杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
日本政府も、都道府県のほとんども、2050年にCO2をゼロにすると宣言している。だがこれでどれだけ気温が下がり、大雨の降水量が減るのか、ほとんどの人は知らない。
概算は簡単にできる。以下では、鍵となる数字を、覚えやすい形に少し丸めてまとめておく。正確な計算については拙著「地球温暖化のファクトフルネス」を参照されたい。
① CO2 1兆t = 0.5℃ (TCRE関係)
② 気温1℃上昇 = 6% の降水量増加 (クラウジウス・クラペイロン関係)
③ 年間10億t (日本のCO2排出量)
➀TCRE関係とは、累積のCO2排出量が1兆tに達すると地球の気温が0.5℃上昇するという関係である。両者には概ね比例関係がある。なお最新のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)報告である第6次報告では、これは0.45℃となっている(下図を参照)。TCRE関係についてはJAMSTEC(海洋研究開発機構)による詳しい解説記事がある(なお、TCREとはTransient Climate Response to cumulative carbon Emissionsの略で、日本語で言えば「累積炭素排出量に対する過渡的気候応答」となる)。

図の傾きはCO2が1兆t当たり0.45℃となっている。なおこの値は過去の観測だけでなくシミュレーションにも依存しているので、地球温暖化については過大評価である可能性が高いが、ここでは概算に興味があるので、このIPCCの値をそのまま、少し丸めて0.5℃として使うことにする。
これによる降水量の減少はどれだけか。気温が上昇すると大気中の水蒸気量が増え、豪雨が強くなるというクラウジウス・クラペイロン関係(②)を仮定する。なおこの関係自体、実は統計的に有意に観測されてはいないので過大評価かもしれないが、ここでは仮にこの関係が成り立つとする。
クラウジウス・クラペイロン関係では、1℃の気温上昇が6%の雨量増大となるから、仮に1日に100mmの豪雨であれば、1℃の気温上昇で106㎜に雨量が増えることになる。
上記の①から③までさえ覚えておけば、暗算でも脱炭素の効果を概算できるようになる。