コロナ禍での資源戦略を議論 支援頼みの日本勢に勝算は


経産省の後押しで上流強化なるか

「企業の考え方も甘いし、その甘えをたださない政府の姿勢も残念だ」。ある関係者は政府の議論を見てそう嘆いた。

総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)資源・燃料分科会(分科会長=隅修三・東京海上日動火災保険相談役)は、7月1日に会合を開催。コロナ禍後を見据えた資源戦略を議論した。

業界団体の委員からは「コロナ禍で経営難に陥っている。さらなる支援をお願いしたい」といった要望が続出。政府は議論を踏まえ、コロナ禍における資源戦略に関する分科会の考え方を15日公表した。資源の安定確保に向けて「足下の油価低迷の機会を捉え、リスク評価を徹底しながら、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)を活用しつつ、積極的な政府支援により、日本企業による海外権益確保や国内資源開発を後押しする」と強調している。

国際的な資源価格下落の影響で、上流の資産価値も減少。「今が買い時」と判断したのか、米シェブロンがシェール企業を格安で買収するなど、世界的に権益の取引が活発化している。生き馬の目を抜く上流ビジネスで問われるのは、豊富な体力と経験に基づく迅速な経営判断だ。果たして〝甘い〟日本勢に勝算はあるのか。

台頭する蓄電池ビジネス EV新型モデルが命運握る


脚光浴びる日産の新型EV「アリア」

電力需給の調整や災害時の非常用電源として注目されるなど、電力業界との関わりが深い電気自動車(EV)。東京電力はEVで利用された中古蓄電池を複数台組み合わせ、大型の蓄電池として再利用するビジネスを9月から試験的に開始する。

こうしたビジネスの活況にはEVの新車販売増が不可欠だが、その台数は依然として伸び悩んでいる。しかし、そんな現状を打破する、追い風が吹いてきそうだ。

7月15日に日産自動車は、約10年振りのEV新型モデル「アリア」を発表した(2021年発売予定)。また海外勢はテスラのみならずベンツ、BMW、アウディ、ポルシェ、プジョーなどが、日本勢もホンダ、マツダが新型EVを年内に発売予定。「今年はEVの年になる」と自動車関係者は期待を寄せる。

さらに6月に発表された経済産業省人事でも、電力基盤整備課長の曳野潔氏が参事官(自動車・産業競争力担当)兼自動車戦略企画室長に異動。この人事を見た電力関係者は「電力業界と自動車業界を、さらに近づける政策を打ち出す思惑がある」と指摘する。

電力業界を巻き込むEVシフトが加速することで、蓄電池ビジネスは急成長を遂げるかもしれない。

新型コロナで巣ごもり需要増加 思わぬ商品にスポット当たる


【岩谷産業】

GHP、非常用発電機、カセットこんろ、カセットボンベといった産業・家庭用ガス機器をはじめ、燃料の調達や配送など、LPガス事業を広範に手掛ける岩谷産業。

3月から6月にかけて日本全土を襲った新型コロナウイルス感染拡大の第一波では、産業・業務用の需要が低迷。さらに自社で取り扱うガス機器を製造するメーカーの海外工場では「現地政府のコロナ対策により操業を停止したため、製品供給に乱れが生じるアクシデントもありました」と、生活物資本部の米重翔平氏は説明する。

とはいえ感染拡大に先んじて、製品の増産を行うなどの対応を講じたことから、「第一波時の業績に大きな影響は及ぼさなかった」(米重氏)という。また、燃料の安定供給に向けても、同社や協力会社から成る「マルヰ会」においては、各県のLPガス協会などが定めた指針に沿って、対応に当たった。

しかし、7月に入り新型コロナ感染者数が再び増加するなど、依然として予断を許さない状態が続いている。こうした情勢に呼応するように、第一波による影響が現場に押し寄せているようだ。

第一波下では感染症予防のために、対面での営業を停止。そのため顧客との接触機会が減少し、非常用発電機の設置や既存設備のリプレースなどを行えなかった。それだけではなく、この間に経済状況が急激に縮小した影響もあって、顧客の設備投資に対するマインドが大きく減ってしまった。

さらにガス機器の保安点検業務でも、緊急事態宣言中に点検を多く行えなかったこともあり、緊急事態宣言解除後には多くの点検を実施している。現在は今後の情勢が不安定なこともあり、点検スケジュールを前倒しするなどして、全社を挙げて対応している。

巣ごもり増で思わぬ需要 災害に適応できる発想を

現場ではさまざまな混乱が生じたが、家庭用のガス需要の増加に関連し、思わぬ影響もあった。

在宅時間が長くなり需要が増加したことで、「4月時点で前年と比べて、通常のカセットこんろだけではなく、カセットガススモークレス焼肉グリル『やきまる』はコロナ以前の2倍、カセットガスたこ焼器『スーパー炎たこ』は3倍の売れ行きを誇るなど、特別仕様のモデルが好調です」と米重氏。家庭用ガス機器の需要が増えている。

また、コロナ禍後に求められる家庭用ガス機器については、「新商品を積極的に開発する」という点よりも、米重氏は「一芸に秀でた商品をうまく顧客にPRし、使い方の認知度を高めるなど、販売店とメーカーが一体となった営業も必要になる」と指摘する。

GHPや空調などの産業用ガス機器についても米重氏は「従来の高効率や高品質といった製品アピールだけではなく、違ったアプローチの商品が求められるのではないでしょうか」と分析。感染症対策では換気や除菌が重要となるため、簡易に換気が行え、除菌や空気清浄機能も搭載するモデルの需要が高まる可能性もあるそうだ。

事業者はコロナ禍のような未曾有の災害に負けない体制を作るのも重要だ。政府もコロナ禍対策の予算を執行し続けることも求められる。しかし、それ以上に必要なのは、災害と上手に付き合おうとする柔軟な発想なのかもしれない。

巣ごもりを楽しむためのガス機器に関心が集まった

エネファームのVPP実証開始 来年創設の需給調整市場を見据える


【大阪ガス】

2021年から始まる需給調整市場を見据え、エネファームを使ったVPP実証がスタートした。 電力需給が変動する新時代の、新たなエネルギービジネスモデルとしても注目が集まる。

システムの概要図

大阪ガスは6月5日、一般家庭に設置されているエネファーム約1500台をエネルギーリソースとした、VPP(仮想発電所)の実証事業を開始すると発表した。

同実証は経済産業省が公募している「2020年度需要家側エネルギーリソースを活用したVPP構築実証事業費補助金」に採択された事業。VPP実証を束ねるアグリゲーションコーディネーター(AC)を、中部電力ミライズが担当。大阪ガスはACの指令に基づき調整力を提供するリソースアグリゲーター(RA)として参加する。

東日本大震災以降、FITを背景に、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの大量導入が進んできた。しかし、再エネ電源は日射量や風の強さなどにより出力が安定しない。さらに太陽光発電の場合は電力需要が少ない日中に発電量のピークを迎え、需要が最も多くなる夕方にかけて発電量が落ちることから、発電の主軸に据えるには課題が多いのが現状だ。

こうした負荷変動を調整する調整力の調達に関して、現在は調整力公募で行われており、21年度には「需給調整市場」が誕生する予定。同市場では、主に火力発電所が電源の主力として稼働することが想定されているが、制度設計を行う経産省では「各地に点在するエネファームを使用した出力制御ができないか」という議論も行われていた。

エネファームで系統安定 需給調整市場参入に意欲

今回のVPP実証における最大のポイントは、「エネファームが系統安定の調整力として機能するのか」という点だ。

実証には固体酸化物形燃料電池(SOFC)の「エネファームtype S」を使用。その中でもインターネットと接続して遠隔制御を行えるIoT機能が搭載され、電気の逆潮流・負荷追従運転が可能な18年4月以降に発売されたモデルが対象となる。実証の範囲は主に関西圏内が中心だが、他地域のガス会社と協力している関係もあるため、九州や関東地方に設置されているエネファームも一部利用しているそうだ。

コロナ禍に見舞われた資源市場の実情 石油・ガス・石炭で影響に格差


新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、需要が低迷し価格も乱高下したエネルギーの上流市場。このショックで上流市場に何が起きたのか、また何が問題になるのか。燃料ごとに展望する。

「石油業界は何年にもわたり大きなショックを経験してきたが、今日私たちが目撃している猛烈な勢力で業界を襲ったものはない」

国際エネルギー機関(IEA)は4月1日に公表したレポートで、新型コロナウイルスについて、こう警鐘を鳴らしていた。だが、パンデミックが途上国にまで拡散し、もはや誰の手にも止められない状況に陥った現状は、一段と厳しさを増している。

石油や天然ガスの生産現場においてもコロナ禍の影響が広まり、市場では暖冬でダブついていた原油先物価格がコロナショックによる需要の大幅な減退により大暴落。去る3月には、OPECプラスによる協調減産体制の崩壊や、生産過剰による在庫のだぶつきなどで、米国原油価格の指標であるWTIが一時マイナスになるという悪夢にさいなまれた。

WTIのマイナス価格は世界中の関係者に衝撃を与えたが、この大事件に匹敵する危機が天然ガス・LNG市場に迫っている。

「逆ざや」が続くLNG 液化基地操業への影響も

米国の天然ガス価格指標である「ヘンリーハブ(HH)」は、2019年末に2ドル台前半の値をつけていたが、6月末に1・4ドル台まで下落。欧州のガス価格指標である「TTF」は20年初頭の3ドル台後半から、6月には過去最低価格の1・158ドル、北東アジアのLNG価格指標である「JKM」も4月末に過去最低の1・825ドルを記録。石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部の白川裕氏は「一時期はHH、TTF、JKMの三指標の中で、HHが最高値を記録するという前代未聞の現象が発生した」と、世界中で歴史的な安値が続いていると説明する。

価格下落が進んでいるにもかかわらず、石油と違って天然ガスの生産量はそこまで減少していない。主要産ガス国のカタールではいまだ増産に強気の姿勢を見せているほどだ。結果、3月末には米国メキシコ湾岸のLNG出荷価格指標である「GCM」がHHを下回る〝逆ざや〟状態に陥り、市場では行き場を失った「ホームレスLNG」が大量発生。これは生産基地の貯蔵タンクや、安値を買い叩いた欧州のLNG貯蔵基地に大量に流れた。その後、大量のLNG船が出荷キャンセルされたことで液化事業者は操業をスローダウンさせざるを得ず、大きな影響を受けているが、LNGが依然供給過剰状態にあることに変わりない。

EU市場では、マイナス価格をつけたWTIと同じく、LNGの貯蔵容量に限界が近づいている。5月20日時点のEUにおける地下ガス貯蔵率は70%と、例年に比べ3割も高い。通常は冬季需要に合わせ11月に向け在庫のピークを迎えるが、現在のペースだとそれ以前に貯蔵能力が限界を迎える公算が大きい。

「需要減がこのまま続き、19年と同規模の供給が続けば、LNGの受け入れ先がなくなる可能性がある」(白川氏)

その一方で、安定飛行を続けているのが石炭だ。

WTI先物価格は19年末の70ドル台から、半年で50ドル台半ばまで減少したものの、ある業界関係者は「石炭市場に大きな影響を及ぼすのは、大消費国である中国・インドの需要動向だ」と指摘する。コロナ禍で3~4月の需要は確かに減ったが、中国が経済を再開させたため需要は復活しつつある。「そもそも安価な石炭は、途上国にとって必要不可欠な資源で、発電燃料としてニーズが底堅い。事業が立ち上がるのには困難を伴うが、一度立ち上がったプロジェクトはこの程度のことでは止まらない」(前出の関係者)

最近ではドイツで石炭火力の漸次低減を図る脱石炭法が可決されるなど、先進国では石炭火力廃止の動きが加速している。これに対し、途上国では拡大するエネルギー需要に対応するため、石炭依存が続くのは間違いない。こうした事情から、波乱含みの石油やLNGと違い、石炭の価格は安定して推移していくと見られている。

キャンセルになるLNGタンカーが続出した