DX化を進め事業を多角化 魅力ある街づくりに貢献する


【エネルギービジネスのリーダー達】齊藤 洸/伊東ガス社長

静岡県伊東市で90年以上の歴史を持つ伊東ガスの6代目社長に就任した。

ガスという既存事業を大切にし、地域の魅力を高める新規事業で持続的な成長を目指す。

さいとう・こう 東京理科大学理工学部卒、グロービス経営大学院(MBA)修了。日本生命保険、アクセンチュアなどを経て2021年3月伊東ガス入社。経営企画部部長、取締役などを務め24年3月から現職。

城ケ崎海岸など雄大な自然に囲まれ、日本有数の温泉地として名高い静岡県伊東市。今年3月、この地で1932年から都市ガス事業を手掛ける伊東ガスの6代目社長に就任したのが齊藤洸氏だ。

温泉旅館など宿泊施設が多く、ガス販売量の半分近くを商業用が占める。新型コロナウイルス禍では、多くの宿泊施設が閉館した影響で商業用の販売量が半分程度まで落ち込んだ月もあったが、観光需要の回復でだいぶ持ち直してきた。より深刻なのは家庭向けだ。市街地では空き家が年々増え、メーター取付件数は、年間50~100件減少し、足もとでは1万件を切るなど、販売量が減り続けている。


収益基盤を多様化 まずは水事業に参入

入社当時は、何ら手を講じられないまま、少しずつ販売量が減り続けることに強い危機感を抱いた。それと同時に、プロパンガス販売を含めると約1万5000軒という顧客基盤があり、新規事業にチャレンジする土壌があることに高いポテンシャルも感じたという。

そこで打ち出したのが、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を進めながら、新規事業を新たな経営の柱に育てる戦略だ。その第一弾として、22年に蛇口直結型「電解水素水生成器」のサブスクリプションサービスを開始した。

ガス事業の繁忙期は冬。反対に水事業は夏場が繁忙期になるため、両利きの経営にはぴったり。実際、ウォーターサーバーの宅配サービスに取り組む同業他社は多い。ただ、それでは注文に応じて配送する必要があり、新たな人員確保が求められる。

これに対し、現行の従業員のみで収益拡大が期待できるビジネスモデルとして着目したのが、一度機器を取り付ければ、あとは年に1度カートリッジを交換するだけという、電解水素水生成器のサブスクサービスだった。「ペットボトルの水を購入するよりも安価でおいしい。そして、海洋プラスチックごみ問題の解決に繋がるサステナブルな事業」(齊藤氏)として、今後10年でガスに並ぶもう一つの経営の柱に育てていく考えだ。

新規事業を立ち上げるに当たって欠かせなかったのが、新たな顧客管理システムの開発だ。既存の基幹システムはガスに特化しているため、新規事業に伴い拡張しようとすると費用も時間もかかってしまう。そこで、サイボウズが提供するノーコード開発プラットフォームである「キントーン」を使い、自らYouTubeなどで勉強しながら、管理業務や社員間の情報共有を全てスマートフォンで完結できるシステムを構築した。

新事業で得たDXの成果は、今は他の分野にも及んでいる。これまで紙で管理していた運転日報の記録や、発注・出荷管理などの社員同士の情報伝達もシステム上で行えるようにしたことで、業務効率を格段に向上させることができた。 さらに今年からは、社員のシステム構築スキル習得も進めながら、人事・労務管理のDX化にも乗り出している。宿・日直簿や配属、資格、人事評価といった、これまで紙で管理していた情報をクラウドシステムに入力し情報を集約。紙による管理を廃止してもクラウド上で全ての社員情報を閲覧可能にした。


働きがいのある社風へ 社長自らが挑戦

今後、リフォーム事業や伊東市の魅力を高めるような第三、第四の新規事業を立ち上げることも念頭に置く。空き家事業への参入を見据え、現在は、宅地建物取引士の資格取得に向けて猛勉強中。「ガス会社にとって、空き家問題は大きな経営課題。空き家を活用した民泊事業をはじめ、街づくり会社を目指していきたい」と、会社の将来の在るべき姿を見据えている。

もともと、会社を継ぐつもりはなかったが経営には興味があった。大学卒業後は日本生命保険に入社し、在職中にMBA(経営学修士)を取得。さらに経営に関するスキルを高めようとアクセンチュアに転職した矢先、先代社長の父から後継者のなり手がいないなど事業継続への不安を聞き、「今まで学んできたことを還元できるのであれば」と、跡を継ぐことを決めた。

自ら業務システムを開発し、新たな資格取得にも挑戦する―。それは、「社長が率先して頑張ることで社員のやる気を引き出す社風にしていきたい」との思いからだ。社員にとって会社で働くことが幸せか、社会への貢献を実感できるか。そうした気持ちを大切にしていこうと、管理職研修や新たな人事評価制度についても試行錯誤している。

「成長し続ける魅力ある会社でありたいし、お客さまや地域、社員から愛される会社にしていきたい」と齊藤氏。挑戦はまだまだ続く。

【再エネ】上昇続ける賦課金単価 国民に「納得感」を


【業界スクランブル/再エネ】

再エネの導入促進を目的に、再エネ由来電力の買取にかかった費用を広く国民が負担する再エネ賦課金に対して、支払者である国民の多くが「納得感」を感じていないのではないだろうか。

賦課金単価は2012年(1kW時当たり0・22円)から年々上昇し、24年には同3・49円と、一般的な家庭で年間1万6752円負担することになる。筆者は仕事柄再エネ導入の必要性を理解するものの、一消費者の感覚では高いと思わざるを得ない。

脱炭素社会の構築に向けて再エネは重要であり、その導入促進施策としてFIT制度は重要な役割を果たしてきた。一方で、事業収益確保のみを追求し、自然・地域との共生や、安全性を軽視する悪質な事業者の参入も招き、危険な立地への太陽光パネル設置による土砂崩れなどの被害も報告されている。公共料金として半ば強制的に支払わざるを得ない性質上、賦課金の負担額に見合う「納得感」を国民にもたらすべきである。

そのためにまず、賦課金が自然・地域との共生や、安全性を軽視する悪質な事業者の手元に渡らないようにすることが重要である。今年4月に施行された改正再エネ特措法では、関係法令の違反事業者などに係るFIT/FIP交付金の一時停止措置などの事業規律強化を盛り込んでおり、規制強化の動きがある。

加えて、賦課金を支払うことによって国民が得られる便益の可視化も重要となる。例えば賦課金を支払うことで温室効果ガス排出量の削減にどの程度寄与したかを電気料金の請求欄に記載するなど、経済的負担に見合う価値を享受していると認識できるよう努めていくべきである。(S)

人口減直視し経営の維持・発展へ ガス外収益確保にも積極姿勢


【事業者探訪】若松ガス

会津若松市が消滅可能性都市とされる中、持続可能なガス供給の在り方を模索する。

エネルギー事業でさまざまな打ち手を繰り出しつつ、ガス以外の新規事業にも力を注ぐ。

若松ガスは今年、設立から65周年を迎えた。お膝元の福島県会津若松市は、幕末の激動に巻き込まれた会津藩ゆかりのスポットや東山温泉などが有名な観光地。都市ガス販売では観光施設など大口需要の割合が大きい点が特徴で、郡山市や福島市を中心にLPガス供給も手掛ける。

経営体制を巡っては2005年に転機があった。元々はオーナー企業だったが、経営不振により新体制で再建を目指すことに。再建を委ねられた会津出身の弁護士が旧昭和シェル石油(現出光興産)の顧問弁護士でもあった縁で同社が出資し、昭シェルとして初めて都市ガス会社を傘下に持つこととなった。現在の小山征弘社長も出光から出向している。

地域課題を踏まえ布石を打つ小山氏


地域が消滅可能性都市に さまざまな工夫を模索

会津若松市内を中心とする都市ガスの販売量は1700万㎥ほどで、業務・産業用が6割を占める。小山社長は「会津若松は今春、人口戦略会議が発表した消滅可能性都市に初めてリスト入りし、現在の人口11・2万人が2050年には35%減少する見通し。これを現実として受け止め、当社が維持・発展する道を模索しなければならない」と強調する。ただ足元では、市内には銅加工事業や、国内向け医療用内視鏡の大部分を製造する工場が立地しており、都市ガス販売面では工業用需要が人口減を補う形で伸びている。

注力するのは石油からガスへの燃料転換、そしてカーボンニュートラル(CN)の提案だ。LNGやLPガスの供給元から、それぞれオフセットしたCNガスを調達する。実際のニーズはどうかというと、予想以上の関心の高さのようだ。「今は学校教育でSDGs(持続可能な開発目標)を取り上げ、『SDGsに取り組まない会社には就職したくない』という若者が増えている。大企業だけでなく、地元工場の経営者などが採用活動の側面でもCNガスの導入に積極的だ」(小山氏)と驚く。

一方、LPガスは家庭向けで人口減の影響が大きく、新規顧客獲得の努力で販売件数を維持している。そして目下、LPガス業界の商慣行見直しが大きなテーマとなり、同社も6月末に取り組み宣言を行った。液化石油ガス法の省令改正を踏まえ、今後は三部料金制の徹底などに加え、集合住宅オーナーやメー

カーとの信頼構築に向けた工夫が問われる。福島県中通りは南北から県外事業者が入り込み、競争が激しいエリアだが、「郡山など人口減が緩やかな都市部で集合住宅自体を所有し、競争にさらされない形を目指すことも必要だ」(同)と考える。

さらに現在、電力事業は出光の取次として行うが、LPガスの状況や今後の電化シフトを踏まえ、自社ブランドでの電力小売りの必要性を意識している。

【火力】車も発電も使い勝手 過渡期は現実的な選び方を


【業界スクランブル/火力】

最近になって自動車業界では、世界的にEVの普及が鈍化する一方、ハイブリッド車の売れ行きが好調だという。EVのメリットとして部品点数が少ない点が挙げられるが、エンジンとモーターの両方を載せ、ガソリン車と比べても部品数が一番多いハイブリッド車が優勢になるというのも不思議なものだ。

結局、EVは「走行時にCO2を出さない」というイメージが先行し、航続距離の短さや充電に時間がかかるといった使い勝手の悪さを克服しきれていないことが人気に陰りが出た理由なのだろう。

発電事業でも同様のことが言える。カーボンフリーを実現できるとされる太陽光発電や風力発電であるが、供給が「お天気任せ」というのは何とも心もとない。それならバッテリーにため込めばよいとなるのだが、必要な量のバッテリーの設備量は膨大となり、自動車のように重量の制約こそないもののコスパが悪化するのは避けられない。

しかし、燃料が不要である自然変動電源は、とても魅力的であり、火力発電との組み合わせで効率的に再生可能エネルギーの変動性を克服できるのであれば、それが一番なのではないか。過渡期においてハイブリッド車が選ばれるように、「火力と再エネ+バッテリー」の最適な組み合わせについて、正面から検討すべきであり、設備の二重投資になるからと言って再エネ+バッテリーか火力発電かという二者択一問題として論ずるべきではない。

将来的には、自動車も発電もカーボンフリー燃料の利用を視野に入れている。使い勝手を考えながら、新技術と既存技術の融合を目指す点も共通しているのである。(N)

【原子力】リプレースは大きな誤り 運転延長と新増設こそ王道


【業界スクランブル/原子力】

福島第一原発事故で東京電力が事故炉4基に加え、津波から生き残った6基も福島県の要求に従い廃炉したことは、事故発生の報いでやむを得なかったと考えよう。だが、ほかの電力会社が合計11基を廃止したことは誠に残念である。これは新規制基準への対応費用が莫大で、事故後に急展開した全面自由化の中で勝ち残れないとの判断によるものだった。

しかし、現在は長期脱炭素電源オークションで既設の低炭素電源を改修し運転継続するならば、その投資回収を支援する制度ができた。これを自由化と同時に導入していれば、状況は違ったはずである。温暖化対策の要請が強まることやエネルギー自給率が重要なことは分かっていたし、ロシアのウクライナ侵攻が日本経済に悪影響を及ぼしている現状を見れば、不完全な形で全面自由化をスタートさせたエネルギー政策の失敗は明白である。

発電設備と送配電設備の投資時期を調整して適切に設備形成に努めて来た電力会社を発送電分離した結果、その財務体質は著しく悪化した。それにもかかわらず、今日あらゆる方面からリプレース推進を訴える主張が聞こえるのは驚きである。

既設炉を長く運転し、営業キャッシュフローを稼いで初めて新規建設への投資キャッシュフローを得られることは、経営のイロハである。新増設したければ今以上の廃炉は厳禁で「運転延長・新増設」という組み合わせこそ正しい。

電力会社の経営判断がそのまま国内産業と家計の行方を左右すると自覚し、新増設が必要ならば、まずは既設炉の運転延長を実現しなければならない。(H)

ネットゼロ達成に使命感 クリーンな電力供給を拡大


【リレーコラム】益子 雄一郎/のぞみエナジー事業開発ディレクター

日本人の10人中9人が「脱炭素」や「カーボンニュートラル」などの用語を知っており、国全体で取り組むべき喫緊の課題と認識する。しかし、そのうちの6割、特に若い世代は、脱炭素の実現に生活をどう変えればいいか分からないと言う。実際、「グリーニアム」という持続可能なものに対し高い価格を払うことをいとわない欧米と異なり、彼らは低炭素製品が節約に役立つ場合に興味を示す。

逃れようのない結論は、日本が2050年のネットゼロ目標を達成するためには、エネルギー業界に従事する私たちが動かさなければならないということだ。排出量を最も迅速に削減する方法は、電化を推進し、クリーンな電力を供給することだ。その一部は原子力発電になるだろうが、大部分は再生可能エネルギーの供給が必須であり、30年には国の発電の36~38%を占めると期待される。

これが、太陽光発電や陸上風力発電、蓄電池システムを展開する再エネプラットフォームであるのぞみエナジーの使命である。27年までに1・1GWの発電を目標とし、設立からわずか1年余りで600MW以上のプロジェクトを積み上げ、4月に日本初となる長期脱炭素電源オークションでプロジェクトを獲得した。これほど早くにこれだけの成果を上げた再エネ事業者は日本では他にいないと認識している。


国際的な視点で競合にリード

迅速に取り組むことができている理由は二つある。第一に、豊富な経験を持つ一流のメンバーを集めたこと。第二に、持続可能なインフラへの投資において世界をリードする英アクティスから支援を受けていることである。アクティスからはさまざまな見識を得るだけでなく、再エネポートフォリオを構築・運営するために、5億ドル(約800億円)の投資コミットを受けている。

さらに、もう一つの要因は、国際的なチームであることだ。CEOはスペイン人、CTOはオーストラリア人、COOはカナダ人、副会長が日本人。どのスポーツが最高かについては意見が一致しないが、世界中のベストプラクティスや最新の技術を取り入れることが、他の競合他社よりも容易である。

私たちが取り組んでいる分野の一つに、再エネプロジェクトや蓄電池システムのオフテイク契約に関する企業との交渉がある。企業のサステイナビリティ目標達成を支援するため、商業、技術、財務的な観点から解決策をカスタマイズする専門チームがさまざまな業界の大企業と協働することで、日本の脱炭素の実現に貢献していきたい。

ましこ・ゆういちろう 2011年慶應大学卒業。大手電力会社、外資系コンサルティング会社、大手金融機関などを経て、のぞみエナジーへ参画。再エネや蓄電池システムのオフテイク契約などの事業開発を担当。

※次回は再生可能エネルギー推進機構の三宅成也代表取締役社長です。

【石油】延長の燃料油補助金 続く迷走に年内終止符か


【業界スクランブル/石油】

「一定期間延長」とされていた燃料油価格を抑制する補助金について、岸田文雄首相は6月の記者会見で、「年内に限り実施」と明言。同時に発表された政府の骨太方針では「早期の段階的な終了に向けて検討」とされた。年内終了と考えるべきだろう。

「年末時点で岸田さんは総理なのか」「灯油需要期に廃止できるのか」といった声も聞こえてくる。ドライバーはともかく灯油を利用する家庭やハウス農家、漁業者にとって補助金は家計への大きな支援であったに違いない。

しかし、①市場経済への介入、②8兆円に上る巨額財政支出、③脱炭素政策への逆行―といった点で筋の悪い補助金だっただけに、年内終了の発表に安堵の声が多いようだ。石油業界にとっても補助金は通り過ぎるだけであり、「お荷物」の感もあった。

問題は、終了時点のドル建て原油価格と円ドル為替レートだ。原油輸入価格とガソリン小売価格の連動性は回復すると考えられるからである。前者はIEAの需給緩和予想やOPECプラスが自主的追加減産の10月以降の緩和で合意した動きなどを材料に、年末に向け弱含むとの観測がある。後者は米国の利下げと日本の利上げ時期との関連で円安に歯止めがかかるか微妙だろう。トランプ前大統領は円安を嫌っているとされる。

7月第1週の補助金は、1ℓ当たり28・4円、補助金がない場合のガソリンの予想価格は同203・2円。現状の原油価格と為替が続けば、補助金相当額が段階的に値上がりし、ガソリンの店頭全国平均価格は200円強になろう。補助金に限らず政策や制度も始めるのは簡単だが、終わり方が難しい。(H)

【シン・メディア放談】敦賀2号機は盛んに報じるのに…… 需給ひっ迫を「無視」する朝日・毎日


<業界人編> 電力・石油・ガス

新聞媒体によって電力需給を巡る報道に大きな違いが。業界関係者の評価は。

─夏本番を前に、早くも電力需給がひっ迫した。7月5日に関西電力送配電が全国の送配電5事業者から最大138万kW、8日には東京電力パワーグリッド(PG)が中部電力PGから最大20万kW、関電送配電が同じく中電PGから最大36万kWの電力融通を受けた。

石油 斎藤健経済産業相は9日日の閣議後会見で「電力需給は予断を許さない状況と認識している」としつつも、節電要請は行わないと従来の方針を維持した。8日の東京都心の最高気温は36℃。朝に東電の「でんき予報」を確認すると、使用率が99%となっていた。でんき予報を頻繁にチェックしていた人は14時ごろ、瞬間的に100%になったのを見たとか。

電力 結果的に、小売事業者が供給力を融通する「発動指令電源」や火力発電所の増出力運転などで乗り切ったが、真夏が思いやられる。


原発再稼働の声を恐れたか 関係者困惑の補助金「復活」

石油 翌日の朝刊を見て驚いた。朝日・毎日には需給ひっ迫を報じた記事がない! 東京にしても東電管内の需給ひっ迫だというのに、共同通信の記事を載せただけ。東京は昨夏、「史上最も暑い夏だった……なのに電力ひっ迫しなかったわけとは 原発再稼働は本当に必要なの?」との記事を掲載した。今回の需給ひっ迫を目立つ記事にすると、読者から原子力発電所の再稼働を求める意見が出てくるかもしれない。それを恐れて、あえて触れなかったのではないかと勘繰ってしまった。

ガス 朝日や毎日、東京が力を入れるのが、大詰めを迎えた敦賀2号機の適合性審査に関する記事だ。中でも東京は、日本原子力発電を悪者に仕立て上げているかのような記事が目立つ。

電力 反原発の立場からすると、需給ひっ迫は敦賀2号機の審査行き詰まりに「水を差す」出来事なのだろう。右も左も、もう少しバランス良く報道したらどうか。

ガス 需給ひっ迫のニュースを見ると「これ以上、再生可能エネルギーは必要なのか」との疑問が湧く。発電比率で火力や原子力がもっと大きな割合を占めていれば、こんな事態にはならないのでは。

電力 次期エネルギー基本計画は、電力需要が最も伸びるシナリオでも、前回より高い再エネ比率を設定する「縛り」があるかもしれない。エネ基は議論の終盤で数字が変わることがあるし、もし河野太郎首相が誕生すれば、これまでの議論を白紙撤回しかねない。

ガス 河野氏は怖いが、いま名前が挙がっている自民党総裁候補なら、河野氏以外の誰が首相になっても路線変更はないだろう。それなら岸田文雄首相の続投で良いのだが……。

─政府が8〜10月使用分の電気・ガス料金支援を発表した。5月に終了した補助金があっけなく「復活」した格好だ。

石油 「だったら5月にやめるな」としか言いようがない。開いた口がふさがらないよ。

ガス 料金補助が終了する間際、自民党の木原誠二幹事長代理が継続に向けて水面下で動いていたと聞いた。奏功しなかったが、通常国会の閉会間際に行われた党首討論で立憲民主党の泉健太代表が、「エネルギー補助金は続けるべきだった。復活すべきでは」と発言。その直後に岸田首相が「復活」を命じたのだろう。朝日が報じていたが、経産省の幹部が「急な話で、びっくりしている」と驚くのも無理はない。

石油 もはや激変緩和策ではなく、「福祉政策」だ。国民にとってはありがたい話だが、必ずどこかにツケが回る。

電力 昔から指摘されているが、福祉政策を電力・ガス料金でやるべきではない。貧困家庭の電気代に特別料金の設定を求められた時、電力会社や経済学者はこう反論した。低所得世帯への給付金や減税など、ほかの手段はいくらでもある。


補助金批判の記事少なく 航空燃料不足で石油業界は

ガス 不思議なことに、補助金について批判的な報道はあまり見ない。批判したとしても、記事の最後で「財政健全化が遠のく」と軽く触れる程度だ。電力さんが言ったような分析的反論は目にしないし、「脱炭素に逆行する愚策」と論陣を張る大手メディアはない。国民の中には、過去最高利益を消費者に還元しない電力会社が「悪」、補助金を恵んでくれる政府は「善」と捉える人もいるかもしれない。

─石油さんに聞きたい。航空燃料の不足が大々的に取り上げられている。

石油 業界内部の人は、「こんな問題があったんだ……」とポカーンとしている人が多い。というのも、これはエネルギー問題というより、物流2024年問題だ。垣見油化の垣見裕司社長がブログで解説しているが、航空機に給油するまでには、まず元売りが原油を精製し、燃料を製造する。それをタンクに貯め、内航船で油槽所に運び、そこからタンクローリーなどで空港のタンクに運ぶ。そこで一度貯油し、ようやく航空機の運航に合わせて1機ごとに給油する。今は内航船の船員や空港職員の数が減り、元売り以降の流れが滞っているというわけだ。

ガス 物流問題となれば、今後はジェット燃料以外にも波及する可能性がある。安定供給に支障をきたしているのだから、エネ基の議論に盛り込んだ方がいいんじゃないか。

─持続可能な航空燃料(SAF)で低炭素化しても、運べなければ意味がない。

【ガス】30年頃終了が多数 LNG長契に予見性を


【業界スクランブル/ガス】

第7次エネルギー基本計画の議論が開始され、各種審議会や分科会で「予見性」という言葉をよく耳にするようになった。2050年カーボンニュートラル(CN)の実現に向けて、再エネや原子力の稼働増などにより、発電事業者らがLNG長期契約を結びにくくなっている、との意見から、安定的にLNGを確保するためには何らか政府の支援施策が必要ではないか、との指摘である。

供給リソースの多くがLNGである都市ガス事業者にとっては、より深刻といえる。LNGの長契は、30年頃に契約が終了するプロジェクトが多数存在する。新たに50年以降も続くような長契の締結は、今後のe―メタンの技術開発やCN社会の進展によっては座礁資産になる可能性があり、民間企業の判断では意思決定がしづらい。

とはいえ、将来LNGがもっと必要となった時に中国や欧州に買い負け、高額なスポット調達を強いられることは避けたい。審議会などで有識者からは「長契は余剰を抱えるリスクがあるが、日本経済にとっては不足する方がリスクが高く、積極的にそれを検討できるような施策が必要」などの声もあれば、「余剰が発生してもアジアやグローバルサウスに転売できれば大きな損失にはならないのでは」との支援不要論もある。

LNGに余剰が出るほどCNが進んだ際の転売価格はどの程度なのか。やはり予見しづらいことに変わりはない。また、今は座礁資産化や転売損などが課題視されるが、CN社会で化石燃料を他国に販売することに「レピュテーションリスク」はないのか―。「予見性」ではあらゆるリスクの想定が必要だろう。(Y)

台湾から学ぶエネルギー戦略 安定供給確保でリスク避けよ


【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題

他国のエネルギー政策を見ることは自国を考える上で大変参考になる。特に台湾は、2024年1月の総統選挙も終わり、中国との緊迫する情勢をどう乗り切るかが注目される中、エネルギーの安定供給は極めて重要な課題となっている。

現在、台湾はエネルギー消費の約97.8%を輸入に依存し、エネルギー自給率はわずか2.2%にとどまっている。22年の一次エネルギー供給構成では、石油が44.0%と最大の割合を占め、電源以外にも産業や民生のエネルギー源として広く活用されている。石油の大部分は中東からの輸入に依存しており、この状況は、中国の南シナ海における活動によってシーレーンの安全が脅かされるリスクを抱えている。このリスクに対応するため、台湾は、アメリカやオーストラリアからの天然ガスの輸入増加や、世界有数の洋上風力発電の好立地である台湾海峡を生かした再生可能エネルギーによる自給率向上の取り組みを行っている。

台湾政府は25年までに電源構成の大幅な変更を計画している。23年時点で天然ガス40.0%、石炭38.9%、原子力11.0%、再エネ8.2%、石油1.9%だった構成を、25年までに天然ガス50%、石炭30%、再エネ20%とし、原子力と石油をゼロにする目標を掲げている。特に再エネの割合を大幅に高めることでエネルギー自給率の向上を目指しているが、その導入は計画通りに進んでおらず、安定供給の確保を優先すべきという見方も出てきている。

この点で参考になるのが、スウェーデンとフィンランドの事例である。両国は隣国ロシアとの地政学的リスクに直面しながらも、原子力発電と再エネの両立によってエネルギー自給率を大幅に高めることに成功している。16年時点でスウェーデンのエネルギー自給率は71%、フィンランドは55%に達した。20年には発電力に占める再エネと原子力を合わせた割合が、スウェーデンで98.64%(うち原子力が30.08%)、フィンランドで85.90%(うち原子力が33.78%)にまで上昇した。その効果として、22年のロシアによるウクライナ侵攻後も、ドイツなどのロシアからの輸入依存度が高い国々と比較して、エネルギー供給面での影響は限定的であった。だからこそ、NATO加盟にも踏み切れたのだ。エネルギーの安全保障においては、国家の置かれた地理的、政治的立場、そして利用可能な資源によって最適なエネルギー戦略が異なってくる。例えば、イスラエルは地中海沖合で大規模な天然ガス田を発見し、エネルギー自給率を大幅に向上させ、周辺国へのガス輸出も視野に入れるまでになっている。

台湾の新政権においては、エネルギー安全保障の観点から原子力発電廃止の方針について見直しが行われる可能性がある。台湾の強みである半導体産業からの貿易収入を活用し、エネルギーの安定供給に向けた投資をどのように行っていくのか注目される。

(平田竹男/早稲田大学大学院スポーツ科学研究科教授、早稲田大学資源戦略研究所所長)

シェブロン法理無効化でEV政策は


【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

CNNの報道によると、米連邦最高裁は6月28日、漁業規制に関するある訴訟において、いわゆる「シェブロン法理」を無効にする判決を下した。

シェブロン法理とは、1984年のシェブロン対天然資源保護協議会訴訟にちなんで名付けられたもので、法律の条文があいまいな場合、裁判所は連邦政府機関の解釈に従うべきというものだ。

行政機関に強い権限を与えるこの法理は、民主党や環境保護団体など大きな政府による規制を志向する人々に支持されてきたが、小さな政府と規制緩和を志向する共和党や保守派、ビジネス界からは長らく反対されてきた。今回の最高裁判決でこの法理が覆ったことで、環境や消費者保護、金融、医療、AI、SNS、暗号通貨など、非常に幅広い領域における政府機関が持つ専門的な規制権限が制限される可能性が出てきた。CNNのインタビューで、行政法を専門とするジョージア大学法学部のケント・バーネット教授は「この法理が関係しない領域はない」と語った。

エネルギー領域で最も影響があると考えられているのが、バイデン政権のEV政策である。自動車の排ガスを規制する根拠となる「大気浄化法」は、元々は発電所などの固定された発生源を対象とするもので、自動車のような移動する発生源を規制する権限を米連邦機関の環境保護庁が持っているのかという点については長年の論争があった。元の「シェブロン法理」判決も、大気浄化法の解釈をめぐるものだ。

バイデン政権は3月にEVの義務化につながる新たな排ガス規制を発表したが、今回の判決でその権限そのものがゆらぐことになる。たとえ「もしトラ」とならないとしても、影響は広範に及びそうだ。

(大場紀章/ポスト石油戦略研究所代表)

【新電力】料金多様化進むのかが 改革の成否のポイント


【業界スクランブル/新電力】

現在、電力・ガス基本政策小委員会において、電力システム改革を振り返る「検証」が実施されている。関係各者からのヒアリングを終え、今後どのような検証がなされるのか興味深い。

検証に当たり事務局が提示した資料には、自由化以降「多様な料金メニュー」が提供されたことが示された。小売電気事業者が創意工夫して、誰が供給しても同じ品質の電気を売れるような料金体系を開発したということだろう。

事業者にとって、料金メニューは需要家獲得の手段であると同時にリスクヘッジ手段でもある。調達コストに何らかのリスクがある(もしくはない)場合にそのリスクを需要家と自社にどう配分するかを決定付けるのが料金体系ということになる。

最も簡単なのは、いわゆる「市場連動型」のメニューだ。このメニューを販売して市場から調達することとすれば、リスクを需要家にほぼ転嫁できる。完全な従量料金、固定された従量単価のみの料金に対して、BL市場や従量固定単価のみの電源を調達できていればリスクはないが、一般的なエリアみなし小売燃調付料金だとリスクを保有することになる。

燃調付料金を提供する場合は、燃調に連動した調達を実施することでリスクを回避できる。自らの電源調達のプロファイルや市況、さらにはターゲットとなる需要家が訴求する付加価値なども踏まえて料金メニューを設計し、それがリスク許容度の範囲内かを検証することが求められる。

制度改革がさらに進んでいく中で、料金メニューの多様化も進むのかが、システム改革の成否を決める一つのポイントだ。(K)

エネルギー重視の共和党綱領 フェーズアウト論消滅か


【ワールドワイド/環境】

7月15日、ウィスコンシン州ミルウォーキーで開催された共和党全国党大会においてトランプ前大統領が正式に2024年大統領選に向けた共和党候補として指名され、併せて「アメリカ・ファースト、コモンセンスへの回帰」との序文を掲げた24年共和党政策綱領が採択された。注目されるのはエネルギー重視の姿勢である。

前文では「インフレを破壊し物価を引き下げ、歴史上最も偉大な経済を構築し、国防産業基盤を復活させ、新興産業に燃料を供給し、米国を世界の製造大国として確立したいのであれば、エネルギーを解き放たなければならないことは、常識が明確に物語っている」とし、具体的な政策綱領の中でもエネルギーについて繰り返し言及した。

第1章「インフレの打破と諸物価の速やかな引き下げ」では「米国のエネルギー生産に対する規制を撤廃し、社会主義的グリーン・ニューディールを廃止することで、再び世界のトップとなる。共和党は、原子力を含むあらゆるエネルギー源からのエネルギー生産を解放し、インフレを即座に抑制。信頼性が高く、豊富で、手頃なエネルギー価格で家庭、自動車、工場に電力を供給する」とし、第3章「史上最大の経済の構築」でも「米国を再びエネルギー自給国およびエネルギー支配国にし、エネルギー価格をトランプ大統領の1期目に達成した安値よりもさらに引き下げる」とした。

第4章「アメリカンドリームを取り戻し、全ての人が手ごろな価格で買い物をできるようにする」では「規制負担を軽減し、エネルギーコストを下げ、生活費と日常品・サービスの価格を引き下げる経済政策を推進する」とし、第5章「労働者と農民を不公正貿易から守る」では「米国のエネルギーを解き放つことで、共和党は米国の製造業を回復させ、雇用、富、投資を創出する」とうたった。「バイデン政権が推進してきた電気自動車やその他の義務付けを廃止し、中国車の輸入を阻止することによって、米国の自動車産業を復活させる」とも公約している。ちなみに政策綱領の中に「温暖化」「気候」という言葉は一度も登場しない。バイデン政権の方向性とは真逆であり、トランプ政権復活となれば「化石燃料フェーズアウト」論は消滅するだろう。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【電力】内外無差別徹底で注目 大手小売部門の「稼ぐ力」


【業界スクランブル/電力】

大手電力会社による卸相対取引の内外無差別の徹底は、同時に、大手電力社内における発電・小売部門間の取引が契約として明確になることを意味する。価格や取引条件を社外に対する契約と同様に定義する必要があるからだ。これによって、両部門の部門別収支が極めて分かりやすくなり、かつては曖昧であった責任の所在が明らかになってくるはずだ。とりわけ、注目したいのは小売部門の「稼ぐ力」である。

両部門間の契約で一番鍵になるのは「通告変更」、つまり、刻々と変わる需要に応じて、小売側が購入量を増減する権利である。ひと昔前なら自由に行使できたこの権利こそ、発電部門が提供する大きな価値だ。それゆえ、内外無差別の徹底とともに、発電部門はこの権利を廃止するか、相応の対価を求めるようになった。

予定外に販売量が増減するのは、発電事業にとって極めて大きなリスクである。2022年度の電力・燃料価格高騰時を思い浮かべてほしい。新電力からの大量の戻り需要に対して、燃料費調整ではとても回収できないような価格で燃料や電力をスポット調達し、巨額の損失を被った。通告変更が制限されると、今度は小売部門に需要増減への対応とリスクが回ってくる。

小売部門にとって内外無差別は悪いことばかりではない。需要が安定していたり、安い昼間の電気を買ってくれたりする顧客のありがたみが一段と見えてくる。他の大手電力から仕入れるという選択肢もできた。リスクヘッジの巧拙も業績に現れる。根性営業で量を求めるばかりではない、利益センターとしての「稼ぐ力」を見せる時である。(M)

M7超発生も大規模停電回避 花蓮地震で見えた台湾の特性


【ワールドワイド/経営】

2024年4月3日午前8時前に台湾東部の花蓮県沖を震源とするM7・2の地震が発生し、台湾全域で大きな揺れが観測された。電力系統では発電機のトリップ、送配電線の断線が発生し、広範囲で計37万戸以上が停電したが、長時間にわたる大規模停電は回避された。停電はほぼ全て当日中に復旧し、夜間の電力需給のひっ迫も見られなかった。復旧が速やかであった背景には、再生可能エネルギーや蓄電設備の拡大、近年のレジリエンス強化への投資がある。

今回の地震では、火力発電機計8基がトリップし、一時的に約320万kWが失われた。通常60㎐の周波数が59・46㎐まで低下したが、数秒後には蓄電設備から計51万kWの電力供給があったことに加え、揚水発電機3基の運転停止により周波数は59・7㎐まで上昇した。また基幹送電線である345kV送電線には甚大な被害はなかった。

大規模停電を防げた主な要因は、蓄電設備、太陽光発電、揚水発電の三つだ。台湾では政府が変電設備に併設する形式での蓄電設備の導入を推進しているほか、民間での設置も拡大している。今回の地震では蓄電設備が最大約80万kWの電力供給を担い、太陽光発電は当日正午に約840万kWに達した。

揚水発電は蓄電設備に次ぐ早さで大規模停電回避に貢献し、夜間ピークの電力需給にも対応した。地震発生直後に揚水運転から発電運転に切り替え、約30分後には発電運転を停止し夜間ピークに備えて揚水運転を再開した。同日の夜間の電力需給はひっ迫すると予想されたが、結果的に予備率9%が確保され、ある程度の余裕があった。また台湾電力の送電網への投資もプラス要因だ。345kV送電線は複線化されており、20~23年に台湾電力公司は約1兆円以上をその増強に投資している。

今回、基幹送電線が無事であったことや、蓄電設備や揚水発電の利用が有効に機能した。太陽光発電も火力発電機の再起動までの時間を稼ぐことに貢献し、1999年の大地震による大規模停電と長期間の電気使用制限の再来を防ぐことができた。この教訓は地震大国日本のレジリエンス強化にも有用である。

台湾では5月20日に新たに頼清徳総統が就任した。少数与党であり政治的リソースが限られる中、脱原子力政策の是非を含む新たなエネルギー政策の発表が予想されている。今後も台湾のエネルギー政策の動向が注目される。

(南 毅/海外電力調査会・調査第一部)