宮下・青森県知事が誕生 中間貯蔵で関電奇策の影響は


6月29日、前むつ市長の宮下宗一郎氏が青森県知事に就任した。去る4日の知事選では、候補者の小野寺晃彦・前青森市長との間で自民党が推薦を決められない保守分裂選挙となったが、結果は宮下氏の圧勝だった。

知事選では「青森新時代」を掲げて圧勝した
提供:朝日新聞社

六ヶ所再処理工場やむつ市の使用済み核燃料中間貯蔵施設など、原子力施設が集中立地する青森県。宮下氏はむつ市長時代、電力業界による中間貯蔵施設の共同利用案に強く反対していた。

その中間貯蔵を巡って、驚きのニュースが飛び込んできた。関西電力の森望社長が12日、福井県の杉本達治知事と面談。県内の原発で保管中の使用済みMOX燃料と使用済み燃料の一部を、核燃料サイクルの実証研究で使用するためフランスに搬出する〝奇策〟を明らかにしたのだ。関電は今年末に中間貯蔵施設の候補地確定期限を迎えるが、「福井県外に搬出されるという意味で、中間貯蔵と同等の意義がある」としている。

とはいえ、中間貯蔵施設の候補地は依然として未定で、今後も使用済み燃料は増え続ける。電気事業連合会の池辺和弘会長は6月16日の記者会見で、むつ施設の共同利用について「今回の実証研究とは全然違う問題」と述べ、実現可能性を検討したい考えに変わりはないことを強調した。この問題で、電力業界と宮下氏が再び対峙するのは避けられそうもない。

原子力業界関係者からは、宮下氏が市長時代に強く反対したのは「むつ市に筋を通さず、前知事に頼った関電への腹いせでは」との声も。果たして、立場が変わった宮下氏は態度を軟化させるのか。それとも、関電の奇策を受け、反発姿勢を強めるのか。攻防第二ラウンドの幕が開く。

最終処分場の調査は前進するか 鍵握る「文献」地点の新規拡大


高レベル放射性廃棄物(HLW)の最終処分地選定が曲がり角を迎えている。

事業の前進には、北海道の2町村に加えて新たな自治体での「文献調査」実施が欠かせない。

高レベル放射性廃棄物(HLW)の最終処分地選定に向けた調査事業が風雲急を告げている。

まずはこれまでの歩みをざっと振り返ろう。最終処分地は、①2年程度の文献調査(机上調査)、②4年程度の概要調査(ボーリング調査)、③14年程度の精密調査(地下施設での調査・試験)―という段階的な調査を経て選定する。いずれも、都道府県知事や市町村長の意見に反して次の段階に進むことはない。また調査を実施した自治体には、文献調査段階で最大20億円、概要調査段階で最大70億円の電源立地交付金が交付される(精密調査段階以降も法制化を検討中)。

わが国では2020年11月、北海道寿都町と神恵内村で文献調査を開始して以降、実施自治体は出ていない。先行する諸外国の選定プロセスでは、フィンランドが概要調査相当6件、スウェーデンが文献調査8件、フランスが文献・概要調査相当10件などある程度の候補地が出てから、絞り込みが行われた。日本でも2町村以外の自治体による文献調査が望まれる。

文献調査を実施した寿都町

こうした状況を受け、2月に閣議決定した「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」では、政府を挙げて処分地選定などのバックエンド問題に取り組むことを明記。4月には「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針」を改定し、閣議決定した。国主導の下、地元電力と原子力発電環境整備機構(NUMO)が協働で100カ所以上の自治体を訪問する全国行脚や、文献調査の受け入れ判断前から調査の検討の申し入れるといった自治体の負担軽減策などが盛り込まれている。

文献調査の応募は報道の過熱などから、首長選で最重要争点となることもある。国策への貢献が、首長にとっては政治生命を賭けるほどの大きな決断となっていただけに、少しでも国が前面に出る姿勢を示したことは評価できる。

現在、寿都町と神恵内村が次のステップである概要調査へ進むかどうか、文献調査の評価の方向性が経済産業省の放射性廃棄物ワーキンググループ(WG)で検討されている。同WGで「GOサイン」が出れば、2町村と北海道知事への意思確認へと進むことに。この際、寿都町では住民投票で意思を確認する段取りになっている。


「仲間が増えてほしい」 対馬市や本州でも動きが

住民投票に向け、寿都町の片岡春雄町長が最重視するのが、新たに文献調査を実施する自治体が現れるかどうかだ。地元で概要調査に反対する人の中には、最終処分場の問題が自分たちに押し付けられているとの思いを抱く人もいる。その不安を払しょくするためにも、全国の〝仲間〟が必要というわけだ。こうした状況もあり、放射性廃棄物WGのGOサインも文献調査の応募状況を見ながら出される可能性が高い。

そんな中、6月に動きがあった。長崎県対馬市の業界団体など12団体が、文献調査への応募を求める請願を対馬市議会に提出したのだ。請願は6月の定例会で採択される見込みとなっている。ただ最終判断は比田勝尚喜・対馬市長に委ねられ、「即応募」となるかは不透明だ。応募に前向きな地元の有力者は「仮に最終処分場ができても、HLWが運ばれるのは30年ほど先の話。それでも、対馬の将来のために応募したい」と語る。今後は勉強会などで応募の機運を高めつつ、来年3月の市長選で争点化するという見方が優勢だ。

また対馬市が応募するよりも早い段階で「〝日本地図の真ん中あたり〟で応募する自治体が出てくるのでは」との声も聞かれ、近いうちに大きな動きが表面化する可能性もある。

【コラム/7月4日】IEAネットゼロシナリオが招く災厄 大きすぎる副作用


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

国際エネルギー機関(IEA)が発表した脱炭素シナリオ(Net Zero Scenario, NZE)。これを推進するとどのような災厄が起きるか。ルパート・ダーウオールらが「IEAネットゼロシナリオ、ESG、及び新規石油・ガス投資の停止に対する批判的分析」と言う本報告(以下、単に報告)を出したので一部を紹介しよう。原文は以下で無料公開されている。

A Critical Assessment of the IEA’s Net Zero Scenario, ESG, and the Cessation of Investment in New Oil and Gas Fields.

NZEでは石油・ガス価格低迷へ 上流投資停止で何がおきるか

下記は、左が石油需要、右が天然ガス需要。NZEでは2050年に世界全体でCO2排出実質ゼロが達成されることになっているので、石油需要もガス需要もほぼ消滅する。STEPSとはStated Policy Scenarioで、これまでに世界諸国の政府が表明した政策の積算である。

このNZEでは、「非化石エネルギーが大量導入され、省エネも進むことによって、化石燃料需要が大幅に減り、そのため石油・ガス価格は低迷する」というストーリーになっている。

しかし本報告は、それは現実的でない、とする。過去2年に起こったことを振り返ると、化石燃料の上流投資が滞った結果、化石燃料が不足し、世界的なエネルギー価格高騰が起きた。すると、今後、IEAのNZEを実現しようとして、また上流投資が滞れば、世界的なエネルギー価格高騰が起きる。化石燃料需要が減るとすれば、その価格高騰によって起きることになる、と想定するほうが現実的ではないか。

そうすると、需要がSTEPSからNZEまで価格効果によって減少することになる。ではこの莫大な需要減少を引き起こす価格水準は何かといえば、これは経験的な価格弾性値によって計算できる。

図は、価格弾性値をマイナス0.1から0.3まで振ったときの石油・ガスの価格水準の推移である。

石油価格水準(WTIスポット価格)はバレル当たり200~400ドル、天然ガス価格(ヘンリーハブスポット価格)はMMBtu(英国熱量単位)当たり15~30ドルと暴騰することになる(下図、左が石油価格、右が天然ガス価格)。

IEAはNZEを発表したときに、もう今後は脱炭素に向かうから新規の石油・ガス田への上流投資は不要、などとしたが、これが一因となって上流投資が滞り、ここ1、2年の世界エネルギー危機を招いたのだ。今後もNZE達成のためとして上流投資を止めてしまえば、またもやエネルギー危機を招いてしまう。

IEAは、もともとは石油輸出国機構(OPEC)に対抗してエネルギー安定供給を図るために設立された組織なのだが、いまやすっかり脱炭素教に染まってしまい、かえってエネルギー安定供給を破壊する先棒を担ぐようになってしまった。こんなIEAならもう要らない。

先進国だけの脱炭素 コミットの仕方まばら

脱炭素というけれど、実際には先進国しかしていない。下図は、経済協力開発機構(OECD)と非OECDに分けて、50年脱炭素という目標がどう扱われているか示すものだ。

上に行くほどコミットメントの度合いが高く、上から順に、①法制化されている、②政策文書になっている、③宣言しただけ、④提案や議論されているだけ――となっている。日本を含め多くの先進国では法制化されているが、多くの途上国では単に議論されていたり、宣言されていたりするだけだ。

主要7カ国(G7)では「50年脱炭素」が繰り返し表明され、途上国へも働きかけをすることにはなっているが、途上国がおとなしく言うことを聞くかというと、そうはなりそうにない。そもそも50年脱炭素など不可能であるし、それを実施しようとすれば莫大なコストがかかることも明白だからだ。

今、先進国が躍起になっているロシアへの経済制裁についてすら、実施しているのは先進国だけで、途上国はほとんどしていない。まして、自国の経済を痛めつける脱炭素など、途上国がおいそれと実施するとは到底思えない。

さて、IEAは、NZEを実施すると比較的高コストな先進国の石油生産が減少する結果、相対的に低コストであるOPECに世界の石油生産シェアがシフトして、現状の35%から52%に達する、としている。そして、これは石油ショックが発生した1973年に近い水準なので、問題である、としている。

しかし、本報告は「それどころでは済まない」としている。何しろ脱炭素に熱心なのは先進国だけなので、米国や英国などの先進国だけがNZEに従って石油生産を減らすことになり、OPECのシェアはもっとずっと高くなるだろう、とする。

下図は、非OPECだけがNZEに従って石油生産を減らし、OPECはNZEに従わず、現状の政策を維持する(STEPS)とした場合、OPECのシェアが82%に達する、と言う試算だ。

先進国だけが脱炭素に邁進すると、世界の石油市場は空前の水準でOPECに牛耳られるという訳だ。超ド級の石油ショックが起きるかもしれない。OPECではなく、OPECプラスならばこの比率は82%よりももっと高くなり、OPECプラスではなく非民主主義国家、とするとさらに高くなるだろう。

NZEでもう一つ困るのは、PV・風力・EVのために莫大な金属鉱物資源が必要だが、これが中国に牛耳られていることだ。下図は、化石燃料(上)と金属鉱物資源(下)について、採掘(左)と処理(右)の世界シェアを示すものだ。石油・ガスは米国などが多くなっているが、金属鉱物資源は中国のシェアが圧倒的になっている。

中国は「金属鉱物資源のOPEC」であり、PV・風力・EVを推進するとその中国への依存がますます高まることになる。

OPECプラスの多くの国は独裁国家であり、中国も共産党独裁国家である。NZEを推進することで、世界は独裁国家に資源を依存することになる。これで日本などの民主主義は維持できるのだろうか? NZEを進めることによるこの副作用はあまりにも大きすぎるのではないか?

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。「亡国のエコ 今すぐやめよう太陽光パネル」など著書多数。最近はYouTube「キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志」での情報発信にも力を入れる。

「節電ループ」から脱却できない東電 薄氷踏む安定供給の打開策は?


今夏もまた、東京エリアのみで企業や家庭に無理のない範囲での節電が求められることになった。

だが、電力業界関係者は「冬こそ本当の危機」と口をそろえる。そこにある構造的問題とは。

「東京エリアでは7、8月に限り、無理のない範囲での節電をお願いしたい」

東京電力管内における今夏の厳しい電力需給見通しを受け、西村康稔経済産業相は6月2日の記者会見で、昨年に続き、家庭や企業に対し、生活や経済活動に支障のないレベルでの節電への協力を呼び掛けた。7年ぶりの節電要請となった昨夏は全国を対象にしていたが、今夏は同エリアのみだ。

電力広域的運営推進機関が5月29日に取りまとめた7~9月の電力需給見通しによると、10年に1度の猛暑を想定した場合の予備率が、7月は北海道・東北5・2%、東京3・1%、中部・北陸・関西・中国・九州9・8%、四国11・2%。8月は北海道・東北7・6%、東京4・8%、中部11・7%、北陸・関西・中国11・9%、四国14・4%。9月は北海道・東北15・8%、東京5・3%、中部7・8%、北陸・関西・四国11・3%、九州18・5%―となる見込み。

いずれの月も、各エリアで安定供給に最低限必要とされる3%以上を確保できるものの、原子力が再稼働し10%程度を確保できる西日本に対し、東日本は7、8月が軒並み低水準。特に東京エリアは、厳気象対応の「電源′Ⅰ」や火力の増出力運転、エリア間融通に加え、「kW公募」による追加供給力(57・6万kW)の確保といった対策を講じてもなおギリギリで、ひときわ厳しいと言わざるを得ない様相だ。


供給力不足による需給危機 夏よりも冬に顕在化

こうした東京エリアの厳しい需給状況について、電力業界関係者は、「JERAの発電所の休止中火力が、中部エリアではなく東京エリアに集中している。他エリアよりも、早急に休廃止を進めてきただけに、その影響が需給のタイトさに表れている」と指摘する。

原子力発電所が停止して以降、同エリアでは追加的な供給力として期待されるLNGや石炭火力の新規投資計画が相次いで立ち上がったものの、さまざまな要因でことごとく頓挫してしまった。一方既存火力は、再生可能エネルギーの導入量拡大による稼働率低下や、卸電力価格の下落で不採算化。不良資産の廃止に迫られた結果、供給力の減少に歯止めがかけられない事態に陥っているというわけだ。

とはいえ、電力業界関係者の多くは、東京エリアも含めた今夏の需給については比較的楽観的に見ている。厳暑に対する予備率は確保できている上、夏は電力需要のピークと太陽光の発電ピークのタイミングが重なるため、地震などの不測の事態で火力が大規模脱落するような事態にでも陥らない限り、電気が不足することは想定しづらい。

むしろ、本格的な危機が到来するのはこの夏を乗り切った後だとの懸念が強く、大手電力関係者の一人は、「冬は絶望的かもしれない」と危機感を露わにする。夏とは逆に、冬は悪天候で太陽光の出力がゼロになる時間帯に需要が増大しかねず、どうしてもLNG火力頼みとなる。

いつになれば電力不足が解消されるのか

また、住宅の屋根上への太陽光設備の導入が進んだことで、太陽光の出力が減少する点灯時間帯にどれだけ需要が増えるのかを精緻に予測することが年々難しくなっている。再エネの出力抑制回避のために火力の出力を可能な限り下げていることもあり、供給力が需要に追い付かず需給バランスが崩れてしまうリスクも高まっている

冬の需給に向け、もう一つの懸念材料が燃料問題だ。昨年、世界を襲ったエネルギー高騰から一転、天然ガスや石炭などの化石燃料や電力の市場の価格はすっかり落ち着きを見せているが、6月に入って欧州のガス・電力価格が上昇に転じたのだ。

「今のトレンドは、燃料制約で需給ひっ迫が生じ、電力価格が高騰した21年の状況に似ている」と語るのは、別の大手電力関係者。21年よりも燃料の貯蔵水準は高いとはいえ、当時と比べロシアから欧州へのガス供給が大きく絞られているだけに、供給側のトラブルや中国の経済回復による買い占めなどが起きれば、一気に需給がひっ迫し、今は安定しているJKM(北東アジアのスポット価格指標)や日本の電力市場価格も、再び高騰する可能性が十分にある。

西条火力新1号機が運開 地域と共に安定供給を支え続ける


【四国電力】

コロナ禍での4年にわたる1号機のリプレース工事を終え、最新鋭の設備を備えた西条発電所。

発電開始から80年を経て、これからも地域と共に暮らし、四国の電力を支える存在としてあり続ける。

西条発電所1号機(石炭火力・出力15.6万kW)のリプレース工事が始まったのは2019年6月のこと。年末には、海外で新型コロナの検出が報道された。「工事は最後まで新型コロナに翻弄されました」。こう話すのは、西条1号リプレースプロジェクトチームの岡本保朗プロジェクトリーダーだ。世界中で新型コロナが蔓延し、海外で製造する機器が各国のロックダウンなどの影響で届かない。工事現場でも感染が広がり、作業が滞った。「予定通りの工程は難しいと、何度か思いました」

一向に収束が見えない中、設備メーカーは機器を国内製造に切り替えて対応してくれた。工事現場では作業員の感染拡大を最小限にとどめるよう工夫を凝らし、注意喚起を徹底。人員増強など関係者が一丸となって遅延を挽回し、当初の計画通り今年6月末、営業運転を開始した。出力50万kWとなった新1号機は、2号機と共に四国電力の電力需要の約13%を賄う。

6月末から営業運転を開始した新1号機

調整力を備えた発電所に 放水口を移し環境に配慮

愛媛県東予地域に位置し、瀬戸内海に面した西条発電所の歴史は戦前までさかのぼる。四国電力が誕生する前の日本発送電時代、1942年からこの地に建つ町のシンボルだ。旧1号機は65年から運転開始。2号機の25万kWと合わせ、途中、燃料転換などを経て、半世紀以上も四国の安定供給に貢献してきた。

高経年化設備となった旧1号機は、今後も長期にわたって信頼性のある供給力として活用するため、環境性や経済性を向上させた最新鋭の超々臨界圧発電設備(USC)へのリプレースを決定。既存設備の運転を継続しながら重原油タンクヤード跡地に建設を進め、タービン発電機、ボイラー、煙突などを設置した。高効率となった新1号機はCO2排出原単位で13%程度削減。ばい煙の排出量は約60%減、排出濃度も90%近く削減する。

タービン発電機。石鎚山の空と、水の都西条をイメージした色だ

新1号機の特徴の一つは、最低出力を15%まで下げ、7万5000kWで運転できることだ。太陽光発電など、再エネが主力電源になることを見据え、調整電源としての役割を担える設計にした。さらに昼間運転し夜間は停止するDSS運用も可能になっている。

工事では環境保全にも配慮した。発電所の北西部を流れる加茂川河口付近には肥沃な干潟が広がり、のりの養殖が行われている。設備が大きくなるとプラント排水が増えるため、排水処理装置を増設。さらに干潟への温排水の影響をできる限り抑制するよう、北側にあった放水口を約200m東側に移動させた。加えて放水口から沖に約450mの導流壁を作り、潮流の早い海域に放水。新しい取水口への再循環も回避した。

発電所の北側に延びる導流壁

西条発電所は、事業用発電所として全国で初めて木質バイオマスを導入した発電所でもある。2005年には四国地域の端材を利用するサプライチェーンを作り、混焼を開始。いち早くCO2排出削減に取り組んできた。新1号機でも混焼を継続し、25年には下水汚泥固形燃料化物も利用して、一層のCO2削減を図る計画だ。アンモニア混焼も視野に検討を進めている。

西条発電所は、80年にわたり培った発電技術のノウハウを生かし、競争力と調整力を兼ね備えた火力電源としてさらに重要な役割を担い、安定供給に貢献し続けていく。

NTTとJERAがタッグ GPI買収の「同床異夢」


NTTアノードエナジーとJERAがタッグを組んだグリーンパワーインベストメント(GPI)の買収劇が話題だ。このところ、ENEOSホールディングス(HD)によるジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)買収、豊田通商によるユーラスエナジーHDの完全子会社化やSBエナジー(現テラスエナジー)買収と、再生可能エネルギー業界再編に向けた動きが続く。関係者は「大手資本が国内再エネ企業を買収してポジションを固める〝刈り取り期〟に入った」とみる。

国内再エネ企業の買収では最高額と見られる3000億円のうち、NTTアノードは8割、JERAは2割を出資。NTTアノードが主に陸上風力、JERAが洋上風力のアセットを引き受ける。単純計算でGPIの陸上風力は2400億円、洋上風力は600億円と評価されたことになる。

NTT側が陸上風力を欲する理由は何か。グループの中期経営計画ではグリーンソリューションを柱の一つとし、5年で約1兆円投資を掲げ、まずは自社電力のグリーン化が急務。さらにNTTアノードは環境省「脱炭素先行地域」で複数案件の共同事業者となるなど、地産地消型の電力供給にも積極姿勢だ。将来的にはグリーン電力を活用したデータセンター構想という青写真も見えてくる。

一方、JERAの狙いは、ずばりGPIの北海道・石狩湾新港での洋上風力実績だ。GPIは同港湾管理組合の公募で事業者に採択され、約10万kWの予定で2020年に着工。石狩市沖は別途、政府による洋上風力公募の候補地点として、再エネ海域利用法に基づく有望区域に指定されている。

JERAの狙いは石狩湾新港でのGPIの洋上風力実績だ(提供:JERA)

政府公募における実績評価では、①事業実施実績、②関係行政機関の長らとの調整実績(いずれも10点満点)―の2項目がある。JERAは台湾案件への参画や、ベルギー大手のパークウィンド社買収により①では満点を狙える体制が整う。他方、②では「国内実績」が必須であり、他陣営から一歩出遅れていた。この弱点を補いつつ、道外も含め同じ海域でGPIと協力できれば、頭一つ抜けられるとの思惑がありそうだ。

評価額にバブル感 売り上げ規模にそぐわず

このように「同床異夢」ながら思惑が合致したNTT側とJERAだが、高値つかみ感は否めない。GPIの陸上風力は「環境アセス中の計画の実現性を一定割り引けば、売り上げ規模は900億円程度」(前出関係者)と見られる。

なお、ENEOSはJREのほぼ同規模のアセットを1900億円で買収。利益ベースでは、好風況エリアの大規模陸上風力が主力のGPIの方がプラスの可能性がある。とはいえ、売り上げ規模900億円に対して2400億円という評価を巡っては、やはりバブル的と言うほかない。

翻ってJERAも、洋上風力公募の熾烈な競争を勝ち抜くためとはいえ、まだ運開していない一地点の「実績買い」の額として600億円はやはり莫大だ。「買い手からの指値ベースでは」(同)と見る向きもあるが、果たして。

【マーケット情報/6月30日】原油下落、需要の回復期待から上昇


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇した。欧米原油では、景気の判断材料でもみ合いが続く局面もあったが、米マクロ経済指標が市場予測を上回ったことなどから、買いが優先だった。

米国では、第1四半期の経済成長率が、年率換算で2%へ上方修正されるなど、市場関係者の予想を上回る回復基調が示された。特に個人消費は、過去2年間で最高水準に達するなど好調だった。

また、米原油在庫が、戦略備蓄とともに前週から減少が続いたことも、強材料になった。

中国では、内需喚起に向け、実質的で効果的な施策の実行が改めて発表されたことなども、限定的ながら油価の上昇に影響した。

一方、欧米の主要中央銀行が、インフレ対策として利上げを継続する姿勢を明らかにしたことから、景気の冷え込みと需要減の見通しが強まる局面もあった。ただ、米国における個人消費支出 (PCE)物価指数の伸び率が鈍化していることなどを受けて、油価の下方圧力には至らなかった。

なお、インド向けのロシア原油輸出が過去最高を記録したが、材料視されなかった。


【6月30日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=70.64ドル(前週比1.48ドル高)、ブレント先物(ICE)=74.90ドル(前週比1.05ドル高)、オマーン先物(DME)=75.59ドル(前週比1.49ドル高)、ドバイ現物(Argus)=76.05ドル(前週比2.15ドル高)

次代を創る学識者/能村貴宏・北海道大学大学院工学研究院准教授


最終的に廃棄されている熱の有効活用が、脱炭素化には欠かせない。

蓄熱技術を確立することで、その実現を目指している

日本では、投入する一次エネルギーの6割以上が最終的に熱として廃棄されており、この廃熱量の低減や未利用熱の活用が、2050年脱炭素社会実現に寄与するとの期待は高い。

「捨ててしまっている熱を効率よく回収し使い切る仕組みを構築することで、(生物学で自己恒常性維持を意味する)ホメオスタシス的なエネルギーシステムを実現していきたい」と語るのは、北海道大学大学院工学研究院エネルギー・マテリアル融合領域研究センターの能村貴宏准教授だ。

そのために取り組んでいるのが、熱を高密度に貯蔵・輸送し、高効率に変換する相変化蓄熱材料(PCM)の開発であり、さまざまな分野の企業と連携しながら、技術の確立のみならず事業化を見据えた研究を進めている。

能村准教授が開発したPCMは、アルミニウムとシリコンの合金をマイクロカプセルに充填したもの。
カプセル内の合金が固体から液体に変わる際の潜熱による蓄熱と放熱を利用することで、産業などから排出された熱エネルギーを貯蔵・輸送し、エネルギーを必要とする別の場所で再利用する。「PCMは、産業や発電、家庭の冷暖房や給湯機といった異なるプロセスをつなぐハード。これに情報技術を組み合わせることで、これらのつながりをさらに有機的なものにできる」という。

さらには、再生可能エネルギー由来の電気の余剰を熱に変換して貯蔵し、電力需要の大きい時間帯にその貯蔵した熱で発電する「カルノーバッテリー」としての活用も視野に入れており、「蓄電池と同様、再エネ大量導入に伴い必要とされる蓄エネルギーの手段として熱が果たせる役割は大きい。脱炭素社会に向けたテクノロジーとして、しっかりと政策の中に位置付けられるべきだ」と強調する。

脱炭素の最前線・北海道 熱利用技術の実用化目指す

高校時代は宇宙や地球、歴史などさまざまな学問分野に興味を抱いていたが、道具が石器から鉄器に変わったことで人間の生活が劇的に変わったように、マテリアルの変革が社会に大きな影響を与えることができると、北海道大学工学部に進学し、材料科学を専攻した。研究者を志したのは、大学の図書館で読み切れないほど多くの書籍に触れ、これからも新しい情報が生み出されていく中で、「自らも世の中に新たな学術、技術を生み出す側でありたい」と考えたからだ。

洋上風力開発が進む北海道は、脱炭素社会を目指す日本にとってのエネルギー供給基地となり得る。北海道で活用できる熱利用技術は、30年、50年の北海道の姿だけではなく、日本全体のエネルギー供給の在り方をも左右する。まずは、30年までに研究中の技術が一つでも実用化され、エネルギーの問題を良い方向に変えていることが目標。その先は、「これ以上できることはない」と言えるよう、蓄熱に関する研究は自らの手で終わらせる意気込みだ。

のむら・たかひろ 1984年北海道生まれ。北海道大学大学院工学院材料科学専攻修士課程および博士課程修了。博士(工学)。北海道大学大学院工学研究院附属エネルギー・マテリアル融合領域研究センター博士研究員、特任助教を経て、2015年から現職。

【メディア放談】問われる企業ガバナンス なぜ関電で不祥事が相次ぐのか


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ/4名

不正閲覧問題で役員ら24人の処分を行った関西電力。

同社で不祥事が多発するのは、関西圏ならではの「理由」があった。

―関西電力が不正閲覧問題で再発防止策や処分を発表した。森望社長らは役員報酬の減額だったが、榊原定征会長は社外取締役だとして処分の対象外。月額報酬の「自主返納」という形になった。

マスコミ 甘すぎる。榊原さんは金品受領問題を受け、ガバナンス全般を引き受けていたはずだ。5月3日の読売関西版で、会計学者で青山学院大名誉教授の八田進二さんが社外取締役の重要性を指摘していたが、榊原さんの無責任ぶりが念頭にあるのだろう。

ガス 榊原さんの厚顔さを象徴するエピソードを聞いた。3月にダイキン工業が主催するゴルフトーナメントが沖縄県であった。毎年、大会に合わせてプロアマ戦が行われ、女子プロと財界人が参加する。そこに榊原さんが堂々と出てきたので、関係者は驚いたようだ。

電力 関電は次期電事連会長を森さんで狙っているが、その点でも榊原さんが辞めるのは都合が悪い。引責辞任するとほとぼりが冷めるまでは、電事連会長レースに復帰できないとみられるからだ。関電は電事連会長の座を射止めるためにも、榊原さんの引責辞任だけは是が非でも避けたいのではないか。

ガス 金品受領、カルテル、不正閲覧となぜ関電に不祥事が集中するのか。メディアは自由化との関係性を指摘するが、関電ならではの事情もあったはずだ。例えば、かねてやっかいな競争相手である〝大阪ガス打倒〟のためなら、何でも許されるといった雰囲気があったのかもね。

日経のピンぼけ見出し 吹き荒れる解散風

―広島市での主要7カ国(G7)首脳会議が終わったが、4月には札幌市で気候・エネルギー・環境相会合があった。

ガス 経産省は会合前から強調していたが、共同声明のポイントは「各国の事情に応じた多様な道筋」という文言を入れたことだ。脱炭素という「ゴール」は同じでも「プロセス」は違うことをはっきりさせた。石炭火力の廃止期限を明示しなかったことや再エネ導入目標などは、あくまで各論的な話にすぎない。

石油 ところが、会合当日(4月16日)の日経の1面見出しは「G7、天然ガスも段階廃止」だった。確かに天然ガス廃止の合意は初だが、前年の石炭廃止の流れからみれば当然だ。少なくとも1面に持ってくる話ではない。これには政府幹部も首を傾げていた。

マスコミ 日経の名誉のために言っておけば、18日の社説では「各国の事情に応じた多様な道筋」の重要性を強調していた。他紙も社説では本質論を展開していたね。

―G7首脳会議を終えて、政治部の記者たちは「解散のタイミングは今だ!」と鼻息が荒い。

マスコミ ただ、公明党が準備不足だ。議席を持つ大阪や兵庫で、統一地方選の勢いそのままに維新に敗れれば、小選挙区での議席を大きく奪われかねない。

石油 一方、立憲民主党は維新・共産との非共闘を打ち出したが、連合は国民民主党との連携を求めているようだね。

電力 連合としては国民民主を支援したいだろう。というのも立憲は当初、原発の新増設を盛り込んだGX推進法案に反対していたが、連合の意向をくんで賛成に回った。かつての民主党のように党内統制が効いていない。衆院選後に分裂して、党内の右派が国民民主と合流……。連合はここまで計算に入れているのでは。

【西野太亮 自民党 衆議院議員】 「循環型経済の重要性伝える」


にしの・だいすけ 1978年生まれ。熊本県出身。東京大学法学部卒業後、2003年4月、財務省入省。米コロンビア大学公共政策大学院を経て、関税局・関税課課長補佐、復興庁参事官補佐、主計局主査などを歴任。21年10月衆議院初当選(熊本2区)。22年11月から自民党政務調査会・経済産業部会、資源自律経済プロジェクトチーム事務局長。


財務省から政治の世界へ挑戦し、日本や熊本県の将来を見据えた課題解決に尽力する。

資源自律経済プロジェクトチーム事務局長として資源循環の重要性を訴える。

有明海に面する熊本県飽田町(現・熊本市南区)で生まれ育ち、幼少期から大河ドラマを視聴し歴史小説を愛読した。「坂本龍馬や西郷隆盛など、政治的なリーダーがいたから今の日本がある。彼らのように社会のために役に立つ仕事をしていきたい」と意を決し、東京大学法学部を卒業後、財務省に入省。理財局で「第二の予算」ともいわれる財政投融資計画の策定に携わった。2008年には米コロンビア大学公共政策大学院に留学。公共政策のプロフェッショナルとして、帰国後は関税課課長補佐や復興庁参事官補佐を歴任し、関税率に関する政策や、復興関連税制の調整に粉骨砕身した。

14年に主計局主査に就くと、国土交通省の住宅関連予算を担当し、国の財政と省庁担当との折衝に奔走する。多忙な業務の中で感じたのは、日本財政の危機的な状況だ。

「少子高齢化もあり、財政は大変な時代に突入した。経済でも外交安全保障でも岐路に立たされている」。日本の持つ課題を痛感し、政治の世界に飛び込む覚悟を決めた時、身の振り方を相談したのが、財務省時代の先輩であり、今でも「兄貴」と慕う木原誠二官房副長官だった。

その際、木原氏から紹介されたのが自民党の重鎮である古賀誠元幹事長。両氏から自分の人生をかけて政治に挑戦する大切さを教わり「地元の役に立ちたいという覚悟や思いがあるならば、無所属でも構わない」と熊本2区からの出馬を決めた。

17年の衆院選では、自民党所属の野田毅氏に敗れたものの、その後4年間はほぼ毎日街頭演説を行い、支持を訴え続けた。浪人生活を振り返り、「一票一票を積み上げる大切さ、苦しい時に支えてくれる後援会のありがたさが身に染みた」と話す。21年の衆院選には菅義偉前首相という後ろ盾も得て、約11万票を獲得し初当選を果たした。

当選後は自民党に入党し、地元熊本県の有明海沿岸道路の整備や交通渋滞解消、農林水産業の発展に尽力した。財務省時代の経験から、財政の重要性は認識しつつも、「プライマリーバランスも大切だが、単年度ではなく中長期で考えるべきだ。成長分野に投資することで5年後、10年後にリターンが返ってくる」と、経済成長に必要な投資も訴える。また、日本経済をけん引するような産業を増やすべきと提言。デジタルトランスフォーメーション(DX)やカーボンニュートラル(CN)などを基軸として、半導体、鉄鋼、造船など基幹産業の復権に期待感を抱く。

エネルギーは、S+3E(安全性+安定供給性、経済効率性、環境適合性)を重視。燃料購入で日本の国富が流出する現状に憂慮を示す。

問題解決には原子力が有効だが、「安全性は非常に重要だ」として、原発の再稼働には、原子力規制委員会による厳正な審査基準をクリアすることが前提との認識。再稼働ありきではない審査を行うことが、国民の安心と信頼につながると主張する。


資源自律経済PT事務局長に就任 経済面、安保面から重要性訴える

自民党政務調査会・経済産業部会、資源自律経済プロジェクトチーム(PT)では事務局長を務める。昨年11月ごろに小泉進次郎元環境相から打診を受け、本格的な活動を開始。2月には予算委員会でサーキュラーエコノミー(循環型経済)の重要性について、西村康稔経済産業相や経産省幹部を相手に答弁を行った。循環型経済実現への本気度を問いかけ、日本が国際的議論をリードするという政府の方針を確認。4月には自民党PTとして、経産省、環境省に対し「世界最先端の資源自律経済の実現に向けた成長戦略への提言」を申し入れた。

循環型経済については、①経済安全保障の観点、②経済環境保全の観点、③成長機会の観点―の三点で重要であるとの考え。「枯渇問題に加え、偏在する資源を巡る『資源ナショナリズム』の高まりもある。さまざまなリスクを考慮し、資源の再利用と有効活用は日本経済、国民の生活安全を守るという面で必要だ」。循環型経済の技術を確立することで、日本の技術力を世界に示すチャンスにつながるが、政府や中央省庁の議論が地方に伝わっていないのが課題だという。「地産地消型のエネルギーを増やしていくためにも、地元に循環型経済の重要性を伝えるのが仕事」と意気込む。

現在は議員1回生として、職務や勉強会で多忙な日々を送る。年中無休で活動する根幹には、座右の銘である「一生燃焼、一生感動、一生不悟」(相田みつを)がある。この言葉には一生悟れずとも、一生何かに感動して、一生自分の命を燃焼して生きたいという思いが込められている。自身のエネルギーを燃やして、これからも議員活動に全力を尽くす。

【マーケット情報/6月23日】原油下落、需要後退の見方強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。景気低迷にともなう石油需要減の見通しが強まり、売りが優勢に転じた。

中国人民銀行は、景気刺激策として、1年と5年の最優遇貸出金利(ローンプライムレート)利下げを、10カ月ぶりに発表。ただ、下げ幅が市場期待を下回り、景気回復への期待感には繋がらなかった。また、中国国営石油ガス会社CNPCは、今年の国内石油需要予測に下方修正を加えた。

さらに、欧州では、欧州中央銀行に続いて、イングランド銀行が利上げを発表。13か月連続での利上げとなり、また、市場の想定を上回る上げ幅となった。これにより、景気の冷え込みと石油需要後退への懸念が強まった。

一方で、米国の週間原油在庫は、生産減と輸出増を背景に減少。ただ、油価の上昇圧力に至らなかった。


【6月23日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=69.16ドル(前週比2.62ドル安)、ブレント先物(ICE)=73.85ドル(前週比2.76ドル安)、オマーン先物(DME)=74.10ドル(前週比1.26ドル安)、ドバイ現物(Argus)=73.90ドル(前週比1.44ドル安)

一年中味わえるイチゴを栽培 障がい持つ人の活躍の場に


【エネルギー企業と食】JERA×イチゴ摘み

 JERA横浜火力発電所敷地内の野球場跡地に建つ「横浜ストロベリーパーク」。土日祝の完全予約制で営業を行うこの施設では、横浜火力発電所からの電気を受けて、イチゴ摘みを一年中楽しむことができる。パークの山下美紀館長は「お客さまに愛されるストロベリーパークを目指したい」と意気込む。

お客様に愛される「横浜ストロベリーパーク」を目指す山下美紀館長

昨年4月に「東京ストロベリーパーク」から名称や一部施設をリニューアル。当初はコロナ禍による縮小営業だったが「地元の方だけでなく、県外からのファミリー層も多く来てくださった」(山下館長)。昨年度は年間1万1千人が来場し、今年5月のゴールデンウィークも予約が満杯になる盛況ぶりだ。併設されるカフェでは、摘みたてのイチゴを使ったメニューを提供する。

栽培するイチゴは風味豊かで香りが強い「かおり野」や、バランス良い甘味と酸味を味わえる「よつぼし」、7月から収穫を迎える希少品種「濱瑞(ペチカほのか)」の3種を揃える。横浜火力からの電力供給で、ハウス内の温度や日射量を徹底的に管理。イチゴにとって最適な環境で栽培する最新設備が整っている。こうして栽培したイチゴは、市販と比べてみずみずしく濃厚な果肉を味わうことができる。

イチゴ栽培を担当するのは、障がいを持つ人に多くの働く機会を提供する特例子会社である「JERAミライフル」所属の社員だ。同社はJERAから制服管理、園芸業務などを委託されており、三重県のイチゴ農家の指導のもと、3000㎡のハウス内で栽培に取り組む。社員にとってこの1年は初の経験の連続だったというが「栽培に責任を持ち、休園をせず1年間イチゴを育て続けたことは社員の自信になった」(山下館長)と振り返る。今後は併設されるカフェでの接客サービスや、増築中の施設園芸用ビニールハウスでの作業など、JERAミライフル社員の就労機会を生み出し、業務を拡大する方針だ。

障がいを持つ人の活躍の場としてリニューアルを果たした横浜ストロベリーパークは、地域の障がい者雇用創出の点でも自治体から期待を集める。目指すのはパークの高評価がさらなる集客と雇用創出につながる好循環だ。山下館長は「これからも横浜市や鶴見区との連携を進め、地域に根差したパークとして貢献していきたい」と展望を話す。地域に愛され、働きたいと思える施設へ―。JERAミライフルの社員は、イチゴを一粒一粒丁寧に育て上げる。

ネガティブエミッションの機運向上 問われる日本での活用の在り方


【多事争論】話題:ネガティブエミッション技術の展望

実質排出をマイナスにする「ネガティブエミッション」への注目が世界的に高まっている。

日本でも各国の動向を踏まえつつ、市場創出に向けた検討に政府が着手している。

〈 CO2除去技術の重要性拡大 CN実現へ多様なオプションを 〉

視点A:秋元圭吾/地球環境産業技術研究機構(RITE)主席研究員

2050年ごろまでのカーボンニュートラル(CN)実現を目指す動きが強まる中、ネガティブエミッションを実現するCO2除去(CDR)技術への注目も高まっている。22年4月に公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第三作業部会報告書では、「CO2またはGHG(温室効果ガス)の正味ゼロを達成しようとするならば、削減が困難な残余排出量を相殺するCDRの導入は避けられない」とした。分散されたCO2排出源などの一部排出は残ると見られ、CO2以外のGHG排出も工業化以前水準にするのは困難である。また、すでに世界気温は工業化以前から1・1℃上昇し、パリ協定で追求する1・5℃未満達成のためにはある程度の気温のオーバーシュートも不可避と見られ、CDRはCNを目指す上では必須と考えられる。

気温のオーバーシュートを避ける排出経路を取るべきで、よってCDRは不要という主張も時折、耳にするが、それほど単純な話ではない。仮に気温のオーバーシュートはしなくとも、CDRは経済合理的な対策として評価されることが多いと指摘しておきたい。

CDRにはさまざまな技術があり、植林、バイオ炭、ブルーカーボン(マングローブ、藻場形成など)、CO2回収貯留付バイオエネルギー(BECCS)、大気中直接CO2回収貯留(DACCS)などが含まれ、それぞれに特徴がある。植林は、相対的には安価な対策であり、引き続き推進が求められるだろう。ただし、例えば2℃目標で求められるようなネガティブエミッション量(年間約3・3GtC=約12GtCO2)を植林で実現しようとすれば1000Mha程度、すなわち米国の国土面積もの土地が必要との報告もある。BECCSは、CO2を地中に貯留するため、植林に比べCO2固定効率が増し植林の半分程度の面積で済むが、それでも膨大な土地が必要となる。さらにバイオエネルギー全体の課題でもあるが、食料との競合や生物多様性への影響などが危惧されている。


コストミニマムの可能性 DACCSの役割と課題

近年、急速に注目されているのがDACCSであり、植林やBECCSに比べ格段に土地面積は小さくて済む。代わりに大気中の希薄なCO2の回収に大きなエネルギーを要し、高いコストも必要となる。なるべく集中排出源からCO2回収し貯留した方が大気中直接回収よりも経済的であるが、どうしても分散CO2排出源が残ると見られるため、DACCSなどはとりわけCNを目指す上で有効と見られる。

IPCCの報告では、現状のDACCSは小規模プラントであり、コストは1tCO2当たり600~1000米ドル程度とされる。一方、プラント建設が進み習熟すれば同100~300ドル程度で可能になるとされている。DACCSの場合は、CO2集中排出源からのCCSと比べると、CO2貯留に適し、かつ余剰再生可能エネルギーなどが安価に入手できる地点を選びやすいという利点がある。IPCC報告では、DACCSの経済的ポテンシャルは年間5~40GtCO2との分析結果をまとめている。

CO2貯留ポテンシャルは世界全体では大きな容量があり、DACCSは完全な「バックストップ技術」とは言えないものの、近い特性がある。つまりDACCSのコストは、他の技術開発のコストターゲットにもしやすい。日本においても、国内でCNを実現するにはDACCSは重要なオプションとみられる。ただし、大規模な展開はCO2貯留に適し、かつエネルギーが安価な海外で行うことが現実的かつより経済的と考えられ、国際協力の下での展開を視野に入れる必要があろう。

IPCC報告を含めて、エネルギー・温暖化対策評価モデルによる2℃や1・5℃目標下のシナリオ分析の多くは、CDRを大きく利用する結果を示す。これに対して特にBECCSやDACCSが高コストである点を含め、現実性について批判がなされることは多い。しかし、CNの実現となると省エネ、再エネ、原子力などのいずれも大規模展開が必要であり、社会的なコストを含め対策コストは上昇していく。高コストとは言っても、BECCSやDACCSも費用効率的な対策の中に入ってくる。

それぞれのCDR技術には当然長所、短所が存在する。CDRに頼り過ぎることはリスクがあるが、それはほかの技術も同様である。CNをより高い確率で実現するには、基本的には広範なる技術オプションを有し、技術中立で排出削減効果の高い対策の選択が求められる。その中でCDRも少なくとも一定の、もしくは大きな貢献を果たすとみられる。

あきもと・けいご 横浜国立大学大学院工学研究科博士課程(後期)修了、博士。RITEシステム研究グループリーダー・主席研究員。多数の政府審議会委員やIPCC第六次評価報告書代表執筆者なども務める。

【需要家】省エネとの付き合い方 AIへの期待と課題


【業界スクランブル/需要家】

対話型AI「チャットGPT」をはじめとした生成AIの話題が尽きない。多くの著名人が警鐘を鳴らすが、こうした類の新技術の流れは止められず、省エネ分野ではAIを用いた機器の最適運転制御の実現が期待されている。

例えばエアコンの性能は従来、厳密に温度制御された環境で、特定の温度条件を設定して計測され、それがカタログなどに掲載されている。しかし実際にはそのような特殊な条件でエアコンが使われるわけではなく、多様な空間において多様な人々が、好きな設定で運転する。このような実環境における性能はこれまで把握不可能であったが、これからはAIが稼働状況を把握し、状況に応じた最適な運転を実現するようになるだろう。

そうなると、性能評価では特定条件での効率よりも、どんな状況にも適用できるような制御技術が重視されるだろう。対話形式で要望を聞き取り、過去の気象データやエアコンの使用状況などの情報を基に将来を予測し、最適制御アルゴリズムを生成する。これらを実現する頭脳の評価が、すなわちエアコンの評価になり得る。エアコン以外も同様で、機器性能はソフトウェア性能になり、機器メーカーはソフトウェアメーカーにもなる必要が生じる。

さて、消費者はどうだろうか。AIに要望を聞いてもらって、その通りに動いてもらうだけでよいのだろうか。省エネの徹底のためには、人間のような不合理な頭脳に判断させてはいけないのかもしれない。しかし、人間がエネルギー使用に対して主体性を持たずして、エネルギー使用に責任を持てるのだろうか。AIに頼らずに、人間の判断で適切な運転を実現できる仕組みはないのだろうか。チャットGPTに訊くと「困難」とのことであった。(O)

【再エネ】多発する銅線ケーブル盗難 脱炭素にブレーキ


【業界スクランブル/再エネ】

政府は、電源構成における再生可能エネルギー比率を高めるべく、太陽光などの最大限の導入を目指している。発電事業者も積極的にリソースを投入し、太陽光発電所の建設や安定的な運営に取り組んでいる。しかし現在、「銅線ケーブルの盗難」という深刻な問題が現場では発生している。

銅線の価格高騰を背景に、盗難者が発電施設内に侵入し、銅線ケーブルを切断して持ち去る事件が多発しているのだ。銅線ケーブルは発電した電力を送電するために不可欠な設備であり、切断により送電量が低下するとともに、設備の修復や交換に多大な費用負担が発生してしまう。

発電事業者は、監視カメラの設置や警備員の配置などの対策を講じているが、依然として銅線ケーブルの盗難は続いており、収束の気配がない。これは発電事業者の経済的な損失だけでなく、温室効果ガス排出削減、カーボンニュートラル実現という社会的な取り組みにおいても大きな問題と言える。

関係者や被害者に広くヒアリングしてみると、この問題は地域性や季節性においてかなりの偏りがあるように見える。このことから、背後に組織だったグループの存在がうかがえるが、そうなると発電事業者単独はもちろんのこと、業界として対策を取ったとしても太刀打ちすることは相当難しそうだ。

問題を解決するためには、監視の強化や警備員の配置のみでなく、盗難者に対する取り締まりや罰則の一層の強化など、発生を未然に防ぐための措置も必要となる。また、周辺地域の住民や地元自治体、警察と協力して、地域全体のセキュリティー向上に取り組むことも重要。これらの取り組みが実施されることによって、太陽光発電所の運営が安定し、再エネの普及が促進されることとなる。(K)