、それらを情報通信で結び、エネルギー生産と消費の最適化を図るマネジメントシステムも導入されるだろう。こうなると、ものづくり産業としての住宅産業の「サービス産業化」が始まることになる。そうした方向を目指し、関係者による今後の積極的な取り組みと情報発信に期待したい。

もろとみ・とおる 1998年京都大学大学院経済学研究科博士課程修了。横浜国立大学助教授などを経て2010年3月から現職。内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官、ミシガン大学客員研究員などを歴任。

【原子力】独立国でいられるか マーン惠美氏の警告


【業界スクランブル/原子力】

独在住の作家・川口マーン惠美氏の『無邪気な日本人よ、白昼夢から目覚めよ』が6月末に公刊された。日本が今、国難に直面する中、この本は必読の書ではないか。新型コロナ感染拡大の中で、国産ワクチンの開発に失敗したものの輸入ワクチンの入手に何とか成功したが、接種が難航し、政府は対応の混迷のただ中にある。

そのため、東京五輪・パラリンピックについて、国民の約7割が反対し、選挙対策のために無理やりオリパラを開催しようとする菅政権の支持率は4割を切り、低支持率にあえいでいる。このままでは、来る国政選挙での与党の惨敗は避けられそうもなく、まれに見る不安定な国際情勢の中で、わが国の進路は「救命艇状況」に陥ることが予想される。 

そうした鮮烈な危機感を基礎にして、この著作はまとめられた。かつて戦前の日本は8~9割の石油を海外に依存していて、それを止められたので、イチかバチかの賭けに出て行かざるを得なくなり、米国など連合国にひねりつぶされた。その教訓は本来わが国で生かされ続けなければならないが、なぜかそれを忘れ、極楽とんぼ状態に陥っている。

再生可能エネルギー100%という幻想(エネルギーコスト4倍というわが国の産業競争力を無視する暴論)に捉われ、安易なカーボンニュートラルが横行している。対中国の戦略立案もおぼつかず、このままでは「独立国」で居続けることも危うい。

川口氏はドイツのエネルギー環境政策の実態に明るい。その川口氏が訴えるメッセージは、「CO2フリー・カーボンニュートラルが日本を衰退させる! 環境先進国・日本よ、欧米に引きずられる愚を犯すな! 原子燃料サイクルは国家戦略だ! トヨタ社長の勇気ある正論に耳を傾けよ! 日本の独立には原発・石炭火力発電が必要だ! 国防崩壊を見過ごすな! このままでは中国共産党が『第二のGHQ』になってしまう」―などである。政治家はもとより、マスコミ・学識経験者などに広く読んでもらいたい。(S)

水素エネルギーの本質は多様性 そしてなぜ、アンモニアが重要か


【羅針盤】塩沢文朗/元内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「エネルギーキャリア」サブ・プログラムディレクター

2050年のカーボンニュートラル目標実現に大きな役割を果たす水素エネルギー。

水素エネルギーの中でアンモニアが重要な役割を担う理由と日本の取り組みとは?

カーボンニュートラル実行戦略』(エネルギーフォーラム刊)の内容紹介の最終回となる今回は、「水素エネルギーとアンモニア」のポイントと、2050年のカーボンニュートラル(CN)目標の達成に向けて必要となる、分野を超えた取り組みについて述べたい。

水素エネルギーとアンモニア その多様性と評価・選択

本書の第三章で読者にお伝えしたかったことの第一は、「水素エネルギー」の多様性と、それにマッチした活用の重要性である。

水素エネルギーの「多様性」に関する説明で、筆者が最も優れていると思うものは、国際エネルギー機関(IEA)による次の説明(第三章でも引用)である。

「水素は、電気と同様にエネルギーを運ぶ媒体であり、それ自体はエネルギー源ではない。水素と電気が大きく異なるのは、水素は分子による(化学)エネルギーの運搬媒体であり、(電気のように)電子によるエネルギー運搬媒体ではないことだ。この本質的な差が、それぞれを特徴づける。分子だから長期間の貯蔵が可能であり、燃焼して高温を生成することができる。また炭素や窒素等の他の元素と結合して、取り扱いが容易な化合物に変換することができる」

それゆえ、水素エネルギーの利用においては、水素エネルギーの多様性を踏まえ、その製造・輸送、利用環境、用途にマッチした水素エネルギーの形を選択することが重要となる。

日本のエネルギーシステムの脱炭素化の重要かつ喫緊の課題は、電力の脱炭素化である。日本のように、国内の再エネ資源が量的にも質的にも限られ、かつ周辺の国や地域との間を結ぶ送電線やパイプラインがないところでは、電力の脱炭素化のための再エネを、再エネ資源に恵まれた地域から水素エネルギーの形で導入することが必要となる。加えて発電用のエネルギーとしては、大量のエネルギーを安定的かつ安価に供給できるものでなければならない。

こうした理由で、日本では水素エネルギー密度が高く、大量・長距離輸送を可能とするインフラ技術が既に整っているアンモニアが、水素エネルギーの重要な導入手段になる。さらにアンモニアは、水素に再転換することなく、そのままCO2フリーの発電用燃料として利用できることが戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「エネルギーキャリア」の成果で明らかにされ、アンモニアの火力発電燃料としての魅力が高まった。

一方、国内の再エネの地産地消の手段としての水素エネルギーは、大量に長距離を輸送する必要はないので、水素のままでの利用が合理的な選択だ。また燃料電池車の燃料など、水素である必要がある用途もある。こうした水素としての利用はもちろん重要なのだが、これらの用途向けの必要エネルギー量は、発電燃料向けの量に比べて数桁小さく、2050年のCN目標の達成に果たす効果のスケールは大きくない。

電力分野に加えて、鉄鋼業や石油化学など、産業分野の脱炭素化も重要な取り組み課題の一つだ。この分野でも、その脱炭素化には水素エネルギーが大きな役割を果たすが、導入方法については引き続き検討が必要である。

このように「水素エネルギー」は、水素やアンモニアといった個別の化合物で見るべきではなく、その全体を見て、導入促進のための政策内容を検討することが重要である。

水素エネルギー利用の多様性

第二は、水素エネルギーをはじめとする「エネルギー脱炭素化技術」の評価・選択に当たって持つべき視点の重要性である。

本書では、「エネルギー脱炭素化技術」の評価・選択の視点として、評価対象技術の①脱炭素化効果のスケール、②成熟度、③経済性、④ライフサイクルで見た脱炭素化の効果―の四つを挙げた。

アンモニアは、本書で科学的かつ定量的に論じたとおり、これらの視点から評価して電力の脱炭素化という、CN目標の実現に大きな役割を果たすことのできるエネルギー脱炭素化技術である。

他方、「エネルギー脱炭素化技術」として政府が取り上げ、支援を得て研究開発が進められているものの中にも、これらの視点から見て、その妥当性、実用化の可能性に疑問を感じさせるものがある。時おりマスコミなどで喧伝される「夢の」脱炭素化技術に至っては、その実装可能性だけでなく、技術の科学的合理性にすら、疑問符を付けざるを得ないようなものもある。

前述の産業分野の脱炭素化を含め、新たな脱炭素化技術の開発が必要となる技術分野もあるが、こうした現状に鑑みるならば、エネルギー脱炭素化技術の開発に当たっては、上記の四つの観点から個々の技術テーマの妥当性をしっかり評価する必要がある。

また研究開発においては、ステージ管理を厳格に行うことによって、時間管理と技術選択を的確に行っていく必要がある。

技術分野を超えた取り組み 新たな産業群の創成の基盤

2050年までに「エネルギー脱炭素化技術」を実装し、その効果を享受するには、新技術の開発に許される時間的、資金的余裕はもうあまりない。

CN目標を達成するための取り組みについては、本書の「おわりに」で触れたように、異なる技術分野で使われる用語や単位の違いなどにより、異分野の専門家の間での情報交流や議論が円滑に進まないのが現状だ。この状況を改め、技術分野を超えた取り組みを促進する環境を整えなければならない。

なぜなら、CN目標の実現には、幅広い学問分野の知識を総動員するとともに、さまざまな技術、産業分野の関係者の英知を結集して、社会的にも経済的にも実現可能な方策を選択していかなければならないからだ。そして、そうした環境は、今後のCN社会の経済力の源泉となる、エネルギー、素材、機械、電子・情報等といった、従来の産業の枠を超えた新たな産業群の創成の重要な基盤となるに違いない。

い。

しおざわ・ぶんろう 1977年横浜国立大学大学院修了、通産省(当時)入省。経産省、内閣府で大臣官房審議官を務め、2006年退官。2008~2021年住友化学に勤務。

【LPガス】不動産業との商習慣 政府が是正を要請


【業界スクランブル/LPガス】

資源エネルギー庁と国土交通省は6月1日、住宅仲介業者、不動産事業者などの関係7団体や全国LPガス協会に対して、「賃貸集合住宅のLPガス料金情報」について協力要請を行った。賃貸集合住宅の設備貸与問題は、消費者懇談会などで長年指摘されている。

課題の一つは、無償貸与と呼ばれるLPガス業界と不動産業界との間の商慣行だ。もともとはLPガス業者間の顧客争奪戦の中から生まれたビジネスモデルである。営業の一環としてガス給湯器などを無償で集合住宅に設置し、その費用をLPガス料金に盛り込んで入居者から回収する。近年は不動産のオーナーや建築会社からの要求は、エアコン、温水洗浄便座など対象機器が拡大。これを受け入れていくと、料金に跳ね返りLPガス料金が高額化する。LPガス事業者からは、「昔は配管と給湯器の負担だけだったが、今ではエアコンは当たり前でガスと関係ない設備も要求される」「10年経って壊れると交換を求められることもあり、これでは商売にならない」「設備負担しないのであれば、ほかのガス会社に切り換えると言われた」などの悲鳴が上がっているという。

もう一つは、賃貸集合住宅のLPガス料金は入居契約するときに初めて分かるという点。入居者はその料金を受け入れざるを得なくなり、事実上、消費者に選択の機会は与えられず、知らずに設備費用も負担していく状況だ。

経済産業省担当者は「国交省と消費者保護の観点から、入居前の消費者にLPガス料金を提示することはできないか協議を重ねてきた。この取り組みを徹底していくと、消費者は家賃、LPガス料金に加え、設備負担などを勘案しながら物件を選ぶことが可能になる。入居後に意図しないLPガス料金を負担することはなくなり、LPガス事業者にとっても無用なトラブルを回避することができる」と話す。賃貸集合住宅の設備貸与問題は、LPガス業界にとっても長年の課題だった。経産、国交両省のタッグをきっかけに是正されていくことを望みたい。(F)

【都市ガス】国民の錯覚を招く 予備率のまやかし


【業界スクランブル/都市ガス】

5月に入って、急に今年の夏の電力予備率が厳しいというトーンに切り替わった。多くの報道は、あたかも昨冬に発生した電力不足と市場高騰の再来があり得るような言い回しだ。これを受け、今夏の電力先物・先渡市場価格は高騰を続けている。

しかし、昨冬の電力不足と今夏に起こり得る電力不足は全くの別物だ。昨冬は、発電能力は十分確保されていたが、LNG火力をフル稼働させるための燃料が足りず、電力不足が発生した。2年続いた暖冬に加えコロナ禍による需要減で秋口まではLNG在庫が急増し、LNGタンクの貯蔵能力に限りがある各電力会社はLNGの受け入れを制限しすぎたのだ。その後、例年より多少寒い冬が到来して、いつもなら十分対応できる需要増に対して対処できない状況が発生してしまった。その結果、電力不足による市場高騰が約1カ月継続した。

一方、今夏に発生する可能性があるといわれている電力不足は、燃料不足で発生するのではなく、最大ピーク時の瞬間風速的な需要量に対して対処できる発電能力の余力が4%弱と推測されるということだ。昨冬のLNG不足で、今年度の貯蔵タンクの在庫レベルは低い状態からスタートしているから、電力会社は今の時点でLNGの受け入れ制限をする必要はない。今夏において、一瞬の最大需要に対処しきれず、例年通りに市場でスパイクを発生させることはあり得るが、昨冬のように長期間にわたって電力不足が続くことはあり得ない。

実は、3月末に公表された今夏の予備率想定値は7〜8%台だった。それが、4月になって急に3%台に下がった。なぜ、発電能力自体は3月末から減少していないのに予備率が下がったのか。その理由は、予備率算出式の分母である今夏の最大需要量推定値が増加したからだ。確かに、最新気温予測を基に、最大需要量を見直すことは必要だ。しかし、政府やマスコミを含めて、昨冬の電力不足が再来するような錯覚や不安を国民に抱かせることだけはしてはいけない。(C)

競争環境におけるビジョン経営 目指すは地域の課題解決企業


【私の経営論】川村憲一/トラストバンク代表取締役

2012年4月、現会長兼ファウンダーの須永珠代がトラストバンクを創業、同年9月に日本初のふるさと納税ポータルサイト「ふるさとチョイス」のサービスを開始した。須永は、各自治体のホームページに掲載されていた全国各地のふるさと納税に関するお礼の品などの情報を一つのサイトに集約し、クレジットカード決済で寄付ができる仕組みを提供した。地域の魅力であるお礼の品を通じて「まち」のPRをすることでふるさと納税制度への注目を集め、各地に多くの寄付を募ることを実現。ふるさとチョイスは現在、累計寄付金額1兆円を超える、意思あるお金を地域に還流させている。

寄付者に返礼の品を 法改正施行の背景

一般的にあまり知られていないが、ふるさと納税制度の仕組みには元々お礼の品がなかった。ある自治体が寄付者に感謝を伝えるため、手紙を届け、さらにせっかくなら地元の産品を知ってもらいたいという想いと感謝の気持ちからお礼の品を寄付者に贈るようになったといわれている。

その地域の魅力を知ってもらいたい、感謝を伝えたいという想いから贈られていたお礼の品が、ふるさと納税の普及に伴い、一部の自治体で過度に豪華なお礼の品を提供するようになり、お得な品で寄付を募る競争が激化し、「ふるさとを応援する」という制度の趣旨から遠ざかっていった。それが、19年6月に返礼品に係る法改正が施行された背景だ。

トラストバンクは、「自立した持続可能な地域をつくる」ことをビジョンに掲げ、ふるさとチョイスも、このビジョンに沿ってサイトを運営している。ふるさとチョイスは、1788全ての自治体の情報を掲載し、21年6月時点で、全国の9割に上る1600を超える自治体のお礼の品を選べるサイトに成長した。現在、ふるさと納税には、30を超えるポータルサイトを運営する事業者が参入しているが、私はポータルサイト間の競争が激化し始めた16年にトラストバンクに参画した。

競争が激化するふるさと納税の事業において、他社よりも優位性を高め、事業を拡大するには、地域に関係のないお得なお礼の品で興味を引いたり、寄付に対してポイント発行するインセンティブなどを用意することが最も簡単だ。だが、それでは自社のビジョンの実現には近づかないと考えている。

要は、寄付金を募るだけでなく、自治体や地域の事業者・生産者の取り組みを通じて地域に残るノウハウや資産を生み出すことが重要である。ふるさと納税をきっかけにその地域とつながった寄付者が住民と交流したり、さらには移住・定住のような動きが生まれることで、ビジョンである「自立した持続可能な地域」の実現に近づく。だからこそ寄付者と何でつながるかがとても大事になってくる。

そのため、独自の掲載基準を設け、地域にお金がより残り、また地域の魅力をより知る機会となるように、主に地場産品がサイト上に掲載されるための取り組みを15年から実施している。また、手数料においても、多くの寄付金が地域に残るように業界最低水準でサービスを提供している。

経営には、自社の売り上げ・利益よりも、ビジョンにつながるか、地域のためになるのかが判断の軸になる。そして、その判断が自治体の方々からの信頼につながると信じている。信頼は、「信頼を貯める」というトラストバンクの社名の由来でもあるほど、当社にとって大事なことだ。

ふるさと納税ポータルサイト「ふるさとチョイス」

また、自治体のふるさと納税担当者の業務を支援する専任メンバーがいる。私もその部署を統括していた時期があったのだが、信頼を貯めるために積極的に全国各地に足を運び、自治体とその地域の事業者・生産者の方々とコミュニケーションをとってきた。信頼に加えて、ふるさと納税制度を通じて地域の活力を生み出すために大切にしていることがある。それは、「つながりをつくる」ことだ。私たちは、お礼の品でその地域の魅力を寄付者に知ってもらい、寄付を地域に届けるだけでなく、「自治体同士」「自治体と地域の事業者」「事業者同士」をつなぐことを積極的に行っている。それは自治体とともに、ふるさと納税の先の未来を一緒に考え、創ることが地域に残る資産となり、地域の活力につながると考えているからだ。

ふるさと納税に続く事業 自治体にサービス提供

ビジョンの実現のために、地域の課題解決に必要な事業を立ち上げ、自治体が求めているサービスを提供できるよう組織の強化に注力している。現在、ふるさとチョイスに続く、新たな事業として、地域の経済循環を促すために、自治体が通貨を発行することで域内にお金を循環させる「地域通貨事業」、自治体が付加価値の高い新しい行政サービスを提供できるようにデジタル行政の推進を支援する「パブリテック事業」、そして、地産地消の電力で地域からお金の漏れを防ぐ「エネルギー事業」を展開している。既に、パブリテック事業では、ふるさとチョイスで培った全国の自治体との信頼関係と自治体に寄り添ったサービス運営により、順調に拡大フェーズに入っている。また、今後はエネルギー事業においても、自治体とともに地域の脱炭素社会の実現などエネルギー分野における地域の課題解決を目指していく。

ふるさと納税の事業では、さまざまな企業が参入し、競争が激化しているが、トラストバンクは、規模の拡大ではなく、地域の経済発展につながる取り組みをしている。ふるさと納税は地域の経済循環を促し、「自立した持続可能な地域」を目指すための手段の一つとして捉えている。トラストバンクが目指すのは、ふるさとチョイスに加えて、エネルギー事業などの新事業による自治体向けソリューションと合わせて全国地域の課題解決をリードする企業である。

かわむら・けんいち 食品専門商社を経て、コンサル会社で中小企業の新規ビジネスの立ち上げなどに従事後、コンサル会社設立。2016年3月トラストバンク参画。ふるさとチョイス事業統括やアライアンス事業統括を経て、20年1月から現職。

【マーケット情報/7月16日】原油続落、コロナ変異株感染拡大で売り加速


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続落。新型ウイルス変異株の感染拡大で、需要後退への懸念が一段と強まり、売りが加速した。

新型コロナウイルスのデルタ変異株が、アジア太平洋地域とアフリカを中心に感染拡大。経済の停滞と、燃料需要後退の見通しが強まっている。韓国は首都ソウルで、集会やレストラン営業などの規制を強化。欧州共同体は、タイとルワンダへの渡航制限を再導入した。

欧米では、ワクチン普及にともない、移動規制の緩和が続く。しかし、英国で、変異株の感染者数が増加。一部の国が、英国からの渡航を規制し、ジェット燃料需要の回復は限定的との見方が広がった。

一方、中国の製油所では、6月の原油処理量が過去最高を記録。また、OPEC+が、2022年には、世界の石油需要がパンデミック前水準に戻ると予測。価格の下落を幾分か抑制した。

OPEC+は18日、8月以降の生産計画で合意した。来月から毎月、日量40万バレルを追加増産することに加え、協調減産を2022年末まで続けることが決定。アラブ首長国連邦、およびサウジアラビア、ロシア、イラク、クウェイトが、2022年5月から、基準生産量を引き上げることで妥協した。

【7月16日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=71.81ドル(前週比2.75ドル安)、ブレント先物(ICE)=73.59ドル(前週比1.96ドル安)、オマーン先物(DME)=72.29ドル(前週比0.80ドル安)、ドバイ現物(Argus)=72.11ドル(前週比0.58ドル安)

【コラム/7月19日】 再エネ「apple to apple(リンゴとリンゴの比較)」


渡邊開也/リニューアブル・ジャパン株式会社 執行役員 管理本部副本部長兼社長室長

 ビジネスの現場で「apple to apple」というフレーズをよく耳にしたりしないだろうか? 何かを比較する際にその比較が同一条件で比較されているかどうかということである。

 では、昨今の再生可能エネルギーの発電コストに関して「apple to apple」で議論ができているのかどうか? 今回はそのことについて触れてみたい。

 例えば、「欧米と比較して日本の再生可能エネルギーのコストは高い」という記事や資料を目にする。これは「apple to apple」での比較になっているのだろうか?

 太陽や風は地球上の至る所にあり、日本のように資源の乏しい国のエネルギー政策として、脱炭素社会の実現ということも踏まえて活用するのは誰しも異論のないことかもしれない。しかし、太陽の日射や適度な風況がどれだけ吹くのか、風向きは一定なのかなど、つまり発電事業の採算性という観点では当たり前の話だが、その条件は異なる。

 具体的に言うと、太陽光の場合、日本ではパネル容量1MWの年間発電量は110万kW時前後だというのがザックリした感覚である。一方、欧州のある国では、私の聞いた限りの数字感覚ではあるが、凡そ200万kW時超である。米国の西海岸当たりでは130-140万kW時である。言うまでもないが、日射量が違うのである。(余談だが、展示会でたまたま出会った欧州の方との会話で「スペインのカナリア諸島で実証実験やっているが、365日中360日が晴天なんだよ、ハハハ」と言っていた。)

 また、発電所を建設する土地は広大で平坦なので、日本よりも条件が良い。それは建設費用や期間に影響する。時間が延びれば、人件費等は増額する(その発電所建設に事業者として貼り付けている人員の人件費も長期の固定費となる)。特に時間というコスト(time is money)に対する認識というか報道が少ないと思う。

 風力の事例で申し上げると(これはキヤノングローバル戦略研究所の「エネルギー環境セミナー(動画)「再生可能エネルギーのコストと課題」」を是非ご覧いただきたいのであるが)、その動画の中に「日本の風況は欧州と異なり夏に大幅低下。日本の洋上風力発電の年平均設備利用率は約35%、欧州北海地域は約55%、日本の洋上風力事業の収益性は欧州を大きく下回り、国民や産業は欧州に比して7-9円/kWh買取価格を負担せざるを得ない」と解説しているスライドがある。まさにこれこそがapple to appleな視点だと思う。

 別の事例になるが、7月13日の日本経済新聞の記事に2030年の太陽光(事業用)は8円台前半~11円台後半という表が掲載されていた。

7月13日の日本経済新聞朝刊より

 

文中に「2030年時点の太陽光の発電コストが原子力を下回り最安になるとの試算により、太陽光「主力電源」化が本格化する。ただ用地捻出や送電網への接続費、バックアップ電源確保などの課題は残る。」というくだりがある。

 ここで「おい、ちょっと待ってよ」と思うのは、このコストの比較はこれから新しく建設する太陽光発電所の用地買収費用や系統連系費用はどうなっているのか? この表の火力や原子力は新設火力発電所ではなく、既設発電所のことを指し、一方、風力や太陽光のほとんどはこれから新設する発電所のことではないか?

 もしそうだとすれば、これは「apple to apple」の比較といえるのだろうか? ということである。

 2030年46%削減、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、官民一体となり、更には需要家の意識改革も含めて、その実現をどうやってするのか? を考えるのは勿論重要なことであるが、大事なことは、表面的なコスト比較ではなく、実現に向けた本質的な因数分解とそのコストが自然条件による制約の類のもの、事業者の努力で改善すべきもの、税制や法制度等の改善により実現できるものときちんと分けて議論していくということではないだろうか?

出典:「エネルギー環境セミナー(動画)「再生可能エネルギーのコストと課題」

リンクhttps://cigs.canon/videos/20210226_5640.html

【プロフィール】1996年一橋大学経済学部卒、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。2017年リニューアブル・ジャパン入社。2019年一般社団法人 再生可能エネルギー長期安定電源推進協会設立、同事務局長を務めた。

オークションで公正に電気調達 再エネ電源に対応し自治体から反響


【エネルギービジネスのリーダー達】村中健一/エナーバンク取締役社長

環境省のガイドに掲載されるなど電力調達プラットフォーム「エネオク」が注目を集めている。

自治体からの連携協定締結が相次ぎ、エネルギー業界に新たな風を吹かせている。

むらなか・けんいち 慶応大学大学院理工学研究科卒。ソフトバンクで経済産業省HEMSプロジェクト主任。電力事業の立ち上げ、電力見える化プロダクト開発のリーダーを務める。18年エナーバンク創業。

エナーバンクが手掛ける法人向け電力調達プラットフォーム「エネオク」が全国の自治体から大きな注目を集めている。昨年10月の菅義偉首相の「カーボンニュートラル(CN)宣言」以降、自治体では脱炭素化に向けてあらゆる施策を検討。その中で、エネオクがRE100を達成するのに、①ヒトが介在せず、ウェブシステムで完結するため透明性を担保できる、②他者の応札額を見ながら再入札可能なリバースオークション(競り下げ方式の入札)により公正な競争環境が確保可能、③比較しづらいRE100やCO2フリーなどをうたう環境メニューも条件を合わせて見積りの取得ができる―などの特長によって採用が進んでいる。

学生時代の起業がきっかけ 通信事業者でインフラを学ぶ

そんな好調なエナーバンクを設立した村中氏が、起業を志したのは学生時代だ。学生ビジネスコンテストを総なめにした成功体験から、起業を意識するようになったという。ただ、いつかはエネルギーの領域で勝負をするという意識を持っていた。

そこで、入社したのがインフラ領域とIT領域の環境があるソフトバンクだ。当時、ソフトバンクは米アップルの「iPhone」を国内でいち早く手掛け、イー・アクセスや米スプリントを買収するなど、通信分野で急成長している時期。そんな中、技術統括のネットワーク本部でエンジニアを担当。国内外のさまざまなプロジェクトに携わった。中でも、国内ではトラフィックが増えるのに対し、どう増強していくかなど、電力インフラに携わる上でも貴重な経験ができた。

ソフトバンク時代に最も大きな仕事は経済産業省が主導する大規模HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)実証で、入社1年目にもかかわらず、主任に選ばれたという。そうした機会を得て、「国が考えるエネルギーの方向性、電力自由化に向けた各事業者の動向を知り、キーマンと対等に会話できる環境を得られたことは起業する上で非常に役立った」。

その後、HEMS実証で得た経験を生かし、ソフトバンクが電力小売りに参入するに当たり、通信と電力のセット商材を開発するプロジェクトのリーダーなどを経験しエナーバンクを起業した。

創業に当たっては、共同創業者の佐藤丞吾COOと互いが持っていたビジネスプランを持ち寄った。法人需要家向けオークションのモデルで、佐藤COOがベースロジックを、村中社長がUI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザー体験)を開発し、どう仕掛けるかを考えた。

オークションで競り下げるということは、電力小売り事業者に厳しいサービスを提示していることになる。逆に需要家は、コスト削減を常に考えており、同方式はモチベーションになっているようだ。競争に基づきオークションを行うため、常に公平な立場での運用がこの仕組みでは重要になる。このため、出資を受ける際にも、偏りがないよう相手先を選んでいるという。

再エネ調達ガイドに掲載 脱炭素とともに大きな転機に

これまではコスト削減をきっかけに使われてきたエネオクだが、環境省が20年6月に公表した「公的機関のための再エネ調達実践ガイド」に掲載され、さらに菅首相のCN宣言があった。これで潮目が変わり、ゼロカーボンシティを宣言する自治体からの問い合わせが増えた。

「再エネだからコスト増につながるわけではない。適切な競争にかけて、現在と同じ水準、もしくはそれより安くなる可能性があるなら引き出していきましょうと声掛けしています。いきなり再エネ100%は大変です。10%、30%と段階を踏んで実施していくのに柔軟に対応できる点が喜ばれています」

連携協定を結ぶさいたま市はゼロカーボンシティを宣言しており、事業者向けの再エネ導入を推進しようとしている。そのサポートを同社が行っている。保育園に再エネ100%電気を導入した際は、未来の街づくりと地域住民のエネルギーへの関心を高めるための発信をサポートしている。

ゼロカーボンシティを宣言したものの、どう取り組んだらいいか分からないという自治体も多いという。「公共施設や地域事業者への導入には貢献できます。今後も普及させるには脱炭素に対する意識が醸成され、『うちもやらなきゃ』という環境になってくると、さらに利用してもらえるようになると考えています」

需要家はエネルギー業界の規制や仕様のトレンドを察知して、対応する必要があるが、正しい選択ができていないのが現状だ。エネオクはその間をつなぐツールとして、最新の仕様に常にアレンジしており、今後もアンテナを高くもち、察知して需要家に情報提供していく構えだ。

【新電力】需給懸念で浮き彫り 自由化政策の矛盾


【業界スクランブル/新電力】

2021年夏・冬の電力需給の見通しが非常に厳しく、相対卸取引の価格が上昇している。背景には電力自由化による広域メリットオーダーで火力発電所の稼働率が低下し、また競争激化により電源固定費が回収できなくなった点があるのは明白である。

今回の事態は以前から指摘されていた。電力広域的運営推進機関(OCCTO)が発表した「平成30年度供給計画の取りまとめ」によると、中長期の予備率見通しにおいて21年は予備率8%となる見通しが示されており、経済産業省の制度検討作業部会の場においても、対応策として①容量市場の早期開設、②電源入札の実施など、③対応策を取らない―の三つの選択肢が議論された。

新電力や経済学者の猛反対により容量市場の早期開設は見送られ、DR確保や電源入札などによる供給力確保に落ち着いた。つまり、事前に予想され回避する手段について議論されていたにもかかわらず、抜本的な対策を取らずに、問題解決を需給ひっ迫の直前まで先送りにしたといえよう。なぜ今回の事態を招いたか、このような手段は正しかったのか。検証が必要だ。

そもそも、審議会にオブザーバーは必要なのだろうか。事業者、特にアセットを持たない新電力は短期の利益についてコメントできても、中長期の供給力確保については利害が対立することから反対の発言しかできない構造にある。電力システム全体を議論する際に、オブザーバーの意見によって議論が左右され、結果としてツケが自身に跳ね返ってくる。オブザーバー参加していない新電力から見ると、とても新電力全体の意見を反映したとは思えない発言によって、国家の政策が左右される状況は看過できない。

また、今回の事態は電源固定費回収の手当てを行うことなく、限界費用を市場が反映する仕組みの構築を目指し、かつ広域メリットオーダーによる経済効果を狙った電力システム改革における制度設計の課題を突き付けるものである。小売り電気事業者各社は電力自由化政策の矛盾に直面している。(M)

台湾の熱い夏、第四原子力稼働の是非を問う


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

台湾では8月28日、凍結されている第四原子力発電所の建設の再開を問う国民投票が行われる。

2016年に誕生した蔡英文政権は25年までの「非核家園」(核なき故郷)の達成をうたい、石炭と原子力中心の電源をLNGと再生可能エネルギーに移行する「エネルギー転換」政策を掲げる。ところが、トラブルなどもあり原子力発電量が減少した17年には、相次ぐ大規模停電や石炭消費増加による大気汚染が社会問題となり、18年の国民投票では「電業法の脱原子力条項削除」が可決された。

条文は削除されたが、蔡英文は政策を変えない。香港問題で再び支持率を上げて昨年再選も果たした。そこで推進派が出してきたのが今回の議案である。可決には、賛成が反対を上回るとともに全有権者の25%を超える必要がある。統一地方選と同日だった18年と違い投票率の低迷が懸念される。

ところが、5月に入り追い風が吹き始めた。2回の大規模停電が発生し、単独と思われた国民投票の議案が三つ追加。さらにコロナ感染者急増による蔡政権の支持率急落である。追加議案には政権が推進する大潭LNG基地について「サンゴ礁保護のため地点の変更」というのもある。今後、気温の上昇とともにエネルギー議論も熱気を増すに違いない。

ところで、今回の議案を推進する「核能流言終結者」というNPO法人の名前が目についた。誤解や感情論が先走りがちな原子力の議論を科学と理性の世界に戻そうということか。なるほど、わが国においても特に3.11以降、推進派と慎重派の主張はほとんどかみ合っていない。エネルギー資源に恵まれず、海外と電力系統の連系がないのは台湾と同じだ。他人事ではない。科学と理性を忘れぬ、しかし熱い議論をするときが来ている。

【電力】省エネ法の議論 延命策に疑問


【業界スクランブル/電力】

2050年カーボンニュートラルが政府の目標として掲げられる中、省エネ法の在り方が議論になっている。もともと石油危機を契機に化石燃料の消費抑制を目的に作られた法律だが、今後は太陽光や風力など非化石エネルギーを含む全エネルギーを省エネの対象とする事務局案が5月の省エネ小委員会で示された。この案、時代遅れとなった枠組みの無理筋な延命策に映る。

省エネ法の本質は化石燃料使用削減法なので、もともと非化石エネルギーは同法の定義上エネルギーではない。だから、自家発による、あるいは自営線や自己託送を通じて購入した再エネ電気は同法の対象外だった。電気事業者から買う電気はこれらと異なり、化石燃料を起源としない電気「のみ」であることが特定できないとして、一律火力発電起源として扱われ、ガス業界による「マージナル電源=火力」という主張がこれを後押ししてきた。この粗雑な割り切りが需要家の熱源選択をミスリーディングしてきた弊害は大きい。

自己託送と同様に系統を通じて受電するコーポレートPPA(電力購入契約)や小売り電気事業者の非化石特化メニューの電気が火力換算されるのは、もはや説明不能だろう。今後はこれらも省エネ法の対象外にすればよい。これらを選択する需要家が増えれば、省エネ法の役割は徐々に縮小していく。省エネ法=化石燃料使用削減法なのだから当然。最後は安楽死でよいのではないか。

「再エネ電気を買えば省エネになる制度にはしないでいただきたい」という意見が出たようだが、正直「省エネムラ」を守ろうとしているだけに映る。再エネ電気を買う負担をした需要家に、さらに省エネ投資の負担を強いるのはフェアなのか。最終目的はあくまで脱炭素化だ。いたずらに制度を複雑化せず、カーボンプライスにインセンティブを一本化して、再エネか省エネか、需要家に手段の選択を委ねて何がいけないのか。もっとも、FIT非化石証書を買っただけで再エネコストを負担したといえるかという疑問は筆者も持つ。「追加性」をしっかり問うことが必要だろう。(T)

IEAがゼロエミへの工程発表 理想と現実のギャップ大きく


【ワールドワイド/環境】

国際エネルギー機関(IEA)は5月中旬に「Net Zero Emissions 2050」と題する報告書を発表した。これはG7議長国であり、COP26議長国でもある英国からの任意拠出に基づいて、2050年全球カーボンニュートラルを実現するためには、世界のエネルギーシステムはどうあるべきかを示したものである。

 報告書には、50年全球カーボンニュートラル実現への工程表が盛り込まれている。21年には石炭火力関連の新規投資を停止する、30年には新車販売の6割を電気自動車・プラグインハイブリッドにする、先進国の石炭火力を全廃する、35年にガソリン車の新車販売を停止する、40年に世界の石炭火力、石油火力を全廃する、50年にはエネルギー供給に占める再生可能エネルギーの割合を7割にする―などが主な内容だ。

 IEAはまた、50年に全世界でネットゼロエミッションを達成するためには、先進国は50年よりも早く45年にネットゼロエミッションを達成し、ネガティブエミッションに移行することで、途上国にカーボンスペースを提供することが必要だとしている。

 これを実現するためには先進国で25年75ドル、30年130ドル、50年250ドル、主要新興国(中国、ブラジル、ロシア、南ア)では25年45ドル、30年90ドル、50年200ドル、その他途上国で25年3ドル、30年15ドル、50年55ドルの炭素価格が想定されている。

 ここで提示される絵姿とエネルギーを巡る現実との乖離はあまりにも大きい。世界では低下傾向にあるとはいえ石炭火力の新設が続いている。中国は20年に19年比45%増の石炭火力新規建設許可を出した。IEA報告書の25年時点の炭素価格を米国に適用すれば一人当たりの年間負担額は1200ドルになる。

 一方、シカゴ大学の調査は、米国人が地球温暖化防止のために追加的に負担する用意がある金額は年間12ドルとした。

 IEAの世界エネルギー見通し、とりわけレファレンスシナリオは世界のエネルギー関係者の議論のベースとなってきた。各国がカーボンニュートラル祭りに乗っかり、50年カーボンニュートラルや30年目標の大幅な引き上げを表明する中で、それがIEAのシナリオに反映されれば、現実的なエネルギー議論のベースには成り得ないだろう。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院教授)

ドイツがさらなる再エネ導入へ 今秋の総選挙で最大の争点に


【ワールドワイド/経営】

ドイツでは再生可能エネルギー導入拡大に向けて、2000年に再エネ法(EEG)が施行された。EEGにより再エネの優先接続や固定価格買い取り制度(FIT)などの補助制度が導入され、再エネの総発電設備容量は2000年の約1200万kWから20年間で10倍以上の1億3200万kWへと大きく増加した。この間、EEGは再エネ需要増大や気候変動問題の深刻化に伴い、数次にわたり改正された。

 脱原子力(22年)と脱石炭(38年)が控える現下、21年1月1日に新たな改正(EEG2021)が施行された。EEG2021は「30年の総電力消費量に占める再エネの割合を65‌%」にするとし、改正前の「35年までに55~60%」という目標から大きく引き上げられた。

 さらに電力部門で50年以前のカーボンニュートラル達成が明記された。改正法は再エネの中でもとりわけ陸上風力と太陽光に重きを置いているのがポイントだ。ドイツでは一定規模以上の再エネ発電設備への市場連動価格買い取り制度(FIP)適用を競争入札によって決定しており、詳細な募集容量や入札要件などはEEGで定められている。EEG2021は陸上風力、太陽光の入札募集容量を大幅に拡大した。

 また、陸上風力発電事業者が自主的に地方自治体に対して、供給電力量について最大kW時当たり0・2ユーロ・セントを支払うことにより、発電所の利益を地域に還元する仕組みが導入された。

 このように再エネ拡大の趨向は続く。昨年12月にEUは、30年の温室効果ガス排出削減目標を40%(1990年比)から55%に引き上げることで合意した。ドイツ国内では、EEG2021の目標設定は不十分であるとの意見や新しい補助制度導入を求める声も高まっている。

 連立与党は4月22日、EEG2021を早くも再改正し、22年の再エネ競争入札の募集容量をさらに拡大することで合意した。この合意には、EUの目標引き上げに対応する29~30年の入札量が含まれておらず、与党は総選挙後の新政権に委ねるとした。電力業界はこの合意を一応は歓迎しているが、総選挙後の政権参加を目論む緑の党や環境団体は不満を表明している。 

 ドイツでは今秋9月に総選挙が実施される。30年の温室効果ガス排出削減目標70%を公約に掲げる緑の党の支持率は、政権与党に拮抗しており、再エネに関する政策が選挙の争点になる。

(藤原茉里加/海外電力調査会調査第二部)