【特集2まとめ】電力ガス強靭化の「佳境」 全国で加速するインフラ整備


電力・都市ガスの大型インフラが全国各地で完成時期を迎えている。
電力では、東日本大震災以降のレジリエンスの向上や、
再エネ大量導入時代を見据えた系統インフラの能力増強が進展。
都市ガスでは、東京ガスの日立LNG基地やパイプライン網の完成など、
天然ガスの供給力を強化するインフラ整備が各地で進んでいる。
盤石な安定供給網へ―。最新の取り組みを追う。

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【プロローグ】全国で進むネットワーク強靭化 実現の陰にある知恵と工夫

【レポート/東京電力・中部電力】日本の電力支える直流幹線 東西間の融通能力が向上

【コラム/東京電力パワーグリッド】再エネ電気を有効活用 新時代の系統運用が可能に

【インタビュー/洞浩幸・中部電力パワーグリッド】エリアを越える電力融通のために 皆の強い使命感で計画を達成

【レポート/九州電力送配電】災害対策・省力化に注力 九州一円を守る日向幹線整備

【コラム/九州電力】建設から点検まで大活躍 電力で活用が進むドローン

【インタビュー/大山力電力広域的運営推進機関】安定供給に資する制度設計 長期的視点で電力システム構築

【寄稿/金田武司・ユニバーサルエネルギー研究所】自由化時代のエネルギーインフラ考 日米電力危機に学ぶ安定供給対策

【レポート/東京ガス】ガスネットワークの集大成 着実に歩んだ究極への道

【レポート/大阪ガス】「尼崎・久御山ライン」を新設 関西圏の供給安定性を強化

【レポート/西部ガス】難工事を乗り越えた九北幹線 福岡の暮らしを支える導管網

【トピックス/日鉄パイプライン&エンジニアリング】パイプライン敷設工事を効率化 検査時間を従来から半減

【トピックス/理研計器】ガス検知器が高性能かつ多機能へ スマート保安でニーズ有り

【特集1まとめ】再エネ規制緩和の落とし穴 翻弄される地域の現場事情


菅政権が錦の御旗に掲げる「再生可能エネルギー最優先」政策の下、
関連規制の総点検、地球温暖化対策推進法の改正が予定される。
しかし各地では、悪質事業による問題が絶えない太陽光や、
今後の主軸と期待される風力を巡るさまざまなトラブルが発生。
地域と共生し社会に受容される形での「再エネ主力化」はかなうのか。
正念場を迎える再エネ政策と、翻弄される地域の実情に迫った。

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【アウトライン】再エネを取り巻く立地制約にメス 省庁横断・急ピッチで進む制度改正

【レポート】太陽光に地域住民の根深い不信 主力化担う風力で二の舞い防げるか

【座談会】拙速な規制緩和の決断に待った! 「再エネ優先」リスクを徹底討論

【特集2】電力センサーで電気使用量を可視化 IoT機器の遠隔操作も可能


【エナジーゲートウェイ】

家電の利用状況を可視化できる(写真はeconowa)

 東京電力グループのエナジーゲートウェイは、分電盤に電力センサーを設置することで宅内にある家電の稼働状況を可視化するサービス「ienowa」を提供している。

 ユーザーは各家電の電気使用量がアプリ上で確認できるほか、市販されているスマートロック、スマートリモコンなど他社製のIoT機器と連携し、アプリ上で操作する機能も搭載する。

 事業者向けには「hitonowa」というサービスを提供しており、主にハウスメーカーでの採用が多い。同サービスにはienowaユーザーへのメッセージ機能や、ユーザーの電力使用状況など各種データを収集。ハウスメーカーでは家を建てた後に購入者との接点が少ないという課題を抱えていたが、この機能により本システムで得たデータを基に提案を持ち掛けられるなど、顧客との接点を増やせるマーケティングツールとしても活用できる。

 また、蓄電池や家庭用太陽光発電(PV)を保有するユーザー向けに「econowa」を3月31日に発表。アプリ上でPVや蓄電池、家電の電気使用量を可視化し、エコーネットライト規格にも対応している。荏原実業パワーが販売する蓄電池システムの見える化システムとしても採用されている。さらにhitonowaとの連携も可能。

エナジーゲートウェイの林博之社長は「今後はPVの自家消費分を環境価値として計測するサービスも提供する予定です」と展望を語る。  電力データを核に、脱炭素時代の新規ビジネスにも挑戦する構えだ。

林博之社長

【特集2まとめ】デジタルデータ革命 ソリューションビジネスの最前線


エネルギーデータを使った新ビジネスが脚光を浴びている。
小売り部門では、各家庭に設置されたスマートメーターや、
独自機器を設置することでさまざまなデータを収集。
ユーザーインターフェースを工夫して見える化したり、
ほかのサービスと連携を図ったりすることで、
新たなサービスやソリューションを生み出している。
データ活用ビジネスの最前線に迫った。

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【プロローグ】スマメが切り開く新ビジネス エネデータ活用に多様な可能性

【トピック/TGオクトパスエナジー】日本の電力販売に革新をもたらす黒船 多彩なプランと顧客満足度で勝負

【座談会】スマメ全件導入で進む変革への期待 電力データをスマートに生かす

【インタビュー/山中悠揮・資源エネルギー庁】レジリエンス向上や再エネ拡大 次世代仕様に期待すること

【インタビュー/河本薫・滋賀大学】データサイエンティストからの指南 CO2削減に向けた利活用

【レポート】注目のソリューション最新事例 画期的なサービス構築や効率化を紹介

 【SBパワー】顧客心理をくすぐる新サービス 九州電力とDRで共創

 【ニチガス】「夢の絆」オープンで他業界から注目 ニチガスが取り組むDXのすゝめ

 【日本ユニシス】データ活用で見える化から制御へ 再エネの自家消費を最大化

 【パーパス】業界をつなぐプラットフォーム 新しい価値を生み出しDXを実現

 【エナジーゲートウェイ】電力センサーで電気使用量を可視化 IoT機器の遠隔操作も可能

 【Nature】小型端末で家電操作と見える化実現 電力料金を抑える小売りも開始

【トピック/SAS Institute Japan】国内外の大手エネ事業者が採用 幅広い課題に応えるアナリティクス

【特集2】「夢の絆」オープンで他業界から注目 ニチガスが取り組むDXのすゝめ


【ニチガス】

デジタル技術の粋が詰まった「夢の絆・川崎」をオープンさせるなど、「データ×エネルギー」の分野でひときわ異彩を放つニチガス。 同社のDX戦略はエネルギー業界を変革させる可能性を秘めている。

3月16日にオープンした「夢の絆・川崎」

3月16日にオープンした「夢の絆・川崎」を筆頭に、IoT機器「スペース蛍」、自社運用クラウドサービス「雲の宇宙船」など、ニチガスはLPガス業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)化を強力に推進している。夢の絆では容器の仕分け、ガス充填、配送車への積み込み指示、車両の管理―をはじめとしたLPガス充填所で行う一連の業務全てについて、無人かつ自動化を図っている。

配送車やLPガスボンベは全てバーコードによるタグ付けがされており、基地内の各所に設置された赤外線カメラでバーコードを読み取り、その残量に合わせてボンベが自動的に仕分けされる。さらに、配送車にどのボンベを何本積むのか、関東を中心とした各地に立地するデポステーションに何本降ろすのか、デポステーションから各需要家への配送ルート案内など、配送員への指示も全てアプリ上で完結する。設備のDX化を徹底的に図ることで業務効率化を成し遂げているのが、ニチガス最大の特徴だ。

鍵握る10TBのビッグデータ 新技術を織り込み設備設計

3月中旬の夢の絆の運用開始から2カ月弱が経過したが、本基地をはじめとする同社システム設計を手掛けた情報通信技術部の松田祐毅部長は「設備面ではひと段落したところですが、システムや設備が完成したら終わりではありません。きちんと運用し、当初期待していた通りの成果を得ることが本当に重要なことなので、まだまだこれからです」と、今後の運用に気を引き締めている。

配送業務のDX化の鍵を握るのが、各所から集められた多様なデータだ。同社は需要家宅のLPガスボンベに設置する「スペース蛍」で、ボンベ残量、需要家のガス使用量をセンシングしており、収集したデータは「雲の宇宙船」へと転送される。これらビッグデータは、夢の絆や、各デポステーションや従業員向けのアプリで有効活用されている。

スペース蛍(右下)

【特集2】小型端末で家電操作と見える化実現 電力料金を抑える小売りも開始


【Nature】

アプリ上で電気の使用状況を可視化可能だ

スマホから家電の操作が可能となる、スマートリモコン「Nature Remo」を販売するNature社。同社は端末をコンセントに差すだけで、手軽に電気の使用状況を可視化する「Nature Remo E」を販売している。

Nature Remo Eはエコーネットライト規格に対応。同規格に対応した住宅用太陽光パネル(PV)や蓄電池、スマートメーターと連携することで、電力の使用量やPVの稼働状況、蓄電池の残量などをアプリ上で閲覧することができる。またスマートリモコンと合わせることで、宅外からでも電気を効率的に利用できるのが大きな特徴だ。

さらに同社は今年3月1日から電力小売り事業にも進出しており、Nature Remoと連携したサービスも5月から提供開始する。内容は自社の市場連動型料金プランを契約しているユーザーに向けて、電力料金単価の上下に応じて家電の設定を適切にコントロールすることで、電力料金を抑えるというもの。

今後は固定料金プランのユーザー向けにデマンドレスポンス(DR)を用いたサービスの提供も検討しているという。

塩出晴海社長は「PV、蓄電池、電気自動車(EV)が普及し始めるなど、電力業界で起きるパラダイムシフトは止まらない。自家発電とエネルギーマネジメントによる電力供給が一戸建てでベースになる。われわれのソリューションを提供していきたい」と意欲を示す。

テックベンチャーが電力業界に新たな風を起こしそうだ。

塩出晴海社長

【特集2】レジリエンス向上や再エネ拡大 次世代スマートメーターへの期待


2024年度末の完了に向けて、全国で設置が進むスマートメーター。これと切り替わるように今後は次世代メーターの設置が始まる。現在、その仕様が国で議論されているが、今後の動向を聞いた。

インタビュー:山中悠揮/資源エネルギー庁電力・ガス事業部政策課 電力産業・市場室 室長補佐(企画・市場制度担当)

やまなか・ゆうき 2011年経済産業省入省。経済産業政策局、復興庁、産業保安グループ・保安課・高圧ガス保安室室長補佐などを経て19年から現職。

――現在、大手電力各社はスマートメーターへの更新を進めています。取り組みをどう評価しますか。

山中 スマートメーターは2014年から本格導入が開始され、日本全体では24年度末の導入完了に向けて、順調に導入が進んでいると理解しています。アナログメーターがスマートメーターに置き換わることで検針業務の合理化が図られるだけではなく、近年の激甚化する災害の中で、電柱から各家庭への引込み線などで発生する隠れ停電の検知や、メーターのデータを基にした見守りサービスの提供も行えます。

――政府は「次世代スマートメーター制度検討会」が行われています。どのような内容ですか。

山中 電力メーターは送配電事業者が設置していますが、その検針値は小売電気事業者や発電事業者に提供されています。次世代スマートメーターは24年度から順次導入を進める予定ですが、送配電事業者や小売電気事業者などによる活用に限らず、将来の電力事業に関わる事業者のデジタルトランスフォーメーションを推進する観点から議論が行われました。

停電復旧の効率化に期待

脱炭素社会にも貢献

――次世代スマートメーターに期待することは何がありますか。

山中 次世代スマートメーターでは取得データを増やすとともにデータ活用を進めようとしています。

 例えば、電力メーターを設置した需要家が停電した際に送配電事業者に警報を送るLastGasp機能が追加されます。これにより、送配電事業者は需要家ごとの停電状況を即座に把握でき、停電からの復旧の効率化が可能となります。

 次に、電力量や電圧の5分値の情報を送配電網の運用などに活用できるようになり、送電時の電力ロスの削減や、CO2削減、更には高度な運用管理による再エネの接続可能量の増加が期待できます。地域の再エネを使ったマイクログリッドなどの新ビジネスへの活用も考えられます。

 加えて、海外のスマートメーターとの比較検討も行いました。計量値の小売電気事業者への通知時間は、欧州でも北欧の一部の国を除けば、数時間に一度の通知が多い中、日本では60分以内に小売電気事業者などへ届けることとしています。計測粒度は需給調整市場などの取引単位の見直しに備え、30分単位を15分単位にソフトスイッチで見直せる仕様としました。また1分値をHEMSなどを介してリアルタイムで取得する際の欠損の改善も議論されました。

――今後の論点にはどのようなものがありますか。

山中 検討結果を踏まえ、各送配電事業者がコスト低減や仕様統一化、柔軟なアップグレードを可能とする仕様などを検討し、国としてもフォローアップする予定です。今後、EVや再エネの導入が一層進みます。充電器やパワーコンディショナーの計量機能を取引又は証明に使用できる「特定計量制度」が22年度にスタートする予定です。特定計量制度に基づく計量器の計量値をスマートメーターシステムに取り込む具体的な方法についても、引き続き検討していくこととされています。 さらに、低圧だけではなく、発電向け、高圧、特高向けメーターの機能の検討も行う予定です。カーボンニュートラル実現には、より発電や高圧需要家のメーターデータの活用が重要となります。電力事業のデジタルトランスフォーメーションへの貢献に向け引き続き議論を継続していきます。

【特集2】顧客心理をくすぐる新サービス 九州電力とDRで共創


【SBパワー】

ソフトバンク子会社のSBパワーと九州電力が共同で、アプリを通じて上げ・下げDRを行う実証事業を実施している。ユーザーが自発的にDRに協力する共同実証は日本初の事例だ。

SBパワーは、スマートメーターの30分値、気象情報、世帯情報を活用し、需要予測や電力使用量の分類、電力使用パターンが類似している世帯のグルーピングなど、リアルタイムで電力ビッグデータを分析するプラットフォームの構築を進めている。

そうした中、同社はこのプラットフォームで得る情報を基に、事業者向けにはマーケティングツールを提供するほか、電力小売りプラン「おうちでんき」などを契約する一部ユーザーを対象に、スマートフォンアプリを介してデマンドレスポンス(DR)を行う実証を2020年7月から9月(夏期実証)、12月から今年2月(冬期実証)の2回にわたり実施した。

上げ下げDR実証を開始 顧客との交流機会も創出

実証では、SBパワーがアプリ上でユーザーに対して「〇月〇日の〇時から〇時にかけて節電(下げDR)をお願いします」とDR指令を発出する。ユーザーはその指令に応じてテレビをオフにする、不要な照明を消す、空調の温度を調整する――など指定時間の電力消費量を減らすことでDRに参加。

指令をクリアすると節電量に応じたポイントが獲得でき、得られたポイントはキャッシュレス決済サービス「PayPay」のPayPayボーナスと交換できる。

同社エナジー事業推進本部の須永康弘・事業開発部長は「夏期実証では約4000世帯、冬期実証では約3万世帯が実証に参加しました。その結果、両実証期間中の電力削減量は1世帯当たり平均65W時(30分値)減少しました。これは平均的な電力使用量の19%に相当することから、専用アプリを通じた節電の呼びかけは有効だと考えます」と説明する。

ゲーム感覚で省エネおよび電力系統の安定化にも貢献できるのが大きな特徴だ。須永氏は「今回のようにスマホアプリの特長を生かした行動誘発型の電力サービスは今までにありません。お手元のスマホに節電協力の通知が届くとワンタッチで参加でき、あとは翌日に結果を受け取るだけのシンプルな設計がユーザーから高い評価をいただいています」と胸を張る。

今年2月からは、九州電力と共同で下げDRに加えて「上げDR」の実証実験も行っている。九州電力エネルギーサービス事業統括本部の安藤修章・営業企画部長が言う。

「九州では太陽光発電(PV)の導入拡大に伴い、春秋を中心とした軽負荷帯における再エネ電源の出力抑制の発生が増えており、再エネ電源をさらに有効活用するためにできることはないかという問題意識を以前から持っていました。また、出力抑制が発生する際は、電力卸市場価格がkW時当たり0・01円となることから、電力卸市場の価格動向を踏まえて電力需給を最適化し、供給コストの低減を図っていかなければならないという課題もありました」

電力価格が0.01円をつけることで再エネを含めた新規電源を整備するインセンティブが薄くなり、投資意欲が減退させられる問題もある。さらにDRによって電力が余る時間帯に需要を創出させることで、PVの出力制御を回避することにもつながるなど、既存の電源を有効活用するためにも上げDRは効果的だという。

実証への参加世帯は1万件に向かって順調に推移しており、それぞれ電気自動車(EV)や電気給湯機のエコキュートなどDRポテンシャルの高いリソースを保有している需要家と、そうでない需要家に分類。九州電力が提供する「九電ecoアプリ」からユーザーに対して「〇月〇日の〇時から〇時に上げDRをお願いします」と指令を発出。

ユーザーは指定の時間帯に洗濯機を動かす、エコキュートで給湯する―など家電の稼働時間をずらして上げDRに協力し、指令をクリアするとポイントを獲得。集めたポイントはPayPayボーナスと交換できる。

アプリからDRに参加できる

【特集2】国内外の大手エネ事業者が採用 幅広い課題に応えるアナリティクス


【SAS Institute Japan】

経営環境の変化の波にさらされているエネルギー会社。営業戦略から需要予測、設備保全、人材育成に至るまで、データ活用でDXを幅広く支援するのが、SAS最大の特徴だ。

幅広い分野でサービスを提供するのがSASの大きな特長だ

 国内外の製造、金融、医薬品、通信、教育などさまざまな大手事業者向けにアナリティクス・ソフトウェアを導入しているSAS Institute。同社はソフトウェアの販売や社内のデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けたプランニング、デジタル人材の育成支援など、AIおよびアナリティクスに必要な一連の要素を一気通貫で提供している。

 最大の強みとしては、豊富なシステムのラインアップと、優秀なアナリストによる分析支援が挙げられる。エネルギー分野においても、需要家分析を踏まえた販売戦略の立案、管内の需要予測、自社設備の稼働管理、分析人材の育成――など、活躍の幅は多岐にわたる。

電力会社のDX化を支援 幅広い用途に強み

 海外エネルギー企業での導入事例も多いが、日本では大手電力を中心に採用されている。

 東京電力パワーグリッドでは、データ活用を推進すべく社内を横断した組織「データ戦略・高度化G」を設置した。設立に向けて社内の全部門と意思疎通を図りながらさまざまなデータ分析およびソリューションの提案を実施。データ活用による価値を創造する意義を推進したほか、データサイエンティストの育成にも取り組んだ。

 関西電力技術研究所とは、激甚化する災害に対するレジリエンス(強靭化)対策で連携。これまで配電設備への飛来物による二次被害をどう予測するかが課題だったが、空中写真や宅地情報などを利用した新たな学習モデルを構築した。これにより、カバーしきれていなかった宅地などで飛来物による電柱倒壊被害の予測モデルの共同研究を行った。

 同社ソリューション統括本部の小野恭平氏は、SASの強みについて「データ分析は継続的な取り組みです。自社人材で分析と課題解決のサイクルを高速に回す仕組み・体制づくりをトータルでご支援できるという点は、当社にしかできない強みです」と説明する。

 再生可能エネルギーの大量導入、小売り全面自由化など、国内のエネルギー業界は大きな環境変化に直面している。小野氏も昨今のエネルギー業界について「構造改革の社会的要請に対応するには、デジタル技術によるビジネス変革の取り組みが重要です」と語る。

 自由化による荒波を乗り越えるためにも、SASのシステムは経営の羅針盤になりそうだ。

【特集1まとめ】原発 放置国家 「責任」不在の悲劇


東日本大震災から10年を迎えた2021年。
原子力発電所の再稼働に関連する問題が相次いで浮上した。
水戸地裁から避難計画の不備を追及された日本原子力発電東海第二。
不正入室や核防護で不祥事が続発した東京電力柏崎刈羽。
福井県議会が40年延長運転の判断で紛糾した関西電力3原発。
2050年脱炭素化が国家的課題に位置付けられたにもかかわらず、
鍵を握る原発稼働は相も変わらず一進一退の状況を続けている。
わが国が本来取り組むべきは環境変化を踏まえた原子力政策の再構築だ。
そこを放置し続ける限り、本格稼働への国民合意を得ることは難しい。
「責任」不在がもたらす「なし崩し的脱原発」―。
「法治国家」ならぬ「放置国家」の悲劇を浮き彫りにする。

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【アウトライン】国家戦略なき原子力の漂流 問われる政権の信念と覚悟

【座談会】このまま朽ち果ててしまうのか! 原子力政策の再構築巡り激論

【レポート】三者三様の問題事例を検証 原発再稼働を阻む大壁

【大阪ガス藤原社長】新中期計画がスタート ミライ価値の共創により、社会課題の解決に挑戦


脱炭素化の世界的潮流が加速する中、大阪ガスの社長に就任した。化学系関係会社での社長経験などを生かし、多彩な事業領域を持つ企業グループとして、新たな企業価値の創造に力を傾注する。

1982年京都大学工学部卒、大阪ガス入社。大阪ガスケミカル社長、常務執行役員、副社長執行役員などを経て2021年1月から現職。

井関 まずは社長就任に当たっての抱負をお聞かせください。

藤原 社長就任後の3月10日に発表した中期経営計画「Creating Value for a Sustainable Future」の初年度がいよいよスタートし、身の引き締まる思いです。厳しい事業環境において大変な重責ですが、自らがフットワーク良く動いて率先励行し、さまざまな経営課題に全身全霊で取り組んでいきます。

 2017年の「長期経営ビジョン2030」で示した「枠を超える活動」をさらに加速させ、お客さまから時代を超えて選ばれ続ける革新的なエネルギー&サービスカンパニーの実現に向けて、Daigasグループ全体で「不断の進化」を目指します。

 新中期経営計画を実現するに当たっては、当社のコア・コンピタンスとそれによって生み出す提供価値をグループ全体で明確にし、最大化させます。また、脱炭素化やデジタル化などの潮流を俊敏に捉え、Newノーマルな時代に適合すべく、抜本的な業務改革にも取り組む所存です。

井関 大阪ガス入社以来、これまで最も印象深かった出来事は何でしょうか。

藤原 入社以来、さまざまな経験をさせていただきましたが、大阪ガスケミカル社長時代には、自社よりも規模の大きいスウェーデンの「Jacobi Carbons AB社」のクロスボーダーM&Aを実現し、ヤシ殻活性炭で世界トップ企業に躍り出ました。さらに、活性炭と同様の機能を有する、無機系吸着分離材料を製造する水澤化学のM&Aを実施した結果、吸着分離材料を中心とした材料ソリューション事業を成長させる礎を構築することができました。これらの経験は、今後の社長業に生かせると考えています。

井関 中期経営計画のポイントを教えてください。

藤原 今回の中期計画には、「Creating Value for a Sustainable Future」というタイトルを付けました。未来において解決したい社会課題として、「低・脱炭素社会の実現」「Newノーマルに対応した暮らしとビジネスの実現」「お客さまと社会のレジリエンス向上」―の三つを「ミライ価値」と定め、私たちのソリューション・イノベーションにおける強みと、ステークホルダーの強みを組み合わせることで課題解決の実現を目指し、その成果を分かち合っていきたいという想いを込めました。

 この三つのミライ価値の最大化に向け、国内エネルギー事業、海外エネルギー事業、ライフ&ビジネスソリューション事業のそれぞれの事業領域において取り組みを着実に推進し、ステークホルダーと共にミライ価値を創造し成長し続けるために強くステップを踏み出す期間としたいですね。

 また各事業ユニットの自律的な成長を促進するため、経営管理指標にROIC(投下資本利益率)を導入しました。これにより全体最適な資源配分を実現し、強靭な事業ポートフォリオを構築することで複数の事業の集合体として進化させていきます。23年度のROIC目標5%に向け、まず今年度には4・4%を目指します。

マイナス価格の衝撃から1年 識者が語る「秩序なき石油市場」


原油先物市場で記録的な大暴落が発生してから1年が経過し、価格は60ドル台にまで値を戻した。
中東情勢、コロナ禍、脱炭素など複雑な要因が絡み合う中で、石油価格はどうなるのか。識者を取材した。

2020年3月に発生した米WTI原油先物市場がマイナス価格をつけるという事件から約1年が経過し、3月16日時点のWTI価格は1バレル65ドルまで上昇した。60ドル超えは昨年1月以来の水準。V字回復を遂げた要因について、石油情報センターの橋爪吉博事務局長は「需給」「金融」で好条件がそろったことを挙げている。

そもそもマイナス価格は、産油国で構成される石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどOPEC非加盟国が参加する「OPECプラス」の間で分裂が生じたことに加え、新型コロナウイルスの大流行により都市封鎖や渡航制限で飛行機、車などの運輸需要が激減。大量の原油が市場に出回り、供給過剰になったことから発生した。

そのため、OPECプラスは内部対立を棚上げ。産油国間で生産量を調整する協調減産体制が復活する。20年5月から日量970万バレルの減産を実行し、その後も同770万バレル、同720万バレルと量を緩和させつつも減産を継続したことで需給状態が改善。また各地で都市封鎖が解除されワクチン開発も進んだことから、経済回復を期待して20年11月には40ドル台後半まで回復した形だ。

そこからさらに60ドル台まで上昇した要因が、金融だ。橋爪氏は「コロナ禍による世界的な金余りが影響」と説明する。「NYダウ工業平均も3万ドル台を突破するなど、金融市場に資金が流れ込んだことで、銅や金などほかの商品と同様に原油価格が上昇した」。世界的な金融緩和が、巡り巡って大きな影響を与えているのだ。

価格決定プロセスに変化 紛争慣れした市場関係者

金融面という外的要因で大幅な価格変動が起きるなど、現在の原油市場は大きな構造変化の波にさらされている。

油価上昇の要因として語られることの多い中東情勢の緊迫化もその一つだ。「テロなどの事件が発生した際、市場は供給能力に影響を及ぼすかを見ている。3月7日にもイエメンのフーシ派がサウジアラビアの石油積出港を攻撃した事件があったが、供給能力に影響のない範囲だと分かると原油価格はすぐに下落した。19年9月に発生したサウジ・アブカイクの原油処理施設に対する攻撃のときも、2週間で事件前の水準に戻ったように、長期の需給バランスに支障が出ない限り、価格上昇は長期的トレンドにはならない」(岩瀬昇・エネルギーアナリスト)。紛争慣れした市場は地政学リスクを見極めているというわけだ。

シェールオイル・ガスでも、同様に大きな変化が起きている。エネルギーアナリストの大場紀章氏は「シェールブームは多くの失敗例も生んだため、投資家もリスクがある投資を行わなくなっている。現在は確実に儲かる案件しかスタートしておらず、コロナ禍以前の原油価格水準に戻っても、新規開発は伸び悩んでいる」と指摘。これまで考えられてきた常識が通用しなくなりつつあるようだ。

【特集2】事故から10年の現場を取材 廃炉目指し着実に前進


2月中旬、震災から10年という節目を迎えた福島第一原子力発電所を取材した。
廃炉に向け着実に前進する部分は多いものの、それ以上に積み重なる課題は多い。

入退域施設からサイト内を眺めた風景。タンク群の奥に3・4号機建屋が見える

全線運転を再開した常磐線が運転を取りやめるほどの強風に見舞われた2月中旬。震災から10年を迎えた福島第一原子力発電所(1F)のプレスツアーが行われた。

取材は新型コロナウイルス対策のため参加者は5人以下に絞られ、マスク・消毒は当然のことながら、記者にも事前にPCR検査を義務付けるなど厳格なコロナ対策がとられていた。

集合場所の富岡駅から福島第一原子力発電所までは、バスで20分弱の行程。揺れる車中からふと窓外に目をやると、国道6号沿いに設けられた大型チェーン店が。震災当時そのままに打ち捨てられた状態で、目にする看板も2011年当時のまま。白く薄れた携帯電話会社の旧ロゴマークが、10年という月日を表していた。

国道は通行可能だが、許可証が無ければ進めないエリアも未だ多い

整備進む1F構内 汚染水対策で大きな進展

入退域管理施設で入構手続きを終え、ブリーフィングの後、1F視察が始まった。当日は①1~4号機建屋を見渡す高台、②海側設備、③2~4号機付近、④G1タンクエリア、⑤北側廃棄物関連施設造成地、⑥多核種除去設備等(ALPS)サンプル水の見学―という順路で構内を回った。

取材日は祝日だったが、多くの作業員が行き交っていた。「これでも少ない方ですよ」。東京電力担当者が言う。当日は2000人弱が作業していたが、通常は4000人程度の人が詰めているのだから驚きだ。

バスに乗り元開閉所建屋の脇を通ると、1~4号機を望む高台に到着。1号機では排気塔解体工事を終え、2号機、3号機では使用済み燃料棒の取り出し作業が進んでいる。政府策定の廃炉の中長期ロードマップでは、事故後10年以内に1~3号機いずれかで燃料デブリ取り出しを開始するのが目標。今年はその最終年を迎えている。

1号機建屋と切断した1・2号機排気塔

2号機建屋と3号機建屋

下から見た4号機建屋

海側エリアでは1~4号機で発生する汚染水が流出しないよう遮水壁工事が行われ、18年に完了。汚染水の発生量は凍土壁の構築で、目標に据えていた日量150㎥以下まで減少している。

また海側エリア全体では津波対策でかさ上げ工事や護岸工事が行われていたため、毎年取材している記者からも「この数年で特に印象が変わった」との声が聞こえた。

それだけ工事が進捗していることもあり、東電社員や現場作業員の中には震災直後の荒れ果てた構内を見たことがない人も少なくない。震災の教訓として、サイト内には震災時に被害があった設備の一部を残しているそうだ。津波で押し流された大型クレーンも当時のまま保存されている。

津波で押し流された大型クレーン

【特集2】被災者受け入れを支えた地冷サイト 設備更新で環境性能とBCPを強化


さいたま新都心地域冷暖房センター

さいたま新都心地域冷暖房センター

東日本大震災に伴い、原発が立地する双葉町の住民ら約2000名は3月19日、さいたまスーパーアリーナに一時避難した。

避難所になったさいたまスーパーアリーナに温水や暖房などに使う熱供給を継続していたのが、東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)が運用する「さいたま新都心地域冷暖房センター」だ。

さいたま地冷は、 同社が保有する地冷設備の中で、世界最大級の新宿に次ぐ大きなプラント。さいたま新都心地区は旧国鉄の操車場だったが、一帯の再開発が行われた折に地冷拠点も整備された。主な需要家はさいたまスーパーアリーナや合同庁舎、医療施設など13カ所(2021年4月時点)。各施設に熱供給を行っている。

震災当時、あらかじめ策定した計画に沿って電力供給をストップさせる「計画停電」が3月14日から実施された

その際、さいたま新都心地区の一部も計画停電の実施区域に指定され、さいたま地冷も各約4時間・計4回にわたり停電を経験したそうだ。そうした中、さいたま地冷は常用のガスタービンCGS(コージェネレーションシステム)を計画停電の前に系統から切り離した上で自立運転し、その電力でボイラーなどを運転。避難場所のさいたまスーパーアリーナへの熱供給を継続した。

 さいたま地冷の宮原忠人所長は、「震災当時、商用電源が停電しているので、『想定外のことが起こるかもしれない』ということを常に念頭に置きながら対応した、と当時の所員から聞いています」と話す。また未曾有の災害を経験したことが、後の設備更新時に反映されたという。

大型ガスエンジンの導入 発電出力は7000kW級

TGESは20年9月、開設から約20年を迎えるにあたって実施された、さいたま地冷のリニューアル工事を完了したと発表。7800kWの大型ガスエンジンに加え、4.1t時の排ガスボイラ、1250RTの電動ターボ冷凍機6式、390RTの排熱回収温水吸収式冷凍機1式を新たに導入。これにより年間約25%、およそ5600tのCO2削減を実現し、環境性能が大幅に向上した。

また今回のリプレースについて、宮原所長はこう説明する。「震災の経験を生かしており、計画停電を経験したことで設備のBCP機能を向上させることが一つテーマとなりました。大容量のCGSをブラックアウトスタートできるよう設備を改良したことで、冷温熱の需要ピーク時に災害が起きても通常通り供給できるよう設備を更新しました」

建屋の地下にはCGSや冷凍機の冷却に用いられる貯水槽が設置されており、火災などが起きた際には貯水槽の水を消火に利用することで消防局と提携を結んでいるという。 最大3万5000人を収容する全国でも屈指の規模を誇るさいたまスーパーアリーナは、コンサートホールとしての役割に加え、防災活動拠点として地域を守る側面もある。

今後来るかもしれない大型災害にも備えられるよう、TGESは設備を有効活用し地域と連携しながらエネルギーの安定供給を守っていく。

昨年更新したガスエンジン

【特集1まとめ】検証!電力危機 世界を覆う大停電リスクの実相


年初に電力の需給ひっ迫危機に見舞われた日本に続き、
2月には記録的な大寒波が到来した米国で大停電を伴う深刻な事態が発生した。
特に南部テキサス州では、州全体の27%に当たる約500万軒が停電。
氷点下という異常な寒さの中、凍死者まで出る大惨事に発展した。
エネルギーは人々の生命や生活を守るライフラインであり、安定供給は最優先事項だ。
今、その大前提が世界各地で揺らぎ始めている。
脱炭素化や自由化を進めながら、いかに安定供給と両立させるか―。
ほとんどの国・地域が、いまだその最適解にたどり着いていない。

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【レポート】大停電回避へあの手この手 極限の危機対応の最前線

【寄稿】今冬の電力危機はなぜ起きたのか 脱炭素と安定供給の両立策を提起