<メディア人編> フリーA氏・一般B紙・地方C紙
能登半島地震により原発に送風が吹きはじめている。再稼働への影響はいかに―。
―マスコミとして能登半島地震の報道に思うところは?
C紙 反省点が一つ。ほとんどのマスコミが「志賀原発 安全上の異常なし」と報じたが、それは読者に寄り添う報道だったのか。原子力に一定の理解がある人なら、変圧器などの油漏れや破損が重大事故につながらないことは分かる。ただ多くの読者は福島第一原発事故を経験して、放射能漏れが起きないかどうかに不安を抱いている。そうであるならば「安全上の異常なし」だけでなく、「放射能漏れの危険なし」とはっきり伝えるべきだった。
B紙 同感だ。「異常なし」の「異常」とは何を意味するのか。放射性物質が拡散する過酷事故なのか、油漏れなどの設備破損なのか。分かりやすく伝わっていなかったと思う。実際に読者からの問い合わせも受けた。
志賀原発の「公開」求める声 花角知事はより慎重に
C紙 北陸電力は、発災時に志賀原発で何が起きていたのかをオープンにしてほしい。現場の人たちがどう動き、何に困ったのか。他電力にとっても今後の財産になる。B紙 原子力規制庁の記者クラブでも話題になったが、北陸電が志賀原発を公開しないことに不満を抱く記者は少なくない。復旧作業中だとしても、可能な範囲で首長や記者を受け入れてもいいのではないか。
C紙 被害状況は提供写真でも分かるが、実際に記者が見て感じることもある。「公開する」という姿勢が重要だ。フリージャーナリストのAさんはどう思う?
A氏 真面目な人が多い北陸電のこと。「きれいに整えてから」と考えているかもしれないが、今はその生真面目さを捨ててもいい。
C紙 一段落したら記者との懇談会を開いて、お互いに反省点などを情報交換するのもアリだ。
―ほかの原発への影響はどうか。
A氏 自治体が策定する避難計画の「実効性」に注目が集まりそうだ。原子力災害が発生した場合、原発から5~30㎞圏内(UPZ)の住民は屋内退避となるが、能登半島地震では家屋の倒壊に加えて道路も寸断。「屋内退避する屋内にたどり着けない」という状況だった。原子力規制委員会も避難計画策定のベースとなる「原子力防災指針」の見直しに向けて動き出した。
―これまでの運転差し止め訴訟では「避難計画の不備のみで運転差し止めはできない」との判断が示されたことも。
C紙 それでも、原告弁護団は能登半島地震の知見を活用するに決まっている。控訴審が行われている東海第二原発の差し止め訴訟への影響は小さくない。事業者も意固地になるのではなく、今回の地震で得た知見を公開して住民と共に考える姿勢を見せてほしい。
B紙 実効性のある計画が立てられないことが、首長が再稼働に同意しない「理由」として持ち出されるかもしれない。再稼働を巡る争点が「避難計画の是非」になると、これまでとはステージが変わる。報道も過熱する可能性があり注視が必要だ。
―柏崎刈羽原発への余波も気になる。今年、総合特別事業計画の見直しを予定する東京電力にとって、再稼働は避けて通れない。
B紙 規制委が昨年末に運転禁止命令を解除したが、地元のGOサインがいつ出るかは見通せない。それに2月9日、原子力規制庁の片山啓長官と面会した新潟県の花角英世知事からは、これまで以上に「慎重さ」がにじみ出ていた。以前は「東電は信用できない。信用できるのは規制庁だけ」という趣旨の発言をしていたが、9日は「(東電への認識は)変わっていない」とコメントした。「信頼できる」はずの規制庁が適格性を判断したのに、認識が変わらないとはなかなか厳しい。
A氏 元官僚で調整型の花角知事らしく、情勢を見極めているのだろう。出直し知事選もささやかれるが、「裏金」問題などで自民党に逆風が吹き荒れる中では無理だ。
C紙 諸事情を考慮すると、年内再稼働の可能性は「五分五分」といったところか。
原発・東電に厳しい新潟日報 再稼働実現の〝妙手〟は
―県民意識に変化は。
B紙 昨年後半から原発報道に一段と力を入れるのが、「反東電」の新潟日報だ。ほかの原発立地自治体まで足を運び、「経済効果がなかった」などと再稼働のマイナス面をばかりを強調している。新潟県民に最も読まれている地元紙で影響は大きい。
C紙 新潟県の場合、県民が気にするのは能登半島地震より東電だろう。2002年に発覚したトラブル隠し事件、07年の中越沖地震での変圧器火災、そして3・11。東電への不信感の歴史は深い。
B紙 だが、単純に「反東電」イコール「反原発」ではない複雑な構図がある。新潟日報が首長選の出口調査などで行った世論調査では、再稼働に「賛成」が4割程度を占めることも。東電への不信感は強いが、安定供給や脱炭素のために再稼働を容認する県民もそれなりにいる。
―再稼働には何らかの〝妙手〟が必要かもしれない。
A氏 『週刊ダイヤモンド』(1月27日号)掲載の橘川武郎・国際大学学長のインタビュー記事が興味深い。避難計画の策定に供給エリアとして関わってきた東北電力のお墨付きをもらえるかが「勝負どころ」とした上で、「私が経営者なら」柏崎刈羽原発の電力を新潟県内に送り、電気料金の抑制などのメリットをもたらすと語っている。こうした意見は地元からは聞こえても、橘川氏のような立場の人が口にするのは初めてでは?
―再稼働に向けた一進一退は続きそうだ。