【特集1まとめ】カーボンゼロの衝撃 百家争鳴の業界事情を探る


欧州を震源地とした世界的な「脱炭素化」のうねりに、日本も飲み込まれた。
政府はカーボンニュートラル(実質ゼロ)に向け「グリーン成長戦略」を策定し、
これまで随所で掲げてきた「経済と環境の好循環」を改めて旗印に立てた。
電力、ガス、石油などのエネルギー企業はいよいよ本格的なビジネス転換を迫られる。
その一方で、業種業態によって実質ゼロ政策に対する温度差も浮き彫りに。
「脱炭素」を積極的に取り込み、業界・企業の成長に結び付けることができるのか。

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【レポート】迫られるエネ産業の構造転換 道のり険しく業界別に温度差

【アンケート】「実質ゼロ」は夢物語なのか? 業界関係者が語る本音の話

【コラム/3月1日】脱炭素社会の実現に向けて、誰でもできる簡単なこと


渡邊開也/リニューアブル・ジャパン株式会社 執行役員 管理本部副本部長兼社長室長

当社は、一般社団法人再生可能エネルギー長期安定電源推進協会(略称:REASP「リアスプ」)という業界団体を、発起人会社の1社として、2019年12月に設立した。

2020年1月に同協会設立の記者発表会を行い、大勢のメディアの方にご参加いただいた際、記者の方から「協会として再エネに関して何か数値目標のようなものはありますか?」という質問を受けた。その際、当社の代表取締役であり、同協会の代表理事である眞邉勝仁が「個人的な見解ではありますが、2050年には再エネを半分以上にしたい」と回答し、会場が「オオー」という雰囲気に包まれたことを今でも覚えている。

それが、つい1年ちょっと前のこと。その後、20年6月「エネルギー供給強靭化法」の成立、10月に菅首相の「2050年カーボンニュートラルの実現を目指す」という所信表明演説など、再生可能エネルギーに対するモメンタムはすっかり変わったのではないだろうか。

2020年というのは、もしかしたら、数十年後に日本が脱炭素社会の実現に向けて、大きく舵を切った年として認識されることになるかもしれない。

脱炭素社会の実現は、誰が主人公(当事者)なのか?

では、2050年カーボンニュートラルの実現は、誰が担うのだろうか。

昨今、世界中のどこかしこで連日環境問題が取り挙げられている。日本国内においても、ウェブやTVのニュース等で、脱炭素、再生可能エネルギーに関する話題を見ない日はない。ただ、それらの情報が、政府や自治体、一部の企業が掲げる目標自体が独り歩きしており、日常生活のシーンでは「何か他人事のように感じさせてしまっているのでは?」と、立ち返ると感じてしまうのは私だけではないと思う。

裏を返すと、その実現のためには、1人1人が「自分がその主人公(当事者)である」という意識を持つこと、それが脱炭素社会の実現に向けて一番大事なことの一つだと理解し、行動することが本質なのではと感じている。

1人1人が主人公(当事者)になるためにできること

ただ、環境問題は総論、興味がある、何かしなくてはいけないと多くの方が意識、無意識を問わず思うところではあるものの、具体的に何をしたらよいのかイメージが沸かないというのが本音ではないだろうか。

ところで、これを読んでくださっている方にご質問させていただく。

質問その1「月の電気代はいくらなのか?」

質問その2「ではその電気代に対する『電気の使用量』はどのくらいだろうか?」

実はこの質問は、私が打ち合わせの時や採用面談、学生向けのインターンシップなどで実際に聞いていること。電気代がいくらなのかは、(請求書は見ているので)5千円くらい、1万円くらいと答える方は、ある程度いる。しかし、使用量に関しては私の個人的見解ですが、8割以上の方が気にしていないような印象を受けている。単位すら正確に覚えていないのでは?(ワット? アンペアでしたっけ? という会話も(笑))

このやり取りの後に私は、こう続ける。例えば、月1万円の電気代を払っているとすれば、地域によって違うが、東京ではおよそ単価は27円/kW時で、350~400kW時/月くらいの消費量になる。仮に400kW時/月の電気を使用しているとすると、日本の場合、その4分の3くらいが二酸化炭素を排出している化石由来の電源である、つまり300kW時の電気は、便利な生活を享受するための引き換えとして、二酸化炭素を出していることになる――と。

そうすると聞いている方は、ぐっと「自分が電気を使う際に二酸化炭素を排出しているんだ」という感覚になるわけだ。私は、この感覚、すなわち毎月請求書(スマホアプリで見れる!)を見て、金額だけを確認するのではなく、「絶対量(数字)を意識する」という習慣を1人1人が持つことこそが脱炭素社会の実現に向けて大事なことだと確信している。

電気の消費者(需要家)として、100%でなくても10%、20%、それは個々の事情に合わせて電源を選択したいという意識変化が生まれ、徐々に脱炭素社会に向けて動き出すのではないだろうか。

「本を探すなら、アマゾンで検索」ではないが、電気の使用量を意識し、そのうちどのくらい二酸化炭素を排出しない電源なのかをチェックするといったマインドシェアができたら、脱炭素社会の実現はできると考えている。これはほとんどの方がやっていないが、実は、お金もかからない、誰でも今すぐできること。当社もその一翼を担いたいと考えている。

【プロフィール】1996年一橋大学経済学部卒、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。2017年リニューアブル・ジャパン入社。2019年一般社団法人 再生可能エネルギー長期安定電源推進協会設立、同事務局長を務めた。

脱炭素技術に2兆円投入 「見掛け倒し」との批判も


再生可能エネルギーの主力電源化に2105億円、カーボンニュートラルに向けたイノベーションを図るために2兆円の基金―。コロナ禍で実体経済が低迷する中、経済産業省は2021年度および20年度第三次補正予算を昨年12月21日に策定した。

最大の注目は2兆円にも上る環境投資基金だ。これは次世代蓄電池、水素サプライチェーン、CCUS、カーボンリサイクルなどの脱炭素に資する研究開発を、NEDOを通じて10年間継続的に支援するというもの。同基金は「菅首相の肝いり」(与党政治家)とも言われており、文字通り政府を挙げた一大施策といえるだろう。

だが、同基金は2兆円と銘打っているものの、この数字は10年間にわたり交付される金額の総計。単年で考えると2000億円にとどまり、前述の再エネ主力電源化予算に費やす額とそう大差ない。業界関係者からは「経産省や政治家は、国内外に対し、『われわれも脱炭素に本気で取り組んでいます』とアピールしたいのだろうが、見掛け倒しだ」との声も聞こえる。

そもそも、経産省の再エネ関連予算には「技官のおもちゃ」との批判も付きまとう。この2兆円が、国策という笠を着て露と消えないことを願いたい。

【FEワイドまとめ】静岡県のエネルギー事情最前線


静岡県では、大都市圏に近い立地環境などから多彩な産業が発達している。
こうしたことを背景に、エネルギー政策と経済活性化との両立が必須だ。
企業同士、または産学官の「連携」による新ビジネス創出への動きが始まっている。

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【レポート】経済活性化との両立を図る 「連携」による新ビジネス創出へ

【静岡ガスグループ】始まった島田市との公民連携 独自スキームで支えるSDGs

【鈴与商事】新たな柱として電力事業拡大 再エネを軸に県内事業を手掛ける

【TOKAI】電気と生活水を自給自足で反響 全国にOTSハウスを展開

【トキコシステムソリューションズ】地域貢献果たしてインフラ支える 賢い水素ディスペンサーでコスト減

【川根温泉】温泉とともに湧出するガスを活用 コージェネでホテルなどにエネ供給

【特集2】天然ガス火力でもゼロエミ化 「オール水素化」を目指す


レポート/シーメンス・エナジー

大築康彦・シーメンス・エナジー社長

CO2排出量の少ない天然ガス・LNG火力でも、水素を混ぜて燃やすことでCO2排出削減やゼロエミッション化を図る動きが起き始めている。こうした取り組みの核となるのが、2030年までに自社のガスタービン全製品で100%水素燃焼を可能にするビジョンを打ち立てている、独シーメンス・エナジーだ。

同社は20年9月にシーメンスの火力発電部門が分社化されたことで誕生。同社のガスタービンは大規模火力発電所で利用される60万kWクラスのものから、中規模の火力発電所で使われる5~10万kWクラス、工場の熱源として使われる数千kWクラスの小型のものなど19種類をラインアップしている。これら全製品で、水素専焼を目指している。同社日本法人の大築康彦社長兼CEOは「当社は30年までに全ラインアップでの水素専焼を目標にしていますが、現行の製品でも数十%程度であれば水素を混焼できますし、一部の小型タービンでは水素の専焼も可能です」と説明する。

昨年11月にはドイツ・ライプチヒの地域住民に電気と熱を供給する事業者に向けて、中型タービンのSGT-800(6万2000kW)を2台納入。当面はガス火力として使用されるが、数年後に30~50%の水素を混焼した発電を予定している。長期的には水素専焼による発電も視野に入れて運営されるそうだ。

調整力担う天然ガス火力 政府も水素火力を検討

燃焼時にCO2を排出しない水素は、次世代の燃料として大きな期待が寄せられる一方、普及に向けては多くの壁が立ちはだかる。水素火力を見据えて導入が行われるドイツは日本と同じ経済大国ではあるものの、両国の環境には大きな違いがある。

そもそもドイツは北部には大量の洋上風力発電所が建設されており、再エネ電源が余っている。対して島国の日本は隣国とのインフラ接続がないため、資源国で製造した水素を船で運搬する手法でサプライチェーンを目指すなど、欧州とは異なる形態になることが予想される。大築社長は「両国の状況が異なるとはいえ、欧州で当社は水素に関連した知見を得られています。こうした経験は日本市場でも還元できます」と話している。

日本でも増加する太陽光発電のバックアップとして一定数の火力発電が必要とされ、中でも低炭素の天然ガス火力は脱石炭後の火力発電を担う重要な電源として位置付けられている。政府も水素混焼や専焼の火力発電の実用化に向けた検討を進めている。

「SGT-800は年間30台近い出荷数があり、5万kWクラスの中型タービンの中では競争力を持っている製品だと自負しています。また水素のサプライチェーンが構築できれば天然ガス専焼から水素混焼・専焼に変更できるという強みもあります」(大築社長)。将来の水素社会を支える技術として広くアピールしていく構えだ。

時代の要請に応じて選択の幅を広げるガスタービンは、事業者にとっても大きな武器になりそうだ。

【特集2】国内でのCO2処理を追求 30万tの圧入に成功


レポート/日本CCS調査

CCS・CCUSで、国内の中心的な役割を担うのが日本CCS調査だ。

電力会社、石油関連会社、化学会社、ガス会社などの共同出資により2008年に設立された。CCSは地下1000m以上深くに、CO2を貯めるのに十分な貯留層と、その上にCO2を通さない遮蔽層がある適地で行われる。同社では、08~11年度にかけて、北海道苫小牧市沖で貯留層の事前調査事業を実施。12~15年度には実証試験プラントの設計・建設、圧入井の掘削、CO2圧入後のCO2の挙動と地下の状況を監視するモニタリングシステムの構築など、大規模実証に向けた準備を手掛けてきた。

16~20年度からはCO2の圧入とその後のモニタリングを実施した。圧入CO2は、隣接する出光興産の製油所から石油精製の過程で排出されるガスの供給を受けて分離・回収した高濃度CO2だ。これを実証累計で30万t圧入した。現在は圧入後のモニタリングを継続している。

世界トップレベルの成果 国内に候補地点在の可能性

苫小牧実証の成果としては、①実証目標だった30万tの圧入に成功、②モニタリングや海洋環境調査などで安全かつ安心して利用できると確認、③地震に関連する不安を収集したデータによって払拭、④大都市近傍での社会的受容性の醸成活動に成功―などが挙げられる。

中島俊朗社長は「分離・回収から貯留までのCCSの一貫システムを国内で初めて構築しました。しかも、世界トップレベルとなる低いエネルギー量で実現しています。また、陸上から沖合海底地下貯留層への傾斜井でのCCS、大都市部近接エリアでの貯留など、いずれも世界初の試みに成功しました」と強調する。 日本CCS調査では、苫小牧実証のほかにも、全国で貯留適地調査を行っている。

「遮蔽層がしっかりとした大規模な帯水層を発見できればCCSを実施することが可能です。現在も調査を継続中ですが、日本には多くの貯留適地が存在する可能性があります。調査を加速し、50年カーボンニュートラルに向けて、国内で排出するCO2は、まずは国内で処理することを追求するべきです」と中島社長は話す。日本国内のポテンシャルは高く、今後もCCS推進の取り組みは加速していきそうだ。

北海道・苫小牧の実証プラント

【特集2】バイオマス発電所でCCS 「カーボンネガティブ」を実現


レポート/東芝エネルギーシステムズほか

 成長過程で大気中のCO2を吸収する植物などを燃料に使うため、カーボンニュートラルな電源であるバイオマス発電。しかし発電する際にどうしてもCO2を排出してしまう欠点を抱えているが、この時に発生するCO2も回収し、CO2排出量をマイナスにする実証研究が福岡県大牟田市で本格的に動き出した。

 東芝エネルギーシステムズは2020年10月、グループ会社が運営する三川発電所(バイオマス)で、CO2を分離・回収する大規模実証設備を稼働させたと発表した。本実証は環境省が行う「環境配慮型CCS実証事業」に含まれている事業。発電所から1日に排出される約1000tのCO2のうち、半分に当たる日量500t以上もの分離・回収を予定している。

 参加企業は同社に加えて、みずほ情報総研、千代田化工建設、日揮、三菱マテリアル、大成建設、電力中央研究所、国際石油開発帝石(INPEX)など18法人が参加している巨大プロジェクトだ。

世界初の大規模BECCS カーボンネガティブを実現

 本実証は世界初となるバイオマス発電所での大規模実証設備の事例であると同時に、CO2の分離・回収、圧縮、輸送、貯蔵といったCCSで行われる一連のプロセス全体が本実証で行われるのが大きな特徴。その中で同社は代表事業者としてCO2の分離・回収部分を担当し、みずほ情報総研をはじめとする18法人で、CCSが実際の現場に導入するにはどのような手法が適切なのかをとりまとめを行う。

 CO2の分離・回収には、液体のアミンにCO2を吸収させる「化学吸収法」を使用。アミン吸収液は低温でCO2を吸収して高温でCO2を放出するという特徴を有していることから、排煙からCO2のみを分離し、回収する構成となっている。

 菅義偉首相の所信表明演説で50年までにカーボンニュートラルを実現するという宣言もあったことで、発電所などでのCO2分離・回収のニーズはさらに高まると予想される。また同社は実証が行われる前の09年から、三川発電所でCO2の分離・回収を行うパイロットプラントを建設し、日量10t規模のCO2分離・回収実証を行ってきた。豊富な知見を有しているのも大きな強みだろう。

 同社パワーシステム技術・開発部CO2分離回収開発・拡販グループの岩浅清彦マネジャーは「CO2の排出量がマイナスになるカーボンネガティブを実現するCCS付きのバイオマス発電所『BECCS』の需要は、今後ますます高まっていきます。すでに他のバイオマス発電所からも、今回の技術について引き合いの声も届いています」とアピールする。

 また、今後の展望について「将来的にJ-クレジットのようなCO2の排出量取引がより活発化すれば、カーボンネガティブを達成できるBECCSは大きなビジネスチャンスになります」と岩浅マネージャーは期待を寄せる。東芝エネルギーシステムズらの研究が、エネルギー業界に新たなビジネスを呼び込みそうだ。

※記事に誤りがあり、2月9日に訂正いたしました。

発電所に併設されたCO2分離・回収実証設備

【特集2まとめ】ゼロエミ火力への号砲 存亡かけた技術開発事情


菅政権の「2050年カーボンニュートラル」宣言を受け、
エネルギー業界の脱炭素化対策が待ったなしだ。
中でも急務なのが、大型火力のゼロエミッション化である。
発電技術からCO2処理、次世代燃料まで領域は幅広い。
エネルギー安定供給や経済合理性との両立を視野に、
各社は火力の存亡をかけた挑戦を本格化させている。

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【レポート】脱炭素化と安定供給を両立へ 革新的技術の早期実装目指す

【インタビュー/小川要(資源エネルギー庁)】火力電源の脱炭素化へ政策支援 オールジャパン体制で挑む

【座談会】求められる「急がば回れ」の議論 火力本来の機能で脱炭素化に対応

【インタビュー/奥田久栄(JERA)】再エネとの相互補完が不可欠 まずはアンモニア混焼を先行

【レポート/シーメンス・エナジー】天然ガス火力でもゼロエミ化 「オール水素化」を目指す

【レポート/三菱パワー】水素・アンモニア・AIの三本柱 三菱重工グループで脱炭素に対応

【インタビュー/中垣隆雄(早稲田大学)】研究進むCO2分離・回収 日本の技術には大きな可能性

【レポート/東芝エネルギーシステムズほか】バイオマス発電所でCCS 「カーボンネガティブ」を実現

【レポート/日本CCS調査】国内でのCO2処理を追求 30万tの圧入に成功

【レポート/川崎重工業、RITEほか】CO2回収に新技術を採用 期待される低コスト化への道

【レポート/IHI】アンモニア混焼でCO2を削減 石炭火力で実現する燃焼技術

【トピックス/電源開発】超々臨界圧・微粉炭火力の新1号機 バイオマス混焼進め低炭素化へ エネ共存時代の火力運用

【特集2】CO2回収に新技術を採用 期待される低コスト化への道


レポート/川崎重工業、RITEほか

CCUSの課題に対し、川崎重工業、地球環境産業技術研究機構(RITE)が実証を行っている。

これは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「先進的二酸化炭素固体吸収材の石炭燃焼排ガス適用性研究」に採択されており、石炭火力発電所で発生するCO2を分離・回収する内容。これまでRITEは基礎研究(2010年度~14年度)を行い、日量3㎏のCO2分離・回収を達成。その後、川崎重工の工場内で日量7tのCO2分離・回収試験を実施(15年度~19年度)した。今回は、石炭火力発電所に日量40tにスケールアップしたベンチプラントを設置し、石炭燃焼排ガスからのCO2分離・回収に取り組む。

各社の役割は、川崎重工がパイロット設備の設計・建設、およびCO2分離・回収試験を、RITEは使用する固体吸収材の大量製造技術および性能分析などを担当する。また関西電力が試験を行う舞鶴発電所内の敷地を提供し、実際に運用されている石炭火力発電所での実証試験に協力している。

回収に固体吸収材を使用 コスト大幅減の可能性

最大の特徴は、CO2を吸着する性質を持つアミンを含有した球形の多孔質セラミックを利用してCO2を分離・回収する「固体吸収法」を採用している点だ。実証に用いるCO2は、脱硝装置、電気集じん器、脱硫装置などを通過し、煙突から大気中に放出される排煙の一部を使用する。

「吸収塔」で固体吸収材を用いて排煙からCO2を回収し、「再生塔」で吸収材に蒸気を流してCO2を分離。その後、「乾燥塔」で吸収材を乾かした後に吸収塔に戻して再利用する。川崎重工が開発した「KCC移動層システム」だ。

既存のCO2回収法は、アミンなどを含む溶液にCO2を吸収させて分離し、その溶液を加熱して回収する「化学吸収法」が主流だが、CO2を吸収する媒体が液体のため分離に必要な熱量が高く、回収コストが高くなってしまう。実際、1t回収するのに約2.5GJもの熱量を消費する必要があり、設備などの建設費用などを含めると、CO2を1t回収するのに4200円もの費用が掛かるといわれている。

対して固体吸収材の場合ではCO2を吸収する媒体が固体で比熱が小さく、溶液の蒸発に伴う潜熱も要しないため、コスト低減が可能。実証でも熱消費量を1.5GJまで引き下げ、コストを2000円台にすることを目指している。本実証研究では、CO2を日量40tの規模で分離・回収するが、将来的には本技術をスケールアップした実用設備によって、CO2の排出削減に貢献する見込みだ。

KCC移動層システムの概要図(画像提供:川崎重工業株式会社)

【特集2】水素・アンモニア・AIの三本柱 三菱重工グループで脱炭素に対応


レポート/三菱パワー

河相健・三菱パワー社長

三菱重工業は昨年10月の2050年カーボンニュートラル(CN)宣言を受け、11月に「エナジートランジション説明会」を開催。「火力発電設備の脱炭素化と原子力によるCO2削減が、CNにつながる第一歩だ」と語った。

三菱パワーは、これまで世界中の火力発電事業を支えると同時に、次世代型のガスタービンであるJAC形やIGCC(石炭ガス化複合発電)の開発を行うことで火力発電の高効率化を実現してきた。CN宣言に向け、どう取り組んでいくのだろうか。

同社の河相健社長は「水素・アンモニアなどの燃料の導入のほか、ICTにより火力発電のフレキシブル運転性能を改善させた。そうすることで、再生可能エネルギーの増加による電力系統の不安定化問題を解消できます。エネルギーの脱炭素化と安定供給の両方に貢献していきたい」と説明する。

火力発電所のゼロエミッション化に向けた取り組みについては、「既に水素ガスタービンでは18年に30vol%の水素混焼を達成しており、政府目標の25年水素専焼実現に向け技術開発を進めています。また既設のLNG焚き発電設備に対して最小限の改造で水素焚きに転換することで、投資コストを抑制し大規模な水素需要を喚起することも可能です」と話す。

また、石炭火力の脱炭素技術としてアンモニアが期待されている。

河相社長は「国内で水素社会を実現するにはキャリアーとしてのアンモニアの活用も有効で、ガスタービンの排熱を利用してアンモニアから水素を分離する技術を開発しています。またアンモニアは石炭焚きボイラーでの混焼も可能なので、石炭火力の脱炭素化に向けた活用も期待されています」と話しており、今後も研究開発を加速させていく構えだ。

デジタル技術でも脱炭素 三菱重工グループで連携

これら水素・アンモニア以外にも、河相社長が注目するのが「AI」だ。

「火力発電の脱炭素化にはAIも有用です。当社のICTにより、発電設備は再エネ利用時のグリッド負荷変動に俊敏に対応できる調整力を備えることで、再エネの弱点を補えます。さらに、蓄電池システムと組み合わせることで、システム全体の最適運転を実現する制御装置も事業化しています」と期待を寄せる。

こうした火力発電所由来のCO2を減らす取り組みと並行して、CO2を分離・回収し貯蔵するCCSや、CO2を再利用するCCUSの研究が全国各地で進められている。

「三菱重工グループはCCUS技術も有しているので、当社の技術を組み合わせることもできます。当社は総合エネルギーソリューションカンパニーとして、引き続きお客様の期待に応え、サステナブルな未来に貢献していきます」と展望を語っており、脱炭素社会実現に向けまい進する。

【特集2】研究進むCO2分離・回収 日本の技術には大きな可能性


発電側の技術開発とともに鍵を握るのがCCSだ。課題となるコスト削減に向けた展望について中垣隆雄教授に話を聞いた。

インタビュー:中垣隆雄/早稲田大学 理工学術院 教授

中垣なかがき・たかお 1992年3月早大理工学研究科機械工学専攻修了、同年4月東芝入社。研究開発センター、電力社会システム技術開発センターにて新発電システムの研究開発に従事。2007年4月から早稲田大学。12年から現職。

―中垣先生の専門であるCO2の分離・回収技術とは、どのようなものですか。

中垣 分離・回収は「燃焼前回収方式」「燃焼後回収方式」「酸素燃焼方式」の三種類があります。

 まず燃焼前回収方式とは、Jパワー、中国電力などが広島県大崎上島町で行っている大崎クールジェンのように、専用のプラントで石炭をガス化し、ガスタービンで燃焼する前にCO2を回収する方式のことです。酸素燃焼方式は、燃料を燃焼する際に空気ではなく純酸素(O2)を加え、燃焼後に水とCO2を分離するという方式です。

 燃焼後回収方式は、発電所などの排煙からCO2を分離・回収する方法で、アミンというCO2と化学的に反応する特性のある物質がよく利用されています。同方式の中でも、アミンから成る吸収液を使用する「化学吸収法」、アミンを含んだ多孔質セラミック製の材料を使用する「固体吸収法」、特殊な膜でCO2を分離する「膜分離法」の研究が進んでいます。

 それぞれ優れている点、苦手な点はありますが、CO2濃度の高い排煙に強い技術もあれば、低い濃度に強い技術もありますので、利用する現場に合わせて利用していくことになるでしょう。

―CCSの議論では、コストの問題がよく指摘されています。

中垣 海外では大規模なCCS実証がいくつか行われており、1tのCO2回収に約5000~7000円のコストが掛かるとされています。現在はさまざまな企業が性能の高いアミン液を開発していますし、実証が進み一定の技術が確立されれば吸収材のコストは安くなっていくでしょう。とはいえ、技術的な課題をクリアできても、設備の運転コストはどうしても掛かります。そのコストをどう引き下げるかが鍵になります。

既存設備に外付けも可能 可能性秘めた日本の技術

―既設の発電所でCO2の分離・回収を行う場合、どのような課題がありますか。

中垣 燃焼前方式や酸素燃焼方式を行うには、改質器やボイラーなど燃焼器周りの改造が必要になります。しかし、燃焼後回収方式は排煙からCO2を回収する方式なので、既存設備に外付けすることができます。

 化学吸収法や固体吸収法でCO2を分離・回収する場合、分離後のCO2を回収するためにはアミンを加熱しなければならないので、その熱源をどこから集めるのかが課題になります。海外では低圧タービンで発生する蒸気を使用するケースもありました。その場合、低圧タービンの入れ替えが必要となり、発電に使用できる蒸気量が減るので発電効率が落ちてしまいます。CO2分離・回収に必要な熱源確保にも工夫が必要です。

―これらの技術で、日本の強みはあるのでしょうか。

中垣 石炭火力発電所のボイラー、蒸気タービン、発電機など主要な機器を設計・製造できる企業は日本に多くありますし、アミンなど吸収材分野でも技術力は高い水準を誇っています。日本のCO2の分離・回収技術は世界的に見ても秀でており、2015年時点での特許出願件数は世界一です。

 火力発電は、電化が必要な途上国だけでなく先進国でも再生可能エネルギーの調整電源として頼らざるを得ませんし、分離・回収技術は発電所だけではなく、工場など他業種でも応用できます。日本の技術力には大きなポテンシャルがあるのではないでしょうか。

【特集1まとめ】電力緊急事態宣言 列島を襲う前代未聞の危機


まさに前代未聞の事態である。
年初の日本列島を襲った電力需給危機のことだ。
燃料在庫不足でLNG火力の出力低下が相次ぐ中、
一足早い大寒波によって全国各地で電力需要が急増。
発電量が足りず使用率が100%に達するエリアも発生する中、
電力各社は「極限の緊張」下で綱渡りの需給調整に追われた。
卸市場では連日、スポット価格がkW時200円超えの暴騰。
電力小売り事業者の経営を直撃する事態になっている。
だが、これほどの有事にもかかわらず、政府の動きは鈍い。
業界主導で発出する「電力緊急事態宣言」の最新事情を取材した。

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【アウトライン】制度欠陥や電源問題が一気に露呈 世界屈指の安定供給体制に赤信号か

【レポート】発電能力はあるのに電気が足りない! 需給危機で露呈した脆弱性

【レポート】燃料調達の現場で何が起きたのか LNG・石油を襲う異常事態

【レポート】資金難で新電力再編が加速 JEPXスポット市場の狂騒

韓国がトリチウム水海洋放出に強硬姿勢


【ワールドワイド/コラム】

福島第一原子力発電所のトリチウム水の海洋放出に、韓国が強く反発している。日本政府は、多核種除去設備(ALPS)で各種の放射性物質を除去した後に残るトリチウムを含んだ水を、海洋に放出する方針を固めている。

海洋放出は既に世界中の原子力施設が実施。昨年調査を行ったIAEA(国際原子力機関)も、「実績があり現実的な方法」「放射線の影響は自然被ばくと比較して十分に小さい」との報告をまとめている。

だが韓国は、トリチウム水を「福島原発汚染水」と呼称。漁業関係者をはじめ与野党の国会議員まで、海洋放出に反対の立場を取っている。

2020年10月に日本のメディアが「政府が海洋放出を決定」と伝えると強硬姿勢を強め、国会の外交統一委員会で与野党の議員が相次いで懸念を表明した。与党「共に民主党」の宋永吉議員は「太平洋は日本だけのものでなく、沿岸国全てのもの。

一方的に汚染水を放出するのは問題が大きい」と強調。議員らは南官杓駐日大使に対して、日本政府が海洋放出を決めないよう対応を求めた。科学技術に関する委員会も、日本政府に安全な処理水対策の策定を促す決議案を採択している。

日本が海洋放出を正式に決めた場合、より態度を硬化させることが予想される。しかし、韓国でもカナダ型重水炉の月城原発1~4号機をはじめ、各地の原発から相当量のトリチウムが海洋に放出されている。

自国を棚に上げ、福島第一原発のトリチウム水の放出だけを批判するのは明らかな矛盾。韓国内でも、「日本の原発は安全性だけで、韓国の原発は経済性だけで評価するダブルスタンダードは、愚かな自己矛盾にほかならない」(ハンギョレ新聞)との指摘が出ている。

バイデン新政権の環境人事 気候特使を4年振りに設置


【ワールドワイド/環境】

11月中旬、バイデン次期米大統領はオバマ政権で国務長官を務めたジョン・ケリー氏を気候特使に指名するとの意向を表明した。これは温暖化問題を重視するバイデン次期政権の性格を象徴する人事と言える。

気候特使は地球温暖化外交における米国の顔だ。オバマ政権においてはトッド・スターン氏が8年にわたりこの役割を務め、パリ協定成立に向け大きな役割を果たしてきた。しかしパリ協定脱退を公約して就任したトランプ大統領の下で地球温暖化外交における米国のプレゼンスが大きく低下。気候特使も任命されないままであった。

トランプ政権時代、ケリー氏はパリ協定にコミットした州政府、米国企業の「We Are Still Inイニシアティブ」を主導。大統領選ではバイデン・サンダース合同タスクフォースの気候変動関連部分をアレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員と共同で取りまとめた。国際的に知名度の高いケリー氏の任命は米国のリーダーシップを取り戻そうというバイデン氏の意向を反映するものである。

スターン氏は議員・閣僚経験がなく、特使ポストは国務省に置かれたのに対し、ケリー氏は上院議員、国務長官経験者だ。特使ポストも国務省ではなくホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)に置かれる見込みだ。これらはバイデン政権で気候変動問題は、国家安全保障に関わる重要課題として位置付けていることも意味する。

ケリー氏の気候特使指名は民主党で勢力を増しているリベラル・プログレッシブ派の人々からも歓迎されている。グリーンニューディールの理論的支柱となったサンライズ・ムーブメントのヴァルシニ・プラカシュ代表はこの人事を歓迎するとともに、外交面のみならず、国内政策面でも大統領に直接報告するヘッドをホワイトハウスに置く必要があるとしている。

米国が気候外交でリーダーシップを示すためには単にパリ協定に再加入するだけでは不十分だ。オバマ政権の2025年マイナス26~28%(05年比)に代わる30年目標をいつ、どの程度の野心レベルで提示できるかにかかっている。

上院で共和党が過半数を維持した場合、30年目標を裏打ちする新法制定や税、財政発動が容易ではなくなる。米中新冷戦の下ではオバマ政権時の緊密な米中協力も想定しにくい。ケリー特使を待ち受ける道は決して平坦ではない。

有馬 純/東京大学公共政策大学院教授

35年カーボンフリーは可能か 困難予想も投資は加速


【ワールドワイド/経営】

共和党ドナルド・トランプ大統領と民主党ジョー・バイデン前副大統領が争った2020年大統領選は、20年11月8日未明(日本時間)にバイデン氏の勝利が確定し、12月現在、政権移行が進められている。両者はさまざまな政策で対照的な立場を取ってきたが、中でも気候変動対策の違いは重要な争点の一つとなった。

オバマ前大統領による環境政策を撤廃してきたトランプ大統領に対し、バイデン氏はパリ協定への復帰や2兆ドル規模のクリーンエネルギー分野への投資など、気候変動対策に積極的に取り組む公約を掲げてきた。

とりわけ、35年までに電力部門からの温暖化ガス排出量をゼロに抑えるという野心的な目標は、電力関係者を中心に大きな注目を集めている。しかし、35年目標の実現は困難と見る関係者や専門家が多いのが現状だ。

米電力業界団体のエジソン電気協会(EEI)は、選挙前の9月に開催した会議において、再エネ電源の間欠性と天然ガス火力発電への依存度が高いことを考慮すると、バイデン氏が掲げる目標を達成することは困難であるという見解を示した。またオバマ政権下でエネルギー長官を務めたアーネスト・モニツ氏は、35年目標を達成できるのは、今後10年間で強力なイノベーションが実現される場合に限るとし、30年までにあらゆる新技術をスケールアップするための準備が必要であると語る。

そうした中、カリフォルニア大学バークレー校は、90%のカーボンフリーであれば35年までに達成することは経済的に可能だと予想する。ただし米シンクタンクの調査では、シナリオ通り90%カーボンフリーを達成するには、20年代に年間の風力・太陽光導入量を過去最大(それぞれ12年1310万kW、16年1510万kW)の2倍にし、30年代には3倍にする必要があるという。そして100%カーボンフリーを目指す場合は、それ以上のスピードで再エネを導入するだけでなく、カーボンフリー実現に向け新技術開発への多額の投資が不可欠としている。

以上のようにバイデン氏の35年目標達成の可能性はゼロではないにせよ、非常に多くの困難や課題が伴うというのが関係者の大方の見方だ。しかし、EUや中国、日本などが野心的なカーボンニュートラル目標に向けて動きを速める中で、米国諸州や企業の多くも脱炭素目標を掲げ進み始めている。道のりは困難を極めようとも、連邦大で目標を達成するとなった場合、クリーン技術への投資が加速することは間違いないだろう。

三上朋絵/海外電力調査会調査第一部