【記者通信/5月10日】原子力世論を変える秘策 気鋭コンサルに学ぶ「議論法」


社会問題を巡る論争が世の中では騒がしい。しかし、こうした論争の大半は罵り合いや争いを生むだけだ。後で振り返ると問題を解決して、みんなが幸せになるという良い結末をなかなか生み出していない。日本におけるエネルギー問題は、政治的な激しい論争となった後で混乱している。2011年の東京電力の福島第1原子力発電所事故の後で、電力業界への批判や反原発運動が広がった。それを背景にしてエネルギー自由化の動きが拙速に決まり、全エネルギー業界と全国民が巻き込まれた。しかし、それは成功したと言えるのだろうか。今の日本では、電力供給の不安定化、原子力発電所の長期停止による電力会社の経営悪化、そしてエネルギー価格の上昇という問題が生じている。そして解決の見通しは見えない。

現状を変えるには、どうすればよいのか。

「論争は何も産まない。対話で相手の意見を受け止め、意見をすり合わせて、目指すゴールにたどり着こう」

当たり前だが、なかなか実現しない、このような活動を呼びかける経営コンサルタント・経済思想家の倉本圭造さんの著書『日本人のための議論と対話の教科書 「ベタ正義感」より「メタ正義感」で立ち向かえ』(ワニブックス)が話題になっている。

倉本さんは、京都大学経済学部を卒業した後、世界的なコンサルティング会社のマッキンゼーに勤め、日本のコンサル会社である船井総研でも働いた。肉体労働現場やホストクラブ、カルト宗教団体にまで潜入して働いた経験もある。現在、独立コンサルとして働きながら、アルファブロガーとしても活躍中だ。

「日本の混乱したエネルギー問題で、多くの人が納得する方向に変えるにはどうすればいいのでしょうか」。倉本さんに聞いてみた。

◆「やっつける」ことを目指しても、現実は動かない

ーー議論で対立相手をやっつけることではなく、問題を解決する発想を考えるようになった背景を教えてください。

プロフィールから分かるように、私は「外国製のキラキラした経営論」と「日本企業の現場」との、あまりに文化が違う2つの世界のギャップを乗り越える仕事をし、方法論を作ろうとアレコレと実地で苦労してきました。その環境では「どちらからだけの意見を押し切る」では良い成果が出ません。いかに両者の良い点を引き出せるかを考え、実行することが必要です。

具体的には、理想と現実を擦り合わせ、改革を少しずつ進める漸進的な統合策を丁寧に進めるのが有効ですし、それしか道はないのです。「お前のせいだ」なんて争い始めたら、その時点で大変なことになり、会社がつぶれてしまいますからね。問題が起きるはるか手前で、抵抗勢力になりそうな人と対話を重ね、その人たちが納得し「自分ごと」「われわれ感」を持ってもらい、水が高いところから低いところに流れるような自然な状況を整えて、改革を進めるのです。

そこでの対話で重要なのが、より高い次元から問題を見て、正しさを考えようという視点です。私はこれを分かりやすいように「メタ正義感」と名付けています。

あるお手伝いした企業では、丁寧な改革を10年間少しずつやって、気づいたら社員の年収が自然と平均で150万円アップしていました。その会社の経営者の方は敵を作らず、丁寧に味方を増やしていました。提案した私の方が学ばせていただいたのです。

ーーけれども、丁寧なやり方だと時間がかかります。日本はあらゆる面で、ぐずぐずと問題が決まらない面が多いように思えます。

逆に「日本は、あらゆる面でぐずぐずと過ごしていたから、できることがある」と前向きにとらえられると思います。過去20~30年のネオリベ型の市場原理主義的グローバリズムにどっぷり浸かっていた国は、確かに日本以上に経済成長できた例が多いですが、一握りのエリート層とそれ以外の分断が大変深刻になっており、「同じ目線で一緒に問題を解決するムード」を立ち上げることが難しくなってしまっています。

大きな視点で言えば、現場と理想論の対立が続き、人類社会全体が二分されていくという、とんでもない事が世界中で進行しているわけです。アメリカでのエリートの理想論に庶民が反感を抱くトランプ現象や、プーチンの個人の理想が肥大化・暴走してウクライナを侵略してしまったロシアの状況なども、そうした対立の一環として捉えられるかもしれません。

「派手に誰かを糾弾してみせるけれども、実際の地道な改善にはつながらないようなムーブメント」は、世界中を席巻しています。そういう派手な騒ぎ方でないと「連帯」を生み出せない焦りのようなものがあるように思います。

日本で私たちがグローバリズムと土着の文化の2つに橋をかける実地の方法を提示していくことは、大げさなようですが、人類全体の「第三次世界大戦すらありえる分断」を超えるための希望の旗印にもなると思います。幻想であるかもしれませんが、日本はまだ社会全体にギリギリのところで「みんないっしょ」感が残って、ほんの少し余力があります。それをベースに物事を動かして、経済の発展と問題の解決を目指せる実例を日本のあちこちで示せると思うのです。

【目安箱/5月3日】原発は戦争では壊れない 報じられない攻撃リスクの実情


ウクライナ戦争で、日本では「原子力発電所は戦争で大丈夫なのか」という不安が出ている。そして危険を強調する人たちがいる。本当にそうなのだろうか。筆者は安全であるとは断言しないが、仮に日本が戦争に巻き込まれても、原子炉が破壊され、放射性物質が拡散する可能性は極端に低いと思う。それより目の前にある停電やエネルギー価格高騰に備えた方がよい。

◆ウクライナ戦争で原子力発電所は壊れなかった

ウクライナ戦争で、原子力発電所はどうなったのか。ウクライナは電力供給の約6割が原子力だ。同国はエネルギー資源に恵まれず、ロシアがエネルギーで締め上げたため、原子力発電への依存が高まった。同国には4ヶ所の原子力発電所がある。また1984年のソ連時代に大事故を起こしたチョルノービル(チェルノブイリ)原子力発電所は廃炉作業中だ。

この戦争では南部のサポリージャ原子力発電所を3月4日にロシア軍が占領した。ここは100万kWの原子炉6基があり、欧州最大の発電能力だ。占領の際に戦闘が起こり、火災が発生した。しかし原子炉の破損はなかった。国際原子力機関(IAEA)によると、現時点(4月24日)ではロシア軍が占領しているが2基の原子炉が動いており、構内の原子炉に電気を供給して、さらに一部を外部に送電しているという。またチェルノブイリ原子力発電所は、2月24日にロシア軍が占領し、3月31日に撤退した。その際に、放射性物質の一部を持ち去ったというが、施設の破壊はなかった。

その他3つの原子力発電所へは攻撃の報告はない。IAEAによると、原子炉は4月24日時点で、4原発の17基の原発のうち7基が稼働している。稼働率は低下しているようだ。

これらの報告を見ると、ロシアはウクライナの原子力施設の組織的な破壊をしていない。ロシアはチェルノブイリ原発事故で、大変な苦しみと混乱を受けた。それを破壊し、戦争に用いると言う発想はなさそうだ。国際法を調べると、1977年の「ジュネーブ条約に追加される国際武力紛争の犠牲者の保護に関する議定書」によって、攻撃は軍事目標と敵の戦闘員に限定され、原発の攻撃禁止も明示されている。もちろん戦時に守られる保障はないものの、攻撃抑止の理由の一つになっているだろう。

◆原子炉の構造と日本の事前対策

原発の重要部分の圧力容器の大きさは、事故を起こした東京電力福島第一原発第1号炉(1971年運転開始)で、高さ約15m、直径4.7mだ。大きいものではない。中国とロシアは保有している。その圧力容器が格納容器で覆われ、さらに建屋の中にある。圧力容器は厚さ2m程度の鉄筋コンクリートで作られている。外部からの攻撃でこれらの何重にも作られた壁を壊すことは難しい。大型飛行機の突入や単発のミサイル、砲撃程度なら、破損の可能性は少ない。

日本の原子力規制委員会は2013年に定めた新規制基準で、航空機が突入した場合の対応を求めている。またテロリストが突入した場合に、それの侵入を阻止して運転員が逃げこめて、原子力発電所を制御できる「特別重要施設」の建設を求めている。現在、特重施設は、各原発で建設中だ。

日本の行政も対策をしている。海上保安庁が原子力発電所を海から巡視船で警戒している。原発の立地する自治体警察には機動隊の中に小隊規模(数十名)の原子力関連施設警戒隊が置かれ、隊員は短機関銃MP5を持つ重武装をしている。日本には、自衛隊の中央即応集団、また警察のSAT、海上保安庁SSTなど、重武装の犯罪者、テロなどに対応する特殊部隊がある。各原発はそれと連携している。

核兵器で日本攻撃を狙う侵略国もあるかもしれない。しかし日本では都市から離れた場所に原発は立地する。核兵器は大量殺戮を狙いとする兵器であるために、大都市を狙うだろう。

こうした状況を見ると、ロシアがそうであったように、日本を侵略する国も、積極的に原子炉を破壊しないと思われる。

◆広報とリスク認識 繰り返される原子力の問題

それよりも、原子力発電所が戦争で危険と強調する人の姿を見て、日本のエネルギー談義で必ず現れる2つの問題がまた出てきたことを、筆者は残念に思う。政府広報とリスク認識の問題だ。

原子力は今、その実行の責任が曖昧になっている。安倍政権以来、「安全の確認された原子力発電所を再稼動する」という発言を、政府は繰り返すのみだ。政治家も政府も積極的に原子力の必要性を広報しないし、その活用には消極的だ。いわば原子力の政府関係者は、原子力の安全の確認を担当する原子力規制委員会に、責任を丸投げし自らは逃げている。

そして、責任を委ねられた規制委員会も広報下手だ。更田豊志規制委員長は、国会答弁や会見で、戦争でのリスクを問われ「規制では戦争は想定していない」と、繰り返し答えた。事実の上では間違いではないが、広報の点では落第点だ。この発言は、国民の不安を煽り、原子力反対派に言質を取られるだけだ。

原発問題をPRしづらい現状は理解できるが、「安全対策はしており、原子力発電所の安全性は高まっている。戦争で壊れる可能性は少ない」と、政府は明確にメッセージを示すべきであろう。残念ながら、それは行われていない。

もう一つの問題はリスク認識の問題だ。リスクとは、「事象の発生確率」と「災害の程度」で認識される。(「環境リスク学−不安の海の羅針盤」(中西準子著、日本評論社))その数値化は難しいが、「日本が戦争に巻き込まれ、原子力発電所が破壊されて放射性物質が撒き散らされる」という事象が起こる確率は、現時点では極端に小さい。一方で、今の日本では「電力不足による供給の不安定化」が常態化しており、それによる停電の可能性が高まっている。またウクライナ戦争などの影響によって化石燃料の価格が上昇している。

前者と後者の確率の大きな差は明らかだ。戦争を考えるより、目先の停電とエネルギー価格抑制のリスクの差を考え、後者の対応をするのが合理的だ。原子力を活用すれば、後者は解決する。

しかし反対派は戦争リスクを過剰に騒ぎ、分かっている人も批判を恐れて沈黙してしまう。反原発を唱える政治団体や政党は、エネルギー問題で「原発再稼働」の機運が高まっているために、意図的に「戦争と原発」を強調しているように思える。

原子力の戦争リスクを考えるよりも、今の日本は、「原子力を使わないリスク」を考えるべきではないか。

【記者通信/4月22日】革新炉開発で初の有識者会合 夏に方向性示しCE戦略へ反映


経済産業省は4月20日、小型モジュール炉(SMR)や高速炉、高温ガス炉など革新炉の開発、導入に向けた有識者会合「革新炉ワーキンググループ(WG)」の初会合をオンラインで開催した。2050年カーボンニュートラル(CN)実現に向け、革新炉開発を進めるにあたっての安全性担保、水素製造技術推進などの評価分析のほか、非化石エネルギーとしての社会的役割に原子力がどう貢献できるかなどを巡り、活発な議論が行われた。「東日本大震災以降の失われた10年」(原子力関係者)によって、今や日本の原子力技術は、欧米どころか、中国にも水をあけられた感がある。崖っぷちからの復活なるか。今後の展開に、エネルギー関係者の期待が掛かる。

このWGは、萩生田光一経産相の諮問機関である総合資源エネルギー調査会・原子力小委員会の下に設置。この日は原子力分野の専門家など14人の委員が出席した。事務局からは、原子力小委員会での革新炉に関する議論概要や、革新炉の可能性と求められる価値について説明が行われた。続いて日本原子力研究開発機構、三菱重工業、日立製作所、東芝エネルギーシステムの関係者が、それぞれ革新炉開発の取り組みを説明すると、その後の質疑応答では、各委員から革新炉の開発計画や安全の担保に関して意見が相次いだ。

革新炉開発に「民間企業による経済価値の創出が大前提」

慶応大学の遠藤典子特任教授は、革新炉の社会的価値について「民間企業が経済価値を創出することが大前提」として、民間の事業予見性を確保するための制度設定が大きな課題だと述べた。中国・ロシアによる原発輸出ビジネスの対抗策に、革新炉を利用することについては「日本が民間サポートするなら、何のために必要なのか明確な提起が必要」と、政府による安全性担保で、民間企業が社会的コストを軽減できる仕組みが必要だと呼びかけた。今後の課題として、規制当局との連携を挙げ「適合審査の長期化や地元合意を考えれば、国内のリプレース(建て替え)は早期には難しい。海外でまず実績を上げられるよう民間の活力に期待したい」と話した。

経団連資源・エネルギー対策委員会企画部の小野透会長代行は、革新炉の開発には安全性の確保が最も重要とした上で、「廃炉や核燃料サイクルの最終過程(バックエンド)を含んだ対応も、地味ではあるが日本においては優先度が高い」と述べた。また、「このままでは将来の電力需要を賄えるとは思えない。再エネの拡大余地はあるが、安定電源の火力、原子力は相当規模なければならない」と強調。水素製造なども含めた原子力技術革新に言及し、革新炉の早期実装を呼びかけた。

「革新炉がCNにどういう役割果たすか疑問」

一方で、原子力資料情報室の松久保肇事務局長は、「30年の温室効果ガス削減目標、50年CNに、革新炉がどういう役割を果たすのか疑問だ」と主張。「諸外国を見ても30年の目標に革新炉は貢献しない。小型炉も50年に何基建設できるか不明で、高速炉の実用化も50年以降。高温ガス炉の水素製造能力は2万t以下で、将来的に2000万t必要な状況下ではあまりに微量」と指摘した。「技術的にできるということと、社会的なインパクトは別物だと考えるべき。『CNのためにあらゆる選択肢を』というが、わずかな貢献度のために高額な補助を与えることは、合理的な政策とは言えない」と、革新炉開発を推進する政策の在り方に疑問を投げた。

その他、委員からはウクライナ侵攻に伴う原発防衛の必要性のほか、人材確保や産業基盤の維持のために革新炉開発が重要とする発言や、各革新炉の炉型ごとの比較や状況を踏まえた検討が必要とする意見が出た。次回以降の会合では系統の安定化、廃棄物の問題や安全保障などの視点から議論を重ねていくとしている。事務局によると、今後は開発に必要な予算やサプライチェーン、制度の整備などを取りまとめて夏ごろまでに方向性を示し、政府が検討しているクリーンエネルギー戦略に反映させたいとしている。

【記者通信/4月22日】再エネ乱開発防止へ 中央4省庁が重い腰


全国的な問題となっているメガソーラーの乱開発防止など再生可能エネルギーの適正化に向け、中央省庁がようやく重い腰を上げた。経済産業省、農林水産省、国土交通省、環境省の4省による共同事務局は4月21日、太陽光発電設備など適正な導入や管理についての第1回検討会をオンラインで開催した。検討会には有識者や各自治体の実務者ら14人が委員として参加。太陽光パネル設置による災害リスクや2030年代にピークを迎える太陽光パネル廃棄問題について意見が交わされた。

検討会では、30年度温室効果ガス削減目標の達成に向けては、再エネ導入の拡大が重要だとする一方、①地域とのコミュニケーション不足、②森林伐採や土地開発による災害や環境への影響、③再エネ設備の廃棄問題――などの懸念を指摘。再エネ設備導入から廃棄までの各段階で適正な規制対応を取ることが重要との認識を示している。

金融機関の融資契約がトラブルの抑止力に

約2時間半の議論の中で、事務局は冒頭、各省庁での取り組みを説明。これを受け、委員から省庁への意見や要望が相次いだ。

早稲田大学大学院・法務研究科の大塚直教授は、「行儀のよくない事業者が過去に認定を受け、みなさんその対応に追われている。一方で中長期的な課題として再エネは促進する必要があり、過去の問題と中長期的な視点は分ける必要がある」と規制議論に前向きな姿勢を見せた。また、今後拡大が見込まれる固定買い取り制度(FIT)対象外の事業に触れ「非FITを促進する必要はあるが、逆説的に言えば規制を行うことで地域住民に安心感与えることにもなる」と非FIT事業の規制についても提案した。

みずほ銀行の池田周平氏はプロジェクトファイナンスの視点から再エネの地域共生策に言及し、「(事業者と地元とのトラブルが少ない)一因として銀行の融資契約が抑止力になっている」と話した。「融資契約はさまざまな取り決めが厳密で、これがけん制機能を果たしている。規制に違反すると即座に融資打ち切り、返済となり事業計画が狂うため、(事業者が)しっかりと約束を守ることにつながる」(池田氏)と融資が事業者の自浄作用を促していると意見を述べた。

内閣府の再エネTFは解散か?の声

山梨県からは環境・エネルギー部の雨宮俊彦課長が出席。昨年施行した、設置規制区域への太陽光発電施設の新設禁止条例について「正しい形で設置することが重要。将来にわたり再エネが持続できるよう整えたい」と意図を説明した。また、栃木県那須塩原市気候変動対策局の黄木伸一局長は、太陽光パネル設置による地元への恩恵が少ないことを指摘した上で、「再エネが地域経済に貢献できるものであってほしい。安全安心があるだけでは地元にとっては何のメリットもない」と注文を付けた。

検討会ではそのほか、努力義務としている土地開発前段階の地域住民との説明会の重要性や、再エネ促進区域設定に関する各省庁の連携の問題点、太陽光パネル大量廃棄・リユースの責任の所在など、幅広い規制対象について話し合いが行われた。「この検討会が進めば、再エネ規制緩和に積極的だった内閣府タスクフォースは廃止されるだろう」(政府関係者)。政府は夏ごろに対策案をまとめ、今後の法整備につなげたい考えだ。

悪徳事業者による太陽光パネル乱開発問題や、昨年7月に起きた熱海市の土石流災害を受け、再エネ規制にようやく本腰を入れた政府が、どのような対策案を講じるか注目だ。

なお、再エネ開発・運用の適正化を巡る検討の舞台が今回の4省庁合同検討会となったことを受け、業界からは「内閣府の再エネ規制総点検タスクフォースの役目を終えたと思う。そろそろ解散では」との声が聞こえている。

【記者通信/4月20日】東ガスが主導する脱炭素広域連携 首都圏7地域と協定


東京ガスによる地域脱炭素連携の取り組みが加速している。卸先ガス事業者、自治体を交えた3者による「カーボンニュートラル(CN)のまちづくりに向けた包括連携協定」を結び、脱炭素社会の実現、防災機能の強化、地域共創などの幅広い分野で連携を強化していく。同社は4月20日までに、神奈川県秦野市・秦野ガス、埼玉県三芳町・大東ガス、同所沢市・武州ガス、同日高市・日高都市ガス、同狭山市・武州ガス、茨城県守谷市・東部ガス、同土浦市・東部ガスと、計7つの協定を結んだ。いずれの自治体も2050年までにCO₂排出量を実質ゼロにすることを目指すゼロカーボンシティ宣言を行っている。

東京ガス、狭山市、武州ガスの3社による連携協定締結式

東ガスでは経営ビジョン「Compass2030」の中でCO₂ネットゼロへ取り組む方針を打ち出しており、地域の自治体、ガス事業者との包括連携はその一環だ。内容を見ると、脱炭素分野では、学校への太陽光発電設置、公用車の電気自動車(EV)への置き換えなどを推進。レジエンス分野では、自治体向けにガスコージェネレーションシステムや蓄電池といった自立電源の設置や防災情報の提供を行っていく。地域共創分野では、学校などにおける環境教育、食育に関するイベントやワークショップの開催を通じた啓発活動を行う。詳細については、各自治体などとの今後の協議を通じて詰めていく方針だ。

東ガスは今回の包括連携協定について、カーボンニュートラルシティ推進部の職員5人で専門チームを編成。自治体への提案力や再エネ導入のノウハウなど、それぞれの職員が持つ強みを生かし、地域が抱える課題解決などに取り組んでいく。同社によると、秦野市では既に同市中学校への太陽光導入に向けた検証結果がまとまっており、早ければ22年度内には導入が決定する見通しだ。

東ガス、卸先ガス会社、自治体に〝三方一両得〟の効果

包括連携協定が広がる背景には、政府が進める「地域脱炭素ロードマップ」の存在がある。これは2030年までを集中期間として、地域の脱炭素化を加速させる取り組みだが、自治体は何から手を付けるべきか苦慮している。そうした中、東ガスや卸先ガス事業者が有する先進技術やノウハウを活用し、取り組みを前進させたい考えだ。地域でのネットワークを有する卸先ガス事業者も東ガスの技術力を借りることで、自治体への幅広い提案が可能となる。東ガスにとっては、連携地域を拡大させ首都圏での存在感を高める効果も期待できる。いわば、〝三方一両得〟の格好だ。

東ガス広域エネルギー事業部の馬場敏事業部長は「脱炭素化は、われわれにとって大きなチャレンジ。道は険しいが、当社の経営資源をフル活用しながら。地域を活性化させていくことが目標だ」と意気込む。新たなビジネス領域へとシフトするCN。東ガスの地域脱炭素連携を通じた広域戦略が今後どんな展開を見せていくか、要注目だ。

【記者通信/4月17日】CE戦略会合で原発推進論が続出 消費者委員も再稼働に理解


「可能な限りの依存度低減」から「最大限の活用」へ――。わが国の原子力政策が大きな転換点を迎えている。それを象徴するのが、4月15日に開かれた経済産業省のクリーンエネルギー戦略検討合同会合(座長=白石隆・熊本県立大学理事長)だ。

資源エネルギー庁事務局は配布資料の中で、「ウクライナ危機・電力の需給ひっ迫を踏まえた、政策の方向性の再確認」と題する論点メモを提示。その締めくくりにおいて、岸田文雄首相が4月8日の会見で「再エネ、原子力などエネルギー安保および脱炭素の効果の高い電源の最大限の活用」と言及した部分を引用しながら、「エネルギー安定供給確保に万全を期し、その上で脱炭素の取り組みを加速」と提起した。これに対し、複数の委員やオブザーバーから、原発の早期再稼働など原子力政策の推進を求める意見が相次いで表明されたのだ。これまでタブーとみられていた原発の新増設・リプレースの必要性を指摘する声も聞かれ、潮目の変化を浮かび上がらせた。

4月15日のCE戦略会合で所感を述べる保坂伸・資源エネルギー庁長官

注目は何と言っても、消費者を代表する河野康子委員(日本消費者協会理事)の発言である。「原子力を選択肢として射程に入れるとしたとき、国民が抱いている大きな危惧に対して、正面から向き合うところから始めないとうまくいかない。ベネフィットや課題を整理し、テクノロジーアセスメントの考え方でしっかりと進めていただきたい」。安全性確保と国民理解が大前提という慎重な姿勢ながらも、条件付きの原発再稼働へ理解を示した格好だ。消費者団体といえば、これまでもことあるごとに脱原発・再エネ推進を訴えてきたが、わが国で深刻化する電力の需給ひっ迫・価格高騰リスク回避のためには、国内の原発再稼働もやむなしと判断したようだ。

これを受け、長谷川雅巳委員(経団連環境エネルギー本部長)は「河野委員が言われたように、(原子力の利活用には)国民の理解が極めて重要。政府は前面に立って国民の理解醸成を図りながら再稼働、新増設、リプレースを進めていただきたい」と要望した。

「国が前面に立って、原発の早期再稼働の推進を」

このほか、原発再稼働に関する主な意見は次の通り。

「原発をできるだけ早く再稼働させていく。エネルギーの海外依存を続けていいのか。再エネもあるが、安定的な電源が必ず必要になる。企業の生産性が落ちていくと、国のためにもならない」(伊藤麻美委員=日本電鍍工業代表取締役)

「安全性を確保した上での原子力の再稼働。その必要性と安全性について、国が前面に立って国民にしっかりと説明していく必要がある」(大下英和オブザーバー=日本商工会議所産業政策第二部部長)

「原子力の再稼働を急ぎながら、長期的には新増設・リプレースの議論をしっかりと行っていく。そもそも日本が(資源調達で)ハンディキャップを追っている中で、電力価格を上昇させていくと(国内の)産業全体に影響してくる」(秋元圭吾委員=地球環境産業技術研究機構主席研究員)

「原子力は避けて通れない議論。社会的情勢も含めて、やらざるを得ない。人が途絶えると、二度と復活できない。今やらないのであれば、二度とやらないという決断になるのではないか」(白坂成功委員=慶応大学大学院教授)

CE戦略会合を巡っては、昨秋の発足当初から、原子力推進に向けた政策の再構築を主要な論点として指摘する声が聞こえていたが、夏の参院選を控えた政治的事情などからこれまで表立って議論されることはなかった。そうした中、ウクライナ危機に伴うロシアへの経済制裁や去る3月22日の電力危機などを背景に、原子力推進へと世論が変わり始めた。これが、エネ庁事務局や委員・オブザーバーの姿勢に大きな影響を与えているようだ。その声、国の原子力規制委員会にも届くか。

【記者通信/4月12日】野田元首相「俺一人でやる」 原発再稼働表明の舞台裏


元民主党の経済産業大臣政務官で、現在は無所属会派「有志の会」の北神圭朗衆議院議員(京都4区)が4月12日、エネルギーフォーラムが主催するオンライン番組「そこが知りたい!石川和男の白熱エネルギートーク」にゲスト出演した。2012年6月8日、当時の野田佳彦首相が会見で、夏場の電力不足対応として関西電力大飯原子力発電3、4号機の再稼働を表明。世間を驚かせた「政治決断」の舞台裏を明かした。

2012年当時の野田政権事情を語る北神議員

11年3月の東日本大震災以降で初となる原発再稼働の決定を下した野田氏。番組司会の石川和男・社会保障経済研究所長が「野田首相が再稼働を決めた12年6月当時は、原子力規制委員会もなく、経産省が推進も規制もやっていた状況下で、当時の枝野幸男経産大臣ではなく野田首相が決断したのは、なぜか」と質問した。

これに対し、北神氏は「あの状況下では経産相も結局決められなかった。枝野氏のほか、当時は野田氏や細野豪志環境相(当時)、古川元久国家戦略担当相(当時)、仙谷由人元官房長官ら幹部で体制を作っていた」とした上で、「実際は(6月8日に)幹部揃っての共同記者会見が予定されていたのだが、会見間際になって、野田総理以外全員がドタキャンした。私は(経産大臣政務官として)あの場にいたので(知っていた)」「野田総理は『誰も来ないな』と淡々としていた。普通なら会見延期しようか、今日は止めようかとなるはずが、野田氏は『時間がきたから、俺一人でやるよ』と単独で会見をした」と、舞台裏を明かした。

信念を貫いた野田氏 問われる岸田首相の政治判断

この会見で、野田氏は「国民生活を守るため、再稼働すべきだというのが私の判断だ」「今原発を止めてしまっては日本の社会は立ち行かない」と述べ、広く国民に対し原発再稼働の理解を求めたのだ。これについて、北神氏は「政治家は選挙があるから(原発問題を避けたい)気持ちはわかるが、エネルギーは国家の安全保障。自分の信念を貫かないといけなかった」と指摘。その後の野田氏に関しては「自宅が反原発活動家に占領され、家族も自宅に数年間戻れなかったはず。当時の反原発の圧力にも淡々としていたのは凄いこと」だと英断をたたえた。

2012年当時は、11年3月の東京電力福島第一原発事故から1年を経たばかりで、脱原発を求める世論の声は現在とは比較にならないほど大きかった。国民的な批判を覚悟の上での政治決断表明は、国益を最重視したからこそ成しえたのだろう。

あれから10年。今、わが国の電力需給はまさに綱渡りの状態にある。脱炭素政策を背景にした不安定な再エネの大量導入、大型火力発電の相次ぐ休廃止に加え、ウクライナ危機に伴う「脱ロシア」の影響で化石資源の安定調達に黄信号が灯る。本来であれば、今こそ停止中原発の再稼働が求められる時だ。「有事」認識の欠落する原子力規制委員会に物申せるのは、岸田首相をおいてほかにない。「国民生活を守るため、再稼働すべきだ」。この一言を、国民に向かって発することができるか。

自民党の電力安定供給議員連盟、日本維新の会、国民民主党など与野党から今後の電力需給ひっ迫・価格高騰対策として原発緊急再稼働を求める声が高まる中、北神議員はオンライン番組で、有志の会としてもこの問題を議論していく考えに言及した。岸田首相の政治決断が問われている。

【目安箱/4月12日】急務の原発再稼動 なぜ岸田首相は動かないのか?


原子力をめぐる雰囲気が変化している。感情的な原子力の反発は少なくなり、SNSなどでは原子力の活用を主張する声が強まり、政治家も原子力発電所の再稼動を語るようになった。昨年からのエネルギー価格の上昇に加えて、ウクライナ戦争による国際市場の混乱、福島沖地震をきっかけにした東日本における大規模な停電危機が「自分事」として人々の考えを変えたようだ。しかし、その声に応えるべき岸田首相の動きは鈍い。

◆政府に見られない「反省」

「107%」。これは3月22日に記録した電力の使用率だ。供給率に対する需要の割合が100%を超えた。他社融通、揚水発電、そして自家発電からの供給が増え、ぎりぎりで供給が間に合った状況だ。16日の福島沖地震で、太平洋沿岸の火力発電所が軒並み被災。22日の寒波と悪天候でエネルギー不足が顕在化した。

政府は初めて、「電力需給ひっ迫警報」を発令。萩生田光一経済産業相は22日午後、緊急の会見を開き、広く国民に節電をお願いする事態になった。S N Sでは「この結果はエネルギー政策の失敗を示している。それを棚上げにして国民に負担をお願いは筋違いだ」という趣旨の批判が相次いだ。しかし、経産相と同省から、その種の発言は出てこない。政府が失政を認めることはない。

このエネルギー危機は、事業者の失敗だけではない。政策の失敗が影響したのは明らかだ。ところが、それを推進した政治やメディア、経産省・資源エネルギー庁は、その理由を明確に述べない。失敗の背景になった自らの行動を否定してしまうためだろう。エネルギー危機をもたらしている背景を、改めて確認してみよう。

◆エネルギー・電力危機の背景

第1の背景は、最近の脱炭素の流れの中で、火力発電が抑制されたことだ。2020年9月に菅政権が行い、岸田政権でも踏襲している50年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロとするカーボンニュートラル宣言が影響している。JERAは19年までに、16年ごろまで稼動していた自社の石油火力(発電能力約200万kw程度)を閉鎖。老朽化していたこともあり、LNGへの移行を試み、常陸那珂共同火力のプラントなどを増設した。ただ、ここまでひっ迫するのであれば、もう少し遅らせてもよかったかもしれない。政策が、大手電力会社の火力発電所増設の動きを抑制させた面はあろう。

第2の背景は、再エネの過剰な優遇だ。12年からの再エネ振興策によって、東電管内には1000万kW相当の発電能力がある太陽光発電システムが設置されている。ところが、電力危機が顕著になった3月22日に東日本は悪天候でほとんど発電がなく、天候に左右される再エネの問題が改めて浮き彫りになった。もちろん、再エネの普及はある程度必要だが、その弱点を考えず普及させることは疑問だ。いったい何のために巨額の支援をしているのか、理解できない。

第3の背景が、原発再稼働の遅れだ。2011年の福島第1原発事故後、日本の原発で営業運転を再開したのは33基中10基にとどまる(3月22日時点)。しかも、特別重要施設と呼ばれるテロ対策施設の工事の遅れを理由に、関西電力管内では一度新規制基準に合格した原発3基が、再稼動できない状況にある。

3月16日の福島沖の地震の前に、自民党の電力安定推進議員連盟、日本維新の会、国民民主党が、特重施設の設置を一時凍結して再稼動を認めるように経産省に申し入れをした。しかし、政府は規制委員会に申し入れず、同委員会もそうした取り組みをしない。原子力規制委員会は、独立行政委員会として、その運営では行政の統制を受けない。しかし経済や電力安定供給に問題があるのに、安全だけを追求する姿は異様だ。その施設がなかったからといって、原発は安全に動かせるはずだ。

これらの3つの背景は、相互につながっている。背景の1と2によって、電力供給が大幅に減りかねないのに、対策である原子力の活用が行われていないという構図である。

◆先例、野田首相の介入による再稼動

エネ庁は22日夜、同日から23日未明にかけての停電は「回避される見通し」と発表した。しかし来冬も厳冬期に、関東は100万kwの電力が不足すると見込まれる。昨冬も電力危機が発生した。日本の電力需給は脆弱になり、それが恒常化している。さらに、ウクライナ戦争を背景に国際的なエネルギー供給の混乱、価格の上昇が長期化する影響もある。原発再稼動は現状の問題を最も早くできる解決策だろう。

 自民党政権は、原子力に懐疑的な公明党と連立を組み、また選挙を常に意識している。11年3月の東京電力福島第一原発事故の影響から、これに反発する人、政治的に問題にする人がいる。そのために原発再稼働について、「触らぬ神に祟りなし」として、動かないのだろう。あまりにも無責任ではないだろうか。

国民民主党の玉木雄一郎代表は20日夜、ツイッターで「当面、国民の皆さんには節電をお願いせざるを得ませんが、本来なら国が責任を持って安全基準を満たした原発は動かすべきなのに、批判を恐れ誰も電力の安定供給に責任を持とうとしない現状こそ危険です」と、私見を述べた。こうしたまともな意見が、野党からも出るようになっている。

原発にはさまざまな意見があることは認めるが、電力が足りず、経済・社会活動に支障を来している現実の危機に、多くの国民が不安を感じている。旧民主党の野田佳彦首相(当時)は、関西地域の電力不足が明確になった12年春に、自ら再稼動を規制委員会に求め、それを実現させた。再稼動問題はこじれ「首相案件」という大事になっているが、首相が動けば状況を変えることはできるのだ。

なぜ岸田文雄首相が、現実の危機を直視し、エネルギーの安定供給のために、原子力再稼動に動き出さないのか。とても不思議だ。

【記者通信/4月9日】岸田首相「ロシア産石炭輸入を禁止」 大手電力は「代替策など検討中」


ウクライナ各地で発覚したロシア軍による民間人虐殺疑惑を受け、日本政府がロシアへの経済制裁を強化する姿勢を鮮明に打ち出した。岸田文雄首相は4月8日夜の記者会見で、「ロシア軍による残虐行為を最も強い言葉で非難する」とした上で、「ロシアからの石炭の輸入を禁止する」と明言。早急に代替策を確保しながら、段階的に輸入を削減することでエネルギー分野でのロシア依存を低減させる方針を打ち出した。代替策については、「夏や冬の電力需給逼迫(ひっぱく)を回避するため、再エネ、原子力などエネルギー安全保障、および脱炭素の効果の高い電源を最大限の活用する」として、特重施設工事などで停止中の原発について早期再稼働を進める方向性を示唆した格好だ。

これに先立ち、萩生田光一経済産業相は同日の閣議後会見で、主要7カ国(G7)の首脳宣言にロシア産石炭の輸入禁止などが盛り込まれたことに触れ、「日本も段階的に減らしていく。最終的には輸入しないことを目指す」と述べた。経産省によると、ロシア産石炭は世界輸出量の2割に当たる約2.1億tを占めており、日本は石炭輸入量のおよそ13%(一般炭)をロシア産に依存している。このため、即時の石炭輸入禁止などには「各国事情が違う」と慎重な姿勢だ。ロシア産石炭を輸入ゼロにする目標時期などはまだ決まっていないが、萩生田氏は「できるだけ産業に迷惑をかけない方向で制裁に協力していきたい」と理解を求めた。

石炭から石油、LNGへ波及の懸念 国内経済に甚大な影響

こうした情勢の中、大手電力各社は対応に追われている。Jパワー(電源開発)は「ロシアとの取引をどう見直していくか、代替国からの輸入含めて検討している」(広報部)とした上で、「わが社の直近のロシア産石炭比率は一桁%台と高くない。石炭は備蓄ができることもあり、しばらくは(価格、運転に)影響なく対応できるだろう」と冷静な対応を図る構え。またJERAは「わが社のロシア産石炭の割合は1割強」「シンガポールの子会社を通じ、現時点で調達に関しての影響がないことを確認している」などと強調。他国からの調達で対応できるとしているが、「禁輸で石炭の需給ひっ迫状況が続くと、価格高騰にも影響する」と今後の情勢を見極める構えを示している。

「これまでロシア産エネルギー資源の調達問題について、政府はエネルギー安全保障の観点から輸入量削減に慎重な姿勢を示してきた。しかし、ウクライナ・ブチャなどで起きた民間人の大量虐殺で完全に潮目が変わった。今後の国際動向次第では、石炭だけでなく、石油、そしてLNGへと禁輸の動きが段階的に波及する可能性もある」(政府関係者)。そうなれば、エネルギーにおける需給ひっ迫のみならず、価格上昇のリスクも高まることになり、国内経済・国民生活への甚大な影響が懸念される。影響回避の切り札となる「原発早期再稼働」を求める声は一段と強まりそうだ。

【記者通信/4月7日】特重規制見直しで国会質疑 地元自治体は規制委批判


第六次エネルギー基本計画などを踏まえ、エネルギー関連法案をまとめた「束ね法案」が5日、衆議院本会議で審議入りした。本会議ではエネルギー政策に関して幅広く議論され、萩生田光一経産相が趣旨を説明。各党からの質疑応答が行われた。注目は日本維新の会、小野泰輔議員による「原子力発電所の特定重大事故等対処施設(特重)の設置期限」に関する質疑だ。

小野議員は「特重の設置期限は設計・工事計画認可取得から5年以内」とする規定により、再稼働できない施設の現状を指摘。原子力規制委員会の安全審査の遅れが、特重施設工事の進ちょくに影響を与えているとの見方を示した上で、更田豊志・規制委員長に対し「(特重の設置期限について)硬直的な規定を見直すべき」だと訴えた。

これに対し、更田氏は「特重施設がないことが直ちに危険に結びつくとは考えていない」としながらも、テロ対策などの信頼性向上のために特重施設改善は重要として「約束した改善が果たせないような事態は避けるべきだ」と規定見直しには否定的な考えを示した。

規制委審査は「後出しじゃんけん」 山中・新体制への注文

この更田発言の数時間後、自民党本部では原子力規制に関する有識者ヒアリングが行われた。中部電力浜岡原発のある静岡・御前崎市の柳澤重夫市長と関西電力高浜原発を抱える福井・高浜町の野瀬豊町長が、自民党議員や関係者を前に、地元の現状を説明した。

4月5日に自民党本部で開かれた原子力規制の有識者ヒアリング

野瀬町長は「根本は国のエネルギー政策への不信感だ。国は『(原発推進は)ウケが悪いから』と政策課題の議論に消極的だ」「(工事業者などの)地元企業にとってみれば『国策に協力する』というのもモチベーションなのに」などと、積極的に関与しない国の姿勢に疑問を呈した。柳澤市長が「規制委とずっとやり取りしているが、どうしたら良いのか教えてくれない。規制委が望む通りやっても(審査が)進まない」と規制委の対応に苦慮していることを明かすと、野瀬町長も「審査員個人の心情で内容がころころ変わるし、今までの審査をひっくり返されることも多い」と続けた。今後については「CN達成スケジュールとの整合性が取れていない。政府には規制委と連携を取ってもらいたい、独立性を棄損するものではないはず」(野瀬町長)だとした。

出席した宮澤博行議員は「規制委の審査は『後出しじゃんけん』だ。審査の効率化を進めるべき。事業者は何をしなければいけないのか、やろうとしている方向が違うなら規制委は教えるべき」だと規制委の問題点を指摘した。しかし衆院本会議での更田発言を聞く限り、今後も規制委の姿勢に変化は見られそうもない。9月には、更田氏から山中伸介氏に委員長が交代する。特重施設の設置期限問題や原発運転期間の延長問題が提起されるかどうかが今後の焦点だ。

【緊急インタビュー】資源小国・日本が直面する国難 「台湾有事」も視野に自給率向上を


インタビュー:高市早苗/自民党政務調査会長

聞き手:井関晶/本誌

エネルギー資源大国のロシアがウクライナに侵略したことで、世界のエネルギー情勢が緊迫化の様相だ。資源小国のわが国は、この局面にどう立ち向かうのか。自民党の高市早苗・政務調査会長を直撃した。

たかいち・さなえ 1961年生まれ。神戸大学経営学部卒。経産副大臣や総務相などを歴任。2021年秋の衆院選(奈良2区)で9選し、現在は自民党政務調査会長。

―ウクライナ危機を踏まえ、日本のエネルギー政策の課題について、どうお考えですか。
高市 ウクライナ危機で改めて痛感したことは、国連安保理で拒否権を持つ国が「外交」を支配し、核兵器を持つ国が「軍事」を支配し、資源を持つ国が「経済」を支配するという、世界の現実です。
そのいずれも持たないわが国が、どのように生き残りを図るか。これが今、コロナ禍、ウクライナ危機、エネルギー価格高騰という、三つの国難に直面する日本に突き付けられた、重大かつ深刻な課題になっています。
 まずは世界の現実を直視した上で、従来の「平時」を前提とする発想から脱却し、常に最悪の事態を想定しつつ、リスクを最小化するための備えを講じていく。とりわけエネルギーを巡る課題は、国内でも現在進行形で進んでおり、喫緊の対応が求められます。
 今回のロシアによるウクライナ侵略への各国の対応と、欧州のエネルギー情勢を踏まえれば、エネルギーの安定供給の確保に向け、あらゆる選択肢を活用可能な状態にしておくべきことは、論を俟ちません。四方を海に囲まれ、自然エネルギーを活用する条件が諸外国と異なるわが国においては、なおさらのことと考えます。
 今後、あらゆる化石燃料の調達について、資源外交などを通じ、権益の確保や調達先の多角化を一層推進することが必要です。中でも、台湾南部のバシー海峡を通過する割合は、原油で9割、LNGで6割に達しており、仮に台湾有事が発生した場合、ロシアからの輸入の比にならない量の燃料供給が途絶することになります。従って、再生可能エネルギーの導入や、原子力発電の再稼働などによるエネルギー自給率の向上に取り組むことが重要です。


安全性最優先で原発再稼働 SMR開発に大きな期待

―エネルギー政策では脱炭素化に加え、安全保障の重要性が一段と高まっています。
高市 再エネはエネルギー自給率の向上に寄与するので、系統整備などを推進し最大限の導入を目指していきますが、発電が自然条件に左右されることから、蓄電池や他の電源との組み合わせが不可欠です。その点、原子力は数年にわたって国内保有燃料だけで発電が維持でき、かつ脱炭素のベースロード電源であることを踏まえれば、重要な電源として活用していくべきだと考えています。こうした観点から、地元の理解を得ながら、安全性を最優先に原発再稼働を進めていくことが必要です。
 今後、わが党においては火力発電も含め、あらゆる選択肢を追求してエネルギー安定供給の確保を実現すべく、私が本部長を務める経済安全保障対策本部や、総合エネルギー戦略調査会(額賀福志郎会長)などを中心に政策議論を深めていきます。

実用化への期待が高まるSMR(米ニュースケール社)

―現在「クリーンエネルギー戦略」の議論が官邸主導で進んでいます。その柱の一つに原子力の技術開発が位置付けられています。
高市 原子力技術開発では、国際連携を活用した高速炉開発の着実な推進、小型モジュール炉(SMR)技術の国際連携による実証、高温ガス炉における水素製造に係る要素技術確立について検討を進めているところです。
 SMRを巡っては、「小さな炉心を生かし、自然循環を利用したシンプルな安全システムを採用しており、ヒューマンエラーや危機故障を回避できること」「モジュール生産による品質管理の容易化と工期短縮によって、初期投資コストが小さいこと」など、大きなメリットが期待されています。
 IHI、日揮グローバル、日立GE、三菱重工業などの日本企業が開発に携わっており、国産技術としての期待も高い。世界の革新炉開発の潮流に乗り遅れることなく、国際プロジェクトに日本企業が効果的に参入できるようにしていくべきだと考えています。

再エネは法令順守が大前提 不適切事案を未然に防ぐ

―一方で再エネは、山間部などにおける乱開発が全国的な問題となっています。
高市 再エネ事業についても、他のエネルギー事業と同様、法令を順守して適正に事業を行うことが、地域での信頼を獲得し、長期安定的に事業を実施するための大前提になると考えます。電気事業法では、設備の安全性を担保する基準と自治体が定めた条例を含む関係法令を順守することが、事業者に求められています。違反があった案件については、指導や命令を行い、改善が見られない場合は罰金や認定を取り消すといった、厳格な対処を行わなければならない。既存のルールで対応できない不適切な事例があれば、ルールや審査を厳格化し、次なる不適切事案を未然に防いでいくことも必要です。
 私の地元・奈良県においても、太陽光発電設備の設置計画に対する反対運動が、複数地域で起きています。太陽光発電のためにみだりに森林伐採が進めば、自然環境や景観への影響、土砂流出による濁水の発生、CO2吸収源としての機能を含めた森林の多面的機能への影響が懸念されます。環境に適正に配慮し、地域における合意形成を丁寧に進めることで、適切な再エネの導入を進めていくことが不可欠です。
 2050年カーボンニュートラル社会の実現を目指す中で、今後はこうした課題に真摯に向き合い、導入に適した場所の確保、自治体との連携を強化した事業規律の確保、コスト低減に向けた研究開発に取り組んでいく必要があると考えています。


【記者通信/4月1日】サハリン2撤退を首相が否定 経産省は燃料調達の緊急対策提示


ロシアのウクライナへの軍事侵攻開始から1カ月以上が経過し、西側諸国はロシアに対する経済制裁を強化し続けている。民間でも、英シェルが2月下旬、三井物産と三菱商事も出資するLNG開発プロジェクト・サハリン2からの撤退を表明するなど、「ロシア離れ」が加速。そうした中、岸田文雄首相は3月31日の本会議で、サハリン2について「わが国として撤退はしない方針だ」と明言した。さらに萩生田光一経済産業相は4月1日の閣議後会見で、サハリン2に加え、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)と伊藤忠商事、丸紅などが30%の権益を持つ石油開発事業のサハリン1についても「エネルギー安全保障上極めて重要なプロジェクトだと考えており、撤退しない方針だ」と言及し、JOGMECと三井物産が参画するLNGプロジェクト・アークティック2についても撤退しない方針を表明。エネルギー事業では現時点で欧米の「脱ロシア」とは一線を画すという日本の姿勢を打ち出した。他方で岸田首相は3月31日、「主要7カ国(G7)の方針に沿ってロシアへのエネルギー依存を低減すべくさらなる取り組みを進める」とも述べ、長期的にはロシアからの調達の在り方を見直す可能性も示した。

3月31日の対策本部で挨拶する萩生田経産相(央)

首相の指示を受け、経産省は同日「戦略物資・エネルギーサプライチェーン対策本部」の初回会合を開催。ロシア依存度の高い7品目を特定し、安定供給確保に向けた緊急対策を取りまとめた。石油、石炭、LNGのほか、半導体製造プロセス用ガス、パラジウム、合金鉄が対象となる。産消対話の強化や、代替調達の実現、上流権益獲得の強化、需要への働きかけといった対策を挙げた。

萩生田経産相は会合で、「ロシア・ウクライナから調達先を切り替えた場合、別の特定第三国・地域に依存が生じるケースも明らかになった」「足元の情勢だけに目を奪われることなく、国家の存立、国民生活の安定という観点から、今後も経産省を挙げて取り組んでいきたい」と強調した。

燃料確保対策を強化 ロシア産は輸入継続へ

エネルギー関係でのロシア依存度は、石油が3.6%、LNGが9%、一般炭が13%程度。特に、世界的に需要が高まり、国内の備蓄能力に限界があるLNGについては「石油よりも厳しい状況」(保坂伸・資源エネルギー庁長官)にあり、仮にロシア産の輸入が止まれば、電力・ガスの安定供給に支障が生じる恐れがある。産ガス国への働きかけや、LNG需給状況の把握に努めるとともに、事業者間の燃料融通の枠組みや、LNG調達への国の関与強化などを検討する。2021年1月の需給ひっ迫を機に今冬講じた燃料確保の対策をさらに一段進めるような内容だ。

石油対策では、短期的には既に取り組んでいる産油国への働きかけや、国際エネルギー機関(IEA)などを通じた主要消費国との連携を強化。中長期的には、JOGMECによる上流権益拡充への支援などで、30年に石油・天然ガスの自主開発比率50%以上という従来方針に沿って取り組む。

そして石炭については、非効率石炭火力のフェードアウトなど、火力の脱炭素化を加速すると改めて強調。石炭の一層の使用低減を図る一方で、安定供給に向けた産炭国への働きかけにも力を入れるという。3月22日の関東、東北での需給ひっ迫危機が記憶に新しい中、石炭火力の過度な退出防止との両立をどう図るか、引き続き難しいかじ取りを迫られそうだ。

【記者通信/3月22日】電力使用率が一時107%に 停止中火力の復旧はいつ?


政府は3月22日、電力需給状況が極めて厳しいとして、東京電力管内と東北電力管内に初となる「電力需給ひっ迫警報」を発令した。寒気の影響で暖房などの電力需要が増しており、経済産業省は各家庭や企業に節電を呼びかけている。東電管内の供給力に対する需要の割合を示す「使用率」は、午後2時台の実績で107%となり、データ上で需要が供給を上回る状況に。東京電力パワーグリッドは、午後8時以降に揚水式水力発電の運転が停止し、約500万kW(200万~300万軒規模)の停電が発生する恐れがあり、「さらに毎時200万kW程度の節電が必要」として、需要家への節電強化を要請。その後、他エリアからの電力融通や需要家の節電協力などが奏功し、電力使用率は午後8時現在、安定的とされる89%まで低下。経産省は午後9時ごろ、東京、東北の両電力管内で停電の恐れなしと発表した。東日本大震災以来となる50Hz地域の電力ひっ迫の原因は、原子力発電所が1基も再稼働していないことに加え、今月16日に福島県沖で起きた地震に伴う大型火力発電所の相次ぐ停止によるものだ。

JERA、東北電力などで火力が停止 綱渡りの状況続く

JERAによると、地震の影響で現在も停止しているのは広野火力発電所6号機(60万kw)。5号機は18日に復旧したものの、6号機では主変圧器の配管が損傷。復旧までに1カ月程度かかる見通しを示している。JERAは「安全面を最優先に、22日から一部発電所で出力を増やして運転している。また、千葉・品川・富津の各火力発電所で予定されていた定検時期を調整しながら運転を継続し、電力不足に対応できる体制を取る」と対策を講じている。

東北電力については、新仙台火力発電所3-1号機(52.3万kw)と原町火力発電所1号機(100万kw)が現在も停止中という。東北電力は節電を呼びかけながら「復旧作業に全力で取り掛かっているものの、現状で運転再開の見込みは立っていない。秋田発電所や東新潟発電所など、日本海側の火力発電所では増出力運転を行っている」(広報部)状況だ。

深刻なのは相馬共同火力発電の新地発電所だ。東電管内に送電している大型火力だが、今回の震源域に近いこともあり、地震によって稼働中の1号機(100万kw)が自動停止した。その後の調査で、石炭を陸揚げする楊炭機4機のうち2基の損傷が判明。残る2基も「稼働できる状況かは不明(新地発電所)」という。地震の数日前に電気設備の修繕工事中だった2号機(100万kw)と合わせて、運転停止の状態が現在も続いている。新地発電所では「昨年2月の地震で停止した際、1号機は同年9月、2号機は12月に再稼働した。前回のノウハウを生かし復旧作業を行うが、今回も同じ程度の期間が掛かるのではないか」(広報担当者)との見通しを示している。

23日は天気が回復するものの、関東や東北では気温が低いこともあり、暖房の需要含めて電力ひっ迫の綱渡りが一両日中は続くと見られている。

東日本大震災で電力供給「強靭化」のはずが逆に「脆弱化」へ

今回、地震が原因となって深刻な電力ひっ迫を引き起こしたことで、首都圏の需要家の中には11年前の東日本大震災後の大規模計画停電を思い起こした人も多いのではないだろうか。当時、こうした事態が二度と起きないよう、電力供給の「強靭化」を目的に、経産省が主導する形で電力システム改革の議論が始まった。しかし結果としてみれば、再エネ大量導入、脱原発、小売り全面自由化、発送電分離といった一連の改革は逆に供給の「脆弱化」を引き起こした格好だ。22日のひっ迫状況を見る限り、震災の教訓が生かされているとは言い難い。今後、経産省には、これまでの脱炭素偏重主義から脱却し、エネルギー安定供給の確保というライフラインの原点に立ち返った政策議論を期待したい。

【記者通信/3月18日】池辺・電事連会長が原子力の重要性を強調「安全保障上不可欠」


池辺和弘・電気事業連合会会長は3月18日、ロシアのウクライナ侵攻後、初となる定例会見を行い、ウクライナ危機について経済的な安全保障に直結する問題との認識を示した上で、エネルギー安全保障の観点から原子力発電の重要性を訴えた。

池辺会長は、ロシアに対する各国の経済制裁状況が時々刻々と変化しているとして、「資源調達の面では欧州のみならず、世界各国で供給不安が増しており、市場価格上昇の圧力はさらに高まっていく懸念がある」と指摘。「地球温暖化防止の観点ももちろん重要だが、経済性とともに、エネルギー安全保障についても、国家的な安全保障そのものとして、同時に達成することが重要だと、改めて強く認識した」と述べた。

その上で、原子力発電の重要性に言及し、「再エネはもちろんのこと、確立された脱炭素技術である原子力発電を最大限活用していくことが、エネルギー安全保障の観点からも不可欠であり、原子力をベースロード電源として位置づけられていることを踏まえ、しっかりと地に足を付けた議論をしていくことが必要」との見解を示した。

池辺会長はまた、ウクライナにある原子力施設を攻撃したロシアを批判。「周辺地域に深刻な影響を及ぼす恐れがあり、一般市民を危険にさらす行為。決して許されることではなく、原子力に携わる事業者として、強く非難するとともに、原子力施設の安全がしっかりと確保されるよう対応を求めたい」と強調した。日本政府に対しては「国際社会と連携して、事態の収拾に当たっていただきたい」と要望した。

一方で、米エクソンモービルや英蘭シェルがロシア・サハリンの石油・ガス開発プロジェクトからの撤退に踏み切ったことに関連し、日本の事業者としての対応を問われた池辺会長は、「日本は島国で資源が乏しい。アメリカ、イギリス、カナダとは状況が大きく違っている。ロシアに対して外交上政治的な動きをすることは重要だが、同じように日本の電力安定供給は重要だ」と述べ、国会議員の一部から聞こえているサハリン撤退論をけん制した。

【記者通信/3月18日】原子力規制行政が変わる!? 山中・規制委員長人事を読む


9月に任期が切れる原子力規制委員会の更田豊志委員長の後任に、同規制委員の山中伸介氏(元大阪大副学長)が就任する人事案が3月1日政府案として国会に示された。この人事の背景には、原子力の再稼動や活用を求める一部自民党議員の動きが影響している。厳しい規制導入に積極的だった更田氏が退任することで、原子力政策の姿に変化があるかもしれない。

当初の安井氏案に自民党中堅議員が反発

昨年末から委員長人事をめぐって関係者の間に、元原子力規制庁長官の安井正也氏の委員長への就任の噂が流れていた。環境省、そして規制庁側は、規制行政の継続のためにこの案を流し、更田路線の継続を求めたようだ。

更田委員長、そして田中俊一前委員長は、規制の厳格化を推進し、原子力の安全性を高めた。その政策のプラス面は評価されるべきだ。しかし民主党政権で選ばれた田中氏は、高速増殖炉「もんじゅ」潰しという強権的な行動を行い、原子力事業者、立地地域などとの対話も乏しかった。規制当局の「孤立化」を進め、更田氏もその路線を大筋で継承した。そんな二人の姿勢は、エネルギー政策を混乱させ、原子炉の再稼動を遅らせ、電力会社の経営を悪化させた。安井氏は両氏を事務方トップとして支えきた経緯があり、関係者は誰もが警戒した。

しかし、この人事案が流れたと同時に、自民党の「電力安定供給推進議員連盟」に属する当選3−4回の議員らが反発。原子力の活用が持論の高市早苗政調会長ら自民党首脳部を動かし、この人事案を潰したようだ。岸田文雄首相はこの問題について、あまり関心がなかったようで、官邸は人事に積極的に介入しなかった。これまでエネルギー政策に影響を与えていた重鎮衆院議員の甘利明氏、細田博之氏から、次の世代の政治家に力が移りつつあることも影響している。

エネルギー危機に配慮した規制政策に転換か

原子力規制行政は、規制委員会のトップ交代で変わる可能性がある。同委員会は独立行政委員会で、政府から自立して活動ができる。しかし与党・自民党と無関係ではいられない。また前述の安定供給議連は規制行政の円滑な推進のために、規制庁の予算獲得や体制整備にも協力している。

公開された規制委員会議事録を見ると、山中氏は規制委員として、更田氏と同じように、規制強化に熱心だ。しかし、この人事での圧力が奏功したことで、「自民党の大勢である原子力の活用という考えをある程度受け入れざるを得ないだろう。エネルギー不足の懸念の中で、政治も世論も原子力の活用を求めている」(学会関係者)という。

エネルギー資源大国のロシアが、2月末からウクライナに侵攻し、経済制裁を受けている。この影響で世界的にエネルギー価格が高止まりし、先行きが見えない。国民民主党や日本維新の会が停止中の原子炉の再稼動を主張し、エネルギー不足への懸念が国内に広がるなど、明らかに原子力をめぐる状況も、世論も変化している。

この人事をきっかけに、経済的合理性、エネルギー安全保障にも配慮しながら原子力の安全性を高める、常識的な規制政策に転換することが期待される。