電力需要の新潮流、シグナルを発信せよ


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

米国最大の独立系統運用機関であるPJMは1月、今後10年間の電力需要見通しを大幅に上方修正。需要量の伸びは従来の年平均0.8%から2.4%と約3倍になった。2034年の需要は、現在より2200億kW時(100万kW級原子力30基分!)も増加する見通しだ。なおPJMに限らず、米国の各地域においても長期需要見通しは引き上げられている。

需要増の原動力の一つがデータセンター(DC)需要だ。ボストン・コンサルティング・グループによれば、全米のDC向け年間電力需要量は、22年の1260億kW時から、20年代末には最大で3900億kW時(約3倍!)まで伸び、電力需要全体の7.5%に達する可能性があるとのこと。デジタル関連需要の増加はDCのみならず、半導体工場の建設も促し、電力需要はさらに上乗せされることになる。

デジタル産業向けの電力需要は、最近話題の生成AIなどにけん引され、システムの高度化と用途の急拡大の相乗効果で、30年代以降も級数的に増加していく可能性があるようだ。いわゆるDX(デジタル技術による社会や生活の変革)が本格的に走りはじめ、この産業が21世紀における電力需要の主役に躍り出るということだろう。

一方、電力の供給インフラの建設の方は、10年単位の事業であり、急加速という訳にはいかない。日本では今年、長期のエネルギー政策が議論されるはずである。電力需要の見通しが「炭素中立」への「数字合わせ」に終わり、米国のように電力需要の新潮流に関するシグナルを発信できなければ、DX推進に不可欠な電力インフラの投資を呼び込むことはできない。関係者の方々には、後年になって「国民の生活水準低下」を「省エネの成功」とすり替えて自賛することのなきよう、お願いしたい。

【コラム/3月19日】EUは戦略的原材料の過度の域外依存を克服できるか


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

現在、EUはレアメタルの多くを域外とりわけ中国に依存している(レアアースは、ほぼ100%を中国に依存)。EUは、2050年カーボンニュートラルを目指しているが、そのために必要となる再生可能エネルギー電源の開発や電気自動車の生産にはレアメタルが欠かせない。EUにとって、レアメタルなどの重要な原材料の域外の特定国への過度な依存を解消させることは焦眉の課題となっている。

このような中で、欧州委員会は、2023年3月に「欧州重要原材料法」(“European Critical Raw Material Act”)を提案したが、同年11月には、閣僚理事会と議会の合意が成立したことから、両機関の最終承認を経て、法案は成立する見通しである。「重要原材料」とは、「経済的な重要性が高い一方で、供給中断に対して非常に脆弱なもの」と定義されており(34種類)、その代表的なものは、レアアースを含むレアメタルである。

法案(閣僚理事会と議会の合意を含む)では、「重要原材料」の中で、防衛および宇宙だけでなく、グリーンおよびデジタル移行のための技術にとって重要な17の原材料を「戦略的原材料」と位置づけている。そして、対象となる原材料に対して、2030年までにEUの年間需要量の
1)少なくとも10%は、域内の生産によること
2)少なくとも40%は、域内の加工によること
3)少なくとも25%を域内のリサイクルによること
4)いかなる加工段階でも65%以上を単一の第三国から供給されないこと
を求めている。

果たしてこれらの目標は達成されるだろうか。Economist Intelligence(The Economist Groupの調査部門)は、下記の理由で、戦略的原材料に関して、域内におけるサプライチェーンのレジリエンスは実質的には改善されないと指摘している。例えば、同法では、戦略的原材料の少なくとも10%を域内で生産することを求めているが、この目標の達成には、高いハードルが待ち受けている。レアメタル鉱山が新たに開発される可能性が最も高いのは、スウェーデン、フィンランド、ポルトガルだが、鉱山開発は、各国の独自の法的障壁に直面する可能性が高く、また投資のリードタイムや環境への影響を考えると容易ではない。

スウェーデンでは、2023年1月に、最北部で、推定埋蔵量100万トン以上とされる欧州最大のレアアース鉱床が発見されたと伝えられた。しかし、実際に資源を採掘することが可能になるまでには、許可申請、採算性の評価、地域の環境に与える環境アセスメントなどで長い道のりがある。また先住民族は、北極圏の環境を破壊することを懸念し、採掘に反対している。スウェーデンの国営鉱業会社LKABが採掘権を申請する予定であるが、同社のヤン・モストロム最高経営責任者は、採掘されても鉱物が市場に出回るのは10~15年後になるだろうと述べている。

【新電力】自前電源だけではない 安定供給への貢献


【業界スクランブル/新電力】

新電力について、メディアやネット論壇で「新電力側も、長期的な視点に立って発電設備への投資を行い、電力の安定調達を図ってほしい」(読売新聞1月24日:公取委「電力分野における実態調査報告書」)という論調を見かける。

新電力の「旧一電源タダ乗り」(2024年度からは容量拠出金を負担するのでタダ乗りではない)を批判するものだが、一部は自前電源確保のため常に活動している。成果が出ないだけだ。東日本大震災後、自前電源保有(主に石炭・バイオマス混焼電源で、事実上禁圧となったが、震災直後、政府は石炭に否定的ではなかった)に動いた新電力がいたことを思い出してもらいたい。

最近の新電力は新設太陽光の小売り充当に向けて動いているが、太陽光自体安くはない。資本費が1kW当たり16万円、メンテナンス費用は同1万円以上で、1kW時当たり16円を超える。不稼働時間帯の補完電力料金設定も難しい。

市場依存するとして、市場連動料金をそのまま織り込む2部料金にするのか、市場調達分にリスク分を加算して固定価格を維持するのか。前者は仕上がり料金不明、後者は絶対値が高く、顧客受けは悪い。発電抑制量の見通しが付けにくく、容量市場では稼げない上に長期脱炭素電源オークションに入れるのは超メガサイズだけだ。FIP適用は当然考慮するが、プロジェクトファイナンスで苦労する。

小売りが実際の電気の流れに関与せずにサービスを提供することが転売ヤーと馬鹿にされるが、旅行代理店は飛行機やホテル、青果店は畑と農家を直接確保しない。電源を持たずとも、調達先との関係性深耕、トレーディング、付帯サービスの工夫などで競争を勝ち抜く絵図を評価してもいいのでは。(Z)

企業にとって「有害」 ドイツ温暖化政策の苦境


【ワールドワイド/環境】

ドイツがさまざまな難問に直面している。高止まりする利子率、輸出の不調、ウクライナ戦争に伴うエネルギー価格の高騰により、ドイツ経済は苦境にある。経済協力開発機構(OECD)によれば、今年のドイツの成長見通しは1.1%とOECD平均の3%を大きく下回る。

ドイツ最大の産業団体・ドイツ産業連盟のジークフリート・ルスヴルム事務局長は、2月のフィナンシャルタイムズのインタビューに対して「ドイツの気候政策はほかのどの国よりも教条的である。原子力と石炭のフェーズアウト、再エネへの転換は、ドイツ経済をほかの先進国に比して不利なものにしている。7年後のエネルギー供給がどうなっているか誰も確実な見通しを持てず、その時点でのエネルギー価格も分からない。投資判断を行う企業にとっては有害(toxic)である。多くの企業がドイツではなく、エネルギーコストの安い外国で新規投資行っている」と述べた。ドイツ雇用者連盟のダルガー事務局長も「ビジネス界は政府に対する信頼を失っている」と語った。両者ともこれまで政府のグリーンエネルギー転換を支持してきた。それが「有害」という言葉を使って批判を強めているのは、政府がひたすら野心的な脱炭素目標に向かって進む中で、ドイツが製造拠点であり続けられるかどうかに強い懸念を有しているからだろう。

産業界のみならず、農業団体からも政府批判のボルテージが上がっている。1月には農業補助金カットに怒った農民がアウトバーンをトラクターで封鎖する異常事態が発生した。その背景は政府の苦しい財政事情だ。現政権はコロナ対策用の基金を脱炭素政策に流用しようとしたが、昨年11月、連邦最高裁判所から違憲判決を受けてしまったため、補助金のカット、各種課金の引き上げを企図している。農業補助金のカットは農家を圧迫し、送電手数料の大幅引き上げは産業部門のエネルギーコストを確実に引き上げることになる。

筆者は2月半ば、日独エネルギー転換協議会に参加した。ドイツ側参加者は「コストを抑制しながら野心的目標を追求する」とコメントしていたが、それでも他国よりも高いコストが産業空洞化をもたらすとの危機意識は感じられなかった。日本は「ドイツに倣え」ではなく、「ドイツの失敗から学ぶ」ことが重要だ。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【マーケット情報/3月15日】原油反発、需給引き締まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、需給ひっ迫感の強まりを背景も、主要指標が軒並み反発。米国原油の指標となるWTI先物は14日、81.26ドルの終値を付け、2023年11月以来の高値を更新した。

WTI価格が大きく反発した背景には、米国経済の活発化が挙げられる。原油消費大国である米国では、好調な経済を背景に、原油消費が増加している。先週発表となった原油の週間在庫統計は、製油所の高稼働により、減少を示した。同国ではガソリン需要も好調で、ガソリンの週間在庫は、11週振りとなる低水準を記録した。国際エネルギー機関は、米国における消費増加を背景に、世界の原油需要予測に上方修正を加えており、このことも原油相場の上方圧力として働いている。

また、ロシアの製油所3か所がドローン攻撃を受け、同国の石油製品供給に不安が生じていることも、価格の支えとなった。


【3月15日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=81.04ドル(前週比3.03ドル高)、ブレント先物(ICE)=85.34ドル(前週比3.26ドル高)、オマーン先物(DME)=84.77ドル(前週比1.43ドル高)、ドバイ現物(Argus)=84.82ドル(前週比1.50ドル高)

ものづくりの現場で強みを発揮 多くの知見でデジタル導入を促進


【大阪ガス/Daigasエナジー】

大阪ガス100%子会社のDaigasエナジーが提供する工場最適運用サービス「D―Fire」が製造業を中心に注目を集めている。同社は、工業炉やボイラー、バーナー、空調、コージェネなどパッケージ化された機器を通じてエネルギーを供給し事業を展開する。このノウハウを活用し、企業にDXやIoTの導入を促し省エネや安全管理の高度化、効率化につなげるのがD―Fireだ。DXやIoTの導入における落とし穴は導入することが目的になってしまう点だ。同サービスでは、あくまでDXやIoTを課題解決の手段として利用し、顧客が抱える課題の掘り出しから一緒に始める。

D―Fireのサービス概要

D―Fireの運用を始めるには、まず①「導入の目的を決める」。やりたいことは省エネなのか、予防保全なのか、原単位管理なのか―、ヒアリングを通して明確化する。次に目的を実現するために必要な②「システム構成を決定する」。必要なデバイスやデータなどに基づき、システム構成を決めイニシャルやランニング費用を算出する。これで業務上のPDCAサイクルの回し方なども見えてくるとのことだ。こうして③「構築したシステムを運用する」ことで、D―Fireがサービス開始となる。具体的には、製造データ収集の効率化、安全管理や品質管理の高度化、エネルギーマネジメントなどに寄与する。

「一般的なDXサービスは、サービス提供、要件定義、デバイス選定などを担う業者が別々で、製造現場に精通していない場合がある。これに対し、D―Fireは当社がDXやIoTの導入を一気通貫で手掛ける。製造現場を熟知したスタッフが省エネや効率化などの見える化を実現する」とビジネス開発部産業ソリューション開発グループ坂口宏睦リーダーは強調する。


生産工程から工場全体へ IoTで広がるサービス

D―Fireは2019年からサービス開始となり20社が導入する。導入する企業は鉄鋼業界から食品業界まで多種多様、導入目的や事業規模もさまざまだ。特にバーナーや工業炉などを稼働する工場については、大ガスも多くの知見を持ち、強みを発揮している。

一方で、サービス開始から4年が経過し生産工程の一部の領域から、工場全体まで知見が蓄積し守備範囲も広がった。「脱炭素化やコスト削減などの最初の一歩に利用してもらいたい」と坂口氏。生産現場の知見とデジタルの融合がさまざまな業界で強みを発揮していきそうだ。

【電力】内外無差別は誰のため 料金面ではマイナスも


【業界スクランブル/電力】

本誌1月号の覆面ホンネ座談会によると、電力・ガス取引監視等委員会が主導している「大手電力会社による内外無差別な卸取引の徹底」の評判が芳しくないようだ。本件の受益者は、自分で電源を確保できない、あるいは確保する気のない新電力なのだと思うが、その受益者に評判が芳しくないとすると、一体何のためにやっているのか首を傾げざるを得ない。

そもそも発電設備は自由化した以上誰が建設してもいいものであるが、発電所の建設も運転も燃料確保も大仕事であり、相応のリスクを伴う。発電所を持たなくても持ち主と同条件で契約できるなら、発電設備は持たない方が、リスクを負わずにすむ。だから、内外無差別が徹底された結果、大手電力の電源建設意欲が大きく削がれることは不可避だろう。

内外無差別の議論のそもそもの始まりは、発電事業と小売事業を一体で営む大手電力内部で両事業の間の不当な内部補助が存在するという言説が唱えられたところからだ。しかし、どんな規律に照らして不当なのか、当時の資料を読み返してもどこにも記載がない。独占禁止法に照らして不当であるなら、独禁法の規律にしたがって事後監視をすればよいだけだ。

発電と小売りを併営することで、規模の経済性、範囲の経済性が発揮される。大手電力は両者の併営によって経営の安定を図ってきた。内外無差別はそのメリットを放棄させるものだ。新電力もその気になれば同じように享受できるのにである。設備を持つ気のない新電力には都合の良いことだろうが、電気料金の低廉・安定化の視点からは本末転倒に映る。発電事業者がリスクを取って燃料の長期契約を締結することが困難になっていることなどが本末転倒の最たるものだ。(V)

米大手企業で活発に 「24/7CFE」への取り組み


【ワールドワイド/経営】

世界で脱炭素化に向けた動きが加速する中、近年、24/7カーボンフリー電力(24/7CFE:Twenty-four seven carbon-free energy)と呼ばれる取り組みが注目されている。24/7CFEは一般的に、24時間365日、リアルタイム(通常1時間ごと)かつ、同じ系統内で100%カーボンフリー電力を使用することを意味する。

この先進的な取り組みを世界で広めるべく、国連は2021年に国際イニシアティブ「24/7CFE Compact」を立ち上げ、昨年末時点で140以上の企業、機関、国や自治体などが参加している。また米国では、連邦政府が同イニシアティブに参加しているほか、24/7CFEに対応した再エネ証書の取引市場創設に向けた動きも進んでいる。

欧米などの企業による再エネ電力の調達は、過去10年間で急増している。その先駆者といえるのがグーグルである。同社は17年に年間電力需要の100%を再エネ電力で賄うことに成功した。しかしリアルタイムで見ると、各時間帯における電力使用量と再エネ電力の調達量が一致しているわけではない。これを次なる課題としたグーグルは20年、1時間単位での24/7CFEを30年までに達成することを宣言し、その後、マイクロソフトなども24/7CFEを目指すことを表明した。

米国では、再エネ電力の環境価値は再エネ証書(REC)として取引されており、RECは自前で調達できない再エネ電力分を補う手段として重要な役割を果たしてきた。しかし、通常は年間または月間で記録されるため、24/7CFEの検証ができない。

こうした中、グーグル、マイクロソフト、米大手電力のAESおよびコンステレーションの4社は、再エネPPA(電力販売契約)取引市場を運営するレベルテン・エナジーと提携し、1時間ごとに発行場所と時間が追跡できるRECの取引市場の開設を来年までに目指している。

24/7CFEは、電力需要の高い地域における再エネ開発を促すなど、重要なメリットをもたらすことが期待されている。一方、グーグルが24/7CFEの実現を「ムーンショット」(非常に困難だが、実現すれば大きなインパクトをもたらす壮大な計画)と表現するように、多くの課題やコストが伴うことも事実である。

しかし、述べてきたような脱炭素化への取り組みは着実に進んでおり、今後も24/7CFEの動きが広まっていくことが予想される。

(三上朋絵/海外電力調査会・調査第一部)

トルクメニスタンの天然ガス イラン経由で新たな輸出先


【ワールドワイド/資源】

世界で4番目の天然ガス確認埋蔵量を抱えるトルクメニスタンが、天然ガス輸出先をユニークな方法で増やそうとしている。南の隣国であるイランに天然ガスを送り、それに応じた量をイランが国境を接する第三国に送るという、イラン経由のスワップ(交換)取引である。この方法でトルクメニスタンはアゼルバイジャン向けの新たな輸出を2022年に開始し、さらに昨年以降はイラク向け、トルコ向けの輸出も検討している。

トルクメニスタンの天然ガスの輸出先は中国に偏っているのが現状だ。昨年の天然ガス生産量は約800億㎥で、そのうち500億㎥程度が輸出され、中国向けが400億㎥以上を占める。生産量の半分、輸出量の9割弱が中国に流れる構図だ。輸送用のパイプラインもガス田開発も中国からの技術・投資に支えられている。

中国への過度な依存を回避すべく、トルクメニスタンが長年追求している新たなパイプラインの敷設計画が二つある。TAPIパイプラインとカスピ海横断パイプラインだ。前者は南東方向のアフガニスタン、パキスタン、インドに天然ガスを供給する構想、後者は西のカスピ海を横断して対岸のアゼルバイジャンからトルコ、そしてその先の欧州向けに天然ガスを供給する構想だが、いずれも地域情勢や資金調達の問題が解決されず、長い間前進が見られない。

そのような中でトルクメニスタンが新しく推進するイラン経由スワップという方法は、イランの豊富な天然ガスと輸送インフラを利用することで、新規インフラ投資を伴わずにトルクメニスタンが国境を直接共有しない国にも輸出先を拡大できることが利点だ。イランと天然ガスパイプラインがつながっている国は、アゼルバイジャン、トルコ、イラク、アルメニア、さらにジョージアがあり、理論的にはこれらの国向けにトルクメニスタンからの輸出が可能だ。

トルクメニスタンからイランへ天然ガスを輸送するパイプラインは2本あり、輸送能力は年間200億㎥程度。このルートでイランへの直接輸出とスワップ取引を合わせて年間最大200億㎥程度まで天然ガスの輸出拡大があり得る。ただし、懸念材料が……。スワップ取引にはイランを挟むことでトルクメニスタンが関与できない輸送の不確実性や仲介コスト上昇、厳しい対イラン制裁に抵触するリスクを伴うのだ。輸出先分散を目指して新しい方法も模索しつつ、従来のパイプライン構想の実現を追求するトルクメニスタンの基本姿勢は変わらないだろう。

(四津 啓/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

印象操作で不安をあおる朝日 原発めぐる風評加害に警戒


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

これには吹いた。年初に見た週刊現代12月23日号「『新聞大崩壊』の現場から」である。

部数減に苦しむ大手新聞の内情を描くが、驚いたのは「(記者)が一気に流出し始めた」日経の様子。「もともと日経にはジャーナリスト志向の人は少ない。報道だなんだという記者は社内で『朝日新聞』と呼ばれてバカにされるくらい」。その朝日である。

1月11日「志賀原発、リスク露呈」は、能登半島地震による北陸電力志賀原子力発電所への影響に1ページを割く。深刻な事故が起きたかのような扱いだ。

主な影響をリストに掲げている。まずは「揺れに関する(過去の)想定を一部上回った」。ただ記事には「上回った周期帯は圧力容器など重要施設が揺れやすい周期ではなく、安全上の問題はない」とある。次は「使用済み燃料プールの冷却ポンプが約40分間停止」だが、「水温に上昇はなかった」。3番目は「外部電源を受ける一部の変圧器が故障」。これも「別系統の外部電源からの受電に切り替え」とある。安全性は保たれた。

リストには他に、燃料プールからの水漏れ、防潮壁の一部が数cm傾いた、がある。「リスク露呈」ほどの内容だろうか。

北陸電力ホームページ(HP)には「志賀発電所は安全機能(止める、冷やす、閉じ込める)を満足できる設計」で、今回も「安全上重要な非常用電源、冷却設備、監視設備、外部電源などの機能を確保」とある。だが、不安になった人は多いだろう。印象操作である。

残るは、記事中の「周辺で放射線量を測るモニタリングポストの欠測」と「避難ルート」だ。

前者は、北陸電力HPに「当社が設置するモニタリングポスト7局は、地震発生前後を通じ正常に測定」とある。欠測が起きたのは自治体設置のモニタリングポストだ。記事は説明が足りない。

最後の「避難ルート」は記事の分量が多い。「能登半島では道路が寸断され、通信環境も悪化。孤立集落が多発している。原発事故の際の避難について、半島の地理的リスクがあらわ」とある。

だが、そもそも発電所から避難すべき状況だったのか。

北陸電力HPによると敷地内の揺れは399ガルで、現状の基準地震動を下回った。敷地外の志賀町内では2828ガルだった。遥かに大きい。揺れだけなら原子力発電所の方が安全だ。

原則、強固な岩盤上に建設されるからだろう。実際、この原則が地域の住民を救った事例がある。2011年の東日本大震災時の東北電力女川原子力発電所である。周辺は津波で壊滅的な状況だったが、原子炉は無事に停止。約3カ月間、最多で364人の住民を避難者として受け入れた。

福島第一原子力発電所は津波で冷却機能が損なわれ炉心損傷に至ったが、その他は震災後、津波対策が強化されている。原子力発電所から逃げれば安全か。唯一の選択肢なのか。

朝日の記事は、伊方原子力発電所がある愛媛県の佐多岬半島も「地理的リスク」と断じる。伊方町の担当者のコメントは「臨機応変な対応しかない」。一面的な報道は地域の不安をあおるだけだ。

朝日26日「北陸へ旅行支援」「相次ぐキャンセル、地元は歓迎」は政府の被災地支援策を紹介する。宿泊費も一部補助する。

懸念されるのは朝日のような印象操作の報道による観光ひいては復興への悪影響である。風評加害に加担しないよう求めたい。

いかわ・ようじろう デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2024年3月号)


【中国電力・東洋鋼鈑/中国地方初の営農型PVでオフサイトPPA開始】

中国電力は山口県内の営農型太陽光発電(PV)を活用した電力供給契約(オフサイトPPA)を東洋鋼鈑と結び、電力供給を始めた。中国地方では初となる営農型PVで、中国電力としても初の取り組みだ。これまでエコスタイル社、彩の榊社と3社で協業を進め、農地の上部空間に太陽光発電設備を設置するスキームを検討してきた。営農型は、農作物の栽培によるCO2削減や再エネ導入量の拡大につながる。耕作放棄地の再生利用や農業経営の改善による農業の活性化にも期待が持たれている。今回の営農型PVでは、太陽光パネルを隙間なく並べ、遮光率が50%程度であることから、陰性植物である「榊」を栽培する。また東洋鋼鈑向けに計6万4000kW分の営農型PVを開発する。


【サミットエナジー・NEC/サミット電源活用し需給調整市場に参入】

サミットエナジーとNECは、電力の需給調整市場に参入した。サミットエナジーが保有するサミット美浜パワーの電源である1万7000kW級のガスタービン(2基)、1万5000kW級の蒸気タービン(1基)を活用し、最大7500kWを市場に出す。サミットエナジーが発電リソースを提供するほか、入札戦略や運転計画を立案する。一方、NECはリソースアグリデーターとしての役割を担う。アグリゲーションコーディネーターである東京電力ホールディングスからの制御指令に基づき、発電リソースに対して制御指令を伝達する。出力が変動する再エネの普及が進んでおり、需給調整の機能が重要になっている。市場を介した調整力機能の供出により、再エネの大量導入時代に備えていく。


【ユーラスエナジー/道北風力発電事業4カ所目が稚内で運開】

ユーラスエナジーホールディングスのグループ会社の合同会社道北風力が、北海道稚内市で建設を進めていた「樺岡ウインドファーム(4万2000kW)」が完成し、2月から営業運転を開始した。同発電所は、道北地域に全6カ所の風力発電所、計107基の風力発電機を設置する「道北風力発電事業」の一環で、「浜里ウインドファーム」「川南ウインドファーム」「川西ウインドファーム」に続く4カ所目の発電所だ。1基当たりの出力が4200kWのGEベルノバ社製の風力発電機を10基設置し、発電する電力は北海道電力ネットワークへ全量売電する。一般家庭約3万1000世帯の消費電力に相当する電力を供給するとともに、年間4万7000tのCO2削減効果を見込む。


【関西電力/CO2回収試験ラインを関電姫路第二に建設】

三菱重工業は、関西電力と共同で関電姫路第二発電所にCO2回収パイロットプラントを設置する。次世代CO2回収技術を検証する試験設備を設けるもので、2025年度の稼働開始を目指す。同設備では、発電所にあるガスタービンからの排ガスを用いてCO2回収技術の研究開発を行う計画。22年にエクソンモービルと合意した提携に基づき共同開発中の次世代CO2回収技術を実証し、環境負荷低減とコスト削減に向けた研究開発を加速し、競争力強化を図っていく。


【日本原子力産業協会/エネミックスを学ぶ ボードゲーム発売】

日本原子力産業協会は1月、東北大学の協力を得て「エレクトロネーション―エネルギーミックスボードゲーム―」を発売した。ゲーム原案・監修は遊佐訓孝東北大学教授、ボードゲームデザイナーはカナイセイジ氏。このゲームの目的は、幅広い世代にエネルギーミックスが国の発展・繁栄を左右し得るかを理解してもらうことだ。各プレイヤーは国家のエネルギー管理者として、自らの国が必要としている電力供給量を確保し、温室効果ガス排出量の制限を守りながら国を発展させていく。本体価格は税込み4950円。


【大林組/水素を鉄道で輸送 脱炭素化を実現】

大林組は1月、大分県玖珠郡で製造されたグリーン水素を鉄道で輸送した。従来のトラック輸送に比べ、輸送時のCO2排出量を82%削減した。水素の鉄道輸送の取り組みは国内初。同社はCO2排出量削減に資する各施策の実証の一つとして、岩谷産業の建設現場(兵庫県神戸市)に水素燃料電池を設置している。その電力供給用として玖珠郡から神戸市までグリーン水素をトラック輸送していたが、長距離輸送時のCO2排出量削減のため鉄道輸送に切り替え、1回の輸送のCO2排出量を0.347tから0.062tに削減した。


【双日・イオンモール/インドネシアのイオンで屋根置き太陽光発電の稼働開始】

双日とイオンモールは、双日の持分法適用会社であるピーティー・スルヤ・ニッポン・メサンタラ(SNN)社を通じて、インドネシアの1号店「イオンモールBSD CITY」に屋根置き太陽光発電設備を導入、2024年1月に稼働を開始した。BSD CITYの屋上に総面積約4,244㎡の太陽光発電パネルを設置し、年間の発電量は合計116万1000kW時を計画している。年間のCO2排出量を約712t削減する見込みだ。さらに、同国で建設中の5号店「イオンモール デルタマス」においても屋根置き太陽光設備の設置を進めている。双日は、蓄電池、EV関連事業、省エネ、水素・アンモニア・バイオ燃料などのゼロエミッション燃料供給サービスなども提供する予定だ。


【東京ガス/米国最大級となる太陽光発電所が完工】

東京ガスの100%出資子会社である東京ガスアメリカ社は、米国テキサス州における「アクティナ太陽光発電事業」の発電所の建設工事を完了した。本事業は、建設工事の全工程を4期に分け、2021年8月から順次部分稼働を進めており、23年12月に全稼働した。本事業の最大出力は63万kWで、米国最大級の太陽光発電所となる。また今後、米国では系統用蓄電池事業への参画も予定しており、海外事業の利益目標500億円に向けて収益基盤を強化していく。


【関電工/技術開発報告会を開催 800人近くが参加】

関電工は「2023年度技術開発報告会」を都内で開催した。赤司泰義・東京大学大学院教授による「カーボンニュートラル時代の建築設備」をテーマにした基調講演のほか、「地中送電土木技術に関するCO2削減の取り組み」「設備データ分析による施設運用の効率化」など、関電工独自の技術の発表が行われた。オンラインを含め800人近くが視聴参加した。


【東急不動産・ENEOS/SAF原料に廃食油活用 和歌山製油所で製造】

東急不動産とENEOSは2月7日、SAF(持続可能な航空燃料)の製造で連携すると発表した。東急不動産グループが全国で運営するリゾート施設29カ所などから廃棄される食用油を回収し、ENEOS和歌山製造所でSAF用製造プラント(年間40万kl)の原料として使用する予定だ。国際的に化石燃料からの脱却を進める航空業界向けに活用する。


【積水ハウス/日産自動車/EV導入の障壁減らす 普及プロジェクトが発足】

日産自動車と積水ハウスはこのほど、ゼロエミッション社会と快適でエシカルな暮らしの実現に向け、EVをより身近に選択できるための「+e PROJECT(プラスイープロジェクト)」を発足した。EV購入検討層が増加傾向にある中、集合住宅にEVの充電設備がないことが購入の障壁であるという日産の調査結果を踏まえ、住環境とEVのより良い関係性を目指す多様な施策を展開していく。1月には、「EV充電設備と集合住宅の未来価値」をテーマにしたSFコメディWEBドラマ『未来にまかせる君』を公開した。

「借金大国」が大盤振る舞い じわり進む日本経済の衰退


【オピニオン】原 真人/朝日新聞編集委員

岸田政権とは不思議な政権だ。安倍政権や菅政権のように財務省や日本銀行を力で押さえつけて強権をふるう政権とは違う。官僚との間に妙なあつれきが生じているわけでもない。ところが、その岸田政権の下で、日本の財政はこれまでより一段階も二段階も危険な領域に踏みこみ始めているのだ。

岸田文雄首相は就任後1年半ほどの間に相次いで三つの政策分野で巨額予算の投入を決めた。最初は防衛予算だった。2023年度からの5年間に従来ペースで想定される予算規模の1.5倍にあたる総額43兆円の予算計画を決定した。二番目は脱炭素社会に移行するためのグリーン・トランスフォーメーション(GX)として23年度から10年間で20兆円を投資する計画である。そして三番目が少子化対策。28年度までに年3.6兆円の予算を組んで、児童手当の拡充などで子育て家計を支援する。3分野を合わせると、通常ベースの政府の当初予算110兆円規模に8兆~9兆円ほどが、かさ上げされるイメージとなる。

問題は、これだけ巨額の歳出計画を作りながらその財源をはっきりさせていないことだ。一応は増税やカーボンプライシング、支援金制度などを採用する方針は示しているものの、財源の多くを歳出改革や決算剰余金による捻出に期待するという、かなり不確かなものだ。

きわめて財政拡張的だった安倍政権でさえ、恒久歳出を決める時には恒久財源を求める常識はあった。それがなくなった岸田政権の財政膨張は、国家財政の未来をかなり危うくするものと言える。

政策の内容には疑問符が付くものも多い。昨秋、景気が底堅い中で決定した総額17兆円の大型経済対策の柱は、所得税減税やガソリン補助金だった。物価高対策が狙いだというが、ガソリン価格を補助金で低く抑えればガソリン需要は減らず、価格は高止まりする。そもそも大型財政出動そのものが、経済全体で景気を刺激し、物価高をあおりかねない施策であり、逆効果なのだ。

日本政府が抱える債務の対GDP比は255%と、比較可能な172カ国中で最悪レベルにある。その「借金大国」でこうした大盤振る舞いができるのは、日本銀行が異次元緩和の名の下に国債を買い支えているからだ。政府はそれに甘えて野放図な国債発行を続けている。

このような「打ち出の小づち」政策は、永遠に続けることなどできるはずがない。いずれ何らかの形で破綻するのは避けられない。たとえ日銀が国債を買い支え続けても、その結果、日銀の信用が落ちれば通貨円が暴落する恐れもある。

あるいは、気がつかぬうちに事態が進んでいるのかもしれない。一昨年来、1ドル=150円前後の円安がたびたび起き、円はここ四半世紀で最も安い水準になった。輸入物価の高騰、外国人による「安いニッポン」の買いたたき。こうして日本人がゆっくりと貧しくなるという経路で、すでに日本経済の破綻が始まっている、という見方も可能ではないか。

はら・まこと 1961年生まれ、早稲田大学卒。日本経済新聞を経て88年に朝日新聞社に入社。経済記者として財務省や経産省、日本銀行などを取材。論説委員や朝刊の当番編集長などを経て現在は編集委員。

原子力×再エネ×新エネ ベストミックスの旗振り役へ


【地域エネルギー最前線】 福井県敦賀市

敦賀原発や「もんじゅ」「ふげん」など原子力分野で日本をリードしてきた敦賀市。

北陸新幹線延伸と脱炭素をてこに産業構造の転換を狙っている。

本州日本海側のほぼ中央に位置し、敦賀港を擁する港湾都市である福井県敦賀市。北前船の寄港地で京阪神・中京地域に近いこともあり、古くから海陸交通の要衝として発展してきた。3月16日の北陸新幹線・敦賀開業を見据え、市民の熱気は高まっている。

1970年には、日本初の商用原子炉・敦賀原子力発電所1号機が運転を開始。「もんじゅ」「ふげん」などの研究炉も所在する敦賀市は、長年にわたり原子力分野の最前線を走ってきた。

「原子力のまち」であることは、産業構造を見ても一目瞭然だ。産業別純輸出額では、電気業・電気機械業が半分以上を占める。だが2011年の東日本大震災が、原子力に偏る産業構造の大きな転換点となった。原発の長期運転停止で定期検査などの作業が減少し、電気業などの経済規模は縮小。比例するように、同年から人口は減少に転じた。

地域経済の基礎部分の減退と人口減少の加速という〝ダブルパンチ〟克服へ―。敦賀市は19年、新幹線の敦賀延伸をエポックとして、観光業による外需獲得で経済規模を維持し、脱炭素への取り組みで産業構造の複軸化を目指す方針を打ち出した。軸となるのは、①産業構造の複軸化、②エネルギーの多元化―の二つだ。

①については、既存企業などの研究開発を支援し、商業化や雇用の増進を目指す。その上で企業間マッチングを後押しして、新たなサプライチェーン構築を図る。すでにセメント製造工程を活用し、リチウムイオン電池からレアメタルを取り出す「リチウムイオン電池リサイクル」を22年から展開している。②については、原子力発電によるエネルギー供給を継続しつつ、再生可能エネルギーや水素の活用に積極的に取り組む。

先行地域応募への思い  原発由来のCO2フリー水素

22年11月には北陸地方と原子力立地地域で初となる脱炭素先行地域に選定されたが、応募には日本のエネルギー供給を担ってきた敦賀市ならではの思いがあった。敦賀市企画政策部ふるさと創生課嶺南Eコースト計画推進室の八原和之係長は「全国原子力発電所所在市町村協議会の会長を務める自治体として、ベストミックスの旗振り役を目指す。その姿勢を示すために脱炭素先行地域に応募した」と語る。

新幹線の敦賀延伸を産業・エネルギー政策転換の契機と捉え、象徴的エリアとなる敦賀駅西地区、中心市街地の集客施設、北陸有数の長さを誇るアーケード「シンボルロード」などに対して、市内の約1400kWの卒FIT(固定価格買取制度)太陽光発電や新設予定の清掃センターでのごみ発電(1600kW)による再エネ電力を供給する。

敦賀駅への試験車両歓迎セレモニー(昨年10月)

太陽光発電については、22年7月から北陸電力、CCCMKホールディングスと共同で「敦賀市再エネ地産地消プロジェクト」を実施中だ。所有者が公共施設などへの電力提供に同意すると、毎月の余剰電力1kW時当たり3ポイントのTポイントを付与する。市民の行動変容を促すほか、ゼロカーボンシティやスマートシティの実現に向け、集めたデータの分析・実証を行う全国初の取り組みだ。

22年12月には、北陸電力、福井銀行と共に「敦賀市脱炭素マネジメントチーム」を結成。需給ひっ迫時の省エネ要請や事業者の再エネ設備導入に対する融資・補助に向けて取り組む。一体的な支援で、脱炭素化を志向する事業者の集積を図る考えだ。

水素についても先駆的な取り組みを行ってきた。18年8月、東芝エネルギーシステムズと「水素サプライチェーン構築に関する基本協定」を締結。実証プロジェクトとしては、北陸電力と卒FIT再エネ由来の水素を火力発電所のタービン冷却材として活用、関西電力と原子力由来のCO2フリー水素を製造した。

水素ステーションでは、グリーン水素の製造と燃料電池車(FCV)などへの供給を行い、敦賀港の水素・アンモニアの受け入れ拠点化をはじめとしたカーボンニュートラルポート化を推進する。このほか、安定的な物流と脱炭素を両立させるため、ドローンと電気自動車(EV)トラックを導入し、スマート物流を実装する。

上下水道で電力スマメ活用の2実証 長野県飯綱町と愛知県春日井市で実施


【中部電力】

中部電力は昨年12月からエリア内の自治体と共同で、電力スマートメーターの通信網を活用した上下水道事業の遠隔監視に関する二つの実証実験に着手している。

長野県飯綱町、中部電力、中電テレメータリングは12月4日、電力スマメ通信網を活用した水道自動検針の実証実験に関する協定を結んだ。飯綱町では少子高齢化による慢性的な検針員不足に加え、冬季の積雪が町内全域の現地検針に影響。こうした事情から、過去使用量に基づく暫定使用量料金の精算業務が煩雑化しているほか、設備の老朽化・凍結などに伴う宅地内漏水の発見の遅れや、有収率(給水量と料金収入の比率)の低下などが課題となっていた。

水道自動検針で活用される電力スマメ

今回の実証では、水道自動検針による検針業務の省力化と水道使用量データが安定的に取得できることを確認する。これにより、冬季の積雪で水道メーターが雪に埋まった環境でも、漏水の早期発見が可能となる。加えて、自動検針で取得した水道使用量データを用い、事業者と利用者にとって有益な新たな付加価値サービスの導入も検討している。実証期間は12月4日から今年3月31日までの約4カ月間。2社は実証の成果を基に、電力インフラを活用した取り組みを一層加速させる構えだ。


水位上昇を無線で通知 溢水を未然に防止する

一方、中部電力は愛知県春日井市と19年11月に締結した「ICTを活用した地域課題解決に関する連携協定」に基づき、下水道管の閉塞で水があふれ出す溢水を未然に防ぐための実証実験を、昨年12月6日から実施している。

この実証は、マンホール内に設置したフロート式の水位センサーが溢水の兆候となるマンホール内の水位上昇を検知し、電力スマメ通信網を介して通知するシステムの構築を目指すもの。下水道施設では、飲食店や工場などからの排水に含まれた油脂などが下水道管に詰まることで流下能力が低下した結果、マンホールから汚水があふれ、周辺環境の汚染や交通障害などを引き起こす可能性がある。

中部電力グループが設置した電力スマメは、中部電力管内に約1000万台が網羅的に配置されており無線通信がつながりやすいという特長を持つ。そのため、鉄蓋で覆われたマンホール内であっても通信ケーブル工事を伴うことなく、無線通信で水位上昇の通知が可能だ。遠隔かつリアルタイムでマンホール内の水位上昇が把握できるため、点検の現場確認が省け、下水道施設の維持管理の省力化と溢水の未然防止が可能となることから、点検費用の削減とともに安心・安全の確保が可能となる。

中部電力グループは各地域が保有する街づくりに関する知見と、自社が保有する電力インフラの知見を融合。地域・社会のさまざまな課題を解決に導くとともに、新たな価値を創出していく構えだ。

GXとDXの先進工場 カギは「徹底的に無駄を省く」


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.24】関口博之 /経済ジャーナリスト

来訪者に有料で工場見学をさせる会社がある。愛知県碧南市にある旭鉄工だ。トヨタ自動車のティア1として鍛造やダイキャスト部品を作っている。創業80年の同社が、2016年に木村哲也社長が就任以来、DX(デジタルトランスフォーメーション)、GX(グリーントランスフォーメーション)の先進工場に生まれ変わった。先日その木村さんと、製造業のGXをテーマにしたパネルディスカッションで同席する機会があった。

旭鉄工の木村哲也社長

なぜGXに取り組むのか。木村さんの答えは明快で「儲かるから」だという。数字がそれを示す。

売上高150億円規模の同社で年間利益を10億円増やした。電力使用量は26%減らし1.5億円のコスト削減につなげた。カギは「徹底した省エネ」、それといわゆる「カイゼン」「原価管理」、この三つを一体で行うことだという。

省エネの手法はこうだ。まず製造ラインの電力使用量を稼働中の「正味電力」と異常や段取り替えで機械が止まっている時の「停止電力」、それに昼休みや稼働終了後などの「待機電力」に分ける。電力計を付けただけでは無駄は見つけられない。稼働状況と突合することで、「正味」ではない「停止」「待機」の無駄な電力をあぶりだす。当初実測してみると実に工場の電力の60~70%が「停止」や「待機」だったという。深夜、早朝にも電源オンのままだったものをきちんとオフにするようにしたことで正味率が71%に向上した。

現場の写真を見ると、昼休みなど休憩時には「必ず非常停止(ボタン)を押すこと」という掲示がある。非常停止は目的が違うのでは? と聞いてみると「非常停止の時は限られた範囲で電力を切る。止めてはいけないところは止めないのでこれがよい」と木村さんは言う。なるほど。

旭鉄工では製造ラインの稼働状況を、IoTを使って常時モニタリングするシステムも自社開発している。その結果どうなるか。消費電力と稼働状況から生産数が分かるので、400近い品番がある部品について「1日ごとの1個当たりのCO2排出量」まで算出できるようになっている。ここまでやってこそ見える化と言えるのだろう。

こうしたシステムとノウハウは自社内で共有されるだけではない。何とそれを外販するため、木村さんは子会社を作り、その代表も務める。積み上げてきたカイゼンやGXのノウハウはまさに自社の競争力の源泉、公開するのはもったいないのでは? と聞くと木村さんは「そこはもはや、競争領域ではない」という。既に主要サプライヤー20社余りにノウハウを提供し、スコープ3のCO2排出削減と(取引先のコスト削減分を反映した)調達価格低下の形でメリットを得ている。

「良い結果が出ているノウハウは共有し、さっさとやって、人材など貴重なリソースは真に付加価値を生むことに振り向けるべきだ」。木村さんは再三、こう口にする。それでこそ日本の製造業の活路が開けるというのだ。確かにここには良い見本がある。ぜひ、工場にも伺おう。ただその前に見学料がいくらかを一応、確認しておかないと。

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せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。