【メディア論評/3月5日】第七次エネ基などを巡る報道を読む〈下編〉第七次が示した多くの課題


地球温暖化対策計画は、2050年カーボンニュートラルに向けて温室効果ガスを35年度、40年度において、それぞれ13年度から60%、73%削減することを目指すとした。一方、第七次エネルギー基本計画では、「40年に向けた政策の方向性」として、大きく「需要側の省エネルギー・非化石転換」と「脱炭素電源の拡大と系統整備」などに分けて論じられ、後者に関する項目は多岐にわたる。

●脱炭素電源の拡大と系統整備

・再生可能エネルギー(太陽光、風力、地熱、水力、バイオマス)

・原子力発電

・火力発電とその脱炭素化(LNG火力、石炭火力、石油など火力)

・次世代電力ネットワークの構築(電力ネットワークの増強、系統・需給運用の高度化)

●次世代エネルギーの確保/供給体制(水素、アンモニア、合成メタンなど、バイオ燃料、合成燃料)

●化石資源の確保/供給体制 (天然ガス、石油、LPガス、石炭)

●CO2回収・有効利用・貯留

高い削減目標のために掲げられた各ジャンルの課題進捗・政策対応は、その目標上昇のスピードに追い付けず、今後の展開は不透明さを増している。ここでは、上記のような多岐にわたる個々のテーマの課題に関する記事・論考は紹介しきれないため、大きな流れを論じたものを中心に紹介させていただく。なお、エネルギーフォーラム2月号は、〈移行期の難しさが随所で噴出〈個別4分野の現在地を検証〉と題して、洋上風力発電、原子力発電、火力発電、次世代燃料を取り上げて、現状を解説している。

参考=洋上風力発電については、週刊ダイヤモンド25年2月8日・15日合併号「洋上風力クライシス」と題して、記者のエネルギー、商社、ゼネコンなどの業界への長期にわたる取材をもとに特集記事を掲載している。

◆需要側の省エネ・非化石転換

第七次エネルギー基本計画の概要より(抜粋)

足下、DXやGXの進展による電力需要増加が見込まれており、半導体の省エネ性能の向上、光電融合など最先端技術の開発・活用、これによるデータセンターの効率改善を進める。工場などでの先端設備へのさら新支援を行うとともに、高性能な窓・給湯機の普及など、住宅などの省エネ化を制度・支援の両面から推進する。

参考=25年1月10日総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会省エネルギー小委員会資料「さらなる省エネ・非化石転換・DRの促進に向けた政策について」より

データセンター業のさらなる効率化に向けた取組(案)  (抜粋)

◇DCの最大限立地のために、電源の確保と合わせてDC自身のさらなる効率化を促す。具体的には、利用可能な効率化に資する技術の着実な実装および最先端技術の開発・社会実装の加速を図る。

情報処理技術のイノベーション

●半導体の微細化技術

微細化によって情報処理のエネルギー効率は飛躍的に向上

●光電融合 電子デバイスの電気配線を光配線に置き換える技術

省エネ化・大容量化・低遅延化を実現 

ネットワークシステム全体で電力消費100分の1

●情報処理効率の向上に向けたチップ進化及び先端実装

効率的なAIの計算のために、専用GPU(画像処理に特化した半導体チップGraphics Processing Unit)に転換       

◎朝日新聞デジタル24年11月28日付(抜粋)橘川武郎国際大学学長

Q:AIの普及など電力需要の増加で原発が欠かせないとする意見が支配的です。

A:電気が足りない=原発が必要、と考えてしまうのが間違いです。私はこうした考え方から抜け出せないことを“原発脳”と呼んでいます。米IT大手による原発の電気の購入が引き合いに出されていますが、彼らはより多くの再エネ電気を調達していますし、原発はつなぎと位置付けている、と私は見ていますまた需要が本当に増え続けるのかも精査すべきです。40年頃までは増えるでしょうが、その後はNTTのIOWN(光電融合)など省エネ技術が期待でき、需要は減っていく可能性があります。

【記者通信/3月4日】生活防衛策としての「ポイ活」 ドコモがガスの取次販売へ


ドコモが2月25日、都市ガス取次販売サービス「ドコモガス」を6月に開始すると発表した。提供エリアは東京ガスと大阪ガスの供給エリアで、料金体系は両社と変わらない。先行する電気事業「ドコモでんき」やdカードとの組み合わせで、ポイント還元率がアップする仕組みを用意。サービスの長期利用や金融事業への相乗効果を狙う。

ドコモは電気事業「ドコモでんき」を2022年3月に開始し、半年で50万件の契約を獲得するなど好調な滑り出しを見せた。強みはdポイントへの還元だ。実際にユーザーがドコモでんきを選んだ理由として、最も多かったのがポイント還元だという。コンシューマーサービスカンパニー・エネルギーサービス部の小島慶太部長は「光熱費の高騰によって『生活防衛策としてのポイ活』の広がりが生まれ、還元率が魅力のドコモでんきが受け入れられた」と分析。その上で、ドコモガスの開始について「さらなる光熱費の高騰が予測される中で、より多くのポイント還元につながる施策を展開する」と意気込んだ。

ドコモでんきとドコモガスをdカードで支払う──という組み合わせで、還元率が最大2%アップする。これにより、ドコモでんきの最大還元率は関東で14%、関西では22%となり、東京の4人家族では年間で2万3000円相当のポイント還元が得られる。早期に2桁(10万)の契約数を目指し、ニーズに応じて提供エリアを広げる方針だ。

通信大手は非通信分野に力を入れ、すでにソフトバンクやau、楽天は電力会社などは同様のサービスを展開中。光熱・通信費という生活密着サービスをまとめて提供することで「ポイント経済圏」の拡大を狙う。物価高はそうしたビジネスモデルの追い風となっている。

【メディア論評/3月4日】第七次エネ基など巡る報道を読む〈中〉第七次の基本的な方向性とは


2025年2月18日「第七次エネルギー基本計画」「地球温暖化対策計画 改定」「GX2040年ビジョン 改定」が閣議決定され、日本の「NDC(国が決定する貢献)」が国連気候変動枠組み条約事務局に提出された。

◆地球温暖化対策計画で示された温室効果ガス削減目標

◎地球温暖化対策計画(2月18日閣議決定)本文より(抜粋)

第2章 温室効果ガスの排出削減・吸収の量に関する目標

第1節 わが国の温室効果ガス削減目標

〈わが国の目標として、30年度において温室効果ガスを13年度から46%削減することを目指す。さらに、50%の高みに向け、挑戦を続けていく。また、35年度、40年度において温室効果ガスを13年度からそれぞれ60%、73%削減することを目指すこの35年度および40年度における目標は、基準年である13年度からのフォアキャスト、及び長期的に目指している50年ネット・ゼロからのバックキャストの両面から、50年ネット・ゼロ実現に向けたわが国の明確で直線的な経路を示す。本目標は、パリ協定に基づくわが国のNDC(国が決定する貢献)として国連に提出する。〉

・メモ

第六次エネ基策定時、経産省OBから従来の積み上げ方式でのエネルギーミックス策定からの手法変更に対して厳しい評価もあったが、これによって何とか30年度46%削減という当時として高い目標に合わせたともいえよう。35年度、40年度の排出削減目標はそれからさらにチャレンジングなものとなり、そのためには、「目指すべき社会の姿から振り返って現在すべきことを考えるバックキャスティングの思考が重要」であるとされた。「50年ネット・ゼロからのバックキャスト」という言葉を使って、自明のことに転換したといえる。一方、G7やCOPで掲げられた国際基準は、「35年までに19年比60%の排出削減」であり、日本の場合、それは「13年度比に換算すると66%減」であったが、目標設定はそこまでいかなかった。なお、現状の削減目標達成状況について、環境省幹部などは従来よりオントラックとしてきたが、今回の目標設定もその線上にあるものとした。  

◎日経新聞電子版24年12月24日付(抜粋)〈温暖化ガス目標40年度73%減 家庭8割、産業6割減〉〈――家庭部門は40年度に71~81%、産業部門は57~61%、運輸は64~82%、それぞれ13年度比で減らす案を示した。――パリ協定は「産業革命前からの気温上昇を1.5度以内に抑える」という目標を掲げる。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は目標達成には世界全体で35年までに19年比60%の排出削減が必要だとする日本が基準年とする13年度比に換算すると66%減となるため、(今回の目標は)一部から不十分との指摘もあがっている。〉

◎毎日新聞24年12月10日付「くらしナビ―環境―」コーナー(抜粋)〈――政府は「オントラック」という表現を国内外でさかんに使う。主張の根拠は13年度以降の排出量の推移を示す棒グラフだ。13年度の棒のてっぺんから「50年度ゼロ」まで直線を引くと、植林などによる吸収分を差し引いた14年度以降の値はその直線とほぼ一致するか、直線を下回る。このことから、今のペースで減らしていけばゼロになるとし、産業革命前からの世界の気温上昇を1.5度にとどめる世界共通目標実現の道筋にも「整合している」と主張する。――日本政府は50年実質ゼロに至るまでには「多様な道筋」があると(する)。――多様な道筋の一つが“対策”を講じた石炭火力発電の活用だ。イタリアで6月に開かれた先進主要7カ国首脳会議(G7サミット)では、「対策が講じられていない」石炭火力発電を30年代前半に段階的に 廃止することが初めて首脳宣言に盛り込まれた。“対策”が何を意味するかは宣言には明記されていない。経産省は――アンモニアや水素を化石燃料と混ぜて燃やす技術や高効率石炭火力など、日本が推進している技術は“対策”に含まれるという見解だ。――環境省幹部は「脱炭素への移行期に混焼技術は必要」とした上でこう打ち明ける。「今後実現を目指す50%超の混焼や(アンモニアや水素の)専焼が技術的に実証できても、必要になるアンモニアなどは非常に多く、輸送など新たなインフラ投資が必要。いずれシビアな判断が求められる。」〉

【メディア論評/3月3日】第七次エネ基など巡る報道を読む〈上〉第六次から今回に至るプロセス


2024年12月25日、総合資源エネルギー調査会基本政策部会で「第七次エネルギー基本計画(案)」および関連資料として「2040年度におけるエネルギー需給の見通し」が示された。並行して、12月26日の GX実行会議で「GX2040年ビジョン(案)」 、12月27日の地球温暖化対策推進本部で「地球温暖化対策計画(案)」 が示された。その後、パブリックコメントを経て、いずれも25年2月18日に閣議決定された

◎25年2月18日閣議決定

●第七次エネルギー基本計画

●地球温暖化対策計画改定

日本のNDC(国が決定する貢献)→国連気候変動枠組み条約事務局に提出

●GX2040ビジョン 脱炭素成長型経済構造移行推進戦略 改訂

ここでは、閣議決定に至る一連の動きについての報道や有識者の見解などを紹介していきたい。 まずは少し遡って、原子力発電について「可能な限り依存度を低減」との記載が残された前回の第六次エネルギー基本計画から、その後の岸田政権でのエネルギー・原発政策の転換について振り返る。

◆第六次エネルギー基本計画策定(21年10月閣議決定)

第六次エネルギー基本計画については、 第七次計画策定に至る前段階・プロセスという視点で、当時の状況などを振り返っておきたい。

1.第六次エネ基本計画 排出削減目標「46%減」の中での原発の扱い

21年4月22日に開催された地球温暖化対策推進本部、気候変動サミットにおいて、米国との交渉などの中で官邸主導の形で30年度温室効果ガス排出削減13年度比46%が表明された。

参考= それより以前、20年10月26日、菅義偉新首相の所信表明演説で、「2050年温室効果ガス排出実質ゼロ」を表明

◎21年4月22日の経過

午後3時半~6時半

●総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会「2030年に向けたエネルギー政策のあり方」

<同時間帯に並行して>

午後5時45分~6時10分

●地球温暖化対策推進本部 →排出削減目標「46%減」を正式表明「13年度比46%減、さらに50%減という高みに向けて挑戦を続ける」

夜 

●気候変動に関する首脳会合(気候変動サミット)→日本の新しい排出削減目標の表明

この高い温室効果ガス削減目標設定の動きを受けて、自民党内では脱炭素電源としての原発の活用に向けた調査会や議連の動きが活発化した。

●4月12日  脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース推進議員連盟(稲田朋美会長)発足・第1回会合

●4月23日 電力安定供給推進議員連盟(細田博之会長)第六次エネルギー基本計画の策定に向けた提言カーボンニュートラル実現に向けて ~原子力発電を最大限に活用しつつ 現実的・複線的な取り組みを~

●5月25日 自民党政務調査会総合エネルギー戦略調査会、経済産業部(額賀福志郎調査会長)第六次エネルギー基本計画の策定に向けた提言

しかし一方で、総合エネルギー調査会基本政策分科会でのエネルギー基本計画策定(本文案提示)の動きが止まった。当時、自民党の総合エネルギー戦略調査会の幹部は、メディアの取材に、「公明党が原発ゼロを言っているからだ(現在のエネ基にある)『依存度を限りなく低減する』という文言修正も難しそうだ。リプレースも」と述べた。原発の新増設・リプレースなどの議論については、「必要な規模を持続的に活用していく」とされたものの、「可能な限り原発依存度を低減する」という第五次エネルギー基本計画での記載は残る方向で固まっていった。

第六次エネ基 概要より(抜粋)

〇東京電力福島第一原子力発電所事故後10年の歩みのポイント

◇50年カーボンニュートラルや30年度の新たな削減目標の実現を目指すに際し、原子力については安全を最優先し、再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減する。

50年カーボンニュートラル実現に向けた課題と対応のポイント

◇電力部門は、再エネや原子力などの実用段階にある脱炭素電源を活用し、着実に脱炭素化を進めるとともに、水素・アンモニア発電やCCUS/カーボンリサイクルによる炭素貯蔵・再利用を前提とした火力発電などのイノベーションを追求。

 ◇50年カーボンニュートラルを目指す上でも、安全の確保を大前提に、安定的で安価なエネルギーの供給確保は重要。この前提に立ち、再エネについては主力電源として最優先の原則のもとで最大限の導入に取り組み、水素・CCUSについては社会実装を進めるとともに、原子力については、国民からの信頼確保に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用していく

2.公明党の動き

公明党の地球温暖化対策推進本部(本部長:石井啓一幹事長 当時)は、21年5月28日に「2050年脱炭素社会、カーボンニュートラルの実現に向けた提言」を官房長官に提出している。この提言書では、原発についての章立てはなく、原子力に関する記述は1カ所だけで、「再生可能エネルギーの大量導入」の項で、「再エネ主力電源化の取組等を通じて、原発の依存度を着実に低減しつつ、将来的に原発に依存しない社会を目指すべき」と書かれているのみであった。

◎公明党提言の中で原発に言及した部分21年5月28日)

1.「経済と環境の好循環」実現に向けたグリーン成長戦略の促進

(2)再生可能エネルギーの大量導入

50年カーボンニュートラルや30年度目標の実現には再エネの大量導入が欠かせない。――太陽光発電を再エネの主力電源と位置づけ大量導入を進めつつ、新たなパネルなどの開発に取り組むべきである。また、再エネの主力電源化に向けた課題を克服するため、余剰電源を貯蔵する蓄電池の普及、地域との共生に向けた再エネ設備の安全性向上などに取り組むべきである。あわせて、再エネの主力電源化に向けた取組などを通じて、原発の依存度を着実に低減しつつ、将来的に原発に依存しない社会を目指すべきである。また、原発の再稼働については、原子力規制委員会が策定した世界で最も厳しい水準の基準を満たした上で、立地自治体などの関係者の理解と協力を得て取り組むべきである。

◎21年5月26日、公明党竹内譲政調会長(当時)記者会見(抜粋)

「わが党は、できる限りこの原発比率を下げていくべきだという従来の方針は変わっておりません新増設は基本的に認めないということでありますし、(既存の原発も)60年を超えてやらないと、法律にもなっておりますので、この辺の基本的な考え方は変わっておりません。」

 

【記者通信/3月1日】三菱商事が洋上風力で巨額減損 事態好転の可能性は?


かねてから先行きが不安視されていた三菱商事の洋上風力開発。その実態の一端が白日の下にさらされた。同社は2月6日、第3四半期決算の公表時に、国内洋上風力発電事業で522億円の減損損失を計上すると発表した。洋上風力公募ラウンド1(R1)で落札した秋田県能代市・三種町・男鹿市、同県由利本荘市、千葉県銚子市沖の3海域の事業性を再評価した上で今後の方針を決定するとしているが、その行方に関して業界内ではさまざまな情報が飛び交っている。

ある業界関係者は「そもそも挽回策が見出せないからほぼ全ての開発費の減損判断に至ったのではないかと推察する。その意味で、『状況がこのように変化しないと事業はできない』という条件整理はできており、当局を含めてその詰めを行っているということなのではないか」と想像を巡らせる。

R2以降は、FIP(市場連動買い取り)基準価格を1kW時当たり3円の「ゼロプレミアム」で札入れし、需要家とのPPA(電力販売契約)が収益のメインとなるモデルであるのに対し、R1だけはFIT(固定価格買い取り)に基づく。商事や中部電力グループのシーテックなどでつくるコンソーシアムは、同11.99~16.49円という破格の安さで札入れしたことが決め手となり、3海域を総取りした。しかし、この価格が結局関係者の首を絞めることとなった。

FITからFIPに転じることができれば、事態好転の可能性はあるが、政府がFIP転を認めることは「ルール変更」にあたる可能性が高い。

そうした中、電気事業連合会の林欣吾会長は14日の定例会見で、中部電力社長として、同コンソーシアムの3案件については「関係企業が事業性確保のために検討している。ルール変更は求めない」と発言している。

「林氏のこの発言は『FIP転の選択肢はない』とも受け取れ、情勢を見通しにくくしたように思う。FIP転をせずに状況を抜本的に打開できるのかというと、疑問が残る」(先述の関係者)。例えばFIT特定卸で高額で電気を買う需要家が出てくれば解決の糸口が見えるかもしれないが、そこまで洋上風力の電気に価値を見出す需要家が存在するかは未知数だ。

価格調整スキームの効果は限定的 GE風車巡る懸念も

世界的なインフレの影響が洋上風力事業全体の課題となっていることから、政府は電源投資完遂に向け、新たな制度を導入する方針だ。例えば、資本費に占める割合の大きい費目について物価指数を考慮し、物価変動率40%を上限とする「価格調整スキーム」を導入する。新たな措置は基本的にR4以降を対象としているが、R3までの事業についても、保証金の上乗せ納付と、運開遅延に伴う没収を受け入れることを条件に適用される。

だが、「今回の減損で保証金もその対象になっていると思われる。その上で、インフレ条項の適用を受けるためにさらに保証金の上乗せ納付を行うというのは、現実的ではないのではないか」(同)との指摘がある。

そもそも、運開が遅延すれば保証金は没収されるという条件を飲み価格調整スキームを適用したとしても、買い取り価格の上昇は約3.3~4.5円と限定的だ。「こうした観点を踏まえても、商事にとってあまり魅力的な選択肢とは言えないだろう」(同)

加えて、3海域ではGE製の風車を採用する予定だが、その動向もネックになる可能性がある。

R3では、GEを採用したコンソーシアムは実現性の評価が低く、国の審査では失格に近い扱いだったのではないかと言われている。また、GEエナジー日本代表を務めてきた大西英之氏が、今年1月、パワーエックス子会社の海上パワーグリッドの新社長に就任したこともあり、GE風車の調達リスクが潜在している可能性があるというのだ。

四方八方で行く手がふさがれつつある中、商事の洋上風力事業はどのような結末を迎えるのか。

【SNS世論/2月25日】「トランプ嫌い」の偏向報道 SNS上の論調は?


ドナルド・トランプ氏が1月20日に再び米国大統領に就任した。「米国第一」「アメリカの黄金時代再び」「エネルギー非常事態宣言」などの派手なフレーズを散りばめた就任演説に、多くの人が驚いた。そしてエネルギーでは再エネ、EV支援の縮小など具体的な行動をしている。日本でも、アメリカでもトランプ大統領をめぐる議論がSNSで活発だ。そしてエネルギー政策などの人々の声を観察すると、今の社会の問題、世論の動向が見えてくる。

◆日本のSNS「うらやましい」の声多数

今の日米では庶民の切実な関心はインフレだ。エネルギー価格の抑制はそれに効く。トランプ政権は、「再エネ支援縮小」「ガソリン価格抑制、原油増産」などの政策を打ち出す。そして同政権は、コストのかかる気候変動対策やグリーンニューディールを批判し、パリ協定も脱退してしまった。米国のSNSを見ると、車に乗ることの多い米国人の多くは喜んでいる。

日本でもSNSでトランプ政権のエネルギー政策を「うらやましい」との声が広がる。衆議院議席3つの小勢力だが日本保守党が掲げた「再エネ賦課金廃止でインフレ対策」との公約は、トランプの登場を契機にSNSで再び注目されている。

日本のメディアの報道の多くは「トランプが変だ」「アメリカがおかしくなった」という単純な見方だけで、トランプ氏の政策を分析する。エネルギー政策でも、再エネ抑制、パリ協定の脱退などの一連の政策を、そのトランプ氏の「おかしさ」に結びつけている。しかし、それは表面的な分析に思える。

「異常な『トランプ異質論』のレッテル貼り 就任初日の『大統領令』こそ〝民主主義の手本〟平然と公約覆す日本の政治家たち」(夕刊フジZAKZAK、1月25日)で、元朝日新聞記者で青山学院大学客員教授の峯村健司氏がトランプ大統領の手法を分析している。トランプ氏の政策や行動に確かに危うさはある。しかし彼は支持者の意見をまとめ、公約を作り、それを実行する民主主義の原則に忠実な政治家で、それが人気と権力の源泉だという。彼の政策への反応はポリコレや脱炭素、再エネ、インフレにうんざりした米国民の多数派の意思を反映した動きなのだ。

◆メディアとSNSで示される世論の差が顕著に

トランプ大統領を巡る報道で見られたように、日米のSNSで見える本当の世論と、報道など作られた世論の差を感じることが増えている。第7次エネルギー基本計画が2月に閣議決定された。2011年の東京電力福島第一原発事故の後で、原子力縮小の方向が続いた。しかしそれを転換し、原子力の活用を示し、エネルギーの安定供給などの経済安全保障を強調した内容だ。それに対して「疑問素通りの方針転換」(朝日新聞、2月19日社説)など、日本のメディアは、激しい批判をした。

反原発の主張を繰り返す東京新聞は「トランプ大統領を「隠れみの」にして脱炭素は軽視? エネルギー基本計画に目標が低めな「リスクシナリオ」」(同日)との解説記事を公開した。その内容はトランプ氏の脱炭素の動きを経産省がエネ基作りに利用したと言うもの。しかし、エネ基は昨年中に概要が固まっていたので、ずれた見方だろう。

しかしSNSで世論は以前のように反原発に盛り上がらなかった。そのためか、野党も政治的争点にできず、エネ基は政府が決めてしまった。こうなることはSNSを眺めていれば予想できた。人々はウクライナ戦争以来の世界のエネルギー情勢、そして上がり続けるエネルギー価格に関心を向けている。

◆SNSは敵視ではなく、その情報を活用する時代

日本では米国ほどポリコレや政党支持者同士による社会対立が深刻になっていない。しかし合理性を超えたポリコレにうんざりする声が静かに広がっているようだ。それがリベラル色の強い今の石破茂首相、そしてその政権への不満なのかもしれない。

社会の奥底で動いている民意の本当の姿について踏み込んだ分析をメディアにしてもらいたい。それなのに「トランプが変だ」と気にいらない政治家や社会現象への嘆きが、新聞やテレビのオールドメディアで目立ってしまう。

実は、民意を敏感に伝えているのがそうしたメディアよりもSNSの発信だ。確かにそこでは情報が精査されず、誤りやプロパガンダの危険はある。しかし、その中には優れたものもあり、社会の雰囲気を知るには最良のツールだ。メディアの誤りを知る手段にもなる。

エネルギーに関わる人、またビジネスパーソンはそうした既存のメディアに加えて、SNSを観察することでさまざまな利益を得られるようになっている。また社会の動きや、民意の方向を見極め、そして時々現れる素晴らしい意見や情報も役立つことがあるように思う。日本のエネルギー業界は、福島原発事故以降、「民意」という得体の知れないものに、振り回されたではないか。

SNSを否定する意見を持つ人、過剰に警戒を持つ人は多い。しかし、そうした敵視ではなく、「したたかに活用」することが賢いように思える。

既存メディアに匹敵するほどの存在感を持つようになったネット世論を引っ張るSNS。日本でも、2011年の福島第一原発事故から、エネルギー問題で世論形成に影響を与えている。X(旧ツイッター)、LINE、フェイスブックなどのSNS、ブログや2ちゃんねるなどのネット掲示板、YouTubeなどの映像コンテンツの傾向を観察して、エネルギー問題を見るコラムを月1回で配信したい。

【記者通信/2月19日】エネ基などを閣議決定 パブコメ4万超で国民の関心高く


政府は2月18日、GX(グリーントランスフォーメーション)2040ビジョン、第7次エネルギー基本計画、地球温暖化対策計画の3点を閣議決定した。今回は温暖化ガス2035年度60%減、40年73%減(13年度比)という方向性に基づき、エネ基や温対計画を策定。そしてこれらの実現に向けてGX投資の予見可能性を高めるため、2040ビジョンで産業構造や産業立地の在り方などを示した。政府は同日、先述の35年60%減、40年73%減を国別目標(NDC)として、国連気候変動枠組条約事務局へ提出した。

全体としては、脱炭素重視に振れた第6次エネ基から、現実路線への修正を図ったといえる。

エネ基では、複数シナリオに基づき幅のある形で需給見通しを提示。脱炭素技術のコスト低減が十分進まない場合の〝プランB〟として「技術進展シナリオ」を併せて示した点も新しい。また、再生可能エネルギーか原子力かの二項対立を脱し、脱炭素電源を最大限活用する方針を明示した。これらの電源への積極的な新規投資を促す事業環境やファイナンス環境の整備に取り組む方針も掲げた。

エネ基案のパブリックコメントでは、前回を大幅に超える4万件超の意見が集まった。これを受け、例えば、原子力の安全性やバックエンドの進捗に関する懸念の声があることを真摯に受け止める必要性を追記するなど、必要な修正を行った。

武藤容治経済産業相は同日の閣議後会見で、ロシア・ウクライナ紛争勃発以降、エネルギー価格の高騰が生活に直結する形で影響が生じていることに触れ、「エネルギーへの国民の関心が非常に高くなっていると思う。原子力に対して、特に立地県など皆さんの懸念があることも事実だと受け止め、しっかりと不安を払拭できるように、そしてなぜ原子力が必要なのかという点も含めて、今後も丁寧に説明を加えていきたい」と強調した。

紛糾したNDC議論 意見の隔たりなお大きく

温対計画では、NDC 達成に向け、エネ基やGXビジョンと一体的に取り組む方向で対策を提示。分野ごとの削減目安などを掲げた。

ただ、NDCを巡っては環境派からより高い水準を求める声が根強く、エネ基以上に議論が紛糾した。昨年12月、NDCを決定する段階の審議会では、計3回、10時間超の議論を経てなんとか結論を出した。その後のパブコメには3000件超の意見が寄せられ、数こそエネ基より少ないものの、なお議論百出の様相を呈している。NDCの国連事務局への提出は、期限の2月10日を過ぎる形となった。

18日の会見で浅尾慶一郎環境相は、「必要な技術革新や社会実装の速さといった不確実性が高まる中、官民が予見可能性を持って排出削減と経済成長の同時実現に向けて取り組むことを重視し、目指すべき目標を決めた。不確実性が高まる中において、しっかりと野心的な目標だと考える」と政府見解への理解を求めた。

【識者雑感/2月17日】「高校生が考える2040年の電力供給」熱意ある内容に称賛の声


NPO法人国際環境経済研究所(小谷勝彦理事長)は、2月16日に日本原子力発電の敦賀総合研修センター(和佐尚浩所長)において、「高校生が考える2040年の電力供給」をテーマに発表会を開催した。

静岡県立三島北高校、静岡県立焼津中央高校、学校法人福井学園福井南高校から合計15人の高校生が参加する一方、発表会には、日本鉄鋼連盟、電気事業連合会、日本自動車工業会、日本ガス協会、日本化学工業協会、セメント協会、石油連盟、電子情報技術産業協会などの産業団体と企業人も参加し、発表に熱心に耳を傾けた。

安定供給、経済との関わり、環境問題、安全のどこに重点を置くかについては、各校の視点が異なっており、参加した企業人からは、発表ごとに多くの質問とコメントが寄せられた。

「企業の若手でも作成が難しいレベルの資料だ」「スプレッドシートを利用し理想の電源構成を考えるのはユニーク」「バックエンドまで考えている視点に驚いた」――などと、高校生の発表の完成度と学校の熱意ある取り組みを称賛する声も聞こえた。

参加した企業人全員の投票の結果、最優秀賞に三島北高校、優秀賞に焼津中央高校、理事長賞に福井南高校が選ばれ、賞状と副賞が授与された。

なお、発表会前日の15日には、高校生と企業人全員が、関西原子力懇談会の協力の下、関西電力美浜原子力発電所を見学するとともに、日本原電敦賀総合研修センターにおいてシミュレーターを体験する研修に参加した。高校生にも企業人にも有意義な発表会になった。

国際環境経済研究所副理事長・所長 山本隆三

【論考/2月17日】日米首脳会談の深層 日本に突き付けられた政策転換


2025年2月7日の石破・トランプ会談の骨子は、日米関係の現状・既定路線の維持を確認し合った、という点に尽きる。まず中国、北朝鮮の脅威に対抗する安全保障(尖閣諸島を含む日本防衛、米国の拡大抑止強化、日本の防衛予算増額、東・南シナ海および台湾海峡の力による現状変更反対、北朝鮮非核化など)に関して現状の基本方針を確認。次に相互投資の重要性、最大の対米投資国としての日本の役割に関しても、既定路線を確認した。エネルギー安全保障については、米国の積極的な国内資源開発、対日LNG輸出増を通じた強化がうたわれた。これは第2次トランプ政権によるエネルギー政策の転換を反映しているが、昨年4月の岸田・バイデン首脳会談後の共同声明にも「日本及び他の同盟国のエネルギー安全保障への支援」は盛り込まれており、それが強化された形だ。

「2人」いた日本の首相

これら現状維持の確認は、確かに重要だ。しかし、それを「大成功、百点満点」などと評するのは、大袈裟に過ぎる。日本で高評価が目立つのは、それほどトランプ大統領の「不規則発言」が恐れられ、また、石破首相の外交能力が疑問視されていた、ということだろう。

共同記者会見で、トランプ大統領は故・安倍晋三氏の名前を幾度も出し、あたかもそこに日本の首相が2人いるようで、元首相の遺産を感じさせた。安倍・元首相の外交は、トランプ氏への受動的な適応に止まらず、日米関係を良好に誘導する能動性を本領としたはずだ。日米首脳の個人的関係を重視しすぎると、トランプ氏への適応をそのまま「成功」と誤認してしまう。例えば会見で石破首相は、トランプ大統領の印象を問われて「テレビで観ると恐ろしい感じがしたが」などと、これはユーモアとして答えていたが、一国の宰相としては度を越した謙遜であり、一般の米国人にはむしろ卑屈と受け止められかねない。

狭まった視野・残された課題

今回の日米首脳共同声明は、そこで語られなかった事柄が重要と思われる。岸田・バイデン共同声明と比べると、今回の声明から多くの文言が消えた。例えば、欧州大西洋(あるいはNATO)とインド太平洋との結びつき、ウクライナ侵略戦争に関する対ロシア制裁(そもそもウクライナへの言及、ロシアへの直接的言及が一切なし)、ガザへの人道支援、イスラエル・パレスチナ2国間解決への関与、国際法、法の支配、また気候危機とそれに関連する文言(例えばクリーンエネルギー、GX)。それに中国との意思疎通の重要性、共通の関心分野での協力、という文言も消えている。

つまり、地域的な視野がインド太平洋に狭まり、理念的な正当性の主張や人道的アピールも後退した。トランプ政権下で特に米・欧関係に生じた溝によるところが大きい。しかし現実には、中国の脅威への対抗姿勢を強める一方で、ロシア・ウクライナ戦争を終結に導き、さらに中東の安定化を図る上で、西側全体およびサウジアラビアなどの中東湾岸諸国の連携が、一層不可欠となろう。このような地域をまたぐ連携が、大きな課題として残されている。その際、何らかの理念的な正当性は、多国間協調の旗印としても重要なのだが、今回の首脳共同声明で残った理念は「自由で開かれたインド太平洋」のみ、ということになる。

転換迫られる日本のエネルギー政策

エネルギーに関しては、一見すれば、今回の首脳会談に於いて浮上した案件は、日本の米国産LNG輸入の増大、特にアラスカLNGプロジェクトへの参加、のみと映る。しかし実際には、それを遥かに超える、エネルギー政策上の大きな課題を突き付けられたと捉えるべきだ。

先ず、第2次トランプ政権のエネルギー政策は、バイデン政権が脱炭素化という米国の解決能力を超えた世界的課題を優先したのを、自国の国力・安全保障を弱体化させる「米国に向かう刃」として否定。国産エネルギー資源(化石燃料、バイオ燃料、ウラン、重要鉱物)を国力の源の一つとして率直に認めて、需要・供給両面での規制撤廃を進める。

この政策転換(あるいは米国の政策の不連続性)は、日本を含む他の西側諸国に対し、従来掲げてきた硬直的な炭素中立化目標や、先進国の巨額援助を前提とする世界的な脱炭素化の進め方が、現実の基盤を致命的に欠くことを、改めて示している。

日本が2050年炭素中立化目標に拘泥し、炭素中立化を中・長期エネルギー政策の優先目標とすべき理由は、既にない。逆に、今の分断の時代に、日本の安全保障・防災・国力増強に適するエネルギー源をまず定め、その限りにおいて脱炭素化を追求する、主従を転換する構えに立て直す必要がある。

現実的になったとされる第7次エネルギー基本計画案も、蓋然性の最も高いケースをいわゆる「リスクシナリオ」として補完的に示している。一般に脱炭素化シナリオは、現実性を加味させると、「脱炭素目標が達成できないリスク」として代替ケースを順次追加していくものだが、それは天動説が複雑な補正を次々に必要としたのと似ている。天動説を地動説に変え、ありのまま率直に世界を見て対応する、そうした転換を急ぐ必要がある。

「自由で開かれたインド太平洋」の拡張を

次に、日本のエネルギー安全保障の上で、欧州・カナダを含む西側全体と、これにサウジアラビアなどの中東湾岸産油諸国を加えた多国間協調は、必須である。

換言すれば、「自由で開かれたインド太平洋」には、エネルギー供給者としての中東、輸入地域としての欧州との協働が欠かせない。実力による海洋・資源支配を否定する、例えば「市場本位の開かれた国際エネルギー供給」といった理念をここにつなぎ、その下で中東湾岸との協働をより明確化し、同時に西側全体でのエネルギー安全保障を強化する。そうした能動的な働きかけを、日本が行うべき時だ。

アラスカLNGもまた、「自由で開かれたインド太平洋」を支える一つの事業だから、日本勢に加えて他の非中国アジア勢が共同出資する形でも十分意義があり、冷静な経済性評価と将来の米側の政策転換があった場合の補償・リスク管理を固めつつ、広い視野・柔軟な姿勢で臨むべきだろう。

また、地球温暖化対策は、各国の現実に立脚した、可能な範囲の脱炭素化を粘り強く進める漸進的アプローチへの転換が必至となろう。これはむしろ脱炭素化の過程自体を堅実にするために必要であり、「パリ協定の原点への回帰」とも言える。日本は、自国の政策修正を図りつつ、温暖化対策の堅実化に向けて動き出すべきだ。

ここで日本が内向きになり、トランプ政権への適応だけに追われると、米国と欧州・カナダの関係に亀裂が生じ、またイスラエルに過度に加担する米国への反発がアラブ・イスラム世界でさらに広がるにつれ、単なる米国の追随者として軽視されてしまう。

現実への率直な対応力と、現実と理想を着実に結ぶ構想力が、今こそ日本に求められている。

国際石油アナリスト 小山正篤

【記者通信/2月13日】出光興産次期社長に酒井氏 バランス感覚で環境変化に挑む


出光興産は12日に開いた取締役会で、酒井則明代表取締役副社長(63)が4月1日付で社長に昇格する人事を決めた。社長交代は2018年以来7年ぶりで、木藤俊一社長(68)は代表権を持つ会長に就く。エネルギーの安定供給を担いながら、脱炭素社会を見据えた事業構造に転換する取り組みを一段と進めるため、次期中期経営計画の検討が本格化するタイミングで経営のバトンを引き継ぐ。

会見後に握手する出光興産の酒井則明次期社長(右)と木藤俊一社長

酒井氏は、石油製品の販売や製油所のほか、人事や経理などの部門にも従事してきた。さらに最高財務責任者を経て、22年からは取締役副社長執行役員などとして会社の屋台骨を支えた。木藤氏は同日に開いた記者会見で酒井氏が培った幅広い経験に触れ、「エネルギーの安定供給と未来へのトランジション(移行)を両立していく優れたバランス感覚を持つ」と評価。「不確実性の高い経営環境下でも、社員が安心して活躍できる環境を作り出せる包容力を持つ」ことも社長抜擢の理由として挙げた。

石油元売りは、50年のカーボンニュートラル(CN)社会に向けて多額の投資が必要となる一方、縮小傾向にある石油製品の需要に安定的に応えるという責務も担う。酒井氏は、自身の持ち味を生かした経営で激変する事業環境を乗り越える決意を強調し、「バランスを取りながらも、しっかりと前を向いて進まなければならない」と力を込めた。

出光は、19年4月に昭和シェル石油と経営統合した。木藤氏は統合後の新体制づくりや社員の融和をけん引するとともに、2023年度から3カ年の中計を遂行。既存事業の収益最大化やCN実現に資する次世代燃料をはじめとする新規事業の拡大などを柱とする事業構造改革を加速してきた。この現中計を完結させて25年度策定の次期中計につなげるのが新社長に託された役割で、「チーム力を最大限に引き出す。人が中心の経営を今後も継続したい」を意気込む酒井氏の手腕に注目が集まりそうだ。

【プロフィール】酒井 則明氏(さかい・のりあき) 神戸大卒。1985年出光興産入社。取締役常務執行役員や取締役副社長執行役員などを経て、2023年6月から現職。大阪府出身。

【記者通信/2月10日】食用不適の植物油をSAF原料へ Jオイルや出光が有望視


食用に適さない植物を持続可能な航空燃料(SAF)の原料として役立てる動きが活発化してきた。食用油大手のJ-オイルミルズが、非可食植物から100%バイオマス由来のSAFを生成することに成功。出光興産は豪州で、非可食植物の試験的な植林に乗り出した。将来のSAF需要を満たす原料の安定確保が求められる中、各社の取り組みに注目が集まりそうだ。

ポンガミアの種子(提供=出光興産)

沖縄県の種子で生成に成功

J-オイルミルズは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の実証事業として、SAFの生成に取り組んだ。そこで着目したのが、沖縄県で街路樹から落下したテリハボクとポンガミアの種子。同社は食用植物油の製造で培った知見や技術を生かし、こうした非可食植物に適した搾油と精製の工程を開発。水素化などの工程を経て、バイオマス原料などを基にした純度100%のジェット燃料「ニートSAF」の生成に成功した。そこで得られたSAFは、航空燃料に関する国際品質規格「ASTM D7566 Annex A2」に適合。最大50%を上限に化石燃料由来のジェット燃料と混合した後、SAFとして使用されるという。

テリハボクとポンガミアは、日本では沖縄県、海外では東南アジアなどに分布する亜熱帯植物。同県では、主に街路樹や防風林として利用されている。テリハボクはその胚珠中の油分が40~50%、ポンガミアも30~40%と多く、乾燥地や塩分濃度の高い土地など農地に適さない土地でも栽培できる。加えて、いずれの植物も食用には向かず、食と競合しない新たなSAF原料としての活用が期待されていた。

求められる安定供給への道筋づくり

同社が非可食植物に熱視線を注ぐ背景には、航空業界の脱炭素手段となるSAFを安定供給するという社会的な要請の高まりがある。日本は、2030年にジェット燃料使用量の10%に相当する172万klをSAFに置き換える目標を掲示。廃食用油を原料とするSAFの大規模生産が最も早いと予想されている。ただ、燃料用途で使われる日本の廃食用油は最大でも年間13万t(約14万kl)にとどまり、30年に向けては新たな油脂原料の開拓が求められていた。1月に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開かれた「再生可能エネルギー世界展示会&フォーラム(RE2025)」のNEDOブースでバイオマスユニットの担当者は、こうした課題を踏まえた上で、「(今回の成果は)SAF原料の選択肢を多様化する一助になる」と期待感を示した。

展示会で披露された精製前のテリハボク油とポンガミア油=RE2050のNEDOブース

J-オイルミルズは今後、ニートSAFの品質にとどまらず、温室効果ガス排出量削減に関する国際民間航空機関の枠組み「CORSIA」への適合燃料として証明することも狙う。このためSAF技術を持つ石油精製事業者などと連携するとともに、栽培実証試験など原料供給量の拡大に向けた取り組みを進めていく方針だ。

豪州での試験植林で栽培法検証

一方で出光は1月から、ポンガミアの試験植林を豪州クイーンズランド州で始めた。ポンガミアの栽培ノウハウや研究成果を持つ米 Terviva(テルビバ)などと連携して取り組むもので、同社への出資も行った。植林を通じて、長期で安定的な栽培方法や栽培からSAF生産に至るサプライチェーン(供給網)の最適化などをテーマに検証する計画だ。

出光は、30年までに年間50 万klのSAF 供給体制を構築することを計画。徳山事業所(山口県周南市)では、28年度までに年間25万klの生産を始めることを目指している。ただ、世界規模で供給体制づくりが進むと、将来的に原料の需給ひっ迫や価格変動が起きる可能性があり、安定的な原料確保が課題となっている。そこで出光はポンガミアに着目し、試験植林に乗り出すことにした。また出光は、種子を包む殻をバイオマス発電所向け燃料として生かすなど、SAF原料以外の活用方法も探る構えだ。大規模な栽培が実現できれば、植林によるカーボンクレジット(排出枠)の創出にもつながるという。

【記者通信/2月6日】キーマンがそろい踏み エネ研がエネ基テーマにシンポ


昨年末に示された第7次エネルギー基本計画案は1月26日までパブリックコメントにかけられ、政府は2月中に閣議決定する予定だ。そうした中、日本エネルギー経済研究所が1月中旬に開いたエネ基がテーマのシンポジウムには、オンライン含め1000人超の申し込みがあった。同研究所の小林良和研究理事が原案のポイントを解説した後にパネルディスカッションを実施。総合資源エネルギー調査会・基本政策分科会委員を務める寺澤達也・同研究所理事長、今回の需給見通しの基となる分析を行った秋元圭吾・地球環境産業技術研究機構(RITE)主席研究員、経済同友会エネルギー委員会委員長で住友商事の兵頭誠之会長、日本経済新聞社上級論説委員の松尾博文氏らが登壇した。

パネル討論ではそれぞれがエネ基の受け止めや課題認識を発信した

秋元氏はまず、需給見通しの下地となったRITEのシナリオ分析について説明。1.5℃目標の経路に乗り、さまざまな排出削減対策が順調に技術進展し、経済と環境の好循環につながる「成長実現シナリオ」や、再エネ、水素系燃料、CCSのコスト低減がそれぞれ加速するシナリオだ。

他方、技術進展が成長実現シナリオ相当とならず、炭素価格政策が抑制的になる「排出上振れリスクシナリオ」も提示。こちらは、政府が需給見通しと併せて示した「技術進展シナリオ(リスクシナリオ)」のベースとなった。

RITEはこのほか、40年原子力ゼロ、あるいは経済の大幅停滞リスクが高まるといった極端なリスクシナリオも示しており、これらは需給見通しに反映されていない。

秋元氏は「分析では1.5℃をベースとしているが、トランプ政権の動向などシナリオの外にあるリスクも念頭に入れるべきだ。また、相対的なエネルギー価格差を意識し、政策を誤ればリーケージしかねないというリスクも認識する必要がある」と強調した。

続けて産業界の受け止めを兵頭氏が述べた。日本は再エネの導入拡大には不利な条件にあっても、グリーン価値のコストを負担した上で付加価値を創造し、国際競争力に勝ち残るための産業構造へ自ら転換していくべきとの認識を示した。その上で、「エネ基案は尤度が大きく、一部では明確でないと批判する声も耳にするが、そうではない。国際競争力に勝ち得る産業構造をつくるのは産業界、それを支える社会そのものだ」と強調。官民連携の下、「社会と、国内産業の競争力、グローバルに展開する産業構造全体の競争力を強化するためにふさわしいエネルギーミックスを、われわれ自身の手で作り上げることが大事だ」と続けた。

複数シナリオの弊害指摘 残された課題の具体策が宿題

一方、松尾氏は「個別具体的に見えないピースがある」と指摘。例えば、火力の内訳や、水素などの脱炭素燃料をどう使っていくのか明示されなかったことや、非電力・熱の需要をどう脱炭素化するのかが問われていると強調した。

また、リスクシナリオで40年のLNG需要を7400万tと示したことについて、「現行政策では5000万t程度。2000万tをいざという時に備えなければならない。相当の政策的力技と企業の決断が必要となる」とした上で、「複数シナリオをつくることによって生じる難しさと責任を払わなければならなくなった」と分析した。

これに対し、今回の議論に携わった寺澤氏は、幅のある見通しやリスクシナリオの提示は妥当としながらも、「結果として予見可能性が相当減ってしまった。産業界の投資行動についてはプラスではない」と振り返りつつ、「別の場で、政策形成と併せ、より具体的な絵姿を示してほしい」と求めた。

さらに、分野ごとの課題はエネ基の随所で頭出ししているものの、個々の政策について書ききれていないと説明。また、「将来像は政府ができるだけ具体的に示すべきだが、産業競争力においても主役は産業界。政府の課題は山ほどあるが、エネ基を実現するための責務は政府と産業界の両方にある」とした。

【目安箱/1月31日】ナベツネ後の「読売」 原子力への冷たさはどうなる?


読売新聞グループ本社の代表取締役主筆で、メディアに加えて、政界やプロスポーツ界にも影響を与えたナベツネこと渡辺恒雄氏が昨年12月に亡くなった。98歳だった。ご冥福を祈りたい。

20年ほど前に、ある政治家の勉強会で、特別ゲストに呼ばれていた渡辺氏の話を聞いたことがある。当時は読売ジャイアンツの経営が揉めていた頃だ。その話題は出なかったが、スポーツ紙は「独裁者」「怖い人」であるかのような、イメージを作っていた。

ところがお会いすると、その政治家と仲が良かったためか上機嫌で、いろんな政治の裏話をして参加者を楽しませる話し上手の面白いおじいさんだった。会合は渡辺氏の気配りで和気藹々としたものとなった。質問で「イメージが変わりました」と参加者がいうと、次のように答えた。「私は記者だろ。だから質問されると、記者の仕事のことを考えて、見出しになるような面白いことを話してしまうのさ。メディアを信じちゃいけませんよ。ハハハ(笑)」。

もちろん部外者の私は、一度会っただけで、彼の本当の姿はわからない。しかし、どんな人でも、物事でも、メディアの伝えるイメージと現実が違う場合があることを、そのメディアの中心的な存在だった渡辺氏から聞いたのは印象に残った。

彼の「渡邉恒雄回顧録」(中央公論新社、2007)は面白い内容だった。ただし、渡辺氏は自分が政治家と一体になって動き、報道というよりその存在感でニュースや政局を作る立場になっていた。「こういう手法は、今では批判を受けるかもしれない」と書いてある。ちなみに、読売新聞史上、最も社長表彰をされた記者だそうで、不世出のジャーナリストだったのだろう。

ネットシフトは、読売は遅れ気味

メディア・新聞不況の中で、渡辺氏は最後まで紙へのこだわりを見せた。地方紙のシェアを奪い、読売ジャイアンツと連動しながら、新聞の販売促進をするという取り組みを続けた。

しかし、その結果、日本のメディアの中で、読売はネットサービスに出遅れている印象がある。今では朝日、産経、日経がネットにシフトし、記事もルポルタージュや解説・論説にシフトしている。しかし各紙ともメディア不況から抜け出せない。

読売グループ内部の人によると、渡辺氏は別にネットを毛嫌いしたわけではなく、発想は柔軟で対応しようとしたという。読売は24年に米経済通信社ダウ・ジョーンズとの提携、そして25年から法人向けのネットと紙のサービスを開始する予定だ。

また渡辺氏は、経済報道に強い時事通信社の買収も検討したという。時事は共同通信社と共に戦前からの関係で広告大手電通の大株主ある。資本関係の難しさがあるために、断念した模様だ。渡辺氏は24年末まで会社に出ており、これらの現経営陣の動きは彼も認めていた。

エネルギー論説、原子力に冷たいのは渡辺氏の影響か

論説では、読売新聞はエネルギーの分野では、この10年続いた電力・エネルギーの制度改革については自由化、再エネ振興を支持し、政府の政策を追認した。そして原子力問題については活用を主張したが、それには積極的ではなかった。自由化への懐疑、そして原子力規制のおかしさを指摘し続ける産経新聞とは違った。

政治、哲学が好きだった渡辺氏は、科学問題にそれほど関心がなかった。そして福島原発事故には嫌悪感を示し、再エネが代替策と思ったようだ。読売はかつての社主の正力松太郎が原子力の導入をしたこともあり、原子力はこれまで肯定的だった。

「ナベツネさんは論説への細かい指図は晩年にはしなかった。しかし原子力への嫌悪感が、社内のエネルギー報道の雰囲気に影を落としたのかもしれない」とする読売記者もいた。

重石の消えた読売の動きは?

読売は渡辺氏の晩年から、記者職出身の社長らによる集団指導体制になった。「そんな会社は変わらないだろう。しかし強烈なナベツネさんがいなくなることで、重石(おもし)がなくなる寂しさや不安がある半面、軽く動けることになりそう」(同)との見方がある。

巨大な足跡をメディア界、スポーツ界、政界に残したナベツネ氏の亡き後、世界最多の発行部数を抱える読売新聞はどのように動くのだろう。ようやく始まるかに見える同紙の経済シフトとネット活用が止まることはないだろうが、どのような方向に会社は進むのか。エネルギー報道はどうなるのか。

筆者は同社と全く関係ない外のエネルギー業界にいるが、一読者として、また自分のいる業界の影響にその巨大メディアに関心がある。その未来を注目していきたい。

【時論/1月31日】洋上風力制度見直しを徹底解説 ゼロプレミアムで容量市場入札も


昨年11月21日に洋上風力の入札制度見直しの原案がまとまった。基準価格に物価変動を反映させる、ゼロプレミアム価格への誘導を緩和する、既存落札事業への対応等が骨子だ。また、12月24日に既存ルールで最後となるラウンド3の落札結果が発表された。本稿では、表に出た事業者の危機感を紹介し、見直し案のポイントと既存事業を含む今後の展望について考察する。

1.洋上風力入札ルール見直しの経緯と概要

GX会議では、生成AI、データセンター、半導体の普及等が国家成長の鍵を握る、そのためには脱炭素電源の開発が決定的に重要としている。脱炭素の切り札として洋上風力の位置付けが一層高まっているが、インフレ進行等事業を巡る環境は非常に厳しい。こうしたなかで事業意欲を維持する、撤退を防ぐ環境整備が喫緊の課題とされた。昨年8月27日のGX実行会議において指摘され、9月11日の再エネ大量導入・次世代電力NW小委員会にて、具体的な方向性が示された。これを受けて資源エネルギー庁と港湾局の洋上風力WG合同会議が9月26日に再開された。以降、計5回にわたりラウンド4(R4)以降の入札ルール見直しについて審議が行われた。11月21日に提案が纏まり、12月30日にパブリックコメントの意見募集が締め切られた。取りまとめの概要は以下の通り。

・「迅速性」は引き続き重要で運転開始まで6年を基準とする。

・「保証金」は、撤退や遅延を抑止するべく倍増する。

・「リスクシナリオ」への対策をより重視する。

・「設備の契約変更」は、柔軟性に配慮するが、風車は審査の根幹であり慎重に判断。

・「価格変動スキーム(エスカレ条項)」の導入。変動前指数は公募開始時、変動後は工事計画の届出予定日に設定。既存選定事業者への条件付き適用を認める。

・「ゼロプレミアム価格評価重視」を緩和し、準ゼロプレミアム水準14円/kWhを導入。

・ゼロプレミアム事業の容量市場への参加について議論を進める。

以上であるが、エスカレーション条項の導入やゼロプレミアムの見直しなど、事業者への配慮が盛り込まれる。一方で、保証金(ペナルティ)倍増、さらなるリスク対応への誘導など、一層の事業者努力を求める。また、迅速性、風車変更については、入札ルールの根幹として慎重に対応することが提案された。

以下で、事業を巡る厳しい状況、ポイントとなる変更事項、既存事業を含む今後の展望について解説する。審議されたのはR4以降の事業だけではない。合同会議では、既存ルールが適用されたR1/R2/R3事業への対応(救済)をどうするかについて、議論の中で浮上した。ゼロプレミアムスキームから実コストスキームへの転換が志向されているのである。

2.露呈した事業環境の厳しさと非現実的な前提

10月10日の合同会議では、R2で選ばれた4コンソーシアム代表事業者へのヒアリングが行われたが、コスト急増の実態と危機感、ゼロプレミアムを軸とする価格評価への問題指摘が相次いだ。

(2-1) R2選定事業者の悲痛な訴え 問題は非現実的な前提とゼロプレミアム入札

JERAは「応募前に比べて事業費は約1000億円(プラス30%)以上の増加、資本費は政府想定38.8万円/kWの2.5~3倍の水準、設備利用率39.9%を実現できる事業は少ない、供給上限価格の18円/kW時はもとより20円/kW時を超える水準でも事業性は厳しい、危機的な状況で誰かが撤退することもありうる」、三井物産は「今回提示されたNEDOの資本費予想値(41万円/kW)は現実と大きく乖離している」と発言した。また、価格評価については、各社が「ゼロプレミアム入札に強力に誘導する仕組みで、収益確保のためにはコーポレートPPA(CPPA)の一択となり、発電事業者および買い手(オフテーカー)による民民でリスクをシェアする構図となる。しかしオフテーカーに予め価格変動を認めてもらうことは困難」と収益確保が難しい現状を訴えた。

表1は、R1/R2/R3のルール・前提をまとめたものである。建設コストを主とする資本費は、総事業費の約7割を占める。インフレによる資材・設備価格の上昇を受けるが、入札を競うR1/R2/R3の基準価格にインフレ条項の適用がない中では、採算は厳しくなる。

表1.洋上風力入札R1、R2、R3のルール・前提 ※前提は現実から大きく乖離

(出所)調達価格等算定委員会委員長案等を基に作成

R2以降はFIP適用となり、ゼロプレミアムの3円で落札する場合は買い手(オフテーカー)との相対契約により回収する以外に途はない。均等化発電原価(LCOE)がまだ高く、電力市場価格が長期的に10円~13円/kW時で推移する中では、環境価値を織り込んでも厳しい交渉となる。住友商事は「オフテーカーを見つけて交渉すること自体が容易ではない」とする。2回目で弾みが付くはずのR2は、応募事業者数が減少した。今回のヒアリングで厳しい事業環境が改めて確認できたことになる。

(2-2) R1はその後の状況が不明

このように、R2落札事業者はR2、R3入札条件に対して強い不満を持っていることが明らかになった。12月24日に決まったR3事業者も同様であることは容易に想像がつく。インフレが顕在化・進行する中で、供給価格上限額は19円/kW時から18円/kW時へ下がった。R1も例外ではない。

2022年6月が募集締め切りのR1は、着床式で三菱商事グループが衝撃の低価格で3海域を総取りした。FIT価格入札でkW時当り11.99円、13.26円、16.49円であるが、低価格の理由として欧州水準を適用した、GE風車をまとめ買いするなどの説明だった。FIPと異なり一般送配電事業者に当該価格で販売することになる。三菱商事が21年末に選定されてから3年ほど経過しているが、風車やEPC等の契約がまとまったとの話は聞かない。東芝エネルギーシステムズはGE風車のナセル組立工場を横浜の京浜事業所に建設し、早ければ25年より生産開始するとしていたが、そのナセル組立工場はいまだ着工に至っていない。工場完成には2年程度かかるもようであり、今年着工した場合、ナセルの組み立ては27年以降となる。

事業者ヒアリングで「20円/kW時を超える価格で販売したとしても厳しい」(JERA)、「欧州とは港湾、船舶、サプライチェーンなど根本的に異なり比較できない」(三井物産、JERA)との言及があった。この低価格入札は、ルール設定を含めてR2以降に大きな影響を及ぼすことになった。

【目安箱/1月28日】トランプ政権のエネ環境政策 日本への好影響を占う


ドナルド・トランプ氏が1月20日に米国大統領に就任した。政権発足の直後だがエネルギー・環境政策で、速い動きに驚く。日本のメディアは、米リベラルメディアの影響を受けて「トランプ氏はおかしい」という内容の報道が依然目に付く。ところが冷静に見ると、経済・エネルギーの面で、日本に前向きの影響を与えるものが多そうだ。

ワシントンでの支持者の集まった政治集会で大統領令に署名するトランプ氏(バンス米副大統領のXアカウントより)

トランプ大統領の就任演説を、以下朝日新聞に掲載された訳文を参考に、抜粋してみた。

「全閣僚に対し、記録的なインフレを打破し、迅速にコストと物価を引き下げるためにあらゆる力を結集するよう指示する。インフレ危機は、膨大な過剰支出とエネルギー価格の高騰によって引き起こされた。だからこそきょう、国家エネルギー緊急事態を宣言する。われわれは(エネルギー資源の)採掘を行う。採掘だ。」

「米国は再び製造国になる。他の製造国が持ったことのない、どの国よりも大量の石油と天然ガスを持っている。それを活用する。(石油)価格を引き下げ、戦略備蓄を最大にまで補充し、米国のエネルギーを世界中に輸出する。米国は再び豊かな国になる。その実現を助けるのが足元にある黄金の液体だ。」

「本日、「グリーン・ニューディール」政策を終わらせる。電気自動車の普及策を撤回し、自動車産業を救い、偉大な自動車産業労働者に対する私の神聖な誓いを守る。つまり、自分の好きな車を買うことができるということだ。」

筆者はエネルギー業界にいて各国のエネルギー政策を調べているために、トランプ政権が化石燃料重視の政策を打ち出すことは予想していた。ところが就任演説でのエネルギーの言及量の多さに驚いた。国内政策では不法移民対策の次に多かった。そして間にトランプ政権が入ったとはいえ、2008年のオバマ政権から続いた、「グリーン・ニューディール」を完全否定した。第一次トランプ政権の時よりその動きは激しいし、経済政策では、エネルギーに注力している印象がある。

◆大統領令で再エネ抑制

そしてトランプ氏は就任直後から約350の大統領令を出した。その中ではエネルギーについての重要なものが多くある。

「エネルギー非常事態を宣言」。前政権でエネルギー供給が不安定になったとして、国内のあらゆる資源の活用を命じる。その中で電気自動車(EV)の普及策は撤廃。液化天然ガス(LNG)の新規輸出許可の審査を再開する。(注・バイデン政権ではEVの振興、LNGの開発規制を行なった)

「アラスカの資源活用」。アラスカの液化天然ガス(LNG)の開発を優先的に進める。

「風力発電の見直し」。洋上や陸上の風力発電のため、連邦政府が管理する土地の貸与や認可を停止する。(注・バイデン政権は、オバマ政権から続く再エネ振興、特に風力発電の税などの優遇、公有地開放を進めた)

「パリ協定から脱退」。気候変動の抑制を目指す、パリ協定から中国に次いで世界2位の温室効果ガス排出国のアメリカが脱退した。(注・バイデン政権は、トランプ大統領が脱退したパリ協定に復帰。元上院議員、国務長官のケリー氏を気候変動担当特使として、気候変動外交を積極的に進めた)

またトランプ大統領は直属の「国家エネルギー会議」を新設する意向だ。内務長官に起用したノースダコタ州知事のダグ・バーガム氏、エネルギー長官に指名した石油業界幹部のクリス・ライト氏の承認手続きを進めている。この2人はトランプ氏の政策を忠実に支持し、同会議のメンバーになる予定だ。

◆共和党の政策「エネルギー・ドミナンス」推進

国務長官(外交を担当)に就任したマルコ・ルビオ氏は声明を発表し、大統領の指示に基づき、米国の国益にならない気候変動交渉を止め、「エネルギー・ドミナンス」を達成すると述べた。

エネルギー・ドミナンスとは米共和党の最近の政策コンセプトに出てくる考えだ。米国がエネルギー面で、価格、大量の供給、エネルギー産業、消費者の利益などのあらゆる場で優位性(ドミナンス)を達成するという考えだ。大量に国内にある、最近開発の進むシェールガス、シェールオイル、石炭などの化石燃料を活用するという。

世界がインフレの時代に突入した。その抑制策の一つは、エネルギー価格を下げることにある。トランプ政権の政策はおかしなものではない。

実際に、トランプ政権の発足後、ニューヨーク商品取引所の2025年1月の原油価格は北半球の冬の需要期にあるにもかかわらず現物で1バレル70ドル代後半から同前半に頭打ちとなっている。もともと好調だった米国株で、さらに株は上昇し、その中でエネルギー関連株の上昇は顕著だ。

◆日本のエネルギー産業への影響を考える

トランプ政権の経済政策の影響が現時点からどのように世界に広がっていくかはわからない。世界が多極化したと言っても世界経済を牽引する国の一つはアメリカだ。また日本の経済力が世界の中で相対的に低下したため、日本への米中経済の影響は大きくなった。

日本では、米国のエネルギーを安く購入できれば、また原油価格が抑制されれば経済にはプラスとなる。もちろんエネルギーの輸入は数年の期間がかかるプロジェクトで、すぐに米国産のシェールガス、石炭が大量に日本で使えるようにはならない。しかし安いエネルギーを背景に米景気は好況になりそうだ。それは日本経済にプラスに働く。

また製造業の復活をトランプ政権は重要な政策の柱にする。それが任期中にどの程度進むかも不透明だ。米国企業は競争力が強化され、ライバルの日本企業に厳しい影響が出る可能性もある。ただし日本と戦争の可能性のある中国に依存するよりは、友好国のアメリカの企業とビジネス、競争をしたいと、日本のビジネスパーソンの誰もが考えるだろう。

エネルギーでは、米国で重電、配電プラントの新設が広がりそうだ。伝統的に米国ではGEがこの分野は強いが、日本の重電メーカー、電力もこの分野は世界トップクラスだ。さらにバイデン政権の原子力支援の流れは残る。日本企業にこれらの分野でのビジネス拡大のチャンスはある。

トランプ大統領は米国での太陽光、風力発電での再エネの機器が主に中国製であることの懸念を、メディアインタビュー、選挙演説で繰り返している。中国と対立を深める中で、米国の再エネ振興策は当面一服しそうだ。日本で広がった反原発、過剰な再エネ期待も、米国の動きが影響して抑制されることを期待する。

トランプ政権のエネルギー政策は、間接的に日本経済、そしてエネルギーと関係産業にはプラスになりそうな動きが並ぶ。気候変動などに関心を持つ人、再エネ派、トランプ嫌いの人にはお叱りを受けそうな意見だろう。しかし化石燃料を積極的に活用しようという動きは、今のインフレの時代に間違ってはいない。

筆者はエネルギー産業の中にいる。ここでは国内の需要の伸び悩み、エネルギー自由化など外部の経営環境が厳しい。米国発とはいえ、こうしたプラスの動きは小さくても自分たちの利益につながるように工夫したい。