【ガス】ホルムズ封鎖が招く危機 同じ轍踏まない対策を

【業界スクランブル/ガス】

イランとイスラエルは一時的な停戦に入った。しかしこの戦争には、国家理念・宗教・地政学的利害などが複雑に絡み合った構造的対立が背景にあり、再発リスクは常に存在すると見る方が現実的だろう。そしてイランにとって、ホルムズ海峡封鎖は「欧米と湾岸諸国に打撃を与える象徴的手段」として選択肢にあると見ていい。もしホルムズが封鎖されるとLNGはどんな影響を受けるのか。

ホルムズ海峡内にあるのはカタールプロジェクト(世界シェア約2割)。現在、日本のカタール産LNG輸入量は年約300万t(シェア4%)とわずかで、ホルムズ閉鎖の直接的影響は大きくない。一方、中国のカタール輸入量は約1800万t(同24%)と日本の6倍になる。また韓国は約500万t(同10%)、台湾は約400万t(同18%)と日本よりも多い。よってホルムズ封鎖時には中国、韓国、台湾がスポットを買いあさる可能性がある。

2020年末に発生したJKM高騰は、主に中国、韓国による冬場のスポット買いあさりに起因しており、ホルムズ封鎖でも同様の状況が起こり得る。さらに欧州では天然ガス不足が常態化しており、ロシア産ガス代替として購入しているLNGの約1割がカタール産だ。カタール産がストップすると、TTFが急騰してJKM高騰の火に油を注ぐ可能性がある。

20年末のJKM高騰は、制御不能のJEPX高騰を招いた。ホルムズが封鎖されると、結果として同様の状況を招く可能性がある。政府も民間も今後の動向を注視するとともに、今からさまざまなリスクヘッジ策を講じることが急務だろう。(G)

米テック大手が原発に注目 AI事業拡大へ長期契約加速

【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題

チャットGPTなど生成AIの普及は各産業分野で不可逆な存在となるが、グーグルなど一般的なインターネット検索が1件当たり0.3W時のであるのに対し、生成AIは約10倍の2.9W時とされ、電力消費量が激増している。

2023年、米国としては35年ぶりの新設原発となるジョージア州ボーグル3号機が稼働したが、一方、AIの膨大な電力需要に対応するため、GAFAMなどは、既存の電力供給に頼るのではなく、安定した独自電源、特に昼夜を問わず出力が安定し、CO2を排出しない原発に注目している。

特にマイクロソフト社は30年までに「カーボンネガティブ」を目指しており、昨年コンステレーション・エナジー社と相場の2倍近い1MW時当たり最低100ドル以上の固定価格で20年契約し、経済的理由で停止されたスリーマイル島1号機を27年に再稼働させ、発電所の名称変更も行う予定だ。1979年に部分炉心溶融事故を起こした2号機とは違い、1号機は事故と無縁で安全運転を続けた実績を持つが、退役した原発の再稼働という前例のない挑戦となる。4年の期間と最低16億ドルの費用、そして数千人の作業員が必要になる。さらにアマゾン社は2030年までに全ての購入電力をカーボンフリーにする予定で、ペンシルベニア州サスケハナ原発の広大な隣接地を取得し、直接電力供給を受ける形で最大960MW級のクラウド用データセンター(DC)を建設中である。一方、メタ社はイリノイ州クリントン原発から20年間の供給契約を締結した。

こうした流れはAI事業の拡大に必要な電力の確保に独自に動く本気度と、その需要に応じようとする米国電力会社の取り組みが読み取れる。

わが国でもDCの国内立地は欠かせない。GAFAMはおおむね日本国内でのDC拠点の増設を公表している。生成AIによる電力需要が急増すれば、電力不足は避けられない。DC整備に加え、安定稼働のための電力供給体制も重要だ。

現状の電力会社からの電力調達ではなく、独自電源の確保に動く場合、再稼働審査が進む泊や稼動中の玄海などの原発は、広い敷地や海水による冷却、高圧送電線といった条件を備えており、DCの立地として相性が良いとも言える。生成AIはあらゆる産業に波及し、各国の国際競争力の維持・強化のためにも欠かせない。しかし、生成AIの発展は電力不足を招来しエネルギー政策を破綻させる規模になり得るリスクも内包する。国家のエネルギー戦略の新たな視座が加わった。今後は、AIデジタル競争力とエネルギー安全保障を一体として考える政策が重要となる。

脱原発方針を決定し既に実行したドイツや台湾、一方、原発を推進する中国と米国。韓国は国内の政治の混乱とは裏腹に原発比率を高めつつ今年6月にはチェコへの原発輸出に成功した。各国のAIデジタル政策の今後を一つのエネルギー戦略の視座として注目したい。

(平田竹男/早稲田大学大学院スポーツ科学研究科教授・早稲田大学資源戦略研究所所長)

ブルームバーグが伝える中国EV産業の実態

【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

欧米では、高い車両価格が障壁となって、このところEVの導入計画が後退気味である。こうした中、中国においては順調に価格が下がり、販売台数も伸びている。いまや世界のEV導入の模範として賞賛する報道も多い。

その中国のEV産業について、米国ブルームバーグ誌が継続的に報道している。そこでは、弱い需要と過剰な生産能力に焦点が当てられる。生産設備の平均的な稼働率は50%程度にとどまり、販売促進のための値下げが繰り返される。余剰在庫対策として、新車をいったん登録して中古車として販売することも行われる。

利幅縮小の中、最大手BYDの純負債は約6.5兆円に上ると、香港の会計コンサル会社GMTが試算。負債膨張の要因の一つは下請けへの買掛金の増加だ。BYDの平均支払いサイトは275日(2023年)で、他国の自動車メーカーの45~60日よりも相当長い。下請けは製品納入後、一種の電子手形で支払いを受けるが、手形の満期までの間、これを担保にした借り入れや、割引での現金化も行えるとのこと。要は下請けの資金繰りは、負債が膨らむメーカーの信用が頼みなのだ。

中国政府は、こうしたメーカーおよび下請けの財務状況に懸念を募らせ、5月にBYDが34%もの値下げを公表したのを契機に、メーカー各社を呼んで、熾烈な値下げ競争に警告を発した。

近年、中国製のEVの性能の向上は目覚ましいものがある。これまでの価格の低下には、車載の蓄電池をはじめとする技術革新が貢献してきたことは疑いない。一方、一連の記事が明らかにしたのは、設備余剰を背景にした「利益の叩き合い」である。このビジネスモデルの「持続可能性」は、今後とも注意深く見守る必要がありそうだ。

(水上裕康/ヒロ・ミズカミ代表)

温暖化に傾斜したG7にツケ 重要鉱物行動計画は有効か

【ワールドワイド/環境】

6月16~17日、カナダのカナナスキスではイスラエル・イラン戦争、重要鉱物、AIなど、七つの個別テーマに関する首脳声明が出された。第2期トランプ米政権は安全保障、貿易(関税)で友好国に対して容赦ない対応を取っており、G7でのコンセンサス形成は第1期トランプ政権時以上に難しい。議長国カナダは国際協調やマルチの枠組みに関心の低いトランプ政権と他のG6との間で共同歩調をとれる分野に絞ることを選んだ。

今回、採択された「重要鉱物行動計画」の第一の柱は重要鉱物の採掘・精錬・取引段階で労働基準、汚職防止、環境保護を順守することで生ずるコストが適切に市場で反映されるよう、基準に基づく市場促進のロードマップを策定するというものだ。名指しは避けているが、基準を満たしていない中国への依存低下を狙っている。第二の柱はG7および世界中で責任ある重要鉱物プロジェクトに対する投資拡大のため、新興鉱業国、途上国のパートナーと連携し、国際開発金融機関や民間機関による資本動員を図るというものだ。第三の柱は重要鉱物の加工、代替素材開発、リサイクルなどの分野での研究開発の推進である。

行動計画の最大の課題はベースメタル(銅、アルミ)と異なり、採掘、生産、取引量が小さい重要鉱物において労働基準、汚職防止、環境保全の確保に関する基準を確立し、サプライチェーンを通じての順守をトレースすることが可能か、可能であるとしても費用対効果的か、G7以外の新興国、途上国の同調を得られるかという点である。

より根源的な問題は脱炭素(クリーンエネルギー転換の推進)、安全保障(対中依存の低下)、経済安定(インフレ防止、財政安定など)の同時追求が事実上、不可能という点だ。対中依存の低下と経済安定を追及すれば、脱炭素の遅延を許容する必要があり、米政権は志向している。同時追及は欧州の路線であるが、大規模な政策支援が必要で、最終的に国民、企業の負担増大につながる可能性が高い。

G7の関心が温暖化防止に大きく傾斜した結果、クリーンエネルギー技術や重要鉱物の対中依存が増大し、新たな経済安全保障上の脅威をもたらしていることは皮肉である。今回の重要鉱物行動計画が有効な一打となるのか、楽観は許されない。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院客員教授)

【新電力】社会的にも不利益 自主的取り組みの厄介さ

【業界スクランブル/新電力】

大手電力会社の自主的取り組みとして始まったグロス・ビディング(GB)の廃止が決まった。市場流動性向上、価格変動抑制、透明性向上効果を狙った電力・ガス取引監視等委員会の施策で、2023年の休止を経ての措置だ。

絶対買い、絶対売りを許容する本制度では、売買両札が約定価格近辺に集まらないので適正相場周知効果は乏しく、21年の需給ひっ迫時には絶対買いによる買い上り、価格暴騰の一因となるなど弊害もある。本稿で触れたいのは、行政指導と事業者の間合い。GBの「休止、廃止」の主語は監視委だが、制度上は「自主的取り組み」なのだ。

GBに限らず限界費用玉出し、内外無差別などの自主的取り組みには、「法的根拠が電事法総則以外にないが監視委がよいと考える施策」を「副作用の評価が不十分なまま」「大手電力が制度側との摩擦を嫌って我慢」「自主対応の外観維持」の構図がある。

弊害が生じた時に誰が責めを負うのか不明な措置が、行政機関の振舞として妥当なのか、このような措置を甘受する大手電力の対応が株主価値をき損しないのか、各専門家に聞いてみたいものだ。

この構図はエネ庁施策にも見られる。電力自由化が額面通りであれば、安全・保安系と消費者保護規制順守を前提に、各社が自発的に事業判断すべきだ。だが、事後規制が法的根拠なく導入され、商行為や発電所運用で不利を被るのに各社は空気を読み抗わない。他業界でもほぼ見かけない行政の恣意と業界の事なかれ主義が、業界全体の体力、将来への展望、安定的かつ経済的な電力供給をき損し社会厚生を下げている。(S)

メタが大手電力と長期契約 既存原発の長期活用モデル確立

【ワールドワイド/市場】

電力大手コンステレーション・エナジー(CEG)社およびIT大手メタ社は6月3日、CEG社がイリノイ州に保有するクリントン原子力発電所(BWR)で発電された電力112・1万kWを20年間にわたり供給する電力購入契約(PPA)を締結した。イリノイ州が原発を支援するために確立したゼロエミッションクレジット(ZEC)制度の終了後、2027年6月に開始する。CEG社は同契約に基づきライセンス更新に伴う投資を行うことができるとし、ZECの後継モデルとなる民間企業主導の支援策として注目されている。

ZEC制度が導入された背景には、安価な天然ガス火力の増加と再生可能エネルギー拡大に伴う卸電力価格の長期低迷で、州内の原子力発電所の経済性が悪化していたことがある。16 年にエクセロン社(当時)が保有するクリントン原子力発電所などの早期閉鎖を表明したことで、地域経済・雇用・税収への影響と、温室効果ガスを排出しない電源としての価値が改めて注目された。結果、「将来のエネルギー雇用法(FEJA)、2016年」が成立してZECが導入され、同発電所の運転継続が実現した。

CEG社はPPA締結を受け、発電所の出力を約3万kW増強する計画を示し、将来的に敷地内に小型モジュール炉(SMR)などを増設する構想も検討している。クリントン原子力発電所の運転ライセンスは現在、47年までの60年運転を目指して原子力規制委員会(NRC)が審査中で、PPA締結は、そのライセンス更新と運転継続の正当性を支える根拠としても注目されている。ドミンゲスCEO(最高経営責任者)は米国全土で展開するために協議を進めていることに触れ、発電所のライセンス更新と長期運転に必要な投資を支える経済的後ろ盾を得られることを望んでいると語った。

IT大手はデータセンター需要に備え、長期的かつ安定的な電源確保を急いでいる。短期的には天然ガス火力に依存しつつも、原子力との長期契約によって脱炭素目標の達成を図る姿勢だ。調査会社によると、昨年以降発表された米国における新規の商業用原子力案件の8割近くにIT大手が参画している。AI時代の新たな電力需要と脱炭素の要請が交差する中、PPAによる既存原子力の長期活用モデルは、今後の原子力活用における重要な戦略的選択肢の一つとなり得る。

(長江 翼/海外電力調査会・調査第一部)

【電力】需給試算を公表 長期的視点からの支援を

【業界スクランブル/電力】

電力広域的運営推進機関は6月25日、2040年および50年の電力需給試算を発表した。複数の機関が需要、供給について複数の前提に基づいて、いくつかのモデルケースを設定している。

需要においては、どのケースにおいても、人口減少や省エネの進展により家庭部門の電力需要は減少するが、データセンターなどのDX需要、EV普及や自家発廃止などのGX需要増の見込みが異なり、50年で9500億~1兆2500億kW時と想定されている。また、デマンドレスポンス(DR)や蓄電池の導入状況によるロードカーブの変化も織り込まれている。

供給においては、再エネと原子力の供給量で複数シナリオが想定されたほか、火力発電所の主に経年リプレースが進むかどうかでケースごとの差異が大きくなっている。

結論として、需要は低い想定でも足元より増加するがその量にはかなり幅がある。供給は、火力の経年リプレースが行われなければ大幅に不足するため、火力電源の継続的活用と新設・リプレースが必要との示唆が得られる。

しかし、需要の見通しには不確実性があり、環境政策や技術進展が不透明な中で、事業者が十分な火力電源への投資を行うにはリスクが高い。再び電力不足を起こさないようにするためにも、長期的視点から投資促進策、環境技術開発、燃料確保の支援などの施策が必須だ。 この想定自体、需要と供給が別々に推定されており、電源の費用が需要に反映されないといった問題が指摘されている。また、3~5年ごとに見直されることになっており、政策もそれに応じて見直される必要があるだろう。(K)

メタネーション設備の実証運転開始 地産地消モデルを確立しコスト低減

【西部ガス】

西部ガスが6月、メタネーション設備の実証運転を始めた。地域原料を活用した九州独自の「地産地消モデル」として、業界内でも注目されている。

2023年に環境省の補助事業「地域共創・セクター横断型CN技術開発・実証事業」の採択を受け、同社のひびきLNG基地で設備の建設工事を進めてきた。中核となるメタネーション装置(IHI製)に加え、PEM(固体高分子膜)型水電解装置、CO2分離回収装置、圧縮水素トレーラーや液化CO2ボンベの受け入れ設備などで構成されている。

中核となるメタネーション設備

一連の設備運用の知見を得ることに加え、①地域原料を組み合わせることによるコスト削減効果の見極め、②eメタン製造コスト最適化システムの運用と評価、③CO2回収装置の運用と評価、④クリーンガス証書発行におけるCO2トレーサビリティプラットフォーム(PF)の運用と評価―の計4点の検証を進めていく。

メタネーション反応に活用する水素は、水電解装置による水素や近隣工場からの副生水素を活用。CO2は、ひびき基地の都市ガス製造の熱量調整で発生したものを回収して活用するほか、福岡市の下水処理センターからも調達する計画だ。


運用の最適化でコスト減 再エネ余剰の課題解決

運用する上でのポイントは、自動化による最適制御だ。「九州では再生可能エネルギーの余剰が課題だ。余剰時における低価格帯の電力市場価格を見極めながら、コストミニマムな運用を目指す。一連の運用は『最適化システム』によって自動的に制御する。地域資源の最適な組み合わせでコスト低減を実現する『ひびきモデル』を確立していきたい」(西部ガス関係者)

実証現場のひびきLNG基地

今回の実証では、多様な事業者や組織が連携している。最適化システムやCO2トレーサビリティPFを開発するIHI、このPFを活用したCO2削減を評価する日本ガス協会、CO2分離回収装置を開発するJCCLや九州大学、ひびきモデルを参考に各地で地産地消を検討する北海道ガスや広島ガス、日本ガスなどが参画している。まさに業界を挙げたメタネーションの取り組みが各地で広まりつつある。

ペトロナスが若手育成に注力 脱炭素実現へ多国間の連携重視

【ワールドワイド/資源】

6月中旬、マレーシア国営石油会社ペトロナスが主催するEnergy Asia 2025、および若手人材向けの脱炭素をテーマとした相互交流型のサイドイベントFuture Energy Leaders(FEL)が実施され、筆者も参加する機会を得た。両イベントへの参加を通じて得られた二つの気づきについて述べる。

第一に、東南アジア諸国で若年層がいかに重視されているかという点だ。東南アジアは若年層の人口比率が高い。労働人口に対する若年依存度はG7諸国の平均が30%前後であるのに対し、ASEAN地域では49%だ。今後脱炭素という困難な課題に、民主主義制度の中で立ち向かう上で、若年層の理解・支持・参画が不可欠との認識が繰り返し強調されていた。

また、会場となった「PETRONAS Leadership Centre」の設置にも、未来人材への投資を重視する姿勢が表れている。同施設は2023年に開設された非技術系向けの研修施設で、FELのような相互交流型のプログラムの実施も念頭に、約100名全員を収容できる大規模な宿泊施設と一体で作られている。

敷地面積も東京ドーム約2・8個分と巨大で、自然との調和を意識した吹き抜け構造を備え、大学のキャンパスのような印象があった。これほどの規模と環境を構築することは、人的資本への投資を真剣に捉えている証左と言えるだろう。

第二に、ペトロナスの脱炭素への積極的な姿勢と、その根底にある「連携・協調」の精神だ。

脱炭素がテーマのFELもしかり、Energy Asia本体においても脱炭素が前面に出されていた点が印象的だった。近年世界的には地球温暖化防止国際会議・COP26で見られた脱炭素ブームとは一線を画し、安全保障に重きを置く動きが見られる中、ことさら脱炭素が強調されていた点は印象的であった。

筆者がこの姿勢の根底にあると感じたのは、マレーシアが「連携」や「協調」といった価値観を重視している点だ。FELや本会においても、脱炭素以外の文脈でもこれらの言葉が繰り返されていた。彼らは、自国の限界を正しく認識した上で、先進諸国と積極的に連携し、それを補完していくという考え方が強い。この多国間の連携や協調を重視する価値観と、人類共通の問題である脱炭素の実現は親和性が高く、これこそが、ペトロナスが脱炭素へのコミットを強く示し続ける背景にあるのではないかと感じた。

(若佐大夢/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

ペロブスカイト開発の現在地㊤ 中国の大規模展示会で見えた商品化競争の最前線

【識者の視点】薛婧/イーソリューションズ執行役員副社長

日本の「国産独自技術」として期待がかかるペロブスカイト太陽電池。

国内ではあまり報じられない、中国の開発競争の現状をレポートする。

2024年に世界で導入された太陽光発電の総容量456GW(1GW=100万kW)のうち、51%を占めるのが中国だ。結晶シリコン(Si)太陽電池サプライチェーンの8割以上を中国が担っている。

多様な最新技術が披露された

その中国で6月11~13日に、太陽光発電関連の展示会「SNEC」が開催された。会場はアジア最大規模の「上海国家会展中心」で、東京ビッグサイトの4倍の広さを誇る。太陽光発電に関連する3000社以上が出展し、国内外の産学が参加するカンファレンスも同時に行われ、参加者数は50万人以上と報告されている。特に注目を集めたのが、日本でも次世代型太陽電池として期待されている「ペロブスカイト」。本稿ではまず、SNECでのペロブスカイトに関する展示内容や、各企業の最新動向を報告する。


新興企業や異業種が参入 多様な製品が一堂に会す

SNECでは、10数社以上のペロブスカイトメーカーが出展した。専業メーカーであるUt-molightやRenshineのほか、製品ラインの拡充を図りペロブスカイト事業に参入した結晶Si太陽光パネルメーカーのGCLやTrinasolar、さらに、ペロブスカイト産業の創出を目的に設立された、中国国有企業の中核光電も参加した。BOEのように、ディスプレイ事業のノウハウを生かし異業種から参入した企業や、西安天交のように、大学から独立したベンチャーも多数登場した。

SNECで展示されていたペロブスカイト製品の種類は多岐にわたる。ガラス型単層ペロブスカイト、結晶Siやペロブスカイトを重ねたタンデム型、窓・壁・屋根など建物への導入を意識し透明化やデザイン性の高い建材一体型(BIPV)のほか、日本が注力する折り曲げ可能なフレキシブル・ペロブスカイトも複数の企業が展示していた。フレキシブル・ペロブスカイトには、一般的に認識されている、樹脂フィルムを基板にした「フィルム型」と、薄板ガラスを基盤にした「薄板ガラス型」の2種類があるが、見た目には区別がつかない。

モジュールの大型化も目立った。日本の多くの企業は0・09㎡モジュールを中心に開発しているが、中国はフレキシブル・ペロブスカイトを含め、実用可能な0・72㎡以上のサイズが標準となっており、最大2.88㎡の製品も展示されていた。

発電効率の高さも注目だ。ガラス型単層の0・09㎡前後のモジュールの効率が22・5%、0・72㎡以上のモジュールでは15・0~19・8%が一般的である。GCLの1・7㎡のSiタンデムモジュールは26・3%、Renshine製の0・72㎡のオールタンデムモジュールは22・2%と、いずれも結晶Si太陽光モジュールと同等以上の効率を実現したと自称している。

【コラム/8月15日】再生可能エネルギー電源拡大に潜むジレンマ

矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

今年の2月に、第7次エネルギー基本計画が閣議決定されるとともに、関連資料として、2040年度のエネルギー需給見通しが提示された。同見通しで示された2040年度における電源構成を見ると、再生可能エネルギー電源は4~5割程度と最も比率が高い。

第6次エネルギー基本計画に記された「再エネ最優先の原則」は削除されたものの、再生可能エネルギー電源が主力電源として大きな期待を担っていることには変わりがない。しかし、再生可能エネルギー電源、とくに陸上風力発電や大規模太陽光発電の大幅な導入拡大については、一部の自治体で既に顕在化しているように、パブリックアクセプタンス上の問題が生じる可能性がある。本コラムでは、この問題について掘り下げて考察を行いたい。

わが国では、2021年5月の地球温暖化対策推進法(温対法)の改正により、地方自治体は地球温暖化対策実行計画を策定し、温室効果ガス排出量の削減に努めることが義務づけられた(2022年4月施行)。地球温暖化対策実行計画の中では、各自治体は、ステークホルダーとの協議を踏まえて、地域の再生可能エネルギーを活用した脱炭素化を促進する事業(地域脱炭素化促進事業)に関して促進区域、環境保全のための取組、地域の経済・社会の持続的発展に資する取組についての方針などを定めるよう努めることが規定されている(温対法第21条第5項)。

各自治体が積極的に再生可能エネルギー電源の促進区域を指定することで、同電源の設置が促進され、地域経済が活性化することが期待される中で、2022年7月に全国で初めて長野県箕輪町が促進区域を設定し、2025年3月現在56の市町村が再生可能エネルギー電源の促進区域を設けている(全国1700超の地方自治体のうちわずか3%)。

地方自治体が積極的に再生可能エネルギー電源の促進区域を設定することが期待される一方で、北海道や青森県などのように再生可能エネルギー電源の立地を厳しくする動きもある。北海道は、市町村が再生可能エネルギー電源導入の促進区域を設けるに当たって、排除すべきエリアを示した道の「環境配慮基準」(2024 年11 月)を策定したが、これが陸上風力発電の導入にブレーキをかけることになるのではないかと関係者は懸念している。

環境配慮基準では保安林や地域森林計画対象民有林などを促進区域から除外している。しかし、風力発電に適した場所は山林に広がっている。北海道は全国でトップクラスの再生可能エネルギー電源のポテンシャルを有するが、環境配慮基準がGX投資にネガティブな影響を与えることが懸念される。

また、北海道釧路市では国立公園となっている釧路湿原とその周辺などで太陽光発電施設の建設が相次いでおり、とくに開発が厳しく規制される国立公園から外れた「市街化調整区域」での建設が進んでいる。希少な動植物への影響を懸念した市は、市街化調整区域も含めて、市内全域での10kW以上の事業用太陽光発電施設の設置を許可制(現在は届け出制)とする条例案を、今年の6月19日に市議会の民生福祉常任委員会に示した。今年9月に定例市議会に条例案を提出し、来年1月1日の施行を目指すことになる。加えて、旭川市は今年度、太陽光発電と風力発電の立地に関して「ゾーニングマップ」を作成する。有識者の見解も踏まえて、鳥獣保護などが必要な「保全エリア」、開発しやすい「促進エリア」、その中間の「調整エリア」に分けて作成する。大部分は「保全」か「調整」エリアとなる見込みで、再生可能エネルギー電源の「乱開発」の抑制を目指す。

化石燃料賦課金の望ましい単価 高すぎず低すぎず

【オピニオン】土居丈朗/慶應義塾大学 経済学部教授

今年の通常国会で、GX推進法の改正が成立した。2028年度に始める化石燃料賦課金について、納付義務のある化石燃料採取者などの届出、支払期限や滞納処分や延滞金の設定、国内で使用しない燃料への減免などに関する規定が盛り込まれた。化石燃料賦課金を創設し、GX経済移行債の元利償還に充当することや、賦課金単価の設定根拠については、GX推進法が23年に新規制定された時から規定され、それをより具体化したものといえる。

ただ、政令に委ねる事項が多く、できるだけ早期に詳細設計を内外に示す必要がある。化石燃料賦課金として体現される炭素価格の予見可能性を確保すべきだからである。特に賦課金単価は早いに越したことはない。単価を示す時期が早すぎると、企業経営に過度な負担を課したり混乱を引き起したりするとの懸念もあるようだが、杞憂である。なぜ税ではなく賦課金として制度化されたかを踏まえることが重要である。

化石燃料賦課金の発想は、従来「炭素税」として理解されてきた。わが国では、石油石炭税にある地球温暖化対策税として体現された。しかし、成長志向のカーボンプライシングでは、税方式を採用せず、賦課金方式を採用した。そうすれば、賦課金単価は政令で定めることができる。税は、租税法律主義に基づき、税率を変更するには国会での法改正が必要である。賦課金なら、タイムリーに単価変更が可能である。

50年のカーボンニュートラル実現を目指すわが国において、30年や40年までにどの程度のCO2排出量の抑制が望まれるかは、中間目標を設定しないまでもおおむね目途が立てられる。その実現には、まずは自主的な取り組みが求められるが、それだけで足りないならば、(この度の法改正でより具体化した排出枠取引制度と並んで)化石燃料賦課金単価として示される炭素価格で誘導することで補うこととなる。

その観点から、CO2排出量を十分に抑制できるように炭素価格を十分に上げていかなければならない。ただ、賦課金単価が高すぎると、企業などは賦課金負担を回避して他の方法を使いCO2を排出する方策を探るだろう。高すぎると、逆に賦課金収入は少なくなりかねない。

では単価を下げればよいかというとそうではない。なぜなら、化石燃料賦課金は(発電事業者への排出枠の「有償オークション」収入とともに)、GX経済移行債を50年度までに完済できるように徴収しなければならないからである。単価が低すぎると、収入が少なすぎてGX経済移行債を完済できない。

化石燃料賦課金単価は、世界の炭素価格の動向も見極めつつ、このように高すぎず低すぎない水準に設定する必要がある。

どい・たけろう 大阪大学卒。東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東大社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授などを経て2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、政府税制調査会特別委員、などを務める。

シンプルな設計の加湿技術を提案 霜を利用し無給水を実現

【電力中央研究所】

戸建て住宅の全館空調向けに、無給水で加湿可能な技術を提案した。

外気の水分を霜に変え、それを加湿に利用する発想を、HPサイクルを用いて実現した。

大気中の水分を霜に変えて、加湿に利用する―。

そんな新たな発想による加湿技術を電力中央研究所が提案した。主に全館空調を備えた戸建て住宅への実装を想定している。

2003年の建築基準法改正以降、シックハウス対策として常時換気システムの導入が義務化されたこともあり、全館空調の導入が進んできた。

全館空調は、室内の温度を均一に保てる利点がある一方で、室内が乾燥しやすく、冬季には快適とされる湿度40~60%を下回ることがある。加湿機能を備えた全館空調は、提供する住宅メーカーが全体の半数程度にとどまっていることから、十分に普及しているとは言えない。

新たな加湿技術は、こうした課題に目を向け提案された。

張氏は長年、HPの着霜対策の研究に取り組んできた

二つの熱交換器と圧縮機から成るヒートポンプ(HP)に、空気の流れを切り替えるダンパーなどを組み合わせたシンプルな設計。加湿運転時には、まず外気を取り込み、冷却した熱交換器に着霜させる。次に、室内の還気でその霜を溶かし、「除霜水」と呼ぶ水を生成。その後、この除霜水を気化させ室内に送ることで、加湿する仕組みだ。

加湿のための水を外気から得るため、給水タンクや水道管への接続は不要だ。HPサイクルを用いるため、従来の蒸気加湿方式と比べると、消費電力を約14%削減できる。


着霜対策の研究が生きる 逆転の発想から研究着手

無給水加湿技術については、既に確立された技術がいくつかある。ただ、既存技術はダクトやダンパーの数が多く、構造が複雑で、装置が大型化しやすいという課題があった。こうした課題に対して、新技術では空気系統のダクトやダンパーを最小限に抑え、装置のコンパクト化と構造の単純化を図っている。

また、外気に含まれる水分量は気温が高いほど多く、加湿能力は地域によって差が出やすい。そこで、北海道や東北など気温・湿度ともに低い地域でも十分な加湿性能を得られるよう、乾燥剤であるデシカントを併用したシステムを同時に提案した。外気条件に左右されにくい加湿技術だ。

この研究を進めたグリッドイノベーション研究本部の張莉氏は、「まずシンプルな構造でも加湿が可能だという点に注目してもらうことが狙いの一つ。興味を持ったメーカーなどと共同で改良を重ね、性能向上につなげていきたい」と展望を語る。

提案のベースには、張氏自身が長年取り組んできたHPの着霜対策の研究がある。張氏は10年以上にわたり、空気中の水分を制御するための技術開発に挑み続けてきた。

入所当初には、HP給湯機であるエコキュートの着霜対策に取り組んだ。HPは、空気中の熱を取り込んで温水をつくる仕組み。その過程で熱交換器に霜が付着し、吸熱効率が低下するという課題があった。

これを解決するべく、水分を選択的に吸着する吸着剤(乾燥剤、デシカント)を熱交換器の表面に塗布する研究に着手した。吸着剤が外気中の水分を先に取り込むことで、熱交換器に水分が付着せず、着霜を防ぐ。結果として、吸熱効率の低下を回避する狙いだ。

この技術はその後、冷凍冷蔵ショーケースや電気自動車に搭載する空調システムなどの研究にも応用した。「これまで霜は邪魔な存在として研究していた。それを逆に活用できないか、と考えたのが、加湿技術の出発点だった。水分吸着の研究に携わっていなければ、この発想には至らなかった」と、当時を振り返る。

電中研が提案した加湿技術のイメージ


スピード感を重視 研究競争の激化に危機感

研究を進める上で、張氏が自身に課したテーマは、スピード感だ。

「これまでは、開発提案からプロトタイプ完成までに5年ほどかかっていた。だが、メーカーの実用化への判断はもっと早い。特に家庭用機器や空調分野ではスピードが求められる。昨今の技術開発競争は世界的にも激しく、強い危機感があった」

その反省を踏まえ、今回の無給水加湿技術は、着手からおよそ2年という短期間で形にした。
今後は空調機器メーカーなどと連携し、全館空調向け給水不要な加湿機の商品開発を目指す。

22年に改正された建築物省エネ法や、同年に新設された断熱性能等級6・7を追い風に、高断熱・高気密住宅の普及が進みつつあり、全館空調市場の拡大が期待されている。

「HP関連の研究は、発電や送配電などの領域とは質が異なる。そうした領域だからこそ、生活者の日々の暮らしに役立つ技術を届けたいという気持ちが強い」と、張氏は力を込める。

発想の転換から生まれた無給水加湿技術は、身近な課題に応える新たな選択肢となるかもしれない。これからの住環境づくりに一石を投じたい考えだ。

豪州グリーン水素計画がとん挫 脱炭素への逆風に対峙するには

【脱炭素時代の経済評論 Vol.17】関口博之 /経済ジャーナリスト

豪州北東部、クイーンズランド州で計画されていた「グリーン水素」プロジェクトがとん挫した。現地報道によれば、州政府所有のエネルギー企業で計画の中核を担うスタンウェル社が7月初めに撤退を表明した。広大な太陽光発電所の電力で水の電気分解を行い、2031年には日量800tの液化水素を生産、日本とシンガポールに30年間輸出もする構想だった。日本からも関西電力などが水素の引き取り手として参画していたが、価格面で折り合えず去年以降、撤退が続いていた。

豪州最大のプロジェクトだった
出典:スタンウェル社のホームページ

豪州最大のグリーン水素プロジェクトが行き詰まった直接の要因は、去年10月に労働党から自由国民党に政権交代した州政府が、追加の財政支援を拒んだことだった。実際当初125億豪ドルと見込まれていた事業費見積もりはその後、147億5000万豪ドル(1兆4千億円余り)にまで膨らみ、州政府のジャネツキ財務相は「本質的に投機的なプロジェクト、賭けに税金は使えない」と切り捨てた。

労働党の連邦政府はこのプロジェクトの基本設計などに既に9000万豪ドルの助成を投じてきた。連邦政府は依然、グリーン水素を新たな産業に育て豪州を「水素大国」にする目標を堅持しているようだ。ボーウェン連邦エネルギー相は逆風を認めつつも「電化が難しい熱需要産業の脱炭素化においてグリーン水素の重要性は変わらない」と述べている。

よちよち歩きの水素産業に政策的支援は不可欠だが、政権交代などで政策の〝風向き〟が一気に反転するリスクは常にある。今回の豪州プロジェクトの挫折もそれを物語っている。

さらに日本の視点からは、広大な土地があり太陽光などで安価な再エネ電力が得られる豪州は恵まれて見える。それでさえも「グリーン水素事業」を成り立たせるのは容易ではないという現実は重い。わが国の水素基本戦略は30年に年300万t、1㎥当たり30円、50年に2000万t、同20円の目標を掲げる。

多くを海外から調達する想定だが国際的なサプライチェーンはまだない。最善の選択肢はグリーン水素だとしても、化石燃料の改質とCO2の回収・貯留・利用を組み合わせたブルー水素も合わせて考慮する必要がある。低廉な水素は低廉なアンモニアやeメタンにも欠かせない。製造工程に関わる炭素集約度を確実に抑えつつ、アフォーダブル(手頃)な水素を作っていく、そうした「現実解」が求められる。

現実解にこだわるのは脱・脱炭素とでもいうべき揺り戻しの風潮が広がりつつあるからだ。トランプ政権の減税・歳出法が7月に成立し、バイデン前政権による再エネ支援策が大幅に縮小された。EVの購入補助は今年9月末で打ち切り、太陽光・風力への税額控除も段階的に縮小する。ドイツでも今年連邦議会選挙で躍進したドイツのための選択肢(AfD)は「仮説的な気候モデルに基づく政策を止める」として再エネ・省エネの推進に反対する。似た主張は今般の日本の参議院選挙でも一部の党から見受けられた。ここを突く右派ポピュリズムに対峙するには「現実解」を積み上げていくことが一番だ。

逆境下でも成長し続ける企業へ 攻めの投資と人材育成を強化

【事業者探訪】細谷地

LPガス販売を主軸に、地域に根差したライフラインサービスを手掛けている。

急速な人口減少という逆境下、収益力の向上と人材確保の両面で成長戦略を描く。

2013年に放送されたNHKの朝ドラ「あまちゃん」の舞台として人気の観光地となった岩手県久慈市。この地でLPガス事業を営む細谷地の歴史は、1952年に初代社長の細谷地倖助氏が、炭の粉末を丸めて固めた燃料「たどん」の販売を手掛けたことから始まった。

58年にLPガス事業に参入し、現在は電力小売りや灯油販売、ガソリンスタンド経営といったエネルギー関連事業と共に、家電販売店や携帯電話ショップ、レンタカーショップや道の駅での産直店、さらには農園の経営と、地域に根差したビジネスを幅広く展開している。

顧客数はLPガスが7200軒、灯油が3500軒、電気が1200軒ほど。電力事業では、同社も出資し17年に設立した地域新電力「久慈地域エネルギー」の「アマリンでんき」を家庭や企業向けに販売。22年に環境省の脱炭素先行地域に選定された久慈市は、海と山に囲まれた地形を生かした自然エネルギーに恵まれており、地域の水力発電や太陽光といった再生可能エネルギー由来の電気を供給している。22年の市場価格高騰をきっかけに、新規契約の開拓は停滞したままだったがようやく再開し、地産地消の電気を少しでも安く地域に供給できる環境が戻ったところだ。


未知の領域を開拓し 経営力向上に注力

「これまでは潰れない会社を目指してきたが、今は成長する会社づくりへと経営戦略を転換し取り組んでいる」と話すのは、3代目社長の細谷地茂陽氏。久慈市は過疎化が進む岩手県の市町村の中でも、4番目に人口減少率が高く、今後は地域経済の疲弊に伴う市場の縮小が避けられそうにない。こうした厳しい状況下であっても、企業としての持続的な発展を追求していこうという意思は固い。

3代目の細谷地茂陽社長

その実現のために経営戦略の柱に据えるのが、「長期投資計画」と「働きがい改革」だ。新たな需要を創出し収益力を高めることに加え、魅力的な職場環境を作り優秀な人材を確保することは、成長に向けた大きな経営課題。今年は、新しい領域や分野を切り開いていこうという意味を込めた「フロンティア戦略」を掲げ、全社を挙げ経営力向上に挑戦している。

長期投資計画では、人口減少下で収益を伸ばすための鍵となる商圏と事業の拡大に取り組む。事業エリアを久慈市内にとどめず、隣接する盛岡市や青森県八戸市といったより大きな商圏で事業基盤を築くほか、事業の多角化をより一層、進めていく必要がある。また、他社との協業やLPガスの商圏譲渡案件が出た際のM&A、生産性向上のためのDX(デジタルトランスフォーメーション)投資を積極的に行うなど、新たな収益チャンスへの種まきに余念がない。

「LTV(顧客生涯価値)」向上も、大切な取り組みの一つ。人口減少により、潜在的な顧客数が減っていくことは避けようがない。そこで、ガスのみならず電気、灯油、水、携帯電話といったさまざまな商材を取り扱いながら、デジタル、リアル双方で顧客接点を持つ頻度を増やす。それとともに、他社にはない商品・サービスの提供やアフターサービスの充実、社員への信頼感の醸成することで、顧客満足度や付加価値を高め、高収益モデルを築き上げようという狙いがある。「原点に立ち返りながら、お客さまとの円滑なコミュニケーションで信頼関係を築き、末永く当社と取引していただけるようにしていきたい」(細谷地氏)