菅政権の「2050年カーボンニュートラル」宣言を受け、
エネルギー業界の脱炭素化対策が待ったなしだ。
中でも急務なのが、大型火力のゼロエミッション化である。
発電技術からCO2処理、次世代燃料まで領域は幅広い。
エネルギー安定供給や経済合理性との両立を視野に、
各社は火力の存亡をかけた挑戦を本格化させている。

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菅政権の「2050年カーボンニュートラル」宣言を受け、
エネルギー業界の脱炭素化対策が待ったなしだ。
中でも急務なのが、大型火力のゼロエミッション化である。
発電技術からCO2処理、次世代燃料まで領域は幅広い。
エネルギー安定供給や経済合理性との両立を視野に、
各社は火力の存亡をかけた挑戦を本格化させている。
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CCUSの課題に対し、川崎重工業、地球環境産業技術研究機構(RITE)が実証を行っている。
これは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「先進的二酸化炭素固体吸収材の石炭燃焼排ガス適用性研究」に採択されており、石炭火力発電所で発生するCO2を分離・回収する内容。これまでRITEは基礎研究(2010年度~14年度)を行い、日量3㎏のCO2分離・回収を達成。その後、川崎重工の工場内で日量7tのCO2分離・回収試験を実施(15年度~19年度)した。今回は、石炭火力発電所に日量40tにスケールアップしたベンチプラントを設置し、石炭燃焼排ガスからのCO2分離・回収に取り組む。
各社の役割は、川崎重工がパイロット設備の設計・建設、およびCO2分離・回収試験を、RITEは使用する固体吸収材の大量製造技術および性能分析などを担当する。また関西電力が試験を行う舞鶴発電所内の敷地を提供し、実際に運用されている石炭火力発電所での実証試験に協力している。
最大の特徴は、CO2を吸着する性質を持つアミンを含有した球形の多孔質セラミックを利用してCO2を分離・回収する「固体吸収法」を採用している点だ。実証に用いるCO2は、脱硝装置、電気集じん器、脱硫装置などを通過し、煙突から大気中に放出される排煙の一部を使用する。
「吸収塔」で固体吸収材を用いて排煙からCO2を回収し、「再生塔」で吸収材に蒸気を流してCO2を分離。その後、「乾燥塔」で吸収材を乾かした後に吸収塔に戻して再利用する。川崎重工が開発した「KCC移動層システム」だ。
既存のCO2回収法は、アミンなどを含む溶液にCO2を吸収させて分離し、その溶液を加熱して回収する「化学吸収法」が主流だが、CO2を吸収する媒体が液体のため分離に必要な熱量が高く、回収コストが高くなってしまう。実際、1t回収するのに約2.5GJもの熱量を消費する必要があり、設備などの建設費用などを含めると、CO2を1t回収するのに4200円もの費用が掛かるといわれている。
対して固体吸収材の場合ではCO2を吸収する媒体が固体で比熱が小さく、溶液の蒸発に伴う潜熱も要しないため、コスト低減が可能。実証でも熱消費量を1.5GJまで引き下げ、コストを2000円台にすることを目指している。本実証研究では、CO2を日量40tの規模で分離・回収するが、将来的には本技術をスケールアップした実用設備によって、CO2の排出削減に貢献する見込みだ。
まさに前代未聞の事態である。
年初の日本列島を襲った電力需給危機のことだ。
燃料在庫不足でLNG火力の出力低下が相次ぐ中、
一足早い大寒波によって全国各地で電力需要が急増。
発電量が足りず使用率が100%に達するエリアも発生する中、
電力各社は「極限の緊張」下で綱渡りの需給調整に追われた。
卸市場では連日、スポット価格がkW時200円超えの暴騰。
電力小売り事業者の経営を直撃する事態になっている。
だが、これほどの有事にもかかわらず、政府の動きは鈍い。
業界主導で発出する「電力緊急事態宣言」の最新事情を取材した。
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福島第一原子力発電所のトリチウム水の海洋放出に、韓国が強く反発している。日本政府は、多核種除去設備(ALPS)で各種の放射性物質を除去した後に残るトリチウムを含んだ水を、海洋に放出する方針を固めている。
海洋放出は既に世界中の原子力施設が実施。昨年調査を行ったIAEA(国際原子力機関)も、「実績があり現実的な方法」「放射線の影響は自然被ばくと比較して十分に小さい」との報告をまとめている。
だが韓国は、トリチウム水を「福島原発汚染水」と呼称。漁業関係者をはじめ与野党の国会議員まで、海洋放出に反対の立場を取っている。
2020年10月に日本のメディアが「政府が海洋放出を決定」と伝えると強硬姿勢を強め、国会の外交統一委員会で与野党の議員が相次いで懸念を表明した。与党「共に民主党」の宋永吉議員は「太平洋は日本だけのものでなく、沿岸国全てのもの。
一方的に汚染水を放出するのは問題が大きい」と強調。議員らは南官杓駐日大使に対して、日本政府が海洋放出を決めないよう対応を求めた。科学技術に関する委員会も、日本政府に安全な処理水対策の策定を促す決議案を採択している。
日本が海洋放出を正式に決めた場合、より態度を硬化させることが予想される。しかし、韓国でもカナダ型重水炉の月城原発1~4号機をはじめ、各地の原発から相当量のトリチウムが海洋に放出されている。
自国を棚に上げ、福島第一原発のトリチウム水の放出だけを批判するのは明らかな矛盾。韓国内でも、「日本の原発は安全性だけで、韓国の原発は経済性だけで評価するダブルスタンダードは、愚かな自己矛盾にほかならない」(ハンギョレ新聞)との指摘が出ている。
11月中旬、バイデン次期米大統領はオバマ政権で国務長官を務めたジョン・ケリー氏を気候特使に指名するとの意向を表明した。これは温暖化問題を重視するバイデン次期政権の性格を象徴する人事と言える。
気候特使は地球温暖化外交における米国の顔だ。オバマ政権においてはトッド・スターン氏が8年にわたりこの役割を務め、パリ協定成立に向け大きな役割を果たしてきた。しかしパリ協定脱退を公約して就任したトランプ大統領の下で地球温暖化外交における米国のプレゼンスが大きく低下。気候特使も任命されないままであった。
トランプ政権時代、ケリー氏はパリ協定にコミットした州政府、米国企業の「We Are Still Inイニシアティブ」を主導。大統領選ではバイデン・サンダース合同タスクフォースの気候変動関連部分をアレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員と共同で取りまとめた。国際的に知名度の高いケリー氏の任命は米国のリーダーシップを取り戻そうというバイデン氏の意向を反映するものである。
スターン氏は議員・閣僚経験がなく、特使ポストは国務省に置かれたのに対し、ケリー氏は上院議員、国務長官経験者だ。特使ポストも国務省ではなくホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)に置かれる見込みだ。これらはバイデン政権で気候変動問題は、国家安全保障に関わる重要課題として位置付けていることも意味する。
ケリー氏の気候特使指名は民主党で勢力を増しているリベラル・プログレッシブ派の人々からも歓迎されている。グリーンニューディールの理論的支柱となったサンライズ・ムーブメントのヴァルシニ・プラカシュ代表はこの人事を歓迎するとともに、外交面のみならず、国内政策面でも大統領に直接報告するヘッドをホワイトハウスに置く必要があるとしている。
米国が気候外交でリーダーシップを示すためには単にパリ協定に再加入するだけでは不十分だ。オバマ政権の2025年マイナス26~28%(05年比)に代わる30年目標をいつ、どの程度の野心レベルで提示できるかにかかっている。
上院で共和党が過半数を維持した場合、30年目標を裏打ちする新法制定や税、財政発動が容易ではなくなる。米中新冷戦の下ではオバマ政権時の緊密な米中協力も想定しにくい。ケリー特使を待ち受ける道は決して平坦ではない。
有馬 純/東京大学公共政策大学院教授
共和党ドナルド・トランプ大統領と民主党ジョー・バイデン前副大統領が争った2020年大統領選は、20年11月8日未明(日本時間)にバイデン氏の勝利が確定し、12月現在、政権移行が進められている。両者はさまざまな政策で対照的な立場を取ってきたが、中でも気候変動対策の違いは重要な争点の一つとなった。
オバマ前大統領による環境政策を撤廃してきたトランプ大統領に対し、バイデン氏はパリ協定への復帰や2兆ドル規模のクリーンエネルギー分野への投資など、気候変動対策に積極的に取り組む公約を掲げてきた。
とりわけ、35年までに電力部門からの温暖化ガス排出量をゼロに抑えるという野心的な目標は、電力関係者を中心に大きな注目を集めている。しかし、35年目標の実現は困難と見る関係者や専門家が多いのが現状だ。
米電力業界団体のエジソン電気協会(EEI)は、選挙前の9月に開催した会議において、再エネ電源の間欠性と天然ガス火力発電への依存度が高いことを考慮すると、バイデン氏が掲げる目標を達成することは困難であるという見解を示した。またオバマ政権下でエネルギー長官を務めたアーネスト・モニツ氏は、35年目標を達成できるのは、今後10年間で強力なイノベーションが実現される場合に限るとし、30年までにあらゆる新技術をスケールアップするための準備が必要であると語る。
そうした中、カリフォルニア大学バークレー校は、90%のカーボンフリーであれば35年までに達成することは経済的に可能だと予想する。ただし米シンクタンクの調査では、シナリオ通り90%カーボンフリーを達成するには、20年代に年間の風力・太陽光導入量を過去最大(それぞれ12年1310万kW、16年1510万kW)の2倍にし、30年代には3倍にする必要があるという。そして100%カーボンフリーを目指す場合は、それ以上のスピードで再エネを導入するだけでなく、カーボンフリー実現に向け新技術開発への多額の投資が不可欠としている。
以上のようにバイデン氏の35年目標達成の可能性はゼロではないにせよ、非常に多くの困難や課題が伴うというのが関係者の大方の見方だ。しかし、EUや中国、日本などが野心的なカーボンニュートラル目標に向けて動きを速める中で、米国諸州や企業の多くも脱炭素目標を掲げ進み始めている。道のりは困難を極めようとも、連邦大で目標を達成するとなった場合、クリーン技術への投資が加速することは間違いないだろう。
三上朋絵/海外電力調査会調査第一部
タイでは、1970年代以降、外資(当時のユニオン、エッソ、シェルなど)が積極的な試掘を行い、80年代から石油・天然ガスの生産が始まった。現在(2020年1~9月)は、石油は日量21万バレル(消費の19%)、天然ガスは日量28億9200万標準立方フィート(石油換算日量48万バレル同65%)を供給している。
同国の長期エネルギー計画における「石油計画2015」では36年の国内需要は日量約100万バレル、「ガス計画2018」では37年に日量53億4800万標準立方フィート(石油換算日量89万バレル)と見込まれる。現需要と比べ石油は16%増、天然ガスは21%増加する見通しだ。
国内需要が増加する一方で、同国エネルギー省の統計によると同国の石油・天然ガス可採資源量は近年急激な減少が続いている。このため、タイ石油公社(PTT)の探鉱開発子会社PTTEPは、先述の状況下、エネルギー安定供給、経済性と環境負荷低減を両立すべく、国内の石油・ガス生産を維持・拡充しつつ、海外資源の獲得も積極的に展開している。
20年12月に発表された同社の5年投資計画(21~25年)では注力案件として国内の大規模洋上ガス田の引き継ぎと海外の大水深案件への取り組みが示されている。
国内最大級のガス生産鉱区であるErawanとBongkotは22~23年に権益の期限を迎える。18年に入札を通じ権益を取得することになったPTTEPにとって、両鉱区は合わせて国内天然ガス生産の約5割強を占める重要鉱区だ。減退傾向にあるこれら成熟鉱区の安定操業は非常に重要な課題である。
隣国マレーシア・サバ州では19年に米マーフィーオイルから取得したRotanガス田(水深1149m、掘削長2141m、最大生産日量2億7000万標準立方フィート)でオペレーターを務めており、21年から生産開始予定。供給先はマレーシア国有石油企業ペトロナスのFLNG2(設備容量年間150万t)である。
メキシコでは18年の入札で二つの大水深鉱区にコンソーシアムメンバーとして参加・落札している。20年にはその鉱区で2カ所の試掘を実施し、有望な石油構造(層厚150mと200m、推定埋蔵量計3億1600万バレル、API25度)を発見。21年はさらに4カ所の試掘を進める計画だ。
タイの一次エネルギー消費の中でも最大の約4割を占める石油。またその海外依存度が高いタイにとって、探鉱から参入する石油案件の意義は大きいだろう。
庄子達也/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部
福島第一原子力発電所で発生する処理水の処分方法を巡る問題。大手新聞は「政府は20
20年10月27日に方針を決定する」と報じたが、12月中旬になっても方針決定の動きはなかった。
これについて、エネ庁関係者は「報道の事実はなかった」と断言する。とはいえ、海洋放出の方針に変わりはなく、今後のスケジュールについて「貯蔵量に限界がある以上、期限は決められている。政府としては地元に対し丁寧に説明を尽くしていく」と説明する。
最終的な判断を下す政府与党の対応について、ある自民党議員は「党内で海洋放出賛成の声は多数ある。漁業団体とつながりが深い党の水産部会も海洋放出容認で固まっている」と話す。菅義偉首相も処理水問題に決着をつける姿勢を見せており、海洋放出実施への準備は整いつつある。
しかし地元の漁業関係者は依然風評被害などを理由に海洋放出に猛反対。別の政府関係者は「処理水問題を登山に例えると現在は9合目。最後の1合が険しい」と漏らす。方針決定を目前にしての足踏みだが、風評問題の解決は容易ではない。どう登り切るか。
経済産業省は2020年12月8日、総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)の石油・天然ガス小委員会(委員長=平野正雄・早稲田大学商学学術院教授)を開き、化石エネルギー業界の50年カーボンニュートラル目標に向けた議論を行った。
会合で大きな注目を集めたのが、日本が保有するLNG技術をアジアの途上国に輸出し、各国が抱える経済的な事情を踏まえながら脱炭素化を実現する、新興国のエネルギー脱炭素支援戦略だ。
アジアの途上国は欧州と比べ、石油・石炭など化石燃料を利用した発電比重の割合が高く、一足飛びにカーボンニュートラルを達成するのは現実的ではない。そのため過渡期の燃料としてCO2排出量の少ないLNGを活用してもらい、未来の脱炭素に備える―というのが経産省が描く筋書きだ。
この戦略について、委員からは「過渡期のエネルギーとしてLNGが有用だと国内外に強く発信すべき」だと推す声もあった。国内需要が減少するLNGの需要喚起につながることから、業界の期待も高い。しかしLNGの商圏拡大に向けては、豪州、ロシア、米国なども虎視眈々と狙っている。政府は資源国に打ち勝つ戦略を描けるのか、本気度が試される。
岸本淳(営業本部産業エネルギーソリューション部副部長産業スマートエネルギー営業グループマネージャー)
山田有喜(エンジニアリング本部地域エネルギー設備部建設プロジェクトグループ課長)
大塚政勝(エンジニアリング本部地域エネルギー事業部清原スマートエネルギーセンター所長)
「工業団地でスマートエネルギーをできないか」――。
東京ガスの中で計画が持ち上がったのは、東日本大震災後までさかのぼる。そもそも分散型電源を核とするスマエネ事業は、電気だけではなく熱需要の高い工場が多い場所でなければ事業の実現は難しい。この条件を満たしていたのが、内陸型工業団地としては国内最大級の規模を誇り、なおかつ食料品、医療品、工業製品などさまざまな業種の工場が集積する清原工業団地だった。
本事業に企画立案から携わり、さまざまな条件下にある需要家との合意形成を図ってきたのが、東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)産業エネルギーソリューション部の岸本淳副部長だ。
岸本副部長は2003年に東京ガスに入社し、これまでコージェネレーションシステムなど産業分野の開発営業に従事してきた。本事業の構想検討当初から16年までは、東京ガスの宇都宮支社で産業分野向けの営業担当として、自身も栃木県と日ごろから付き合う機会を持ち、17年からTGESに出向。企画段階から供給開始、そして現在も事業を担当している。
これまで清原工業団地内の企業は、それぞれ電力会社と契約を結び、自前のボイラー、自家発電設備などを持ち、工場を操業していた。電力供給のプロフェッショナルである既存の電力会社から切り替えるということは、需要家としても大きな決断を迫られることになる。
岸本氏は当時の状況について「そもそも工場にとってエネルギーは血液であり、その供給設備は心臓のようなもの。本事業に参加してもらえるよう、多くのお客さまに提案いたしましたが、皆さまが同様に抱えていた最大の懸念は、『TGESに切り替えても安定供給はこれまで同様に維持できるのか』という点でした」と振り返る。
さらに昨今は大型台風の列島襲来が相次いでおり、レジリエンスやBCPの観点からもエネルギーの多重化は大きな経営課題としても挙げられる。こうした需要家が抱える心配にどう応えたのか。
「提案段階では、お客さまのご要望に応じてさまざまなパターンでの検討が必要となりました。エネルギー需要の想定も提案ごとに変わるため、そのたびにプラント設計の再検討も必要となります。参画する事業者が確定するまで数年間にわたり積算を見直し、再提案を繰り返し、多くの苦労を重ねたことは印象に残っています」(岸本副部長)
粘り強い調整のかいがあって、16年には需要家との合意を取り付けることができた。それはひとえに、東京ガスグループがエネルギーの安定供給を続けてきたこれまでの実績があったからなのかもしれない。
「東京ガスグループはガス供給だけではなく、都市部で地域熱供給事業を行うなど、約半世紀にわたり技術と知見を積み上げてきています。また、参加いただいた各工場では、これまで都市ガスを長きにわたりご利用いただいていたことも信頼関係につながっていると思います。とはいえ、本事業に類する規模の電熱供給は初めてです。お客さまと多くの話し合いの場を持ち、十分な技術検討により、最終的に合意を得ることができました」。岸本副部長は目を細くしてそう語った。
松本真由美(東京大学 教養学部 環境エネルギー科学 特別部門 客員准教授)
菱沼祐一(東京ガスエンジニアリングソリューションズ 常務執行役員 エンジニアリング本部副本部長)
松本 大規模なコージェネ設備、電力自営線や数㎞に及ぶ長距離の熱導管が敷地内、あるいは公道をまたいで整備されている様子など、今回のスマエネはスケールがダイナミックです。
菱沼 松本先生には以前、東京ガスの東京・田町のスマエネもご覧になっていただきましたが、田町は1000kWのコージェネが5台です。今回は5770kWのコージェネが6台で、当社としても最大規模のスケールです。今回のエネルギー設備の特徴は、大型コージェネとボイラーにより、皆さまが使う熱と電気のほぼ全量を供給できるだけの設備構成となっていることです(図参照)。
松本 あまりに大きな規模なので、今回のプロジェクトでは大変な苦労があったかと思います。まずは経緯を聞かせてください。
菱沼 大きなきっかけは、間もなく10年になる2011年3月の東日本大震災でした。盤石なエネルギー供給の基盤をつくり、省エネやCO2削減という社会的なニーズを踏まえ、地元・栃木県が独自にエネルギー戦略を打ち立てました。工業団地の価値を高め、着実に地元で事業を進める環境をサポートしようと栃木県が取り組む一方、コージェネを核とした分散型エネルギーシステムを構築していこうというわれわれの方向性が合致しました。14年頃のことで、5年以上の歳月をかけてようやく運開までこぎつけました。
松本 スマエネはエネルギーの供給側の取り組みだけでなく、需要側を巻き込んだ「需給一体型」の取り組みです。今回、カルビー、キヤノン、久光製薬の計3社の需要家の皆さんへエネルギーを供給しているわけですが、この3社からの協力も欠かせなかったのではないですか。
菱沼 おっしゃる通り、3社のご理解がなければ今回のスキームは実現しません。3社に代表される大口需要家の皆さまにとって、省エネ法の中で毎年1%ずつ省エネを進める努力義務があるわけですが、雑巾を絞りきった中での取り組みには限界があります。そうした中で、今回のような需要群をまとめて一括供給するスマエネでは、従来のように需要家単独で取り組むシステムに比べて、一気に2割もの省エネとCO2削減がかないます。
松本 そんなに削減できるものですか。
菱沼 そうなんです。ですので、今回のスキームに参画する意義も大きく、需要家の皆さまには実現に当たって大変多くのご協力をいただくことができました。
東京ガスグループの技術を結集させた大規模なスマートエネルギーネットワークの運用がスタートしている。内陸型工業団地としては国内最大規模を誇る栃木県・清原工業団地の一角で、カルビー、キヤノン、久光製薬の名だたる企業の工場や事業所に対して、スマエネを展開。エネルギー供給設備の中核を担うガスエンジンの発電設備の総計は約3万5000kWで、運用の実務を担っている東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)は、「東京・田町や豊洲で運用してきた従来のスマエネの規模とは桁違いに大きい」とする。
「競争力のあるエネルギーコスト、それから、とにかく安定供給を重視してほしい」―。そんな需要家からのニーズに応える大規模スマエネ運用の姿とはどういうものか。東京大学の松本真由美・客員准教授が現場を視察したほか、需要家と一体となってプロジェクト実現へとこぎつけた、TGES関係者の話をまとめたプロジェクトストーリーをお送りする。
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インタビュー/荒川涼(栃木県 環境森林部 環境森林政策課 環境立県戦略室 主査)
栃木県は製造品出荷額等が約9兆2000億円(2019年)と、ものづくりが盛んだ。それだけに産業・運輸部門などでのエネルギー消費量は多い。
にもかかわらず、県内の発電設備はさほど多くなく、05年度のエネルギー自給率は15%にすぎない。実際、東日本大震災の際には2日半もの間停電が発生し、その後も計画停電の対象になるなど、県産業および住民生活に多大な影響が及んだ。そのことから災害対応力を向上させるべく、他県の大規模電源に頼らない、分散型電源による県全体のレジリエンス化を模索していた。
こうした背景から、県はエネルギー安定供給の高度化や省エネ化を図るため「とちぎエネルギー戦略」を14年に策定。栃木県環境森林政策課環境立県戦略室の荒川涼主査は「本戦略ではエネルギーの地産地消、分散化、レジリエンス化など、さまざまな取り組みを掲げています。特に産業部門では分散型エネルギーインフラの導入促進を行うことで、地域のエネルギー利用を高効率に引き上げることも目指してきました」と話す。
県は今回の清原プロジェクト以前から、当地でエネルギーの高度化利用に向けた構想を描いていた。本構想は総務省が進め、地方公共団体が核となりエネルギーの地産地消を目指す「分散型エネルギーインフラプロジェクト」のマスタープランにも採択されている。
そうした中、本事業では、東京ガスグループも事業の内容を本インフラプロジェクトのマスタープランに沿うよう協力。県も工業団地で操業する需要家に対して今回の事業に参加するよう声掛けを行うなど、官民連携で取り組んだ。
今回の事業について荒川主査は「県のエネルギー自給率・レジリエンス強化に資するだけではなく、省CO2や省エネにも寄与します」と高く評価する。
そこで貢献するのが、都市ガスの導管網だ。栃木県には日立LNG基地から延伸するパイプラインがあり、道中の真岡市には都市ガスを燃料とする真岡火力発電所もある。荒川主査は「エネルギーの分散化を行うには都市ガスは非常に有用なインフラで、エネルギーの多重化はレジリエンス上でも非常に重要です」と話す。
また環境面についても「県内企業の持続可能な開発目標(SDGs)への取り組みの拡大にも役立つ事業で、環境省が掲げる、エネルギーや経済が地域内で循環する『ローカルSDGs』の考え方にも見合うものです。今回のケースはかなり大規模な案件ですが、より小さな規模でもいいので、同様の案件ができるよう、今後も県としても協力したいです」と話しており、第二の清原スマエネ事業に向けても県の期待は高い。
今後の脱炭素社会の構築に向けては官民が連携して取り組みを進めることが求められている。今回のような事例は、こうした世間の流れに沿う画期的なケースだ。
「コージェネによるスマートエネルギーサービスに、再生可能エネルギーを加えた発展型のサービスにも期待をしています。県としてもこのようなプロジェクトに参加する事業者数を増やしたい思いもあります。今回の事例を全国に発信していきます」(荒川主査)
街の再開発事業や大規模団地などの改修工事が、日本各地で活況を呈している。
こうした機会を活用し、新たなエネルギー技術・システムの導入が加速。
エネルギーの高効率化や環境負荷低減をはじめ、
暮らしの快適性や防災性の向上、また地域コミュニティの形成など、
街や住宅がより良いものへと生まれ変わっている。
さまざまな付加価値を創出する「再生」への取り組みを追った。
菅政権が宣言した「2050年カーボンニュートラル」の達成に向け、
エネルギー業界では電力の脱炭素化を探る動きが活発化している。
鍵を握るのが、再生可能エネルギーを最大限に活用できるか否かだ。
経済産業省は改正電気事業法に盛り込まれた特定卸供給・配電事業改革を軸に、
新たな分散型電力供給システムの構築に向けた制度議論に着手している。
「脱炭素」「デジタル化」「自由化」「分散化」という4つのDの改革の先に、
どのようなエネルギービジネスの変化が待ち受けているのだろうか。
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