ルラ大統領が返り咲き ブラジル油田開発は停滞か


【ワールドワイド/資源】

2023年1月、ルラ氏がブラジル大統領に返り咲いた。

ルラ氏、ルセフ氏が率いた03年から16年の労働者党政権は、石油産業の発展とともに、経済を発展させ、国内産業の振興を図ることを目指した。国営石油会社ペトロブラスは政府の一機関として、石油・ガス関連の全分野で中心的役割を果たすことを求められた。

そして、輸入したガソリンなどをブラジル国内において割引価格で販売して、その逆ザヤを負担し、多額の負債を抱えた。大規模油田が発見されたプレソルト(リオデジャネイロやサンパウロ沖に延長約1000㎞、幅約100㎞にわたる下部白亜系岩塩層直下の炭酸塩岩を貯留岩とする地質構造)エリア内新規鉱区では、ペトロブラスがオペレーターを務めた上に、鉱区入札があまり実施されず、外資の参入機会が制限された。

その後のテメル政権、ボルソナロ政権は、ビジネス志向、市場志向の探鉱・開発政策をとった。ペトロブラスは、政府から独立した石油会社として活動するようになり、収益性の高いプレソルトの油田開発に注力し、製油所や陸上、浅海の成熟油田や小規模油田、ブラジル国外の資産を売却して、負債削減を図った。

ガソリンなどの価格は国際市場価格に連動させることになり、この件でペトロブラスが新たに負債を抱えることはなくなった。ペトロブラス以外の企業もプレソルトエリア内新規鉱区でオペレーターを務めることが可能になり、鉱区入札も頻繁に実施されたことで、メジャーなど外資の参入が進んだ。一方、ペトロブラスが売却した陸上や浅海の油田をブラジルの地場企業が買収し、長年ペトロブラスが放置していたこれらの油田の開発を進めた。

その結果、プレソルトを中心にブラジルの石油生産量は日量300万バレルを超える水準まで増加した。政府系研究機関によると、同国の石油生産量は29年には日量540万バレルまで増加する見通しだという。

しかし、ルラ政権再起により、以前の労働者党政権と同様、政府がペトロブラスへの関与を強めたり、外資参入を制限したりする政策がとられ、同国の探鉱・開発が停滞するのではないかと懸念する声が浮上している。ルラ新政権は早速、ペトロブラスに対し3月1日から90日間、資産売却を停止するように要請した。また、同日より4カ月間、原油輸出税を課すこととした。今後、どのような政策がとられることになるのか、状況を注視していく必要があろう。

(舩木 弥和子/独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

JAXA会見でネットが炎上 電気新聞が共同記者を「退治」


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

失敗から学んだのか。そう嘆息する。毎日2月26日「西山太吉さん死去、元本紙記者、沖縄返還密約追求、91歳」である。

まずは比較的公正な産経同日「西山太吉さん死去」から。「昭和47年(1972年)の沖縄返還を巡る密約を報道し、国家公務員法違反で有罪となった元毎日新聞記者、西山太吉氏が24日、北九州市内で死去」とある。取材で有罪とは穏やかではない。「政治部記者だった46年、外務省の女性事務官から沖縄返還での日米密約に関する機密公電のコピーを入手、報道」し、罪に問われた。

問題の「密約」は、返還に伴う日本の費用負担を取り決めた内容とされる。オモテの返還協定にないウラの費用負担が疑われたが、政府は密約の存在を否定した。

政府のウソに肉薄した点は評価する。が、その後は解せない。

西山氏は「(公電の)コピーを当時の社会党国会議員、横路孝弘氏に提供し、横路氏が47年3月の衆院予算委員会で、佐藤栄作内閣を追及したことで、公電の出所が判明。同年4月に事務官とともに国家公務員法違反容疑で警視庁に逮捕、起訴された」という。

取材源の秘匿は記者の鉄則だ。脇が甘い。当局は、女性事務官と西山氏の不倫関係に焦点を当て、事件をスキャンダルに仕立てた。毎日には非難の電話が殺到し購読者数が急減、経営が傾いた。

その毎日の記事は、西山氏について「密約文書を入手、報道し国家公務員法に問われながらも、情報公開請求訴訟などを通じて密約問題の追及を続けた」とヒーロー扱いする。「さらに横路議員(故人)に懇願され、電信文を提供」と、取材源を守れなかった責任を先方の「懇願」に帰す。メディア不信の現状が見えていない。

東京2月18日「H3ロケット発射できず、異常検知」は「衛星打ち上げは失敗」と書く。前日のH3ロケット打ち上げ試行時のトラブルを報じた記事だが、衛星やロケットが壊れた訳ではない。他紙は「打ち上げ中止」だった。

前日の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の記者会見で、東京に記事を配信する共同通信の記者が「失敗ではないか」と問い詰めた。その挙げ句に「それは一般に失敗と言います。ありがとうございま〜す」と捨て台詞。ネットでは「無教養のバカ」と炎上した。

2月28日電気新聞「『誘導』報道、見抜かれている」はこの記者を扱う。ネット炎上により「懐かしい顔を拝見した」からで「10年ほど前に原子力規制委員会の会見でご一緒した」という。

当時、「規制委が行った(原子力発電所の)敷地内断層の活動性に関する審査でも、当該記者は似た対応」「規制委側が『現状のデータでは活動性がないと言い切れない』との判断を示しても、『それはつまり活断層ですよね』などと会見で誘導」「引きずられる形で地方メディアなども『活断層』と報じていた」と振り返る。

その上で「現在は誰でもネットで記者会見を見られる。記者の知識不足が露呈したり誘導質問をしたりすると、SNS上で厳しい指摘を受ける。結果的にマスメディアの信用が失われる」「脚色した記事を流し続けていると、自らの首を絞めるようなものだ」。

全面的に同意する。

H3は3月7日、再び打ち上げに挑んだ。読売8日「『H3』1号機失敗、2段エンジン着火せず」は「大打撃」と伝える。記者と違い技術者は失敗に学ぶ。成功の母なのだから。次回に期待する。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

【コラム/4月14日】コンプライアンス違反と送配電の一層の分離


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

大手電力会社の送配電子会社が管理する新電力の顧客情報を、同じグループの小売会社に漏洩させていたことが発覚した。送配電子会社には、「行為規制」が導入され、情報交換のみならず、役員人事などの交流も制限されていた。しかし、送配電と小売りの情報遮断ができていなかったことから、法的分離と「行為規制」の限界を指摘し、送配電の中立性を高めるために、送配電の所有権の分離を含むさらなる構造分離を求める声が上がっている。そこで、本コラムでは送配電のさらなる構造分離について考えてみたい。

まず、欧米における送配電の構造分離について見てみたい。指摘しておかなくてならないことは、わが国では、ネットワークは送配電が一括で分離されているが、欧米では、送電と配電それぞれが分離されていることである。配電の分離については、別の機会に論じることとして、ここでは送電の構造分離に焦点を当てることにする。欧州では、送電については、大部分の国が、法的分離か所有権の分離を採用しているが、所有権の分離が主流である。2009年のEU指令で、これらに加え、米国にみられる独立系統運用者も採用可能だが、その例は2か国にとどまる。法的分離については、親会社との人材の異動の制限に加えて、独立の意思決定機関の設置と独立の資金調達・送電計画などが義務づけられており、厳しい規制が課せられている。所有権の分離が多いのは、欧州では電気事業は国営・公営である(であった)国が多いため、送電の分離は、議会の決定のみで可能であったことが大きい。これに対して、民営の電気事業の場合は、所有権の分離の強制は財産権に抵触することになる。

米国では、送電を所有する電気事業の大部分は民営であるため、所有権の分離は憲法上難しいとの判断から、送電資産は電気事業のもとに残し、系統運用のみを独立の機関に委ねる例がほとんどである。同国では、系統運用のみに従事する独立の送電組織は、ISO(independent system operator )またはRTO(regional transmission operator)と呼ばれる。RTOはISOの機能に付加して、複数州での活動、送電拡張の計画策定の責任を要件として加えた形式である。

つぎに、所有権の分離や、独立の系統運用者の設立など一層の構造分離のメリット・デメリットを考えてみたい。法的分離も構造分離の一形態であるが、以下に述べるメリット・デメリットは送電の構造分離が一層進むほど顕著に現れる。メリットは、系統へのアクセス条件を整備することによる競争の活性化である。デメリットには技術的な問題と経済的な問題とがありうる。技術的な問題は、通常は生じないが、事故の復旧の際に情報交流などで生ずる可能性がある。例えば、2003年の北米大停電では、復旧に時間がかかった理由の一つは、送電分離により、発電側と送電側の情報交流がスムーズにいかなかったことが指摘された。経済的な問題としては、まず、範囲の経済性の喪失がある。多くの実証分析が垂直統合の経済性を明らかにしているものの、電力自由化はこのような研究成果を十分考慮していなかったとの指摘がある。

経済的な問題としては、さらに、発電と送電が分離されることによる取引コストの増大が挙げられる。米国の自由化優等生と言われる独立系統運用者pjmの例では、RTOの設立で、発電事業者は、RTOに対して発電電力を入札するが、戦略的な行動を防ぐための膨大なルールが存在し、その監視のためのコストが増えている。従来の電気事業体制では、発電はメリットオーダーに基づき、送電部門によりコマンド・アンド・コントロールでディスパッチされていた。コマンド・アンド・コントロールでは、このような取引コストは発生しない。

一層の構造分離の是非は、このようなメリット・デメリットの比較に基づかなくてはならない。今回の出来事は顧客情報に関するコンプライアスに起因する問題であるが、電気事業は、この機会に、コンプライアンスの総点検をしてみる必要はないか。電気事業としては、これ以上の信用失墜は絶対に避けなくてはならいだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

社会経済が崩壊しては意味なし エネルギー確保を最優先に


【オピニオン】古野 志健男/SOKENエグゼクティブフェロー

ロシアによるウクライナ侵攻から1年。欧州を中心とした世界のエネルギー事情が大きく様変わりした。過去に類を見ないエネルギー危機に直面している。

2022年2月24日の侵攻から約2週間後には欧州委員会(EC)がREPowerEUというアクションプランを発表。30年までの早い段階でロシアの化石燃料依存から自立するというものだ。欧州連合(EU)は、20年時点でロシアから天然ガスと石油はそれぞれ約4割、石炭でさえ約2割を輸入している。

同プランの基本方針は、ロシア以外からの多方面(北海やアフリカ)からパイプラインによる天然ガスの輸入拡大、再生可能エネルギー由来の水素やバイオメタンの拡大であるが、一朝一夕にはいかない。22年度の冬期は、備蓄している天然ガスなどで賄えたようだが、来シーズンにはめどがないという。既にドイツなどでは石炭火力発電が増加している。

22年、ECは課題山積みだった。REPowerEUの推進、21年に提案したCO2を30年には1990年比で55%削減するというFit for 55の欧州議会や理事会などでの決議、延び延びになっていた車の次期排出ガス規制Euro7の提案など。

結果論かもしれないが、結局上記の優先順位で進められ、Euro7提案が約1年も遅れたのだ。もちろん、どれも重要な案件だが、まずエネルギー確保が最優先というのは言うまでもない。大気環境の保全やカーボンニュートラル(CN)だけが先に進んでも、社会経済や国が崩壊しては意味がない。

皮肉にも、プーチンは世界がCNの傘の中に隠していたエネルギー問題をあぶり出したのだ。CNは世界共通言語で、国々のGDPなどに合わせて平等に議論できたのに、エネルギー問題が表に出ると利害関係が平等ではなく、国や地域間の調整がより難しくなる。

今、再エネの豊富さで一番注目されているのがアフリカだ。国際エネルギー機関(IEA)は22年のアフリカエネルギーアウトルックで、現在世界のエネルギー供給量に匹敵するグリーン水素をkg当たり2ドルで生産できるポテンシャルがあると報告する。サハラ砂漠を中心に全土で太陽光・風力・地熱発電、中南部ではバイオマスや水力発電が豊富と、再エネ電力の宝庫である。しかも発電コストが安く、すなわち水電解でのグリーン水素もお手ごろということになる。

ただ現状、再エネ事業は増えているが、アフリカ諸国は足元の電力不足により化石燃料由来の電力政策で手一杯。加えて化石燃料による火力発電への投資が足かせとなっている。ドイツ、中国を中心に世界各国がアフリカの再エネ電力に我先にと投資・参入しているが、さらにアフリカ諸国へ大型投資と強力なプロジェクト体制で支援していくべきだろう。

社会経済がまず安定してこそ、普段の生活ができる、そのためにエネルギーは人類平等に必須である。その基盤の上にCNや大気環境の保全を達成しなければならない。どうする世界?

ふるの・しげお 1982年豊橋技術科学大学電気電子工学専攻修了、現トヨタ自動車入社。2005年エンジン先行開発部長。12年現SOKENに転籍し20年専務。18年から日本自動車部品工業会技術顧問を兼務。

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2023年4月号)


 【中部電力ほか/境港市で木質専焼バイオマス発電所を開発】

中部電力とNew Circle Energy社、稲畑産業、中部プラントサービス、NX境港海陸、三光の6社が出資する境港昭和町バイオマス発電合同会社はこのほど、プロジェクトファイナンスによる融資契約を結んだ。この合同会社は、木質専焼の「鳥取県境港市バイオマス発電所」の発電設備の開発、建設、運転、保守管理業務などを行う。発電出力は2万8110kW。想定する年間発電電力量は、一般家庭の約6万4000世帯分に相当する約2億kW時。燃料は、鳥取県や島根県など中国地方で調達する未利用間伐材や一般木材、建設廃材などからの木質チップと木質ペレットを活用する。今年11月に工事を開始し、2026年5月の運転開始を目指している。

【大阪ガス/カーボンニュートラル目指しガスビルをリノベーション】

大阪ガスは、大阪市中央区にあるガスビルのリノベーションとガスビル西館(複合ビル)の都市開発に着手する。都市再生特別地区制度により、ガスビル敷地と西側の社有地との間にある市道の上空を活用し、両敷地の一体的利用を図る。また、歴史的建築物であるガスビルの保存を中心とした都市再生への寄与による容積率の緩和を受け、敷地全体の高度利用を図る。商業施設を誘致し、周辺地域ににぎわいをもたらすと共に、上層階にはオフィスを整備し、高度な業務機能の集積と調和するビジネスゾーンの形成を進める。また、カーボンニュートラルビルの実現とガスビル・ガスビル西館、周辺地域のレジリエンス向上に取り組み、御堂筋周辺地域の活性化に貢献していく。

【東京ガス/レノバから太陽光発電と非化石価値を買い取り】

東京ガスは、レノバとの再エネ需給調整サービスを活用した電力購入契約に基づき、太陽光発電の電力と非化石価値の買い取りを開始した。買い取るのは三重県の四日市市と名張市にレノバが新設した、4カ所の太陽光発電所の電力約375kW。RE100に加入するなど環境意識の高い需要家に、この電力と環境価値を届ける。2023年度末までに最大1万3000kWの取引を計画しており、順次拡大する。東京ガスの再エネ需給調整サービスは、電力や非化石価値の買い取りのほか、再エネ発電予測・発電計画の作成・提出や、インバランスの費用負担を東京ガスが行う仕組み。再エネ発電所の開発と運営に強みを持つレノバと協業することで、FITに依存しない再エネの普及拡大を目指す。

【NTTスマイルエナジー/PPA導入でCO2削減を支援】

NTTスマイルエナジー(大阪市)はこのほど、浜松白洋舎(浜松市)の浜松白洋舎浜北工場に、法人向け太陽光発電設備PPAサービス「スマイルそらえるでんき」導入の契約を結んだと発表した。導入工事は、東海エリアで電気工事網の実績を持つスマートブルー社が担当する。発電した電力は工場内で自家消費する。年間発電量は約9万8000kW時を想定。これにより、同工場の使用電力のうち48%が太陽光発電由来となり、年間約40tのCO2削減を見込む。

【コスモエネルギーHD/トラックターミナル初 水素ステーション建設】

コスモエネルギーホールディングスのグループ会社、コスモ石油マーケティングは岩谷産業と共同で、水素ステーション事業を担う岩谷コスモ水素ステーション合同会社を設立した。同社が手掛ける最初のステーションは、京浜トラックターミナル内にある「京浜トラックターミナル平和島SS」に、2024年中の併設を予定している。今後の燃料電池(FC)商用車の増加を見据えて、短時間で充填可能な水素ステーションを計画している。脱炭素社会の実現に向けて、水素燃料の社会実装と水素の需要拡大を進めていく。

【スマートエネルギーWeek/新エネルギーの最前線 世界最大級の総合展】

国内外のエネルギー関連団体や企業が集まる世界最大級の総合展示会「スマートエネルギーWeek春2023」が、3月15日から3日間にわたり開かれた。水素・燃料電池、太陽光発電、二次電池、スマートグリッド、風力発電、バイオマス発電、ゼロエミッション火力の七つの展示会で構成し、多くの最新技術が並ぶ。世界各国から専門家も来場し、経済産業省や環境省、大手電力会社役員などによる講演会も開催。2050年カーボンニュートラル実現に向けて、エネルギービジネスを加速する商談の場にもなっている。

【東電設計/送電鉄塔の基礎工事を大幅簡略化】

東電設計は送電線の鉄塔の基礎をつくる際に使われる床板部分のプレキャスト(成形済み)化を実現し、製品の販売を始めた。送電鉄塔の基礎の施工は、鉄塔の組立に支障がないようにするため難易度が高く、専門の作業員が経験と技術を頼りに作業している。現場の条件に合わせたプレキャスト部材を工場で生産、現地では組み立てるだけにし、経験・技術不足の作業員でも基礎を構築できるようにした。既に東京電力が横浜市の現場で採用。他社も採用を検討している。

【三菱電機/系統安定化を支援 大規模停電の防止へ】

三菱電機は、北海道電力ネットワークから統合型系統安定化システム(IRAS)を受注した。IRASは電力系統の事故を瞬時に検知し、必要に応じ高速で制御を実施。大規模停電(ブラックアウト)を防止する。運用開始は2024年3月を予定している。同社は再エネの導入拡大のため、電力系統の安定化を支援し、安心して電気を利用できる社会の実現に貢献していく。

【損保ジャパンほか/財務影響分析サービス 洋上風力向けに開始】

損害保険ジャパンとSOMPOリスクマネジメントは、洋上風力発電事業者向けに、事業運営上の確率的なリスク評価に基づいたプロジェクトサイクルで保険料のシミュレーションを行い、財務への影響を分析するサービスを販売する。自然災害や故障などの発生や保険マーケットのトレンド、物価動向などを加味して保険料を算出できる。

【双日・日本製紙/バイオマス発電が稼働 燃料に未利用材を活用】

双日は日本製紙と共同でバイオマス発電事業会社「勇払ゆうふつエネルギーセンター合同会社」(北海道苫小牧市)を設立し、2020年5月から建設を進めてきた国内最大級のバイオマス専焼設備の営業運転を2月から開始した。発電出力は約7万5千kW。燃料は主に海外から調達する発電用木質チップとPKS(パームヤシ殻)のほか、北海道の未利用材(間伐材や林地残材の未利用資源)を積極的に使用する。未利用材の活用により、地域の森林環境の整備を促し、北海道の林業振興や雇用創出による地域活性化に貢献する。

【ENEOS/豪州でグリーンMCHの大量製造に向けた実証】

ENEOSはこのほど、水素キャリアの一種であるメチルシクロヘキサン(MCH)を製造する実証プラントを豪州に建設した。同社は、独自に開発した低コスト型有機ハイドライド電界合成法(Direct MCH)を活用。再エネ由来のMCH(グリーンMCH)の大量製造に向けて、電解槽の大型化に取り組んでいる。この実証プラントでは、中型電解槽と250kWの太陽光発電設備を組み合わせた製造を行う。今年2月から9月までの実証期間中に、製造効率最大化のため、亜熱帯環境下での電解槽の耐久性の確認や、太陽光の発電量に合わせた運転・制御技術を開発する。こうした知見を生かし、25年度をめどに商用化に使用する5000kW級の大型電解槽の開発を目指す方針だ。

企業が得られる「ごほうび」 削減貢献量のコンセプト


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.13】関口博之 /経済ジャーナリスト

CO2の排出に関する「削減貢献量」という考え方に関心が高まってきている。国内企業からも要望の声が広く上がっている。削減貢献量は、企業の脱炭素技術が社会に与える効果を評価する指標。「環境性能の良いこの製品・サービスがなかったらこうなるが(ベースライン)、この製品・サービスのおかげでこれだけ排出量を減らせる」ことを表すものだ。省エネ技術もこの算定の中に入る。

概念は以前からあり、経済産業省も2018年にこれを定量化するためのガイドラインをつくったが、国際的には広がらなかった。ところが、今度は世界のGX(グリーントランスフォーメーション)をけん引する企業などでつくるWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)が、削減貢献量を信頼性の高い指標にすべくガイダンスの策定を進めていて、3月中にも公表するという。さらにWBCSDはこれをたたき台に経産省とも連携し、日本が議長を務める今年のG7(主要7カ国)広島サミットでも削減貢献量の枠組みを提言したいとしている。一気に注目度が高まっているのもこのためだ。

GXリーグシンポジウムでも削減貢献量が議論された

そもそも削減貢献量は、スコープ3に表れる排出量の削減分と違うのか? という疑問もあるかもしれないが、こう考えると分かりやすい。メーカーがCO2排出量を従来品より2割減らした新製品を開発しても、この新製品が人気で、これまで100の売り上げだったものが倍の200売れたとすると、スコープ3での総排出量は増えてしまう。環境性能を高めた企業の努力を正当に評価し、市場にもアピールできるようにする狙いが、削減貢献量の考え方にはある。ただし、従来品や他社競合品の捉え方(ベースラインの置き方)次第では、貢献を大きく見せる水増しも起きかねない。

また“この商品がなかりせば”といった推定の要素も入り込む。環境性能を過大に語る「グリーンウォッシュ」にならないよう注意深い制度設計が必要だ。金融市場での評価にも耐え得るようにするためには、信頼性と一貫性のある基準づくりが欠かせない。WBCSDでは、実際に脱炭素化につながっているという適格性、算定方法、開示の仕方など明確な基準を設けたいとしている。

23年度から始まる「GXリーグ」に向け、2月に開かれたシンポジウムにはWBCSDのドミニク・ウォーレイ副代表がメッセージを寄せた。この中では「削減貢献量が制度化され、高い信頼性が得られるようになれば、企業はより多くのイノベーションを生み出すようになる。削減貢献量という指標は、リスクやコンプライアンスの対象ではなく、企業が得られる“プライズ”=ごほうびなのだから」とウォーレイ氏は述べていた。

確かに多くの企業にとって排出削減目標の達成、とりわけスコープ1の削減は、それが自主目標であれ、守れないと大変なことになるリスクと身構えてしまうものだ。対照的に削減貢献量という概念はイノベーションを促し、市場拡大や成長をイメージさせ、企業をやる気にさせる。その意味でもGXには必要なツールといえそうだ。


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.1】ロシア軍のウクライナ侵攻 呼び覚まされた「エネルギー安保」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.2】首都圏・東北で電力ひっ迫 改めて注目される連系線増強

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.3】日本半導体の「復権」なるか 天野・名大教授の挑戦

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.4】海外からの大量調達に対応 海上輸送にも「水素の時代」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.5】物価高対策の「本筋」 賃上げで人に投資へ

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.6】なじみのない「節ガス」 欠かせない国民へのPR

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.7】外せない原発の選択肢 新増設の「事業主体」は

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.8】豪LNG輸出規制は見送り 「脱炭素」でも関係強化を

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.9】電気・ガス料金への補助 値下げの実感は? 出口戦略は?

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.10】“循環型経済先進国” オランダに教えられること

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.11】高まる賃上げの気運 中小企業はどうするか

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.12】エネルギー危機で再考 省エネの「深掘り」

せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

経産省が牛耳るGX推進法案 国会機能軽視の危険な落とし穴


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

衆議院の本会議で審議入りしたGX推進法。今後10年間で20兆円規模のGX先行投資を支援するため、財源としてGX経済移行債を発行し、炭素に対する賦課金や排出量取引制度における負担金を徴収してその償還に充てるというものだ。脱炭素を巡り世界中が大規模な投資競争を行っている中、総論で反対する声はあまりない。が、こうした時こそ、条文ベースで制度を読み解くことが重要である。

まずGX債だが、法案第7条で2023年度から32年度までの各年度に限って発行することが規定されている。そして第8条で50年度までに償還するとされている。ところが、第11条で化石燃料賦課金は28年度から、第16条で排出量取引制度負担金は32年度から徴収するとされているが、徴収期限に終わりはない。つまりGX債の償還が終わった後も賦課金や負担金の徴収は続き、その使い道もこの法案では何ら定められていないことになっているのだ。

さらに、本来こうした国債の償還は税で行われることが大原則なのに、GX債は賦課金や負担金で行うことがミソである。税であれば憲法第84条に基づく租税法律主義によって税率は法律で定めなければならず、当然国会審議に付されるが、化石燃料賦課金の額は税ではないため政令で国会審議を経ずに決められる。排出量取引制度での負担金については、特定事業者にCO2の排出枠を割り当てその額はオークションで決定される。問題なのは、排出枠の割り当てやオークションの方法が第19条で「別に法律で定める」とされており、この法案では何ら明記されていないことだ。

負担期間など未定だらけ 問われる立法府の役割

事業者の負担額を国会で審議できず、負担額の決定方法も何ら決まっておらず、事業者の負担がいつまで続くのか、GX債償還後にこれらの収入が何に使われるのかも決まっていない法案を堂々と提出した時点で、財政民主主義を無視し国会の機能をなめ切った、極めて危険な法案と言わざるを得ない。

同法案は内閣官房で作られ、GX実行推進担当相たる西村康稔氏の所管。西村大臣の本務は経済産業相であり、同法案で認可などの権限を行使する大臣は経産相だけである。本来、脱炭素は運輸や建設・住宅などさまざまな分野に関わり、総合調整が必要なため内閣官房で行っているはずだ。が、同法案は経産相の所管で完結しているため、例えば特定事業者は法律上電気事業者だけ。つまり、内閣官房の衣を着た経産省が所管行政を遂行するために作られたものになってしまっている。

経産省が今後どのような政策を展開していくか、国会だけでなく資金を負担する業界も厳しい目で見続けていくことが必要だ。そもそも、この法案自身のそうした問題点を国会がどれだけあぶり出し修正できるか、立法府の役割が問われている。

ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

IPCC最新報告書の波紋 次の目標策定へ影響必至


IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が3月20日、9年ぶりとなる第6次統合報告書を公表した。注目点は、産業革命前からの温度上昇を1.5℃に抑えるための中間地点となる2035年の目標水準を示すかどうか。報告書では初めて「温暖化ガスを35年に19年比で60%減」と明示した。今後のG7(主要7カ国)サミットや、温暖化防止国際会議・COP28への影響は必至だ。

今年のCOP28では、各国の温暖化対策の進捗を点検する「グローバルストックテイク」を初めて実施する。報告書の内容は、参考資料の一つとして活用される見通し。この結果を踏まえ、24~25年に各国に新たなNDC(国別削減目標)の提示を求める。

日本が現在掲げるNDCは30年度に13年比46%減。この過程では米国などからの厳しい突き上げがあり、日本は実効性に乏しいエネルギーミックス策定を余儀なくされた。ただ、重要なのは実現不可能な目標提示よりも、着実な対策の積み上げで世界全体のCO2削減に寄与することだ。ロシア有事が突き付けた現実を、温暖化議論で直視することはできるのか。

【マーケット情報/4月6日】原油続伸、供給のタイト化見通し強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

3月31日から4月6日までの原油価格は、OPECプラスの8カ国による自主的な追加減産の発表を受けて、主要指標が軒並み急伸した。特に米国原油を代表するWTI先物と北海原油の指標となるブレント先物は、それぞれ前週比5.03ドルと5.35ドルの上昇となった。

OPECプラスの8カ国が、5月から年末にかけて合計で日量116万バレルの自主的な追加減産を発表。ロシアも日量50万バレルの減産を年末まで維持すると公表したことを受けて、供給のタイト化が続くとの見通しから、積極的な買いが膨らんだ。

イラクとクルド人自治区の間で原油の出荷再開の合意が結ばれたが、実際の輸出には至っていない。

米国では、OPECプラスの減産計画と経済の先行き見通しに対する懸念の間で揉み合う局面もあった。米エネルギー情報局が発表した最新の統計では、原油在庫およびWTI原油の受け渡し地点となるクッシングの在庫はともに減少に転じたものの、景気の先行き不透明感から需要が抑制された。ただ、全体としては油価の下方圧力に至らなかった。

【4月6日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=80.70ドル(前週比5.03ドル高)、ブレント先物(ICE)=85.12ドル(前週比5.35ドル高)、オマーン先物(DME)=83.90ドル(前週6.11ドル高)、ドバイ現物(Argus)=84.64ドル(前週比6.77ドル高)

環境次官がCN政策テーマに講演 地域変革のけん引役として業界に期待


【都市ガス有志の勉強会】

3月中旬に開かれた地方都市ガスの有志が集まる勉強会で、和田篤也・環境事務次官が「カーボンニュートラル(CN)による地域の未来像」をテーマに講演した。環境省のトップが地方ガスの勉強会で講演するのは異例。和田氏は都市ガス事業について産業界、地域社会のスタークホルダー両方の側面を持つと評価した上で、「地域のCNとの親和性が高いビジネスだ」と強調。同省施策を軌道に乗せるドライバーとなることへの期待を示した。

政府が2020年秋に「50年CN宣言」を行って以降、同省は脱炭素政策の中でも地域や社会、暮らしなどの変革にフォーカス。30年度までに民生部門の電力のCNを目指す「脱炭素先行地域」では同年度までに100カ所を目指すなど、CN宣言以降の5年間に政策を総動員する。和田氏はその上で重要になるのが「ニーズオリエンテッド(最優先)」だと強調。「地方自治体、中でも市民目線のニーズを把握する市町村をバックアップし、そのソリューションツールがCNというストーリーを共有してほしい」と続けた。

ガス業界への期待を語った和田次官

メタネーションの可能性 「地域オリエンテッド」で

CN政策は、2月10日閣議決定のGX(グリーントランスフォーメーション)基本方針を踏まえてさらに加速。カーボンプライシング(CP)やグリーンファイナンス強化、日本の技術移転で世界全体のCO2削減に寄与する「アジア・ゼロエミッション共同体構想」への貢献などが柱だ。

特に注目度が高く、炭素賦課金と排出量取引の導入が検討されているCPについては、「CPを今すぐ入れるという発想ではなく、まずは国が(GX移行債で)企業の取り組みをバックアップする。ただ、いつまでもCNにやる気を出さない企業には後からCPが課されるようになる」と、欧州などとの違いを解説した。

他方、日本は今年のG7(先進7カ国)サミット開催国としてこれらの方針を主要国にアピールする考えだが、石炭火力政策などを巡っては意見の隔たりがある。日本政府は着実に世界全体のCO2削減につながる国産技術として水素・アンモニアの活用を掲げ、安易な石炭火力全廃方針に言及しない対応を続けてきた。

和田氏は、水素を基軸としたe―メタンに関して既存インフラを活用でき、現実に則した「ジャストトランジション」(地域社会や産業などの公正な移行)が期待できるとの考えを示した。多くの業界がビジネスモデルの変革を迫られる中、「都市ガス業界はe―メタンにフックをかけることがジャストトランジションにつながる」と強調。「『地域ニーズオリエンテッド』な業界」としてGX時代をけん引することに期待を寄せた。

LPガス支援復活の愚策 背景に統一地方選対策か?


一度は見送られたはずのLPガス利用者などに対する政府の負担軽減支援が一転、7000億円規模で実施される運びとなった。

自民党の経済産業部会などは3月、LPガスの利用者や電力の特別高圧需要家の負担軽減などを求める提言案をまとめ、政府の新たな物価高騰対策に盛り込んだ。岸田文雄首相が党の萩生田光一政調会長に指示していたものだが、ことLPガスへの政府支援を巡ってはエネルギー業界内外から異論・反論が相次いでいる。

「LPガスの輸入価格はLNGや石炭ほどの高騰局面にない。小売り料金上昇は販売業者による便乗値上げの要素があるのに、国が支援する意味が分からない」(消費者団体関係者)、「政府は商慣行の改善などで、輸入価格の10倍といわれるほど割高な末端価格の構造問題を是正することが先決だ」(エネルギー会社幹部)――。

確かに、輸入価格指標のサウジアラビア産CP(契約価格)を見ると、プロパンの3月分は1t当たり720ドルで前月比70ドル、前年同月比175ドルも下落している。「春の統一地方選をにらんだ最悪の愚策。血税の無駄遣いもいいところだ」。有力学識者の声がむなしく響く。

CN対策で急務の運輸電動化 官・民で連携模索し導入加速へ


【業界紙の目】穐田 晴久/交通毎日新聞 編集局記者

運輸部門のCO2大幅削減が課題となる中、特にトラックなど商用車の電動化対策が急務だ。

関係省庁が電動化への政策支援に力を入れ、メーカー同士も連携して取り組みを活発化させている。

「2050年カーボンニュートラル(CN)」の実現に向け、トラックやバス、タクシーなどの商用車の電動化が大きな課題になっている中、自動車メーカーが新型のEVトラックの発表会を開催したり、量販FCV(燃料電池車)小型トラックの開発を発表したりといった動きを見せている。一方、環境省が経済産業、国土交通両省と連携し、23年度当初予算でトラックとタクシーの電動化への支援事業を新規で立ち上げるなど、政府の動きも活発化してきた。

商用車の電動化が急務となっているのは我が国全体のCO2排出量の約2割が運輸部門で、このうち約4割をトラックなどの商用車が占めるからだ。この課題対応として政府は、21年6月策定のCNに向けた「グリーン成長戦略」で商用車の電動化目標を掲げた。8t以下については30年までに新車販売の20~30%を電動車にし、8t超については累積5000台の先行導入を目指す。

矢野経済研究所が1月13日に発表した商用車の電動化に関する市場見通しによると、商用車の世界販売台数は35年に3053万台(19年比13.7%増)で、HEV(ハイブリッド車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)、EV、FCVといった電動車が占める比率は、最大で49.1%まで拡大するという。21年の電動商用車の世界販売台数は29.9万台で、商用車全体に占める電動化比率は1.2%。中国や欧州が中心となって市場をけん引し、補助金などの普及施策を受けて販売台数を伸ばしてきた。

商用車の電動化では、バッテリーを含めた積載量や走行距離の短さが課題として指摘されてきたが、各国で対策が取られている。欧州ではEVやFCVに限定して積載量を緩和しており、米国でも同様の動きがみられる。

メーカー動向活発に  各社相次ぎ新商品投入

こうした中、国内メーカーの動きはどうか。

「カーボンニュートラル戦略」と「進化する物流への貢献」を進める、いすゞ自動車は、昨年5月に横浜市で開催された「ジャパントラックショー2022」で、小型トラック「エルフEモニター車」の実車展示を行った。22年度中の量産開始に向けて開発を進めていることを明らかにしたほか、大型FCVトラックの取り組みについてパネル展示や動画で紹介した。

また、トヨタ自動車が同年7月に商用車の電動化戦略を発表。いすゞ、日野自動車と共同で小型FCトラックを開発し、23年1月以降に実用化することや、スズキ、ダイハツ工業とは軽商用EVバンを共同開発し、23年度中に市場投入するとした。

両プロジェクトには、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)やCNへの貢献を目的に、いすゞ、日野、トヨタが設立した新会社「コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ」(CJPT)も参画する。小型FCトラックはいすゞと日野によるトラック技術と、トヨタのFC技術を組み合わせた知見などを結集する。軽商用EVバンは、スズキとダイハツが培った小さなクルマづくりと、トヨタの電動化技術を組み合わせたサステナブル(持続可能)な移動手段の提供を目指している。

さらに、三菱ふそうトラック・バスは、昨年9月に横浜市内で開いた発表会で、小型EVトラック「eキャンター」の新モデルを公開した。eキャンターは17年に国内初の量産型EVトラックとして発売され、今回の車両はフルモデルチェンジした次世代モデルとなる。航続距離を短くする代わりに価格を下げた点が特徴だ。同社幹部は「ラストワンマイルから拠点間輸送まで多くの需要に対応できる」とアピールした。

このほか、ベンチャーの「EVモーターズ・ジャパン」(北九州市)のEVバス2台が、東京・渋谷区のコミュニティバスに導入され、3月から運行を開始した。商用車を巡る動きが活発化している。

三菱ふそうトラック・バスが発表した新型EVトラック

業界直面の2024年問題 「CNは後手に」の本音

矢野経済研究所によると、中国ではNEV(新エネルギー車)向け補助金などの優遇を受けて電動商用車の販売台数が増加しており、特に大型バスではEVの新車販売に占める割合が高い。他方、欧州では電動化の中心は小型商用車だが、主要な商用車メーカーのラインアップ拡充によって、大型トラックでも電動化が進むと見られるという。

海外に対し日本政府の動きはどうか。環境省は、EV、HEV、天然ガストラック・バスの導入や充電インフラの整備を支援する目的で「環境配慮型先進トラック・バス導入加速事業」(19~23年度)を実施。23年度当初予算の電動化促進事業では、改正省エネ法で新たに制度化される「非化石エネルギー転換目標」を踏まえた中長期計画の作成義務化に伴い、EV、PHEV、FCVの野心的な目標を掲げた事業者や、非化石エネルギー転換に伴い影響を受ける事業者などを対象に、車両導入費を集中的に支援する。約136億円を計上した。乗用車の導入支援などと合わせ、運輸部門全体の脱炭素化を進めたいとしている。

ただ、物流業界のCN推進に向けては、①中小事業、個人事業者にも車両導入を促せる補助的措置の必要性、②それぞれの用途でのニーズを満たす商用車の開発や生産力の確保、③EV給電、電池交換などの設備の整備―などの課題が横たわっている。

働き方改革関連法によって4月以降、自動車運転業務の年間時間外労働の上限が960時間に制限される。これに伴い発生する「2024年問題」も影を落とす。同法はトラックドライバーの労働環境改善が狙いだが、運送・物流業者の売上や利益の減少、ドライバーの収入が減少し離職に繋がる可能性もある。

労働力不足に拍車がかかる恐れなどが懸念されており、中小運送事業者からは「CN推進まで対応できない」との声も漏れる。こうした課題も含めた総合的な政策判断が今、求められている。

〈交通毎日新聞社〉〇1924年創刊○発行部数:週2回5万6000部○読者層:自動車・部品・タイヤメーカー、ディーラー、整備事業者など

運転期間見直しで異論噴出 露見した原子力規制委の課題


【論説室の窓】神子田 章博/NHK 解説主幹

原発運転期間見直しなどを盛り込んだGX脱炭素電源法案を巡り、原子力規制委員会で意見が分かれた。

今回の制度変更は、規制委、ひいては原子力産業が抱える根本問題を浮かび上がらせる。

原子力規制委員会は2月13日、原発の運転期間を巡る政府の新たな方針について異例の多数決で了承した。

原発の運転期間は、東京電力福島第一原発事故を受けて、原則運転開始から40年。1回に限り延長が認められ、その場合でも上限を60年とすることが、原子炉等規制法で定められている。新たな制度では、運転期間についての規定を、経済産業省が所管する電気事業法に移す。さらに、原則40年、上限で60年を原則としながらも、運転開始から30年目以降は、10年間隔で規制委が安全性を確認して認可を繰り返す制度を導入することで、経年劣化した原発の安全性を確認する。その一方で、規制委の安全審査などによる運転停止期間については、運転期間の計算から除外するとしている。

石渡委員が反対 独立性を疑う声も

規制委の中でとりわけ強い反対論が出たのは、この最後の部分だ。地震や津波などの審査を担当する石渡明委員は、「電力会社の責任で不備があって審査を中断するなどした場合でも、その分あとで運転期間を延ばしてよいというのは非常におかしいと思う」と主張。規制委は時間をかけてでも安全性をとことん追求することが求められているのに、審査に時間をかけるほど運転期間が延長され老朽化によるリスクが高まることになるというのは、大いなる矛盾だというのだ。

これに対し山中伸介委員長は、新たな制度では、運転開始から30年以降、10年を超えない期間ごとに機器や設備の劣化状況を確認して管理計画を策定し、規制委の認可を受けるとしていることを挙げ、「ある期日が来たときに基準を満たしているかどうか安全規制をするのがわれわれの任務だ」と強調。結局、採決では4対1で政府の方針が了承された。

記者会見する山中伸介委員長

この問題を巡っては、審査による停止期間が自動的に運転期間の延長につながることで、電力会社が審査を満たすための安全対策を急ぐインセンティブが薄れるという懸念が出ている。その一方で、企業としては1日も早い稼働で、莫大な投資の回収と収益性の向上につなげたいところで、故意に審査期間を延ばすようなことは考えられないという見方もある。

肝心なのは、規制委が独立した立場から厳格に審査することで、良いものは良い、ダメなものはダメと一切の忖度なしに科学的見地に基づいた判断を下し、安全性の維持を最優先するということではないか。

そこで次の焦点は、規制委の独立性が保たれるのかどうかだが、今回の経緯を巡って、それを疑う声も聞こえる。政府の方針について規制委が議論を続けることができる時間の制約の問題だ。

政府は、今回の制度変更を盛り込んだ法案を今国会で成立させようとしている。このため、規制委の議論も一定の時期までに結論を得るという、いわば枷がはめられた形になった。

これについて規制委の杉山智之委員からは、「外から決められた締め切りを守らなければならないという感じで、せかされて議論してきた。われわれは独立した機関であり、じっくりと議論すべきだった」という指摘が出された。これに対する山中委員長の見解は、「少なくとも4カ月間をかけて議論してきたが、法案を提出しなければならないという期限があったのは事実で、そこはやむを得ないところだと思う」というものだった。法案化に向けたスケジュールとの折り合いをつけるために、規制委での議論に時間的な制約がかかったことを認めたとも受けとられている。

もともと規制委は、福島の事故後、原子力発電を推し進める側の政府から独立し、透明性をもって安全性を審査する機関として発足した経緯がある。独立性を疑われることはすなわち、原発の安全性に疑いを持たれることにつながり、その結果、原子力の活用にブレーキがかかることになりかねない。

求められる人材確保 原子力産業が陥った悪循環

その一方で、規制委が無制限に時間をかけてよいということにもならないだろう。エネルギー情勢を巡っては、脱炭素という待ったなしの課題に加えて、ロシアによるウクライナ侵攻後には、天然ガスの需給がひっ迫し、電力料金の高騰に跳ね返る中で、コストを抑えながら安定的なエネルギーをどう調達していくかも差し迫った課題となっている。そうした課題に応えるものとして原発の重要性が高まる中、審査のスピードアップが求められているのではないか。

もちろん、このスピードアップは、「せかされて」審査することで安全性が疎かになるというものになってはならない。安全性の確保について妥協のない形で審査をスピードアップするためには、規制委の体制強化を図る必要があるのではないだろうか。

ところが、ここでネックとなるのが、規制委の体制を強化するための人材の確保だ。もともと規制委は、原発を製造する大手電機メーカーなどから人材の供給を受けて発足したが、メーカーにとっても原発の製造のための人材が必要であり、規制委に供給できる人材には限りがあるという。さらに原子力政策を担う官庁側にも、原子力の専門家は欠かせない。その一方で、福島の原発事故以降、「産業としての将来性のなさ」を感じて、原子力を志す若い人材が減っているという。今回の政府の原発政策の転換には、原子力産業を存続させなければ、日本の原子力関連の技術も廃れてしまうという危機感もあったという。

福島の原発事故から12年が経った。原発の安全への信頼が失われたことで、原子力産業の将来性と潜在的な人材が失われるという悪循環が時間をかけて進んできた。この悪循環を止め、逆回転をさせるには、何よりも安全性への信頼を取り戻すことが重要で、それには相当な時間がかかりそうだ。規制委の体制強化で審査のスピードアップを図るといっても、そのこと自体、長い時間を必要とするものになりそうだ。

液石WGが7年ぶり再開 LPガス商慣行にメス


LPガスの料金透明化と取引適正化について検討する総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)の液化石油ガス流通ワーキンググループ(WG、座長=内山隆・青山学院大学教授)の会合が3月2日に開催され、7年ぶりに議論を再開した。

テーマは、事業者が賃貸集合住宅へのガス供給契約獲得のためにさまざまな製品を物件オーナーに無償提供し、その費用を入居者からガス料金として回収する商慣行の是正だ。今後3回程度会合を開き、現行の商慣行を見直すとともに制度改正を含む議論を行い、7月ごろまでに方向性を示す。

昨今、オーナーへのリベートは給湯器やコンロといったガス機器のみならず、エアコンやインターホンといったガスと直接関係のない商材にまで及ぶ。そもそも、設備はオーナーの所有という整理に基づけば、その費用をガス料金に転嫁すること自体、つじつまが合わない。永井岳彦・石油流通課長は、「顧客獲得コストの上昇が、消費者の不利益になっている可能性がある」と指摘。事業者に無用な混乱が生じないよう配慮しつつ、早期の是正を目指す構えだ。

【覆面ホンネ座談会】原子力規制に改善見えず 「山中委員会」に物申す!


テーマ:原子力規制委員会の評価

国の原子力規制委員会が原子炉等規制法の改正に踏み切り、原発運転期間の延長が実現する。電力会社には朗報だったが、業界が切望する安全審査の改善は進展がない。業界関係者が「山中委員会」を見る目は依然厳しい。

〈出席者〉 A学識者  B電力業界関係者  Cジャーナリスト

―山中伸介氏が委員長に就いて半年が経つ。まず評価から聞きたい。

A 原発の運転期間延長を巡り、石渡明委員が最後まで原子炉等規制法の改正に反対した。それで、最後は山中さんが多数決で決めた。批判の声もあったが、規制委がNRC(米国原子力規制委員会)のような組織に近づいたと評価している。ようやく合理的な規制を行う機関に代わるのではないか。その兆しを感じている。

B NRCのように多数決を採用し、意見の分かれる課題に白黒決着を付けた。これは規制行政での普通の取り組みとして、よいことだと思っている。ただ、山中委員長の手腕については、評価をするのは時期尚早だろう。どう規制行政をリードしていくのか、まだ見えていない。

 大阪大学時代の山中さんからは、優秀な学者だが、遠慮がちで発言が少なく、リーダーシップを取るタイプとの印象は受けなかった。それは規制委の委員長になっても変わらない。委員会も原子力規制庁の用意したシナリオに沿って進めているように見える。委員会での発言を聞いていると、規制庁事務局と打ち合わせて、その枠の中からはみ出さないように慎重に話しているようだ。

リーダーシップに期待はするが…… 法律専門家が規制委のグリップを

―すると、期待はしていない?

B いや、そんなことはない。更田豊志前委員長、田中俊一元委員長は、記者会見での厳しい質問に対して、その場の思いつきで想定を越える発言をして、規制庁も後処理に困ったことが度々あった。もうそんなことは起きないだろう。

 一方、今の安全審査はとても科学的、合理的なものとはいえない。それで電力会社はひどい目に会っている。業界としては当然、それらを正すために山中さんのリーダーシップに期待している。実際は、かなり難しいかもしれないが。

C 運転期間の延長、それに柏崎刈羽原発の追加検査など、実務的にテキパキと仕事をこなしている印象は受ける。ただ、Bさんと同じく、田中さん、更田さんのような強烈なカラーは感じない。規制庁にとっては担ぎやすい委員長だろう。

 ただ、山中さんはあえて自分のカラーを打ち出す必要はない。規制委も国の行政機関の一つだ。ところが今、規制委の中に法律を正しく解釈する委員がいない。法律に詳しい規制庁幹部が、委員や職員をある程度、グリップしないと田中さん、更田さんの時のような「暴走」が始まってしまう。

―規制庁長官の片山啓さんは経済産業省出身の事務官だ。

C 法律に詳しい片山さんたちは、規制委も国の行政機関の一つであることをわきまえている。彼らが規制行政を法律に則って進めるべきだ。同時に金子修一次長のような海外の規制に詳しい技官幹部が、規制庁の職員をきちんと監督しなければいけない。

 かつての規制庁の原子力規制部は、「更田チーム」「石渡チーム」と委員が親分になって、やりたい放題の審査をしていた。あたかも、参謀本部のコントロールが効かなくなった「関東軍」のようだった。それが再稼働の審査が延々と続いた最大の理由だ。

A 行政手続き法では、原発の再稼動はおおむね2年間で審査することになっている。2年間で審査を終える体制にしなければ、行政組織として失格ということだ。ところが、延々と10年近く審査を続けているサイトがたくさんある。

原発の役割が重要性を増す中、原子力規制委員会への期待は高まるが……
提供:朝日新聞社/時事通信フォト