【記者通信/7月8日】次期エネ基の骨格判明 「原発推進」は大きく後退へ


経済産業省の審議会で大詰めの検討が進んでいる第六次エネルギー基本計画原案の骨格が見えてきた。既に大手メディアなどが報じている通り、最大の注目点である原子力政策の書きぶりについては、「推進」から大きく後退することが確実になった格好だ。

今年の大型連休前までは「原子力の最大限の活用」「新増設・リプレースの推進」を盛り込む方向で、自民党や経産省の機運が高まっていた。しかし、こうした動きに対し、党内の再生可能エネルギー推進勢力(河野太郎・行政改革相、小泉進次郎環境相のKKコンビなど)や、原発ゼロ社会の実現を目指す公明党が反発。

結果、原子力については最大限の活用や新増設・リプレース関連の記載は見送られ、「必要な規模を持続的に活用する」との表現にとどまる見通しだ。関係者によると、「原発依存度の低減」も引き続き書き込まれるという。その一方で、再エネに関しては、「最優先の原則の下で最大限導入する」と明記される方向。今年冬、ベースロード電源に厚みがないことで電力需給がひっ迫し、市場価格高騰が大問題化した反省もどこへやらだ。

政治的な事情で現行路線を堅持か

菅義偉政権が「2030年に温暖化ガスを13年比46%削減する」目標を打ち出した中で、その達成のためには二酸化炭素を排出しない原子力と再エネが重要な役割を担うことになる。本来、電力安定供給と経済合理性との両立を図るためには原子力推進への方針転換が欠かせないわけだが、今秋の衆院選対策など極めて政治的な事情から現行の「再エネ主力電源化」「原発依存度低減」路線を堅持するとみられる。

ただ、7月3日に発生した静岡県熱海市の土石流災害を契機に、太陽光発電に対する世論の逆風がにわかに強まっているのも事実。この問題が、大詰めの議論に影響を与えるのかどうか。7月21日の審議会で、資源エネルギー庁事務局が提示する予定の第六次エネ基の原案の行方が注目される。

【目安箱/7月7日】エネ業界を直撃する 中国製太陽光の輸入問題


米政府は6月24日、ウイグルの強制労働問題に関連して、太陽光パネルを主に作る中国企業5社の製品輸入を規制した。今後太陽光の状況に大きな影響を与えそうな問題だ。日本のエネルギー業界も、中国から離れる「決断」を迫られるかもしれない。

◆バイデン政権、上流部分の中国企業の対米輸出禁止

バイデン政権は6月24日、合盛硅業(ホシャイン・シリコン・インダストリー)、新疆大全新能源(ダコ・ニュー・エナジー)、東方希望集団(イースト・ホープ・グループ)傘下の新疆東方希望有色金属、新疆協鑫新能源材料科技(新疆GCLニューエナジーマテリアルテクノロジー)、新疆生産建設兵団(XPCC)の太陽光パネル関連の中国5社を制裁対象にすると発表した。

米税関・国境警備局が、強制労働に基づく製品の輸入を差し止める「違反商品保留命令(WRO)」を出した。米商務省は6月24日、米国製品や技術の輸出禁止対象に指定する「エンティティー・リスト」に、ホシャインなどを追加した。同省によると、ウイグルでの人権侵害の疑いで同リストに記載された中国企業・団体は、トランプ前政権時の措置を含めて計53となった。これにより、これらの企業の製品を使った商品は、米国に輸入できなくなる。(米ホワイトハウス発表)

太陽光パネル製造は3段階に分かれる。「1・金属精錬」石英を採掘して高温で精錬しシリコン金属を作る、「2・結晶製造」シリコン金属を融解し再結晶させて結晶(ポリ)シリコンを作る、「3・パネル製造」結晶シリコンを切断し、化学処理して、電極等を取り付けてパネルにするという3段階だ。

このうちホシャインは、金属精錬の大半、推定で全世界生産の6割程度を占める。残り3社はポリシリコンをウイグル地区で製造している。英国のシェフィールド・ハーラム大学のウイグル強制労働をめぐる報告によれば、2020年のポリシリコンの全世界の生産で、中国製75%、そのうちウイグル人居住地区での生産が全世界比で45%を占める。

米政府は、製造の流れの上流部分を制裁にした。どのような人権侵害があったかは、明らかではない。米中関係はバイデン政権になっても、前トランプ政権と同じように、良好とはいえない。そしてウイグルでの人権侵害を中国政府は認めていない。この措置は適応され続けるだろう。そして中国も対抗措置を発動するとみられる。

◆太陽光のコスト上昇へ

米国は2018年から、トランプ政権下で、中国製の太陽光パネルの同国への輸入に関して、不公正貿易慣行を理由に輸入制限を課し、高い関税をかけていた。そのために中国製が米国内で流通せず、太陽パネル価格が上昇していた。

太陽光パネルは価格それまでも上昇していた。1W当たり、太陽光パネルは現在35円前後、ドルで0.3ドル前後に上昇。1年前の約3割増だ。20年夏、新疆地区のシリコン工場で事故が相次ぎ、シリコンが品薄になったという名目で、中国企業が値上げした。米国で禁輸が行われても、中国企業は日本向け価格を下げていないという。中国国内の需要が旺盛でそれに製品を回しているのかもしれない。

日本は2000年前後には太陽光発電パネルの生産で世界のトップだった。その後に中国に抜かれてしまった。現在日本の太陽光パネルの出荷では海外生産品は81%を占める、がその大半は中国製だろう。

この10年、太陽光発電の建設が大きく伸びたのは中国と日本だ。再エネシフトと各種補助金が続いているためだ。中国の太陽光パネル産業の拡大は、日本が支えた面がある。仮にウイグル人への中共政府による人権侵害に、日本の補助金、特に電力料金から強制的に徴収される賦課金が使われていたら、日本の消費者は、誰もが不快に思うだろう。

相変わらず、小泉進次郎環境大臣等のズレた政治家が与野党問わず、太陽光発電の拡大を叫んでいる。しかし、その拡大を進めると、日本がウイグルの人権侵害に間接的に加担してしまうかもしれない。

◆日本はどうすれば良いか

ここで日本は太陽光パネル問題で、どうすればよいかの問題が出てくる。米国だけではなく欧州でも、中国のウイグル人弾圧は問題視されている。同じような禁止措置をとれば、日本の太陽光の建設費用は高くなり、その建設も一服するだろう。

私は、日本の官民の調査を経て、また各国の当局と連絡を日本政府が取った上で、人権侵害があれば規制を何らかの形でかけるべきであると思う。筆者の知る限りでは、日本の法令上、人権を名目に直接的に輸入規制をかけるものはなさそうで、特別立法が必要な手間のかかる問題になるかもしれない。また事業者の方には負担になるだろう。それでもやるべきであると思う。

理由の第一は、太陽光発電の支援策を導入する際に、日本の場合には「倫理」が強調された点にある。太陽光発電は、「悪い原発の代替策」、「環境に優しい発電」と、2011年の段階で導入した民主党政権と当時の菅直人首相は強調した。それは事実と違うが、導入時にはそう思って導入を認めた人は多いだろう。太陽光の支援策の導入に熱心だった人たちが、なぜか中国のウイグル人への人権侵害を批判しないのは不思議だ。

電力使用で強制的に徴収される再エネ賦課金(20年で1世帯当たり平均月約1500円)という事実上の税金の一部が中国企業の懐に流れる。「人のため」という倫理的意味を込められて導入支援策が作られ、日本で拡大した太陽光発電が、仮にウイグル人の人権侵害を支援しているというのは明らかにおかしい。

第2に、人権問題とはずれるが、輸入規制は太陽光発電の増加を一時的に抑制する効果があるためだ。筆者は決して、再エネや太陽光発電を否定していない。将来性のある意義深い発電方法であると思う。しかしその急拡大によって多くの問題が発生している。

7月3日に、静岡県熱海市で行方不明20人の発生する大規模な土石流災害が発生した。痛ましい話だ。この原因は、執筆時点で不明だが、山間部に産廃が埋められ、周辺に太陽光発電所が作られ森が伐採されて山の保水力が低下し、それが流れ出したことが原因かもしれないと懸念されている。危険な太陽光発電所の工事は全国で報告されている。補助金が影響した太陽光発電の拡大を、一旦止め、日本社会における適切な形を模索する時間が、民間も行政にも必要だ。中国製パネルの使用抑制は、そのきっかけになるだろう。

第3に、これも人権問題から外れるが、日本の太陽光パネル産業の復活に役立つかもしれないからだ。採算性がないため、日本企業は太陽光パネル生産から次々撤退してしまった。しかし、世界で中国製が使われなくなれば、日本企業は再び世界に太陽光パネルを供給できるようになるかもしれない。

中国製の太陽光パネルを使わないことは、長期的には日本に経済的利益をもたらすだろうし、倫理上の正しい消費の姿も確保できる。SDGs(持続可能な開発目標)がブームなのに、なぜか中国の行動に沈黙する人たちが多い。今こそ、おかしなことに、「おかしい」と、政治活動家ではなく、普通の人が声を上げるべきではないだろうか。

【記者通信/7月7日】熱海土石流の因果関係は?太陽光計画と土地所有者の実態


梶山弘志経済産業相、小泉進次郎環境相が7月6日の閣議後会見で調査に乗り出す考えを表明した、静岡県熱海市の土石流発生現場と近隣の太陽光発電所との因果関係を巡る問題。周辺の土地所有者と太陽光発電計画の実態が、本誌の調べで明らかになってきた。

法務局や関係者などによると、土石流発生の一因とみられている盛り土が崩落した現場の住所は赤井谷で、以前は小田原市の不動産管理会社、新幹線ビルディングが所有。2007年から静岡県土採取等規制条例に基づき、残土の処分を目的に土砂などを搬入していたという。その後、熱海市をいったん経由して11年2月、ZENホールディングス会長の麦島喜光氏の手に渡った。当時は、周辺を含めた約35万坪の広大な土地で住宅地の造成などが検討されていた模様である(2010年12月撮影のYouTube動画参照)。

ZEN社の太陽光発電所(写真左)と、北側にある崩落前の盛り土現場、太陽光計画地点の位置関係

それがなぜ太陽光発電に変わったのかは現時点で不明だが、崩落現場の南側約100m先の細長い土地に立地する太陽光発電所は、ZEN社が13年10月に固定価格買い取り制度(FIT)の事業計画認定を受けた「46.2㎾×11件(計508.2㎾)」の低圧分割発電所だ。実は、FIT認定情報を見ると、それに加えて伊豆山界隈では、中央ビルが「47.3㎾×14件(662.2㎾)」(伊豆山字獄ケ1172-1)、ユニホーが「47.3㎾×4件(189.2㎾)」(伊豆山字獄ケ1172-27)の太陽光発電を計画している(13年8~10月に認定取得、運転開始前)。いずれもZENグループの関係会社であり、法務局に問い合わせたところ、崩落現場のすぐ北側にある土地の住所であることが分かった。

盛り土付近でも太陽光発電所を計画か?

一部報道によると、麦島氏の代理人である河合弘之弁護士はメディアの取材に対し、ZEN社の太陽光発電所と盛り土崩落の因果関係はないとの見解を示す一方、盛り土付近の場所ではさまざまな計画を考えていたと話している。その計画の中に、前出の太陽光発電が含まれている可能性は否定できない。

太陽光開発と土石流発生の因果関係については、国や自治体の調査結果を待つしかないが、仮に今後、盛り土との関連性が裏付けられた場合、麦島氏らが土地所有者として責任を追及されることも考えられよう。なお河合弁護士は、かねてから麦島氏の代理人を務めている。

いずれにしても、ハザードマップで危険性が指摘されている場所においては、発電所の建設・運営に最大限の注意を払うべきだ。「インフラ公益事業者である大手電力会社や大手ガス会社が事業主体だったら、そもそもあのような場所に太陽光を建設することなどあり得ない」(大手エネルギー会社幹部)。地盤の造成・改良、雨水・保水対策、架台の強化など、地震・台風・豪雨など大規模災害を想定した対策がしっかりと講じられているかどうか。また発電所の建設自体が、周辺の自然環境破壊を引き起こしていないかどうか。今後、国・自治体による徹底した調査が求められる。

【記者通信/7月4日】熱海土石流で取り沙汰される 太陽光発電所との因果関係


静岡県熱海市の伊豆山付近で7月3日に発生した、大雨による大規模な土石流災害。発生源とみられる山の斜面横に大型の太陽光発電所があったことから、Twitter上ではいち早く関連性を指摘する声が上がっていた。

4日夜時点の一部報道によれば「因果関係は確認されていない」とのこと。ただ、静岡県では土石流の起点にあった、開発に伴う盛り土が全て崩壊し、流出したと発表している。この盛り土が、太陽光発電所の開発によるものなのか、それとも付近の宅地開発によるものなのか、今後の調査が待たれる状況だ。

赤線は土石流の軌跡。黄色囲みは太陽光発電所の建設地(グーグルマップより作成)
土石流の発生現場付近(毎日新聞ウェブサイトより抜粋)
海岸に向かって望む土石流発生現場付近と太陽光発電所(朝日新聞ウェブサイトより抜粋)

今回土石流が発生した場所は、ハザードマップで災害の危険性が指摘されていた場所だ。その界隈で、山の斜面を大きく削り取り、太陽光発電所を建設したこと自体は問題視されても仕方ないだろう。一部には「雨水対策が適切に講じられていなかったのではないか」との指摘も。また開発業者を巡っては、某外資系企業の名前が取りざたされている。静岡県選出の細野豪志衆院議員(元環境相)は自身のTwitter上で、「土石流とメガソーラーに関連がなかったか、調査を求めて動く」との意向を示した。

隣の函南町では住民が太陽光計画を懸念

実は災害発生4日前の6月30日、今回の問題を予見していたかのような出来事があった。熱海市に隣接する函南町の住民らが静岡県庁を訪れ、同町軽井沢地区の山林で計画されているメガソーラー事業について見直しなどを求める要望書を川勝平太知事に手渡していたのだ。

一部報道によると、これは山林約65ヘクタールに太陽光パネル約10万枚を敷き詰める計画で、地元住民は景観の悪化や土砂崩れの危険性を不安視しており、工事を強行して進めないよう県に指導してほしいなどと要望したという。今回の災害を受け、どのような対応策を講じてくるのか、川勝知事の動向が注目される。

小泉環境相「雨上がり後が私の仕事」

4日午後6時現在、土石流事故では計19人が救助されたものの、女性2人が死亡。依然として140人以上の安否が確認されていないという。熱海市付近は明日以降も雨が続く予報となっているため、救助作業の難航も予想される。

そんな中、小泉進次郎環境相は3日、東京・町田駅前で都議選の応援演説に参加。その中で、今回の土石流災害について「政府をあげて状況の確認をやっているが、環境大臣の私の仕事はこの雨が上がって、状況が見えた後に災害の現場の廃棄物を担当すること」と言ってのけた。多くの国会議員が応援演説を取りやめ、災害対応に当たっているだけに、環境相の立場での他人事のような発言は、今後波紋を広げそうだ。

【記者通信/7月1日】一次エネ係数を全電源平均へ 課題だらけの省エネ法定義見直し


総合エネルギー調査会(経産相の諮問会議)省エネルギー小委員会(委員長=田辺新一・早稲田大学教授)が6月30日に開いた会合で、資源エネルギー庁事務局は省エネ法のエネルギー定義の抜本見直しに伴い、電気の一次エネルギー換算係数を「火力平均」から「全電源平均」とする方針を打ち出した

現行ルールでは、省エネ法が化石燃料削減を目的としていることから係数には火力平均が用いられ、火力の発電効率の実態を踏まえた係数が設定されている。しかし、カーボンニュートラル実現を目指す今後は、再エネを中心とする脱炭素電源の導入拡大が想定されることから、その電源構成(エネルギーミックス)を適切に反映した換算係数で評価する。事業者への影響に配慮し、新制度への移行は最速で2023年度とし、3年程度の移行期間を設ける考えだ。

今後論点となるのは、換算係数を算出するに当たって、①各エネルギー源の発電効率をどう評価するか、②どの時点のエネルギーミックスに基づき算出するか――だ。①の議論の中でエネ庁事務局は、原子力の発電効率について、国際エネルギー機関(IEA)統計や欧州連合(EU)の省エネ指令で適用されている「33%」とする案とともに、「100%として評価すべきとの考え方もある」と提起。これに対し、多くの委員が国際的に適用されている「33%」が妥当との考えを示した。地熱発電についても、IEAが「10%」としているのに対し、事務局案は「100%」としており、何らかの統一した考え方に基づいた基準設定が求められる。

また、②については「過去の実績値に基づく」案と、30年のエネルギーミックスなど「将来見通しに基づく」案が示されたが、将来見通しと足元の実績の乖離が大きいことを踏まえ、足元の実績に基づき算出するのが適当との意見が大勢を占めた。

「系統安定化の視点が欠けている」

事務局案に対して複数の委員が指摘したのは、「系統安定化の視点が欠けている」という点だ。松橋隆治委員(東京大学大学院教授)は、「調整力としての火力が失われつつあることが、カーボンニュートラルへ向かうシステムを妨げる最大の要因。(火力の)稼働状況を一律で評価するのではなく、変動再エネの予測誤差を埋めるためにどう運転したかを評価しなければ、不完全な制度になる」とした上で、「分散型電源、産業用自家発、需要適正化を合わせた〝連携省エネ計画〟として、サプライチェーンまで評価する方法論を検討すべきだ」と提案した。

【記者通信/6月30日】エネ基議論でしぼむ「原発推進」 小泉環境相は菅首相の意向を示唆


2030年の温暖化ガス13年比46%削減、さらに50年のカーボンニュートラル社会の実現を目指し、経済産業省が検討を進める国のエネルギー基本計画の見直しで、再生可能エネルギーと並んで脱炭素化の鍵を握る「原子力発電の推進」が明らかにトーンダウンしている。

梶山弘志経産相は6月18日の閣議後会見で、エネ基見直しの状況に言及。省エネや再エネに関しては30年に向けての目標数値などに触れながら推進への意欲的な見解を示したものの、原子力については「国民の信頼回復に努めて、安全最優先の再稼働を進める」と、そっけない回答にとどまった。

小泉進次郎環境相は同日の会見で、「総理は、まず再エネを最優先、そして原子力については安全を最優先にして、再生可能エネルギーの拡大を図る中で可能な限り原発依存度を低減することを、しっかりと政府の計画に位置付けなければならないと(言っている)」と強調。原発低減・再エネ拡大路線が、菅義偉首相の意向であることを示唆した。

菅首相が本当に脱原発なのかどうかはともかく、5月の大型連休前まで、自民党・経産省が原発推進で盛り上がっていたのがウソのような情勢だ。

例えば4月12日、安倍晋三元首相や額賀福四郎氏、甘利明氏ら自民党の有力者が顧問に名を連ねる「脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース推進議員連盟」(稲田朋美会長)が発足。この中で、安倍氏は「2050年カーボンニュートラルを高らかに掲げている国として、国力を維持しながら、低廉で安定的な電力を供給していく。これからのエネルギー政策を考える上で、原子力にしっかりと向き合わなければならないのは厳然たる事実だ」と声高に訴えかけた。また同月23日には、自民党電力安定供給推進議員連盟の細田博之会長らが加藤勝信官房長官に対し、エネ基見直しの中で原発を最大限活用すべきだと主張し、原発の新増設やリプレースを進めるよう強く要望した。

鳴り物入りのリプレース議連も休眠状態に⁉

ところが、だ。その後、50年に向けて「原発ゼロ社会」の旗を振る公明党との方針の食い違いが鮮明化(5月31日付の記者通信で既報)。7月4日の東京都議選や、9月の衆院選が視野に入る中、選挙対策のためなのか、政府・与党内での「原発推進」の機運は急速にしぼんでいった。

こうした中、総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)基本政策分科会は5月13日の会合で次期エネ基の目次といえる骨格案を提示したのを最後に、理由不明のまま次回の開催が次々と延期され、6月30日にようやく開催。しかし会合の内容は、関係者の意見表明にとどまった。

「原子力を抜きにした再エネ1本足打法で、カーボンニュートラル社会の実現は不可能。そのためにも、東日本大震災以降、混迷を続けるわが国の原子力政策について、今こそ骨太の国家戦略を策定し、国民の理解を得るべく、最大限の努力を払うのが本来の国の仕事のはず。なのに、今のありさまは一体何だ!期待していた、鳴り物入りのリプレース議連も当初の掛け声とは裏腹に、今や休眠状態。有権者の顔色や世論の反応を気にして、原子力の国家論を語れない自民党など、地に落ちた同然。残念で仕方ない」(大手電力会社幹部)

いずれにしても、目の前の都議選が終わる7月5日以降、エネ基見直しの検討は佳境を迎える。「資源エネルギー庁に対し、官邸サイドから原発推進色を色濃く打ち出さないよう圧力がかかっている」(事情通)との声も聞こえているが、パワハラ政治もいいところだ。今後の審議では、脱炭素社会に向けた再エネ国家戦略と合わせて、原子力国家戦略の議論が大いに盛り上がることを、一国民として改めて期待したい。

【記者通信/6月25日】台山原発で放射能漏れ事故 新たな原発大国に監視の目を


中国南部広東省の台山原子力発電所で、放射性物質が漏れる事故があった。米CNNは6月14日、同原発の原子炉メーカーであり、中国広核集団と共に運転に協力する仏フラマトム社(旧アレバ)が米国政府に「差し迫った放射線上の脅威がある」と通達した、と報道。事故を受けて、中国の安全規制当局は原発の運転停止を避けるため、あろうことか周辺地域の放射線量の基準値上限を引き上げたという。

中国当局は「冷却材の放射性物質の濃度が上昇したものの、原発外部への放射性物質漏れはなく、基準値の引き上げも承認していない」と説明したが、事故を米政府に報告したのがフ社であることが、奇妙な点だ。

基準値引き上げは事実なのか 燃料棒損傷の原因とは

「(フ社は)放射能漏れ事故を確認して、『マズい』と思ったのでしょう」。こう話すのは、東京工業大学先導原子力研究所の奈良林直特任教授だ。「日本や欧米で原発事故が起こった際、事故の報告や公表の第一の責任は運転事業者である電力会社が負う。その次に規制当局だ。台山原発の事故のように、原子炉メーカーが公表することはまずない。新型コロナウイルス発生時にも批判された、中国の隠ぺい体質を感じさせる」

台山原発で何が起こったのか見ていこう。フ社の親会社であるフランス電力(EDF)は、6月8日、反応炉から希ガスが漏れている、と米国に報告。技術協力を要請した。その後、CNNによる周辺地域の放射線量の基準値引き上げ報道があった。EDFは14日、台山原発の「原子炉格納容器内」で希ガスの濃度が上昇したとの通知を受けたと発表したが、重大事故ではないと説明。中国当局は16日に、冷却水内での放射線量の上昇を認めたが、原子炉外での放射線漏れ、基準値の引き上げについては否定した。事故の原因を「燃料棒5本が損傷したため」だとしたが、周辺地域の測定データは公表しておらず、詳細は明らかになっていない。日本国内や香港では、モニタリングポストの放射線量の計測値に変化はないものの、事態の行方が注視される。

事故の原因である、燃料棒の損傷そのものは珍しい事例ではない。日本の原子炉でも2011年までに36件確認されている。原子力関係者によると、日本では、原子炉内で希ガス濃度が基準値を上回った際には、プラントを一時停止して、安全点検に入る場合も多いという。

では、考え得る燃料棒損傷の理由は何か。一つは、原発の建設工事時中に燃料棒に異物が混入した可能性だ。中国での原発建設の現場を目撃した奈良林教授は、こう話す。「浙江省の三門原子力発電所の建設中、試運転をサポートするために中に入ったが、とにかく砂塵がすごかった。マスクをしてメガネをかけないと立っていられないほど。日本やアメリカの原発には塵一つ落ちていないのとは対照的だ。台山原発建設工事中に異物が混入した可能性は十分考えられる」(奈良林教授)。

一帯一路で原発売る中国 安全性は大丈夫?

中国は目下、「原発大国」に向けて、ばく進中だ。総発電容量は今や米国、フランスに次ぎ世界第3位。21年3月には、自主開発の第三世代原発「華龍1号」をパキスタンで完成させたばかり。今後アジア各国やアフリカなどの途上国に中国製原発を輸出するビジョンを描いている。台山原発は、フランスが設計した第三世代欧州加圧水型炉(EPR)2基で構成される。18年に運転を開始させ、商用としては世界初。今回放射能漏れがあったのは台山原発1基と見られる。同原発は製造業が集積する深セン市などに電力を供給するなど、エネルギー強国を目指す中国肝いりのプロジェクトだった。

しかし、今回の事故のように、透明性の高いデータを中国当局が示さないのは問題だ。周辺地域への希ガス漏れがあったのか、専門家は口を揃えて「これまでの情報開示だけでは判断できない」と話す。今後、世界中に中国当局が管理する原発が増えた場合、安全性や情報共有の風通しの悪さが懸念材料になる。

原発の建設・運営で最も大切なのは「安全文化」だ、と奈良林教授は強調する。現場作業員が額に汗して、安全な運転を継続する「文化」を育てる必要がある。今回のように、海外メディアの報道があって初めて事故の公表に踏み切るようでは、中国の原発に安全文化の定着はおぼつかない印象を受ける。

編集部は、世界各国の事業者と情報交換や技術支援を行うWANO東京センターに、台山原発の事故で何か情報を得ていないか、取材を打診した。WANO会員には中国で原子力事業を営む中国核工業集団公司も名を連ねる。WANOからは「いかなる取材も受け付けていない」との返答があった。隣国の出来事だけに、迅速な情報共有を期待したいところだ。

前述の原子力関係者は、日本の原子力業界の情報収集力の欠如を嘆く。「2000年代後半から、中国の原発技術者がこぞって日本に技術を学びにきていた。その頃はみんな良かれと思って経験や専門性を共有していた。今となっては、日本は中国に情報を提供する一方で、中国からは何も情報を得ることができていない。日本側の力不足としか言いようがない」(同原子力関係者)

台山原発の今後、そして中国の原発運営に、国際社会は目を光らせる必要がある。

【記者通信/6月25日】経産事務次官に多田氏 環境省はCP導入へ体制固めか


経済産業、環境両省の幹部人事(7月1日付)が6月25日、閣議決定された。

経産事務次官に就任する多田氏(左)と、環境省大臣官房長に就任する財務省出身の鑓水氏(右)

経産事務次官に多田明弘・官房長(1986年入省)、経産審議官に広瀬直・通商政策局(86年)がそれぞれ就任。次官待ちポストとされる経済産業政策局長には平井裕秀・商務情報精査局長(87年)が就く。そのほかの人事は次の通りだが、エネルギー・環境分野の経験者が局長級ポストを占める布陣になっている。今秋予定される国のエネルギー基本計画の改定を受け、カーボンニュートラル政策の本格展開を睨んだ人事といえよう。

大臣官房長=飯田祐二・資源エネルギー庁次長(88年)、総括審議官=片岡宏一郎・大臣官房秘書課長(92年)、通商政策局長=松尾剛彦・内閣府宇宙開発戦略推進事務局長(88年)、商務情報政策局長=荒井勝喜・大臣官房総括審議官(91年)、資源エネルギー庁次長=山下隆一・産業技術環境局長(89年)、首席国際カーボンニュートラル政策統括審議官=南亮・エネ庁資源・燃料部長(90年)、特許庁長官=森清・2025年日本国際博覧会協会理事・副事務総長(90年)、中小企業庁長官=角野然生・復興庁統括官(88年)。

環境省については、地球環境審議官に正田寛・大臣官房長(86年)、官房長に鑓水洋・国税庁次長(87年)がそれぞれ就任。中井徳太郎・環境事務次官は留任する。財務省出身者が次官、官房長の主要ポストを担うことになるため、「カーボンプライシング導入への体制固め」(エネルギー関係者)と見る向きがある。ちなみに、次期次官候補は鑓水氏、次々期次官候補は和田篤也・総合環境政策統括官(88年)と予想されている。

そのほかでは、水・大気環境局長に松澤裕・環境再生・資源循環局次長(89年)、自然環境局長に奥田直久・長崎税関長(86年)、環境再生・資源循環局長に室石泰弘・福島地方環境事務所長(86年)がそれぞれ就く。

【記者通信/6月24日】米カ州のEV事情に異変 猛暑で充電制限、ガソリン回帰も


運輸部門の脱炭素化の切り札に位置づけられている電気自動車(EV)を巡り、米カリフォルニア州で異変が起きている。

6月初旬から米西部が連日40℃を超える記録的な猛暑に見舞われる中、電力需要が急増。ニューズウィークの記事によると、電力ピーク時の需給ひっ迫による停電リスクを避けるため、カリフォルニア独立系統運用機関(ISO)は先週2回、「フレックスアラート」を発出し、午後6時よりも前にEVの充電を行うよう住民に呼びかけたという。

カ州エネルギー委員会の関係者は、EV依存度の高まりに伴い、住民がどの時間帯に充電するかが電力網のバランスを保つ上で重要になると指摘。また国立再生可能エネルギー研究所の関係者は、「電力系統の総負荷を見ると、利用者が帰宅して充電する夕方から急上昇する傾向がある」「EVのドライバーは充電のルーチンを変更することが必要」「発電量が過剰になる昼間の時間帯にどれだけ充電をシフトできるか」などと述べている。

こうした状況下、一部報道によれば、カ州では早くもEV離れといえる現象が起きているという。充電の不便さや航続距離の短さを理由に、EV利用者の約2割がガソリン車に切り替えたのだ。そのうちの約7割は自宅や職場に、急速充電用の高電圧コンセント(240V仕様=レベル2)がなく、自動車分野のアナリストは「レベル2のコンセントがなければ、(EVは)ほぼ役に立たない」と分析している。

停電・価格高騰リスクが普及拡大に「待った」

カ州が直面している課題は、日本のEV普及を考える上で一つの参考となろう。ご多分に漏れず、わが国でも去る冬の電力不足による価格高騰に続き、今年度の夏と冬も需給ひっ迫が懸念されている。主な原因は、石炭火力など大型電源の脱落による供給力の低下だ。一方で、太陽光や風力など不安定な自然エネルギー電源の大量導入は引き続き加速。そこに、近年著しい台風・豪雨・寒波・地震など自然災害の多発も加わり、これらに伴う停電・価格高騰リスクの高まりが、カーボンニュートラル時代に向けた電化シフト、EV普及に「待った」を掛ける可能性は否定できない。

またカ州のように、電力負荷平準化のためにEV充電に制限を設けようものなら、CO2よりも使い勝手に敏感なユーザーのEV離れを引き起こしかねない。ここに気になるデータがある。日本を代表するEV、日産「リーフ」の2020年販売台数が1万1286台となり、前年比で43%も減少したのだ。新型コロナ禍の影響や、フルモデルチェンジから3年というマイナス要因はあるものの、前年の6割も売れていないという状況をどう考えればいいのか。

いずれにしてもカーボンニュートラルを視野に本格的な電化・EV時代を目指すのであれば、供給安定性の向上、CO2排出削減、低廉な電気料金という3要素を可能な限り追求していくことが不可欠。そのためには、再エネ拡大と同時に、やはり原子力発電の再稼働を推し進め、安定・安価なベースロード電源に厚みを持たせることが最善の策のような気がしてならない。

【記者通信/6月22日】「補助金ではなく交付金」懸念される負の側面


国の「地域脱炭素ロードマップ」で提起された「複数年度にわたる継続的・包括的な資金支援スキームの構築」を巡り、エネルギー対策特別会計を原資にした「再生可能エネルギー立地交付金」創設の動きが出ている(6月12日の記者通信で既報)。

小泉進次郎環境相は6月22日の定例会見で、記者が「交付金ではなく、使途を限定した補助金(という方法)もあるのではないか」と質問したのに対し、「補助金は今でもやっている」「脱炭素の取り組みは国と地方が一体だというメッセージを明確に発信するには、私は交付金が一番だと思っている」などと述べ、「再エネ立地交付金」の必要性を重ねて強調した。

また、小泉氏は交付金のイメージについて、「国民の信頼の高い形での交付金にしなければならない。最大のポイントは、地域から歓迎される再エネ事業をどれだけ生み出せるのか。そのためにも、地域が自ら(率先して)再エネに取り組むことの後押しになるような交付金にしなければいけない」「(再エネ導入に向けて)地域の意欲が湧くようなインセンティブを設ける必要がある。何もインセンティブがないのに計画をつくりますという事業者・自治体はないので、そういったことも想定している」などと説明した。

再エネの資金支援、これ以上必要か?

ただ、交付金方式には地域への資金ばらまきを助長しかねないというマイナスの要素があることに、国民は十分注意する必要がある。特に、小泉氏が言及したような「昭和は電源立地交付金、令和は再エネ立地交付金」といった単純な発想だと、電源三法交付金制度の負の側面も受け継がれてしまい、新たな「再エネ利権」「再エネ村」「再エネ族議員」を誕生させる可能性も否定できない。そもそも、再エネ導入に関しては、国の固定価格買い取り制度(FIT)があるうえ、エネルギー特会を中心に多彩な政策支援制度も容易されている。そうした現状を踏まえれば、新たな地域支援策なるものが本当に必要なのかどうか。

本来、SDGs(持続可能な開発目標)の政策理念に照らせば、再エネ普及拡大の取り組みこそが地域にとってのインセンティブになるはず。小泉氏が会見で「何もインセンティブがないのに計画をつくる事業者・自治体はない」と言い切ったのは、明らかにミスリードだろう。

なお、再エネ交付金を巡る問題については、福島伸享氏のコラムが鋭く切り込んでいるので、ぜひ参照してほしい。

【目安箱/6月16日】ゲイツ原発で新展開 原子力にイノベーションの期待


マイクロソフトの創業者で慈善活動家であるビル・ゲイツ氏が新型原子炉の開発を進めている。今年6月に入って新型炉の建設という新しい取り組みを公表した。Windowsの開発と販売で、世界の歴史をビジネスで変えた成功者が、原子力を本格的に支援している。ゲイツ氏の取り組みを整理しながら、原子力産業の未来を、期待を込めて考えたい。

◆最新原発「ナトリウム」建設開始

「『ナトリウム』はエネルギー産業のゲームチェンジャーになる」

ゲイツ氏は6月2日、自身が会長を務めるテラパワー社が開発した新型原子炉「ナトリウム」の建設をウェブ上での発表会で宣言し、このような期待を述べた。「ゲームチェンジャー」とは、「状況を変える存在」との意味で使われるビジネス用語だ。今回の新型コロナウイルスの感染防止策でも、状況を変えたワクチンに対して用いられている。ゲイツ氏の意気込みと期待が伝わる。

この原子炉は、「小型ナトリウム原子炉」と呼ばれる種類の原子炉で、核分裂反応を起こした原子炉を冷却するのにナトリウムを使う。これは扱いの難しい物質だが、発表によれば、この新設原子炉では設計を簡素化することによって、問題を克服し、小型化、コストダウンを実現するという。

原子炉「ナトリウム」はエネルギー会社のパシフィコープと共同で運営する。パ社は、ゲイツ氏の友人で彼の慈善活動に協力するウォーレン・バフェット氏が会長を務める投資会社バークシャー・ハサウェイの傘下にある。この原子炉は7年後に完成し、発電能力は34万kW規模で、その後に量産を計画する。米政府も公的資金を投入して支援を行う。

ゲイツ氏は同月8日、米国の公的機関である原子力エネルギー協会のシンポジウムに参加し、原子力の可能性について講演した。この中で、新型コロナウイルス対策でわずか1年で状況の好転をもたらしたワクチン開発について「人間の力の偉大さを示した」と評価。そして同じように、世界各国の政府、企業、学会の連携で、原子力でもイノベーション(技術革新)を起こせると期待を述べた。世界の貧困と気候変動を解決する手段として「発展した原子力が不可欠のツール」と強調。原子炉の新規建設が停滞する米国の現状について、「温室効果ガスの排出量を減らし、気候災害を防ぐには、より多くの原子力発電が必要」だと主張した。また世界で増える再生可能エネルギーによる発電と、小型原子炉は対立するものではなく、再エネの不安定な発電を小型原子炉による電力供給が補えると指摘した。さらに政府の支援と学会、そして企業など、社会の力を集めて、原子力を支援する必要があると訴えた。

ゲイツ氏、脱中国? 複数の原子炉を開発

一連の発言で筆者に印象的だったのは、ゲイツ氏が原子力への強い期待と、気候変動への危機感を持っていることだった。ゲイツ氏は最近、原子力問題で沈黙していた。テラパワーは2017年11月、中国国有原子力大手の中国核工業集団(中核集団)などと合弁会社を設立し、テラパワーの持つ進行波炉の建設を中国河南省で急いでいた。ところが、その事業の発信は途絶えた。背景には、米中対立が16年に発足したトランプ政権で顕在化し、今のバイデン政権でも深刻な対立構造が続いていることがある。社会の流れに敏感なゲイツ氏は、そのために情報を積極的に公表しなくなったのかもしれない。

テラパワー社の役員構成

だが今回、ゲイツ氏は進行波炉とは別の種類の小型ナトリウム原子炉を建設し、新しいタイプの原子炉である溶融塩原子炉の研究も進めていることを公表した。中国と関わらない新しいカードを手に入れ、米国での事業化が見込めることから、公表に動いた可能性がある。原子力の開発では政府や、それを動かす一般市民、学会の支援は不可欠だ。

世界の原子力研究者の間ではこの20年、「第四世代原子炉」と呼ばれる原子炉の開発が議論されてきた。これまで研究や構想が先行していたが、ようやく形になりつつある。

◆日本に新型原子炉のカードはある

新型原子炉はいずれの構想でも、これまで進んだ大型化から一転して、小型化と安全性、コストダウンを考え、ビジネスとしての成功を目指している。そのうち3種にゲイツ氏が関わるのは心強い。ゲイツ氏はテラパワー社に個人資産を8億ドル(880億円)前後投資しているとの報道もある。世界一の金持ちのゲイツ氏といえども、もう後には引けない金額だ。

ゲイツ氏はマイクロソフト社で成功し、巨富を得たビジネスパーソンであり、原子力への参入は慈善活動ではなく、実用化とビジネスでの成功を前提にしている。彼をはじめとする才能ある人々の参加、そして資金の流入によって、原子力をめぐるビジネスは、発展する可能性があるだろう。

これからの10年では、新型原子炉を巡る規格争い、主導権争いも、国や企業同士で本格化すしよう。日本の原子力産業は、福島事故後に停滞し、発電分野でも、建設分野でも、業界の各企業は苦境に追い込まれている。しかし新型原子炉のタネはいくつかの日本企業が持っており、その状況も変わるかもしれない。

米ニュースケール社は小型モジュール原子炉(SMR)の開発を進めるが、日本の日揮、IHIグループは今年5月、同社に出資し、共同開発を行うことを表明した。日立GEは既存の沸騰水型原子炉を小型化した、BWRX -300を設計中で、ゲイツ氏の新型炉の建設にも関わる。三菱重工業も高温ガス炉などの研究を行っている。

日本の原子力関係者は東京電力の福島原発事故以来、自分の不運を嘆き、弁解に追われていた。筆者は、「【目安箱/3月9日】「原子力ムラ」の問題点 復活はホリエモンに学べ/という小論で、原子力関係者は嘆いたり、日本政府の政策転換を期待したりするよりも、自らの手でイノベーションを行って原子力の未来を切り開いてほしいと、期待を述べた。この3カ月で原子力を巡る情勢は、米国を中心に大きく動いた。この好機を活かし、イノベーションを作り出す機運が日本以外の国では高まっている。

日本の原子力関係者は、この流れを活用すべきだ。そしてゲイツ氏やアメリカ企業に期待するだけではなく、彼を振り回し、世界を引っ張るようなイノベーションを、日本の原子力産業から発信してほしい。

【記者通信/6月12日】小泉環境相が強調した「再エネ立地交付金」 その光と影


電源立地交付金ならぬ、再エネ立地交付金を創設へ――。政府の国・地方脱炭素実現会議(議長・加藤勝信官房長官)は6月9日に決定した「地域脱炭素ロードマップ」の中で、脱炭素化事業に意欲的に取り組む自治体を支援するため新たな資金スキームを創設する方向を打ち出した。〈地域脱炭素への移行・実現に向けた取組の加速化の観点から、脱炭素事業に意欲的に取り組む地方自治体や事業者等を集中的、重点的に支援するため、資金支援の仕組みを抜本的に見直し、複数年度にわたり継続的かつ包括的に支援するスキームを構築〉。脱炭素ロードマップの資料にはこう記されている。

国策民営で昭和は原発、令和は再エネ

小泉進次郎環境相は11日の閣議後会見で次のように言及した。

「(ロードマップの)最大のポイントの1つが、複数年度にわたる自治体に対する資金支援を抜本的に見直し、新たなスキームをつくることだ。私のイメージは、『再エネ立地交付金』のようなもの。昭和の時代は、国策民営で原発を推進した。そして令和の時代、エネルギーの国策は何かといえば、再エネだ。(現状を見ると)主力電源化なのに、財政基盤が脆弱な事業者が多い。それだけ、日本は再エネ業界を支援してこなかった。これからは、再エネ最優先の原則で最大限の導入に向けて支援をしっかりとやっていく。再エネ立地交付金をどのような制度設計にするか、各電源に対してどれだけお金をつぎ込むか、議論を通じて明らかにしていく。国・地方脱炭素ロードマップの大きな成果だと思う」

原子力発電を中心とした戦後の大型電源開発を巡って、わが国政府は1974年に「電源開発促進税法」「電源開発促進対策特別会計法」「発電用施設周辺地域整備法」の電源三法を制度化。立地地域に対し、発電所の利益還元を図ることで、原子力開発を推進してきた。その仕組みの中核をなしているのが、「電源立地地域対策交付金」制度である。

小泉環境相の言葉を借りれば、今回の脱炭素ロードマップでは、その再エネ版の創設を提起したわけだ。「今までだったら電源立地交付金、これからは再エネ立地交付金だと。そういった議論を、私としては正面からやっていきたい」。この日の会見では、再エネ立地交付金なる言葉を繰り返し強調した。エネルギー業界の関係者が言う。

「電気事業連合会のウェブサイトを見ると、電源三法交付金制度の説明の中に『原子力施設と地域社会が共存共栄することを目指し、立地地域の発展のために、国、地方自治体、電気事業者の三者が一体となって、相互に連携・協力して取り組む必要があります』と書いてある。この原子力の三文字を、そっくりそのまま再エネに置き換えれば、小泉大臣が言わんとする狙いが見えてくるだろう。しかし、これは諸刃の剣でもあることに、われわれは十分注意しなくてはならない」

原発はダメでも再エネなら許される?

電源三法交付金を巡っては、原発と地域の共生に多大な貢献を果たす一方、かねて反原発派などから「政治家、立地地域、大手電力会社にずぶずぶの関係をもたらした元凶」「巨額の原発マネーが原子力利権、原子力ムラを生み出した」などと批判されていることも事実だ。それはすなわち、見方を変えれば、再エネが同じ轍を踏まないとも限らないわけである。実際、小泉環境相は会見でこうも話している。

「電源立地交付金の使い道については、一部からは批判もある。本当にそれ、電力と関係あるんですかという。再エネ立地交付金は、よりよいものにしたい。そして、国が全面的に資金支援するという形で(国策民営の下で)日本から再生可能エネルギーメジャーを生み出していく。こういったことにしなければ、再エネ主力電源化はできないだろう」

この発言を見る限り、再エネ立地交付金構想からは何やら危険な匂いが漂ってくる気がしてならない。言うまでもなく、地域共生に基づく再エネ推進政策は、脱炭素社会の実現に向けて不可欠な取り組みだ。が、それが巨額の再エネマネーの下で利権化してしまうと、国民全体の利益からはどんどん遠ざかっていくことになる。ある意味では、再エネ固定価格買い取り制度(FIT)がそうともいえよう。原発利権はダメでも再エネ利権なら許されるという理屈は、もちろん通るはずもない。今後、交付金制度の影の部分にもしっかりと目を向け、〝脱炭素祭り〟に踊らされない、冷静な議論を行っていくことが求められる。

【目安箱/6月8日】インフラ企業の「お客さま」は「神様」ではない⁉


◆「全ての顧客に真剣に」対応する代償

エネルギー産業の顧客対応の姿勢を紹介したい。ある会社で、広報部門を15年ほど前に見せてもらったことがある。その会社では顧客の対応で、複雑な問題があると広報部に回る仕組みだった。いわゆる政治活動家やクレーマーへの応対まで社員が一生懸命対応していた。

ていねいに顧客に向き合う姿に感銘を受けるとともに、「やりすぎではないでしょうか。『お客さまは神様』では、ありません」と質問した。すると案内した幹部は、「神様とは思っていませんが、インフラ企業にとっては、全ての方がお客さまです。どの問い合わせにも真面目に、真剣に対応します」と返事をした。その返事をする態度に、「自分の言っていることに間違いがあるかもしれない」という戸惑いの色が見えたように思えた。

同社の若手広報部員とたまたま知り合いだった私は実情を聞いていた。彼は有名大学卒業生のエリート。顧客対応の仕事では、15分に1回、電話がかかった。そのうち5分の1は、何を言っているか、わけのわからない内容の電話だったという。電話口で突如、怒鳴られることもたびたびあった。次第に、帰宅後も電話が頭の中で鳴り続けている精神状態に。上層部も現状を分かっているようで、激務のため短期間で電話対応の社員は変わったという。「会社がお客さまにどのように思われているか、この仕事から知ることができたため、きつい経験は後になって、ためになりました。しかしやっているその時は、苦しく、限界になりました」と、その社員は語っていた。

電力会社の社員らによると、2011年の東日本大震災と東京電力の福島第一原発事故の後数年間は、こうした状況がさらに悪化した。事故直後に、原発絡みで電話での問い合わせや抗議が、全国の電力会社に殺到した。同じ人が何度もかける例もあったという。インターネットの時代でも、電話だとすぐに不安を訴えたり、直接不満を爆発させたりできるとして、電力会社のコールセンターが利用されたのかもしれない。

特に、東京電力の社員の話を聞くと、気の毒に思う。原発事故を同社は起こした。その問題で、被災者を初め、一般消費者からも、何年も激しい批判を浴びせられ続けたという。もちろん原発事故の責任を、東電の会社そのものは負うべきだが、個々の社員にその責任を問うのは酷だ。

エネルギーの自由化が進んだ今、人は減っていても、エネルギーインフラ企業の顧客対応を真面目にする文化は、大きく変わったようには見えない。それどころか、サービスの向上は求められ、各社が対応する。社員の疲弊は蓄積する一方だ。

◆「クレーマー」の威張れない時代

はたして、これでいいのだろうか。日本のインフラ産業、エネルギー産業は、「全ての人がお客さま」という意識にとらわれすぎているように思う。

ほとんど報道されていないが、ネット上では騒ぎになり、時代の変化を示す事件があった。今年4月1日、車椅子に乗る女性が、JR東日本の来宮(きのみや)駅での乗降を巡る同社の対応を「障害者の乗車拒否だ」などと批判し、新聞社に通報、自らさまざまな方面に情報を発信した。女性は手前の小田原駅で来宮駅までの案内を申し出た際、来宮は無人駅でエレベーターもなく車椅子が使えなかったため、駅員から「来宮駅は階段しかないのでご案内ができません。熱海まででいいですか?」と最初に言われたことに腹を立て、「乗車拒否」と訴えたようだ。

静岡県熱海市にあるJR伊東線の来宮駅

しかし、乗車拒否の事実はなかった。実際のところ、JR東は社員4人を熱海駅から派遣し、女性の行動に合わせて、100㎏超と推定される電動車椅子を運んで駅の階段を上下していたのだ。ほどなくして、この女性が社民党の常任幹事という政治活動家で、政治活動のためにこのようなことをしたのではないかという疑惑が浮上した。

この事件が興味深いのは、これまでの同種の騒動と全く違う展開を見せたことだ。この女性はマスコミなどに対し「バリアフリーを進めたい」「移動の自由だ」と主張した。ネットのない時代だったら、批判はJ R東日本に向いただろう。

しかしネット上では、この女性が政治活動家であるという事実や過去の言動が暴かれ、本人や擁護する人が情報を発信するたびに批判が広がった。「モンスタークレーマー」と言う批判もあった。そうしたネットの一般人の批判を観察すると、日本の民度がとても高いことが分かる。この女性の障害への中傷はほとんどなく、そのおかしさを冷静に指摘するものが大半だった。そしてインフラ企業であるJR東日本の対応を評価していた。

いわゆる顧客サービスを巡る問題は千差万別で、この事件だけでサービス対応の普遍的な答えは導けない。しかし、①ネットを活用する、②賢明な利用者の多い日本では常識が通る、③適切に顧客の声を聞く――というとるべき3点の対応が改めて分かる。

◆「お客さまは神様です」の真意

もちろん、顧客サービスへの要求は「モンスタークレーマー」によるものとは限らない。相手の主張を聞き、改善すべきサービスにつなげることは必要だ。しかし、明らかに要求が、おかしな「一線」を超えている場合に、それに付き合わず、毅然と拒否することが求められる。上記のJR東の例を見て分かるように、おかしな顧客の行動は、その顧客に批判が向く時代だ。正しい対応をしていれば、多くの人は理解してくれるし、社会の姿勢も「モンスタークレーマー批判」が当たり前になっている。新聞などのオールドメディアの影響力も低下し、報道も事実に基づかなければ逆にネットを活用する一般人から批判されるようになった。悪評と同時に、好評価もネットで広がる。正しいことをすれば、ネットの草の根の発言を通じて普通の人は必ず評価をしてくれる。

もちろん、エネルギーインフラの各企業も、ここで指摘する程度のことは、当然考えているだろう。しかし冒頭の例に述べたように、「お客さまを大切にする」という建前に、各社、そして全体がひきずられている印象を受ける。「お客さまは神様ではない」のだ。

ちなみに私の使った「お客さまは神様です」は歌手の故・三波春夫さんの有名な言葉だ。ただし、これはお客のことを絶対視するという意味ではない。三波氏は真意を、次のような、美しい、意義深い言葉で説明している。

「歌う時に私は、あたかも神前で祈るときのように、雑念を払ってまっさらな、澄み切った心にならなければ完璧な藝をお見せすることはできないと思っております。ですから、お客さまを神様とみて、歌を唄うのです。また、演者にとってお客さまを歓ばせるということは絶対条件です。ですからお客さまは絶対者、神様なのです」 顧客の言うことを聞き続け、働く社員に負担を与えることが、エネルギー産業が顧客対応で進むべき道ではない。三波さんの「お客さまは神様です」

発言の真意のように、質の高いサービスによってお客を喜ばせ、それぞれの人の生活の質を上げ幸せにすることに、エネルギー産業の人たちは邁進してほしい。クレーマーなど、恐れる必要はない。エネルギーの各企業は、生活に密接に関わるからこそ、人々の幸せを、仕事を通じて実現できる素晴らしい立ち位置にいるのだから。

【イニシャルニュース】エネ庁幹部交代説が浮上 原因は再エネTF騒動か


エネ庁幹部交代説が浮上 原因は再エネTF騒動か

資源エネルギー庁の幹部を巡って今夏の交代説が浮上している。内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(再エネTF)」の関係者の間で、幹部M氏らへの批判が高まっていることが背景にある。

5月号の本欄で既報の通り、再エネTF関係者とエネ庁幹部が3月下旬、電力ガス基本政策小委員会や再エネTF会合の場で、容量市場の問題を巡り舌戦を繰り広げた。「容量市場が電力自由化と引き換えに経産省が電力に切った手形だとすれば、国民に対する重大な背信行為」(Y氏)、「大変失礼で不適切な発言だ」(M氏)、「内閣府はあまりに勉強不足」(O氏)、「むしろ皆さんの方が理解されていないのでは」(H氏)―。

背信行為呼ばわりされたエネ庁側が怒り心頭なのは当然のこととして、一方の再エネTF側も、電力業界と緊密にやり取りするエネ庁の姿勢には反発を強めている。「同じ経産省でも、本省サイドとはそれなりに話ができている。電力業界と近いエネ庁、とりわけ電力ガス事業部が全然聞く耳を持ってくれないのは、実に困ったものだ」(内閣府関係者)。再エネTF構成員のH氏も、「エネ庁での容量市場の検討は、結論ありきで行われているようにしか見えない」と批判する。

そんな中で取り沙汰されるエネ庁幹部の交代。「M氏は就任1年で異動。その後任として、K氏の名前が聞こえている」(事情通)という。ただ、もしM氏の異動となると、騒動を知っている周辺からは「経産省が再エネTF側の圧力に負けた」とみられかねない。「さすがの経産省も、省内の士気に影響を与えるような、露骨な人事はやらないだろう」(エネルギー業界関係者)。果たして、再エネTFとエネ庁の確執は今後どんな展開を見せるのか。

「環境未来都市」形骸化 地産地消はあやふやに

地方のSDGs(持続可能な開発目標)のモデル事業とすべく政府が取り組む「環境未来都市」構想。東日本のとある自治体では近隣地域と連携したさまざまな取り組みを進め、その中核の一つにメガソーラー事業がある。

一連の取り組みを自治体に持ち掛けたのは東京が拠点のコンサル。自治体とコンソーシアムをつくり、メガソーラーについて当初計画では「世界初の地域分散型蓄電システム付メガソーラー発電所」として建設し、「地産地消」をうたう内容だった。

風力発電などと異なり、メガソーラーは新たな雇用の受け皿になりにくい。その点、例えば自治体自身が事業に絡みFITの売電収益を確保すれば、地域経済への還元が期待できる。しかも、この事業はkW時当たり42円という売電価格が高額な時期に認定された案件だ。

しかし指名競争入札により、東京が本社のM社が事業主体に決まった。実はM社、別の地域で陸上風力を計画したが、地域住民からの猛反対に遭い、短期間に撤回に追い込まれたこともある。

運開から約6年たつが、発電所への蓄電池設置はいまだ実施されず。計画を主導したコンサルもいつの間にか解散していたそうだ。環境未来都市の事業でありながら、地産地消のコンセプトはあやふやになってしまった。

地産地消のコンセプトはどこに

コロナ禍のT電力会見 ちぐはぐさの違和感

新型コロナウイルス禍の感染予防策として、記者会見を開く際の企業の対応が多様化している。

あくまでも会見者と記者が直接対面することにこだわる企業がある。その場合は、参加する記者の人数を制限しつつ、会見者と記者との間にアクリル板を設置したり、記者同士も間隔を空けて着席したりするなどして、「密閉」「密集」「密接」のいわゆる「三密」を避ける工夫をしている。

一方で、コロナ禍が始まってからは社会の感染状況に関係なく、記者会見はオンラインによるリモート開催のみという企業も一定数ある。リモート会議システムのチャット機能を活用することで、質疑応答も意外とスムーズにやり取りができる。

こうした中で、会見によって対応が違い過ぎではないかと記者から違和感を覚えられているのがT電力ホールディングスのK社長だ。ある媒体のX記者が言う。

「4月、N社のカーボンニュートラル化推進に向けた戦略的提携の締結に伴う会見には、N社のM社長とK社長がそろって登壇した。ところが、その数日後に開かれた人事・決算会見では、記者を一つの会場に集めておきながら、会見者は画面の向こう側というスタイル。さすがにそういう対応はどうかと思ったよ」

二つの記者会見の間で何が変わったかといえば、東京都に緊急事態宣言が発出されたことか。当初は通常の会見を予定していたが、宣言が出てこうした対応を取らざるを得なかったのかもしれない。

しかし別の媒体のY記者は、「会見者が必ずしも東京にいるわけではなく、会見側の都合で記者を一会場に集めてリモート開催することに問題があるわけではない。ただK社長の場合、どうも不祥事の頭を下げなければならない会見はリモート、営業系の前向きな会見はリアルで実施しているようだ」と明かす。

かつての会見の風景はもう見られない

ゼロカーボン都市の現実 高炉停止に自治体反発

2050年CO2排出実質ゼロを表明する自治体がここ1~2年で急増している。環境省のホームページによると、この「ゼロカーボンシティ」は5月18日時点で387自治体に到達。表明自治体の総人口は約1億1000万人強に上り、自治体のトレンドとなっている。

小泉進次郎環境相のトップセールスが奏功した結果といえる。だが、どう実質ゼロに近づけるのか、現実的な手段に落とし込むことについては、これから検討するケースが多いようだ。

例えばゼロカーボンシティを表明したK市内には製鉄会社の高炉が稼働しており、長年雇用を支える重要な受け皿となってきた。しかし、国内の鉄鋼需要の減少や中国との競争激化といった背景から、製鉄会社が全国各地の高炉休止に踏み切る動きが続いている。K市内でも1基の休止が発表された。

温暖化ガス排出量削減の観点だけでみれば、これはむしろ実質ゼロに一歩近づく喜ばしい動きであるはず。ところがK市は、雇用損失の影響が大きすぎるとして、経済産業省に「高炉を止められては困る」と直談判したそうだ。

言うは易く行うは難し。経済への悪影響を押さえつつ脱炭素化にどう移行していくかは、産業界だけでなく自治体にとっても重い宿題となる。

「木村王国」が復活!? 青森政界の行方混沌

原子力関連施設が集中立地し、電力業界にとって最重要地である青森県。来年行われる参議院選挙を前に、保守政界が混沌としてきた。

自民党は、出馬が予想される現職の田名部匡代議員(立憲民主党)を落選させ、参院の青森選挙区で議席独占を狙う。県政界関係者によるとO衆議院議員、T参院議員が中心になり、候補者を絞り込んでいる。

候補に挙がっているのは、まず現在5選の三村申吾知事。次期知事選への出馬は多選批判が想定されるため、国政へ転じるとみられている。

三村知事が辞職した場合、後継は誰か。有力視されてきたのが木村次郎衆院議員だ。兄・太郎氏の急逝で県庁職員から転身。17年に初当選したばかりだが、地盤は太郎氏の長女・桜氏(18年弘前城ミス桜グランプリ)が引き継ぐという。次郎氏の父は衆院議員4期・知事3期を務めた守男氏で、「『木村王国』の復活を目指している」(県政界関係者)とうわさされている。

また、外ヶ浜町の山崎結子町長の名前も浮上している。曾祖父は元知事、祖父、父ともに元参院議員という血筋を持ち、元県連幹部の有力者が支援していることも強みだ。山崎氏は参院選出馬との見方もある。

一方、出馬が取り沙汰される、ともに元中央省庁キャリア官僚のO市長とM市長。両氏とも「三村知事との関係がよくない」(同)ことで立候補は微妙になっている。

名前が挙がった各氏、それぞれ原子力に対する考えは異なる。電力業界は静観を決め込むが、動向に目を凝らしているはずだ。

【目安箱/6月2日】技術流失、エネルギー産業でも 防衛策を考える


「ひどい数字だ」。数年ほど前の話だ。韓国で、あるエネルギー製造施設の設計をした日本のプラント会社の技術者らが、工場の稼働データを見て頭を抱えた。日本製の機器が使われているのに、予定通りの生産ができないのだ。韓国側のクレームは激しく、訴訟になるかもしれないと日本企業側は覚悟した。

◆まだ優れる、エネルギー産業の技術力

ところが理由を調べると、配管などの建設工事がいい加減で製造に必要なガスが漏れ、故障が頻発するなど運用も乱暴だったという。客観的な数字と原因を出したところ、韓国企業側も黙った。

「日本のエネルギー企業なら『カイゼン』で、建設後に予定以上の成果を出す工場が大半だ。細かい技術力が劣ると実感した」と担当した技術者は印象を述べた。

日本の経済力、産業の衰退が叫ばれて久しい。ところが、今でもインフラ産業、特にエネルギーの領域で、日本の企業は、世界最高水準の技術を持っている。どの指標でも、効率性、事故率は低い。原子力産業でも、東電の福島事故までは、製造でも安全性でも、世界のトップにあった。

しかし、心配することがある。その技術の流失だ。

◆「ブーメラン効果」を早めるな

筆者は2015年に、台湾での電力独占事業者である台湾電力のプラントを見た経験がある。プラントの構造、運営、そして広報の仕組み、研究所の様子が、日本の原発事故前の東京電力によく似ていた。

1970~80年代に台湾は世界の主要国が本土を支配する中華人民共和国と国交を樹立したために、外交的に孤立した。そのために民間の技術導入も手間が掛かるようになった。同社社員によると、その苦境を見た東京電力の平岩外四氏(1914~2007、東電社長1976~1984)ら経営陣が、台湾電力の社員を受け入れて東電の技術を教え、その人らがその後の同社の発展を支えたという。それが会社の雰囲気の類似につながったらしい。台湾電力の社員は東電に感謝を述べていた。

日本に帰って東電OBに聞いた。平岩氏は経団連会長を務めるなどの財界の大物で、中共の政権との関係も良好だった。また当時は日中友好ムードがあった。東電は中共の電力事業にも協力していたので、台湾電力を支援しても特に問題にはならなかったという。東電は韓国電力にも技術提供をしていたが、70年代から韓国は国内化を進め、台湾より関係が少なくなった。東電は外交も民間の立場から担っており、同社の存在感の大きさを改めて認識した。

平岩氏の世代の日本人は太平洋戦争という不幸な歴史を経験し、アジア諸国への贖罪の意識があったのかもしれない。台湾電力の人も「美談」として感謝を表明した。しかし、筆者は今を生きる世代として、「技術が日本から流失したのではないか」と、心配になった。台湾電力と東電の契約内容の詳細は不明だが、金銭にしてどれくらいの価値の技術が、台湾に流れてしまったのだろうか。

1980年代に日本の製造業は世界を席巻した。当時、各企業は、社会貢献活動の一環で、各国企業との協力や技術の提供を誇らしげに語っていた。ところが今、そうした産業が次々に、技術、生産性の産業力で逆転されている。今では造船、家電、携帯、半導体で、中国、韓国製品が、日本勢を駆逐してしまった。

後発国の産業が先発国の同種の産業の技術を吸収、改良し、その先発国の産業を技術面でも、シェアでも凌駕することは、「ブーメラン効果」と経済学・経営学で言われて頻繁に起こることだ。日本もキャッチアップの過程で欧米のメーカーの技術を学んで追い越した。ところが、日本企業は追い越される時に、「教える」というお人好しの行為や、技術流失の配慮をせず、その逆転のスピードを早めてしまったように思える。

エネルギー産業は、国内市場向け。重電・エネルギープラントは、消費者からは見えづらいインフラだ。その悪影響が目立たなかっただけなのだろう。

◆エネルギー産業の構造変化による危険

もちろんエネルギー産業も「お人好し」の行為ばかりではない。最近の気候変動対策を訴える世界潮流の中で、日本のプラントメーカーに、韓国企業から視察や共同事業の要請が増えているという。文在寅政権の脱原発政策で再エネシフトが加速して同国では補助金がかなり出るのだが、その技術が民間にないそうだ。ところが日本の重電、インフラのプラントメーカーは、戦前に源流がある会社が多く、「いわゆる徴用工」を強制連行したと韓国で政治的に糾弾されているところもある。「喧嘩を売られているのに手伝う必要はない。韓国企業からの要求を門前払いしている」と、前述の技術者は語った。緊張する日韓関係が影響している。

また途上国では、中国・韓国企業とプラント入札で競争する事案が年々増えている。「中国勢、韓国勢は、年々技術力を上げている。そしてどうも、日本企業から流失した技術も使っている」とその技術者は、技術の流失に神経を尖らせていた。こうした動きは当然とも言えよう。

しかしエネルギー産業は技術流失をしやすい、危うい経営環境に陥りつつある。特に電力会社だ。経営が地方の電力会社を中心に、慢性的に厳しい状況になりつつある。地方経済の不振、少子高齢化による需要減、そして電力自由化という複合のためだ。

日本の電気メーカーが2000年前後に業績不振からリストラをしたときに、海外メーカーに技術者が流れ、技術が流失したことがある。同じことがエネルギー産業でも起きかねないだろう。退職した技術者が海外企業に行き、苦境に直面した企業が技術をライバルに売っても、合法であるならば誰も非難できない。

◆対応策は産業そのものを元気にすることだが…

そして電力の中でも、原子力技術の流失が懸念される。原子力の技術者個人や企業を中心に今、いくつかのアプローチが外国の新興原子力企業からあるそうだ。

原子力では、炉そのものの核心部分は、各国の各社が自前技術を使う。しかし、その周辺の建設材料、工法、燃料の配置や運用などでは、1990年代まで原子炉を作り続けた日本の東芝、日立、三菱重工の三大メーカー、その関連会社が多くの知見を持っている。まだ大規模な人や技術の海外流失の話は筆者の耳には聞こえてこない。しかし原子力産業が国内でここまで停滞し、中国を中心に世界各地で原発の建設需要がある以上、自分の力を売りたいという人や企業は当然出てくるだろう。

今後の日本のエネルギー産業・関連産業、原子力産業は、海外事業に力を入れなければならない。国内では、エネルギーのどの分野も大幅な需要増は見込めない。ところが、海外で日本企業は、流失した日本の技術を持つ外国勢と戦う事になるかもしれない。

エネルギー産業の各社は、技術流失の可能性を警戒するべきだろう。特許や管理の厳格化は当然行なっているはずだろうが、それをもう一度見直してほしい。

そして、技術流失を防ぐ最良の方法は、産業そのものを発展させることだ。その技術を自分たちで使い、利益を得て技術をさらに発展させ、技術者が喜び、技術を外に持ち出したり、会社が技術を売ったりする必要のない状況を作り出すことだ。エネルギー産業の将来について国内だけを考えると先行きは厳しいが、技術を守る対応をしないと海外事業でも苦境はさらに厳しくなる。