【業界紙の目】穐田 晴久/交通毎日新聞 編集局記者
運輸部門のCO2大幅削減が課題となる中、特にトラックなど商用車の電動化対策が急務だ。
関係省庁が電動化への政策支援に力を入れ、メーカー同士も連携して取り組みを活発化させている。
「2050年カーボンニュートラル(CN)」の実現に向け、トラックやバス、タクシーなどの商用車の電動化が大きな課題になっている中、自動車メーカーが新型のEVトラックの発表会を開催したり、量販FCV(燃料電池車)小型トラックの開発を発表したりといった動きを見せている。一方、環境省が経済産業、国土交通両省と連携し、23年度当初予算でトラックとタクシーの電動化への支援事業を新規で立ち上げるなど、政府の動きも活発化してきた。
商用車の電動化が急務となっているのは我が国全体のCO2排出量の約2割が運輸部門で、このうち約4割をトラックなどの商用車が占めるからだ。この課題対応として政府は、21年6月策定のCNに向けた「グリーン成長戦略」で商用車の電動化目標を掲げた。8t以下については30年までに新車販売の20~30%を電動車にし、8t超については累積5000台の先行導入を目指す。
矢野経済研究所が1月13日に発表した商用車の電動化に関する市場見通しによると、商用車の世界販売台数は35年に3053万台(19年比13.7%増)で、HEV(ハイブリッド車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)、EV、FCVといった電動車が占める比率は、最大で49.1%まで拡大するという。21年の電動商用車の世界販売台数は29.9万台で、商用車全体に占める電動化比率は1.2%。中国や欧州が中心となって市場をけん引し、補助金などの普及施策を受けて販売台数を伸ばしてきた。
商用車の電動化では、バッテリーを含めた積載量や走行距離の短さが課題として指摘されてきたが、各国で対策が取られている。欧州ではEVやFCVに限定して積載量を緩和しており、米国でも同様の動きがみられる。
メーカー動向活発に 各社相次ぎ新商品投入
こうした中、国内メーカーの動きはどうか。
「カーボンニュートラル戦略」と「進化する物流への貢献」を進める、いすゞ自動車は、昨年5月に横浜市で開催された「ジャパントラックショー2022」で、小型トラック「エルフEモニター車」の実車展示を行った。22年度中の量産開始に向けて開発を進めていることを明らかにしたほか、大型FCVトラックの取り組みについてパネル展示や動画で紹介した。
また、トヨタ自動車が同年7月に商用車の電動化戦略を発表。いすゞ、日野自動車と共同で小型FCトラックを開発し、23年1月以降に実用化することや、スズキ、ダイハツ工業とは軽商用EVバンを共同開発し、23年度中に市場投入するとした。
両プロジェクトには、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)やCNへの貢献を目的に、いすゞ、日野、トヨタが設立した新会社「コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ」(CJPT)も参画する。小型FCトラックはいすゞと日野によるトラック技術と、トヨタのFC技術を組み合わせた知見などを結集する。軽商用EVバンは、スズキとダイハツが培った小さなクルマづくりと、トヨタの電動化技術を組み合わせたサステナブル(持続可能)な移動手段の提供を目指している。
さらに、三菱ふそうトラック・バスは、昨年9月に横浜市内で開いた発表会で、小型EVトラック「eキャンター」の新モデルを公開した。eキャンターは17年に国内初の量産型EVトラックとして発売され、今回の車両はフルモデルチェンジした次世代モデルとなる。航続距離を短くする代わりに価格を下げた点が特徴だ。同社幹部は「ラストワンマイルから拠点間輸送まで多くの需要に対応できる」とアピールした。
このほか、ベンチャーの「EVモーターズ・ジャパン」(北九州市)のEVバス2台が、東京・渋谷区のコミュニティバスに導入され、3月から運行を開始した。商用車を巡る動きが活発化している。
三菱ふそうトラック・バスが発表した新型EVトラック
業界直面の2024年問題 「CNは後手に」の本音
矢野経済研究所によると、中国ではNEV(新エネルギー車)向け補助金などの優遇を受けて電動商用車の販売台数が増加しており、特に大型バスではEVの新車販売に占める割合が高い。他方、欧州では電動化の中心は小型商用車だが、主要な商用車メーカーのラインアップ拡充によって、大型トラックでも電動化が進むと見られるという。
海外に対し日本政府の動きはどうか。環境省は、EV、HEV、天然ガストラック・バスの導入や充電インフラの整備を支援する目的で「環境配慮型先進トラック・バス導入加速事業」(19~23年度)を実施。23年度当初予算の電動化促進事業では、改正省エネ法で新たに制度化される「非化石エネルギー転換目標」を踏まえた中長期計画の作成義務化に伴い、EV、PHEV、FCVの野心的な目標を掲げた事業者や、非化石エネルギー転換に伴い影響を受ける事業者などを対象に、車両導入費を集中的に支援する。約136億円を計上した。乗用車の導入支援などと合わせ、運輸部門全体の脱炭素化を進めたいとしている。
ただ、物流業界のCN推進に向けては、①中小事業、個人事業者にも車両導入を促せる補助的措置の必要性、②それぞれの用途でのニーズを満たす商用車の開発や生産力の確保、③EV給電、電池交換などの設備の整備―などの課題が横たわっている。
働き方改革関連法によって4月以降、自動車運転業務の年間時間外労働の上限が960時間に制限される。これに伴い発生する「2024年問題」も影を落とす。同法はトラックドライバーの労働環境改善が狙いだが、運送・物流業者の売上や利益の減少、ドライバーの収入が減少し離職に繋がる可能性もある。
労働力不足に拍車がかかる恐れなどが懸念されており、中小運送事業者からは「CN推進まで対応できない」との声も漏れる。こうした課題も含めた総合的な政策判断が今、求められている。
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