南海トラフ地震「臨時情報」 エネ業界で強まる警戒感


宮崎県沖の日向灘で8月8日に発生したマグニチュード7・1の地震を受けて、政府が初めて発表した南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)。1週間後に特別な注意の呼びかけは終了したが、大きな地震が発生するリスクは抱えたままだ。地域のインフラを支えるエネルギー業界には、臨時情報を機に防災面の備えに抜かりがないかを継続して確かめる課題が突き付けられている。

会見する南海トラフ地震検討会の代表(8月8日)
提供:朝日新聞社

エネ業界は安定供給と現場の安全確保に万全を期すため、BCP(事業継続計画)を徹底している。混乱する事態は見られなかったが、普段からの備えの重要性を再認識したようだ。

臨時情報の発出を受けて日本ガス協会は、各事業者などが影響を受けた際に迅速に連絡を受けるための窓口機能「情報収集体制」を継続して組成。大手電力で構成する送配電網協議会も地震の発生直後から連絡体制を強化した。また石油連盟は、サプライチェーンの維持と強化に向けて、設備と体制の両面で緊急時の対応力を磨いてきた。

内閣府によると、南海トラフ巨大地震で電気・ガスを含む各種ライフラインや交通網などの被害額が約100兆円に上るとの推計があり、エネインフラにもたらす影響も大きい。その後も神奈川県や茨城県で震度5弱を観測するなど各地が緊迫感に包まれる中、南海トラフ地震への警戒感が強まっている。

JERAは臨時情報に伴い「非常態勢」をとり、燃料運搬船との連絡体制や対応手順の再確認などを行った。備えを徹底する業界だが、予断を許さない状況がしばらく続きそうだ。

根拠となった第3条第3項 科学的な議論だったと言えるのか


【論点】敦賀2号機を巡る規制委判断を検証/奥村晃史・広島大学名誉教授

原子力規制庁は、敦賀2号機が設置許可基準規則に不適合と判断した。

この根拠となった第3条第3項に関わる今回の判断を検証する。

日本原子力発電・敦賀発電所2号機の新規制基準適合性に関わる審査を2015年から続けてきた原子力規制庁は、7月31日の原子力規制委員会において、設置許可基準規則に不適合とする審査結果を報告した。8月2日に開催された臨時の原子力規制委員会では、日本原電から追加調査を行って審査を継続することが要望されたが、規制委はこれを認めず、審査結果をまとめる方針が確認された。日本原電には再申請の途が残されているが、現状では敦賀発電所2号機の再稼働はできない。


議論の焦点となったK断層 原電の総合的な判断は妥当

不適合とされた理由は、2号機建屋の北約300mで見出されたK断層が原子炉建屋まで連続する可能性(連続性)と、K断層の最近12万〜13万年間の活動(活動性)が否定できないことから、将来変位を生ずる恐れが認められたことにある。その根拠となる設置許可基準規則第3条第3項は、「耐震重要施設は、変位が生ずる恐れがない地盤に設けなければならない」とされている。

原子炉建屋直下の破砕帯とK断層については、12年〜14年に原子力規制委員会が行った敦賀発電所敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合でも議論され、今回と同様の結論が出ていた。この有識者会合の結論は、新規制基準適合性に関わる審査の前提とはならず、審査の中で検討が行われてきた。

東北電力東通原子力発電所と北陸電力志賀原子力発電所の敷地内破砕帯についても有識者会合は将来活動する可能性があることを結論したが、その結論は新規制基準適合性に関わる審査で否定され、再稼働を妨げる条件にならなかった。

日本原電はK断層の連続性と活動性を否定し将来変位を生ずる恐れはないことを主張するが、原子力規制庁の新基準適合性審査チームが連続性と活動性が認められる可能性を否定できないと結論づけ、規制委はこの結論により日本原電の主張が全面的に否定され、その判断は科学的で合理的だとしている。審査結果は7月31日開催の規制委の資料2にまとめられた。同資料を基にその妥当性を考えてみたい。

K断層の活動性に関わる議論の焦点は、断層によって変位を受けている③層と呼ばれる地層と③層を覆って変位を受けていない⑤層下部の年代推定にある。③層が12万〜13万年前より古く、⑤層下部が12万〜13万年前であれば、K断層は12万〜13万年間に活動しておらず、将来変位を生ずる恐れがないといえる。審査結果は⑤層下部が⑤層上部の堆積した10万年前前後に再堆積したことを否定できず、12万〜13万年前より新しい可能性があるとしている。一方③層から報告されている13・3万年(誤差0・9万年)より古いOSL(光ルミネッセンス)年代測定結果は、誤差範囲からみて③層が12万〜13万年前の地層である可能性を否定できないとしている。

D―1トレンチの地層断面図(イメージ)

地層の年代を推定するための個別のデータには火山灰層の再堆積の認定や、年代測定値の誤差のように、必ず不確かさが含まれている。科学的な年代推定は、不確かさをもつ多数のデータを合わせて検討し総合的に判断することにより実現できる。日本原電の審査資料には膨大なデータが取りまとめられ、規制基準に関わる活動性がないとする判断はそのデータに基づく総合的な判断として妥当である。

例えば、⑤層下部には12・7万年前の火山灰が含まれOSL年代は12・6万年(誤差0・5万年)前である。再堆積があった場合、この年代が再堆積の年代である。

③層と⑤層下部との間には顕著な侵食が起きており、寒冷で低海水準の時期に起きた侵食の開始は遅くとも13万年前で③層の堆積は13万年前以前である。12・7万年前の火山灰層はこの不整合面の直上に一次堆積している。③層を13・3万年(誤差0・9万年)より古いとする年代値は、OSL年代測定法による測定限界より古いことを現しており、誤差は年代の不確かさではない。


科学的な議論にならず 原電の主張を否定するため

このように、科学的・総合的な判断から導かれる地層の年代に対して、審査チームは一貫して個別データに含まれる正負の不確かさのどちらか一方だけをとって、活動性がある可能性を否定できないと結論づけている。これは科学的な議論ではなく、日本原電の主張を否定するための議論にすぎない。地質学に不可避な個別データに不確かさがあることを理由に、科学的・総合的な判断が否定されることを防ぐ方法はない。設置許可基準規則第3条第3項に関わる検討では、可能性が否定できない、として疑わしいものは危険とする判断が常態となっている。

敦賀発電所と断層の位置関係

現存する原子力重要施設は立地の際、施設下の断層や破砕帯の活動性を現行の規制基準に照らしては考慮していない。事前の調査で活断層がないことは確認されており、建設のために表土と表層の岩盤は取り除かれている。そのような既存施設に設置許可基準規則第3条第3項を適用して安全の証明を求めることは、事業者にとって非常に大きな負担となっている。

敦賀発電所2号機の審査では再稼働を許可しないことを目的に第3条第3項が利用されているように感じるのは筆者だけだろうか。

おくむら・こうじ 1956年滋賀県生まれ。東大文学部卒、同大学院理学系研究科博士課程修了。通商産業省工業技術院地質調査所研究員、広島大学文学部教授を歴任。24年から現職。原子力安全委員会専門委員.IAEA国際耐震安全センター科学委員などを務める。

海外で脱炭素の戦略的投資拡大 ドイツ・ベトナム両事業の最新事情


【中部電力】

中部電力は2021年度から30年度で4000億円投資し脱炭素化につながる事業を拡大する。

国内エネルギー事業と成長分野に位置付けるグローバル事業で利益ポートフォリオ1対1を目指す。

中部電力は、グローバル事業において、脱炭素につながる事業への戦略的投資を拡大し、欧州・アジアを中心とした脱炭素エネルギー企業を目指している。今回は、ベトナムにおける電気事業の橋頭堡と位置付ける再エネ会社、エネルギー業界のゲームチェンジャーと期待される地熱利用技術を用いたドイツで展開中のプロジェクトの二つを紹介する。

ベトナムのNho Que1水力発電所(3万24kW)


発電所の点検記録を整備 日越のDX技術交流に期待

ベトナムで出資するのは水力事業に取り組むビテクスコパワー社(ビテクスコ社)。同国最大規模の民間再エネ発電事業会社であり、ベトナム国内で29カ所の水力発電所と2カ所の太陽光発電所を運営・管理している。

海外の水力発電事業に初出資する理由は大きく三つある。第一に、ベトナムは人口増加と経済発展が著しく、今後も電力需要の拡大が期待できること。第二に、ASEAN諸国の中でも日射量や風況が良好なため、再エネ開発のポテンシャルが高いこと。第三に、ベトナム政府が再エネ比率を高めていく計画を打ち出すなど、再エネ分野の一層の成長が期待できるためだ。

中部電力は、設立以来70年以上にわたって培ってきた水力発電所の運転・保守に関する技術や知見を活用し、ビテクスコ社の水力発電所の運転効率化や安全性向上に貢献している。これにより、水力発電事業による安定収益を基盤にして、ベトナムの再エネ開発を推進し、ベトナムの成長性を取り込んでいく計画だ。

ビテクスコ社に運用保守エキスパートとして出向中の石原真輔副長は、中部電力の水力技術者として長いキャリアを有し、現在特に力を入れているのが、保守業務の基本となる点検記録の管理だ。

ビテクスコ社では、水力発電所の点検は行われてはいたものの、その記録を残し、将来の維持管理に役立てるという視点が十分ではなかった。そこで石原副長は、日本の水力発電所で活用してきた点検ノートを取り入れた。本来点検とはその場限りのものではなく、データを蓄積し、整理し、それらを活用することで、発電所のオーバーホールまでの時間を延ばし、維持コスト削減につながるものだということを発電所の技術者に伝えている。

言葉の壁も大きく立ちはだかる中、どうしたら理念を共有できるのか。石原副長は、粘り強くコミュニケーションを続けることが肝要だと考えている。

今後期待を寄せているのがベトナムと日本の技術交流だ。ビテクスコ社の水力発電所は一番古いものでも2009年式。したがって、どの発電所の機器も比較的新しいためデジタル化を進めやすく、これからDXが本格化する日本にとっては、ベトナムの技術が参考になることもあり得る。その点で、ベトナム人技術者、日本人技術者のお互いの研鑽が、国境を越えて、発電所の運転や保守のクオリティ向上につながるのではないかと期待している。

イラン・イスラエル対決回避? 原油価格は過敏な反応見せず


イスラム組織ハマスが7月31日、ハニヤ最高幹部がイスラエルに暗殺されたと発表した。ハマスの後ろ盾であるイランなどがイスラエルへの報復を宣言したが、8月21日時点で実行に至っていない。

7月31日の原油先物価格は上昇したものの、翌日には反落した。日本エネルギー経済研究所中東研究センターの深沢幸治研究主幹は「ハニヤ氏暗殺はイラン大統領就任式のタイミングで実行され、イランへの打撃は4月の在外公館攻撃以上とも考えられる。しかしイラン・イスラエル双方が全面対決は望まないとみられることが、原油価格への影響を限定的にしている」と指摘。また市場では、中東情勢の緊迫化が原油供給に影響する可能性が高くないとの認識が広がっているという。

ハニヤ氏のひつぎを乗せたトラックに集まる人々(イラン・テヘラン)
提供:EPA=時事

今後両者が全面対決に至る可能性は低く、原油価格への影響は引き続き限定的と見込まれている。「イランが報復攻撃した場合でも衝突が限定的とみられれば、4月の両国の衝突時のようにその後収束に向かうとの見方から、むしろ価格が下押しされる可能性もある」(深沢氏)。他方、イランの攻撃で死者が出たり、イスラエルがイラン核施設を攻撃したりといった場合は、違う展開もあり得る。

イスラエル・ハマス間のガザ停戦合意は、イランの報復攻撃撤回の条件になり得ると報じられている。仮に合意が成立すれば、中東情勢の緊張は一旦和らぐ。「価格も一時3~4ドル程度の想定で下落するが、速やかにその後の中東情勢や市場のファンダメンタルズを踏まえた値動きに移る」(同)とみられる。

脱炭素でエンジ企業の業績悪化 未知のリスクをどう分け合うか


【業界紙の目】宗 敦司/エンジニアリング・ジャーナル社 編集長

日揮と千代田化工が2023年度赤字決算となった背景には、脱炭素事業のリスクの具現化がある。

エンジニアリング会社とプロジェクトオーナーの間でリスク分担のあり方を見直すべきだ。

日揮ホールディングスは2023年度決算で78億円の純損失を計上した。サウジアラビアの大型案件を含めて、国内外の複数の案件で不採算が発覚し、今後の損失も含めた引当金を前倒しで計上した結果、赤字となったものだ。

採算悪化の要因は、①試運転段階の案件での追加費用の発生、②プラント機器メーカーの製造遅れによるプロジェクト遅延、③大型案件でのリスク対応費用の発生―とさまざまだ。

ただ、これらの個々の案件に通底する要因として「エネルギートランジションやサステナビリティーなどの分野への事業多角化のため、設計人員が分割されて、設計の人員不足となり、混乱が発生。その収束のため人員を追加投入したことでさらに混乱を招いた」(石塚忠・日揮ホールディングス社長COO)といった事情がある。

また千代田化工建設は、米ゴールデンパスLNGプロジェクト関連で米国のJV(ジョイントベンチャー)パートナーであるザックリー社の米連邦破産法11条(チャプター11)の申請により、決算発表が1カ月延期された。さらに370億円の追加費用の引当金を計上し、158億円の赤字決算となった。

建設中のゴールデンパスLNGプロジェクト
出所:ゴールデンバスLNGニュースリリース

ゴールデンパスLNGプロジェクトで千代田化工は建設を直接担当しておらず、建設工事での費用の増加と資金繰りについて、直接の責任を負ってはいない。しかし、JV構成員として、工事を主導していたザックリーに代わってプロジェクトを進捗させる必要があり、そのための追加費用を最大の金額で見積もった上で、引当金として計上したものだ。

ザックリーがチャプター11申請に至った理由は、新型コロナによるプロジェクトの遅れをキャッチアップするためのワーカーの追加投入が必要となったことが起因している。米国では多くのLNGプロジェクトに加え、インフレ抑制法(IRA)の影響もあり、水素・アンモニアプロジェクト、CO2回収・貯留・利用(CCUS)プロジェクトなども展開されている。工事に携わるワーカー不足が顕在化し、賃金も上昇して工事コストが高騰した。それに対し、ゴールデンパスLNG側の支払い額では工事進捗に必要な費用を賄えず、ザックリーが足りない費用を補填していたものの、限界に達したという。

ワーカーやリソースが不足新規領域故の課題も各社の赤字の状況は異なるものの、背景には脱炭素プロジェクトが影響している。

脱炭素プロジェクトは国内外共に活発に動き出している。その多くは、プラント建設段階以前の事業性調査(FS)や基本設計(FEED)といった段階のものだ。しかしEPC(設計・調達・建設)段階以前のソフト案件業務であっても、エンジニアのリソースはそれなりに投入せざるを得ない。

岸田首相は総裁選に出馬せず 電力側の評価は高かったが……


8月14日、岸田文雄首相が次期総裁選に出馬しない意向を表明した。政治資金パーティを巡る政治と金の問題などで支持率が低迷するなど、世間的には厳しい評価にさらされている岸田政権だが、エネルギー、とりわけ電力業界からは高評価の声が少なくない。安倍晋三政権時代に行き詰まっていた重要課題を一挙に解決へと導いたからだ。大手電力の幹部が言う。

次期総裁選への不出馬を表明した岸田首相(8月14日) 提供:首相官邸

「何よりも福島第一原発から出る処理水の海洋放出を実現させた。地元漁業関係者との交渉や、中国をはじめとした海外諸国の反発を抑え込んでの英断は見事だった。また原子力政策では脱炭素電源法に基づく運転期間延長を実現させたほか、エネルギー政策全般でも3・11以降の脱原発から原発推進へと大きくかじを切った。嶋田隆首相秘書官ら官邸スタッフの功績も大きいが、岸田首相の思い切った政治決断があればこそだと思う」

14日の会見で、岸田首相はエネルギー政策についてこう言及した。「原発の再稼働、革新炉設置を含めたエネルギー政策についても、電力自由化が進む中で、いかに電力投資資金を確保するか。電力安全保障と脱炭素化をいかに両立させるか。第7次エネルギー基本計画の下で方向性を確かなものにしていかないといけない」

9月27日投開票が決まった自民党総裁選を巡っては、小林鷹之前経済安全保障相、小泉進次郎元環境相、石破茂元幹事長、河野太郎デジタル相のほか、斎藤健経済産業相、高市早苗経済安全保障相、上川陽子外相ら計11人の名前が挙がる。エネ政策のかじ取りに注目だ。

台風時は泊まり込みで対応 電工職の技術者確保に苦労


【電力事業の現場力】沖縄電力労働組合

地理的要因により、本州にはない課題に直面する沖縄電力。

関係・協力会社とともに、地域のために全身全霊を注ぐ。

毎年のように台風が上陸する沖縄県でも、昨年8月の台風6号の直撃は近年まれに見る被害をもたらした。特徴はその進路にあった。東シナ海へ抜けるかと思われたが、Uターンする形で再び沖縄本島に戻ってきたのだ。台風が抜けかけた時、すでに現場は警戒態勢を解いて復旧作業に入っていた。だがUターンを受けて再度の警戒態勢を余儀なくされた。

配電部門では最長10日間、家に帰らずに支店で泊まって対応した作業員もいたという。沖電労組の担当者が現場を激励した際も、疲労困憊している様子が見てとれた。台風6号では最大で約21万戸の停電に対して、関係・協力会社を含め全社一丸となって、約1800人の最大要員態勢で復旧対応などに全力を注いだ。

停電復旧のため夜間でも作業を行う

災害時に現場で復旧作業を行うのは、主に送配電の技能者だ。彼らの存在なしに、災害時の安定供給はなし得ない。沖電社内で毎年行われる「配電技能競技大会」では台風シーズンの到来を前に、日ごろの訓練で習得した技術や技能をいかに安全に実施するかを支店ごとに競う。緊迫した空気感と、作業責任者と作業者の呼称復唱が見どころだ。

今年の配電技能競技大会

天願敏光書記長が「喫緊の課題」と危機感をあらわにするのが、協力会社を含めた電工職の技術者の確保だ。最近は若年層のみならず中堅・ベテラン層にも離職が多く、人手が足りていない。配電技能は長い年月をかけて習得する「職人技」と言っていい。緊急時や災害時の復旧作業では熟練した技能が求められ、ほかの仕事から転職してすぐに務まる仕事ではない。

なぜ電工職が若者から選ばれないのか─。その要因の一つは、台風の接近などで緊急呼び出しを求められる労働環境だ。離職者の中には、土日が固定休の仕事を求めて転職する人もいる。電工職の技術者の休日を確保するため、沖電社員も含めて対応しているという。

復旧を妨げる樹木の撤去


脱炭素への選択肢少なく かりゆしウェアを着て

沖電管内には、原子力や水力発電所が存在しない。系統が独立しているので、電力を他地域から融通することもできない。となれば火力発電に頼らざるを得ないが、脱炭素化という時代の要請で燃料の転換や混焼実証などにコストがかさむ。「S+3E(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合)を達成する選択肢がほかの地域に比べて限られる」(照喜名朝和副書記長)

こうした中での再エネ増で、本島・離島の発電所の現場の負担は高まった。系統が小さいがゆえに周波数変動に加えて、再エネを最大限受け入れるため、1日の中で起動停止を繰り返す必要がある。発電に限らず、系統運用を行う給電指令所も日々の対応に追われる。「外からは見えづらいところだが、安定供給のために現場が努力している」(同)

他電力に劣らず、働き方改革には力を入れている。車社会の沖縄本島は朝晩のラッシュの影響を受けやすい。出勤時間を自分で前後1時間ずらせるスライド勤務やフレックスタイム勤務制度は、子育て中の社員からも好評だ。

沖電のコーポレートスローガンは「地域とともに、地域のために」。沖縄県産であることが一つの条件とされる「かりゆしウェア」を身にまとい、地域を支え続ける。

規制委と新規制基準の限界あらわ 「不適合」敦賀2号機はどうなる!?


異例の経過をたどった敦賀2号機の審査が「不適合」との判断で幕を閉じた。

真の安全と国民生活向上に根ざした原子力規制の在り方を再考すべき時を迎えている。

「厳しい結果は想定していたが、いざ判断が下されるとつらいね」―。

8月2日の原子力規制委員会の臨時会議終了後、日本原子力発電の関係者が心境を吐露した。

同日、規制委は日本原電の村松衛社長との意見徴収を実施。敦賀2号機を新規制基準「不適合」とする審査書案をまとめるよう、事務方に指示した。

臨時会議で意見を述べる日本原電の村松社長(中央)


あきらめない原電 取消訴訟の可能性は

敦賀2号機を巡る審査は、二度の審査中断を余儀なくされるなど異例づくめだった。昨年8月末、原電は設置変更許可補正申請(補正書)を提出し、「K断層」に焦点を絞った審査が行われてきた。原電と規制委の最終盤のやり取りには、後味の悪さが残った。

臨時会議で村松社長は追加調査案を提示し補正書の再提出を訴えたが、規制委は「具体性がないという印象」(山中伸介委員長)などとして認めなかった。規制委としては「あくまで昨年8月末の補正書で審査する。原電社長も同意している」(同)との考えだが、元原子力規制関係者は「追加調査をやり出すとキリがないので、いったん打ち切りたい思惑があったのではないか」との見方を示す。また国民民主党の浜野喜史参議院議員は「納得できない。ほかのプラントの審査では、途中で新しい知見などが出てきた際に再補正を実施する。なぜ敦賀2号機は『補正書の範囲内の審査』に固執するのか」と不信感をあらわにした。

一部メディアは「敦賀2号機、廃炉不可避」と騒ぎ立てるが、原電が「合格」を目指す姿勢は揺るがない。「敦賀2号機は三菱重工がウエスチングハウスの支援を得ずに単独で開発したプラントで、建設から運転・保守までずっと関わっている。当社にとっても、日本にとっても、福井県にとっても非常に重要なプラントで、これからの主力をなす」(村松社長)

今後、原電に対して規制委から「不許可」が通知されれば、行政不服審査請求や取消訴訟といった選択肢が出てくる。ただ原電は東海第二原発の運転差し止め訴訟で、安全性を認めた規制委の判断を是とする主張を行っている。原発訴訟に詳しい弁護士は「取消訴訟で規制委の判断を非とすると二枚舌になってしまい、東海第二の裁判に不利に働く可能性がある」と訴訟には否定的だ。 一方、地元関係者は「不適合を廃炉と受け止める市民もいる。追加調査などで再稼働に向けた気運をキープすることが大切だ」と語る。今後は不服審査請求で規制委の判断に明確に異を唱えつつ、設置変更許可の再申請に向けて現地調査を積み重ねるのが現実路線か。

むつ中間貯蔵施設が操業へ 背景に宮下知事の協力姿勢


少なくとも核燃料サイクルの第一歩が動き出す」(新潟県柏崎市の桜井雅浩市長)

青森県とむつ市、リサイクル燃料貯蔵(RFS)は8月9日、むつ市に立地する使用済み燃料の中間貯蔵施設について、施設の使用期限を50年とする安全協定を結んだ。同施設は昨年8月に原子力規制委員会の審査が終了し、今年3月に安全協定締結に向けた議論に着手していた。9月中にも柏崎刈羽原子力発電所から使用済み燃料が運び込まれる見込み。

再稼働を目指す柏崎刈羽原発の使用済み燃料の保管量は、6号機で92%、7号機で97%と余裕がなくなっている。桜井市長は再稼働を認める条件として6、7号機の保管量をおおむね80%以下にするよう求めていた。保管量が最も少ない4号機の使用済み燃料を中間貯蔵施設に搬入し、6、7号機から4号機へと号機間移動を行うとみられる。 青森県の宮下宗一郎知事は7月23日、長期保管の懸念払しょくのため、経済産業省で斎藤健経産相と面会。斎藤経産相は搬出先について、六ヶ所再処理工場を念頭に次期エネルギー基本計画で具体的に盛り込む方針を示した。安全協定を締結した3者とRFSに出資する東京電力ホールディングス、日本原子力発電は同日、事業実施が困難となった場合に、使用済み燃料の施設外搬出を求める覚書を交わした。同様の覚書は1998年に再処理工場を巡って青森県と六ヶ所村、日本原燃が結んでおり、踏襲した形だ。また青森県とむつ市は中間貯蔵施設への搬入後、それぞれウラン1㎏当たり年620円の使用済燃料税を徴収する。

安全協定に署名する宮下宗一郎・青森県知事(右から2番目)、山本知也・むつ市長(右)ら(8月9日)


原子力と共存共栄 業界の不安は解消か

むつ中間貯蔵施設を巡っては2020年12月、電気事業連合会が関西電力など原発を保有する各社での共同利用を申し入れた過去がある。当時むつ市長だった宮下氏は「あり得ないことだ」と猛反発。結果的に関電は、原発敷地内での中間貯蔵施設建設などの対応策を打ち出し、共同利用の必要はなくなった。こうした過去から電力業界では「宮下氏は原子力政策に理解がないのでは」と不安視する向きもあった。しかし知事就任以降は、むしろ原子力政策と「共存共栄」する姿勢を示している。

宮下知事は「立地地域に光が当たっていないという思いがずっとあった」として、地域が発展するための取り組みを自治体と国、事業者が一体となって検討する「原子力共創会議」の開催を国に要請。資源エネルギー庁はこれまでに2回の会合を開き、今秋をめどに具体的な取り組みの工程表を策定する。

こうした動きは、津軽地方の実情を理解する宮下知事ならではといえよう。宮下知事が昨年6月の県知事選で掲げた「国策としてのエネルギー政策に協力し……電源立地県としての責任を果たしていきます」との選挙公約は実行されつつある。

【特集1/対談】変遷から課題までを徹底討論 国内産業の成長に資するか 目指すべき開発の方向性とは


社会情勢や政策の変化を踏まえ、新たな思想でのエネルギー技術開発が迫られている。

電力・ガス利用技術の変遷を知り尽くす専門家が今後目指すべきビジョンを語り合った。

【出席者】
柏木孝夫/コージェネレーション・エネルギー高度利用センター「コージェネ財団」理事長
内山洋司/日本エレクトロヒートセンター代表理事・会長

左から、柏木氏、内山氏

柏木 かつて、電力とガス業界は互いに切磋琢磨しながら、世界に誇るさまざまな技術を開発してきました。例えば電力は発電所の高効率化を進め、末端ではヒートポンプ開発などに注力。ガスは、当初は吸収式冷凍機にコージェネレーションなどを組み合わせ、排熱を活用した冷暖房システムの導入にまい進してきました。事業法で規制された範囲内で、国民全体に必要量の電力や熱を廉価に供給すべく、最大限努力してきたのです。

しかし発電部門の自由化を機に、電力会社は自分たちが所有するガスを使い、今度は熱電併給システムを、大規模ビルの熱需要規模に合わせる形で導入・拡大し始めました。一方、ガス会社は取り組みをさらに面的に広げ、周辺の既存ビルの熱需要も含めてバランスを取るべく、ガス&パワーの真骨頂を追求。分散型の面的活用の拡大は、再エネ接続量が拡大し続ける中、電力系統にその分空きができるというメリットももたらします。

全面自由化、さらにカーボンニュートラル(CN)を目指す時代となる中、私はエネルギーの真の合理性はガス&パワーの世界にあると考えています。その意味で自由化は行き過ぎた面がある一方、新しいガス&パワーモデルの道筋が日本で見えきたという点については、喜ばしく受け止めています。

内山 私はむしろ、両業界が国の政策と規制改革に翻弄され続けてきたと思っています。わが国の一次エネルギー供給の伸び率は1990年代から停滞し、2008年のリーマンショックを機にマイナスに。ただ、当時はLNG複合発電の建設ラッシュでLNG供給量は拡大し続けました。ガス業界は需要の伸び代がある電力への参入を図り、ガスインフラを生かした分散型技術開発を積極的に進めます。

しかし東日本大震災と福島第一原子力発電所事故が発生し、今度は電力事業もマイナス成長に転じ、徐々に大型設備で規模の経済が働きにくくなりました。さらに再生可能エネルギーの主力電源化が掲げられ、電力・ガス全面自由化も実施。伸び代がない市場に新規参入者が殺到し、業界は疲弊する一方です。

こうした変化は技術開発にも大きく影響し、例えばコストの高いCN技術開発を進めざるを得ません。本来は日本の産業や経済、雇用をいかに維持するかという広い視野での技術開発を行うべきですが、現在は企業が自由な選択をできない「不自由化政策」に陥っています。それらが全て料金に跳ね返った結果、製造業が海外に流出してしまっているのです。

柏木 さらに、今はデータセンターや半導体なしにはビジネスが成り立たず、今後電力需要が急増するといわれています。ただ、電源の拡大よりも、GX(グリーントランスフォーメーション)の一丁目一番地に掲げている省エネの方が重要ですし、需要が実際どうなるかは分からない面が多分にあります。

そして同時同量が基本であるのに、変動性再エネを基幹電源にするという政策には、強烈な矛盾があります。安定した工業国家には、大規模と分散型電源が百花繚乱し、共存する世界が求められます。石炭火力など既存電源が50年ごろまで残る可能性もあり、アンモニア混焼のほか、高効率化やガス化技術の開発は重要です。加えて、大規模と分散型をエリアごとにうまく重ね合わせるプラットフォームごと、発展途上国の成長に資する形で輸出するような戦略が期待されます。

【特集1】コージェネを巡る環境変化の深層 時代に即した技術開発が必要に


高効率な省エネシステムとして分散型電源の一翼を担ってきたガスコージェネレエーション。

エネルギーの自由化や脱炭素化は、その技術開発にどんな影を落としているのか。

コージェネレーションシステム(CGS)は1980年代から、その高効率性によって省エネルギーを達成する方策として普及拡大してきた。その背景には次のような技術開発が大きく貢献しており、個々の技術からシステム全体の技術まで多岐にわたっている。

具体的には、①標準化・パッケージ化による低コスト化、高信頼性への対応、②大型火力にも迫るガス発電システム(ガスエンジン、ガスタービンなど、左図参照)の高効率化、③窒素酸化物の排出を抑制する低NOX化、④吸収式冷凍機などと組み合わせた排熱回収、⑤逆潮流ありでの系統連系、⑥停電時のブラックアウトスタートをはじめとした自立運転―などだ。

ガス発電システムの発電効率一覧


自由化と脱炭素化 技術開発体制に変化

こうした技術開発の下でCGSは順調に普及してきたが、ここにきて次のような変化が表れている。

一つは、エネルギー小売事業の自由化だ。まず都市ガス事業の自由化により、ガス事業者にとってはCGSの普及が必ずしも自社のガス販売量拡大に結び付くとは限らない状況になると、CGS技術開発にかける予算、人材もガス自由化前とは状況が大きく異なってきた。またガス事業者間の競争も起こり、従来のような複数のガス事業者とメーカーが協力して技術開発することも難しくなっている。

電力事業に目を向けると、CGSはガス事業者にとって新たな市場であった唯一の「電力」を獲得するための手段であった。しかしながら、電力市場の自由化が進展し、2016年には家庭用需要も含め全面自由化され、ガス事業者にとって「電力」を獲得するマーケットが整備された。従って、CGSは「電力」を獲得するための唯一の手段ではなくなったのだ。

もう一つは、脱炭素化だ。カーボンニュートラル(CN)が叫ばれる昨今、CGSはその省エネルギー効果によって一次エネルギー、ひいてはCO2排出量を削減できる極めて実現性の高いシステムである。一方、天然ガスなどの化石燃料を使用するため、CO2排出量をゼロにすることはできない側面がある。将来的には、燃料に水素・アンモニアなどを使用可能とする技術開発が着実に進められている。


CNでも重要性変わらず 今後の技術開発の展望

〈電力の価値を最大限に利用〉

従来CGSの価値は基本的には電力量(kW時)と排熱をいかに多く取り出すか、換言すればいかに高負荷率、かつ長時間(すなわち高稼働率)で運転するかがその活用のポイントだった(CGSを複数台設置するなどの場合によっては、需要家の契約電力を削減できる場合もありそれは電力kWの価値を生かしていると言える)。その背景には、電力量の価値(価格)およびガスなどの燃料の価格が一定だったことがある。

それが今や電力全面自由化などのシステム改革が進み、電気事業者が多様になったことで、電力市場連動の契約など電力契約メニュー、すなわち電力量の価値(価格)が多様化している。さらには20年から容量市場、24年から需給調整市場が創設され、容量(kW)や調整力(ΔkW)の価値も認められている。

これらの価値を活用しながら、導入したCGSの価値を最大化することが必要であり、従来の「高負荷率かつ長時間で運転する」だけではなく、電力市場をはじめ容量市場、需給調整市場の動向を視野に入れ、オペレーションズリサーチの手法を取り入れながら、経済的収益を最大にする運用計画の策定やそれに向けた研究が求められている。

〈再生可能エネルギーとの調和〉

現在の貴重な化石燃料や将来の高価な水素・アンモニアを使用するCGSなどの火力発電設備は、その機動力、調整能力を活用して十分な価値を引き出すことが必要である。

CGSには、起動停止が機敏であることに加え、出力調整も高速で行うことができるメリットがある。それだけに、CN達成のため再エネ主力電源化を目指す中でCGSの機動力を生かした運用、および通信システムなども含めた制御システムの進展が期待される。

一方で、再エネとりわけ太陽光発電などインバーター型の発電設備が増加することにより、電力系統の擾乱時(周波数や電圧に変動が起きた時)に保護装置が働き、電力系統から解列(分離)されることで、さらに電力系統の擾乱を拡大するという現象が起こり得る。このような現象を回避するために、CGSなどは系統擾乱時も一定程度連系を維持することが必要だ。

〈レジリエンスへの貢献〉

電力系統の停電時に、CGSの自立運転によって需要家構内の負荷に電力を供給できることは、以前からCGSのメリットとしてうたわれている。しかしながら、それを実現するにはCGSの仕様だけでなく、需要家構内の負荷選択など構内設備のエンジニアリングも重要だ。

災害などに対応できる強靭な街づくりにCGSが貢献するためには、電力系統の停電時にCGSが自立運転できることに加え、街全体の配電系統の運用も含めた入念な設計が必要である。防災への活用の観点からCGSは電力だけでなく熱(給湯、蒸気)の供給も可能であるため、災害時の総合的なエネルギー供給に貢献することが期待されている。

いずれにせよ、省エネの重要な役割を担ってきたCGSは、自由化やCNの影響を受けているものの、再エネを主力とする将来においても、その重要性には変わりなく、時代に即した技術開発が求められている。

【特集1】高効率HPの技術開発に黄信号 再エネと自由化の影響を読む


脱炭素化に向け重要な技術として世界から認められたヒートポンプ技術。

半面、技術開発で優位にあったはずの日本で開発意欲が低下している。

ヒートポンプ(HP)は、高効率な脱炭素化技術であり、比較的技術成熟度も高いため、カーボンニュートラル(CN)の実現に向けて足元から実装していくことが可能な技術である。また、日本のHP産業は国際競争力が高く、技術自給率も高い技術である。

欧州では2010年代後半から、米国ではバイデン政権が誕生した21年から、HPを脱炭素と経済成長の両立にとって重要な技術であることを認識し始めた。特に欧州では、ウクライナ危機を契機として、ロシア産天然ガスへの依存度低下、すなわち安全保障にとっても、HPは重要技術として認識され、技術開発や普及を促進するための政策が積極的にとられている。

一方、日本はどうか。この約10年間で実施してきたエネルギー政策が、HPの技術開発や普及にとって少なからぬマイナスの影響を与えている。中でも、再生可能エネルギー発電促進賦課金の導入と電力システム改革による影響について述べる。

二次エネルギー価格比の推移


電力のみに課される賦課金 電化技術普及を阻害

HPは、一般に燃焼機器と比べて設備費が高いが、省エネによるエネルギーコスト削減によって投資回収が可能な技術である。ただし、投資回収が可能であるか否かは、エネルギー価格やHPのエネルギー消費効率(COP)などに依る。特に、重要な因子である二次エネルギー価格比(電力単価と都市ガス単価の比)は、この約10年間で2・1から3まで増加しており、ヒートポンプにとって厳しい状況にあるのが実態だ。

二次エネルギー価格比が増加した主な理由として次の二つが挙げられる。一つは東日本大震災を契機とした原子力発電所の長期停止によって、比較的高コストな火力発電比率が増加したこと。これによって二次エネルギー価格比は2・5まで増加している。もう一つは12年に導入された再エネ賦課金。再エネ賦課金は電力のみに課せられているため、再エネ電源を増やすほど、電気料金のみが増加する構造になっている。これによって二次エネルギー価格比は3まで増加してしまった。

二次エネルギー価格比が高いほど、HPには高いCOPが要求される。このため、10年前であればHPが経済的に成立していた条件、用途であっても、現在では成立しないケースが生じている。電源の脱炭素化と高効率の電化をセットで進めるべきところ、再エネ賦課金によってHPや電化技術の普及が阻害され、非電力部門で化石燃料を使い続けることにインセンティブを与えてしまっている。また、日本では10年前までは産業用高温HPの技術開発が活発化していたが、高い二次エネルギー価格比によって開発意欲が削がれている。

再エネ賦課金は、現行制度のままであれば30年代前半まで増加する見通しである。電力のみに課される状況がこのまま続くと、HPの普及が進まないどころか技術開発を停滞させ、10年後には技術力で欧州に抜かれてしまう可能性もある。

HP技術開発では、メーカーだけでなく、大手電力会社も大きな役割を果たしてきた。小売自由化前は、地域独占であったが故に、販売地域の異なる他電力会社と協力して技術開発に取り組むことができた。またはメーカーが特定地域の電力会社と共同開発した場合であっても、その技術を別の地域に展開しやすい体制だった。しかし共通の電力市場で競争しなければならなくなった現在、小売電気事業者は他の事業者と協力して技術開発することが困難になった。

【特集1】自由化・再エネ・DXで新局面に 利用技術開発競争の往古来今


電力・ガス業界は技術開発で切磋琢磨し、需要の争奪線を繰り広げてきた。

時代ごとに両者の競合の変遷や最新事情に迫りながら、新局面を展望する。

時は1980年代。電力事業全体の高コスト構造の一因となっていた負荷率を改善し、海外に比べて割高な電気料金を引き下げるという政策が、当時の通商産業省主導で打ち出された。コストの高い石油火力が担う昼間の電力ピークを抑え、割安なベースロード電源が主役となる夜間の電力需要を引き上げる、いわゆる「負荷平準化」だ。

これを切り口に、分散型エネルギー、地域熱供給システムの普及が進んでいった。当時、電力業界はヒートポンプ(HP)・蓄熱・ターボ冷凍機など、都市ガスはガス冷房やコージェネレーションを武器に、エネルギー機器の技術開発と普及合戦を繰り広げることになった。

「バブル全盛期に突入しつつあった当時の日本では、電力の需要がぐんぐん伸びていて、電力ピークを抑えるシステムを積極的に導入していく必要があった。片や、21世紀には省エネが進んで電気は逆に売れなくなり、電力需要をつくっていかないと事業の安定化が図れなくなるとの見方もあった。この状況に対応すべく、当時の東京電力は営業開発部をつくった。メーカーと一緒に機器開発に取り組みながら需要を開拓する部隊で、法人営業部の前身だ。その後全国の電力会社に広がっていった」

大手電力会社の法人営業部門に所属していた元幹部は、こう話す。一方で、ガス業界側の事情はというと……。

再開発エリアの熱供給を巡り競合が展開された


オール電化機器の登場 ガスも対抗製品を続々開発

「互いに売り物が電気かガスしなかった80年代、両業界の競争はイデオロギー的な意地のぶつかり合いだった」

こう振り返るのは、大手都市ガス会社の元幹部だ。利用技術の質の向上をいかに図るかが、勝負の分かれ目となったという。とはいえ、電気や他の化石系燃料と違って、強力な商流がなく知名度が低いガスは不利な状況。それを挽回するため注力したのが、需要家に直接アプローチする独自の営業手法を確立し、省エネ技術を磨くことで他燃料との差を埋めることだった。

90年代は、燃焼系技術が次々と花開いた時代だ。都市ガスの供給エリアが急拡大し産業用部門でも一気に存在感が増した。ボイラーや空調、発電機、さらには排熱利用のコージェネシステムが黎明期を迎え、排ガスクリーン化や高効率化などの技術開発を巡り、従来主力だった石油系燃料と競争を繰り広げるだけではなく、電力ともしのぎを削るまでになった。

そうした競合の中で、大手電力による需要開拓の矛先は、ガス・石油会社の牙城だった熱需要の獲得に向かっていった。その象徴が、空気熱を利用したHP式給湯器のエコキュートであり、電磁誘導加熱を利用したIH調理器だ。これらをベースにしたオール電化機器が登場し業務・家庭用で普及し始めると、大手ガス会社は猛烈な危機感を抱き、メーカーとの共同開発体制の下で対抗製品を続々と市場に送り出した。

エコキュートに対しては潜熱回収型高効率給湯器「エコジョーズ」を、IHに対してはガラストップコンロを、電化厨房に対しては「涼厨」を武器に交戦。さらにはオール電化対抗として、家庭用ガスエンジンコージェネ「エコウィル」や燃料電池コージェネの「エネファーム」を開発、市場投入したのだ。

このように、電力対ガスの競合が産業用から業務用、家庭用へと拡大する中で、「双方の業界が競い合い、さまざまな商品やシステムが生み出されていった」(都市ガス会社幹部)のが90年代から2000年代にかけての時代だ。政策面では、都市ガスが1995年から、電力が2000年からそれぞれ大口部門が自由化されたことで、相互参入も徐々に進み始めた。とはいうものの、この時点ではあくまで部分的な動きに過ぎず、エネルギー間競合は変わらず激しさを増していった。

こうした局面を大きく変えたのが、11年3月の東日本大震災だ。これを機に、政府は電力・ガス小売りの全面自由化や大手事業者を分割するシステム改革を断行。また、福島第一原子力発電所事故の影響で原発が長期稼働停止に追い込まれるのと時を同じくして、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)がスタートし、太陽光や風力など自然変動再エネの大量導入が本格化した。

【関西電力 森社長】最新知見を取り込み安全・信頼性を高め 原子力を活用していく


事業の不確実性が高い中で、ゼロカーボン化や新事業に挑戦し、中期経営計画の前半3カ年の財務目標を達成した。

これを受けて後半2カ年の財務目標を引き上げ、25年度までに自己資本比率28%以上を目指す。

【インタビュー:森 望/関西電力社長】

もり・のぞむ 1988年京都大学大学院工学研究科修士課程修了、関西電力入社。執行役員エネルギー需給本部副本部長、常務執行役員再生可能エネルギー事業本部長、取締役執行役副社長などを経て2022年6月から現職。

志賀 原子力発電が7基体制となり、高浜3、4号機は運転期間延長が認可されるなど、安定的な運用に着々と手を打っていますね。

 高浜発電所3、4号機は、特別点検の結果などを含めた劣化状況評価を実施した結果、60年までの運転を想定しても問題がないことを確認したため、運転期間を延長する方針を2022年11月25日に決定しました。そして今年5月29日、原子力規制委員会より運転期間延長認可をいただき、60年までの運転が可能となりました。また、6月26日には大飯発電所3、4号機が30年以降運転における長期施設管理計画の認可を受けました。

今後とも国内外の最新知見を積極的に取り込み、プラントの設計や設備保全に反映していくことで、原子力発電所の安全性・信頼性の向上に努めていきます。そして、地元をはじめとする皆さまのご理解を賜りながら、原子力発電を重要な電源として活用していきます。

志賀 美浜原子力の増設をはじめ、いよいよ新増設の検討にも着手することになりますか。

 新増設について、何か決定したことがあるわけではありません。とはいえ、2050年カーボンニュートラル(CN)の実現を描くためには、原子力を一定規模稼働させる必要があります。それには、既存のみならず新しいプラントが必要であり、リードタイムを考えるといよいよしっかりと検討するべき時期に差しかかっていると考えています。

高浜発電所3、4号機は60年までの運転が可能に


中計は着実に進捗 財務目標を見直し

志賀 グループの中期経営計画(21~25年度)が残り2年を切りました。進捗はいかがでしょうか。

 21年度以降、事業運営の大前提である真にコンプライアンスを徹底できる企業グループへの再生に向け、内部統制強化と組織風土改革を両輪で推進しつつ、「EX(エナジートランスフォーメーション)」「VX(バリュートランスフォーメーション)」「BX(ビジネストランスフォーメーション)」の3本を柱に、ゼロカーボン化や新たな価値創出に向け取り組んできました。

策定当時は、需要の低迷や再生可能エネルギーの大量導入に原油価格の下落も相まって、電力取引価格が大幅に低下し、新電力との競争激化から収支の悪化を見込んでいました。その後、ウクライナ情勢を受けた燃料市況の変動など、不確実性が高い状況の中においても、あらゆる角度から事業コストの構造改革を進めるとともに、グループを挙げてゼロカーボンに向けた取り組みや新事業にも挑戦。引き続き課題はありますが、3本柱の取り組みは概ね着実に進捗し、前半3カ年の財務目標を達成することができました。

これを受けて、今年4月には中計のアップデートを行いました。財務目標については、収支の状況を踏まえ財務目標を見直し、資本収益性を重視する経営を実践すべくROIC(投下資本利益率)の指標を追加しました。ROA(総資本利益率)は4・4%以上、ROICは資本コストを上回る4・3%以上を目指していきます。このほか、市況の影響を受けやすいエネルギー事業の収支が大きく変動する中にあっても安定的に利益を出していくべく、経常利益を2500億円から3600億円以上に見直し、当初、5カ年累計で黒字化することを目標としていたフリーキャッシュフロー(FCF)については、利益拡大の中、しっかりと将来に向けた投資を行うため5カ年累計で3000億円以上としました。財務体質の改善に向けて有利子負債の返済を進め、自己資本比率を23%から28%以上に引き上げました。

【コラム/8月29日】暑い夏に考える~環境収容力と原子力、そして原子力規制如何


飯倉 穣/エコノミスト

1、サイレントキラー

酷暑である。テレビ・ラジオから「不要不急の外出を控え、室内ではエアコンを利用してください」(NHK)のアナウンスが聞こえる。「屋外活動取りやめ勧告」も飛び交った。そしてエネルギー(電力)需給に不安を抱くばかりでなく、人々の生活から生存に関心が及ぶ。 

報道は伝える。「7月の平均気温、過去最高 平年比2.16度高く、昨夏超す」(日経24年8月2日)、「温暖化加速 酷暑が命を奪う 熱中症死、1週間で23人 心臓・呼吸器持病悪化」(朝日同日)。そしてILOのニュース(7月25日)もあった。「命脅かす「サイレントキラー」アジア4人に3人が被害」(毎日NET8月7日)。暑さはサイレントキラーで労働者の健康・人命を脅かしているという。

現在CN・GX絡みでエネルギー基本計画の策定が進んでいる。眼前の地球温暖化・エネ対策の検討は当然として、今日の人々の置かれた現況は、これらの施策を大胆に実施することに加えて、根本であるエネルギー・生態系・経済の姿の再認識が必要である。環境収容力の概念である。地球温暖化問題と人口・経済水準のあり方から見たより広範なエネルギー政策の視点を考える。そして原子力規制への疑問も呈したい。


2、環境収容力とは

人間活動を考える上で、生態学(エコロジー)の視点、とりわけ地球生態学は、我々に様々な示唆を与えてくれる。現在同じ地球上で存在する一般の生物の行動から見た我々の姿である。(以下「生態学入門2004年」参照・引用)。

生態系とは、ある地域あるいはある空間に生息している生物とその生活に関与する無機的環境で構成するシステムである。地域的な広がりで局所生態系とその集合である地球生態系としてとらえる。生物は、無機的環境と相互作用して、気圧30気圧、CO2濃度95%の原始大気を現在のCO2濃度400ppm(0.04%)以下、1気圧の大気を形成した(環境形成作用)。太陽エネルギーが生物の活動を助けCO2をストック化(化石エネ)した。ストックの使用は慎重であるべきと主張もあった(Small is beautiful 1973)。

エネルギーの流れで捉えれば、太陽エネルギー、地球に作られた地球生態系、そのなかで生物は生態系を構成し、存在(生活)している。人はどうか。狩猟の時代と違い、その生態系の一部を改質(都市化)して我々の人間活動(経済活動)がある。

環境収容力は自然の摂理

その生物たちは、生態系の中で無限に増殖するわけでない。増殖に一定の制約がある。環境収容力の概念で説明される。「生物の個体数は、供給される資源の量と、それを利用する生物種の特性に依存して決まる。生物集団の環境収容力と呼ばれる。個体群密度に依存して生物集団の規模は調節される」(生態学入門p240~)。密度が高まると、個体数の増加は、何らかの要因(えさ、種内競争、自己間引き等)で増加率が減少する(密度効果)。自然の摂理と言える。

局所生態系を破壊する

人間はどうか。人類は、地球生態系の一部である局所生態系を破壊・改質し、都市を構築し活動を行っている。その活動でエネルギーを消費し、密度効果を超克してきた。都市内の活動は、エネルギーを利用し、経済財を生産・消費し、廃棄物を処理することで営まれている。そこに問題の発端がある。都市内の廃棄物のなかで炭酸ガスの処理が困難なことである。消費エネルギーの85%が化石エネルギーでCO2排出を伴うため、大気を通じて全地球的な生態系に影響を及ぼす。局所生態系の改質で人口増を実現しながら、その過程の副作用が地球生態系の変容という制約に直面させる。いわば人類特有の密度効果という現象である。その症状から脱出可能であろうか。