【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題
トランプ前大統領が再選し、世界が新政権発足に向けた動きに注目している。中でも、私財を投入し献身的に選挙運動に貢献したテスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)はトランプ氏の再選直後、ウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談に同席し、その言動と影響力に世界の関心が寄せられている。

マスク氏は11月、ドイツ連立政権崩壊に際し、ドイツのショルツ首相に「愚か者」と暴言を吐いた。止まらない激情ぶりは、3月の環境保護運動過激集団の放火によるテスラのドイツ工場閉鎖などが背景にあると考えられる。今後、米国の対中国貿易政策が注目されるが、ここでは、その背景となるマスク氏率いるテスラと中国製品との競合関係について整理したい。
中国のEVメーカーは2021年にBYDや上海汽車が世界のEV販売トップ10に入り、テスラに脅威を与えた。1位のテスラは上海ギガファクトリーなどで価格の低下を図り、販売を増加させたが、23年にはBYDがテスラに迫る勢いで成長し、販売台数はテスラの181万台に次ぐ約157万台に達した。BYDは低コストのリチウム鉄リン酸塩(LFP)電池技術を強みに、欧州、ラテンアメリカ、アジア市場への輸出が好調だ。25年3月には、中国スマートフォン大手のシャオミが新規参入し、ポルシェのタイカンに対抗する1700万円の高級EVを発売すると発表。テスラとの競合が予想される。
中国のEV躍進の背景には政府の政策がある。中国政府は、消費者には購入補助や免税といった金銭的インセンティブを与える一方、完成車メーカーや自動車の輸入事業者に対しては、新エネルギー車を作らなければガソリン車の輸出や生産ができないという規制を設けた。結果として、新エネルギー車(その8割はEV)の国内販売台数は年々増え続けた。
ここを米政府がたたく。今年5月、中国からの輸入EVに対する制裁関税を25%から4倍の100%に引き上げた。さらに、この競争はEVにとどまらずエネルギー貯蔵システム(BESS)にも広がっている。BESS製品は、太陽光や風力発電からの余剰電力を蓄電し、需要が高まる時間帯に放電する。今後拡大する再生可能エネルギー市場に極めて重要なインフラだ。
テスラは「パワーウォール」などのBESS製品を提供し、23年、北米を中心に世界市場の15%とトップシェアを保持している。一方で、中国企業は世界シェアのトップ10社のうち6社を占め、その存在が際立つ。特に中国のサングロウは低コスト製品を武器に北米市場でテスラと競合を深めている。EVバッテリー大手のCATLやBYDも米国市場への参入を進めている。
テスラと中国企業との競争は今後の激化が予想される。激しい人格のマスク氏は、米政府の対中国政策に大きな影響を与えるものと考えられる。
(平田竹男/早稲田大学大学院スポーツ科学研究科教授、早稲田大学資源戦略研究所所長)






