2月半ばに記録的な大寒波に見舞われた米テキサス州。氷点下の寒さで暖房需要が急増した一方で、凍結による発電所の停止で電力需給がひっ迫し、送配電網を管理するテキサス州電力信頼性評議会(ERCOT)は2月15日未明から18日にかけて輪番停電に踏み切った。
この需給ひっ迫は、電力価格の高騰をもたらした。リアルタイム市場価格が4日間に渡って上限の1MW時当たり9000ドルに達したのだ。注目されるのは、「エネルギー価格は供給の不足を反映する必要がある」として、テキサス州公益事業委員会が9000ドルに到達していなかった時間帯も含めて上限価格で精算するようオーダーを出したことだ。インバランス料金にkW時200円の上限を設け、スポット価格の高騰に歯止めをかけた日本とは反対の措置だと言える。(参考:https://www.puc.texas.gov/agency/resources/pubs/news/2021/PUCTX-REL-COLD21-021521-EMERGorder-FIN.pdf)

ただ、その爪痕はあまりに深い。3月1日、同州最大の電力小売事業者であるブラゾス・エレクトリック社が、日本の民事再生法に当たる連邦破産法11条の適用を申請し経営破綻している。ブラゾス社は、16の公益事業会社を通じて州全体で66万件を超える顧客に電力を供給しているが、現地報道によると、電力価格の急騰に伴い30億ドル以上の債務を抱えることになったという。また、市場連動プランを契約している一般家庭の中には、大寒波の最中の数日間だけで電料金が50万円以上に跳ね上がったケースが続出しているもよう。ひどいところでは、請求額が180万円に達した利用者もみられた。
電力危機による経済的な損害は小売り事業者や利用者に限ったことではない。ERCOTはブラゾス社に対し担保金など21億円を請求したが、このうち18億円が未払い。同社のみならず、こうした小売り事業者の債務不履行により、ERCOTから発電設備への支払いに必要な原資も約13憶ドル不足しているとのことだ。小売り、送配電、発電、そしてもちろん消費者に至るまで、異常気象に伴う需給ひっ迫と価格高騰によって、誰かが著しく高い利益を得たとは言い難い。
ともあれ、バイデン政権が「大規模災害宣言」を発出したテキサス州に比べれば、年初の日本を襲った寒波は「数年に一度」のレベルであり、事態の深刻さは比較にならない。しかし、そうした状況下で電力不足による全国的な需給ひっ迫が発生。日本卸電力取引所のスポット市場価格とインバランス料金の高騰が長期間にわたって続いた。その影響で、電力小売り事業者の多くが苦境に立たされ、特に大手新電力では軒並み3桁億円に達する損失が発生したとみられる。
「2020年度決算の通期見通しや経産省作成の資料、関係者の話などを踏まえると、九州電力など大手電力会社の送配電部門も収支状況は悪そうだ。おそらく、最終的に利益を手にしたのは発電事業側だろう。いずれにしても第4四半期の決算が発表される5月ごろには、小売り、送配電、発電の各事業者の収支実態が明らかになるため、市場高騰による影響度合いの検証はそこから本格的に進むのではないか」(電力業界関係者)
今後の検証作業においては、対処療法的な議論に終始せず、テキサスの状況もしっかりと見極めた上で市場の在り方や制度の抜本的な改善につなげるべきだろう。


