【多事争論】話題:トリガー条項とガソリン暫定税率
トリガー条項を巡っては与野党協議が行われるなど国民の注目を集めた。
石油元売りに補助金が投入され続ける中、有識者はこの問題をどう考えるのか。
〈 石油諸税の総額は6兆円弱 特例税率廃止を検討すべき時期に 〉
視点A:伊藤敏憲/伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー代表取締役兼アナリスト
石油製品に関する税金には、原油および石油製品の輸入時点で課される石油・石炭税、輸入石油製品に課せられている関税、ガソリン税(国税の揮発油税1ℓ当たり48・6円うち特例税率24・3円、地方税の地方揮発油税5・2円うち特例税率0・8円、沖縄県は総額5・5円軽減)、軽油引取税(32・1円うち特例税率17・1円)、航空燃料税、石油ガス税などの石油製品に係る税がある。石油製品の小売価格に課されている消費税を含めると石油関連税の総額は、政府の2023年度予算で約5兆7600億円に及ぶ。
なお、ガソリンは、税率が高く、かつ石油石炭税やガソリン税を含めた小売価格に消費税が上乗せされた「二重課税」になっているが、石油関連税以外で同じ扱いなのは酒税とたばこ税だけである。
燃料油の国内市況は、原油価格の高騰と円安を反映して21年に急騰した。国民生活や経済活動への影響を抑えるため、21年12月に「燃料油価格激変緩和対策事業」が閣議決定され、レギュラーガソリンの小売価格が支給基準額1ℓ当たり170円(当初)を超えた22年1月から、卸売事業者にすべての燃料油を対象とした補助金が支給され、卸売価格が同額抑制されている。燃料油の国内市況は、この対策の効果によって、22年3月以降、原油価格や為替レートの変動に左右されず、ほぼ横ばいで推移している。
燃料油価格激変緩和対策事業の規模は予算ベースで、22年1月から23年9月末までで約6兆2千億円。23年10月から24年4月までの事業規模は、原油価格および為替レートを横ばいで想定すると約2兆円に及ぶ見通しで、石油関連税の総額の約3分の2が相殺されている。
トリガー条項の復活 過去の経緯踏まえて検討を
トリガー条項は、10年3月31日に導入されたガソリンと軽油の価格抑制策である。レギュラーガソリンの全国平均が3カ月連続で同160円を上回った場合に、ガソリン税と軽油引取税の特例税率の課税を停止することでガソリンと軽油の価格を引き下げる制度だ。ただ、発効することなく11年4月27日に凍結されたので、同条項を発動するためには法律を改定する必要がある。トリガー条項が発効すると、ガソリンは特例税率に消費税を加算した同27・6円、軽油は特例税率同17・1円、それぞれ小売価格が低下する。
このトリガー条項の復活を求める声に対して、鈴木俊一財務相が、①発動直前に買い控えが起こる、②発動直後に駆け込み需要が生じる、③発動前後に販売現場での混乱が生じると予想される―などの理由を挙げて「トリガー条項の発動は見送る」と発言したが、この説明の一部は間違っていない。
10年4月に国会審議の遅れなどにより、ガソリン税と軽油引取税の暫定税率(現在の特例税率)が一時的に失効した際、その数日前からガソリンと軽油の買い控えが起き、失効直後に需要が急増。暫定税率が復活した数日前から駆け込み需要が発生し、上昇後に需要が減少した。そして、失効前後と復活前後に、給油、受発注、配送などが混乱し、給油所のタンクの在庫の税率と販売時の税率との差から販売事業者の収支が圧迫された。