【特集1】政治介入で「市場価格」が壊されていく 4年も続く異常な燃料油補助


新型コロナ禍以降、市場原理よりも政治力学が優先し、市場がねじ曲げられている。
求められているのは、正常な価格形成に戻す覚悟と持続可能な経済の道筋を示すことだ。

「まぁ政治ですな、これは……」。自民党の経済閣僚経験者が漏らした言葉に、エネルギー補助金の本質がにじむ。

2022年1月に「激変緩和措置」として始まったガソリンなど燃料油への補助金は、世界的な原油高騰や円安、そして政局を巡る駆け引きに翻弄されながら、4年以上続く「恒久的措置」に変質した。その場しのぎの対応、中長期的視点の欠如、ゆるみ切った財政規律……。電気・都市ガスと合わせて12兆円を超える巨額の予算を投じながら、終わりの見えない〝補助金中毒〟は、日本政治が抱える病巣を浮き彫りにしている。

「原油価格の安定は新型コロナウイルスからの経済回復を実現する上で大変重要な課題だ」「ガソリン、石油の急激な値上がりに対する激変緩和措置もしっかりと行いたい」全てはここから始まった。2021年11月24日、岸田文雄首相(当時)は石油の国家備蓄の初放出とともに、ガソリン価格の「時限的・緊急避難的な激変緩和措置」を発表した。翌年3月末まで、レギュラーガソリンの全国平均価格が1ℓ当たり170円を超えたら、上限5円の補助金を発動する。補正予算で計上したのは800億円だった。

図1を見れば分かるように、当時はコロナ禍からの世界的な経済活動の回復に伴い、原油価格が急騰していた。補助金の投入は、野党がガソリン税のトリガー条項の凍結解除に向けた法案を提出しており、税の議論を封じるという狙いが透けたが、表向きの目的は「ガソリン価格の高騰が経済回復を妨げないように」というものだった。

ところが22年2月、ロシアがウクライナに侵攻し、原油価格は一段と高騰した。政府は補助金の延長を決め、4月末に基準価格を168円に下げ、支給上限を35円へと大幅に引き上げた。図2が示すように、補助金を投入しなかった場合、6月には215円を超えた週があり、確かに価格は「激変」していた。「この時点での延長はやむを得なかっただろう。ただ、出口戦略は明確に打ち出しておくべきだった」(エネルギー業界関係者)

その後、価格は10月頃に下落へと転じ、年末から23年の夏前にかけては182円前後で安定的に推移。安くはないが、激変という状況は脱していた。そこで政府は、6月を起点に補助金を段階的に縮小し、9月末に終了する方針を打ち出した。この時点ですでに6兆2000億円もの予算を投入しており、方針の堅持が求められていた。ところが夏に産油国による自主減産が本格化、円安の進行も相まって、7月を起点にガソリン価格は再び上昇を始めた。

「足元、原油価格、為替の動向などによって、ガソリン価格が過去最高水準になってきていますので、国民生活、経済活動に与える影響を考えますと、やはり負担軽減に向けた取組は当面継続する必要がある」

当時の西村康稔経済産業相は9月1日の閣議後会見でこのように述べ、補助金の再々延長を表明した。いつしか、経済回復を妨げないという当初の目的は消えていた。

業界では「激変緩和というなら、せいぜい1、2年だ。3年続ける政策ではない」という声が大半だ。実際に諸外国は、補助金や減税をスパッとやめている。ドイツは22年6~8月の3カ月間の減税、フランスは同年4~12月までの割引で手仕舞いした。

図1 円ベースの原油WTI価格の推移

【特集1】国民の感覚をまひさせたエネ代補助 理由なき継続で政策矛盾が顕在化


3年以上継続した補助金によって、国民のエネルギー価格に関する感覚はまひしている。
価格補助を継続する理由は見当たらず、政策の矛盾が浮き彫りになるばかりだ。

【インタビュー:熊野 英生/第一生命経済研究所主席エコノミスト】

多くの人が知らない事実であるが、日本の消費者物価上昇率は主要7カ国(G7)の中で最も伸び率が高い。これは単月だけのことではなく、昨年11月から今年4月まで6カ月間も継続する状況である(図参照)。

G7諸国と中国の消費者物価・前年比の推移
出所:総務省


そう述べると勘の良い人は、「あっ、コメ高騰のせいだ」と直感する。確かにそれも一因である。答えは、エネルギー要因の下落が、主要国では物価押し下げに効いているのだが、日本だけはそれが明確に表れていないからだ。日本では、ガソリンなど4油種への補助金と電気ガス料金支援がエネルギー価格の上昇を抑え込んでいる。そのため、原油市況が上がったときに消費者物価が上がりにくい。その代わり、原油市況が下がったとしても、これまでエネルギー価格を抑えてきた分、消費者は価格下落の恩恵を受けにくくなる。日本だけは値下がりしていないという要因によって、他の主要国の物価上昇率と比べて日本はプラス1ポイントほど押し上げられる形だ。コメ高騰がプラス0・6ポイント程度の押し上げなので、併せるとプラス1・6ポイントほど日本の物価上昇要因となってしまう。

止められない補助 恩恵を感じられず

エネルギー代補助金は、止めるに止められない補助となっている。理由は、補助を止めた途端に値上がりして、国民から反発が起こるからだ。「値上がり」と言っても、補助があって下がっていた分が元に戻るのだから仕方がない。補助が当たり前になって、ありがたみが薄くなる代わりに、その当たり前がなくなると、それが痛みに思えてくる。そこは本来、政治が説明を尽くすべきだが、まともな説明をすることも嫌がられてしまう。こうした補助は既得権ではないし、エネルギー価格は基本的にマーケットが決めるものだ。

すでにおかしなことが起きていると思えるのは、原油市況を円ベースで見たものが、2022年2月のウクライナ侵攻の時点を割り込むような場面が起きているからだ。ガソリン支援は、同年1月に激変緩和措置として始まった。ウクライナ侵攻が始まって、原油市況が急騰したときには意味があったと思う。しかし、そうした危機的局面はすでに去っている。こうした局面変化に、この「激変緩和措置」は対応できていない。つまり、あらかじめ出口戦略を決めておかなかったので、止められない状態に陥った。

今の円安局面も一面として、日銀が13年以降、量的質的金融緩和の出口戦略をあいまいにしていたために起きている。植田和男総裁に交代して、超緩和からの脱却に取り組んではいるものの、ゆっくりとしか金利水準を引き上げられないために、過度な円安が起こり、それは物価上昇という弊害として表面化している。

エネルギー代補助金は、脱炭素化に反する。近年の農水産物などの生鮮食品価格高騰が、異常気候を一因にしていることは疑いないことだ。補助金を続けることは、いずれ人類の危機を助長する。電気代を引き下げるには、原発再稼働という出口が存在する。批判は根強いと思うが、エネルギー価格の抑制とCO2排出削減を両立させる道をもっと前進させるべきだ。

【特集1まとめ】補助金中毒 エネ代に消えた12兆円と副作用


「コロナ禍からの経済回復を妨げない」という目的で導入された燃料油補助金は、
度重なる延長を経て、ガソリン税の旧暫定税率の廃止まで続く見通しだ。
あくまで時限的であるべきだったが、出口は繰り返し先送りされ、
本来市場が決めるべき価格に対する国家の介入は常態化した。
脱炭素目標への逆行、補助金業務の多重委託問題など、
政策の矛盾や弊害は、至るところで顕在化している。
電気・都市ガス料金補助と合わせて、これまでに投入した国費は12.5兆円─。
「生活を守る」という美名の下で、将来世代へのツケは静かに積み上がっている。

【アウトライン】政治介入で「市場価格」が壊されていく 4年も続く異常な燃料油補助

【インタビュー】国民の感覚をまひさせたエネ代補助 理由なき継続で政策矛盾が顕在化

【インタビュー】12兆円は適正に使われていたのか 検証なき補助金の弊害に警鐘

【インタビュー】参院選の争点に? 各党はエネ代補助をどう考えるか

【レポート】『電気代補助金は金のなる木!?』 維新議員の動画で業界炎上

【インタビュー】石油危機克服したかつての日本に学べ「価格ポピュリズム」からの脱却急務

【インタビュー】国民生活支える緊急的対応 「激変緩和の役割果たした」

【特集1】『電気代補助金は金のなる木!? 維新議員の動画で業界炎上


日本維新の会の衆院議員が発信するYouTube動画が電力業界で炎上している。
国の電気代補助と料金値上げで大手電力が最高益を上げたと解説しているためだ。

問題の動画は、日本維新の会の斉木武志衆院議員(比例・福井2区)が発信している『ガソリン代・電気代補助金は金のなる木!? 各社史上最高益のカラクリ』。ここで使われているフリップでは、「補助金スタート→各社最高益更新」と題し、ガソリン元売り3社と大手電力10社の純利益の推移を並べる形で紹介している(写真参照)。

関係者が問題視するYouTube動画
https://youtu.be/hs1bnS2GZa4?si=WN1Zjy2pKgMgTSPc


斉木氏は、ガソリン補助金の支給が始まってから元売り各社の純利益が大幅に増加している状況に触れ、「補助金が適正に使われているのかどうか」「各社の利益に乗っかっているんじゃないかとの疑念が生じる」などと説明した。そして石油に続ける形で、大手電力の問題についてこう言及しているのだ。

「(北陸電力地域では)884億円の赤字だった決算が、この6月に規制料金値上げした途端、一気に568億円の黒字になっている。実は各会社をご覧いただくと、真っ赤だった赤字決算が補助金支給開始、そして規制料金の値上げによって一気に各社とも黒字転換をして、各社ここで会社始まって以来の史上最高益を達成していることが分かってきます」

例えば、東京電力を見てみますと、前年が1236億円の赤字だったものが、補助金支給開始と規制料金値上げ後は2678億円。一気に4000億円の黒字化を達成している。中部電力さんもそうですし、関西電力さんは176億円の黒字が4418億円。ケタが一桁伸びて25倍増という、私も見たことがないような好決算、大幅増益を果たしています」

「この中で、中部さん、関西さん、九州電力さんは、23年6月の規制料金値上げは申請しませんでしたけれども、やっぱり補助金支給開始後、これだけ会社によって、25倍の増益を達成しているというのは不透明じゃないかという疑問が……」

16分ほどの動画の中から抜粋したコメント部分だけを見ても、電気代補助の仕組みや大手電力会社の決算状況を知っている専門家からすると、明らかな事実誤認が見受けられる。

【特集1】参院選の争点に? 各党はエネ代補助をどう考えるか


野党が暫定税率廃止法案を提出するなどエネルギー価格の抑制は永田町の主要テーマだ。
補助金の効果や予算の使い道、減税分の補填策を各党の政調会長に聞いた。

『需要家への直接支援が最適』

【立憲民主党 /重徳和彦 政調会長】

─エネ代補助金に意義・効果はあったか。

重徳 もともとは緊急的な「激変緩和策」としてスタートしたので、一定の意義はありました。ただ、その後は政治的な思惑で継続・復活するなど、政策の一貫性がありません。緊急的・一時的に補助金を投じながら、省エネのインセンティブを仕掛けるなど戦略性のある政策が必要であり、3年以上にわたり多額の税金を特定業界につぎ込み続けたことには疑問を抱きます。


─党のエネルギー価格抑制策は。


重徳 多額の国費を業界に補助金という形で渡すやり方が持続可能なのでしょうか。わが党と与党の政策で根本的に異なるのは、真に困窮している需要家に対して、直接支援を行うという点です。また、これまで行ってきた「1kW時当たり何円」という一律補助では、節電や省エネに対する動機が働きません。国民には省エネや節電に努めてもらい、それでも苦しい方々は適切な支援が受けられる仕組みにすべきです。全世帯の6割程度に支援が行きわたるような制度設計を考えています。日本は、エネルギー価格高騰というピンチをチャンスとして捉えるべきで、断熱住宅や省エネ家電、EVやハイブリッド車の購入を促進する補助も効果があるでしょう。


─暫定税率廃止法案を提出した。


重徳 「暫定」と言いながら半世紀以上続いているのはおかしな話です。法案が成立すれば、ガソリンを40ℓ入れる場合に約1000円安くなり、国民生活を支えることができます。参院選では最大の争点になる可能性もあると考えています。来年度以降の恒久財源としては、法人税の租税特別措置の見直しや所得1億円以上の方への金融所得課税の強化など応能負担を念頭に確保を目指します。

【特集1】12兆円は適正に使われていたのか 検証なき補助金の弊害に警鐘


市場のゆがみ、多重委託、財政規律の弛緩……。一連の補助金にはさまざまな弊害が生じている。
会計検査院でこの問題を指摘した田中弥生前院長は、血税の使い方に警鐘を鳴らす。

【インタビュー:田中弥生 会計検査院前院長/東京大学公共政策大学院客員教授】

─エネルギー代補助は価格低下に効果をもたらしたのですか。


田中 ガソリン補助金は元売りに補助金を入れるため、価格が抑制されたのかが分かりにくい構造になっています。他方、電気・ガス補助金は小売り事業者に直接補助金を出し、その分を価格に反映するので、価格抑制状況は確認しやすいです。

投入したガソリン補助金が適切に使われたかどうかについては、財務省や資源エネルギー庁が調査を行い、投入した補助額ほど価格が下がっていない事実が明らかになりました。例えば財務省は2022年3~7月までのガソリン販売実績を基に、補助金によるガソリン価格の抑制効果を機械的に推計しました。すると補助額が価格抑制額を110億円上回ることが判明したのです。財務省はこの結果を受け、エネ庁にサービスステーション(SS)の価格調査を行い、補助金の価格転嫁を促すよう求めました。会計検査院はこの補助金が適切に使われているかを検査しました。

22年2月~23年3月までの補助金投入額と価格抑制額の比較を行いましたが、200億円ほど補助額が抑制額を上回っていました。とはいえ、SSのガソリン価格は小売り事業者が決めています。物価も変動していますし、補助額が抑制額を上回っていたからといって、補助金の効果が全くなかったとまでは言い切れません。

電通の次は博報堂 1カ月の委託額は14億!

─経済への影響を評価しないまま続けている印象を持ちます。


田中 エネルギー価格はわが国の生産活動に広く影響するので、経済活動にどのようなプラス、マイナスの影響をもたらしているのかの検証が必要です。例えば、補助金が物価上昇率やインフレ率の抑制につながっていたのか、脱デフレ政策と矛盾をきたさないかなどです。そのエビデンスは、政策立案の根拠になるはずです。

実際、経済活動にネガティブな影響も出ました。電力先物取引は、補助金によって価格が抑制されたために取引が停滞してしまったのです。本来、市場で形成されるはずの価格に、政府が長きにわたり介入することで市場活動をゆがめていないか。こうした視点からも、政策を見つめ直す必要があります。


─会計検査院は補助金業務の多重下請け構造を指摘しました。


田中 ガソリン、電気・ガスともに、補助金の事務局を受託したのは博報堂でした。大規模な作業だったからでしょうか、複数にわたって再委託を繰り返していることが分かりました。再委託は80%を超えるものもあり、かつ多重となっていました。

新型コロナ禍の持続化給付金で電通の多重委託が問題となり、以前からあった委託のガイドラインが強化され、50%を超える委託・再委託には、妥当であることを証明する説明責任が求められています。会計検査院は再委託時の記録を確認しましたが、抽象的な表現の説明のみで、審議プロセスの資料は残されていませんでした。再々委託になると見積書が見つからないというケースさえありました。


─ほかの問題についても教えてください。


田中 電気・ガス補助金では、料金値引きによって「小売り事業者のキャッシュフロー上問題が生じる」ということで、博報堂が小売り事業者にお金を前払いしていました。すると博報堂は、事業者が倒産してお金が戻ってこないリスクを抱えることになります。そこで「保険(信用保証)」をかけることにしました。ところが、保証料の毎月の支払額をチェックすると、補助金の額以上に保証額を計算している月があったのです。しかも、保証料は業務の間接経費の算定対象に含まれ、その額は約4億円に上ります。エネ庁は保証料がかさむと判断し、委託先をデロイトトーマツに変更しました。1カ月当たりの委託額は博報堂が14・5億円、デロイトは2億7000万円です。

ガソリン補助金では、説明がつかない支出が存在しました。博報堂の再委託先で、小売価格の悉皆調査を受託しヴァリアス・ディメンションズ社には約62億円が支払われていました。この調査は補助金の額を算定する際に用いられるはずでした。しかし、同社の調査結果は全く使われていません。結局、エネ庁のサンプリング調査が補助金額の算定に用いられていたのです。サンプリング調査の方が信頼性は高いと思います。その意味でこの調査にかかる委託の必要性には疑問が残ります。

【記者通信/6月27日】大阪ガスNEXT21で新たな居住実験 一般から初の入居


大阪ガスはグループ2社と共同で、同社が保有する実験用集合住宅「NEXT21」(大阪市天王寺区)で、402号室と301号室の2戸を活用した新たな居住実験を6月から始めている。それぞれの住戸には異なる住空間のテーマを設け、多様化する働き方やライフスタイルに対応した商品開発・提案につなげるのが狙いだ。

コンパクトでデザイン性に富んだ空間設計が特長

402号室の改築は、賃貸・分譲マンション事業を手がける大阪ガス都市開発が担当し、「変身する家」をコンセプトに設計された。固定家具を最小限に抑え、可動式キッチンやパーテーションを採用することで、空間の自由度を高めている。住戸内には、柔軟なレイアウトが可能な「Sゾーン」、徹底した省スペース設計で広さを演出する「Uゾーン」、さらに入居者同士の共用利用を想定した準専用部「Cゾーン」の3つのスペースを設けた。402号室には、初めて一般から入居者を募り、実際の居住を通じた検証を進める。

「変身する家」がコンセプトとなっている

各ゾーンの概要

301号室は「ゆるやかにつながるLDK空間」をテーマに、マンションのリノベーションを行う大阪ガスマーケティングが改装を手がけた。特注キッチンと一体で設計された可変式テーブルユニットを導入し、用途に応じてLDK空間のアレンジが自由にできる構成とした。また、キッチン横にはドラム式洗濯機と高速乾燥が可能なガス衣類乾燥機「乾太くん」を配置し、家事動線の短縮を図った。既築マンションでは「乾太くん」の排湿筒工事が難しく、設置が困難とされてきたが、内窓と外窓の間に排湿口を設けることで対応した。家事空間と居住空間を接続したことで、家庭内のコミュニケーション活性化などの効果も期待される。

キッチンは自由に配置を変えることができる(L字型)

同社は、近未来の都市型集合住宅のあり方を再構築することを目的に、1993年に実験集合住宅「NEXT21」を竣工。以来、5~6年ごとにフェーズを区切り、それぞれの時代背景に即したテーマを設定して、継続的に実験を行ってきた。


今年4月からは、「まちで集まって住む意味を再定義する」をテーマに、第6フェーズの取り組みを開始。今回のフェーズは、2031年3月までの継続が予定されている。

【現地ルポ/6月9日】大阪万博の注目パビリオン 循環経済を体現するドイツ館


エネルギーフォーラムは6月号で、「万博が描く脱炭素の世界」を特集し、大阪・関西万博でエネルギーに関わる各国のパビリオンを紹介した。誌面では取り上げきれなかったが、エネルギーや建築美の観点から注目度が高いのが「ドイツ館」。「循環経済(サーキュラーエコノミー)」を軸に、持続可能な社会のあり方を、来場者が五感で体感できる工夫を随所に凝らしたのが大きな特徴だ。

パビリオンのタイトルは「わ!ドイツ」。この「わ!」には、循環の「環(わ)」、調和の「和」、感嘆の「わ!」の三つの意味が込められている。再生可能エネルギーの導入拡大を進め、都市環境と自然の調和を図るドイツの最先端の取り組みを、創造性あふれる空間設計と映像演出で、楽しみながら学ぶことができるのだ。

幻想的な空間が印象的だ

ドイツは2035年までに、「国内の電力をほぼ全て再生可能エネルギーで賄う」方針を掲げ、再エネシフトを加速させている。さらに、再エネ由来の電力から製造したグリーン水素を、産業・輸送・物流分野の中心に据える構想を推進中だ。

グリーン水素への取り組みも詳細に取り上げられていた

館内では、映像ディスプレイやイラストがアーチ状に配置され、360度、空間をフルに生かした没入型の展示が広がっている。建物自体も再利用可能な素材で構成されており、パビリオン全体が「循環経済」というテーマを体現している。

円状の柱に沿って展開されるイラスト
建物自体がアーチを描くように設計されている。「循環」をイメージさせるつくりとなっている

大阪万博を訪れた際には、サステナブルで幻想的な空間の中、ドイツが描く「循環型社会」の未来像を、ぜひ体験してみてはいかがだろうか。

【特集2】さまざまな次世代技術を体験 エネルギーが叶える未来を探る


万博会場には、見どころとなるエネルギー技術が多数展示されている。
電力系Youtuberなどとして活動する伊藤菜々が注目の施設を取材した。

エネ業界の人気インフルエンサー伊藤菜々が行く】

いとう・なな 1989年生まれ。上智大学経済学部卒。再エネファンドや新電力の立ち上げを経て独立。ユーチューブチャンネル「電気予報士なな子のおでんき予報」を運営し、電気について楽しく分かりやすく発信中。

大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」です。今回の万博では、エネルギーの立ち位置や未来はどう描かれているのか、チェックしてきました。

東ゲートでは公式キャラクターのミャクミャクがお出迎えしてくれます。東ゲートゾーンには国内のパビリオンが集中しており、大屋根リングの中には海外パビリオンがあります。西ゲートゾーンには「空飛ぶクルマステーション」。駐車場のカーポートの屋根にはペロブスカイト太陽電池が貼られています。会場内は、約100台もの最新のEVバスが運行しており、レベル4(特定条件下においてシステムが全ての運転タスクを実施)の自動運転や走行中ワイヤレス給電が行われています。

会場で使用されるエネルギーにはゼロカーボンや最新技術を採用し、関西電力・姫路第二発電所の水素混焼ガスタービンによる電力も活用されています。

エネルギー関連のパビリオンは、主なものは、電気事業連合会運営の「電力館 可能性のタマゴたち」と、日本ガス協会運営の「ガスパビリオン おばけワンダーランド」ですが、海外パビリオンでもカーボンニュートラルに関する展示があります。例えば、オランダ館では「水と共生する」というテーマで、地球温暖化による水位上昇や水資源に関する展示が見どころです。そのほか、エネルギーに限らず、各国それぞれのデザイン性を凝らしたパビリオンが並びます。大屋根リングからは、会場全体を見渡せます。ワクワクが止まりませんでした。

①電力館・体験エリアのシビレエイ
②ガスパビリオンでの学べる展示

【特集2】「可能性のタマゴ」がコンセプト 次世代エネ技術を面白く体験


電力館&ガスパビリオン〈館長インタビュー〉(電力館編)

岡田康伸館長(電力館)

伊藤 来場者の評判はいかがですか。

岡田 おかげさまで大盛況です。体験型の展示にしたのですが、皆さんから面白かった、楽しかったというお声をいただけています。同時に、運営の課題も見えてきました。人数が多くなりすぎると体験の数が減ってしまいますが、多くの人に見ていただきたい気持ちもあり、そのバランスをどうとるかが課題です。

伊藤 運営も同時同量が大事ですね。今回はタマゴがメインに出てきますね。

岡田 万博に出展するからには、ただ「楽しかった」だけではなく、お客さまに訴求したいテーマを見据えて企画しました。カーボンニュートラルが浸透しつつありますが、電力館ではその先の未来を見せたい。その結果、「可能性のタマゴ」という形が出てきました。エネルギーの可能性について、面白いと思う技術を中心にたくさんリストアップして、どういう体験にしようかとみんなで議論しました。

伊藤 私も発信をする中で、電力業界を志す若い方が減っているとよく聞きます。将来の可能性が見えたり、子どもたちに興味を持ってもらうことは大事ですね。今回の万博を機に、電気事業連合会や業界として取り組みたいことはありますか。

岡田 企業パビリオンではないので、ビジネスカラーは全面に出ていません。電事連としては、水素や核融合といった次世代の技術を世の中に訴えていきたいです。次の時代のエネルギーも見据えて取り組んでいることを知っていただきたいと思います。

【特集2】CNに向け「化けて」変容を 地球温暖化を考える機会に


電力館&ガスパビリオン〈館長インタビュー〉(ガスパビリオン編)

金澤成子館長(ガスパビリオン)

伊藤 パビリオンのテーマを教えてください。


金澤 「化けろ、未来!」です。行動を変えることを「化ける」と言っています。「できることからやっていこう」という意図のほか、CO2を都市ガスに変えるメタネーションをはじめ、都市ガス業界もカーボンニュートラル(CN)に向けて変わっていこうという意図もあります。

伊藤 ガス業界だけでなく、「みなさんにも変わっていただく」というメッセージが新しいと思いましたが、何から始めたらいいでしょうか。

金澤 身の回りの生活の中で一つずつできることをすることが大切だと思います。地球温暖化を身近に考えてもらえる機会になればと思います。

伊藤 運営はいかがですか。

金澤 スタッフには「最高の仲間と最高の舞台へ」と言っています。運営するスタッフだけでなく、お客さまが参加して楽しむことで初めて舞台が完成します。184日間、朝から晩まで一緒に過ごすメンバーの一体感を大事にしたいですね。

伊藤 海外の方の反応はどうですか。

金澤 海外でもCNは課題ですので、ぜひビジネス交流や意見交換も積極的にしていきたいです。

伊藤 ガスパビリオンで注目してほしいことは。

金澤 記憶に残る体験をしていただきたいですね。環境への意識だけでなく「思いやり」にも重きを置いています。コロナや世界情勢でたくさんの命が失われた中で、「いのち」をテーマにした万博の開催はすごく意味があることです。お客さまの記憶に残るメッセージをお伝えしたいと思っています。

【特集2まとめ】万博が描く脱炭素の世界 革新的エネ技術がつくる未来を探訪


「2025年日本国際博覧会」が4月13日~10月13日、大阪・夢洲で開かれている。

次代を切り拓く新技術のショーケースでもある今回の大阪・関西万博は
カーボンニュートラル社会の実現を見据え、再生可能エネルギーや水素、eーメタン、スマートグリッド、蓄電池、空飛ぶクルマ、EVバスなどが導入され、まさに未来社会の実験場となっている。

私たちの社会は今後どう変わるのか―。

万博の最先端エネルギー関連施設や取り組みをレポートし、未来へのヒントを探る。

【アウトライン】最先端の技術を実証する場 楽しんで体感できる展示が充実

【レポート】さまざまな次世代技術を体験 エネルギーが叶える未来を探る

【インタビュー】「可能性のタマゴ」がコンセプト 次世代エネ技術を面白く体験

【インタビュー】CNに向け「化けて」変容を 地球温暖化を考える機会に

【レポート】未来の「あたりまえ」を創造 大規模実証で実用化を検証

【レポート】日本発の技術でCNを訴求 会場内で地産地消モデルを確立

【レポート】グリーン水素の供給網を構築 通信インフラを有効に活用

【レポート】大阪湾を滑るように航行 水素を利用する次世代船舶

【トピックス】電化による空の次世代型移動手段 交通分野の課題解決に期待高まる

【トピックス】特殊塗料で位置情報の精度を補完 走行しながらの無線給電実証

【トピックス】耐荷重の低い場所への設置が可能 屋根やアート作品など多彩な用途

【特集1】現実的な安定供給・脱炭素両立へ 大規模投資判断できる環境整備を


エネ基が示した火力のkW時抑制・kW維持と脱炭素化の追求には、継続的な大規模投資が不可欠だ。
発電事業の魅力を高め、多様なプレーヤーが投資判断できるような環境整備の実現が求められる。

【レポート:三宅将矢/みずほ銀行 産業調査部アナリスト三宅将矢】

今年2月、日本政府は第7次エネルギー基本計画を閣議決定し、ロシアによるウクライナ侵攻や中東情勢の緊迫化などによるエネルギー安全保障リスクの高まりを踏まえ、エネルギー政策の基本方針として安定供給と脱炭素の両立を追求することを掲げた。

本計画においては、すぐに使える資源に乏しく地理的制約を抱える日本固有の事情に加え、近年のエネルギーの価格高騰や供給不安、カーボンニュートラルの対応などの世界情勢を踏まえ、再生可能エネルギーの最大限の導入を目指す方針を維持しつつも、特定の電源や燃料源に過度に依存せず、バランスの取れた電源構成を目指すことが示された。

火力発電については、脱炭素の観点では発電量(kW時)を減らしていく一方で、安定供給の観点から必要な発電容量(kW)を維持・確保することとしている。その具体例として、長期脱炭素電源オークションを通じて、将来的な脱炭素化を見据えたLNG専焼火力の新設・リプレースが促進されていることが挙げられる。2040年度のエネルギー需給の見通しにおいて、火力発電は3~4割を占めると想定され、主要電源の一つとして改めて位置付けられている。

今後、再エネや原子力などの比率が高まっていくことが見込まれるが、現在の日本の電力需要の約7割は火力発電によって賄われている。22年3月に初めて電力需給ひっ迫警報が発令されるなど、近年では需給ひっ迫がたびたび懸念されているが、火力発電は安定供給の中核として、国民生活や企業活動を支えている。

太陽光、風力発電の発電量は、曇りや無風状態が長引くと大幅に減少し得るため、大量導入時には大規模な調整力が必要となるなどの課題がある。火力発電は、日本の電力需要を満たす供給力、出力をコントロールできる調整力、系統の安定性を保つ慣性力を備えており、安定供給に欠かせない電源と考えている。

【特集1】供給力・燃料調達の維持強化へ 不確実な時代にどう備えるか


脱炭素化のあおりを受けて、安定供給に資する火力発電の立ち位置は揺れている。
資源エネルギー庁、電力広域的運営推進機関の担当者に火力の課題と展望を聞いた。

【インタビュー:和久田 肇/資源エネルギー庁 資源・燃料部長】

新たな供給源確保は一層重要に 環境整備進め調達リスク低減図る

―燃料調達の課題について、どのように捉えていますか

和久田 火力燃料のうち天然ガスについては、第7次エネルギー基本計画の複数シナリオの一つ「技術進展シナリオ」で2040年度の需要が約7400万tに達すると見込んでいます。昨年度の輸入実績(約6600万t)を上回る水準であり、既存の上流権益の減退や契約の満了を踏まえると、新たな供給源の確保が一層重要になります。その際には、供給国における政策変更などのカントリーリスクに備えるため、供給源の多角化を進めるとともに、仕向地条項の有無や複数のシーレーン確保といった契約条件や輸送ルートの多様化により、調達リスクの低減を図る必要があります。政府としは、JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)による出資や債務保証といったファイナンス支援を通じ、事業者が新規契約やプロジェクト参画に踏み出しやすくなるよう環境整備を進めていきます。

―今後、LNGは供給過剰の局面に向かうのでしょうか。

和久田 30年に向けては、各国で多くのLNGプロジェクトがFID(最終投資決定)済み、FID取得を目前に控えており、需要を上回る供給量が確保されることが見込まれます。一方で、全てのプロジェクトが計画通り進むとは限らずカントリーリスクをはじめとするさまざまなリスクがあり、想定される程十分な供給が得られるかは不透明です。また30年以降需要が増加すれば、将来的には供給不足になる可能性があります。

―LNGの供給拡大を見越して、スポット市場に傾斜した調達にシフトしようとする動きも出てくるのではないでしょうか。

和久田 その点は極めて慎重に判断すべきです。現在計画中のLNGプロジェクトが全て予定通り立ち上がる保証はありませんし、需要動向も依然として不確実です。IEA(国際エネルギー機関)は、公表政策シナリオで当面は需要が横ばいになると予測していますが、さまざまな要因により、需要が上振れする可能性に言及しています。スポット市場に過度に頼るのではなく、上流権益への参画や、長期契約による調達を基本とし、安定的な確保を志向すべきです。

―石炭はどう見ていますか。

和久田 現時点では安定供給性や経済性に優れた重要なエネルギー源の一つです。課題はCO2排出への対応ですが、CCS(CO2回収・貯留)などの技術が進展すれば、それをマネージすることは可能です。そうした中、ダイベストメントの動きがあることは懸念しています。

ダイベストメント広がる 資金の確保が課題

―需要減を上回るスピードで供給が先細る可能性は。

和久田 現時点で直ちにそうした問題が顕在化しているわけではありませんが、今後のマーケット動向については注意深く見ていく必要があります。現在の懸念の一つがファイナンスの問題です。ダイベストメントの動きが広がる中、必要な資金をどう確保していくかが課題です。環境負荷の低減を図りつつ、需要があるところには確実に供給が届くよう、金融面を含めた環境整備を進めていきます。

非効率な石炭火力を中心にkW時を減らしていく方針ですが、石炭の安定供給は引き続き重要として、石炭の自主開発比率については、40年に60%を維持することを掲げています。一般炭の調達環境の変化に伴い、自主開発比率は低下傾向にありますが、比較的長期の複数年ターム契約は安定的な調達に資すると考えており、今後は自主開発比率に加え、複数年ターム契約の比率を、安定供給のための補完的な指標として捉え、必要な施策を検討していく方針です。
 

その一環として、JOGMECの支援制度を見直しています。具体的には、海外企業をジョイントベンチャー(JV)の相手として共同探鉱を行う「JV調査」を導入しました。従来は、日本企業が探鉱の後に権益を取得することが前提でしたが、JV調査の制度改正を行い、探鉱段階でJOGMECが複数年タームの生産物引取権を確保し、それを日本企業に引き継ぐ形を構築しています。これにより、上流権益に加え、生産物の調達を複数年ターム契約で支援対象とする新たなやり方へと移行しました。石炭の開発やファイナンスの在り方が大きく変化する中でJOGMECの支援も柔軟に対応していく必要があります。契約の多様化が進む中、そうした変化に対応できる支援体制の構築も進めているところです。

わくだ・はじめ 1992年通商産業省(現経済産業省)入省。2018年資源エネルギー庁資源・燃料部政策課長、20年石油天然ガス・金属鉱物資源機構(現JOGMEC)副理事長などを経て24年6月から現職。