【多事争論】話題:中国のエネルギー危機と日本
中国で全省の3分の2もの地域で停電が頻発し、日本も成り行きを注視していた。
エネルギー事情が変貌する巨大な隣国に、われわれはどのように付き合うべきなのか。
〈燃料インフラの共有利用へ 東アジア大の枠組みを構築すべきだ〉
視点A:山田 光 スプリント・キャピタル・ジャパン代表取締役
今年1月の電力ひっ迫を契機として、政府もエネルギー関係者も日本の置かれている状況を振り返るようになった。一方から見ると、脱炭素政策が性急過ぎた、あるいは化石電源の退出が早過ぎたという批判になる。だが他方から見ると、脱炭素政策の実施が遅すぎた、あるいは再生可能エネルギー導入策が不徹底だったという批判になる。
日本の特徴は、四方を海に囲まれ、送電線も燃料パイプラインも隣国とつながっておらず、再エネが十分に電力供給できるようになるまでは、電力の需給を燃料確保に依存している点だ。その特徴を踏まえて、燃料の卸市場を国内およびアジアで構築しようというビジョン、あるいは2030、40年の電力市場のビジョンを作ったとはあまり思えない。
もう一つの特徴は、欧米に比べて電力の自由化がかなり遅れたこと、そして自由化あるいは市場化における企業行動が途に就いていない段階で脱炭素シフトを余儀なくされている点である。これらの点で、今の中国のエネルギー危機と電力ひっ迫は、日本の今後の市場設計の在り方と市場参加者の行動を見直す上で重要な教訓だと言える。
まず中国は石炭主体の計画経済である。社会主義で情報が統制され、資源の生産・調達やエネルギー供給が国家管理されており、その中で、北京ほか各地の大気汚染を改善すると同時に脱炭素を理由に石炭火力発電を削減する方針となった。だが石炭は、中国国内で大量に生産され、一次エネルギーの約55%、発電用燃料の63%を占める(20年の数値。BP資料より)。日本の約8倍の7800TW時の発電量のうち、約5000TW時を担う石炭火力を減らすのはそう簡単ではない。
石炭火力を抑制する一方で、天然ガスシフトを試みた。しかし天然ガスの一次エネルギーでの利用割合は約12%程度しかなく、発電ミックスではわずか約3%であるが、それでも年間約250TW時の天然ガス火力発電を、一気に20倍に引き上げるのは容易ではない。中国のエネルギー市場はあまりに巨大であり、脱炭素に向け石炭の生産や輸送を変え、天然ガスのパイプライン建設やLNG受入基地を整備するにも、一気に方向転換するのは不可能に近い。
2番目の論点としては、中国経済における電力供給の重要性である。中国は世界の工場であり、電気はサプライチェーンの重要なエネルギーである。中国共産党が脱炭素を目標とし、資源・エネルギー政策のシフトを図ろうとしても、CO2排出削減のために発電をストップすれば世界経済への影響、そして日本経済へのインパクトは計り知れない。
中国において、石炭火力をベースにした電力供給構造をシフトするには、中央政府による綿密な計画と周到な準備が必要であるが、ハードルは高い。やはり、文殊の知恵を借りるという意味で、市場システムを上手に利用して、国全体としてエネルギーのリスク管理を行うべきである。中央集権では無理がある。
電力と燃料市場を一体化 広域運用・管理の仕組みが不可欠
中国よりも規模が小さい日本においては、エネルギー制度の脱炭素シフトははるかにスムーズにできる。電力と燃料の市場を一体化したデザインを構築し、供給力と信頼度を維持しながら市場メカニズムを上手く利用し、再エネの変動リスクを量と価格の面で最適にコントロールする仕組みを導入すべきだ。
電力の供給力確保では、電力と燃料インフラの広域運用・一体管理が一つのアイデアである。燃料パイプラインが未整備であるため、燃料で発電し送電網を通じて電気として送ることで広域のエネルギー供給の安定化を図り、将来は電力インフラと燃料受入基地の広域一体運用も考えられる。平常時と緊急時のデータ整備と開示のプラットフォームを作り、さらに全国のエネルギー利用の最適化モデル運用が求められる。
燃料取引では海外のプレーヤーとのコラボも重要だ。最近の九州電力・INPEX・PTTのアライアンスや、関西電力・ポスコのコラボは、民間の商流を構築し、平常時の安定化が緊急時の安定化になる点で画期的だ。政府がこの流れをサポートし、東アジア大でのインフラの共通利用のためのフレームワークを構築し、今後、LNG調達を拡大する中国に対しても長期スパンでこの枠組みに参加してもらうよう働きかけるべきだろう。
電力の供給力確保という点ではドイツの戦略リザーブの考え方が参考になる。必要な電源を送電事業者が契約して残すと言う考え方だ。さらに予備力確保では、電力(エナジー)と予備力(アンシラリー)を共最適化している米国のRTOのシステムも、今後の再エネ導入における系統運用には欠かせない。
やまだ・ひかる 慶応大学経済学部卒。バンク・オブ・アメリカ東京支店、モルガン・スタンレー東京支店などを経て1995年にエネルギーコンサルティング会社であるスプリント・キャピタル・ジャパンを設立。







