乗車した子供を事故から守るチャイルドシートや自転車を貸し出すシェアサイクル――。ガソリンスタンド(SS)運営で北海道最大手の北海道エネルギー(札幌市中央区)が、給油にとどまらない多彩なサービスを相次ぎ打ち出している。マイカー所有率の減少やカーボンニュートラルの実現といった課題に直面する中、消費者との接点強化に向けてさまざまな挑戦を重ねる同社に迫った。
子育て応援からシェア自転車まで
同社ウェブサイトの「道エネのサービス」にアクセスすると、サービス内容が一目で分かる14個のアイコンが目に飛び込んできた。一つが「子育て応援」で、⼦育て世代の家族にやさしいSSづくりの一環で提供するサービスの概要が把握できる。中でも、2023年7月から同社本社とSSの合計8カ所で提供を始めた取り組みが、ジェイアール東日本企画が提供するベビーカーのレンタルサービス「ベビカル」だ。今年に入ってからは、北海道エネルギーが7月にベビー用品大手コンビが公認するチャイルドシートのレンタルサービスを用意し、本社とSSの計6カ所で提供を始めた。

さらに、自動車の枠を越えた取り組みにも注目が集まっている。「モビリティライフサポート」というキーワードを掲げて移動分野の課題解決を後押しする同社は、5月に北広島市内で電動アシスト自転車のシェアリングサービスに乗り出した。開始当初は、同市内の公有地6カ所に駐輪ステーションを設け、100台を配備。スマートフォンのアプリで会員登録し、マップ上でステーションを選び予約するだけで、好きな時に手軽に利用できる。決済方法はキャッシュレスで、どこでも好きなステーションに返却できることも売りだ。こうした特徴を武器に企業や自治体と連携し、9月時点で15カ所、120台まで増設した。
押し寄せる新たな移動社会の波
北海道エネルギーが多様なサービスを展開する背景には、SS事業を巡る環境の変化がある。自動車の低燃費化や電動化に伴い給油頻度が減るとともに、自家用車の保有台数も減少。加えて、カーシェアリングをはじめとする移動サービスの選択肢も広がり、マイカーを持たなくても便利に移動できる環境の整備が進んでいる。こうした中で、経済産業省が公表した石油製品需要見通しによると、国内のガソリン需要は28年度までの今後5年間の年平均でマイナス2.6%で推移する方向にあり、顧客をつなぎ留める課題がSSや特約店に突き付けられている状況だ。
すでに北海道エネルギーは、顧客の満足度を高める施策に注力。20年7月からは、同社と北海道電力のサービスを利用すると両社から特典が得られる共同サービス「エネとも会員」を始め、着々と会員数を増やしている。会員は例えば、北海道電力のWebサービス「ほくでんエネモール」の利用で貯めた「エネモポイント」を1円単位で移行でき、北海道エネルギーのSS内にある専用端末機で、現金チャージ式の「リラプリカード」に移行したポイントを入金して給油に充てることができるという。

継続客のつなぎ留める展開に意欲
同社販売企画業務部の小野隆則・執行役員部長は、変化するカーライフを概観した上で、「電気自動車を自宅や屋外で充電する人が増える中、来店の動機づくりが重要な課題となっている。今後も継続客をつなぎ留めるサービスを充実させたい」と意欲を示した。約250カ所のSSを運営する大手特約店の同社。 災害発生時に燃料供給の「最後の砦」という責務を果たすためにもSSの経営基盤を左右する集客力を維持したい考えで、給油以外のサービスの可能性を追求する同様の事例が全国各地で一段と広がりそうだ。