【火力】長期予見性が毀損? 電源オークションの展望


【業界スクランブル/火力】

長期脱炭素電源オークションの初回オークションが来年1月に実施される。本制度は、長期の投資回収予見性を高め、新規電源への投資を促すことで安定供給を確保しようというもの。電力自由化の進展に伴い短期ベースの取引が中心となり、長期にわたる電源投資の停滞が懸念されていたが、既に供給力不足による電力需給のひっ迫や卸市場の価格高騰が顕在化しており、将来に向けて安定電源を確保する仕組みの整備は待った無しの状況だ。

しかし、脱炭素にこだわるあまり本制度の売りである「長期の予見性」が毀損されているのではないかと危惧している。脱炭素の取り組みに異を唱えるものではないが、足下の対応と将来ビジョンとの整合ではスピード感に自ずと差がでるのは当然だ。まして脱炭素化への道筋はいまだ定まっていない。

今の状況では、期間限定とされているLNG火力の募集こそが本丸と言っていい。将来の脱炭素化へのロードマップを示せとの要求に二の足を踏むのではと危惧されたが、既存のLNG火力の更新(従来型からコンバインドサイクルへ)を軸に各社に動きがあり着実な成果が期待される。

一方、石炭火力の新設は、CO2回収・貯留(CCS)とのセットでも認められていない。議論の途上において、委員から酸素吹きIGCC(石炭ガス化複合発電)+CCSの高い可能性について言及があったにもかかわらず、ガイドライン(案)には「CCSの扱いについては、今後要検討」との注釈があるだけだ。

先行き不透明な場合に様子見をしたくなる気持ちも分かるが、前進するには、より具体的な提案を出す必要がある。発電事業者もメーカーも、今こそが勝負と心得てもらいたい。(N)

デリバティブズのススメ 先物取引は「習うより慣れろ」


【リレーコラム】髙井裕之/EEXグループ 上席アドバイザー日本担当

デリバティブズは派生商品と訳す。では何から派生するのか。金融では派生の元を原資産と呼ぶ。株式や債券、通貨やコモディティなど市場で売買される資産であれば何でも原資産になる。金融の世界では、先物・先渡・スワップ・オプションなどを総称してデリバティブズと呼ぶ。原資産が日経平均株価であれば日経225指数先物、為替であればドル円の先渡(フォワード)、原油であれば原油先物などがデリバティブズ商品である。

デリバティブズの起源は18世紀の大阪堂島の米先物とされる。英国発祥の非鉄金属取引では産地から消費地まで船で運ぶのに数カ月を要したことから、3カ月先渡しをデフォルトにした先物取引が発達した。受け渡しまで時間があるので一度買ったものを売り戻しもできる。同じ現物を複数の異なる人が何度も売買して差金だけ決済もできる。価格変動で差益だけをとりたい人でも簡単に参加できるのが最大の利便性だ。

デリバティブズを使えば原資産の所有権は保持したまま、価格リスクだけを売り手から買い手に移転できる。欧州の電力会社は自社で発電する電力を2~3年先までデリバティブズを使って、価格下落リスクを前もって回避(ヘッジ)している。原資産たる電力は需要家の条件に合わせて随時販売し、都度デリバティブズを反対売買すればいい。ドイツの電力デリバティブズ市場では、世界中から数百社が参加して原資産の何倍もの規模で「金融電力」が売買されている。


高まる日本の電力取引市場

日本でも自由化から7年を経てようやく電力先物が定着してきた。昨年の欧州エネルギー危機で価格変動リスクへの認識が高まったのも一因だろう。今年に入ってからのEEX Japan Powerの出来高は4カ月で6・25‌T‌Wh(テラワット時)となった。昨年の同時期の4倍という驚異的な伸びである。

参加者も50社を超え、電力ガスや新電力大手、総合商社、石油や資源メジャー、金融機関など多彩。その半数が日本の「金融電力」市場に関心ある13カ国籍の海外企業。もはやJapan Powerはグローバルコモディティと呼んでも過言ではない。今後日本が電源の多角化を推進する上でこの市場が活性化しヘッジ機能を果たすことが肝要である。

筆者がデリバティブズの世界に足を踏み入れて今年で40年になる。その間、金融、メタル、エネルギーとこのツールを駆使してマーケットの荒波を乗り越えてきた。「習うより慣れよ」がこの世界の鉄則。先ずは1ロットから始めてみてはいかがか。

たかい・ひろゆき 1980年神戸大学経営学部卒、住友商事入社。理事・執行役員、エネルギー本部長などを歴任。2020年7月から電力取引所EEXグループ日本代表を務める。

※次回はエナジーグリッド社長の城﨑洋平さんです。

【原子力】GX法案の問題点 原子力の将来絵図なく


【業界スクランブル/原子力】

わが国のGX・脱炭素電源法案が4月27日に衆院を通過した。原発を再稼働させることでエネルギー自給率を上げるという政府方針を示した点などで、評価できる意義のあるものだ。ついては、その優位点を早期に生かす必要があるが、今回の法案はあくまで既存の原発を対象にした内容で、欧州や米国のように先を見据えた原発新設の観点が抜けており、踏み込み不足感は否めない。

今後各国が脱炭素化を進めていく上での主要エネルギーは、燃焼時にCO2を排出しない水素を見込むことが必須で、欧米各国は水を電気分解して水素を抽出するための電力の多くを原発で賄う方針を示している。しかしわが国の同法案は、残念ながら新設による将来的な原発活用を想定していない。例えば将来的な水素供給の視点まで法案に盛り込むとなると、原発の新設についても触れざるを得ない。政治的な配慮もあって、岸田政権としては過激な言及を避けざるを得なかったのだろう。

もう一つ、同法案の問題点を指摘したい。原子力の平和利用の視点の中で、現実的に高速増殖炉が抜け落ちている点だ。資源小国であるわが国では、その視点が欠かせない。高速増殖炉が、ナトリウム炉、ガス炉のどちらになるかは今後の開発次第だが、プルトニウムを最大限に利用する必要がある。アストリッドのように他国に頼りすぎると失敗を繰り返すことに。自国の技術活用を覚悟することが必要であり、それがエネルギー自立の道には欠かせないことを覚悟することが求められる。

岸田政権の下で、原子力の在り方が大きくリセットされる傾向がある中で、高速増殖炉の在り方について改めて新しい絵を描き、核融合炉についても新しい将来が開かれることを期待したい。(S)

【石油】チャットGPTは使えるか 燃料補助金制度は


【業界スクランブル/石油】

最近はやりのチャットGPTに「4月後半に入って、ガソリン小売価格がわずかに下がっているのはなぜですか?」と聞いてみた。「ガソリン価格が下がっているのは、原油価格が下がっているからです」との回答。ウーン。昨年1月以前、補助金支給前、ガソリン卸価格が原油価格に連動していた時期であれば、正解だ。どうやら、補助金支給で、原油価格と製品小売価格が切断されていることを「学習」していないらしい。

基本的に、補助金は原油価格が上がると増額、下がると減額され、ガソリン小売価格が1ℓ当たり168円に落ち着くように、支給額は毎週調整される。ただ、4月後半は原油価格の値下がり幅が補助金額の値下がり幅より小さかったため、石油元売りの補助金込みの実質卸価格の値下がりが続いたことで、小売価格もわずかに値下がったのである。

ところで、この補助金については、6月から段階的に縮減される予定である。既に1月から、支給限度額の削減は始まっているが、5月の限度額は1ℓ当たり25円、5月第1週の補助金は16・8円であるため、今後1バレル10ドル近く原油価格が上がっても影響は出ない。しかし6月からは、補助金額が直接月5円ずつ減額される予定となっている。

この補助金の話題は、意外に消費者・需要家に知られていない。補助金制度が学習されてないのは、AIだけではないらしい。9月末の補助金廃止に向けて、混乱が懸念される。これから先、原油価格の動向が小売価格に反映されることになるので、GPTに「今後の原油価格の予想はどうか?」と聞いた。「原油価格はさまざまの要因で決まるので、予想できません」との回答。これは絶対に正解だ。(H)

【ガス】迫る「2024年問題」 プロパン配送にも影響大


【業界スクランブル/ガス】

2024年3月に、運送業のドライバーの時間外労働時間に対する制限の猶予が終了し、上限規制が適用される。いわゆる「2024年問題」が迫っており、LPガス業界においても直接、間接的にさまざまな影響が予想される。地方では中小LPガス企業が多く、経営者の高齢化に伴う後継者問題や人手不足による廃業も増加。販売事業者からは、「従業員は高齢化しているが新規採用もなかなか難しい」「採用しても1、2年で辞めてしまう」との声も聞かれる。

LPガスは個別供給による分散型エネルギーのため、配送員は事業の根幹であり、保安も担う。需要が増加する冬場は特に容器配送ドライバーが不足。また、約90㎏の容器の運搬は重労働である上に、設備保安点検に関する資格や、配送・バルク供給に関する資格などが必要なことも、人材不足となる要因だ。

日本ロジスティクスシステム協会の調査(22年度)によると、労働不足対応のためのDXなどの推進に対して、未対応と回答した企業の割合は44・9%、対応できたと回答した企業は10・2%となっており、まだまだ進んでいない。

LPガス業界では、LPWA(省電力広域無線通信技術)を活用した集中監視システム導入によって、配送合理化や充てん所の統廃合が進められているが、人手不足は深刻だ。LPガスは都市部から山間部、離島まで日本国内全域に供給可能なので、面積比では都市ガスの供給エリアを圧倒している。しかし、将来は人材不足によるLPガス空白地域が生じる可能性もある。エネルギー間競争や料金問題など課題が山積しているが、新たな従事者を育てられなければ、「2024年問題」はLPガス業界にとって致命傷となるかもしれない。(F)

【マーケット情報/6月16日】原油上昇、中国需要の回復に期待


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。中国政府による景気刺激策や原油輸入を増やす方針を好感した買いが優勢となった。

中国では、低迷する消費活動にテコ入れするため、政府が大規模な景気刺激計画を発表。また、33の製油所に対して新たな原油輸入割当を発給するなど、需要増加の見通しが広がった。クウェート国営石油会社(KPC)のトップが、中国市場での需要は堅持されるとの楽観的な見方を示したことも、市場を後押しした。

米国では、連邦準備制度理事会(FRB)が、昨年3月の利上げ開始以降、初めて利上げの見送りを発表。年内に追加で2度の利上げを想定しているものの、景気と需要回復への期待が高まった。核開発合意をめぐるイランと米国の交渉再開をめぐる観測がくすぶっていることもあり、買いが先行した。

一方、米大手銀行は、原油の生産増と需要減の見通しから、今年と来年の油価予測を下方修正した。最新の米原油在庫統計で、WTI原油の受け渡し地点となるクッシングの在庫が増加。国全体の在庫も増加を示しており、週半ばまでは供給増加の見通しが強かったが、最終的には価格を下押す材料にはならなかった。

なお、サウジアラビアは、7月から独自の追加減産予定しているものの、太平洋州向けの7月供給量は、買い手の希望通りとなる見込み。


【6月16日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=71.78ドル(前週比1.61ドル高)、ブレント先物(ICE)=76.61ドル(前週比1.82ドル高)、オマーン先物(DME)=75.36ドル(前週比0.16ドル高)、ドバイ現物(Argus)=75.34ドル(前週比0.06ドル高)

“ディスパッチャブル”な電源を確保せよ!


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

最近、海外の業界誌で“ディスパッチャブル(dispatchable)”という言葉をよく見かける。給電指令に応じ、起動・停止・出力調整などが可能(な電源)だ。ここぞという場面で頼りにしたい電源だが、昨今、指令に応じられない事例が多発し、改めて注目されている。米国のテキサスやPJMエリアでは寒波によるガス導管凍結、豪州の電力市場では電力価格への上限発動による逆ザヤの発生、日本では冬季の需要急増に対する燃料の不足という理由で、火力の運転停止や出力抑制が起きている。

PJMは、指令に応じなかった発電事業者に対し、容量市場の義務違反として罰金を科す一方、より確実な供給力確保に向けた容量市場改革に乗り出した。簡単に言うと、「冬季のリスクモデルの見直し」、「供給信頼度に応じた支払い」、「燃料確保などで事業者が負ったリスクへの十分な支払い」である。

地域独占・垂直統合時代の電力会社にとって、安定供給は絶対的使命であった。震災後、原子力が停止するなか、採算度外視で短期間に休止火力を立ち上げたのは象徴的である。ところが、競争下においては、容量市場からの収入以上に設備費用をかけたり、需要急増に対して逆ザヤでも燃料を調達したりするのは躊躇われるということではないか。

今後、太陽光や風力の大量導入が進めば、火力電源は稼働が減る一方、ますます厳しい局面での出番が求められるはずである。ところが、再エネへの支出に比べ、古い火力設備やその燃料供給に報酬を払うのは政治的に見栄えが悪い。第1回容量オークション後のヒステリックな騒ぎは記憶に新しい。当時、真に“ディスパッチャブル”な電源確保という視点からの議論は十分であったか。市場設計の見直しが進められる中、改めて考えてほしいものだ。

【新電力】適正な競争環境確保 忖度なく毅然と対応を


【業界スクランブル/新電力】

3月末に公正取引委員会から、「旧一般電気事業者らに対する排除措置命令及び課徴金納付命令等について」の発表があった。従前より報道などで話題になっていた電力カルテルに対する排除措置命令に加えて、電気の小売供給市場における競争の適正化を図るための電力・ガス取引監視等委員会に対する情報提供がなされ、営業活動における旧一電内部の情報共有だけでなく、市場価格の操作の企図・グループ内供給に対する条件優遇などが挙げられた。

これらは、新電力の事業活動を行っている中で数年以上前からその可能性が指摘され続けてきたことであり、このタイミングで大きく取り上げられていることに業界内からは疑問の声が上がっている。全面自由化以降、電取委によって行われていた監視行為の実効性に疑義が生じていることにほかならず、その体制の強化が求められている。

このところ、旧一電の競争環境を毀損する活動が取り上げられる場面が増えた。不祥事が取り上げられても、どことなく再発防止が徹底される空気感を現時点ではあまり感じないほど、こういった問題が散見されるようになった印象を受ける。

だが、電取委は電気事業法上での対応しかできない。公取委も独占禁止法上の対応しかできない。競争環境を整え、消費者の便益を高めるためには、個別の法律論を超えて、忖度なく毅然とした対応が求められるのではないか。

一方、送配電部門の所有権分離を求める声も上がっている。電力市場はまだ全面自由化して数年であり、一足飛びの議論は逆に安定供給を危ぶませる可能性もある。多様なプレイヤーが成熟し、競争環境の透明性と安定供給のバランスを取った建設的な議論が求められると考えられる。(K)

太陽光パネルを垂直設置 世界初の発電方式が誕生


【エア・ウォーター】

主力電源化を目指し、国策として再生可能エネルギーの導入拡大議論が進む一方、その適地は年々減ってきている。特に太陽光発電はその傾向が顕著である中、北海道エリアでLPガス事業を手掛けるエア・ウォーターが、設置場所の制限の課題を克服するユニークな太陽光発電システムを開発し、5月に販売を始めた。

同社が開発したのは、設置スペースが限られる場所や、これまで導入が難しかった豪雪地帯でも設置可能な垂直型の太陽光発電システム「VERPA(ヴァルパ)」で、「駐車場など他の用途と併用できるものとしては世界で初めての製品だ」(広報・IR推進室)という。

エア・ウォーターが開発した垂直型ソーラー

垂直に設置するパネルは、発電効率が劣ると思われがちだが、ヴァルパはパネル両面で受光発電できるため、平置き型・傾斜型と比較しても年間発電量に大きな差がないばかりか、地面からの反射光によっては、より優れた発電量を期待できる。豪雪地帯であっても雪がパネルに積もりにくく、豪雪地帯での設置にも向いている。

導入先は多様な場所が想定される。例えば駐車場だ。従来の平置きや傾斜型の設置では駐車場利用とパネル導入の併用は難しかったが、垂直式のヴァルパであれば、既存の駐車場の収納台数を減らす必要はない。「地表からモジュール下部までの高さを2m以上とすることで、ドライバーや歩行者の視線を遮ることがない。また、建築物ではなく工作物となるため、市街化調整区域の駐車場にも設置できる」(同)

このほか、牧草地や農道脇に設置した場合でも、大型農業機械の作業を遮ることはなく、農家にとって、売電による「副業収益」にも期待が持てる。

台風対応の設計施工 日本向けに独社と共同開発

台風対策はどうか。2本支柱の場合、鋼管杭やH鋼杭を打ち込んで風圧に対応する施工としている。現状では、基準風圧34ミリ/秒以下の地域を対象に設置を進める。

エア・ウォーターは、このヴァルパをドイツの両面受光型太陽電池モジュールメーカーであるルクサーソーラー社と共同開発した。垂直型は既に欧州で導入されているが、欧州よりも積雪量が多く台風などの強風リスクが高い日本市場向けにカスタマイズしたことが、この世界初の太陽光発電システムの開発ポイントだ。

エア・ウォーター北海道の加藤保宣社長は「ソーラーエネルギー関連事業を、バイオガス、木質バイオマス、CO2回収利用に続く、地球環境ビジネスの第四の成長分野に成長させていく」と話す。

G7エネ環境相会合 議長国日本の「現実路線」


【ワールドワイド/環境】

4月15~16日のG7気候・エネルギー・環境大臣会合では、欧米諸国が環境原理主義的傾向を強める中、議長国日本が現実的な路線をよく守った。

欧州諸国は2030年までに排出削減対策を講じていない石炭火力を段階的に廃止することを強く主張していたが、昨年のG7サミット同様、石炭火力の段階的廃止に年限を設けることはなかった。

天然ガス投資の重要性も盛り込まれた。昨年来、日本はガスの需給ひっ迫が途上国に経済的苦境をもたらすなどの理由で天然ガス全体の投資の重要性を指摘してきた。欧州諸国は自らの天然ガス調達のためにLNG受け入れターミナルを建設しながら、ガス全体の投資の重要性について否定的であったが、これを抑え込んだ形だ。

道路部門の脱炭素化については米国がZEV(ゼロエミッション車)の比率を30年までに50%にする数値目標を主張したが、G7全体で35年までにCO2を半減する技術中立的な文言で決着した。

原子力に関し「原子力エネルギーの使用を選択した国々は」という形で主語を限定しつつ、エネルギー安全保障、脱炭素化、ベースロード電源、系統の柔軟性の源泉としての原子力の重要性についてしっかり書き込み、既存炉の最大限の活用、革新的原子炉の開発、建設の重要性が指摘された。

再エネはG7全体で洋上風力1億5千万kW、太陽光10億kWという数値目標が盛り込まれたが、クリーンエネルギーのサプライチェーンにおける人権、労働基準遵守の確保、(特定国・地域への)過度の依存の問題点、重要鉱物の脆弱なサプライチェーン、独占、サプライヤーの多様性欠如による経済上、安全保障上のリスクについても指摘された。

他方、温暖化目標の面では「25年全球ピークアウト」や新興国を念頭に「1・5℃目標と整合性を保つべく、30年目標を見直し、50年カーボンニュートラルをコミットすることを求める」などが盛り込まれたが、中国が30年ピークアウト、インドが30年以降も排出増を見込んでいる中で、インド主催のG20にこうした文言が盛り込まれる可能性は皆無だ。「35年60%減という数値目標を書き込んだ」と報道されたが、そうした数字を含むIPCC報告書の指摘の緊急性をハイライトするというものであり、G7の35年目標をプレジャッジするものではない。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【電力】安易な改革だけ先行 資本食いつぶす大手電力


【業界スクランブル/電力】

2012年12月に自民党が政権に復帰した時、民主党政権が進めてきた電力システム改革が修正されることを期待した向きは少なからずあったように思う。しかし、結果は前政権の原発ゼロ政策は非現実的として撤回したものの、電力システム改革は踏襲された。当時、日経新聞が報じた「あれだけの事故を起こしても安倍政権は安全な原発を再稼働する。電力が何もしない(=電力システム改革をしない)のはあり得ない」という言葉をよく覚えている。

これは、経産省幹部が当時の大臣の心中を推し量っての言とのことで、大臣が本当にこう思っていたか実は定かでないのだが、結果的に改革は進められたが原発再稼働は進まず、昨今の電力需給逼迫の一因となった。

震災後のシステム改革を振り返るに、本来同時に行うべきことが、やりやすいものだけが先行し、やりにくいものが後回しになった結果、旧一般電気事業者が資本を食いつぶしてそのギャップを埋めることの繰り返しだったのではないか。大きく言えば、前述の電力システム改革と原発再稼働であり、よりミクロに言えば、限界費用玉出しから10年近く遅れた容量市場導入もそうだ。

今、電力・ガス取引監視等委員会が推進している卸電力の内外無差別化も、規制料金・供給義務の撤廃とセットとするのが本来だろう。クリームスキミングができる新電力と供給義務に縛られる旧一電の構図を温存したままで卸が内外無差別になれば、新電力が勝つに決まっている。これはむしろ逆差別と呼ぶべきものだ。

しかし、今般の料金改定申請を巡る動向を見るに、規制撤廃が追い付くのは一体いつの日か。またやりやすいことだけ進められて、旧一電は資本を食いつぶすのか。(V)

深刻化する熟練労働者不足 解決へ移民受け入れを促進


【ワールドワイド/経営】

ドイツでは熟練労働者不足が問題視されている。1955~70年生まれのベビーブーム世代が労働市場から退き、労働力人口が減少すると想定されていることに加え、若年層の高学歴志向により、熟練労働者を目指す職業訓練生の人数も減少している。2023年1月にドイツ商工会議所が実施した調査によると、国内企業2万2000社のうち半数以上が熟練労働者の不足で人員を補充できていないという。

21年末に発足したショルツ政権は、再エネ拡大を最優先の課題として、30年の再エネ導入目標を65%から80%に引き上げた。電源別目標導入量は、太陽光、陸上・洋上風力ともに現在の倍以上となる。もちろんこのエネルギー移行を遂行するには、太陽光パネルや風力発電設備の設置、系統拡張、省エネ改修などでさまざまな労働需要が発生する。ドイツ経済研究所によると、太陽光・風力の拡大には熟練労働者約21万6000人が追加的に必要となる。つまり、労働人口問題と再エネ目標の引き上げが重なり、熟練労働者不足を増大させている。

政府は22年10月にこの問題に対処するため「熟練労働者戦略」を発表し、この中で基本方針の一つとして移民受け入れ促進を示し、23年3月には高技能移民法案を閣議決定した。同法案ではEU域外からの受け入れを促進するため、高資格労働者の居住許可証であるEUブルーカードの発行要件を緩和するほか、カナダの制度にならいポイント制度を導入する。学位や資格、語学力などを判断基準にポイントを付与し、一定点数を超えれば滞在資格が与えられる。

また、今夏から洋上風力入札において新たな試みが始まる。二つある入札方式のうちの一つ(政府調査方式)で、落札選定基準100点中10点分を「熟練労働者養成への寄与」という項目に配分する。ドイツではデュアルシステムと呼ばれる特有の職業訓練制度が確立されており、熟練労働者を目指す者は職業訓練校に通いながら、工場や第一線職場など、現場における実践的な職業訓練を週の3、4日受ける。職業訓練生の受け入れ数の割合が入札で評価される。

熟練労働者の不足はドイツのみならず隣接する欧州諸国も直面する問題であり、移民受け入れによる労働者確保にも国際競争が伴う。改正高技能移民法がどれほど効果を発揮するか。野心的な再エネ目標達成に向けて、政府や国内企業が労働力獲得競争にどのような魅力ある制度・条件を打ち出し対処していくのかが焦点になる。

(藤原 茉里加/海外電力調査会・調査第一部)

CN実現へ政策提言を公表 補助金投資配分のシフトなど訴え


【新経済連盟】

楽天グループ創業者の三木谷浩史氏が代表理事を務める一般社団法人新経済連盟は、4月にカーボンニュートラル(CN)の実現に向けた国への政策提言「新経済連盟カーボンニュートラルビジョン」を公表し、5月18日にメディア向け説明会を開催した。

このビジョンは、事業の民間委託の重要性やスタートアップ・ベンチャー・デジタルの活用、国際的なルールメイクの先導などを基本方針に掲げた。その上で、市場、金融、仕組みづくりの相互連携の重要性を指摘。①グリーントランスフォーメーション(GX)産業の勃興を後押しするマーケットメカニズムの促進、②150兆円超のGX投資の効果的なファイナンス、③GXを進めるための仕組みづくり―の3点を挙げ、それぞれに具体的な政策を盛り込んだ。

提言を取りまとめたワーキンググループ(WG)座長の吉田浩一郎氏(クラウドワークス社長兼CEO)は、説明会で「EUやアメリカを上回る150兆円規模の予算もできた。いまGXは面白いタイミングだ」と述べ、ベンチャー企業中心の経済団体としてCNに貢献する考えを示した。

WGの副座長を務めた、エネルギーベンチャー企業エネチェンジ代表取締役CEOの城口洋平氏は、「スタートアップの立場で、GXから革新を起こしていく。多くの分野で抜本的改革が必要だ」と、同ビジョンの意義を強調した。

説明を行う城口洋平氏(左)とWGの吉田浩一郎座長


提言は「魂を込めた」 補助金配分見直し訴える

中でも城口氏が「われわれの魂を込めた内容」と話すのは、GXによるエネルギー源・産業構造の変化に伴う、新産業・新技術への投資配分についての要望だ。

城口氏は、高騰するエネルギー価格への手厚い政府補助について「あまりにアンバランスではないか」と主張し、投資配分をシフトすべきだと訴えた。また、150兆円超のGX投資に対しても、自動車産業を重点投資分野と位置付け、メリハリのある投資を呼びかけた。「米インフラ投資法では10年分の予算が決められているが、日本では年度ごとの予算配分のため、中長期の投資判断ができない」(城口氏)。事業の予見性確保のために、効果的な投資計画の策定を求めた。

ビジョンはそのほか、電力システム改革の必要性や人材の確保、GX政策の司令塔として「GX庁(仮称)」の新設といった内容を記載。今後は、新経済連盟として経済産業省などに働きかけを行う。

日本経済再生に向け、スタートアップ企業が中心となることには「(理事就任の)2015年当時からすると隔世の感がある」(吉田座長)という。GX投資というチャンスを生かすことができるかどうかは、スタートアップ企業の成長にかかる。

【コラム/6月16日】電力会社の発販分離を考える


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

エネルギーフォーラム誌の記者通信(5月12日)に「顧客情報の不正閲覧など相次ぐ不祥事に揺れる関西電力は5月12日、電力小売事業の競争健全化に向け、発電事業との分離を検討していることを明らかにした。JERAを設立した東京電力、中部電力の両社に続いて、発電、小売り両事業の分社化が実現することになるのか。将来的に他の大手電力会社に波及する可能性も否定できないことから、関係者は関電の動向に大きな関心を寄せている」との記事が掲載された。以前のコラム(4月14日)では、送配電の分離の問題を取り上げたが、今回は、この発販分離の問題を考えてみたい。

最初に指摘しておかなくてはならないことは、送配電の分離と発販分離とは、問題の本質が異なっていることである。基本的に、前者は規制の問題であるのに対して、後者は電気事業の経営問題である。前者に関しては、独占分野である送配電に従事する電気事業が、販売などの自由化市場でも活動する場合に、送配電にアクセスする第三者に対して差別を行う可能性があるため、諸外国でも例外なく、規制により、独占分野である送配電はなんらかの形で分離される。法的分離の先にある送配電のより完全な分離の形態は、以前のコラム(4月14日)で指摘したように、独立の系統運用者の設立か所有権の分離である。

これに対して、発販分離に関しては、発電も販売もともに自由化されており、規制により強制する積極的な理由は存在しない。発販一体化で、発電部門から販売部門への内部相互補助が存在しているとの議論があるが、発電を所有してビジネスを展開することが有利と考えるならば、新規参入者が発電を所有することは妨げられない。欧米では、新規参入者により膨大な数の電源、とりわけ小型火力発電が建設されたが、このような現象はわが国では観察されず、もっぱら一般電気事業者に球出しを要求し、卸電力市場に依存するなど、投資リスクをとりたくない参入者がほとんどであることは残念である。発電こそ競争力の源泉なのに、これでは、自由化によるメリットを消費者は享受することはできないだろう。

確かに、原子力発電のように超長期の建設のリードタイムや回収期間をともなう電源については、新規参入者が建設することは困難であるが、小型の火力発電や再生可能エネルギー発電に関しては比較的短期間に建設することが可能である。わが国では、全面自由化後、すでに7年が経過している(部分自由化後20年以上)。しかも、わが国では、ベースロード市場を整備してきている。第三者への差別の問題は、独禁法に照らして判断されるべきである。自由化市場においては、(独占分野は分離されるものの)企業の構造は、規制により強制されるのではなく、市場によって決められると考えるべきだ。

発販分離は、規制の問題というより、経営問題であるとしたら、経営的視点でこの問題をどのように考えるべきだろうか。送配電は、すでに別会社化されているから、発電と販売を分離することは、発電、送配電、販売の価値連鎖のすべての段階を子会社に位置づける持株会社の誕生を意味している。親会社のもつ機能は、基本的に、企画、人事、経理などの間接部門のみである。このような持株会社の形態は、欧米の多くの電力会社が自由化以降に採用してきたものである。それでは、欧米では、なぜ多くの電力会社は価値連鎖上の各機能を分社化したのかというと、激化していく競争へ対応した経営組織の構築が迫られたからである。発電や販売における一層の競争激化に直面し、各機能をより専門特化させるように、それらを分社化の形で分離することが望ましいと考えられたのである。

各機能の特徴について述べると、発電は、競争が導入されるものの、伝統的な設備主導のエンジニアの世界といえる。電力自由化により、効率化が求められるが、その性格が大きく変わるわけではない。送配電は、電力自由化後も独占にとどまり、中立的な観点からネットワークへのアクセスを可能にするとともに、安定供給確保のために長期的な観点から設備投資していくことが求められる。この点で、発電同様、送配電も伝統的な設備主導のエンジニアの世界といえるが、自由化後も依然として規制を受ける点が発電と異なる。これらに対して、販売は、自由化以前は、単に負荷を充足させることが課題であったが、自由化後は、需要家の様々なニーズを的確に把握して、求められるエネルギーとサービスを提供していく活動が求められる。そのような活動は主として人的資源に依存しており、販売はソリューションの開発・営業マンの世界であるといえる。

これからわかるように、販売と発電との間には、異なる文化が存在している。同じく競争が導入される発電は、長期の投資や供給の信頼性も重視していかなくてはならないのに対して、販売は、競争環境下で急速に変化する市場の条件に即座に対応できる柔軟性とそのような人材を有していることに事業の成否がかかっている。このため、販売分野では従業員のモチベーションに最大の焦点が当てられる。このような異なる文化を発展させていくためには、一層の分権化や分社化が望ましいとの考えがある。デジタル技術に基づく革新的なプロダクトを創出するためには、そのような技術に精通した新規、中途採用の人材が、電気事業の伝統的な文化になじめるかは十分考えておかなくてはならない。とくに、デジタル企業やスタートアップで経験を積んだ若い従業員は、新たな視点や期待を有していることに留意しなくてはならない。さらに、分社化は、それぞれが直面する異なる市場に専門特化させることで、従業員の意識改革も促進するだろう。

当然、発販分離には課題もある。まず、送配電の分離(4月14日のコラム)でも述べた範囲の経済性の喪失が挙げられる。これについては、発電と送電の分離ほどではないにしてもなんらかのコストが発生する。また、分社化で遠心力が働き、会社の一体感が失われる懸念もあるだろう。とくに地域密着型の電力会社の場合には、企業が一体として地域の需要家にきめ細かいサービスを提供していくために、部門間の情報交流や調整が速やかになされることが重要であり、そのためには、むしろ発販の統合を維持すべきとの伝統的な考えも存在する。発販分離については、最終的には、メリット・デメリットや個々の電力会社の置かれた状況を考慮して経営として判断されることになるだろう。経営組織には、絶対的なものはありえない。経営環境の変化に適応して、経営者は、組織を(多くは試行錯誤を含み)より適切な形態に進化させていくことを常に考えておかなくてはならない。ドイツの事例では、2大電力会社であるE.ONとRWEは、電力自由化以降、組織形態を頻繁に変更してきた。今後のわが国における電力会社の経営判断に注目したい。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

イランとアラブ諸国が雪解け 中東安定で原油価格にも影響


【ワールドワイド/資源】

イランと湾岸アラブ諸国との雪解けが進んでいる。昨年8月にUAEとクウェートがイランとの外交関係を回復。3月10日には、イランとサウジアラビアが中国の仲介の下で関係正常化に合意した。4月12日には両国間で7年ぶりの外相会談が開かれるなど、関係の再構築が着実に進む。イランのライシ大統領は就任以来、地域諸国との関係改善を志向する外交姿勢を取ってきたが、今回サウジがこれに応じた形だ。

この背景には、サウジが近年展開する外交政策がある。2019年9月にサウジのアブカイク石油生産施設に対するドローン攻撃が発生したとき、安全保障を提供してきた米国は消極的だった。この事件を転機に、サウジは米国に依存するだけでなく、多角的にパートナーを模索することで自国の経済や安全保障を確立していくという方向へかじを切った。今回の合意を通じてイランとの関係改善を目指す一方、イランの敵国であるイスラエルとの関係正常化も模索するなど、域内の多様なパートナーとの結びつきを強めている。

今回の合意を中国が仲介したことは、サウジの自主外交が中東域内にとどまらないことを示している。中国はサウジを含む湾岸諸国と経済関係を拡大してきたが、今回の合意によって中東への外交的な関与に向けた大きな一歩を踏み出すこととなった。この合意のあと、中露が主導する上海協力機構(SCO)への参加、アラムコが中国に合計69万BPDの石油精製・石油化学施設の開発を決定するなど、サウジは多方面で中国との関係を強化する構えである。しかし、あくまでサウジの最大の安全保障上のパートナーは米国であるため、中国との関係強化は必ずしも米国との決別を意味しないことには留意すべきである。

今回の合意がエネルギー市場に与える影響は現時点では限定的だ。今後もサウジはOPECプラスの減産合意に従って世界市場に原油を供給し、イランは米国の制裁を回避しながら主に中国へと原油を供給するだろう。米国による対イラン制裁が存在する限り、イランからの原油輸出やイランと近隣諸国との経済関係には大きな進展は生じない。しかし、近年中東での対立の中心となってきた二カ国が関係を改善することで、上述したアブカイク石油生産施設への攻撃のような、石油市場に地政学的な混乱を引き起こす事件の可能性は減少する。今回の合意は石油市場の安定化、価格のボラティリティ低減に地政学的な側面から貢献するものと言うことができる。

(豊田耕平/独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)