島根2号機が13年ぶりに再稼働 原子力政策全体への大きな意義


沸騰水型原子炉(BWR)が2基目の復活だ。2013年12月の新規制基準への審査申請から約11年、島根原子力発電所2号機が12月7日に再稼働した。25年1月10日に営業運転を開始する予定。中国電力は島根原発全体の安全対策工事に約9000億円を費やすが、年間約400億円の収支改善効果を見込んでいる。一足先に再稼働した女川2号機と共に、供給力としての期待がかかる。

緊張感が漂う原子炉起動時の中央制御室
提供:中国電力

約13年ぶりの再稼働となり、運転員は半数以上が運転未経験だ。ただ関西電力の原発への派遣やOBの協力などを得て運転技術を維持。「実際に運転してからでないと身につかないスキルもあるが、再稼働すればすぐに把握・理解できるだろう」(原子力関係者)

再稼働の意義は収益改善や供給力確保だけではない。中国電は同原発でプルサーマル発電を計画する。原子力規制委員会の審査や周辺自治体の理解が必要だが、実施となれば3・11後は高浜3・4、伊方3、玄海3号機に次ぐ5基目となる。余剰プルトニウムの削減、明確な消費サイクル確立のためにプルサーマルの意義は大きい。

原子力サプライチェーンの維持という点でも重要だ。再稼働の実績を積む加圧水型原子炉(PWR)を巡っては、関電などが三菱重工と革新軽水炉の共同開発に着手。一方、BWRでは柏崎刈羽の再稼働、大間の建設再開、その先に「今は夢のまた夢」(原発周辺機器メーカー幹部)という東電・東通の新設がうっすらと見えてくる。まずは25年、柏崎刈羽が再稼働の流れに乗りたいところだが……。

全国からの応援に感謝! 震災で強くなった能登の絆


【電力事業の現場力】北陸電力労働組合

能登半島地震では劣悪な環境の中、停電の早期復旧を成し遂げた。

震災を通じて高まった一体感を深めていくのが、今後の労組の役割だ。

2024年の元日夕刻、一家団らんの準備に取り掛かる頃だった。石川県能登地方を最大深度7の揺れが襲った。あれから1年─。能登は絶望に打ちひしがれながらも、復興に向けて歩み出した。

発災当時、北陸電力送配電エリアでは最大4万戸の停電が発生したが、北陸電力グループの総力を結集した復旧作業により約1カ月でおおむね解消。ただ作業は困難を極めた。極寒の中で降りしきる雪、断水で使えぬ水道、相次ぐ余震……。休息しようにも自宅が被災していて帰れない。仮設トイレが未整備で食事を控える組合員さえいた。

雪の中での高所作業が続いた

ある職場では「命の危険」を感じた組合員もいた。事務所が大きな被害を受けたからだ。元日で誰も出勤していなかったが、「平日だったらどうなっていたのか」と恐怖に襲われたという。だが強い精神的負荷が掛かりながらも、安定供給に向けた努力を続けるのが現場の使命だ。

狭い道でも懸命に作業

能登半島地震は北陸電力グループにとって、20年の送配電分離後初の大災害だった。そんな中で停電復旧の責務を果たせたのは、北陸電力と北陸電力送配電がしっかりと連携し、グループ会社や地元の協力会社、ほかの電力会社が一丸となったからだ。電力の安定供給は決して当たり前ではない。当たり前になるように、日々最大限に努力する人たちがいる。

電柱が倒壊し、あちこちで道路が寸断された

停電復旧は「電気を灯して終わり」ではない。地域に根差し、地域と共に成長してきた北陸電力グループとして、声掛けなど被災者の安心感につながる対応を意識した。差し入れをくれる被災者もおり、寒い中でも能登で暮らす人々の温もりを感じながらの作業となった。

応援部隊の高所作業車がズラリ

大きな力となったのは全国からの応援だ。発災後、各地の応援部隊はわれ先にと能登へ向かった。その数、延べ4000人以上。応援部隊だけでなく、ほかの電力労組からも応援メッセージや物資、カンパなどの支援を受け、「会社は違っても電力マンの強い使命感、高い誇りを感じた」(竹原康裕本部書記長)。


政治活動の重要性 底力と誇りを一層深める

北陸電労が加盟する電力総連は組織内議員として、国民民主党から参議院議員(浜野喜史氏、竹詰仁氏)を国会に送り込んでいる。震災ではこの重要性を再認識した。

1月4日には同党の災害対策本部会議に宮本篤本部執行委員長がオブザーバー出席。志賀原子力発電所を巡るフェイクニュースの拡散や現地の状況を報告し、現場の努力を伝えるとともに正確な情報発信を求めた。翌日には、玉木雄一郎代表が激震地の七尾市内や河北郡内灘町、電力関連の後方支援活動拠点などを視察。SNSでは発電所について、一次情報に基づいた情報や復旧作業の現状を発信した。玉木代表の発信力は大きく、「組織内議員の必要性を強く感じつつ、政治活動の大切さをかみ締める機会になった」(同)

宮本氏は今後について、「労働組合には、震災で培った北陸ならではの底力と誇りを一層深めていく役割がある。こうした一体感が、結果として組合員の経済的・社会的地位の向上やグループ企業価値の向上につながっていく」と意欲を燃やす。24年に70周年を迎えた北陸電労。25年度が最終年度となる「中期ビジョン」の実現へ、震災で強固になった絆でまい進する。

COP29で新資金目標に合意 トランプ復活で強まる画餅化懸念


地球温暖化防止国際会議・COP29で、途上国に対する気候資金の新数値目標(NCQG)として2035年までに少なくとも年間3000億ドルを掲げることが決まった。

24年11月11~24日にアゼルバイジャン・バクーで開かれたCOP29は、気候資金の新たな数値目標に合意できるかが最大の焦点だった。インフレ対策などで財政赤字が膨らむ先進国と、「1・5℃目標」達成を盾に取り少しでも多くの支援額を引き出したい途上国が激突。会期は2日間延長され、辛くも合意にこぎつけた。

途上国が当初求めたのは最低年間1・3兆ドルという途方もない水準だ。結局、NCQGに加え「全ての公的・民間の資金源から途上国向けの資金を35年までに年1・3兆ドル以上に拡大するための行動を求める」との決定もなされたが、途上国からは不満が噴出。合意後もインドなどが「3000億ドルでは話にならない」とぶちまけた。

それでも合意に至ったのは、会期中に決まったトランプ第2次政権誕生の影響が大きい。COP30に持ち越しても事態は好転しないと見た途上国が妥協したものと思われる。

会期2日間延長の末、COP29の成果文章を採択し拍手する関係者
提供:時事


真の勝者は中国 産業界は現実の壁を強調

現地入りした東京大学公共政策大学院の有馬純特任教授は「3000億ドルの看板ができても実際に積み上げられるかというと難しい。トランプ政権の間は米国からの拠出は一切期待できず、トランプ政権後もこの4年間が根雪となる。数年前から見えていた『1・5℃の死』がより明確になった。COP30では『野心が足りない』という先進国と、『資金援助が足りない』という途上国の不毛な対立が続くことになる」と解説する。

加えて有馬氏は「今回も真の勝者は中国。したたかに漁夫の利を得た」とも指摘する。ここ数年、中国は先進国にはグリーン製品を、途上国には石炭火力を輸出し、先進国がロシアへの制裁を強める中、中東・ロシアなどとの連携を強化。今COPでは、先進国から資金に貢献するよう求められても応じず、グローバルサウスに対しては二国間支援で影響力拡大を狙った。

他方、同じく現地に赴いた国際環境経済研究所主席研究員の手塚宏之氏は、「欧米中心に産業界関係者と意見交換する中で聞いたのは、トランジション期のさまざまな課題が持ち上がっているという不都合な事実への言及だ」と強調。例えば水素供給インフラ確立のめどが立たず、これをあてにした削減対策が進まない。あるいは、巨額コストを投じても十分な価格転嫁ができるほど、グリーン製品需要が成熟していない、といった悩みだ。「理想として掲げた脱炭素経済が、現実の壁に突き当たり始めた。こうした声は1年前よりも露骨だった」と続ける。

政府からも産業界からも「1・5℃フェーズアウト」の気配が見えたCOPと言えよう。

もの言う株主が東ガス株に照準 問われる脱炭素・成長投資の戦略


2024年は、エネルギー企業を巡るアクティビストの動きが注目された。

脱炭素投資を加速するために株主還元に距離を置いてきた東ガスも方向転換に踏み切った。

2024年11月19日、米ヘッジファンド、エリオット・インベストメント・マネジメントが、東京ガスの株式を5%超保有していることが明らかになったことをきっかけに、アクティビスト―「物言う株主」の存在がエネルギー業界で大きな話題を呼んでいる。

エリオットは、1977年に設立された世界有数の規模を誇るヘッジファンドだ。株式を大量に取得した企業に経営施策の変更、資産や事業の売却、株主還元の実施などを求め、その結果として株価を高めて利益を得ようとするアクティビストとして名を馳せている。

関係者によると、両者は11月末までに複数回のスモールミーティングを開催した。エリオットは、東ガスの75を超える資産・プロジェクトは非中核事業で売却が可能であり、その資産価値は最大1兆5千億円程度に上ると試算。経営陣対し、これらを売却・収益化することで資本効率を改善し、自社株の取得などで株主に還元するよう求めたもようだ。

不動産事業を象徴する新宿パークタワー


成長領域に据える不動産 「バブルの塔」の行方は

関係筋によれば、エリオットが東ガスに売却を迫っているのは、高級ホテル「パークハイアット東京」が入る「新宿パークタワー」のほか、田町や日本橋といった都内一等地に所有する土地などの不動産資産だという。

東ガスは、不動産事業を成長領域と位置付けているが、全ての事業が成果を上げているわけではない。売却候補として名前が挙がる新宿パークタワーも、一部からは「バブルの塔」と皮肉を込めて呼ばれているという。事業内容を精査し、資産・プロジェクトの一部を売却して資本効率の改善を図れば、収益力の向上、株主利益の拡大につながると考えられる。

11月28日の定例記者会見で笹山晋一社長は、具体的な案件に触れることはなかったが、「不動産に限らず資産効率の低いものについては見直しを行う」と述べ、必要であれば売却も視野に入れる意向を示していた。

昨今では、アクティビストによる株式の大量保有をきっかけに、株価が急上昇する銘柄が相次いでいる。企業価値の向上に向けた提案などにより、経営改革が進むとの期待からだ。東ガスも例外ではない。エリオットによる大量保有が明らかになった翌日の始値は、前日終値比15%高の4393円に急伸した。その後は4500円前後で推移。12月11日の株価(終値)4433円に基づく連結PBRは、約1・0倍、予想配当利回りは1・6%となった。

24年にアクティビストのターゲットになった都市ガス会社は同社だけではなかった。5月には、旧村上ファンド系のアクティビストが東邦ガス株を2%程度取得し、主要株主となっていた。「PBR(株価純資産倍率)が1倍を切ると、株価が割安だとみなされアクティビストに狙われやすくなる」と語るのは、大手エネルギー会社の幹部。 エリオットが、東ガスの株式取得を開始したと推定される9月頃の平均株価3500円程度に基づくPBRは0・7倍程度、予想配当利回りは2%程度であるため、業績が堅調に推移していることを考慮すると、確かにこの時点の株価には割安感があったのだろう。

【西部ガスホールディングス 加藤社長】経営合理性の追求とESG経営の徹底を両立 組織の価値観を変える


エネルギー業界が大きな転換点を迎える中、2024年4月に西部ガスホールディングス社長に就任した。

引き続きガスエネルギー事業を中核に据えつつ、ESG経営を徹底することで組織の価値観を変え、脱炭素社会で社員が誇りを持ち続けられる企業としての礎を築く。

【インタビュー:加藤卓二/西部ガスホールディングス社長】

かとう・たくじ 1985年西南学院大学法学部卒、西部ガス(現西部ガスホールディングス)入社。2010年エネルギー企画部部長、16年理事、18年執行役員、20年常務執行役員、21年取締役常務執行役員などを経て24年4月から現職。

志賀 社長就任を打診された際、即承諾したそうですね。

加藤 酒見俊夫会長(現相談役)からの打診に間髪入れず「頑張ります」と答えてしまい、その後に「私のような者で大丈夫でしょうか」と付け足すことになりました。道永幸典社長(現会長)からは、「漫画一コマの間もなく受けたね」とからかわれ、その後、北九州の取引先の間では即答することを「加藤の1秒」と言われていたようです。社長になればさらにいろいろなことにチャレンジできるのですから、私としては「よし来た」でしたね。

志賀 24年4月の就任からこれまでをどう振り返りますか。

加藤 正解が分からない中でのかじ取りだからこそワクワクする反面、経営資源を預かる職責の重みを感じています。同時に、当社グループで働く社員が「自信と誇り、プライドを持って業務に取り組むグループ経営」を実践したいという強い思いもあります。そのためには、経営層が大汗をかいて取り組んでいることを可能な限り感じてもらう必要がある。そこで、私の人となりを含め社長としての考えや方向性を正しく伝えようと、グループ報ウェブサイトに動画配信チャンネル「卓二の部屋」を開設しました。「形式百回は、ありのまま一回に如かず」という気持ちで、さまざまな動画を配信し、経営層とグループ社員の距離を縮めていきたいと考えています。今後は少し業務寄りの内容を増やそうと思案中です。


人的資本経営に注力 社員の誇りを高める

志賀 社長としての抱負は。

加藤 現在の事業環境は、前門の「ガス小売全面自由化」、後門の「脱炭素化」の様相です。そこにウクライナクライシス、電源調達価格の高騰、LNG産出国のトラブルなどが重なり、経験則の無力さを感じています。こうした状況下でも日々現場で働いているグループ社員、そしてその家族が、2050年においても西部ガスグループに勤めていて良かったと誇りを持てる礎を築くことが私の役割です。会社は株主のものですが、社員が幸せを感じながら生きるための源泉でなければなりません。

動画配信などを通じ、社員との距離を縮めている

ESG(環境・社会・ガバナンス)経営の徹底は、そのためのミッションの一つであり、「サステナビリティ経営」「資本コスト経営」「グループネットワーク経営」、そして「人的資本経営」にチャレンジしていきます。特に人的資本経営については、DX(デジタルトランスフォーメーション)化による労働環境の再整備・スマートワーク化やキャリア採用の拡大を進め、ダイバーシティと健康経営、女性活躍推進に取り組みます。文字通り、ワークフォースから西部ガスグループ社員ならではのヒューマンリソースへの転換です。これは、既存組織の価値観や既存制度の文化を変えることになり、一朝一夕に達成できるものではありません。しかし、このパラダイムシフトと脱炭素に向かう経営合理性の追求をパラレルに進めるという、現代ミッションとして挑んでいかなければなりません。何よりも、人材育成とPDCAの徹底、そして新規事業を創出できるマネジメント力を強化する必要があります。

【東北電力 樋󠄀口社長】電力の安定供給維持へ 自己資本を積み増し財務基盤を回復する


東日本大震災で被災した原子力発電所として初めて、女川原子力発電所2号機が再稼働を果たした。

東北地方の東日本大震災からの復興、そして電力の安定供給とカーボンニュートラルへの貢献に向け、大きな一歩を踏み出した。

【インタビュー:樋󠄀口 康二郎/東北電力社長】

ひぐち・こうじろう 1981年東北大学工学部卒、東北電力入社。2018年取締役常務執行役員発電・販売カンパニー長代理、原子力本部副本部長、19年取締役副社長 副社長執行役員CSR担当などを経て20年4月から現職。

志賀 女川原子力発電所2号機が2024年11月に再稼働しました。これまでを振り返ってどのようなお気持ちですか。

樋口 女川2号機は、10月29日に原子炉を起動し、11月15日に14年ぶりに再稼働しました。ここまでに至る経緯を振り返ると、非常に感慨深いものがあります。当社は、発電再開を単なる「再稼働」ではなく「再出発」と位置付けています。これは、「発電所をゼロから立ち上げた先人たちの姿に学び、地域との絆を強め、東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓を反映し新たに生まれ変わる」という決意を込めたものです。また、東北の震災からの復興につながるとともに、電力の安定供給やカーボンニュートラル(CN)への貢献の観点からも大きな意義があると認識しています。

これまで、審査申請に係る事前協議了解や発電所視察などを通じ、真摯に議論、確認をいただいた宮城県、女川町、石巻市ならびにUPZ(5~30㎞圏内)の自治体の関係者の皆さまをはじめ、監督官庁など国の関係当局の皆さま、立地地域の皆さま、安全対策工事に尽力していただいた皆さまに対し、心から感謝を申し上げます。

志賀 再稼働に向けて、現場の士気をどう高めたのでしょうか。

樋口 私自身、現場に頻繁に足を運び「女川2号機の再稼働は、東日本大震災で被災した沸騰水型軽水炉(BWR)で初の再稼働であり、日本中、世界中から注目されている、歴史に残る一大プロジェクト。しっかり頑張ろう」と鼓舞してきました。9月3日の燃料装荷時には「ようやくここまで来ることができた」と、こみ上げてくるものがありました。地震・津波といった自然現象や重大事故に備えた多種多様な安全対策の強化により、震災前と比較して安全性は確実に向上しました。

今後とも、「安全対策に終わりはない」という確固たる信念の下、原子力発電所のさらなる安全性の向上に向けた取り組みを進めていきます。そして、引き続き安全確保を最優先に安定運転に努めるとともに、当社の取り組みを分かりやすく丁寧にお伝えし、地域の皆さまから信頼され地域に貢献する発電所を目指していきます。

【中部電力 林社長】将来の情勢見据えた経営ビジョンを実現し 政策目標にも貢献へ


昨今の情勢変化を先取りした経営ビジョンの実現に全力投球する。

脱炭素ではグループで複数地点の洋上風力の開発に関わるほか、浜岡原子力発電所の審査過程も一つステップアップした。

電気事業以外では不動産をはじめ、中部エリア内外で強みを生かした事業展開を加速させている。

【インタビュー:林 欣吾/中部電力社長】

はやし・きんご 1984年京都大学法学部卒、中部電力入社。2015年執行役員、16年東京支社長、18年専務執行役員販売カンパニー社長などを経て20年4月から現職。

志賀 昨今、「内外無差別の徹底」がより厳格に求められるようになりました。JERAとの長期契約にはどう影響しますか。

 JERAは全ての小売電気事業者を対象に、2026年度以降の長期卸契約の公募を開始し、電力・ガス取引監視等委員会の求める「内外無差別な卸売」に取り組んでいると認識しています。同年度以降は、中部電力ミライズとJERAの長期卸契約も、この公募に基づく契約に置き換わっていくと捉えています。需給のバランスが維持されている状況下においては、内外無差別により電源の流動化が進むことで、幅広い事業者から調達できる環境につながるでしょう。また、中部エリア外からの電源調達が進むことは、エリア外での販売機会拡大にもつながる可能性があります。今後も安定供給を大前提として市場動向を注視し、臨機応変に調達ポートフォリオを組み替えていく方針です。


利益水準拡大に手応え 洋上風力の開発に全力

志賀 21年に「中部電力グループ経営ビジョン2・0」を策定しました。それから数年経過し、電力経営を取り巻く環境は大きく変わっています。ビジョンの進捗、そして見直しの必要性をどう考えますか。

 経営ビジョン2・0では、30年に連結経常利益2500億円以上を目標に、収益基盤の拡大と同時に、事業構造の変革をうたっています。2500億円以上の半分は国内のエネルギー事業で盤石なものとし、残りの半分はグローバル事業を含む新成長分野から生み出すことを目指します。他方、ビジョン2・0策定以降、電気に対する評価は大きく変化し、需要がシュリンクせず伸びていくマーケットと位置付けられるようになりました。海外情勢では地政学的リスクが顕在化。国内では電気料金のボラティリティが高まり、脱炭素要請も厳しさを増す一方です。しかし、これらの経営環境の変化により、優先順位やスピード感などの見直しはあっても、変わらぬ使命の完遂と、新たな価値の創出が必要だというビジョン2・0の根幹は変わりありません。変化を先取りした内容であると自負しています。

足元の進捗としては、グループを挙げて経営効率化・収支向上施策を実施しており、一時的な利益押し上げ要因を除いても2000億円程度の利益水準を維持する力がついてきたものと捉えています。

志賀 需要家の脱炭素電源へのニーズが拡大しています。先述のビジョンでは、30年頃に「保有・施工・保守を通じた再生可能エネルギーの320万kW以上の拡大に貢献」との目標を掲げています。

 24年度上期末時点の当社グループの持分である設備容量は約103万kWで、進捗率は約32%です。24年は1月に太陽光発電事業者3社を完全子会社化し、3月にウインドファーム豊富、6月に八代バイオマス発電所の営業運転開始や西村水力発電所の開発決定をするなど、着実に歩を進めています。

志賀 再エネの主力として期待される洋上風力では、中電グループは4カ所の計画に関わっています。他方、洋上風力は資材高騰や人材面など多くの問題があることも事実です。

 まず、電力需要が伸びていく中で、将来の安定供給の確保と脱炭素社会の実現を同時に達成するためには多様な電源を選択肢に入れておく必要があります。その中でも再エネは最大限導入するべき電源と認識しており、適地のポテンシャルを考えれば洋上風力の開発が重要です。ただテクノロジーや開発コストの上昇など課題が多くあります。ハードルが高くとも、コストダウンやイノベーションなどあらゆる方策で乗り越えられるよう努力していきます。

志賀 政府公募第一ラウンドで3地点を落札したコンソーシアムには、陸上風力で実績のあるグループ企業のシーテックが名を連ねています。

 コンソーシアムの代表企業は三菱商事ですが、発電事業の技術面、そして地元への説明の仕方などは、やはり電気事業の経験がなければ分からない感覚があるかと思います。これらの面でシーテックのノウハウを生かし、当グループが貢献していけるものと思います。

太平洋側の巨大地震と連動 わずか3mmの降灰で停電も


【今そこにある危機】関谷直也/東京大学大学院教授

2011年の東日本大震災以降、富士山噴火は絵空事ではなくなった。

エネルギー供給に支障をきたし、広範囲で甚大な被害が予測される。

富士山の噴火に関心が持たれた契機は3回ある。1983年、元気象庁職員の相楽正俊氏が9月10日前後に富士山が大爆発するという内容の『富士山大爆発』(徳間書店)を出版した。テレビのワイドショーに出演して話題となり、観光客も減った。それ以降、長い間、観光業者を中心に富士山噴火や防災訓練はタブー視されてきた。

次に2000年5月である。富士山近辺で低周波地震が続いた。同年は有珠山や三宅島が噴火した年であり、関心も高まった。それまでと対応も異なり、内閣府を中心としてハザードマップ作成や防災対策の推進がスタートする契機ともなった。この頃、私が富士山周辺でヒアリングやアンケート調査を始めたのだが、「まさか富士山が噴火するはずないだろう」とヒアリング先から白い目で見られたのを覚えている。

現実味を帯びる富士山噴火

そして11年の東日本大震災である。世界中でマグニチュード(M)9クラスの地震が起こった場合は火山活動が活発化する。火山はプレートの動きと深く関係しており、地震によりマグマの状態が不安定になったり、応力の解放によってマグマ上昇が促されたりなど大規模地震の影響を受ける。

過去の富士山噴火も大きな地震の前後で噴火している。江戸時代中期の1707年10月に宝永地震と呼ばれる南海トラフの巨大地震が発生し、12月に富士山が噴火した。平安時代の869年7月に東北地方太平洋沖で発生した貞観地震の前、864年に貞観大噴火が発生して青木ヶ原を形成した。その後887年には仁和地震が発生している。東北地方太平洋沖の地震、南海トラフ沖の地震、富士山噴火は、時期を相前後して起こるものであり、2011年の東日本大震災後は、富士山噴火も想定外とは言っていられなくなってきたのである。

現在は、静岡県と山梨県、地元自治体が富士山の防災対策に取り組むようになってきている。

政府でも18年から20年に内閣府「大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループ」が開催され、富士山噴火対策が本格的に検討され始めた。また今年になり、同「首都圏における広域降灰対策検討会」でさらに検討が進んでいる。


偏西風で首都圏に降灰 交通機関はまひ

富士山が噴火した場合、過去の履歴から、偏西風の影響で火山灰は東側の南関東一帯に拡散し、首都圏で大規模な降灰被害が発生すると考えられている。

もちろん富士山周辺部分では溶岩流、火砕流、火山弾、土石流、融雪型火山泥流、河川への火山灰の流入による洪水など、即時に人命に影響を及ぼすような被害が発生する可能性があり、こちらの方が対策の優先順位が高い。とはいえ火山灰対策もそれなりに考える必要がある。

だが富士山噴火による大規模降灰は、どのくらいの期間、どのくらいの規模(量)で、降灰が継続するかが不明である。かつ風向きによって拡散する状況も変わる。現在は宝永噴火規模の噴火を前提にさまざまな風向きを考えてシミュレーションをしているものの、一想定に過ぎない。 

進化するガス検知器技術 供給設備の保守新時代へ


【技術革新の扉】レーザー式ガス検知技術/東京ガスエンジニアリングソリューションズ

都市ガス保安を一歩進めた画期的な技術「レーザーメタン検知」。

TGESはこの技術を応用し、他のガス検知技術の開発にも注力する。

ガス漏れの可能性がある空間に立ち入らなくても、離れた場所からレーザーを照射するだけで瞬時にガス漏れを検知できる―。

そんな従来になかった技術を実現させたのが、東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)が開発したレーザー式メタン検知器シリーズだ。現在の最新機種は「レーザーメタン・スマート」、「レーザーファルコン2(LF2)」。測定の安定性、信頼性に優れ、ガス配管の点検や定置式モニタリングなど、さまざまな分野で業務効率の改善に貢献している。エネルギー供給設備の保守を新時代に導き、進化し続けている。

最新モデル「レーザーファルコン2(LF2)」


困難だった場所も遠隔検知 業界自主基準にも記載

東京ガスは1980年代から遠隔でメタンを検知する技術を研究し、2003年に世界で初めてレーザー式メタン検知器の実用化を果たした。従来のガス検知器は、吸引式や拡散式が一般的だった。いずれも、ガスがセンサーに触れることで検知する。一方、レーザー式は触れずに遠隔で検知する。採気する必要がないため、高所や床下など立ち入り困難な場所や、ガラス越しでもガスを検知できる。

このレーザー式メタン検知器は、22年に日本ガス協会が発行するガス工作物の技術指針に適切な漏えい検査方法の一つとして掲載され、それ以降、TGESのレーザー式メタン検知器は、多くのガス事業者で保守・点検時に利用されている。

全世界に200社以上ある販売チャネルを通じ、海外でも幅広く普及し、ガス会社のほか、米国ニューヨークでは、消防隊員の装備品としても採用され、火災現場でも活用されている。シリーズの累計販売台数は約7000台。国内より海外の方が採用実績は多いという。

技術の要は、メタンが特定の赤外線を吸収する特性の活用だ。メタンには赤外線を吸収する波長がいくつか存在するが、その中から吸収が強く、他のガスの影響を受けない1・6㎛帯の赤外線を利用している。検知器から照射された赤外線は、配管や壁などで乱反射され、その一部が検知器に戻ってくる。戻ってきた赤外線をレンズで集め、メタンによる赤外線の吸収量を解析する。赤外線が通過した空間にメタンが存在していれば、赤外線は吸収されるため、メタンの存在を検知できる。

なお、赤外線は見えないため、緑色のレーザーガイド光を同じ場所に照射し、点検している箇所が分かる工夫が施されている。また、セルフ校正機能を備えており、電源投入ごとに健全に機器が働くか確認されるため安心して使用できる。

メタン以外のガスにも赤外線を吸収する波長は存在し、波長を変えれば、原理的にはメタン以外のガスも検知することができるため、TGESでは、LF2の開発と同時に他のガス開発用のプラットフォームも開発し、メタン以外のガスに対応した検知器の開発工数を大幅に削減できる環境を整えた。

【米山隆一 立憲民主党 衆議院議員】再稼働の是非は住民投票で


よねやま・りゅういち 1967年新潟県北魚沼郡湯之谷村生まれ。灘高校、東京大学医学部卒業。医師、弁護士。4回の国政選挙落選を経て2016年、新潟県知事に就任。21年衆議院議員選挙で初当選。今年10月の衆院選では柏崎刈羽原発のお膝元である新潟4区で当選した。

医師・弁護士として活躍したが、子どもの頃から夢見た政治への道を諦められなかった。

順風満帆とは言えない政治家生活だが、論戦にめっぽう強く、存在感は際立っている。

豪雪地帯で米どころの新潟県北魚沼郡湯之谷村(現在の魚沼市)で生まれた。幼い頃から勉強が得意で、政治への関心も高かった。「冬場は往復1時間かけて通った通学路が、消雪パイプが整備されて20分で行けるようになった。政治の力はすごいと思った」

地元の小学校卒業後は、新潟大学付属長岡中学校に進学。高校は全国の名だたる進学校を複数受験したが、地方からの受験は体力的にも厳しかった。「最初に灘高校から合格通知が来たので、そこで受験をやめた」

東京大学理科三類に合格したが、ここで人生に〝迷走〟することになる。医学部に進み1992年に医師免許を取得したものの、その後は同大大学院経済学系研究科に進学。「教養学部(1・2年)時代、中曽根康弘政権のブレーンだった政治学者の佐藤誠三郎氏のゼミに参加した。そこで『政治家を目指すなら法律だけ勉強してもダメ。マクロ経済学が絶対に必要』という佐藤氏の言葉に感銘を受けた」。ところが、96年には同大学院医学系研究科に入り、再び医学の道に戻った。「地盤・看板・カバンがなく、人付き合いも得意ではなかった。政治家は半ば諦めていた」。この頃、司法試験にも合格した。

単位取得退学後は放射線医学総合研究所、ハーバード大学附属マサチューセッツ総合病院で研究員として勤務。2003年には医学博士を取得し、東大先端科学技術研究センター特任講師も務めた。

念願の政治家転身を果たしたが、順風満帆とはいかなかった。最初の選挙は05年の衆院選、いわゆる郵政選挙だった。自民党公認で新潟5区から立候補したが、無所属で立候補した田中真紀子氏に敗れた。政権交代が実現した09年の衆院選でも、直前に民主党入りした田中氏に惜敗。その後は医師・弁護士として働きながら、12年の衆院選に日本維新の会から出馬。田中氏と自民党前職の長島忠美氏の後塵を拝した。翌年の参院選にも新潟選挙区から出馬したが、当選できなかった。

政治への思いが実を結んだのは、16年の新潟県知事選だった。泉田裕彦前知事の柏崎刈羽原子力発電所の再稼働「慎重路線」を継承し、無所属で出馬。自公と連合新潟が推薦した前長岡市長の森民夫氏を破り当選を果たした。だが18年4月、〝文春砲〟による買春疑惑で辞任。わずか1年半の知事生活だった。

20年にはタレントの室井佑月さんと結婚。同年の衆院選に無所属で出馬し当選。22年には立憲民主党に入党し、今年10月の衆院選では柏崎市と刈羽村を含む新潟4区で当選した。

小売事業者の経営に直結 インバランス料金制度見直しの行方


【多事争論】話題:インバランス料金制度

電力・ガス取引監視等委員会において、インバランス料金見直しに向けた検討が始まった。

2年間の暫定期間を経て、料金水準の妥当性を疑問視する声も聞こえてくる。


〈電力小売りの事業環境を踏まえた見直しの課題と対策案〉

視点A:小鶴慎吾/エネット取締役需給本部長

小売電気事業者の視点から、インバランス料金制度の見直し議論に対する考えを述べたい。小売市場が価格競争から脱炭素時代を見据えたサービス競争へ移行する中、電力自由化の進展により電源調達環境は改善しつつあるが、系統全体の需給状況の信頼性(広域予備率など)には課題が残る。こうした事業環境を踏まえ、制度を見直す際の課題と対策案を以下の3点に絞って提示する。


現状では同時同量順守に限界 手段の多様化と流動性拡大が不可欠

1点目は、「計画値同時同量順守のための手段」に関する課題である。計画値同時同量は小売事業者が果たすべき重要な義務であるが、供給力確保と正確な計画順守を達成するためには、多様な電源調達手段の確保が不可欠である。しかし、旧一般電気事業者の卸入札において通告変更オプションがないエリアが大半である中、常時バックアップが廃止され、オプションがある場合でもその価値が低下するなどその手段が限られている現状がある。

また、リスク回避手段として期待される電力先物市場やベースロード(BL)市場についても、さらなる活性化が必要だ。先物市場では直近月や半年先の商品が売り出され、流動性が高まりつつあるが、長期商品やその流動性に課題が残っており、BL市場についてもさらなる活性化が必要だ。引き続き小売事業者が計画値同時同量を順守するための電源調達手段やリスク回避手段の多様化、流動性の拡大などの取り組みが必要である。

2点目は、補正料金算定インデックスが参照する「広域予備率」の課題である。現在、需給調整市場における調達不足の影響で、週間・翌々日時点の予備率がエリアごとに顕著に低下し、実態に即した数値にならず、シグナルとして機能していない。この状況下でC値やD値を引き上げても、新たなデマンドレスポンス(DR)を効率的かつ適切に確保できるか、仮に確保できたとしてもその機能が十分か、社会的コストを最小化できるかは不透明である。現在、資源エネルギー庁や電力広域的運営推進機関において、広域予備率の実績検証や今後の在り方が検討されている。今冬に向けた暫定対策も検討中であるが、広域予備率はインバランス料金に直結し、小売事業者、ひいては需要家の負担にもつながるため、見直しには慎重であるべきだ。広域予備率適正化に向けて恒久対策がまとまり、通年で効果が確認できてから、インバランス料金の見直しを検討すべきと考える。

【政策・制度のそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2024年12月号)


適格事業者認定制度の狙い/原発立地地域の電気料金

Q 原子力発電所が立地する地域において、どのような支援策を講じていますか。また、一般家庭や企業の電気料金はどうなっていますか。

A 原子力発電所などの施設が立地する地域には、その立地の状況に応じて「電源立地地域対策交付金」が毎年度交付されています。これは電気を大量消費する都市部で享受している利益を、電気の生産地である立地地域に還元すべきとの考えに基づき措置されているものです。

立地地域の自治体では、この交付金を活用し、道路・水道などの公共用施設の整備や、観光発信・地場産業支援などの地域活性化、医療・社会福祉施設の整備、企業誘致など、さまざまな事業に活用されています。

この交付金を活用し、自治体において実施可能な事業として、原子力発電所などの施設の立地地域の一般家庭や企業を対象として「原子力立地給付金」という事業があります。この給付金事業を実施するか否かは自治体の判断になりますが、実施する自治体においては、毎年度10月1日に小売電気事業者などから電気の供給を受けている家庭や企業を対象に、契約内容に基づいた給付金を給付しています。

また、原子力発電施設などの周辺地域における企業立地支援として「原子力発電施設等周辺地域企業立地支援事業」を実施しています。

雇用を増加させる事業所の新たな立地や設備の増設を行った企業などに対して、支払った電気料金の実績に基づき、電気料金のおおむね4割程度を約8年間にわたって補助金として交付するものです。 このような事業を通じて、原子力発電所などが立地する地域の振興や福祉の向上に取り組んでいます。

回答者:西村 陽/大阪大学大学院招聘教授


Q 原子力発電所が立地する地域において、どのような支援策を講じていますか。また、一般家庭や企業の電気料金はどうなっていますか。

A 原子力発電所などの施設が立地する地域には、その立地の状況に応じて「電源立地地域対策交付金」が毎年度交付されています。これは電気を大量消費する都市部で享受している利益を、電気の生産地である立地地域に還元すべきとの考えに基づき措置されているものです。

立地地域の自治体では、この交付金を活用し、道路・水道などの公共用施設の整備や、観光発信・地場産業支援などの地域活性化、医療・社会福祉施設の整備、企業誘致など、さまざまな事業に活用されています。

この交付金を活用し、自治体において実施可能な事業として、原子力発電所などの施設の立地地域の一般家庭や企業を対象として「原子力立地給付金」という事業があります。この給付金事業を実施するか否かは自治体の判断になりますが、実施する自治体においては、毎年度10月1日に小売電気事業者などから電気の供給を受けている家庭や企業を対象に、契約内容に基づいた給付金を給付しています。

また、原子力発電施設などの周辺地域における企業立地支援として「原子力発電施設等周辺地域企業立地支援事業」を実施しています。雇用を増加させる事業所の新たな立地や設備の増設を行った企業などに対して、支払った電気料金の実績に基づき、電気料金のおおむね4割程度を約8年間にわたって補助金として交付するものです。このような事業を通じて、原子力発電所などが立地する地域の振興や福祉の向上に取り組んでいます。

回答者:森本 要/資源エネルギー庁電力・ガス事業部電力基盤整備課電源地域整備室長

【需要家】電力需要増へ 問われる産業政策の綱さばき


【業界スクランブル/需要家】

「2030年度に約1500万kWの需要増の可能性」―。10月末に国の審議会で示された見通しだ。1月に電力広域的運営推進機関が同様の見通しを示してから9カ月で、増加幅は3倍超に拡大した。二つの数字の定義は異なると思われるが、いずれもデータセンターと半導体工場という高負荷率の大口需要の増加が主因だ。

特に増分の大半を占めるデータセンターは、大規模施設の誘致・集積が進む千葉県印西市のようなケースがある一方、同県流山市や東京都昭島市では地域合意形成でつまずくケースもみられ、慎重な見極めが必要だ。ただし、社会的必要性による導入進展は不可避であり、適正な導入を図る上でも、集積や分散化の誘導など見通しを持ちやすくする施策が待たれる。

半導体工場は、事業化確度はある程度見込める反面、量産体制の確立や景気動向に伴う生産変動、中長期的な投資の不確実性などから、電力需要面で不透明感が残る。国は、足元で、半導体分野に対して4兆円近い支援を決めてきたが、財務省の審議会では戦略的対応の必要性が指摘され、新たな支援方式の検討に着手した。産業振興に向けて多面的な措置を講じ、電力供給事業者を含むステークホルダー間のリスクや負担の分散化を図るべきだろう。

また、いずれの事業も、脱炭素化に向けて再エネや原子力の電力調達を志向すると見込まれる。その際、供給適地への需要誘導が期待される反面、発電事業の投資期間との整合や需要の不確実性をカバーする工夫、さらには、電源アクセスに係る公平性担保といった課題に目を向ける必要がある。(P)

有害廃棄物を無害な資源に再生 新たな価値付与し多様な市場拓く


【エネルギービジネスのリーダー達】坂本光代/ESSH代表

有害重金属を無害化させるセメント混和剤「Z.E.R.O」でアップサイクル事業を展開する。

成分調査から納品まで一気通貫の体制を武器に、多様な分野への参画を目指す。

さかもと・みつよ 1984年青森県生まれ。千葉工業大学工学部生命環境科学科卒業後、富士フィルター工業に入社。約12年間、セールスエンジニアとして、国内製油所・油槽所・航空・自衛隊・製鉄所などを担当。退職後、2019年3月にESSHを設立。

クロムやカドミウム、鉛などの有害重金属が含まれる産業廃棄物を新たな資源に変える―。環境ベンチャー企業のESSH(エッシュ)はこうした特許技術(申請中)を使い、廃棄物をレンガなどの建材に再生させるアップサイクル事業を展開している。2019年3月に坂本光代氏が設立した。


成分調査から納品まで 一気通貫型モデル構築

事業の要となる技術が、有害重金属を化学反応によって無害化させる機能を有する、液体状のセメント混和剤「Z.E.R.O」だ。

鉄くずや汚泥、ガラスなど多様な産業廃棄物をセメントと練り混ぜて固化させる。セメントと廃棄物を混ぜた全体量に対し、わずか約0・4%の液量しか必要としない。粉末状のセメント固化剤と異なり液体であるため、運搬や混合が容易で、全体の作業効率を向上させる。

特筆すべきは、廃棄物を燃やすことなく成形できる点だ。一般的な粉末のセメント固化剤は、対象処理物を粉砕・溶解し、成型させる必要があるが、Z.E.R.Oを添加すると、この熱処理による一連のプロセスを省略できる。燃焼時に排出されるCO2を削減できるため、業界を横断する脱炭素のキーテクノロジーになる可能性を秘める。CO2削減量は自社計算ツールで算出し、可視化する。

同社は産業廃棄物に含まれる成分の調査から薬剤の調合、納品までを一気通貫で行うビジネスモデルを構築している。多様な廃棄物に対応できる体制を整えていることが強みだ。

坂本氏は「SDGs(持続可能な開発目標)や脱炭素の動きも追い風となり当初から手応えがあった」と設立当時を振り返る。予想を上回る市場のニーズにビジネスの可能性を感じた坂本氏は、21年に技術を知財化し、事業を本格化させた。

設立時、30種類程度だった薬剤は、用途や廃棄物の種類に応じて試行錯誤を重ね、今では48種類まで増えた。今後、セメントを使わずに廃棄物とZ.E.R.Oだけで固化させる技術の研究も進めている。

設立から約5年、上下水道汚泥やガラスなどの固化で実績を積み上げた。23年には、ユアサ商事とバウハウス丸栄と協力し、眼鏡メーカー「JINS」店舗内で処理予定だったアイウェアを、リニューアルオープンする店舗内で再利用するプロジェクトに携わった。900本分のアイウェアを循環型セメントパネルに加工し、カウンターや本棚などの一部に利用した。これにより焼却処理で生じていたはずの約45‌kgのCO2を削減した。

エネルギー分野では23年を境に、太陽光、風力発電事業者からの依頼が急増した。「洋上風力のブレードは大規模で、そのまま廃棄する場合は手間がかかり、費用もかさむ。こうした観点から資材に変えたいとのニーズが増えている」と説明する。 坂本氏が環境問題に関心を持ったのは幼少期。自然豊かな青森で生まれ育ち、農園を営む親戚がいたことが影響している。


幼少期からの思いが再燃 技術を継承しビジネス化

千葉工業大学工学部卒業後、国内油槽所向けフィルターなどを手掛ける富士フィルター工業で約12年間、セールスエンジニアとして勤務。新規顧客獲得賞を2年連続受賞するなど輝かしい実績を残すものの、環境問題への思いは常に念頭にあった。

幼少期からの思いに火が付いたのは、退職後にバングラデシュに渡航した時のことだ。ごみ問題の現実を目の当たりにし、リサイクル事業に本格的に取り組もうと決意した。

具体的なビジネスモデルを模索する中、Z.E.R.Oの基となるセメント混和剤の技術を見つけた。これは、高度経済成長期に廃棄土のリサイクルを目的として日本で開発されたものだが、製品化はされていなかった。

現在、この開発者の息子で技術を継承した石田和政技術開発主幹と二人三脚で技術のブラッシュアップに取り組んでいる。

研究開発以外にも取り組みの幅を広げた。「CO2を削減した実感を持ってほしい」との思いで、同社が納品し、削減したCO2量に対し、ポイント付与させる仕組みとアプリを今年リリースした。削減したCO2100kg当たり100ポイント付与され、利用者はアプリを通じて確認できる。ポイントを使い、地元地域の商品や福祉施設利用者の製品を購入できる。環境配慮に加え、地域循環や福祉支援につなげる狙いがある。

事業が軌道に乗る中、坂本氏は二児の母としても多忙な日々を送る。「土日も仕事で大変だが、やりたかったリサイクル事業に携わることは幸せだ。両立はやればできる」と力強く語る。 取材時には目を輝かして今後の展望を語った。リサイクルを通じ新たな価値を生み出す同社の取り組みに期待がかかる。



【再エネ】陸上風力の導入停滞 規制など合理的見直しを


【業界スクランブル/再エネ】

現行のエネルギー基本計画では、陸上風力発電の2030年導入目標は洋上風力の3倍超で約18‌GWとなっている。洋上風力は再エネ海域利用法に基づき着実に案件形成が進められ、公募済容量は約5GWに達する。一方、陸上風力の導入量は約6GWにとどまり、目標の達成には約10‌GWの認定済未稼働案件の運転開始、さらに2GWの追加的案件形成が必要である。

未稼働の要因は、景観や環境影響に関する地域の懸念を踏まえた計画変更、保安林解除手続きの長期化・停滞、環境アセスの長期化とこれらによる事業性低下にある。また、追加的案件形成が伸び悩んでいる要因として、事業適地の開発規制、温対法ゾーニングと事業適地のミスマッチ、インフレや円安によるコスト増、出力制御量の増加、同一地番の活用制限などが挙げられる。

これまでも再エネ導入拡大に向け規制緩和などが進められてきたが、保安林解除のハードルは依然高く、温対法のゾーニングでも国有林や保安林、農地などへの設置を一律で禁止するケースがある。陸上風力の導入拡大には、このような開発規制エリアでも、発生する影響を回避・低減できる場合には設置を認めるなど、適切な環境保全を前提とした合理的な運用に見直すことが望まれる。また、ネガティブゾーニングだけでなく、国・自治体・事業者が連携し、現実的なポジティブゾーニングをより積極的に推進していく必要がある。

環境アセスは10年ごとに実施される法制度の見直しの検討が行われている。環境保全と地域共生を大前提としながら、陸上風力導入拡大につながる合理的な見直しとなることを期待したい。(S)