【エネルギービジネスのリーダー達】坂本光代/ESSH代表
有害重金属を無害化させるセメント混和剤「Z.E.R.O」でアップサイクル事業を展開する。
成分調査から納品まで一気通貫の体制を武器に、多様な分野への参画を目指す。
さかもと・みつよ 1984年青森県生まれ。千葉工業大学工学部生命環境科学科卒業後、富士フィルター工業に入社。約12年間、セールスエンジニアとして、国内製油所・油槽所・航空・自衛隊・製鉄所などを担当。退職後、2019年3月にESSHを設立。
クロムやカドミウム、鉛などの有害重金属が含まれる産業廃棄物を新たな資源に変える―。環境ベンチャー企業のESSH(エッシュ)はこうした特許技術(申請中)を使い、廃棄物をレンガなどの建材に再生させるアップサイクル事業を展開している。2019年3月に坂本光代氏が設立した。
成分調査から納品まで 一気通貫型モデル構築
事業の要となる技術が、有害重金属を化学反応によって無害化させる機能を有する、液体状のセメント混和剤「Z.E.R.O」だ。
鉄くずや汚泥、ガラスなど多様な産業廃棄物をセメントと練り混ぜて固化させる。セメントと廃棄物を混ぜた全体量に対し、わずか約0・4%の液量しか必要としない。粉末状のセメント固化剤と異なり液体であるため、運搬や混合が容易で、全体の作業効率を向上させる。
特筆すべきは、廃棄物を燃やすことなく成形できる点だ。一般的な粉末のセメント固化剤は、対象処理物を粉砕・溶解し、成型させる必要があるが、Z.E.R.Oを添加すると、この熱処理による一連のプロセスを省略できる。燃焼時に排出されるCO2を削減できるため、業界を横断する脱炭素のキーテクノロジーになる可能性を秘める。CO2削減量は自社計算ツールで算出し、可視化する。
同社は産業廃棄物に含まれる成分の調査から薬剤の調合、納品までを一気通貫で行うビジネスモデルを構築している。多様な廃棄物に対応できる体制を整えていることが強みだ。
坂本氏は「SDGs(持続可能な開発目標)や脱炭素の動きも追い風となり当初から手応えがあった」と設立当時を振り返る。予想を上回る市場のニーズにビジネスの可能性を感じた坂本氏は、21年に技術を知財化し、事業を本格化させた。
設立時、30種類程度だった薬剤は、用途や廃棄物の種類に応じて試行錯誤を重ね、今では48種類まで増えた。今後、セメントを使わずに廃棄物とZ.E.R.Oだけで固化させる技術の研究も進めている。
設立から約5年、上下水道汚泥やガラスなどの固化で実績を積み上げた。23年には、ユアサ商事とバウハウス丸栄と協力し、眼鏡メーカー「JINS」店舗内で処理予定だったアイウェアを、リニューアルオープンする店舗内で再利用するプロジェクトに携わった。900本分のアイウェアを循環型セメントパネルに加工し、カウンターや本棚などの一部に利用した。これにより焼却処理で生じていたはずの約45kgのCO2を削減した。
エネルギー分野では23年を境に、太陽光、風力発電事業者からの依頼が急増した。「洋上風力のブレードは大規模で、そのまま廃棄する場合は手間がかかり、費用もかさむ。こうした観点から資材に変えたいとのニーズが増えている」と説明する。 坂本氏が環境問題に関心を持ったのは幼少期。自然豊かな青森で生まれ育ち、農園を営む親戚がいたことが影響している。
幼少期からの思いが再燃 技術を継承しビジネス化
千葉工業大学工学部卒業後、国内油槽所向けフィルターなどを手掛ける富士フィルター工業で約12年間、セールスエンジニアとして勤務。新規顧客獲得賞を2年連続受賞するなど輝かしい実績を残すものの、環境問題への思いは常に念頭にあった。
幼少期からの思いに火が付いたのは、退職後にバングラデシュに渡航した時のことだ。ごみ問題の現実を目の当たりにし、リサイクル事業に本格的に取り組もうと決意した。
具体的なビジネスモデルを模索する中、Z.E.R.Oの基となるセメント混和剤の技術を見つけた。これは、高度経済成長期に廃棄土のリサイクルを目的として日本で開発されたものだが、製品化はされていなかった。
現在、この開発者の息子で技術を継承した石田和政技術開発主幹と二人三脚で技術のブラッシュアップに取り組んでいる。
研究開発以外にも取り組みの幅を広げた。「CO2を削減した実感を持ってほしい」との思いで、同社が納品し、削減したCO2量に対し、ポイント付与させる仕組みとアプリを今年リリースした。削減したCO2100kg当たり100ポイント付与され、利用者はアプリを通じて確認できる。ポイントを使い、地元地域の商品や福祉施設利用者の製品を購入できる。環境配慮に加え、地域循環や福祉支援につなげる狙いがある。
事業が軌道に乗る中、坂本氏は二児の母としても多忙な日々を送る。「土日も仕事で大変だが、やりたかったリサイクル事業に携わることは幸せだ。両立はやればできる」と力強く語る。 取材時には目を輝かして今後の展望を語った。リサイクルを通じ新たな価値を生み出す同社の取り組みに期待がかかる。