第43回 エネルギーフォーラム賞


第43回「エネルギーフォーラム賞」の贈呈式がこのほど行われた。

ウクライナ危機を契機に地政学の視点から国際エネルギー情勢を取り上げた著作が優秀賞、

また、電力のセキュリティーを中心にエネルギー安全保障を論じた著作が普及啓発賞に輝いた。


<優秀賞>エネルギーの地政学/小山堅/朝日新聞出版


<普及啓発賞>電力セキュリティ エネルギー安全保障がゼロからわかる本/市村健/オーム社


わが国のエネルギー論壇の向上に資することを目的に、1981年に創設されたエネルギーフォーラム賞(エネルギーフォーラム主催)。今年で43回目を迎える同賞の贈呈式が3月31日、都内の経団連会館で開催された。今年は優秀賞が1作、普及啓発賞が1作選ばれたものの、大賞は選出されなかった。

受賞作の選考方法は、一昨年の12月から昨年の11月の1年間に刊行された日本人によるエネルギー・環境問題に関する著作を対象に、アンケート方式で有識者や業界関係者らから2作を推薦してもらい、エネルギーフォーラム賞事務局がアンケート結果上位の著作を選定。選考委員による厳正な審議を経て受賞作を決定している。

コロナ禍で4年ぶりとなった贈呈式では、京都大学名誉教授の佐和隆光・選考委員会委員長が選考の経緯を説明。その後、保坂伸・資源エネルギー庁長官が「小山堅氏の『エネルギーの地政学』と市村健氏の『電力セキュリティ』は、ともにウクライナ侵攻とエネルギーセキュリティーの重要性が語られた名著であり、われわれもGX(グリーントランスフォーメーション)という形で政策を打ち出し、原子力についても法律を提出した。その前提となるGX推進法では、脱炭素の中心となる再生可能エネルギーと原子力、安定供給について議論を行っている。また、世界に目を移せば、米国のインフレ抑制法(IRA)を筆頭に、グリーン成長戦略によって産業のぶんどり合いが激しさを増している。したがって、政府もGX移行債を発行し、将来的にはこれまでわれわれが反対してきたカーボン・プライシングも導入することも決意をし、法案を提出した。これらは『産業』という視点を含めて進めていく」と述べた上で乾杯の音頭をとった。

ALPS処理水で「対日謀略」 警鐘を鳴らすメディアはあるか


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

尊大なコメントで知られる中国外務省の記者会見にしては拍子抜けだった。読売3月22日「中国、日本けん制」である。

日本時間の21日、ウクライナを訪問した岸田文雄首相について、担当者は「日本が事態の沈静化に反するのではなく、有益なことを多く行うことを望んでいる」と述べたという。動揺したか。

ちょうど習近平国家主席がロシアを訪問していた。

読売同日「習氏『仲介者』を強調、中露首脳会談、エネ安定確保図る」に、「和平に積極的な『仲介者』の立場をアピールし、対露制裁と距離を置く国への影響力拡大を図る狙い」とある。だが、仲介役としては「中国の提案は、ウクライナが求める露軍の完全撤退や全領土の返還には言及していないロシア寄りの内容で、ウクライナとの溝は大きい」。実態は「ロシアからの石油や天然ガスの安定確保に向けた協力強化を図りたい思惑」と本音を見透かされている。

ただでさえすっきりしない訪露に、日本が冷水を浴びせた形だ。産経23日「(岸田)首相、習氏との相違示す、同時期外遊『法の支配』発信」「米政権『日本は世界のリーダー』」「日中『外交対決』欧州メディア注目」は、メンツを重視する中国にとって腹立たしい内容だったろう。

意趣返しだろうか。朝日23日「中ロ首脳『撤退』なき声明発表」で紹介された共同声明の主な内容には、今夏にも始まる東京電力福島第一原子力発電所からの処理水の海洋放出計画について「深刻な懸念」の一項目がある。

残念ながら、朝日は項目を挙げただけ。読売、毎日に至っては一切触れていない。日本に対する露骨な外交攻撃である。甘くないか。

踏み込んだのは産経23日「中露共同声明、処理水放出『深刻な懸念』、対日カード巡り共闘姿勢」だ。「日本は周辺隣国など利害関係国や、国際機関と透明で十分な協議を行わなければならない」「(中露は)日本が海洋環境と各国国民の健康面の権利と利益を有効に保護するよう促す」との声明内容を紹介し、中国は「国際問題に発展させようとしている」と警鐘を鳴らしている。

油断は禁物だ。朝日26日「北朝鮮、韓国世論策動か、公安当局捜査、福島処理水放出めぐり、SNSでデマ、工作員指示書」は、「北朝鮮の工作機関が韓国の協力者に『汚染水の放出で東海(日本海)が汚染される』とのメッセージを拡散し、韓国の世論を扇動するよう指示した疑いがあることが公安当局の捜査でわかった」と伝える。デマの内容は「魚を妊婦が食べれば、胎児に影響を与える」「怪物が出現する」らしいが、荒唐無稽さにあきれる。

怪しい策動は放置できない。

産経28日「中露首脳が『汚染水』表現、国際問題化画策、処理水、誤解払拭なお」は、「国際社会の誤解を解くとともに、風評被害対策や計画への理解を進めるため、改めて科学的で丁寧な説明が求められている」と訴える。

記事にある通り、処理水は放射性物質のトリチウムを含むが、国際基準に沿って安全に放出される。そもそもトリチウムは自然界にも存在し、自然程度の濃度なら害はない。中国や韓国の原子力発電所では、福島よりはるかに多いトリチウムを海に放出している。

朝日20日「処理水放出『賛成』51%『反対』41%」は心強い。この計画に批判的な報道を繰り返してきたこの新聞の世論調査でも、理解の拡大が伺える。

粛々と実現を目指そう。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

水素・アンモニア活用の時代へ 円滑な移行に三つの必要事項


【オピニオン】平野 創/成城大学経済学部教授

カーボンニュートラル(CN)社会の実現に向け、日本は大きな転機を迎えている。総合資源エネルギー調査会の小委員会が1月にとりまとめた中間整理において、2030年ごろまでに水素・アンモニア供給を開始する事業者を対象として、これらの脱炭素エネルギーと既存のエネルギーの価格の差額を支援することが示された(水素とLNG、アンモニアと石炭が等価となる制度が検討されている)。

この政策は、水素などの脱炭素燃料普及の大きな阻害要因とされていた「コストの壁」を制度的に打破するものである。したがって、各事業者は一度コストという視点の自縛から離れ、CN化に向けての最善手実現という視点から計画を検討、立案すべき局面にきたといえる。

なぜ水素・アンモニアの輸入に向けた支援が日本のCN化に大きな役割を果たすのか、その理由は日本のエネルギー構造そのものにある。現在、日本は1次エネルギーベースで85%以上を輸入エネルギーに依存している。今後、国内の再生可能エネルギーをどれほど拡充しようともそれだけで日本全体のエネルギーを賄うことはできない。したがって、脱炭素エネルギーの輸入なくして、日本はCNを達成しえないのである。

現在、コンビナートが水素・アンモニアの輸入拠点になると見込まれており、各地でカーボンニュートラル・コンビナート(CNK)の構築が目指されている。コンビナートはCO2を多く排出する鉄鋼業や化学産業などが集積しており、この点でもCN化に向けたいち早い取り組みが求められている。すでに川崎や周南地区において水素やアンモニアの輸入に向けた取り組みが始まっている。

水素・アンモニアを活用する時代への円滑な移行に向け、第一に複数の事業者がタイミングを合わせて、同時にエネルギーを切り替える必要性がある。自家発電設備やボイラーなどの更新時期を新エネルギーの輸入開始と合わせなければならない。これを怠り各社が適宜更新を行えば、化石燃料を使用する設備がまだらに残存することになり、新しいエネルギーの需要拡大が遅れかねない。円滑な移行のために、グリーン水素を待たずにグレー水素による需要拡大を先行して試みるなどの手立ても検討に値する。

第二に、事業者に魅力ある制度設計が必要となる。水素、アンモニアでしっかりと稼げるようにする必要がある。一方で将来的な価格低減のために、既存のエネルギー事業者以外も参入が可能となるような制度の整備も求められる。タンクやパイプラインなどのインフラの利用の門戸が開かれていなければならない。 第三に、われわれは利用適性によって個体、液体、気体エネルギーを使い分けており、合成燃料や合成メタンの活用・輸入も視野に入れるべきである。これらは既存の流通インフラ、設備・機器類が活用できるだけでなく、その貯蔵性・可搬性から災害時においても利便性が高い。また、コンビナートで回収したCO2の再利用につなげることもできる。

ひらの・そう 2008年一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了(博士、商学)、一橋大学大学院商学研究科特任講師。13年成城大学経済学部准教授、20年4月から現職。専門は経営史、石油・石油化学産業史など。

スマコミ地域実証の経験を生かす グリーン成長のフェーズに突入


【地域エネルギー最前線】 福岡県 北九州市

官営八幡製鉄所誕生の地が、スマコミ実証を経て、今度は脱炭素化や水素産業拠点へ―。

エネルギー関連のさまざまなモデル事業が展開されてきた北九州で、新たな一大戦略が始まっている。

日本四大工業地帯の一角である北九州市は、高度経済成長に伴う深刻な公害を克服した歴史を持つ。苦しい経験も乗り越え、2010年代には政府のスマートコミュニティ地域実証の舞台に、あるいはエネルギー・環境系のさまざまなモデル都市として、先進的・多面的な取り組みが展開されてきた。

そして現在、市はグリーン成長を目指すフェーズに入った。エネルギー多消費型の素材産業集積地として、ビジネスモデルの転換は避けられない課題だ。市は「近隣自治体や中小企業などと一体的に産業の脱炭素化モデルをつくり、地域の付加価値を向上させる必要がある」(グリーン成長推進部)と強調する。昨年2月に策定したグリーン成長に向けた基本戦略では、30年度に向け電化の促進を主軸とした「脱炭素電力推進拠点都市」と、水素利用に挑戦する「水素供給・利活用拠点都市」を設定し、アクションプランをまとめた。

重ねて、昨年4月には環境省の「脱炭素先行地域」にも選定された。対象は「北九州都市圏域」の18市町(総人口約136万人)の公共施設群で、約3600施設に及ぶ。また、同市には国の「エコタウン事業」の認定を受けた、国内最大級のリサイクル団地がある。この企業群の脱炭素化を図ることで、地域産業の競争力強化や都市の魅力向上につなげる狙いだ。

なお、都市圏域は、中心都市と近隣都市が連携し、人口減少・少子高齢化の中で社会経済を維持するための拠点づくりを図る総務省の政策の一環。その経験を、今度は脱炭素化での地域連携に生かす。脱炭素先行地域としては、最多の自治体が関わるケースとなる。

「都市圏域」18市町が連携 地域特性や知見を活用

具体的には、①脱炭素先行地域でPV(太陽光)やEV、蓄電池などの低コスト型PPA(電力販売契約)モデルを構築し、中小企業をはじめ都市や海外にも展開、②風力や水素も含めた脱炭素エネルギーの拠点化と新産業創出、③市内再エネ導入量は現状の3倍となる約140万kW―を目指す。

民生部門では、まず北九州都市圏域の公共施設群と、エコタウンのリサイクル企業群の脱炭素化を図る。特に北九州市の公共施設は、約2000カ所で25年度までの再エネ100%電力化という、都道府県・政令指定都市では最速ペースの目標を設定した。ベースとなるPPAモデルでの分散型システム導入に加え、ごみ発電やメガソーラー、バイオマス発電、風力発電といった地域の再エネをフル活用するため、系統用の大規模蓄電池も導入し、都市圏域全体でのエネルギーマネジメントを目指す。

ここ数年、電力需給ひっ迫リスクの高まりから、電力系統と協調した形でのエネマネの活用が一層重要になっている。市は「かつてのスマコミ実証では自営線網による特定供給エリア内でのエネマネだったが、今回は系統ともつながりつつ地域で最大限のエネマネを図っていく。大手電力との連携も模索したい」(同)と説明する。

スマコミ実証を経て2015年に設立した北九州パワー

スマコミ実証の成果として、市や民間が出資して地域エネルギー会社、北九州パワーを設立。地域の再エネなどを活用した電力小売りやエネマネサービスを提供しており、今後の脱炭素化でも中心的な役割を担うことが期待される。

加えて特徴的なのが、PPAと併せたさらなるコスト低減の取り組みとして、中古PVパネルやEVバッテリー、蓄電池などのリユース・リサイクルシステムの構築だ。地域の強みであるエコタウン企業の知見と、全国有数の自動車産業拠点であることから自動車メーカーとも連携し、実現を目指す。

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2023年5月号)


【川崎汽船・電源開発/風力利用で推進するカイトの石炭船搭載が決定】

川崎汽船と電源開発は、8万8000tの石炭運搬船「コロナ・シトラス」に、風力を利用して推進力を補助する自動カイトシステム「シーウイング」を搭載すると決定した。国内の電力会社向け石炭運搬船への搭載は初だ。シーウイングは操舵室からの簡単な操作で自動的にカイトの展張や格納ができる。シーウイングの搭載により、燃料となる重油の使用量を削減し、航行中のCO2排出量を約20%以上削減できる。コロナ・シトラスは2019年から就航中で、これまでも船舶のSOX排出規制への対応のために、排ガスに海水を噴霧してSOXを洗浄する装置「SOXスクラバー」を搭載している。シーウイングを搭載することで、さらなる環境負荷軽減を図る。

【東京ガス・SCREENホールディングスほか/低コストグリーン水素製造用部品の量産化へ】

東京ガスはこのほど、SCREENホールディングスと共同で開発している、グリーン水素製造に使用するPEM水電解用セルスタックの性能、コスト、耐久性能を左右する重要構成部品である水電解用触媒層付き電解質膜(水電解用CCM)の高速量産化技術を確立した。2021年から共同開発を進めてきた両社は、SCREENの「ロールtoロール方式」で用いられる触媒塗工技術を活用。燃料電池用CCM製造向けの触媒塗工技術を水電解用CCMへ転用する際に、製造プロセスや触媒インク配合を水電解用に最適化することで、電極面積800㎠超サイズの水電解用CCMの製作に成功した。両社は今後も、サイズ拡大に向けた技術開発を加速しながら、量産開始を目指していく。

【デンソー/グリーン水素の地産地消を3社で実証】

デンソーとデンソー福島は、トヨタ自動車と共同で、グリーン水素の製造と製造した水素の活用に関わる実証を3月から開始した。この実証を通じて、「水素地産地消」モデルの構築やカーボンニュートラル工場の実現を目指す。水素はデンソー福島の工場内で製造され、工場ガス炉内で活用される。水素の製造には、トヨタ自動車が開発した水電解装置と、デンソー福島で自家発電した再生可能エネルギー由来の電気を用いる。水素の製造から利活用までのパッケージを複数構築し、組み合わせることで、工場の規模に応じた量の水素を導入できるモデルを形成していく。デンソー福島を起点に、福島地域で水素利活用を推進し、全国展開を目指す構えだ。

【明電舎/リチウムイオン電池用交直変換装置の販売開始】

明電舎は、再生可能エネルギーの普及拡大を背景に、電力系統の安定化に寄与する新型のリチウムイオン電池用交直変換装置(PCS)を開発し、2月から販売を開始した。PCSは、事業者が所有する外部システムとの連動の下で、需給調整市場のシステムに適応するための機能を実装している。また、事業継続計画(BCP)対策として使用できる停電時の自立運転機能や、自家消費型太陽光発電システムとの併設導入などにより、社会の脱炭素化に貢献する。

【アストモスエネルギーほか/LPG船にバイオ燃料 試験航行で実証】

アストモスエネルギーと日本郵船は、LPG船「LYCASTE PEACE」で、FAME B24(脂肪酸メチルエステルを24%の割合で混合)のバイオ燃料をシンガポールで給油し、試験航行した。バイオ燃料の生産地から補油地のシンガポールまでの輸送や通常燃料との混合、混合燃料の管理を追跡。船舶用バイオ燃料のサプライチェーンが追跡可能で、安全であることが証明された。バイオ燃料はCO2を発生するが、廃油などを原料とするためカーボンニュートラルと見なされる。次世代燃料の候補の一つとされている。

【荏原製作所/水素発電向けポンプ 世界初の開発に成功】

荏原製作所は、世界初の水素発電向け液体水素昇圧ポンプを開発した。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業として、2019年から開発をスタートした。22年10月には液体水素による実液試験(マイナス253℃)を実施し、大流量昇圧ポンプの設計に資する試験結果が得られたという。液体水素をガスタービンへ供給する際、昇圧ポンプが必要となる。同社は、強みとする高圧遠心ポンプと極低温の技術をベースに、世界初の液体水素燃料供給用のポンプとして、年内の市場投入を予定している。

【NTTアノードエナジー/県有公共施設にオンサイトPPA電力を提供】

NTTアノードエナジーは4月、「福島県県有施設太陽光発電設備設置事業(PPA方式)補助金」を活用し、福島県環境創造センターで、オンサイト PPA での再生可能エネルギーの提供を開始した。この取り組みは県内初。この施設の太陽光発電設備による年間発電量は約45万 kW時。全体の約14.4%の電力を賄うことができ、温室効果ガス排出量の削減効果は年間約207.5t、20年間で約4150tとなる見込みだ。同社は、オンサイト PPAなどの活用による再エネ導入、地域内のエネルギーの需要と供給のバランスを図る蓄電池やEV充電サービスなどの導入、地産地消利用率向上サービスを通じて、福島県をはじめとする全国の地方自治体、企業の脱炭素実現に向け貢献していく。

【愛知時計電機ほか/水道・ガスのスマメで見守り実証】

愛知時計電機と静岡県御殿場市、御殿場ガスは「見守りサービス実証実験の実施に関する協定」を結び、御殿場市内の高齢者世帯7戸を対象に、2024年2月末まで検証を行っている。スマートメーターからクラウドに自動収集された水道と都市ガスの1時間ごとの使用量データを監視。生活サイクルを精緻に把握し、高齢者見守りサービスへの利活用の有効性を確認する。水道使用状況の異常を把握した場合に安否確認メールを送信するサービスの有効性も検証する。

【ニチガス/川崎に新規営業拠点 3万件の顧客目指す】

LPガス販売のニチガスが、神奈川県内の営業強化の一環で、川崎市内に新規の営業拠点を開設した。神奈川県内としては14番目の営業所だ。業務のデジタル化を推進しながら、営業所の無人化を実現。所内業務は遠隔で管理する。施設はオール電化。太陽光発電や蓄電池を導入し、シミュレーション上はエネルギーの自立化を実現するとしている。

【石油資源開発/網走バイオマス発電所 3号機が運転開始】

石油資源開発が5社と共同出資する北海道網走市のバイオマス発電プロジェクトの3号機が、3月8日に運開した。出力規模は2022年10月に運開した2号機と合わせて1万9800kW。燃料は北海道産の材木質チップを使用。FIT制度により年間約1.4億kW時を北海道電力ネットワークへ売電する。再エネ由来電力の普及と地域経済の発展に貢献する。

【三菱重工エンジン&ターボ/最高水準の発電効率 CO2排出を低減】

三菱重工エンジン&ターボチャージャは3月、高い発電効率とパッケージサイズをコンパクト化した、発電出力2000kWガスコージェネレーションシステム「SGP M2000」を新開発したと発表した。国内市場向けには、4月から販売を開始する。2000kW級では世界最高水準の発電効率44.3%を誇る16気筒新型ガスエンジン「G16NB」をコージェネレーションシステムとしたこの製品は、従来の同社製1000kWコージェネと比べて、発電効率が1.8ポイント向上。発電時の排出CO2を低減する。

「e―フュエル」時代の夜明け G7声明が日本の戦略後押しへ


【合成燃料】

G7気候・エネルギー・環境相会合やEUの方針転換で、国内では合成燃料活用に期待が高まる。

一方で実用化にはコストや生産面での課題もあり、推進には官民一体での取り組みが必要だ。

 水素と二酸化炭素(CO2)を反応させることで生成するe―フュエル(合成燃料)。この次世代燃料について、実用化に向けた動きが活発だ。

4月15~16日に開かれたG7(主要7カ国)気候・エネルギー・環境相会合の共同声明で、運輸部門の脱炭素化対策として電気自動車(EV)の普及拡大だけではなく、「バイオ燃料や合成燃料を含む低炭素・カーボンニュートラル(CN)燃料などの技術開発を評価する」方針が盛り込まれた。声明は各国の事情を踏まえたCN燃料政策を尊重する方針を打ち出しており、日本にとっては「EVのみにこだわらない方向性が一致した」(資源エネルギー庁)と歓迎する向きが広まっている。

その原料となる水素の活用を巡っては、国際エネルギー機関(IEA)がG7エネ環境相会合に先立ち、製造された水素がクリーンかどうかを示す指標をまとめた。指標では、化石燃料由来の水素でも、CO2回収などの条件を満たす場合には環境に適合したとみなす。日本でも水素基本戦略を6年ぶりに改定する。今後15年間で官民合わせて15兆円規模の投資を目指しており、一連の世界的な動きは日本の合成燃料ビジネスを後押しする形になりそうだ。

G7気候・エネルギー・環境相会合に出席した西村康稔経産相

生き残り模索する元売り 海外企業と連携進める

世界の化石燃料の脱炭素化が進む状況で、生き残りを模索する日本の大手石油元売り会社は、石油の代替として合成燃料の開発、導入に力を傾注してきている。

国内の先頭を走るのはENEOSだ。合成燃料の製造技術開発は昨年4月からグリーンイノベーション基金に採択。最も商用化に近い「逆シフト反応(CO2と水素反応による一酸化炭素変換)+FT合成(一酸化炭素と合成ガスか

ら液体燃料を製造)」の効率化、大規模化を目指している。同社は「まず小規模プラントによる検証で25年までに1日当たり1バレル、28年までに300バレル(年間1・7㎘)の製造を目指す」(広報部)と、40年自立商用化に意気込みを見せている。

海外との連携を積極的に進める動きも加速する。

出光興産は4月5日、独ポルシェが支援するグローバル企業、HIFと戦略的パートナーシップに関する基本合意書を締結した。HIFは南米、北米、豪州などで合成燃料を製造。出光興産は国内で回収したCO2を輸送するほか、合成燃料を調達し国内に供給する。そのほかHIFの合成燃料製造ノウハウを生かし、国内での生産実用化を目指す。

コスモエネルギーHDとコスモ石油も3月、タイ・バンコクに拠点を持つ大手エネルギー企業、バンチャックと持続可能な航空燃料(SAF)、バイオナフサなど脱炭素分野を中心とした共同検討に関する覚書を締結した。SAFのみならず、ブルー水素、グリーン水素の活用や、CCUS事業でも連携。カーボンニュートラル実現を進めるとしている。

EUがエンジン車容認 EV化の流れは変わらず


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.14】関口博之 /経済ジャーナリスト

ガソリンエンジン車は生き延びられるのか、それとも消え去る運命なのか。依然、見方は分かれているようだ。欧州連合(EU)はエネルギー相理事会で、2035年以降も、温暖化ガスの排出ゼロとみなす合成燃料を利用する場合に限ってエンジン車の新車販売を認めることに合意した。エンジン車全面禁止という当初案を修正した形だが、あくまで例外としての扱いだ。紙面には「エンジン車容認」「EUが方針転換」「日本メーカーは歓迎」などの見出しも見られたが、これで内燃機関が生き延びた、とまでは言えないだろう。35年以降の新車販売は原則ゼロエミッション車に、というEUの基本姿勢は変わっていない。

専門家からは、高価な合成燃料を使えるのは富裕層で、その顧客が選ぶポルシェやフェラーリが恩恵を受けるくらいでは、という冷めた声もある。“跳ね馬の咆哮”を愛すのは、一握りの人たちの優雅な楽しみになるかもしれない。

EVを推進するEUの基本方針は変わっていない

一方、日本メーカーから見れば、得意とするハイブリッド(HV)車やプラグインハイブリッド車の市場を、脱炭素化までの移行期において確保したいのが本音だ。その意味でガソリンエンジンの全面禁止を免れたことには安堵もあるだろう。ただ、今回EUの当初案に注文を付けたドイツにすれば、大事なのは国内メーカーの雇用であって、HV技術の温存といった思惑が働いたとは思えない。エンジン車にいわば逃げ道は与えられたが、EV化が加速するという大きな流れを見誤ってはいけない。

今回のEUの決定では合成燃料e―フュエルも重要なパーツになった。再生可能エネルギーで作る水素と、二酸化炭素(CO2)から合成される。燃やせばCO2が出るが作る時に回収したCO2を使っているため相殺され、排出ゼロとみなされる。ポルシェとシーメンスはチリで合成燃料の生産工場を稼働させた。日本でもENEOSなどが開発に取り組んでいる。

最大の課題はコストだ。経済産業省の研究会は国内の水素を使い国内で作る場合で1ℓ約700円、海外で比較的安価な水素で製造し持ってきても約300円と試算している。ガソリンの22倍弱から4倍にあたる。用途としても現状、電動化が難しい航空機用にまずはSAF(持続可能な航空燃料)としての供給が先になりそうだ。エネルギー業界もそう見ている。ただし車でも、新車はEVに置き換わっていくとしても、保有台数全体でみれば2040年代でも依然、エンジン車が多く走っている。実効性のあるCO2削減に合成燃料の役割は大きく、コスト低減が求められる。 それにしても130年余り前、ダイムラーとベンツがほぼ同時期にガソリンエンジン車を発明してから、内燃機関は素材、耐久性、燃費向上、軽量化など営々と先人の努力が注がれてきた。この磨き込まれた技術の粋が消えるのは何とも惜しい。水素エンジンは一つの道だが、技術史的にもっと何かに継承することはできないか。例えば機械式時計のように。専門家に尋ねたい気もする。


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.1】ロシア軍のウクライナ侵攻 呼び覚まされた「エネルギー安保」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.2】首都圏・東北で電力ひっ迫 改めて注目される連系線増強

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.3】日本半導体の「復権」なるか 天野・名大教授の挑戦

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.4】海外からの大量調達に対応 海上輸送にも「水素の時代」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.5】物価高対策の「本筋」 賃上げで人に投資へ

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.6】なじみのない「節ガス」 欠かせない国民へのPR

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.7】外せない原発の選択肢 新増設の「事業主体」は

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.8】豪LNG輸出規制は見送り 「脱炭素」でも関係強化を

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.9】電気・ガス料金への補助 値下げの実感は? 出口戦略は?

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.10】“循環型経済先進国” オランダに教えられること

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.11】高まる賃上げの気運 中小企業はどうするか

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.12】エネルギー危機で再考 省エネの「深掘り」

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.13】企業が得られる「ごほうび」 削減貢献量のコンセプト

せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

規制強化だけで安全は保たれない 統治機構の問題を認識すべきだ


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

国土交通委員会に所属している私は、海上運送法等改正法案の審議で質疑に立った。昨年4月、北海道知床沖で26人の死者・行方不明者を出した痛ましい事故を契機として、規制を強化するために作られたものだ。

1999年9月に東海村の核燃料加工施設で起きたJCO臨界事故のことを思い出す。当時、資源エネルギー庁で原発立地などを担当していた私は、河野博文長官に呼ばれ、「科学技術庁に行って原子力災害対策と規制強化の法案作成をやってこい。君の地元だから土地勘もあるだろう」と急きょ科技庁出向となり、新しい原子力防災体制づくりに従事した。

新たに原子力災害対策特別措置法を制定し、原子炉等規制法も改正した。それまで「放射能が外に漏れるような事故は起きないから災害対策のための法律は不要」としていた政府の立場を転換するものだった。日本の法制上初めて公益通報者制度を法定化するなど斬新な規制体制を導入するきっかけも作った。

しかし、2011年の東日本大震災で再び悲惨な原子力災害が起こり、原子力規制の根本的な転換が迫られた。JCO事故の後、原子力規制体系の抜本的見直しをすることになっていたが、いつの間にか闇に葬られていた。現地で規制や危機管理に当たる原子力保安検査官や原子力防災専門官を法定化し、当初は民間の専門家や自衛隊などから人材を導入して規制体制の強化を図っていたが、10年経ってそれも形骸化していた。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」。私にとっては一生背負っていかなければならない不覚の思いだ。

規制の質の高度化なく 繰り返される事故

翻って今回の船舶規制強化でも、法律の条文上は膨大な新しい規制が加わった。しかし形式上の審査が行われる規制項目が追加されるばかりで、例えば安全統括管理者に対する講習の「質」が担保されるような条文はない。地方運輸局などの規制の実施体制も脆弱なままだ。国会は憲法に定められた国の唯一の立法機関のはずなのに、こうした法案の条文に即した議論を行う議員はほとんどいなかった。答弁に立つ大臣は、奇しくもJCO事故後の国会で科学技術政務次官として答弁に立った斉藤鉄夫国土交通相。おそらく忘れたころに再び人命を失うような事故が起きるだろう。 これまで日本では、事故が起きるたびに「規制の強化」が行われてきた。しかし、それは形式的な規制の量が増えるだけで、規制の質の高度化はなされていない。規制の運用体制が注目されることもなかった。国会は、規制を定める法案の条文を審査する能力を持たず、ましてや規制の運用を顧みることはほとんどない。規制をどのように作り、その運用を誰がどのようにチェックしていくのか。規制そのものより、規制を作る統治機構そのものの問題を私たちは認識しなければならない。

ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

水素基本戦略を改定へ 国際標準化に焦点


政府は4月4日、水素エネルギーの導入加速のため、5月をめどに改定する「水素基本戦略」の中に、①15年間で15兆円規模の投資、②2040年の水素供給量を年間1200万t程度まで引き上げ、③水電解装置の導入目標を1500万kWに設定―などを盛り込むことを決めた。

4日朝に行われた関係閣僚会議で、岸田文雄首相が水素基本戦略の改定を宣言。各種審議会で議論を重ね、5月の改定後は法制化、予算化の作業に入る。水素基本戦略の中にはアンモニア・合成燃料など水素化合物も含まれており、資源エネルギー庁の幹部は「メタネーション技術や持続可能な航空燃料(SAF)も含め、各省庁で連携して取り組む」と、水素に関するエネルギー戦略を省庁横断で検討する考えを示している。

16日のG7気候・エネルギー・環境相会合で採択した共同宣言では、合成燃料・水素などへの評価が記載された。国際エネルギー機関(IEA)による水素の環境適合指標も示され、今後は国際ルール形成に焦点が集まる。研究開発で先行する日本は、国際標準化で主導的役割を果たせるか。

地域ヘルスケアの基盤構築 街ぐるみで生活者・患者を見守る


【中部電力】

中部電力とスズケンは共同で、医療・介護などのヘルスケアサービスを提供する「地域ヘルスケアプラットフォーム」を構築する。暮らしやすい社会に不可欠なインフラとして、街ぐるみで生活者・患者の見守りを目指す。

中部電力はこれまで、医療機関と患者をリアルタイムでつなぐサービスの開発・拡大に取り組んできた。自治体向けに提供を開始した、電気の使用状況から高齢者の「フレイル」を把握するサービス「eフレイルナビ」や、子会社のメディカルデータカードが提供するアプリ「MeDaCa(メダカ)」などがある。

メダカは、医療や健康などの情報の自己管理(PHR)を目的としたアプリだ。医療機関と患者間で検査結果の共有ができ、高度な医療を行う病院と地域の診療所の連携(病診連携)を円滑にする。加えて、疾患の症状モニタリングや緊急時の情報開示なども可能だ。

他方、スズケングループは医療用医薬品の卸売を中心に、新たな医薬品の研究・開発・製造から介護まで、医療分野の事業を幅広く手掛けている。同社が運営する「MedicalCare STATION(メ

ディカルケアステーション)」は、職種や施設の垣根を超えて患者情報をスムーズに共有できるSNSで、全国約20万人の医療・介護従事者が利用している。

また、ヘルスケアプラットフォーム「COLLABO Portal(コラボポータル)」を通じて、さまざまなデジタルサービス、商品・医療関連情報を、医師や製薬企業などにワンストップで届ける医療DXソリューションも展開している。

中部電力のデジタルデータとスズケンの医療プラットフォームを掛け合わせる

電力データで健康を把握 医療・介護へつなぐ

今回の連携では、中部電力は生活者との接点拡大と自治体開拓を、スズケンは医師会などの医療・介護者ネットワークの開拓と医療DXソリューションの展開を担当する。電力使用量などのデータから生活者の健康状態(未病・医療・介護)を可視化し、高齢者をはじめとする生活者と自治体・医療機関・薬局・介護施設などをつなげることで、地域の特性に応じた健康づくりや安心な暮らしの提供に貢献する。生活者が住み慣れた地域で安心・安全に暮らし続けるための支援を行っていく。

両社はそれぞれの経営資源を掛け合わせ、医療・ヘルスケア分野での取り組みをさらに発展させるとともに、暮らしを便利で豊かにするサービスの提供で、持続的な成長の実現を目指す構えだ。

初の「グリーンスチール」実現へ 技術開発レースに日本も参戦


【業界紙の目】高田 潤/鉄鋼新聞社 編集局鉄鋼部長

「グリーンスチール」の実現を目指し、鉄鋼業界では世界的な技術開発競争が始まった。

日本では「水素還元製鉄」「還元鉄―電気炉」など複数の技術開発に並行して取り組む。

 昨夏、「欧州の鉄鋼メーカーが『水素製鉄』で製造した鋼材を日本市場に投入する」との報道があり、日本の鉄鋼業界に動揺が走った。実用化や日本市場への投入時期について、疑問の声が出たのも当然だ。日本ではこの時、政府の掛け声でGI(グリーンイノベーション)基金を使った革新技術の研究開発プロジェクトが産声を上げたばかり。最大の眼目はまさに「水素」の活用で、政府からは「海外で実用化されたのなら、なぜGI基金を使う必要があるのか」といった声も挙がった。

結局、欧州関連の報道は、水素を使ったパイロットプラントで製造した鋼材の話で、日本市場投入の具体的計画がないことも分かった。そもそも鉄という素材の最大の特徴は、大量生産・供給が可能な点。日本の製鉄所にある大型高炉(炉内容積5000㎥級)では1日、1万tを超える鉄(銑鉄)を生産している。素材の特性(品質)も重要だが、大量生産によって競争力のある価格での供給が可能となる。パイロットプラントでの製造は、業界の常識では「実用化」とは言えないのだ。

とはいえ、ここにきて商業規模での水素活用計画の動きも出てきた。その一つが、スウェーデンのスタートアップ「H2グリーンスチール社」だ。同社は昨年、化石燃料を使わずに製造する鋼材「グリーンスチール」の商業生産を2025年以降に開始すると発表。計画では生産量は年間250万tで、大型高炉の生産規模には届かないが、商業生産には十分な量だ。

同社が計画する生産プロセスはこうだ。鉄鉱石の還元材に水素を使って還元鉄を製造し、これを電気炉で溶融などして最終的に鋼材に仕上げる。還元鉄プラントや電気炉で使う電気は全て「水力由来」。理論上はCO2排出ゼロを実現できる。水力を活用できる地の利を生かして、「世界初のグリーンスチールになるかもしれない」との見方も出ている。

日本の鉄鋼業界が着手した研究開発プロジェクト(GI基金事業)でも、水素利用の還元鉄製造技術は開発テーマの一つとなっている。プロジェクトでは、既存高炉での水素活用技術に加え、水素を還元材にした還元鉄製造技術、さらに還元鉄や鉄スクラップを原料にして大型の電気炉で高級鋼材を製造する技術などの開発を目指す。

注目集める「還元鉄」 製造実績ゼロからの挑戦

鉄鋼業が脱炭素化を目指す中、にわかに注目を集め出したのがこの「直接還元鉄(以下、還元鉄)」だ。酸化鉄である鉄鉱石を天然ガスで直接還元する「直接還元製鉄プロセス」で製造されるのが還元鉄だ。特徴的なのが固体状のまま還元する点で、通常の還元鉄は金属鉄を含む海綿状の固体となる。

還元鉄の生産量は2000年代に入り急拡大してきた。世界の年間生産量は2000年で4000万t強だったが、18年に1億tを突破。19年には1億1000万tまで増加した。生産地は中東や北米、南米、ロシアなど、基本的には天然ガス(パイプラインガス)の供給を受けられる地域に限定され、日本での製造実績はゼロだ。

還元鉄は固体のまま還元するので、不純物が一定程度介在し、鉄分含有量は通常90%程度とされる。そのため電気炉に還元鉄を投入して溶解するケースが一般的だ。この20年で生産量が急増した背景には、新興国の経済成長に伴う建設用鋼材の需要拡大がある。つまり汎用鋼とされる建設用鋼材の需要拡大の中で、原料としての還元鉄が重宝されてきたといえる。

鉄鋼業における水素利用の文脈の中で還元鉄に注目が集まっているのは、天然ガスから水素への置き換えが比較的容易と見られるからだ。天然ガスによる鉄鉱石還元は、高炉プロセスに比べて還元温度が低いのが特徴。水素は負の反応熱を持つため、そのまま炉内に投入すると炉内温度を低下させてしまうが、昇温プロセスを経るなどの工夫で、天然ガス方式の既存プラントを活用できる。つまり、既存の高炉プロセスに水素を投入する「水素還元製鉄」に比べ、還元鉄プロセスでの水素利用は、カーボンニュートラル(CN)実現への近道と言ってもおかしくない。

敦賀2号機の審査中断 原電は意地を見せるか


日本原子力発電敦賀発電所2号機の審査会合が再び中断している。審査は2021年に一度、審査資料の「書き換え」が問題になり中断。その後、故意に行ったものではないことが分かり、資料作成のプロセスを改善して審査会合を再開していた。

しかし昨年10月の再開後、2号機建屋の真下を通る破砕帯と活断層の疑いがある断層との連続性を調べるボーリング調査で、取り出した薄片資料の一部が最新の活動面を示していなかったことが判明。これに原子力規制委員会は態度を硬化し、8月31日までに原子炉設置変更許可の一部補正を求める行政指導を行った。山中伸介委員長は、補正書に不備などがあれば、再稼働を許可しない可能性も示唆している。

審査会合などに提出する資料の誤りは、原電に限らず他の電力会社でも見つかっている。例えば日本原燃は六ケ所再処理工場の審査で、申請書3100頁に記載漏れなどがあった。だが中断は2回目ということもあり、マスコミの原電に対する見方はひときわ厳しく、事実関係を正確、公平に伝える記事はまず見ない。ミスのない補正書をつくる―。原電には意地を見せてもらいたい。

【コラム/5月9日】米国共和党の反ESG運動 次期大統領候補がけん引


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

ESG(環境・社会・統治)は、米国の存立基盤である経済と自由を脅かす。だからフロリダでは死産とする(dead on arrival)。

何と強烈な言葉だろうか。そして、これを述べたのは誰かと言えば、いま最も米国で注目を浴びている政治家であるフロリダ州知事ロン・デサンティスである。トランプに次ぐ人気を誇る、共和党の有力な大統領候補だ。4月24日には来日して岸田首相と会談した。日本政府としても、次期大統領になる可能性があるとして、早期の関係構築に動いた形だ。

そのデサンティスが強力に反ESG運動を率いている。これまで日本では、ESGは今後「世界の潮流」になると宣伝されてきた。だが、果たして本当にそうなるのか。

経済と自由の損失 共和党の州知事が連盟で声明

国民の年金を運用する基金などの運用においては、普通は、お金を預ける国民の利益を第一に考える。

これに対してESGとは、要は「良い」会社や事業に投資しましょうということなのだが、その「良い」とはいったい何か、それを誰が決めるのか、といった問題が生じる。

バイデン政権は、投資アドバイザー、投資ファンド、年金基金、金融機関などに対し、投資に際してESGの視点を織り込むよう、ルールを整えてきた。例えば労働省は、年金の運用に際し、ESGを考慮するよう関係機関に求めるようになった。

これに対し、デサンティスは3月16日に18の州知事とともに、「バイデンのESG金融詐欺と闘う」という連名での声明を発表した。名を連ねたのはいずれも共和党の州知事たちである。いわゆる米国のレッド・ステートだ。

声明のポイントは二つだ。第一は経済的なもので、運用の在り方がESGによってゆがめられ、環境などの目的が優先される結果、国民の利益を損なうことだ。第二は自由に関わるもので、選挙された訳でもない高級官僚や金融機関が、自分達エリート好みの特定の価値観に沿った投資を強制するのはおかしい、ということだ。

「覚醒した資本主義」に反発 党派的分断深まる

米国ではここ数年、民主党政権の下、LGBT(性的少数者)、人種・移民問題、銃規制、そして環境などのさまざまな問題について、左翼リベラル的な価値が相次いで制度化されてきた。その対象は投資や融資などの経済活動にも及んだ。ESGはまさにそれを最前線で具現するものだった。

だが、かかる動きは「覚醒した資本主義(ウオーク・キャピタリズム)」と揶揄されるようになり、これではまるで社会主義だとして、反対が巻き起こった。伝統的な価値を重んじる保守層とあちこちで軋轢を起こし、党派的な分断が深まった。

デサンティス知事はフロリダ州において、州政府のみならず民間企業の業務からも徹底的にESGを排除するよう、あらゆる禁止を規定した法案を提出している。

上述の19州の共同声明については、今のところ法的な意味は全くない。だがこのフロリダ州の法案が成立すれば、他の18州も類似の法律を制定していくと見られ、影響は大きくなるだろう。

ESGへの反対にはもう一つの側面がある。それは州民のお金を預かったり、州内で事業をしたりしておきながら、ESGを理由に州内の産業に投資をしないことは不適切だ、ということだ。

これまでも実際にESGを理由に、石炭、石油、天然ガスの採掘や、それを燃料にして事業を営む企業が、投資や融資を受けられなくなったり、事業の売却を余儀なくされたりといった圧力を受けてきた。

だが、米国には化石燃料に関連する産業で潤っている州は多い。米国は世界一の石油生産量、天然ガス生産量を誇る。石炭の埋蔵量も世界一である。

このため共和党はバイデン政権の進めるグリーンディール(日本で言う脱炭素)や、その推進手段であるESGの強化には強固に反対してきた。

のみならず、民主党の議員であっても、ウェストバージニア州選出のマンチン上院議員などを筆頭に、化石燃料産業への抑圧には反発がある。

その民主党から造反者が出たため、3月の初めには、米国連邦議会において上下両院とも、「労働省の年金基金運用はESGを考慮する」という規則を否定する決議が通ってしまった。結局これにはバイデン大統領が拒否権を行使したので無効になったが、米国ではいかにESGが不人気なのかよく分かる。

それでは気候変動はどうなるのか、と読者は思われるかもしれない。実は米国共和党は、気候危機説は誇張が過ぎ、極端な脱炭素は不適切だと認識している。トランプだけが例外なのではなく、デサンティスも含めて、共和党の重鎮はみな同じだ。デサンティスが2月に出版した著書「自由という勇気(The Courage to Be Free)」でも地球温暖化は一度しか言及されておらず、しかも危機を扇動している(alarmism)として取り上げられているだけだ。

いま米国ではインフレ抑制法(IRA)の成立でグリーン産業への巨額の補助金が出ており、折からの欧州のエネルギー危機を受けて、米国への産業立地がブームになっている。だがこの立地のほとんどは、エネルギーが安価な共和党の州(レッド・ステート)向けになっている。そのレッド・ステートがESGに叛旗を翻すとなると、いったい何が起きるのだろうか。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。「亡国のエコ 今すぐやめよう太陽光パネル」など著書多数。最近はYouTube「キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志」での情報発信にも力を入れる。

電力システム改革に制度疲労 競争と安定供給の両立へ検証を


【論説室の窓】竹川正記/毎日新聞 論説副委員長

国が2010年代から推進してきた電力システム改革の制度疲労が鮮明になっている。

需給ひっ迫や電気代高騰、新電力の撤退、大手電力の不正など問題が噴出しており、検証が必要だ。

政府は2013年春に「電力システムに関する改革方針」を閣議決定した。11年3月の福島第一原発事故で日本の電力システムの問題点があらわになったことを受けたもので、改革は①安定供給の確保、②電気料金の最大限の抑制、③需要家(利用者)の選択肢や事業者の事業機会の拡大―を三本柱とした。これを実現すべく、小売りの全面自由化や、送配電部門の中立性の確保に向けた大手電力の発送電分離、各種の取引市場の整備などの措置が矢継ぎ早に講じられてきた。

最大の目玉とされたのが、競争を通じて大手電力の地域独占を崩し、料金引き下げやサービスの多様化など消費者メリットにつなげることだった。実際、16年の小売り全面自由化に伴い、家庭向け電力販売には700社を超える新電力が参入。競争促進効果で、海外に比べて割高と指摘されていた電気料金は一定程度低減した。ガスや携帯電話とのセット割引などサービスの多様化も進んだ。

一方でこの10年間に深刻な課題も浮き彫りになった。まず改革の大前提とされた安定供給の確保が大きく揺らいだことだ。近年は想定外の寒暖に見舞われたり、火力発電所のトラブルが起きたりした途端、首都圏を中心に需給ひっ迫が繰り返されている。

競争と設備余力確保 表面化したジレンマ

背景には、自由化による競争にさらされた大手電力が、再生可能エネルギーの大量導入も相まって採算性が悪化した火力発電所の休廃止を加速させたことがある。経営効率化の観点から余分な設備を持てないのは道理だが、それによって需給ひっ迫時に必要な設備の余裕がなくなるジレンマに直面している。政府は従来、競争促進を最優先にしてきたが、市場原理に任せていては慢性的な電力不足に対処し切れないことが明らかになった。

足元では「安価な電力」という自由化の旗印も色あせている。ロシアによるウクライナ侵攻などに伴う資源価格高騰により電気代が急騰しているからだ。電力調達コストの上昇は新電力の経営を直撃し、事業停止や経営破綻に追い込まれる企業が続出している。本来、小売り事業者には需要家のニーズに対応した供給力の確保が義務付けられているはずだが、その仕組みが機能しなくなっている。

システム改革には、地球温暖化問題の深刻化に対応して、再エネ導入を拡大し、脱炭素化を進める狙いもある。だが、十分な成果が上がっているとは言い難い。もともと太陽光発電など再エネには曇雨天時に出力が大きく下がる弱点がある上、威力を発揮するはずの好天時も電力の広域ネットワーク整備の遅れを主因に出力制御を余儀なくされ、フル活用には程遠い状況だからだ。

極め付きは大手電力が起こした過去最大規模のカルテルや、新電力の顧客情報の不正閲覧など不祥事だろう。電気事業法で中立的な立場を義務付けられている大手電力の送配電部門が持つ顧客データを、営業部門が日常的にのぞき見していた問題だ。新電力から顧客を奪い返す営業活動にも使われていたという。カルテルも含め、自由化の理念を踏みにじるような行為の横行は、国民のシステム改革に対する信頼も棄損した。

電力システムの強靭化が求められている

政府はこれらさまざまな問題への対応策を講じているが、対処療法にとどまっているように見える。安定供給の確保に向けては「ベースロード電源でかつ脱炭素電源」(経済産業省幹部)と喧伝し、既存原発の運転期間延長や建て替えを打ち出した。だが、古い設計の原発の寿命を延ばす措置は安全面から不安が根強く、再稼働に不可欠な地元の同意を得るのは容易ではない。建て替えは長期の建設期間を要するため、需給ひっ迫解消の即効薬にはなり得ない。安全対策費の膨張で巨額の先行投資が必要なことから大手電力の多くは消極的との見方もある。使用済み核燃料の処理という未解決の大問題も抱える原発に、システムを再起動させる「魔法のつえ」を期待するのは無理がある。

設備不足への対応では、将来の発電能力を取引する「容量市場」に加え、新たに「長期脱炭素電源オークション」を導入する方針だ。低炭素化技術を取り入れた火力も含め大規模な電源新設を対象に20年間固定で電力の買取契約を結び、投資を誘発するという。ただ、専門家は「海外の事例を見れば、建設中や運転開始後に追加投資が想定以上に膨らむ可能性があり、相当のリスクプレミアムが要求される」と指摘する。そうなれば、長期で固定化する買取価格が割高になり、経済性の面で難点が生じかねない。

「接ぎ木対応」を重ねる国 国民の不信を増幅するだけ

大手電力の不祥事に絡んでは、政府内で新電力との競争の公平性を確保する観点から発送電分離の徹底を求める声も出ている。送配電部門が別会社化されたとはいえ、大手電力との資本関係が残る現状の「法的分離」を見直し、資本関係も解消させる「所有権分離」に移行させる案だ。ただし「小売部門などと連携が必要な災害時の復旧対応が困難になる」(経産省幹部)との懸念があり、一筋縄には行きそうない。

このほか、蓄電池の技術革新などで再エネが安定電源化するまでの移行期間中は、中東などの資源国から化石燃料を安定的に調達できる体制づくりも不可欠だ。また再エネを最大限有効活用するためには、太陽光の出力が増加する晴天の昼間帯に電気料金を安くして需要を高めるなど、デジタル技術を活用した柔軟な需給調整システムの採用も必須となる。 エネルギー政策の要諦は「S(安全性)+3E(安定供給、経済性、環境性)」とされる。政府が今なすべきなのは、これまでの改革の成果と課題を丁寧に検証し、競争原理を生かせる部分と政府の介入で市場の失敗を正す部分をきちんと切り分け、電力システムを強靭化することだ。問題が起きるたびに個別に接ぎ木するような対応を重ねていては、システム改革への国民の不信は膨らむばかりである。

最大7兆円の系統増強投資 マスタープランまとまる


電力広域的運営推進機関が3月29日に取りまとめた、2050年カーボンニュートラル(CN)の実現を見据えた広域系統長期方針「広域連系系統のマスタープラン」では、最大7兆円規模のネットワーク投資を行っても、それを上回る費用対効果を確保できる可能性があることが示された。

特に投資規模が大きいのは、北海道や東北の再生可能エネルギーを東京に送るための海底直流送電(HVDC)の新設に約2・5兆~3・4兆円と、北海道の地内系統増強のための約1・1兆円―。費用便益評価を行った三つのシナリオのうち、ベースシナリオの年間コストは約5500億~6400億円で、燃料費やCO2対策費の低減などにより、4200億~7300億円の便益が得られると評価された。

ただ、業界関係者からは、「将来の電源立地や蓄電池の導入、水素インフラの実現性など、不確実性が高い前提に寄った評価になっている」との指摘も。コストは託送料金などを通じて国民が負担することになるだけに、「自動車が走らない高速道路」にならないよう冷静に評価する視点も必要だ。