【脱炭素時代の経済探訪 Vol.17】関口博之 /経済ジャーナリスト
今回はチャットGPTで話題沸騰の生成AI、特に対話型AIの話を。モニターに映る「Saya」は表情もリアルな3D・CGのキャラクターだ。アイシンとAIベンチャーなどが取り組むこのプロジェクトに名古屋大学の東中竜一郎教授も参加している。研究室で「Saya」に対面させてもらった。見た目がリアルな分、音声会話がぎこちないと逆に違和感が目立つ。いかに自然な会話をするか、その対話システム開発がテーマだ。

提供:アイシン
以下は私とのやりとりの一部。(AI)「あなたの親友がどんな人なのか教えてください」(私)「本当に困った時に助けてくれる人ですね」「とても大事なお友達ですね。困った時はお互い様ですからね」「ただし、お金を貸したり借りたりはあまりしない方がよいと思いますよ、親友でも」「そうですね、友達が困っていたらまず疑うべきですよね」「疑うのともちょっと違うんだけどね。親切でお金を貸しても、それが元でケンカになることもあるから」「なるほど、人を喜ばせるのも、お金を借りるのも似てますね」「うーん、なかなか意味が深いね……」と最後は当惑。こちらも不慣れだが、AIもまだ“学習”が必要なようだ。
もちろん人間同士でも話がかみ合わないことはある。東中教授によれば、ただそうした時、人は相手に歩み寄るという。「それってどういうこと?」と聞き返して会話を続けようとする。子どもには平易に、老人にはゆっくりと、この感覚で人間とAIも相互に歩み寄るようになればいい、と東中教授は言う。
自然な会話には雑談も大事だが、それが“会話を続けるためのだけの会話”に終わっては意味がない。そこで東中教授が重視するのが、人間とAIが「共同作業をするための対話」だ。研究の題材に選んだのがビデオゲームの「マインクラフト」、ブロックのようなものを積み上げ建物や庭を作っていく。人間とAIがお互いの意図や望むものを言葉で交わしながら、協力し合うシステムを目指している。「君がしたいことはこういうことだね」というのを積み上げたブロックの形で可視化しようというのだ。AIと協力することで“人間の能力の拡張につながる”、東中教授はそう考えている。それにしても実感するのは、対話型AIの研究は人間の思考や心の解明であり、人間関係をどう築いているか、の探究だということ。それだけ人間の知能が奥深いということだ。
こうした研究の一方で、チャットGPTはすでにツールとして利用され、企業や自治体でも導入するところが出始めている。業務の効率化だけでなく、新たな企画のアイデア提示など、今後は生成AIを活用する際のスキルも蓄積されていくことだろう。ただ生成AIはディープラーニングの過程でデータセンターが膨大な電力を消費すると言われる。活用が広がり、より高度になればなるほど消費電力は増える。エネルギー需給上の大きな課題だ。それに比べ人間の脳のパフォーマンスはエネルギー効率上も優れている、とAIなら回答するかもしれない。
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