【多事争論】話題:電力卸取引の実態調査
公正取引委員会が、『電力分野における実態調査報告書~卸分野について~』を公表した。
今後の卸取引の在り方への影響について、業界人はどう見ているのか。
〈 実態に踏み込めない規制当局 薄まる自由経済色に懸念 〉
視点A:阪本周一/公益事業学会会員
公正取引委員会が1月に公表した報告書は、「電力分野の概要」、「課題」、「考え方」に分かれている。「概要」は経緯の振り返り、「課題」は発電会社の卸売り(内外無差別オークション、常時バックアップなど)に関わる個別論点の分析、大手発電事業者、新旧小売事業者のヒアリングの紹介であり、客観的ではある。「課題」の出口になる「考え方」、そしてそもそもの「課題」の切り口について疑問に思う点を本稿では述べる。
まず、「相対契約における契約条件の是正」に関し、各種の取引制限条項(転売禁止、供給エリア制限、数量上限設定)について、公取委は独占禁止法抵触の可能性ありと言い切った点が注目される。与信管理に関し基準緩和、明確化を求めている点も含め、「電源アクセス無差別を前提にすれば」妥当だ。ただ、多くは電力・ガス取引監視等委員会の議論を経て既に対応済みで、この時期の報告に付加価値はない。
経過措置規制料金については、「電取委は、規制料金が障害となることが確認された場合には、是正に向けた検討を行うことが望ましい」と正しく分析しているが、証文の出し遅れである。2022~23年の規制料金審査時に同じく内閣府外局の消費者庁が料金値上げ幅圧縮のために電取委に働き掛けをしていた際、声を上げるべきだったし、小売各社が旧一般電気事業者の逆ザヤ料金前提の販売攻勢に苦戦している現時点でも即時対応を求めるべきだ。逆ザヤうんぬんとは別に、直近規制料金審査には公取委方針の「人件費上昇の販売価格への適正転嫁」と真逆の「人件費上昇否認」が織り込まれていた。この点の黙認だけでも組織の存在理由が問われる。
公取委報告の独自性は、「持続的な競争環境確保のため」として「旧一電の発電・小売り両部門の別々の会計報告」、「発販分離」の推奨にある。私企業の組織分離は私企業自身の決定事項で、政府が促すのは自由経済では不適当である。歴史的に公権力と距離が近かった電力産業相手でも、政府が何でもできるわけでない。
既に電取委主導で卸取引の内外無差別オークションが進んでいるが、発電側が設定する取引条件を見れば、小売り側にリスクを振り切ったものばかりで、活用できるのは旧一電の域外小売りと大手ガス会社くらいと見る。特に、与信管理において契約期間全支払額への第三者保証差し入れの要求が所与になっている点が厳しい。保証提供者確保は不可能だ。新プラント建設があるわけではないので要求過大だが、電取委も公取委も外形完成は気にかけても、実態には踏み込まない。



