【特集1】石炭調達・利用政策の展望 いずれは新たな安定状態に

インタビュー:羽田由美子/資源エネルギー庁 資源・燃料部 石炭課長

昨年顕在化した石炭市場の変貌を、政策当局はどう捉えているのか。
石炭調達や利用政策の展望を、資源エネルギー庁の羽田石炭課長に聞いた。

はた・ゆみこ 1999年東京大学理学系研究科修士課程修了、通商産業省(当時)入省。内閣広報室国際広報室企画官、原子力発電所事故収束対応調整官、資源循環経済課長などを経て2022年7月から現職。

―2022年の石炭市場の変化をどのように受け止めていますか。
羽田 石炭は低廉で地政学的リスクが比較的低い資源であることが特徴の一つですが、日本を含むG7(先進7カ国)各国がロシア炭輸入のフェーズアウトや禁止を決め、22年末には価格が前年同期比約2倍に高騰するなど、市場環境が短期間で劇的に変わってしまいました。いずれ新しい安定状態を迎え価格は落ち着くと考えられますが、それまでの間は、影響が出ている産業分野の動向をしっかりと注視し対応していきます。

―ロシアから輸入していた企業にとって、調達先を変えることは容易ではありません。
羽田 調達先を切り替えるにあたり、石炭の保管施設(バース)の仕様を変える必要がある場合、サプライチェーンが遮断されることがないよう支援するための予算措置を行っています。また、一部の大手電力会社が経過措置料金の値上げ申請を行いました。中小の製造業を含む各事業者が、コスト増分を取引価格に転嫁できるよう後押ししています。

中長期的な方向性が重要 低炭素型の技術開発を支援


―石炭火力の活用についてはどうお考えですか。
羽田 第六次エネルギー基本計画において、石炭火力は30年のエネルギーミックス(電源構成比率)の19%を占め、30年以降も活用し続けます。50年カーボンニュートラル(CN)実現に向け資源の多くを輸入に頼る日本がトランジション(移行期)に安定的にエネルギーを供給するためには、低炭素化の技術開発が欠かせません。

 これまでも発電事業者が取り組んできたタービンの効率化や低品位炭の受け入れ拡大の取り組みはもちろんのこと、石炭ガス化複合発電(IGCC)やCCS(CO2回収・貯留)、カーボンリサイクル、アンモニアやバイオマスの混焼といった技術開発を評価し、引き続き支援していきます。また、再生可能エネルギーの調整電源としての役割を担うことになりますので、調整力に優れた技術の開発も求められます。

―中長期的には上流投資の先細りは避けられません。
羽田 日本はS(安全)+3E(安定供給、経済、環境)の観点から、エネ基を策定しエネルギーミックスを示していますが、これはマーケットに対するシグナルになると考えています。生産者が上流投資をする上で、いつどれだけの需要があるかが分かるため、過不足なく投資を行うインセンティブが働くからです。

 今回のように、マーケットが劇的に変わった時の対応が難しいことに変わりはありませんが、国としての中長期的な方向性を示すこと、それを踏まえ需給双方でコミュニケーションを図ることがこれまで以上に重要になるでしょう。オーストラリアやインドネシア、そして新興の石炭生産国とも官民問わず資源外交を展開し、需給をバランスさせながら50年CNの実現を目指します

【特集1/座談会】著名作家が占う「癸卯」の年 斬新な着想でエネ問題を両断 事実は小説より奇なりか

波乱が予想される2023年、エネルギーを取り巻く情勢はどうなるのか。
エネルギーフォーラム小説賞選考委員の著名作家3人が語り尽くす。

【出席者】鈴木光司/小説家、高嶋哲夫/小説家、江上剛/小説家
【司会】松本真由美/東京大学教養学部客員准教授

左上から時計回りに、江上氏、鈴木氏、高嶋氏、松本氏

松本 2022年は年明け早々からロシアによるウクライナ侵攻を契機に、エネルギー資源価格の高騰と需給ひっ迫が世界的な問題となりました。現在のエネルギー業界を取り巻く状況をどのように見ていますか。

高嶋 自然エネルギーが大きな割合を占める欧州諸国でさえ、ロシアからの天然ガスや石油の輸入停止で大騒ぎをしている。世界がいかに化石燃料に依存しているのかを痛感した。日本も「早期の原発再稼働」という解決方法は分かっているんだけど……。

江上 つくづく日本は現実を直視しない国だと思ったね。年末に原発の運転延長や新増設・リプレースの議論が盛り上がったけど、反対派は感情的に反対するのではなく、賛成派も国民を脅すような形ではなく、再稼働が必要な理由を正面から語るべきだ。

鈴木 3・11以降、正常に稼働していた原発まで政治判断で止めてしまったのがまずかった。ボクはヨットに乗るから分かるけど、エネルギーは多様性が重要だ。ヨットの動力源は軽油のディーゼルエンジンと風を受けるセール。片方がダメになっても、もう片方でカバーできる。国民の生命に関わるエネルギー政策もバランスを考えるべきだ。

太陽光パネル義務付けの愚 脱炭素予算の流れに逆らえず

江上 23年は、戦前の大同電力の初代社長を務めた福澤桃介の小説を上梓する。「電力王」と呼ばれた福澤は水力発電に可能性を見出し、木曽川開発などに注力した偉大な実業家だ。

鈴木 日本は急峻な山岳地帯が多く、梅雨や9月の長雨がある。だから水力発電に適していて、数多く開発された。反対に、そうした地理的、気候的特性を持つ日本に、太陽光発電は向いているのだろうか。ただ欧米に右へならえで、日本の特性という現実を直視できていない気がする。

江上 経済の現実も見えていない。太陽光パネルの多くを製造しているのは中国だ。中国は石炭火力が主力で、製造時に大量のCO2を排出する。カドミウムなど廃棄時の問題も解決していない。産業廃棄物の再生処理は日本の得意分野だが、太陽光パネルをほとんど作っていない国がその対策を推進するのもどうなのかと思う。

鈴木 太陽光発電を生かすとすれば、地産地消しかないだろう。大量のメガソーラーを送電系統に接続すると、需給バランスが崩れて停電の恐れが出てくる。

高嶋 そうは言っても、世界は脱炭素に向かって進んでいる現実もある。例えば、ハイブリッド車やコンバインドサイクル発電は日本の技術力の結晶だけど、CO2を少しでも排出するから門前払いされてしまう。日本は脱炭素の流れに乗るのか、独自路線で孤立する道を選ぶのか。国際社会で生きていくには、世界の流れに乗るしかないだろう。

江上 世界的なEV普及は、トヨタ潰しに違いない。ガソリン車で勝てないから、技術が全く異なるEVを持ち出してきた。逮捕される前のカルロス・ゴーンに会った時、「ガソリン車ではトヨタに負けるからEVの時代にする」と言っていたよ(笑)。

鈴木 日本が太刀打ちできないのは、欧米が中心になって脱炭素を軸にした国際的な資本の流れを作ってリードしているからだろう。科学的な正しさなど関係なく、マネーの流れを作り、先に乗って売り抜けた人が莫大な利益を得る。

江上 だから国の補助金に群がる再エネ事業者には、詐欺師もいると思う(笑)。日本は技術力を武器に、付加価値のある製品を海外に売って儲けてきた。突き詰めれば、それは海外からエネルギーを買うためだ。エネルギー事業がカネ儲けだけの連中の集まりになったら終わり。エネルギーはまさに国家の生命線である現実を考えると、本来は国家観や使命感を持つ人間が手掛けるべきだ。

松本 再エネに詐欺師ですか! 先ほど経済産業省の審議会(産業構造審議会・グリーンイノベーションプロジェクト部会・グリーン電力の普及促進分野ワーキンググループ)に参加していたのですが、そこではグリーンイノベーション基金の次世代太陽電池など、今のお話とは対照的な議論をしていました。座談会の予想外の展開にとまどっています(笑)。

【北海道ガス 川村社長】DXを軸に改革を断行 総合エネルギー企業へ変貌を目指す

2022年6月、大槻博現会長からバトンを受け継いだ。経営のDXを加速させるとともに、都市ガス・電気を組み合わせた総合エネルギーサービス事業の展開で、「エネルギーと環境の最適化による快適な社会の創造」を目指す。

【インタビュー:川村智郷/北海道ガス社長】

【聞き手:志賀正利/本社社長】

かわむら・ちさと 1992年早稲田大学教育学部卒、北海道ガス入社。2020年次世代プラットフォーム検討プロジェクト部長、21年執行役員DX・構造改革推進部長などを経て22年6月から現職。

志賀 2022年6月に社長に就任されました。1969年生まれで、大槻博会長(前社長)とは20歳差。21年に執行役員となったばかりで、相当驚かれたのではないでしょうか。

川村 22年1月中旬に当時の大槻社長に呼ばれ、身構えずに話を聞いていたら、社長就任への打診だったので驚きました。地元・北海道に貢献したいという思いで北海道ガスに入社しましたが、社長という立場になれば、地元への貢献でより大きな役割を果たせるのではないかと考え、引き受けることを決めました。

志賀 早稲田大学教育学部のご出身ですが、何が入社の決め手だったのでしょうか。

川村 教育学部ではありますが、特に教育関係に進もうとは考えていませんでした。満員電車もあまり得意ではなく、ずっと東京で生活するのは難しいなと思い、大学在学中の比較的早い時期から卒業したら北海道に帰ろうと考えていました。

 就職活動を通じてさまざまな業界の企業を訪問しましたが、北海道に貢献したいという思いを持つ中で、当時の人事担当者との巡りあわせもあり、北海道ガスに入社を決めました。
 当時は社員が500人ほどで、今のような事業規模の会社ではありませんでした。ましてや、電気を売ることになるとは思いもしませんでした。

電力事業は順調に伸張 価格競争はしない

志賀 入社後は、どのような仕事に携わってきましたか。

川村 最初は、ガス料金を計算したり集金に出向いたりといった業務を担う料金課に配属となりました。その後、30代になって日本ガス協会に出向したのですが、その頃はちょうど電力・ガス小売り全面自由化を巡る議論の真っただ中で、電気・ガス事業法の制度改正議論を目の当たりにし、貴重な経験をしました。

 当社に戻った後は、企画系の部門に長く所属しましたが、14年から電力事業の立ち上げに携わったのは、私にとって印象深い仕事の一つです。

志賀 就任直後の7月に、原料費調整制度の上限値を10月以降廃止することを決めました。大きな決断だったのではないでしょうか。

川村 廃止にあたっては、第一に、お客さまにご負担をかけてしまうことへの心苦しさがありました。ただ、原料の調達価格の高騰が続くと、エネルギーの安定供給のみならず、持続的なサービスの提供などにも影響する可能性があります。苦渋の決断でした。しかし北海道は、冬期間にエネルギーの使用量が増えるので、その地域特性を考慮し、3月までは平均原料価格がこれまでの上限値を超えた分の半分は料金に反映せず当社で負担するという経過措置をとることにしました。

 あわせて、当社の会員制ウェブサイト「TagTag」を通じて、省エネによる負担軽減に役立つ情報の発信を充実させたところです。 さらに、国や北海道の補助金を活用した「節電キャンペーン」を実施中ですが、当社独自の「ガスの省エネキャンペーン」も行っています。今後も、北ガスならではのノウハウを生かし、省エネをしっかり後押ししていきたいと思います。

志賀 電力事業は順調に契約数を伸ばしていますか。

川村 お客さま件数は21万件まで増え、電力事業は当社グループの売上高の約2割となり事業の柱に成長しました。契約獲得はお客さまとの接点機会での営業活動が中心ですが、最近ではウェブで他社と見比べるお客さまも多いので、ネットにタイミングよく広告を出したり、オンラインで申し込みが簡単にできるようにしたりと、ウェブマーケティングを強化しました。その成果もあり、ガスの供給区域外のお客さまも増えています。 

 電源の整備については、北ガス石狩発電所や札幌発電所などの自社電源で販売電力量の約6割を賄うまでになりました。電源としてはそのほか、相対契約による調達分もあるので、電力市場からの調達にはそれほど依存していません。国際情勢の影響によって燃料価格の高騰が続いていますが、その影響は最小限にとどめられています。

志賀 健全な事業運営や脱炭素社会の実現のためには、さまざまな投資が必要です。しかし、利益を犠牲にした過当な価格競争は企業体力を削ぎ、それらの投資を妨げることにつながりかねません。私は行き過ぎた価格競争には反対ですが、いかがお考えですか。

川村 私も同感です。期間限定のキャンペーンを行うことはありますが、価格競争をするつもりはありません。当社ならではの強みを生かしたサービスで勝負したいと考えています。お客さま宅に訪問してのガス機器保守サービスなどは当社の強みの一つですが、「TagTag」をはじめとした省エネサービスや、家庭用エネルギーマネジメントシステム「EMINEL」といったエネルギーマネジメントにも力を入れているところです。

 省エネは、お客さまの負担軽減だけではなくCO2の削減にもつながり、脱炭素に向けたベースとなる取り組みです。そのことをこれからも社会にしっかり訴えかけ、お客さまと双方向のコミュニケーションを図りながら、当社ならではの機能的で効果的な省エネを訴求していきたいと考えています。

会員制ウェブサイト「TagTag」でエネルギーの使用状況を確認できる

【中国電力 瀧本社長】安定供給に全身全霊 全社員一丸で 難局に立ち向かう

厳しい経営状況の中、社長に就任した。最大の使命である安定供給と、2050年カーボンニュートラル実現に向けて、あらゆる取り組みを加速させていく。

【インタビュー:瀧本夏彦/中国電力社長】

志賀 6月の取締役会で社長に就任されました。抱負をお聞かせください。

瀧本 昨今の燃料価格や電力市場価格の高騰、ウクライナ情勢の長期化に伴う燃料調達への影響、全国的な電力需給のひっ迫……。非常に厳しい経営状況の中、そのかじ取りを担うことになりました。いかにその重責を全うしていくか、大変身の引き締まる思いです。

 当社の経営理念は、「信頼。創造。成長。」。この理念に基づき、中国地方において70年以上築き上げてきたお客さま・地域の皆さまとの信頼関係を、より強く、確固たるものにします。さらに快適性や利便性といったエネルギーを通じた価値を提供する中で豊かな未来を創造し、地域の成長へとつなげていく考えです。

たきもと・なつひこ 1981年東京大学経済学部卒業、中国電力入社。取締役常務執行役員経営企画部門長、取締役常務執行役員販売事業本部長などを経て、2022年6月から現職。

厳しい業績予想 値上げの検討に着手

志賀 2023年3月期の連結最終損益が過去最大の赤字見込みとなり、規制料金の値上げ検討にも着手されました。

瀧本 22年度の業績予想は、燃料価格の上昇による燃料費調整制度の「期ずれ」差損の拡大に加え、一部の料金メニューにおいて燃料費調整単価に上限が設定されており、燃料価格上昇を電気料金に反映できないといった理由で、経常損益、親会社株主に帰属する当期純損益、いずれも過去最大の赤字になる見込みです。

 現状、燃料価格や電力市場価格が急激に高騰し、電源の調達費用の増加や一部の料金メニューにおいて、燃料費調整が上限を超えることで、収支や財務へ大きな影響が生じており、電力の安定供給に支障を来たしかねない切迫した状況に至っているものと受け止めています。
 当社は東日本大震災以降も規制料金の値上げ改定を行わず、島根原子力発電所の長期稼働停止や電力小売り全面自由化に伴う競争激化の中、徹底した効率化を進め、料金水準を維持してきました。

 昨今の燃料価格や電力市場価格の高騰に対しても、市場価格の変動リスク低減に向けた取り組みや、グループを挙げたさらなる効率化の深掘りに最大限努めておりますが、仮にこのような状況が続くようであれば、規制料金を含め全ての電気料金について値上げせざるを得ないと考えており、値上げの検討に着手することとしました。 

 ウクライナ問題に端を発したエネルギー問題は、いまや世界規模で大きなうねりが巻き起こっています。資源小国である日本は海外の環境変化の影響を受けやすく、エネルギー政策の基本方針であるS+3Eにおける「Energy Security」、つまり「電力の安定供給」が特に脅かされている状況にあります。当社としては、今後も事業環境の変化に迅速に対応し、中国電力グループの最大の使命である電力の安定供給に全力を尽くしていきます。

【特集1】支離滅裂の独エネルギー事情 脱原発を諦めない政府とメディアの重い責任

2011年、22年に全原発を停止するとのドイツ政府の決定に拍手喝采したのはドイツ人と日本人だった。この二国はなぜか主要メディアがこぞって強硬な反原発派で、しばしば国民をミスリードする。ただ、それ以外の国々は、このエネルギー転換の方針に迷惑顔。送電線が網の目状につながる欧州では、一国の電力事情の乱れが即、全体に影響を及ぼすからだ。

再生可能エネルギー(主流は風力)発電は全体の4割まで伸びたが、真に原発を代替しているのは石炭・褐炭・ガス火力。ところが20年には、38年までの脱石炭・褐炭を法制化した上、30年で全廃が「理想」とうたわれ、既に急速に縮小している。

電力をガスと風力に頼らざるを得ないにもかかわらず、21年は風が吹かず、ガスの高騰が始まった。それでも同年暮れに3基の原発を予定通り停めたのは、ノルドストリーム2の運開が目前だと信じていたからだ。ところが、予期せぬ戦争勃発で計画は瓦解。今やノルドストリーム1からのガス供給さえ急減している。

今冬のガス不足はより深刻。政府は予備の褐炭火力の運転に踏み切り、国民には冷たい水で手を洗え、シャワーの時間を短縮せよなどと言い、EU各国に節ガスの「連帯」を求めながら、今年末の脱原発の完遂を諦めていない。経済と国民生活の破綻がさらに進めば、政府内で力を振るう緑の党とそれを持ち上げてきたメディアの責任は極めて重い。いずれ軌道修正を強いられる彼らが、いかなる詭弁を弄するのか、興味深い。

かわぐち・マーン・えみ
日本大学芸術学部音楽学科ピアノ科卒業。シュトゥットガルト国立音楽大学院ピアノ科修了。『ドイツの脱原発がよくわかる本 日本が見習ってはいけない理由』(草思社)が第36回エネルギーフォーラム賞の普及啓発賞、『復興の日本人論 誰も書かなかった福島』(グッドブックス)が第38回同賞の特別賞を受賞。その他、著書多数。

【特集1】プーチンに翻弄される世界市場 LNG危機の真相に迫る

天然ガスを武器にするプーチン大統領の思惑に、世界市場が翻弄されている。
サハリン2など日本への影響は――。専門家4人が危機の真相に迫る。

【出席者】加藤学/国際協力銀行エネルギー・ソリューション部長、白川裕/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部調査役、大場紀章/ポスト石油戦略研究所代表、山本隆三/常葉大学名誉教授

左上から時計回りに加藤氏、白川氏、大場氏、山本氏

――ウクライナ戦争を背景に、G7(主要7カ国)がロシア産資源の禁輸など経済制裁を強化していることで、世界的に天然ガスや石油、石炭といったエネルギーの市場価格が高騰しています。本日のテーマであるLNG市場の動向については、どう見ていますか。

白川 ロシアからの供給が減少したことによって、欧州諸国がアジアなど世界のLNGを買いあさっています。その結果、一気に供給余力がなくなり、価格が高騰したのです。需給ひっ迫のトレンドは、2032年ごろまで続くことが予想されます。

大場 ロシア以外の供給国の動向も、価格高騰に追い打ちをかけています。世界の三大LNG供給国は、オーストラリア、米国、カタールの三カ国。オーストラリアは、今春の電力危機や石炭火力の老朽化によってガス需要が増えていて、輸出する余裕がありません。米国は6月に、国内供給の17%を占めるフリーポートLNG社のプラント火災事故があった。10月の再稼働を目指していますが、規制当局から原因究明を求められており、遅れる可能性がある。カタールは、生産量が増えてくるのが26年ごろ……。今は世界レベルで節電・節ガスなどを通じて需要を減らしながら、価格高騰という痛みを分け合っていくしかありません。

加藤 実は最大の犠牲者はインドやパキスタン、バングラデシュなどの新興国だと思います。小麦やトウモロコシといった穀物不足に焦点が当てられていますが、エネルギー問題も深刻です。

大場 新興国で長期契約を結んでいない国は、スポット価格がそのまま価格に転嫁される。

山本 資金が潤沢な先進国は、価格が高騰してもカネを出せば買えるだけマシです。でも新興国の場合、そうはいかない。

白川 外貨準備高が少ないことを理由に、売ってさえくれないこともあるとか。パキスタンなど、計画停電を実施せざるを得ないほど追い込まれている国もあります。

加藤 石炭価格も高騰し、新興国を直撃しています。インドは電源構成の72%が石炭火力で、インドネシアやベトナムも石炭火力の比率が高い。各方面に累が及んでいます。

――欧州連合(EU)は7月、今冬のガス使用量を15%削減することで合意しました。需要期の冬場を乗り越えられるのでしょうか。

白川 エネルギー戦略的にみれば、欧州は戦う前からロシアに負けていました。いざとなれば、ロシアは欧州へのガス供給をゼロにすることもできる。さらに需給と価格の関係で、ロシアはガスの輸出量が減っても収入への影響が小さい。一方、ロシアに依存する欧州は、ガス禁輸を交渉のカードにすることはできません。それどころか、ロシアから供給を減らされれば、ガス料金の高騰で国民の不満がたまり、デモが乱発するなど政情不安のリスクに直面します。

加藤 実際に7月、イタリアのドラギ首相が辞任しました。イタリアは昨年よりも、ガス価格が71%、電気代が83%上昇していた。辞任の直接的な原因ではありませんが、影響は大きかったはず。ドイツもエネルギー価格が高騰しています。国民世論も冬を控え、原発容認が8割を超えた。政権内の「緑の党」が、稼働中の原発3基の年内停止を主張し続ければ、政権が不安定化するかもしれません。

山本 イタリアやスペインは、補助金を出しても、電気料金と都市ガス料金が7~8割上がっています。日本も抑制策をとらなければ、まだまだ上がり続けるでしょう。

白川 もしロシアから欧州へのガス輸出が8月からゼロになった場合、23年1月には欧州の地下ガス貯蔵在庫が尽きると推計されています。

加藤 ゼロにしたら暖房が使えず、最悪の場合、凍死する人も出るかもしれない。欧州は事実上、今冬に向けたエネルギー安全保障プランを有していないのではないでしょうか。

白川 欧州は、LNGの受け入れ能力が不十分です。これから必死に基地を建設したとしても、ロシアから輸入していた分を全て賄えるのは32年になる。反対にロシアにとっては、今冬が欧州のクビを締めるチャンスです。欧州には、対ロ制裁を続けながらもガス供給は継続させるという、したたかな戦略が求められています。