【マーケット情報/5月28日】原油上昇、需給逼迫観で買いが優勢


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。供給減少と需要回復で、需給の引き締まりを意識した買いが優勢となった。

イラン外相が、核合意の復帰を巡る問題の早期解決に、懐疑的な見方を示した。これにより、米国の経済制裁は続き、イラン産原油の供給回復は見込めないとの悲観が台頭した。さらに、米国の週間在庫統計は前週から減少し、過去5年の平均を2%程度下回った。

また、21日までの一週間における米国ガソリン需要が、新型ウイルス感染拡大前である2020年3月中旬以来の最高を記録したことも、買いを誘った。加えて、米国および英国の景気指数が改善を示したことで、経済回復にともなう石油需要増加への期待が高まった。

【5月28日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=66.32ドル(前週比2.74ドル高)、ブレント先物(ICE)=69.63ドル(前週比3.19ドル高)、オマーン先物(DME)=67.72ドル(前週比4.47ドル高)、ドバイ現物(Argus)=67.92ドル(前週比4.49ドル高)

【コラム/5月31日】電力分野におけるブロックチェーン技術の適用


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

近年、分散型台帳技術であるブロックチェーンが注目されている。欧州では、エネルギー分野においてブロックチェーンの数多くのパイロットプロジェクトが実施されている。以下にその例を挙げてみたい。まず、オーストリアでは、最大のユーティリティ会社Wien Energieが、2018年に、ウィーン市中心の新しいビジネス・居住地区(Viertel Zwei)において、ブロックチェーンを活用して住民間で太陽光発電のPeer-to-Peer(P2P)取引を実施している。また、2015年に設立されたスタートアップGrid Singularityは、ブロックチェーンを利用したエネルギー取引、グリーン電力証書取引、スマートグリッド・マネジメントなどのサービスの提供を行っている。オランダでは、天然ガスインフラ・輸送会社Gasunieが、2017年に行ったパイロットプロジェクトで、グリーン電力証書に関して、ブロックチェーン上での発行、管理、取引、移転、検証が可能であることを実証した。

ドイツでは、2017年に、innogyのShare & Chargeとslock.itが共同で、ブロックチェーンを用いて、電気自動車の充電ステーションでの課金を行うパイロットプロジェクトを実施している。また、2017年に、Ponton社とTenneT社がsonnen eServices GmbH社と協力して、ブロックチェーンを用いて、約6,000個の家庭用蓄電池を束ねて系統運用者(TenneT社)に需給調整電力を提供するパイロットプロジェクトを18か月間実施した。

ドイツにおけるさらなるブロックチェーンの適用事例としては、再生可能エネルギー電力のP2P取引が注目される。大手電力会社では、innogyが、2017年5月に東京電力とConjoule社を設立し、P2Pでの再生可能エネルギー電力の取引のためのプラットフォーム事業を始めている。また、自治体ユーティリティ企業では、Wuppertal市のシュタットヴェルケ(WSW)が、2017年11月に同様のプラットフォーム(”Tal.Markt“)を開設し、2018年末までテストを行った。2019年年初からは、Wuppertal市域外にもその取引を拡大させている。

また、WSWは、他のシュタットヴェルケに対して、”Tal.Markt“をベースにした独自のプラットフォームの開発や、ホワイトラベル供給を可能にしており、Bremen市のswb、Halle/Saale市のEVH、Trier市のSWTが、WSWの支援により、グリーン電力のP2Pでの取引を始めている。そのほか、Technischen Werke Ludwigshafen (TWL)(2018)や Eberbach(2019)など、同様の取引を始めるシュタットヴェルケが出現している。業界団体BDEWの調査では、デジタルトランスフォーメーションとの関連で、ブロックチェーンを重要と考えるシュタットヴェルケは24%存在している。ブロックチェーンに対する一時期の熱狂は冷めつつあるものの、その利用に踏み切るシュタットヴェルケはこれまでのところ少しずつ増えているといえるだろう。

このようにシュタットヴェルケがブロックチェーンによるプラットフォーム事業に従事する動きが見られるのは、ブロックチェーンは、取引コストが低減でき、データの改ざんが事実上不可能となるなどのメリットがあるからだ。そのようなメリットゆえに、自治体の住民にとって、地域のグリーン電力を自ら調達でき、その発生源を証明できるという点は大きな魅力となる。また、ドイツでは、2021年から固定価格買取制度が終了する再生可能エネルギー発電が出現するが、その電力を住民が自ら調達できるプラットフォームの運営は、シュタットヴェルケにとって新たな収益源となるだろう。

最後に、調査機関denaがドイツ、オーストリア、スイスのエネルギー産業の経営者や専門家300人を対象に実施した調査の結果(2019)を紹介すると、4分の1以上(28%)の企業がエネルギー経済における様々な分野でブロックチェーン技術を実験しているか利用している。この調査結果の興味深いところは、ブロックチェーン技術への関心は大企業も中小企業もほぼ同じくらい高いが、従業員数500人以下の中小企業で、ブロックチェーン技術を利用している数は、大企業の3倍であるという点である。革新的技術導入の鍵を握るのは、企業の規模よりも先取的な企業文化といえるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【省エネ】情報提供の議論 顧客評価に努力を


【業界スクランブル/省エネ】

エネルギー小売り事業者の省エネガイドライン検討会で、省エネ情報提供の促進が議論されている。小売り事業者には省エネ情報提供の努力義務が課されており、「使用量の前年同月比較」などが政府指針に沿って消費者に提供されている。今回、「指針取組の評価」と「事業者独自取組の加点評価」を組み合わせた新たな評価スキームが提案された。全事業者に期待する省エネ情報提供と、先進的事業者の創意工夫の取組評価を分離した政策手法は誘導政策として合理的だ。

加点評価には、情報提供タイミングや顧客属性考慮、電力需給状況に応じた情報などさまざまな評価項目案が挙げられているが、家電などの機器効率による単一指標評価と異なり、さまざまな独立項目による総合評価は各項目の重み付け設計が難しい。このような総合評価手法の例としては、米国のオフィス快適性評価であるWELL認証や、日本の建築環境総合性能評価システム(CASBEE)があるが、バランスを考えた項目のグルーピング、各項目評価基準の明確化と定期的なアップデートが必要となる。一方、指針の取組側に気温影響評価追加を検討しているが、これは加点評価側が適切である。電気機器の冷暖房、ガス機器の暖房・給湯の消費量は気温影響が大きいが、前年との平均気温差による個別家庭のエネルギー消費量変動想定の提示は、技術的に困難で情報提供を受ける各家庭に対して不正確な情報となる可能性が高い。マクロ的相関と個別家庭に適用できる相関は異なることに留意すべきだし、指針で定義する取り組みは、多くの小売り事業者が実施できる取り組みに限定すべきだ。

全家庭が一定の省エネ情報を得るために、中小規模小売り事業者(契約数30万件未満)にも省エネ情報提供の努力義務を課しているが、実施状況公表の努力義務は免除となっている。今後、比較サイトなどでの省エネ情報提供評価も進むことから、「公表および国への報告」も全事業者を対象とし、各事業者が費用対効果を判断しながら「顧客評価が高い省エネ情報提供」に努力する自由競争状態に誘導すべきである。(Y)

【住宅】省エネ新基準 HEAT20登場


【業界スクランブル/住宅】

地球温暖化への対応が叫ばれる中、日本の温室効果ガス排出の3割を占める家庭部門に対し、国は省エネルギーの普及を図るため、2019年に建築物省エネ法を改正。300m²以下の小規模建築物を対象に建築主に対する省エネ基準の説明義務制度を設け、21年4月からスタートした。建築主に省エネの大切さに気付いてもらい、建物の省エネ性能向上へつなげるためだ。

住宅の省エネ基準は、省エネ法に対応して1980年に制定され、92年、99年に基準が強化され、2013年と改正されてきた。省エネ基準には、「外皮性能」と「一次エネルギー消費量基準」があり、前者は屋根や外壁などの断熱性能に関する基準、後者は住宅内で消費されるエネルギー量に関する基準だ。省エネ基準は、これからの住宅が備えるべき最低限の目安であり、ここからさらに一次エネルギー消費量の削減効果の大きさにより、トップランナー基準やZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)基準などが定められている。

このZEH基準を超え、日本の断熱基準を世界レベルにする考えの下に提示されたのが「20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会」が提案する「HEAT20」グレードだ。HEAT20は低環境負荷・安心安全・高品質な住宅・建築の実現のため、主に居住空間の温熱環境・エネルギー性能、建築耐久性の観点から、外皮技術をはじめとする設計・技術に関する調査研究・技術開発と普及定着を図ることを目的に、一戸建て住宅の目指すべき住宅像と推奨する断熱性能水準を提示する。 HEAT20グレードの断熱性能により、光熱費を大きく削減し、真冬時でも体感温度を適切な状態に保ち、健康で快適な住まいを実現できるという。

断熱性能の向上には、断熱性能に関する消費者認知や理解の低さ、建築時にかかるイニシャルコスト、施工者の技術など多くの課題がある。いくら良い住まいであったとしても普及しないのであれば意味がない。産学官が連携し、高性能な住宅が普及することで、多くの人がメリットを享受できるような時代が早々に来ることを願う。(Z)

【太陽光】分散型社会の課題 託送改革に期待


【業界スクランブル/太陽光】

第6次エネルギー基本計画に向けて、総合資源エネルギー調査会では各電源のコストを検証する専門家会合を設けて議論が進められている。この議論は将来のあるべきエネルギーミックスを検討する上で極めて重要だ。焦点となるのは社会的費用や系統費用の外部コスト。太陽光発電は発電終了後の廃棄費用を内部化する制度ができているが、ない電源については廃棄費用などの外部コストをどのように反映していくか注目だ。一方で太陽光発電にとっては、系統の安定化費用が取り沙汰される。この費用について個別の電源に上乗せされるのかどうか議論を注目したい。

議論を聞いて、大量発電・大量送電の概念からいまだ脱していないように見受けられ、考えることがある。現在、家庭用太陽光発電の発電コストは、系統から供給される小売り電気事業者の平均的単価を大幅に下回っている。電気は託送料金を支払って購入するよりも、自ら太陽光発電で作る方が安いのだ。発電量に関しても太陽光発電を5kW分設置した場合の年間発電量は一般的な家庭の年間消費量を上回るので電気を購入する必要がない。しかし、現実にはそうはならない。太陽光発電は夜間に発電しないし、発電する昼間は需要が少なく余剰電力が発生するからだ。

このミスマッチを解消するのが蓄電池だ。現状では蓄電池のコストを含めた発電コストは小売り電力単価を下回っていないが、コストダウンが進み、近い将来下回る時期が必ず来る。カーボンプライシングが導入されると、その時期はもっと近くなるだろう。託送料金収入は減少し、送配電設備の維持管理はもちろん原発事故の損害賠償や原発廃炉費用にも影響を及ぼす。

極論すると、太陽光発電を設置する住宅には送電線が要らなくなるが、長い期間にわたり日照が得られない場合が考えられるほか、地域の需給バランス維持のリソースとしても必要になる。そのために送配電網は必要不可欠な社会インフラであり、再エネを主力電源とした分散型エネルギー社会の姿に則した託送制度を検討するべきだ。(T)

【メディア放談】ALPS処理水の海洋放出 トリチウム水放出で扇情報道


<出席者>電力・石油・ガス・マスコミ業界関係者/4名

政府は福島第一原発敷地内にたまるALPS処理水の海洋放出を決めた。

人体・環境への影響は考えられないが、韓国・中国は決定に強く反発している。

―政府は4月13日、関係閣僚会議で福島第一原子力発電所にたまり続けるALPS処理水の海洋放出を決めた。これが翌日の大手紙1面を飾り、各テレビ局も取り上げていた。

電力 原発サイト内が処理水のタンクだらけになってきて、マスコミはそれを度々報道していたから、世間の関心も高まっていた。新聞やテレビが大きく取り上げるのは当然だった。

 放出するトリチウム量がごくわずかで、魚などを通じて人体への影響がないことは、かなり国民に伝わっていたと思う。世界中の原発で日常的に放出が行われていて、フランスの再処理施設などでは桁違いの量を海に流している。冷静に受け止められたと思う。

石油 政府は、「健康に影響ありません。福島県の人たちのために風評に惑わされないようにしましょう」と言う。その通りだと思う。だが、新聞はそう書いても誰も読まない。ある程度、扇情的に書かざるを得ない。

 しかし、朝日、毎日はやりすぎだった。中でも朝日は14日の1面で、「わが家を追われ、仕事を失う苦しみに耐え、ようやく復興の兆しが見えてきたいま…(中略)いつまで苦痛を強いられるのか」と情緒的に批判した。ミャンマーのロヒンギャ難民のことを書いているのかと思った。

―福島県の人たちには歓迎できないことだと思うが、IAEA(国際原子力機関)も海洋放出を認めている。

水俣病と比較すると…… 韓国・中国には好材料

ガス 水俣病とかイタイイタイ病とか、過去には多くの人たちが苦しんだ深刻な公害病があった。それらと比較すると、トリチウム水の海洋放出は、蚊に刺された程度だろう。

 注意しなければいけないのは風評被害の方だ。それなのに、朝日、毎日の記事はかえって風評をあおるとしか思えない内容だった。

電力 朝日は、14日に韓国・中国政府の談話を囲み記事で掲載している。韓国も中国も、自分たちの原子力施設で放射性物質を海洋放出している。トリチウム水が無害なことは分かっているはずだ。

 韓国は従軍慰安婦や徴用工問題と、どう考えても理屈が通らないことで日本政府と対立している。文在寅政権は土地の不正購入疑惑などで支持率が落ちて、ソウル・釜山の市長選でも与党が負けた。来年の大統領選を前に窮地に陥っている。海洋放出は国民の反日感情に訴え、求心力を高める格好の材料だった。

 中国も、新疆ウイグル自治区の人権弾圧や香港での民主派排除などの問題を抱えて、国際的な批判を受けている。海洋放出は批判の矛先を変える絶好の機会だったはずだ。

石油 韓国も中国も自国の放出を棚に上げて批判しているが、彼らの海洋放出を読売と産経は14日に伝えている。福島第一原発での海洋放出は、年22兆ベクレルを下回る量にとどめる。だが記事によると、過去に韓国は月城原発で年136兆ベクレル、中国は大亜湾原発で年42兆ベクレルを放出している。

―それを伝えない新聞はやはり偏っている。

マスコミ 菅義偉首相は昨年10月くらいから既に海洋放出を決めていて、世論の動向などを見てタイミングを計っていたようだ。

 政権が発足して、新型コロナウイルスの感染拡大などで支持率が下がった。その時は「短命政権かな」と思った。だが、首相に近い議員の不祥事や新型コロナの第3波があっても、支持率は持ち直していた。

 海洋放出でも首相は当然、支持率を気にしたと思う。だけど、前政権ができなかったことに、毅然として踏み切ったことはむしろ評価されたんじゃないか。それに韓国や中国の態度を見て、普通の人なら「彼らの方がおかしい」と考える。放出は意外と、菅政権に有利に働くかもしれない。

―しかし、福島県や周辺の漁業関係者にとっては、将来の生活に関わることだ。

電力 マスコミは漁業関係者の反発を大きく伝えている。確かに、福島県で漁業に携わる人たちは、釈然としないだろう。一方で、福島第一原発サイト内のタンクが増えてきた頃から、東京電力の関係者は福島県の漁協関係者と連絡を取り合っていた。理解を示してくれる幹部もいた。

 与党の水産族の国会議員も、漁協幹部と水面下で話し合い続けている。7日に全漁連の岸宏会長が官邸に呼ばれ、首相から海洋放出の方針を聞かされた。面談が終わった後、岸会長はぶぜんとした表情で記者会見に応じた。けれど、そばにいた記者に聞くと、話し合いがついていることは見え見えだったらしい。

気候変動の記事にバラツキ 朝日・毎日に優れた記事

―話を変えるが、菅首相が15日訪米した。気候変動対策が大きなテーマになっている。

マスコミ 首相は新たに2030年に13年度比で45%減の目標を打ち出したけれど、そこに至るまでの経緯を正確に報道する新聞がなかった。

ガス やはりそこは日経が強い。ただ、記者はたくさんいるが、記者同士の連携が取れていないせいか、記事によって精度にバラツキがある。

 その点、朝日は経産省と環境省の記者が連絡を取り合っている。毎日も優秀な記者が担当している。それで優れた記事が多い。朝日の「45%なら(EU、米国に)見劣りしない」というのは正しいし、毎日は唯一、「米国は05年比で50%減」と正確に伝えていた。

―原子力も正確に伝えてほしいけど。

【再エネ】大賞の新部門 地域共生に脚光


【業界スクランブル/再エネ】

2020年度の新エネ大賞(新エネルギー財団主催)の受賞者発表が本年1月に行われた。今回で24回目を迎える新エネ大賞には55件の応募があり、過去最多の22件が表彰を受けている。20年度の特徴は「地域共生部門」の新設だ。エネルギーの地産地消、地域活性化、レジリエンス(強靭性)向上などの取り組みにスポットライトが当てられ、受賞した22件のうち半分以上の12件が本部門での受賞となった。自治体と事業者が連携した多様な取り組みが多く、先端技術を活用した需給マッチングや従来型の再生可能エネルギーに限らず地域特有のエネルギーや卒FIT(固定価格買い取り制度)電力の活用など、さまざまな創意工夫が行われている。

例えば、経済産業大臣賞を受賞した「地域の再エネ最大利用を目指した相馬市スマートコミュニティ事業」では、震災復興事業の一環として自治体(相馬市)と民間企業(IHIほか)が共同で自営線を活用した独自のエネルギーマネジメントシステムを導入。太陽光発電の余剰電力を下水汚泥の乾燥や蓄電池の充電、水素製造などに最大限有効利用している。製造した水素は、非常時には燃料電池の燃料に使用され、防災拠点に専用配線で電力供給できる仕組みになっている。

同じく大臣賞の「豊橋市バイオマス資源利活用施設整備・運営事業」では、市民から分別回収した生ごみと下水汚泥などを燃料とする複合バイオマス施設を下水処理場に集約設置し、エネルギーの利活用を行う。下水処理事業とゴミ処理事業を連携させた施設としては国内最大規模となる。主体は自治体だが、民間企業との連携で効率的な運営を実現し、20年間で約120億円の市の財政負担軽減を見込むという。

地震や台風などによる自然災害が発生し、電源の分散化によるレジリエンス強化が叫ばれ、分散型再エネ発電事業者の地域共生がますます重要となっている。5月からは21年度の本賞の募集が開始されるが、新エネを取り巻く状況の変化を見据え、時代のニーズに対応した案件が応募されることに期待したい。(K)

ビジネスの成否に直結 分析ロジックが業務の頭脳に


【リレーコラム】岡村智仁/ビジネスアナリシスセンター所長

近年、ビッグデータ、AIといったバズワードが飛び交い、データ分析・活用のニーズが高まっているが、大阪ガスには約20年も前からデータ分析を専門とする組織が存在している。筆者が所長を務めるビジネスアナリシスセンターである。

ガス会社には、商社や工場、マーケター、メーカーなど、さまざまな業界の仕事が凝集しているため、部門ごとにビジネス課題は大きく異なり、求められるデータ分析やシーズも大きく異なる。そのような中、ビジネスアナリシスセンターは、「高度な分析力と専門力を武器にし、他社が容易に追及できないソリューションを全社的かつ継続的に創り出す」をミッションとして活動を展開している。

ビジネスアナリシスセンターが請け負うデータ分析案件を概観すると、20年前から分析課題が大きく変わらないテーマもあれば、IoTやAIの普及などに合わせた新しい分析課題も出てきている。筆者が感じているデータ分析に関する直近の顕著なトレンド変化は、データ分析ロジックそのものが主要な役割を果たしつつあるということである。

言い換えると、データ分析ロジックがビジネスモデルを実現する業務システムにおける頭脳として採用され、その良し悪しがビジネスモデルの成否・差別化に直結しているということである。

エネファームのVPPに貢献

具体的な事例としては、再生可能エネルギーが大量に導入された社会における送電系統の需給調整を目的に、今後導入が期待されている仮想発電所(VPP)におけるデータ分析の活用が挙げられる。当社は、家庭用燃料電池エネファームをリソースにしたVPPの実証を2020年10月から開始し、12月には1500台ものエネファームの制御を実現している。

この実証では、AIを活用して各家庭の電力負荷予測を実施し、負荷予測結果に基づき、各家庭に設置されている個別のエネファームの最適制御パターンを自動で決定するロジックを構築している。これら以外にも、エネルギー機器の運転データから故障予知を自動で行う仕組みなども実用化されつつある。

エネルギー業界は、今後、脱炭素に向けた変革が急速に進んでいくと想定される。そのような社会環境の大きな変化に当たり、データ分析の活用の仕方も、IT技術の革新とも合わせて、大きく変わっていくであろう。来るべき時代においても、データ分析で革新的なソリューションを世の中に提供し続けられるよう、これからも精進していきたい。

おかむら・ともひと 2001年大阪ガス入社。一貫してエネルギー消費データ分析をはじめとした
データ分析業務に携わる。18年から現職。

次回は電力中央研究所エネルギーイノベーション創発センターの浅野浩志さんです。

【石炭】モンゴルのマスク 技術で大気改善を


【業界スクランブル/石炭】

日本の大相撲を見ていると出身地が紹介されるが、朝青龍、白鵬、日馬富士、鶴竜などの横綱は皆、モンゴルのウランバートル出身だ。このウランバートルは人口約150万人、モンゴル国民の約半数が住む超一極集中都市で、四方が山に囲まれた典型的盆地である。このような市内の中心に電力を供給する発電所があり、その多くが古い石炭焚き火力発電所だ。

そして驚くことにこれらには脱硫装置、脱硝装置は付いていないのだ! また、モンゴルは典型的な内陸型気候で、冬場にはマイナス30℃程度まで冷え込むことが多々あるが、ここで暮らす庶民が暖を取る手段は石炭ストーブだ。また、市内には電車がないため、移動手段はバスか自動車。この結果、火力発電所、石炭ストーブ、そして、車の排気ガスが盆地の市内に滞留してしまうために、PM2.5などによる大気汚染が深刻である。

大気汚染が著しい世界の都市としてインドのニューデリー、中国の北京が話題になるが、ウランバートルも忘れてはいけない。筆者はウランバートルを訪れる機会があり、街中を歩く子供たちがマスクをしている姿が印象深い。今でこそ新型コロナウイルス対策で日本を含めた世界の子供たちもマスクを使うことが習慣化された。新型コロナウイルス対策については、まだまだ不明な点が多く将来を予想することは難しいが、大気汚染対策については日本では既に立派な成功事例を作っている。

大気汚染防止法ができた頃は、東京から富士山が見えることはまれであったと聞くが、最近はすっきりと見える日が多いように思う。また、首都高速湾岸線で磯子火力発電所の横をドライブしていると対岸の千葉までの澄み渡った景色は壮観で、この発電所で石炭を焚いているとはとても思えない。このような環境対策技術は日本が世界に誇れるもので、環境改善を必要とする国々に適用すればウランバートルの子供たちをマスク生活から解放できるはずだ。CO2削減が注目される昨今だが、大気汚染対策も忘れてはいけない。(C)

【コラム/5月24日】科学無き者の最期


福島 伸享/元衆議院議員

戦前から戦後にかけていくつもの会社を経営し、国会議員も務めた永野護が、敗戦直後の昭和20年9月に行った講演を基に編集された、『敗戦真相記』という本がある。そこには、まだ硝煙の匂いが冷めやらない時期に語られた、日本が戦争に負けた理由が整然と列挙されている。

「聞くところによると、アメリカのニュース劇場で東京空襲の映画を上映するとき、日本なら「日本空襲何々隊」とつけるべきところを、そんな題はつけないで「科学無き者の最期」という表題を付しているということです。ああ、科学無き者の最後!!アメリカは最初から日本のことをそう見ており、まさにその通りの結果になったと言い得ましょう」として、日本は兵器などの科学力の差によって負けたことが実例をもって列挙されているが、その上で「科学兵器の差というものは目に見えるから皆納得するが、目に見えないで、もっと戦局に影響を及ぼしたものはマネージメントの差です。残念ながら我が方は、いわゆるサイエンティフィック(科学的)マネージメントというものが、ほとんどゼロに等しかった・・・この経営能力が、また科学兵器の差よりひどい立ち遅れであって、この代表的なものが日本の官僚のやり方でしょう。日本の官僚の著しい特性は一見非常に忙しく働いているように見えて、実は何一つもしていないことで、チューインガムをかんだり、ポケットに手を入れたりして、いかにも遊んでいるように見えて、実際は非常に仕事の早いアメリカ式と好対照をみせています」としている。

 新型コロナウイルスへの日本政府の対応を見ていると、この敗戦直後に書かれた日本の宿痾は、未だなお何ら改まっていないと思われるのではないだろうか。1年前のアベノマスク騒ぎの時には、一部の官邸官僚の跳ね返りによるものだと顔をしかめていればよかった。陽性者との接触を確認するアプリCOCOAは、ほとんど役に立たずにその存在すら忘れるところとなっている。聖火リレーのスタートなどのオリンピックイベントを意識して緊急事態宣言を出し入れし、ついには「夜間禁酒令」が出るに至っては「どの国のいつの時代なのか」と不条理を感じるようになった。遅れに遅れているワクチン接種の予約のために電話がパンクする様子を見て、とうとう日本がアジアの途上国に転落したことを確信せざるを得なかった。

 これらの問題の根幹は、日本の医療技術とか公衆衛生制度にあるのではなく、日本政府の「サイエンティフィック・マネージメント」のなさによるものであろう。ワクチンを接種するために菅総理が行ったことは、自らわざわざアメリカまで赴いてファイザーの社長にわずかな時間「電話で!」直談判したり、厚生労働大臣の屋上屋を重ねて河野太郎ワクチン担当大臣を任命したり、自衛隊にワクチン接種をさせたりといった、国民に見栄えすることばかりである。その一方で、どこでだれにワクチンを接種したのかを一元的に管理するシステムがなかったり、ワクチン接種後の接種者へフォローする仕組みはできていない。「科学的な」マネージメントができていないから、日本政府は次から次へと起こる「想定外」の事象に右往左往しているだけなのだ。

 これは、原発事故の際の危機管理や今流行りの「カーボン・ニュートラル」でも同じことが言える。『敗戦真相記』で戦争に負けた大きな敗因として、①公明正大な目標を欠いていたこと、②自己の力を計らず、敵の力を研究せず、ただ自己の精神力を過大評価して、これに慢心したこと、③指導者が国民の良識や感覚を無視して、一人よがりで自分のいいと信じたところに国民を連れて行こうとした点、の三つを挙げている。果たして、大きな政策を立案するにあたって、こうした敗因に陥らないための「科学的な」分析ができているであろうか。

 コロナ禍で世界の情勢が大きく動く中で、エネルギーや地球環境をめぐるパラダイムも大きくシフトする中で、近いうちに再び『敗戦真相記』を書かなくて済むようにしなくてはならない。同書には、

「日本にとって最も不幸だったことは・・・諸種の事情が、日本有史以来の大人物の端境期に起こったということでありまして、建国三千年最大の危難に直面しながら、如何にこれを乗り切るかという確固不動の信念と周到なる思慮を有する大黒柱の役割を演ずべき一人の中心人物がなく、ただ器用に目先の雑務をごまかしていく式の官僚がたくさん集まって、わいわい騒ぎながら、あれよあれよという間に世界的大波乱の中に捲き込まれ、押し流されてしまったのであります」とある。政治に携わる者こそ、頑張らなければならない。

【プロフィール】東京大学農学部卒。通商産業省(現経産省)入省。調査統計、橋本内閣での行政改革、電力・ガス・原子力政策、バイオ産業政策などに携わり、小泉内閣の内閣官房で構造改革特区の実現を果たす。2009年衆議院議員初当選。東日本大震災からの地元の復旧・復興に奔走。

【マーケット情報/5月21日】原油下落、需給緩和観が重荷


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。アジア太平洋地域での新型コロナウイルス感染拡大と、供給増加の見通しが重荷となった。

感染拡大防止のロックダウンにともなう人手不足で、インド国営石油ガス会社Hindustan Petroleumは、ムンバイ製油所の定修を延長。また、インドの5月前半の燃料消費は、前月同期比で大幅に減少した。

需要後退の懸念が一段と強まるなか、供給増加の見通しが台頭した。イランは、米国が主要な経済制裁を解除することで合意したと発表。これにより、イラン産原油の供給再開が見込まれている。また、米国の週間在庫統計は増加を示した。

一方、欧州は、新型ウイルスのワクチン接種歴などを記載した証明書の導入を前提に、EU加盟国内における観光客の移動規制緩和を検討。また、英国とフランスでは、経済および移動規制の段階的な緩和が続く。さらに、サウジアラビアは国際便の規制を一部解除。燃料需要回復への期待感が、価格の下落を幾分が抑制した。

【5月21日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=65.58ドル(前週比1.79ドル安)、ブレント先物(ICE)=66.44ドル(前週比2.27ドル安)、オマーン先物(DME)=63.25ドル(前週比2.14ドル安)、ドバイ現物(Argus)=63.00ドル(前週比1.90ドル安)

【佐藤ゆかり 自民党 衆議院議員】レガシーを捨てる覚悟も必要


さとう・ゆかり 1961年東京都生まれ。98年ニューヨーク大学博士課程修了(経済学博士)。外資系証券会社などを経て、2005年に衆院選に初当選。総務副大臣、環境副大臣を歴任。参院1期、衆院3期、党政調経産部会長を務める。

世界的に脱化石燃料シフトが進む中、カーボンリサイクル技術に着目した議連を立ち上げた。

日本の産業競争力を守る観点から、欧州主導の気候変動政策に強い危機感をにじませる。

幼少期から「国のために働きたい」との思いが強かった佐藤氏。祖父は旧内務省の土木官僚で、英国大使や国会議員を務めた親戚もおり、「日本のために、世界に通じるグローバルな人材を目指していた」という。

高校卒業後はいったん上智大学に入学したが、その後、米コロンビア大学に編入。ニューヨーク大学で経済学博士号を取得した。欧米で計16年を過ごし、帰国後は外資系証券会社でエコノミストとして活躍する傍ら、経済産業省の審議会委員、財務省や日本銀行の審議委員の経済ブレーンも務めた。そして「実際に政策を決定する側で、日本経済を再建する」との思いで政治家に転向した。

2005年岐阜1区から出馬して衆議院初当選。参議院を経て、14年大阪11区より出馬し衆院議員に返り咲いた。

経産大臣政務官、総務副大臣、環境副大臣を歴任し、現在は自民党政調の経済産業部会長などを務める。

昨年10月、菅義偉首相は米中に先立ち「50年カーボンニュートラル目標実現」を掲げた。再生可能エネルギーの大量導入や火力発電所のゼロエミッション化、原子力発電の活用など、進展させるべき事項が多いだけに、実現には相当なチャレンジが必要だと予想される。

そうした中、佐藤氏は自民党内で今年3月26日、「カーボンリサイクル技術の国内確立及び需要拡大のための議員連盟」を発足。同議連の発起人代表として、会長に就任した。

技術確立に加え〝需要拡大〟も議論 欧州の脱炭素シフトに強い危機感

議連はカーボンリサイクル技術の確立および推進に加え、「需要」の拡大にも主眼を置いている。佐藤氏を含め、経産省、環境省、国土交通省や農林水産省の副大臣経験者を巻き込み、エネルギー、運輸、素材化学、農業など、幅広い産業に議論を進めていく構えだ。

特に注目するカーボンリサイクル技術が、石油の代替燃料となる合成燃料「e-fuel」。これは水素とCO2の利用により精製する液体合成燃料で、カーボンニュートラルとなる。またe-fuelの供給に既存のガソリンスタンドなどのインフラを再活用できるのも、産業上の大きなメリットだ。

「商用化に向けては大口需要家の育成が必要になる。自動車のほか船舶や航空機などで本格的活用につながるよう需要喚起も必須。産業間の横断的連携が重要だ」と強調する。

これらの新技術を確立するのに鍵を握るのが水素の調達方法だ。現在は川崎重工業やJパワーが豪州で採掘される褐炭から水素を精製してタンカーで輸送する実証事業など、資源国から化石燃料由来のブルー水素を輸入する取り組みを行っている。ただし、これらはあくまで過渡期の対応で、「中長期的には一定量の水素需要を国内で賄うサプライチェーンの確立が必要だ」と持論を語る。

「カーボンニュートラル実現に向けて燃料や原材料の脱炭素化が進めば、エネルギーも中東依存から脱却し、国内自給率を高められる可能性がある。水素調達も100%輸入に頼るのではなく、自給率を高めることが重要だ。再エネで精製するグリーン水素の国内生産の商用化を実現するためには、再エネ価格やグリーン水素の生産コストを下げる生産技術の確立も必須。議連ではこれらを見定め、政策提言を行っていく」

電源構成については、現在の石炭火力への依存を低減し、カーボンフリーな電源を増やすという点で原発にも理解を示している。

「国内で安価な水素を製造するためには、再エネの大量導入も含め、カーボンフリーな電力供給を増やすことが大前提。カーボンニュートラルの推進と電力需給調整の安定化を両立するためには、現実的に原子力の役割は小さくない」。国の安全審査をパスし、地元住民の合意を得た原発の再稼働に向けた議論は不可避と容認する姿勢だ。

座右の銘には、「レガシーからの脱却」という言葉を挙げた。「日本の重厚長大な産業は高度成長期の経済発展を支えたが、安価な化石燃料が土台となった。新興国では最先端技術が一足飛びで普及するリープフロッグの現象も起きる。〝先進国〟では老朽設備の廃棄コストがかかり、これが大胆で新鮮な発想の阻害要因ともなっている。これまで積み上げてきたレガシーを捨てる覚悟も必要だ」

急速に進む脱化石燃料シフトに対する危機感は強い。「欧州では製造過程でCO2を多く排出する製品をサプライチェーンから外したり課税したりする国境炭素調整のような議論も活発化している。日本が欧米のルール作りに積極的に参画し、製品規格化に関わっていくことが国内産業競争力の維持にとり重要だ。まさにこの4~5年が正念場になる」

日本が再び世界に伍する成長を遂げるようどう設計するのか。大きな注目が集まる。

【石油】ミスターOPEC ヤマニ氏が逝去


【業界スクランブル/石油】

2度の石油危機を主導、「ミスターOPEC」と呼ばれた、サウジアラビアの元石油鉱物資源相アハマド・ザキ・ヤマニが2月23日、英国ロンドンで亡くなった。享年90歳。彼の最大の功績は、国際石油会社が独占する石油利権を産油国に回収し、産油国の自立を推進したことだ。

彼には「石器時代が終わったのは、石がなくなったからではない」という言葉が残っている。一般に、石油時代の終焉は石油の枯渇によるものではなく、技術開発によって、石油が代替されるからであると理解されている。確かに1986年の石油相解任、英国転居後、日本経済新聞を含むマスコミのインタビューでは、そのような説明がなされた。2050年脱炭素社会の実現が現実の課題となった今、示唆に富む箴言である。

ただ、この言葉、ヤマニが使い始めたのは70年代終わり、石油メジャーから奪ったOPECの市場支配を背景に、サウジを除くOPEC各国が恣意的に競って原油価格を引き上げた時代のことだ。彼はOPEC穏健派を代表して、価格強硬派の各国石油相たちへ、「価格が高すぎると、石油は枯渇を迎える前に、市場や顧客(消費者)を失う」という警告を発したのだ。

脱炭素社会を目指す今、化石燃料の代替技術が大きな課題であることは間違いない。同時に、市場や顧客による代替燃料の受容がなければ、脱炭素社会は実現しないことも意味する。エネルギー全体の脱炭素化には、代替技術の開発に加え、数量とコストを含めた消費者の受容が不可欠であろう。

乗用車の電動化を考えても、航続距離や充電インフラ、コストなどの問題解決が、消費者の受容には欠かせない。わが国の寒冷地の灯油暖房の電化も同様であろう。石油のエネルギーとしての利便性を考えれば、その代替は簡単ではない。

市場や顧客が石油を必要とする限り、石油の時代は終わらない。ヤマニはそれを言いたかったのかもしれない。石油の一時代を築いたアラブの偉人の冥福を祈りたい。(H)

福島でメルトダウンは起きたか 圧力容器にとどまる溶融炉心


【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.2】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問

福島第一原子力発電所事故では炉心が溶融し、メルトダウンを起こしたといわれる。

だが、溶融炉心が圧力容器の底を溶かした事例は、軽水炉では確認されていない。

事故炉の廃炉は、一般の炉の廃炉とどこが違うのか。答えは簡単で、福島事故を伝える報道が常に伝えている。

「炉心が溶融してメルトダウンを起こし、発電所内部は爆発によって破壊された。強い放射能で汚染されている」と。一般庶民の理解はそれでよいのだが、廃炉関係者の答えとしては物足りない。

問題は「炉心が溶融してメルトダウンを起こし」のくだりだ。軽水炉では、溶融炉心が圧力容器の底を溶かしたという事例はまだ確認されていない。むしろ逆に、溶融炉心は圧力容器の中に残っている。溶融炉心がメルトダウンを起こすとは、必ずしも言えないのだ。

溶融炉心は底を突き抜けず 福島2号機も圧力容器内に

だが多くの人は、溶融炉心は高温であるから、流れ落ちて原子炉の底を突き抜け、格納容器の床も溶かして、放射能を周辺に放散すると理解している。これは大間違い、フェイクニュースの風評被害だ。事実を見てみよう。

福島第一の2号機は溶融したが、炉心は圧力容器の中に残っている。米国のTMI事故も同じで、溶融炉心の大部分は元の炉心位置にとどまっていた。以上二つの事例は、炉心溶融がメルトダウンを伴っていない明確な事実だ。

福島第一の1号機、3号機については後日述べるが、溶融貫通はまだ確かめられていない。

メルトダウンという外来語は、辞書を引くと「鋳つぶす」などとあり、コロナでおなじみのロックダウンと同類の強い意味を持つ言葉で分かり難い。

分かりやすいのは、反原発映画『チャイナシンドローム』だ。その粗筋は、炉心溶融事故によりメルトダウンが起きて格納容器の底に穴が開き、放射能が外部に放散されるというものだ。多くの人がメルトダウンを理解する原点がこの映画にある。

題名のチャイナシンドロームは、溶融炉心が地球を溶かし続けて反対側の中国に出るというブラックジョークが出所だ。

運が悪いことに、この映画の封切りの2週間後にTMI事故が起きたことから、映画は全米にセンセーションを巻き起こした。さらに、事故の発端をポンプの振動とした映画のストーリーがピタリと当たり、事故でも大きな振動がポンプに起きたことから、映画は事実として世間に受け止められた。

その影響であろう。原子力技術者の中に炉心溶融は圧力容器を溶かすと信じる人が多くいて、この「信仰」がマスコミを支配し、事故炉の廃炉を複雑にさせている。

読者には、軽水炉の炉心の溶融は必ずしもメルトダウンにつながるものではないという事実を、まずしっかりと頭に刻み込んでほしい。

炉心溶融=メルトダウンという信仰が、原子力技術者の間になぜ広まったのか。憶測だが、燃料の二酸化ウラン(UO2)の融点が2880℃と非常に高温であるところに根があろう。

大変な高温であるから、接触した物体は次々と溶けていき溶融は耐え間なく続くと考え、溶融で消費された熱は溶融炉心の崩壊熱が補ってくれるとの憶測が信仰の論理的根拠だ。

この安易な憶測は、原子力関係者であるが故に生じたものであろう。憶測は、輻射熱についての理解不足によるものだが、それは後日述べる。

チェルノブイリは溶融貫通 燃料棒が原子炉底に堆積

話を混乱させて恐縮だが、チェルノブイリ事故では、鉄筋コンクリート製ではあるものの、原子炉容器の底が溶融貫通しているのでその概要を次に述べる。

チェルノブイリ事故では、炉心火災が起きて炉内のグラファイトは全て燃焼(昇華)した。この火災は、インテルサット衛星からの映像を通じて、世界中の人が見ているから、間違いはない。

グラファイトが火災でなくなれば、空っぽになった原子炉容器に残るのは燃料棒だけだ。長さが7mもある長細い燃料棒は自立できないから、折れたり曲がったりして、最終的には原子炉の底にうずたかく堆積した。

堆積した燃料は、互いに崩壊熱で熱し合って、内部から溶融し始めた。溶融した燃料棒は温度が2880℃もあるから、厚さ約2mある鉄筋コンクリート製の原子炉底を溶かして、1階下のフロアに落下して築山を築いた。

築山の頂部には、次々と溶け落ちてくる溶融燃料とコンクリートの混合物で池ができた。池は3度氾濫したという。

チェルノブイリ事故では原子炉容器の底が溶融貫通した

最初の2回の氾濫は、換気ダクトなどを溶かして、柱を伝わって流下しながら固化している。溶融ウランが混じった固化物、有名な象の足はその名残だ。

3回目の氾濫は溶液の粘度が薄かったらしく、50mも廊下を流れて床上で固化している。

ちなみに氾濫した溶液は、ウランを4~8%含んだコンクリートの多い混合溶液という。溶融燃料はコンクリートで薄まるのだ。

まとめると、溶融燃料は原子炉の底を溶かしコンクリートと混じって築山を作って固化した。池から氾濫した溶融物は、流下する過程で固化して、いずれも建屋の床を溶かしていない。

コンクリートとはいえ、原子炉の底が溶融貫通したのだから、メルトダウンが起きたといえる。だが、このメルトダウンは1度きりで、チャイナシンドロームもどきに格納容器(原子炉建屋)に穴を開けて放射能を放出していない。話が違うのである。

なお、溶融燃料がコンクリートを溶解できたのは、一つに黒鉛火災による原子炉の予熱があり、いま一つに融点2880℃という高温燃料の発する大きな輻射熱が、原子炉底の温度を1000℃程度の高温に加熱していたことが挙げられる。常温のコンクリートであれば、溶融したかどうか、疑わしい。

ここで余談を。旧ソ連は、事故直後にチャイナシンドロームの防止を真剣に考えたらしい。原子炉の下にメルトダウンの防止壁を作るために、炉心直下へ直行するトンネルの掘削を始めたことが記録されている。掘削作業が不必要と気付いて中止したのは後日のこと。相当掘り進めた後という。

この作業は映画チャイナシンドロームの妄想が作らせた、旧ソ連にとっては泣き面に蜂の無駄働きだ。現代の迷信であるメルトダウン信仰が作る妄想は、事故時の緊急作業まで狂わせた。ご注意を。

いしかわ・みちお 東京大学工学部卒。1957年日本原子力研究所入所。
北海道大学教授、日本原子力技術協会(当時)理事長・最高顧問などを歴任。

・福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.1 https://energy-forum.co.jp/online-content/4693/

【火力】70年前の電力再編 最優先は企業理念


【業界スクランブル/火力】

今から70年前、1951年5月1日に全国に九つの電力会社が誕生した。戦時中に日本発送電と配電管理令に基づく9配電会社により国家統制されていた電気事業の仕組みが、民営、発送配一貫経営、地域独占という形に再編されたのである。

昨今の電力システム改革の流れの中で、旧来の仕組みについて地域独占と総括原価方式という事業者に都合の良い面ばかりが強調されているが、世の中そんなに甘いはずもない。こうした優遇措置とセットになっていたのが供給義務と認可制による料金規制だ。

戦後の電気事業再編の議論に当たり、9電力体制を強く推したのは「電力の鬼」と呼ばれた松永安左エ門翁である。松永翁は、戦時中から電力の国家統制に反対しており、「電気事業の自立なくして日本復興はあり得ない」として、分割民営化して民の活力により地域間の競争を促す一方、過当競争の弊害を排し、さらに公益事業としての責任を全うするという難題に同時に応えるための仕組みを作り上げたのである。

この頃は、終戦後の復興に伴う経済活動の拡大で電力不足が大きな社会問題だった。松永翁の執念で実現した電気事業再編と料金の適正化(大幅値上げ)により経営基盤が確立した九つの電力会社は、互いに競い合いながら海外の新技術を採り入れた電源開発を積極的に行い、火主水従の電源構成へと構造転換を図った。これによりその後の四半世紀で10倍にも増大した電力需要に懸命に応え高度経済成長を支えていくことになる。供給責任を果たせなければ事業許可を取り消される電力会社にとって、供給義務を果たすことこそが最優先の企業理念として染みついていたのである。

あれから70年、電力を取り巻く状況は経済成長の鈍化やエネルギー源の多様化で様変わりしている。しかし2050年に向けた脱炭素への取り組みは、戦後の荒廃から復興を目指した70年前とある意味似ている。これからのエネルギー政策を議論するに当たり、松永翁が示した長期的ビジョンと公益事業への強い覚悟から多くの示唆が得られるのではないか。 (S)