【マーケットの潮流】曽我野 達也/ENECHANGE上級執行役員
テーマ:卸電力市場
JEPXスポット市場価格は23年度以降、すっかり落ち着きを取り戻している。
小売事業者の戦略はどう変わったのか。ENECHANGEの曽我野達也氏が現状を分析する。
2024年度の日本卸電力取引所(JEPX)スポット市場は、落ち着きを取り戻した23年度の同市場の売買バランスとほぼ近似となっている。1日の各入札合算量が、「買い」よりも「売り」が上回る日が5月28日渡し時点で98%以上を占め、安定的なスタートとなった。
また、スポット市場価格とも高い相関を示すLNGの価格指標であるJKM(ジャパン・コリア・マーカー)は、地政学的リスクはあるものの、暖冬の影響もあり高在庫であり、安定的な価格推移を見せている。やはり23年度と近い状況だ。さらに、JKMと高い相関を示す欧州ガス価格指標のTTFにおいても、EU全体の地下ガス在庫が5月24日時点で68%以上。毎週増加傾向にあり、こちらも23年度と近い状況となっている。
これらのことから、大きな事件が起こらない限り24年度のスポット市場は、23年度とほぼ変わらない水準感が想定される。一方小売電気事業者は、21年11月から22年2月のスポット市場の高騰と、落ち着きを取り戻した23年度以降の電力業界を取り巻く状況変化を経験し、それに対応すべく新しいサービス、メニューを開発している。

活気取り戻した高圧市場 需要家はリスク避ける傾向
高圧電力の販売市場は、選択肢が極端に少なくなったロシア・ウクライナ戦争直後のような状況からは脱却し、再び複数の電力会社が積極的に参入し活気を取り戻している。この市場の活況の背景には、需要家が直接選択できる多様な電力販売プランの提供が大きく関係している。現在提供されているプランは主に次の三つのパターンに分類される。一つ目は、市場価格に連動するメニューである。このメニューは料金プランが多岐に渡り、30分ごとの価格に連動するプランや、月の平均価格に基づいて変動するプラン、各小売会社が独自に基準価格を設定する独自燃調型プランなどがある。日中の使用量が多い需要家は市場価格に連動するプランを選ぶ傾向があり、負荷率の高い需要家は月の平均価格に基づいて変動するプランを選ぶ傾向にある。
二つ目は、燃料費等調整額を含む燃調メニューで、大手電力によって提供される標準料金プランに沿った料金設定となる。ただし、どの時期の燃料費等調整料金の計算式を用いるかは各社異なるため、需要家は注意が必要だ。一見、基本料金、従量料金単価が安くても、燃料費等調整額が23年3月以前の計算式になっており、割高になる場合もある。電気料金としては緩やかに上がり、緩やかに下がるといった特徴があるため、市場連動メニューに比べ割高になるものの、安定性を求めて選択する需要家が多い。
三つ目は、基本料金、従量料金、再エネ賦課金のみで構成される完全固定メニューである。このメニューは、料金の変動リスクを回避し、一定期間安定した料金で電力を確保したい場合に最適だ。特に長期的な事業計画をもつ法人にとって有用で、今年1月から3月にかけて先物市場価格が下落したことで、価格が安価になり、選択する需要家が増加している。法人向け電力比較サービス「エネチェンジBiz」では、これらの多岐にわたる料金プランについて需要家が最適な電力会社を選択できる支援を行っており、全てのプランで市場価格や燃料費等調整額を詳細に計算し、需要家が公平に各プランを比較できる。