【ガス】LPガス業界は当面混乱 商慣行是正の道程長く


【業界スクランブル/ガス】

液石法省令改正が7月2日に施行された。併せて「取引適正化ガイドライン」および「施行規則の運用及び解釈の基準」が改正されている。今回施行したのは、「過大な営業行為の制限」と「LPガス料金等の情報提供」についてで、LPガス事業者が不動産・建設関係者などに対する設備貸与、紹介料などの過大な利益供与といった行為が禁止された。

これまでの議論は主に賃貸集合住宅についてで、戸建てでは「無償配管は良くない」との方向性は出されたが、具体的には何も決まっていない。省令改正後、切り替えの主戦場を賃貸集合住宅から戸建てにシフトした事業者も多い。安値売り込み合戦が激化しており、自社ウェブサイトに掲載している標準価格の半額などで勧誘する事業者もいる。

ガイドラインでは、問題となり得る行為の例として「消費者に対して値上げありきの安価なLPガス料金を提示すること」を挙げており、これに該当する商行為は多い。過大な営業行為について、LPガス業界では具体的な適用範囲と運用方法、線引きなどの具体例の提示を要請していたが、経済産業省はあらかじめ網羅的に示すことは困難とし、通報フォームに寄せられた事例などを積み重ねて今後、見直していくとした。

来年4月2日には「三部料金制の徹底」が施行される。LPガス事業者の約7割が二部制料金を採用する中、今後、契約の見直しやシステム、14条書面の変更などが生じることになる。オーナーらと既存契約の中で投資した設備費用をどのように清算、回収するのか、といった検討を急がねばならない。まだまだ業界の混乱は続きそうだ。(F)

G7とグローバルサウス〈上〉 中東での空爆応酬と船舶攻撃


【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題

世界の分断と再統合のせめぎ合いの中で、2024年のエネルギー情勢は、これまでウクライナ戦争の継続、中東情勢の緊迫化にも関わらず、大きな供給制約は顕在化せず、原油価格は比較的平穏に推移した。WTIの1~7月平均は79.94ドル。石油・海事産業動向においては、イエメン武装組織フーシ派の船舶攻撃によるサプライチェーンの混乱、運賃コストの上昇がみられた。

1月28日にはヨルダン北東部で、イランが関与したとみられる無人機攻撃により米軍の拠点が攻撃された。イランは関与を否定したものの、米軍は報復として、2月2日にイラクとシリアのイラン革命防衛隊および関連組織の拠点を空爆した。陸上地域においては、ハマス、ヒズボラ、イラクのシーア派民兵組織などイランが支援する軍事組織と米国との戦いが展開される一方、海上ではフーシ派の攻撃が相次ぎ、紅海航路から喜望峰を迂回する船舶が増加した。

フーシ派の船舶攻撃に対し、米国は紅海を航行する商業船舶の安全航行を守るため、「繁栄の守護者作戦」を開始した。同作戦には米英、加、仏、伊、蘭、西など有志国が参加、紅海の巡回を開始した。米国ブリンケン国務長官は、1月10日、バーレーンで「紅海での船舶攻撃により世界の海運の20%近くが中断・迂回させられている。地域紛争を抑止し自由通航を確保するため、紅海での海上安全保障を守り続ける」と言明している。

陸上では、7月にイスラエル軍がフーシ派の拠点を空爆したのに対し、フーシ派は弾道ミサイルで反撃する展開が見られた。イスラエル軍は20日、イエメン西部ホデイダにあるフーシ派の拠点を空爆した。イスラエル当局によれば、本空爆は19日にフーシ派によるテルアビブ中心部への無人機攻撃への対抗措置である。7月21日、NHKによれば、イスラエルがイエメン空爆を明らかにしたのは初めてで、攻撃応酬の激化が懸念される。

16年1月以来、国交を断絶していたサウジアラビアとイランは、中国の仲介により23年3月10日国交を正常化させることで合意したが、同合意の背景には、フーシ派のサウジへの攻撃をイランに抑制させる目的があるという観測があった。しかしながら、フーシ派の軍事攻撃の帰趨を含め、現下の中東情勢の展開は11月の米国大統領選までは予断を許さない。

イスラエルを組み込んだアブラハム合意は中東和平の実現に重要であったが、枠組み完成の直前、23年10月にイスラエルとハマスの軍事衝突が勃発したため、空中分解した。同合意は前トランプ政権が発案したものであり、前大統領が今次大統領選挙に勝利すれば、同合意は仕切り直しとなる可能性がある。その場合、7月5日のイラン大統領選挙で勝利した改革派のペゼシュキアン氏が対米政策を変えるのか、対米政策が変わった場合、米国はどう出るのか、現状では全て米大統領選挙結果次第である。その点からはフーシ派の船舶攻撃は11月まで継続する可能性が大きい。

(須藤 繁/エネルギーアナリスト)

米国を泥沼に誘うイスラエル


【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

7月31日未明にイスラム組織ハマスの政治指導者ハニヤ氏がテヘランで殺害された事件を、8月1日付のニューヨークタイムズ紙が詳報した。

ハニヤ氏の宿泊した客室に約2カ月前から爆弾が仕掛けられ、遠隔操作で起爆。隣室に居た「イスラム聖戦」グループの指導者ナハラ氏は無事だった。その高度な技術は「AIロボット」を用いた2020年のイラン・核科学者暗殺事件と酷似。イスラエルは公には沈黙を保つが、事件直後に米政府などに詳細な説明を行った。

イランのペゼシュキアン新大統領の就任宣誓式に出席した直後、しかも厳戒下にあるイラン革命防衛隊の施設内だった。イラン最高指導者ハメネイ師は直ちにイスラエルへの報復を指令した。

ハニヤ氏はガザ地区での停戦交渉を担っていた。この直前に、イスラエルはベイルートを空爆し、ヒズボラの軍事司令官も殺害。停戦どころか、ヒズボラ、フーシ派およびその支援者イラン、全ての反イスラエル勢力との同時全面戦争に直結し得る。米政府はハニヤ氏暗殺を事前に知らされておらず、同紙は同日、別の記事で「米大統領選の混乱がロシア、中国、北朝鮮を利すると懸念していたら、乗じたのはイスラエル」と皮肉った。

ネタニエフ首相は7月24日の米議会における演説で、ガザ侵攻・反イスラエル武装勢力との戦闘を、善と悪との戦い、イランの脅威から米国を守る防衛戦と言い放った。今回の暗殺手法には異説もあるが、対イラン戦争の泥沼に米国を誘う暴発的行動であることに変わりはない。米国が忍耐強く正気を保ち、中東を紛争拡大から緊張緩和へと反転させる、その指導力が問われている。本稿執筆時にはいまだイラン側からの報復攻撃は起こっていないが、中東は重大な岐路を迎えている。

(小山正篤/石油市場アナリスト)

【新電力】国益に資する蓄電池 予見性ある制度設計に期待


【業界スクランブル/新電力】

今年も暑い夏を迎えている。もはや記録的猛暑という表現が陳腐化している印象すらあり、大手発電事業者の夏場の電力需要増加への備えは盤石と見える。記録的猛暑と言われた昨年は電力卸市場が極めて落ち着いていた。今夏も記録的猛暑と言われてはいるが、電力卸市場は、暴騰することなく推移するのであろう。

とはいえ、今年7月の電力卸市場のエリアプライスは、東京エリアでは昨年同月と比べ5円近く高い。火力発電所の主たる燃料であるLNG輸入平均価格も昨夏より高値で推移している。新電力各社にとり、卸市場からの調達・火力発電所からの相対卸契約、どちらを採用しても調達コストは上昇する結果となっている。電力小売事業は、逆ザヤリスクこそ低減しているが、同時に高収益も望み薄という状況である。新電力各社は、新たな収益源を模索する時期に差し掛かっていると言える。

この状況下で注目すべきは需給調整市場だ。特に3次②は応札価格の上限が設定されていないこともあり、100円を超えるブロックが頻出。蓄電池設置者にとり、投下資金の確実な回収が可能であり、新電力各社としても、新たな収益源として蓄電池ビジネスを真剣に検討すべきだ。

規制当局が、行き過ぎた落札価格是正のため、運用ルール見直しに着手していること自体に異議は無い。一方で、大規模蓄電池設置には、用地や系統の確保に時間を要することに加え、巨額の資金が必要である。当局には、迅速かつ、投下資金回収の予見性がある制度設計を期待する。蓄電池導入拡大は新電力のみならず、国益に資することを、肝に銘じるべきである。(S)

民主党大統領候補にハリス氏 実績から読むエネルギー公約


【ワールドワイド/環境】

先月は2024年大統領選に向けた共和党の政策綱領について紹介したが、対する民主党ではバイデン大統領の撤退とカマラ・ハリス副大統領の大統領候補指名が確実となった。ハリス候補のエネルギー、温暖化に向けた公約は明らかにされていないが、これまでのトラックレコードからある程度の想像はつく。

ハリス氏はサンフランシスコの地方検事時代、米国初の環境正義部門を創設した。カリフォルニア州司法長官として、排ガス不正ソフト搭載を理由にフォルクスワーゲンから、また環境破壊を理由にフィリップス66とコノコフィリップスから数百万ドルの和解金を獲得している。上院議員としては、19年のグリーン・ニューディール決議案を共同提案している。

19年の民主党大統領予備選ではバイデン候補(当時)よりもはるかに野心的なグリーン・アジェンダ(炭素税の導入、公有地での石油・ガス採掘の禁止、地球温暖化対策のための1000億ドルの投資など)を提唱した。バイデン政権の副大統領としてはインフレ抑制法を強く推進し、上院で50対50で拮抗した際、上院議長として51票目を投票して法案を成立に導いた。

バイデン大統領の代理で出席したCOP28では「気候科学を否定し、気候変動対策を遅らせ、気候変動への不作為をごまかし、何十億ドルもの化石燃料補助金をロビー活動で賄う企業」を強く批判し、緑の気候基金に30億ドルをプレッジした。自らの大統領候補指名が確実になると、同氏はトランプ前大統領の「ビッグオイル(石油大手)」 との関係を攻撃し始めている。

同氏はバイデン大統領に比して左派を支持基盤としており、グリーン色の強い施策を打ち出す可能性が高い。サンライズ・ムーブメントなどの環境NGOが同氏の大統領候補指名を歓迎していることも当然だ。トランプ陣営は同氏を「バイデン政権の極左路線の原動力」と攻撃している。ただ気候変動は米国民の優先順位ではない。ピューセンターが今年1月に行った意識調査では米国民の24年の最大関心事は経済の強化であり、気候変動は20項目中の18番目にすぎない。気候変動を優先課題に位置付けるのは民主党支持者の59%に対し、共和党支持者は12%に過ぎず、党派性が最も強い分野でもある。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【電力】資源小国日本 長崎市長の言説に危機感


【業界スクランブル/電力】

毎年8月9日に行われる長崎平和祈念式典に、今年は駐日イスラエル大使が招待されなかったことから、日本以外のG7諸国の駐日大使が軒並み欠席を決め、ちょっとした外交問題になっている。長崎市はロシア、ベラルーシ、イスラエルを招待から外したが、ウクライナに侵略戦争を仕掛けているロシアなどと、テロ組織ハマスとの自衛戦争を戦っているイスラエルを同列に扱うなということであり、これが西側の常識だ。

ところが、SNSを眺めていると、長崎市長の決定に賛同する声も結構ある。反米思想を拗らせたような向きは一定程度存在するにしろ、テロ組織ハマスにあたかも一分の理があるかのように、イスラエルばかりを批判し続ける国内メディアの報道ぶりも少なからず影響しているだろう。

これに対して長崎市長が「政治的な理由で招待しないのではなく、あくまでも平穏で厳粛な雰囲気の下で式典を円滑に実施したいというのが理由」と弁明したと伝えられる。これは過激なデモを市当局がコントロールできないと表明したに等しく、市当局の無能ぶりを露見させただけといえよう。

ロシアによるウクライナ侵略以降、民主主義の価値観が通じない勢力の存在感が強まっている。資源小国のわが国が直面する地政学リスクは高まる一方だが、にもかかわらず、日本が石炭火力の廃止を表明して世界に範を示すべきだといった、別の意味で現実から目をそむけた言説がいまだに幅を利かせているのは、憂うるべきことだ。

そもそも、昨今の国際情勢の中、気候変動は果たして優先課題なのだろうかとすら思えてしまう。(V)

入札制度・仕様見直しも 仏で浮体式洋上風力巡り物議


【ワールドワイド/経営】

フランス政府は5月15日、ブルターニュ地方南部で計画されている25万kWの浮体式洋上風力開発事業を風力開発事業者エリシオと再エネ事業者バイワ・アール・イーのコンソーシアムが落札したことを公表した。浮体式でこの規模での落札事例は商用としては世界初と報じられ、予測よりも低い1000kW時当たり86・45ユーロという落札価格も業界関係者にとって驚きの結果となった。政府は「浮体式が価格競争力を有することの証明」と称揚するが、一方で批判的な意見や憂慮を表明する事業者やメディアも散見される。

欧州の風力発電事業者団体ウィンドヨーロッパは低価格での落札に至った要因として、送電事業者RTEによる大部分の系統接続費用の負担や、開発に適した立地環境、インフレスライド条項を備えた差額決済契約(CfD)による支援スキームの三つを挙げている。このように制度やプロジェクト固有の特徴に起因する部分が大きいため、同団体は、本事例をもって今後の欧州での浮体式洋上風力開発における指標とみなすことはできない、との見解を示している。

また入札の審査を行った仏エネルギー規制委員会(CRE)は当初、別の事業者を落札者として政府に推薦したが、その事業者は資材の高騰や借入コストの増加を理由に入札保証金の支払いに応じず推薦を辞退した。結果的に次点入札者のエリシオとバイワ・アール・イーのコンソーシアムが繰り上げで落札者となったが、プロジェクトの実現性を懸念する声が業界から挙がっており、入札制度および仕様の見直しも求められている。

こうした声を受け、現在CREは入札仕様の改正に向けて事業者との対話を進めており、財務モデルの健全性や欧州域内で生産された製品やサービスの活用度合いを評価基準に反映するなど非価格基準を重視した評価体系への転換が図られている。

他方フランス政府は、2050年までに洋上風力発電を4500万KW運開させ、原子力に次ぐフランス第二の電源に成長させる目標を掲げている。目標達成には開発対象海域の特定や許認可審査といったプロセスの迅速化が課題で、一連の手続きの簡略化に関する法案が議会に提出された。一方で7月の下院選によって政治情勢が混迷を深める中、今後採択される政策へも影響が及ぶと考えられるため、洋上風力を含めた再エネ開発に対する政府の姿勢の変化を注視していく必要がある。

(伊藤 格/海外電力調査会・調査第一部)

イスラエル・レバノン戦線注視 エジプトのガス需給に影響も


【ワールドワイド/資源】

パレスチナ自治区のガザ地区における戦争の開始から間もなく1年が経過しようとしているが、その戦火は依然として止むことはない。7月末にはイスラエルがレバノンの首都ベイルートへの空爆でイスラム主義組織ヒズボラ高官を殺害し、その数時間後にはハマスのハニヤ政治局長が暗殺された。ハニヤ氏はイランのペゼシュキアン新大統領の就任式のためテヘランを訪問していた際、イスラエルに何らかの手段で殺害されたと考えられ、攻撃直後にはイランとイスラエルとの直接対立の激化とエネルギー市場への悪影響が懸念された。

原油価格は攻撃直後に1バレル当たり2~3ドル程度上昇したが、2日後の8月2日には攻撃前より低い水準まで落ち着いた。今般の戦争にはイランやサウジアラビアなどの大産油国が直接関与していないほか、イスラエルやヒズボラなど非国家主体を含む各当事者は全面的な地域紛争を求めていない。これまで紛争がペルシャ湾岸産油国を巻き込むほど拡大する気配がないことから、市場にも地政学的リスクに起因する長期的な上方圧力は生じていない。むしろ米国や中国の経済・エネルギー需要見通しが懸念されていることを受けて、価格が下落基調に向かっていると理解されている。

今後最もエスカレーションのリスクが高いのは、イスラエル北部・レバノン南部の戦線だ。ここでは昨年10月の紛争開始直後から、イスラエル国防軍とヒズボラとの低強度紛争が継続しており、7月のヒズボラ高官の殺害などを機に対立がエスカレートし、本格的な地上戦に突入する可能性も排除できない。そうなった場合、イスラエル北部の天然ガスインフラが攻撃対象となる可能性がある。

イスラエルは2020年ごろから大規模ガス田の生産を開始し、自国のほかにヨルダン・エジプトにもパイプラインガスを輸出している。特にエジプトは国内ガス需要が高まる一方で自国のガス生産量が急減しており、イスラエルは自国のガス需要を満たすとともに、アジア・欧州へのLNG輸出を継続するための不可欠なガス供給源となってきた。エジプトは今年既にLNG輸出を停止し、スエズ湾岸・ヨルダンのアカバ港を通じたLNG輸入を開始している。イスラエル・レバノン間での紛争激化に伴い北部ガスインフラが損害を被ることになれば、エジプトのガス需給をますますひっ迫させる事態になりかねない。

(豊田耕平/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

日本の自動運転技術の現状 解決すべき課題は山積


【モビリティ社会の未来像】古川 修/電動モビリティシステム専門職大学教授・学長上席補佐

自動運転は、走行目的によって二つに分類される。図は将来の究極の自動運転社会実現に至る発展の過程を示しているが、右側経路がオーナーカー、左側が物流・交通サービスの自動化である。

オーナーカーは、各メーカーが独自に開発を続けており、ホンダが2021年に世界で初めてレベル3の自動運転システムを実用化した。このシステムは、高速道路限定で時速60km以下の低速度でしか機能しない条件になっている。最近ではメルセデス・ベンツが米国でレベル3の自動運転システムを実用化しているが、走行条件はホンダと同様に高速道路で低速度に限定されている。

自動運転社会実現に至る過程

物流・交通サービスについては、産学官連携のオールジャパン体制で各種の自動走行サービスをテーマとした開発事業が進められており、実証実験が行われている。現在は特に「ラストマイル自動走行サービス」が高齢者などの交通弱者の移動手段確保の社会課題解決手段となるサービス事業として期待されている。

これは、地方での道の駅などを拠点として短距離を低速で車両を自動走行させて、交通弱者の移動に役立てようというものである。日本全国で多数の実証実験が実施されているが、まだ継続性を維持できる商用サービスとして社会実装されたものはない。社会実装へ向けた大きな課題は二つあり、一つは安全性の担保であり、もう一つは、ビジネス性の確保である。

この課題の両者はお互いに関連しており、安全性確保には、自動化レベル2で安全監視のための補助ドライバーに同乗させる必要があるが、これでは地域の交通課題である、専門サービス従事者の数が低減していることへの対策とはなっていない。現在の「ラストマイル自動走行サービス」の実証実験のほとんどは、このレベル2で走行実験が行われている。

福井県永平寺町での実証実験では近年、レベル4と称して無人カートで時速20km以下で自走走行して地域住民の移動に充てる実証実験が実施されているが、これは無線通信によって自動走行カートの運転映像や走行データを安全監視センターに伝送し、それを監視員が常時確認するという安全担保策が用いられている。一人の監視員が複数の自動走行カートの走行画像やデータを監視することによって、専門サービス従事者の数を削減できるとしている。しかし、低速走行とはいえ、一人の監視スタッフが同時に複数の自動走行車両の安全を監視できるかどうかは、大きな疑問を感じる。実際23年11月には、このレベル4の自動走行実験で車両が停止中の自転車と接触する交通事故が発生している。

このように、「ラストマイル自動走行サービス」には解決すべき社会課題や技術課題が山積している。しかし、地方での高齢者等の交通弱者の移動手段を確保することは、高齢化が進む日本において緊迫した課題であり、新たな技術イノベーションやサービスシステムの創生が必要である。

筆者は、山形県で、低コストで安全・安心できる自動走行技術の研究開発に着手している。

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ふるかわ・よしみ 東京大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。ホンダで4輪操舵システムなどの研究開発に従事。芝浦工業大教授を経て現職。

中東では「影の戦争」が顕在化 安定化の努力と緊急時の備えを


【オピニオン】坂梨 祥/日本エネルギー経済研究所 中東研究センター長

日本がエネルギー安全保障の面で依存する中東地域情勢は、今日再度不安定化している。長年にわたり水面下で繰り広げられてきたイスラエル・イラン間の「影の戦争」が、今や顕在化しているためである。

両国間の対立激化の背後には、昨年10月7日に発生したハマスの対イスラエル攻撃を端緒とするガザ戦争がある。イスラエルのネタニヤフ政権は自国の安全確保を掲げ、ハマス壊滅を目指し、ガザ攻撃を続けている。これに対してイランの側は、既に4万人の死者(その大多数はパレスチナ人)を出しているガザ攻撃の停止を求めている。イランは「イスラエルの占領に対抗する」ハマスに加え、各地の「抵抗勢力」を支援してきたが、今日ではそれらの抵抗勢力も、ガザ攻撃の停止を求め、対イスラエル攻撃を繰り返している。

抵抗勢力とは、「イスラエルによる占領とその後ろ盾である米国への対抗」を掲げて武装闘争を続けるレバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派、およびイラクの親イラン民兵などを指す。イランはこれらの勢力で構成される「抵抗の枢軸」を率いてきたが、抵抗の枢軸は7月末のテヘランにおけるハマスの最高幹部ハニヤ氏の暗殺に先立ち、対イスラエル攻撃を徐々に拡大させていた。すなわちイスラエルによるハニヤ氏の暗殺は、抵抗の枢軸に対するイスラエルからの「反撃」であったと見ることもできる。

なお、抵抗勢力経由でイスラエルへの圧力を強化してきたイラン自身は、圧倒的な軍事力を有する米軍による介入を招きかねない事態のエスカレーションは望んでいないとされる。しかし、イスラエル側がハマス壊滅を掲げガザ攻撃を続ける限り、その阻止を目指す「抵抗の枢軸」による対イスラエル攻撃が予期せぬエスカレーションにつながる可能性は残る。誰もそれを望まない場合にも、偶発的衝突や計算違い(誤算)は常に生じ得るからである。

従って、今日原油の95%を中東に依存する日本としては、中東情勢を注視し続ける必要がある。原油の中東依存度95%という現状は、経済合理性と「脱ロシア」の結果ではある。また、中東情勢のたび重なる不安定化にもかかわらず、これまで日本が原油供給の途絶に見舞われたことはない。さらに、一次エネルギーに石油が占める割合は年々減少し、1973年の石油ショック当時と脱炭素がうたわれる今日とでは、石油を巡る状況は大きく異なる。

それでも石油の安定供給はエネルギー安全保障にとって不可欠であり、日本としては引き続き、中東安定化に向けた最大限の外交努力を続ける必要がある。緊急事態の発生に備えた戦略的な対応策や行動手順の策定も、日本にとって必須の課題と言うことができる。

さかなし・さち 在イラン日本大使館専門調査員などを経て,2005年から日本エネルギー経済研究所中東研究センター勤務。同センター研究理事・副センター長を経て、24年6月から現職。専門はイラン現代政治。

「電気運搬船」というアイデア 洋上風力拡大の〝解〟となるか


【脱炭素時代の経済評論 Vol.06】関口博之 /経済ジャーナリスト

例えば沖合かなたにある洋上風力発電で作った電気を、蓄電池を載せた船で港に運んでくる―。そんな構想が進行している。念押しのため繰り返すが、電気で動く船ではなく、電気を運ぶ船の話だ。

これをビジネスとして提唱しているのがパワーエックス。蓄電池や充電器の開発製造で成長するベンチャーだ。世界初というその電気運搬船の計画によると、船はコンテナ型蓄電池を96個搭載、陸上の大型蓄電所並みの24万kW時の電気を1隻で運ぶ。電動で300㎞の航続距離を目指す。今治造船と共同で来年初号船の建造を始め、2026年完成が目標だ。プロジェクト本格化のため今年、事業を分社化もした。

パワーエックスの電気運搬船イメージ図
提供:パワーエックス

再エネ電源が増える中、出力制御せざるを得ない余剰電力を今後どう生かすかは課題。送電網の増強や系統用蓄電池の活用、水素に変換して貯めたり運んだり。どれも重要だがコストが莫大だ。そこで考えられた電気運搬船だが、果たして成算はあるのだろうか。

第一の用途は「系統送電網の補完」だという。たとえば北海道で余った再エネ電力を充電してきて、本州側の拠点で放電する。もちろん連系線拡大ほどの容量は担えないが、機動的な融通には役立ちそうだ。

第二の用途が「洋上風力電力の大消費地への供給」。つまり海底ケーブルの代わりだ。洋上風力について政府は40年までに3000万~4000万kWの案件形成を目標に掲げる。そのため対象海域をEEZ(排他的経済水域)まで広げる法案も閣議決定。その主力は浮体式洋上風力になる。

概して陸から離れるほど風況は良く、その平均風速がわずかに上がるだけでも発電量は格段に増えるとされる。そこはおのずと水深も深くなるが、従来、海底ケーブルの敷設実績があるのは水深300mまでの区域だという。これでは浮体式にしたとしても海域が限られ、ポテンシャルを生かし切れなくなる。今後ケーブル敷設技術が進展するにしても、船で運べば早期に実現できるという発想なのだ。

適地はあるのだろうか。パワーエックスが想定する一つが相模湾沖。洋上風力で作った電気を現地で充電し、横浜港に運んで系統設備につなぐ。現時点ではこのエリアに洋上風力の計画自体ないが、こうしたことが実現できれば関東地区も北海道や東北と同等の洋上風力のポテンシャルを持つことができると試算する。可能性を見据えて今年、横浜市および東電パワーグリッドと3者で連携の覚書も結んだ。そこには横浜港に入る大型クルーズ船向けの陸上電力供給というプランも盛り込まれている。

電気運搬船という構想は、まだ夢物語のようでもある。そもそもがパワーエックス創業者で、前職では通販サイトZOZOの取締役も務めた伊藤正裕社長の「素人のアイデア」(同社関係者)だったという。今回筆者が意見を求めた業界人も無言で首をかしげてしまった。ただこの電気運搬船、実は昨年改定された国の海洋基本計画にも文言が書き込まれている。こうしたベンチャーの挑戦を実らせてこそ、新産業の創出も可能になるのだ、とワクワクもしている。

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.01】ブルーカーボンとバイオ炭 熱海市の生きた教材から学ぶ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.02】国内初の水素商用供給 「晴海フラッグ」で開始

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.03】エネルギー環境分野の技術革新 早期に成果を刈り取り再投資へ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.04】欧州で普及するバイオプロパン 「グリーンLPG」の候補か

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.05】小売り全面自由化の必然? 大手電力の「地域主義」回帰

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せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

【コラム/9月13日】急増する米国の電力需要


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

米国では、過去20年ほど横ばいであった電力需要が最近急増し始めている。その背景としては、CHIPS法、インフレ抑制法(IRA)やインフラ投資・雇用法 (IIJA)などの連邦法の支援による半導体やクリーンエネルギー分野などでの投資の活性化、データセンターの爆発的な増大、AIの急速な普及が挙げられる。クリーンエネルギー分野での投資の活性化に関しては、エネルギー省(DOE)長官ジェニファー・グランホルム氏は、民間部門の投資が、これまで2,000億ドルを超え、この3年間で1,500万人近くの雇用をもたらしたと述べている(2024年3月18日)。

ニューヨークタイムス紙(NYT)は、このような事態に直面して、米国の電力会社は、2028年までの需要増加の想定値を過去1年間にほぼ2倍に引き上げたとの調査結果を紹介している(2024年3月14日)。また、同紙では、夏季ピーク電力は、今後5年間に全米で38,000MW増加するという予測も紹介している。本稿では、米国で異常ともいえる高まりを見せる電力需要の実態とそれがもたらす課題はどのようなものかを論じたい。

NYTによれば、EVや太陽光パネルなどの生産工場が多く建設されているジョージア州では、同州最大の電力会社であるジョージア電力は、現在、今後10年間の電力需要の増加を2年前の予測の16倍と見込んでいる。また、IRAの支援を受けてEVやヒートポンプの利用拡大も、電力需要の増大に寄与している。カリフォルニア州では、州政府独自の豊富な支援策もあり、EVの販売が好調である。同州における2024年第一四半期のEV販売は、過去最高の102,507台を記録、新車販売の4分の1を占めた。同州のエネルギー委員会は、すべての新車販売をゼロエミッション車とすることが義務付けられる2035年には、ピーク時の電力使用量の10%をEVが占めると予測している(2022年時点では1%)。

さらに、リモートワーク、ビデオストリーミング、オンラインショッピングなどの増加により、全米でデータセンターが急速に増大している。そして、AIの台頭で、この傾向は加速している。NYTによれば、全米最大級のデータセンター拠点の一つであるバージニア州北部では、2019年以降少なくとも75の施設が開設されており、地元の電力会社ドミニオン・エナジーは、データセンターの容量がわずか5年で倍増する可能性を指摘している。ボストン・コンサルティング・グループによると、2030 年には全国のデータセンターの電力需要は、2022年の約3 倍の390 TWhとなり、これは約4,000万世帯分の消費電力に相当する。

このような電力需要の急増がもたらす懸念は、まず系統の負荷増大に対応して、その拡大・増強が間に合わない可能性である。米国最大の独立系統運用者であるPJMは、今年になり、2029年と2038年における夏のピーク需要の予測を昨年のそれと比べ、それぞれ10,000MW、22,400 MWほど嵩上げしている。NYTによると、PJMの系統計画のリーダーであるケン・セイラー副社長は、「我々のような大きな系統システムでも、突然このような事態が発生するのは深刻なことだ」と述べたとのことである。米国では、送電線の増強は、許認可手続の遅延や住民の反対などから10年単位の時間を要している。米国で昨年完成した送電線は、わずか251マイルにとどまり、送電線の建設はこの10年の間に大きく減少している(Statista)。(因みに、バイデン政権は、IIJAを踏まえ、今年のアースウィークで、今後5年間で、10万マイルの送電線をアップグレードすると発表しているが、現実とは大きくかけ離れていると言わざるを得ない。)

電力需要急増で次に懸念されるのは、気候変動問題への影響である。EV、バッテリー、太陽光発電などのクリーンエネルギー技術への移行によって増大する電力需要は、皮肉にも、国の気候変動対策計画を危うくする可能性がある。NYTは、いくつかの州の例を、つぎのように紹介している。ノースカロライナ州では、2021年に制定された法律に従い、同州最大の電力会社デューク・エナジーは、二酸化炭素排出量を2030年までに70%削減することを義務付けられたが、今年1月に、2033年までに最大5基の大型ガス火力発電プラントおよび5基の小型バージョーンを建設するという新たな計画の下では、目標達成は少なくとも5年遅れる可能性があると述べている。そして、同社は太陽光発電と洋上風力発電の大幅な拡大に努めているものの、需要の急速な増大に追いつくためには、ガス火力発電プラントの追加的な建設が必要であると強調している。デューク・エナジーの事業部長ケンダル・ボウマン氏は、「この前例のない需要の成長のなかで二酸化炭素削減を実現することは、特に短期的にはチャレンジとなる」と述べている(NYT)。

同様なことは、バージニア州でも起きている。データセンターの需要増加に対応するため、ドミニオン・エナジーが再生可能エネルギー発電と天然ガス火力発電を組み合わせた発電計画を提案しているが、この計画により同社の二酸化炭素排出量が増加する可能性がある。また、ジョージア州では、ジョージア・パワーは天然ガスと石油を燃料とする新規のプラント3基の建設許可を申請しており、計画されていた古い石炭火力発電プラント2基の廃止を延期するかどうか検討中とのことである。南部環境法律センター(SELC)によると、南東部全域の電力会社が2038年までに約33,000MWの天然ガス火力発電プラントの建設を計画しており、これは気候変動との闘いと完全に矛盾している。

わが国でも、CN実現のための取り組みやDXの推進が積極化するなかで、今後、電力需要が急増していく可能性は否定できない。その場合には、米国が直面する同様な課題の解決が迫られる可能性があるだろう。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

世界三大ガス市場価格の動向 相互影響深化で安定化が重要に


【マーケットの潮流】橋本 裕/日本エネルギー経済研究所 上級スペシャリスト

テーマ:主要ガス価格の推移

2010年代前半までアジア太平洋、欧州、北米の三大天然ガス市場は需給構造が異なっていた。

16年に米国からのLNG輸出が開始され、三大市場の連動性が高まっている。

スポットLNG・ガス価格は今年6月末時点で年初とほぼ同じ価格帯に入っている。アジアスポットLNGは100万Btu(英国熱量単位)当たり11・5~13米ドル帯、欧州大陸スポットガス価格は同10・5ドル相当となった。いずれも3月末までにこの水準よりも2ドル程度下がったが、6月以降底堅く、時折上昇傾向を示している。

7月、米国でのハリケーン影響による一部LNG生産の停止により、北半球夏季としては相対的に高水準を維持した。その後も、欧州向けロシア産パイプラインガス供給に関してウクライナ経由の輸送契約の先行き、建設中のLNG生産プロジェクトの稼働開始時期への不安感が、次の北半球冬季に向けて価格を押し上げる要因となっている。

主要ガス価格の推移


新興市場の開発でも重要 価格変動への対応が顕著に

欧州ガススポット価格の主要指標TTFは、オランダのパイプラインネットワーク上の、特定の引き渡し地点ではなく、仮想(バーチャル)地点での取引価格である。欧州向けパイプラインガス・LNG売買取引の価格指標として用いられ、アジアとのLNGカーゴのやり取りの際も参照される。TTFのオリジナルの取引価格単位は、MW時当たりユーロだが、国際取引との参照上は、100万Btu当たり米ドルに換算した参考値が常用されている。アジアのスポットLNG価格と比較され、TTFが高い場合には、スポットLNGカーゴが欧州に向かいやすい状況となる。

TTFは、2015年から18年前半まで概ね4~7ドル台で推移した。18年第4四半期以降、8~10ドルに上昇し欧州へのLNG輸入が増加した。しかしパンデミックでエネルギー需要が冷え込んだ20年、4月下旬から7月までは2ドルを下回る水準が続いた。その後20年秋以降徐々に上昇傾向を続け、21年7月に13ドル近辺で熱量等価換算で原油価格を上回り、23年4月まで一貫して原油価格を上回る状況を続けた。21年12月末、60ドル近くまで高騰し、TTFに連動する翌月引き渡し分のパイプラインガス価格を高水準で固定し、22年1月には、これを下回る値決めをしたLNGカーゴが欧州市場に大量流入した。

当時の急上昇については、低水準の欧州地下貯蔵ガス在庫量、ウクライナ経由ロシア産パイプラインガス供給量の低迷、ドイツ規制当局によるノルドストリーム2の承認手続き停止、欧州・ロシアの寒冷化によるエネルギー需要増加、風力発電の低下、ロシア・ウクライナ対立懸念などが指摘された。さらに22年2月のロシアによるウクライナ侵攻後、3月初旬には一時70米ドルを超え、8月には100ドル近くまで上昇した。同年を通じてTTFがアジアスポットLNG価格に対して常態的にプレミアムで取り引きされ、LNG物流の欧州向けシフトにつながった。

退陣する岸田首相の功績と失敗 自民党は骨太の政策を構築できるか


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

本号の原稿を、日本原電敦賀2号機の原子力規制委員会の判断について書いていたところ、岸田首相退陣のニュースが飛び込んできた。

私は、客観的に見て、岸田首相は内政面でも外交面でも歴代政権の中で平均点以上の総理大臣だったと思う。官邸周りも、それなりにうまく動いていた。とりわけエネルギー政策では、東日本大震災以降、安倍政権が放置し結果的に「脱原発」に向かってしまっていた原子力政策を、再び重要電源として息を吹き込んだことは特筆すべき決断であったと評価すべきである。ただ、GX戦略のような大風呂敷を広げたものの政策効果の怪しげな政策を打ち出したり、「増税メガネ」と言われると全く意味のない定額減税に固執したり、いきなり派閥解散を言明したりと、時々に見せる権力を維持するためだけの、あざとく姑息な判断が国民に嫌われたのだろう。

私は、今回の岸田首相退陣劇を眺めていて、「自民党の民主党化」が進んだと見ている。それは、かつての自民党では、国民的評価が低くても客観的に見て結果をそれなりに出している首相は、政権与党の矜持として歯を食いしばって支えていたのが、2012年の政権再交代以降、自力で選挙を戦えない議員が半数近くになる中で、選挙前に選挙の顔を求めて党内が右往左往する姿に見てとれるのだ。


国民ウケなきエネ政策 求められる政治主導

こうした与党の矜持なき自民党の総裁選では、目先の選挙受けを狙った派手な人気取りの政策が提示されないかが心配だ。エネルギー政策では、不透明な国際情勢が続き、ドッグイヤーでの技術革新が進み、巨額のマネーが世界を駆け巡っている中で、今ほど現実的で骨太の戦略的政策体系を構築しなければならない時はない。岸田首相が動かした原子力政策にしても、単に東日本大震災前の政策に戻すのではなく、国際的な動きをにらみながらの新型炉開発の加速、原子力産業と発電事業の再編、規制と危機管理体制の再構築など大きな政治判断が必要なことが山積みである。

こうしたエネルギー政策は、決してスカッと分かりやすい、国民受けするようなものではないかもしれない。しかしエネルギーの安定供給は国の礎であり、これこそ政治のリーダーシップをもって構築しなければならないものなのだ。

私は、目先の政権の維持が優先される小選挙区比例代表並立制の下での自民党政権では、もはや中長期的視点に立った骨太の政策体系を作ることは無理だと実感している。自民党総裁選の結果、次の総理が誕生したとしても、既存の政党の枠組みを超えた政治の刷新を求める声が強くなるのではないだろうか。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2024年9月号)


NEWS 01:FIP移行促す新たな措置 出力制御をFITから実施へ

資源エネルギー庁がFIT(固定価格買い取り)からFIP(フィードインプレミアム)への移行を促す新たな措置を講じる。早ければ2026年度から優先給電ルールでの出力制御の順番をFIT、次いでFIPとする方針だ。FIPは当面出力制御の対象とならない見通し。一方でFITの制御確率は高まる。

FITの出力制御確率は上がることに

FIPは再エネ電源の市場統合を図る制度で、収入は市場価格に連動する。価格が低い時間帯に蓄電し、高い時間帯に供給をシフトすることなどで収入を増やせる可能性がある。また、FIP電源はエリアで出力制御が発生していても指令対象とならない場合、その時間帯にプレミアムが交付されない仕組みで、需給バランスへの貢献度が高い。

ただ、23年度のFIP認定量は、太陽光ではFIT・FIP全体の約3割にとどまる。そのためエネ庁は、需給バランスへの貢献面でFITとFIPの公平性を確保すべく、8月7日の再エネ大量導入・次世代電力ネットワーク小員会で今回の案を提示。優先給電ルールの見直しに加え、FIPへの移行が一定程度進むまで、蓄電池の活用や発電予測などの支援を強化する方針も示した。エネ庁案に対し、同日の会合にオブザーバー参加した太陽光発電協会の増川武昭事務局長は、「必要性と効果に疑問がある。案の通り進めることに賛同することは難しい」などと述べ、再考を求めた。


NEWS 02:膨れ上がる調整力コスト 送配電事業の収支に打撃

大手エネルギー各社の2024年度第1四半期決算が、7月末までに出そろった。多くの企業が過去最高の経常利益を記録するなど好決算だった前年同期から一転、大手電力10社のうち、四国、沖縄を除く8社と、東京、大阪、東邦の大手都市ガス3社が大幅な経常減益を余儀なくされた。この背景には、原・燃料費調整制度に基づく期ずれ差益の縮小があり、減益幅も想定の範囲内と言っていいだろう。

一方、浮き彫りとなったのは厳しい送配電事業の収支状況だ。北海道、東北、東京、中部、関西、中国、九州で経常減益。中でも関西は56億円の赤字(前年同期は158億円の黒字)となり、グループ全体の収支にも影響を及ぼしている。

これには、需給調整市場の入札不調により膨れ上がっている調整力の調達コストが大きく影響している。24年度に同市場で予定されていた全ての商品が出そろったが、多くのエリアで一週間前に取り引きする商品区分で募集量に対し応札量が大幅に不足する「未達」状態にある。それゆえに、価格が高騰し送配電事業者にとって大きな負担となっているのだ。7社とは逆に、エリア内の調整力の調達コストが低下した北陸、四国は経常増益となった。

電力業界関係者の一人は、「スポット市場同様、大手電力の発電部門に対し限界費用ベースの価格規律を押し付けていることが、この問題の諸悪の根源となっている。翌週の市場がどうなっているか分からないにもかかわらず、ほぼ利益もなしに1週間前の応札などあり得ない」と指摘する。

26年度には、現行1週間前に取り引きされている一次~三次①が前日取引に移行することが決まっている。その前に打てる手はないのか。


NEWS 03:SAFを身近な航空燃料に 環境価値の取引で魅力を認知

航空業界の脱炭素化につながる「SAF(持続可能な航空燃料)」の魅力を認知させる試みが動き出した。ENEOSや伊藤忠商事、日本航空(JAL)などの7社は8月、SAFの利用に伴うCO2排出量の削減効果を「環境価値」として取引する実証試験を始めた。次世代燃料を利用拡大に弾みをつける仕組みとして、今後の展開に注目が集まりそうだ。

成田空港(千葉県成田市)で始動したのが、温室効果ガス排出量を供給網全体で捉える「スコープ3」の環境価値をやりとりする試験。このプロジェクトには、日本通運の持ち株会社NIPPON EXPRESSホールディングス、成田国際空港、みずほ銀行、みずほリサーチ&テクノロジーズも参画した。航空輸送の関係者が一堂に会してこの種の環境価値をやりとりする試みは世界初という。

具体的には環境価値の販売情報と購入情報を、情報を集約するプラットフォーム(基盤)上で結び付ける。ENEOSや伊藤忠が成田空港にSAFを供給するとともに、CO2削減効果を証書にして基盤上で環境価値を提供。JALもSAFの使用に伴って発生する環境価値を届け、こうした価値を基盤を通じて運送事業者や旅客などが受け取るという。

SAFは従来の航空燃料と比べると高額なため、航空機のチケット代に跳ね返る可能性がある。CO2排出量の低い輸送や出張に価値を見い出したい買い手は潜在するとみられ、環境価値を伝える対応が求められていた。試験は12月まで進める計画で、その間に生み出される価値は最大で約160t(CO2削減効果)を想定している。SAFの供給体制づくりと並行し、空の脱炭素の切り札として身近な存在する需要面の工夫も求められている。


NEWS 04:「常陽」が再稼働へ前進 高速炉開発の巻き返しなるか

高速炉開発の巻き返しに向けた一歩となるか─。茨城県は8月2日、日本原子力研究開発機構(JAEA)の高速実験炉「常陽」の再稼働に向けて原子力審議会を開催した。再稼働について「基本的に了承」と評価し、今後は茨城県と立地する大洗町が同意の上で安全対策工事が行われる見込みだ。

再稼働を目指す常陽

高速炉開発については近年、経済合理性の観点から計画を凍結・中止する国が相次いだ。日本も2007年に常陽が装置破損で運転休止、16年には高速増殖炉「もんじゅ」の廃炉が決定し、世界の「先頭集団」から脱落。先行するロシアや中国、インドは30年代の実用化を狙う。こうした中で専門家は「高速増殖炉とナトリウム流動の実験ができる施設を持つことは、日本の優位性を高める」と経済安全保障上の意義を語る。

政府は22年末、高速炉開発の巻き返しを図るべく、「戦略ロードマップ」を改訂。昨年7月に実証炉開発の中核企業に三菱重工を選定し、40年代半ばの運転開始を目指す。今年7月には、政府とJAEAが常陽の燃料確保に向け、新たな製造工場の新設検討を表明した。

既設炉の再稼働のみならず、次世代炉開発の前進も原子力政策の正常化に向けた重要なピースだ。まずはJAEAが「26年半ば」とする再稼働を実現し、実証炉の運開に向けた貢献に期待したい。