【コラム/2月9日】東京都2050年脱炭素 達成しても気温低下は0.0004℃


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 

日本政府も、都道府県のほとんども、2050年にCO2をゼロにすると宣言している。だがこれでどれだけ気温が下がり、大雨の降水量が減るのか、ほとんどの人は知らない。

概算は簡単にできる。以下では、鍵となる数字を、覚えやすい形に少し丸めてまとめておく。正確な計算については拙著「地球温暖化のファクトフルネス」を参照されたい。

①  CO2 1兆t = 0.5℃       (TCRE関係)
②  気温1℃上昇 = 6% の降水量増加 (クラウジウス・クラペイロン関係)
③  年間10億t             (日本のCO2排出量)

➀TCRE関係とは、累積のCO2排出量が1兆tに達すると地球の気温が0.5℃上昇するという関係である。両者には概ね比例関係がある。なお最新のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)報告である第6次報告では、これは0.45℃となっている(下図を参照)。TCRE関係についてはJAMSTEC(海洋研究開発機構)による詳しい解説記事がある(なお、TCREとはTransient Climate Response to cumulative carbon Emissionsの略で、日本語で言えば「累積炭素排出量に対する過渡的気候応答」となる)。

図 TCRE関係 出典:IPCC第6次評価報告書 技術的要約 暫定訳

図の傾きはCO2が1兆t当たり0.45℃となっている。なおこの値は過去の観測だけでなくシミュレーションにも依存しているので、地球温暖化については過大評価である可能性が高いが、ここでは概算に興味があるので、このIPCCの値をそのまま、少し丸めて0.5℃として使うことにする。

これによる降水量の減少はどれだけか。気温が上昇すると大気中の水蒸気量が増え、豪雨が強くなるというクラウジウス・クラペイロン関係(②)を仮定する。なおこの関係自体、実は統計的に有意に観測されてはいないので過大評価かもしれないが、ここでは仮にこの関係が成り立つとする。

クラウジウス・クラペイロン関係では、1℃の気温上昇が6%の雨量増大となるから、仮に1日に100mmの豪雨であれば、1℃の気温上昇で106㎜に雨量が増えることになる。

上記の①から③までさえ覚えておけば、暗算でも脱炭素の効果を概算できるようになる。

対策工事の遅れ相次ぐ 原発再稼働計画に影響も


原子力事業者の「春」まで、もうひと踏ん張りだ。

東北電力は1月10日、5月ごろを見込んでいた女川原発2号機の再稼働時期を数カ月延期すると発表した。電線管の周りを耐火材で覆う火災防護対策の追加工事が必要になったという。昨年9月に再稼働時期を今年2月から5月に延期した際、樋口康二郎社長は今年度決算で約200億円のマイナス(営業利益ベース)となる見通しを示しており、さらなる業績への影響は必至だ。女川は今年の再稼働が見込まれる3地点(ほかに柏崎刈羽・島根)の先陣を切るとみられていたが、分からなくなった。

東海第二原発については日本原電の村松衛社長が1月11日、9月を目指す安全対策工事の完了は「状況としては非常に厳しい」との見方を示した。同原発は原子力規制委員会の審査を通過しているが昨年6月、防潮堤の基礎で不備が見つかり、原因を調査中だ。

原発の再稼働を巡っては能登半島地震の被害状況を踏まえ、規制委が広域避難計画策定のマニュアルとなる原子力災害対策指針の見直しを検討するなど、先行きは不透明感を増している。

【覆面ホンネ座談会】洋上風力第2弾の舞台裏 見えてきた業界勢力図


テーマ:洋上風力公募の行方

三菱商事陣営が3海域総取りという衝撃の洋上風力公募第1弾から早2年。第2弾のうち3海域の結果が昨年12月中旬に示された。落札者の顔ぶれを見ると、大手商社やエネルギー企業がバランス良く収まった格好だが、今後の勢力図をどう読み解けばよいのか。

〈出席者〉 A 風力産業関係者 B 再エネ業界関係者 C マスコミ関係者

―今回の3海域はそれぞれ、①秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖がJERA、Jパワー、伊藤忠商事、東北電力、②新潟県村上市・胎内市沖が三井物産、RWE、大阪ガス、③長崎県西海市江島沖が住友商事、東京電力リニューアブルパワー(RP)―が落札した。全体を俯瞰した感想をまず聞かせてほしい。

A 第1弾で三菱商事グループが勝利したスキーム、つまり、コーポレートPPA(電力購入契約)で需要家を確保した上で、再エネFIT(固定価格買取制度)には頼らない形と同様の構造が今回も見られた。今回からFIP(フィードインプレミアム)価格となり、3地点のうち秋田と新潟の落札者は、「ゼロプレミアム」(FIP基準価格を1kW時当たり3円とし、市場価格と乖離した分のプレミアムがほぼ期待できない水準)で札入れし、価格点満点を確実に取りにきた。勝者の顔ぶれをみると、30万~70万kW級の大規模事業になることから、資本力のある大手が並んだ。またPPAを念頭に需要家との接点がある旧一般電気事業者が多い点も目立つ。ただ、こうした結果は特に驚くものではない。

B 想定通り、まずはゼロプレミアムで札入れできるか、その上で定性点での戦いとなった。個別の印象として、秋田では特に第1弾を取れなかったJERAで「何としても実績をつくる」という姿勢を感じたし、それをけん引できるタレントぞろいのコンソーシアムを組めたことが勝因だ。

C 私も落札者などの顔ぶれは予想通りだったが、特にJERA陣営が運開時期を攻めた点が気になった。リスクを承知でどの計画よりも早い2028年6月末としているが、工程が全てかみ合わなければ即遅れにつながる。勝負に出たなと感じた。

B JERA陣営は、工事拠点として同じ秋田港を利用する、三菱商事陣営が第1弾で落札した由利本荘市沖の事業の着工前に工事を終わらせる、というチャレンジングな計画とした。不安材料は認証プロセスに要する時間が読めないことで、風車の先行発注などのリスクを取らざるを得ない可能性がある。ただ、JERA側の計画が遅れても、最終手段として商事側へ対価を払い港湾の使用について調整する手もある。

C 新潟では、RWEの陣営が勝った点が良かった。今回も外資ゼロなら、日本から外資勢が撤退しかねなかった。

B 特に事業の実施能力で満点を取ったことに驚いた。RWEが貢献したとみていいだろう。これは同社の日本市場へのコミットの高さの現れだ。他方、ほかの外資も同じように戦えるかというと、そう簡単にはいかない。

C RWEは本国の優秀なメンバーが地元対策も手掛けており、今回も本気で取りにきていたと聞く。ほかの外資とは一線を画しているよ。第3弾以降も入ってきそうだ。他方、今回は外資に一つは勝たせたいという政府の考えもあったように感じている。

着床式公募の勝利の方程式が出来上がりつつある

福島第一事故の教訓を踏まえて 東海第二発電所で進む安全対策工事


【原子力発電所の安全対策】

日本原子力発電の東海第二発電所で安全対策工事が進んでいる。

安全・安心を得るための現場の取り組みをジャーナリストの石井孝明氏が紹介する。

日本原子力発電の東海第二発電所(茨城県東海村)を訪問した。安全性向上のための工事によって、発電所が生まれ変わっていた。この原発の再稼働では事故の際の避難計画の作成と住民の同意が解決すべき課題になっている。工事の努力が知られれば、関係者に安心をもたらすのではないか。

東海第二発電所の外観
提供:日本原電

3分野で徹底的な対策 城塞のような巨大防潮堤

福島第一原発事故を教訓に、「自然災害から発電所を守り、電源を絶やさない」「原子炉を冷やし続ける」「放射性物質を外部に漏らさずに地域環境を守る」との3分野の対策が行われていた。

第一の対策として、発電所を自然災害から守る取り組みが強化されていた。東海第二は鹿島灘に隣接する。そこからの津波対策のために原子炉を「コの字」に囲む防潮堤が建設されていた。海側の防潮堤は海面からの高さが20ⅿに達する。高さ17.1ⅿの津波が押し寄せても大丈夫なように、この壁を建設した。直径2.5ⅿの鋼管杭を約600本並べて岩盤に届くまで打ち込み、鉄筋コンクリートで固めて厚さ3.5ⅿの壁にしていた。大変堅牢だ。壁の全長は約1.7㎞。まるで城塞のようだ。

建設が進む巨大な防潮堤
提供:日本原電

また、電源確保の取り組みも行っている。外部からの電力が喪失した場合に備え、既存の非常用電源とは別に高圧電源車を頑丈なコンクリート構造物内に設置するほか、移動式の電源車を高台に置く。さらに自然災害への備えとして主要設備には竜巻、突風による破損を避けるために、鋼鉄の覆いが付けられ、敷地内の施設は地震、火事などの災害に備え補強や難燃性のケーブルへの取り替えなど、さまざまな取り組みを行っていた。

第二の対策として、原子炉を冷やし続ける設備を建設している。冷却機能の多様化として既存の設備に加えて新たな冷却設備を建設。5000㎥の淡水をためる地下タンクが原子炉の隣に設けられた。さらにそれが機能しない場合に備えて、別の場所にも同様の水源を設置するほか、熱交換器へ冷却水を供給するための海水ポンプピット(貯留槽)もつくっていた。

第三の対策として、仮に重大事故が発生しても放射能を外部に漏らさず、地域の環境を守る取り組みが強化されていた。原子炉の格納容器内にたまった放射能を帯びたガスを放出しなければならない事態になった際に、そのガスから粒子状の放射性物質を取り除く「フィルター付きベント装置」が建設中だった。

さらに事故対策で司令塔になる緊急時対策所も敷地内の標高21ⅿの高台につくり、そこにがれき撤去などに使うホイールローダーなど、災害対応車両を配備していた。テロ行為などがあった場合に、所員が集まり原子炉を操作できる特定重大事故等対処施設(特重)の建設にも着手していた。

東海第二の敷地内には隙間なく物が置かれ、工事が進んでいた。松山勇副所長は「既存の建物の隙間に新規構造物をつくるために、敷地の余裕が少なく、難しい工事だが、工夫と努力で課題を乗り越えてきた。地元の皆さまに安心いただける安全なプラントをつくり、運営したい」と抱負を話した。

ここまでの大工事で当然、事故の可能性は大幅に減ると、筆者は思う。一方で、これだけ大規模な工事費用をかけて「投資に引き合うのか」との疑問が湧く。稼働をしなければ元が取れなくなる。その投資は電力を使う消費者の負担になる。

【イニシャルニュース 】 「自己託送」厳格化 入り交じる歓迎と困惑


「自己託送」厳格化 入り交じる歓迎と困惑

資源エネルギー庁が、自己託送制度の運用を厳格化する方針を決め、昨年末までに系統連系手続きを行っていなかった案件から適用した。

業界関係者のX氏は、「再エネ賦課金逃れを企図する事業者がいるのは事実。エネ庁の対応は歓迎するが、リース契約による電源保有は通常のことなのに、それまで除外されるとは。やり過ぎだ」と困惑する。

自己託送とは、自家発電設備を保有する需要家が送配電網を利用し別の場所にある自社の需要地に送る仕組みで、2013年に制度化された。21年には再エネ拡大を目的に規制が緩和されたが、再エネ賦課金の徴収対象外となるため、制度の趣旨と異なる目的での活用が横行していた。

具体的には、他者が開発・設置した発電設備の名義上の管理者となるだけで要件を満たそうとしていたり、送電した電気を自ら消費せずに需要場所内で複数の他者に供給したりといった事例があったという。「問題を起こしていた流通大手I社やメーカーT社の系列などを取り締まるために、巻き添えを食らった格好だ」(自家発電関係者)。制度を正しく活用したい企業にとっては、実に迷惑な話だ。

ENEOSの後継難航 経産有力OBも浮上?

国内石油・エネルギー業界の雄、ENEOSホールディングス(HD)。斉藤猛社長が女性にセクハラ行為をしたとして、昨年12月に解任された。同社は昨年8月にも当時の杉森務会長がセクハラ行為を一因に辞任した経緯があるだけに、後継をどうするかに業界内外の視線が集まる。「ENEOSに限ったことではないが、古い体質の石油業界には大なり小なり宴会などで羽目を外したり、パワハラ・セクハラ気質のある幹部が少なくない。後継選びは難航している」(業界関係者)同社幹部を巡っては、社外では仕事ができ、社交的な明るい人ばかりと評価が高い人が多い。杉森氏も経団連副会長や石油連盟会長といった要職を務め、わが国経済のために活躍した。しかし、目を内部に転じれば、営業成績至上主義、パワハラ、セクハラの『昭和の体育会的ノリ』のムードが残っているという。斉藤氏についても「元会長のW氏に目を掛けられ、普段は仕事ができてまじめな良い人だが、飲みすぎるとおかしくなることがあった」(同)との評価があった。

同社は2月末に4月からの新執行体制を発表する予定。それまでは、旧東燃ゼネラル石油出身の宮田知秀副社長が社長代行を務める。

次期社長を巡っては、「旧日石系のトップ二人が立て続けに問題を起こした後だけに、東燃ゼネラル出身の宮田氏がそのまま社長に就く可能性がある」(石油関係者)と見る向きがある一方、「社内外に漂う悪いムードを刷新するため、あえて外部から登用することも考えられる。その場合、経産省の有力OBで政治に強く、エネルギー政策通で知られるI氏の抜てきがあり得るかもしれない」(エネルギージャーナリスト)という。

余談だが、同社の数少ない女性役員であるK氏の活躍に期待する声も聞こえる。「電力やガス、再エネといった同社の新規事業分野で、実力を発揮してきた。男性社会と言っていい同社役員の中にあって精神的にきつい時期もあったようだが、優秀な人物だけに、ぜひENEOSの社内改革でも頑張ってほしい」(エネルギーアナリスト)

4月1日付で電力・ガス事業を分社化するなどグループ事業、トップ人事を含め、新体制に生まれ変わるENEOSの動向が注目される。

注目されるENEOSトップ人事

石油資源でサプライズ人事 初の「生え抜き」の意味は


自民党有力議員からの批判を受けてのことか、それとも―。石油資源開発は昨年12月15日、4月1日付で山下通郎取締役専務執行役員(1982年入社)が社長に昇格する人事を発表した。経産省出身の藤田昌宏社長は代表権のある会長に、渡辺修会長は取締役特別顧問にそれぞれ就く。55年の創業以来、主に経産省の有力OBが社長を務めてきた同社で初の生え抜きの社長誕生となるだけに、業界からは驚きの声が聞こえている。

「昨年11月10日の衆院内閣委員会で、河野太郎行政改革担当相が石油資源開発やINPEXのトップを国家公務員OBが長年にわたり務めている問題を取り上げ、株主の経産省に改善を求めた。もしかしたら、そのことが影響したのかも」(エネルギー関係者)

しかし、ただでさえOBの天下りポストが減少している中で、経産省の牙城といえる資源開発会社の社長ポストを河野氏の指摘だけで手放すとは思えず、何らかの政策的意図があるのではと勘繰る向きもある。「かねてうわさのあるINPEXとの統合に向け、いよいよ経産省が動き出したと見ることもできる」(エネルギーアナリスト)というが、果たして。

パナマ・黒海・南シナ海・紅海― 国際海運が「非常事態」の実情


【識者の視点】山田吉彦/東海大学海洋学部教授

昨年来、世界中の海運の要衝で武力衝突などが相次いでいる。

紛争地域から遠く離れた日本だが、当事者として向き合う必要がある。

国際海運の不安要素は多い。まずはパナマ運河だ。中米の雨量が少なく、通航に大きな支障が出始めたのである。パナマ運河は丘陵の上にあるトバ湖の水をダム上の水路に落とすことにより、船を浮き上がらせ、通航を可能にしている。水量不足により、パナマ当局はトバ湖の放水を制限し、船舶通行量を規制することになった。この方針は今年、さらに強化され、太平洋と大西洋を結ぶ航路は規模の縮小を余儀なくされる。パナマ運河の規制は米国への影響が大きく、LNG、LPGをはじめ、さまざまな物資輸送の障害となる。また日本へは中南米産から農産品などの輸入が滞る可能性がある。

「航行自由の原則」が脅かされている

黒海は長引くロシアとウクライナとの戦争により海戦の場となった。そのため、黒海の安全は確保されず、黒海と地中海をつなぐトルコ海峡の航行も停滞を余儀なくされ、穀物輸送などに支障をきたしている。ロシアに対する各国の非難および制裁措置は、北極海航路の開発も停滞させている。ロシアからのガス、石油の搬出も滞り、またヤマルガス田からのLNGの搬出も計画通りに行われていない。ウクライナ戦争は将来にわたり、エネルギー事情に禍根を残すことになるだろう。

南シナ海では、中国の人工島建設などによる海域支配の不当性を訴えるフィリピンの対抗措置が、中国海警局とフィリピン沿岸警備隊の衝突にまで激化している。また台湾総統選を踏まえ、台湾海峡およびバシ海峡の緊張が高まり、

東シナ海においても中国海警局、中国海軍の動向から目を離すことはできない。南シナ海は日本が輸入する石油の80%が通過する重要海域であり、LNG輸送も含め同海域における紛争が拡大すると、日本のエネルギー不足を引き起こす懸念がある。


フーシ派は「世界の敵」 実質的な戦争が勃発

特に混迷を深めているのは、中東情勢である。イスラム過激組織ハマスはイラン系組織の後ろ盾を得てミサイルなどの武器の供与を受けていると言われ、その戦闘能力は高い。イランと同調するイエメンのイスラム系武装組織フーシ派は、イエメン沖の紅海を通過する外航船を拿捕、もしくはミサイルやドローンを使い攻撃している。

フーシ派は昨年、100回以上も紅海を航行する船を脅かし、11月以降に35カ国に関わる数十隻の外航船を攻撃対象とした。日本郵船が運航する船舶が拉致されたことは記憶に新しい。フーシ派は世界の海上物流全体に敵対しているのである。

フーシ派が攻撃を繰り返すのは、紅海とアラビア海の結節点に当たるバブ・エル・マンデブ海峡であり、アラビア半島のイエメンとアフリカ大陸のジブチに挟まれた幅約37㎞ほどの海峡である。ペルシャ湾沿岸およびアジア諸国と欧州諸国をつなぐスエズ運河の導入路に当たり、年間1万70000隻ほどの外航船が通過する世界屈指の重要航路である。

欧米諸国は、フーシ派は航海の自由を脅かす世界の敵とみなしている。米国は昨年12月、10カ国以上の同意を得て、有志連合艦隊を組織し「繁栄の自由」作戦を開始した。1月、米国を中心とする有志連合艦隊は外航商船に襲撃を企てたフーシ派の舟艇を撃沈し、戦闘員が死亡している。フーシ派はその報復として、米国商船に対しミサイル攻撃を実行。業を煮やした有志連合国は、米国と英国がフーシ派の拠点を空爆した。

フーシ派は実質的にイエメンを支配する軍隊であり、その後ろ盾はイラン系組織だと考えられ、武器もミサイルをはじめ高度なものが供与されているようだ。アラビア半島では復讐の連鎖が起こり、イエメンを舞台に実質的な戦争が勃発したのである。

九電と公取委が異例の訴訟 課徴金減免巡り見解対立


独占禁止法違反とされた行為に関し調査段階で「自主申告」する課徴金減免(リーニエンシー)制度とは何なのか。その意味を問う裁判が東京地裁で始まった。企業向け電力供給で関西電力とカルテルを結んでいたとして公正取引委員会から課徴金などの処分を受けた九州電力は、処分の取り消しを求めて提訴。昨年12月14日の第1回口頭弁論で「カルテルの合意はなかった」と主張した。課徴金減免制度を使いながら、その根拠となる事実関係を否定するという異例の展開だ。

九電側によれば、「違反行為を自主申告したのではなく、調査協力する旨を申告したもの」とのこと。これに対し、公取委側は20日の会見で「課徴金減免制度は自らが関与したカルテルについて、違反内容を自主報告した場合に課徴金が減免されるという当方の説明に基づき、その認識で申請されるもの」との見解を示した。

「カルテルを裏付ける事実や証拠がなく合意は存在しない」と、九電の主張は一貫している。であれば、なぜ課徴金減免制度が適用されたのか。前例なき訴訟の行方が注目される。

紅海緊張が石油供給に影響 値動きには異変なき理由


紅海周辺でのフーシ派による船舶への攻撃が相次ぎ、緊張した状況が続いている。スエズ運河・紅海は欧州と中東・アジア太平洋を結ぶ海上輸送の動脈。国際エネルギー機関によれば、昨年の世界石油海上輸送量の約1割、日量700万バレル強がこの水路を経由した。アジア方面への南下が同約400万バレル。大半はロシア産で主にインドと中国に向かう。残る300万バレルは欧州向けで、原油よりも石油製品が多い。

つまりこの水路は、世界経済において重要な石油輸送上の要衝なのだ。フーシ派による無差別な商船攻撃は、いずれの国も許容できない。大手海運会社やシェル、BPなどは紅海での運航停止を表明。欧州向け石油供給への影響が懸念されるが、1月中旬現在、欧州原油・石油製品の値動きに異変は生じていない。これは米国がフーシ派の攻撃に対処しており、他国を巻き込む大規模紛争には発展しないとの見通しのためとみられる。

紅海はエネルギー輸送の要衝

米国の石油アナリストは「最も案ずべきは、長期化するイスラエルのガザ侵攻が憎悪の温床になり、中東に衝動的な破壊活動の連鎖が生じる中で、米国が対応能力を喪失する事態。トランプ前大統領が今年再選されれば、その危険性は一気に高まる」としている。

スマメインフラを活用した生活支援 自治体連携で安心安全を実証


【四国電力送配電】

地方では過疎化や高齢化に伴うさまざまな社会課題が深刻化している。

スマートメーターのインフラがそんな課題の解決に向けて役割を果たそうとしている。

高知県高知市内から車で1時間ほどの山間に、人口5000人に満たない小さな町、仁淀川町がある。町内には四万十川とならぶ清流の仁淀川が流れ、河川の水質はその透明度から、「仁淀ブルー」と呼ばれており、この絶景を求めて多くの観光客が訪れる。ただ観光名所とは言え、他の地方の山間エリアと同様、過疎化や高齢化といった課題を抱えている。そんな仁淀川町で、地方における社会課題の解決に向けた実証が四国電力送配電と仁淀川町の連携のもと、昨年12月から行われている。具体的には、四国電力送配電が整備してきたスマートメーター(スマメ)のインフラを使って地域住民の安心や安全をサポートするものだ。

スマメは大手電力各社(現一般送配電事業者)が、国内の全需要家を対象に導入を進めてきたもの。旧式メーターとは異なり、それまで人の手によって行われてきた検針に関わる業務をIoTの技術によって行うことで効率化するものだ。日々消費する電力量データを、通信によって30分間隔で自動的に取得する。大手電力各社(一般送配電事業者)は、スマメ設置と併せて通信インフラも整備してきた。今回の実証はこの通信インフラを活用するものだ。四国電力送配電企画部の好原茂DX推進グループリーダーは、今回の仕組みを次のように説明する。

「まず各世帯に電子式の水道メーターを設置する。そして、メーターからデータを遠隔取得する際にスマメの通信インフラを活用する。水の出しっぱなしや何日間も水道が使われていない、といったデータは異常値として検知し、警報を発報して、見守りにつなげていく」

実証のスキーム図

この仕組みは住宅用火災警報器とシステム連携していることも特長である。無線通信端末を設置して、水道メーターと同様に遠隔でデータを取得し、異常時には警報として発報する。

実証は仁淀川町の別枝上地区と呼ぶエリアに住む全18世帯を対象に2024年3月まで実証する。単純な水道漏れによる異常のほか、取得するデータに基づき警報として発報するケースはどのようなものになるのか、実証を通じて警報内容の精度を高めていく。


「安心安全の暮らしを」 町の思いを具現化する

そもそも、なぜ仁淀川町で今回の実証が始まったのか。仁淀川町企画振興課の川村強係長は、こう経緯を振り返る。

「21年の冬、今回の実証地区の独居老人宅で火災事故が起きて尊い命を失った。その後、地区からの要望もあり、町としても『安全安心の生活をサポートしたい』という強い思いを抱く中、四国電力送配電から提案をもらった」。そこからは町長の後押しもあり、急ピッチでシステム構築を進めてきた。一方で、今回の実証では「地区の住民の方々の協力や理解があって初めて成り立つもの」と、川村氏、四国電力送配電の好原氏は口をそろえる。

警報は、仁淀川町役場側だけでなく近隣住民にも発報する。役場側が警報を受け取ったとしても、すぐに現場に駆け付けることができるとは限らない。近隣の住民同士が連携したほうが、迅速で確実に対応できるケースもある。そうした意味で、「住民の方々には感謝している」と川村氏は話す。3月まで続ける実証の中で、運用の仕組みを磨いていく。

㊤新たに取り付けた電子式水道メーター
㊦火災警報器とも連携している

容量拠出金で需要家の負担増も 理解を得る不断の努力が重要


【論点】制度変更と電気料金〈第1回〉/椎橋 航一郎 EYストラテジー&コンサルティング

2024年度は、電力システムを巡るさまざまな制度が変わる。需要家が負担する電気料金にどう影響するのか。

4回にわたって有識者が解説する。1回目はいよいよ支払いが始まる容量拠出金についてだ。

電力小売りの全面自由化以降、再生可能エネルギー導入拡大による卸電力市場の取引拡大や、限界費用での玉出しによる市場価格の低下などにより電源の投資回収の不確実性が拡大し、中長期的な供給力不足に陥り、需給がひっ迫する期間にわたり電気料金が高止まりする可能性が顕在化した。

電源投資が適切なタイミングで実施され、あらかじめ必要な供給力を確保すること、および卸電力市場価格の安定化を実現することで、電気事業者の安定した事業運営を可能とするとともに、電気料金の安定化により需要家にもメリットをもたらすことを目的に2020年度、容量市場が導入された。

電気事業法上、小売電気事業者は供給電力量の確保のみならず、中長期的に供給能力を確保する義務が課されており、容量市場は小売事業者の供給能力確保義務を達成するための手段と位置付けられる。国全体で必要な供給力を、市場管理者である電力広域的運営推進機関が容量市場を通じて一括確保をすることとなり、広域機関は「容量拠出金」として小売事業者などからその費用を徴収する。そして、24年度より小売事業者の拠出金負担が始まる。

2024年度各エリアの拠出金総額
出所:電力広域的運営推進機関


負担増は2~3円/kW時 最大需要時の負荷率が左右

小売事業者が24年度に負担する容量拠出⾦総額約1兆4500億円は、需要に応じてエリアごとに振り分けられる。昨年末に各小売事業者に対して24年度の容量拠出金の仮請求額が通知され、7月以降正式な請求書が発行される見込みである(図表参照)。拠出金負担は、一般送配電事業者の供給エリアごとに、そのエリアの最大需要発生時における各小売事業者のkW比率で按分計算する。kW比率は、実需給年度の前年度の夏季ピークと冬季ピークの実績などを考慮して決定される。

すなわち、エリアの最大需要発生時において、小売需要kWが高い小売電気事業者は拠出金負担が重くなり、逆にエリアの最大需要発生時にうまく販売先の需要家の電力の使い方をマネージでき、小売需要kWを抑えた小売事業者は軽くなる仕組みだ。エリアの最大需要発生時の各小売事業者の需要kWや年間の負荷率は各社各様であり、容量拠出金の負担水準について一概に示すことは困難であるが、24年度については2~3円/kW時前後となっているようである。

この負担額は、発電事業者との相対契約において、発電所の運営維持費などを既に小売事業者が負担している場合、既存契約との関係で一部相殺される可能性もある。一方、卸電力市場からの調達依存度が高い小売事業者にとっては増分コストとして経営へのインパクトが大きいだろう。

なお、発電事業者と小売事業者の相対契約において、発電事業者は相対契約による収入に加え、容量市場で落札すれば、固定費相当の収入を追加的に得ることができるため、小売事業者に請求する電源調達料金を相応に低下させる可能性も考え得る。

【マーケット情報/2月2日】原油反落、需要減少に懸念強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、前週から一転、主要指標が軒並み下落。米国で石油製品需要が弱まるとの懸念が台頭した。

米国の1月雇用統計が好調だったことから、米連邦準備理事会の利下げ踏切に歯止めがかかるとの見方が強まり、原油を買う動きが弱まった。また、同国では、寒波の影響で原油生産が低調だったにもかかわらず、在庫は増加を示しており、供給余剰感が強まったことも、下方圧力として働いた。

国際通貨基金が2日に発表した中国経済の年次報告で、同国の2024年の経済成長率(GDP)を4.6%としたことも、原油相場への重荷となった。中国の2023年のGDPは5.2%だったことから、経済成長が減速しているとの見方が強まった。

ただ、中東原油の下落幅は、欧米の先物価格と比べると小幅だ。イエメンを拠点とする武装集団フーシ派による紅海を航行する船舶への攻撃が激化しており、中東産原油の供給に対する不安が根強いことが下落をある程度抑制した。


【2月2日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=72.28ドル(前週比5.73ドル安)、ブレント先物(ICE)=77.33ドル(前週比6.22ドル安)、オマーン先物(DME)=78.99ドル(前週比2.57ドル安)、ドバイ現物(Argus)=78.81ドル(前週比2.78ドル安)

柏崎刈羽「運転禁止」解除 再稼働議論の舞台は県へ


12年ぶりの再稼働に向けて一歩前進だ。原子力規制員会は昨年12月27日、東京電力柏崎刈羽原発に出していた核燃料の移動禁止措置(事実上の運転禁止命令)の解除を正式決定した。

現地調査後、取材に応じる山中委員長(12月11日)

原子力規制庁は柏崎市の要望で今年1月22日、追加検査の結果などの説明会を市内で開催。東電はテロ対策の改善状況を報告する説明会を28日に刈羽村、30日に柏崎市でそれぞれ行った。

今後は経済効果の試算や新潟県技術委員会での議論、広域避難計画の策定などを経て、花角英世知事に「再稼働容認」の判断が委ねられる。関係者によると、経産省幹部が年内の再稼働実現をちらつかせる中、政権幹部の県庁訪問など国からの表立った要請は行われるのか、県民の意思確認のため「出直し知事選」の実施はあるのか。今後の注目点は多い。

地元同意の獲得に向け、立地自治体の関係者は「柏崎刈羽の電気を使う首都圏の経済界からの要望があってもいい」と指摘。地元からは「県議会の6月定例会がヤマ場か」という声が漏れ聞こえるが、「地元の皆さんのペースが早すぎる」(県政関係者)と再稼働への熱意は県内でも濃淡が見られる。ともあれ、再稼働議論のボールは新潟県に投げられた。

環境貢献や震災対応で実績 ガス業界は誇りと自信を


【業界紙の目】石井義庸/ガスエネルギー新聞 編集部長デスク

COP28での「化石燃料廃止」議論は、化石燃料の価値を改めて考える機会になった。

公害克服・低炭素化に貢献した都市ガス業界はもっと誇りと自信を持つべきだ。

昨夏、長めの休暇をとってカナダに旅行し、ユーコン川をカヌーで下る6日間のツアーに参加した。現地のツアー会社のガイド1人が1隻、参加者8人は2人乗りのカナディアンカヌー4隻に分乗、合計5隻で約300㎞を漕ぎ切った。携帯電話は通じない、電気もない。キャンプは許可されたサイトだけ。ほとんどの日のトイレはシャベルで掘った穴だ。そうした旅の中で、LPガスに大変お世話になった。

6日間9人分の食料、飲み水、テントなどと共に、LPガスの小型シリンダー(ボンベ)と調理器具をカヌーで分担して運んだ。キャンプ地では、ガイドの若者が手慣れた様子で、ガスとたき火を併用して調理してくれた。何時間も漕いできた体の疲れが吹き飛ぶほど、うまいキャンプ飯だった。

私は都市ガスの新聞記者だが、キャンプ飯の燃料としてLPガスは他の追随を許さないと本当に思う。キャンプ用のカートリッジ式ボンベや、カセットコンロ用の小型ボンベなど選択肢が多い。気軽に入手でき、取り扱いが楽で、火力は十分。値段もそこそこだ。持っていれば災害で電気やガスの供給がストップしても安心。これもLPガス固有の価値だ。

昨年の気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で「化石燃料廃止」が議論になったことから、化石燃料の価値について改めて考えさせられた。そこで個人的なキャンプ体験を思い出した。

6日間の川下りで使った小型LPガスなどの調理用具

人材確保を阻む広大な過疎 北海道の「自然との戦い」


【電力事業の現場力】北海道電力労働組合

安定供給を維持すべく、現場は厳しい自然に立ち向かう。

万が一の事故に備え、冬場は特に気の抜けない日々が続く。

 「週末の大雪に備えて自宅待機の要請が……」

取材に出向いた金曜日の夕刻、北海道内各地に配属された北海道電力ネットワークの社員に自宅待機を要請するメールが送られた。各地の社員は札幌市など都市部からの単身赴任者が少なくないが、冬場はこうした要請で帰省など週末の予定をキャンセルせざるを得ないケースがある。

送配電部門の場合、冬場の停電事故復旧は自然との戦いだ。第一、吹雪などで事故現場にたどり着けるかどうかも分からない。それでも、復旧のためにはどうにか現場に足を運ぶ必要がある。時には資材や機材を抱えながら雪上車に乗り、さらに細い道ではスノーモービル、いざとなればスキーや徒歩で現場に向かう。吹雪で目的地の方向が分からなくなると、雪を掘り、風よけをつくって耐えしのぐほかない。到着後も長靴を履き、防寒着で着膨れした状態で鉄塔や電柱に登るのは一苦労だ。

泊原子力発電所での災害対応(参集)訓練

冬場の通常業務としては、鉄塔や電柱、がいし、電線に積もった雪を落とす「冠雪落とし」がある。人口密集地では電気設備から落雪し、住民や家屋に損害を及ぼす危険も。2022年12月には紋別市内の送電線の鉄塔が、大きな着雪が発達する非常にまれな気象条件と、着雪量のアンバランスによる過大な張力差が重なったことにより倒壊し、オホーツク地方で大規模な停電が発生した。

紋別市内の送電線の鉄塔が倒壊(2022年12月)

北電の原子力や水力の現場でも、寒冷地ならではの苦労がある。積雪や寒さなどの厳しい環境下での事故対応訓練や、いかなる状況でも社宅や寮などから参集できる訓練も実施している。また水力ではダムの取水口に氷雪が詰まるのを防ぐため、重機で取り除く作業が必要となる。


度重なる料金値上げ 魅力ある職場の難しさ

北海道はデータセンターの立地や国策半導体メーカー「ラピダス」の開業など、電力需要の拡大が見込まれている。さらに洋上風力の設置や海底直流送電の整備など北電グループが対応する範囲は広がるが、頭を悩ませるのが人材の確保だ。その要因の一つに「広大過疎」がある。

北海道は札幌市を除くと、全国の他地域に比べて人口減少のスピードが速い。中にはスーパーや病院が存在しない自治体もある。広大な土地での転勤に拒否感を持つ若者も少なくないといい、働く環境づくりが課題だ。

北電の販売部門も正念場を迎えている。昨年6月に規制料金の値上げを実施したが、これは11年の東日本大震災以降、旧一般電気事業者で最多の3度目。過去2度の値上げにより、規制料金は全国でも高い水準となっていた。22年には燃料費調整額が上限を超過し、電気を売れば売るほど経営を圧迫する状況に。販売部門のモチベーションに影響しかねなかった。

賃上げが叫ばれる中で、電力業界は値上げの度に経営効率化を求められている。だが、給与面を含めて魅力ある職場でなければ、人材確保は困難だ。北海道電力労働組合の山下則和本部執行委員長は「工事などを担う協力会社に人が集まらず、最悪の場合は電気が供給できなくなる可能性もある。危機感は大きい」と話す。

豪雪地で欠かせない「冠雪落とし」

人々の生活に不可欠な携帯電話や車などは機能が向上することもあり、製品価格が上がっても受け入れられる傾向がある。一方、電気は「あって当たり前」で、値上げへの反発が大きい。しかし、「当たり前」の裏には現場の努力や人手不足の現実があることを忘れてはならない。