【電力事業の現場力】電源開発労働組合
国内設備出力の約半分を占める火力発電所で、現場の実力が試されている。
変動負荷対応や新技術の導入では、安全確保が何よりも重要だ。
戦後の電力需要に対応するため、1952年に設立した電源開発(現Jパワー)。社名の通り、主に水力発電や火力発電の分野でパイオニア的な役割を担ってきた。オイルショック後には海外炭鉱の権益を獲得。松島火力発電所など、国内初となる海外炭燃料の大規模火力発電所の建設に取り組んだ。

こうした歴史から、現在のJパワーの国内設備出力の約半分を占めるのは石炭火力発電だ。火力発電所は西日本に多く、2011年の東日本大震災直後は、ベースロード電源としてわが国の安定供給を支えた。しかし、近年は再生可能エネルギーが大量導入され、原子力発電所の再稼働が相次いだ結果、石炭火力発電の役割は様変わりした。
求められる役割が調整力となったことで、現場の緊張感はいっそう増している。需要に応じての負荷変動対応では、機器の起動停止を繰り返す必要があり、ベースロード電源だった頃に比べて運転員の操作機会が増加。高経年化によるトラブルとも隣り合わせだ。

新技術への対応も現場の課題としてのしかかる。国際的に非効率石炭火力発電所の廃止が求められている中で、バイオマス混焼の実施やアンモニア混焼に向けた準備が進められている。バイオマスは発熱の危険性があり、アンモニアは毒性を持つ。取り扱いには神経を注ぐが、石炭火力の脱炭素化を進める上で重要な取り組みだ。電源開発労働組合の小山豊書記長は「新技術の導入にあたっては、組合員の安全をしっかりと確保し、長時間労働や過重労働にならない体制を整えるため、現場の声にしっかりと耳を傾けることが重要だ」と語る。
海外での安全確保も重要 大間運開へ技術継承が鍵
Jパワーでは海外事業が拡大傾向にある。海外の発電容量は、すでに国内火力とほぼ同規模の約800万kW。米国やオーストラリアだけでなく、タイやフィリピンといったアジア各国に発電所の権益を保持している。
海外に組合員を派遣する際に労働組合が重視するのは、現地での安全衛生確保だ。発展途上国の中には、充実した医療にアクセスしづらい地域も存在する。また治安や居住環境が整っていない地点に組合員を派遣させるわけにはいかない。Jパワーの海外事業は今後も拡大予定で、労働組合の役割はより重要になりそうだ。


大間原子力発電所については、新規制基準の適合性審査が行われている。Jパワーにとっては初めての原子力発電所で、運転技術習得のため、他電力で研修を受けた組合員もいる。ところが、審査の長期化で技術を身に着けた人財が定年退職するなど、今後は運転開始に向けての技術継承が課題だ。運転開始に向けては周辺自治体の理解が重要で、大間町をはじめ三ヶ町村への訪問活動を再開するなど理解活動にも注力する。

関連企業との関係性について小山氏は「会社も組合も、Jパワーとグループ会社の関係は『兄弟』に似ていると認識している」と語る。他電力の場合、親子のように垂直的な関係になることが少なくないが、Jパワーは横のつながりを重視するのが特徴だ。この関係性は労働組合同士も変わらない。今後もグループ会社の労働組合と連携しながら、安定供給の現場を支えていく。