「30年代電動化」で大混乱 業者・ユーザーは置き去りか


わが国の自動車産業は一体どうなってしまうのだろうか。多くの人々が、漠然とした不安を感じているに違いない。

菅政権の2050年カーボンニュートラル宣言を受け、政府は30年代半ばまでに全ての新車を電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)などの電動車に切り替える方針を打ち出した。東京都も30年までに都内で販売される新車を全て電動車にするという。これに伴い、純ガソリン車やディーゼル車は廃止される方向だ。

エコカーのはずだったクリーンディーゼル

「動きが急すぎる。米国でバイデン政権の誕生が濃厚になったこともあるだろうが、この数カ月間で自動車の脱炭素化が急加速した。とりわけクリーンディーゼル車はエコカーとして補助金を受け免税されてきたにもかかわらず、一転して環境悪扱いされるとは、ふざけた話だ。下取り価格も今後急速に値落ちするだろう。これほどユーザーをないがしろにした政策もない」(エネルギー業界関係者)

問題は山積している。トラックやバス、建機車両、またオートバイはどうするのか。これらも全てEVやHVに切り替えるのか。内燃機関メーカーの下請けや整備工場、全国3万弱のガソリンスタンド業者の経営はどうなるのか。カーボンゼロのツケは大きそうだ。

【イニシャルニュース】大手関係者さえ不要論 容量市場の意義とは ほか


1.大手関係者さえ不要論 容量市場の意義とは

将来の供給力(kW)を確保することを目的に、2020年7月に初めてのオークションが実施された容量市場。1万4137円と上限に近い価格で約定したことは、新電力の経営に打撃を与えかねない事態を招いている。大手エネルギー会社の幹部X氏は、「支払いが始まるまでの数年稼いで、小売り事業から出ていく新電力も多いのではないか」とみる。

電力関係者のY氏は、「約定価格がいくらであろうと、再エネがこれだけ入ってしまえば大型電源投資は望めない。小売り事業者にとって単なるコストアップ要因にしかならない上に、大手電力会社を利するだけの制度など初めから導入するべきではなかった」と一刀両断する。

大手電力会社にしても、今回の結果を、もろ手を挙げて歓迎しているわけではなさそうだ。「応札量が想定を下回ったことで、本来であれば用済みだった老朽火力電源までもが、落札圏内に入ってしまった」(別の大手電力関係者V氏)。オークションで落札できなければ、国のお墨付きを得たということで電源廃止に向けた交渉を地元と始められるはずだった。そのもくろみが崩れたというわけだ。

多額の容量拠出金の支払いを迫られる新電力のみならず、収入増が期待できる大手電力関係者でさえ懐疑的な容量市場。いまさら制度をなくすことはできないのだろうが、応札要件を満たせなかった場合のペナルティーの在り方など、ルール面を含めた仕組みの見直しが求められる。

2.カーボンゼロで大揺れ ガス業界の選択は?

菅政権が表明した「2050年カーボンニュートラル(実質ゼロ)」目標を巡り、都市ガス業界が揺れている。

「原料の天然ガスは石炭や石油に比べクリーンなため国を挙げて普及拡大を促進してきた。それがカーボンゼロとなった途端、一転悪役に。アクセル、ブレーキのどちらを踏めばいいのか、業界内で大きく意見が割れている。特に声を上げ始めているのが、一線を退いた有力OBだ」。都市ガス関係者はこう話す。

首相発言でガス業界が揺れている

日本ガス協会や最大手の東京ガスでは、①CO2クレジットを利用したカーボンニュートラルLNG、②水素とCO2を合成してメタンガスを作るメタネーション、③バイオガスなどの再エネや水素の活用―を推進することで、実質ゼロを目指す方針を打ち出している。しかし現実的には、技術面、コスト面、インフラ面などで課題が山積している状況だ。

「化石エネルギーを主力商品にするガス会社が脱炭素とは何事か。脱化石自体、冷静になって考えれば実現不可能な話。目指すのはあくまで低炭素だ。エネルギーで飯を食っている人間がそれぐらい分からなくて、どうする」(大手都市ガス会社元役員X氏)

「脱炭素化を目指す世界的な潮流に、エネルギー事業者が逆らうことは困難だ。かつての石炭業界と同じ道をガス業界も歩むことになるのではないか。企業としての存続・発展を考えるのであれば、ガス会社は電力をメインに扱う総合エネルギー会社に脱皮すべきだ」(大手都市ガス会社元役員Z氏)

両氏とも、今が業界の存続を左右する重要な時期との認識では一致している。21年も論争は一段と激しさを増しそうだ。

3.なぜ議事要旨にない? 炭素税など重要発言

20年12月2日に開催された総合資源エネルギー調査会資源・燃料分科会では、50年カーボンニュートラル目標に向けて化石エネルギー業界がどう対応するのかを巡り、激論が交わされた。

会合では、学識者のK委員やT委員が将来の炭素税導入に際し、各企業が対応できるようあらかじめ備える重要性を強調。また天然ガス業界がLNG開発推進の重要性を説く中で、消費者団体のH委員は天然ガスにもダイベストメント(投資撤退)が広がる可能性について言及するなど、「多面的な角度から、資源政策の将来像に関わる極めて重要な発言があった」(ガス業界関係者)。

議論の内容は、資源エネルギー庁のウェブサイトで議事要旨が公開されている。しかしその中には、炭素税やダイベストメント関連の発言に関する記載が全くない。

この件についてエネ庁事務局に問い合わせると、「あくまで議事要旨は速報性を重視しており、議論が交わされた主だった項目を挙げている。当然、抜け落ちてしまっている部分もある」と説明する。

各委員の発言を詳細に記述した議事録の公開時期については「各委員の確認後に公開を予定している。1カ月程度はかかるだろう」と話しており、早ければ12月末には公開される見通し。会合で行われた議論内容を正しく知るには、議事要旨だけでは不十分。発言の抜け落ちに事務局の他意はないと思うが、議事の内容が分かるまで1カ月ほどは長すぎる。

【先行配信】危機を克服した経営改革 Fパワー「V字回復」の全容


埼玉浩史 Fパワー会長兼社長

2018年に大幅赤字に転落し経営再建・改革を進めてきた新電力のFパワー。20年6月期決算で黒字化を達成した秘訣を、埼玉浩史・会長兼社長が語る。

聞き手・井関晶エネルギーフォーラム編集部長

さいたま・ひろし 1988年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。2009年Fパワー設立。14年社外取締役、18年7月から現職。

―現在の経営状況からお聞かせください。

埼玉 当社は2018年6月期から2期連続で大幅な赤字となりました。経営体質を根本から変革するために、小売りにおける収益性の改善(撤退も含む)や調達側のコストの見直し(PPA=電力販売契約=解除や条件変更含む)などに取り組み、20年6月期は1~2億円程度ですが、黒字転換の見通しになりました。

―経営不振に陥った最大の原因は何ですか。

埼玉 原油先物を活用したプライシングモデルを使って(電力販売)規模拡大を目指していたが、原油価格と国内電力価格が予想以上に乖離したため、結果として取引開始時の電力販売条件では多くのお客さまが不採算取引となり、赤字の一因になりました。また規模拡大に対応するため、大手電力会社との相対卸取引に取り組みましたが、当初は手探りでしたので、当社にとって厳しい条件となり、大きな負担になったことも要因です。収益性を重視した結果、小売り規模を縮小させたことで、市場依存度に対する保険として確保していた10万kW級のPPAの基本料金が負担になったことも挙げられます。

21年6月期は10億円前後に黒字拡大 ロードカーブ分析しコスト最小化

―再建に当たって進めてきた改革は?

埼玉 規模重視から収益重視への転換です。特にお客さまに見積りを提示する際に新たなプライシングモデルを活用して、負荷率やkW時によって独自の収益基準を作り、その運用を厳格に管理してきました。商品開発にも力を入れ、市場の変化に対して一定の収益が確保できる市場連動商品を開発し、積極的に販売しました。大手電力会社との相対卸取引の条件も収益性を重視した交渉を粘り強く続け、当社にとってメリットのある条件を確保することもありました。そのほかのPPAについても、採算性とリスクヘッジの両面から判断して、条件変更(緩和)を行いました。

―需要の推移はどうですか。

埼玉 大きな流れでは18年春に約500万kW弱だった規模が、顧客ポートフォリオの抜本的見直しなどで19年秋には約140万kW弱まで縮小しました。そこから、改めてお客さまを増やしていき、20年春に200万kW超に復活しました。現在は21年6月をめどに約300万kWの規模を目指しているところです。収益面では先ほど申し上げたように、昨期は黒字化を達成し、今期(21年6月期)についても、前半は燃料費調整制度の影響がありますから、収益性は苦しいですが、年度後半には収益性を確保しながらの規模拡大が寄与してきますので、10億円前後の黒字を確保する見通しです。

―Fパワーの強みはやはり価格競争力にあると思います。その秘訣を教えてください。

埼玉 お客さまの需要構造、ロードカーブを徹底的に分析し、それに合致した形でコスト最小化を追求したプライシングを行うということです。従来のように需要の最大値を基準に値決めするのではなく、料金の安さを求めるお客さまには正確なロードカーブのデータと計画を提出していただく。私どもは、それに対してギリギリのプライスを提示するわけです。当社の強みであるヒアリング力を活用しながら、お客さまと一緒になってロードカーブを的確にコントロールしていくことが、最大のポイントだと考えています。お客さまのロードカーブの正確性が当社側の調達、さらには正確な需給調整を可能にし、それがお客さまの価格に影響するといった好循環を起こしていこうと考えています。

―営業に当たっては、需要家と密接に連携していくことが重要ですね。

埼玉 その通りです。当社の営業マンとしては、お客さまのロードカーブに対するアンテナの感度をいかに磨いていくか、それをもとにWin―Winのプライシングをどう構築していくかが腕の見せどころになると考えています。もちろん、お客さまのニーズに合った付加価値の高い商品開発にも力を入れていきます。

主な競合相手は大手電力に 価格のたたき合いには参加せず

―主な競合相手はどんな事業者ですか。

埼玉 現在は、負荷率が高い先であったり、ロードカーブとしては全国に工場が分散しているお客さま、負荷率の変化やロードカーブに特徴のあるお客さまなど、これまで大手電力会社の主戦場だったゾーンに踏み込み始めているので、その意味では、新電力ではなく、大手電力とバッティングする局面が増えつつあります。ただし、たたき合いには参加しません。この2年間徹底して取り組んできたことです。

―改めて、社内外に対するメッセージを。

埼玉 長いトンネルの中で当社の未来を想像し、何をすべきかを社員一人ひとりが理解し懸命に取り組んでくれたことが今回の結果につながりました。感謝の気持ちでいっぱいです。またステークホルダーの皆さまにはご負担、ご心配をお掛けしました。経営者としての責任を痛感する日々でしたが、黒字化、Ⅴ字回復を信じてここまでやってきました。新たなハードルとして電気事業法の改正がありますが、逆にこれをビジネスチャンスにすべく、お客さまのニーズにしっかり応えていきたいと考えています。

〈編集部注〉

埼玉氏は20年10月30日、Fパワーの株主でエネルギーインフラファンド会社であるIDIインフラストラクチャーズの社長を突如解職された。同社の50%株主である大和証券グループ本社による緊急動議が原因だ。これに対し、同社の株主会は11月24日、大和証券グループ本社による株主間契約に違反し、IDIインフラの荒木秀輝社長(大和証券グループ本社常務執行役員)と松井敏浩取締役(大和証券グループ本社副社長)の善管注意義務違反、忠実義務違反、利益相反にも当たるとして、東京地方裁判所に提訴を行った。なぜ、このような騒動が巻き起こったのか―。エネルギーフォーラムのウェブサイトに、解職問題に関する埼玉氏のインタビュー記事を掲載しています。

さいたま・ひろし 1988年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。2009年Fパワー設立。14年社外取締役、18年7月から現職。

【記者通信/12月24日】東ガスが英企業と電力小売り 21年事業開始にコロナの影


東京ガスは12月23日、英国のエネルギースタートアップ企業である「オクトパスエナジー社」と戦略的提携を結ぶことで合意したと発表した。21年2月にも共同出資会社を設立し、日本全国で電力小売り事業を展開していくとともに、東ガスは英国に設立する子会社を通じてオクトパス社に対し200億円を出資する。

オクトパス社は、2015年設立と後発ながら、デジタル技術と効率的な顧客対応ノウハウを組み合わせた「顧客体験の創出」により、英国の電力・ガス小売り市場で契約数を着実に伸ばし急成長を遂げている。既に独・豪・米など海外進出も果たしているが、アジアでの展開はこれが初めてだという。東ガスとしては、オクトパス社のノウハウを取り入れることで、従来の対面営業にはない新たな顧客接点をつくり契約数拡大につなげるとともに、サービスの拡充や再生可能エネルギーの普及拡大を推進していきたい考えだ。

デジタル化への対応を着々と進める東ガス

ただ一方で、新型コロナウイルスの感染拡大が思わぬ事態を引き起こしていることも、この日の会見で明らかになった。事業開始に当たり、先進的なデジタル技術やサービスメニューづくりのノウハウなどを共有するため、オクトパス社から10人ほどが来日する予定だったが、英国内での変異種の流行によって招聘が難しくなってしまったのだ。事業開始は21年秋とまだ先だが、コロナ禍が長引けば影響することもあり得る。

【記者通信/12月23日】50年再エネ5~6割 ?数字の一人歩きに注意


経済産業省は12月21日、総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)基本政策分科会で、2050年カーボンニュートラルを目指す際の一つの目安として、①再エネは発電電力量の5~6割、②火力のうち水素・アンモニアで1割、③残りの3~4割を原子力と、CCUS(CO2回収・利用・貯留)を付けた化石燃料を使う火力――といった案を示した。再エネ主力化をまず念頭に置いてはじき出した案だが、再エネ5~6割という水準は、河野太郎・規制改革相が検討を進めている、農地法や森林法などの規制緩和ありきの数字だ。

再エネ拡大の課題のひとつが土地制約だ。日本は国土の7割を森林が占め、平地の多くが既に宅地や農地として開発済み。50年カーボンニュートラル実現に向けた電力中央研究所のシナリオによると、例えば農地での再エネ導入は、耕作放棄地の7~8割に太陽光や風力、あるいは営農型太陽光を設置。その上で、50年に20万戸程度まで減少するとみられる農家の全戸数で、1戸当たり100㎾の営農型太陽光の設置が必要だと試算した。

こうした風景も拝めなくなってしまうのか

河野大臣が規制緩和の必要性を訴える前の9月下旬時点で、ある経産省幹部は「林地での再エネ開発で問題が多発しているなら、後継者不足に悩む農業を使えば良い。農地法改正を進めれば再エネのボリュームは簡単に積み増せる」と語っていた。だが、再エネ主力化が重要とはいえ、国土利用は多様な観点から慎重に考えるべきだ。また、FIT以外の新たなインセンティブがなければ、全農家への太陽光導入が実現するとは思えない。そうした観点での議論が深まらず、数字が一人歩きすることを懸念している。

【記者通信/12月23日】Fパワー価格競争力の秘訣 原点は「ロードカーブ営業」


新電力大手のFパワー(東京・田町)が2018年の大幅赤字から脱却し20年6月期決算で黒字化を達成できた背景には、同社独自の「ロードカーブ営業」に基づく価格競争力の強化があることが、埼玉浩史・会長兼社長の話で分かった。これは、需要家へのヒアリングに基づき、電力の需要構造やロードカーブを徹底分析し、それに合致した形でコスト最小化を追求したプライシングを行うという手法だ。

「従来のように、需要の最大値を基準に値決めするのではなく、料金の安さを求めるお客さまには正確なロードカーブのデータと計画を提出していただき、それに対してギリギリのプライスを提示する」「お客さまと一緒になってロードカーブを的確にコントロールしていくことが、最大のポイントだと考えている。お客さまのロードカーブの正確性が、当社側の調達、さらには正確な需給調整を可能にし、それがお客さまの価格に影響するといった好循環を起こしていきたい」(埼玉社長)

同社の顧客ポートフォリオに基づく全体のロードカーブから最適な電力調達と需要構造を見出し、その分析結果を踏まえて営業先を発掘するという方法も導入。大手電力会社も含めた電力事業者の多くが、「kW時の価値は薄れてきた」(東京電力関係者)として、サービスなどの付加価値追求型の営業に向かう中、Fパワーはあえて電力営業の原点に立ち返り「本当の意味でのkW時営業によって価格競争力を追求していく」(埼玉社長)構えだ。電力制度のゆがみを狙う攻撃的な営業手法が話題を集めてきた同社の改革の行方が注目される。

【記者通信/12月18日】寒さより強風が原因? 需給ひっ迫の裏側


厳しい寒さと大雪が日本列島を襲い、全国で電力需給が厳しくなったり、木や電柱が倒れ停電が発生したりしている。関西電力エリアでは、15日早朝の電力使用率が99%に達するなどひっ迫。16日朝まで6回に渡って東京電力パワーグリッドなどから電力融通を受け、深刻な電力不足は回避した。

このような事態になった背景を探ってみると、意外な理由が見えてきた。各社に融通指示をした広域機関はその理由について、「低気温により想定以上に需要が増加」「一部の発電所の供給力低下が見込まれる」と説明している。実はこの供給力低下、関係者によると強風が影響している。「南港発電所と堺港発電所にLNG船が接岸できず、燃料切れトリップを防ぐために出力を下げざるを得なかった」というのだ。17日午前には船が接岸できたため、危機は脱した模様だ。

【記者通信/12月17日】IDIインフラの前社長が激白 突然のトップ交代劇の真相


エネルギーインフラ投資ファンドのIDIインフラストラクチャーズで不可解なトップ交代劇が起きた。10月30日開かれた取締役会で埼玉浩史氏が代表取締役社長を解職され、大和証券グループ本社常務執行役員の荒木秀輝氏が後任の社長に就任したのだ。ガス、石炭、水力、太陽光などの発電所を運営し、新電力大手Fパワー(埼玉会長兼社長)の株主として活躍してきた同社だが、2018年に発生したFパワーの経営危機と前後して、エネルギー業界内では不穏なうわさが飛び交っていた。突然のトップ交代の舞台裏では、一体何が起きていたのか。渦中の埼玉氏がこのほどエネルギーフォーラムの単独インタビューに応じ、真相を激白した。(埼玉氏のインタビューのうち、Fパワーの経営再建・改革に関する部分はエネルギーフォーラム1月号=12月25日発売=に掲載いたします)

聞き手・井関晶エネルギーフォーラム編集部長

埼玉浩史 IDIインフラストラクチャーズ(以下、IDIインフラ)は、エネルギー専門のインフラファンドです。現在、IDIグループと大和証券グループ本社の株主比率は、50対50のジョイントファンドになっています。

今回起きた事件(社長解職騒動)のいきさつを申し上げると、大和証券グループが株主間契約違反を犯して株主に何の相談もなく、すでに退職した元従業員から内部通報があったとして、IDIインフラのコンプライアンス規定も無視する格好で突如、IDIインフラの取締役会を使って大和証券グループと親密な弁護士事務所を指名し、外部調査をするという暴挙から始まりました。大和証券グループ本社所属の木曽慎二監査役が、すでに退職した元従業員数人にインタビューしたという事実不明の理由だけでいきなり、社内コンプライアンス規定を無視して、多大なコストがかかる外部調査を実施すべきと判断したのです。

一方的な社長解職だったと語る埼玉氏

社内調査を一方的打ち切り 忠実義務違反などで解職

当該外部調査ではスコープやコストが明確にされず、正式な契約手続きがないまま、要は調査に協力できる環境が整わないまま、私自身へのインタビューもない。最終的には、私が調査拒否をしたという理由で調査を勝手に終了し、元従業員の内部通報のみをベースとした外部調査報告書が作成されました。その内容も、調査を一方的に打ち切り、また内部通報にかかる事実について違法行為までは認められないとさえしているにもかかわらず、調査への非協力を理由にして私の善管注意義務・忠実義務違反を認定するなど、極めて恣意的で不合理なものです。さらには、大和証券グループの主導により、その外部調査報告書のみを使って、10月30日のIDIインフラの取締役会で、私の代表取締役社長の解職に至ったものです。

何よりも大和証券グループ本社の松井敏浩副社長(IDIインフラ社外取締役)、荒木秀輝常務執行役員(IDIインフラ社長)、および木曽監査役(IDIインフラ社外監査役)が自分たちの都合だけでここまでの暴挙を引き起こした責任は重たいです。

【記者通信/12月16日】Fパワーが20年6月期に黒字化へ 改革断行で経営危機脱却


新電力大手のFパワー(東京・田町)が2年前に陥った経営危機から脱却し、2020年6月期決算で黒字に転換することが、埼玉浩史・会長兼社長への取材で分かった。

同社は18年6月期から2年連続で大幅な赤字に転落。赤字幅は一時、300億円に達した。需要家向けのプライシングモデルに活用していた原油先物価格と、国内電力価格の推移が想定以上に乖離したことが主な原因だったという。加えて、大手電力会社との相対卸契約の条件や、市場依存度に対する保険として確保していたPPA(電力販売契約)の基本料金なども、大きな負担になった。

これらを反省材料に、同社は規模重視から収益力重視への経営改革を断行。負荷率やkW時をベースとした新たな収益基準を策定し、その運用に徹底して取り組みながら、顧客ポートフォリオの抜本見直しなどを進めてきた結果、20年6月期決算では1~2億円程度の黒字化を達成できる見通しだという。今後も収益はさらに改善され、「21年6月期については10億円前後の黒字を確保できそう」(埼玉社長)だとしている。

(エネルギーフォーラム1月号=12月25日発売=に、Fパワーの経営再建・改革の全容に迫る埼玉社長のインタビュー記事を掲載いたします)

【イニシャルニュース】出身企業へ利益誘導? 規制改革議論の実態 ほか


1.出身企業へ利益誘導? 規制改革議論の実態

安倍政権下では、未来投資会議を司令塔に、第一次産業に企業を参入しやすくするさまざまな規制緩和が実施された。だがその実態については「政権と結び付いた経営者『M、T、N』の企業が私腹を肥やしただけ。利益相反だ」との指摘が出ている。

M氏はO社会長、T氏はP社会長、N氏はS社社長。T氏は現在もO社社外取を、N氏もかつてO社社外取を務めていた。両者は菅義偉政権でも政府の会議メンバーに名を連ねている。

例えば再生可能エネルギー関係では、洋上風力への参入、あるいは木質バイオマス発電事業を後押しする狙いで、漁業法を改正、また森林経営管理法などが制定された、との見方がある。少なくとも再エネ開発に積極的なO社にとって、これらの規制緩和は望ましいものだ。

さらにO社関連会社が、国家戦略特区であるH県Y市の農地を取得しているが、T氏は政府会議で企業の農地取得の全国展開を要請しているという。参入企業が粛々と農業に勤しむならまだよい。

しかし、農地転用許可の権限を持つ農業委員会は、以前の選挙制から任命制に変更されている。企業関係者が委員に納まれば、農業で儲からなくとも、農地転用して再エネ事業などに転換できるというわけだ。

しかも、現在再エネ拡大のための農地法改正までも浮上している。そうなれば、さらに容易に転用できることになる。再エネ拡大のための規制緩和という大義名分の下、さらなる利益相反の仕組みが検討されるのか。

2.中西会長批判が噴出 「電力再編」提言の波紋

大手電力会社の間で、中西宏明・経団連会長への批判が強まっている。

きっかけは、11月9日に開かれた政府の経済財政諮問会議。この場で、中西会長のほか、竹森俊平・慶応大学教授、新浪剛史・サントリーホールディングス社長、柳川範之・東京大学大学院教授の計4人が連名で「グリーン成長の実現に向けたイノベーションと投資の創出」と題する資料を提出したのだ。

経済財政諮問会議への提出資料が問題に

その中の「エネルギーインフラ産業の活性化」に、次のような内容が書かれてある。

「業界再編も含めた電力産業の構造改革を通じて送配電網の増強やネットワークの広域化を推進し、発電施設への集中投資や大型蓄電池の活用による調整力確保と合わせ、再生可能エネルギーを主力電源化すべき」

これに対し、大手電力会社の関係者からは、「経団連代表の立場で、特定の業界の再編問題に言及するのは、おかしい」(K氏)、「出身母体の日立製作所にとって利益になるような、我田引水の発言ではないか」(C氏)、「日立の関係する会合には出ないことにした」(H氏)といった怒りの声が噴出した。

ただ、これはあくまで連名提言の一部に過ぎない。中西氏が個別に提出した資料を見ると、「電力再編」の文言はなく、むしろ「合理的な規制のもと、安全性が確認された原子力発電所の再稼働を推進すべき」「脱炭素社会の実現を真剣に考えれば原子力の活用は不可欠」などと、大手電力会社を援護射撃する内容が中心となっている。

「NHKなどの大手メディアが、ニュースの中で『電力再編』を強調したことで、いらぬあつれきが生まれてしまった気もする」(大手エネルギー会社A氏)

確かに、責任の一端がメディアにあるのは間違いない。中西氏にとっては、とんだとばっちりかも。

TLCのニーズは地方にあり! 地元企業と連携し安定供給を確保


TOKAIは、暮らしに関わる多彩なサービスを総合的に提供している。日本各地にある地元企業との連携により、業容の拡大を図っているところだ。

LPガス販売大手、TOKAI(本社・静岡市)が取り組む営業戦略の特色は、TLC(トータル・ライフ・コンシェルジュ)事業にある(図参照)。

利用者は、導入するサービスの数を増やすほどポイント還元率がアップし、お得になる。TOKAIにとっても、サービスの複合化による増収のほか、顧客囲い込みなどの効果が期待できる。このTLCを、同社は人口減少や高齢化が進む地方に照準を合わせて展開しているのだ。理由について、TOKAIホールディングスの中村俊則・取締役常務執行役員はこう話す。

「大都市部では大手事業者を中心にして既に激しい競争が行われています。そんな市場にあえて当社がTLCを引っ提げて参入したところで、お客さまを獲得し、利益を上げるのは難しい。一方で地方に目を転じると、新規参入はなく、競争もほとんど起きていない。しかしニーズがないわけではない。むしろ、生活インフラが未整備という事情を踏まえると、大都市よりもニーズが高い可能性がある。そこに、地域の企業と連携しながら、TLCサービスを提供すれば業容拡大の余地は十分あると考えています」

その言葉通り、同社はこれまで、群馬県下仁田町や秋田県にかほ市の公営都市ガス事業のほか、岡山県倉敷市や長野県諏訪市、宮城県仙台市のCATV事業などを次々と買収。そこを拠点に、高速光通信網などを整備し、TLC事業の拡大に力を入れている。同社グループの顧客総数は約300万件。うち、TLC会員は94万件と約3分の1を占めるまでに成長した。

本業のLPガスについては、どのような状況か。本拠地の静岡や千葉、神奈川のほか、北は宮城から西は福岡までと、まさに全国展開の様相だ。

「安定供給の要は、充塡と配送。そこについては信頼できる販売事業者とのアライアンスを積極的に推進していきます。例えば地方の販売店を見ると、充塡所を保有しているものの、顧客サービスまで手が回らない事業者が多い。そこでサービスを当社に委託する代わりに、当社の配送を受け持ってもらう。そうした相互補完で協業していくわけです。LPガスは現在のコロナ禍において、経産省から事業継続をしっかりやってほしいと期待されている。LPガスはライフラインそのものだという意識を全社員が持って、日々の業務に当たっています」(丸山一洋・TOKAI専務取締役)

10月には、AIやビッグデータ、IoTなどを活用したLP ガス基幹システムを再構築。LPWA端末を利用した自動検針システムの推進と合わせて、業務効率化を図るとともに顧客基盤の拡大と収益力強化を目指す。

IPP・PPSの変遷に見る 電力自由化の過去・現在・未来


電力自由化によって誕生した「IPP」「PPS」という呼称は一時、エネルギー業界を席巻した。いまや死語と化す中、容量市場、新電力市場に形を変え、新たな業態を作り上げようとしている。

「電力再編の箇所は気に入らないが、このペーパーには懐かしいキーワードが盛り込まれているな」

11月9日に開かれた政府の経済財政諮問会議で、中西宏明・経団連会長ら民間委員4人が連名で提出した『グリーン成長の実現に向けたイノベーションと投資の創出』を見た大手電力会社の幹部は、こんな感想を漏らした。そこには、電力関係者が眉をひそめる〈業界再編も含めた電力産業の構造改革〉の表記に加え、傍線付で次の文章が強調されている。

〈「経済と環境の好循環」を生み出すよう、イノベーションと投資を活性化し、エネルギー部門の高コスト構造を打破し、脱炭素化の取組を加速する必要がある〉

温故知新のキーワード 要因は火力から再エネへ

高コスト構造―。1990年代、まさに電力自由化が産声を上げた当時の電気事業審議会(旧通産相の諮問機関、現電気事業分科会)で飛び交ったのが、このキーワードだ。バブル経済崩壊で日本全体が未曽有の不況に陥る中、産業再生に向けた方策の一つとして、国際的に割高な水準にあったエネルギー価格の「内外格差是正」が浮上。とりわけ通産省が目を付けたのが、強固な地域独占体制下で総括原価方式が認められていた一般電気事業の高コスト構造だ。

「電力会社を頂点に、重電、商社、ゼネコンなどがぶらさがる〝電力共産主義体制〟をぶち壊すことで、高コスト体質の業界構造にメスを入れ、国内産業全体の競争力を強化する」。そんな合言葉の下、当時の村田成二・資源エネルギー庁公益事業部長(後の経産事務次官)を筆頭とする改革派官僚は、タブー視されていた「電力自由化」へと突き進んでいく。

ほどなくして、日本経済は長期のデフレに突入。電力事業では自由化に伴う競争激化の影響もあり、東日本大震災前の2010年にかけて、高圧部門を中心に電気料金は大幅な値下がりを見せた。震災後、全国的な原発停止や再生可能エネルギーの導入拡大で値上がりに転じたが、欧米の電気料金も相対的に上昇へ。また、12年から本格化した電力システム改革の議論では「需要家の選択肢拡大」「業態の多様化」「供給安定性の向上」「低・脱炭素」が主眼に置かれた。いつしか「高コスト構造・内外格差の是正」というキーワードは、政策議論の場から消え去ったのだ。

電気事業制度改革の変遷 出所:資源エネルギー庁など

それが、経産省悲願の発送電分離で一般電気事業者制度が廃止された歴史的節目の年に、形を変えて復活してきた。ただ高コスト構造の主な要因を見ると、90年代は「火力発電」だったが、現在は「再エネ発電」。そこに技術革新と投資を注ぎ込むことで脱炭素化と強靭化を図り、わが国の経済成長に結び付けようというわけだ。

果たして、「ポスト自由化」時代の電力事業はどんな展開を見せていくのか。95年の卸電力自由化で誕生したIPP(独立発電事業者)と、2000年の特別高圧自由化で誕生したPPS(電力小売り事業者)の変遷をおさらいしながら、電力自由化の過去・現在・未来を検証する。

【記者通信/12月2日】処理水放出反対は正論か?自民議員の主張にエネ庁が反論


東京電力福島第一原子力発電所で発生する、トリチウムなど核種を含んだ処理水の処分方法を巡り議論がなされる中、自民党の山本拓衆院議員が処理水の海洋放出に猛反対を続けている。主な理由は、①フランジ型タンクから溶接型タンクに置き換えた際の跡地を有効活用すれば貯蔵期間を2024年秋まで延ばすことができる、②処理水を再度ALPSでろ過しても基準値を超える濃度のものがある、③処理水を放出すれば長期間にわたり福島県に風評被害が蔓延する――の3点。自身のウェブサイトなどで繰り返し主張しているものだ。これに対し、資源エネルギー庁はどのように考えているのか。原子力発電所事故収束対応室を取材した。

まず、①について、奥田修司室長は「タンクをフランジ型から溶接型に建て替えることでスペースは確かに生じる。しかし、廃炉を進めるうえで必要な建物などを作らなければならないため、その空いたスペース全てを新たなタンクの建設に回すことはできない」と話す。廃炉全体のスケジュールを考えると、これ以上のタンク建設は難しいとの見解だ。

②についても、奥田室長は「二次処理を行っても基準値を超えている場合は、基準値以下になるまで三次処理、四次処理を行う考えだ」と指摘。少なくともトリチウムに関しては、国際原子力機関(IAEA)でも安全性が保証されており、世界各国の原子力発電所から放出が行われている。また、政府が軸とする処理水の海洋放出、水蒸気放出の2案ついて、IAEAは「処分方法が技術的にも実行可能で、国際的な慣例にも沿っていると考える」(グロッシー事務局長)とコメントをしており、放出にあたってIAEAが放射線モニタリングの実施や科学的な根拠に基づいた情報発信を行うなど、支援する意向を示している。その他核種についても基準濃度値になるまで再処理を行うのであれば安全性は保障されるといえよう。

その一方で、やっかいなのが③だ。奥田室長は「処理水の性状については専用のHPを開設し広く理解を得ようと取り組んでいる。地元関係者に向けた会合も、大小含めて過去数百回にわたって開催している」と話すが、現実のハードルは高い。今年2月に専門委員会が提出した報告書を見ると、風評被害対策について「農林水産物のモニタリング測定結果を分かりやすく発信、福島県産品棚の拡充、TV、ラジオ、ウェブ、SNSなどとのメディアミックスや、海外向けコンテンツの拡充、インフルエンサーを活用したホープツーリズム」など、さまざまな取り組みを挙げている。だが、これらの対策について「抜本的な解決策にはならない」との批判も付きまとう

実際のところ、海洋放出で最大の被害を受ける可能性のある、全国漁業協同組合連合会(全漁連)は海洋放出に反対する決議を全会一致で可決したほか、福島、茨城、宮城の漁協も全面的に反対する姿勢を取り続けている。政府としては、風評被害対策に取り組む姿勢は見せているものの、地元関係者の同意を全く得られていないのが実情だ。

政府部内からは処理水問題について「9合目まで差し掛かっている」との評価が聞こえる。ある国会議員は「自民党内も山本議員以外は、海洋放出を容認する声が多数を占めており、漁連とのつながりも深い水産部会も同様だ」と強調する。菅義偉首相も総裁選の最中に「処理水問題は次の政権で結論を出す」と語るなど、問題解決の兆しは見え始めている。

山本議員は11月11日に政府関係者を伴って1F視察を行い、汚染水対策や処理水問題について説明を受けたそうだが、処理水問題に対しては「処理水の海洋放出しか選択肢がないという東京電力の主張は、正しくありません」と納得していない様子だ。

海洋放出への外堀が埋められる中、懸念を示す関係者との合意、つまり風評問題の解決という最後の「1合」を政府がどう乗り越えるのか。最終決着までの期限は刻一刻と迫りつつある。

【記者通信/12月1日】「LNG超えるパラダイムシフト」東ガス社長がネットゼロで言及


「2050年よりもできるだけ早く、国よりも早く、CO2ネットゼロを東京ガス単体として達成したい」

東京ガスの内田高史社長は11月30日に行われた定例会見で、脱炭素化に向けた意気込みをこう強調した。同社は長期経営ビジョン「Compass2030」で、2050年代のできるだけ早い段階で「CO2ネットゼロ」を目指す方針を掲げている。去る10月26日、菅義偉首相が臨時国会の所信表明演説で「2050年のカーボンニュートラル実現」を表明したことを背景に、内田社長は会見で「(ネットゼロの達成時期が)45年なのか、40年なのかはまだ分からないが、国の政策をリードしたいという考え方自体は変えていない」と述べ、国の目標に先駆ける形でネットゼロを目指す考えに改めて言及した。

具体的な方策としては、①太陽光発電やバイオマス発電、洋上風力発電など再エネ電源の導入拡大、②カーボン・オフセットされた「カーボンニュートラルLNG」の普及拡大、③メタネーションに活用可能な水素の製造コストの低減、④CCUS(CO2の回収・貯留・利用)などCO2マネジメント技術の開発――などを提起。ガス体エネルギーの脱炭素化に向けた技術開発を軸に、ネットゼロの取り組みを加速させる方針を打ち出した。

「(エネルギー事業者だけでなく、社会・経済全体のパラダイムを変えてしまう意味で)50年前のLNG導入時のパラダイムシフトを大きく超えるものだと思っている」。内田社長は、カーボンニュートラルがもたらすインパクトの大きさをこう表現した。

そもそも天然ガス転換を行った70年代当時は、地域独占・総括原価が認められていた時代だった。そうした中で大手都市ガス会社に続き、地方ガス事業者が高カロリー化のための熱量変更作業に着手したのは90年代前半。日本ガス協会が主導する「IGF21」計画の下、国の補助を受けながら、2010年の完遂を目標に、都市ガス業界の総力戦で転換作業に当たった。それが今や全面自由化によって地域独占・総括原価は事実上の崩壊状態。し烈なエネルギー間競合に対応しながら、都市ガスのネットゼロ対策に取り組んでいくわけだから、内田社長のみならず、ガス業界関係者の危機意識の高さは相当なものだ。

果たして、全国の都市ガス事業者はカーボンニュートラル時代に生き残ることができるのか。まずは、最大手である東ガスの動向に業界関係者の視線が集まっている。

【記者通信/11月26日】省エネが不要になる?脱炭素・電化の落とし穴


菅政権の「2050年カーボンニュートラル」宣言を受け、わが国のエネルギー産業を取り巻く政策・ビジネスが脱炭素化へと急速に舵を切り始めた。国の経済財政諮問会議や成長戦略会議、経団連などは相次いで「再生可能エネルギー電のイノベーション」「原子力発電の活用」「電化の推進」を打ち出し、脱炭素化と経済成長の両立を図る姿勢を鮮明にしている。

「いくらクリーンな天然ガスといえども、化石エネルギーである限りCO2の発生は避けられないが、ノンカーボン化された電気ならいくら消費してもCO2は出ない。将来的には、CO2フリーの原発と再エネ、それにカーボンオフセットされた火力で発電することで、脱炭素社会の実現が可能になる」。大手電力会社の幹部はこう指摘した上で、50年に向けて電力需要が1.5〜2倍ほど増えると予測する。

さて、こうした情勢の中で、最近気になる傾向が目に付き始めた。省エネルギーの機運が次第に薄れつつあるのではないかということだ。言うまでもなく、省エネ技術は日本が世界に誇る分野。1970年代のオイルショック以降、発電設備にしても、利用機器にしても、高効率化の技術力で世界をけん引してきた。それが、「再エネ由来の電気であれば、いくら使っても大丈夫。化石燃料からのシフトを図っていくことが最優先課題」(環境NPO関係者)となれば、状況が変わってこよう。

いくら再エネといっても、太陽光パネルや風力発電、蓄電池といった設備機器を作るためには、石油などの化石資源が必要。また再エネ電源の開発には相応のエネルギーを使うし、環境破壊も伴う。つまり、再エネが主力電源になったとしても、電力使用量自体を減らす努力は本来必要なはずだ。「再エネ分野だけでなく、省エネ分野のイノベーションをどう推進していけばいいのかは、隠された大きな課題。脱炭素化・電化を重視するあまり、省エネに対するインセンティブがなくならないよう、政策レベルで改めて確認する必要がある」(機器メーカー関係者)

省エネ機器のトップランナー制度が再び脚光を浴びる日は、果たして訪れるのだろうか。