【マーケット情報/12月16日】原油上昇、品薄感と需要増予測が要因


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。カナダと米国を繋ぐキーストーン・パイプラインの稼働停止にともなう供給懸念と、需要回復の予測が強材料となった。

同パイプラインは14日に一部が再稼働したものの、全面復旧には依然至っておらず、品薄感が強い。これを受け、米国は戦略備蓄(SPR)から、エクソンモービル社とフィリップス66社に対し、不足分の原油貸し出しを決定。米SPRは12月9日時点で、1984年1月以来の最低水準を記録している。

また、米国では11月、インフレ率が11か月ぶりに大幅下落。米連邦準備理事会による金利の上げ幅も、過去4回にわたる0.75%から、0.5%に縮小。景気の回復と石油需要の増加へ期待が高まった。

さらに、国際エネルギー機関は、今年と来年における世界の石油需要見通しを上方修正。ガスオイル消費の大幅増加が背景にある。OPECも、地政学的な緊張緩和と、中国のロックダウン解除で、世界的な需要回復を予想し、価格の支えとなった。

ただ、中国では、首都・北京で新型ウイルスの感染者数が増加。同国経済の先行き不透明感が強まり、価格上昇を幾分か抑制した。

【12月16日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=74.29ドル(前週比3.27ドル高)、ブレント先物(ICE)=79.04ドル(前週比2.94ドル高)、オマーン先物(DME)=76.81ドル(前週4.82ドル高)、ドバイ現物(Argus)=76.22ドル(前週比4.19ドル高)

新「運転期間規制」を策定 認識のズレ解消に対話を重視


【インタビュー】山中伸介/原子力規制委員会委員長

やまなか・しんすけ 1979年大阪大学工学部原子力学科卒。大阪大学大学院教授などを経て2017年、原子力規制委員会委員。22年9月、委員長に就任。

9月に原子力規制委員長に就任し、「情報発信と対話」を重点項目として掲げる。

運転期間の見直しについては、年内に新たな制度を取りまとめる考えだ。

 ―9月に原子力規制委員長に就任しました。抱負をお聞きします。

山中 規制委員としての原点は福島第一原子力発電所事故にあり、それは委員長になっても変わりません。9月に原子力規制委員会、原子力規制庁が設立されて10年となりました。当時の委員のすべてが交代しましたが、最も大切なのは、事故を見つめ直し初心を忘れないことだと考えています。

―運転期間延長とそれに伴う安全規制の見直しについて、運転開始から30年を起点に10年ごとに評価をする方針を示しました。

山中 原子炉等規制法(炉規法)では、運転期間を40年、また20年を超えない期間で延長が可能と定められています。利用政策である運転期間について、規制委員会は意見を述べる立場にありません。しかし、どのような運転期間が設定されても、高経年化した原子炉の安全規制を着実に実施できる制度を作る必要があります。

 運転期間についての規制は現在、炉規法による運転延長認可制度と同法下の規則による高経年化技術評価制度の二段構えになっています。これらを一本化し、事業者に運転開始から30年以降、10年ごとに延長認可を判断する新たな制度を年内にも取りまとめます。

新たな安全規制策定へ 現行より〝はるかに厳しい〟

―従来より厳しい規制となりますか。

山中 現在、高経年化技術評価では、事業者による長期施設管理方針のソフト面を審査しています。長期管理方針にはハード面のデータも提示いただいていますが、それを直接審査しているわけではありません。ハード面を審査するのは、運転延長の認可を行う40年目だけです。

 しかし、新たな規制基準では10年おきにハード面も審査することになるので、現行制度よりもはるかに厳しい規制といえるでしょう。

―40年の運転期間から停止期間を除くカウントストップについてどう考えていますか。

山中 規制委員会の仕事は、運転開始から何年目であろうと、一定の時点で原子炉の特性を見て、判断基準に適合しているかを審査することです。審査の開始時期や次の審査までの期間については議論がありますが、審査は運転開始から数えた「暦年」で行うことが最も分かりやすいと思います。運転期間中には原子炉材料の物理的な性質で変化しにくいものもありますが、カウントストップの導入は制度を分かりにくくしてしまうのではないでしょうか。

―電力会社が規制委員会に再稼働を申請した27基のうち、いまだに10基で新規制基準の適合性審査が続いています。難航している地盤・地質の調査を巡っては、規制委員会側が明確な判断基準を示さないからだという声もある。

山中「福島を決して忘れない」という観点から、地震や津波といった外部ハザードに対する審査は極めて慎重に行われなければなりません。地盤・地質調査について、規制委員会は敷地内の断層が活断層でないことの立証を求めています。

 ただ自然が相手であり、すぐに物証が出てくる敷地もあれば、そうでない敷地もある。敷地ごとに性質が異なるので、審査に時間を要することはやむを得ません。事業者も誠意をもって対応してくれていますし、審査は厳正に行う必要があります。

両者が積極的に意見交換を バックフィットは柔軟に対応

―行政手続法で原子力の標準処理期間は2年とされていますが、審査開始から10年近く経過している原発も存在します。審査の迅速化についての考えを教えてください。

山中 これまでのやり方に大きな不備があったとは考えていませんが、事業者と規制委員会の間で判断基準の認識のズレがあるのかもしれません。

 認識のズレを埋めていくためには、事業者と規制委員会の対話が大切です。私は重点的に取り組むべき項目の一つとして、「情報発信と対話」を掲げました。審査に関する意見交換を積極的に行い、忌憚のない意見をいただければと思います。判断基準について疑問があれば、公開の場で意見を戦わせていただきたい。また規制委員会で議論する必要がありますが、審査会合という形を取り、現場レベルでの面談や規制委員が出席しない意見交換を行ってもよいと考えています。

―事業者は審査でのバックフィットについて、「予見できない」と頭を痛めています。就任会見では「何でもかんでもバックフィットをかければいいというものではない」と発言しました。これまで、必要性の乏しいバックフィットはあったのでしょうか。

山中 必要性が乏しいバックフィットがあったとは考えていません。

 事業者が安全への第一義の責任を負っているという考えは変わりませんが、安全保護系のデジタル化ついてはバックフィットを掛けませんでした。事業者が自ら期間を決め、対策を講じる方式を取ったのです。また水素爆発への対策では、すでに設置済みのフィルターベントを活用いただければよいと考えています。そのほかの水素対策でも、各事業者から提案されたものを尊重することに決定しました。バックフィットについては今後、文書体系の整備やマネジメント体制を見直す予定です。

 ただ外部ハザード関連で新たな知見が出てきた場合には、技術情報検討会で検討を行い、そのリスクを規制委員会で議論をしたうえで、バックフィットを掛けるかどうかを判断することになります。

―核物質防護での不備などから、事実上の運転停止措置が取られている柏崎刈羽原子力発電所にはどういう対応を取りますか。

山中 現在、ソフト・ハード両面の検査を進めている段階です。今年2月に現地を視察したので、近いうちにもう一度、発電所に足を運び、来年の春ごろまでに何らかの評価を示せると考えています。

聞き手:佐野 鋭

【新電力】独自の取り組みが不可欠 生き残りの努力を


【業界スクランブル/新電力】

LNG価格の高騰が止まらない。9月の輸入通関統計値(速報)は、ついに16万円を超え、一般的なガス火力発電所の発電単価はkW時当たり30円超になる見通しだ。太陽光発電が稼働しない夜間・早朝の電力卸市場は不需要期でも当面は30円超となると思われる。

想定外の寒波到来あるいは大型火力発電所のトラブル停止発生により、三年連続で冬場の市場価格高騰となれば、自社電源を持たない大部分の新電力にとって、まさに存亡の危機を迎えることになる。

新電力に打つ手はあるのか―。国による電力料金高騰対策は、需要家の負担軽減策が中心であり、事業者への救済はなさそうだ。市場原理に則り、自助努力で生き残れない者は退出もやむなしといったところか。安易に旧一電の施策に追従するのみでは新電力の生き残りは困難である。自社の調達コストを適正に反映した独自の小売価格設定、あるいは調達コスト自体の低減に向けた自助努力を行わない限り、生き残りの道はなさそうだ。

独自の小売価格設定への取り組みとしては、東京電力エナジーパートナーが発表した特高・高圧向けの新料金メニューは、新電力にとっても示唆に富む。市場価格調整項を一定割合取り入れ、自社調達コストを適正に反映する取り組みと思われる。大部分の新電力は、当然の如く旧一電の燃料費調整制度を採用しているが、今後は自社調達コストを適正に反映する独自の調整項を導入すべきであろう。

調達面では、例えばDSS可能な発電所と夜間・早朝時間帯の供給に限定した新たな枠組みの相対契約を締結し、比較的市場価格が安価な日中は全量市場調達とするなど、創意工夫で独自の調達コスト削減策につき真摯に検討すべきだ。(Z)

【電力】電取委が問題提起 改革が機能する意味


【業界スクランブル/電力】

 世界的な燃料費の高騰に見舞われ、旧一般電気事業者は2022年度上期決算は多くの社が赤字、年間でも大幅な赤字が見込まれている。数社は規制がいまだに残置されている経過措置料金の値上げを表明している。そんな中で、経済産業省の広報誌で「電力・ガス市場の番人『電取委』に迫る」という特集が目にとまった。

「電力システム改革が十分に機能していないというご指摘をいただいていることは承知しています。ただ、電力システム改革はまだ道半ばなのです」とのことであるが、電力システム改革が十分に機能するとはどういうことなのか。

政府は、改革の目的を「安定供給の確保」「電気料金の最大抑制」「需要家の選択肢や事業者の事業機会の拡大」としており、この記事の冒頭にも同様の記述があるが、市場原理を最大限活用することを標榜するなら、価格が上がるべき時には上がる市場でなければ、安定供給は確保できない。すなわち、「安定供給の確保」と「電気料金の最大抑制」は簡単に両立できるものではない。

「需要家の選択肢や事業者の事業機会の拡大」についても、今まで新電力の参入が相次いだのは、大手電力に固定費回収を度外視した安価な電気の配給を強制していたからだ。燃料費高騰で市場価格が上がっても、小売価格が経過措置料金で上限を抑えられていれば、事業者の事業拡大など土台無理な話だ。

すなわち、電力システム改革が十分に機能するとは、価格が上がるべき時には上がるという当たり前のことが確保されることなのだが、政府に、国民にその覚悟があったかどうか。経済対策に電気料金への支援が盛り込まれているところを見ると、政府にその覚悟がないことは確かなようだ。(U)

「前門の習近平」、その後


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

すっかり白髪の老人となった胡錦涛前総書記が、付き添われて退席する様は「改革・開放」の退場と重なってみえた。10月に行われた、中国共産党大会での「事件」である。この党大会で、習近平総書記は異例の三期目の選出を受ける一方、胡錦涛配下のエリート集団である共青団出身の李克強首相、汪洋前副首相、胡春華副首相などは軒並み党幹部の座から去った。最高幹部である政治局常務委員会メンバーは、いわゆる「習派」で固められたのである。

習近平政権は、不動産事業への貸付絞り込み、IT企業への締めつけの強化、教育や思想の統制、さらにゼロ・コロナ政策など、経済成長よりも社会の秩序を優先する政策を展開してきた。上海の厳格なロックダウンを仕切った次期首相候補の李強氏など、新指導部のメンバーを見ると、こうした路線は一層強化されそうである。

筆者は、今年1月号の本コラムで「前門の習近平、後門のプーチン」と題して、エネルギー市場における需要・供給それぞれの脅威(虎と狼)として、中・露両国を取り上げた。果たせるかな、狼は大暴れして市場を大混乱に陥れたが、虎は「借りてきた猫」のような1年であった。前述の政策の影響か、1~9月の経済成長率は3.0%と、今年の政府目標の5.5%を大幅に下回る。LNGの輸入は、世界一になった昨年から一転して、2000万t以上減りそうだ。ロシアのガス供給削減に苦しむEUが、LNGの輸入を昨年比4000万t増やし、冬を前にガスの備蓄を積み上げられたのも、虎のおかげといえる。

仮にウクライナでの戦争が終結しても、狼へのエネルギー依存に回帰する者はおるまい。このエネルギー危機は長続きしそうである。虎には今しばらく大人しくしておいてもらいたいものだ。

紛糾の予感漂ったCOP27 火種はロス&ダメージ


【ワールドワイド/環境】

11月7~18日にエジプトのシャルム・アル・シェイクで開催されたCOP27は紛糾が予想されていた。英国が議長を務めたCOP26では野心レベルの引き上げが最優先課題とされたのに対し、エジプトが議長のCOP27では途上国への資金援助、ロス&ダメージ(通称ロスダメ)に焦点が当たるとみられた。ほかには次のことが事前に予想された。

先進国はグラスゴー気候協定を踏まえ、2023年のグローバルストックテークとも絡めて30年までの野心レベルの引き上げのための作業計画や閣僚ラウンドテーブルの開催などを重視している。対してエネルギー価格、食糧品価格の上昇と世界経済の下振れリスクの中で貧しい途上国がこれまで以上に資金面での要求を強めるだろう。最終合意は両方の主張をバランスよく盛り込んだパッケージになるのがこれまでの常道だ。

しかし途上国が強く主張しているロス&ダメージは大きな火種である。ロスダメ対策とは気候変動の影響による経済的・非経済的な財が被る損失や被害を回避・縮小する、あるいは事後的に対処する取り組みである。一見してわかるように適応の一類型であるが、国連交渉の中で適応とは独立したテーマとして扱われている。途上国はロスダメをあらゆる気候被害の損害賠償を先進国に求償するツールとみなしている。

先進国の立場で見れば、ただでさえ年間1000憶ドルの支援目標が達成できていないこと、25年までにこれを大幅に増額する新資金目標を合意する必要があることに加え、経済停滞、軍事支出拡大などで支援を大幅拡大できる地合いではない。緩和、適応とは別途の資金援助メカニズムを作られることは何としてでも避けたいところだが、最貧国、低開発国を中心に途上国のロスダメへのこだわりは強い。中国、インドなどの新興国は自らにプレッシャーがかかることを回避するため、貧しい途上国の背中を押している感もある。

ロスダメを巡る先進国・途上国対立が原因で合意パッケージができない可能性も十分にある。もともと今回のCOPは何かを合意しなければならない「節目のCOP」ではない。他方、ウクライナ戦争の下でも温暖化防止に取り組む姿勢を示したいのは先進国、途上国の交渉官の共通の利害でもある。同床異夢的な文言に合意して成功を取り繕う可能性もある。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

32年までの電源開発案を公表 COP26の目標達成を目指す


【ワールドワイド/経営】

インド中央電力庁(CEA)は2022年9月9日、国家電力計画(NEP)のドラフト版を公表した。NEPは同国の電源開発計画などを5年毎に集約したもので、ドラフト版では、22年4月から27年3月までの5年間の需要予測と具体的な電源開発計画、および32年3月までの見通しが示された。太陽光は27年までに1億kW以上、石炭火力は3000万kW超の新設が計画されている。

27年3月までの5年間では、電力需要の年平均増加率は7%、26年度の電力需要は1兆8740億kW時、最大電力は2億7200万kWと想定され、これを満たすには、2億2854万kWの電源開発が必要になる。主な内訳は太陽光が1億3208万kW、風力が4050万kW、石炭火力が3326万kW(463万kWが廃止されるため、増分は2863万kW)、水力1095万kW、原子力700万kWで、これらがすべて開発された場合、27年3月末の総発電設備容量は6億2290万kWとなる。

この時点で再エネ比率は55%、石炭火力は38%となり、再エネが石炭火力を上回る。一方、32年3月までの見通しでは、31年度の電力需要は2兆5380億kW時、最大電力は3億6300万kWと試算され、総発電設備容量はベースケースシナリオで8億6594万kWとなる。設備容量に占める再エネの割合は66%まで上昇する。

インド政府は8月、国連気候変動枠組条約締約国会議(UNFCCC)事務局に改定版NDC(国が決定する貢献)を提出した。改定版では、30年までに「CO2排出原単位を05年比で45%削減する」「非化石電源の発電設備を全体の50%にする」という目標が示された。前述の通り、27年3月までに再エネだけで発電設備全体の55%に達すると見込まれ、この非化石電源比率50%の目標は順当に行けば達成が見込まれる。

なお、モディ首相が昨年のCOP26で宣言した30年までの目標のうち「非化石電源の発電設備を5億kWにすること」と「10億トンのCO2排出削減」は、国内関係者の反対もありNDCには反映されなかったが、国内目標としては維持されている。NEPドラフト版は「30年非化石電源5億kW」目標達成に向けて作成されたと明記されており、同国のシン電力相も9月24日、米国ピッツバーグで開催された国際会議で演説し、同目標に引き続きコミットしていると明言している。インド政府は今後も、COP26で宣言した野心的な目標を達成するための取り組みを進めていくとみられる。

(栗林桂子/海外電力調査会調査第二部)

独露パイプラインでガス漏洩 厳しい冬に「破壊工作」指摘も


【ワールドワイド/資源】

欧州最大のガス需要国であるドイツと世界最大のガス埋蔵量を誇るロシアを直接結ぶ天然ガスパイプライン、ノルドストリームおよびノルドストリーム2からガスが大規模漏洩したことが明らかになってから数カ月が経つ。

9月26日、それぞれのパイプライン事業会社が、ノルドストリーム、ノルドストリーム2に敷設されているそれぞれ2本のパイプの内、前者は全て、後者は1本についてガス圧の低下を発表した。27日にはさらにもう一箇所で漏洩が新たに見つかり、その規模から小さな亀裂ではなくパイプラインが大きく破損していることが推察された。10月2日、ガス漏洩が止まったことを受けて、スウェーデン政府は現場へ潜水艦を派遣し、ガス漏洩の原因の調査に乗り出すと、強力な爆発が原因で生じたものであると発表。何者かによる破壊工作として捜査を進めていることが明らかになった。

水深50~80ⅿに及ぶパイプラインの破壊には特定の国が関与する可能性が当初から指摘されてきた。プーチン大統領も工作活動にアングロ・サクロンが関与していると発言し、ロシア政府も「その裏にある『真実』が公表されれば、多くの欧州人が驚くことになるだろう」と暗に西側の国が背後にいると発信する。

くしくも漏洩事件の翌日は、01年から構想が始まった、ノルウェーからデンマークを経由してポーランドに至る新たな天然ガスパイプライン「バルト海パイプライン」の開通式典が各国首脳参加の下、ポーランドで行われていた。容量ではポーランドが同パイプラインで輸入する量は依然低いが、ロシア産ガスを排除しようとする欧州政府の方針に合致し、ポーランドが脱ロシアを進める象徴的プロジェクトであり、今回の式典と合わせたようなガス漏洩事件によって、その注目度と重要性はさらに高まったとも言える。

破壊されたパイプラインの修理は容易ではない。この冬の間、再稼働はできず、それ以上続く可能性が高いと考えられている。欧州ではガス貯蔵率が年末までに設定された目標である85%を達成しており、暖冬予報も出ているが、ガス貯蔵率の維持においてはノルドストリームからの冬季を通じての一定供給が前提となっていた。そのガスが失われた今、加盟国に課せられた省エネ(節ガス)が順調に達成できない場合や突発的な寒波が欧州を襲うような事態が生じれば、欧州は厳しい冬を迎えることになるだろう。

(原田大輔/独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構調査部調査課長)

図書館はどう本を選ぶのか エネルギー問題で著しい偏り


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

 本を増やしたくない。なので市区町村の図書館をよく使う。困るのは、蔵書の偏りだ。

例えばエネルギー問題。再生可能エネルギーを推す本は多いが、問題点を指摘したものは少ない。

原子力は、さらに偏る。『原子炉時限爆弾、大地震におびえる日本列島』(広瀬隆著、ダイヤモンド社刊)は、図書館検索サイト「カーリル」で調べると、東京都内の市区町村図書館119館にあるが、安全技術に踏み込んだ解説書『原子力安全基盤科学1:原子力発電所事故と原子力の安全』(山名元編集、京都大学学術出版会刊)は18館にしかない。

税金で運営され中立公正であるべき図書館なのに、なぜか。

朝日11月4日「図書館の自由、揺るがす『依頼』、国『拉致問題の本充実を』司書困惑」「選書、権力から独立してこそ」を読んで事情が少し理解できた。

記事は「文部科学省が公立・学校図書館に出した依頼文が波紋を呼んでいる。『拉致問題の関連本の充実』を求めるもの。『図書館の自由を脅かしかねない』。司書から戸惑いや抗議の声」と書く。

さらに、「図書館には戦前の反省にたった『図書館の自由に関する宣言』がある。『権力の介入または社会的圧力に左右されることなく、自らの責任にもとづき収集した資料を国民の利用に供する』」との解説もある。

違和感を否めない。そもそもの依頼文は「拉致問題に関する図書等の充実に係る御協力等について」という呼びかけに過ぎない。さらに、「拉致問題その他北朝鮮による人権侵害問題への対処に関する法律」第三条は、「地方公共団体は、国と連携し、国民世論の啓発を図る」と定めている。

前出カーリルで検索すると、例えば、『めぐみ、お母さんがきっと助けてあげる』(横田早紀江著、草思社)を所蔵するのは、都内の市区町村の図書館でたった11館だ。拉致被害の当事者が苦悩をつづった本にさえ関心が薄い。依頼文の発出は当然に思える。

選書の実態はどうなっているのか。全国公共図書館協議会事務局の調査では、市町村立図書館で選書の基準が明文化されている館は半数に満たない。非常勤や臨時職員が選書を担う例も多い。要は手続きがあいまい。公開でもない。朝日記者はご存知か。

朝日10月29日「あおられる『電力危機』」の巨大インタビュー記事も理解に苦しむ。

「電力供給の『危機』が声高に叫ばれている。安定供給を錦の御旗に、政府も原発活用など政策転換に動く。この問題に詳しい安田陽・京都大学大学院特任教授は『根拠なく不安をあおる言説が散見される。わかりやすい話には要注意』と言う」に続いて、同氏の見解を紹介する。要点は、見出しの「リスク対処には科学的方法論で根拠ある分析を」と、本文中の「優先順位が高いのは再エネ」「特に風力」らしい。

疑問なのは同氏の肩書だ。「特任教授」と記事にあるが、京大の本人のサイトを見ると「エネルギー戦略研究所株式会社取締役研究部長」の肩書が併記されている。大手風力開発事業者・日本風力開発のグループ企業の幹部である。

利害関係者なのだ。朝日は、その肩書を意図的に省いた。

Newsポストセブン11月1日「深刻化する“朝日新聞離れ”」は、「朝日の発行部数は400万部を割り込み、399万部となった。前年同月比マイナス63万部」と伝える。理由は、さて……。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

【インフォメーション】エネルギー企業の最新動向(2022年12月号)


 【東京ガス/国内初のガス・電気空調の最適制御システムを販売

東京ガスは2023年4月からハイブリッドチラーシステム「スマートミックスチラー」の販売を開始する。ダイキン工業、ヤンマーエネルギーシステムと共同開発を進めているものだ。ダイキン製の高効率電気空調「EHPチラー」とヤンマーES製のガス空調「GHPチラー」に、東京ガスのクラウド制御サービス「エネシンフォ」を組み合わせることで、ガス空調と電気空調を最適制御する。GHPチラーの稼働により契約電力を下げることで、ランニングコストを約15%削減できるという。ガス空調と電気空調を組み合わせたチラーシステムのパッケージ商品は国内初。高い省エネ性を誇る同システムの導入により、業務用建物のZEB化を推進し、脱炭素社会実現への貢献を目指す。

三菱重工業/タイで超大型GTCC発電所が運転開始

三菱重工業が建設したタイ・チョンブリー県の天然ガス火力発電所が10月1日に運転を開始した。タイ最大の独立系発電業者(IPP)であるガルフ・エナジー・デベロップメント社と三井物産の合弁事業会社が進めてきたもの。三菱重工は、チョンブリー県とラヨーン県で、それぞれガスタービン4台で構成される出力265万kWのガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)火力発電所のプロジェクトを2018年に受注し、建設を進めている。今回、運開したことでチョンブリー県のプロジェクトは完成。同社は、引き続きラヨーン県の発電所の建設に取り組むとともに、世界各地の電力の安定確保と環境負荷の低減に貢献していく方針だ。

清水建設/世界最大級のSEP船「BLUE WIND」が完成

清水建設が発注しジャパンマリンユナイテッドが建造した、世界最大級の搭載能力とクレーン性能を持つ自航式SEP船が完成し、「BLUE WIND」と命名された。全幅50m、全長142m、総トン数2万8000tで、クレーンの最大揚重能力は2500t、最高揚重高さは158m。作業時は4本の脚を海底に着床させ、船体を海面上にジャッキアップさせることで、波浪の影響を受けずに作業できる。水深10~65mの海域に対応。8000kW風車の場合は7基、1万2000kW風車の場合は3基分の全部材をフルサイズで一括搭載が可能だ。船体のジャッキアップ・ダウンやクレーン操作などの訓練を行った後、富山県入善町沖での施工を経て、石狩湾新港洋上風力発電施設の施工を行う予定だ。

北海道ガス/風力発電の出力変動をガスエンジンで調整

北海道ガスは日立パワーソリューションズと「北ガス石狩風力発電所」の建設工事に関する発注契約を締結した。石狩LNG基地の隣接地で2023年4月に着工し、24年9月の運転開始を目指す。同発電所内のガスエンジン12台(9万3600kW)を風力発電の調整力として活用。ガスエンジンを調整電源とする風力発電の出力変動調整モデルは、北海道内初の取り組みだ。再エネ電源として電力事業で最大限活用し、安定性・環境性・経済性の高い発電方式の実現を目指す。

ヤンマーエネルギーシステム/合成メタンを燃料に 実証機が基準をクリア

ヤンマーエネルギーシステムは9月14日、東京ガスの横浜テクノステーションに合成メタンを燃料とする出力35kWのマイクロコージェネレーションシステムの実証試験機を納入した。エンジンの燃料系部品を合成メタンに合わせて変更し、都市ガスを燃料とするガスコージェネレーションシステムと同等の発電出力を実現している。都市ガスと同様の燃焼を維持することで、窒素酸化物(NOX)排出基準濃度を達成している。同機は同実証試験施設で生成された合成メタンを燃料として、運転試験に活用される予定だ。

東芝エネルギーシステムズ/タービン発電機が対象 検査ロボットを実用化

東芝エネルギーシステムズはこのほど、発電所用タービン発電機向け検査ロボットのサービス提供を本格的に開始すると発表した。2018年に開発したこのロボットは、中・大型発電機に加え、小型発電機にも対応可能な「薄型検査ロボット」と、バッフル乗り越えを可能とする「高機能型検査ロボット」の2種類のラインナップを用意。このロボットの使用で、検査期間は従来の約半分に短縮される。薄型検査ロボットは、一部の海外発電所でサービスを開始。高機能型検査ロボットは23年度から提供を始める。

商船三井・東北電力/風力推進装置を搭載した石炭船が運航

商船三井と東北電力が建造を進めていた、世界初のウインドチャレンジャー(硬翼帆式風力推進装置)搭載の石炭輸送船が「松風丸」と命名され、運航を開始した。ウインドチャレンジャーは、伸縮可能な帆で風力エネルギーを船の推進力に変換。航行燃料を削減し、温室効果ガス(GHG)の排出抑制などにつながる。東北電力の専用船として豪州やインドネシア、北米などからの石炭を輸送する。従来の同型船と比べ、GHGの削減効果は豪州航路で約5%、北米西海岸航路で約8%を見込む。

レモンガス/80周年記念式典 10月に都内で開催

LPガス販売事業者のレモンガスが、10月に都内のホテルで、創立80周年の式典を開催した。同社は1942年に練炭の製造販売会社として設立し、67年にLPガス販売を開始した。その他、アクアクララのブランド名で宅配水ビジネスの業績を伸ばす一方、最近では電力や都市ガス販売を手掛けている。今後は家庭用のユーティリティー企業として取り組む。

中電ネットワーク・富士通/再エネ拡大への実証 送電線のデータ収集

中国電力ネットワークと富士通は、送電設備を活用して取得・変換した風況などの環境データの実用性についての実証を実施した。2021年から1年間行ったもので、対象は、再エネ導入拡大のために次世代技術として期待される、送変電設備の送電容量を弾力的に運用する技術の実現や、設備の保全業務高度化におけるドローン活用の取り組みだ。

中部電力ミライズほか/イオンモール土岐でPPA 商業施設で最大規模

中部電力ミライズとLooop、中電Looop Solarの3社は、大型商業施設「イオンモール土岐」(岐阜県土岐市)の屋上スペースに太陽光発電設備を設置して、発電した電気を供給するオンサイトPPAサービスの提供を始めた。Looopが太陽光発電設備の調達・設計・施工を行い、中電Looop Solarが設備を保有・運営。中部電力ミライズは発電した再エネ由来の電力を供給する。設置した設備は、パネル容量2870kWで、商業施設としては国内最大規模。発電電力は、同施設で使用する電力の約20%に相当する。

九州電力・ジャパン・インフラ・ウェイマーク/非GPS対応自律型ドローンの国内初実証

九州電力は、ドローン機体・サービスの共同開発を行うジャパン・インフラ・ウェイマークと、複数機体のドローン(米国Skydio社製)による遠隔での自動・自律巡回飛行の国内初の実証を行った。この実証は、九電の苓北発電所(熊本県天草郡苓北町)にて実施。パソコンで同時に3機のドローンを操作しながら、飛行中に撮影した映像をリアルタイムに一元管理し、遠隔地で確認するものだ。活用したSkydio社製のドローンは、非GPS環境下や磁界環境下においても安全な飛行が可能なAIによる自律飛行技術、 360°全方位障害物回避機能を搭載している。両社は今後も、さらなるドローン活用範囲の拡大と高度なインフラ点検サービスの実現を目指していく。

エネルギー政策のビジョンは何か 「3E+S」掘り下げる議論を


【オピニオン】渡辺 凜/キヤノングローバル戦略研究所 研究員

 EU(欧州連合)のエネルギー政策文書では、政策が理想とするエネルギー利用の在り方に関する説明が充実している。例えば再生可能エネルギー導入策についても、単に「気候変動抑止」のための政策ではない。EUが再エネを推進するのは、「クリーン」で、「透明性があり」、「フェア」で「デジタル」で「レジリエント」なインフラを、加盟国間の「連帯」を通じて構築することを目指しているからだ。今年からは「脱ロシア」も重要なキーワードとなった。関連文書の中では、エネルギー産業の技術や燃料に加えて、材料、働き手やスキル、利用者のライフスタイル、国際関係や開発支援など多岐にわたって、各キーワードが目指すエネルギー利用の姿が論じられている。

よく読むと、気候変動も「環境に悪いから対策せよ」という単純な話ではない。エネルギー利用の影響が、利用者とは別の世代や地域の人、さらに他の生物の生活環境まで及び得る点なども問題視されている。EUが取り組む「グリーン変革」には、「他者の被害の上に成り立つエネルギーシステムを使うべきではない」という意識もあるようだ。

翻って日本のエネルギー政策を見るに、3E+S(安定供給、経済効率性、環境適合性+安全性)という端的な理念が掲げられているが、どのようなエネルギーシステムを目指しているのか、もう一歩踏み込んだビジョンは見えてこない。

それは、3E+Sを実際の文脈に当てはめ、さまざまなステークホルダーの声を踏まえながら、3E+Sに関する具体的課題や、3E+S間のバランスの取り方を議論するプロセスが不足してきたからではないか。例えば次のような問いを立てることで、エネルギー政策に資する知見を得られるかもしれない。

まず、「環境」とは何か。社会的に許容できない影響の条件や、再エネの急拡大とのトレードオフといった問題は十分に考えられてきたか。影響をより包括的に、正確に把握し、小さくするための研究開発は十分に行われてきたか。

「エネルギー自給」に関しては、燃料の自給率目標のみならず、エネルギー供給のライフサイクル全体で必要となる各種の資源を踏まえて、望ましい供給構造を考えるべきだろう。産油国を巡る地政学だけでなく、望ましい国際関係や、日本が果たし得る役割を考えていけば、エネルギー政策にとっても重要なインプリケーションがあるはずだ。

「経済効率性」についても、実績ベースの分析や試算のみならず、防災やレジリエンス、働き方改革、地方経済の再生といった課題との中長期的な相互作用を検討することで、新たな方向性や戦略を見出だせるかもしれない。

上述のような問題は非常に難しいからこそ、危機的状況に陥る前に、幅広くヒアリングを行い、議論を重ねていくべきだ。そして、そのような開かれた議論を通じて、3E+S以外にエネルギー政策において重要な理念はないか、という点も継続的に考えていくべきだろう。

わたなべ・りん 2016年東京大学大学院原子力国際専攻修了。アジア太平洋エネルギー研究センターでエネルギー政策研究に従事。2022年から現職および東京大学未来ビジョン研究センター客員研究員を兼務。

【マーケット情報/12月9日】原油急落、経済減速の見込みが重荷


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み急落。経済の減速、それにともなう原油需要の後退見通しで、それぞれ2021年12月下旬以来の最低を記録した。

米連邦準備理事会が、さらに金利を引き上げるとの見方が台頭している。雇用統計で賃金上昇率などが市場予測を上回り、インフレ圧力の懸念が高まったことが背景にある。欧州中央銀行やイングランド銀行も、インフレに対抗し、金利を一段と引き上げる見通しだ。経済がさらに冷え込み、石油消費が減少するとの予想が広がった。

供給面では、G7が、ロシア原油価格の上限設定で合意。ロシアは反発するも、輸出の継続を表明しており、需給の引き締めには至らなかった。また、米国のガソリン在庫は、8月初旬以来の最高を記録。軽油在庫も、過去9カ月で最高となり、需給緩和感を強めた。

他方、中国は、新型ウイルス感染拡大対策のロックダウンを大幅に緩和。経済活動の再開と、石油需要の回復が予想されるが、価格の上方圧力とはならなかった。

【12月9日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=71.0ドル(前週比8.96ドル安)、ブレント先物(ICE)=76.10ドル(前週比9.47ドル安)、オマーン先物(DME)=71.99ドル(前週9.13ドル安)、ドバイ現物(Argus)=72.03ドル(前週比8.93ドル安)

脱炭素で新たなブランド確立へ 災害に強い持続可能な島目指す


【地域エネルギー最前線】 新潟県 佐渡市

「トキ認証米」など自然と経済活動の共生に腐心してきた佐渡市が、今度は脱炭素化に挑戦する。

離島の特性を意識した上で、災害に強く持続可能な新たな島づくりに意欲を見せている。

日本最大の特定有人国境離島で、最近では金山の世界遺産登録を巡っても話題になった新潟県佐渡市は、独自色の強い地域資源を複数有している。真っ先に思い浮かべるのは国の特別天然記念物であるトキ。環境省が長年繁殖に取り組み、さらに市や住民も経済活動につなげようと、15年前にスタートした「朱鷺と暮らす郷」認証米などを軌道に乗せてきた。いわゆる〝トキ認証米〟は、トキの餌場確保と生物多様性の確保に配慮したブランド米で、全国での知名度は高い。 

とはいえ、やはり離島の経済や暮らしはさまざまな面で制約があり、エネルギー供給の課題も多い。島内の電力は独立系統で、東北電力ネットワーク(NW)の石油火力が需要の9割強を支える。災害に対して脆弱であり、ここ数十年ほどで実際に起きてはいないものの、いざ電力供給が途絶すれば、復旧には本土より多くの時間を要することになる。また、市は2050年までの「ゼロカーボンアイランド」を宣言しているが、先述のようなエネルギー事情を抱える離島の脱炭素化は相当ハードルが高い。

エネルギー以外でも、人口減少と、島内の経済循環の低さといった構造的な課題を抱えている。市の人口は現在5万人ほどで、年間1000人ほどのペースで減少しており、県内でも少子高齢化の進行が速い。そして基幹産業の柱の一つである観光業は、目下コロナ禍からの立て直しの最中だ。

市は、環境省の「脱炭素先行地域」でこれらの課題解決のストーリーを描こうと考え、その計画が4月下旬発表の第一弾に選定された。①トキと共生する環境の島、②災害時に安心できる防災の島、③自立分散型の再生可能エネルギーを活用した持続可能な島―がコンセプトだ。

「もともと地域の環境意識は高く、『トキ認証米』では自然保護と農家支援の視点で地域のブランド化に取り組んできた。今度は脱炭素のブランド化で、コロナ禍で傷んだ産業の活性化を図りたい」(市総合政策課)と狙いを説明する。

再エネで自立分散型へ EVの可能性にも期待

エネルギー面では、公共の防災施設や小中学校などの125施設を対象に自立分散化を図る。オンサイトではPPA(電力購入契約)での再エネ調達を進め、11月上旬に第一弾のPPA事業者を決定したところだ。太陽光と蓄電池を組み合わせて導入し、特に主要防災拠点10カ所にはそれぞれ1000kWの蓄電池を設置する。

加えて、オフサイトでは太陽光2000kW、木質バイオマス380kWを目標に掲げている。対象施設の年間電力需要約1460万kW時に対し、トータルの再エネ発電量は年間約1360万kW時を目指している。

地域住民は自然や景観保護への意識の高さから、従来は再エネ開発にややネガティブな感情を持つ傾向もあったという。先行地域の取り組みを機に、脱炭素化への機運を醸成し、地域と共生した再エネの導入を図っていく。

需給管理では、EMS(エネルギーマネジメントシステム)を活用してDR(デマンドレスポンス)も駆使し、効率的な再エネ活用を図る。省エネ面では年間約147万kW時の削減が可能と見込む。EMS関連の事業主体は未定だが、東北電NWが独自でメガソーラーやEMSの計画を進めており、市としては東北電との連携を模索していきたい考えだ。

市民や観光客向けに、EVの利活用にも力を入れる。公用車の入れ替えや、急速充電も含めた充電スポットの拡充、レンタカーやホテル事業者へのEV関連の補助拡充などを予定する。「EVの航続距離を考えると島内でのEV利用は向いている。エコツーリズムといった観光ブランディングを図る上でもEVの活用が重要になる」(同)。

このほか、バイオマス発電用の燃料創出やソーラーシェアリング(営農型発電)による農林業活性化、環境教育の充実化、地域コミュニティの創出・活発化などの仕掛けも、順次進めていく考えだ。

地域のキャパシティー意識 トキとの共存経験生かして

課題は、やはり離島ゆえに本土よりさまざまなコストが割高になってしまうこと。あらゆる設備・部材が海上輸送になる点は仕方ないが、それでも民間が再エネや蓄電池、EVなどを導入し脱炭素化を図っていくためのインセンティブをどう示すかには、工夫が必要だという。さらに、設備の設置やメンテナンスなどを外部人材に頼るのではなく、島内の人材を最大限活用して、地域の企業ができる限り作業を請け負えるような体制づくりも重要になる。

市は、「足元のエネルギー価格高騰ですでに予兆も出始めているが、将来的にはコスト面で再エネの自家消費やEVが有利となるタイミングが来る。それを見越して市が旗を振ってやり方を工夫し、普及させていきたい」(同)と強調する。

市は脱炭素推進会議を民間企業と共に設立し、ビジョンを共有。まずは市が公共施設での取り組みを率先するが、民間での具体的な計画はまだ出来上がっていない。先行地域の制度やその他の国の補助制度をフル活用しつつ、最終的に民主導の産業活性化に落とし込むことを目指す。

トキとの共生の経験を脱炭素化にも生かしていく

さらに市は、「持続可能な事業とするために肝要なのは、再エネ乱開発やオーバーツーリズムなど地域とのあつれきを招かないよう、地域のキャパシティーを考えた上でバランスを取ること。トキ認証米も住民に負担を強いない形でトキとの共存の在り方を探り、結果が出てきた。この成功経験を生かしていきたい」(同)と続ける。

貴重な体験を、持続可能な脱炭素の島づくりにつなげることができるのか。離島の独自色を生かした新たな挑戦が動き出している。

変電設備「低炭素」化への一歩 東電PGが挑戦する日本初の布石


【東京電力パワーグリッド】

脱炭素に向けた取り組みの波は電力系統のインフラ設備にも押し寄せている。

東電PGは業界に先駆けて環境にやさしい次世代型の変電設備を導入した。

 カーボンニュートラルの実現に向けて、今、電力会社の送配電部門は大きく二つの、そして大変に難しい課題に向き合っている。一つは日々導入量が増えている再生可能エネルギーとの共存と、それに対する対応だ。「再エネ主力電源化に向けて何が必要か」。日夜、部門内では技術的かつ経済的な検討を続けている。制度設計の歩みと合わせながら、需給調整機能の大きな役割を担う「火力業界」とのやり取り、需給調整機能の精査……。また、それに伴い、インフラ設備の「保全」や「整備」についても新しい考え方が必要になってきている。従来は、秋や春など需給が緩和するタイミングを見計らって、人員を確保し設備保全やインフラを整備してきたが、再エネ大量導入時代は、そんな常識は通用しない。これらが難事の一つ目だ。

そして二つ目が、インフラ設備そのものにおけるカーボンニュートラルへの挑戦だ。「電力系統設備、とりわけ変電設備部門の環境対策に取り組む業界のリーディングカンパニーでありたいと考えています」。東京電力パワーグリッドで変電設備技術部門の実質トップである、工務部の塚尾茂之変電技術担当部長は、力強くこう話す。まず、塚尾さんが目を付けたのは、変電所の設備のひとつを構成する「開閉装置」だ。

日本初の環境型変電設備 自然由来ガスを利用

東京・府中駅から歩いて20分程度の静かな市街地に、東電PGが運用する6万6千Vクラスの変電所が存在する。変電所とは、その名が示す通り、電圧を調整するインフラだ。ここでは、高い電圧で送られてきた電気を低い電圧に落とし、実際の需要家に電気を送り届けるハブのような拠点だ。

敷地内には、設備を監視する機能を備えた無人の建屋のほか、経年化に伴って多少変色した、白や灰色を基調とした設備がいくつかたたずんでいる。設備を構成するのは、開閉装置(遮断器や断路器)、変圧器、避雷器などだ。

この府中変電所では、今秋から、経年化に伴った一部の設備のリプレース工事を進めている。その対象設備が開閉装置である「ガス絶縁開閉装置」、通称GISだ。そして、この設備こそが、東電PGが国内で初めて導入する、環境対応型次世代設備「AEROXIA(エアロクシア)」(東芝エネルギーシステムズと明電舎の共同開発)だ。

東芝の川崎の工場で出荷を控える開閉設備

ガス絶縁開閉装置と脱炭素―。両者に一体どのような相関関係があるのか。まずは、開閉設備の機能を簡単に説明しよう。この設備は、電気を流したり、あるいはその流れを瞬時に止める「遮断機能」や「絶縁機能」を持つ。落雷などで急激に電圧が高まったり、異常な電気が流れたりする時、瞬時に電力系統から切り離す必要がある。その際の「遮断」や「絶縁」は、

まさに電力インフラに不可欠である。そして、その遮断・絶縁に使っているガスがSF6(六フッ化硫黄)と呼ぶ、自然界には存在しない人工ガスだ。遮断や絶縁性能が優れていることから、設備全体を大変コンパクトに設計できる。1970年頃から、世界的に普及してきた。今回更新の対象設備として、78年に運用開始された府中変電所の初期型GISでも例外ではない。ところが、このガスは、地球温暖化係数(GWP)の値が2万5200と高いという欠点を抱えている。

「これまで、日本の電力会社は、このガスを漏らさないように運用してきました。年間の漏洩率は1%未満で、世界に誇れる運用でした。ところが、近年、世界的な脱炭素の流れの中で、SF6を代替するGWP値の低いガスの使用が求められてきました」。

そうした中、塚尾さんが主幹事となって、国内電力、学識者、メーカーとともに、次世代開閉機器の設計要件を議論してきた。塚尾さんらがユーザーとして志向したのは、人体に与える影響と安全性や環境適合性、代替ガスの供給性、SF6と同レベルの簡易なハンドリングな七つの要件だ。

技術駆使し省スペース設計 次なる課題は大型化

「容易な技術開発ではありませんでした」と塚尾さんは振り返る。設備設計をしたのは、あくまでもメーカーである東芝エネルギーシステムズと明電舎だが、東電PGは、公益的な設備を使用する立場である以上、使用者としての公益的な責任がある。公益事業者として、設備の安全性や環境適合性といった技術要件をしっかりと管理しステークホルダーに説明する責任があるわけだ。そんな使命感から漏れ出た塚尾さんの発言だ。

まず、塚尾さんを悩ませたのは、代替ガスの選定だ。代替ガスには、フッ素系ガスと自然由来ガスの2方式が存在している。前者のフッ素系ガスは、自然由来ガスほどではないが、SF6よりもGWP値が低く、絶縁性能も優れている。大型化への対応も比較的容易に可能だ。ただ、ガス自体や分解生成物の人体への健康面(毒性)での課題が解決し切れていないほか、ガスの供給面で不安を抱えている。

次に志向したのが自然由来ガスだ。GWPは1以下であることから、温暖化対策的には究極のガスだ。ただ、課題は主に絶縁性能だった。SF6ガスはその性能が優れていて、設備をコンパクトにできる。国土面積の狭い日本では、最適なソリューションだったが、自然由来ガスではその性能は約3分の1。単純計算で、設備サイズは約3倍になる。

そこを、ガスが収まる「タンク部」や電気が流れる「導体部」を設計改善した。使用した自然由来ガスは、窒素と酸素を混合したドライエア。遮断部に真空バルブを適用したり、実規模検証試験による最適な圧力設計などで、工夫した。そんな苦労が奏功し、リプレース前と比べても、省スペース設置が可能となり、今回、国内に先駆けて導入にこぎつけた。

次なる技術課題は、自然由来ガスによる「高電圧・大容量化」への挑戦だ。今回導入した府中では、変電所としては「小規模サイズ」。今後、27万5千~50万ボルトクラスへといった高電圧化が必須となる。その際どういった代替ガスを使い、どういった設計にして脱炭素を実現できるのか。安定供給を維持しながら、なおかつ託送コストも抑えないといけない。

高度成長期に大量整備されたインフラの更新時期が静かに訪れている中、複雑で多様な「難事」に東電PGは、今挑んでいる。

電気・ガス料金への補助 値下げの実感は? 出口戦略は?


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.9】関口博之 /経済ジャーナリスト

 政府が10月末の総合経済対策で導入を決めた電気・ガス料金の負担軽減策について、さまざまな議論が起きている。来年1月以降、標準的な世帯で電気料金を約2割、月額2800円、都市ガス料金を1割強の月額900円補助しようというものだ。来年9月までの負担軽減額は延長するガソリン代の補助を含め、4万5000円になると政府は試算する。電気代、ガス代は前年比で2割から3割も高騰しているのだから、国民の暮らしを守るため価格抑制策の必要性は理解できる。

ただエネルギー価格の負担感は、低所得世帯ほど重い。本来ならそこに手厚い支援があるべきだが、今考えられているのは使用量に応じた一律の補助だ。それでいいのか、という批判に政府当局は「それは分かってはいるが」と答えるだろう。確かに所得制限などを盛り込むのは実務上、またシステム上も無理がある。結局、原燃料費調整制度の枠を使って、一律に補てんすることになった。月々の請求書の「原燃料費調整額」の欄に値下げ額は明記される。元々、ウクライナ情勢を受けたLNGなどの高騰に起因しているのだから、原燃料費調整の枠組みで対策をとるのは自然だ。

電力業界首脳との懇談会で発言する岸田文雄首相
提供:時事

気になるのは政府の説明で、企業向け支援は「FIT賦課金の負担を実質的に肩代わりする金額」(単価では家庭向けの半額)としたことだ。賦課金に見合う「相当額」を補てんしますよ、という規模感を示したつもりなのだろうが、そもそもFIT賦課金は国が肩代わりする類のものではない。誤解を招く。

この仕組みで値下げの実感を得られるのかも気がかりだ。来年1月にはいったん、支払額が下がったのは目に見えるはずだが、大手電力は来春には本格的な料金改定・値上げも検討している。引き下げ分も値上げと相殺ということになりかねない。さらに原価が上がり続ければ料金自体また上昇に転じる。国民にこれでメリットが実感できるだろうか。ちなみにドイツが検討する価格抑制策は電気・ガスの単価に上限を設け、これを超える分は国が補てんする。いわば「天井」が設けられる分、安心感はある。

一方、別の観点からは、これは化石燃料利用への補助金であって脱炭素化に逆行するという批判もあろう。またこれまで進めてきた電力・ガスの自由化とも整合しないとも。「それも分かっている」と当局は言うのだろう。だからあくまで激変緩和措置だと位置付けている。

もちろん財政負担も大きい。電気・ガス料金の補助に3.1兆円、ガソリンへの補助の継続に3兆円の補正予算を組む。元手はほとんど赤字国債だ。「それももちろん分かっている。恒久的に続けるつもりはない」。だとすればなおさら『出口』をどう見定めるかが重要だ。「それも分かっている」から来年9月以降は支援の幅を縮小するとはしているが、それもその時点の価格動向次第だという。いやはや、それだけ「分かっている」なら政府には批判に答えられる次の手を今から考えておいてほしい。

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せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。