【特集1】COP30は途上国有利の決着 米国不在で先進国の交渉力低下

先進国vs途上国の対立が激化する中、COP30は米国不在で途上国に軍配が上がった。
パリ協定10周年というタイミングだったが、最終文書では化石燃料への言及すらできなかった。

寄稿/有馬純(東京大学公共政策大学院客員教授)

2025年11月10~22日にブラジル・ベレンで開催された地球温暖化防止国際会議・COP30はパリ協定10周年という節目に当たり、「行動・実施のCOP」となることが期待されたが、そもそも何を議論するかで対立が表面化していた。途上国がパリ協定9条1項に基づく先進国の資金協力義務の厳格な実施、気候変動対応を目的とした貿易措置に関する協議を議題化することを要求する一方、先進国、島しょ国は1・5℃目標に整合した野心レベル引き上げをエンカレッジするためのプロセス、国別の削減目標(NDC)統合報告書、隔年報告書を活用したレビュー制度の強化を議題化することを提案した。

これらの議題提案はいずれも先進国、途上国のレッドラインに関わるものであり、その採択に合意することは不可能である。このため、通常議題を採択する一方、この4案件については議長国ブラジルの下でムティラオ(協同作業)を実施することとなった。4案件を巡る対立は俯瞰すれば「野心レベル向上を求める先進国(+島しょ国)」と「資金援助拡大を求める途上国」の対立構図そのものであり、パッケージとして一体的に解決するしかない。加えて、1・5℃目標や緩和との文脈の中で83カ国が化石燃料終了に向けたロードマップ策定を要求したことから、化石燃料問フェーズアウトを巡って先進国・島しょ国などと資源国、中国、インドなどが鋭く対立した。

COP30の会場(ブラジル・ベレン)

議長からの第1次ドラフトでは資金援助については「第9条第1項の実施に関する法的拘束力のある行動計画」、化石燃料については「化石燃料の依存を段階的に克服するためのロードマップ策定」などの「尖った」オプションが含まれていたが、最終的に採択されたグローバル・ムティラオ決定では4案件について以下の決着となった。

化石燃料への言及なし 脱炭素よりも安保・価格

〈資金問題〉
・パリ協定9条全体に関する議論を整理・深化させるための2年間の新作業計画
・35年までに適応資金を少なくとも3倍に増加

〈貿易問題〉
・世界貿易機関、国連貿易開発会議、国際貿易センターその他の関連ステークホールダーの参加を得て26~28年の補助機関会合で対話を実施

〈1・5℃、NDC野心〉
・NDC・国別の適応計画(NAP)の実施を加速するための協力的、支援的、自主的なグローバル実施アクセラレーター(GIA)の創設
・1・5℃目標への軌道復帰のための「ベレン1・5℃ミッション」 の開始

〈化石燃料〉
・言及なし

COP30において最後まで争点となった化石燃料フェーズアウト問題は23年のCOP28で熾烈な交渉の結果、エネルギー転換を扱うグローバル・ストックテイク(GST)決定パラ28において「化石燃料からの移行」を含む八つの行動を列挙し、「それぞれの国情、道筋、アプローチを考慮し、国ごとに決定された方法で貢献する」という玉虫色の合意で決着した経緯がある。そうした中で化石燃料のみを特掲したロードマップの策定は、微妙なバランスに立脚したCOP28の合意をリオープンするものにほかならない。ロシア、サウジアラビアなどがこれを受け入れる可能性は皆無であり、もともと無理筋な提案であった。

予想されたように最終結果からは化石燃料への言及は削除され、新たに設置されるGIAは化石燃料からの移行を含むアラブ首長国連邦(UAE)コンセンサスを含む過去の決定を考慮することとなっているものの強制力はない。クロージング・プレナリーでド・ラーゴ議長が脱化石に向けた議長ロードマップ策定に言及したが、あくまでブラジルのイニシアティブであり、COP決定とは重みが異なる。

近年の地政学リスクの高まりにより、先進国、途上国問わず、温暖化防止よりもエネルギー安全保障や手ごろなエネルギー価格(affordability)の優先順位が高い。米国の経済アナリストであるダニエル・ヤーギンが指摘するように、エネルギー転換に関する国際的な議論は「イデオロギーからプラグマティズム(実用主義)」へ転換している。「化石燃料フェーズアウト問題への言及がCOPの成否のメルクマール(指標)」という議論は世界のエネルギーの現実から遊離したものと言わざるを得ない。とはいえ、一国主義、ポピュリズムが台頭する中で温暖化防止に対する国際的な結束を打ち出した議長国ブラジルの努力は評価すべきだろう。

対立構造変わらず 1・5℃目標は破綻

今回のCOPを俯瞰すれば、9条1項を含む作業計画の設置、適応資金を35年までに3倍増、貿易措置を巡る対話の実施など、途上国の主張がある程度通っている一方、NDCの野心的引き上げのための強力なプロセスや化石燃料フェーズアウトといった先進国の主張は通っておらず、全体としてみれば途上国に有利な決着であったと言えよう。米国がいなくなったことにより、先進国の交渉力が相対的に低下したことは否めない。

交渉全体を俯瞰すれば、「1・5℃目標達成のため、化石燃料フェーズアウトを含め、野心レベル引き上げとそのためのプロセス強化を最重要視する先進国」と「野心レベル引き上げよりも先進国からの公的資金援助大幅拡大が先決と主張する途上国」の対立構造は全く変わっていない。

1・5℃目標を前提とした議論を続ける限り、現実解不在の状況は続く。26年には28年の第2回GSTに向けたプロセスが始まるが、1・5℃目標の破綻が誰の目にも明らかな中で、どのような議論になるだろうか。

ありま・じゅん 1982年東京大学経済学部卒、通商産業省(当時)入省。国際交渉担当参事官、大臣官房地球環境担当審議官、日本貿易振興機構ロンドン事務所長などを歴任。2025年から現職。

【特集1】所詮は「平和な時代」のきれい事!?軍事 活動が優先される世界の国益事情

世界各地で展開される軍事活動や戦争を通じて、膨大なCO2が排出されている。
しかし気候変動対策でその点が問題視されることはまずない。それが世界の常識だからか。

ロシアとウクライナの戦争を通じて排出されたCO2は、2022年からの3年間合計で2億3680万tに上り、オーストリア、ハンガリー、チェコ、スロバキアの年間排出量を合わせた規模に匹敵する―。

11月中旬にブラジルで開かれた地球温暖化防止国際会議・COP30の場で、ウクライナ政府から衝撃的な数値が発表された。主な排出源は戦争行為で、航空機や戦車といった軍用機・車両、兵器が消費する燃料関係を中心に3分の1相当の約8170万tを排出しているという。それ以外にも、火災、エネルギーインフラ破壊、難民移動、民間航空のう回飛行、将来の再建――といった要因がある。

いずれにしても、軍事活動に伴うCO2排出量は膨大だ。イスラエルとハマスの戦争でも大規模な破壊が繰り返され、大量のCO2が排出された。そしてこうした戦争に、温暖化対策の旗振り役である欧州主要国も関わっているのは言うまでもない。戦争まで至らなくとも、防衛や演習などの軍事活動は世界各地で日々展開され、戦闘機が飛び回り、軍用車両が走り回っている。数年前、「CO2を排出する飛行機に乗ることは、環境にとって恥ずべき行為」という意味を指す『飛び恥』なる言葉が、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリ氏の活動によって注目されたが、的外れもいいところだ。

軍事と脱炭素は二律背反の関係にある

やや話はそれるが、今年もCOP30開催時、国際環境NGOの気候行動ネットワークから、日本に対し「化石賞」が授与された。日本が化石燃料を延命させる技術(CCUSやアンモニア混焼など)を推進し脱炭素に後ろ向きというのが理由だが、現実を見ておらず、とんだ茶番だ。わが国は火力発電の脱炭素化技術開発に先進的に取り組んでおり、世界の気候変動対策に貢献しているのは明らか。本来なら、戦争・軍事活動を積極展開している国にこそ化石賞を与えるべきではないか。

やはり「軍事のためには大量のCO2排出もやむを得ず」というのが、国家レベルで見た世界の現実だろう。結局は、気候変動問題よりも、領土問題やエネルギー確保問題、人種・宗教問題などに基づく国益が優先されるわけだ。そもそも脱炭素を含む国連のSDGs(持続可能な開発目標)の取り組み自体、「平和な時代のきれい事」であることが、ウクライナ戦争などによって証明されてしまった。それがリアルである以上、日本も国益の追求を最優先に脱炭素問題と向き合うべきだ。

【特集1まとめ】脱炭素の虚実 揺らぐ「気候変動」の世界常識

2050年カーボンニュートラル(CN)の実現が人々を救う―。
気候変動問題・対策を巡る世界の常識が揺らいでいる。
要因の一つが、行き過ぎたCN政策による弊害の顕在化だ。
各地でエネルギー料金が上昇し、再エネ拡大による環境破壊が進む。
主要国が表向きは「50年CN」の必要性を唱える裏側で、
CO2大量排出の軍事活動に注力する現実も鮮明化している。
歴史を振り返れば、「脱~」の取り組みはうまくいった試しがない。
「脱石油」「脱中東」「脱原発」―いずれも現実の壁を越えられないのだ。
「そもそもネットゼロを達成したところで昨今の異常気象は解消されない」
「貴重な資源でもあるCO2をまるで害悪のように扱っていいのか」
そんなCO2悪玉説への懐疑論も再燃する中、「脱炭素」の虚実に迫った

【アウトライン】脱炭素偏重の弊害顕在化で揺り戻し 「適応」が気候変動対策の主軸になるか

【コラム】所詮は「平和な時代」のきれい事!? 軍事活動が優先される世界の国益事情

【インタビュー】実質ゼロ達成でも海の熱膨張止まらず 温暖化前提の未来像が不可欠

【寄稿】IPCC報告書は「自然」を軽視 気候変動への人為的影響は限定的

【寄稿】「1.5℃」厳しく「2℃」が妥当 求められる現実路線への修正

【寄稿】COP30は途上国有利の決着 米国不在で先進国の交渉力低下

【コラム】くらし・産業と切り離せない貴重なCO2 国内の炭酸原料ソース減少が課題

【特集1】EEZ活用に向け法整備完了 浮体式国産風車の開発が鍵

政府は排他的経済水域(EEZ)の洋上風力発電事業の実施に向け環境整備を進めている。
同時に、特殊な日本の海域環境で浮体式を設置・運用する上では国産風車の開発が欠かせない

文:岩本晃一/新エネルギー財団計画本部主幹

今年6月、衆議院本会議でいわゆる「EEZ法」が可決成立した。これまでの「再エネ海域利用法」を改正し、対象をEEZにも拡大した。既に「排他的経済水域及び大陸棚に関する法律」「海洋構築物等に係る安全水域の設定等に関する法律」が成立しており、EEZで洋上風力発電を行うための法整備は整ったと言える。第7次エネルギー基本計画は、データセンターなどの普及により、2040年度の電力需要は23年度比で約2割増加との予想が出され、大型電源である洋上風力は「切り札」とされた。

国は、グリーンイノベーション基金や技術研究組合・FLOWRAで浮体部や電力系統の開発や実証実験などを行い、別の研究組合・FLOWCONで組み立て工法の開発が行われている。だが、風車には全く手がついていない。

欧州メーカーに開発動機なし 三菱商事撤退が示唆すること

欧州北海は遠浅ゆえ着床式で十分であり、欧州風車メーカーは日本市場向け浮体式風車開発を行う動機を持たない。着床式を前提とする欧米風車を日本のEEZで浮体式に用いると、高波や台風、落雷などに翻弄され、金属疲労や亀裂の具合がどうなるか分からない。日本のEEZは北海に比べて過酷な環境にあり、欧米の風車メーカーが掲げる寿命よりもかなり早く故障すると考えられる。また、EEZから風車を港湾までえい航して修理し元の場所に戻すと、数十億~数百億円を要するという。

三菱商事の全面撤退は、国産風車開発の必要性を一気に高めたともいえる。中西勝也社長は会見で「欧米の大手風車メーカー3社の値上げに伴う価格変更が、今回の決定に大きな影響を与えた」「欧州では2010年以前から手厚い補助金を交付して風車のサプライチェーンをつくり、製造コストを下げていったことによって洋上風力発電事業が開花した。今のところ、風車の大手メーカーは欧米の3社しかない。(中略)国内に風車のサプライチェーンをつくっていくことが重要だと考えている」と強調した。

国産風車の開発を行うためには、①風車の仕様、②風車の開発生産販売が持続的に行える国内体制(風車メーカー、サプライチェーン、人材育成)、③資金―の課題を解決する必要がある。日本において持続的に風車事業が継続するための国内体制が求められる。

領海、排他的経済水域などの模式図
出展:海上保安庁HP「領海等に関する用語」

【特集1】このままでは将来の需要満たせず 産業育成に公的支援が必須

【インタビュー:山内弘隆/武蔵野大学経営学部特任教授】

R1の顛末で民間の競争に任せるだけでは洋上風力の導入拡大が難しいことが明らかになった。
三菱商事撤退の検証や今後の政策見直しを進める政府WGの山内弘隆座長にポイントを聞いた。

やまうち・ひろたか 慶応大学大学院商学研究科博士課程単位取得満期退学。1988年から2019年まで一橋大学大学院商学研究科教授。現在、一橋大学名誉教授、武蔵野大学経営学部特任教授。総合資源エネルギー調査会・洋上風力促進WG座長を務める。

──経済産業省洋上風力促進ワーキンググループ(WG)と国土交通省小委員会の合同会議でR1の検証が進んでいます。

山内 三菱商事陣営撤退の要因分析については、11月10日の合同会議で一区切りとなりました。個別事業者の競争上の地位などを害する恐れがあり非公開としましたが、この結果を今後の政策に生かすことが重要です。可能な限り情報公開する必要性は政府も認識しており、今後レポートを出す予定です。

──過去の公募制度やこれまでの政策を今どう見ていますか。

山内 正直、選定の仕方自体に問題があった可能性は否めず、特に価格を重視し過ぎました。第6次エネルギー基本計画で再生可能エネルギーの主力電源化を明示し、その中心に洋上風力を据え、2030年までに1000万kWの案件形成といった目標を示し、政策の流れができました。
 これまでは国民負担の抑制を重視してきましたが、産業として独り立ちさせることの必要性も改めて認識しなければなりません。FIT(固定価格買い取り)制度初期のような過度な国民負担を課すことはできませんが、負担の拡大が一定の予測範囲内に収まるのであれば、フレキシブルなやり方があってもよいのではないでしょうか。

 また、洋上風力のポテンシャルが以前から指摘される中、結果として6次エネ基以降に政策が本格化したことは、助走期間が短すぎたとも言えます。事業者も情報が不十分な中で事業計画を立てざるを得なかったという事情があります。

フレキシブルに見直し 過度な国民負担は回避

──政策の大幅見直しが避けられない中、欠かせない視点とは。

山内 私は第7次エネ基の議論でも、公的な関与を増やしていかないと大規模脱炭素電源の確保は難しいと主張してきました。R1撤退はそれを裏付けるもので、合同会議ではこうした認識の下で検討を進めています。

 例えば原子力の新増設に向けては、英国のRAB(規制資産ベース)モデルが参考になります。これはPFI(民間資金活用型公共事業)的な制度で、洋上風力でもここまで強力な仕組みとするかは未定ですが、いずれにせよ公的支援がなければ、AIやデータセンター、半導体といった将来の巨大な電力需要を満たすことはできません。長期脱炭素電源オークションはその先取りと言えます。

 そして、浮体式を含めて洋上風力産業を国内で育成するという大きな目標もあります。エネルギー自給率を高め、国内のサプライチェーン構築につながり、その意味でも踏み込んだ公的支援を行う価値は十分あります。ただし、同時に国民負担とのバランスも欠かせない視点です。

【特集1まとめ】洋上風力の岐路 禍を転じて福となせるか

インフレなどに伴う事業環境の悪化で、世界的に洋上風力事業が岐路に立たされている。
特に日本では洋上風力を再生可能エネルギー主力電源化の切り札とし、
産業育成につなげるという青写真が実現できるのか。まさにその瀬戸際にある。
政府は「撤退ドミノ」の阻止に向け抜本的な政策見直しに入り、年末までに方針を示す。
ただ、現在の事業者の苦境は必ずしもインフレ要因だけではなく、公募制度の歪みの問題も。
またR1撤退の検証は非公開で、今後につながる知見が示されるのか、危惧する声もある。
三菱商事の3海域撤退という「災い」から「福」に転じることができるのか。
事業者や有識者など関係者への取材を通じ、その展望に迫った。(記事は11月18日までの情報に基づく)

【アウトライン】政府が「撤退ドミノ」阻止に全力 「ゼロプレミアム」の呪縛は解けるか

【寄稿】長期的な投資最適化へ 市場と公的関与の併存探る欧州

【座談会】R1完全撤退の教訓どう生かす? 洋上風力の展望を徹底討論

【インタビュー】このままでは将来の需要満たせず 産業育成に公的支援が必須

【トピックス】EEZ活用に向け法整備完了 浮体式国産風車の開発が鍵

【記者通信/8月29日】洋上風力撤退に見る三菱商事の甘さ 経産相・知事から批判相次ぐ

総取りからの“総撤退”──。三菱商事が8月27日、秋田・千葉両県沖の3海域で進めていた洋上風力事業からの撤退を発表した。中西勝也社長から報告を受けた武藤容治経済産業相は「3海域全て撤退の判断に至ったことは、洋上風力の導入に後れをもたらすもので大変遺憾だ。全国の関係者も大変注目している案件で、洋上風力全体に対する社会的信頼を揺るがしかねない案件だ」と苦言を呈した。破格の価格で洋上風力公募の第1ラウンド(R1)を総取りした三菱商事だが、見通しの甘さが露呈した形だ。

武藤経産相と面談する三菱商事の中西勝也社長(左)と岡藤裕治常務

武藤氏は「3海域における事業を確実に実現すべく、地元の理解を得た上で再公募に向けて進んでいきたい」と再公募に進む方針を示した。中西社長も、データの提供など再公募までの時間が短縮できるように最大限協力する姿勢を示した。

振り回された市場

三菱商事が撤退を決めたのは、建設費用が入札時の見込みから2倍以上に膨らんだことで、採算が合わなくなったからだ。また「フィードインプレミアム(FIP)制度に転換して、当時決めたFIT価格の2倍以上の水準で販売できたとしても、開発継続は困難と判断した」(中西氏)という。

実際に今年3月には、R1の海域などでFITからFIPへの移行が認められた。入札ルールの事後的な変更で、一部では「商事救済措置」とも言われた。市場価格上昇のメリットを享受できるようになり、FITよりも高い収入が期待できるからだ。ただ商事は破格の価格で応札し窮地に陥り、「後出しジャンケン」でルール変更という救済措置をとってもらった挙句、最後には全ての海域で撤退に至った──。結果的に市場秩序をかく乱したと受け取られても無理はない。

報道によれば、25年3月期に524億円の損失を計上しているため、追加の損失は限定的とみられるが、全体の損失額が数千億円を超えるとの見方もある。また武藤氏の発言にあるように、社会の信頼を揺るがし、日本のカーボンニュートラル政策をゆがめたのは事実。27日の会見では記者の質問も甘く、中西社長の責任問題にはほとんど触れられなかったが、破格の応札を主導した意思決定の妥当性は改めて検証されるべきだ。

地元や競合他社は

三菱商事の撤退について、3海域中2海域を占める秋田県の鈴木健太知事は27日、「極めて残念かつ極めて遺憾。国家肝いりのプロジェクトで、国を代表する企業が落札して、よもや撤退はないだろうと思っていたので、大変な衝撃だ」と述べた上で、「三菱商事には説明責任にとどまらず、さまざまな社会的な責任もあると思う」と今後の対応を求めた。一方、千葉県の熊谷俊人知事は28日、県庁で中西氏と面会し、「県としても地元としても事業の準備をしてきたが、振り回された形になった」と失望の意を示した。

第2、3Rで落札し、8月に英bpと洋上風力専門の合弁会社「JERA Nex pb」を発足させたJERAは「他社の事業判断に対してコメントする立場にないが、事業環境が著しく厳しくなっていることは事実だ。当社が落札した洋上風力発電事業は一定のコスト上昇、予備費を織り込んだ事業計画を策定しているが、幾多の困難とリスクを抱えており、三菱商事が発表した事業環境と大きな差はない」との見方を示した上で、「国内の洋上風力産業の育成と発展のために責任を持って進めるべく、国に対しても事業環境の整備に向けた理解をいただけるように努めていく」とした。第2RでJERAとともに秋田県沖を落札したJパワーは「他社事業に関することなのでコメントは控える」と具体的な回答はなかった。

武藤経産相のコメント

「信じられないというのが正直な気持ちだ。洋上風力は再生可能エネルギーの主力電源化に向けて内外からの期待が大きかった。3海域すべて撤退の判断に至ったことは、洋上風力の導入に後れをもたらすもので、大変遺憾。地元関係者は事業に期待をしてさまざまな協力をしてきた。撤退は地元の期待を裏切るものだ。また全国の関係者も大変注目している案件で、洋上風力全体に対する社会の信頼そのものを揺るがしかねない案件だ。3海域における事業を確実に実現すべく、地元の理解を得た上で再公募に向けて進んでいきたい」

◇  ◇  ◇

中西社長の記者会見でのやり取りは以下の通り。

――安値での落札に無理があったのでは。

「応札した2021年当時、見通せる事業環境やインフレ、金利なども含めて十分な採算を確保できると判断しFIT価格を決めた。だが、経済情勢が激変し投資回収すら難しい状況になった。たとえFIP制度に転換して、当時決めたFIT価格を2倍以上の水準で販売できたとしても、開発継続は困難と判断した」

――事業継続の選択肢はなかったのか。

「何千億円も投資するのにリターンがマイナスとなる案件では、民間企業ではそのリスクを取れない」

――振り返って反省する点は。

「欧州の洋上風車メーカーの値上げに伴う価格変更がプロジェクトに影響を与えた。サプライチェーンの再構築に迅速に対応できなかった点を反省したい」

――地元の企業は運転開始に備えて投資を進めてきた。

「洋上風力事業による地域共生策には期待されていた。裏切ることになってしまい、大変申し訳ないと思っている。28日以降に千葉県や秋田県に伺い経緯を報告しに行く。撤退という結果に終わったが、地域共生策の継続については引き続き地元と密にコミュニケーションしていきたい。」

――地域経済への影響は大きい。

「三菱商事グループが撤退してもこの案件がなくなるわけではない。秋田・千葉両県沖の3海域は海岸から近く風況が良い。昨今、政府の審議会で議論されている法制度が整えば継承される見込みがある案件だ。当社は撤退する形となったが、事業権を獲得した本案件については、日本のエネルギーに関する施策に貢献するような努力を続ける」

――今後、洋上風力の開発自体は続けるか。

「国内については軽々しく言えない。国外において当社は小会社のオランダ・エネコと洋上風力事業を順調に展開している。こうした欧州での開発経験も生かし、日本のエネルギー自給率の向上につながる取り組みに尽力する」

――社長としての責任をどう捉えている。

「本案件は日本初の大型洋上風力案件で、重要な位置付けにあるため、結果的にプロジェクトを進めることができなかったのは断腸の思いだ。とはいえ、データの開示など後続の企業につないでいく取り組みはやらなければいけない。日本のカーボンニュートラルに道筋をつけることはできなかったが、当社としてやれることはあると考えている。引き続き、社長としての責務を全うして当社をけん引していきたい」

【特集2】全国に1390カ所の発電所 再エネ自給率100%を目指す

イオングループの中核企業としてショッピングモールを展開するイオンモール。
電力需要は膨大であり、非常に高い再エネ導入目標を掲げている。

【インタビュー】渡邊博史/イオンモール 地域サステナビリティ推進室長、イオン 地域サステナビリティ推進担当リーダー

―太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入で高い目標を設定していますね。

渡邊 イオンモールは2025年に実質再エネ100%を目標に掲げています。と同時に再エネの「自給率」を25年に20%、30年に45%、40年に100%という「地域での自給自足」を目指しています。

―具体的な取り組みを教えてください。

渡邊 イオンモールの電力需要は年間約14億kW時(直営モール)です。イオンモールの敷地内に太陽光パネルを敷き詰めただけでは2~3割しか賄えません。そこで22年9月から「イオンモールまちの発電所」の取り組みを進めています。自己託送方式による低圧・分散型太陽光発電のオフサイトコーポレートPPAです。全国各地に1390カ所の発電所を持ち、再エネ自給率は23年に10%となりました。

強みとしては、需要が大きいことから価格交渉や技術面でスケールメリットがあることです。一方で、各送配電事業者とのやり取りは複雑で苦労しています。

―ほかにはどのような特徴がありますか。

渡邊 地域完結にこだわっていることです。イオンモールが存在する地域で発電することで雇用が生まれ、地域経済の発展につながります。地産地消を目指し、旧一般電気事業者のエリアを一つの単位として地域間融通は行いません。

われわれの最大目標は「お客さまの幸せ」です。住んでいる地域が脱炭素を実現するポテンシャルを秘めていることを知り、行動してもらうことが、その目標に直結すると考えています。地産地消の再エネ自給自足を目指すことは、あくまで手段に過ぎません。


EVを「動く蓄電池」として 脱炭素が経営に与える影響


―「お客さまの行動」という点ではV2H(ビークル・トゥ・ホーム)を進化させた「V2AEON MALL」サービスも画期的な取り組みだと思います。

渡邊 家庭で発電した余剰電力を電気自動車(EV)からイオンモールに放電していただくと、その行動に対してポイントを進呈します。23年5月、関西地区の3店舗で開始しました。イオンモールは国内で1842基のEV充電器を設置しています。社会実装研究として東京大学とも連携しており、今後もお客さまの環境意識を行動につなげるサポートができればと考えています。

―イオンモールの野心的な取り組みの背景には何があるのでしょうか。

渡邊 一つは中長期的観点から炭素税などのカーボンプライシングを想定した場合、電気料金が経営に大きなインパクトを与える可能性があることです。もう一つはサステナビリティを目指した取り組みを早急に行わなければ、企業として誰からも選択されなくなるという危機感です。

たなべ・ひろふみ イオンモール 地域サステナビリティ推進室長/イオン 地域サステナビリティ推進担当リーダー

【特集1】価格補助は恩恵を実感できず 需要家への直接給付が必要

減税やエネルギー補助金の延長を盛り込んだ政府の経済対策だが、より効果的な施策はないのか。
与野党の政策担当者と論戦を繰り広げる日本維新の会・音喜多政調会長に聞いた。

【インタビュー:音喜多 駿/参議院議員 日本維新の会 政調会長】

―政府が打ち出した経済対策の評価は。

音喜多 需給ギャップが解消に向かい、生鮮食品を除く全国消費者物価指数(コアCPI)は3%を超えて推移し続けました。こうした状況下では、インフレ圧力となるバラマキ型の需要喚起策ではなく、物価高対策と生活困窮者支援に絞った対策を行うべきです。

私たちは「集めて配るのではなく、そもそも集めない」経済対策を提案してきました。その点からは、物価高対策の目玉とされる減税(所得税3万円、住民税1万円)の方向性は評価します。しかし、その手法には賛成できません。1年限りであれば効果は疑わしく、防衛増税に備えて貯蓄に回る可能性があるからです。

―日本維新の会は社会保険料の減免を提言しています。

音喜多 低所得者層や現役世代にとって、最も負担となっているのは社会保険料です。低所得者層は5割、それ以外は3割減免すれば、国民の方々に可処分所得の増加を実感していただけるでしょう。短期的な物価高対策としては最適で、中期的にはわが国が避けて通れない社会保険制度改革の議論へとつなげられます。

また日本経済は各種指標が上昇しているとはいえ、設備投資や個人消費など内需は依然として弱いままです。消費税は来年度予算で8%へと減税し、軽減税率は廃止すべきです。

原発再稼働へ政治が全力を 成長のための構造改革

―エネルギー補助金の延長についてはどう考えますか。

音喜多 補助金ではなく、一般家庭なら月3000円程度のエネルギー手当など需要家への直接給付を行うべきでした。補助金制度では国民が恩恵を実感しづらいばかりか、事業者は「中抜き」を懸念されるなど、双方にとってあまりメリットがありません。

ガソリン料金では、道路財源の不足を理由に上乗せられた暫定税率の廃止が最優先でしょう。電気については、政府に提出した提言書でも取り上げましたが、原子力発電所を早期に再稼働させるべきです。政府も物価高対策に「数十基の原発の再稼働」を盛り込んでいますが、2012年に大飯原発が政治主導で再稼働したように、もう一歩踏み込んでほしい。原子力規制委員会の審査効率化や立地自治体の同意獲得のため、政治家がやるべきことはまだあります。

―供給力強化についての考えを教えてください。

音喜多 ここ数年、GX(グリーントランスフォーメーション)関連の基金などが増えましたが、補助金をばらまく自民党的なやり方が経済成長につながるかは疑問です。できる限り市場に任せ、あるべきところに資金が集まるルールづくりを行うのが政府の役割でしょう。経済成長のためには、生産性の向上と労働市場の流動化が不可欠です。前者ではライドシェアや農業への法人参入など、後者では「解雇の金銭解決」の法制化といった大胆な構造改革を行わなければ経済成長は実現しません。

おときた・しゅん 1983年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。都議を経て19年の参議院議員選挙で初当選。21年11月から現職。

【特集1】「原発回帰」は必然の展開 新増設に時間的猶予なし

インタビュー:遠藤典子 慶應義塾大学 特任教授

岸田政権は「GX基本方針」で次世代革新炉への建て替えなど原子力の活用を掲げた。
しかし、国内のサプライチェーン維持のために残された時間はわずかだ。

―オイルショック後の原子力政策を振り返ってください。

遠藤 オイルショック後、「脱石油」を合言葉に、エネルギー源の多様化を求めて政策の方向性が変わりました。その一翼を担うべく原子力の重要性が高まり、導入促進の契機となったのです。その後、海外では1979年に米国スリーマイル原発で、86年にソ連チェルノブイリ原発で重大な事故が発生。国内でも、95年の高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム漏洩事故、99年の東海村ウラン加工工場での臨界事故があり、世論の逆風にさらされた時期もありました。それでも97年には「京都議定書」が採択され、原子力はクリーンなエネルギーとして注目を集めました。民主党政権下の2010年に策定された第三次エネルギー基本計画では、30年に電源構成比率の50%超を目指すと明記されたほどです。

 しかしながら、11年に福島第一原発事故が発生し、政策転換を余儀なくされました。電源構成から原子力が抜け落ちたことで石炭火力など化石電源への依存度が高まるなど、エネルギーミックスはバランスを欠いています。

―3・11後、原子力政策が長く停滞した要因は?

遠藤 福島第一原発事故は、帰宅困難区域を生んだり、風評被害をもたらすなど、立地地域周辺に甚大な被害を及ぼしました。また、賠償の一部を託送料金への上乗せで回収するなど、国民にも経済的な負担を負わせました。こうした中、今後も原子力を活用するべきなのか、議論がはばかられる状況が続きました。そのため、政治が再稼働や新増設・建て替えの判断に踏み込めなかったことは、仕方がない面があります。

 しかし、ロシアによるウクライナ侵略など、エネルギー安全保障の重要性に直面する中、ようやく現実的な議論ができる土壌が整ってきました。

イノベーションに必要不可欠 サプライチェーン維持の瀬戸際

―原子力の活用へとかじを切った岸田政権の動きをどう評価しますか。

遠藤 資源小国である日本はエネルギー安全保障において脆弱な立場で、自前のエネルギー源は再生可能エネルギーか原子力しかありません。ただ再エネはサプライチェーンの中国依存度が高い、発電効率が相対的に低い、などの問題を抱えています。一方で、原子力はベースロード電源であり、サプライチェーンは日本で完結でき、発電効率が高い。原子力なしで脱炭素を達成することは不可能です。やや時間はかかりましたが、政府の方針転換は高く評価しています。

【特集1/座談会】 エネルギー政策の往古来今 安定供給こそ国益の源泉

オイルショックから50年、世界のエネルギー情勢は激変した。
電力政策は再び安定供給の課題を突き付けられている。

【出席者】

鈴木淳司 総務大臣 衆議院議員
十市 勉 元日本エネルギー経済研究所首席研究員
中井修一 電力ジャーナリスト
大場紀章 ポスト石油戦略研究所代表

左上から時計回りに、中井氏、鈴木氏、十市氏、大場氏

中井 10月で1973年の第一次オイルショックから50年となります。日本は翌年には、戦後初めてマイナス成長を記録し、高度経済成長は終焉を迎えました。78年には第二次オイルショックが発生したものの、これを克服して90年代の入り口まで安定成長を続け、この間、エネルギー政策は大きく転換していきました。オイルショックは時代のターニングポイントになったと言えますが、一方で「過去の出来事」と冷めた見方もあります。改めてオイルショックとは何だったのか、ご意見を伺わせてください。

十市 戦後の高度成長を支えた大きな要因は、中東からの石油供給でした。73年、日本の一次エネルギー源の約8割が石油です。ところが、二度のオイルショックで原油価格は十数倍に跳ね上がり、日本経済にとてつもないインパクトを与えました。

鈴木 当時、私は中学生でしたが、これは大変なことが起きたと思いました。まさに『油断』(堺屋太一の小説)―油が断たれた状況で、日本経済はどうなるのかと不安になったのを覚えています。

十市 日本人はオイルショックで「エネルギー安全保障」の重要性に気づき、「脱石油」がエネルギー政策の一丁目一番地になりました。この目標を実現するため、省エネルギー法や石油備蓄法、石油代替エネルギー促進法などが整備され、73年7月に発足したばかりの資源エネルギー庁が、規制と支援を組み合わせた政策を断行したのです。

 その結果、2010年の電源構成比は、石油火力9%、LNG火力29%、石炭火力28%、原子力25%、再生可能エネルギー9%となり、大部分が非石油燃料と原子力に置き変わった。官民の協調により、脱石油は成功したと言えるでしょう。

大場 今日のさまざまな国際的秩序も、オイルショックに端を発しています。74年に国際エネルギー機関(IEA)が設立され、79年には第二次オイルショックへの対応を協議するため、先進7カ国(G7)へとつながる先進国首脳会議(東京サミット)が開催されました。日本は当時、世界第二位の石油消費国だったこともあり、この枠組みに組み込まれたのです。

トイレットペ―パーの買い占めが発生した 提供:毎日新聞社/時事通信フォト

【特集2】津波・水害対策の新手法 小規模タンクの漂流を防ぐ

【東電設計】

津波・水害対策の「抜け穴」をふさぐ可能性を秘めた工法を東電設計が開発した。

現在、プラントや漁港に設置されている小規模(500㎘未満)の危険物タンクが、津波・水害対策の抜け穴となっている。というのも、小規模タンクには設計時に津波対策などの法的規制がなく、対策を施していない設備が多いからだ。危険物タンクが流されれば、火災などの二次災害につながりかねない。実際に2011年の東日本大震災では、気仙沼市などで燃料タンク19基が漂流した。

小規模タンクの津波・水害対策については、これまでの研究や特許でもいくつかの提案はあった。だが、コストや実現可能性が原因で普及しなかった。背景には漁業組合などの事業者が「津波で漂流する」という低頻度災害に対して、コストをかける余裕がないという事情もあるようだ。

基礎とタンクを「面」で固定 種子島で初の社会実装

危険物タンクが流されるリスクを抑えるため、効果的な津波・水害対策を低コストで実現できないか―。東電設計は消防庁のガイドライン策定に合わせて二つの工法での対策を提案。その工法を盛り込んだガイドラインが、22年3月に公表された。

対策工法1は、タンクと基礎を炭素繊維強化プラスチック(CFRP)で、隙間なく「面的」に固定するものだ。これまでタンクと基礎をボルトで固定する工法はあったが、これでは応力がボルト固定部の「点」に集中してしまう。だが、CFRPで面的に固定することで応力を分散。またタンクと基礎の隙間が埋まるため、水が侵入するのを防ぎ、タンク底面の浮力を殺すことができる。白羽の矢が立ったCFRPは構造物に接着硬化する溶接不要のシートで、危険物を保管している性質上、溶接不要という特徴は施工時の安全性にも寄与している。

対策工法2もCFRPを用いる。タンクの側板中間段にワイヤーを接続するための接続孔を溶接したプレートをCFRPで固定し(タンクの中心付近にプレートを付け、CFRPで巻いた状態)、防油堤内に設けられたアンカーと接続孔をワイヤーで緊結固定する。ワイヤーとタンクが「面」でつながる状態となり、応力集中を回避できる仕組みだ。対策工法1と異なり、基礎の形状を問わず施工できるのがポイントとなっている。

二つの工法について、神奈川県の港湾空港技術研究所で津波実験を実施。波が当たってもタンクが動かず、CFRPも大きく乖離しないことを確認した。

8月には鹿児島県・種子島の油槽所(90㎘のガソリンタンク)で、対策工法1を用いた工事を完了。社会実装の第1号となった。開発を担当したLNGエンジニアリング第二グループマネージャーの保延宏行氏は「特に対策工法1は、CFRPを巻くだけで津波・水害対策になる。日本はもちろん、島しょ国などにも広がってほしい」と期待を寄せる。

東電設計が考案した工法が、ほぼ手付かずだった小規模タンクの津波・水害対策の救世主となるかもしれない。

対策工法1の社会実装1号

【特集1】値上げは粛々と速やかに!? ガス・水道・鉄道の料金事情

首相や消費者庁の介入により、大きくクローズアップされた電力規制料金の値上げ。
公益サービス維持のために求められるのは、電力だけを特別扱いしないことだ。

電力規制料金の値上げが規制当局による厳しい査定を受ける一方で、粛々と実施されているのが、ガスや水道料金、鉄道運賃などの値上げだ。同じ公共料金なのに、この違いは一体何なのか。

「健全経営」の都市ガス 水道料金7千円時代へ

まず都市ガスについては、2017年の全面自由化以降、21年10月に大手事業者に課せられていた経過措置料金規制が解除。電力の規制料金と異なり、審査や公聴会を実施せず、自由に料金を設定できるようになった。この後、昨年2月にロシアがウクライナに侵攻し、原料費が高騰。東京ガスなどガス事業者は原料費調整条項の上限を廃止、もしくは自主的に引き上げ、資源高騰による直接的な影響を回避することができた。この効果は、電力が総崩れした22年度決算で軒並みの大幅黒字という形で顕著に表れている。

料金の算定方法は電力と同じ総括原価方式だが、都市ガスは原価構成が単純だ。原料のほとんどはLNGで、原油価格と連動する長期契約が中心となっている。総原価では原料費が大半を占めるため、LNG価格の変動が、そのままガス料金の改定圧力となる。

一方、自治体が運営する水道料金に関しては、値下げ要因がほぼない。実際、全国に約1200ある事業者のうち、17~22年までの5年間で値下げ実施したのは、わずか36事業者。片や値上げを行ったのは274事業者に上る。

算定方法はやはり総括原価方式だが、基本的に国による審査プロセスはない。地方公共団体が検討を行い、給水条例を改正する形式だ。審議会などに諮り外部の意見を仰ぐが、関係者によれば「値上げはスムーズに実行されることが多い」という。主な値上げ理由は、人口が減少する中で浄水場や水道管の老朽化が進んでおり、設備の維持・更新のためには相応の費用負担が発生することだ。

値上げ不可避という現実を前に、国も環境づくりに動き出した。18年に実施された水道法改正では、料金について規定する第14条に「適正な原価に照らし、〝健全な経営を確保することができる〟公正妥当なものでなければならない」という一文(強調部)が加えられた。公益サービスの維持のための健全経営の必要性を法律で示したのだ。

3月には厚生労働省が将来の水道料金の試算結果を初めて公表。投資規模の違いなど三つのパターンで推計しているが、いずれも60年の1カ月の平均料金(一世帯当たり)は6000~7500円程度と約2倍になっている。

特筆すべきは、内々価格差が電気と比べ物にならないことだ。EY新日本などがまとめた「人口減少時代の水道料金はどうなるのか?(2021版)」によると、18年度に20㎡利用時で基本料金が最も低いのは、長野県下諏訪町で750円。これに対し、最も高い北海道夕張市は6841円となっており、内々価格差は約9倍に及ぶ。電力規制料金の内々価格差は2倍弱だから、その違いは一目瞭然だ。同資料では、43年の夕張市の基本料金が衝撃の2万8956円と推計されており、今後も内々価格差は拡大するとみられる。

【特集1】ハードル高い概要調査への移行 受け入れ難い根拠なき反対

寿都町、神恵内村では概要調査への移行が注目されるが、北海道内には批判的な声も多い。
地層処分が科学・工学に基づく事業であり、正しいプロセスを踏んでいることを主張すべきだ。

井川 陽次郎
元読売新聞論説委員/工房YOKIA代表

石川和男
社会保障経済研究所代表

左・井川氏、右・石川氏

――北海道寿都町と神恵内村で文献調査が開始されてから、目安となる2年が経過しました。石川さんは両町村の地域振興アドバイザーを務めているので、何度も現地に足を運んでいます。

石川 文献調査の期間は、NUMOが地元の皆さんと交流して、処分事業について理解を深めてもらう時間です。調査が始まってから、NUMOは現地に職員を常駐させ、首長から一般住民まで多くの方々と交流してきました。地元の皆さんと密接な関係を構築できた点で、有意義な2年間だったと思います。

明らかに減った処分事業への抵抗感 概要調査を受け入れる雰囲気も

――地元で理解は深まりましたか。

石川 文献調査を受け入れた当初は「危険」「後戻りできない」というイメージが先行して、処分場がすぐに建設されると思っていた人もいました。最終処分場という言葉に拒絶反応もあった。ところが、この2年間で明らかに抵抗感が少なくなりました。それは寿都町、神恵内村に限りません。道全体の中でも理解を示してくれる人が増えています。

――今後は概要調査への移行に注目が多く集まります。

石川 これからは地元議会の同意や知事の意見など、さまざまなプロセスがあります。さらに精密調査まで考えると、マラソンに例えればまだ5㎞進んだくらいです。ですから軽々しくは言えませんが、両町村には次のステップを受け入れる雰囲気がある気がします。

井川 ただ残念なのは、最終処分について全国的な議論の広がりがなかった点です。NUMOによる「対話の場」も、現地でどういう議論が行われているのか伝わってこなかった。

――井川さんはマスコミOBです。文献調査については中立・公正な報道が行われたか疑わしい。メディアの報道をどう見ていましたか。

井川 もともと北海道のメディアは反政府的な色彩が強い。北海道新聞をはじめ地元メディアには反対寄りの報道が多く、「概要調査に進ませない」ムードをつくり出していた。

石川 でも、マスコミがネガティブキャンペーンを行うのは分かり切っていることです。人間はネガティブな情報が好きで、ワイドショーでも結婚の話題は数分なのに不倫や離婚はずっと取り上げている。処分事業について理解が進んでいるという「良い」事実にはニュース価値がありません。対話の場で建設的な議論が行われたり、地域振興策が話し合われている様子も、メディアからすれば画にならない。

【特集1】文献調査を受け入れた寿都・神恵内 貴重な「2年」が遺したもの

寿都町と神恵内村で文献調査が実施されてから約2年半がたとうとしている。
現地を訪れると、真剣に「まちの将来」を考える住民の姿があった。

岸田政権が原子力政策の大転換を打ち出そうとしていた昨年末、バックエンド事業は一つの区切りを迎えた。北海道寿都町と神恵内村で実施されていた高レベル放射性廃棄物(HLW)の最終処分場選定に向けた文献調査期間の目安とされる2年間を終えたのだ。2年間の貴重な経験は、いったい何を遺したのか―。

熱心に村おこしを議論 ふるさと納税が急増

新千歳空港から電車とバスを乗り継ぎ4時間半。積丹半島西部に位置する神恵内村に入った。バスを降りると、静けさの中に波の音だけが響きわたり、曲線を描く海岸線が美しい。そんな海岸線を望む高台の民宿「きのえ荘」で、地元で水揚げされたおいしいナマコとサクラマスを食す。神恵内村ではこのほか、ホッケやカレイ、ホタテ、ウニなどが獲れる。

神恵内村の課題は、品質は確かなこれらの特産品をどう売っていくかだ。〝外貨〟を獲得すべく、ブランド力を高めて札幌やニセコに販路を開拓できないか―。そこで神恵内村は2017年、隣接する泊村・岩内町と連携し、地域商社キットブルーを設立した。同社の大塚英治社長は、神恵内を活性化させるには、村民がビジネスマインドを持つこと=意識改革が必要だと説く。

さて、きのえ荘の女将は〝生粋の地元っ子〟という池本美紀さん。村おこしに熱心で、NUMOが運営する「対話の場」にも積極的に参加した。

自分の住む村が文献調査を受け入れたことで、「核燃料サイクルはもちろん、日本のエネルギー政策を主体的に考えるようになった」と振り返る。だが、池本さんが感じた変化はそれだけではない。村民が「村の将来を真剣に考えるようになった」というのだ。

民宿「きのえ荘」から臨む景色

神恵内村の企画振興課長・高田徹さんは、対話の場を「すごくいい場所」と表現する。村民が最終処分場の受け入れの是非だけではなく、村おこしについても熱心に議論しているといい、大塚社長の言う「意識改革」が始まっているようだ。

文献調査を受け入れて間もない頃は、多くの抗議の手紙や電話が来たが、商工会や漁業協同組合に調査したところ、風評被害はほとんどなかった。それどころか、「神恵内村を応援します」という励ましの電話やふるさと納税も多く届いたという。

19年度まで100万円に届かなかったふるさと納税額は、21年度に513万6000円、今年度は約1200万円(昨年12月時点)にまで増えた。「文献調査を受け入れたことがキッカケとなり、さまざまなことが好転している」(高田さん)