【エネルギービジネスのリーダー達】渡部健/REXEV社長
東日本大震災以降の電力不足からエネマネ事業が必要になると見抜くなど、鋭い先見性を持つ。
現在は、再エネとEVを利用し、全国のエネルギーと交通、二つの課題を一挙に解消することを目指す。

太陽光や風力など再生可能エネルギーの最適な運用には蓄電池が必要であり、電気自動車(EV)には再エネの電気が求められている。この二つを掛け合わせたら、スマートシティー実現や分散型エネルギー構築における一つの解になるのでは―。そんなアイデアから設立したのがREXEVだ。
低い自動車の稼働率 動く蓄電池として利用
蓄電池のコスト削減がなかなか進まない中、定置型蓄電池を利用したVPP(仮想発電所)では費用対効果のめどが立たない。そこで、EVの蓄電池に目を付けた。「一般消費者が利用する自動車の稼働率は平均で5〜10%、カーシェアでも20〜30%程度。残りの稼働していない時間帯は搭載する蓄電池を束ねて、VPPの調整用電源に利用すれば良い」と考えた。
さらに今後、再エネが普及すれば、発電コストは限りなくゼロに近づく。その電力を用いてEVでの移動に利用すれば、この限界費用もゼロに近づく。これがREXEVの事業コンセプトだ。
渡部社長がエネルギーに関心を持ったのは大学時代。電力システム工学の研究室に所属し授業を受けて関心を持った。研究室では、電力自由化をテーマに託送制度や安定供給について研究。さらに、大学院でも電力自由化に加え、風力発電の安定化などをテーマに研究に取り組んだ。
就職先は多くの友人や先輩、後輩が大手電力を志望する中、「安定供給を守る側より自由化の下、新たなビジネスを創出し事業化する攻める側に回りたい」と商社を選んだ。そこで、海外の電力事業を経て、自由化開始直後に電力小売り事業に携わり、発電所の運用、営業、需給管理など事業に関連する一通りの業務を経験した。ただ、当時の自由化はまだ大手電力にビジネスで伍していくような環境になく、競争原理を働かせて事業運営したいという理想と現実のギャップに苦しんだ日々だったという。
2009年にエナリスに入社してからは新規事業の立ち上げを担当した。スマートシティーや需要家PPS、自治体新電力の立ち上げのサポート、電力事業のコンサルティング、需給管理の代行などを手掛けた。自由化した市場で競争原理を働かせるには、たくさんの仲間をつくり、実現できることを増やしていく。地道な努力が必要との考えからだった。
そうした中、11年に東日本大震災が発生した。計画停電が実施され、地域全てが停電し病院などへの供給が止まった。初めて電気が足りなくなる事態を目の当たりにした。「これは業界にとって大きなターニングポイントになる。市場全体の電気が不足しコスト高になり、少ない電気を有効活用するビジネスモデルが求められる」。そのようにとっさに思いついたという。
そして震災発生の翌日、当時エナリスの役員であった渡部社長は、自ら手掛けていたPPS事業を即終了し、限られた電力を有効活用するデマンドレスポンス(DR)やVPP、需要家のエネルギーマネジメント事業といったビジネスにかじを切る決断をした。「そのスピード感は今も大きな経験になっている」と振り返る。
EVシェアとエネマネを開始 全国にノウハウ普及拡大へ
現在、REXEVが手掛ける事業は、①神奈川県小田原市を中心としたEVのシェアリング事業、エネルギーマネジメント事業、②自治体や環境志向の高い法人向けにEVのマネジメントプラットフォーム提供事業、③将来的にEVと自動運転を掛け合わせた新たな地域サービス創出―、などだ。
小田原市では20年6月からEVカーシェアサービス「eemo」を開始した。今年度47台のEVを導入し、今後100台の導入を目指す。同サービスでは、カーシェアとエネマネを両立、SOC(充電状態)予測やカーシェア需要予測を行い、EVの電力を有効活用し、BCP対策、電気代削減、CO2削減など、移動手段以外の価値も提供する。「開発が終わり、今後は広くお客さまにサービスを知ってもらう広報活動やマーケティングを行うフェーズに入ってきた」とのことだ。さらに、小田原市で得た構築ノウハウを地方にも広めていき、EVの移動手段とエネルギーリソース(動く蓄電池)としての価値を最大化することでエネルギーと交通の課題を一挙に解決していく日本版ドイツ・シュタットベルケモデルを目指していく。
渡部社長は、新規性のある事業を数多く立ち上げてきた。このことについて「こうしたら世の中が良くなる。そんなアイデアを想像し、実際に創造する。事業立ち上げには両方が欠かせません。二つの『そうぞう』を好んで使っています」と語る。
座右の銘は、吉田松陰の名言「至誠にして動かざるものは、未だこれあらざるなり」。電力システム改革、モビリティーシフト、新型コロナウイルスの感染拡大など、目まぐるしく変わる世の中に、その精神で立ち向かう。