【マーケット情報/9月8日】原油続伸、供給減の見通し強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。供給減の動きが相次ぎ、需給逼迫感が強まった。

主要産油国で、供給減の方針が相次いで示された。サウジアラビアとロシアは、それぞれ日量100万バレルの自主減産と、日量30万バレルの輸出減を、年末まで継続すると発表した。

また、ナイジェリアの石油輸出拠点がストライキのため閉鎖されたほか、英国の製油所ではストライキの決行に向けた動きが相次いだ。タイの製油所では、原油漏洩による稼働率低下で生産減少が見込まれた。北米の製油所では定修が始まり、9月央からは大西洋側の製油所で定修が予定されていることも、材料視された。

需要面では、米石油在庫が昨年12月以来の水準まで減少したと、米エネルギー情報局(EIA)が発表。米国において、輸出増・輸入減の傾向が続いている。クッシング在庫も減少し、過去10週のうち、9週で減少を記録した。

また、中国では石油輸入が増加。ディーゼル需要が高まる秋に向け、製油所の稼働率が高まっており、8月の輸入量は過去3番目の水準となった。 

なお、米フロリダ州、ルイジアナ州の製油所は、台風や火災の影響で一部閉鎖していた施設を通常稼働に戻した。ただ、油価への影響は限定的だった。


【9月8日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=87.51ドル(前週比1.96ドル高)、ブレント先物(ICE)=90.65ドル(前週比2.10ドル高)、オマーン先物(DME)=91.04ドル(前週比2.81ドル高)、ドバイ現物(Argus)=90.97ドル(前週比90.97ドル高)

脱炭素電源オークションの政策ミス 既存原発の対策費は趣旨に合わず


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

 7月26日に経産省が「長期脱炭素電源オークション」の対象に、既存原発の再稼働に向けた安全対策費を加える検討に入ったとの報道がなされた。私は「原子力は脱炭素の電源ではない」といった脱原発派とは別の観点から、この政策は間違えているのではないかと考える。

そもそも同オークションは、「発電事業者にとっては長期的な投資回収予見性が低下し、多額の資金が必要な電源への新規投資が停滞している」(資源エネルギー庁のガイドライン)ことから、「電源への新規投資を促進すべく……新規投資を対象とした入札を行い……巨額の初期投資に対し、長期的な収入の予見可能性を付与する入札制度」(同)である。つまり、リスクのある脱炭素に資する巨額の新規投資を確保しやすくするための制度である。

こうした観点から、本来この制度は本年2月に閣議決定された『GX実現に向けた基本方針』における「新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設」や「廃炉を決定した原発の敷地内での次世代革新炉への建て替え」に資するものとならなければならない。 

しかし、既存原発の安全対策費をこの制度の対象とすれば、逆にそれを阻害するものとなってしまうだろう。既存原発の安全対策は予見不可能なリスクのある巨額の投資ではなく、本来原子力事業者の経営責任の範囲内で行うべきものである。

原子力事業者は、「既存原発の安全対策は自社だけではできないリスクのある事業だ」などとは、決して言えないはずだ。むしろ、既存原発への巨額の安全対策費を回避するために、リスクのある次世代革新炉の建設やリプレースへの挑戦に誘導する制度こそが、今必要な政策なのではないか。


カオス状態の原子力政策 目先の利益を追うな

これまでわが国の原子力政策は、国民の信頼を必ずしも十分に得られておらず、立地地元対策に苦労する中で、弥縫策を重ねることを繰り返してきた。目先の課題を乗り越えるための短期的に取り組みやすい対策を積み重ねてきたことで、研究開発から発電所の建設・運営、バックエンド対策や安全対策まで原子力政策の体系的な構築を実現することができなかった。そして福島原発事故によって、その非体系的な原子力政策はズタズタになってしまった。さらに、「もんじゅ」廃炉などもあって政策の行方はカオスの状態だ。

岸田政権になり、政権の原子力に対する姿勢が追い風になったからといって、体系的な原子力政策の再構築を行うことなく、原子力事業者の目先の小さな利益を実現するための弥縫策にダボハゼのように食いついていけば、また再び原子力政策の大失敗の道を歩むこととなろう。「急がば回れ」という言葉があるが、原子力に対する風向きが変わりつつある今こそ、王道の本質的な政策を実現すべきだ。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

補助金と燃料価格が奏功!? 電気料金が低下傾向に


家庭用の電気料金単価は、1年前と比べ全国平均で約25%低下している―。そんなデータが8月8日の総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)電力・ガス基本政策小委員会(委員長=山内弘隆・武蔵野大学特任教授)で示された。

昨年秋以降、燃料価格の高騰に伴い料金は高止まり状態にあったが、1kW時当たり7円を国が補助する「激変緩和対策事業」が始まったことで今年1月使用分から下落に転じ、7社が家庭向けの低圧・規制料金値上げに踏み切った6月以降もその傾向は続いている。背景にあるのは、燃料価格の動向。財務省の貿易統計によると、足元のLNG輸入価格は昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻前の水準まで下がっている。

ただ、今後も燃料価格がこのままの水準で推移するとは限らず、再び上昇すれば国民の負担感が増すことは間違いない。激変緩和措置の継続が検討の俎上にあるようだが、一時的な補助金政策は焼け石に水。そればかりか、自由化、脱炭素化時代のエネルギーを巡る国民負担の在り方という本質的な問題から目を背けさせるだけだ。

住宅業界が大勝負の時代に 求められる情報・調達・提案力


【業界紙の目】荒川 源/月刊スマートハウス 発行人

カーボンニュートラルに向け、省・創エネ性能の高い住宅の普及が求められている。

顧客に高性能住宅のメリットをいかに伝え購入意欲を後押しするかが、ビルダーの課題となっている。

住宅の進化が止まらない。月刊スマートハウスを創刊して約10年、社歴にしては世に在る先輩業界誌の中では子供のような年齢であるが、このわずかな年月でわが国の住宅づくりは大きく変わった。

話題となった言葉としては「BELS(建築物省エネルギー性能表示制度)」、「ZEH(ネットゼロエネルギーハウス)」、断熱性評価基準の「HEAT 20 G1~G3」や、「LCCM(ライフサイクルカーボンマイナス)住宅」、「高度エネルギーマネジメント」、「レジリエンス住宅」などであろうか。それぞれ、評価制度や基準、住宅の種類などを意味するが、いずれも家づくりを大きく向上させるための誘導基準や施策に則ったものであり、先進的なハウスメーカー、ビルダーでは、他社に差をつけるべく積極的に取り組んできた。

数多くの住宅会社への取材を経て、特に多くのビルダーで波及したと感じられるのが断熱強化である。2016年施行の省エネ基準から大きく更新され、壁や窓、開口部の高性能化は寒冷地を筆頭に、全国各地の住宅会社が意識を高め、施主への説明に奔走している。

ZEH普及目標未達の要因


高性能住宅のコスト高 難しい提案こそ意味がある

一方でZEHに求められる一次エネルギー消費量の削減に資する高効率給湯器や省エネ空調の提案、創エネとCO2削減の観点で太陽光発電システムの設置についてはまだまだ難しいようだ。高度エネマネでは、HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)の導入が設備機器の集中管理とコントロールを可能にするが、さらに提案は難航している。

そもそも「夢のマイホームを求める施主たちに、国や自治体が求める家のレベルを無理やり提案するのはいかがなものか」という忌憚ない声も聞こえてくる。確かに、良い家を建てるためには断熱材や複層ガラス・サッシ、高効率給湯器、太陽光発電システムや蓄電池をはじめ、さまざまな設備機器にお金がかかってくる。マイホームを建てる時、求めていない設備などに対して、予算以上のお金をかける人はそういない。その上限ある予算を無視して、前述のような家づくりを住宅会社が求めることはハードルが高い。むしろ「施主に必要とされる以上に高機能、高性能な家づくりを国が求めているのではないか」と批判するビルダーもいるくらいだ。

実際、昨年末に環境共創イニシアチブより発表された「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス実証事業 調査発表会2022」でも、ZEH普及目標の未達要因は「顧客の予算・理解を引き出すことが出来なかった」「体制不備」が上位を占めている(図参照)。

だが、高性能な家づくりは本当に必要ないのだろうか。国は毎年、補助金を捻出し、調査を繰り返し、その進ちょくを追っている。「高性能住宅を提案できるか否か、篩がかかり、生き残る会社と廃業を余儀なくされる会社の分かれ道になるのではないか」と見る専門家もいる。実際に高性能住宅を提案することで差別化を図り、またZEH率100%を豪語するビルダーには勢いがあり、その強みを生かして彼らの企業規模は拡大の一途だ。翻り、政府の政策に歩み寄れない、歩み寄らないビルダーたちは、ストック住宅のリフォームに集中しており、新築ビジネスから離れていくようにも見える。

クリーンなガスの普及へ 認証スキームを構築


日本ガス協会は、都市ガス供給のカーボンニュートラル化に資するe―メタン(合成メタン)やバイオガスの社会実装を見据え、その環境価値を認証し取引を可能とする「クリーンガス証書」の導入に向けた具体的な検討に乗り出した。2024年度の実運用開始を目指す。

同証書の導入の狙いは、環境価値をエネルギー価値から分離し移転できるようにすること。例えば、ある都市ガス事業者が農業残さや家畜の排せつ物といったバイオガス原料の豊富な地域で導入を支援し、その価値を購入することで自社のエリアで供給するガスをクリーン化できる。

制度の信頼性を高めるため、日本エネルギー経済研究所に「クリーンガス認証実証事業推進業務」を委託。8月4日には、同研究所を事務局とする「クリーンガス認証評価委員会」において、認証スキームの公正な運用やガイドラインなど文書の適正性などについての検討が始まった。

将来は、地球温暖化対策推進法(温対法)の「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」における排出係数の調整に活用することも想定。新たな地産地消型のビジネスモデル創出に期待がかかる。

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2023年9月号)



【東京電力パワーグリッド・日立製作所/DCの計算負荷の分散制御を利用したエネマネ】

東京電力パワーグリッドと日立製作所は共同で、複数エリアのデータセンター(DC)間における、系統連携型エネルギーマネジメントに関する基礎技術を確立した。DCを稼働する電力の輸送コストより、DCで処理したデータの輸送コストが経済的なことから、地方エリアに多くある再エネの発電所付近にDCを設置し、発電量に見合った需要を創出することで、地産地消につなげる。実証では茨城県のDCと東京都のサーバールームを接続し、DCの計算負荷の空間シフトやエリア内での計算負荷の時間シフト、DC内の空調などの制御を行った。両社はDCを電力需要の調整力とすることを目指し、安定供給と社会コスト低減の両立に向けて取り組む。


【東京ガス/AEM水電解装置導入でCO2フリー水素を製造・販売】

東京ガスは7月13日、千住水素ステーションでエナプター社製のAEM(陰イオン交換膜)水電解装置を使用した水素の製造・販売を国内で初めて開始した。同ステーションでは2016年から都市ガスから製造した水素を販売。22年度末には非化石証書による実質再エネ100%の電気に切り替えている。同装置の導入で、CO2フリー水素の製造・販売を実現した。構造はシンプルで、小型モジュールを組み合わせることで水素製造量を柔軟に調整できる。限られたスペースへの導入が期待されるほか、セル部材の材料の選択肢が広く、セルスタックの低コスト化なども可能だ。東京ガスは適切なシステム構成や運転管理などの知見を獲得し、水素供給ビジネスの展開を目指す。


【NTTアノード・九州電力・三菱商事/福岡で系統用蓄電池の運用を開始】

NTTアノードエナジーと九州電力、三菱商事の3社は、再エネ出力制御の低減に向け、福岡県香春町に蓄電システムを設置。本格的な運用を開始した。出力は1400kw(容量は4200kW時)。3社は昨年から、出力制御される電力の有効活用と新たな調整力創出に向けて、各社のノウハウなどを活用し、共同で系統用蓄電池事業の開発を進めていた。今回、NTTアノードが国の補助を受け国産の系統用蓄電池を設置。今後は太陽光出力制御の低減と、需給調整市場など各種電力市場で系統用蓄電池をマルチユースする場合の事業性の検証を行う。3社の複数の太陽光発電所の同期運用の検証も実施する予定だ。2025年度以降は容量市場への供給力供出を目指している。


【ヤンマーエネルギーシステム/非発向け遠隔監視サービスを開始】

ヤンマーエネルギーシステムは、非常用発電機向けに、災害時に備えて平時の管理体制を提供する遠隔監視サービスを開始する。同社の主力商品の非常用発電機「AutoPackシリーズ」には新遠隔通信ユニットを標準搭載し、今年7月から出荷を始めている。同社は、GHPやコージェネ向けに提供してきた遠隔監視システム「RESS(レス)」の機能を拡充。停電時にも不具合なく非常用発電機を起動できるように、平時から機器管理をサポートするサービスを提供していく。


【積水ハウス/住宅メーカー初 水素住宅の実証を開始】

積水ハウスは、自宅で水素を作り住宅内の電力を自給自足する、住宅メーカー初の水素住宅の実用化に向け、実証実験を開始した。2025年夏の実用化を目指している。日中は屋根上の太陽光発電パネルからの電力を消費。余剰電力を使って水を電気分解して水素を作り、水素吸蔵合金のタンクで貯蔵する。雨の日や夜間などは貯蔵した水素を利用して燃料電池で発電する仕組みだ。同社のネット・ゼロ・エネルギー・ハウスに組み込むことで、環境性能や利便性、レジリンス性などを向上できるとしている。


【NTTデータ/発電・需要やCO2排出量リアルタイムに予測】

NTTデータは、日新システムズ、ネクステムズと共同で、再生可能エネルギー電源や水道などの家庭インフラに関する情報を収集・可視化・分析する情報流通基盤の実証実験を沖縄県宮古島で実施し、その成果を得た。実証は2022年7月~23年3月に行った。島内の約1000件の需要家に設置した太陽光発電(計5000kW)、蓄電池、ヒートポンプ給湯機などを対象に、電力・水道の需要量や供給量などをリアルタイムに収集・可視化し、翌日から翌々日までの発電・需要やCO2排出量が予測できることを確認した。


【関西電力・岩谷産業/万博で水素船・水素SSのエネマネ採用】

関西電力は7月、岩谷産業が2025 年日本国際博覧会(大阪・関西万博)で水素燃料電池船の旅客運航を行い、また船のエネルギーマネジメントなどは同社が行うことを発表した。この取り組みは、岩谷が船舶建造・運航および船舶用水素ステーションを建設し、関電がエネルギーマネジメントと船舶用充電設備の建設を担うことで、経済性が成立する水素船の商用運航の実現を目指すものだ。水素船は、走行時にCO2などを排出しない高い環境性能を有するだけでなく、匂い、騒音、振動のない優れた快適性が期待されている。同社はこの取り組みを通じて、水素船などのエネルギーマネジメントの商用化に貢献し、水素利活用に対する可能性を検討していく構えだ。


【中部電力ほか/工場内環境を可視化するシステムを開発】

中部電力と中部電力ミライズ、九州計測器の3社は、オイルミストや粉塵の濃度と空間温湿度を4Dで表示できる、ワイヤレス型オイルミスト濃度・温湿度計測システム「Mieru TIME OILMIST」を開発し、販売を開始した。濃度や温湿度を計測するワイヤレス型センサーを工場内に配置して、PCやクラウドにデータを集約。映像化して、工場内環境を見える化できる。リアルタイムで確認できるため、給気や換気量の運用変更などの対策が立てやすくなり、環境改善の精度向上を実現する。


【三井E&S/SAF生産の実証向け 大型圧縮機を受注】

三井E&Sは、国内初となる廃食油を原料とした国産SAFの大規模実証向けに、圧縮機2機を受注した。同実証は国産SAFの大規模生産を目指し、日揮HD、コスモ石油、レボインターナショナル、日揮の4社が取り組む。同社はSAF製造プラントや水素ステーションなどへの圧縮機供給により、ゼロエミッション社会の実現に貢献していく方針だ。


【川崎汽船/ジクシス社向け新造船 液化アンモニア輸送も可】

LPガス元売りであるジクシス向けの新造船となる二元燃料運搬船が、川崎汽船へ引き渡しとなった。「AXIS RIVER(アクシス・リバー)」と命名された同運搬船は、3隻目の契約船となる。重油とLPGを燃料とするデュアルフューエル船で、LPガスに加え、脱炭素化に向けて今後需要の拡大が見込まれる液化アンモニアの輸送も可能となっている。


【伊藤忠エネクス/道路工場でGTL燃料 自家給油は九州初】

伊藤忠エネクスは7月、三井住建道路が運営する大牟田合材工場で稼働するバーナーにおいて、同社が取り扱う『GTL燃料』が使用開始されたことを発表した。GLT燃料は天然ガス由来の製品で、環境負荷の少ない軽油代替燃料だ。軽油対比でCO2排出量を8.5%削減できる。三井住建道路では、昨年からプラント内の重機に小口配送でGTL燃料を使用していたが、4月からは同プラント内に設置したタンクからGTL燃料を自家給油することに切り替えた。同社は、今後も持続可能な社会への貢献を目指す構えだ。

脱炭素と安定供給の両立 コスト負担の理解が必要


【論説室の窓】神子田 章博/NHK 解説委員

太陽光発電など再生可能エネルギーの急増により、需給バランスの調整は複雑化している。

今後、連系線の強化や火力発電の維持など安定供給の実現には相応のコストがかかる。

電力の需給関係は常に不安定だ。電力会社は、需要を予想して供給計画を立てるが、予想よりも気温が高く、あるいは低くなり、需要が予想を上回れば不足することになるし、下回れば余剰となる。天候に左右される太陽光発電など再生可能エネルギーの比率が増えれば、変動要因は一段と大きくなることになる。

電力会社は、供給を上回る需要が生じた場合、不足を補うために他の電力会社から供給を受ける。

例えば昨年6月、東京エリアの需給がひっ迫した際には、北海道、東北、中部、関西、北陸、中国、四国、九州の各電力会社から電力の融通を受けた。その回数は、6月27日から7月1日まで20回に及んだという。

こうした電力各社の間の電力融通や調整を一元管理しているのが、電気事業法に基づく国の認可法人「電力広域的運営推進機関」通称「オクト」である。

連系線強化のコストは電気料金で回収される


存在感増す「オクト」 出力抑制の現実

そのオクトの役割が最近増しているという。電力の「不足」への対応だけでなく、時に「余剰」への対応も求められるようになっているからだ。背景には、太陽光発電の急増がある。

太陽光発電は、再エネの電気を電力会社が買い取る制度が始まったのを機に、全国各地で急増。しかし、工場などが操業を止める休日の日中には、太陽光による発電を使い切れなくなるケースも増えてきた。となると他の方法で発電する電力に変化がなければ、全体として一時的に供給超過となる。

だが、電気は使う量と発電量のバランスが崩れると、電気の質が悪化し、発電機が停止して広域停電となってしまうという。電気は足りなくても停電するが、余っても停電のリスクが生じるのだ。それを避けるために、需要が少ない時間帯に、再エネの利用をあえて止める出力制御を何らかの形で行わなければならないといった事態が、東京エリア以外の全国各地で相次いでいるというのだ。

しかし、燃料費を必要としない再エネを止めるのは、いかにももったいない。脱炭素を進めようという動きにも反する。このためこうした再エネの出力制御は、実際には、どの電源を優先して利用するかをあらかじめ定めた国のルールに基づいて行われる。

まずガスや石炭など出力の調整が比較的容易で、かつCO2排出量が多い火力発電の出力減少や停止が図られる。同時に、余った電気で揚水発電の水をくみ上げる。くみ上げた水は、電力が不足する際に水力発電に活用される。いわば巨大な蓄電池のようなものだ。さらに隣接するエリアに送電線で電気を送る、バイオマスの出力抑制を図るなどいくつかの段階を経て、それでも電気が余るとなれば、太陽光や風力などの出力を制御する段階にいたる。

実は6月3日、関西エリアで出力制御が行われた際には、オクトの業務規程第111条による「下げ代不足融通」と呼ばれる措置がとられた。これはある電力会社のエリアで、できる限りの出力制御をしてもなお、需給の「下ぶれ」への調整の幅が確保できない状況となったとき、つまりこれ以上の「下げ代」がないとなったときに、その電力会社から要請を受けたオクトが、他のエリアの電力会社で電力を受け入れるよう緊急の指示を出す仕組みだ。

紆余曲折の袖ヶ浦火力 東ガスが単独で建設へ


東京ガスは、千葉県袖ケ浦市で検討していたLNG火力発電所の建設を決めた。将来の水素活用を見据え、水素混焼が可能な最新鋭の高効率ガスタービンコンバインドサイクル発電195万kWを導入し、2029年度の運転開始を目指す。

冷却には空冷式を採用。水冷式に対し「発電効率が1%ほど低い」(発電事業関係者)など、建設費や発電効率の面で多少不利だが、エネルギー業界関係者は、「川崎天然ガス発電など既存火力がリプレースを迎える30年度に間に合わせる必要があり、建設地の出光興産の敷地が広大で巨大な冷却ファンを設置するスペースを十分に確保できることが判断の決め手になったのだろう」と見る。

15年に同地で火力発電計画が立ち上がった当初は、東ガスと出光、九州電力の3社が石炭を燃種に検討していたが、脱炭素の流れから19年に断念すると同時に出光が撤退。その後、LNGに切り替え2社で検討を続けたものの、燃料高騰を受けて昨年、九電も撤退した。情勢変化で二転三転を余儀なくされてきた発電所計画が、いよいよ一歩を踏み出した。

ドイツの地熱発電・熱供給事業に参画 国内の地熱開発で知見を生かす


【中部電力】

中部電力は、カナダのスタートアップ企業「エバーテクノロジーズ(エバー社)」がドイツのバイエルン州で進めている、地熱発電・地域熱供給プロジェクト「ゲーレッツリート地熱事業」に参画している。エバー社の株主である中部電力は今回、プロジェクト事業会社に直接出資する。

エバー社は「クローズドループ」と呼ばれる、地下に張り巡らしたパイプに地上から水を流し込み、循環させて地下熱を回収する地熱利用技術の研究・開発に取り組んできた。地下の熱水や蒸気が十分でない地域でも効率的に熱を取り出せることが特徴だ。

カナダのアルバータ州で実証設備を運用しており、商用での建設は今回が初。独自技術を取り入れた「エバーループ」として設置する。

設備は、深さ5000mの位置まで垂直坑を2本と、そこから水平に約3000mの長さの水平坑24本を掘削し、ループを作る。地中部分にはシール材を混ぜた水を流し込み、表面を固めて水漏れを防ぐ。水がループを循環し、地下熱で湯を沸かす。いわば地球を湯沸かし器にする発想だ。

欧州の地下熱は150℃前後。地上に取り出した熱は、熱交換器を通して熱供給用導管とバイナリー発電設備に供給される。流し込んだ水は減量せず循環し続ける。現在1本目のループを掘削中で、24年10月に完成、運転を開始する予定だ。26年8月に全4本のループを完成させて、全面運転開始を目指している。

発電出力は、約8200kW(発電端)。ドイツのFIP(市場価格+変動プレミアムで一定価格にて買い取り)制度を活用して市場で販売する。熱供給は約6万4000kWを予定。約20万世帯分の供給量に相当し、近隣の二つの自治体と30年の売買契約を結んでいる。


EUイノベ基金獲得 国内の地熱拡大にも

プロジェクトの総事業費は数百億円に及ぶが、カーボンニュートラルへの移行を実現する革新的な技術であることが評価され、「EUイノベーション基金」から約140億円の補助が決まった。

「選出されたのは申請数の1割強。基金獲得は、EUから高い評価を得られている証しで、このことが第三者割当増資を引き受け、数十億円出資の決め手になった」と佐藤裕紀専務執行役員は、事業の将来性を確信している。

日本の地熱資源量は世界第3位で活用のポテンシャルは高い。エバーループは熱供給や発電を水の循環で制御できるため、低需要時には地下に蓄熱し、調整電源としての役割も担える。中部電力は、国内への展開も視野に入れる。

佐藤専務執行役員は「地熱の位置づけをドラスティックに変え得る技術だ」と大きな期待を寄せている。

ゲーレッツリート地熱事業完成予想図

「長期脱炭素」に既設原発 柏崎刈羽の支援につながるか


既設原発の活用拡大に向けた新たな政策案が浮上した。7月末の総合資源エネルギー調査会・原子力小委員会で、脱炭素電源への新規投資を支援する「長期脱炭素電源オークション」の対象に、既設原発の安全対策投資を加える案をエネ庁が提示。巨額の投資回収の予見性確保が狙いだ。

需給上は柏崎刈羽などの再稼働が待たれるが……(出典:東京電力ホールディングスウェブサイト)

同オークションは2023年度中に始まり、落札電源には固定費水準の容量収入を原則20年間与える。脱炭素電源の新設・リプレース以外には、水素・アンモニア混焼に向けた既設火力の改修、さらに25年度実施分までは脱炭素化を条件にLNG火力の新設・リプレースも対象にすると整理した。

10年以上原発が停止したままの東日本では、特に東京エリアで夏・冬の需給ひっ迫が懸念される状況が続く。そうした中、本案についてある電力業界関係者は「特に柏崎刈羽などでまだ審査や工事が進んでいない炉への支援を念頭に、関係者が時間をかけて調整してきたのではないか」とみる。

他方、「福島事故でBWR(沸騰水型炉)が水素爆発の危険性が高いと示された。国民が再稼働に納得するにはオークションなどより、例えば事故耐性燃料の実装を促すような措置を考えるべきだ」(政府関係者)といった声もある。

【覆面ホンネ座談会】電力不祥事で議論迷走 遠のく市場の正常化


テーマ:電力事業制度改革

電力システム改革の抜本的な見直しが言われ始めて久しい。だが、カルテル疑惑や顧客情報の不正閲覧など、大手電力会社が自ら引き起こした不祥事がその議論を遠ざけてしまっている。電力システムのゆがみは正せるか。

〈出席者〉 A コンサルタント B 発電事業関係者 C 大手電力関係者 D 学識者

―大手電力会社の老朽火力の退出加速と供給力不足への懸念が払しょくできず、卸電力市場への限界費用入札の弊害が指摘される。

A 限界費用で入札することが問題なのではなく、容量市場に先行して始まり、大手電力の自主的取り組みの名目で実質強制したことがまずい。長期での固定費回収ができないまま、再生可能エネルギーの大量導入で限界費用により取引される短期の卸市場価格の水準が低下したことで、フリーライドで参入できると勘違いした事業者を大量に呼び込んだ。

B 限界費用という言葉は、受け手にとって幅広に解釈できる余地があり、厳密に定義した上で活用するべきだった。限界費用が競争均衡されている市場価格だとすれば、それでは固定費を回収できないという言い分に対し、一部の経済学者は反発する。だけど現実問題として可変費ベースの限界費用では固定費を回収できない。自主的取り組みからガイドライン化され、それがあまりにも厳しいために大手電力関係者も思考停止してしまい、自らの商品をいくらで売るのが適正なのか考えられなくなっているのではないかと懸念している。たとえば長期卸の価格をスポット取引と同様の限界費用で費用認識してしまうなど、発電事業者としてあり得ない。

C 市場はシングルプライスオークションで、自らの売値よりも高い水準で価格が決まるからその値差で固定費は回収できるといった話を経済学者がよくしていたが、値差が固定費回収に十分な額である保証はない。そんな雑な言説がまかり通っていたのは異常だし、それを真に受けて限界費用入札の強制を始めてしまったのは、完全な失策だろう。

D ピーク電源は稼働時間が短いのでそれなりのマージンを乗せて販売するのが先進国の常識だ。ところが日本では、その担い手が大手電力系列の電源ばかりで、ピーク時でさえ限界費用での入札が求められていて、高騰しにくい卸電力市場構造の根本原因になっている。これが、電源投資が起こりにくい上に、老朽火力の退出を促す結果を招いている。

固定費回収に規制的手法 電源投資促進なるか

―容量市場、長期脱炭素電源オークションなど、固定費回収スキームは機能するか。

A こうした市場の創設は、電源投資における市場メカニズム活用の限界を示唆するものだ。短期では、限界費用か平均費用か何が正しいのか分からない市場環境で取引させているのだから、長期回収で帳尻を合わせるしかない。いびつな市場が非線形の期間構造を生むことはさまざまなハレーションを起こし得るが、次善解として受け入れるしかない。

B これまでの制度設計議論は、スポットで発見される価格によって短期的な資源配分も長期的な投資配分も最適化されることを期待しており、不足分は別途容量市場などで補うがあくまで短期を出発点とした議論。だが実際は、長期の電源がしっかりと建っていないと短期の流動性は得られない。長期的に電源のファイナンスをどう維持していくのかを考える必要があり、電源をリスクにさらさないという点において総括原価は有効な手段だった。ファイナンスという意味では、それに近しいものを検討する必要がある。

C 予備力も含めてどの程度電源が必要かは、以前から市場原理とは無関係に決められてきたわけで、自由化だからこれらを取っ払って、全て市場の需給調整に委ねるなんて政策判断はされていない。容量市場はそうした判断になじむと思う。脱炭素オークションの導入が決まったのは、30年で廃止しなければならないかもしれない電源投資のために、民間事業者がリスクを取ることがあり得ない世界になってしまったからだ。これが良いとは決して思わないが、カーボンニュートラル(CN)をどうしても目指すのなら規制的手法に頼らざるを得ない。

D 脱炭素オークションは、全てオークションで調達するという点で極めて特殊な制度だ。イギリスでは新しい技術の電源調達を行う際は、その電源の特性に合わせてオークションか政府との交渉かを決めている。日本では、水素やアンモニアを混焼させる発電は、費用の不確実性が高いことが十分に考慮されないまま全てオークションと決まってしまったので、この制度で本当に新しい技術の電源に投資が向くのか疑問だ。状況に応じて適宜、制度の見直しをしていかないとうまくいかないと思う。

カーボンニュートラルを見据えた事業構造転換が待ったなしだ

―さまざまな制度をつぎはぎで導入している印象が否めない。きちんと機能するのだろうか。

A 鵺のような市場を立ち上げ矛盾だらけの制度で苦しむくらいなら、いっそのこと総括原価方式に戻してしまえばいいのにと思うよ。その非合理性を理解できない。

B 今から総括原価に戻ることはどうやってもあり得ない。それに、今回の資源エネルギー庁の幹部人事を見ても、システム改革を押し進めてきた人たちが顔をそろえているし、間違っていたなんて認めることはないだろう。

C アンモニア発電を手掛ける事業者は限られるからオークションとはいえ価格は交渉で決まるのだろうし、事実上の総括原価とも言える。ただ昔と違うのは、財務基盤が傷んだ大手電力が投資して必要量を確保できる時代ではない。キャッシュフローがリッチな企業が喜んで投資するような枠組みにして業界外から投資を呼び込まないと。

D 最近、脱炭素オークションの範囲を既設原子力の安全投資費用に広げる議論が始まったけど、原子力を卸電力市場の中でどう位置付けるつもりなのか。これによって大手電力に追加的な要請を加えるようなことがあれば、内容によっては安全対策投資費用を回収できるという話が変わってしまう恐れもある。

B バックエンドをまわすためにも原子力のkW時が必要なのだろう。脱炭素オークションで費用回収させようとするのは、それだけ安全対策費の問題が重いテーマなのだ。

【イニシャルニュース 】特捜部の本丸はT? 秋本問題で疑惑再燃


特捜部の本丸はT? 秋本問題で疑惑再燃

秋本真利衆院議員の収賄疑惑を契機に、シンクタンクTを巡る問題が再燃しつつあるようだ。東京地検特捜部は、再エネを巡る政界汚職事件を一昨年から捜査している。同社が再エネ絡みの数々の怪しい会社を結びつけた企業だからだ。関係する大物政治家の名前も浮上している。

Tは政界フィクサーと呼ばれるY代表が運営。S元首相や自民党のN元幹事長ら与野党の有力政治家が機関誌に登場。政治家、官僚、財界などとの太いパイプを生かし、存在感を増した。会員企業に政治家や官僚を紹介し、また落選議員に仕事を斡旋していた。また前H市長のS氏がTの創業に関わった。S氏はM塾出身で政財界問わず、同塾出身者の情報交換の場になっていた。ここ数年は、太陽光開発仲介やEVインフラ整備などに関与。著名エネルギー学者も顧問格に迎え入れている。

一部報道によると、東京地検特捜部は2022年初頭にTと関係先を家宅捜査したという。同部の狙いはやぶの中だが、関西の大物政治家、また大阪、岡山の再エネ開発案件の関係の事件化を狙っていると再エネ業界ではささやかれた。ちなみに、特捜部はTに関係があるとされるT社のM氏を今年4月までに逮捕後に起訴。またK元首相と親しい関係を誇示した、太陽光発電会社T社のI氏ら経営陣を21年6月に逮捕後に起訴した。

そんな中で今夏に発覚した、秋本議員を巡る収賄疑惑。秋本氏は、自民党再エネ派の親分的存在である河野太郎デジタル相の側近であり、「競走馬」というつながりもあることから、「河野氏つぶしではないか」と見る向きも。一方、永田町筋によれば「特捜部による再エネ疑惑追及の本丸はあくまでT絡み」とのこと。今後の捜査の行方に関心が高まっている。

洋上風力工事に影響 港湾の取り合い問題

秋本真利議員と日本風力開発の贈収賄疑惑が波紋を呼んでいる洋上風力。スキャンダルの影響はさておき、今後各地で開発が進む段階において、新たな課題も浮上している。

複数の大規模洋上風力計画が乱立する某県エリア。既に2地点の事業者が選定された政府公募第一ラウンドに続き、第二ラウンドでも2地点の選定プロセスのただ中にある。そうした中、業界関係者が注目しているのが、工事の拠点となる港湾を巡る問題だ。

世間を騒がせている洋上風力開発

県内にはN港とA港の2カ所があり、実施主体はどちらの港湾を使うかそれぞれ判断することになる。位置関係から考えて、第一、第二ラウンドの対象である4地点の計画では、それぞれN港を2地点、A港を2地点が選択すると考えられる。

だが、「特に設備規模が大きいY地点が活用する予定のA港のキャパシティ問題が今後表面化しそうだ。かといって、どちらかの事業者がN港に計画変更したとしてもそれは同じこと。港湾の取り合い問題は、事業のタイムラインにも関わる重要な問題だ」(再エネ業界関係者)。

今後の過程で政府はどの事業を優先させるのか、注目される。

電力カルテルで相次ぐ訴訟 論争の舞台は司法の場へ


大手電力4社グループによるカルテル問題が、新たな段階に入ろうとしている。関西電力、中部電力ミライズ、中国電力、九州電力、九電みらいエナジーの5社は8月10日までに、経産省の業務改善命令に基づく改善計画を提出した。事実上の再発防止策が出そろったことで、カルテル自体には一区切りが付いた格好だ。

処分不服、善管注意義務違反、株主訴訟・・・・・・

しかし一方で、公正取引委員会による課徴金命令などの処分を巡っては、中部、中国、九州が提訴に踏み切る方針を表明。うち中部と九州では「カルテル合意はなかった」として処分取り消し訴訟を提起する構えだ。注目は中部。公取委が調査中の東邦ガスとのカルテル問題の処分案が今秋に示される見通しだからだ。「これが、電力カルテル処分の取り消し訴訟にどんな影響を与えるのか。重要なポイントの一つになりそう」(一般紙記者)だという。

もう一つの注目は中国。8月3日、旧経営陣3人に善管注意義務違反があったとして、損害賠償を求める訴えを広島地裁に起こすと発表した。関西、中部、九州が経営陣を提訴しない方針を表明する中で、「なぜ中国が?」と業界に波紋を広げている。

果たして、司法の場ではどんな論争が繰り広げられるのか。

取引の健全性を崩した燃料油補助金 今こそ激変緩和措置の徹底検証を


【識者の視点】小嶌正稔/桃山学院大学経営学部教授

当初の枠組みから大きく反れ総額6兆円をかけた燃料油補助金制度が出口に向かおうとしている。

店頭価格200円越えで9月末終了も危ぶまれるが、どう転んでも制度の検証は待ったなしだ。

予算規模6兆円を超えた燃料油の激変緩和事業が9月末に終了する予定だ(8月18日時点)。時限的・激変緩和で始まった事業は、1年7カ月の間、目的や補助上限、基準価格、対象油種と基本的枠組みの変更を繰り返したが、いよいよ出口にたどり着こうとしている。

同事業は、コロナ禍からの回復の基礎として石油製品価格を安定させ物価の安定に寄与した一方、堅調な石油製品需要を下支えし、脱炭素と相入れない状況を作った。また補助金の運用に民間企業を使ったこと、緊急避難的処置の改定時に企業が経営判断として行う小売価格を加えたこと、効果が疑問視された価格モニタリング制度を一貫して続けたこと、そして政治的駆け引きで基準価格を決め、終了までのプロセスの議論なしに長期にわたり莫大な資金を使い続ける、といったマイナスの側面があった。今回の経験を踏まえ、同様の事態に備えていつでも発動できるスタンドバイポリシーを準備すべきである。

巨額をかけ長期にわたった施策の検証が急務だ


当初の基準は透明性担保も 政府が価格介入の禁じ手へ

燃料油の激変緩和事業の支給開始は2022年1月末であった。元売り事業者などへの補助金支給による価格抑制という変則的な方法でスタートしたが、時限的・緊急避難的処置としてスピード感が優先された。発動から4週間ごとに1円ずつ基準価格を引き上げることによって激変緩和を着実に実行する制度であり、特に原油を基準とすることで明確性、透明性が確保されていたと評価できた。

政府が石油元売りを通じて小売価格に影響を与える施策が長期間行われることは、市場メカニズムを破壊する行為であり、事実上、元売りが小売価格をコントロールできることが前提だとも取られかねない。この事業期間では大手元売りの卸売価格はほぼ同じ変動幅で動いていた。競争が働いていないとは言わないが、卸売価格(表面)でなく見えないところで競争が行われているとすれば、取引(価格決定メカニズム)の健全性が失われたと言わざるを得ない。時限的・緊急的な異例の措置は、変則ではなく禁じ手だったのだと認識しておく必要がある。

ロシアのウクライナ侵攻などによる原油価格の急騰を受け、22年3月以降、支給上限が5円から一挙に25円まで拡充され、激変緩和は緊急避難措置になった。原油の急騰を考えれば、補助上限額の引き上げは必要であった。しかし、原油価格高騰対策の基準価格の算定に、小売価格調査の結果が加えられたことで明確性も透明性も失われた。小売価格は経営主体が自社の経営判断で決めるものだ。これを支給基準に加えることは、小売業者の経営判断が補助額に反映されることを意味する。小売価格に影響を及ぼす方法は、説明のいらない、例えば二重課税見直しなどに限定すべきだ。

4月28日(第3段階)からは、石油製品の価格高騰対策・円安対策に姿を変えた。基準価格は172円から168円に引き下げ、補助上限額は一挙に35円に引き上げ、さらに超過分にも2分の1を支援する仕組みに拡充された。

製品価格の高騰対策となったことから、揮発油税の暫定税率を一時的に停止するトリガー条項が政治的に持ち出された。トリガー条項の設定時の基準は160円であり、当時の消費税率5%を差し引くと本体価格は152・38円。これに現行の消費税率10%を掛ければ167・6円となり、新基準価格と同額になる。補助金の上限額35円も同じで、当時(4月4日)の全国平均小売価格は、補助金の支給がないと仮定すると203円程度になる。これと168円との差は35円である。トリガー条項を発動することなく、それを適応したのと同じ結果となった。 

制度が価格高騰対策に変わった以上、政策対象を限定しない政策から、生活困窮者への支援など、対象者を絞り込む必要があった。

そしてもっとも効果が疑問視されたのは、補助金が小売価格に適切に反映されているかを確認する価格モニタリング制度である。

「燃料油補助」延長は愚策!? 人気取り政策の費用対効果


「萩生田(光一)政調会長に、ガソリン高騰対策を今月中にまとめるよう指示した」

岸田文雄首相は8月22日、9月に終了予定だった燃料油価格激変緩和措置の継続を示唆した。21日時点のガソリン平均価格は過去最高値に迫る183.7円だ。加えて、電気・ガス代支援策を含めた経済対策を9月中に取りまとめる考えも示した。

原油価格自体は安定している。8月22日のWTI先物では1バレル80ドルを割り込む場面も。サウジアラビアの追加減産など不安定要素はあるが、今後急激に油価が上がる可能性は低い。販価高騰の原因はひとえに円安の加速だ。

円安加速がガソリン価格上昇に大きく影響している

このため、燃料油だけでなく、原料、食品を含めたあらゆる輸入品の調達価格が上昇。本来必要なのは抜本的な円安対策なのだが、政府は国民受けのよい燃料油補助でお茶を濁している格好だ。

「以前のような競争がなくなったことで収益は安定している。正直、補助金はあってもなくても、どちらでもいい」(SS関係者)、「国が小売り価格相場を決める形となり、市場原理による本来の適正な価格形成は完全にゆがめられた」(エネルギー関係者)、「燃料油価格が上がれば消費が抑えられ、省エネ・省CO2に貢献、エネルギーシフトも後押しするのに、そのメリットは無視されている」(環境団体関係者)―。やめ時を見失った補助延長の愚策に、関係者からは冷ややかな声が聞こえる。

「激変緩和措置に合計6兆2千億円を投入し大きな効果を発揮している」と岸田首相は胸を張るが、果たして膨大な国費投入に見合った効果が国民経済にもたらされているのかどうか。いずれかの段階で徹底的な検証が必要だ。