【特集2】事業者が抱える遊休地を活用 「自家消費型」に熱い視線


再生可能エネルギーのさらなる拡大には、遊休地の活用が不可欠だ。事業者向け自家消費型太陽光サービスを手掛ける3社の取り組みを紹介する。

【東京ガスエンジニアリングソリューションズ】

太陽光の自家消費・自己託送を実現 培った技術で再エネ設備を遠隔管理

東京ガスのグループ会社・東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)は、太陽光発電システム導入を支援する「ソーラーアドバンス(ソラアド)」を提供している。

ソラアドは、太陽光で発電された電気を利用者が料金を支払って使用するPPA(電力販売契約)サービスで、太陽光の設置から設計、施工、メンテナンスにいたる一連の業務をTGESが一括して請け負う。

料金プランは発電した電力量に応じて料金が変動する従量料金型と、どれだけ発電しても料金が変わらない定額料金型の2種をラインアップ。利用規模に応じて柔軟な契約を結べるのも特色の一つだ。

2019年4月から事業をスタートし、21年12月現在、既に数十件の採用実績がある。21年10月には、大手二輪・自動車メーカー本田技研工業の熊本製作所敷地内の建屋屋根に3800kWの自家消費型太陽光システムを設置。設備の稼働状況を遠隔で24時間監視するなどして、太陽光の性能を中長期で最大限発揮できるよう運用する。太陽光導入による同所でのCO2削減量は、年間約1800tにも及ぶという。

ホンダ熊本製作所に太陽光を導入した

再エネ自己託送も可能 余剰電力を有効活用

ソラアドでは、こうした太陽光の設計・施工からO&M(運用・保守)を行うだけではなく、余剰電力を別の建物で使用する「自己託送」も可能なのが大きな特長といえる。

20年12月に東ガスと不動産大手の東京建物は、ソラアドを用いて環境に配慮した取り組みを進める基本協定を締結した。その第一弾として東京建物の物流拠点「T―LOGI久喜」への915kWの自家消費型太陽光の導入と、余剰となる電力を同社が運営するショッピングセンター「スマーク伊勢崎」へ送電する自己託送を計画している。

ソラアドを用いて自己託送を行う初めての事例について、エンジニアリング技術開発部・新商材技術グループの佐藤俊秀課長代理はこう話す。

「ソラアドには太陽光の出力を予測する機能などを搭載しており、こうしたデータを基に電力広域的運営推進機関へ30分ごとに計画値を自動提出する機能も搭載している。物流倉庫ということで、太陽光を設置できる面積が大きいのに対し消費電力がそこまで多くないため、太陽光を最大限導入しても電力が余る課題があった。自己託送の仕組みは再エネを最大限活用することにつながる」

今後も東京建物は首都圏内に物流拠点「T―LOGI」の建設を予定しており、久喜と同様に倉庫屋根には太陽光を設置する計画という。東ガスはソラアドを活用することで、複数の拠点からスマーク伊勢崎に電力融通する自己託送モデルの構築に継続して取り組んでいく構えだ。

【特集2】主力化を支える「良い再エネ」 多様な発想と技術で「共生」へ


「悪い再エネ」を減らそうとさまざまな業界が新しい取り組みを始めている。 電力系統にも地域住民にも優しい「再エネ主力電源化」への展望とは。

旧一般電気事業者が手掛けた太陽光発電施設

「RPS法が残っていれば、地元住民をないがしろにした再エネ乱開発問題など起きなかったはずだ」。大小さまざまな電源開発に携わった旧一般電気事業者の関係者は、昨今の問題に対してこう話す。

関係者が指摘するRPS法とは旧一般電気事業者に対し、販売電力量に応じて一定の再エネ電力導入を義務付けるもの。2003年に制度が施行されて以降、旧電力各社はその導入量を増やしてきたが、いまは固定価格買い取り制度(FIT)との関係で、段階的廃止へと進んでいる。同時にRPS時代には存在しなかった再エネ問題が各地で発生している。

「電源開発に伴う地元住民への説明責任を果たさない」「自然環境を無視した乱開発」「安直な設計・施工が二次災害を招く」など、事業者の暴走を招いている。いずれのツケも、国民に跳ね返る。

70年近く大型発電設備を手掛けてきた旧一般電気事業者ならば、責任ある立場として、「良い再エネ」を開発するはずだが、現状を見るとFITの下で有象無象の事業者が参入し、「乱開発や違法行為など、やりたい放題の惨状」(環境NPO関係者)と化しているのが実状だ。

自己託送や自家消費 国民負担の低減目指す

FIT時代の「悪い再エネ」を改めようと、さまざまな視点から業界が動き出している。まずは「コスト負担の低減」だ。東京ガスエンジニアリングソリューションズやFD、テス・エンジニアリング、伊藤忠エネクスなどはPPAや自家消費、あるいは自己託送といったビジネスモデルで再エネ、とりわけ太陽光発電の導入量を増やしている。

自家消費型は、あくまでもユーザー消費分を再エネで賄うもの。料金を負担するのはユーザーであり、電力系統はおろか一般国民への負担にもならない再エネ利用の理想形と言っていい。

そこに、エネルギーサービスという視点が加わると、設備側の負担は事業者が担い、ユーザーはサービス料を支払う仕組みに変わる。エネルギーサービス事業の特性から、10年以上にわたる長期スキームが一般的だ。事業者は長期安定的な設備運用を求められるため、発電設備の安易な設計施工をすることはない。ユーザーも長期にわたって再エネを活用できる。これも理想的な事業モデルだろう。

特定の再エネ(自社電源)と特定の需要家を結ぶのが「自己託送」だ。再エネの出力変動分をサービス事業者やユーザー自らがしわ取りする。供給量と需要量を常にバランスさせるための制御技術が求められるが、電力網という公共財に対して一切の迷惑をかけない。

再エネ変動分に対する需給調整にガスコージェネを使うといった発想も生まれている。需給調整を担うのは、大型火力発電だけではない。いつでも短時間に発電量を調整できるのがコージェネの特徴でもある。マイクログリッドやスマートシティの中に組み込まれた再エネとコージェネが共存できれば、BCPを担いながら再エネ利用の拡大を支える方策にもなる。

いずれにせよ、主力電源を目指すのであれば、「良い再エネ」が理想だ。そんな理想を目指し、各社は知恵を絞り、技術を磨きながら取り組みを始めている。

【特集2】デジタル技術と人材を融合 官民が進めるスマート保安


デジタル技術と保安人材を融合した「スマート保安」に期待が寄せられている。設備の維持・管理は事業者の生命線だ。政策の現況と行方を展望する。

AI、IoT、センサー、ドローン―。エネルギーインフラや工場などの保安業務に、デジタル技術を活用して高度化を図る「スマート保安」を導入する事業者が増加している。

背景にあるのが、高齢化でこれまでエネルギーインフラを守ってきたベテラン人材が退職する一方、少子化の影響で入職者が大きく減少している点だ。

経済産業省の資料によると、電気分野の場合、ビルの受電設備など電圧5万V未満の事業用電気工作物の保守・監督を担う保安業界の第三種電気主任技術者は、2045年には想定需要の1万8000人に対して最大で4000人程度の人材不足が発生。太陽光や風力発電といった再生可能エネルギー発電所をはじめとする電圧17万V未満の事業用電気工作物の保守・監督を担う第二種電気主任技術者も、再エネ拡大に伴い地域によっては人材不足に陥るという。

既存インフラでも、1960~70年代の高度経済成長期に建設された鉄塔や受変電設備、発電所などの老朽化にも対応しなければならない上、「数十年に一度」レベルの激甚災害が毎年のように起きている。複雑かつ多様化する課題に対し、AIでの画像解析による劣化診断、ドローンによる点検、IoT機器による設備の常時監視、ビッグデータによる故障予知など、先端技術を導入するスマート保安で業務の効率化・高度化を果たすと期待されている。

政府が考える目指すべきスマート保安の絵姿(出典:経済産業省)

メリハリある規制体系に デジタル技術の活用推進

経産省産業保安グループ保安課の正田聡課長は、「政府としても保安人材の減少に対応し、日本の産業基盤を守る対策を打たなければならない。安全は大前提の上で、デジタルなど新技術と人が融合したインフラのスマート保安が重要になる」と説く。先端技術と保安人材を掛け合わせて対応する、これがスマート保安の考え方だ。

スマート保安の実現に向けて、経産省では20年6月に「スマート保安官民協議会」を発足した。メンバーには、電気事業連合会、日本ガス協会、石油連盟、日本鉄鋼連盟、石油化学工業協会をはじめとするエネルギー、石油化学産業など業界団体のほか、保安関連団体の高圧ガス保安協会、電気保安協会全国連絡会も参加。過去2回開催された会合には梶山弘志前経産相が毎回出席するなど、政府も導入促進に向けて積極的に活動している。

今年に入り、官民協議会では高圧ガス保安部会、電力安全部会、ガス安全部会に分かれて、技術革新に対応した各種規制・制度の見直し、民間企業の取り組みへの支援などの議論を行い、具体的な取り組みの指針となるアクションプランが各部会で策定された。

今年2月には、産業構造審議会の保安・消費生活用製品安全分科会に「産業保安基本制度小委員会」が設置され、6月に中間とりまとめを公表した。先端技術で保安業務の効率化や高度化が図れるとはいえ、電気事業法、ガス事業法、高圧ガス保安法など保安業務に関係する諸法制が障壁となる。このため、小委の中間取りまとめではスマート保安を進める上で「メリハリのある規制体系」が重要だと指摘している。

例えば高圧ガス保安法では、IoTなどの新技術の活用や高度な保安業務の取り組みを行う事業者にインセンティブを与える「スーパー認定事業所制度」が17年に設けられた。認定を受けた事業所では連続運転期間を事業者自身が8年以下までの期間に設定できるほか、完成・保安検査も事業者自身が検査可能。検査方法も自由に設定できるメリットがある。

20年10月には設備の巡回点検を人間の目だけでなく、ドローンなどのロボットやファイバースコープなど、目視に類する方法も可能になった。保安人材減少に対応するべく、事業者が先端技術を導入したくなるよう促すような法体系に変化し始めている。

法改正について正田課長は「新たな電子機器やソリューションを活用することで高度な保安を行うことが、これからの大きなトレンドになる。省令事項の見直しを行うなどしてスマート保安を進める上での障害を取り除くことと、スマート保安に資する新制度を作るダブルトラックで進めていく」と説明した。こうしたトレンドを踏まえ、次期通常国会で電気事業法、ガス事業法、高圧ガス保安法の改正を目指している。

スマート保安官民協議会それぞれの役割(出典:経済産業省

デジタル人材の育成が急務 業界大での取り組みを

導入に至る過程には課題も多い。主に①人材育成、②費用対効果の見えにくさ、③法規制、④セキュリティー対策―の4点だ。

特に①は深刻で、事業者は保安の専門家ではあっても、デジタルに精通しているわけではない。どのような機器でデータを得て、どう業務効率化に生かすのかをきちんと理解して、実業務に落とし込める人はそう多くない。現場の人材不足に対しては、各業界団体でカリキュラムを組むなどして、業界大で取り組むべきだろう。これはスマート保安を監督する行政も同様に言えることで、情報処理推進機構(IPA)のような機関と連携して人材育成や制度設計を行うことで、技術進歩に合わせた法制度を作る必要がある。

②についても、デジタル技術を導入するとなるとそれ相応のコストがかかるため、投資に対してどれだけのリターンがあるのか掴めず、導入をためらう事業者は多いという。また事業所によって設備の構成や抱える課題も異なるため、導入した内容もそれぞれ異なる。そうした事情もあるため、他事業所で導入された技術が業界内で共有されない問題もある。

このため経産省では、スマート保安導入によるメリットを伝えるべく、事業者の導入事例や現場の声などをまとめた「スマート保安事例集」を発刊している。さらにスマート保安に資する技術を導入・開発する事業者への補助金を拡充しているほか、関係者を招いた「スマート保安シンポジウム」のような場で議論を行うなどして、発信・周知に務めている。

③は、経産省が管轄する法制度は順次改正を続けていくものの、産業保安に関係する法制度は防爆規制など、他省庁が管轄するものも多い。④もスマート保安の大前提に安全性が担保されている点がある以上、導入するシステムはセキュリティー面の対策もしっかりとしている必要がある。

サイバーセキュリティー政策は経産省だけでなく、内閣府、総務省にまたがる分野だ。③と④いずれも省庁間で足並みを揃えて整合性を取りながら、安全に最大限配慮しつつ技術の進歩に置いて行かれないよう進める必要がある。

導入企業の裾野を拡大 垣根を超えた連携も重要

現在、スマート保安技術を導入している事業者は、各業界で名の知れた大企業が中心だ。対して、中小企業はスマート保安導入への関心はまだ低い。業界全体で意識向上と、保安能力の底上げを図っていく必要がある。大企業と中小企業との間で保安技術に差が開きすぎないよう、知見を共有する方策もあり得るだろう。

またインフラメンテナンスの担い手不足は、水道、通信、道路や橋梁などの建築・土木といった他のインフラ業界でも大きな課題だ。こうした同じ悩みを抱える業種とも連携することで、幅広い新たな知見を得られる可能性もありそうだ。

国土交通省や厚生労働省、総務省、デジタル庁などとの連携は今後ますます重要になるといえる。こうした先進的な取り組みを進めることは、業界の魅力度向上につながる。またこれら技術を海外に展開することで、新たな収益に化ける可能性も十二分にある。

システムの導入、人材育成、制度改正など、どの取り組みも一足飛びに進むことはない。官民ともにスマート保安実現へ着実に取り組んでいくことで、現在の逆境をチャンスと捉えて新たな産業保安の世界を切り開いてもらいたい。

【特集2 システム機器編】通信技術で安全性を向上 収集データの活用進む


スマート保安に欠かせないのがエネルギー設備を管理する機器の高度化だ。LTEやBluetoothが点検データや警告を送信し安全性向上に寄与する。

【東洋計器】

「IoT―R」端末でデジタル化 収集データで新サービス開発

ガスの使用量を時間帯別、用途別に計測する分計機能を搭載したマイコンメーターとIoTシステム「IoT―R」を組み合わせた東洋計器のソリューションが、シェアを伸ばし続けている。

「IoT―R」は、主にLTE回線で通信を行うIoT端末。携帯電話と同じ回線を使うため北海道から沖縄、離島に至る全国各地でも利用できる。検針員が訪問しにくい過疎地にあるLPガスや水道などの各種メーターや、太陽光発電所のパワーコンディショナー、灯油タンクの油圧センサーなどと接続することで、これら機器の稼働状況を遠隔からでも監視可能だ。

さらに、分計機能により、1台のメーターで日中や夜間、平日・休日、風呂などで大量のガスを短時間利用した、暖房などで少量のガスを長時間利用した―など、時間帯別、日別、利用用途別に検針できる機種をラインアップ。検針業務の省力化や、生活者のライフスタイルに合わせた料金メニュー設定、ガス機器の劣化予測など、設備の保安力向上と、競争力強化を実現する。

またメーターから得たデータを活用して、配送ルートの自動検索や容器残量の見える化などを行う「配送Naviアプリ」、ガス機器を利用し始めた時刻を知らせることで家族の安否を知らせる「高齢者元気情報」、ガスの明細送付や電子決済をアプリ上で行える「ガスるっく」など、さまざまなサービスを提供している。

設備を高度化する「IoT-R」

導入件数は150万台 データ分析で新領域へ

今年11月時点でのIoT―Rの導入件数は150万台に上り、データセキュリティーの国際規格ISMSを取得した「東洋計器マルチセンター」にさまざまなデータが集まっている。そのため、昨年9月にはIoT―Rの接続台数が300万台にまで増加しても対応できるよう設備を増強した。

DX化による保安の高度化について、土田泰秀会長は「得られたデータをAIなどで類型化できれば、販売促進につながる新サービスも開発できる。また他業種と連携して分析することで、新しいビジネスを生み出せるのではないか」と期待を寄せる。

IoT化が叫ばれる30年以上前からデジタルと向き合ってきた東洋計器。これまで積み上げてきた技術力と創造力を生かして、事業者の業務革新を支えていく。

増強した「東洋計器マルチセンター」

矢崎エナジーシステム

LPガスバルク運用を支える IoT機能付き蒸発器を開発

矢崎エナジーシステムは、IoT機能を搭載したLPガスバルク向けの蒸発器「温水循環式アロライザーVP―S50W/100W」の2機種を開発した。

一般的に、バルクに貯蔵されたLPガスは気化してから使用する。一度に大量のLPガスを消費する場合は気化が追い付かず、バルク内の気圧が落ちて供給が安定しなくなることがある。そのためバルクには蒸発器と呼ばれる気化装置を設置して気化量を調整している。

蒸発器は主に電気やガスの熱で気化する方式や、温水を循環させて気化する方式がある。今回同社が開発したのは温水循環式の蒸発器で、「VP―S50W」は1時間当たりのガス発生能力が50㎏、「VP―S100W」は同100㎏の中小型モデルで、安定供給と遠隔監視の両立をコンセプトに据えて開発した。

遠隔監視機能を持つ「VP-S50W/S100W」

業界初のIoT機能搭載 稼働状況をパソコンで閲覧

安定供給については、バルク内の圧力に応じて自然気化と温水循環による気化を切り替える、気液切り替え方式を採用。熱源機の負荷を軽減することで、ランニングコストやCO2排出量を削減する。

遠隔監視は、各部に取り付けられたセンサーで、設備の稼働状況をセンシングする機能を搭載した。センサーは熱源機と蒸発器間の流量、温度や、バルク内の圧力と液面変化を計測している。各種データは通信モジュールでクラウドに送信され、インターネットブラウザで閲覧可能。異常を検知した時にメールを送るアラーム機能も搭載しているため、突然発生したトラブルにも迅速に対処できる。

これまで設備にトラブルが発生した際は、メンテナンス事業者が現地に行き、そこで初めてどの設備が故障しているのかが判明していた。同機を導入することで、修理やメンテナンスにかかる時間のロスを減らせるメリットがある。

また、高圧ガス保安協会の「液化石油ガスバルク供給用附属機器型式認定」を取得したことにより消費設備となるため、高圧ガスの製造設備に係る技術上の基準を受けないのも特長といえる。筐体の設計を見直したことでサイズの縮小に成功。狭いスペースへの導入もしやすくなっている。

今後、こうしたIoT機能で多くのデータを収集できれば、製品の性能向上や、より高度なサービスの提供にもつながっていく。災害に強い分散型エネルギーとして定評のあるLPガス。そんな特長をさらに支えていく重要な機器になりそうだ。

【新コスモス電機】

ガス検知器のスタンダード スマート保安で普及加速

新コスモス電機のガス検知器製品群がスマート保安を背景に注目を集めている。近年、日本国内のプラントや工場は、設備の老朽化、保安人材の高齢化などの課題が顕在化している。

これに伴い、経済産業省はAI、センサー、IoTなどの活用により、データ分析を通じた自己予兆把握など、保安の高度化を図ることを推進している。2019年4月には、石油・化学プラント内での電子機器、ドローンなどの活用範囲を拡大するためのガイドラインを公表。「自主行動計画」の参考となるガイドラインを策定した。

ポケット型可燃性ガス検知器「XA-380s」

ガス検知器携行で 防爆エリアを半減

具体的には、現状の防爆エリアとなっている第二類危険箇所をガイドラインに基づきリスクを評価し、新たな非危険箇所を明確にした上で、自主行動計画の中で携帯用ガス検知器を携行するなど事前安全評価と管理を行うことで、スマートフォンやタブレットなどの非防爆機器の利用エリアを拡大することができる。

この携行するガス検知器を販売する新コスモス電機インダストリ営業本部の川口勝也副本部長は「ガイドラインに則った申請によって、防爆エリアの範囲を半減できた事業者もいると聞きます」と話す。

新コスモス電機のポケット型可燃性ガス検知器「XA―380s」は、重さが63g軽量で作業員が身につけても気にせず業務に当たることが可能、アラーム、ランプ、バイブレーションによってガス漏れを知らせ、ガス警報の履歴を最大30件まで表示できる。

乾電池仕様なら単4形アルカリ乾電池1本で約34時間、充電池仕様なら約40時間と、長時間の連続使用ができるのが特長だ。また、保護等級IP54相当の防沫・防塵構造、防爆基準の厳しい水素防爆に対応する。

濃度が数値計測できる検知器では、スタンダード機として長年現場で使われている「XP―30

00II」シリーズがある。低濃度から爆発危険濃度まで1台で検知可能。最新機種は、Bluetooth機能を搭載しておりスマホとも連動し、専用アプリからメールで通知することができる。さらに、32種類のガス種への読み替えが可能だ。

オープンパス方式ガス検知器「IR5500」はプラントと一般の敷地など境界線に赤外線投光部と受光部を設置。その間に存在する炭化水素ガスの濃度を、赤外線の吸収波長と透過率を見ることで検知する。最長150mの2点間のガスを3秒で検知。

川口副本部長は「高圧ガス設備扱うプラントでは、老朽化や腐食による漏えいが思わぬ箇所から発生しています。プラントと事務所の境界線などに設置することで事故を未然に防ぐことができます」と同製品を組み合わせることでさらなる高度化につがなることを強調する。

このほか、水素向けに防爆型紫外線・赤外線式火炎検知器「FL500―H2」を発売中。水素の見えない紫外線の炎を検知。水素ステーション(ST)のディスペンサーや蓄圧器など、ST1カ所当たり3、4台は設置されている。

水素やアンモニア、メタネーションなど、新たなエネルギーが注目されている。新コスモス電機ではこれらの製品を核にしながら、次世代エネルギー技術への対応にも注力していく構えだ。

【特集2】深刻な人材不足解消の道筋 導入意欲をかき立てる政策を


【インタビュー/横山明彦・東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻教授】

スマート化は保安人材の不足問題の一助になるのか。
産業構造審議会など各種会合の委員を務める、横山明彦教授に話を聞いた。

―産業保安政策を議論する産業構造審議会保安・消費生活用製品安全分科会の会長や、同分科会電力安全小委員会の座長を務めています。スマート保安政策をどうとらえていますか。

横山  どの企業も保安人材が減少していることに大きな危機感を感じています。例えば電力業界の場合、第二種電気主任技術者の有資格者が減っていて、事業者間で人材の奪い合いが起きています。今後、再生可能エネルギー設備がますます増加する中で、この状況はさらに深刻さを増していく行くでしょう。

 機器やセキュリティーをはじめとするシステムの安全面がしっかりしていることが大前提ですが、スマート保安のような先進技術による高度化および効率化は、企業の生産性向上につながります。さらに、先進的な技術を率先して取り組むことで、業界の魅力度を高めるメリットもあるでしょう。

業界挙げて人材育成を 意識の底上げが重要

―昨年12月に開催された「スマート保安シンポジウム」で電力、都市ガス、石油、化学、製鉄業界の方々と議論しました。どのような印象を持ちましたか。

横山  多くの方が「設備の保安は企業を存続する上での必須事項だ」と語っていたことが印象に残っています。まずは経営層がスマート保安の重要性を理解し、業界をリードする事業者が取り組んでいくことが求められます。同時に、中小事業者や協力企業を取り残さないよう業界全体の意識を底上げすることも大事だと、改めて実感しました。

―普及促進に向けた政府の動きはどう評価されますか。

横山  審議会や会合で議論を重ねるだけでなく、実務面でもスマート保安に資する事業を支援する補助金を設けるなどして積極的に取り組んでいると思います。法改正でも電気分野では遠隔監視システムを導入することで、電気主任技術者の配置要件を一部緩和するよう動き出すなど、安全面をクリアした先端技術を積極的に導入する事業者にインセンティブを与える方向性にシフトしています。

―導入を阻む課題は。

横山  イニシャルコストはどうしてもかかるので、投資に対してどのようなリターンがあるのかを事業者にきちんと示すことが必要です。業務変革に対する納得感が無ければ普及はできません。

 またスマート保安を担うデジタル人材を、どのように育成していくのかも課題です。自社のみで人材を育てる余裕がないのであれば、電力やガス、石油など各業界の保安団体がカリキュラムを組むことでスマート保安人材を育成する手法も考えられます。さらにエネルギー業界にとどまらず、共通の課題を抱える建築、土木、情報通信など、業界を横断した枠組みで人材を育ていくことも視野に入れる必要があります。

―スマート保安を普及する上で重要なことは何ですか。

横山  日本国内で培った保安技術を海外にも展開できるようになれば、新たな収益を生み出す可能性もあります。スマート保安のスキームを作り上げることが、取り組むきっかけになるかもしれません。事業者が進んでスマート保安を導入したくなる制度設計を作り上げることが必要です。スマート保安はまだ緒に就いたばかりの取り組みです。一歩ずつ着実に進めてもらいたいと思います。

よこやま・あきひこ 1984年東京大学大学院電気工学博士課程修了、同大工学部講師、助教授、教授などを経て19年4月から現職。

【特集2】LNGの未利用冷熱でDAC実施 CO2分離・回収エネルギーを低減


【東邦ガス】

都市ガスのカーボンニュートラル(CN)に向けて、全国各地の事業者が研究開発を進めている中、東邦ガスは2020年10月、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「ムーンショット型研究開発事業」において、名古屋大学らとともに大気中のCO2を直接回収する「DAC(Direct Air Capture)」の研究を開始した。LNGの未利用冷熱を使った「Cryo-DAC」の研究開発は、世界でも類を見ない取り組みだ。

技術研究所環境・新エネルギー技術グループの増田宗一郎氏は、DAC研究について「燃焼すればCO2が出る都市ガスをCN化するには、大気中や排ガスからのCO2の分離・回収は重要な技術。さらにメタネーションを行う上でも重要なCO2源にもなり、原料リソースの多様化を図る上でもDACは重要だ」と話す。

圧力差で分離・回収 運用エネルギー減に効果

「Cryo-DAC」の最大の特長は、CO2の分離・回収にLNGの未利用冷熱を利用している点だ。

具体的には、まず吸収塔で取り込んだ大気を、CO2を吸収する溶液と接触させてCO2を分離し、CO2を吸収した溶液をポンプで再生塔へ圧送。再生塔と連結された昇華槽ではLNGの気化熱でCO2を昇華させてドライアイスにするが、このとき昇華槽内の圧力が低下するため、再生塔内の圧力も低下。これにより常温下でも吸収液からCO2が分離し、放出されたCO2は昇華槽に移動する。

生成したドライアイスは昇華槽を密閉して常温に復温・気化することで高圧のCO2に変換し、高圧のCO2を供給する。分離・回収から出力まで行えるプロセスだ。

一般的にCO2分離・回収技術で用いられる化学吸収法では、特殊な溶液でCO2を吸収し、蒸気などで加熱することで溶液からCO2を分離・回収する。しかしこの方式では分離時に熱源を利用するため、外部からのエネルギー投入とそれに伴うコストも掛かる欠点があった。

同研究では、化学吸収法をベースにLNGの気化熱を利用し、CO2をドライアイスとして回収することで再生塔を減圧してCO2の回収を行う。そのため分離回収にかかるエネルギー・コストを低減できるほか、気化熱によって減圧環境を作るため、真空ポンプも必要もない。

同方式は、共同で研究を進めている名古屋大学と国際特許を出願している。

Cryo-DACの仕組み

「ガス事業者が先陣を」 脱炭素のパイオニア目指す

NEDOの委託事業による研究は最長29年度まで行われる予定で、ライフサイクルアセスメントの観点からも「Cryo-DAC」が有効であることをパイロットスケール規模で確認することが最終目標に据えられている。

今後は22年度までにコア技術である溶液や昇華槽に用いる材料、センサー類の開発・選定を目指していく構え。また24年度までには年間1t―CO2規模の装置を製作し、連続運転を行う計画も立てている。

今後の展望について、増田氏は「社会実装はガス事業者が先陣を切ってやり抜いていく部分だと考えている。実用化に向けてLNG基地に組み合わせた形での設計や運用面での連携も必要。回収したCO2をメタネーション利用することをビジネスとして考えていく必要もある。前例のない挑戦で課題も多いが、ガス事業者が脱炭素化のパイオニアになるよう取り組んでいきたい」と、DACを組み込んだカーボンリサイクルのサプライチェーン構築に向けて意欲を示している。

LNGの未利用冷熱という都市ガス事業者ならではの独自性を生かした研究は、大きな注目を集めそうだ。

【特集2】天然ガスシフトと再エネ開発を両立 グループ一丸でCN実現に挑む


【広島ガス・松藤研介社長】

―産業全体で、CN実現に向けた経営が求められ始めています。CNをどう捉えていますか。

松藤 当社グループでは、政府のCN宣言以前から地方のエネルギー供給を担う企業として、環境負荷低減に向けた取り組みとエネルギーを可能な限り安価に提供すべく努力を重ねてきました。

 日本ガス協会でも「カーボンニュートラルチャレンジ2050」を公表しており、まさに新たな転換期を迎えています。協会のビジョンは全てのガス事業者の道標になっており、当社も政府目標である13年度比温室効果ガス46%減に向けて、徹底した天然ガスシフトと天然ガスの高度利用で貢献します。大変高い山ではありますが、チャレンジしていきます。

―環境負荷低減に向け、どう事業を展開していきますか。

松藤 これまでバイオマス発電所の建設検討など再生可能エネルギー獲得に努めてきました。19年には「このまち思い 広島ガスの森」を開設するなど、実質的なCO2吸収による環境貢献に向けて、森林保全・里山再生事業を行っています。昨年10月には「このまち思い SDGs実行宣言」を策定して、今年4月からは社内に環境・社会貢献部を新設しました。「環境・社会性」と「経済性」を両立させたサステナブルなESG(環境・社会・統治)関連事業を推進します。

松藤社長

バイオマスを有効活用 小水力復興で地域に貢献

―具体的にどんな内容ですか。

松藤 19年に新規事業戦略室(現イノベーション推進室)を新設して、さまざまな事業に取り組んでいます。

 中でも海田バイオマス混焼発電事業や里山再生事業、小水力発電事業は、ガス事業以外の事業分野での取り組みであり、環境負荷低減および収益力向上につながる事業です。SDGsの達成にも幅広く貢献できると考えます。

―海田バイオマス混焼発電事業はどんな取り組みですか。

松藤 海田発電所は中国電力とともに今年4月から操業する日本最大級のバイオマス混焼発電所で、当社グループにとってCNに向けた大きな強みです。現在、石炭の混焼率は20%と計画値から既に5%低減させており、今後もさらなる石炭混焼率の低下を目指し、CNに貢献したいと考えています。また同発電所の燃料として、広島県内の未利用木材などを使用しています。

 里山再生事業では、近隣の森林組合と協力しながら、成熟した木の伐採と並行して植林などを行うことで、実質的なCO2吸収を図ります。

―小水力発電事業はどんな取り組みですか。

松藤 当社は今年6月に、志和堀発電所(出力95 kW)の営業運転を開始しました。いわゆる小水力発電所ですが、エネルギー取扱量の少ない地方ガス会社からすると貴重な電源であり、CNに資する重要な設備です。まずはこの電力に由来する環境価値を当社事業所で活用することにより、自社の脱炭素化に役立てる計画です。

 また広島県内にはさまざまな理由で稼働できない小水力が複数あります。地域に貢献すべく、地元と連携して再生活用できないか検討しています。

天然ガスシフトでCO2低減 一丸となって未来を拓く

―CN実現に向け、どのように事業展開を行っていきますか。

松藤 CN社会実現に至る移行期は、天然ガス・LPガスシフトや高効率利用などを中心に、当社・お客さま先双方で累積CO2排出量の低減を着実に進めます。また前述の事業に加え、将来的にはカーボンニュートラルメタンや水素などの次世代エネルギーの利用による「ガス自体の脱炭素化」に挑戦していく考えです。

―今後の意気込みを。

松藤 当社グループは一丸となってCN実現へ果敢に取り組みたいと考えています。これは新たなチャレンジであり、従来とは違う思考・発想が必要です。  私自身もワクワクした気持ちを持ち続け、未来を切り拓いていきたいですね。

里山再生事業にも取り組む

【特集2】家畜の糞尿がLNG代替に 液化バイオメタン実証を開始


【エア・ウォーター】

都市ガスのカーボンニュートラル(CN)に向けては、生産・利用過程で発生するCO2をオフセットした「CN都市ガス」や、CO2と水素を合成してメタンを製造する「メタネーション」などが注目される。こうした中、新たな潮流が生まれようとしている。バイオガスを原料にした液化バイオメタン(LBM)を、LNGの代替にする方法だ。

産業ガス大手のエア・ウォーター(AW)は、北海道十勝地方で酪農家や食品事業者と共同でLBMのサプライチェーンを構築する実証事業を環境省のもとで行っている。期間は2021年4月から23年3月に掛けての2年間。LBMの年間製造予定量は360tで、全量がLNGの代替として利用された場合、サプライチェーン全体でのCO2削減量は年間7740tにおよぶ。

LBMで工場を操業 ロケットでの利用も視野

実証では、酪農家が保有するバイオガスプラントで作られる乳牛などの糞尿由来のバイオガスをAWが回収。バイオガスは北海道帯広市にある同社ガス充填工場内に建設するセンター工場に運ばれてメタンとCO2に分離、メタンを液体窒素との熱交換により極低温のLBMを製造する。

LBMは、実証に参画する「よつ葉乳業」の工場にローリー輸送してLNGの代替燃料としてさまざまな条件下で使用されるほか、別の環境省実証事業であるLNGトラックの運用に一部利用される。さらに実証が行われる北海道大樹町では宇宙港の整備が進められていることもあり、同町を拠点に宇宙探査を目指す宇宙ベンチャーがロケット発射時の燃料にと関心を寄せているという。

①酪農家からメタンガスの回収、②センター工場でLBMの製造、③需要家に配送して燃料として利用―というサプライチェーンを構築する実証は国内初の事例。経緯について、生活・エネルギーカンパニー長の梶原克己専務執行役員は「地域のエネルギー循環を図るという考え方が原点にあります」と語る。

本来大気放出されるはずの家畜由来のメタンをエネルギーとして再利用する持続可能性のある事業であるだけでなく、産業サイドにとっても熱需要のCN化は喫緊の課題だ。バイオガスプラントも、酪農家がもともとFITで操業するバイオガス発電向けに保有しているケースも多く、FIT後の新たなバイオガスの利用先になるのではと期待する声もある。エンジニアリング&ソリューション事業部の近藤俊和事業部長は「酪農家が抱えるバイオガスの有効利用と、工場・産業のCN化を図るという意味でも、意義がある実証だと考えています」と話した。

LBMサプライチェーンの構想図

「やり方は無限大」 食品廃棄物解決の一助に

実証の肝であるLBM製造だが、AWではこれまで家畜由来のバイオガスからメタンを抽出して水素に変換し、燃料電池向けに利用する実証事業を北海道鹿追町で行ってきた。

製造技術についてAW技術戦略センター産業・エネルギー・ガスオペレーション開発センターの末長純也CTOは「LBMはバイオガスからメタンのみを分離し、液化窒素との熱交換を行うことで、極低温かつ純度99%のLBMを製造するプロセスを経る。このバイオガスから純度の高いメタンを分離する技術は、鹿追町での実証と、当社が産業ガス製造で培ってきた技術が大きく役立っています」と説明する。

一般的なLNGの成分は、約90%がメタンで残りの10%をエタン、プロパン、ブタンなどの炭化水素が占めている。

そのため高純度メタンであるLBMはLNGの90%程度の熱量を有しており、今後はよつ葉乳業の工場でLBMの専焼、LNGとの混焼などさまざまな条件での運用を行うことで、LBMを利用した際の熱量変化の影響を検証していく予定だ。

梶原専務は「LBMの元になるメタンは別の資源由来のバイオガスからも抽出できるので、食品廃棄物を用いたLBM製造も技術的には可能。やり方は無限にある。SDGs(持続可能な開発目標)にもかなう実証です」と語った。

畜産業から排出されるメタンの問題のみならず、日夜大量に放出される食品廃棄物の問題は、日本をはじめとした大量消費社会が抱える悩みの一つだ。今回の実証は、世界の環境問題、社会問題を一挙に解決するソリューションになるかもしれない。

【特集2まとめ】ガス業界の脱炭素戦略 「熱変」以来の大波に挑む


菅義偉前首相が「2050年カーボンニュートラル」を宣言して早1年。
都市ガス業界では大手を中心にビジョンが相次いで示された。
実質的に炭素を出さないエネルギー社会の創造は、
かつての業界挙げての国家プロジェクト「熱量変更」をしのぐ。
脱炭素に向けて必要なことは何か―。事業者やメーカーの動きを追った。

掲載ページはこちら

【レポート】脱炭素時代へ本格始動 業界一丸となり難題に挑む

【インタビュー/本荘武宏・日本ガス協会】脱炭素社会への円滑な移行に貢献 メタネーションで他業界と連携

【インタビュー/柏木孝夫・東京工業大学】まずは即効性の高い省エネに注力 将来の水素インフラ構築も視野に

 

【レポート】「CN都市ガス」の採用進む 熱需要の低炭素化に期待

 【丸の内熱供給】高まる需要家のニーズに対応 将来の脱炭素時代に備える

 【ヤクルト本社】飲料業界では初めての採用 人も地球も健康な社会の実現へ

 

【レポート】都市ガスの脱炭素化「最前線」 メタネーションで進む技術革新

 【大阪ガス】メタン合成の高効率化を実現 施設整備で研究体制を拡充

 【東邦ガス】LNGの未利用冷熱でDAC実施 CO2分離・回収エネルギーを低減

 

【インタビュー/大下英和・日本商工会議所】電気料金負担が重荷の中小企業 「S+3E」前提の脱炭素に期待

 

 

【インタビュー】都市ガス会社2050年への戦略 地域特性を生かしたCN対策

 【岸田裕之・静岡ガス】地域特性に合った脱炭素・低炭素化 エネルギーと経済が循環する仕組み

 【松藤研介・広島ガス】天然ガスシフトと再エネ開発を両立 グループ一丸でCN実現に挑む

 

【レポート】北海道ならではの低炭素化策 森林・畜産資源を有効活用

  【北海道ガス】南富良野町と連携協定締結 森林取得で低炭素化を目指す

  【エア・ウォーター】家畜の糞尿がLNG代替に 液化バイオメタン実証を開始

 

【レポート】動き出した関東エリアの事業者 大手に続く地方ガス「脱炭素」への挑戦

【トピックス/西部ガス】ガス事業からCNに取り組む 響灘エネルギー拠点の青写真

【トピックス/三菱化工機】CO2回収設備のニーズ急増 自治体連携で脱炭素時の地産地消を支える

【トピックス/理研計器】脱炭素化関連の技術開発を加速 鍵握る複合センサーシステム

 

 

【特集2】高まる需要家のニーズに対応 将来の脱炭素時代に備える


【丸の内熱供給】

熱需要のカーボンニュートラル(CN)化に向けて、製造業、小売業など需要家の間でCN―LNGを基にしたCN都市ガスの活用が進み始めている。東京・丸の内で地冷プラントを運用する丸の内熱供給は導入をスタートした事業者の一つだ。

これまでも、同社はプラントの低炭素化に向けて、高効率機器の導入や導管連携による効率的な運転など環境対策に積極的に取り組んできた。

同社取締役の岡本敏常務は、CN都市ガス導入の経緯について「当社では『Beyond DHC! 脱炭素社会へリードする新しい丸熱へ』をキーワードとした中長期ビジョンの中で強靭化、省エネルギー、環境価値、エリアへの貢献、共創の五つの提供価値を目指している。石油やLPガスと比べてクリーンとはいえCO2を排出する都市ガスを使ったエネルギー事業者として、脱炭素社会構築に貢献するために導入を決断した」と説明する。

利用開始は2020年3月。丸の内ビルで同社が管理・運用する固体酸化物形燃料電池を利用した複合発電システムと、大手町パークビルの地冷プラント内にあるガスエンジン・コージェネレーションシステムで利用している。

21年3月には東京ガスを中心とした14社とともに、供給者・需要家が一丸となってCN―LNGの普及拡大とその利用価値向上を目指す「カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンス」を結成するなど、さまざまな取り組みにも参加している。しかしながら、まだまだCN都市ガス認知度は途上にある。

同社開発営業部の田中良治部長は「当社では自社の環境面での取り組みをまとめたレポートを作成している。20年のレポートにはCN都市ガス導入をトピックとして掲載したのでお客さまに紹介して回ったが、認知向上への活動がまだまだ必要と感じた」と話した。

だが昨年9月に菅義偉前首相が50年CNを宣言したことで潮目は変わり始めた。今後、海外との取引が多い企業からの関心は高まっていく可能性があるという。

熱供給プラントで活用している

熱の脱炭素化の可能性 オフィス・ホテルで導入も

背景にあるのが、大企業を中心に進んでいる「RE100」などの環境に配慮した経営を目指す世界的な取り組みだ。

岡本常務は「お客さまの中には、(ホテルなどの)施設で使用する熱のカーボンフリーについて海外から問い合わせもあると聞く。国際的に活躍するビジネスパーソンが出張などで宿泊するホテルにもCN化が求められる時代が到来するのではないかと考えている。

そうなれば再エネ電力と同様の話が熱需要に広がる可能性がある。当社はレジリエンスの観点から電気だけではなくガスも重要と考えており、今後もお客さまの期待に応えることを第一に時代の変化に対応することを目指す」と話す。

リモート会議やテレワークの普及で出張や会食が激減しているとはいえ、対面での国際会議や大規模展示会がなくなることはない。これからも事業を継続し、既存設備を最大限活用しながら脱炭素化に向けた経営をすることを考えれば、オフィスやホテルでもCN都市ガスを使った熱供給の脱炭素化は、SDGs(持続可能な開発目標)や環境経営を目指す上で重要になる。

そのためには、CN都市ガスの立ち位置が温対法などの環境法制で確立される必要もあると岡本常務は話している。「今後、CN都市ガスが脱炭素に資する制度として認められれば、熱のCN化に向けた取り組みはますます加速する。

国際的な公約でもあるCN実現に向けて官民一体となって取り組んでいきたい」 国内外でサプライチェーンの脱炭素化がより厳密に求められるようになれば、周辺の産業でも電気と熱のCNを推進する事業者は増加する。CN都市ガスの導入は事業者・需要家双方にとって価値あるものとなっていく。

丸の内熱供給・岡本敏常務

【特集2】脱炭素時代へ本格始動 業界一丸となり難題に挑む


カーボンニュートラルという世界的な大波が、都市ガス業界に押し寄せている。
従来の天然ガス高度化と、新技術や新商材を組み合わせて脱炭素に挑戦する。

「50年までにCO2を80%削減」「今世紀後半のできるだけ早期にネットゼロ」としていた政府目標が「50年カーボンニュートラル(CN)実現」「30年温室効果ガス削減46%減」になり、都市ガス業界の置かれる状況は一変した。移行期の対応、脱炭素化に資する各種技術の実用化が急務だ。

目標設定に科学的な根拠があるのか、経済的な負担が大きすぎるのではないか、中小企業はどうすればいいのか―。エネルギー業界で喧々諤々の議論がなされる中、日本ガス協会は昨年11月24日、他の業種に先駆けて「カーボンニュートラルチャレンジ2050」を公表。50年CNに向けた業界全体のロードマップを示している。

ビジョンではトランジッション(移行)期の取り組みについて、石油や石炭からの燃料転換、コージェネレーションや燃料電池の普及拡大、機器の効率化―など、需要側の取り組みによる徹底した天然ガスシフトと天然ガスの高度利用を進めると掲げ、省エネ・省CO2に貢献するガスシステムのさらなる利活用を推進する。

供給側でも、最終的なガス自体の脱炭素化に向けて、水素の利用や、水素とCO2を合成して都市ガスの主成分であるメタンを生成する「メタネーション」技術の開発に注力する。さらにCCUS(CO2の分離回収・利用・貯留)や、高効率機器を海外に展開することで世界のCO2排出減に貢献する、製造・利用過程で発生するCO2をオフセットしたCNLNG(CNL)の活用で、ガス全体の脱炭素化に挑戦する方針だ。

日本ガス協会が描く都市ガス供給の未来

【特集1まとめ】岸田新政権の審判 総裁選・組閣・衆院選を独自検証


10月4日、先の総裁選、首班指名を経て岸田文雄政権が発足した。
8日の所信表明後、14日に衆議院を解散し超短期間の選挙戦に突入した。
31日投開票のため本号発売(11月1日)時点では結果が出ているが、
脱炭素化、原発再稼働、再生可能エネルギー開発、資源価格高騰など、
エネルギー・環境政策を巡っては重要な課題が目白押しの状態だ。
有権者の審判を経た新政権は、どのような手腕を発揮するのか。
総裁選から組閣、衆院選までを独自取材に基づき徹底検証する。

掲載ページはこちら

【レポート】エネルギー政策通がそろった岸田政権 原子力の長期低迷を打破できるか

【レポート】エネルギー有識者3人が直言 新政権への期待と注文

【レポート】激戦で問われた原発・再エネ 業界注目選挙区の現地事情

【特集2】ベトナムでLPガス事業に出資 現地に適応した事業展開を目指す


【レモンガス】

レモンガスは同社初となる海外でのLPガス事業を開始した。現地に合う事業展開を進めるべく、着々と準備を進めている。

レモンガスは4月30日、ベトナムのLPガス事業者・中部ペトロ生産投資(PMG)の株式を24.8%取得したと発表した。PMGには戦略的パートナーとしてレモンガス佐藤良一常務が取締役副社長として赴任する。LPガス分野で海外事業に出資するのは同社初の試みだ。

PMGは2007年に創業し、17年にはホーチミン市証券取引所(HOSE)に上場した新興企業。ベトナム中部の内陸部に広がる中部高原地域を中心に燃料の輸入、貯蔵、充填、卸、小売り、ボンベ製造など上流から下流に至る全工程を手掛けている。

ベトナムの人口は約9762万人(20年時点)で、人口も増加傾向にある。政治も比較的安定しており、国内各地に工業団地を設けて海外企業を誘致するなど、政府を挙げて産業振興を推し進めている。

一方、地方では多くの家庭で薪が使われている。LPガスは運搬が容易かつ高カロリー、燃料の中でも環境に比較的優しい熱源で、今後、LPガスへの燃転需要は増加していくと見込まれている。

とはいえ、ベトナムのLPガス需要について佐藤常務は「日本とはエネルギーの使い方は大きく異なる」と話す。風呂文化のある日本と異なりベトナムのエネルギー需要は少ない。そのため給湯器も電気式の温水器、調理もニクロム線の電気コンロが一般的に用いられており、ベトナムでも電化がLPガスのライバルになるそうだ。

日本でのノウハウを還元 海外事業が成長の鍵に

日本とベトナムは文化・風習は異なるが、LPガスが普及していく過程で日本のガス業界で起きた企業間の競争が発生する可能性は高い。そのとき、日本の技術やサービスが参考になるかもしれないと、レモンガスは考えている。

「LPガスの普及が進めば顧客へのサービス・サポート分野での競争も起きることが予想される。他社との差別化を図るためにもセット販売、安心・安全向けのサービスは有効かもしれない。日本でのノウハウがそのまま使えるわけではないが、ベトナムの風習、法律、市場を踏まえて、日本での経験を還元していきたい」(佐藤常務)。

現地に適応した形で事業展開を行う構えだ。 需要拡大が見込める地域での事業は、企業成長の新たなトリガーになるかもしれない。

PMGが保有する設備

【特集2】暮らしを支える各種サービス 顧客満足度を高めて収益力強化


【サイサン】

サイサンは事業者と提携して代行サービスを開始した。需要家の生活を支える新サービスで、収益力強化を図る。

サイサンは、需要家の暮らしを支えるサービスとして家事代行・ハウスクリーニングを2020年9月から提供している。

自社と契約している需要家が対象のサービスで、キッチンやバスタブ・空調機器清掃などのハウスクリーニングを行える。清掃業務は同社と提携する家事代行会社「ベアーズ」に登録されている掃除のプロが担当しており、現在は一都三県および愛知県を中心としてサービスを提供している。

新サービスについて、同社経営企画室の松井忠室長は「高齢化社会や共働き世帯の増加で、家事になかなか手が回らない家庭が増えている。ゆとりのある生活を送ってもらいたいとの思いから、新サービスを計画した」と説明する。

海外では家事代行やハウスクリーニング、ベビーシッターなど代行サービスは一般的に利用されている。しかし日本では自宅に他人を招き入れて掃除をしてもらうことへの抵抗感が根強いことから、家事代行業界も、自社サービスの普及に頭を悩ませているという。

その点で、業務部営業企画課の神田啓介課長は「LPガスや電気の契約でお客さまとの接点も多く、当社に対する信頼感もあるので、こうしたサービスを広めやすい」と語るなど、LPガス事業者は日頃から多くの需要家と接点があるため、アドバンテージがあるという。

実際、21年6月には夏場のエアコン需要に合わせて清掃サービスを期間限定で実施したところ、数百件の申し込みがあった。この数字はベアーズと代理店契約を結ぶ各種事業者が受注した件数のうち、約3割を占めるそうだ。

10月からは年末の大掃除シーズンに向けたキャンペーンを予定している。またスポットではなく定期的に需要家宅を訪れる家事代行サービスもラインアップしており、今後は認知度向上に向けた各種施策を行いながら、定期サービスの契約者数を増やしていきたい考えだ。

生活のトラブルを解決 駆けつけサービスも提供

ホームクリーニングに加え、同社は需要家の生活を支えるサービスとして「サイサン駆けつけサービス」も提供している。

これは洗面台やトイレなど水回りの故障やガラスの破損、鍵の紛失など生活トラブルが発生した際に、24時間応対の専用の窓口に連絡することで修理業者が駆けつけて対象物を修理する月額課金型のサービス。

ほかにもさまざまなテーマパークやホテル、スポーツジムなどの料金が割引となる会員優待サービスも提供しており、クリーニングサービスと駆けつけサービスがセットになった料金プランも用意している。

暮らしに役立つ各種サービスで需要家の満足度を高めながら、収益力強化を図っていく方針だ。

ハウスクリーニングを掃除のプロが代行してくれる