【ガス】国民・参政が躍進 どうなる選挙後のエネ政策

【業界スクランブル/ガス】

今回の参院選は物価高対策を争点に始まったが、後半に入ると外国人問題が活発に取り上げられた。日本が抱える問題は、経済の成長戦略、少子化対策、対米・対中などの外交問題、原発を含むエネルギー政策、財政健全化など、多岐にわたるはずだ。目先の物価高対策を論じて消費税減税などを提起することはまだ理解できるが、欧米などに比べて移民が少ない日本において外国人問題が大きなイシューになったことは残念だと言わざるを得ない。

選挙を経て、次はガソリン暫定税率の廃止や消費税減税などが焦点となるだろう。私感だが、一度でも減らした税金を元通りに復活させることは極めて困難だ。決して賛成できる政策ではないが、減税などをせずに税収入を維持しながら給付金などを「バラまく」方がまだマシではないか、と考えてしまう。

一方、エネルギー会社にとって今後の政策で注目すべきは再エネの動向である。今回大躍進した参政党は公約において「再エネの推進中止・賦課金廃止」をうたっている。再エネ賦課金廃止は国民民主党も同様の意見だ。目先の国民負担を減らすべく再エネ賦課金をなくしても、その部分を他の財源で賄う必要があり、結局は何らか別の国民負担が増加する可能性もある。

第7次エネ基に明記されたが、DXやGXが進む中で電力需要増加が見込まれている。「再エネか原子力か」といった二項対立的議論ではなく、再エネと原子力を共に最大限活用していくことが重要だ。エネルギー政策は短期でコロコロと変えるものではなく、長期的視点に立つ必要があると肝に銘じて、冷静に議論を進めてほしいものだ。(Y)

供給力確保の義務化巡り 小売事業者に動揺

【業界スクランブル/新電力】

7月に開かれた制度設計ワーキンググループで提言された、小売事業者に供給力確保を促す仕組みが物議を醸している。当局による発電事業者に対する監督が功を奏し卸電力市場の価格高騰局面が激減したため、小売事業者が市場調達比率を高めた矢先の相対調達比率義務化の提言である。小売事業者に動揺が走るのも無理ならざるかな、である。

発電事業者からすれば、火力燃料の太宗を占める天然ガスは、ロシアのウクライナ侵攻以降高止まりであり、卸市場での販売では逆ザヤである。容量市場や長期脱炭素電源オークションなどの固定費回収スキームが整備されたとて、可変費回収スキームの確保は喫緊の課題である。当局の指示に従い供給力を提供し続けた結果、卸市場価格が下落し自身の経営基盤を脆弱化させる事態となるのは看過し難く、適正価格での売電先を保証してほしいといったところか?

本件の根底には、限界費用が極めて安価であるが不安定な太陽光と、価格は割高だが安定電源である火力・原子力の両立という、電力システム改革の根源に係る課題がある。この課題解決には、小売事業者・発電事業者双方の努力が不可欠であろう。従って当局が小売事業者にのみに制約を課すのでは不十分である。

発電事業者には、卸販売における公平性・透明性の徹底ならびに、卸販売メニューの多様化(日中は太陽光活用を推進し、夜間帯のみの卸販売メニューの新設など)を求めたい。小売事業者にも、今回の提言を機に、蓄電池を活用した太陽光発電所とPPAを推進するなど、ピンチをチャンスに変えるような行動が求められよう。(S)

G7と対照的なBRICS会合 現実路線で首脳宣言採択

【ワールドワイド/環境】

7月6、7日にリオデジャネイロでBRICSサミットが開かれ、個別分野の共同声明採択に終わったG7サミットと異なり包括的な首脳声明を採択した。気候変動、エネルギー関連の主要メッセージは以下の通りだ。

①気候変動対策における一方的措置が、差別的あるいは貿易制限的な手段となることに懸念。CBAM(炭素国境調整措置)などは国際法に沿わない懲罰的・保護主義的措置として反対、②SDG7に沿った安価・信頼性あるエネルギーアクセスと公正な転換にコミット、③エネルギー安全保障、市場安定、供給の多様性、インフラ保護の必要性に言及。化石燃料の依然として重要な役割を認識、④公正で包摂的な移行に向けた資金アクセスと投資拡大の必要性を強調し、先進国に対し、譲許的資金の予測可能・低コストな供給を要求、⑤ゼロ・低排出エネルギー技術や供給網強靭化における重要鉱物の役割を認識。資源主権を尊重しつつ、信頼性・責任ある持続可能な鉱物サプライチェーンの促進を支持―。

気候変動面ではパリ協定、気候変動枠組み条約の目的追及への結束を再確認しつつも、2050年カーボンニュートラルや1・5℃目標へのコミットメントは全く見られない。むしろ、気候変動資金動員に向けた先進国の責任が強調されている。

エネルギー面では安価で信頼性のあるエネルギーアクセスがうたわれ、エネルギー転換途上における化石燃料の役割が明確に認知されている。化石燃料や石炭火力のフェーズアウトを掲げてきたG7と対照的だ。

重要鉱物については鉱物生産国としての立場を前面に出し、「鉱物資源に対する主権を完全に保持し、資源国の利益分配、付加価値、経済多様化を保証するための公正なサプライチェーン」と強調。サプライチェーンの多様化、環境や人権基準に基づく市場ルール設定を企図しているG7に対峙している。

世界のエネルギー・温暖化情勢の帰趨を左右するのはG7(エネルギー消費、CO2排出量の対世界比は30%、25%)よりもBRICS11か国(同49%、58%)であり、その差は開いていくのだから当然だ。1975年の第1回G7ランブイエサミット当時と異なりG7とBRICS、G20を併せて見なければ世界の帰趨は語れない。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院客員教授)

電源投資量は内生変数か 教科書的理想論の限界

【業界スクランブル/電力】

7月下旬開催の「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計ワーキンググループ(第3回)」の議事要旨を見ていて、おやっと思った委員発言があった。

いわく、「投資量は内生変数だということは忘れないでほしい。収益性は外生ではなく、需要が激増するのに投資が進まないとなれば当然、他の条件を一定にして収益性は上がる。それが投資を促すということだ」とのこと。

内生変数とは、モデル内で他の変数から影響を受ける変数のことで、この場合は、市場の需給関係から価格が決まり、価格から投資の予想される収益性が決まり、それが投資量を決める、といったメカニズムを指していると想像される。

こうした形で市場が機能するのは教科書的な理想であり、電力システム改革とは市場をこのように機能させることを目指すもので「かつては」あったのだろう。

他方、今取り組まれているのは「脱炭素電源の確保ができなかったために、(略)⽇本経済が成⻑機会を失うことは、決してあってはならない」と宣言した第7次エネ基の下、OCCTOが作成した電力需給シナリオを共有しつつ、全体として必要な投資量が外生的に与えられ、これを長期脱炭素電源オークションなどを通じて確保していく枠組みの設計―。すなわち、電源投資量を内生変数から外生変数に変えていく取り組みだ。

こうした動きが起こっている背景には、教科書的理想論の限界、すなわち、それでは電源投資不足が起こり、それが制約となって日本経済の成長機会を奪いかねないという危機感があることも忘れてはならないだろう。(V)

大量倒産を経た英小売市場 規制強化で立て直し狙う当局

【ワールドワイド/市場】

英国の電気・ガス小売市場では、2021年後半以降のエネルギー価格の高騰により、約30の小売事業者が経営破綻した。契約獲得のため割安な料金プランを提供しながらも、エネルギーの事前調達によるヘッジを怠っていた事業者の多くが撤退を余儀なくされた。

これを教訓に英国のエネルギー規制機関は、小売市場の安定化に向け事業者の財務健全化を促す各種規制を導入している。中心となる規制は、事業者資本に対する下限値および目標値の設定だ。家庭用小売事業者を対象とするこの規制は、一契約当たり調整後純資産0ポンドの下限値、さらに、市場の動揺時にバッファーとなる資本の合理的な水準として、一契約当たり57・5ポンド(電気・ガス両方契約の場合は115ポンド)の目標値を設定している。下限値を満たさない事業者は小売ライセンスの規約違反となり、規制機関による強制措置の対象となる。下限値を満たすものの目標値を下回る場合、事業者は資本増強計画を作成し規制機関に提出する必要があり、計画が承認されるまで新規営業や資金の移動などが制限される。なお、目標値はヘッジを適切に行っている事業者を参考に設定された。

この規制の導入により、小売市場全体の調整後純資産は、経営破綻が相次いでいた頃のマイナス17億ポンドから今年3月末にはプラス75億ポンドまで改善した。この規制に加え、事業者に十分な流動資産を確保させる財務管理義務の要件強化や、資産状況の監視強化、事業者固有リスク(グループ会社に起因するリスクエクスポージャーなどを含む)のリスト化とその報告義務、新規契約者のみを対象とした専用料金プランの提供の禁止措置も導入されている。

また、再生可能エネルギー購入義務制度用の資金や需要家の前払い・過払いにより発生した預り金が、経営破綻時に多く喪失したことから、これらを保護するリングフェンス制度も導入された。リングフェンス内で発生した資金を用いて、他で発生した損失を相殺することが認められなくなった。ただし、預り金のリングフェンスは、前述の資本目標値を下回った場合、または事業者の流動資産が預り金総額の20%を下回った場合のみ発動される。英国の小売市場における規制はこのように強化されたが、体力のある大手に有利な状況と見ることもできる。これら規制が新規参入や競争にどう影響するかが注目される。

(宮岡秀知/海外電力調査会・調査第一部)

欧州に流れる米国産LNG カナダ産はアジア向けが主体か

【ワールドワイド/資源】

今年6月、カナダが新たなLNG輸出国に加わった。年産1400万t規模のプロジェクト「LNGカナダ」が稼働を始め年内にフル生産に至る見通しである。

米国では、トランプ政権が今年1月に誕生、バイデン政権下でサスペンドされたLNG輸出認可が公約通り再開され、複数のLNG計画が急速に進展し始めた。今年に入ってルイジアナLNGプロジェクト、CP2・LNGプロジェクト、そしてコーパスクリスティ拡張プロジェクトが最終投資決定(FID)に至った。既存分と合わせると建設段階の合計年産能力は8300万tに達し、2030年までに順次生産開始される見通しである。

米国では、昨年末から今年初めにかけて年産3000万t相当の輸出能力が上乗せされ、総年産能力1・2億tに増強された。カタール(同7700万t)、豪州(同7850万t)を大きく引き離している。

米国産LNGは、今年は7月までに約6000万tが出荷され、昨年より大幅に早いペースで伸びている。他方、そのうち7割以上、約4200万tが欧州市場に輸出されており、アジア需要家が期待していたような、成長著しいアジア市場への供給にはつながっていない。

背景として、EU(欧州連合)はトランプ大統領との間で、今後3年間で米国産エネルギーについて7500億ドルの購入を約束し、米国産の輸入が増えることが予想される。加えてEUは27年末に向けてロシア産ガスから脱却することを宣言しており、代わりに米国産に代替される可能性が高い。短期面でも今年初頭に低水準だったガス貯蔵量を来冬に向けて着実に増強することが課題であり、その調達先は米国産LNGとなるだろう。

そのほかにも、米国とアジア市場をつなぐパナマ運河もLNG船の通航制限が緩和されたとはいえ、依然として喜望峰周りを選択するケースがほとんどである。世界第2位の生産量を誇るカタール産LNGは、フーシ派からの攻撃を恐れてスエズ運河の通航を避け、9割近くがアジア市場に流入している。

カナダは数年内に合計年産能力2000万t規模に達する見通しであり、そのほとんどがアジア市場に吸収されるだろう。増大する米国産LNGではあるが、地政学ならびに地経的リスクに影響を受けてアジア市場ではなく、欧州市場に流れやすい地合いが形成されている。

(高木路子/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

ペロブスカイト開発の現在地㊥ 実用化への技術的課題は山積 日本が競争力を発揮するには

【識者の視点】薛婧/イーソリューションズ執行役員副社長

中国では、関連サプライチェーンをほぼ自国で完結できる体制が構築されつつある。

日本が競争力を発揮するには、柔軟な戦略の転換が必要ではないか。

前回は6月に中国・上海で開催された「SNEC」で調査した、中国のペロブスカイト開発の最新の状況について解説した。今回は、中国におけるサプライチェーン整備に向けた動きについて紹介したい。


サプライチェーンの国産化 競争しつつ「共創」で実現

ペロブスカイトの生産工程における基板の洗浄・製膜・封止などでは、多くの精密装置が必要となるが、中国ではこれらの装置の国産化が進んでいる。徳滬塗膜・晟成ソーラー・捷佳偉創などは、製造に必要な装置をパッケージで提供し、ただちに稼働可能な状態で納品するという「ターンキーソリューション」を提供している。その歩留まりは95%以上という。

さらに開発を加速するため、自動化やAIの活用も進められている。従来のペロブスカイト電池の製造工程は人が担っていたため、生産効率の低下とモジュールの品質のばらつきが問題となっていた。中国メーカーは溶液調製から封止、初期性能測定までの全工程を自動化し、24時間連続稼働で300枚/日のセルを製作可能にした。変換効率のばらつきも0・75%以内(1000枚中8枚以下)に抑えた。また、全プロセスに高性能センサーを設置。得られたデータはAIで即時分析し、プロセスやレシピ(配合)の最適化案をフィードバックし、その適化案を再び製作プロセスで検証する。このサイクルを繰り返すことで、研究期間の90%短縮を期待している。

GCLのAI実験システム

開発・製造装置だけでなく、2・5m以上の大型サンプルにも対応可能な、評価装置の開発と国産化も進んでいる。

国家太陽光質量検査センター(CPVT)やTÜVなど、複数の評価機関も展示会に出展していた。これらの評価機関は多くのペロブスカイトメーカーと連携し、サンプルの認証や屋外実証を実施。一部の発電結果を定期的に公開している。ペロブスカイト専用の評価ガイドラインはまだ整備されていない。そのため、シリコン太陽電池の基準であるIEC6121やIEC61730などを参考に、ペロブスカイトの効率や耐久性を評価するノウハウを蓄積している。

また、結果の再現性が低いという課題の解決に向け、中国では効率測定に関する国家標準「ペロブスカイト太陽電池モジュールのⅠ―V特性測定方法」の策定が進められている。SNECでも標準化を議題に、多くの講演が行われた。

中国のさまざまな気候での実証プロジェクトも多数報告されており、MW級以上の実証も複数あった。メガソーラー用途だけでなく、フェンス・カーテンウォール・屋根・ソーラーカーポートなど、建物にペロブスカイトを設置する実証も実施されており、用途開発と実用性の検証が進められている。

SNECで驚いたのは、装置メーカーや評価機関らが、展示会の訪問者に対し、技術やノウハウをオープンにし、実証データの一部もリアルタイムで公開していたことである。先ほど紹介したAI実験システムも、オープンプラットフォームとして世界各地の研究チームに開放されている。

さらに、UtmolightやRenshineなどのペロブスカイトメーカーは、新規参入企業に対して、製造ラインの設計、装置の選定、建設プロセス管理、人材育成、プロセス改善など、あらゆるサポートを行っている。中国では「競争」しながら「共創」を図る構図が見えてきた。

その他、発電ガラスや電極材、封止材などの材料や、端子ボックス、パワコンなどの周辺機器のブースも、SNECで多数見られた。自国でサプライチェーンをほぼ完結できている状況がうかがえた。

水とエネルギーのジレンマ 両者の関係性捉えた政策を

【オピニオン】橋本淳司/水ジャーナリスト

人間の水使用量は20世紀を通じて大きく増加した。20世紀前半には年間約1000㎦と推計されていた世界の水使用量は、2000年には約4000~4600㎦に達した。経済協力開発機構(OECD)は50年までに水使用量が00年比で55%増加すると予測している。00年の世界の水使用内訳を見ると、約3分の2が農業用だ。OECDの見通しによれば、00年から50年の間に製造業における工業用水は5倍、発電用水は2.4倍に増加すると予測されている。

中国南西部、特に長江とその支流には、数多くのカスケード型ダムと巨大な水力発電所が建設されてきた。チベット高原から流れ下る豊富な水資源を活用していたが、20年以降深刻な干ばつが続き、降水量は平年の半分以下にまで落ち込んだ。長江流域では河川流量が大幅に減少し、水力発電所の出力が著しく低下した。中国国家エネルギー局のデータによれば、水力発電の設備容量は19年末の3億5800万kWから23年末には4億2200万kWへと約18%増加したが、同期間の発電量は減少し、23年は1兆1410億kW時と、4年前の水準を下回った。

不足分を補うため、中国は再び石炭火力発電への依存を強めた。中国は世界最大の石炭消費国であり、発電に占める石炭の比率は依然として高い水準にある。その結果、温室効果ガスの排出量が増加し、地球温暖化をさらに加速させる。まさに気候変動が水資源を不安定化させ、エネルギーの安定供給をおびやかし、その対応策がさらに温暖化を悪化させるという負のスパイラルである。

発電が流域での水の分配に影響を与えるケースもある。22年、エチオピアではアフリカ最大級のダムであるグランド・エチオピア・ルネッサンス・ダムが稼働した。貯水量は740億㎥、最大出力は600万kW。アビー首相は「国民の6割に光をもたらす」と述べ、ダムがエチオピアの電力不足を解消するとし、将来的には周辺国への電力供給も視野に入れる。しかし、上流国のエネルギー戦略は下流国にとって水の安全保障への脅威となっている。とりわけエジプトとスーダンは、ダム貯水によってナイル川の流量が減少するとの懸念を抱く。エジプトでは、生活用水や農業用水、工業用水のほぼ全てをナイルに依存している。ダム稼働の前年、エジプトのシシ大統領は「エジプトの水には手をつけるな。あらゆる選択肢が考えられる」と警告した。

水は発電を支える基盤であり、同時に下流域の生活や農業を支える不可欠な資源でもある。とりわけ水力発電への依存度が高まる中で、流域の上流と下流がそれぞれの発展と生存を水に託している構図は、エネルギーと水の複雑な相互依存を浮き彫りにしている。

はしもと・じゅんじ 1967年群馬県生まれ。水ジャーナリストとして国内外の水問題を調査し、その解決策を多岐にわたるメディアで発信している。アクアスフィア・水教育研究所代表、武蔵野大学客員教授。

EVバッテリーの国内生産能力 年150GW時の目標に黄信号

【脱炭素時代の経済評論 Vol.18】関口博之 /経済ジャーナリスト

横浜市に本社を置く大手バッテリーメーカーがAESCだ。社名はそのままエー・イー・エス・シーと読む。日産自動車が軽以外で世界初となる量産EV・リーフのバッテリー生産のため2007年にNECとの共同出資で設立した。その後、中国の再エネ企業・エンビジョンに事業譲渡されたが、今も日産が一部、株を持つ。販売したEV用バッテリーは累計100万台超、創業17年で製品も工場でも発火などの重大事故を一度も起こしていない。日本のものづくり技術に根ざした強みだろう。

AESCの茨城工場
提供:AESC

同社はここ数年、積極的な投資を続けている。国内では茨城工場を新設し去年稼働開始。最新鋭バッテリーを生産するマザー工場となり、将来は年20‌GW時の生産能力を持つ予定で、ホンダや日産が顧客になる。海外でも米英仏、スペイン、中国で工場を稼働または建設中。新設の米国2工場とフランス工場の生産能力は年40~50‌GW時になる。「地産地消」を掲げ、納入先完成車メーカーの工場に隣接して拠点を構える。

もう一つの特徴は「フルライン」の製品群。現在主流のNMC(ニッケル・マンガン・コバルトの3元系)バッテリーと、近年中国勢が伸ばしてきているLFP(リン酸鉄リチウム)バッテリーの両方を手掛ける。NMCはエネルギー密度が高く、航続距離が長い。一方、LFPはエネルギー密度こそ劣るが安全性・耐久性に優れ、希少金属を使わないので低コスト。技術的改良も進み、従来のコンパクトEVからミディアムゾーンの車種にも広がりつつある。将来は大容量が求められる高級車やスポーツ車にはNMC、大型でも搭載できるトラックや定置型蓄電池にはLFPといったすみ分けも考えられるという。こうしたシナリオでAESCは現在、世界で年20~30‌GW時の生産能力を今後1、2年で10倍にする野心的な計画を立てる。

ところが、国内バッテリー産業全体の未来図はさえない。国は3年前、「蓄電池産業戦略」で30年までに国内の製造基盤を年150GW時、グローバルには年600GW時の生産能力という目標を策定。経済安全保障推進法に基づきバッテリーや部材メーカーに助成も行い、国内で1

20GW時まで増強の見通しとしていた。しかし今年5月、日産が北九州市で計画していたEV用電池工場の建設を断念したことでこれが暗転、30年目標には黄信号が灯っている。

足元では世界のEV市場は伸びが鈍化している。それでも中国勢のバッテリー増産は進み、既に供給力が国内需要を大きく上回る状態にある。今後、ほかの市場に輸出攻勢をかけてくる可能性は高い。

競争力確保のために今こそ国の政策支援が欠かせない。国内メーカーには生産能力拡大と同時にコストの低減を促す必要がある。原料の資源確保も不可欠。技術のブレイクスルーでは全固体電池の開発が鍵になる。30年ごろの本格実用化を掲げるが、コストや量産技術の確立など課題克服の道筋はまだ見えない。

目先のEV市場の動向に惑わされず、国にはスピード感を持って環境整備を進めてもらいたい。日の丸バッテリーが世界で存在感を持てるか、瀬戸際だ。

大手系と地方系の良いとこ取り 山梨の発展支える提案に注力

【事業者探訪】東京ガス山梨

中圧導管延伸で一級河川超え工事を実施した東京ガス山梨の取り組みが注目されている。

グループのノウハウも生かし販路を拡大。地域の発展に向けた提案を重ねている。

山梨県はLPガス普及率が76%と沖縄県に次ぐ全国2番目の高さだ。この地で都市ガス供給を担ってきた東京ガス甲府支社は、業績拡大のためにLPガス事業者の買収などを経て2009年に「東京ガス山梨」へと生まれ変わった。都市ガスは甲府市や中央市、甲斐市、昭和町、南アルプス市に、LPガスは県内全域に供給。電気も東京ガスの取次店として販売する。

宮田社長とマスコットの「さすまる」

20年に策定した30年ビジョンでは「山梨創生のトップランナー」として「選ばれ続ける総合エネルギー企業」を目標に据えた。①都市ガス供給量は4500万㎥から1億㎥に倍増、②LPガスは現状の販売量5500tを維持、③高付加価値ガス設備や水回り、電気設備などの生活ソリューションを拡充―することが柱だ。昨春社長に就任した宮田雅夫氏は「東京ガスグループと地方ガス、両者の特性を有する会社。その良さを生かし、行政とお客さまの課題に寄り添い、地域振興に資するエネルギー種に拘らないソリューションサービスを展開していく」と意気込む。


川越えの大規模工事を決断 都市ガス販売量が増大

都市ガスの供給拡大は20年以上かけて徐々に進めてきた。元々は供給エリアが二つの川に挟まれた三角地帯である上、サテライト基地でガスを受け入れていた関係で需要拡大を制限していた。転機となったのは02年頃、医療機器工場の燃料転換を機にINPEXの導管で受け入れる方式に変更。さらに14年2月の大雪の経験からBCP(事業継続計画)への意識が高まり、南アルプス市の半導体工場に導管供給を求められたことだ。

ただ、そのためには一級河川の釜無川を超えて中圧導管を敷設する必要があった。河川を横断する場合、川底にトンネルを掘る工法が選択肢となるが高コスト化が問題だ。そこで折衝の結果、県が既存の橋に導管を添架する工事を許可。コストを数分の1に圧縮し、22年に約7㎞導管を延伸した。これで需要家が納得できる価格となり、近隣需要家のガス化も進んでいる。

地域に根差す企業として信玄公祭りにも参加

そして笛吹川を超えた先、甲府市と中央市にまたがる食品工業団地の大規模工場からコージェネレーション導入のために導管供給の要望があり、今年、同様の添架工事を実施して約3㎞延伸した。ここでも周辺の需要家に働きかけ、醤油などの製造会社への供給を予定している。

足元の販売量は9000万㎥に近づき、30年目標まであと一歩となった。宮田社長は、「トランプ関税などの要因で事業環境が見通しにくく、一般的に大規模投資には慎重になりがち。ただ、山梨の発展のためには3~4年のスパンで高い収益率を求めると同時に、リニア中央新幹線の開通もあることから、10~20年先を見据えた投資決断が必要だ」と強調する。

残り1000万㎥の獲得に向けては、有望な大口需要家への働きかけを強めている。足元で建築・工事費が高騰する中、イニシャルコストがかからないエネルギーサービスのニーズが高まっており、全国各地で多数の実績を持つ東京ガスグループのノウハウを訴求している。

【コラム/9月12日】米国の電気料金上昇とデータセンター拡大の見えざる罠

矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

米国の電気料金は着実に上昇し続けている。米国エネルギー情報局(EIA)が2025年7月に発表した「短期エネルギー見通し」によると、家庭用電気料金は2022年から2025年にかけて約14%上昇すると予測されており、2026年も約4%の上昇が見込まれている。同国では、2013年から電気料金の動きはインフレ率にほぼ連動していたが、2022年以降は電気料金の上昇率がインフレ率を上回るようになり、この傾向は2026年まで続くと見られている。

電気料金の上昇に関して地域差を観察すると、興味深い事実を確認することができる。EIAによれば、2022~2025年間で、全国平均と比べて料金上昇が著しい地域は、比較的料金水準の高いニューイングランド、中部大西洋沿岸、太平洋沿岸などの地域であるが、西南中部、西北中部、東南中部などの比較的料金水準の低い地域では、それほど上昇しない傾向にある。例えば、上記期間における料金上昇率は、ニューイングランド地域では19%であるの対して西北中部地域では8%となっている。米国では、もともと地域間の料金格差が大きいが、最近のこのような動きは料金格差を一層拡大させていると言えるだろう。因みに、現在、家庭用電気料金が最も高いハワイ州と最も安いアイダホ州の料金格差は約4倍となっている。

電気料金に関して、最近大きな注目を集めたのが、自由化の優等生とされる米国東部の地域系統運用者(RTO)であるPJMの管轄地域(13州とワシントンDC)のいくつかの地域で、この夏20%を超える大幅な料金値上げが行われるというロイターのニュースである(7月9日)。電気料金上昇の背景として指摘されるのは、AI技術の急速な普及とデータセンター新増設などにより電力需要が急増していること、これに対して、老朽火力の閉鎖や再生可能エネルギー電源の系統への接続の遅れなどで、供給力が追い付いていないこと、さらに、これらと関連してPJMの容量市場における約定価格が高騰していることなどである。

PJMの管轄地域では、バージニア州北部に位置する世界最大のデータセンター集積地である「データセンターアレー」を含め、AIを支えるためのデータセンターが急増し、これに伴い電力需要が大幅に増えている。PJMの予測(2025年1月)によれば、データセンターの拡大で、2035年までの今後10年間でシステム全体で最大55ギガワットの追加需要が予測されている。この数値は、約55基分の原子力発電所に相当する電力を意味し、AIやデータセンターの普及が電力需要に与えるインパクトの大きさを如実に物語っている。

また、需要急増と供給力不足を反映して、PJMの容量市場では、約定価格が2024年7月のオークションでは前年比800%の上昇、2025年7月のオークションでは上限価格($329/MW-day)に張り付き22%の上昇となった。これに伴い、PJMの管内の電力会社は、電気料金の引き上げを行っている。このような状況の中で、ペンシルベニア州の知事ジョシュ・シャピロ氏は、最近の大幅な料金引き上げはPJMの容量市場の欠陥によるものとし、今年の初め、容量市場における上限価格の引き下げなどを要求し、PJMからの退出も検討すると述べている。このような批判もあってか、PJMのCEOマヌ・アスタナ氏は年内一杯で退任することを表明している。

原子力を巡るイデオロギー対立の終焉 エネルギー政策の質を競う選択へ

【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

参院選投開票日前に執筆した本コラムで、私は「自公の与党が大敗、参政党や国民民主党といった新興政党の躍進、参政党が自民票を奪った漁夫の利での立憲民主党の堅調、左派勢力の停滞といった結果で終わりそうである」と書いたが、立憲民主党の野党第三党への転落以外は当たった。

同じ本誌前号では「語られなかったエネルギー政策」という記事もあったが、それはそれでよかったのではとも思っている。これまでの国政選挙でのエネルギー政策の争点は、原子力をどうするのかが中心だった。左派政党は、エネルギー政策というよりはイデオロギー的観点から原子力技術自体に否定的で、長年与党を務めてきた自民党は「触らぬ神にたたりなし」とばかりにエネルギー政策を争点にしようとはしてこなかった。


新興政党伸長の要因 国家論を国民に問う

今回の参院選で明らかとなったのは、既存政党への忌避感だ。55年体制の残滓とも言える、イデオロギー対立を背景とした「永遠の与党」と「永遠の野党」の選択へのうんざりとした国民の思いが、国民民主党や参政党といった新興政党の伸張を招いた。そして、イデオロギーを背景とした左派政党は、高齢者の支持を集めるだけで衰退していくことが明白になった。新興政党のほとんどは、イデオロギー的臭いのする「脱原発」などは掲げない。

そうであるならば、今後の国政選挙は、イデオロギー対立を背景とした原子力政策の選択から、原子力をエネルギー源の一つとすることを大前提とした上での、エネルギー政策の質を競う選択となるべきではないか。もとより少資源国のわが国が、エネルギーの安定供給を持続していくことはまさに国政の大テーマでなくてはならない。

単にエネルギーミックスや電源構成の在り方だけではなく、エネルギー供給の観点から見た外交戦略、中長期的な観点も含めた技術開発のポートフォリオ、日本の産業構造全体の中でのエネルギー産業の在り方など骨太のエネルギー政策こそが、国民の選択に付すにふさわしいものだろう。再エネ賦課金の見直しといった、国民の関心を買うためのつまみ食い的な目先の政策だけでない、国家論を国民に問うべきだ。

今後の日本の政治は、固定化した自公政権ではなく、複数の政党による連立政権が常態化していくと思われる。そうであるからこそ、それぞれの政党がエネルギー政策の質を競い合い、連立政権を組む熟議の過程でそれぞれの政党の良い政策を取り入れて実行していく。このような政治が実現すれば、日本のエネルギー政策の未来は明るい。後は、われわれ政治家がどうしていくのかが、問われる。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2025年9月号)

NEWS 01:重電各社の決算好調 エネルギー部門がけん引

重電メーカーの2025年4~6月期決算は、エネルギー部門の収益拡大が大きく貢献し軒並み好スタートを切った。中でも三菱重工業は最終利益が前年同期比9・5%増の682億円となり、過去最高を記録。エネルギー部門では、大型ガスタービンを北⽶で6台、アジアで2台の受注を獲得し、受注高は同12・7%増の6025億円に上った。

日立製作所も、エネルギー部門の売上高が同10%増の6675億円となり、連結最終利益(同9・6%増の1922億円)を押し上げた。送電網設備の更新・再エネ電源接続などの需要が堅調。高圧直流送電(HVDC)向けシステムなどの販売が増加した。川崎重工業は事業利益が同21%増の205億円。ガスタービンやガスエンジンなどの販売数が伸び、好業績を支えた。

ガスタービン市場は衰え知らずだ

この好況で各社の株価は急伸している。米国と中国の相互関税合戦で暴落した4月上旬を底に上昇に転じ、8月中旬までの最高値は、三菱重工が約2倍、日立と川重が約1・6倍の水準まで高まっている。

三菱重工と川重が手掛けるガスタービンは「今後も旺盛な需要が続くだろう」(メーカー関係者)。HVDCも洋上風力など長距離送電ニーズが活況で、今後10年は成長していく見通しだ。世界的なエネルギー設備への投資の勢いはしばらく止まりそうになく、各社の業績の追い風となりそうだ。


NEWS 02:正念場迎える洋上風力 R4の2海域を指定

経済産業省と国土交通省が7月末、一般海域での洋上風力公募の対象となる促進区域に、新たに北海道の松前沖と檜山沖を指定した。前者は3710ha、後者は4町にまたがる3万2160haと国内最大規模で、秋にも公募開始が見込まれるラウンド4(R4)の舞台となる。これで促進区域は、事業者が既に決定しているR1~3の10海域と併せ、計12海域(うち浮体式1)となった。この他、有望区域が7、準備区域が16(うち浮体式10)となっている。

政府は、投資完遂への事業環境の整備として、①PPA(電力販売契約)市場の活性化や脱炭素電源への需要喚起、②海域占用期間の予見性確保や事業完遂に資する金融支援―などさらなる措置の検討を続けている。 ただ、事業環境の不透明感はぬぐえないままだ。それを象徴するように、三菱商事はR1の3案件について判断を保留したまま。また、別の案件では新たにコンソーシアムから外資が撤退するとの観測もある。

関係者からは「こうした動きで洋上風力全体がダメとレッテルを貼られることは避けなければ」といった危機感が示されている。また、電力会社トップも「事業性がバラ色でないとしても、洋上風力という選択肢を今消すことはあり得ない」(JERAの奥田久栄社長)、「洋上風力の予見性は相対的にベター。ネガティブな世間の評価には同意していない」(電源開発の菅野等社長)といった前向きな発信を強めている。

さらにマリコン再編の動きも。大成建設が洋上風力事業などを強化するため、東洋建設を買収すると発表した。
洋上風力市場が正念場を迎える中、その行方を占う試金石となるR4は、どのような展開を見せるのか。


NEWS 03:除染土処分の工程表策定 消費地の理解得られるか

福島との約束を果たせるか─。福島第一原発事故で発生した除去土壌(除染土)の処分を巡り、政府が8月末に県外処分に向けたロードマップを取りまとめた。現在、除染土の大部分は福島県双葉町と大熊町に設置した中間貯蔵施設で保管しており、2045年までの県外での最終処分が法律で決まっている。

国は国際的な安全基準を満たした除染土を公共工事の盛り土などで再生利用する方針を示している。7月には首相官邸で全国初の再生利用が始まった。もともとは東京都新宿区と埼玉県所沢市で実証事業を予定していたが、説明会で住民からの反対を受けて延期となっていた。

再生利用や最終処分の実現には消費地の理解が重要となる。双葉町の伊澤史朗町長は4月、本誌の取材に「福島でつくられた電力の消費地は首都圏だった。この事実が十分に周知されていないことが最大の問題ではないか」と語った。再生利用の受け入れは立地地域に対する理解度のバロメーターと言っても過言ではない。

報道機関の役割も重要になる。原子力問題になると、メディアは政府や電力会社の方針を否定的に報じがちだ。例えば環境省は8月18日、除染土に関する対話集会を福島市で開催したが、共同通信は「処分場所を早く探すべきだ」「全国にばらまくのはおかしい」といった声を取り上げた。ところが、参加者によれば「数値で見せれば学生でも分かってくれる」という前向きな意見も出たという。

福島県在住のジャーナリストである林智裕氏は「毅然とした〝風評加害〟対策、特にメディアによる偏向報道やミスリーディングの初期消火が不可欠だ」と指摘する。科学的知見と国民的理解をいかに結びつけるかが肝要だ。


NEWS 04:気候変動の「正しい」情報 否定・肯定派ともに発信強化

環境省が、気候変動に関する科学的知見を巡る情報発信を強化している。浅尾慶一郎環境相は7月29日の会見で、〝人間活動が温暖化の主要因〟とする気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の見解を挙げ「30年間かけて確信度が高まったことについて、粘り強く広く発信していくことが重要だ」と強調した。かねてから国連も気候変動の「偽情報」への対応に力を入れている。

第一弾で小林史明環境副大臣の動画を公開

気候危機否定派も負けてはいない。米エネルギー省の気候作業部会が、「気候危機論」をばっさり否定する報告書を7月に公表したのだ。「温室効果ガス排出が米国気候に与える影響に関する批判的レビュー」と題し、クリス・ライト長官が集めた5人の科学者がまとめた。CO2は汚染物質でなく便益もあることや、IPCCの気候モデルの検証、人命や経済の災害リスクは時間とともにむしろ減少している、といった内容を13章にわたり解説する。これを基に米政府は環境保護庁(EPA)の「CO2危険性認定」撤回を提案。実現すれば、自動車などのCO2排出規制の根拠を失う。

杉山大志・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹は「米国連邦政府の公式な報告書が出れば、国連や環境省も無視できない。データを一つひとつ検証することこそが大事。この報告書は米国への影響に重心を置いているので、日本版を作ってもよい」と提案している。

まだまだ多い最終保障供給契約 プロ集団が移行をサポート

【日本電力調達ソリューション】

工場をはじめとする需要家のエネルギーについての関心事は、いかに支払う料金を削減するかだ。しかし、高価な電気料金の「最終保障供給」のまま、放置する需要家が数多くいるという。最終保障供給は、小売電気電力事業者との契約が成立していない需要家に対し、地域の一般送配電事業者が供給する最後の手段となる契約。安定供給は担保されるものの、料金単価は通常契約に比べて、20%程度割高に設定されている。長期間利用するとコスト負担は大きくなる。

スタートアップの日本電力調達ソリューションは、そうした最終保障供給に残る需要家をサポートする「電気代削減サポート」を展開し好調だ。設立して数年だが、多くの企業のコンサルティングを手掛け、実績を上げている。

最終保障供給件数は減少しているが依然多い


電気料金を最大20%削減 切り替え後も省エネ提案

電力・ガス取引監視等委員会が7月に発表した「最終保障供給契約件数」は、2205件(約15万kW)に上った。この背景を、同社の高橋優人社長は「2021~22年の電力高騰時に、新電力との契約で苦い経験をした需要家が『電力契約に触りたくない』という考えが強いことや、意思決定者と実際の支払い担当者が異なる企業が多く、料金の高さに気付きにくいことが影響している」と分析する。

このサービスでは、①信頼性の高い小売事業者の選定、②最適プランの提案、③切り替え後のサポート―などを提供する。①の小売事業者の選定では、販売電力ランキングや電源構成、料金の変動性などを評価して需要家に紹介する。②のプラン提案では、燃料費等調整型や完全固定プラン、市場連動+上限キャップ、ハイブリッドプランなどの選択肢を提示する。

③の切り替え後のサポートでは、毎月、効果検証レポートと市場見通しを提供。削減効果を可視化して結果を報告する。高橋社長は「当社スタッフの多くが電力会社出身者なので安心して任せてほしい。最大20%以上、電気料金を削減することが可能だ。未払いなどがある場合を除けば、確実に電気代を削減できる。安心できる電力契約をお届けしたい」と話す。

物価高が騒がれる昨今、最終保障供給の見直しが経営改善の一助になるのは間違いない。

関電による原発新増設構想 政府の資金支援が不可欠

【論説室の窓】井伊重之/産経新聞 客員論説委員

関西電力が東日本大震災後に中止していた原発新増設の調査を開始する。

「失われた15年」を取り戻すには、政府の資金支援が不可欠だ。

関西電力が原子力発電所の新設に取り組む方針を表明し、2011年の福島第一原発事故以来、停止していた原発新増設の動きがようやく再始動する。生成AI(人工知能)の普及やデータセンターの増設などを背景に今後、電力需要の急増が見込まれている中で、原発の新増設に乗り出すことで電力需要の増大に対応しながら、脱炭素電源の確保を目指す構えだ。

関電の原発新増設には、政府の支援も欠かせない。経済産業省が昨年、閣議決定した第7次エネルギー基本計画の中で「原発を最大限活用する」との方針を打ち出し、原発新設を容認する方向に大きくかじを切った。これに呼応する形で関電は原発新設に取り組むことにしたが、新たな原発の開発・建設には莫大な資金を要する。そうした資金需要を賄うため、政府も支援を講じる必要がある。

新設は順調に進むのか


動き出した「美浜4号機」 人材・技術の維持に光明

関電は7月、原発の新設に向け、同社の美浜原発(福井県美浜町)の敷地内外で地質調査を始めると発表した。美浜原発では1、2号機の廃炉がすでに決まっており、現在は3号機だけが稼働している。この3号機も運転開始から49年が経過した老朽原発だ。60年までの運転延長は認められているが、後継原発を確保するため、原発敷地内の地質などを詳細に調べた上で、新たな原発建設の適否を判断するという。地元自治体の首長も関電による調査を容認する姿勢を示している。

同社は福島原発事故の前年の10年に原発新設に向けた調査に着手したものの、翌年の原発事故に伴って調査を中断。そして政府は原発の新増設を10年以上にわたって禁じてきたが、昨年のエネルギー基本計画で原発活用が打ち出されたため、関電の新設計画も再び動き出した。これからは原発建設の「失われた15年」を取り戻す取り組みが求められる。

すでに国内では、老朽化による安全対策費用の増加や経済性を理由にして、24基に上る原発の廃炉が決まっている。ある電力会社首脳は「原発立地自治体との長期的な協調関係を考えれば、原発の廃炉決定と同時に原発新設の計画も公表したかった。だが、政府が原発新増設を容認していなかったため、そうした前向きな計画を表明できず、地元の皆さんには大変なご心配をかけてしまった」と悔やむ。それだけ電力業界内には原発の新増設を求める意欲が強かったと言える。

ただ、原発新増設を長年にわたって封印してきた政府のツケは大きい。昨年6月に公表された原子力白書によると、22年度に大学の原子力関連学科に入学した学生は、わずか185人にとどまり、30年前に比べて半分以下にまで減少している。現在も「原子力」という学科名を残している大学は、東京都立大と福井工業大学の2大学に過ぎないという。原発事故後、国内における原子力技術の裾野は急速にやせ細っており、サプライチェーンの確保も難しくなりつつある。