系統制約のある箇所でゾーンを形成したり、LMP方式を導入したりすることで、系統制約費用を節約することができる。LMP方式を導入する場合、自己給電方式から中央給電方式へ移行する必要があり、送電系統運用者(TSO)であるNESO(National Energy System Operator)は、2022年3月に中央給電方式を含むLMP制度への移行を電力業界に提案し、対話を進めてきた。そして同年7月の政府の電力システム改革の提案「REMA(Review of Electricity Market Arrangements)」でも、これが選択肢として採用され、正式に議論を進めることになった。
A 資源エネルギー庁の検証取りまとめ案では改革の三つの目的に照らしてそれぞれ良い面も悪い面もあったとしており、これはその通りだ。例えば安定供給に関しては目標が達成されている面もあれば、火力の稼働率低下などの大きな課題もあり、一長一短の評価となっている。ただ、これを受けて具体的に政策をどうしていくかという段階においては、やや心配な気持ちもある。
B 検証の期間中に首相交代があり、エネルギー基本計画の議論と同時並行で具体論に踏み込みづらい状況であったにせよ、1年もかけて検証したのだから、目をつぶりたくなる部分も深掘りしてほしかった。特に小売価格の低減に関してはお茶を濁すようなまとめ方になっていた。明確に「下がっていない」とは言えない政府の事情も分かるが、なぜ下がらなかったのかを分析し、これから下げるためにどうするかを議論すべきところで、非常に残念だった。現状は、総括原価と地域独占をやめた中でなるべくしてなった形。安定供給より競争を優先し、それに伴うリスクが顕在化しただけということだ。
C 東日本大震災が起き、広域融通ができないといった問題意識からシステム改革が始まったが、これは2020年の発送電の法的分離で一区切りついたはず。その後、さまざまな市場が創設されたが、こちらはシステム改革とは違うフェーズに入ったものと理解している。今回の取りまとめは、20年から5年間の振り返りが中心という印象だ。市場が乱立し、それぞれの市場で価格のボラティリティが増加、野放図に参入した新電力の相次ぐ撤退―といった状況をいかに整理し、どう再構築するかが今後のメインテーマだろう。特に安定供給確保の観点で、市場原理を活用するという方針を堅持しつつ、課題を解消できる制度設計に今後入ることになる。
B 検証の中でロシア・ウクライナ戦争が大きなパートを占めているのも、そうした背景があったからか。つまり市場をリスクにさらしていた中で戦争が重なり、電力価格の高騰や新電力の撤退、そして最終保障供給への駆け込みなどが起きた。確かにとてつもない有事だったが、小売りが自由化されていなければあれほどの事態にはならなかったのではないか。そうした検証もなされるべきだった。
A そもそもシステム改革は三つの目的のためというより、東日本大震災が起き、東京電力を中心とした電気事業連合会の牙城が崩れたことで、エネ庁主導で電力システムの社会実験を行ったという側面が強い。本来はそれが奏功したのか否かを検証するべきだ。いずれにせよ、社会実験をするには環境が悪すぎた。そもそも最悪の事態も想定して始めるべきだったとは思うが……。
C 大手電力目線で考えると、非対称規制の問題は大きい。新規参入者は大きな責任を負わず、問題が起これば大手電力の負担で吸収する。他国のケースを見ても自由化当初にこのような制度になることはある程度仕方がないにせよ、どう出口に向かうのかが難しい。例えば経過措置料金解除の条件はなかなか実現しない。新電力の責任もあいまいなままで細切れの改革に終始し、皆が不幸な状況だ。
A そもそも、日本で競争を起こすために根本的に何をすべきかという議論が欠けていたのではないか。PJM(米国北東部の地域送電機関)はもともと市場支配力のある事業者が存在しない中で機能しているし、英国では自由化の際に国有電力会社を分割・民営化するなど、競争が働く仕組みを入れている。しかし日本は大手電力を残したままどころか、逆にJERAのような支配力を強める会社を生み出した。これはシステム改革の目的に照らせば逆行している。初期からもっと深く議論しておけば、パッチワークにならずに済んだのではないか。