【特集2】顧客心理をくすぐる新サービス 九州電力とDRで共創


【SBパワー】

ソフトバンク子会社のSBパワーと九州電力が共同で、アプリを通じて上げ・下げDRを行う実証事業を実施している。ユーザーが自発的にDRに協力する共同実証は日本初の事例だ。

SBパワーは、スマートメーターの30分値、気象情報、世帯情報を活用し、需要予測や電力使用量の分類、電力使用パターンが類似している世帯のグルーピングなど、リアルタイムで電力ビッグデータを分析するプラットフォームの構築を進めている。

そうした中、同社はこのプラットフォームで得る情報を基に、事業者向けにはマーケティングツールを提供するほか、電力小売りプラン「おうちでんき」などを契約する一部ユーザーを対象に、スマートフォンアプリを介してデマンドレスポンス(DR)を行う実証を2020年7月から9月(夏期実証)、12月から今年2月(冬期実証)の2回にわたり実施した。

上げ下げDR実証を開始 顧客との交流機会も創出

実証では、SBパワーがアプリ上でユーザーに対して「〇月〇日の〇時から〇時にかけて節電(下げDR)をお願いします」とDR指令を発出する。ユーザーはその指令に応じてテレビをオフにする、不要な照明を消す、空調の温度を調整する――など指定時間の電力消費量を減らすことでDRに参加。

指令をクリアすると節電量に応じたポイントが獲得でき、得られたポイントはキャッシュレス決済サービス「PayPay」のPayPayボーナスと交換できる。

同社エナジー事業推進本部の須永康弘・事業開発部長は「夏期実証では約4000世帯、冬期実証では約3万世帯が実証に参加しました。その結果、両実証期間中の電力削減量は1世帯当たり平均65W時(30分値)減少しました。これは平均的な電力使用量の19%に相当することから、専用アプリを通じた節電の呼びかけは有効だと考えます」と説明する。

ゲーム感覚で省エネおよび電力系統の安定化にも貢献できるのが大きな特徴だ。須永氏は「今回のようにスマホアプリの特長を生かした行動誘発型の電力サービスは今までにありません。お手元のスマホに節電協力の通知が届くとワンタッチで参加でき、あとは翌日に結果を受け取るだけのシンプルな設計がユーザーから高い評価をいただいています」と胸を張る。

今年2月からは、九州電力と共同で下げDRに加えて「上げDR」の実証実験も行っている。九州電力エネルギーサービス事業統括本部の安藤修章・営業企画部長が言う。

「九州では太陽光発電(PV)の導入拡大に伴い、春秋を中心とした軽負荷帯における再エネ電源の出力抑制の発生が増えており、再エネ電源をさらに有効活用するためにできることはないかという問題意識を以前から持っていました。また、出力抑制が発生する際は、電力卸市場価格がkW時当たり0・01円となることから、電力卸市場の価格動向を踏まえて電力需給を最適化し、供給コストの低減を図っていかなければならないという課題もありました」

電力価格が0.01円をつけることで再エネを含めた新規電源を整備するインセンティブが薄くなり、投資意欲が減退させられる問題もある。さらにDRによって電力が余る時間帯に需要を創出させることで、PVの出力制御を回避することにもつながるなど、既存の電源を有効活用するためにも上げDRは効果的だという。

実証への参加世帯は1万件に向かって順調に推移しており、それぞれ電気自動車(EV)や電気給湯機のエコキュートなどDRポテンシャルの高いリソースを保有している需要家と、そうでない需要家に分類。九州電力が提供する「九電ecoアプリ」からユーザーに対して「〇月〇日の〇時から〇時に上げDRをお願いします」と指令を発出。

ユーザーは指定の時間帯に洗濯機を動かす、エコキュートで給湯する―など家電の稼働時間をずらして上げDRに協力し、指令をクリアするとポイントを獲得。集めたポイントはPayPayボーナスと交換できる。

アプリからDRに参加できる

【特集2まとめ】デジタルデータ革命 ソリューションビジネスの最前線


エネルギーデータを使った新ビジネスが脚光を浴びている。
小売り部門では、各家庭に設置されたスマートメーターや、
独自機器を設置することでさまざまなデータを収集。
ユーザーインターフェースを工夫して見える化したり、
ほかのサービスと連携を図ったりすることで、
新たなサービスやソリューションを生み出している。
データ活用ビジネスの最前線に迫った。

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【プロローグ】スマメが切り開く新ビジネス エネデータ活用に多様な可能性

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