【私の経営論(中)】津田維一/富士瓦斯社長
前回は当社のカーボンニュートラルと防災市場における取り組みについて書かせていただいた。今回はそのような取り組みを推進する企業風土になった契機である都心戦略について説明していきたい。
国内のLPガス販売数量は1996年の2000万tをピークに減少を続け、2020年度には1294万tとなり、市場規模は3分の2にまで縮小している。96年というのは液石法の大改正があった年でもあった。当時、ブローカーによる「ビン倒し」と呼ばれる顧客争奪戦が激化しており、LPガス業界にも弊社にも大きな転換点となった年であった。
フジガスは54年の創業以来、卸売りとオートガス販売に注力していたが、80年代以降は販売店の商権買収と郊外への営業所の出店によって、直売を中心とした業態へと転換を進めていた。一方で創業者は成長が見込めないLPガスに見切りをつけ、さまざまな多角化を行い、脱LPガス路線を目指していた。95年、26歳の私は北海道の同業他社での修行を終え、取締役社長室長として着任した。当時は創業者の後を受けた実母が社長に就任しており、多角化もうまくいかず、ビン倒しが激化しはじめ、社内は混乱していた。
安易な多角化の愚を悟った私はガス以外の事業を全て整理し、LPガスに特化することで成長戦略を描けないかを考えるようになった。とはいえ、資本力のないフジガスが価格差別化で勝負するのは自殺行為であり、簡単には答えが見つからなかった。考え抜いた結果、今でも当然のように行われているハウスメーカーに対する設備の無償貸与による新規物件の獲得を停止し、LPガスの新たな市場を切り開く道を選択した。この選択は社内では多くの反対を受け、幹部社員の退職などもあったが、自社のジリ貧状況を理解していた一部の社員の後押しもあって策定されたのが「都心戦略」である。
他社が敬遠する質量販売 LPの強みと積極展開
96年にスタートした都心戦略は、①同業他社との協業による効率化、②LPガスの都心需要の開拓、③都市ガス市場での機器販売、という三つの施策からなる。
①同業他社との協業については、配送の受委託を推し進め、世田谷区にある充填工場の稼働率をあげるとともに、拠点を統合、面的集約によって顧客密度を上げ、配送効率、業務効率をあげることができた。むやみな商圏の拡大、直売顧客数への固執をやめたことで、同業他社との協業、協調路線に転換することが可能となり、その結果、不毛なビン倒しによる損失も大きく軽減できた。現在では全国の協業先のご協力もあり、47都道府県でのガス供給を行っている。
②都心需要の開拓においてまず取り組んだのが、小型容器による質量販売である。LPガス販売の多くは50kgもしくは20kg容器によるメーター販売であり、小型容器を使った売り切りの質量販売は、手間がかかる、儲からない仕事として、多くの販売事業者から敬遠されていた。当社も、依頼があってもお断りをしている状況であった。しかし、LPガスの特長である「可搬性」「簡易性」「安全性」を最もアピールすることができる販売形態であり、なんとか販売を拡大できないかと考えていた。
その時に出会ったのが屋外暖房機の「パラソルヒーター」であり、大井競馬場での大量採用を契機に質量販売の専従部隊が編成された。その後も、燃焼によるCO2によって蚊をおびき寄せる蚊取り機「モスキートマグネット」の取り扱いを開始。勢いに乗る質量販売部隊は、当時増えつつあった食のイベントや音楽フェスの飲食ブース、学園祭の模擬店などのLPガス供給を軒並み獲得していった。

そして、この快進撃を支えたのは保安最優先の姿勢であった。現在でも業界内で質量販売というのは事故が起きやすいとのイメージがあり、敬遠されている。実は配管を使った供給よりもシンプルであり、事故が起きづらいはずなのだが、保安意識の低い販売店が充分な保安上の措置を怠るために事故が起きてしまっていた。そこで私たちは質量販売であっても保安機器としてガスメーターを設置するなど、さまざまな保安対策を講じることとした。その分コストも増加するが、保安最優先の考え方を理解していただけない場合には販売をしないという姿勢が結果的にお客さまからの支持につながったと考えている。防災需要など都心部でのLPガス市場の可能性は奥深く、今後地方都市でも大いに期待できると確信している。
都市ガス向けに機器販売 クレーム減手法が好評
③都市ガス市場での機器販売については、LPガス販売事業者として蓄積したガス器具の販売、施工のノウハウは、地元の都市ガスユーザーに対しても十分アピールできると考え、集合住宅の給湯器交換に絞ってマーケティングを行うことにした。LPガス市場では、集合住宅の給湯器はオーナーや管理会社から無償での交換を求められるケースも多く、社内で不安の声もあったが、質量販売同様に専従部隊を作って知恵を絞り、「壊れない給湯器プラン」の販売を開始。都市ガスエリアの集合賃貸住宅の管理会社をターゲットにし、壊れた際に一台一台交換するのではなく、「期限管理による壊れる前の一括交換」で管理の手間と入居者のクレームを減らす手法は好評を得た。事前の現場調査による機種や設置状況の物件情報の蓄積によって故障時のスピード対応も可能となった。分譲集合住宅への販売も開始し、5年ほどで都市ガス市場での機器販売は売り上げの3分の1を占めるまでになった。
これらのLPガスにこだわった施策はリフォーム、太陽光発電、ウォーターサーバーといった多くの同業他社の多角化戦略とは一線を画するものであり、現在の発電機販売やカーボンニュートラルLPガスの販売につながる土壌となったと考えている。







