商用EVを使ったリースサービス発表 再エネ電気と組み合わせ脱炭素化促進


【コスモ石油マーケティング】

コスモ石油マーケティングは、企業や自治体の脱炭素化をサポートする商用EVリースサービスを発表した。

EVのリース、充電設備、メンテナンス、再エネ由来の電力供給までトータルでサポートする。

コスモエネルギーホールディングスの子会社コスモ石油マーケティングは10月、都内で会見を開き、脱炭素ソリューション「コスモ・ゼロカボプラン」を発表した。併せて、同プランで使用するASF社の商用軽EV「ASF2.0」の試乗会を開催した。

ゼロカボプランは、同社が2010年から始めた「コスモマイカーリース」の仕組みを利用して展開する。同商品は、国産全メーカー・全車種から車が選択可能で、頭金は0円で車検、税金、メンテナンス諸経費を含めたパッケージ商品だ。ガソリンスタンド(SS)で申し込みから給油、整備までできるので、ユーザーと密着したきめ細かいサービスが特長だ。

現在の契約台数は累計で10万台を超える。このうち約85%がBtoCである一般ユーザー。残る約15%が商用となっている。発表したASF2.0では、拡大余地のある商用を狙う。

商用軽EV「ASF2.0」

法人向け脱炭素プラン 一気通貫のサービスが魅力

商用向けの実用EVパッケージのゼロカボプランは、コスモマイカーリースで培ったノウハウをBtoBに生かし、SS店舗から法人とのつながりの創出を図っている。EV向けの充電器に関する工事一式や補助金申請、車両整備などをワンストップで提供。商用EVリースをフルパッケージ化した。

また、同社が展開する電力小売事業の「コスモでんきビジネスグリーン」を使い、実質再エネ電力も供給して、企業の脱炭素化をトータルでサポートする。

岡田正常務執行役員は「現在脱炭素の音頭を取っているのは、国や地方自治体、企業だ。新たなターゲットであるBtoBへモビリティサービスを広げていくため、EV導入をきっかけに脱炭素化を進められるゼロカボプランを打ち出した」と意気込む。

同プランで使用するASF2.0は、30‌kW時リン酸鉄リチウムバッテリーを搭載し、航続距離209kmを実現。ドライバーにとっての使いやすさと安全性、環境への配慮を追求した商用軽バンだ。

ASF社は商品開発に当たり、佐川急便のドライバー7000人にアンケートを実施。現場の要望を細やかに実車に反映した。

具体的には、疲れの出やすい長時間の運転に配慮し、助手席よりも運転席が幅広く取られていたり、伝票用の書類収納が頭上にあるなど、ドライバーファーストのつくりとしている。業務上で使用するアプリをつなげられるよう、スマートフォンの画面ミラーリング機能も備える。低床設計の荷室はフルフラットで、大きく重い荷物もスムーズに出し入れできる。

なお、リース料金は黒ナンバー(商用軽自動車)で1カ月1000~2000kmの使用で2.5~2.8万円、黄ナンバーで3.3~3.6万円程度になる見込みだ。

荷室はフラットで広く使いやすい
運転席は助手席より幅広く設計されている

ドライバーに優しい車 負担を軽減した設計

試乗会には多くの報道陣が集まった。約2kmの公道を実際にASF2.0に乗って試運転することができた。聞こえてくるのはモーター音ぐらいで、振動も少ない。荷崩れの心配もなさそうだ。一日のほとんどを営業車で過ごすドライバーのストレスを軽減する運転手に優しい車だと感じた。

ユーザーのかゆい所に手が届く装備や乗り心地、サービスパッケージに、コスモ石油マーケティングの並々ならぬ気合が感じられた。「クリーンなエネルギーサービスをお客さまに便利な形で提供することに真摯に向き合いたい」と岡田氏は語る。

同社は、さらに進化したBtoBエネルギーサービス提供にまい進していく構えだ。

【イニシャルニュース 】処分事業で対馬ショック 学者トップに懸念の声も


処分事業で対馬ショック 学者トップに懸念の声も

「厳しかったか……」。長崎県対馬市の比田勝尚喜市長は9月27日、高レベル放射性廃棄物(HLW)の文献調査を受け入れない旨を表明した。ニュースを聞いて、処分事業を進める関係者はがっくりと肩を落とした。

今、処分事業で差し迫った課題は、2020年10月から文献調査を行っている北海道寿都町・神恵内村をどう概要調査に移行するかだ。文献調査の期間は2年が目安。ズルズルと引き延ばすことはできない。移行には知事の同意が必要だが、鈴木直道知事は拒否する姿勢を堅持している。

「対馬市をはじめ、最低あと一つ文献調査に応募してもらう。それで、『今後、続いて文献調査に多くの自治体が応募し、概要調査に移るところも出るでしょう。寿都・神恵内は移行に前向きです。それなのに地元の意向を無視して拒んでいいのですか』と知事を説得する―」。関係者はこう考えていた。しかし、プランは練り直しとなった。

処分事業トップの責任を問う声もある。長く理事長職に就くK氏は「学究肌で自ら第一線に出ようとしない」(関係者)と評判が今一つ芳しくない。元T大教授のY氏にバトンをわたす見通しだが、「2代続いて学者のトップで大丈夫か」(電力関係者)との懸念も聞こえる。

復活する全電化CM 「うらやましい」の声も

「このところ、テレビで頻繁にオール電化のCMを見かけるようになった気がする。一昔前に戻った感じだ」

こう話すのは、原子力発電が順調に稼働している大手電力エリアで、某エネルギー会社に勤務するX氏だ。11年3月の東日本大震災以降、原発の長期停止や電気料金値上げ、電力・ガス小売全面自由化、卸電力市場・燃料価格の高騰、度重なる不祥事などを背景に、大手電力ではオール電化を積極的にPRしづらい情勢が続いてきた。

それがここにきて、①原発稼働の進展、②燃料価格の落ち着き、③一連の不祥事の再発防止対策―などによって、状況が改善。とりわけ、原発の稼働は深夜電力も含め電気料金の低廉化にベースロードで効果をもたらすため、オール電化にとっては朗報だ。

「今だよ、いろんな選択肢を検討できるのは。例えばエコキュートに替えれば、省エネで光熱費がこんなに安くなる」「給湯器が壊れる前に、エコキュートでどれだけ安くなるかチェック!」―。

関西電力は、今年10月1日から来年2月29日まで実施中のオール電化キャンペーンに合わせて、古いガス給湯器などからの切り替え促進を狙ったテレビCMを展開。光熱費の安さを前面に打ち出す内容になっている。

一部の大手電力がオール電化攻勢に出た

「うらやましい限りだ」。このCMを見た大手電力A社の関係者は、こう感想を漏らした。「原子力が長年動いていなくて、規制料金を値上げした当社では、オール電化を積極的にアピールできる状況になく、再稼働したとしても、関電のようにはいかないだろう。とはいえ、一日も早くそんな状態に戻りたいものだ」(A社の関係者)

昔と違うのは、太陽光発電や蓄電池とセットで、災害時対応の観点からオール電化のメリットを訴求するケースが増えていることだ。全面自由化によって、オール電化が大手電力の〝専売〟ではなくなった点も異なる。ガス会社のオール電化CMが今後登場してくるかもしれない。

ガザ危機で第五次中東戦争勃発か エネルギー安保の新たな懸念材料に


【識者の視点】十市 勉/日本エネルギー経済研究所客員研究員

第一次オイルショック発生からちょうど50年の節目に、奇しくも中東情勢が新たなフェーズを迎えた。

ロシア・ウクライナ情勢や再エネの地政学リスクも見据えたエネルギーセキュリティーの向上が問われる。

パレスチナ・ガザ地区を実効支配するイスラム武装組織「ハマス」が、10月7日にイスラエルへの大規模攻撃を始め、中東情勢が一気に不安定化している。多数の死傷者を出したイスラエルは、ハマスの殲滅を目指してガザ地区への空爆に加え、本格的な地上侵攻の準備を進めている。米バイデン大統領は、人道危機の軽減や人質解放、周辺地域への戦争拡大を抑えるため、イスラエル訪問などの外交努力を続けるが、ガザの病院爆破で多数の死者が出たこともあり、予断を許さない状況にある。

今回想起されるのは、ちょうど50年前の1973年10月6日、エジプトとシリアがイスラエル軍を奇襲攻撃して始まった「第4次中東戦争」である。両国を支援するため、サウジアラビアなどアラブ石油輸出国は、親イスラエルの米欧諸国に対して石油の禁輸措置を発動し、世界はオイルショックに見舞われた。その後エジプトは、疲弊した経済を立て直すため、米国の仲介で79年にイスラエルとの平和条約締結に至った。それを契機に、中東問題の焦点は、アラブ諸国とイスラエルの対立からパレスチナ問題へと移り、今回のハマスによるテロ攻撃につながった。

昨年来のウクライナ戦争でエネルギー危機が起きる中、今回の中東戦争は、エネルギーセキュリティーにとって新たな懸念要因となっている。足元の原油価格は1バレル90ドル前後の高値圏で一進一体を続けており、当面は石油供給への影響は限定的と見られている。

米・イランの緊張高まる さらなる不安定化を懸念

しかし、ハマスのテロ攻撃にイランが関与した明白な証拠が判明したり、米国・イスラエルとイランの対立がエスカレートしたりすれば、国際エネルギー情勢がさらに不安定化する恐れがある。例えば、米国による経済制裁の強化で原油の生産・輸出が減少するイランが、報復としてイスラム過激派武装勢力を使ってサウジの油田施設を攻撃、あるいはホルムズ海峡の安全航行が脅かされる事態が起きることである。

なお米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは「ハマスと、レバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラ幹部によれば、イランのイスラム革命防衛隊がハマスの奇襲攻撃計画を支援した」と報じている。イラン政府は強く否定するが、米国ではイランが背後で重要な役割を果たしたとの見方も出ている。

これまでイランは、ハマスに対して資金や武器供与、戦闘員の訓練などの支援を行ってきたが、その狙いは宿敵であるイスラエルとその支援国の米国に圧力をかけることである。イランは、今年3月に中国の仲介でサウジとの国交を回復する一方、米国が進めるイスラエルとサウジの国交正常化の動きに強く警戒していた。イスラエルの報復攻撃でガザ住民の犠牲者が急増する中、既にサウジはイスラエルとの国交正常化の交渉凍結に追い込まれている。

そのサウジと米国の間には、長年の「特別な関係」、すなわち米国がサウジの安全保障に責任を持つ代わりに、サウジは石油の安定供給に務めるという暗黙の合意があった。しかし、2001年の米国同時多発テロ事件で実行犯の多数がサウジ国籍であったこと、また18年の著名なサウジ人記者の殺害事件にムハンマド皇太子が関与したとして、両国間で軋轢が生じていた。さらに米国にとって、シェール革命で石油の自給体制を確立したこともあり、サウジの重要性が低下してきた。

一方のサウジは、バイデン大統領からの相次ぐ増産要請に応じず、ロシアと協調してOPEC(石油輸出国機構)プラスの減産政策を続け、最大の輸出先である中国との関係を強化。サウジのロシアや中国への接近は、イランの脅威から自国の安全保障を確保するため、米国をけん制する動きともいえる。

このように中東の地政学を巡る各国の思惑は複雑さを増しており、今後のハマス掃討作戦でガザ地区の人道危機がさらに深刻化すれば、アラブ諸国を中心に反イスラエル・反米の抗議行動に拍車をかけるだろう。その結果、イスラエルとヒズボラの戦火が拡大する、またイランが直接介入するといった事態も完全には排除できない。ウクライナと中東地域での二つの戦争が長期化する公算が大きいことから、資源小国の日本にとって、中長期的にもエネルギーセキュリティーの確保がこれまで以上に重要な課題となる。

提供:EPA=時事
米国はイスラエルに寄り添う姿勢を強調し続ける

二つの戦争長期化の様相 再エネの地政学リスクも連動

日本の1次エネルギー供給に占める石油の割合は、オイルショック後の脱石油政策で、1973年の76%から2021年には36%と激減したが、石油は依然として最大の供給源である。また中東依存度は、ロシア産原油の輸入禁止措置の影響もあり、約95%と過去最高水準となっている。もし中東からの原油供給に重大な支障が出れば、原油価格がさらに高騰して国民生活は大打撃を受ける。

一方、LNGの輸入先は、豪州やマレーシアなどインド太平洋諸国が約3分の2、ロシアが10%弱を占めており、カタールなど中東諸国は15%と必ずしも高くない。しかし、ウクライナ戦争で世界的にLNG需給がひっ迫し、またLNGの在庫は2~3週間分しかないため、中東やロシアからの供給途絶には非常に脆弱であり楽観はできない。

このように、資源大国のロシアやサウジ、イランなどを巻き込む石油・ガスの地政学リスクが高まる中、世界は脱炭素に向けたエネルギー移行を進める必要がある。問題は、中国が再生可能エネルギーや蓄電池などの設備に不可欠な重要鉱物のサプライチェーンで世界を圧倒し、石油・ガスに加えて再エネ特有の地政学リスクが連動する時代を迎えていることだ。わが国はエネルギーセキュリティーの向上と脱炭素社会の実現に向けて、技術力が重要な役割を担う再エネと原子力、水素・アンモニア、e―フュエル(合成燃料)などのクリーンエネルギー開発と利用に官民が連携して取り組むべきである。(10月20日現在の情報による)

といち・つとむ 東京大学大学院地球物理コース博士課程修了。日本エネルギー経済研究所入所後、首席研究員などを経て2021年から現職。政府の審議会や委員会の委員などを歴任。

電力カルテルで株主訴訟 公取委訴訟も絡み長期戦に


大手電力のカルテルを巡り、4電力(中部、関西、中国、九州)の株主が10月12日、一斉に株主代表訴訟を起こした。独占禁止法違反、自治体からの指名停止、善管注意義務違反、リーニエンシー(課徴金減免制度)を巡る状況などが会社に損害を与えたと主張する。ただ、訴状内容を見ると「カルテルの存在を認識し得た」など、根拠が弱い部分も散見される。

中国の株主は、カルテルを監視する義務に違反した責任を当時の全取締役22人に追求する方針。ただ当該期間中に取締役の在籍数カ月といった役員も含まれる。一方、他3社の株主は、6月上旬に各電力に対し提訴請求を申し立てた時から対象を絞り、中部は21人から14人、関西は24人から12人、九州は25人から8人となった。また中国と九州については損害賠償請求額も変更。九州では、6月上旬での約260億円から約28億円に。中国では、808億円から707億円に減じた。

関西以外は公正取引委員会との課徴金納付命令取り消し訴訟も抱える。その結果が出なければ株主代表訴訟の判決が示せないとの声もあり、長期戦の様相を呈する。

【マーケット情報/11月3日】原油下落、需給緩和の見方が台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

10月27日から11月3日までの原油価格は、主要指標が軒並み下落。需給緩和の見通しが台頭した。特に米国原油を代表するWTI先物、および北海原油の指標となるブレント先物はそれぞれ、前週比5.03ドルと5.59ドルの急落となった。

世界銀行が、イスラエルとハマスの紛争によるエネルギー市場への影響は、現時点で限定的となっていると公表。また、米国はイスラエルに対し、人道支援のための一時停戦を要請した。ただ、紛争の悪化、拡大は引き続き懸念されている。

加えて、過去3週に亘り、米国の産油会社は高い水準の生産量を維持。米国の週間在庫は増加した。

需要面では、中国経済の回復が依然鈍いとの見込みが大勢。同国の10月の購買担当者景気指数は6カ月連続で下落し、石油消費減少の予測を強めた。

一方、米連邦準備理事会は金利の引き上げを一時停止。9月の消費者物価指数が3.7%となり、2022年6月のピーク時9.1%から大きく下落したことが背景にあるようだ。欧州中央銀行、およびイングランド銀行も金利を据え置きとし、景気の冷え込みに歯止めがかかる可能性が台頭した。ただ、価格の上方圧力にはならなかった。


【11月3日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=80.51ドル(前週比5.03ドル安)、ブレント先物(ICE)=84.89ドル(前週比5.59ドル安)、オマーン先物(DME)=88.22ドル(前週比2.11ドル安)、ドバイ現物(Argus)=88.04ドル(前週比2.13ドル安)

カーボンクレジット市場開設 マーケットメイカー導入へ


東京証券取引所は10月11日、カーボン・クレジット市場を開設し、政府が発行するJ―クレジットの市場取引が始まった。2026年度に導入する排出量取引(ETS)につながる施策だ。ETSの先駆けであるEUでの開始から18年がたつ中、西村康稔経済産業相は「遅く参入したがゆえに世界のさまざまな制度を参考にしながら最先端のものを作りたい」と強調。また「先行的に排出削減に取り組んだ企業ほど負担が少なくなる」と意義を説明した。

市場開設のイベントに登場した西村経産相

206者(18日時点)が参加し、20日までの8営業日で累計売買高は1万t―CO2を超えた。当面は6種類のJ―クレジットを扱い、今後はJCM(二国間クレジット)、GX―ETSでの超過削減枠、海外ボランタリークレジットと拡大していく。

また、マーケットメイカー制度を導入する方針だ。マーケットメイカーは、定められた時間帯に一定の価格帯で一定量の売り買い注文を同時に出す「気配提示義務」を負う。市場の流動性向上を目的に東証のETF(上場投信)市場などでも導入する。この仕組みが新市場の取引規模や価格帯にどう影響するのか。それを国内企業はもとより、各国関係者にどう受け止められるかが注目される。

脱炭素化で地元企業と連携 PPAで地域のニーズに応える


【北陸電力】

脱炭素社会の構築に積極的に貢献する北陸電力は、太陽光発電を軸にさまざまな事業を展開している。

地域の脱炭素化という共通目標を持つ北陸銀行に対して、オフサイトPPAによる電力供給が開始された。

エネルギー政策において2050年カーボンニュートラル(CN)の目標が掲げられ、各地で脱炭素社会構築の取り組みが本格化している。

地域の脱炭素化をリードする北陸電力は、企業や家庭の脱炭素化のニーズを踏まえて、さまざまな提案活動を実施。自社電源の脱炭素化にとどまらず、北陸地方の脱炭素化にも積極的に貢献することで、CNの実現に向けて大きな役割を果たそうとしている。

9月1日、富山市で「ほくほくソーラーパーク富山県大沢野(以下、ほくほくSP)」が運転を開始した。パネル容量3201kW、年間発電量は北陸銀行の北陸3県の店舗で使用する電気の25%に相当する約330万kW時。北陸電力ビズ・エナジーソリューション(北電BEST)が所有・運営し、電気は全て北陸電力が20年間、北陸銀行に供給する。太陽光発電によりCO2フリー電気を供給するオフサイトPPA(電力購入契約)のビジネスモデルだ。

ほくほくソーラーパーク富山県大沢野

ほくほくSP建設のきっかけは、昨年10月に北陸電力と北陸銀行が結んだCN推進に関する連携協定。北陸地方のリーダー企業の一つとして、金融で地域経済を支える北陸銀行は、地域でのCNの実現に熱心に取り組んでいる。地域の脱炭素化という共通目標で、北陸電力と方針が一致。電力側はエネルギーソリューション、銀行側はファイナンスソリューションと、それぞれ社内に蓄積されたノウハウやネットワークを最大限活用し、地域のCN実現の取り組みを支援する協定を結んだのだ。

ほくほくSPは協定の内容を実践する取り組みの一環。運転開始により北陸銀行は年約1600tのCO2を削減。北陸電力のPPAは発電所設置後、メンテナンスは北電BESTが行うことから、20年間にわたり、メンテナンスフリーでCO2フリー電気の安定供給を受けるメリットは大きい。

もちろん、経済面でのメリットもある。太陽光発電所の設置には多額の初期投資が必要になるが、北陸電力のPPAは初期投資が不要。また、ほくほくSPのように、使わなくなった需要家のグランドなどの遊休地や空きスペースを有効活用することで、事業全体のコスト削減が可能になる。

一方、北陸電力にとってPPAは、社会が脱炭素化に向かう中で、事業の柱の一つになり得るビジネスでもある。同社は専門チームが積極的な提案活動を行い、既に多くの実績を残している。

社会構造変革を経済復活の好機に 最大で最後のチャンスを生かす


【巻頭インタビュー】飯田祐二/経済産業事務次官

「失われた30年」と呼ばれ、国際競争力の低下と賃金の伸び悩みが続いてきた日本。

飯田祐二・経済産業事務次官は本誌の単独インタビューに応じ、日本経済復活への意気込みを語った。

いいだ・ゆうじ 1988年通商産業省(現経済産業省)入省。資源エネルギー庁総合政策課長、総括審議官、産業技術環境局長、エネ庁次長、経済産業政策局長兼首席エネルギー・環境・イノベーション政策統括調整官などを経て23年7月から現職。

 
―経済産業政策の課題は山積しています。事務次官就任に当たっての抱負をお聞かせください。

飯田 就任に際して職員へのあいさつで強調したのは、政策を結果につなげなければならないということです。そのために重要なのは、一つの政策を一定期間継続することです。人事異動の度に前任者の取り組みを引き継がず、新しいことを手掛けてしまうことがあります。それが良い面もあるのですが、東日本大震災以降、12年間バトンをつなぎながら、省として福島の復興に努めてきたように、継続しなければ結果は出ません。優先順位を付け、より結果を出すべき政策に重点を置くこと、組織の縦割りで役割分担するのではなく、省内外の関係する部局の力を結集させることにも注力していきたいと考えています。

―重点的に取り組むべき施策とは何でしょうか。

飯田 今、世界各国で産業政策を強化する動きが活発化しています。米国の「インフレ抑制法」がその一例ですが、GX(グリーントランスフォーメーション)、DX(デジタルトランスフォーメーション)を軸に、これまでにない規模と方法で各国政府が民間企業への支援を展開しているのです。わが国も、GX、DXによる社会構造変革を好機と捉え、経済の長期低迷から脱却するためにも、官は民を邪魔しないことに徹する従来型の新自由主義的政策ではなく、あらゆる政策手法を総動員した「経済産業政策の新機軸」の実行が求められています。


経済成長の好循環創出へ ミッション志向で政策推進

2021年11月に立ち上げた産業構造審議会の「経済産業政策新機軸部会」では、GXやDX、経済安全保障、成長志向型の資源自律経済の確立など、社会課題を解決するためのミッション志向型産業政策を通じた投資の拡大と国際競争力強化、それを実現するための人材やイノベーション、企業経営の在り方といった社会基盤(OS)の組み換えについて検討。2度にわたって中間取りまとめを行いました。5年くらいは継続するべきだと考えていますし、経済産業政策の新機軸を実行していくことにより、国内投資、イノベーション、所得向上の三つの好循環の創出を目指します。

福井県が関電の計画受け入れ 県内の「原発停止」回避へ


「前向きな先送り」(電力業界関係者)だ。福井県の杉本達治知事は10月13日、関西電力が公表した使用済み核燃料の搬出計画の受け入れを表明した。

同日、杉本知事は県庁で西村康稔経済産業相と面談し「一定の前進があった」と評価した。計画受け入れで「今年末までに中間貯蔵施設の候補地確定」という関電と福井県の約束はリセットに。福井県側が「約束」に固執しなかったことで、「県内原発の運転停止」という最悪の事態は避けられた。

報道陣の取材に応じる福井県の杉本知事(10月10日)
提供:朝日新聞社

中間貯蔵施設を巡っては8月、山口県上関町が中国電力と関電による建設可能性調査を受け入れたが、福井県政関係者は「上関町の件に触れなかったのが良かった」と語る。関電の計画受け入れに「上関町での計画が進展することを前提に」などと条件を付ければ、運転継続の新たなハードルになりかねないからだ。また計画は、発電所構内での乾式貯蔵施設設置の検討も盛り込んだが、県内保管の長期化につながると懸念する声も根強い。乾式貯蔵にまで踏み込んだ内容には、原発推進派の県議からも驚きの声が挙がっている。

いずれにせよ、バックエンド問題の要は六ヶ所再処理工場の早期完成だ。関電をはじめ、電力業界の底力が試されている。

電力の現場に自信と誇りを 山積する課題解決に全力投球


【全国電力関連産業労働組合総連合】

壬生守也/電力総連会長

DXやGX、2024年問題への対応などの課題に現場は何を思うのか―。

9月に就任したばかりの電力総連の壬生守也会長に聞いた。

―近年の電力政策をどう見ていますか。

壬生 各電力会社で置かれている状況は違いますが、共通課題は電力システム改革のひずみが顕在化していることです。電力システム改革は①安定供給の確保、②電気料金の最大限抑制、③需要家の選択肢や事業機会の拡大―の三点を目的に進められましたが、果たしてその目的は実現したのでしょうか。

今夏こそ猛暑の中でも安定供給が維持されたものの、昨年3月には福島県沖の地震の影響もあり関東圏を中心に大規模な需給ひっ迫が生じました。今冬も原子力発電所が稼働していない東日本をはじめ、安定供給には不安が残ります。また電気料金は国際情勢などの影響で燃料費が高騰、再生可能エネルギー賦課金も上昇傾向にあります。さらに需要家の選択肢こそ広がりましたが、昨今の新電力撤退により、旧一般電気事業者(旧一電)の最終補償供給契約が増加しました。このように電力システム改革の三つの目的は実現するどころか、むしろ国民の利益を著しく損ねていると言っても過言ではありません。


働く人の声を聞いてほしい デジタル時代も「人」が重要

―一部の電力会社ではカルテルや顧客情報の不正閲覧といった不適切行為が問題となりました。

壬生 労働組合としても、今回の事象は自由化の主旨や送配電事業の中立性に関わる問題として重く受け止めています。今後は、情報管理の適正化が行われ、法令遵守に向けた各事業者の取り組みを労働者の目線から確認したいと考えています。

また問題の根底には、やはり電力システム改革の影響があります。お客さま側も自由化されたという認識が薄く、電気のトラブルが起きれば「旧一電が対応してくれる」と思われている方が多い気がします。そんな中、現場の皆さんは全てのお客さまの問い合わせに丁寧に対応したいという気持ちがあり、閲覧できる状態になっていた他社の顧客情報を閲覧してしまったのです。一部では営業目的で閲覧した事例もありましたが、多くはお客さまからのお問い合わせに対応するためでした。

―所有権分離の検討が盛り込まれた規制改革実施案が閣議決定されるなど、さらなる規制強化を求める声もあります。

壬生 規制強化がプラスに働くのか、疑問を抱かざるを得ません。災害復旧などの公益事業に悪影響を与えないでしょうか。現場は「人」の営みで成り立っています。制度改革を行う際は、現場の声に耳を傾けてほしいと切に願います。

―そういう点では、政治への働きかけがより重要になるのではないでしょうか。

壬生 電力総連は国民民主党を支援し、組織内議員として浜野喜史氏、竹詰仁氏の両参議院議員を抱えています。国民民主党との連携はもちろん、各党との政策懇談会などを通じて幅広く政策を訴えていきます。

日豪経済会議の裏で吹いた隙間風 気候変動相の立ち振る舞いが象徴か


日本と豪州の経済人が一堂に会する日豪経済会議が10月8~10日、豪州メルボルンで開かれた。

過去最多の参加者を数えるほどの盛り上がりの裏で、両国の政府間には隙間風も吹き渡った。

今年で60年周年の節目を迎えた日豪経済委員会の合同会議。日豪合わせて600人以上と過去最多の参加者数となり、大変な盛況ぶりを見せた。

NTTの澤田純会長、三菱商事の中西勝也社長、国際協力銀行(JBIC)の前田匡史会長ら日本経済のかじ取りを担うキーパーソンが顔をそろえ、会議の重みが増した格好だ。一方で西村康稔経済産業相も現地に入り、豪州のクリス・ボーエン気候変動エネルギー担当相らと会談したものの、財界の盛況とは裏腹に、日豪政府の間に隙間風が吹いていた点が注目される。

提供:共同通信
記念撮影する西村氏、ボーエン氏(右端)ら閣僚4人

日豪経済会議は1963年に始まった。両国の地で毎年交互に開催する。新型コロナウイルスの感染拡大により、豪州での対面開催は5年ぶりとなった。日本側から300人超、豪州側から約300人が参加した。会議を主催する日豪経済委員会の広瀬道明委員長(東京ガス相談役)が財界の大物に自らトップセールスをかけ、通常の東京~メルボルン直行便の機体をビジネスクラス主体のものに替えたほどだった。


気候変動重視の労働党 ボーエン大臣は乗船せず

60周年の記念開催という祝賀ムードがある一方、ぎくしゃくしていたのは日豪政府の関係だ。

10月8日の朝、メルボルンからほど近い豪州の液化水素積荷基地があるヘイスティングス港に西村経産相が、さっそうと登場した。港には世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」が停泊しており、西村経産相のほか、日豪の政府関係者や産業界、学識経験者などが船に乗り込んだ。

しかし日豪が水素という新エネルギーを介し、将来にわたって友好関係を続けていく象徴ともいえる液化水素運搬船に、豪州政府のキーマンであるボーエン氏の姿はなかった。

豪州は、日本にとって重要なエネルギーの調達先だ。石炭の約6~7割、LNGの約4割が豪州である。しかし昨年、政権が労働党に交代すると関係性が変化した。労働党は気候変動対策を重視する政策を掲げ、化石燃料事業の課税を増やしたり、セーフガードメカニズムと呼ぶ温室効果ガスの排出抑制策を強めたりと、日本のエネルギー企業に厳しい策を次々と打ち出した。

かくいう「すいそ ふろんてぃあ」に関係するHESCプロジェクトも、やり玉に挙がっている。このプロジェクトは、ビクトリア州ラトロブバレーで産出される褐炭から水素を製造する。その水素を同州ヘイスティングス港で液化し、神戸市にある液化水素荷役実証ターミナルへ輸送する事業だ。豪州の現地企業と日本の川崎重工業が中心になり、エネルギー企業のJパワー、水素事業を手掛ける岩谷産業、丸紅や住友商事が参画している。

迫りくる第三次石油危機 イランとサウジの動向が鍵


 1973年10月の第一次石油危機発生から50年という節目の時期に勃発した、イスラエルとイスラム組織ハマスの軍事衝突。10月24日現在、イスラエル側はパレスチナ・ガザ地区への攻撃を強化すると警告しており、地上侵攻が秒読み段階とみられている。

第五次中東戦争の危機もささやかれる中、世界のエネルギー情勢への影響はどうなのか。原油価格の動向を見ると、WTIでは9月27日に1バレル91・3ドルまで上昇した後、いったんは80ドルまで下落したが、7日のハマスによるカザ地区攻撃を機に反転。24日現在は86ドル付近で推移している。果たして今後100ドル超えの高騰局面に突入し、ひいては第三次石油危機が起きる可能性はあるのか。複数の専門家は「サウジアラビアとイランの動きが鍵を握る」と異口同音に話す。

ガザ地区の病院空爆を受け、イスラエル批判を強めるイラン国民(10月18日)

10月中旬、サウジは米国が仲介するイスラエルとの国交正常化交渉を凍結したと報じられた。サウジのムハンマド皇太子は9月、交渉の妥結は「近づいている」としてパレスチナ問題を解決する必要性を強調していたが、10月10日に行われたパレスチナ自治政府高官との電話会談では、パレスチナ側を支える立場を表明したという。米国のバイデン大統領は、ハマスによるイスラエル攻撃の一因に同交渉を阻止する狙いがあったとの見解を示している。


緊張高まる中東情勢 戦争拡大で石油危機も

一方、サウジとイスラエルにとって共通の懸念材料もある。「イランの核武装」だ。今年に入り、海外メディアは「イランがウラン濃縮度84%を成功した」と報道した。ウラン濃縮を90%まで上げることができれば、核兵器製造が可能となる。これを危惧しているのが、イスラエルとサウジだ。

とりわけイスラエル側はイランが核兵器を保有する前に核関連施設を空爆すると警告してきた。「実はイスラエル・米国側はハマスのガザ奇襲を事前に察知していたものの、あえて阻止しなかったとの見方が浮上している。イラン空爆を開始する口実にしようという、いわば太平洋戦争時の真珠湾的な作戦だ」(エネルギー関係者)

ただ、①17日に発生したガザ地区の病院爆破、②19日の国連安全保障理事会に提出された「一時停戦」を求める決議案が米国の反対で否決、③ハマスが断続的に人質を解放へ―といった事態を受け、イスラエルに対する批判が中東はもとより国際社会からも強まり始めた。一方で日本を除くG7は22日、イスラエルの自衛権を支持する共同声明を発出。24日現在もイスラエル軍はガザ地区への激しい空爆を続けている。

「レバノンのヒズボラとイスラエルの交戦も悪化し、米軍が駐留するイラクやシリアでも緊張が高まっている。そんな中でイスラエルがガザに地上侵攻。今後イラン、サウジを巻き込んで大きな戦争に発展すれば、第三次石油危機は避けられない」(前出関係者)。石油の中東依存度95%超の日本も、他人事ではいられない。

【コラム/11月2日】第7次エネ基議論 エネミックスと部門別CO2目標排除の提案


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

第7次エネルギー基本計画が来年2024年にも策定されると見られている。

第6次エネルギー基本計画では、「30年に13年比でCO2などの温室効果ガス排出量を46%削減する」と言う無謀な目標がトップダウンで設定され、それに無理に数字を合わせたつじつま合わせが行われた。政治家も介入し、電源構成における再生可能エネルギー38%などといった数字が設定された。今、あらゆる政策措置がこういった数値に従って実施されている。

一応は、30年の数値は「目標」ではなく「見通し」であることになっている。すなわち、その説明をしている政府ホームページには、「エネルギー基本計画見直しで、『2030年度におけるエネルギー需給の見通し』も見直し」という段落の中で、「需給両面におけるさまざまな課題の克服を野心的に想定した場合、どのようなエネルギー需給の見通しとなるのかも示されました」と書いてある。

だが、その続きには、「30年度の新たな削減目標はこれまでの目標を7割以上引き上げるもので、その実現は容易なものではありませんが、エネルギーミックスの実現に向けて、あらゆる政策を総動員し、全力で取り組みます」とも書いてある。つまり数値は「目標」だと説明している。実際には「目標」として認識され運用されている。これが実態だ。

困ったことに、38%といった数字の設定は、技術的・経済的な検討が極めて不十分なままに行われた。このため、再エネ大量導入などに伴ってコストが膨大になり、電気料金はますます高くなってゆくことは必定だ。だが計画に数字が書き込まれているために、なかなかブレーキが利かない。

手本になる米国方式 独立機関の予測重視

そもそも国には将来のCO2排出量を決める能力はない。経済成長がどの程度になるかは予測できない。また、計画の実施段階になって、技術的な課題が克服できなかったり、立地問題に直面したり、経済安全保障の問題が浮上したり、経済的なコストが予想以上にかかったりする。将来のCO2排出量は本質的に不確実である。それにも関わらず数値目標を強行すれば多大な害悪が発生する。

これを除くにはどうすればよいか。米国が参考になる。

米国では、①あらまほしき目標を政権が決めるけれども、②その実施段階においては個別具体的な政策を是々非々で議会が制定し、③その結果としてどの程度のCO2排出量になりそうかは独立な機関が第三者的な立場から予測する――という3つのステップを踏んでいる。

米国の「国家気候タスクフォース」公式ホームページで確認しよう

米国大統領は以下の3点を公約している:

・30年に米国の温室効果ガス排出量を05年比で50~52%削減する。

・35年までに炭素汚染のない電力を100%にする

・50年までにネット・ゼロ・エミッション経済を達成する

そしてこの達成のためとして、インフレ抑制法、超党派インフラ法などの法律を制定している。しかし、米国政府として部門ごとのCO2排出量の内訳を決めるとか、発電部門のエネルギーミックス(電源構成)を定める、といったことはしていない。

その代わりに、エネルギー省(DOE)に属するエネルギー情報庁(Energy Information Administration, EIA)が、現行の政策に基づくとCO2排出量がどのようになるか、予測を発表している

その予測を見ると、前述の米国政府の目標はことごとく未達である! 

例えば、30年のCO2排出量は50%削減には程遠いし、35年の電力部門のCO2排出もゼロには全然なっていない。

EIAは「法律により、我々のデータ、分析、予測はいかなる米国政府の組織または人の承認を受けない独立なものである(By law, our data, analyses, and forecasts are independent of approval by any other officer or employee of the U.S. government)」としている。

政府がつじつま合わせのために鉛筆をなめて作る数字ではない、ということだ。

つじつま合わせ脱却へ 費用便益・リスク精査を

日本も、第7次基本計画においては、米国方式を取るべきだ。つまり、第7次基本計画からは部門別のCO2排出量の数値や、エネルギーミックスと呼ばれる発電部門の電源構成についての数値は除外すべきだ。

そして具体的な政策の導入にあたっては、それら政策の費用・便益・リスクを精査した上で妥当なものを選ぶ。

なお電力部門においては、かつてそうであったように、原子力などの大規模な電源や送電線については、全体としての需給の調整を図るために、国としての長期計画が必要だろう。

独立した機関による長期予測については、実はそれに準じるものが既にある。

日本エネルギー経済研究所は、IEEJアウトルック2023として、過去の趨勢に従った場合(レファレンスシナリオ)と、最大限技術を導入した場合(技術進展シナリオ)について、将来予測を行っている。

そして「技術進展シナリオ」においてすら、米国、欧州連合ともに30年のCO2削減目標は未達、とされている。

日本の30年目標も未達である! また50年の世界のカーボンニュートラルについても「実現には程遠い」とはっきり記してある。50年のCO2排出量は20年の半分程度に留まる。

これが現実だ。トップダウンで無謀な目標を立てても、実現不可能なのだ。それに向かってつじつま合わせをした数値目標に振り回されると、どこかで必ず破綻する。それを回避するための軌道修正が遅れるほど、無駄なコストがかさみ経済が疲弊することになる。

次期の第7次基本計画においては、部門別のCO2排出量や、エネルギーミックス(電源構成)の内訳の数字は除外すべきだ。それに代えて、日本エネルギー経済研究所などの研究機関が予測をすればよい。それは、経済成長や技術進歩などの不確実性を取り込めば、当然、かなり大きな幅を持ったものになる。これは米国EIAでもそうなっている。

そして将来予測に当たっては、これも米国EIAに倣い、政府の介入や承認を受けず、独立の専門機関として実施すべきだ。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。「亡国のエコ 今すぐやめよう太陽光パネル」など著書多数。最近はYouTube「キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志」での情報発信にも力を入れる。

【特集1/討論対論】EVシフトの将来展望と障壁 内燃機関の逆襲はあるか


車両価格や航続距離の短さなどEVには課題が残る。

一方で内燃機関は合成燃料の活用などで存続できるのか。

【EV】和田 憲一郎/日本電動化研究所 代表取締役

わだ・けんいちろう
三菱自動車に入社後、主に内装設計を担当。2005年に新世代電気自動車の開発責任者に任命されアイ・ミーブの開発に着手。13年3月同社退社し、15年6月から現職。

海外勢の進出加速で市場拡大 EVシフトは不可逆的な領域

①EVの長所と短所

ガソリン車とBEV(バッテリーEV)は1886年ごろ、ほぼ同時期に誕生した。その後、1908年にT型フォードが誕生し、それ以降ガソリン車が圧倒的な地位を占めてきた。約130年に及ぶ技術の蓄積により、内燃機関車はガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車(HEV)などが生み出され、現在でも、内燃機関車は自動車の主流であると言える。

一方、カーボンニュートラル(CN)の概念が広まるにつれ、自動車単体においても、温室効果ガスを出さないゼロエミッション車が求められるようになった。BEVのメリットとしては、①ゼロエミッション車(ZEV)である、②騒音、振動が少なく静か、③電気で走行するためエネルギーコストが安い、④V2H(ビークル・トゥ・ホーム)など非常用電源として活用できる―が挙げられる。しかし、①電池価格が高く、従って車両価格が高い、②1充電当たりの走行距離が短い、③寒冷地では暖房使用により走行距離が短くなる、④充電時間が長く充電インフラがまだ少ない―といったデメリットもある。

②世界のEV情勢をどう見るか

ロシアのウクライナ侵攻による商品・エネルギー価格の高騰など不安定要素が増大したが、それでも新エネルギー車の世界は順調に推移している。国際エネルギー機関(IEA)が発行した「Global EV Outlook 2023」によれば、昨年のBEVとプラグインハイブリッド車(PHEV)を合わせた新エネルギー車の新車販売台数は1000万台を超え、その比率は14%となった。また今年は前年同期比35%増の1400万台、販売比率は18%になると予測している。一方、HEVの世界販売台数は約350万台となり、対前年比で13%伸びたものの、21年よりBEVの販売台数がHEVより大きく上回っており、差が拡大してきている。

BEVおよびPHEVが伸展した要因として国・地域における環境規制強化が挙げられる。米国では昨年8月、米カリフォルニア州大気資源局が、35年までに同州で販売する乗用車およびライトトラックは、全てZEVにするという新たな規制を発表した。ここでいうZEVとはEV、PHEVおよび燃料電池車(FCEV)である。

さらにバイデン政権は昨年8月、「インフレ抑制法」を成立させた。その中に新エネルギー車(NEV)に関連する内容も含まれており、税控除は最大7500ドルとなる。控除条件として、北米生産、重要鉱物、電池要件などがあり、承認を得るため各種調整が続いている。


合成燃料は課題が多い 「アーリーマジョリティー」へ突入

一方、欧州委員会は21年7月、「Fit for55 Package」と呼ばれる包括案を公表した。この中にはガソリン車、ディーゼル車、HEV、PHEVも含めた内燃機関車の新規販売を35年に禁止する法案が含まれる。

中国では、カリフォルニア州のZEV規制を手本に制定された新エネルギー車規制が挙げられる。規制は今年までの予定だが、それ以降は改訂NEV規制に移行すると思われる。また工業情報化部、国家発展改革委員会、科学技術部が、25年までの自動車産業政策となる「自動車産業中長期発展計画」を公表し、産業振興を推進している。

③合成燃料(eフューエル)への考え方

合成燃料は課題が多い。例えば、使用する水素の純度問題、大気から直接回収したCO2の厳密さ、高価格となることが予想される点、製造時に多くのエネルギーを用いることから生じるライフサイクルアセスメント(LCA)の問題などである。実用化に当たっては、これらの課題解決が望まれる。

④日本にEV社会は到来するか

国際エネルギー機関(IEA)が指摘するように、今年にBEV+PHEVが1400万台レベル、新車販売比率の14%に達するのであれば、ワールドワイドで見た場合、イノベータ理論上ではアーリーマジョリティー(市場形成の初期段階にある製品を購入する消費者のグループ)に突入する。つまり、BEVシフトは不可逆的な領域に入るのではないか。日本においてはそこまで至っていないが、昨年はBEV+PHEVの新車販売台数が約9・5万台、21年の約4・4万台の2倍以上に達した。近年は中国のBYDやドイツ勢のBEV輸入も増加しており、今後もさらなる拡大が予想される。EVシフトの波は早かれ遅かれ日本に到達し、普及段階に入るものと予想される。

【特集1】EV・合成燃料時代にどう対応? インフラ事業者の戦略に迫る


EVの普及が進展する一方で、合成燃料の実用化も視野に入ってきた。

充電インフラとSS、それぞれの事業者に脱炭素時代への取り組みを聞いた。

【インタビュー①】丸田 理/CHAdeMO協議会 事務局長

充電インフラ整備は極めて順調 料金適正化や信頼性向上が課題に

―日本のEV市場をどう見ていますか。

丸田 国内市場は昨年、日産が軽EVサクラを発売し、海外勢も中国のBYDや韓国のヒョンデなどが相次いで進出しました。市場の成長は加速するでしょう。

今後、EVは都市部や地方問わず満遍なく普及するとみています。特に地方の場合はサービスステーション(SS)の数が減り、隣町まで車を走らせなければ給油できない地域も存在します。こうした点で、自宅で充電できるEVには圧倒的な優位性があります。サクラの売り上げも好調ですが、軽EVの車種が増えれば普及は一段と進むでしょう。一方、大都市圏ではテスラを筆頭に海外メーカーのEVも普及すると思われます。

海外に比べ日本の充電インフラは信頼性が高い

―ほかにEVの強みは?

丸田 災害時のレジリエンス機能です。2018年の胆振東部地震では北海道電力管内でブラックアウトが発生しましたが、Ⅴ2H(ビークル・トゥ・ホーム)によって数日間の電力を供給できた事例があります。また11年の東日本大震災ではガソリンの供給不安が発生し、SSに長蛇の列ができましたが、日産のリーフや三菱のアイ・ミーブなどのEVが被災地に送られ、復興活動で活躍した実績もあります。

―国内充電インフラの整備の現状を教えてください。

丸田 極めて順調に進んでいます。日本はこれまで、空白地帯が生まれないよう、全国規模で面的な整備を進めてきました。高速道路では数十㎞おきに、一般道ではほぼ全てのカーディーラーが充電器を設置しています。SSよりも充電器を探す方が簡単な地域もあるほどで、諸外国と比べても面的なカバー率や設備の可用性は高いレベルにあります。

―課題はありますか。

丸田 料金体系の適正化が課題の一つです。現在、急速充電の料金体系は充電時間に応じた時間制課金が主流ですが、車や充電器の性能でサービスに格差が生じています。そこで22年に計量法に関する規制緩和が行われ、充電器の計量機能を取引に使えるようになりました。ただ急速充電器の出力は10~150kWとさまざまで、車載電池の性能によっても充電可能な出力が変わります。今後は各事業者が利用実態に応じて時間制課金と従量制課金を併用するなど、柔軟な料金設定が求められています。

―CHAdeMO(チャデモ)協議会としての課題は?

丸田 欧州と北米は法的な規制でCCSという充電規格の採用を義務化している国・地域が多く、チャデモ対応の車種が増えることは考えにくいです。当然、日本メーカーも欧州・北米向けにはCCS対応車種を製造しており、チャデモの欧州や北米への浸透は厳しい状況にあります。

―今後はどのような取り組みを展開しますか。

丸田 アジアを中心にEV市場の拡大を見込む地域では、チャデモの強みを生かせると考えています。例えば、Ⅴ2Hなど双方向の給電機能を製品として実現できている規格は世界でチャデモだけです。電力系統機能が弱い新興国などでは、V2Hが系統の安定に寄与する可能性も秘めており、積極的にアピールします。

国内で最優先に取り組むのは、信頼性の維持です。現在、EVの車種が増えたことで不具合の件数が増えています。中でも、海外メーカーは自国の製造拠点でチャデモの精密なテストを行うことが困難なケースもあります。そこで11月に三重県でマッチングテストセンターの運用を開始し、車両の市場投入前にテストを行える環境を整備します。海外では充電器の故障や稼働率の低さが問題となっていることもあり、信頼性という点で日本がロールモデルとなることは、チャデモの海外普及という点でも重要だと考えています。

まるた・おさむ  1981年東京理科大学工学部卒業、富士通入社。89年東京電力入社。電力制御システム開発に従事。2009年CHAdeMO協議会設立準備会の設置を機に同事務局業務に従事し現在に至る。