【記者通信/1月11日】電事連・東電が節電のお願い 問われる政府の対応


3連休明けの1月12日に東京電力管内で電力需給がひっ迫する可能性が高まっている。燃料在庫の不足により火力発電が軒並み出力低下を余儀なくされるなど供給力不足が続く中、首都圏が大寒波に見舞われる予報となっているからだ。低気温に降雪となれば、日中も太陽光発電の稼働が期待できない状況下で電力需要が急増、場合によっては予備率が危険水域の3%を割り込みかねない。

12日は東京都内でも降雪の予報

こうした事態を受け、電気事業連合会や東京電力は10日、「電力の需給状況と節電へのご協力のお願い」を発表した。「お客さまをはじめ、広く社会の皆さまには、新型コロナウイルス感染症の拡大により外出自粛が求められる中、大変ご迷惑とご心配をお掛けし誠に申し訳ありませんが、寒波の中での暖房等のご使用はこれまで通り継続いただきながら、日常生活に支障のない範囲で、照明やその他電気機器のご使用を控えるなど電気の効率的な使用にご協力いただきますようお願いいたします」(東電ホールディングス・東電パワーグリッド)

問題は、肝心の政府が節電要請に及び腰なことだ。梶山弘志・経済産業相は3連休前の8日の閣議後会見で、節電要請の検討を問う記者に対し、こんな見解を示した。

【記者通信/1月10日】JEPXが最高値更新 梶山経産相は市場健全化に言及


日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格がまたも最高値を更新だ。1月11日の受け渡し価格はkW時当117.39円。時間帯別のシステムプライスを見ると、太陽光発電が止まり需要が増える午後5時半から午後8時半のコマでは、同170.20円という異常な高値を記録している。

緊迫の3連休に入る前の8日、梶山弘史・経済産業相は閣議後の記者会見で、「(JEPXの)価格が高騰し、新電力への影響を懸念する声が出ている」との質問に答える形で、現状を踏まえた電力市場の健全化の必要性に言及した。発言要旨は次の通り。

「電力自由化が行われて、さまざまな仕組みが導入された。卸市場についてもそうだし、電力全体のバランスを取るための容量市場もそうだ。また、どのような形で再生可能エネルギーを導入していくのか、さらに(電源構成を)バランスの取れたものにしていくのかは、常に考えているが、それぞれの場面、場面の状況を勘案しながら、その市場をどう改善していくかという話が出てくると思う」

「(現在発生している電力需給ひっ迫という)一つの場面だけ捉えて、こうだというのは難しいが、自由化になって、再エネも入ってきた。従来は一般電気事業者のみだったのが、発電、小売りを含めると、千数百社が対応している。そうした中で、どう健全な市場をつくっていくかということは、しっかりと現状を見ながら、考えていかなければならない」

日本列島を襲っている大寒波は今週前半も続く見通しで、12日は日本海側に加え、関東の太平洋側でも降雪など悪天候の予報。綱渡りの電力需給状況が続くため、市況の沈静化は当面期待できそうもない。大手電力関係者によれば、調達価格の高騰で経営難に陥る新電力が続出する可能性もある。ただ、業界内では「こうした乱高下が起きるのが自由化市場だ」として安易な新電力救済には批判的な声が多い。需要家保護の観点も踏まえ、経産省は難しいかじ取りを迫られそうだ。

【記者通信/1月8日】電力安定供給に黄信号 節電要請なぜ出ない?


日本海側を中心に記録的な寒波・大雪に見舞われる中、日本列島が電力不足の危機に見舞われている。LNGやC重油の在庫不足、設備トラブルに起因する火力発電の出力低下・停止のほか、悪天候による太陽光発電の未稼働などが原因だ。8日も、北陸、関西、中国、九州の4電力管内で需給がひっ迫。中でも、降雪の影響によって太陽光発電がほとんど稼働していなかった北陸管内では、正午から午後1時までの間に使用率が99%に達した。

日中に活躍する太陽光発電も、これでは役に立たない

電力広域的運営推進機関は8日、東京電力パワーグリッド、中部電力パワーグリッド(9日の発表で削除)、北陸電力送配電、関西電力送配電、中国電力ネットワーク、九州電力送配電の6エリアで、需給バランスを保つ調整力電源の供給力不足が継続的に発生しているとして、沖縄を除く9電力管内にある全ての発電設備の最大出力運転と余剰電力の市場投入を指示した。期間は8日から15日までの1週間。「少なくとも今月中は、ギリギリの状態が続くことを覚悟しなくては」。大手エネルギー会社の幹部は、ため息交じりにこう話す。

東京電力管内では8日、JERAの常陸那珂共同火力1号機(超々臨界圧、出力65万kW)が前倒しで営業運転を開始した。「これで少し余裕ができた。週末の3連休を使って揚水発電所をスタンバイさせ、来週前半に予想される太平洋側の悪天候に備える」(JERA関係者)

【記者通信/1月7日】JEPX高値続く見通し 新電力の救済はあるのか


電力の需給ひっ迫に起因する卸市場価格の高値局面は、しばらく続きそうな情勢だ。経産省や電力会社など複数の関係筋が明らかにした。「LNG火力の出力低下を引き起こしている燃料在庫の不足は、今後徐々に改善されていく。2月初旬には落ち着くだろう」。大手電力会社の関係者はこう話す。

しかし、足元の状況は極めて厳しい。大手電力会社は昨年LNGの余剰在庫を抱え、転売損失を出した反省から在庫を絞っていたところ、想定外の寒波襲来で対策が裏目に出た。問題はLNGだけでない。ピーク対応用の石油火力も、燃料となるC重油の不足で半分近くが止まったまま。現在、化石燃料の調達に商社が奔走している状況だ。

日本卸電力取引所(JEPX)のシステムプライス(下図参照)を見ると、1月8日の夕方から夜にかけてのコマではkW時120円という異常な高値を付けている。全国的な寒波は週末のみならず、来週前半にも到来する予報であり、予断の許さない電力需給状況が続く。このため、さらなる高値も予想される。

「JEPXの高値水準があと1か月も続けば、間違いなく新電力の多くが経営危機に陥る。本来であればインバランス料金の先送りなど、ファイナンス面で何らかの救済措置が必要な状況だが、果たして経産省はどう対応するか。あえて何もしないことで、600社以上も存在する新電力の整理を狙うかもしれない」(大手新電力幹部)

新型コロナ禍による緊急事態宣言に、燃料不足と価格高騰。年明け早々から、電力業界は東日本大震災以来の大きな試練に見舞われている。

【記者通信/1月7日】電源ミックス議論は「3E+S」で 脱炭素偏重の落とし穴


「全国の原子力発電が順調に稼働していた東日本大震災以前の日本であれば、少なくとも供給安定性の面では今のような事態にはならなかった。それは断言できる」。大手電力会社の幹部は、需給ひっ迫の危機にさらされている電力供給の現状について、こう言い切った。

しかし、かつて安定供給の主役を担っていた原発は、この最大需要期にもかかわらず稼働していない。しかも、現在は「司法リスク」という、得体の知れないリスクにさらされている。巨額の安全対策費を投じ、国の原子力規制委員会による安全審査を正式にパスしていても、一地方裁判所の判断一つで突然の稼働停止を余儀なくされてしまうのだ。そんな状況が続く限り、いくら実際の安全性が確保されていても、長期安定電源にはなり得ないだろう。

原子力、石炭、LNG、石油、水力、太陽光、風力、バイオマス――。それぞれの電源には、いずれも一長一短がある。各電源が抱えるリスクを的確に検証・分析した上で、供給安定性、経済性、環境性、そして安全性という「3E+S」の評価軸で、わが国の電源ポートフォリオを多面的に組み立てていく検討が、今まさに求められているのだ。2030年然り、50年然り。カーボンニュートラル宣言の影響もあり、エネルギーミックスの議論では「脱炭素」の視点ばかりがクローズアップされているが、そこには大きな落とし穴が隠されている。エネルギー事業の原点は、国民生活・経済活動を支える「ライフライン」であることを忘れてはならない。

【記者通信/1月6日】LNG燃料が不足のワケ 市場依存の新電力は青息吐息か


1都3県を対象にした緊急事態宣言の発令を控え、世の中は相も変わらず新型コロナの話題で持ち切りだ。だが今、全国的に電力需給がひっ迫しており、週末に予想される大寒波に向けて綱渡り状態にあるということを、どれだけの国民が知っているのだろうか。個人的にはコロナどころではない深刻な事態だと認識している。厳しい寒さの中、節電要請に踏み切らざるを得ないようなことになれば直接生命に関わるからだ。

需給ひっ迫の原因の一つは、全国のLNG火力が軒並み出力低下を余儀なくされていることにある。低気温のため電力需要が想定を上回り、早いスピードで燃料のLNGを消費してしまい、受け入れが追い付いていない。その背景については、「米国、ノルウェー、カタールなど上流の施設トラブルで供給量が減っている。コロナの影響でパナマ運河の通航も滞っている」(大手都市ガス会社)、「同じく寒波に見舞われている英国にLNG船が向かっているようだ」(大手電力会社)など、さまざまな声が聞こえてくる。しかし、同じLNGを原料とする都市ガスで需給ひっ迫が起きているという話は、今のところ聞こえてこない。不足しているのはあくまでも発電用LNGなのだ。どういうことか。

LNG在庫の不足が大手電力会社を直撃している

大手電力各社は東日本大震災以降、発電用LNGの輸入量を増やしたわけだが、ここ数年は再生可能エネルギー発電のシェアが急拡大。これにより、平時では調整力的に稼働するLNGの余剰感が強まっていた。ただ備蓄量に限度があるため、発電事業者と相対契約を結ぶ小売り事業者が想定する需要分を除いて早期に転売するなど、「できるだけ在庫を持たないように運用してきた」(大手電力関係者)という。電力市場調達に依存する新電力への需要流出なども、大手電力会社のLNG転売量の増加に拍車をかけた。「自由化がなければ、いや少なくとも新電力が発電事業者と相対契約で調達していれば、ここまでLNGの在庫が足りなくなることはなかった」(同)という。

【記者通信/1月5日】寒波で電力不足の裏事情 電事法第27条発動を危ぶむ声


昨年末からの厳しい寒さにより、全国的に電力需給がひっ迫した状態が続いている。東京電力パワーグリッドは3、4日の2日連続で他の一般送配電事業者から電力融通を受けることで供給力不足を回避したが、業界関係者は「今も自家発電源を含めて発電できる設備はフル稼働状態。これ以上かき集めようもなく、まさに綱渡り状態だ」と危機感を募らせる。

年が明け企業活動が本格化する前にもかかわらず、なぜこのような事態となったのか。その要因の1つは、暖房需要の高まりによる電気使用量の増加だ。一方で、供給力を見ると、「石油と違って備蓄に限度があるLNGをハイペースで消費してしまい、全国的にガス火力発電の出力低下が相次いでいる上に、もはや東電PG管内の発電設備容量の2割弱を占め昼間ならば一定の供給力となっている太陽光の一部が、降雪のため発電できない状況にある」(電力業界関係者)。

厳寒も、火力の出力低下も、全国で同時に起きている事象であり、厳しい需給は東電PG管内に限ったことではない。今のところ相互融通で乗り切ってはいるものの、懸念されるのは7日以降に襲来が予想される強烈な寒波だ。一般送配電事業者は引き続き、デマンドレスポンス(DR)の発動を含む供給力確保を進めることになるが、業界内では東日本大震災以来の電気事業法第27条、つまり「電気の使用制限」の発動もあり得るのではと危ぶむ声が聞こえている。

「30年代電動化」で大混乱 業者・ユーザーは置き去りか


わが国の自動車産業は一体どうなってしまうのだろうか。多くの人々が、漠然とした不安を感じているに違いない。

菅政権の2050年カーボンニュートラル宣言を受け、政府は30年代半ばまでに全ての新車を電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)などの電動車に切り替える方針を打ち出した。東京都も30年までに都内で販売される新車を全て電動車にするという。これに伴い、純ガソリン車やディーゼル車は廃止される方向だ。

エコカーのはずだったクリーンディーゼル

「動きが急すぎる。米国でバイデン政権の誕生が濃厚になったこともあるだろうが、この数カ月間で自動車の脱炭素化が急加速した。とりわけクリーンディーゼル車はエコカーとして補助金を受け免税されてきたにもかかわらず、一転して環境悪扱いされるとは、ふざけた話だ。下取り価格も今後急速に値落ちするだろう。これほどユーザーをないがしろにした政策もない」(エネルギー業界関係者)

問題は山積している。トラックやバス、建機車両、またオートバイはどうするのか。これらも全てEVやHVに切り替えるのか。内燃機関メーカーの下請けや整備工場、全国3万弱のガソリンスタンド業者の経営はどうなるのか。カーボンゼロのツケは大きそうだ。

【イニシャルニュース】大手関係者さえ不要論 容量市場の意義とは ほか


1.大手関係者さえ不要論 容量市場の意義とは

将来の供給力(kW)を確保することを目的に、2020年7月に初めてのオークションが実施された容量市場。1万4137円と上限に近い価格で約定したことは、新電力の経営に打撃を与えかねない事態を招いている。大手エネルギー会社の幹部X氏は、「支払いが始まるまでの数年稼いで、小売り事業から出ていく新電力も多いのではないか」とみる。

電力関係者のY氏は、「約定価格がいくらであろうと、再エネがこれだけ入ってしまえば大型電源投資は望めない。小売り事業者にとって単なるコストアップ要因にしかならない上に、大手電力会社を利するだけの制度など初めから導入するべきではなかった」と一刀両断する。

大手電力会社にしても、今回の結果を、もろ手を挙げて歓迎しているわけではなさそうだ。「応札量が想定を下回ったことで、本来であれば用済みだった老朽火力電源までもが、落札圏内に入ってしまった」(別の大手電力関係者V氏)。オークションで落札できなければ、国のお墨付きを得たということで電源廃止に向けた交渉を地元と始められるはずだった。そのもくろみが崩れたというわけだ。

多額の容量拠出金の支払いを迫られる新電力のみならず、収入増が期待できる大手電力関係者でさえ懐疑的な容量市場。いまさら制度をなくすことはできないのだろうが、応札要件を満たせなかった場合のペナルティーの在り方など、ルール面を含めた仕組みの見直しが求められる。

2.カーボンゼロで大揺れ ガス業界の選択は?

菅政権が表明した「2050年カーボンニュートラル(実質ゼロ)」目標を巡り、都市ガス業界が揺れている。

「原料の天然ガスは石炭や石油に比べクリーンなため国を挙げて普及拡大を促進してきた。それがカーボンゼロとなった途端、一転悪役に。アクセル、ブレーキのどちらを踏めばいいのか、業界内で大きく意見が割れている。特に声を上げ始めているのが、一線を退いた有力OBだ」。都市ガス関係者はこう話す。

首相発言でガス業界が揺れている

日本ガス協会や最大手の東京ガスでは、①CO2クレジットを利用したカーボンニュートラルLNG、②水素とCO2を合成してメタンガスを作るメタネーション、③バイオガスなどの再エネや水素の活用―を推進することで、実質ゼロを目指す方針を打ち出している。しかし現実的には、技術面、コスト面、インフラ面などで課題が山積している状況だ。

「化石エネルギーを主力商品にするガス会社が脱炭素とは何事か。脱化石自体、冷静になって考えれば実現不可能な話。目指すのはあくまで低炭素だ。エネルギーで飯を食っている人間がそれぐらい分からなくて、どうする」(大手都市ガス会社元役員X氏)

「脱炭素化を目指す世界的な潮流に、エネルギー事業者が逆らうことは困難だ。かつての石炭業界と同じ道をガス業界も歩むことになるのではないか。企業としての存続・発展を考えるのであれば、ガス会社は電力をメインに扱う総合エネルギー会社に脱皮すべきだ」(大手都市ガス会社元役員Z氏)

両氏とも、今が業界の存続を左右する重要な時期との認識では一致している。21年も論争は一段と激しさを増しそうだ。

3.なぜ議事要旨にない? 炭素税など重要発言

20年12月2日に開催された総合資源エネルギー調査会資源・燃料分科会では、50年カーボンニュートラル目標に向けて化石エネルギー業界がどう対応するのかを巡り、激論が交わされた。

会合では、学識者のK委員やT委員が将来の炭素税導入に際し、各企業が対応できるようあらかじめ備える重要性を強調。また天然ガス業界がLNG開発推進の重要性を説く中で、消費者団体のH委員は天然ガスにもダイベストメント(投資撤退)が広がる可能性について言及するなど、「多面的な角度から、資源政策の将来像に関わる極めて重要な発言があった」(ガス業界関係者)。

議論の内容は、資源エネルギー庁のウェブサイトで議事要旨が公開されている。しかしその中には、炭素税やダイベストメント関連の発言に関する記載が全くない。

この件についてエネ庁事務局に問い合わせると、「あくまで議事要旨は速報性を重視しており、議論が交わされた主だった項目を挙げている。当然、抜け落ちてしまっている部分もある」と説明する。

各委員の発言を詳細に記述した議事録の公開時期については「各委員の確認後に公開を予定している。1カ月程度はかかるだろう」と話しており、早ければ12月末には公開される見通し。会合で行われた議論内容を正しく知るには、議事要旨だけでは不十分。発言の抜け落ちに事務局の他意はないと思うが、議事の内容が分かるまで1カ月ほどは長すぎる。

【先行配信】危機を克服した経営改革 Fパワー「V字回復」の全容


埼玉浩史 Fパワー会長兼社長

2018年に大幅赤字に転落し経営再建・改革を進めてきた新電力のFパワー。20年6月期決算で黒字化を達成した秘訣を、埼玉浩史・会長兼社長が語る。

聞き手・井関晶エネルギーフォーラム編集部長

さいたま・ひろし 1988年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。2009年Fパワー設立。14年社外取締役、18年7月から現職。

―現在の経営状況からお聞かせください。

埼玉 当社は2018年6月期から2期連続で大幅な赤字となりました。経営体質を根本から変革するために、小売りにおける収益性の改善(撤退も含む)や調達側のコストの見直し(PPA=電力販売契約=解除や条件変更含む)などに取り組み、20年6月期は1~2億円程度ですが、黒字転換の見通しになりました。

―経営不振に陥った最大の原因は何ですか。

埼玉 原油先物を活用したプライシングモデルを使って(電力販売)規模拡大を目指していたが、原油価格と国内電力価格が予想以上に乖離したため、結果として取引開始時の電力販売条件では多くのお客さまが不採算取引となり、赤字の一因になりました。また規模拡大に対応するため、大手電力会社との相対卸取引に取り組みましたが、当初は手探りでしたので、当社にとって厳しい条件となり、大きな負担になったことも要因です。収益性を重視した結果、小売り規模を縮小させたことで、市場依存度に対する保険として確保していた10万kW級のPPAの基本料金が負担になったことも挙げられます。

21年6月期は10億円前後に黒字拡大 ロードカーブ分析しコスト最小化

―再建に当たって進めてきた改革は?

埼玉 規模重視から収益重視への転換です。特にお客さまに見積りを提示する際に新たなプライシングモデルを活用して、負荷率やkW時によって独自の収益基準を作り、その運用を厳格に管理してきました。商品開発にも力を入れ、市場の変化に対して一定の収益が確保できる市場連動商品を開発し、積極的に販売しました。大手電力会社との相対卸取引の条件も収益性を重視した交渉を粘り強く続け、当社にとってメリットのある条件を確保することもありました。そのほかのPPAについても、採算性とリスクヘッジの両面から判断して、条件変更(緩和)を行いました。

―需要の推移はどうですか。

埼玉 大きな流れでは18年春に約500万kW弱だった規模が、顧客ポートフォリオの抜本的見直しなどで19年秋には約140万kW弱まで縮小しました。そこから、改めてお客さまを増やしていき、20年春に200万kW超に復活しました。現在は21年6月をめどに約300万kWの規模を目指しているところです。収益面では先ほど申し上げたように、昨期は黒字化を達成し、今期(21年6月期)についても、前半は燃料費調整制度の影響がありますから、収益性は苦しいですが、年度後半には収益性を確保しながらの規模拡大が寄与してきますので、10億円前後の黒字を確保する見通しです。

―Fパワーの強みはやはり価格競争力にあると思います。その秘訣を教えてください。

埼玉 お客さまの需要構造、ロードカーブを徹底的に分析し、それに合致した形でコスト最小化を追求したプライシングを行うということです。従来のように需要の最大値を基準に値決めするのではなく、料金の安さを求めるお客さまには正確なロードカーブのデータと計画を提出していただく。私どもは、それに対してギリギリのプライスを提示するわけです。当社の強みであるヒアリング力を活用しながら、お客さまと一緒になってロードカーブを的確にコントロールしていくことが、最大のポイントだと考えています。お客さまのロードカーブの正確性が当社側の調達、さらには正確な需給調整を可能にし、それがお客さまの価格に影響するといった好循環を起こしていこうと考えています。

―営業に当たっては、需要家と密接に連携していくことが重要ですね。

埼玉 その通りです。当社の営業マンとしては、お客さまのロードカーブに対するアンテナの感度をいかに磨いていくか、それをもとにWin―Winのプライシングをどう構築していくかが腕の見せどころになると考えています。もちろん、お客さまのニーズに合った付加価値の高い商品開発にも力を入れていきます。

主な競合相手は大手電力に 価格のたたき合いには参加せず

―主な競合相手はどんな事業者ですか。

埼玉 現在は、負荷率が高い先であったり、ロードカーブとしては全国に工場が分散しているお客さま、負荷率の変化やロードカーブに特徴のあるお客さまなど、これまで大手電力会社の主戦場だったゾーンに踏み込み始めているので、その意味では、新電力ではなく、大手電力とバッティングする局面が増えつつあります。ただし、たたき合いには参加しません。この2年間徹底して取り組んできたことです。

―改めて、社内外に対するメッセージを。

埼玉 長いトンネルの中で当社の未来を想像し、何をすべきかを社員一人ひとりが理解し懸命に取り組んでくれたことが今回の結果につながりました。感謝の気持ちでいっぱいです。またステークホルダーの皆さまにはご負担、ご心配をお掛けしました。経営者としての責任を痛感する日々でしたが、黒字化、Ⅴ字回復を信じてここまでやってきました。新たなハードルとして電気事業法の改正がありますが、逆にこれをビジネスチャンスにすべく、お客さまのニーズにしっかり応えていきたいと考えています。

〈編集部注〉

埼玉氏は20年10月30日、Fパワーの株主でエネルギーインフラファンド会社であるIDIインフラストラクチャーズの社長を突如解職された。同社の50%株主である大和証券グループ本社による緊急動議が原因だ。これに対し、同社の株主会は11月24日、大和証券グループ本社による株主間契約に違反し、IDIインフラの荒木秀輝社長(大和証券グループ本社常務執行役員)と松井敏浩取締役(大和証券グループ本社副社長)の善管注意義務違反、忠実義務違反、利益相反にも当たるとして、東京地方裁判所に提訴を行った。なぜ、このような騒動が巻き起こったのか―。エネルギーフォーラムのウェブサイトに、解職問題に関する埼玉氏のインタビュー記事を掲載しています。

さいたま・ひろし 1988年日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。2009年Fパワー設立。14年社外取締役、18年7月から現職。

【記者通信/12月24日】東ガスが英企業と電力小売り 21年事業開始にコロナの影


東京ガスは12月23日、英国のエネルギースタートアップ企業である「オクトパスエナジー社」と戦略的提携を結ぶことで合意したと発表した。21年2月にも共同出資会社を設立し、日本全国で電力小売り事業を展開していくとともに、東ガスは英国に設立する子会社を通じてオクトパス社に対し200億円を出資する。

オクトパス社は、2015年設立と後発ながら、デジタル技術と効率的な顧客対応ノウハウを組み合わせた「顧客体験の創出」により、英国の電力・ガス小売り市場で契約数を着実に伸ばし急成長を遂げている。既に独・豪・米など海外進出も果たしているが、アジアでの展開はこれが初めてだという。東ガスとしては、オクトパス社のノウハウを取り入れることで、従来の対面営業にはない新たな顧客接点をつくり契約数拡大につなげるとともに、サービスの拡充や再生可能エネルギーの普及拡大を推進していきたい考えだ。

デジタル化への対応を着々と進める東ガス

ただ一方で、新型コロナウイルスの感染拡大が思わぬ事態を引き起こしていることも、この日の会見で明らかになった。事業開始に当たり、先進的なデジタル技術やサービスメニューづくりのノウハウなどを共有するため、オクトパス社から10人ほどが来日する予定だったが、英国内での変異種の流行によって招聘が難しくなってしまったのだ。事業開始は21年秋とまだ先だが、コロナ禍が長引けば影響することもあり得る。

【記者通信/12月23日】50年再エネ5~6割 ?数字の一人歩きに注意


経済産業省は12月21日、総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)基本政策分科会で、2050年カーボンニュートラルを目指す際の一つの目安として、①再エネは発電電力量の5~6割、②火力のうち水素・アンモニアで1割、③残りの3~4割を原子力と、CCUS(CO2回収・利用・貯留)を付けた化石燃料を使う火力――といった案を示した。再エネ主力化をまず念頭に置いてはじき出した案だが、再エネ5~6割という水準は、河野太郎・規制改革相が検討を進めている、農地法や森林法などの規制緩和ありきの数字だ。

再エネ拡大の課題のひとつが土地制約だ。日本は国土の7割を森林が占め、平地の多くが既に宅地や農地として開発済み。50年カーボンニュートラル実現に向けた電力中央研究所のシナリオによると、例えば農地での再エネ導入は、耕作放棄地の7~8割に太陽光や風力、あるいは営農型太陽光を設置。その上で、50年に20万戸程度まで減少するとみられる農家の全戸数で、1戸当たり100㎾の営農型太陽光の設置が必要だと試算した。

こうした風景も拝めなくなってしまうのか

河野大臣が規制緩和の必要性を訴える前の9月下旬時点で、ある経産省幹部は「林地での再エネ開発で問題が多発しているなら、後継者不足に悩む農業を使えば良い。農地法改正を進めれば再エネのボリュームは簡単に積み増せる」と語っていた。だが、再エネ主力化が重要とはいえ、国土利用は多様な観点から慎重に考えるべきだ。また、FIT以外の新たなインセンティブがなければ、全農家への太陽光導入が実現するとは思えない。そうした観点での議論が深まらず、数字が一人歩きすることを懸念している。

【記者通信/12月23日】Fパワー価格競争力の秘訣 原点は「ロードカーブ営業」


新電力大手のFパワー(東京・田町)が2018年の大幅赤字から脱却し20年6月期決算で黒字化を達成できた背景には、同社独自の「ロードカーブ営業」に基づく価格競争力の強化があることが、埼玉浩史・会長兼社長の話で分かった。これは、需要家へのヒアリングに基づき、電力の需要構造やロードカーブを徹底分析し、それに合致した形でコスト最小化を追求したプライシングを行うという手法だ。

「従来のように、需要の最大値を基準に値決めするのではなく、料金の安さを求めるお客さまには正確なロードカーブのデータと計画を提出していただき、それに対してギリギリのプライスを提示する」「お客さまと一緒になってロードカーブを的確にコントロールしていくことが、最大のポイントだと考えている。お客さまのロードカーブの正確性が、当社側の調達、さらには正確な需給調整を可能にし、それがお客さまの価格に影響するといった好循環を起こしていきたい」(埼玉社長)

同社の顧客ポートフォリオに基づく全体のロードカーブから最適な電力調達と需要構造を見出し、その分析結果を踏まえて営業先を発掘するという方法も導入。大手電力会社も含めた電力事業者の多くが、「kW時の価値は薄れてきた」(東京電力関係者)として、サービスなどの付加価値追求型の営業に向かう中、Fパワーはあえて電力営業の原点に立ち返り「本当の意味でのkW時営業によって価格競争力を追求していく」(埼玉社長)構えだ。電力制度のゆがみを狙う攻撃的な営業手法が話題を集めてきた同社の改革の行方が注目される。

【記者通信/12月18日】寒さより強風が原因? 需給ひっ迫の裏側


厳しい寒さと大雪が日本列島を襲い、全国で電力需給が厳しくなったり、木や電柱が倒れ停電が発生したりしている。関西電力エリアでは、15日早朝の電力使用率が99%に達するなどひっ迫。16日朝まで6回に渡って東京電力パワーグリッドなどから電力融通を受け、深刻な電力不足は回避した。

このような事態になった背景を探ってみると、意外な理由が見えてきた。各社に融通指示をした広域機関はその理由について、「低気温により想定以上に需要が増加」「一部の発電所の供給力低下が見込まれる」と説明している。実はこの供給力低下、関係者によると強風が影響している。「南港発電所と堺港発電所にLNG船が接岸できず、燃料切れトリップを防ぐために出力を下げざるを得なかった」というのだ。17日午前には船が接岸できたため、危機は脱した模様だ。

【記者通信/12月17日】IDIインフラの前社長が激白 突然のトップ交代劇の真相


エネルギーインフラ投資ファンドのIDIインフラストラクチャーズで不可解なトップ交代劇が起きた。10月30日開かれた取締役会で埼玉浩史氏が代表取締役社長を解職され、大和証券グループ本社常務執行役員の荒木秀輝氏が後任の社長に就任したのだ。ガス、石炭、水力、太陽光などの発電所を運営し、新電力大手Fパワー(埼玉会長兼社長)の株主として活躍してきた同社だが、2018年に発生したFパワーの経営危機と前後して、エネルギー業界内では不穏なうわさが飛び交っていた。突然のトップ交代の舞台裏では、一体何が起きていたのか。渦中の埼玉氏がこのほどエネルギーフォーラムの単独インタビューに応じ、真相を激白した。(埼玉氏のインタビューのうち、Fパワーの経営再建・改革に関する部分はエネルギーフォーラム1月号=12月25日発売=に掲載いたします)

聞き手・井関晶エネルギーフォーラム編集部長

埼玉浩史 IDIインフラストラクチャーズ(以下、IDIインフラ)は、エネルギー専門のインフラファンドです。現在、IDIグループと大和証券グループ本社の株主比率は、50対50のジョイントファンドになっています。

今回起きた事件(社長解職騒動)のいきさつを申し上げると、大和証券グループが株主間契約違反を犯して株主に何の相談もなく、すでに退職した元従業員から内部通報があったとして、IDIインフラのコンプライアンス規定も無視する格好で突如、IDIインフラの取締役会を使って大和証券グループと親密な弁護士事務所を指名し、外部調査をするという暴挙から始まりました。大和証券グループ本社所属の木曽慎二監査役が、すでに退職した元従業員数人にインタビューしたという事実不明の理由だけでいきなり、社内コンプライアンス規定を無視して、多大なコストがかかる外部調査を実施すべきと判断したのです。

一方的な社長解職だったと語る埼玉氏

社内調査を一方的打ち切り 忠実義務違反などで解職

当該外部調査ではスコープやコストが明確にされず、正式な契約手続きがないまま、要は調査に協力できる環境が整わないまま、私自身へのインタビューもない。最終的には、私が調査拒否をしたという理由で調査を勝手に終了し、元従業員の内部通報のみをベースとした外部調査報告書が作成されました。その内容も、調査を一方的に打ち切り、また内部通報にかかる事実について違法行為までは認められないとさえしているにもかかわらず、調査への非協力を理由にして私の善管注意義務・忠実義務違反を認定するなど、極めて恣意的で不合理なものです。さらには、大和証券グループの主導により、その外部調査報告書のみを使って、10月30日のIDIインフラの取締役会で、私の代表取締役社長の解職に至ったものです。

何よりも大和証券グループ本社の松井敏浩副社長(IDIインフラ社外取締役)、荒木秀輝常務執行役員(IDIインフラ社長)、および木曽監査役(IDIインフラ社外監査役)が自分たちの都合だけでここまでの暴挙を引き起こした責任は重たいです。