SDGsに逆行の太陽光乱開発 笠間市で自然破壊の実態


茨城県笠間市で深刻な自然破壊を引き起こしている山間地メガソーラーの乱開発。地元の地権者や市政関係者、反対住民、発電事業者らの話を聞くため、問題の現場を訪れた。

崩壊部分は2次災害の可能性も(本戸不動坂地区)

北関東自動車道を栃木から茨城方面に向けて走ると、友部インターチェンジ手前の左手に、山の斜面に太陽光パネルが敷き詰められた光景が見えてくる。その山頂部は土砂が崩れ、茶色の地面がむき出しに―。ここが、笠間市本戸不動坂地区のメガソーラーだ。

運営するのは、地元ソーラー事業者のフレックスホールディングス。A社が開発した事業を引き継いだのだ。が、案件が悪かった。発電能力増強のため木々を伐採した敷地上部の斜面は、のり面保護などの対策が取られていない野ざらし状態。それが昨年秋の大型台風の影響で崩落した。土砂はパネルのない斜面の木々をなぎ倒し、下にある田んぼを埋め尽くした。

ややこしいことに、フ社が発電所を購入した際、この敷地上部の権利は引き継がれないままA社が倒産。放棄地となった同地は、崩壊から1年を経た今も雨が降るたびに土砂を垂れ流し、近隣の田んぼや道路に影響を与えている。

市は崩落部分の緑化を行う方針だが、その費用はA社に同地を提供した地主が負担することになるという。崩落現場を目にした地元の土木関係者は「大きな会社でなければ対応できない。土は栄養を含まない真砂土だろうから、相当の額がかかるのでは」と話しており、地主に大きな経済的負担が掛かることが予想される。この崩落事故についてフ社は、「A社と訴訟中のためコメントは控えたい」と回答している。

一方で置き去りにされているのが、被害のあった田んぼの地権者だ。「事故後、A社側からは何の謝罪もなかったようだ」と、地権者を良く知る住民は語る。さらに田んぼの補償責任について、市は「土地を貸与した地主と田んぼの所有者が費用負担する」と説明。このままだとA社は何の責任も負わず、地権者が泣き寝入りせざるを得ない恐れもある。

熱供給プラントで進む先進技術導入 遠隔監視・操作で設備運用の高度化


【東京都市サービス】

安定供給が使命なのは、発電所やLNG基地の運用だけではない。地域冷暖房プラントという大型設備を運用する事業者も同じだ。

新型コロナウイルスの感染防止のため、エネルギーを含む多くの業界で人が密集した空間をつくらないことが求められている。その解決策として、現場の省人化や省力化につながる遠隔監視・操作などのシステム導入は、有効な手段だ。首都圏19カ所で熱供給事業を展開する東京都市サービスも例外ではない。

一部では無人プラントも 運用の高度化に向け前進

同社は銀座2・3丁目地区を皮切りに、昨今の感染症対策より30年以上先駆けて中央監視装置を利用し、無人プラント設備の遠隔監視を行ってきた。しかし、当時の中央監視装置は、設備を監視する限定的な機能しか持ち合わせていなかった。

「IT技術の進歩・普及によって、より高度な遠隔監視が可能になりました」。エリアサービス事業部東京第2支店長の菊地昇次執行役員は説明する。2000年代に入り新規プラント建設や設備の更新時に汎用パソコンとウェブ回線を使った中央監視装置への更新を図り、設備の遠隔監視に加え、遠隔操作も可能になるようシステムを構築してきた。

同社はそれらの条件整備と並行して、各熱供給プラントをエリアごとの近接性などを考慮した五つのグループに分け、親プラントと子プラントに編成して管理。親プラントは24時間有人、子プラントは夜間などを無人にして親プラントから遠隔監視を行う。緊急時には親プラントから復旧操作などを行うとともに、必要に応じて現場作業員が駆け付ける体制が整えられている。

このような遠隔監視・操作システムのメリットについて菊地氏は、「安定供給を維持しながら限られた要員の効率配置が可能になります。平常時、非常時ともに少人数でも各拠点の情報を効果的に共有でき、トラブル時には本社からもアドバイスができます」と話す。さらに「当社のプラントの多くには大型蓄熱槽があり、これをバッファーにした熱供給システムと遠隔監視・操作とは相性が良い」と評価する。

コロナ対策に有効 新たな技術の適用へ

同社のこのような運用体制は、昨今の新型コロナ対策という新たな課題に対しても有効に働いている。万一プラント所員に罹患者が発生し、長時間プラント内への立ち入りが制限されたり、全所員が自宅待機となった場合でもこのシステムを活用して親プラントや本社から遠隔監視・操作することとし、そのための体制を準備するとともに試験を実施し、万全を期している。

とはいえ、東京都市サービスの取り組みはさらに続く。日々のプラント運用においては、効率的な運転や設備巡視など、現場での手動作業がまだ多い。

こうした点に対して、過去の需要動向や気象予測、熱電需要状況などの各種データをAIやIoTなどの新しい技術と組み合わせることで、より正確な負荷予測を行い、運転が自動化できるよう改良を施していく考えだ。また設備巡視においても、高性能・低価格化しているカメラ・センサーなどを活用することで代替できないか、検討・試験を進めている。

菊地氏は「制御技術向上のポテンシャルはまだまだあります。設備運用が次のステップに進むためには、設備設計の思想を抜本から変え、より高度な遠隔監視・制御システムを全てのプラントに標準装備して安定供給を支えていきたい」と展望を語る。

さまざまな設備群を遠隔監視している

【岩井茂樹参議院議員】科学的知見の積み重ねを


「多くの課題を解決できる」と政治家の仕事に興味を持ち、大手建設会社社員から転身。諸課題を抱えるエネルギー業界についても、「為せば成る」の信念で解決に向け突き進む。

いわい・しげき 1968年名古屋市生まれ。96年名古屋大学大学院工学研究科卒、前田建設工業入社。岩井國臣参議院議員秘書、富士常葉大学非常勤講師・主任研究員を経て、2010年の参院選で初当選。経済産業省、内閣府、復興庁の大臣政務官を歴任。当選2回。

もともとモノづくりに関心があり、名古屋大学では土木工学を専攻。大学院卒業後の進路は民間企業に就職するか、官僚の世界に進むかの二つに絞られたが、父・岩井國臣氏が建設官僚だったことも影響して、「父と同じ道には進まない」と、民間企業を選択。1996年に前田建設工業へ入社する。

会社ではダム建設に携わり、工事に伴う土地の改変を抑えるよう、伐採した樹木をチップ状に加工して植栽に再利用するなど、環境に配慮しながら進める最先端の作業に従事。サラリーマンとして充実した生活を送っていたが、転機が訪れる。参議院議員の父から、「活動を手伝ってほしい」と、建設業に通じていた自身に白羽の矢が立った。

その時は会社を半年間休職し、選挙応援に携わった。国土交通省や建設業界団体を回る中で、政治家の仕事について「多くの社会課題を解決することができること、また多くの人に感謝をされ、それが直に伝わってくるところに魅力を感じた」と興味を持ちはじめた。

2006年には本格的に政治家を志し、会社を退社。父の秘書として政治の世界に飛び込んだ。「政治家になれる保証はどこにもなかったし、収入の当てもない。今だったら絶対にやっていないね」と当時を振り返る。その後、09年には自民党の静岡県参院選挙区の第四支部長に任命され、同年行われた参院選に静岡選挙区から出馬。初当選を飾る。

これまで経済産業省、復興庁、内閣府の大臣政務官を務めたほか、参院では農林水産委員会と政府開発援助等に関する特別委員会の委員長を経験し、現在は農林水産委員会、決算委員会、政府開発援助等に関する特別委員会に所属。資源エネルギーに関する調査会では筆頭理事も務めるほか、党の水産部会長も務めるなど、経済を中心に、幅広い政策課題と向き合い続けている。

小資源国ならではのバランスが重要 柔軟な形で途上国の支援を

議員秘書と並行して静県内岡の大学で教鞭を振るっていたこと、また自身も建設業界に身を置いたことから、防災や国土強靭化分野への造詣も深い。「近年は台風や集中豪雨が大型化しており、これまでの災害対策を根本から考え方を見直す必要がある」と、町づくりや国土の在り方を見直すことを訴える。「コロナ禍により、これまで指摘されていた医療問題や一極集中の問題が浮き彫りとなった。こうした問題を変える機会と捉えて、チャレンジしたい」と意欲を示した。

エネルギー問題を議論するうえで重要なことについては、「コロナ禍で盛んに議論されているように、アクセルとブレーキをどう踏み分けるのかが重要だ」と説く。

「ブレーキ役の環境省が所管する原子力規制庁と、アクセル役の経済産業省・資源エネルギー庁という二つの部署があるが、対となる両者を上手く動かすことが政治の役目。原発に関する諸課題も、善悪の二極論で終わらせるのではなく、科学的な根拠を積み重ねることが重要。また俯瞰して物事を見つめることが、バランスあるエネルギー政策につながる」

欧州を中心に批判にさらされる石炭火力に関しても、「石炭火力をすべて廃止するのは非現実的」という。「海外では依然として電気にアクセスできていない無電化地域が多く存在し、石炭でしか電化を行えない国がある。また日本としては安全保障上、ASEAN諸国と連携する必要がある。そうした国の事情に合う支援として、日本の高効率石炭火力を輸出することは有効だ」と指摘。「まずは石炭火力を提供し、将来的に再エネシフトを支援するなど、柔軟な支援の仕方もある」と、新しい形の政府援助も必要と語る。

また経産大臣政務官を務めていた当時にドイツで開催された先進国首脳会議に出席し、ドイツ北部で進む北海沿岸の洋上風力発電事業を視察。「これはすごい」と感銘を受けた一方で、「吹いている風や遠浅な適地が少ないという条件を考慮すると、日本で同じことができるとも限らない。小資源国日本にはベストミックスの考え方が当面は必要で、太陽光発電を支える蓄電池などの技術の進歩や、系統の運用方法をはじめとする制度面の整備を進め、電源構成の比率を変えていくことが現実的だろう」と、適切なエネルギーミックスを設定する難しさも実感したという。

〝保守一徹〟という言葉を政治信条に掲げる岩井氏の座右の銘は、藩政改革を成し遂げた江戸中期の大名・上杉鷹山が残した「為せば成る。為さねば成らぬ何事も。成らぬは人の為さぬなりけり」という言葉。「保守と改革という言葉には異なるイメージがあるかもしれないが、変えるべき点では共通している」と、鷹山の言葉が心に染みたそうだ。

エネルギー、経済、防災、農水業と、いずれも課題の多い困難なテーマだが、「為せば成る」の信念で取り組んでいく構えだ。

〝ニューノーマル〟時代に挑む 風水害を想定した防災訓練


対策本部ではコロナ禍を踏まえた対策もとられていた

「当社は風水害対応の経験が浅い。イマジネーションを働かせながら、これで本当にいいのかを考えながら対応してほしい」。防災訓練の冒頭に内田高史社長はそう決意をのぞかせるなど、東京ガス史上初めての試みに、会議室は独特の緊張感に包まれていた。

東京ガスグループは7月31日、総合防災訓練を実施した。これは1983年から毎年実施している訓練で、これまでは主に地震を起因とした災害対応を想定したものだった。

しかし、昨年襲来した台風15・19号や、今年の九州・中部地方、山形県での豪雨など、異例の大規模水害が多発していることから、今回の訓練では台風による風水害を想定。また、今年に入ってからは新型コロナウイルスの感染が拡大している。このため、参加者は全員がマスクを着用し、本部に置かれたデスクには一人のみ着席。マイクスタンドの前に飛沫防止のプラスチックスタンドを設置するなど、密空間を避けるコロナ対策を訓練に取り入れた。

風水害独自の対応も 情報提供に大きな課題

訓練のシナリオは、台風15号に匹敵する超大型台風が関東に上陸。その影響で多摩川、荒川の両河川が氾濫し、ガバナステーションがいくつも停止したことで、約6万件にも及ぶ都市ガス供給が停止したというものだ。

地震と風水害時の違いについて、同社担当者は「地震と異なり、台風や水害は起こる前から考えることができる」と説明。台風特有の事前策として、安全な機器の使用方法の周知や、ガバナステーションなどガス設備の浸水対策、LNG船の配船日程の調整などを実施する。また新型エネファームの設置宅には、搭載されている停電時起動機能を知らせるメッセージをSNSなどで周知するという。

さらにコロナ対策として、衛生資材の事前確保のほか、緊急要員の宿泊施設では密を回避するために個室を選択。またメディア向けにはウェブ会議を用いた会見を開くなどして、ソーシャルディスタンスの確保に努める。

同社は風水害対応の難しさについて「地震時と本質的にやることは変わらないが、ガス供給は水が引かないと復旧工事を行うことができない」と指摘。昨年の台風19号襲来で発生した長野県千曲川の氾濫でも、導管に水が入り込んだために長期間にわたりガス供給がストップした地域があった。「昨年の台風15・19号で当社も風水害を経験したが、内田が話していたように、そこまでの知見は持っていない。今後も対策を練っていきたい」と、引き続き議論を進めていく構えだ。 大型災害が毎年頻発する〝ニューノーマル〟の時代にどう対応するか、各社の技量が試されている。

上流業界が発表した温暖化対策目標への疑問


【ワールドワイド/コラム】

エクソンモービル、シェブロン、BPのようなオイルメジャーから、中国石油天然気集団、サウジアラムコといった国営石油会社など、上流大手12社から成る国際組織「石油・ガス気候イニシアチブ(OGCI)」。同団体は7月16日、温室効果ガスの削減目標を策定したと声明を公表した。

これは石油・天然ガス事業における平均炭素強度(排出量)を、2025年までに石油換算バレル当たりCO2換算20〜21kgへ引き下げるというもの。17年の平均炭素強度が同23kgだったことから、今後5年で同2〜3kgの削減を目指している。

数値目標について、声明は「パリ協定の目標をサポートするために、石油・ガス業界全体が取り組む削減量である『年間3600〜5200万t(CO2換算)』と一致している」と説明。これは400〜600万世帯が年間にエネルギー使用時に排出するCO2量と同等で、今後の展望についても「LNGにおける平均炭素強度も含めて取り組んでいきたい」とさらなる意欲を示した。

しかし、この削減目標に対して「甘い」との指摘も多い。ロイター通信によると、サウジアラムコの年次報告書では、19年の上流事業における炭素強度は同10.1kgと既に目標を達成済み。またノルウェーのエクイノールは25年までに同8kgまで引き下げると明言するなど、OGCIに参加する企業の中だけを見ても、今回掲げた目標よりも高い水準を既に目指している企業は多い。

さらに同通信によると、世界における平均炭素強度は同18kgとのデータもあるそうだ。業界大でアクションを起こしたことに意義はあるとはいえ、この削減目標では業界全体の脱炭素化に対する熱意を疑われても仕方がないかもしれない。

大統領選後を占う二つの文書 野心的な環境政策を公表


【ワールドワイド/環境】

米国大統領選まであと3カ月を残すのみとなった。

民主党の候補指名が確実となっているバイデン前副大統領は世論調査で現職のトランプ大統領を一貫してリードしており、政権交代の可能性が現実味を帯びている。バイデン政権が誕生した場合の政策の方向性を占う上で、参考となる動きが最近二つあった。一つは民主党が多数を占める下院気候危機特別委員会の報告書で、もう一つはバイデン・サンダース合同タスクフォースの提言である。

6月末に採択された特別委員会報告書では、2050年よりも遅くない時期にエコノミーワイドでのネットゼロエミッションを目指し、21世紀後半にネット・ネガティブエミッションを目指すとの長期目標が掲げられた。40年までに電力部門のネットゼロエミッションを達成すべく、電力会社にクリーンエネルギー基準(風力、太陽光、原子力、水力、CCS付き化石燃料発電)を設定。鉄鋼、アルミ、セメント産業などには、生産量当たりの排出量基準を課し、基準値を正味ゼロに向けて徐々に強化を行い、排出の海外移転を避けるべく国境調整メカニズム(輸入関税と輸出補助金)も併用する政策も含まれている。報告書に盛り込まれた政策を実施すれば、30年には05年比で40%、50年に88%の削減が可能との試算もある。

大統領候補指名を争ったサンダース陣営を取り込むために設置された合同タスクフォースには、オカシオ=コルテス下院議員や気候変動問題を強く訴えるサンライズ運動の創始者であるプラカシュ氏が参加。提言には遅くとも50年にエコノミーワイドでネットゼロエミッション、35年までに発電所のCO2排出ゼロ、30年までに全ての新築建築物の排出量をネットゼロ、低排出・ゼロエミッション車の購入支援、脱炭素化に向けた技術開発支援が盛り込まれた。

目標が野心的である一方、達成手段については原子力、CCS否定のサンダース色が薄められている。またパリ協定への再加入や、COP26に向けより野心的な30年目標を設定し、他国にも引き上げを働き掛けるという。

政策の方向性としてはEUに非常に近いものとなり、日本の政策検討にもさまざまな影響をもたらすだろう。ただ多くの米国人は温暖化対策への追加的なコスト負担には後ろ向きで、実際の施策では公約と峻別した分析が必要だ。

有馬 純/東京大学公共政策大学院教授

ASEANで進む再エネ開発 経済復興策として大きな期待


【ワールドワイド/経営】

ASEANでは、域内の一次エネルギー供給量に占める再生可能エネルギーの比率を2025年までに2025年までに23%にする目標を定めている。目標達成は困難との見方が支配的であったが、近年の再エネコストの低減により、電源計画上の位置付けが見直されつつある。さらに最近では、コロナ禍により疲弊した経済の復興策(リカバリーショット)としても再エネ拡大に期待が集まっている。

この目標は、パリ協定と並行する形で15年にASEAN加盟国の会議で策定されたものだが、現実にはコストという壁に阻まれ、その後も石炭火力を中心とした電源開発が進められてきた。このため域内の再エネ比率は、17年時点で13%程度にとどまっており、多くは従来から利用されてきたバイオマスや水力によるものである。

しかし太陽光・風力発電開発コストの下落で、海外投資に活発な動きを見せている中国やシンガポール系の事業者に加え、国内投資に注力してきたタイやフィリピン系事業者もASEAN域内での再エネ開発に乗り出している。最近ではマレーシアやカンボジアにおける太陽光発電の落札結果が石炭火力よりも安価となるなど、途上国にとって手が出ない「高価な再エネ」との見方が一転、現実的に導入可能な域に到達してきた。

こうした中、再エネ供給力拡大の動きはASEAN地域全体に波及し始めており、長期電源開発計画を見直して化石燃料を用いる電源計画を下方修正し、再エネ増設にかじを切る動きも見られるようになってきた。

再エネ拡大に拍車を掛ける可能性があるのが、皮肉にもコロナ禍である。各国の経済活動が大きく停滞しているが、国際エネルギー機関(IEA)は、経済の立て直しに当たっては、再エネ開発による雇用創出および温室効果ガスの排出量削減に焦点を当てるべきと各国に投資を呼び掛けている。

数十万人という失業者が発生したミャンマーは、雇用創出で経済復興させる狙いで、全国で大規模太陽光発電の公募(計200万kW規模)を実施。マレーシアは既に世界3位の太陽光パネル製造国となっており、諸外国の製造拠点としてタイ・ベトナムも存在感を増している。今後、リカバリーショットの効果が期待される。

ASEAN諸国は、バイオエネルギー、地熱、水力、太陽光、風力といった豊富な再エネ資源を最大限に活用し、その比率を高めていく政策を打ち出している。今後の再エネ開発にどう影響を及ぼすのか、動向が注目される。

柳京子/海外電力調査会調査第二部

資源大手が仕掛ける上流再編 業界大でエネルギー転換が加速


【ワールドワイド/資源】

7月20日、米系メジャーのシェブロンが独立系上流開発企業ノーブル・エナジーの発行済み株式を50億ドルで取得すると発表した。ノーブルは1932年にオクラホマ州で原油生産を始め、1990年代以降は赤道ギニアや東地中海など海外に進出。近年では米国シェールが主要事業になっているが、株主総会で承認されれば負債を含め企業価値130億ドルの買収が年内に実現する。

シェブロンが仕掛ける業界再編といえば、昨年4月に500億ドルで同じく独立系のアナダルコ・ペトロリアムを買収しようとしたことが想起される。日本が平成から令和に代わる連休中にオクシデンタル・ペトロリアムから570億ドルをカウンターオファーされ買収を断念した。オクシデンタルは高利回りのハイイールド債を発行するなど資金調達に奔走し買収したが、結果的には油価下落により所期の合併効果を達成することの難しさに直面している。

シェブロンは違約金10億ドルを受け取り1年間じっと待ったところ、ノーブル買収の機会に接したわけだ。アナダルコに比べ小ぶりながらも割安な対価で良質の上流資産を積み増すことになる。

石油メジャーのシェブロンといえども、新型コロナウイルス感染拡大による需要の減少、ならびにOPECプラス協調減産の綻びによる供給過剰の影響を受け、油価見通し引き下げに伴う減損発生により7月末に発表された第2四半期決算では83億ドルの損失を計上している。

低炭素化に向けたエネルギートランジション(転換)が業績回復の道程に影響を及ぼす中、シェブロンは今年3月に発表したESG(環境・社会・企業統治)戦略の柱となる取り組みとして温室効果ガスの排出削減・CO2の回収および貯留技術に対する開発投資を掲げている。

こうした取り組みはシェール開発を継続するために不可欠だ。ノーブルを買収することにより、投資から回収までの期間が短いシェール資産を積み増すのは、エネルギー転換とも整合的と考えられる。

気候変動・低炭素化に向けたエネルギー転換と石油・天然ガスの安定供給のバランスを取ることの難しさは、新型コロナ感染拡大を巡る議論における医療と経済の複雑な関係と共通する点が多い。

パンデミック下でショートサイクルを中心に上流資産の積み増しを進める姿から、2050年頃までを視野に入れたメジャー企業のエネルギー転換戦略が浮かび上がってくる。

古藤太平/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部担当審議役

茨城沖・油ガス田の真相 大手メディアは空騒ぎ


「茨城沖に海底油田か」。大手新聞のニュースは瞬く間に全国に拡散し、地上波各局も多くの時間を割いて報道した。だが、この過熱ぶりには裏がある。

記事の情報元は北海道大学と茨城大学の研究チームが7月に公表した論文。だが、その内容は茨城県北部の景勝地・五浦海岸にある岩を解析したところ、天然ガス由来のメタンが含まれており、岩の生成に必要な量から推定して「1650万年前に大型油ガス田があったのでは」というもの。論文や記事で「海底油田がある」とは一言も書いていないが、電子版で掲載する際に見出しを改変したため、大騒動に発展した。

研究に参加した茨城大の安藤寿男教授は「国内の資源開発が進むことを祈って茨城沖が資源探査の対象地と触れはしたが、この報道ぶりには驚いた。とはいえ、多くの人が資源開発に興味を持ったという点では良い機会かもしれない」と前向きにとらえている。

しかし、そんな想いとは裏腹に、ある名物評論家は「石油はいらなくなるから採掘は無駄」とテレビ番組で叫んでいた。メディアの不勉強にあきれた関係者は多い。

アラムコが石化大手の株取得 価値下落も目標達成の一助に


【ワールドワイド/資源】

サウジアラムコは6月17日、サウジアラビアの公的投資基金(PIF)から、同国石油化学大手SABICの株式70%を691億ドルで取得する取引が完了したと発表した。資金は2028年4月までに年1回ずつ、9回に分割して支払う予定だ。

今回のSABIC株式の買収は、昨年3月に当初合意した1株当たりサウジアラビア・リヤル(SR)123.39(32.90ドル)で実行された。しかし、SABICの株価はコロナ禍の影響などで下落し、6月17日の株価(終値)はSR89(23.73ドル)と、アラムコの支払い額の72%のレベルに落ち込んでいた。アラムコが新たに取得した株式は500億ドルの価値しかなく、約190億ドル(38%)の評価損となる。

買収に際してアラムコは、価格の引き下げ交渉を行った模様だが、最終的に当初合意額での買収で決着した。これは長期国家戦略「ビジョン2030」の牽引役と位置付けるPIFに、最大限の資金調達をさせたい政府の意向が反映されたものとみられる。

一方で、アラムコは今回の買収を「世界的な石油化学メジャー」へと変貌する「重要な一歩」と位置付けている。同社アミン・ナセルCEOは「当社の原油生産および化学品の原料の生産をSABICの化学品プラットフォームと戦略的に統合することで、成長を支える大きなシナジーを創出する」と語る。今回、SABICの新たな会長にアラムコの上級副社長が就任し、同社上級役員2人がSABICの取締役会に参加。SABICは資本・経営両面でアラムコの支配下に置かれることになった。

アラムコはビジョン2030の資金供給源としての役割も期待されており、サウジ証券取引所への株式公開に伴う資金調達額は、追加放出分も含め294億ドルに達した。ただ、アラムコの時価総額は足元で、19年12月の上場直後に付けた最高水準より2割安い約1.7兆ドルと、ムハンマド皇太子が主張した「2兆ドルの価値」を大きく下回っている。計画にあったアラムコの海外上場は一段と遠のいたとみられている。

アラムコは企業価値を高め、投資家の離反を招かないためにも、今年約束した年750億ドルの配当を確実に実行する必要がある。だが今回の買収合意で、PIFへの最終的な支払期限を当初予定の25年から28年に3年延期することができた。そのため、今年のアラムコのキャッシュフローは改善し、配当原資の確保が見通せるようになったものとみられる。

猪原渉/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部

インフラ投資で再起を計る中国 電力会社もデジタル活用に注力


【ワールドワイド/経営】

中国では、次世代デジタル技術の活用を主軸とする「新型インフラ建設(通称:新基建)」という用語が最近、頻繁に使用されている。

さらに、新型コロナウイルス感染症まん延の影響で開催が延期された全国人民代表大会(2020年5月22〜28日開催)で、新型インフラ建設が政府活動報告に初めて含まれたことから、感染収束後の景気刺激策としても高い関心が寄せられている。

「新型インフラ」の対象となるのは、一般的に主要7領域(①第5世代移動通信(5G)、②超々高圧送電線(UHV)、③高速鉄道・都市鉄道、④充電スタンド、⑤ビッグデータセンター、⑥人工知能(AI)、⑦産業インターネットとみなされている。中でも、電気事業に関わりの深い5G、UHV、充電スタンド、ビッグデータなどが含まれることから、2大送配電事業者はこの具現化に注目しており、既に動き出している。

例えば、中国全土の88%を供給区域とする世界最大の電気事業者である国家電網は、20年にUHV分野に1811億元(約2兆7000億円)を投資。さらに充電スタンド分野に27億元(約410億円)を投じて7万8000台の新規充電スタンドを整備する方針を表明した(19年末時点で国家電網が運営中の充電スタンドは9万5000台)。

また同社は、7領域の中で5G、ビッグデータなどを中心とした「デジタル新型インフラ」についても、6月15日に10項目の実施計画を明示するとともに、IT大手のファーウェイ、アリババ、テンセント、百度と戦略的協力協定を締結した。本分野における関連投資は、20年だけで約247億元(約3710億円)に上ると想定されている。

また、国家電網に次ぐ送配電事業者である南方電網も、クラウドコンピューティング分野で世界第3位のアリババcloudと連携して、20年3月にAIを活用した電力需要想定実験に成功している。また、充電スタンド分野では、同年1月に同社の管轄区域である南部5省で運用していた7種の充電アプリを統合し、利用登録者を30万人から47万人へ大幅に増加させた。さらに、同社は今後4年間で251億元(約3800億円)を投じて充電スタンドを現在の3万1000台から38万台とするという計画を公表している。

一足早く感染流行から脱しつつある中国の出口戦略において、電力業界がどのような役割を果たしていくのか、今後も目が離せない。

工藤歩惟/海外電力調査会調査第一部

脱石炭法を可決したドイツ 数千億円を事業者に補償


【ワールドワイド/環境】

7月初め、ドイツ連邦議会は脱石炭法を可決した。これは2019年初めに「石炭委員会」が提出した38年石炭フェードアウトを政府が法律化したものだ。

同法によれば22年末までに石炭火力、褐炭火力の設備容量を19年時点の43.9GW(1GW=100万kW)から30GWに、30年に17GW、38年にフェーズアウトを完了することとされている。30年、38年の目標値に向け、石炭火力の閉鎖が順次行われるが、28〜29年、34〜35年、38年には大規模な閉鎖の波が来ることになる。また26年、29年、32年には進捗状況のレビューを行い、35年にフェードアウトを前倒しできないかを検討する。

法案審議においては、環境NGOが石炭火力廃止を行う電力会社への補償金支払いを強く批判した。再エネ拡大と天然ガス価格低下により石炭火力の採算は大幅に悪化しており、補償金の支払いはかえって石炭火力の寿命を延ばすことになるというのが理由だ。他方、エネルギー多消費産業からは石炭委員会の提言に含まれていた電力料金上昇に伴う補償措置が含まれていないと批判をしてきた。

採択された脱石炭法では、電力会社に対して合計43.5憶ユーロ(約5260億円)の補償金、炭鉱や発電所で早期退職を強いられる人向けに48年までに50億ユーロ(約6000億円)、を支払うこととされた。また電力料金上昇の影響を受けるエネルギー多消費産業に対しては「妥当な」水準の補償金を支払うとされているが、その詳細は今後定められる。

ドイツの法案採択とほぼ同じ時期に、日本でも梶山弘志経済産業相が30年までに国内にある非効率石炭火力100基を、30年までに休廃止させるとの方針を打ち出した。今後、休廃止を促す具体的な手法を詰めることになるが、日本の産業用電力料金はすでに世界でも最も高い部類に属する。原子力に代わって安価で安定的な電力供給を担ってきた石炭火力をフェードアウトすれば、原子力の再稼働が加速しない限り、電力料金上昇につながる可能性が高い。

ドイツの場合、産業競争力を維持すべく、再エネ賦課金も含めて家庭部門が政府の温暖化対策の負担を担ってきたが、日本の場合、電力料金上昇は家庭部門に加えて産業部門も直撃する。休廃止に当たっては原発再稼働の加速による電力料金上昇の防止、電力料金上昇時の補償措置などが必要だろう。

有馬純/東京大学公共政策大学院教授

ウォーレン・バフェット氏が天然ガス事業を買収


【ワールドワイド/コラム】

世界最大の投資ファンド「バークシャー・ハサウェイ」を率いるウォーレン・バフェット氏は現地時間7月5日、総合エネルギー企業の米ドミニオンエナジー社の天然ガス輸送事業を97億ドル(約1兆400億円)で買収した。

同社資産には天然ガスパイプライン、貯蔵施設、コーブポイントLNG基地の権益も含まれており、パイプラインの総延長は7700マイル(約1万2400km)にも及ぶ。また天然ガスの輸送能力は日量約208億立方フィート、貯蔵能力は約9000億立方フィートと、壮大なスケールの買収劇である。

露・スプートニクは買収の目的について、米TV局のインタビューを引用し「今後は世界の自動車市場は電気自動車に移行する。これに伴い発電所で使用される天然ガスの需要が伸びると見込んでいる」と指摘。また英・ロイターも、世界的に需要減が見込まれる化石燃料の中でも石油・石炭と比べ、比較的クリーンなエネルギーである天然ガス・LNGの需要が堅調に推移すると見込まれていることから、「中長期的には天然ガスやLNGの輸送需要は相対的に伸びていく」と予想する。また買収価格についても、ガス価格の下落などで資産価値が低迷していたことから「お値頃感があり、今後のガス価格次第では相当なリターンがあるのでは」と買収を高く評価している。

エネルギー需要の回復には新型ウイルスの感染終息が不可欠だが、世界的にその兆しは一向に見えていない。こうした情勢を踏まえて、国際エネルギー機関(IEA)をはじめとする世界各国の調査機関は、石油・天然ガス・石炭ともに長期的な需要減を見込んでいる。今後、超大物実業家が思い描いた通りの世界になるのか、要注目だ。

編集部

【高橋はるみ参議院議員】バランスの取れた電源構成を


「北海道をより良くしたい」との思いで、経産官僚から北海道知事に転身。知事時代にはブラックアウトも経験。培った知見を還元すべく、舞台を国政に変えた。

たかはし・はるみ 1954年富山県富山市生まれ。76年一橋大学経済学部卒業後、通商産業省(当時)に入省。84年大西洋国際問題研究所研究員、2001年北海道経済産業局長、02年経済産業研修所長を経て、03年から北海道知事。19年7月に参院選に出馬し初当選。当選1回。

出身は富山県富山市。北陸地域で都市ガス事業を営む家庭に育った。「政治家志向はなかったですね」と振り返る高橋氏は、1976年に一橋大学経済学部を卒業すると、通商産業省(現経済産業省)に入省する。当時は度重なるオイルショックの経験から石油代替エネルギーへの転換を図っていた時期。一時、資源エネルギー庁にも身を置いた際には、関連法案の作成にも携わった。

その後はパリにある大西洋国際問題研究所の研究員、中小企業庁を経て、2001年には北海道経済産業局長に就き、北海道の地に立つ。夫の出生地であり、広がる大自然、豊かな観光資源など、ポテンシャルを秘めた北の大地に触れたことで「北海道をもっと元気にしたい」と、政治家への道を決心する。

03年4月に北海道知事選に出馬し、大混戦の中で当選。知事職を4期16年務め上げると、「これまで培ってきた知識、経験、人脈を役立てたい」との思いで、19年7月の参議院選挙で北海道選挙区から出馬。当選を果たし舞台を国政に変えた。

永田町では参院の予算委員会や経済産業委員会、資源エネルギーに関する調査会に所属。「コロナ禍で世の中は大きく変わっている。テレワークなどが浸透し始めており、人々の志向は大都市から地方へと明確に変わってきている。都心に住む人々の意見をキャッチし、人々の流れを地元に持っていくことが地方創生につながる」と、地方創生、スマート社会を構築する「Society 5.0」などのテーマにも強い関心を寄せる。しかし政府のデジタル化の遅れが深刻なため、こうしたニーズを遮るのではないかと問題意識を持っている。

「デジタル化を進めることは地方創生にもつながる。次世代通信規格の5Gの利用も始まったが、その先の『6G時代』も見据えた、一歩先の国家像を考えていく必要がある」

衝撃的だったブラックアウト バランスの取れた電源構成を痛感

知事時代には、北海道胆振東部地震により、道内の電力供給で大きな役割を担っていた苫東厚真発電所が停止。これに伴い系統の周波数が急落し、北海道全域が停電するブラックアウトが発生した。最大震度7の地震について「個人的にも衝撃だった。あの日のことは忘れられない」と、道政の責任者として、事態収束に向けて奔走した。

北海道の電力レジリエンスを担い、道内と本州の電力ネットワークをつなぐ「北本連系線」の増強についても、道民の負担が大きくならないよう道庁事務局と議論。再エネの宝庫である北海道の電源を本州に送るという方向性で議論を進め、全国で建設費用を負担するよう方向付けた。これについて、当時経産相だった世耕弘成氏と議論を交わしたという。

18年には関西地方において集中豪雨が発生し、翌19年には台風15・19号が東日本を襲った。このように頻発する大規模災害への対策として、6月に電気事業法、再生可能エネルギー特別措置法、石油天然ガス・金属鉱物資源機構法の3法を改正する、エネルギー供給強靭化法が国会で成立。これらが今後、重要な役割を果たすと期待している。

「胆振東部地震では、電気供給の根元である発電所が停止したが、昨年の台風15号における千葉の停電では、枝葉の部分である電柱や送電線が倒壊した。大型災害が頻発し、さまざまな対応が求められる中で、こうした法案が成立したのは喜ばしいこと」

太陽光、風力、バイオマスなど再エネ電源が多く立地する北海道で、重要な電源ではあるものの、「主力電源にするにも、再エネ適地の送電網は貧弱。課題解決に向けて、今後も技術研究を後押しする必要がある」と指摘。

一方で、数十年に一度の災害が頻発していることから「温暖化対策は待ったなしだ」と危機感を募らせる。「CO2排出を根本から止める技術の開発や、地域の理解と安全性の確保が大前提だが、原子力発電所の再稼働も含めて、安定供給を達成できるバランスの取れた電源構成を目指す必要がある」と話す。

政府は、発電効率が悪い旧式の石炭火力発電所のフェードアウトを目指すとの方針を打ち出した。しかし、石炭火力とともにベースロード電源である原子力発電の再稼働も進んでいない状況下での石炭火力停止は、安定供給の観点からやりきれない思いもあるそうだ。

「反対もあるが、資源の賦存状況や費用の安さのため、世界には石炭に頼らなければならない地域もある。国内の旧式設備を最新鋭の設備に置き換えること、日本が持つ最先端技術を新興国に提供することも必要な視点だ」

座右の銘は「何事も一生懸命にやる」。参議院議員となり約1年が経過したことについては「当然ながら違いは大きいが、毎日が楽しい」と、1年間を振り返る。明るい人柄で逆境をはねのけ、北海道のみならず日本全体を明るく導きたいと言う。

複雑化する電力業界の課題解決へ 先回りしたソリューションを提供


【電力中央研究所】

電力業界の価値向上に資する技術を研究する、エネルギーイノベーション創発センター。 複雑さが加速度的に増す業界のニーズを拾い集め、先回りして新技術を提供する。

芦澤正美
一般財団法人電力中央研究所 エネルギーイノベーション創発センター(ENIC)所長
あしざわ・まさみ 慶應義塾大学大学院理工学研究科機械工学修了。1988年電力中央研究所入所。火力分野でIGCCやバイオマス研究に携わり、企画グループを経て、2020年6月から現職。

――エネルギーイノベーション創発センター(ENIC)設立から約4年になります。

芦澤 電力システム改革など電力業界の事業環境が大きく変化する中、需要家部門と配電部門に軸足を置き、原点の設立意義を見つめながらデジタル技術を駆使した成果を創出すべく活動してきました。

 この間、脱炭素化ニーズの高まりもあり、FIT制度のもと、とりわけ太陽光発電の導入が進みました。より複雑化する課題を整理し方向性を見定め、さらに飛躍すべき段階に入ったと考えています。

――複雑化する課題について、どのように捉えていますか。

芦澤 ENICでは、エネルギーポートフォリオのイメージ図を描き、「需要家の電化」、「発電の低炭素化」、「電力ネットワーク(NW)の高度化」の三つを進めていくことが重要と捉えています。

 需要家においては、ヒートポンプや電気自動車などが普及してきていますが、引き続き業務・産業部門などの電化を促進することが重要です。一方で、発電は需給バランスを満たしつつ、既存電源と再エネを上手く共存させ、低炭素化を進めることが求められるでしょう。将来的に再エネ電源が大半を占めるようになれば、電気を水素などに変換する「Power to Gas(P2G)」も視野に入るかもしれません。そうした場合、再エネ電力を最大限活用するためにセクターカップリングの重要性がより高まります。この需要家と発電をつなぐ重要な役割は電力NWが担っています。昨今では需要家が売電を行うプロシューマー化により、電気の潮流が双方向となり、ICTを活用した需給の柔軟性向上、自然災害時のレジリエンス強化などが求められています。

――エネルギーポートフォリオの中で、ENICはどういう役割を担っていますか。

芦澤 先の三つは相互に依存しているため、足並みをそろえて進めることが重要です。例えば、需要家の電気利用機器を増やし、ピークシフトなど、電力需要をスマートに変化させられれば、再エネの変動に対応できる容量と手段が増えることになり、再エネの発電機会や導入量を拡大できます。このとき、電力需要や再エネ出力の正確な予測、VPPの実現など、複雑化する需給バランスをマネジメントできる電力NWが必要です。

 この中で、ENICでは、「電化の促進」「配電系統のスマート化」「デジタル技術の活用」の三つの役割を担っています。