<業界人編> 電力・石油・ガス
新聞媒体によって電力需給を巡る報道に大きな違いが。業界関係者の評価は。
─夏本番を前に、早くも電力需給がひっ迫した。7月5日に関西電力送配電が全国の送配電5事業者から最大138万kW、8日には東京電力パワーグリッド(PG)が中部電力PGから最大20万kW、関電送配電が同じく中電PGから最大36万kWの電力融通を受けた。
石油 斎藤健経済産業相は9日日の閣議後会見で「電力需給は予断を許さない状況と認識している」としつつも、節電要請は行わないと従来の方針を維持した。8日の東京都心の最高気温は36℃。朝に東電の「でんき予報」を確認すると、使用率が99%となっていた。でんき予報を頻繁にチェックしていた人は14時ごろ、瞬間的に100%になったのを見たとか。
電力 結果的に、小売事業者が供給力を融通する「発動指令電源」や火力発電所の増出力運転などで乗り切ったが、真夏が思いやられる。
原発再稼働の声を恐れたか 関係者困惑の補助金「復活」
石油 翌日の朝刊を見て驚いた。朝日・毎日には需給ひっ迫を報じた記事がない! 東京にしても東電管内の需給ひっ迫だというのに、共同通信の記事を載せただけ。東京は昨夏、「史上最も暑い夏だった……なのに電力ひっ迫しなかったわけとは 原発再稼働は本当に必要なの?」との記事を掲載した。今回の需給ひっ迫を目立つ記事にすると、読者から原子力発電所の再稼働を求める意見が出てくるかもしれない。それを恐れて、あえて触れなかったのではないかと勘繰ってしまった。
ガス 朝日や毎日、東京が力を入れるのが、大詰めを迎えた敦賀2号機の適合性審査に関する記事だ。中でも東京は、日本原子力発電を悪者に仕立て上げているかのような記事が目立つ。
電力 反原発の立場からすると、需給ひっ迫は敦賀2号機の審査行き詰まりに「水を差す」出来事なのだろう。右も左も、もう少しバランス良く報道したらどうか。
ガス 需給ひっ迫のニュースを見ると「これ以上、再生可能エネルギーは必要なのか」との疑問が湧く。発電比率で火力や原子力がもっと大きな割合を占めていれば、こんな事態にはならないのでは。
電力 次期エネルギー基本計画は、電力需要が最も伸びるシナリオでも、前回より高い再エネ比率を設定する「縛り」があるかもしれない。エネ基は議論の終盤で数字が変わることがあるし、もし河野太郎首相が誕生すれば、これまでの議論を白紙撤回しかねない。
ガス 河野氏は怖いが、いま名前が挙がっている自民党総裁候補なら、河野氏以外の誰が首相になっても路線変更はないだろう。それなら岸田文雄首相の続投で良いのだが……。
─政府が8〜10月使用分の電気・ガス料金支援を発表した。5月に終了した補助金があっけなく「復活」した格好だ。
石油 「だったら5月にやめるな」としか言いようがない。開いた口がふさがらないよ。
ガス 料金補助が終了する間際、自民党の木原誠二幹事長代理が継続に向けて水面下で動いていたと聞いた。奏功しなかったが、通常国会の閉会間際に行われた党首討論で立憲民主党の泉健太代表が、「エネルギー補助金は続けるべきだった。復活すべきでは」と発言。その直後に岸田首相が「復活」を命じたのだろう。朝日が報じていたが、経産省の幹部が「急な話で、びっくりしている」と驚くのも無理はない。
石油 もはや激変緩和策ではなく、「福祉政策」だ。国民にとってはありがたい話だが、必ずどこかにツケが回る。
電力 昔から指摘されているが、福祉政策を電力・ガス料金でやるべきではない。貧困家庭の電気代に特別料金の設定を求められた時、電力会社や経済学者はこう反論した。低所得世帯への給付金や減税など、ほかの手段はいくらでもある。
補助金批判の記事少なく 航空燃料不足で石油業界は
ガス 不思議なことに、補助金について批判的な報道はあまり見ない。批判したとしても、記事の最後で「財政健全化が遠のく」と軽く触れる程度だ。電力さんが言ったような分析的反論は目にしないし、「脱炭素に逆行する愚策」と論陣を張る大手メディアはない。国民の中には、過去最高利益を消費者に還元しない電力会社が「悪」、補助金を恵んでくれる政府は「善」と捉える人もいるかもしれない。
─石油さんに聞きたい。航空燃料の不足が大々的に取り上げられている。
石油 業界内部の人は、「こんな問題があったんだ……」とポカーンとしている人が多い。というのも、これはエネルギー問題というより、物流2024年問題だ。垣見油化の垣見裕司社長がブログで解説しているが、航空機に給油するまでには、まず元売りが原油を精製し、燃料を製造する。それをタンクに貯め、内航船で油槽所に運び、そこからタンクローリーなどで空港のタンクに運ぶ。そこで一度貯油し、ようやく航空機の運航に合わせて1機ごとに給油する。今は内航船の船員や空港職員の数が減り、元売り以降の流れが滞っているというわけだ。
ガス 物流問題となれば、今後はジェット燃料以外にも波及する可能性がある。安定供給に支障をきたしているのだから、エネ基の議論に盛り込んだ方がいいんじゃないか。
─持続可能な航空燃料(SAF)で低炭素化しても、運べなければ意味がない。