電事連会長人事が先送りに サプライズはあるのか


電気事業連合会の会長人事がまさかの先送りだ。

池辺和弘会長(九州電力社長)は2月17日、電事連社長会後の記者会見で、会長人事について問われると、「非常に答えにくい。情報漏洩問題などでバタバタしていて、社長間でもまだ議論が行われていない」「3年前に就任して任期はまだ残り1カ月ある。この1カ月で、これからどうするかを話し合う」などと説明した。

池辺会長に重責がのしかかる(2月17日の電事連会見で)

過去の例を見ると、次期会長人事は1月の社長会あたりで決まっていたが、今回は中部、関西、中国、九州の大手電力4社による電力カルテルが巨額の課徴金を背景に世間を騒がせているほか、送配電会社が持つ顧客情報の不正閲覧問題が北海道以外の電力9社で発覚。これにより、当初有力視されていた関西電力の森望社長や中部電力の林欣吾社長が候補から脱落し、「会長職経験のない東北電力の樋口康二郎社長に白羽の矢が立つのか、それとも池辺氏が異例の4年目へ続投するのか」(電力関係者)が焦点になっていた。

一時は樋口氏が有力と見る向きが多かったものの、複数の関係筋によれば、「日本電気協会の会長を元東北電力社長の高橋弘明氏が務めている」「電事連会長という重責を引き受けられるほどの力に欠ける」といった理由から、東北電側が固辞。2月に入ってからは「池辺氏続投」の見方が支配的になっていた。

「カルテルや不正閲覧など大手電力全体に及ぶ問題で、電事連も組織の在り方が問われる重大局面を迎えている。ここを乗り切れるのは池辺氏をおいてほかにないと思うのだが……」(大手電力幹部)

3月の電事連社長会でサプライズはあるのか、ないのか。

日本に「EV時代」は到来するのか 鍵握る充電インフラ整備の現在地


日本政府は2035年までに乗用車新車販売で電動車100%の実現を目指す。

取材で浮かび上がったのは、一筋縄ではいかない充電器設置の障壁とEV社会の課題だ。

「マンションに充電器がないことが不安で……」

知人に電気自動車(EV)の購入について尋ねると、こんな答えが返ってきた。EVには乗ってもいいが、充電に対する不安が消えない─。同じ思いを抱える人は少なくないはずだ。

まずは日本の充電インフラ整備の現状を見てみよう。政府は30年までにガソリン車並みの利便性を実現するため、公共用の急速充電器3万基、普通充電器12万基の設置を目指している。

ところが、日本に設置されている充電器は、昨年3月時点で急速充電器が1万台弱、普通充電器が2万台強と目標には遠く及ばない。日本のEV事情を語る際、この数字が独り歩きして「充電器不足」という単語が枕詞になっているが、実は不正確だ。

国際エネルギー機関(IEA)が昨年発表したレポートによると21年、日本の充電スポット当たりのEV台数は11・9台となっている。これはノルウェーの33・6台には及ばないが、世界平均の9・6台やオランダの4・6台を上回り、データ上は充電器不足とは言えない。

では、なぜ日本が〝EV後進国〟と言われるのか。それはEV普及台数と充電器設置基数がともに少ない、つまり「全体のパイが小さい」からにほかならない。

充電インフラの拡充にはさまざまな障壁が

加速する集合住宅への設置 設置の障壁なくす規制緩和

充電インフラを拡充させるためには、充電器をやみくもに増やせばいいのだろうか。イーモビリティパワーの四ツ柳尚子社長は、過度な設備投資は最終的に利用料金の増額などユーザーの負担増につながるとして、国情に合った充電インフラの整備を訴える。

日本では、短距離移動に適した軽自動車が多く普及している。近くのスーパーやデパートに買い物へ、そんな使われ方が多い軽自動車社会では、特に住宅の充電設備が不可欠だ。

住宅向け充電器は、戸建てでは所有者一人の判断で設置できるが、マンションなどの集合住宅は設置のハードルが高い。管理組合の同意が必要で、理事会では全会一致、その後の総会で半数以上の賛同が求められるケースがほとんどだ。数年前まで、理事会では「本当にEV時代が来るのだろうか」という不安が充電器導入の障壁となっていた。

しかし、住宅向け充電器の設置を手掛けるユアスタンドのデニス・チア社長室長は「この3年で〝三段跳び〟のように不安が払しょくされつつある」と語る。デニス氏の言う三段跳びとは、①50年脱炭素宣言(20年)、②トヨタによるEV販売台数目標の大幅引き上げ(21年)、③日産・軽EVサクラの発売(昨年)―の三つだ。昨年、ユアスタンドの住宅向け充電器の設置件数は、前年比で2~3倍に膨れ上がった。

ただ細かな規制が、充電器の設置を阻む例が少なくない。例えば、日本の集合住宅の駐車場は、区分所有法によって駐車マスの「所有者」が決められている。このため充電器は共有部に設置する必要があるが、共用部は点在し、配線などが複雑になり費用がかさむ。充電器を1カ所にまとめて設置するには、利用者が敷地内の駐車マスを自由に使えるようにするなど、区分所有の規制緩和が必要だ。

スーパーやデパートへの充電器の設置も、似たような問題を抱えている。大規模小売店舗立地法(大店立地法)の規制がその一つだ。大規模小売り店では、充電器を設置した場合の駐車マスが、駐車場の収容台数から除外される。このため、収容台数を確保したい店舗からは、設置を断られてしまう事例があるというのだ。

充電の安定供給は可能か 環境面以外では多くの懸念

冒頭で「データ上は充電器不足とは言えない」と書いたが、実際にはサービスエリアなどで〝充電のための渋滞〟が発生するケースはある。今後、EV時代が到来したとして充電の〝安定供給〟は可能なのだろうか。ここには短期的・中長期的それぞれ二つの課題が横たわっている。

短期的な課題は、マンションやビルなどの変電・配線システムへの影響だ。建物ごとに変圧器の容量や配線の太さなどは異なり、一度に複数のEVを充電すると負荷に耐えられないことがある。充電器の使い方に工夫が必要だ。

例えば、東京電力パワーグリッドは車両のデータを収集し、効率的に充電を制御・管理するシステムを開発した。またユアスタンドでは、充電する時間が集中しないように、充電料金に差をつける「ダイナミック・プライシング」も検討しているという。

中長期的な課題は、配電系統への負荷だ。日本では充電インフラの増設が配電系統に与える影響評価が不十分だが、大手電力の関係者は、市中の自動車が全てEVに入れ替わり、普通・急速充電器に接続された場合、「ざっくり言うと、管内の電力需要の20~40%に相当するのでは」と推測する。急速充電器に蓄電池を併設するといった対応策が考えられるが、安定供給の観点からは諸刃の剣と言わざるを得ない。

経済安全保障上の問題では昨年4月、BMWのオリバー・ツィプセCEOがロイター通信のインタビューで、「(EV推進は)ごく少数の国々への依存度を高めることにつながる懸念も認識する必要がある」と語った。車載電池で高いシェアを持つ中国を念頭に置いた発言だ。ウクライナ戦争でロシアが制裁への対抗手段としてエネルギーを持ち出したように、台湾有事が発生すれば、中国は同じような動きに出るだろう。これは自動車産業の首の根を抑えられることを意味する。

日本の自動車産業はこれまで、ハイブリッド車の展開に力を入れてきた。しかし国際競争力の観点から、欧米の加速度的なEVシフトに追随せざるを得ない現実がある。そんな中、国内EV市場のパイを拡大させるには、車両と充電インフラが「鶏と卵」の関係ではなく、まさに「車の両輪」で推進されることが必要だ。車の全電化時代はすぐそこまで来ている。

電気値上げ申請で公聴会 不祥事など巡り厳しい意見


7億円もの課徴金を捻出できるのなら電気料金の値上げ抑制に使えるのではないか」「不正の詳細が分かるまで値上げ申請は保留にすべきだ」―。中国電力の規制料金値上げ申請に関する審査の一環として、経済産業省が2月9日に開いた公聴会では、需要家からの反対意見が相次いだ。特に中国電力はカルテル、料金メニューの景品表示法違反、そして送配電子会社が持つ顧客情報の不正閲覧と、不祥事疑惑の〝グランドスラム〟状態なだけに、厳しい声が突き付けられた。

値上げ申請の公聴会で説明する中国電力の瀧本夏彦社長

公聴会では、瀧本夏彦社長がまず今回の不祥事について「関係者に多大なご心配をおかけしたことを深くおわびする」と述べた上で、課徴金など不祥事に絡むコストは料金原価に含まれず、今後も料金に上乗せすることはないと説明。オイルショック以来43年ぶりとなる値上げ申請に至った経緯を説明し、このままでは安定供給に支障をきたしかねないとして、値上げへの理解を求めた。

これに対し4人の意見陳述人がそれぞれ発言。共通したのは、現在調査中とはいえ、不祥事に関する説明が不十分なままでの値上げには納得できないといった反応だ。意見陳述人の一人は「今、中国電力は電気料金値上げをお願いできる立場ではない」「課徴金を将来も電気料金に課さないと言うが、どう捻出するのか。中国電力の収入は電気料金であり、そこから捻出するしかないのではないか」などと問いただした。不祥事関連以外では、電力システム改革や原子力、再生可能エネルギー政策などに絡めた意見も挙がった。

他方、電力・ガス取引監視等委員会の料金制度専門会合委員を務める松村敏弘・東京大学教授は、課徴金が原価に入ることは制度上あり得ないことや、持続可能な経営に必要な資金調達ができるよう「事業報酬率」が設定されていることなどを説明。「論理的に(不祥事と値上げの)二つは独立で議論できる。問題が解決するまで申請が出せないということも料金審査の体系的には難しい」とコメントし、「合理的な原価となるよう最大限努力する」と強調した。なお、今回は新型コロナ対策で傍聴は原則オンラインとしたこともあり、会場で大きな混乱はなかった。

最後に立ちはだかる壁 河野消費者相の出方は?

経産省は各地で順次公聴会を開催。沖縄電力では3人、北陸電力では8人、東北電力では11人が意見を述べたが、四国電力に対してはゼロだった。併せて募集した「国民の声」も踏まえて専門会合で審査し、結果を経産相に回答。その後、消費者庁との協議や、物価問題に関する関係閣僚会議を経て、認可に至る。

気になるのは河野太郎消費者相の出方だ。河野氏は13日に東北など4社への独自ヒアリングを実施。料金審査中の消費者相の対応としては異例だ。河野氏は国会で、原発政策などには「所管外」との回答を繰り返した一方、電気料金値上げについては「消費者の理解、納得が十分に得られるかが大事だ」と述べており、今後値上げ幅の抑制を求める可能性がある。

欧米並みの日負荷調整運転を 日本の賢い「原子力」活用法


【原子力の有効利用】本部和彦/東京大学公共政策大学院TECUSEプロジェクトアドバイザー

チェルノブイリ事故後、日本で初めてIAEA安全局に勤務するなど原子力政策に精通する本部和彦氏。

日本の再エネ・ポテンシャルと、再エネとの親和性を高める原子力の活用法を聞いた。

ほんぶ・かずひこ 1977年京都大学大学院修士課程修了、通商産業省(現経済産業省)入省。IAEA(国際原子力機関)安全局、原子力発電安全企画審査課長、資源エネルギー庁次長などを歴任。

 ―昨今の日本のエネルギー情勢をどう見ていますか。

本部 日本は安定供給・電力自由化・低炭素化の同時達成を目指して、三兎を追っています。しかしウクライナ侵略後、これらは〝三すくみ〟で同時達成できないことが明らかになっています。安定供給と低炭素化を目指すなら、完全な自由化は難しく、自由化と低炭素化を目指すなら、安定供給の実現は難しくエネルギー価格は上がらざるを得ない。ところが、このような「現実」を語らずに「競争を通じて電気料金が安くなる」「環境に優しい再エネ電源で安定供給」といった美辞麗句が生きている現状は大いに問題です。

日本は〝再エネ不適国〟 第七次エネ基のポイント

―太陽光発電をはじめ、日本における再エネの〝弱点〟を指摘されています。

本部 安価な太陽光発電資源に乏しい国、それが日本です。太陽光発電に向いているのは、人口に対して広い土地があり、しかも傾斜が少なく、森林を伐採する必要がない―といった条件が整っている国で、例えば国土の真ん中に砂漠が広がるオーストラリアはその典型です。

 一方、日本はどうか。国土が狭く、山々は急峻で、森林が多い。

さらに多くの人口と産業を抱え、電力需要は旺盛……。世界銀行やIRENA(国際再生可能エネルギー機関)のデータによれば、世界標準で太陽光発電の適地とされる土地を日本で全て開発しても、電力需要の0・57倍しか満たせないのです。世銀データで1倍を超えない国は世界でもまれで、適地がないからこそ乱開発が行われ、2次災害が問題になっています。

 また日本には梅雨があり、特に冬場は日本海側で晴れの日が少ない。少し前のデータになりますが、2009年の関東・東北地域に限定したシミュレーション結果では、1年で太陽光発電の利用率が年平均値の半分未満にとどまる日数が40日ほどあり、それが10~2月に集中しています。つまり電力需要が増える厳冬期に供給量が下がり、大量の補完電源が必要になる。日本での太陽光発電の主力化がいかに困難かお分かりいただけるでしょう。自然由来の弱点は、政府や産業界の努力では補えません。

―風力発電はいかがでしょうか。

本部 日本では6~9月の風況が悪く、設備利用率が低下します。また大規模導入が進められている洋上風力も、日本近海は水深が深く、よりコストが掛かる浮体式で建設せざるを得ません。ただ幸いなことに、太陽光発電と風力発電は弱点をカバーしあう関係にあります。

―日本が再エネ適地に乏しいという現実を踏まえ、どのような政策が求められるでしょうか。

本部 これまでエネルギー基本計画を巡っては、安定供給について年間の総発電量ベースで議論が行われてきました。しかし再エネを主力電源に掲げるなら、夏と冬の高需要期をどのように乗り越えるのか、安定で少しでも安価な供給を実現する具体策を示す必要があります。そして少なくとも日本の場合、再エネ変動分を補完できる低炭素主力電源となるのは当面、原子力しかあり得ません。

 今年から議論が始まる第七次エネ基では、原子力について「可能な限り低減」(第六次エネ基)から、「安全を確保しつつ最大限に活用」へ修正すべきです。

官有民営化も視野 原発の出力調整運転を

―岸田政権は次世代炉の開発・建設の方針を打ち出しています。国民や産業界に新増設・リプレース(建て替え)を提示するうえで、必要なことはありますか。

本部 50年カーボンニュートラルを実現するには、20年代に着工し、30年代には運開する必要があります。また安全審査を一定期間内に済ませるには、「革新軽水炉」と呼ばれる安全性を向上させた軽水炉の建設を急ぐべきです。国民に対しては、許容してもらうリスクの提示が重要です。例えば、革新的な安全システムの採用で炉心溶融の確率がどれくらい低下するのか、最悪の事故はどのようなシナリオなのか、分かりやすく説明しなければなりません。

 原発は投資回収の予見性が低いといわれます。今国会では40年+20年運転を原則としつつ、適合性審査に要した期間や運転差し止め判決による停止期間の上乗せを可能とする法改正が行われる見込みですが、原子炉圧力容器の中性子脆化の状況と主要部品の定期交換を考慮すれば、80年運転も十分に視野に入ると考えます。また英仏に倣った総括原価方式の導入や、官有民営方式も検討し、事業者の負担を軽減する必要があります。

―再エネと原子力の親和性を高めるため、原発の出力調整運転を訴えていますね。

本部 再エネとの親和性を高めるため、太陽光が発電しない夕刻から朝にかけては熱出力100%での運転を、日中は太陽光発電の発電量に応じて、出力を低下させて運転すべきです。これは「日負荷調整運転」といい、欧米では実施されていますが、日本の原発では行われていません。なぜなら、原発の設置許可申請書に〝基底負荷用として運転する〟と書かれているからです(基底負荷=変動しない一定の負荷)。かつてチェルノブイリ原発事故から2年後の1988年、伊方原発で出力調整の試験が行われた時、激しい抗議活動がありました。この苦い経験から、事業者は日負荷調整運転の導入を見送ってきたのです。

 今後、日負荷調整運転を行う場合、設置変更許可が必要かは解釈が分かれるでしょうが、私は必要ないと考えます。再エネの拡大により、日中と夜間の基底負荷が異なる時代を迎えたと解釈すれば、設置変更許可を行わずに日負荷運転を実施できます。安全上、追加で検討すべき問題はありません。

 エネルギー政策には、日本経済の浮沈と国民の生活が懸かっています。再エネ導入が進む今こそ、原子力の活用が必要なのです。

―ありがとうございました。

函南太陽光計画の崖っぷち トーエネック撤退で赤信号点滅


静岡県函南町のメガソーラー計画を手掛けたトーエネックが撤退を発表した。

FIT認定IDや林地開発許可の行方はどうなるのか。現地の状況を報告する。

 2021年7月に大規模土石流が発生した静岡県熱海市伊豆山から西へ5km。中部電力グループのトーエネックが手掛けてきた、函南町軽井沢地区の大規模メガソーラーの計画地を訪れた。

小雨が降り続く2月上旬に計画地周辺を巡ると、晴れの日ならば富士山を望める景観と緑豊かな自然を楽しむことができる一方、急峻な傾斜地やぜい弱そうな地盤を確認できた。軽井沢地区に隣接する丹那地区の太陽光発電所の脇には、静岡県が「緊急性の高い盛り土」とした、民家に被害を及ぼす恐れのある残土もあった。近隣の公民館には「建設反対」ののぼり旗が並ぶ。太陽光計画を巡る事業者側の不手際などで地元住民の不安が増す中、トーエネックは1月24日、函南町メガソーラー計画からの撤退を発表した。

この事業はトーエネックが17年7月に事業計画を決定して以降、不動産会社のブルーキャピタルマネジメントと共に進めてきた。約65‌haの土地に約10万枚の太陽光パネル(総出力2万9800kW)を敷き詰める計画で、18年4月には、トーエネックがブルー社から固定価格買い取り制度(FIT)認定IDを取得。ブルー社がパネル設置工事までを受託し、トーエネックがその後の事業を引き継ぐ形で25年10月の開始を目指していた。

トーエネックは事業撤退について「現時点(1月24日)で事業実現の見通しが立っておらず、事業環境が計画策定より厳しくなっている」とコメント。昨年10月の段階で「当社が計画している再生可能エネルギー事業に係る固定資産(建設仮勘定)について、事業の見通しが不透明である」と114億9000万円の特別損失を計上しており、このままでは事業開始が困難だと判断し撤退に至ったとしている。

しかし、この問題を追及し続けている全国再エネ問題連絡会共同代表の山口雅之氏は「トーエネックが撤退して終わりではない。むしろここからが正念場だ」と警鐘を鳴らす。

地元ではメガソーラー反対ののぼり旗が立つ

取り消されないFITID 転売で事業継続の可能性

最大の懸念は、トーエネックの撤退により、FITIDがブルー社など外資系事業者の手に渡るのではないかということだ。事業実現の可能性が限りなく低くなったIDではあるが、トーエネックという大手有力企業の鎖が外れることで、どのような事態になるか不明な側面も出てきている。

地元関係者は「住民説明会での約束を無視するような悪質事業者にIDが転売された場合、事業者側が工事を強行する可能性も否定できない」と話す。危機感を募らせる理由はこれだけではない。

トーエネックがブルー社からFITIDを譲り受けた山梨県甲斐市菖蒲沢地区の太陽光発電事業では、調整池工事や斜面保護対策などの林地開発許可条件に違反するとして、県が事業者側に対し改善を指導してきた。しかし、適切な対策を講じないままトーエネックは21年11月に同事業から撤退。山梨県の長崎幸太郎知事が「社会的責任が欠如している」と非難する中、「完全な形での工事完了」という県側の要請をなおざりにする形でブルー社に設備を売却してしまった。こうした経緯から、軽井沢地区の計画も同様の展開になるのではないか、との懸念が強まっているのだ。

ただ、工事が進んでから現場の不手際が明らかになった菖蒲沢の太陽光事業と異なり、軽井沢の計画は現時点で未着工。この点でも撤退に伴ってFITIDを返上しないトーエネックの行動は不可解だと山口氏は言及する。「工事を始められない事業で、価値がないはずのIDの取り消しに、なぜ動かないのかが疑問だ」

トーエネックは本誌の取材に対し「事業撤退に向けた交渉で、FITIDに関してはお話しできない部分がある」とした上で、「撤退の理由は建設予定地の自然環境や住民の声の社会環境など、さまざまな要因が重なったもの」だと回答。その中で「この土地(軽井沢地区)での太陽光事業は困難であると理解する会社と交渉している。(ブルー社は)関係者で一番重要な部分を占めている」と、ブルー社を含めた複数の事業者と交渉中であることを示唆している。

どうなる林地開発許可 函南町は取り消しを要望

函南町の対応はどうか。撤退の発表を受けた仁科喜世志町長は「町としては当初から不同意の事業であり、町民と町議会、県議会が一体となって反対してきた。環境に影響を及ぼし、災害発生のリスクを増大させる事業であることから同様の開発が行われないよう、事業者に対して要望する」とのコメントを発表した。函南町議会も2月1日、静岡県の川勝平太知事に対し「本事業に係る林地開発許可については依然として許可がされている状態であり、事業の確実な中止に至る訳ではない」などとして、今回の事業に関する林地開発許可の取り消しを求める要望書を提出した。

函南町の担当者は「要望書や請願提出が、町として現在できる最大限の行動だ。事業に瑕疵があったとしても、県が林地開発許可を取り消さない限り、事業者側は『修正します』とかわし続けるだろう」と話すが、林地開発の許可権限を握る川勝知事の態度は煮え切らない。昨年12月の会見で、静岡県議会から指摘された事業者側の申請不備や函南町の請願を重く受け止めるとしつつも、「本事業計画について、現時点では許可の取り消しには至らないという認識を持っている」との見解を示したまま。事態に進展がなく、地元住民の不満は募るばかりだ。

住民団体の幹部は「川勝知事は『林野庁の見解で取り消しができない』という態度だが、林野庁に確認したところ、許可時の要件を満たさなければ、林地開発を取り消すことは可能だと回答を得た」と、事業者側に手続き上の問題がある以上、許可の取り消しに動かないのは問題だと指摘。林野庁が「静岡県さえ取り消しの意志を示せば全面的に協力する」とまで言う中、それでも動かない川勝知事の姿勢には疑問を抱かざるを得ないとして、川勝知事の消極的な姿勢を批判している。

トーエネックの撤退により事業自体が困難となった以上、静岡県は林地開発許可の取り消しを、また国はFITIDの取り消しを行うのが道理だ。全国の太陽光開発に厳しい目が向けられる現状だからこそ、地域住民への説明はより丁寧に行う必要がある。熱海土石流のような大規模災害が起きてからでは遅い。

【コラム/3月3日】想定すべき海上封鎖リスク 日本に「エネルギー継戦能力」はあるか


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

自衛隊には弾薬の備蓄が二か月分しかないと報道されるなど、日本の「継戦能力」が問題視されるようになった。このような事態を改善すべく、防衛費は倍増されて国内総生産(GDP)の2%となったことはよく知られている。

その一方で、武器弾薬だけあっても、戦争は継続できない。エネルギーや物資の海上輸送が無ければ日本は干上がってしまう。

米国戦略国際問題研究所(CSIS)の報告書が話題になった。台湾有事のシミュレーションで、中国が台湾へ上陸作戦を仕掛け武力統一を図るというものだ。米国と日本が戦争に巻き込まれ、双方ともに多大な損害を出すが、中国の台湾上陸部隊の艦船を米国がことごとく沈めることによって、中国は台湾の占領には失敗する、というものだ。

だが、このシミュレーションは最初の1カ月だけである。これが泥沼化して長期化するかもしれない。

あるいは、米国が介入をためらって中国は台湾併合に成功するかもしれない。

さらには、中国は台湾への政治工作に成功し、台湾政府が中国への「自主的な」併合を表明するかもしれない。このような平和裏の併合こそ、中国が最も望んでいる形であろう。

武力を伴うか伴わないか、このいずれにせよ、台湾が中国の勢力圏にひとたび入るとどうなるか。中国は太平洋へのアクセスを強め、日本のシーレーンを脅かすようになることは間違いない。

そうすると、中国は日本の輸送船を攻撃できるようになる。潜水艦に何隻か輸送船を沈められると、保険料は莫大になり、海上輸送が大幅に減少するような事態がありうる。これは事実上の海上封鎖になる。完全な海上封鎖でなくても、経済活動には大きな影響を与えうる。

もし1カ月で屈服する程度の備えしか無ければ、中国は実際に日本への海上封鎖を試みるかもしれない。そうではなく、海上封鎖されても1年は戦い続けることが出来るようになっていれば、中国はためらうだろう。

戦争というものは、敵に勝てると思わせてはいけない。簡単に勝てると思ったら、戦争を仕掛けられてしまう。「日本は手強い、そう簡単には屈服しない」と思わせておかねばならない。

心もとない石炭とLNG備蓄 原子力活用拡大がベストアンサー

継戦能力の確保において、武器弾薬に次いで重要なのはエネルギーの供給だ。日本の現状はどうなっているか。

政府の資料によると、日本のエネルギーの在庫水準は図のようになっている。

出所:政府資料

石油は官民合わせて200日の備蓄があり、在庫も合わせるとこれ以上の日数になる。LPGも100日分の在庫がある。だが石炭は1カ月程度、LNGは1週間ないし2週間程度しかない。

備蓄については、量は十分なのか、増やす方法はないのか、攻撃に対する備えを強化できないか、という3つの点で検討が必要だ。

石炭は、これまではコスト低減の観点から、在庫が極力少なくなるようなオペレーションになっていた。石炭は長期貯蔵すると自然発火することもあるので技術的な検討は必要だが、数カ月分を蓄えておくことはできるのではないか。

LNGは極低温の液体であるため、断熱性の高い容器に貯蔵していても、蒸発による損失はどうしても避けられない。したがって長期保存には向かない。だが一定のコストを受容するならば、もう少し備蓄量を増やすことが出来るかもしれない。

化石燃料とは対照的に、原子力発電はひとたび燃料を装荷すれば通常は1年、非常時であれば3年ぐらいは発電を続けることができる。さらには、原子燃料の形で備蓄をすれば、それよりも長く発電を続けることができる。海上封鎖に対する回答として、原子力は最も魅力的である。

攻撃に対する防御という点で言えば、いま日本の防御はいびつな形になっている。原子力発電だけがテロ対策を強化されていて、そのための稼働停止までしている。

だが実際には、原子力への攻撃は最もハードルが高いのではないか。石油の備蓄施設、石油・ガス・石炭の火力発電所などは、携帯型の兵器やドローンなどでも破壊できてしまう。原子力だけ一転集中のテロ対策は意味がない。

要するに「エネルギー継戦能力」の向上のために必要な検討事項は以下3点だ。

  1. ①原子力のエネルギー安全保障上の価値を確認し再稼働・新増設をする
  2. ②原子燃料・化石燃料の備蓄状態を確認し、可能ならば備蓄を積み増す
  3. ③エネルギーインフラへのテロや軍事攻撃に対する防御をバランスよく強化する

ウクライナではロシアが発電所や変電所などの電力インフラを攻撃している。このため全土で電力供給に支障が出ているという。その一方では復旧作業も進められ、ウクライナは屈服することなく戦争を継続している。どのような攻撃が在り得るのか、いかにそれに対応するのか、この戦争から日本が学ぶべきことは多いだろう。

なお、海上封鎖されたときに太陽光発電、風力発電にどの程度の意義があるかについても検討を要する。化石燃料輸入に頼らなくてよいのはメリットである。

他方で、火力発電が不足し、また電力系統全体が攻撃を受けてぜい弱になっているときに、変動性の電源をどこまで使いこなせるか、大停電時にかえって復旧の妨げにならないか、といった視点もあろう。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。「亡国のエコ 今すぐやめよう太陽光パネル」など著書多数。最近はYouTube「キヤノングローバル戦略研究所_杉山 大志」での情報発信にも力を入れる。

次代を創る学識者/爲近英恵・名古屋市立大学大学院経済学研究科准教授


気候変動対策は経済成長との両立が課題になる。

解決すべく応用計量経済学の手法で研究に取り組む。

 「現行の環境・エネルギー政策の効果を評価するとともに、気候変動対策を巡る国際的な取り決めにおいて、どのような枠組みであれば日本が経済成長を損なわない形で行えるのか。それを示せるよう研究に取り組んでいきたい」と話すのは、名古屋市立大学大学院経済学研究科の爲近英恵准教授だ。

環境経済学・応用計量経済学を専門分野とし、現在は統計的手法を用いて現実の経済現象のメカニズムについてデータを分析することで明らかにする「応用計量経済学」の手法で、気候変動対策の効果を評価する研究を進めている。

高校生までは音楽関係の仕事を志望していたという爲近准教授。音楽大学を目指したが、大阪大学経済学部に進学したのは、ピアノレッスンのようなマンツーマンの授業ではなく、大講堂で同級生たちと一緒の授業を受けてみたいというささいな気持ちからだった。

環境経済学を選んだのは、公害訴訟に携わる弁護士である父の影響が大きい。「公害問題への憤りを語った際、『それなら自動車にも乗らないのか』と父に問われて。それが環境負荷と経済活動をどうバランスするべきか考えるきっかけになった」と振り返る。

大学進学後も研究者の道を目指していたわけではなかったが、転機となったのは、大学3、4年生の時に学内の懸賞論文で賞を獲得したことだった。3年生の時には「ペットボトルのデポジット制度」について、金額設定や返却場所までの距離などによって返却率がどのように変わるか、4年生の時には欧州で既に導入されていた「サマータイム制」について、どれだけの節電効果が見込めるのか、他のゼミ生ととともに研究し論文を執筆した。「懸賞論文を通じて研究や論文執筆の楽しさを知ることがなければ、研究者の道に進むことはなかったかもしれない」(爲近准教授)と話す。

世界的な脱炭素化の潮流が加速する中、「日本の産業が世界で生き残るには、カーボンプライシングの仕組みの導入は欠かせない」と言い、「オイルショックを機にさまざまな技術が誕生したように、新たな製品や素材技術が日本発で羽ばたけるようにするための政策が求められている」と強調する。

経済と気候変動対策の両立 研究活動を通じ貢献目指す

今は計量経済学による政策評価を研究テーマとしているが、大学院に在籍していた5年間は、国際的な枠組みや政策が所得や生産量などに及ぼす影響を定量評価する「応用一般均衡モデル分析」を研究手法にしていた。

「このモデル分析を用いることで、日本のアクションが諸外国にどのような変化を及ぼすか、諸外国のアクションが日本経済にどのような影響を及ぼすか分析することができる。時間はかかるが、政策的な失敗を防ぐためにも必要な分析であり、応用計量経済学、応用一般均衡モデルの両手法を用いエビデンスを示しながら、環境・エネルギー政策立案に貢献していきたい」と意欲を見せる。

ためちか・はなえ 1979年生まれ。奈良県出身。大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。同大学院助教などを経て2019年4月から現職。博士(応用経済学)。経産省「次世代の分散型電力システムに関する検討会」委員。

速球武器にプロの世界へ 即戦力として日本一目指す


【東京ガス/広島東洋カープ】益田武尚

 北九州市立大3年の時、九州六大学リーグで4勝を挙げるなど優勝に貢献してMVPを獲得。速球を武器に2020年のドラフトに臨んだが、指名には至らなかった。その直後にあいさつに来たのが、東京ガスの山口太輔前監督だった。「わざわざ大学に来てくださって、直接(東ガスに来て欲しいと)お誘いをいただいた」と感謝の思いを語る。

即戦力として大きな期待が集まる

21年に入社すると、名門東京ガスの充実した練習環境が待っていた。入社してから「変化球、直球ともにコントロールと精度が安定した」。球速は最速153kmまでアップし、恵まれた環境で投手としての総合力を向上させた。社業と野球の両立も経験したことで「精神的に強くなり、周りの目や雑音を気にしなくなった」と心身の成長を実感する。

トレーニングの成果は入社1年目から現れた。21年の都市対抗野球大会では、初戦の先発を任され勝ち投手となった。「独特の緊張感の中、落ち着いて投げることができたのは良い経験になった」。東京ガス史上初の都市対抗優勝に貢献した。22年はエースとして初戦のJR東海戦で完封勝利を収めるなど、同大会の敢闘賞にあたる「久慈賞」を受賞。課題として挙げていた試合中のピッチングフォームの修正も、「力感なく、うまく自分の体を使いながら投げることができた」と手応えを感じた。自身にとって都市対抗とは、自分の経験値を上げてくれたところだけでなく「会社の方々に今までしてきたことを披露する場面」だと話す。

22年10月に行われた東京ヤクルトとの練習試合では、リーグ三冠王に輝いた村上宗隆選手から三振を奪った。プロ相手にも実力を示すと、その後のドラフト会議で広島東洋カープから3位指名を受けた。入団会見では「ファンの方がたくさんいてうれしい気持ちと、自分がプロ野球選手になれた気持ちでいっぱい」と笑顔を見せた。即戦力としてファンや球団から大きな期待がかかるが、軸をぶらさずこれまでの取り組みを続ける。「東京ガス出身の選手は皆さん活躍されている」。多くの東京ガス出身プロ選手に負けない活躍を誓った。

現在は2月1日のキャンプインに向けてトレーニングに励む。目標はチームを勝たせる投手として日本一に貢献することだ。「息の長い選手を目指し、東京ガス硬式野球部の頑張りに負けないように」と東京ガスでの経験を生かして、プロの世界でも戦い抜く。

ますだ・たけひさ 1998年生まれ。福岡県飯塚市出身。北九州市立大3年秋に九州六大学リーグMVPを獲得。2021年東京ガス入社。22年の都市対抗野球では久慈賞を受賞。同年のドラフト会議で広島東洋カープから3位指名を受ける。

【マーケット情報/2月24日】原油混迷、需要後退と品薄感が混在


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油を代表するWTI先物が小幅に下落した一方で、北海原油の指標となるブレント先物は上昇。需要後退と供給懸念が混在し、方向感を欠く値動きとなった。 

米国が発表した最新の生産者物価指数および賃金の上昇率が、市場予測を上回った。米連邦準備制度理事会(FRB)が、利上げ政策の維持を示唆する議事録を公表したことも相まって、景気が停滞するとの見方が台頭。また、産業活動の減速で、石油製品需要が減少するとの観測が強まった。

足元の米国原油在庫は、すでに適正水準を上回っており、需給緩和の懸念が強い。米エネルギー情報局が発表した最新の統計では、同国の原油在庫は2021年5月以来の高水準となっている。また、WTI原油の受け渡し地点となるクッシングの在庫も2021年6月以来の最高を記録するなど、だぶつき感が強い。

さらに、OPEC事務局長が、「中国経済については実態の見極めが必要」として、回復論に慎重な見方を示したことも、需要後退の見方を強めた。

一方、ロシアは3月に、バルト海および黒海地域からの原油輸出を25%削減する見通し。これにより、供給の先行き懸念が広がり、ブレントを中心に週後半から買いが優勢となった。ロシア政府はこれまでに、3月の生産量を日量50万バレル減産するとしており、同量は輸出の減少分と合致する。

【2月24日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=76.32ドル(前週比0.02ドル安)、ブレント先物(ICE)=83.16ドル(前週比0.16ドル高)、オマーン先物(DME)=82.63ドル(前週0.41ドル高)、ドバイ現物(Argus)=82.57ドル(前週比0.32ドル高)

【メディア放談】電力業界の不祥事 大荒れ模様の23年「電気予想図」


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ/4名

電力カルテル問題に続き、不正閲覧が電気事業を揺るがすかもしれない。

不祥事が相次ぐ関西電力は原発稼働が順調だが、「爆弾」も抱えている。

―年始の大手各紙の報道は、例年よりもエネルギー問題の掲載が少なかった。ウクライナ情勢や安保関連の話題、物価高などに追いやられたようだ。

石油 昨年12月のGX実行会議で、原発運転の運転延長、新型炉の建設などエネルギー政策が大きく転換した。その時は各紙がかなり大きく取り上げた。「もう十分」と考えたんじゃないか。

―印象に残るような記事もなかった。

石油 ただ、読み応えのある記事もあった。例えば、日経電子版に掲載されたフィナンシャルタイムズ(FT)のチーフライターによるエネルギー問題についての連載。なぜか電子版だけで、紙では読めないが。

―米国がガスコンロを禁止するという外電もあった。

マスコミ 消費者製品安全委員会の委員長が言ったとされるが、本人は否定している。ところが「民主党リベラル派の仕業」と考えた共和党議員が熱くなって、この問題、米国で「炎上」している。

―1月中旬になり大手電力の不祥事が報道されている。送配電会社が持つ顧客情報を小売り会社が閲覧していた。

ガス 不正閲覧が最初に発覚したのは関西電力で、読売、産経が社会部記者まで動員して関電の体質を厳しくバッシングしている。関電は金品受領問題に続いてカルテル問題とスキャンダルが相次いだ。ところが、カルテルで中国電力、中部電力は数百億円の課徴金を支払うが、関電は自主申告で「おとがめなし」となった。記者としては「叩きがいがある」と思ったんじゃないかな。

―電力業界への影響は。

マスコミ ここ数年で数回、需給がひっ迫して停電もあり得る危機的状況があった。それでようやく、今までのシステム改革を見直そうという雰囲気になっていた。その動きに水を差すどころか、システム改革がさらに加速しかねないと見ている。

 小売り自由化は、送配電部門が完全に中立であることが前提で成り立っている。その根幹の中立性が危ういと、制度自体が崩壊してしまう。その点で、不正閲覧はあってはいけないことだった。

―すると、電気事業の在り方自体が問われかねない。経産省、業界関係者は重く受け止めていると聞く。

電力 重く受け止めているどころじゃない。心配しているのは、この問題を利用して一気に発送配電分離が進むことだ。今まで会計分離、法的分離と進んできた。トラブルは多発したが、業界はそれなりに対応して、今まで何とかやってきた。

 しかし、不正閲覧の問題で東大の松村敏弘さんや、再エネ系の学識者などから機能分離、さらに所有権分離を主張する声が出かねない。その方向に改革の行方が決まると、電気事業の在り方が大きく変わることになる。

原発が順調な関電・九電 他エリアに積極進出も

―一方、関電の経営基盤は比較的堅調だ。各社が値上げの料金改定を申請する中で、関電と九州電力は申請を見送っている。

マスコミ 関電は原発7基体制、九電は4基体制になる。安全対策工事に膨大な費用をかけたが、償却が済めば飛び抜けて競争力のある電源になる。特別高圧・高圧の料金で、値上げ申請をした中国電力とかなりの差が開くはずだ。

石油 「迷惑」をこうむった中国電力、中部電力は複雑な思いだろう。もう談合はあり得ない。カルテル問題で世間の厳しい目がある中、関電、九電とすれば供給余力があるのに他社エリアに進出しなければ、談合を疑われてしまう。積極的に中国電力、中部電力のエリアに出ていくと見ている。

マスコミ ただ、関電は「爆弾」を抱えている。福井県は美浜3号機、高浜1・2号機の40年超運転を認める条件として、2023年末までの使用済み燃料の県外移送の候補地を確定させることを関電に約束させている。

 ところが、本命だった青森県むつ市の中間貯蔵施設を電力業界が共同利用する案は、宮下宗一郎市長が強く反発して進展の兆しが見えていない。

ガス 20年12月に電事連副会長の清水成信さんとエネ庁の小澤典明さんが共同利用の意向を伝えにむつ市を訪れた。その時、宮下市長に「ここは核のゴミ捨て場ではない」と追い返されている。むつ市での共同利用はかなり厳しい。

マスコミ そもそも電力業界として「共同利用をやろう」という気になるのかな。2年前は中部電力出身の清水さんが宮下市長に頭を下げた。誰も口には出さないが、今は業界全体に「何で関電のために頑張らなければいけないんだ」という雰囲気があるようだ。

宮下氏出馬の青森知事選 共同利用案に進展は

―6月に青森県知事選がある。宮下市長が出馬の意向を示しているが。

電力 三村申吾知事が六選への出馬を断念したので、宮下市長と青森市の小野寺晃彦市長の一気打ちになりそうだ。ともに元中央省庁のキャリアで、知事職や国政への進出が予想されていた。

 三村知事が小野寺さんを支持するようで、かつ宮下さんは支持基盤が下北半島に限られる。そう考えると、小野寺さんが優勢かもしれない。

マスコミ 関電には、市長職を辞任した宮下さんが知事選に敗れて、代わりに共同利用に理解のある人がむつ市長に就く、という願望があるかもしれない。ただ、そう簡単に物事が進むとは考えられない。青森の政局に期待するのは無理があるよ。

―誰が知事になっても、青森には足を向けて眠れないな。

安定供給支える一人ひとりの思い 信頼の輪がもたらす大きな力


【リレーコラム】工藤 信一/関西電力エネルギー需給本部燃料部長

 エネルギー業界関係者にとって心休まらない日々が続いている。欧州情勢は依然として収束に向かう兆しはなく、2023年も需給面で厳しい状況が続く見方が多勢である。

こうした状況下、政府は安定供給確保を前提とする脱炭素への取り組み方針を発表した。再エネや原子力の活用など化石エネルギーへの依存脱却を掲げる一方、移行期間におけるLNG確保の重要性も列記しており、わが国の取るべき選択として妥当な内容と受け止めている。電力事業に携わる一員として気を引き締めて実務の遂行に取り組みたい。

しかし、この先いかなる難局が待ち受けているのか全く読めない。燃料調達を例に挙げれば、策定した計画がその通りになったことはまれで、余るならまだしも足りない方向に振れれば必死のパッチで調達に駆けずり回らなければならない。私もいくつかの危機的事態を経験したが、その時々で幸運にも恵まれ乗り切ることができた。重要なのは平時からの備え、そして頼れる仲間の存在である。

燃料は届いて「あたりまえ」

燃料調達に関わる取引先は多岐に渡る。生産から輸送、受入、貯蔵、消費に至る巨大なサプライチェーンの中で国内外のさまざまな事業者がおのおのの役割を果たすことによって安定供給が成り立っているのである。

もしどこかで不具合が発生すれば前後の工程に変更が生じるため誰かが調整に応じなければならないが、自社の都合のみで変更を拒めば安定供給に支障が出てしまう。商慣習の違いや契約条件の解釈を巡って調整が難航することも少なくはない。しかし最終的には解決してしまう。外部からみれば「あたりまえ」に見えてしまうわけだ。

なぜか。燃料供給が途絶した場合の社会的影響を考慮すれば、供給不可という答えはあり得ない。事業に関わる一人ひとりがモラル高く平時から準備を進め、想定外の事態になっても安定供給への執着を忘れずに真摯に検討し続けるからこそ、時には神業ともいうべき最適解が生まれるのである。美談めいた話だが、コロナ禍でも現場の士気を保ちながら出荷や輸送の実務に携わる方々の知恵や熱意によって救われた例は多々あり、燃料の安定供給はそうした方々の使命感によって支えられていることを忘れてはならない。

危機は去ってまた訪れる。1社で出来ることには限界があるため、連携の輪を広げてより大きな力を生み出せるよう普段からの備えが求められる。信頼できる仲間とともに我々が目指すのは「あたりまえ」を守ること。世代を超えてつないでいきたい。

くどう・しんいち 1993年一橋大学社会学部卒、関西電力入社。燃料部門を中心に電力需給、ガス/ユーティリティ事業にも従事。2020年6月から現職。

※次回はenechain社長の野澤遼さんです。

【竹詰 仁 国民民主党 参議院議員】「電気事業は安全が大前提」


たけづめ・ひとし 1991年慶応大学経済学部卒、東京電力入社。2001年東電労組本店総支部書記長。05年外務省出向・在タイ日本大使館一等書記官。16年東電労組中央書記長。関東電力総連会長などを経て22年7月、参院初当選(比例区)。

東電労組から関東電力総連会長などを歴任。常に働く者の視点に立ってきた。

電力業界の労働者を代表する議員として、国会の場に現場の声を届ける。

 慶応大学から東京電力に入社。電力の需要想定や自由化への対応などに取り組んできた。その後、東電労組から全国電力関連産業労働組合総連合(電力総連)、外務省出向、連合本部などを経て、関東電力総連会長に就任。「自分の人生で、政治家を志したことはこれまでなかった」というが、労組で働き痛感したのは、会社の協議や交渉だけでは解決できない「政治的な領域」だった。

「電気事業は法律や省令、ガイドラインの規定約款など、国が定めるルールに基づいている」。業界の枠組みを整えるのは政治の分野であり、国会議員であると話す。電力総連はこれまで小林正夫前参院議員、浜野喜史参院議員らを支援。小林氏の後任として、2021年に自身が各関連労組から推薦を受けた。東電出身ということもあり、福島第一原子力発電所事故の重責を感じることもあったが、電気事業の現場の声を届ける、という使命を果たすため、国民民主党から立候補。22年7月の参院選で約24万票と党内トップの得票を獲得し初当選を果たした。

所属する国民民主党は、エネルギー政策などで電力総連と意見が一致する部分が多いという。「他の野党が訴える『原発ゼロ社会の実現』との主張は相容れなかった。国民民主党は、参院選前から原子力政策に踏み込み、原発のリプレース、SMR(小型モジュール炉)開発の必要性などを訴えてきた」。現政権へは「対決よりも解決」の姿勢を示し、電力価格高騰対策に尽力する。

22年11月に政府が発表した第2次補正予算について、電気代やガス代の抑制策により負担軽減が実現したと評価する。一方で「値下げのやり方に問題がある」と指摘。電力会社への補助金支給ではなく、再エネ賦課金の徴収停止などによる電気代軽減策を取るべきだと話す。事業者への補助金支給は「果たして補助金が適切に使われるのか」と、国会で追及され、電力会社に責任を押し付ける形になるという。「事業者側に負担が増える政策であり、国が物価高騰対策として取り組む電気代負担軽減なのに、この手法は正しいのか」と疑問を呈した。

現在は総務委員会や資源エネルギー・持続可能社会に関する調査会などに所属。党の参院国会対策副委員長も務めるが、隙間を縫って議員としての研鑽に励む。自身に求められているのは「政治資金問題などよりは、エネルギーや電力産業、電気事業の問題点や現状の指摘」として、12月には総務委員会で電力需給問題について質問を行った。

質問では「デジタル社会にとって、電力安定供給は欠かすことができない」と今冬の需給ひっ迫に懸念を示し、供給力確保に向けた対策の徹底を要望した。また、国や自治体、電気の使用者が節電目標へ行動するにはどうすればよいか、国の施策を問いただした。

燃料高騰による国富流出を懸念 「日本らしいエネルギー政策」訴える

今日のエネルギー政策の課題として、日本の地理的な問題から資源を購入せざるを得ず、燃料費高騰により国富が流出している点を指摘。「日本らしいエネルギー政策で国力を高めていく必要がある」と話し、日本の持つ原子力技術を有効に活用するべきだと主張する。電力システム改革やカーボンニュートラル政策など、これまで国が行ってきた電力政策についても「『国を発展させ、国民を幸せにする』という本質的な目標を失ってはいけない。現在の電気事業に関わるさまざまな政策制度は、国を発展させ、国民を幸せな方向に導いていないのではないか」と分析する。

また、労組で長年働く人を見てきた視点から、今の政治に足りないのは労働への安全意識だと話す。人件費の削減など、経営のスリム化を図り、電気事業の効率化を進めることには理解を示した上で、電気を安全に届けるために必要な人材も削減される現状に危機感を抱く。休止中の火力発電の再稼働についても、設備の経年劣化や脱炭素によるさまざまな休止理由がある中で、安定供給のために事業者が多くのリスクを負っていると話す。

「電気事業の効率化は、安全の確保が大前提。安全を犠牲にしたコストダウンだけはしてはいけない」と、労働災害の防止に強い決意を表した。

座右の銘は「知って行わざるは、知らざるに同じ」。元は中国・陽明学の「知行合一」から江戸時代の儒学者、貝原益軒が残した言葉だ。知っていても行動に起こさなければ、知らないことと同じ、という理念は幕末の維新志士たちに大きな影響を与えたという。「労組でも職場の悩みを聞いて、それを解決する仕事をしてきた。政治家となった今も同じ。現場の思いを知るからには、解決するために行動したい」。電力業界を代表する議員の一人として、これからも現場の思いを国会に届けていく。

【需要家】需要家議論左右するWG 「熱」巡る主張の是非


【業界スクランブル/需要家】

経産省の「省エネ小委工場等判断基準WG」で、改正省エネ法の詳細内容が議論されている。本改正で非化石転換に関する報告やデマンドレスポンスも含めた電気需要最適化の報告も必要となり需要家への影響は大きく、例えば、需要家が2023年7月に報告する将来非化石目標をどう設定させるべきかなどの重要な議論がある。

一方、重要度が低い任意報告記載議論を巡り「大気熱と地中熱が熱力学的に異なる」と繰り返し主張している委員がいる。熱力学的な「温度差で仕事をする」ことにのみ着目し、地中熱は「大気熱との温度差」で仕事が可能だが、当然、大気熱は「大気熱との温度差」を持たないため「温度差で仕事ができない」との主張である。しかし今回議論しているのはヒートポンプ利用(熱力学の逆カルノーサイクル)であり、低温熱源から吸収した熱エネルギーを、高温熱源側で放出し活用する熱力学利用である。この場合の熱力学的な「河川水熱・地中熱・大気熱の差」は低温熱源温度の差でしかなく、熱力学的には同一だ。

そもそも、熱エネルギーとは分子の振動エネルギー(絶対零度では振動ゼロ)であり、太陽放射エネルギーで河川水・地中・大気の温度は保持されている。これらの直接活用が困難な「常温に近い低温自然熱」を有効利用可能温度まで引き上げて活用するのがヒートポンプ利用技術である。

また昨年11月のWGでは「河川水熱利用は大気温度との差分を自然熱利用として、省エネ部分と分離評価できる」と熱力学的根拠のない独自説を主張している。同委員は工学的な知識を持ちながら、大気熱のみを除外する目的のために、意図的に熱力学の一部を歪曲しており、審議会に知見を提供する委員の行動としては悪質だろう。(O)

【再エネ】陸上風力導入が停滞 目標達成に至急の策を


【業界スクランブル/再エネ】

昨年末、政府はこれまでの原子力政策を転換する決定をした。2011年以降に総合エネルギー調査会などで議論し、原発の新増設、期間延長はせず、依存度を可能な限り減らすとした方針を、国会審議もせずに再稼働、稼働年数延長、新型革新炉開発へ方針転換した。長期安全対策にはふたをしたままであり、少なくとも福島第一原発の廃炉見通しや、核のゴミ問題などの方向性を出し、国民的議論の上で判断することが最低条件ではないかと考える。

一方、50年カーボンニュートラルを目指すため、洋上風力を推進するも、民間事業者計画頼りのためリードタイムを要し、運転開始が30年以降になりかねない。その間、陸上風力の導入促進策が必要だが、21年の風力導入量はわずか21万kWで、22年も同程度にとどまる見込みである。にもかかわらず、買い取り価格が市場連動型のFIP入札で低下し、原油、原材料費高騰、為替変動影響で、発電事業の凍結案件が増加している。政府は30年エネルギーミックス導入目標達成のため、至急手を打つべきである。

ちなみに英国は、日本同様に風車メーカーはないが、国内調達比率65%程度以上を条件に海外メーカーが参入可能とし、国内で海外風車メーカーの工場建設が進んでいる。今回の新型コロナやウクライナ侵攻で際立ったサプライチェーン問題も、冷静に見れば、風車本体の国内調達率を確保することで、産業育成にも役立つと考えられる。

20年度以降、制度改革が進んだが、地方自治体においては規制強化などへ揺り戻しが発生している。まずは陸上風力導入拡大のため、政府主導の地域振興策やさらなる規制制度改革を進め、加えて洋上風力導入加速のための参入制度見直しを進めるべきである。(S)

市場競争激化が招いた違法行為 法令順守・信頼回復が急務に


【多事争論】話題:電力カルテル問題

大手電力4社が関わったカルテル問題に業界が揺れている。

真相を明らかにし、ルールに基づいた競争の原則を再確認すべきだ。

〈 電気事業合理化・効率化の障害に システム改革の見直しが欠かせず 〉

視点A:伊藤敏憲 伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー代表取締役兼アナリスト

2022年12月、中部電力、中部電力ミライズ、中国電力、九州電力および九電みらいエナジーは、21年4月あるいは7月に特別高圧電力および高圧電力の供給に関して、独占禁止法違反(不当な取引制限、いわゆるカルテル)を行っていた疑いがあるとして、公正取引委員会が調査していた案件において、公取委から独禁法に基づく課徴金納付命令書(案)、あるいは排除措置命令書(案)とこれらに関する意見聴取通知書を受領したと公表した。

公取委の処分が決定されておらず確定情報ではないが、マスメディアの報道や関係者へのヒアリングから、カルテルが疑われている行為は、①18年ごろから行われていた、②3社の相手先はいずれも関西電力だった、③関西電力は、調査が始まる前に最初に違反行為を自主申告したため、独占禁止法におけるカルテル・入札談合に適用される課徴金減免制度により、課徴金が全額免除されるもようである(課徴金減免制度の適用事業者は後日公表される)、④3社に課される課徴金の総額が1000億円を超える可能性がある(中部電力は独占禁止法関連損失引当金繰入額275億5500万円を特別損失に計上すると公表)―などが明らかになっている。

電力小売事業は、2000年に受電規模2000kW以上の特別高圧領域が部分自由化され、04年および05年に高圧領域まで自由化範囲が拡大された。さらに16年に電力小売りが全面自由化され、併せて電力卸取引市場の整備など競争を促進する仕組みが導入されたことから、異業種からの新規参入、旧一般電気事業者(電力各社)による供給域外販売などが広がっていた。この影響により、電力各社の供給域内の販売シェアは低下し、小売り部門の経営が圧迫されていた。

ちなみに10年代後半には新電力がシェアを拡大していたが、電力系でも東京電力系のテプコカスタマーサービス(TCS)が特別高圧および高圧の販売電力量を15年度の57万4000kW時から18年度105億5900万kW時に、関西電力系の関電エネルギーソリューション(Kenes)が15年度1億2500万kW時から18年度11億2100万kW時へと域外販売量を大幅に増やしていた。

なお、15年度から17年度に特別高圧および高圧の販売電力量は、市場全体が2・2%増となる中で、関西電力(10%減)をはじめ北陸電力を除く電力各社が減販となった。18年度は、市場全体が前年度比0・1%減に対して、関西電力10・5%増と、電力会社では関西電力だけが販売量が増やした。これは、関西電力が原子力利用率の改善(17年度23・9%、18年度54・6%)によって電力供給コストが低下したことなどを背景に、拡販に取り組んだ成果だったと考えられる。

違法行為で企業価値が毀損 より公正な競争の実現も

経営が圧迫されていたとしても、カルテルなどの法令違反行為を行うことは許されることではない。違法行為が発覚すると、処分や課徴金が課されるだけでなく、お客さまや取引先、さらには社会一般からの信頼が損ねられ、企業価値が大きく毀損されかねないからだ。違法行為の発生を未然に防ぐためには、全ての社員に法令を正確に理解させる、法令を遵守するためのルールを作る、そのルールを社内外に周知徹底する、内部監査を適時実施するなどの取り組みが必要になる。

関西電力は、課徴金が免除される見込みであることから、当カルテルにおける直接的な損失は回避される見通しだが、調査開始前に違反行為を自己申告したということは、カルテルを行っていたことを自ら認め、独善的に対応したことになる。

別件ではあるが、関西電力では昨年末に送配電会社が管理していた新電力の顧客情報を社員が閲覧して利用するという違法行為を行っていたことも発覚している。法令順守に加え、信頼回復に努めるための取り組みも必要不可欠だろう。カルテル問題は、関連各社および電力業界の今後の対応いかんによっては、電気事業全体の合理化・効率化につながる事業提携・統合などの障害につながりかねない。速やかに適切な対策を講じることが求められよう。

最後に、電気事業の健全化を図るために電力システム改革のあり方を一部見直すことも検討の余地があるのではないだろうか。新規参入の促進は電気事業全体の合理化・効率化につながっておらず、電力の供給信頼性の低下、複数の電力会社の経営体質悪化などが起きていることなども勘案すると、電力各社に課せられている非対称規制、行為規制を撤廃するなどにより、より公正な競争環境を実現することが必要と思われる。

いとう・としのり
1984年東京理科大学卒、大和証券入社。大和証券経済研究所出向、HSBC証券を経て2012年から現職。