【ガス】東南・南アジアが重要に 亜流が本流になるか


【業界スクランブル/ガス】

2023年のLNG輸入量のトップは中国で7000万t超、次いで日本が6500万t前後と、欧州が輸入量を伸ばす中で、東アジアは依然として世界の5割超を占めている。ところで、40年以降はどうなるだろうか。JOGMEC資料によると、東アジアに代わり東南アジア・南アジアの両地域が合わせて5割を占めるLNGデマンドセンターとなる見通しだ。

両地域の国々は、パリ協定に基づき30年までの温暖化ガス排出削減目標を定めている。例えば、インドは05年比45%削減、フィリピンは10年比75%削減、ベトナムは14年比27%削減―。しかし現実を見ると、一次エネルギーにおける石炭割合がインド、フィリピン、ベトナムでは50%以上を占めるなど、世界の中で遅れが目立つ。

各国政府は再エネ導入に向けて積極的にかじを切っているが、5%以上の経済成長が進む中で電力不足が深刻となり、安定供給と脱炭素の両方を同時に満たす必要が出てきている。特に、データ処理量が急増する中、データセンター向けに安定した質の高い電気の供給が必要となるため、再エネに主軸を置くことは難しい状況にある。

必然的に天然ガス利用ニーズが高まってくるわけだが、現在の一次エネに占める天然ガスの割合はインド、フィリピン、ベトナムで6%台とのりしろが大きい。最近は東南・南アジアにおける日系企業の地盤沈下が目立ってきたとの話もあるが、都市ガス事業者にとっては半世紀に及ぶLNGの受入・利用技術・ノウハウを活用する絶好の機会となろう。今まで亜流だった東南・南アジア戦略が本流になる時代が到来するのか。(G)

シェブロンに見る人材獲得戦略


【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

若者の「化石燃料離れ」が深刻化している。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、石油業界は高水準な報酬であるにもかかわらず、石油工学を専攻する学生数が2014年以来75%も減少したという。また、英紙フィナンシャル・タイムズは、ケンブリッジやオックスフォードなど名門大学を中心とした教育機関60校が学生の意見を反映し、大学と取引のある銀行に化石燃料事業への資金提供を避けるよう要請したと伝えた。

このような状況にある中、まさに化石燃料の権化のようなイメージすらある米オイルメジャー、シェブロンの人材戦略が興味深い。まず、その採用ページを見てみると、どこを見渡しても「石油」という文言がない。まるでテック企業の先進性が感じられるようなデザインとなっている。

そして、採用ページから応募する際は、エントリーシートや学歴などの入力は不要。どんな形式の履歴書でも、アップロードするだけで自身に最適なポジションが、ものの数秒でリスト表示される仕組みとなっている。学歴や職歴、知的障がい、性別・ジェンダーによって異なる待遇をあえて公開しないことで、応募者間での差別・劣等感を生まないよう配慮されていることがうかがえる。

シェブロンは、フォーブス誌のWorld’s Best Employers(2023)において、オイルメジャー企業の最高ランクに選出された。この結果は、若者の化石燃料離れや価値観の変化に対応し、多様でインクルーシブな職場環境の整備を進めてきた努力の賜物といえよう。若者世代の価値観が大きく変化する中、既存のエネルギー事業者における人材獲得はますます難しくなっている。脱炭素戦略とは、エネルギー事業者の生き残りをかけた人材戦略でもあることを認識する必要があろう。

(大場紀章/ポスト石油戦略研究所代表)

【新電力】中長期的な電源投資 予見性の担保が条件


【業界スクランブル/新電力】

経産省の電力・ガス基本政策小委員会で、「電力システム改革の検証」が始まった。改革開始から約10年で、振り返りに適切なタイミングということなのだろう。

小売りの部分自由化開始からは四半世紀近く経つが、基本的な目的意識は「電力供給の効率性と安定性の両立」であり、「自由化と公益的課題の両立」を標榜していた自由化当初からほとんど変わっていない。

四半世紀にわたり常に制度の変革を検討し、いったん完遂(貫徹?)となったことも数度あったが、問題が全て解決したわけでもないし、これからも改革は続くようだ。

長年電気事業に携わってきた身からすると「そろそろ予見性が確保できる制度を確定させてほしい」という思いもあるが、実施して初めて浮き彫りになった課題がそれだけ多く、事業環境の変化も大きかったということだろう。

予見性の確保という点で、古くて新しい、しかも注目度が上昇しているのが、発電事業者に対するファイナンスの問題である。再エネに関してはFIT制度によって予見性が高く、ファイナンスが付きやすい状況にあったが、系統維持に必要な調整力や慣性力を持った火力電源の容量は大きく減少し、安定電源である原子力の新設は全く進まない。

始まった長期脱炭素電源オークションには期待がかかるが、果たして電源に対するファイナンスを担保する制度になり得るのかどうか。電力の安定供給、電力市場の安定化に必須なのは、電源投資の十分性である。中長期的に電源投資の予見性が確保されるような制度、予見性やリスクを適正に評価する金融機関の姿勢が求められる。(K)

設立の理念はどこへ行った IEAの「変質」を痛烈批判


【ワールドワイド/環境】

今年は国際エネルギー機関(IEA)の設立50周年にあたる。

IEAはエネルギー市場などを精査し、緊急事態への対応を指揮することで、エネルギー安全保障の強化を目指す国際機関として設立された。しかしパリ協定の成立、とりわけ2021年の米バイデン政権発足の影響により、近年のIEAは脱炭素化を優先している。典型例が21年に策定された50年ネット・ゼロ・エミッション(NZE)シナリオだ。世界が50年NZEを達成するためのエネルギー構成はどうあるべきかという逆算シナリオであり、石油・天然ガスの新たな上流投資は不要だという。これまでのIEAが、石油・天然ガスの上流投資の停滞が起きると将来の需給ひっ迫を招くと警鐘を鳴らしてきたのとは対照的である。

こうしたIEAの「変質」に対する批判も強い。ブッシュ政権時代にホワイトハウスのエネルギー担当特別補佐官であったボブ・マクナリー氏は2月12日付のウォール・ストリート・ジャーナルに「環境政治がエネルギーの番犬を去勢している」という寄稿を提出した。同氏の論旨は次のとおりである。

近年、IEAは政治の圧力に屈し、エネ安保の使命を放棄している。20年、IEAは活動家からの圧力に屈し、現政策がそのまま継続すれば、石油・ガスの需要が今後も増大するシナリオ公表を中止し、石油・ガス消費のピークのタイミングとコストに関する希望的観測が中心シナリオになっている。

石油・ガス需要がまもなくピークに達するという誤解を世界に与えることは、特定の政府や活動家の嗜好に沿うかもしれないが、新しい油田やガス田へのさらなる投資は必要ないという神話を生み、リスクをもたらす。バイデン政権の新規LNGプロジェクト申請手続きの停止はIEAの予測を根拠としている。

政治的意図に影響された公式予測に基づき、石油やガスへの投資を制限・禁止する決定は、エネルギーの自虐行為と等しい。エネルギー危機から消費者を守るために設立されたIEAが、次のエネルギー危機を招来する手助けをしている。

マクナリー氏の考えは共和党のそれと同じであり、トランプ第二期政権が誕生した場合、IEAが二大勢力である米国と欧州間で厳しい立場になるだろう。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【コラム/4月19日】福島事故の真相探索 第2話


石川迪夫

第2話 覆される炉心溶融の「定説」

壁面損傷の理由を探る

写真Bは、ペデスタルの中央にカメラを置き、事故がつくったペデスタル壁の損傷、空洞を撮影した写真である。真ん中に写っている林立した白くて短い棒は、空洞に残る鉄筋の残骸である。壁のコンクリートは、全面にわたって高さ1mくらいの空洞が穿たれたように掘られ、中の砂利は流出して空洞となり、鉄筋だけが残っている。これまで見たことがないコンクリートの壊れ方で、周囲に存在していた砂利は一体どこへ行ったのか、まだ分っていない。なお、写真Bの左下にある大きく四角い物体は不明である。

写真B ペデスタル内部空洞
提供:IRID 画像処理:東京電力ホールディングス

損傷した壁の高さは2mともいう。だが、林立した鉄筋の長さから見て2mもあるとは見えない。しかし、撮影関係者の全員が、ペデスタル壁の破損は壁全面にわたってほぼ一様であるとの話なので、破損の高さは1~2mくらいと、あいまいなまま話を進める。

映像の説明はこれで終わりだが、壁の破壊理由について少し考察を述べておこう。

破壊された壁の高さが全面にわたってほぼ一様であるとの話から推して、破壊の原因は爆発とか叩き壊したといった物理的な力による動的な破壊ではなく、酸やアルカリの浸蝕のように液体が関与した静かな破壊に見える。

だが、格納容器の中には酸やアルカリといった薬品類は一切ない。また、1号機の事故では原子炉の冷却水は全て蒸発して、12日午前5時まで格納容器の中に水は一滴も入ってない。原子炉冷却水が行った仕事と言えば、原子炉で蒸発した蒸気が格納容器のウエットウエルに入って水を蒸発させ、その蒸気で格納容器圧力を6気圧程に上昇させたことだけである。原子炉の冷却水が、ペデスタルの壁の損傷に関与したとは考えられない。

第3話以降に詳しく述べるが、この損傷の原因は、12日午前5時46分から始まった炉心注水がペデスタル床面に溜まったところに炉心から高温の燃料棒が落下して、被覆管と水との発熱反応によって壁面が損傷したものだ。このことを覚えておいてもらって次の説明に進む。

制御棒ハウジングの落下状況

写真C-1C-2は、制御棒駆動機構ハウジングの落下写真である。

1号機の制御棒駆動機構は約100本というが、ペデスタル内に落下が確認されているハウジングは、壁周辺の十数体に過ぎない。炉心中央部に存在していた制御棒並びに関連の部材の残骸はまだ確認されていないが、高温の炉心燃料や溶融した炉内構造物の下落に伴って、その熱で溶融されていったのではないかと思われる。だがその証明は、後日を待たねばならない。

壁周辺に立った状態で撮影された十数体のハウジングは、一本一本が別個に落下したと思われる写真である。これとは別に、3本のハウジングが集団で落下したのではないかと疑われる一組の写真が撮影されている。この写真は床上に転がっているのか、途中の位置に引っかかっているのかが不明だが、このように落下状況が全く違っていると考えられる写真が、二枚残されている。

写真C―1は、制御棒ハウジングが一本ずつ別個に落下したと見られる写真である。ハウジング背後にある黒色部分はペデスタルの壁面と註釈記載があるので、落下したハウジングは床上に転がっているのではなく、壁にもたれて立っている状態である。

一本々々の別個の落下ではなく、数本が一緒になって落下し、落下の衝撃でバラバラに倒れたとも考えられるが、ここでは一本ずつの落下と見て話を進める。

なお、制御棒駆動機構の長さは4m程である。ペデスタルの内径は5mであるから、制御棒に取ってペデスタルは広い部屋ではなく、寸が詰まって転がり難い空間である.これがハウジングが立っている原因であるのかも知れない。

写真C-1 制御棒ハウジングの落下
提供:IRID

写真C-2は、3本のハウジングが一体となって集団で落下したと見られる写真である。ハウジングの全長が写っていないので、正確な判断とは言えないが、ハウジングの底を形成する盲フランジ3枚が全て同じ方向を向き、かつ同列に並んでいることに加えて、3本のハウジングの間隔が平行してほぼ同じであるように見えることから、3本のハウジンングは体形を崩さず一体となって落下したと思われるのである。

写真C-2 3本一組で落下したとみられる制御棒ハウジング
提供:IRID

写真が示した「動画」の誤り

写真C-1写真C-2の、制御棒ハウジングの落下状態が違っていることは、一目瞭然であろう。もし、写真C-2の落下状態が事実とすれば、液化した溶融炉心が圧力容器を流れ落ちて容器の底を溶かすという、これまで言い伝えられてきた炉心溶融についての定説が崩れる。圧力容器の底が溶融すれば、溶けた場所から制御棒は一本ずつ脱落していくはずだから、3本が形体を崩さず一体となって落下するという説明はできなくなる。

仮に底板が完全に溶融していない状態で3本一組となって落下したと仮定しても、圧力容器の底からペデスタルの床上までは高さは8ⅿも離れているから、高温で柔らかくなった底板が落下の衝撃に耐えることは考えられないから、3体一組の形状が保たれた状態で残るということは考え難いのである。

3本一組の制御棒の落下写真は、上述のように、従来の炉心溶融についての定説を覆す可能性を持っている。この問題は第3話でさらに詳しく述べるが、溶融炉心が流れて落下するというこれまでの動画は、輻射熱の大きさから考えても誤りであると、僕には思える。

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いしかわ・みちお 東京大学工学部卒。1957年日本原子力研究所(当時)入所。北海道大学教授、日本原子力技術協会(当時)理事長・最高顧問などを歴任。

・福島事故の真相探索~はじめに~

・福島事故の真相探索 第1話

【電力】「悪役」の大手電力 問われる「社会との対話」


【業界スクランブル/電力】

去る1月1日に能登半島地震が発生。東日本大震災以来の原子力発電所近傍での大災害に、全国の注目が集まった。北陸電力は、志賀原子力発電所の状況を丁寧に公表・更新したが、メディアは、災害時に最も重要な「安全上、重大な問題の有無」を正面から報道せず、変圧器の油漏れや、敷地には遠く及ばない津波到達の見出しで重大事故を連想させ、さらに北陸電力の情報更新に対し「また訂正」とやゆしたのである。

大手電力は、すっかり社会の悪役になった感がある。メディアも大手電力を叩く記事なら、事実確認が多少乱暴でも通せるという感覚ではないか。規制料金値上げの際も、燃料費調整の上限を超える燃料価格の高騰分を負担していることや、今年度の利益の多くが「期ズレ」影響であることが、ほとんど伝えられなかった。国民の信頼を失ったことで支払っている代償はいかほどであろうか。「メディアが……」「国が……」と嘆いても、最後は経営者の責任だ。

振り返れば、東日本大震災を境に電気事業の経営環境が激変したのに対して、大手電力の「社会との対話」はどれだけ進化したであろうか。設備に対する気前の良さに比して経営資源の投入はどうか。原子力や料金制度などの情報提供は国の仕事と思っていないか。広報部門に丸投げしていないか。いまだに視線は「供給エリア」に集中していないか。「野党」(政党ではない)との対話の扉を閉ざしていないか。SNSの活用を真剣にやっているか。トップは「顔の見える」スポークスマンの役割を果たしているか。

結局のところ、自社のサポーターは何人いるのか―が大事なのだ。(M)

バイデン政権が後押し ヒートポンプの導入加速


【ワールドワイド/経営】

バイデン政権は低炭素でエネルギー効率の高い住宅・建物の普及を目指し、従来の暖房システムに比べて温室効果ガス(GHG)排出量を削減、かつエネルギー効率が高いヒートポンプの導入を支援している。米国エネルギー省(DOE)によれば、電気式のヒートポンプの場合、最も効率的なガス式暖房と比較して建物部門からのGHG排出量を最大50%削減、2030年までには最大75%を削減する可能性がある。またヒートポンプ給湯器の場合、従来の給湯器に比べてエネルギー効率が2~3倍高いこともあり、一般家庭や事業者のエネルギーコストを下げる効果もあると期待している。米国空調暖房冷凍工業会(AHRI)によれば、電気式ヒートポンプの年間導入量は毎年増加しており、昨年にはガス式暖房よりも21%多い360万台が導入された。

ヒートポンプ導入に向けて、DOEはインフレ抑制法(IRA)に基づき、昨年7月から家庭のエネルギー効率化と電化を促進するためのエネルギー補助金プログラムを開始した。これは各州を通じて85億ドルを拠出し、低所得世帯を含む一般家庭の電気式ヒートポンプへの切り替えを支援するものだ。エネルギーコストにして年間最大10億ドルの節減を見込む。さらに、今年2月にはヒートポンプ部品の国内製造を支援するために、IRAに基づき6300万ドルの拠出を発表した。

政権の後押しを受けて、各州の動きが加速している。ニューヨーク州やカリフォルニア州などの9州は2月、GHG削減に向けて住宅の暖房、冷房、給湯需要に電気式ヒートポンプを導入する共同協定に署名した。同協定は30年までに参加州における住宅暖房、空調、給湯機器の販売台数の65%、40年までに90%をヒートポンプにすることを目標としている。

現在、1戸当たりのヒートポンプの導入コストは4000~8000ドルであり、税額控除(2000ドル)や州の補助金を活用することで切り替えは以前よりも安価になった。しかし、米国立再生可能エネルギー研究所は一般家庭が電気式ヒートポンプに切り替える場合、年間エネルギーコストを62〜95%削減するというメリットがある一方、同等サイズの空調機器よりも高価であると指摘する。またIRAの税額控除の期限は33年までと限定的であるため、さらなる普及拡大に向けては追加的な支援策を検討する必要がある。

(長江 翼/海外電力調査会・調査第一部)

石油禁輸から1年余り 対露制裁の効果はいかに


【ワールドワイド/資源】

ロシア産石油はウクライナ侵攻直後からディスカウント無しでは国際市場で売れない状況に追い込まれ、2022年12月にはついにG7による原油禁輸、昨年2月には石油製品禁輸が発動された。

また、同時に実装された制裁史上初の試みであるロシア産石油に対する価格上限の設定は、制裁の抜け道となっている大国・中国やインドを引き込むことに成功した点で重要だ。G7が石油禁輸をしたとしても、制裁に参加しない「友好国」であるインド、トルコ、中国などの諸国はロシア産石油の購入を続けることが予想された。そこで、西側の海上輸送サービス提供の実質的な制限によって、市場におけるロシア産石油のリスクプレミアムを上げることで「友好国」がロシアの石油会社を買い叩き、ディスカウントされたロシア産石油を彼らが享受できるシステムを構築。「友好国」を西側制裁設計に組み込むことに成功した。

昨年のロシアの原油輸出量は21年に比べ14%、22年に比べ10%も増加した。他方、ロシア産原油価格(ウラルブレンド)は21年に比べ13%、22年に比べ18%下落した。試算される昨年の原油収入は1120億ドルとなり、21年に比べマイナス31%、22年に比べマイナス18%も減少している。ロシアがウクライナへ侵攻せず、国際原油価格を享受できたと仮定した場合では、22年は得られるべき収入より4

30億ドル(約6・5兆円)減少、昨年は380億ドル(約5・7兆円)減少している。輸出量が増加したにもかかわらず、油価の下落とディカウントにさらされ、結果として収入は大きく減少した。

この結果に対して、ディスカウントされているとはいえ、ロシアは依然4分の3もの収益を維持していると見るか、6兆円前後もの収入を削ぐことができたと評価すべきか。

ロシア産原油の国際市場におけるシェアが約5%を占める現状では、ロシア産原油を締め出し、収入をゼロとすることは国際市場に大きな混乱と価格高騰をもたらす。そこで欧米の制裁はロシア産石油フローの維持を認める制度設計になっており、インド、中国やトルコを巻き込むことでロシアの収入を断って行くことを目指している。そのような観点から見れば、6兆円もの収入が断たれているということは、制裁の実効性・効果として評価できる結果と言えるだろう。

(原田大輔/エネルギー・金属鉱物資源機構 調査部調査課長)

BEVは地球環境を救うか 科学技術的観点からの検証


【モビリティ社会の未来像】古川 修/電動モビリティシステム専門職大学教授・学長上席補佐

BEV(バッテリーに蓄えられた電気によってのみ駆動走行できる自動車)のビジネスが失速している、という論評が多く見られるようになっている。この市場動向が実際にどうなのかという議論は後回しにして、まずは、より本質的な技術面でのEVの地球環境に及ぼす影響を科学的に評価してみよう。

結論を最初に言ってしまうと、BEVは地球環境の保全にほとんど寄与していない。HEV(ハイブリッド車。内燃機関と電動モーターを併用している自動車)と比較して、二酸化炭素の排出量がはるかに少ないと言われているが、科学技術の真理に反している。その理由は次の3点である。

1.バッテリーに蓄積される電気は化石燃料などを燃やして得られるものであるから、発電の工程で二酸化炭素が排出される

2.バッテリーを製造するプロセスで多量の二酸化炭素が排出される

3.バッテリーを廃却する際に環境汚染物質の処理が難しい

理由1は、“Well to Wheel”という表現でよく評価されている。これは、「井戸から車輪」という意味である。つまり、採取した原油のエネルギーが自動車の車輪の駆動に使われるまでのプロセスを全て考慮して、その過程での二酸化炭素の総合的な排出量を評価する手法を言う。

Well to Wheelでの炭酸ガスの総合排出量の比較
出典:「総合効率とGHG排出の分析報告書」(財団法人日本自動車研究所、2011年3月)をもとに資源エネルギー庁作成、の抜粋

図に資源エネルギー庁が公表しているWell to Wheelでの各種動力源を持った自動車の炭酸ガス総合排出量の比較を示す。この図から、1km走行当たりの炭酸ガス排出量は、BEVで77g、HEVで95gとなっていて、東日本大震災以降の電源構成ではBEVはHEVと比べて17.1%の削減量となっている。すなわち、BEVが炭酸ガスを全く排出しないクリーンな乗り物であるという考えは、まったくの妄想であり、HEVと2割も変わらないのが事実である。

理由2、3については、LCA (ライフ・サイクル・アセスメント)という、製品の製造から廃却までを対象とした環境負荷の総量を、定量的に評価する考え方に基づいている。

製造時にリチウムイオンバッテリーは大量の炭酸ガスを放出する。マツダからは製造時のBEVの炭酸ガス排出量はガソリン車の数倍であるという論文が、またボルボからはBEVがガソリン車と同等の炭酸ガス排出量となるには、10万km以上の走行が必要だというレポートが公表されている。これからBEVの製造から走行までのライフサイクルでの炭酸ガス排出量はHEVより少ないとは言えないことが分かる。

さらに、BEVのバッテリー廃棄が新たな環境問題となっている。バッテリーには、コバルトやニッケルなどの重金属やマンガンなどの毒性の強い成分が含まれている。このため、廃棄によって環境汚染が進む可能性が高いにもかかわらず、まだ確かな廃棄・再利用のリサイクル手法は確立されていない。

以上の観点から、「BEVが地球環境を救う」という考え方は、大いなる幻想だと言える。


東京大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。ホンダで4輪操舵システムなどの研究開発に従事。芝浦工業大教授を経て現職。

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2024年4月号)


【中部電力/オランダの洋上風力発電プロジェクトに直接出資】

中部電力が、海外の洋上風力発電プロジェクトに初めて直接出資する。英蘭シェルと同社出資の蘭エネコが共同で開発しているオランダのプロジェクトに参画する。このほど、同プロジェクトの事業会社から、エネコが保有している株式の一部を取得した。同プロジェクトはオランダ政府が洋上風力海域の事業権入札で、2022年5月に公募したもので、23年5月に落札された。規模は76万kWで26年の運開予定だ。中部電力は、同プロジェクトの事業主体に直接出資することで、洋上風力発電設備の建設初期段階から運営に至るノウハウと生態系の保護に関する知見を蓄積していく。

【沖縄電力/「吉の浦・牧港ガスパイプライン」の供用開始】

沖縄電力が天然ガスの普及拡大を目的に 2021 年度から整備を進めていた「吉の浦・牧港ガスパイプラインが2月に完成し供用を開始した。特定ガス導管事業に供する同社初のガス導管設備として、吉の浦火力発電所(中城村)から北中城村、宜野湾市の西普天間地域を通り、同社本店(浦添市)まで全長約15km を敷設。これまで本島中部で天然ガスを利用するために必要だった、需要家側でのサテライト設備の設置が不要となることから、幅広い需要家に供給できる。将来的には、他エネルギー事業者との連携などで、ルート上に設置している分岐点から、広範囲に供給できるよう努めていく。

【関電不動産開発/渋谷に新たなオフィスビル棟をオープン】

関電不動産開発はこのほど、「関電不動産渋谷ビル」をオープンした。地上12階、地下1階の同ビルはセンサーによる照明・空調の自動制御などとともに、全消費電力に再エネ由来の環境価値を付加した関電エネルギーソリューションの環境価値電力プラン「Kenes Green Supply 」を導入することで、ビル全体のゼロカーボンを実現。

環境認証では、建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)最高ランク 5 つ星の評価を受け、「ZEB Ready」認証を取得している。藤野研一社長は「中規模の同ビルをはじめ、さまざまな物件を手掛けて、2035年度の首都圏資産を4千億円目指す」と語った。

【伊藤忠エネクス/ライフサイクルで燃料油のCO2削減】

伊藤忠エネクスは法人向けに「カーボンニュートラル給油カード」サービスを始めた。車両燃料であるガソリンや軽油の製品ライフサイクルで排出されるCO2をカーボンクレジットで相殺する。民間認証プロバイダー最大手であるVerra社認証のものやJ―クレジットなどを活用する。本サービスはBSIグループジャパンが発行する国際規格に準じている。

【京セラ/半固体型リチウムイオン電池搭載システムを発売】

京セラは、家電製品用の蓄電システム「エネレッツァプラス」を今春から販売する。同製品は世界初の半固体型リチウムイオン蓄電池を内蔵、高い安全性を確保しつつ長寿命を兼ね備える。太陽光パネルや蓄電池、電気自動車、発電機などの外部電力を同製品のパワーコンディショナーを通して自宅内に同時供給できるため、停電時も電気を使用できる。

【北海道電力・三菱商事/水力発電所アライアンス事業の始動】

北海道電力と三菱商事が設立した道南水力発電合同会社は2月1日、水力発電所アライアンス事業における第1号「相沼内発電所」の営業運転を開始した。本事業は北海道電力が道南地域に所有する計5発電所のリプレースなどを実施するもの。リースを受けた道南水力発電が既存設備の有効活用を図った上で、リプレース工事を行い、その後の発電事業も手掛ける。

【マーケット情報/4月12日】原油下落、需給緩和感が強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。需給緩和感の強まりが、価格の下方圧力となった。

米国の連邦準備理事会が、6月に予定していた金利引き下げを後ろ倒しにするとの予測が強まった。米国では、3月の消費者物価指数が上昇し、非農業部門の雇用者数が増加。加えて、失業率は下落しており、インフレ圧力は依然強いとみられている。利下げ開始が遅れることで、米国経済、および石油需要の回復がしばらく見込めないとの観測が広がった。

また、中国でも需要が後退。原油価格の高止まりで、精製マージンが一段と縮小したことが要因となっている。

供給面では、米国の週間在庫が増加し、過去8カ月で最高を記録した。輸出の減少が続いていることが背景にある。

一方、中東では、イランがイスラエルに空爆し、情勢が悪化。イスラエルが、イランの在シリア大使館を攻撃したことに対する報復措置とみられる。同地域からの供給不安がさらに強まり、価格の下落を幾分か抑制した。


【4月12日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=85.66ドル(前週比1.25ドル安)、ブレント先物(ICE)=90.45ドル(前週比0.72ドル安)、オマーン先物(DME)=90.35ドル(前週比0.55ドル安)、ドバイ現物(Argus)=90.51ドル(前週比0.17ドル安)

【コラム/4月15日】将来の電力需給シナリオに関する日独比較


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

電力広域的運営推進機関(OCCTO)に設置された有識者検討会「将来の電力需給シナリオに関する検討会」では、2040年と2050年における電力需給のシナリオについて、昨年11月より、専門的知見を有する電力中央研究所(電中研)、地球環境産業技術研究機構(RITE)、デロイトトーマツコンサルティング合同会社(デロイト)の3機関からヒアリングを行い、2024年度末までの取りまとめを目指している。有識者検討会では、需要サイドから検討が進められており、これまでに、電力需要の構成要素として、経済活動や社会動態の変動を考慮した基礎的需要の動向のみならず、省エネ進展度、電化進展度、産業構造の変化、新技術の普及などを考慮した長期需要想定の試算が3機関から提出されている。

わが国の電力需要は、長期的に増大するのであろうか、減少するのであろうか、大いに関心がもたれるところであるが、3機関とも電力需要は長期的に増大すると想定している。電中研は、電力需要は、2021年度の924 TWh から2050年度には937~1,265TWh(Midは1,070TWh)に増大すると推計している(自家消費含む、2024年3月5日提出資料)。RITEは、2015年の1,000 TWh程度が、2050年には10~30%程度増大すると推計している(発電電力量、2024年3月5日提出資料)。また、デロイトは、エネルギー自給率での感度分析を行い、自給率が高くなるにつれて電力需要が大きく増加するという興味深いシミュレーション結果を得ている。それによれば、エネルギー自給率の高低により、2050年の電力需要は1,200 ~1,800 TWh程度 (中位は、1,400 TWh程度)になると想定している(送電端、2023年11月30日提出資料)。そして、国内の再生可能エネルギーを積極的に導入するケースでは、各部門の電化が進むほか、水素製造による消費電力が増加することから電力需要が大きく押し上げられると説明している。

再生可能エネルギー電源拡大の電力需要に及ぼす影響が顕著に現れているのが、ドイツのカーボンニュートラルのシナリオである。ドイツでは、連邦気候保護法(Bundes-Klimaschutzgesetz)の第1次改正が2021年6月に行われ、2045年カーボンニュートラル(CN)を目指すことになった。それに伴い、数多くの専門機関から2045CNシナリオが発表されている。ここでは、複数の代表的な研究を比較したケルン大学エネルギー経済研究所(EWI)の調査に依拠してドイツにおける長期の電力需要想定を見てみよう。

同調査によれば、電力需要(総電力消費量)は、一部シナリオ(極度な省エネを想定するシナリオ)を除くと、2020年の555TWhから、2045年には900~1,500 TWh程度に増大する。5つのシナリオの平均値は1,130 TWh程度で、電力需要は2020~2045年間に倍増する。ドイツにおける電力需要の増加率は、わが国におけるそれを大きく上回る(デロイトの自給率高位ケースを除く)。その理由は、主として、再生可能エネルギー電源の増大が、水素製造への電力投入を増大させるとともに、最終消費部門(産業、建物、運輸)の電化を進展させるためである(5つのシナリオにおける想定の違いは、主に、水素製造への電力投入、電化、エネルギー効率化の違いによる)。ドイツの専門機関の想定では、2045年における再生可能エネルギーの発電量は、発電量全体の8割を超える。電化率が上昇するのは、再生可能エネルギー電力の増大により、電力、熱、運輸の分野を統合し、全体最適を行っていくセクターカップリングが進展するためである。その結果、最終エネルギー消費に占める電力の比率は、2020年の20%から2045年には46~69%に大幅に上昇する。セクターカップリングにより再生可能エネルギー電力の変動問題は大きく軽減できるというメリットも指摘される。

ドイツのシナリオに関して、再生可能エネルギー一辺倒過ぎないか、再生可能エネルギーと多様な脱炭素電源の組み合わせを目指すほうが効率的ではないかという疑問もあるだろう。しかし、ドイツのシナリオは非現実的なのかというと、必ずしもそうとは考えられていない。Fraunhofer研究所によれば、同国では、2040年には蓄電池付き太陽光発電や陸上・洋上風力発電の均等化発電コストは、中央値での比較で、CCGTなどの在来型火力発電のそれよりも低くなると予測されている(当然、合成燃料を利用する発電の均等化コストよりも低くなる)。既知の通り、ドイツでは、原子力発電は政治的決定で廃止され、新規建設も予定されていない。 わが国では、再生可能エネルギー電源と原子力発電を含む多様な脱炭素電源の組み合わせを目指すとしたら、2050年には、電力需給構造は日独で大きく異なったものになる可能性があるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

「生産者主義」のパリ協定 JCMは日本の脱炭素成長モデル


【オピニオン】森本英香/早稲田大学法学部教授

気候変動は地球規模での危機であると同時に、地球規模で取り組まねば解決できない課題でもある。

2050年カーボンニュートラル(CN)を宣言した日本などだけでなく、全ての国が取り組む必要がある。その中には、日本同様、化石燃料への大幅な依存に悩む国は多く、日本が50年CNに向けての技術、システムを確立することは各国の取り組みをエンカレッジするとともに、その市場の獲得を通じて脱炭素化時代の日本の成長機会となるはずだ。

パリ協定は、国ごとに排出削減目標(NDC)を決めて取り組む仕組みとなっている。このNDCは、「生産者責任」に基づく。生産物が輸出されても、生産時に排出される温室効果ガスは全て生産国の排出量としてカウントされる。一方、脱(低)炭素な製品を生み出し世界中に普及したとしても、当該製品の脱炭素効果は消費国に帰属し、生産国のNDCには反映されない。この点はかねてから批判、あるいは不満が述べられてきた点である。

これに対して、二国間クレジット制度(JCM)が一つの回答になる。JCMは、途上国への優れた脱炭素技術、製品、システム、サービス、インフラなどの普及や対策実施を通じて、温室効果ガスの削減に取り組み、削減の成果を両国で分け合う制度である。わが国では13年から実施してきたもので、COP26において晴れてパリ協定第6条のルールが合意された。

二国間で協定を結び、クリーン開発メカニズム(CDM)に比べ比較的柔軟・迅速に実施できる。既にわが国は29カ国との間で協定を結んでおり、30年度までの累積で1億t―CO2程度の国際的な排出削減・吸収量を目指すこととされている。

この制度は大企業のみならず、意欲ある中小企業に活躍の場を提供するものにもなっている。例えば、東京のY社は従業員200人以下の会社であるが、JCMの仕組みを利用して、高効率なアモルファス変圧器を生産し、これをベトナム、ラオスで展開している。配電にかかる電力ロスを低減するとともに、発電由来の温室効果ガスを削減するもので、ベトナム全土にアモルファス変圧器を1万台以上導入し、隣国ラオスにも進出している。 JCMは、「脱炭素化時代の日本の成長モデル」のひな型となる。日本が開発し知財を確保した技術、製品、システム、サービス、インフラなどを、JCMを通じて世界に普及することで、日本の成長とNDC達成に貢献する。データ解析会社のアスタミューゼによれば、日本の脱炭素関連の技術・特許を有する企業数は各国に比し多い。この知財を基に、意欲ある企業がわが国の50年CN、そして各国のCNにも寄与することを期待したい。

もりもと・ひでか 東京大学法学部卒後、環境庁入庁。内閣官房内閣審議官、原子力規制庁次長などを経て環境事務次官(2017~19年)。現在、東大客員教授、東海大学環境サステイナビリティ研究所所長、持続性推進機構理事長も務める。

損益のブレを平準化する役割 ガス価格の高騰リスクに備えを


【マーケットの潮流】高井裕之/国際ビジネスコンサルタント

テーマ:電力先物市場

電力・ガス市場の価格高騰と需給ひっ迫リスクが高まり、ヘッジの重要性が高まっている。

高井裕之氏が世界の天然ガス市場の現状と市場機能を活用した安定化の重要性を解説する。

世界最大の電力取引所EEXグループは、4年前に日本で電力先物の取り扱いを開始し、以来、取引高は右肩上がりに伸びて、今年は1~2月で12・2TW時(1TWは10億kW)を約定している。これは卸電力市場(スポット市場)の取引量の約3割に相当する。

電力先物とは、将来の電力を売買する金融派生商品で差金のみを決済する。先物を買っておけば、将来の値上がり分は先物での利益で補填され損益のブレを平準化できる。逆に値下がりすれば、先物で損が生じるが、先物を買った時点で現物販売も決めているので現物からの益で先物の損は相殺される。反対に、先物を売っておけばその売値を元に現物を調達すればいい。先物の本質は、損益のブレを回避することにあり決して投機ではない。

近年、わが国の卸電力価格のボラティリティの高まりで、市場リスク管理の重要性が再認識されている。2021年頃から発電燃料である天然ガスの価格が高騰するようになったことが主因だ。電力需給には同時同量の原則がありインバランスは停電のリスクを孕む。一方で消費量の制御は困難なため、需要に合わせて発電量を調整し同時同量を担保する。しかし再生可能エネルギーが増えれば、発電量が天候に左右され制御が容易ではなくなる。

そこで、発電量を比較的容易に増減できる調整電源として火力発電が用いられる。特にCO2排出量が少ないガスの需要は世界的に増加傾向にある。再エネは環境に優しく経済性もあるが、間欠性のためにバックアップとしての火力電源が不可欠で電力価格はガス価格に影響される。天然ガスは米州・欧州・アジアが主要な消費地で、基本的に地域ごとに市場が存在する。北米はシェールガスの登場で自給自足できるようになった。欧州はパイプライン経由でロシアや北欧からガス供給を受け、アジアは米国・中東・豪州・ロシアなどからの液化天然ガス(LNG)輸入に依存するというのが近年までの需給構造だった。

EEX日本電力先物の出来高(単位:GWh)


需給ひっ迫が契機 巨大な一つの市場を形成

アジア市場におけるLNG価格(JKM)は、長らく100万Btu(英国熱量単位)当たり10ドル前後で安定していた。しかし、経済成長や低炭素燃料へのシフトにより中国におけるガス需要が急激に増加したことで、次第にアジア市場におけるガス需給はタイトになり、短期的な需給の変化に価格が敏感に反応するようになった。20年末から21年初にかけて、東アジア全域を寒波が襲った時にはLNGが不足し、JKM価格は3倍近くに高騰した。

わが国の卸電力価格も、それまでkW時当たり10円前後で推移していたものが、一時200円まで高騰し、卸市場からの調達に過度に依存していた一部の事業者が破綻する事態にまで発展した。当時はまだ先物を使ったヘッジが普及しておらず、卸電力価格もJKM価格も長らく低位安定していたため事業者が価格リスクに対して鈍感かつ無防備になっていたと考えられる。

原子力規制委は災害時に機能したのか 計画・マニュアル策定は政治家の責任


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

自民党派閥パーティー裏金問題を巡って大荒れとなった衆議院での予算案の審議だが、私は採決間近の2月27日に予算委員会分科会で、1月14日の岸田文雄首相との議論に続き、能登半島地震で原子力規制委員会の対応について議論を行った。

今回新たに議論のテーマとしたのは、初動のあり方だった。元日の午後4時10分に地震が発生し、9分後には警戒本部が立ち上がっていた。大みそかから2人の職員が宿直しており、15分後にはその者も含めて4人の職員が出勤していたという。現地でも、地震発生の10分後に現地に駐在する職員がオフサイトセンターに参集している。ほとんど報道されていないが、年末年始にこうした対応ができる原子力規制庁の職員の皆さんには敬意の思いしかない。こうして原子力の安全を保てる体制ができていることは、もっと国民の皆さんに知っていただいていいだろう。

しかし、問題はここからだ。午後4時45分に北陸電力からサイト内の状況などについて報告がなされ、規制庁はモニタリングポストの値に異常がなかったことを確認して警戒体制を解いてしまう。午後6時半と午後8時半に2回の記者ブリーフィングが行われたものの、それ以降は規制委からは志賀原発の状況についての発信がなされることはなかった。それもこれも原子力防災業務計画や初動マニュアルには、警戒事態における広報のことしか書かれていないことが原因と見られる。

リスク評価や説明なく 広報に国民感覚とのズレ

一方、志賀原発では1月2日以降、変圧器からの油漏れや使用済燃料プールのスロッシングなどが報道され、ネット上ではさまざまなデマが飛び交うことになった。本来であれば、こうしたことに現地の防災専門官や運転検査官が状況を確認し、規制委がリスクを評価して、国民に正確な情報を知らせなければならない。しかし、規制委の会合が開かれたのは1月10日。結局、リスク評価も、国民への説明もなされていない。
規制委の災害時の広報体制は、国民感覚からズレていると言わざるを得ない。規制が政治から独立した国家行政組織法上の三条委員会の所管であるため、環境大臣が原子力防災担当の内閣府特命担当大臣を兼任しているにもかかわらず、そこに当事者意識がないのは問題だ。
先の宿直の例に挙げた通り、日本の行政組織はあらかじめ計画やマニュアルで決めていることは忠実に実行する。災害時にどのように国民に情報を伝えるのか、計画やマニュアルを定めるのは、技術面の専門性を持つ規制委だけではなく、政府にいる政治家の責任でもある。

ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。