【特集2】暮らしを支える各種サービス 顧客満足度を高めて収益力強化


【サイサン】

サイサンは事業者と提携して代行サービスを開始した。需要家の生活を支える新サービスで、収益力強化を図る。

サイサンは、需要家の暮らしを支えるサービスとして家事代行・ハウスクリーニングを2020年9月から提供している。

自社と契約している需要家が対象のサービスで、キッチンやバスタブ・空調機器清掃などのハウスクリーニングを行える。清掃業務は同社と提携する家事代行会社「ベアーズ」に登録されている掃除のプロが担当しており、現在は一都三県および愛知県を中心としてサービスを提供している。

新サービスについて、同社経営企画室の松井忠室長は「高齢化社会や共働き世帯の増加で、家事になかなか手が回らない家庭が増えている。ゆとりのある生活を送ってもらいたいとの思いから、新サービスを計画した」と説明する。

海外では家事代行やハウスクリーニング、ベビーシッターなど代行サービスは一般的に利用されている。しかし日本では自宅に他人を招き入れて掃除をしてもらうことへの抵抗感が根強いことから、家事代行業界も、自社サービスの普及に頭を悩ませているという。

その点で、業務部営業企画課の神田啓介課長は「LPガスや電気の契約でお客さまとの接点も多く、当社に対する信頼感もあるので、こうしたサービスを広めやすい」と語るなど、LPガス事業者は日頃から多くの需要家と接点があるため、アドバンテージがあるという。

実際、21年6月には夏場のエアコン需要に合わせて清掃サービスを期間限定で実施したところ、数百件の申し込みがあった。この数字はベアーズと代理店契約を結ぶ各種事業者が受注した件数のうち、約3割を占めるそうだ。

10月からは年末の大掃除シーズンに向けたキャンペーンを予定している。またスポットではなく定期的に需要家宅を訪れる家事代行サービスもラインアップしており、今後は認知度向上に向けた各種施策を行いながら、定期サービスの契約者数を増やしていきたい考えだ。

生活のトラブルを解決 駆けつけサービスも提供

ホームクリーニングに加え、同社は需要家の生活を支えるサービスとして「サイサン駆けつけサービス」も提供している。

これは洗面台やトイレなど水回りの故障やガラスの破損、鍵の紛失など生活トラブルが発生した際に、24時間応対の専用の窓口に連絡することで修理業者が駆けつけて対象物を修理する月額課金型のサービス。

ほかにもさまざまなテーマパークやホテル、スポーツジムなどの料金が割引となる会員優待サービスも提供しており、クリーニングサービスと駆けつけサービスがセットになった料金プランも用意している。

暮らしに役立つ各種サービスで需要家の満足度を高めながら、収益力強化を図っていく方針だ。

ハウスクリーニングを掃除のプロが代行してくれる

【特集2】ベトナムでLPガス事業に出資 現地に適応した事業展開を目指す


【レモンガス】

レモンガスは同社初となる海外でのLPガス事業を開始した。現地に合う事業展開を進めるべく、着々と準備を進めている。

レモンガスは4月30日、ベトナムのLPガス事業者・中部ペトロ生産投資(PMG)の株式を24.8%取得したと発表した。PMGには戦略的パートナーとしてレモンガス佐藤良一常務が取締役副社長として赴任する。LPガス分野で海外事業に出資するのは同社初の試みだ。

PMGは2007年に創業し、17年にはホーチミン市証券取引所(HOSE)に上場した新興企業。ベトナム中部の内陸部に広がる中部高原地域を中心に燃料の輸入、貯蔵、充填、卸、小売り、ボンベ製造など上流から下流に至る全工程を手掛けている。

ベトナムの人口は約9762万人(20年時点)で、人口も増加傾向にある。政治も比較的安定しており、国内各地に工業団地を設けて海外企業を誘致するなど、政府を挙げて産業振興を推し進めている。

一方、地方では多くの家庭で薪が使われている。LPガスは運搬が容易かつ高カロリー、燃料の中でも環境に比較的優しい熱源で、今後、LPガスへの燃転需要は増加していくと見込まれている。

とはいえ、ベトナムのLPガス需要について佐藤常務は「日本とはエネルギーの使い方は大きく異なる」と話す。風呂文化のある日本と異なりベトナムのエネルギー需要は少ない。そのため給湯器も電気式の温水器、調理もニクロム線の電気コンロが一般的に用いられており、ベトナムでも電化がLPガスのライバルになるそうだ。

日本でのノウハウを還元 海外事業が成長の鍵に

日本とベトナムは文化・風習は異なるが、LPガスが普及していく過程で日本のガス業界で起きた企業間の競争が発生する可能性は高い。そのとき、日本の技術やサービスが参考になるかもしれないと、レモンガスは考えている。

「LPガスの普及が進めば顧客へのサービス・サポート分野での競争も起きることが予想される。他社との差別化を図るためにもセット販売、安心・安全向けのサービスは有効かもしれない。日本でのノウハウがそのまま使えるわけではないが、ベトナムの風習、法律、市場を踏まえて、日本での経験を還元していきたい」(佐藤常務)。

現地に適応した形で事業展開を行う構えだ。 需要拡大が見込める地域での事業は、企業成長の新たなトリガーになるかもしれない。

PMGが保有する設備

【特集1まとめ】電力値上げ時代 脱炭素・自由化が経済直撃


2016年に電力小売り事業が全面自由化されてから5年が経過する中、
電気料金のベクトルが値下げから値上げへと大きく転換し始めている。
最大の要因は、火力燃料費の上昇や再生可能エネルギー賦課金の拡大だ。
中長期的にはカーボンプライシングなどでさらなるコスト増加も予想される。
一方で、独占禁止法や経過措置料金などの自由化対応も重要な課題に。
次期エネルギー基本計画を踏まえた料金水準の見通しと経済への影響に迫る。

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【レポート】再エネ賦課金増大に燃料費上昇も どうなる!? 2030年度の電気料金

【レポート】料金・安定供給リスクに戦々恐々 需要家の切実な声は届くか

【覆面座談会】脱炭素時代の料金問題を斬る 自由化の値下げ効果は限定的増大するコスト負担の行方は

【レポート】大手ガス2社の経過措置規制を解除 電力では値上げの歯止め役に!?

【特集1まとめ】資源高騰の深層「脱炭素」に踊らされる日本


石炭、LNG、石油といったエネルギー資源価格が軒並み高値を付けている。
昨年から上昇傾向を強め、LNG、石油については一服感が漂うものの、
石炭は米ニューヨーク市場の先物価格が一時トン170ドルを突破し独歩高の様相だ。
背景には世界的な経済回復に加え、中国などアジア諸国の旺盛な需要がある。
脱炭素・脱化石が叫ばれる陰で、各国は「国益重視」の戦略を展開する。
資源高騰の深層に何があるのか。官学民関係者への取材をもとに明らかにする。

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【レポート】エネルギー調達戦線に地殻変動 今こそ必要な「国家戦略」議論

【座談会】化石燃料を巡る世界の駆け引き激化 求められる戦略的な政策展開

【インタビュー:定光裕樹/資源エネルギー庁】岐路に立つ化石エネルギー調達 資源国と培った関係性を生かす

【特集2】中国工場でEMSの省エネ実証 海外での事業展開にも光明


【NEDO/横河電機/日本総合研究所/東京電力ホールディングス】

国産省エネ技術の海外展開に向け、NEDOは実証事業を行っている。中国の工場で、産業用HPなど高効率機器が大きな成果を上げた。

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、横河電機、日本総合研究所、東京電力ホールディングス(HD)の4者は、中国広東省の工場に産業用ヒートポンプ(HP)など、省エネ設備を導入する実証事業を行った。

この実証では、日本が強みを持つエネルギー技術およびシステムを対象に海外の環境下における有効性を実証することで、民間企業のビジネスチャンスにつなげることが目的。アルミ工場を運営する広東華昌鋁廠有限公司と、紡績工場を運営する互太(番禺)紡織印染有限公司の2工場に対して、HPやエネルギーマネジメントシステム(EMS)を導入し、エネルギー需給の高度化と生産効率を高めながら大幅な省エネを図っている。

CO2削減量は1万㎘超 ランニングコストも大幅減

実証は2017年10月から開始。工場に導入する各種設備の基本設計は、東電HDグループ会社の東電エナジーパートナー(EP)が担った。

広東省仏山市にある華昌鋁廠のアルミ工場では、建築用アルミサッシを製造している。製造過程では防錆のために電着塗装による表面処理が行われるが、塗装時に大量の熱が発生するため冷水で塗装槽を冷却しなければならない。

同社はこれまで定速機とインバーター制御のターボ冷凍機複数台を組み合わせて冷水を供給していたが、エネルギー利用の合理化を図るべく高効率のインバーターターボ冷凍機(三菱重工サーマルシステムズ製)2台と、冷温同時HP(神戸製鋼製)を6台導入した。

冷温同時HPで供給可能な温水は、電着塗装の前工程で行われる前処理工程で使用するようシステムを構築。高効率設備による冷水の供給に加え、冷温同時HPでも温水を供給するため蒸気ボイラーの稼働率を減らすことができた効果で、導入前と比較して年間一次エネルギー使用量は年換算で57%(原油換算で847㎘)、ランニングコストは実績値で年間36%(約154万元)削減した。

同工場は14年からエネルギー管理体制を確立して省エネに取り組む企業ではあるものの、この実証での削減量は過去5年間取り組んできた成果に匹敵するそうだ。

華昌鋁廠に導入したインバーターターボ冷凍機
華昌鋁廠に導入した冷温同時HP

【特集2】産業の脱炭素化担う主力機器 需要の高度化・最適化を促進


カーボンニュートラルの実現には、産業部門の脱炭素化が不可欠だ。官民を挙げて高温度帯の研究が進むなど、産業用HPにかかる期待は大きい。

世界各国でカーボンニュートラル(CN)に向けて電源の脱炭素化が進められると同時に、需要側の脱炭素を図るソリューションとして産業用ヒートポンプ(HP)が改めて評価されている。

工場の熱源にはCO2を排出する重油や都市ガスなど化石燃料が利用されており、日本の工場の熱供給のうち直接加熱が63%、ボイラーなどによる蒸気製造が23%を占める。中でもボイラーは170~200℃の帯域で多く利用されていることから、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は同温度帯域の電化を図るべく、200℃加熱に対応した産業用HPの開発を進めている。

この実証には前川製作所と三菱重工サーマルシステムズの2社が参加しており、前川製作所は最高加熱温度200℃・加熱能力3

00kW級のHP、三菱重工サーマルシステムズは200℃の温水出力でエネルギー消費効率(COP)3.5以上、かつ地球温暖化係数(GWP)の低い新冷媒を使ったHPを開発。200℃帯域のHP開発は世界で唯一の試みで、製品化の暁には世界の脱炭素化を後押しする優れた機器になりそうだ。

産業部門の業種別・温度帯別の熱需要のイメージ
出典:平成29年度新エネルギー等の導入促進のための基礎調査

HP普及に向け技術開発 国産技術が海外で活躍

最先端の機器を導入すれば、当然のことながら産業の省エネは進む。

とはいえエアコンやエコキュートなどの民生用HPと異なり、産業用HPの省エネ効果は利用する環境に大きく左右されるため、需要家も導入を検討しようにも実際にどれだけの効果があるのか分かりにくく、普及が進まない課題の一つだった。そこでNEDOは、HPの導入効果を分かりやすい形で表示する「産業用HPシミュレーター」の開発を進めている。

同シミュレーターは想定しているHPの利用方法、冷媒の種類、定格加熱能力や給水温度、流量などを入力することで、HPのCOP、加熱能力、一次エネルギー消費量、CO2の排出量を見える化。主に自社設備の省エネを図る際に使うことを想定したシステムだが、エネルギーサービス会社が需要家向けに提案する際にも活用可能だ。

【特集2まとめ】産業用ヒートポンプの脱炭素力 鍵握る「高温化」の技術開発


脱炭素化の有力技術としてヒートポンプへの期待が高まっている。
とりわけ注目されるのが「高温化」技術の進展だ。
大型ヒートポンプの導入は産業分野の省エネを加速させる。
2050年カーボンニュートラルを目指す業界の最新動向を追った。

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【レポート】産業の脱炭素化担う主力機器 需要の高度化・最適化を促進

【対談】「高温化」実現への期待 世界に誇る日本の技術力

【レポート】HP導入でCO2排出量削減 産業部門の省エネに貢献

 【国内編】製造工程や排水処理で活用 GHG排出量ネットゼロに躍進

 【海外編】中国工場でEMSの省エネ実証 海外での事業展開にも光明

【インタビュー/甲斐田武延:電力中央研究所】需要側で脱炭素進める欧州勢 HP普及には裾野の広がりが重要

【特集2】需要側で脱炭素進める欧州勢 HP普及には裾野の広がりが重要


甲斐田武延/電力中央研究所 グリッドイノベーション研究本部 ENIC研究部門 主任研究員

産業分野の脱炭素化に向けて、欧州で製品開発の動きが活発化している。 IEAのHP技術協力プログラムの委員を務める甲斐田氏に動向を聞いた。

―産業用HP開発の現状は。

甲斐田 日本はこれまで産業用の開発をリードしてきました。しかし、東日本大震災が発生してから電力需給がタイトになった影響などで、電化に向けた取り組みが尻すぼみとなりました。一方で欧州では脱炭素化に向けた取り組みを進める中で産業用HPに着目し、技術もだいぶ進歩しています。

―欧州の取り組みは。

甲斐田 例えば暖房の場合、デンマークなどでは地域熱供給が主流で、その熱源の多くは石炭など化石燃料ベースの火力発電所の排熱を利用しています。特に、石炭火力発電所は2020年代で廃止する方向で、発電所由来の熱源は減っていきます。実際、デンマークでは閉鎖される石炭火力由来の熱源の代替に、5万kWの大容量HPが熱源になる計画もあります。

 技術開発については、フランスではフランス電力(EDF)が主体となって、10年に研究チームを設立し、100℃、120℃、140℃の産業用HPを開発しました。オーストリアも14年から130℃、160℃の産業用HPを開発し、製品化されました。まさにこの10年間で欧州の技術は日本と同じぐらいのレベルに追い付こうとしています。

HPの主戦場はアジアへ 大型プロジェクト進める欧州

―日本のメーカーにとっては海外勢の足音が聞こえてきた、というところでしょうか。

㆙斐田 産業用HPは、民生用の空調・給湯HPとは異なり、日本メーカーの販売先はほとんど国内工場向けで、欧州メーカーも欧州域内が主戦場ですので、今のところ市場で競合はしていません。

 ただ、欧州では工場が減り、多くの業種で中国や東南アジア、インドへの移転が進んでいます。こうした工場に対して開発した製品を売るべく、まずは欧州で製品を開発して実証しています。

―日欧メーカーがアジアで戦うことになりそうですね。

甲斐田 今後はアジア市場で欧州勢と勝負になるかもしれません。日本の技術力は依然として高いですが、EUも「Horizon 2020」というイノベーション推進プログラムの枠組みで、産業用HPの開発と実証に対して10億円以上の投資を行いました。21年からは後継の「Horizon Europe」がスタートします。20年には本プログラムに向けてノルウェー、デンマーク、オランダ、オーストリアなど欧州の研究機関が連名で脱炭素化実現に向けて産業用HPの開発や実証、普及の強化を呼び掛けるレポートを公表しています。

 日本でも産業用HPが重要技術だと啓発することが求められます。

―日欧ともに、優れた技術を現場に導入することが今後重要になります。どう考えますか。

甲斐田 産業用HPはポンと置いて使える技術ではありません。どのように生産工程に組み込むかを事前に分析する必要があり、その担い手が必要になります。

 デンマークには産業用HP導入に特化したコンサルティング会社が登場し、工場データの分析からヒートポンプの選定、導入プロジェクト全体の管理・監督を担っています。フランスではEDFとその子会社のDalkiaがコンサルティングとエンジニアリングを行っています。

 日本でも小売り電気事業者やエネルギーサービス・ソリューション会社などが工場とメーカーの間に入って、それらの役割を担っていくことが期待されます。

かいだ・たけのぶ 2011年電力中央研究所入所。19~20年フランス電力(EDF)訪問研究員。国際エネルギー機関(IEA)ヒートポンプ技術協力プログラムAnnex48(産業用HP)、Annex58(高温HP)の委員を歴任。

【特集3まとめ】進撃のドローン インフラの保守・点検に新風


積載容量の増加や長距離飛行が可能になったことで、
ホビーから産業機械に進化を遂げつつある「ドローン」。
AIや画像解析技術の進展でドローンで撮影した画像を基に
微細なひび割れから漏油などを検知する技術も開発されている。
エネルギーインフラの保守・点検に新風を吹き込む。

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【レポート】活用進むドローンの先進技術 市場規模は今後5年で3.5倍に

【インタビュー/伊藤貴紀:経済産業省】2022年度「レベル4」実現へ インフラ企業の課題解決に貢献

【トピック/君津市】災害対策で活用する独自モデル 公共インフラの保守・点検も

【各社レポート】導入進む最先端ソリューション 高度・効率化で現場負担を軽減

 【WSP】PVパネルを低コストで自動清掃 海底スキャンで洋上風力調査も

 【ブルーイノベーション/東京電力ホールディングスなど】送電線特有の条件にも対応 自動点検システムを共同開発

 【一般財団法人 日本気象協会】気象リスクを3次元で予測 将来の安全・安心な飛行に活用

 【ACSL】自律飛行可能な国産機 エネルギーインフラを自動点検

 【東設土木コンサルタント】50kgの荷物を積載 機材運搬ドローンを開発

 【東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)】ガス漏れなどを遠隔点検 小型レーザー式でドローンなどに積載可能

【特集3】ガス漏れなどを遠隔点検 小型レーザー式でドローンなどに積載可能


【東京ガスエンジニアリングソリューションズ】

レーザーファルコン

東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)は、東京ガス、ガスターと共同開発した遠隔ガス検知技術を用い、ドローンなどロボットに搭載できるガス検知器「Laser Falcon(レーザーファルコン・LF)」を販売している。

東京ガスは1980年代から2000年代にかけて、レーザーを照射してメタンを検知する技術を研究し続けてきた。ガス検知器は空気を吸入口から取り込み成分を解析してガス漏れを検知する吸引式や、センサーで周囲のガス濃度を測定する拡散式が一般的だ。

対してレーザー式はメタンが特定の赤外線を吸収する特性を利用して、検査箇所をレーザーで照射、赤外線がどれだけ反射したのかを測定することで、照射箇所にメタンを含んだガス体がどれだけ漏えい・滞留しているかを検知する。

吸引式や拡散式はメタン以外にもイソブタンや酸素など多様な可燃性物質を検知できるメリットがあるが、レーザー式の場合、ガラス越しなど離れた場所からでもガス漏れを測定できる特長がある。本方式を用いたハンディタイプのレーザー式メタン計測器「レーザーメタンmini」は、ガス会社での保守・点検時に使用されているほか、発火や爆発の危険がある現場に急行する消防局など国内外で数多く採用されている。

ドローン向けに小型化 各種システムとも連携可能

LFを開発するにあたり、レーザーメタンminiは幅70mm×高さ179mm×厚み42mm、本体重量はバッテリー込みで600gと小型ではあるものの、ドローンやロボットに搭載できるように、さらなる小型化や改善を図った。

まず、ドローンなどに積載する上で必要のない各種情報を表示する液晶ディスプレイやメニューボタンを無くし、バッテリーも外部給電に切り替えた。これによりサイズは幅10mm×高さ8mm×厚み8mm、本体重量は230gになり、大幅な小型化・軽量化を実現している。

また、上空からでも点検できるように地表面で反射したレーザーを受光するレンズを大型化し、最大100m先の漏えいも検知できるよう改良した。取得した点検データは、ドローンシステムベンダーが開発する外部APIとの連携も可能で、例えば漏えい位置情報と測定データの関連付けなどが容易に行える。他社が提供するドローン点検システムに組み込みやすいのも大きな特長だ。

LFの開発に従事したTGES企画本部経営企画部技術企画グループの安部健マネージャーは「LFは政府が進めるスマート保安の考え方ともマッチしている。事業者とともにLFの使い方を考えていきたい」と話している。

既に海外ではドローンにLFを積載した採用事例も出始めている。バルト海に面するラトビアのエンジニアリング会社は同機を使ったメタン検知ソリューションを提供。北米でも埋立地で発生するメタンの計測用にドローンに積載したLFが利用されているという。

国内でも橋梁下に敷設されたガス管や山中に設置されたパイプラインなど、人の手で点検しにくい場所は多い。LFとドローンサービスが組み合わさった新発想の点検サービス誕生に期待が掛かる。

ドローンへの積載イメージ

【特集3】50kgの荷物を積載 機材運搬ドローンを開発


【東設土木コンサルタント】

東京電力グループの東設土木コンサルタント(齋藤仁社長)は、重量物を運搬できる大型ドローンを開発している。

現在、山間部などで交通アクセスの悪い場所での送電網工事が増えている。その際、地盤調査を行うためボーリングマシンを山中に運搬する必要があり、同社は傾斜地向けの小型ボーリングマシンを提供しているのだが、小型とはいえ、重量は約300kgにも及ぶ。調査場所まではクローラと呼ばれる無限軌道付きの小型車両で運搬するが、35度以上のきつい傾斜はクローラでも走行できない。

こうした制約をドローンで解消できないかと、同社は2019年から機体メーカーとドローン共同研究を開始。まずは30kgの荷物を搭載可能な機体の開発を進め、離陸・着陸地点にいる操縦者同士の操縦受け渡し、狭所や斜面での離着陸技術などを開発して、山間部での飛行に必要な知見を得た。20年からは50kgの荷物に対応できるよう研究を進めている。

具体的には揚力と飛行安定性の向上を図るためにプロペラの配置を4カ所から8カ所に変更し、プロペラ位置の間隔を広げた。また荷物の積載位置を調整して飛行安定性を高めるなどの工夫を重ねている。

今後は墜落時の機体や積荷へのダメージを軽減・なくすなどの安全対策を行い、年内の現場投入を目指す。問い合わせはこちら:03-6371-4230(東設土木コンサルタント)

開発を進めるドローン

【特集3】送電線特有の条件にも対応 自動点検システムを共同開発


【ブルーイノベーション、東京電力HDなど】

東京電力ホールディングス(HD)、東電パワーグリッド(PG)、テプコシステムズと、ドローン・ロボットサービスプロパイダーのブルーイノベーション(BI)は、ドローンで送電線を自動点検するシステムを共同開発した。

本システムの核となる技術が、BIの開発した「Blue Earth Platform(BEP)だ。BEPは、ドローン、自律型ロボットなどさまざまなデバイスやアプリケーションを連携させて運用するプラットフォームで、地図情報や接続機体の位置情報、センシングした各種情報のほか、外部APIとの連携も行える。異なる用途のソリューションを同一のプラットフォーム上で一元管理できる特長がある。

倉庫管理や工場生産、オフィスの清掃、ドローンによる物流や警備、橋梁点検サービスに求められる技術はある程度類型化できるため、BEPでは各サービスに必要となる技術をパッケージ化。各種パッケージをカスタマイズすることでさまざまな用途に対応できる。

実際、ある石油精製プラントではBEPを基にしたドローン点検が採用されている。BIの熊田貴之社長は「当社が持つ技術パッケージを対象物に合わせて選択することで、システムの開発スピードは速くなり、コストも下げられる」とBEPの強みを語った。共同開発では線形の対象物をセンシングする技術を、送電線の点検向けにカスタイマイズして適用した。

送電線の点検風景

技術選定にも試行錯誤 国内外の電力会社に展開

送電線の点検は、①鉄塔に登る宙乗り点検、②高倍率の望遠鏡による地上からの目視点検、③ヘリコプターから送電線を撮影―から、点検場所に適合する方法で行われるのが主流。しかし①の場合、点検中は送電を停止しなければならず高所作業は危険が伴う、②は安全かつコストも安いが、高倍率の望遠鏡で複数張られる送電線のうち一本を目視で追う点検は検査員の技量に大きく左右される、人の足で入れない場所では③が用いられるが、①②と比べてコストが必要―などのメリット・デメリットがある。東電HD経営技術戦略研究所技術開発部の岸垣暢浩氏は「作業の省力化と点検の精度維持を両立するために、BIとの協業を考えました」と説明する。

BIもコア技術を持っているとはいえ、実点検業務に落とし込むために試行錯誤が繰り返された。

送電線は鉄塔間で真っすぐ張られているわけではなく金属が温度によって微妙に収縮するため、たるみを持たせて張られている。気温の変化で送電線の位置は日によって変わる上に、点検には送電線と一定の距離を保ちながらたるみに並行して飛べる機体でなければならない。さらに対象物である送電線をしっかりと検知する技術が必要で、送電線近くで発生している電磁波に左右されない通信方法を確保することや、突風や風雨にさらされても送電線を視認し続ける必要もある。

これら各種要件に適合する機体およびセンサー類を選定し、送電線点検に特化したシステムを開発し、「サービス化するまでには多くの時間がかかった」と、システム設計を担当したBIシステム開発部の千葉剛氏は振り返る。 東電PGには共同開発したシステムに対応したドローンが14台配備されており、まずは山間部と田園地帯の送電線点検で利用される。今後は電気工事会社に利用してもらうほか、国内他電力や海外展開も視野に入れている。

また東電PGサービスエリア内にある鉄塔の緯度・経度情報を収集し、指定した範囲を自動的に点検して帰ってくる自律点検システムの構築も考えているという。業界をリードする一層の進化を遂げそうだ。

システム運用画面

【特集3】活用進むドローンの先進技術 市場規模は今後5年で3.5倍に


人手不足が深刻化するインフラの保守・点検業界でドローンの活用が進んでいる。 官民を挙げて各種施策が行われるなど、ドローンの進撃を期待する声は多い。

インフラの保守・点検、重要施設の警備、物流など、多くの産業でドローンが活躍し始めている。

インプレス総合研究所『ドローンビジネス調査報告書2021』によると、2020年度の国内におけるドローンビジネスの市場規模は1841億円と推定される。ドローンが世の中に認知され始めた16年度の市場規模353億円と比較すると、この5年間で市場規模は5倍以上に急拡大した。25年度には市場規模が6468億円と20年度の3・5倍に達し、ドローンを用いた各種ソリューションを提供するサービス市場は4361億円に達すると見込まれている。

特に保守・点検分野の場合、人力で行う点検をドローンに代替することで高所作業が無くなる、足場を組む必要がないのでコスト削減および作業日数軽減につながる、狭所や閉所など人が立ち入れない場所も点検できる―などドローンに寄せられる期待の声は大きい。

既に建設・土木の世界では、高層ビル・マンションの外壁、橋脚、橋桁などの点検作業で高機能カメラを積載したドローンを導入し、撮影画像から異常箇所を診断するサービスを提供する事業者が増加している。少子高齢化により入職者不足が深刻化しているだけに、課題を解決するソリューションとしてドローンを用いた新サービスは普及していきそうだ。

年々規模を拡大するドローン市場(出典:インプレス総合研究所『ドローンビジネス調査報告書2021』)

【特集3】自律飛行可能な国産機 エネルギーインフラを自動点検


【ASCL】

世界のドローン市場を中国勢が席巻する中、近年は国内メーカーの躍進も続いている。ACSL(自律制御システム研究所から今年6月に社名変更)もその一社だ。

同社は2013年に創業したドローン機体の設計・製造を行うベンチャー企業。最大の特長は、自機周辺の障害物をカメラでセンシングすることで飛行位置を推定する「Visual-SLAM」技術による自律制御システムを搭載する点だ。

ドローンは通常、自機がどこを飛んでいるのかを判別するのにGPSを用いるケースが多い。GPSから自機の位置を推定して決められたルートを飛行する定期点検サービスは出始めているものの、橋の陰や建物内などGPSが届きにくい場所は点検できない、もしくは手動でしか点検を行えないという欠点がある。

こうしたデメリットを克服するのが、同社が製造する完全自律飛行型のドローンだ。自機の位置をカメラ画像から推定することで、閉所でも自律飛行が可能。既に関西電力とは火力発電所の排気塔を自動点検するソリューションを、アクセンチュアとはプラント配管の腐食や石油タンクの漏油をAIで自動検知するソリューションを共同で開発するなど、エネルギー業界での採用事例は多い。

排気塔点検ソリューションは、関西電力とグループ会社のKANSOテクノス、ACSLの3社が共同開発している。点検ではドローンが排気塔の中央位置を維持し、一定の範囲を撮影しながらゆっくりと上昇。撮影後は底部に下降して別の範囲を撮影する一連の動作を繰り返すことで、排気塔内部を一枚の画像にし、異常状態があるのかを診断する。

アクセンチュアと共同で開発したソリューションは、事前に指定したルートに沿ってACSLのドローンが飛行・撮影し、アクセンチュアが開発した画像解析AIがディープラーニングで設備の異常箇所を抽出。点検の手間を大幅に低減する。得られたデータは配管などの設計図面(スプール図)ともひもづけた表示も行えるほか、コメントをつけて共有できるなど、各種機能が搭載されている。

最大の特長である「Visual-SLAM」カメラ

サブスクサービスを開始 長距離・長時間に挑戦

さらに今年5月からは、点検用にカスタマイズしたドローンをサブスクリプション(月額)方式で提供するサービスを開始した。

本サービスは、同社が開発する産業用ドローン「ACSL-PF2」をベースに、①1億画素カメラを搭載、②6100万画素のカメラを搭載、③煙突点検用カスタマイズ―のいずれかが施された機体をレンタルするサービス。

故障時に代替機の貸し出し、対人・対物の施設賠償保険が施されているほか、バッテリーの交換サービスや定期メンテナンス、オンラインおよび現地サポートといったオプションも用意されている。導入のハードルが高かったドローンをサブスクリプションサービスに落とし込むことで、会社としてドローンの社会実装を推し進める構えだ。

同社の六門直哉事業開発本部長は「サブスクリプションは現時点では3種類に限られているが、今後は太陽光パネルの点検などニーズが高そうな分野にも対応したい」と話している。 高度経済成長期に建設された産業用プラントでは、配管が複雑に入り組んで敷設されていることもあって閉所が多い。さらに屋外のエネルギー設備に限らず、大規模工場や倉庫の点検や警備など、GPSが届きにくい場所を巡視するニーズもある。

こうしたさまざまな制約がある環境下でも飛行できる、国産の完全自律型ドローンは大いに活躍しそうだ。

煙突点検向けに改良したACSL-PF2

【特集3】2022年度「レベル4」実現へ インフラ企業の課題解決に貢献


【インタビュー/伊藤貴紀:経済産業省製造産業局 産業機械課 次世代空モビリティ政策室室長補佐】

―経済産業省はドローン振興に向けどんな支援を行っていますか。

伊藤  経産省は国土交通省、総務省とも連携しながら、市街地など有人地帯での目視外飛行を認める「レベル4」を2022年度までに実現することを目標に進めています。当省は機体や関連技術などの研究開発支援や、ドローンの産業振興と利活用を促進する取り組みを行っています。

―具体的にどんな内容ですか。

伊藤  レベル4社会が実現すれば、市街地上空をさまざまな事業者が運用するドローンが飛び交うことになります。ドローン同士の衝突を防ぎ、空の安全を守るために事業者の機体情報やフライト情報を統合して管理する運航管理システムの研究支援などを行っています。

 現在、インフラ点検や物流、災害対応で、企業や自治体が独自に取り組んでいるケースが増えています。しかし、ドローンの社会実装をいち早く進めていくためには両者が連携し、地域住民にドローンがどういうものなのかを理解してもらわなければなりません。そのためには、自治体が各所をつなぐハブになることが重要です。

 利活用の推進に向けて、経産省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は6月4日に「全国自治体ドローン首長サミット」を開催して、ドローンを活用する自治体の首長の講演やディスカッションを行いました。先進事例を紹介するなどして、官民の取り組みを後押ししていきたいと考えています。

22年度から新制度開始 長期的な取り組みが重要

―22年度には有人地帯で目視外飛行が可能となる「レベル4」の開始が予定されています。

伊藤  これまでは人の目が届く目視内での飛行(レベル1、2)、山間部や、海上など無人地域での目視外飛行(レベル3)での利用にとどまっていました。しかし6月4日に改正航空法が成立し、市街地など有人地域での目視外飛行が可能になる「レベル4」利用が認められることで、各種制度が発足する予定です。

本改正によって、22年度から操縦者およびドローン機体には第一種、第二種のライセンス制度が設けられ、レベル4の運用を行うには、①機体の第一種認証、②操縦士が第一種免許を取得、③国交相の許可・承認―の3点を得る必要があります。

―レベル4になるメリットには何がありますか。

伊藤  有人地域で目視外飛行が可能になることで、物流や警備など、人手不足に悩む産業でのドローン利活用がさらに進み、大きな影響を与えるのは間違いありません。

また、これまでドローンを飛行させる場合はドローンの操縦士だけでなく、操縦士をサポートする運航補助者や地上監視員が必要でした。これがレベル4社会になり機体の性能が向上し、技術の向上とともに操縦士以外の人員が不要となっていけば、人件費を減らすことにもつながります。そのため、サービス全体のコストも安くすることができ、ドローンを現場に導入しやすくなるという大きなメリットもあります。

―今後の意気込みは。

伊藤  物流や警備と同様にインフラを保有している企業、インフラを点検する企業のいずれもが人手不足に苦しんでいます。これら課題は現場にドローンを導入することで、一足飛びに解決する問題ではありませんが、中長期的に取り組むことが課題解決の糸口になると考えています。

現在のドローン産業の市場規模は2000億円台といわれるまで成長しましたが、まだまだ拡大する余地はあります。われわれも課題解決と産業振興を両立する政策作りに取り組んでいきます。

伊藤貴紀氏