【脱炭素時代の経済探訪 Vol.21】関口博之 /経済ジャーナリスト
日本エネルギー経済研究所が毎年出す「IEEJアウトルック」。2050年までの世界のエネルギー需給を予測し公表しているものだが、最新版では初めて章を設けて「ネガティブエミッション技術」を取り上げている。ネガティブエミッション=負の排出とは、CO2を回収し、大気中のCO2濃度を純減させることを指す。脱炭素対策を進めても鉄鋼・セメント・化学など排出をなくすのが困難な部門は残る。この残余の排出を相殺し、埋め合わせるのがこうした技術だ。
なぜ今回の「アウトルック」でここに焦点をあてたのか。同研究所の小林良和研究主幹は「米国のインフラ抑制法でDACCS(直接大気回収貯留)に対し大規模な支援が導入されたことや、日本でも同種の技術開発支援が始まるタイミングを捉えた」という。小林氏らのリポートの主張は明快だ。産業や長距離輸送などで化石燃料の利用がどうしても残ってしまうとすれば、ネガティブエミッションの活用を、長期的な排出削減計画の中に明確かつ具体的に位置付けるべきだという。全く同感だ。現行の第六次エネルギー基本計画はDACCSや森林吸収などに触れてはいるが、数値目標などはない。いわば“最後の手立て”という扱いにすぎない。

われわれも、もっとこのネガティブエミッション技術を知る必要がある。代表的なものの一つが前述のDACCS。大気から化学的あるいは物理的にCO2を吸着・回収し、それを老朽油田やガス田など地中に埋める。地下貯留ではBECCSもある。バイオマス発電(原理的にはこれ自体がカーボンニュートラル)から出るCO2を回収して埋めるものだ。専門家によればこの二つは技術が実用段階に近い上、除去できる量のポテンシャルが大きく、その計測も容易なことがメリットだという。
自然のプロセスを使うネガティブエミッションもある。植林によるCO2吸収はイメージしやすい。木は成長するとCO2の吸収が低下するので伐採しては植え直す、山火事を防ぐ管理をする、こうしたことも大事だ。近年では海岸でマングローブの生育を促す、ブルーカーボンも注目されている。一方、土壌炭素貯留は不耕起(耕さない)栽培で、農地の土壌の中に炭素を蓄える量を増やす試みだ。さらには木材を炭にすることで炭素を長期間閉じ込めるバイオ炭という手法もある。この炭を堆肥と一緒に農地にまけば土地を肥やすメリットもあるという。さまざまな技術の特性、コスト、実現可能性を見極めつつ推進していくことが求められる。
技術開発とともに重要なのは国民の理解だろう。ネガティブエミッションに対しては“化石燃料の延命”を許すことになるのではないか、という懐疑的な見方があるのも確かだ。誤解や思い込みもあるかもしれない。こうした疑念には丁寧に答えるべきだ。ただ、はっきりしているのは、カーボンニュートラルの実現に本気なら、こうした将来技術は「総動員」するしかないということだ。本気じゃない傍観者になってはいけない。
