<エネルギー業界人編> 電力A氏・ガスB氏・石油C氏
過去最多の9人が争った自民総裁選。
エネ基議論も左右しかねず、業界は戦々恐々と見守った。
―柏崎刈羽原子力発電所の対応を議題に9月2日、政府が原子力閣僚会議を開催。岸田文雄首相が、地元の声を踏まえ、再稼働への理解促進に向けさらに具体的対応を行うよう指示した。
A氏 柏崎の再稼働をなんとかしたいという思いの表れだろう。第7次エネルギー基本計画で原子力をどの程度動かすか明示するには、柏崎が動いていないときつい。今後、避難道整備に向け経済産業省・内閣府・国土交通省で協議の枠組みを立ち上げ、事業者の自主性を損なわない形でサポートする形だ。噂ベースだが、佐渡金山の世界遺産登録も新潟県の同意を引き出す手段だとの話も。原発を巡る地元同意では立地市町村がOKでも県のハードルは高い。裏から手を回すことも必要だろう。
B氏 この件でネガティブな報道は少なかったように思う。岸田首相は自分の在任中に柏崎を動かしたかっただろうが、残念ながら間に合わず。それでも風穴を開けるべく、斎藤健経産相やエネ庁幹部らがたびたび関係者に働きかけてきた。
デブリ取り出し中断 粛々とした対応に尽きる
C氏 ただ、朝日は9月7日付で、花角英世新潟県知事が再稼働の判断時期について「あと2年弱くらの間には固まるのでは」とのコメントを載せている。この場でいつも触れるが、産経のように書けとはいわないが、なぜ経済的損得を考えない記事ばかりなのか。正論やVoice、Hanadaあたりは厳しく追求している。特に朝日は部数が急減し影響力が薄れてきている中、そろそろ論調を見直す潮目では?
―福島のデブリ取り出しは1回目の作業を中断し、約3週間後の9月10日に再開。しかし17日、再度中断を発表した。
A氏 本当に難しい作業。とはいえデブリが存在する以上やめることはできない。結局原子力はイデオロギーの話だが、デブリの問題はそうした世界とは別次元にあり、エネルギー政策とは独立した事象として率直に見るべき。それ以上でもそれ以下でもなく、東電は外野の声は気にせず粛々と取り組んでほしい。
B氏 メディアは絶対言わないだろうけど、1回目で直前に手順の間違いに気づいて止められたのはある意味ファインプレー。常に東電のネガティブ情報を流すのではなく、きちんと対応できていることも報じてほしい。そうすれば、柏崎再稼働に向けた県民の意識に影響する可能性もある。ただ、今回取り出す予定のデブリは3g。3基で合計880tほどあるとされ、このギャップの甚大さで長きにわたる作業だと改めて認識した。
C氏 ところで、処理水放出で日本産水産物を禁輸する中国が、日本近海で大量に漁獲していることを、朝日も報じ始めた。いずれの媒体にも、国民に事実を周知すべく頑張ってほしい。一方、地方紙の方が言いたい放題の傾向にある。電力業界は正しい事実が伝わるよう、もっと説明を尽くさなければ。
総裁選の結果やいかに 各候補発言の注目点
―本誌発行時には既に自民党新総裁が決定しているが、この座談会開催は9月中旬。結果を受けた議論ができないことに歯がゆさはあるが、これまでの各候補の発言で注目した点は?
B氏 候補者9人は今回、一定の原子力の必要性を認めており、従来と雰囲気がかなり変わった。ただ、石破茂氏は「ゼロに近づける努力を最大限に」、河野太郎氏や小泉進次郎氏は利用できる原子力を使えばよいといったスタンス。それに対し、推進派の高市早苗氏や小林鷹之氏はもとより、茂木敏充氏も「新増設を含め取り組むべき」との主張だ。前者のような人が総裁になれば、柏崎をはじめ再稼働にアクセルはかからないだろう。原子力は電気代を下げる要素だが、新総裁が真の原子力賛成派かどうかで政策が大きく変わる。
A氏 裏金問題にあれほど関心があるというアンケート結果にはがっかりだ。極論、無能で清廉潔白な首相より、金に汚くても有能なリーダーの方が望ましい。また、海外から御しやすい首相の誕生を誘導するような報道はやめてほしい。気概があり、エネ政策も持論を持って進められる人が必要だ。エネルギー安全保障を考え抜いた上での政策を持たない首相で本当に良いのか。ただ、今回もエネルギーは主要議題ではないけどね。
C氏 アゴラで澤田哲生氏が「小石河連合のその後:変節漢の脱原発空想」と題して3者を批判している。一般紙も鋭い記事を書かなければ。議員票は集めても政策は空っぽな人が選ばれればエネ基がどうなってしまうのか。中でもテレビが人気投票化に拍車をかけており罪深い。
B氏 7日に小泉氏が銀座で、翌日に石破氏が柴又で演説、なんて報道を見たが、一体何を紹介しているのかと思った。
C氏 特に日経にはクオリティペーパーを自負するなら、もっと硬派でいてほしい。グリーンの副作用が顕在化し、最近の英国やドイツのメディアはがらっと方針を変えているのに。
A氏 高市氏や茂木氏についてはイメージの問題があり、役人の反応も今一つ。両者とも強固なブレーンを作る必要がある。ただ、やはり一番怖いのは、小泉首相が誕生したら外交で何を言い出すかということだ。
B氏 その前に立憲民主党代表が野田佳彦氏になれば、党首討論でKOされる様が目に浮かぶ。
―良きにつけ悪しきにつけ小泉氏の発信力は絶大。「セクシー首相誕生か」などとも報じられたが、結末はいかに。