【中国電力 中川社長】信頼回復に努めるとともに市場リスクを低減・回避し経営体質の強化を図る


コンプライアンスの強化、収支・財務状況の改善など、大きな使命を背負い、6月に社長に就任した。

再エネ、原子力、火力を最適に組み合わせ、エネルギーの脱炭素化を図ると同時に、市場変動リスクに左右されにくい経営体質を目指す。

【インタビュー:中川 賢剛/中国電力社長】

なかがわ・けんごう 1985年東京大学工学部卒、中国電力入社。2017年執行役員・経営企画部門部長(設備・技術)兼原子力強化プロジェクト担当部長、21年常務執行役員・需給・トレーディング部門長などを経て23年6月から現職。

志賀 前社長の退任を受けての就任となりました。課題山積ですが、まずは経営トップとしての抱負をお聞かせください。

中川 公正取引委員会からの排除措置命令などをはじめ、一連の不適切事案の発生について、お客さまや関係者の皆さまに多大なるご心配、ご迷惑をお掛けしたことについて深くお詫び申し上げます。その原因には、競争環境下で行う業務に対する意識改革ができていないことなど、長期的に取り組むべき課題がありますので、私が先頭に立って再発防止策にしっかりと取り組み、信頼回復に全力を挙げていきます。

もう一つ、取り組まなければならない重要課題が、財務体質の改善です。過去に例を見ない火力燃料の価格高騰により多額の燃料調整の期ずれ差損が生じたことで、2022年度には過去最大の最終赤字に陥りました。今期は収支が回復したように見えますが、前期とは逆に、燃料価格が低下したことにより、多額の期ずれ差益が生じることが主な要因です。

低圧の規制料金を含めた料金見直しにより、ようやく収支・財務状況の改善に向けたスタートラインに立つことができたとはいえ、島根原子力発電所2、3号機はいまだ稼働しておらず、燃料・電力市場価格の変動による収支悪化リスクを抱えている状況に変わりはありません。電源事業本部や需給・トレーディング部門での経験を生かしながら、原子力を含む自社電源の安定運転によるバランスの取れた電源構成を構築するとともに、市場リスク管理を徹底しつつ、デリバティブなどの金融手法を活用することで、市場の変動リスクに左右されにくい経営体質の強化に努め、安定的な収支・財務基盤の構築を目指します。


内部統制強化委設置 信頼の維持を目指す

志賀 9月28日には、公取委に対し処分の取り消しを求めて東京地裁に提訴しました。

中川 事実認定と法解釈において、当社と公取委との間で一部に見解の相違があることから、公取委が独占禁止法違反であると認定した各命令の全部の取り消しを求める訴訟を提起したものです。当社としては、独禁法への抵触を疑われてもやむを得ない事案を起こしたことへの深い反省のもと、再発防止策を着実に実施しつつ、公正な判断を求めていきます。

志賀 内部統制強化委員会を立ち上げた狙いは。

中川 これまでも再発防止に取り組んでいましたが、経済産業大臣からの業務改善命令を受け、外部のアドバイスをいただきながら客観性の高い取り組みにつなげていくために設置しました。信頼回復を果たし、それを維持・継続することはもちろんのこと、電力システム改革の変遷に合わせて内部統制の在り方も変わっていきますので、その変化に合わせ改革し続けます。

【マーケット情報/10月27日】原油反落、需要鈍化への警戒感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油市場はすべての指標が前週から下落。世界経済の先行き不透明感から原油需要が鈍るとの見方が強まった。

先週発表となった米国第3四半期GDP成長率は市場の予想を上回る4.9%となり、2021年後期以来の高い水準を記録。この結果から、インフレ抑制のため同国で長期金利をさらに上昇させる可能性があるとの懸念が台頭している。また、中国経済が鈍化していることも需要後退の見方が強まっている一因だ。

国際エネルギー機関(IEA)は先週、2030年の原油需要見通しを下方修正。原油需要は少なくとも2050年まで徐々に減少すると予想。

さらに、先週米エネルギー省(EIA)から発表された週間原油在庫統計は、輸入量の増加と出荷の減少から、前週比140万バレル増を示し、米国原油の指標となるWTI先物価格の下方圧力となった。

一方、中東地域では、米国がシリア東部で空爆を決行。情勢悪化による中東産原油の供給不安が強まるも、価格の支えには至らなかった。


【10月27日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=85.54ドル(前週比3.21ドル安)、ブレント先物(ICE)=90.48ドル(前週比1.68ドル安)、オマーン先物(DME)=90.33ドル(前週比3.13ドル安)、ドバイ現物(Argus)=90.17ドル(前週比3.77ドル安)

【コラム/10月30日】原子力の日に考える~原点は大量エネ供給期待、今も変わらず


飯倉 穣/エコノミスト

1,平和利用演説が淵源

60年目の「原子力の日」を迎えた。アイゼンハワー大統領の国連原子力平和利用演説から70年、そして原子力予算計上から69年である。 

今年もメッセージがあろう。「本日、10月26日は原子力の日です」。そして解説「原子力の日は、1963年(昭和38年)、日本原子力研究所の動力試験炉(JPDR、出力12,500Kw)で、日本が初めて原子力による発電に成功した日で、また56年(昭和31年)に日本が国際原子力機関への加盟を決めた日である」と(日本原子力研究開発機構)。

今日も原子力利用は注目度高く、政治・経済・社会且つ報道手合いの課題がつきない。「核ごみ調査 根強い反発 寿都町議選反対派の得票49%」(朝日23年10月5日)、「社説 原発支援強化 経済性があったはずでは」(朝日同8月28日)、「原発処理水 放出を開始「廃炉」目標まで30年 デブリなど難題」(日経同8月25日)、「最古の高浜1号機再稼働 原発「長期運転」幕開け」(日経同8月17日)等々である。

内容は、経年使用の原発再稼働の安全性、福島第一原発の廃炉、放射性廃棄物の中間貯蔵・最終処分、原発の経済性等である。原子力批判の声も続く一方、内外情勢対応で原子力期待も強い。何故か。敗戦後経済推移から、エネルギー源としての原子力開発を考える。


2,何故原子力開発に熱中したか

原子力開発の背景に、国内経済・エネルギー資源事情そして国民生活の推移がある。

第一に敗戦後エネ不足体験である。1940年代後半(敗戦後)の経済である。国民はタケノコ生活、「家計は赤字 貯金引き出し、財産を売る、人から金をかりるかもらう」。家庭用燃料は、戦前比(昭和5~11年=100)、木炭65、薪66、練炭豆43である。鉱工業部門の生産は、戦前比(昭和10~12年同)終戦直後1割、21年9月3割の後,22年4月3割弱で停滞。生産不振原因は、設備の不足、労働力の不足でなく、第一に原料及び石炭、電力の不足であった(「経済実相報告書(第一次経済白書)」47年7月)。

故に傾斜生産(46年12月以降)となる。敗戦後の飢餓を乗り越え、ドッジライン(49年3月:縮小均衡調整)不況後、朝鮮戦争特需好況(50~52年:ガチャマン景気)で一息、サンフランシスコ条約で独立(52年4月発効)。そして53年停戦不況、54年不況(吉田デフレ予算で経済均衡努力)を乗り越えた。

日本経済は、復興一段落ながら、経済拡大願望の下で国内エネ事情は先行き見通し難であった。そこにアイゼンハウアー大統領の国連演説(原子力の平和利用提唱)があった(53年12月8日)。核分裂性物質の共同管理等に加え、核分裂性物質の最も効果的な平和的利用の探求を提唱した。独立後の日本に原子力開発が現実となった。


3,国内エネ事情、将来展望描けず

55年当時の我国のエネ事情は、切実だった。主力の石炭生産の頭打ち、水力開発の立地難に直面する。経済に必要なエネ需給で各国同様、第二の産業革命を招来しそうな原子力の平和利用に期待が集まった。当時電力で、水力発電、火力発電、地熱発電、風力発電、潮力発電、原子力発電の検討があった。原子力は、昨日までの夢扱いから正夢となる。

原子力平和利用国際会議(55年)で、日本代表は、政府試算を紹介した。わが国のエネルギー需要は、石炭換算75年2億トンで5000万トン不足、2000年4億トンと推定すれば、国内炭、包蔵水力の限界、消費効率の向上、新エネの獲得だけで間に合わず、原子力の開発を期待したいと。エネ不足を補う有力候補であった(「エネルギー読本」動力新聞社55年12月参照)。

次代を創る学識者/伊藤弘昭・富山大学 学術研究部工学系教授


瞬間に大電力を生み出すパルス電力を研究し、産業分野での活用拡大を目指す。

競争が加速するEVへの無線給電技術での活用に向け、研鑽を積んでいる。

工学系の中でも、電力インフラに必須である強電系(高電圧)の専門家は減少傾向にある。この分野で、特に大電力を瞬間的に発生させるパルス電力の研究を続けるのが、富山大学の伊藤弘昭教授。100V程度の電圧でコンデンサーなどにエネルギーをため、短時間で放出すると、マイクロ~ナノ秒単位では日本の総発電電力量(数千億kW時)程度もの高出力エネルギーを生み出せる技術だ。

パルス電力の新たな用途として、走行中EVへの無接触給電での活用を目指す。EV社会につながるホットな分野であり、電気工学研究の発展に向けて電気事業連合会が運営する「パワーアカデミー」の研究助成に一時採択されていた。伊藤氏は「パルス電力技術の産業利用の研究は十分ではなく、さらなる進展が期待できる。根本的には強電系の技術者が増えることが重要であり、そこにつながるような成果を示したい」と強調する。

無線給電は、給電装置側のコイルから車体側のコイルへと電力を送る仕組みだ。ここで今主流になりつつあるのが磁気共鳴方式。音さのように、同じ周波数で振動する二つの物体を近づけ、片方を振動させるともう一方も勝手に振動する現象を指し、両者の位置が多少ずれても充電できる点が長所だ。

EV給電技術に風穴を 傍流での成果目指す

他方、伊藤氏の研究する手法は電磁誘導で、二つのコイルを近づけて一方に電流を流すと磁束が発生。これを媒介に、もう片側にも起電力が生まれる現象だ。こちらでは二つのコイル位置をぴたり一致させる必要があるが、「パルス電力なら両者がすれ違う一瞬にエネルギーを送れるのではないか」という狙いだ。逆に磁気共鳴では大電力を送ることはできない。

模擬実験では、パルス電力を用いれば横の位置ずれは大きな問題ではないことを確認。「これまでに、時速100㎞程度なら条件が合えば効率良くエネルギーを転送できることを示し、原理は確立できた」(伊藤氏)。今後は車体を用いた実験を目指し、高さのずれやコスト面などの課題の解消を図る。乗用車以外に、ディーゼル車を用いる鉄道の電化などで研究成果を生かせる余地があると考える。

社会のためになる功績を残したいとの思いを抱き、大学では電気電子工学を専攻。卒業研究で自作したプラズマ加速器に愛着を持ち、高エネルギー物理の道へ。指導教授は、超高温プラズマを対象とする核融合を研究するなど、エネルギー産業分野との縁もあった。自身が大学教員となり、富山大に移ってからは研究テーマが少し変わり、パルス電力技術を用いたプラズマ応用を専門とするように。さまざまな巡り合わせで今の研究につながっていると振り返る。

「まずは『EV給電に電磁誘導』という風穴を開けたい。また、現在ではベンチャーも立ち上がりつつある核融合への興味もある」。次世代に欠かせない研究分野に、もう少し日が当たることを願い、引き続き研究にまい進する考えだ。

いとう・ひろあき 1998年3月、宇都宮大学大学院工学研究科博士後期課程物性工学修了。博士(工学)。同大学大学院工学研究科助手、富山大学大学院理工学研究部助手、同助教、同准教授、同教授を経て、2019年10月から現職。

各社がテスラ規格を採用 NACSの課題とは


【どうするEV】箱守知己/CHAdeMO協議会 広報部長

フォードとゼネラルモーターズ(GM)に続き、メルセデス・ベンツと日産自動車が2025年からテスラが提唱する充電規格・北米標準充電規格(NACS)の導入を決めた。メディアで盛んに伝えられたため、覚えている方も多いだろう。

充電規格で勝った、負けたと何とも騒々しい。たしかに自動車メーカー(OEM)や充電器メーカーにとっては勝負だろうが、規格の策定と研究を行うわれわれのような団体は、そうした喧騒に違和感を覚える。なぜなら、充電規格の良し悪しは、結局のところユーザーの要望とOEMの戦略の組み合わせで決まるからだ。

テスラ規格の採用で利便性は高まるのか

今回、北米の急速充電規格CCS1がOEMに見放された大きな原因は、その稼働率の低さ(=故障率の高さ)にある。実際に6月、同僚がカリフォルニア州でいくつもの充電ポイントを回り、CCS1の実情を確認してきた。体験談はこんな感じだ。

充電ガンが物理的に破損していたり、画面が壊れていて操作できなかったり、カードで認証ができなかったり……と、まぁ散々だった。画面は操作できないが、アプリからは充電できたという混乱もあった―。

言うまでもないが、電気自動車(EV)の普及にとって、確実に充電できるインフラ設備の維持は必須。CCS1は稼働率の低さが命取りとなった。

さて、ご存じのようにNACSは、テスラの独自規格を基に作られている。だが、アメリカの民間規格である自動車技術者協会(SAE)が6月、NACSを標準化すると声明を出しているとはいえ、国際電気標準会議(IEC)や米国電気電子学会(IEEE)といった国際規格を満たしていないのだ。つまり、NACSはまだ世界から認められておらず、これから解決すべき点があることを意味する。

果たして、NACSの採用でバラ色の未来が訪れるのだろうか。結論から言えば、テスラがこれまで提供していたようなユーザー体験は得られない可能性がある。

特に多くの人がNACSで手に入ると夢見ているプラグ・アンド・チャージ(PnC、認証操作をせず、充電ケーブルを挿すだけで充電が可能)について言えば、テスラの場合はこれまで「充電サービス会社(CPO)×充電器×EV」の3要素が自社内で完結していた。これは数式にすれば「1×1×1」で、通信にかかる負荷も軽く済み、システムの動作検証も比較的容易で、結果的に迅速な充電が可能だったのだ。

ところが、フォード、GM、リビアン、ボルボなど多種多様のEVがNACS充電器につながるとなれば、3要素の数式は「n×n×n」に変わる。しかも、電力線通信(PLC)での通信だから、安定かつ迅速にできるか疑問が残る。PnCが「こんなに待たされるの?」と失望されないか心配だ。今後はテスラの技術力が試されることになるだろう。

はこもり・ともみ NHK、東京都、国立大学に勤務後、2022年4月から現職。主にアジア地区の広報を担当。「EVsmart」ブログチーム所属。EVオーナーズクラブ副代表を務め、EVとの関わりは12年目に。

【源馬 謙太郎 衆議院議員 立憲民主党 国際局長】 「現実的なエネルギー政策を」


げんま・けんたろう 1972年生まれ。静岡県浜松市出身。96年成蹊大学卒業。98年米センターカレッジ卒業。2000年米アメリカン大学修士号取得。01年NGO日本紛争予防センター(現・REALs)職員、05年松下政経塾入塾を経て、17年の衆議院総選挙で初当選(比例東海ブロック)。21年小選挙区で当選(静岡8区)。当選2回。

カンボジアでの紛争解決活動、松下政経塾を経て政界へ進出した。

立憲民主党のイメージ刷新へ、若手・中堅議員と連携。マクロな視点での政治を訴える。

実家は静岡県内で「源馬の塩辛」として愛される老舗塩辛屋。浜松市で生まれ育ち、成蹊大学法学部を卒業。当時は国連などの国際機関で働きたい思いがあった。アメリカ留学で国際関係学を専攻すると、国際平和と紛争解決学に関心を持つようになり、帰国後は紛争予防に関わるNGO、日本紛争予防センター(現・REALs)に入社した。外務省からの外部委託専門家としてカンボジアに赴き、小型武器回収プロジェクト立ち上げなど平和活動に尽力してきた。

「1万2000丁を超える武器を回収し、活動に自信を持っていた。しかし武器はそれ以上にカンボジアに入ってきた。世の中の仕組みを変えなければ、平和な社会は実現できない」。世の中の仕組みを整える政治家を志すと、松下政経塾に入塾。静岡県議を経て国政に打って出た。静岡8区は文部科学相、自民党総務会長などを歴任した塩谷立議員が、長年にわたり議席を守っていた。12年の衆院選立候補から有権者一人ひとりに声をかけ続け、少しずつ支持を広げると、17年には比例東海ブロックで初当選。21年には小選挙区で勝利を果たした。「私の世代は企業での働きに加え、子育てや親の介護を抱えるど真ん中の世代。同じ課題を持った有権者から思いを託してもらった」と自身への期待を分析。日本の中核を担い、社会のリーダーとして働く同世代の声を届けたいと話す。

国会議員としては予算委員会に所属。党首討論と並んで与野党における国会論戦の花形だが、批判によるパフォーマンスではなく、政策による論戦が重要だと語る。これまでの海外経験を生かし、政府外交の考え方も野党として追求。NGO活動を行ってきたカンボジアを例に挙げ、公正な選挙が行われないカンボジア与党独裁政権に対し、日本政府がODAによる多額の支援を続けていると苦言を呈した。日本外交について「はっきりしたスタンスを示さず、間違ったメッセージを与えかねない場面がある」と警鐘を鳴らす。

洋上風力公募の入札疑惑を追及 政治との癒着を痛烈に批判

エネルギーについては「自前のエネルギーを確保すること」「環境にとって持続可能なエネルギーであること」の2点を重視する。エネルギー確保の観点では、多様な供給先の確保と安全保障の重要性を指摘する。22年には立憲民主党国際局長としてドイツ大使館と面談。欧州のエネルギー政策について意見交換を交わしてきた。「再生可能エネルギーの活用を優先するドイツ『緑の党』でも、原子力発電所の再稼働を認めるなど、現実的なエネルギー政策を行っている」。ウクライナ情勢によるエネルギー危機を前に、環境政策を重視するドイツが、ロシアからのエネルギー依存脱却に原発再稼働という現実的な選択肢を取った点を評価。エネルギーを一国に依存せず、バランス良く確保する政策は日本も見習うべきだと話す。

サステナブルの観点では、浜松市が日本全国でもトップクラスの日照時間を誇るため、太陽光発電に注目、期待を寄せている。また、車社会である浜松市出身として、日本が技術的優位性を持つハイブリッド車(HEV)、合成燃料の活用推進を呼びかける。そのほか、2月の予算委員会では、洋上風力発電の入札制度に関する疑惑を追及。衆議院議員の秋本真利容疑者による入札の評価基準見直しまでの流れを問いただした。洋上風力事業は自国産エネルギーの確保につながるとして、企業参入を推進する考えで、一連の騒動については「政治家が介入し、ルールを勝手にねじ曲げることはあってはならない」と痛烈に論じた。今後は洋上風力で利益を得る国民、消費者がどう受け止めるかが大事だとして、マイナスのイメージを払しょくするために、政府による丁寧な説明が重要になると話す。

座右の銘は「一燈照隅、万燈照国」。天台宗の最澄が説いた言葉として知られており、隅を照らす小さな光でも、集まれば国全体を照らすことができるという意味を持つ。その座右の銘を具現化するのが、自身が事務局長を務める立憲民主党内の派閥「直諫の会」(会長・重徳和彦衆議院議員)だ。

党内の若手・中堅議員が集結し、将来世代のため医療制度改革、年金制度改革などの政策を提言する。先日、メンバー15人による共著「どうする、野党!?」の出版を発表し、批判ばかりと言われがちな立憲民主党イメージの刷新を訴えた。

「現在の立憲民主党は、旧民主党系列ではない4期生以下の議員が全体の6割を占める。政策で与党と対決できるよう、野党第一党として立て直しを図りたい」。保守・リベラル、改憲・護憲と言った色分けにとらわれず、マクロな視点で政治を行うことが目標だ。確かな実務で党の未来を担う政治家として、これからも愚直に政策を訴えていく。

カーボンオフセットLPG 導入で企業の脱炭素を支援


【エネルギー企業と食】富士瓦斯 × キッチンカー

LPガスを消費することによって発生するCO2を、カーボン・クレジットを用いて相殺(オフセット)し、排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルLPガス。富士瓦斯では「フジガス・カーボンニュートラルLPガス(FCN―LPG)」の導入を推進し、環境問題に積極的に取り組む企業に対して、法令準拠した環境対応型LPガスの販売に乗り出している。

この事業について、萩尾幸之経営企画本部長は「最初にお声をいただいた案件は山梨県河口湖の『音楽と森の美術館』。テラス席へのパラソルヒーターの設置だった」と振り返る。導入したFCN―LPGは、2021年5月に山梨県から、初めて森林由来クレジットを調達した通称「富士山LPG」と呼ばれるものだ。河口湖での導入を皮切りに、都内店舗や六本木ヒルズ内で営業するレストランなどにも設置した。

企業からは「J―クレジットなど法令に準拠した信頼性の高い認証を求めていた」(萩尾本部長)として、高い評価を得ている。

8月1日には、ファミリーレストラン「デニーズ」などを手掛けるセブン&アイ・フードシステムズと連携し、同社が運営するキッチンカー「なないろ食堂」へFCN―LPGの供給を開始した。キッチンカーのカーボンニュートラル化は社内でも初の試みとなる。

コンロやフライヤーなどのLPガス調理機器の燃料にFCN―LPGを使用し、キッチンカー2台で年間約1tのCO2排出量実質ゼロを実現するという。「キッチンカー事業はまだ始まったばかりだが、今後も供給を拡大していく。将来的にはデニーズなどへの店舗供給も進めたい」(萩尾本部長)と展開を見据えている。

キッチンカー2台で年間約1tのCO2実質ゼロを実現
提供:富士瓦斯

FCN―LPGは、富士山LPGのような森林由来の商品をはじめ、再生可能エネルギー由来の商品、LED化による省エネ由来の商品をそろえた。脱炭素や環境保全に関する意識が高い企業のニーズに対応するためだという。

FCN―LPG導入促進の先にあるのは、カーボン・クレジットに関する手続きを一括でまとめるサービス「フジガス・カーボンニュ―トラルプラットフォーム」の構築だ。

今後はメーカーの脱炭素支援だけでなくカーボン・クレジットの創出や、地域ガス会社との連携など、地域活性化の一助も担う考えを示す。オフセットを脱炭素最後の手段だけではなく、ビジネスモデルとして進めるため、富士瓦斯の取り組みはこれからも続く。

世界各地で記録的猛暑 気候変動政策をどう考えるか


【多事争論】話題:猛暑と気候変動政策

今夏は世界的に「観測史上最も暑い夏」などと大きく報じられた。

その受け止めと今後の国際・国内政策について、専門家からはさまざまな意見が挙がる。

〈 温暖化の寄与はどれほどか 突発的気温上昇の分析が重要 〉

視点A:杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

今年の夏の猛暑を、メディアは例によって温暖化のせいにした。さすがにあからさまには言わず、「温暖化の影響があると考えられる」だの「温暖化が進むと猛暑が常態化する」などと報じたようだが、要は温暖化のせいにしたいらしい。そして、「だから脱炭素を急げ」となるが、この言説は完全に誤りだ。

まず、猛暑は温暖化のせいではない。温暖化はわずかすぎて感じることすらできない。温暖化はCO2の蓄積によってゆっくり起こる。日本の平均気温は100年当たり0.7℃程度上昇した。30年間程度の期間であれば0.2℃程度となる。0.2℃といえば、わずかすぎて体感は不可能だ。よく「××で最高気温40℃」という報道があるが、地球温暖化の寄与はいかほどか?もし過去30年間に地球温暖化が無ければ39.8℃であった、というだけのことだ。40℃の猛暑の原因は主に自然変動や都市化であり、地球温暖化はわずかにその温度を上げているに過ぎない。それを大げさに取り上げるのは偽情報だ。

その自然変動であるが、今夏の気圧配置は特殊だった。気象庁によればこの夏(6~8月)の平均気温偏差(1991~2020年までの平均との差)は北海道で3.0℃、東日本で1.7℃、西日本で0.9℃であった。

なお、自然変動は歴史的にも大きかった。日本の縄文時代は温暖で、特に北海道や東北が暖かかった。それで縄文文化が発達し三内丸山(青森県)などに巨大遺跡ができた。当時はロシア沿海州や中国東北地方も気温が高かった。湖底地層のプランクトンや花粉を分析すると、当時の年平均気温が現代よりも2℃以上高かったという研究結果がある。

「地球沸騰」は非科学的 脱炭素達成でも気温低下はわずか

さて、この夏は地球の平均気温も高かったと報道されている。ということで衛星観測データを見ると、上空(対流圏)の8月の平均気温偏差(同)は0.68℃だった。これはかなり高いが、やはり人間が感じるにはぎりぎりの気温差である。この夏はイタリアなどでの猛暑がよく伝えられたが、地球全体が暑かったわけではない。暑いところがあれば寒いところがあるのが地球の気象である。欧州でも英国やベルギー、ドイツで寒い日が多かった。ゴルフの全英オープンのテレビ中継を見ると、暗くて寒い実に英国らしい夏だった。どこかで猛暑だとメディアは騒ぐが、大抵は局所的で、まして温暖化のせいではない。

今夏の気温が地球規模で見て高かった理由は、今、盛んに議論されている。大気・海洋の自然変動、トンガの海底火山・フンガトンガの噴火、船舶燃料の公害対策、太陽活動の活発化などが検討されている。CO2による変化はゆっくりだから、今回のような突発的な気温上昇には別の理由がある。

自然変動に次いで大きいのは都市化の影響である。東京は過去100年で3℃気温が上昇し、このうち2℃以上は都市化によるものだ。東京以外でも1~2℃上昇したところはざらにある。局所的にも、気温を変える要因は多々ある。水田がなくなって住宅になる、木立がなくなるなどの理由で1、2℃ぐらいはいくらでも変わる。0.2℃の地球温暖化などかき消されてしまう。

さて、国連のグテーレス事務総長は「もはや地球温暖化ではなく地球沸騰だ」とのたまった。しかしいくらなんでも地球が沸騰などするはずない。水の沸点は100℃で、地球の平均気温は15℃程度。地球温暖化といっても100℃になるわけがない。この人は以前も「気候時限爆弾」などのキャッチフレーズを生み出してきた。今回も同様に勢いでモノを言っているだけだと思えば、目くじらを立てなくていいのかもしれない。しかし世界の指導的立場にある人が、まるで非科学的で扇動家のような言葉を繰り出すのはいかがなものか。

「未来には猛暑が状態化する」とテレビで言っていた人がいたが、それはモデルに基づいた予測の話だ。だがそのモデルとは、過去についての大気温度や海水温度の計算結果が、観測の倍ぐらいの速度で熱くなるなど、とても額面通りに予測を信頼できない。「猛暑を防ぐために日本の脱炭素が急務だ」という言説はもはや滑稽だ。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)のモデルを信じても地球の気温上昇は累積1兆tのCO2排出当たりで0.5℃にすぎない。日本の年間排出量10億tを30年かけてゼロにすると累積で150億tの排出削減になるが、これによる気温低下は「0.5℃かける1兆分の150億」で0.0075℃にしかならない。50年に脱炭素が完成すると、40℃の猛暑が39.9925℃になる。涼しいですか?

すぎやま・たいし 1993年東京大学大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。最近はYouTubeでの情報発信も行う。

【需要家】革新的技術の普及 “増エネ”を回避するには


【業界スクランブル/需要家】

エネルギー消費量の削減手段の一つとして、高効率機器への買い替え・更新の促進がある。一例として、効率の悪い給湯器からヒートポンプ式給湯機への交換が挙げられる。電気温水器であれば1のエネルギー投入に対し0.8程度の熱出力となるが、ヒートポンプ式給湯機では3程度となり、その省エネルギー効果は大きいものと期待されている。そのため国の目標でも、2030年時点で1590万台の普及(世帯普及率で約30%程度)が掲げられており、今後も普及率は継続的に伸びるものと予想される。しかし、その普及による省エネ効果が、機器性能通りとなるかどうかは要注意である。なぜなら、効率が大幅に向上すれば、エネルギーの使われ方に影響が及ぶ可能性があるからだ。

効率向上が必ずしもエネルギー消費量の減少につながらないことは19世紀から指摘されている。石炭の効率的利用を実現する技術革新に伴い、総消費量は逆に増加したのだ。石炭の低廉化に伴い新たな石炭ニーズが掘り起こされ、それにより利用が加速した。「革新的」と呼ばれる技術の影響が広範囲に及ぶことは当然であり、それを踏まえると、革新的省エネ技術が総量では増エネにつながることもまた当然と言える。しかしこれからの時代、革新的技術がエネルギー消費量を増やすことは避けなければならない。

ヒートポンプ給湯機の普及は大丈夫だろうか。省エネになることでリバウンドは起こらないだろうか。通常、価格が抑えられれば消費は増える。それに逆らうためには、省エネの重要性を経済的メリットとは別の次元で理解することが求められる。消費者のマインドセットにそのような変容を求めることは、高効率機器の普及以上に難しい問題になるかもしれない。(O)

マンション・ビルの脱炭素化へ 究極の「黒子」の役割を目指す


【エネルギービジネスのリーダー達】丹治保積/レジル 社長

マンション高圧一括受電の先駆者である中央電力の社名を「レジル」に変更した。

既存の顧客基盤を生かしながら、脱炭素という新たな領域に挑戦する。

たんじ・ほづみ 1998年日本ヒューレット・パッカードに入社。2004年楽天・楽天大学事業部事業部長、10年ミスミグループE推進室事業統括ディレクター、15年シグニ代表取締役社長などを経て20年12月に中央電力(現レジル)に入社。執行役員新規事業開発部門統括責任者を経て21年12月から現職。

2004年に業界に先駆けてマンション高圧一括受電サービスに乗り出し、高い導入シェアを獲得してきた中央電力が今年9月、「レジル」へと社名変更した。30年使い続けてきた愛着のあった社名との決別を決断したのは、21年12月に就任した3代目社長、丹治保積氏だ。

一括受電マンションが基盤 分散型ビジネスモデルを展開

昨年ごろから社名が事業内容と合わなくなってきたと感じてはいたものの、なかなか踏ん切りを付けることができなかった丹治氏の背中を押したのは、創業者である中村誠司氏の「丹ちゃん変えたらいいよ」との言葉だったという。

新しい社名には、会社のパーパス(存在意義)である「結束点として、社会課題に抗う」ことを表現するため、抵抗を意味する「resist(レジスト)」と、回復力を意味する「resilience(レジリエンス)」を組み合わせた「REZIL レジル」とした。スペルの「Z」には、未知の領域に挑戦していくことへの強い決意を込めている。

同社が今後、そのパーパスを掛けて取り組もうとしているのが、顧客基盤である一括受電マンションを軸にした「分散型エネルギー事業」であり、マンション内に設置した太陽光発電設備(PV)や蓄電池、EV充電器を独自開発のAIによって需給を最適制御するというもの。供給電力の一部は、同社所有のPVで発電した電気を自己託送する。

丹治氏は、これを「分散型エネルギー社会のミニチュア版」と呼び、「居住者は通常の電気料金を負担するだけで、生活に必要な電気を再エネで賄い、安定供給性を高めながら家庭の脱炭素化を無意識のうちに達成できる」と、その意義を強調する。

こうしたビジネスを展開できるのも、一括受電サービスのトップランナーとして、自社資源として受変電設備を活用できるからこそ。現在、同社が手掛ける一括受電マンションは2200棟に上り、さらには、オフィスビルや商業施設などでも、これまでのノウハウを生かして同様のサービスを展開し始めている。

目指すのは、各地に分散した自社のリソースをネットワーク化し統合制御することで調整力の価値を生み出す新たなビジネスモデル。30年にはマンション、ビル合わせて3000棟への蓄電池導入を見込んでおり、これらをVPP(仮想発電所)として機能させることで、需要側に調整力を持たせる戦略だ。

これにより、「再生可能エネルギーの不安定性を需要側で吸収し、日本全体の電力の安定供給と脱炭素化に貢献できる」(丹治氏)。その最初の試みとして、8月には、首都近郊の100戸規模のマンション2棟の蓄電池を連携させた最適アービトラージ(裁定取引)制御を開始した。

新事業による同社の収益の源泉は、蓄電池によるタイムシフトに加え、マンションとオフィスビルで異なる需要カーブを生かした需給制御による調達コストの低減。そして将来は、需給調整市場や容量市場などでの収益化も視野に入れる。

エネルギーは日々勉強 広がる一括受電の可能性

小学生の頃から、自らコンピューターのプログラムを書くなど、インターネット業界に高い関心を持っていた。起業への意欲も強く、大学を卒業後、日本ヒューレット・パッカードで1年経験を積むと、インターネットと地域情報を組み合わせた事業を手掛ける会社を立ち上げた。

だが、その会社は2年ほどで立ち行かなくなってしまい、その要因について、「勢いだけで創業してしまい、ファイナンスなど経営者として必要な知識が圧倒的に足りていなかった」と振り返る。その後は、楽天やミスミグループでECプラットフォームビジネスに関わり、20年12月に中央電力に入社したことで、初めて電力事業に携わることになった。

社長に就任したのは、入社から1年後のこと。「エネルギーに関しては日々勉強だ」と言い、多くの業界関係者に率直に教えを請いつつ、他の事業者が抱える課題などから新たなビジネスの可能性を模索してきた。

小売り全面自由化され、ともすると一括受電モデルは存在意義を失いかねない。しかし、そうした模索の中で、事業をDX(デジタルトランスフォーメーション)化し、設備を自社で運用することでコストを下げ収益性を保つことができれば、一括受電の良さを生かしながら脱炭素という新たな領域でビジネスを広げることができるという確信を持つことができた。

「マンション・オフィスの脱炭素化に向けた究極の黒子の役割を果たしていきたい」と語る丹治氏。他社にはないビジネスモデルで会社を成長軌道に乗せると同時に、数年後には世界進出を果たすことが、社長としての自らのミッションだと前を見据える。

【再エネ】再エネ利権化への疑い 一層の規律強化を


【業界スクランブル/再エネ】

再生可能エネルギー関連の汚職事件報道を毎日のように目にする。規律の緩みの是正が強く求められる中、この事態の発出に、関係者による自浄作用は機能しないのかと思わず問うてしまう。

再エネは環境保護やエネルギーの持続可能性に関わる重要分野であり、発電所がいったん建設されると長期間にわたり稼働し続ける性質であることから、再エネに関係する政治家の清廉性と透明性は通常の事業よりも一層求められるものである。にもかかわらず、この現状は再エネに係る政治の信頼性を大きく損なった可能性が高い。関係者の罪が確定するともなれば、再エネ政策に対する不信感が一層高まり、その結果、政策の実行や支持への悪影響も懸念される。

とはいえ、再エネ分野の透明性向上と規制の強化による状況改善の取り組みに注目が集まることも事実である。政府や関連団体は、再エネ事業の選定プロセスや契約手続きにおいてより一層厳格な審査を行い、不正行為の発生を未然に防ぐ。そして発電所の適正な運転が担保される仕組みがしっかりと運用されていると内外にアピールすることで、社会からの信頼回復につなげる機会だと捉えることが良いのではないか。

他方、気候変動対策の議論に対する悪影響はさらなる懸念事項だ。ただでさえ少ない再エネ応援派の政治家が発言しにくくならないだろうか。このような状況下では、再エネの必要性や正当性をいくら強調しても、利権のための欺瞞であると受け取られかねない。

現在は国政を舞台に政治家と再エネ事業者の関係が取りざたされているが、同様の構図が地方において繰り返されていないとする根拠はない。再エネの利権化と捉えられるような行動は厳に慎むべきである。(K)

【マーケット情報/10月20日】原油続伸、中東産の供給不安強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

主要指標、軒並み続伸。特に、中東原油を代表するドバイ現物は前週比4.57ドル高の急伸となった。中東産原油の供給不安が一段と強まったことが背景にある。

ガザ地区の病院が爆破されたことに加え、イスラエル軍はガザ地区を拠点とする武装集団ハマスに対する地上作戦を計画している。また、米国海軍が紅海で、ミサイルとドローンを迎撃したと公表。イエメンを拠点とする武装集団フーシによるものとみられており、中東地域の緊張がさらに高まった。

需要面では、米連邦準備理事会の議長ジェローム・パウエルが、金利引き上げを12月まで一時停止すると示唆。景気と石油需要が回復するとの見込みが台頭した。

一方、米国は、ベネズエラの原油およびガス部門に対する経済制裁を一時解除する計画。ベネズエラのエネルギー部門に対する投資の拡大や、同国からの原油輸出が増加するとの見通しが強まったが、価格の下方圧力には至らなかった。


【10月20日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=88.75ドル(前週比1.06ドル高)、ブレント先物(ICE)=92.16ドル(前週比1.27ドル高)、オマーン先物(DME)=93.46ドル(前週比4.57ドル高)、ドバイ現物(Argus)=93.94ドル(前週比5.19ドル高)

【火力】全国紙報道の無知? kW時とkWの理解度


【業界スクランブル/火力】

発電設備の規模を表すのに「原発何基分」という表現を今でもよく見かける。今年の3~5月、九州エリアにおいて実施された再エネの出力制御で500万kWを超える日が9日間あり、このことをある全国紙が「再生エネ、原発5基分ムダ」との見出しにしていた。当然のことだが、需要の少ない日の日中に出力制御を行うことが多少あったとしても、24時間稼働し続ける原子力5基分の電力全部をムダにしているわけではない。このように設備容量(kW)と発電電力量(kW時)を混同した報道が、原子力や火力が無くても再エネだけで日本の電力が賄えるとの印象を与えているとすると大変なミスリードだ。

同様の懸念が最近注目の水素・アンモニアにもある。水素・アンモニアは、「さまざまな資源からつくることができ」「利用時にCO2を出さない」とされ、環境にやさしく、多様な供給源を期待できることからエネルギー安全保障に役立つと説明されている。しかしこれらは、エネルギーを投入してつくられる2次エネルギーであって、元になる1次エネルギーをどこに求めるのかを明示できなければ絵に描いた餅にすぎない。

国の将来の電力需給を検討する資料の中に、「一次エネルギー源の変化として、水素やアンモニアの伸びをどのように考えるか」との記載があったが、国がこのような不用意な表現をしていて大丈夫なのだろうか。

水素・アンモニアは、CO2フリーで製造できれば輸送・貯蔵によりエネルギーの偏在性、変動性を克服できる可能性がある。しかし現段階では、どのエネルギー源も製造量・コストともに明確な見通しを示すことができていない。イメージだけでグリーンだ、ブルーだ、パープルだと言っていてもらちが明かないのである。(N)

金属資源開発の価値創造 ダム決壊から得る教訓を糧に


【リレーコラム】南野弘毅/三井物産 金属資源本部 新金属・アルミ部次長

金属資源開発は、長年にわたり資源国・地域の経済発展に貢献してきたが、近年はその環境負荷を最小限にとどめ、地域社会に配慮しながら持続可能な事業とすることが一層重要となっている。他産業と同様「低炭素」がキーワードとなり、各社がGHG削減目標を掲げる中、新たなビジネス機会創出・技術革新のチャンスが広がっている。

このGHG削減に加え、資源産業で近年関心を集めているのが、採掘した鉱石の不純分である残渣(尾鉱)の処理・管理である。

通常、鉱石から不純物を取り除くプロセスでは大量の水を使うため、尾鉱は水分を含んだダムにためられる。高品位の鉱石から採掘が進んだ結果、世界各地の鉱山で品位の劣化が進んでおり、このような鉱石処理プロセスが一層不可欠となっている。

かかる中、2015年と19年にブラジルの鉄鉱山の尾鉱ダムが決壊。流出した尾鉱は、近隣の建物などを飲み込み、河川の生態系にも大きな影響を与えた。特に19年の決壊では死者272人、3人の行方不明者を出し、その影響は周囲300kmに及んだ。決壊から約4年経った今でも、尾鉱の除去作業は続いており、いまだ大きな爪痕を残している。

ダム決壊後の技術開発と事業機会

以来、尾鉱ダムの建設・管理が厳格化されたことはもちろん、尾鉱脱水設備や、天日干しで乾燥させた上で終掘済みの鉱区に埋め戻す工程など、かつてはコスト増になるため導入してこなかったような取り組みが加速している。さらに、鉱石処理プロセスそのものも見直されており、水を使わない乾式プロセスで品位を高める技術などが開発されている。

また一部の資源会社では、50年に尾鉱発生をゼロとする目標を掲げ、尾鉱に含まれる有価金属を回収・再利用する動きも出始めている。これまでも尾鉱を乾かした上でセメントなどに使用した例はあるが、相対的に付加価値の低い製品であることから輸送コストや地場需要などの条件が揃わない限り経済性が成立しない。尾鉱に含まれるスカンジウムやガリウムといった微量元素を回収する構想も数多く研究されてきたが、尾鉱内の微量元素の含有量にばらつきがあり、回収効率が低いことなどにより、事業化への道のりはまだ長い。

だが、重大な尾鉱ダム決壊も目の当たりにし循環型社会への関心・要求も高まる中、今後は一層の技術革新・投資が進むだろう。社会にとって必要不可欠な金属資源の開発を持続可能なものとし、サーキュラーエコノミーを実現するためにも、尾鉱の削減や活用をビジネス機会としても捉え推進するべきと思う。

なんの・こうき 2001年一橋大学商学部卒、三井物産入社。以降、石炭、ニッケル、アルミなどの貿易、投資事業に従事。

※次回はプライムプラネットエナジー&ソリューションズの青木努さんです。

【原子力】水産物を輸入禁止 中国の政治的意図


【業界スクランブル/原子力】

福島第一原発のALPS処理水の海洋放出が始まった。日本が放出する処理水のトリチウムの濃度が国際基準を下回っていることはIAEA(国際原子力機関)も認めている。にもかかわらず、はるかに多くのトリチウム量を自国の原発から放出している中国が科学的根拠を無視して、日本からの水産物輸入を理不尽にも全面的に禁止するという強硬措置を打ち出した。

そこには日本との友好の理想はみじんも見えない。もはや、今後のわが国の課題は国内の風評被害対策というよりも、いかに中国依存から脱し、日本の国民が福島県をはじめ東日本の太平洋岸産の水産物を買い支える連帯精神を発揮できるかという方向に移ってきたようだ。

開沼博・東京大学大学院准教授は「中国への水産物の輸出額は1600億~1700億円なので、国民一人が福島産の魚介類を1年間でその分、余分に買えばよい」と提案している。これこそあるべき考え方であろう。岸田首相がすみやかに自らそうした活動の先端に立つことを望みたい。

中国の共産党政権が海洋放出に反対するのは、無理にでも問題化して政治利用したいという思惑・意図からだ。民主的選挙を経ない共産党政権は専制的だが、経済変調がもたらす国民の怒りにおびえる弱い体制でもある。国民の不満の矛先を日本に向け、反日カードに利用したいのだ。

中国の傍若無人ぶりに対して、科学的根拠に基づき論破しようという声が一部に根強い。だが、中国の本音が袖から透けて見える今、そうしたアプローチには多くを期待すべきではない。狙いの本質を見極め、冷静に処理水放出問題の解決を図り、わが国の水産業を守ることに徹すべきである。(S)