【論考/4月27日】深刻化する石油危機 豪州「軽油外交」が示す市場の機能不全 ※期間限定無料公開

2026年4月27日

二つの相互破壊の間を揺れ動く米・イラン

合同海事情報センター(Joint Maritime Information Center, JMIC)によれば、ペルシャ湾を出たタンカー数は2月28日に30隻だったのが、3月は1カ月で計21隻。4月1~17日は1日平均2.2隻(計38隻)で、これが18日に6隻に増えた後、翌19日には再び1隻にまで減った。ただしこれはAIS(船舶自動識別装置)データに基づくもので、イラン産原油を運ぶ「影の船団」のように、AISの電源切断や偽操作を行う船舶は含まれない。米中央軍は4月23日時点、計33隻のイラン関連船舶の航行を阻止したと発表している。

米軍は4月19日にオマーン湾でイラン船籍のコンテナ船、21日にベンガル湾で「影の船団」の1隻であるボツワナ船籍タンカー、23日にもインド洋で同じくイラン産原油積載の「無国籍」タンカー、計3隻を拿捕した。一方、英国海事貿易作戦室(UKMTO)の報告では、イランによる商船への攻撃は4月8日以降途絶えていたが、「再封鎖」が宣言された18日に武装小艇(ガンボート)による銃撃が始まった。22日にはホルムズ海峡付近で、スリランカ、インドに向かっていたコンテナ船2船が武装小艇によって拿捕、イラン領海に移送された。

2回目の米・イラン協議開催の見通しが立たない一方で、米国の対イラン海上封鎖はインド洋にまでその包囲網を広げ、イラン革命防衛隊もホルムズ海峡封鎖の強度を上げている。軍事的には停戦中だが、海上封鎖という経済的な戦争、いわば「石油封鎖戦争」はむしろ激化しつつあり、事態収束への道筋は見えない。23日に米空母「ジョージ・H・W・ブッシュ」が中東海域で布陣に就き、これで同海域に3つの米空母打撃群が展開する。出口のない海峡・海上封鎖が続く一方で、米・イスラエルによる対イラン大規模空爆再開の可能性もあるが、その場合にはイランによる湾岸諸国のエネルギー施設・民生インフラ(発電、淡水化施設等)攻撃が十分に予想される。

すなわち米・イスラエルとイランは、ホルムズ海峡封鎖・対イラン海上封鎖という経済的な相互破壊と、エネルギー・民生インフラをも対象とした軍事的な相互破壊(ただしここではイラン対湾岸諸国)、その二つの相互破壊の間を揺れ動いている。いずれの場合もペルシャ湾からの石油・エネルギー供給途絶の長期化という、いわば「経済的な核攻撃」が輸入諸国を襲う結果になるが、既にその過程は始まっている。

脆弱なアジア太平洋・石油製品輸入国

エネルギーフォーラム4月号【緊急特集  イランショック】のレポートで論じた通り、ホルムズ海峡封鎖による石油供給途絶はアジア太平地域に集中し、とりわけ「影の船団」によるロシア産(およびイラン産)石油供給網の外にある自由主義・親米諸国を直撃する。日本、韓国、台湾は輸入原油の中東依存が高く、オーストラリア(豪州)、ニュージーランド、それにフィリピン、インドネシア、ベトナムは国内製油能力の不足から石油製品輸入に対する依存が大きい。

アジア太平洋、あるいはインド太平洋をより広く捉えると、東アフリカ(ケニア、タンザニアなど)・南アフリカから米西海岸までが含まれるが、製油能力の不足は東・南アフリカでも顕著であり、米西海岸でもカリフォルニア州で製油所閉鎖が相次ぎ、原油に加えて石油製品輸入への依存が深まりつつある。

供給途絶による打撃は、まずこれら製油能力の不足する諸国から顕在化してくるだろう。事実、フィリピンは3月24日に「エネルギー非常事態」を宣言。インドネシアは4月初めから一般車両への給油制限を開始、ベトナムでは航空会社が大幅減便を強いられ、ケニアでは3月下旬時点で約2割の給油所で供給不足と報じられる。米西海岸では軽油小売価格が3月第4週にガロン当たり6.6ドルと記録的高値となったが、翌週にはさらに6.9ドル(リットル当たり290円)を超え、記録を更新した。

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