「電力の供給力の確保にあたっては、原子力の再稼働は重要だと思っている」――。3月3日の参院予算委員会で、萩生田光一経産相は電力需給ひっ迫の懸念にこう答え、原発再稼働に前向きな姿勢を見せた。萩生田氏は「産業界に対して、事業者間の連携による安全審査への的確な対応を働きかけるとともに、国も前面に立ち、立地自治体など関係者の理解と協力を得られるよう粘り強く取り組む」と説明。閣僚が原子力の再稼働に言及したことで、原子力関係者から期待の声が上がっている。
原子力政策に関しては、福島伸享議員が2月16日の衆議院予算委員会で「原子力政策の再構築に取り組むべきではないか」と質問。それを受けた萩生田氏が「これから先どうするのか。私も感じるところはある」と踏み込み、話題になっていた。3日の萩生田氏の答弁は、原子力政策の再構築というよりも、資源価格の高騰や電気ガス料金の上昇などによるエネルギー危機を意識したものとみられている。
福島氏は4日、本誌の取材に応じ、萩生田氏の答弁について「2012年以降の安倍政権下での原子力政策の不作為に対し、これまでずっと『原子力の再構築を行うべきだ』と言い続けてきた。その点ではまだ物足りないが、やっと腰を上げ始めた印象だ」と感想を述べた。
ロシアのウクライナ侵攻を契機に、石油・ガス・石炭価格の高騰、新設天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の停止、原子力発電所への攻撃など、エネルギー安全保障に対する危機感が世界的に広まっている。萩生田氏は3日の予算委で石油やLNGの備蓄は十分にあるとしながらも「日々刻々と情勢は変わっている。引き続き関係国や国際機関と連携しながら、国際的なエネルギー市場の安定を図りつつ、電力の安定供給に万全を期す」と答弁し、エネルギー問題の解決に意欲を示した。
ところが、岸田文雄首相は3日夜の会見で「これまで以上の省エネに取り組み、石油やガスの使用を少しでも減らす努力をすることが大切だ」と、エネルギー資源の確保というより省エネの推進に主眼を置いたメッセージを発出。SNSなどで、「岸田首相の発言からは危機感が全然伝わってこない」「岸田政権、大丈夫か?」といった批判が相次いだ。
ロシア軍の原発攻撃に見る日本の危機管理対策
わが国のエネルギー危機回避のため原発再稼働に対する国民的期待がようやく高まり始めた矢先、これに水を差すような事態が勃発した。ロシア軍は4日、ウクライナ南部にある欧州最大級のザポリージャ原発を砲撃したのだ。原発への軍事攻撃は世界で初めてのこと。かねてから懸念されていた原発攻撃、もっといえば核攻撃の現実化を受け、世界に衝撃が走った。

今のところは原発の管理棟や訓練施設への砲撃にとどまっており、原子炉の被害はなく、周辺の放射線量も正常な状態とされている。が、ウクライナ当局によれば、ロシア軍は同原発を制圧したもよう。ロシア側にとっては、原発という最大の武器を人質に取った形で、今後の交渉を有利に進める狙いがあるのは間違いない。
沿岸部に数多くの原発を抱えるわが国も決して他人事ではない。とりわけ、日本海沿岸の原発は、北朝鮮に近い立地条件などから攻撃にさらされるリスクは常に存在しており、小説や映画の題材になったことも。これまで国の原発防衛に幾度も提言を行ってきた福島氏は、「日本の原発防衛体制は、全くなっていない」と警鐘を鳴らす。「今回ウクライナで起きたように、敵国軍隊が原発制圧に乗り出してきたときの防衛策はないに等しい。実際に軍事進攻が起きたら脆いという現実から、これまで目を背けてきた」「そもそも日本の原子力安全体系では、特定重大事故等対処施設などで設備の安全を見ることはあっても、有事の危機管理対応について、国がどう関与して、どこまでが国の責任で、民間でできないことをどうやって自衛隊や警察が補うのかを含めた体系ができていない。20年前から必要性が指摘されていたにもかかわらず、やってこなかった」などと、日本の原発安全保障の不備を指摘する。
原発防衛には自衛隊と企業と自治体の連携が不可欠だが、足並みをそろえる以前の状態で、突然の攻撃にさらされた際の危機管理対策はないに等しい。2日午前には北海道・根室半島沖の上空にロシア機と見られるヘリコプターが領空を侵犯した。隣国の北朝鮮も日本海でミサイル実験を繰り返している。たとえ原発の現状のまま再稼働が進まなかったとしても、そこに存在する現実に変わりはない。今回のウクライナ危機をきっかけに、わが国の原発防衛策の在り方を政府主導で議論しなければならない時期に来ている。