【インタビュー】山中伸介/原子力規制委員会委員長
やまなか・しんすけ 1979年大阪大学工学部原子力学科卒。大阪大学大学院教授などを経て2017年、原子力規制委員会委員。22年9月、委員長に就任。
9月に原子力規制委員長に就任し、「情報発信と対話」を重点項目として掲げる。
運転期間の見直しについては、年内に新たな制度を取りまとめる考えだ。
―9月に原子力規制委員長に就任しました。抱負をお聞きします。
山中 規制委員としての原点は福島第一原子力発電所事故にあり、それは委員長になっても変わりません。9月に原子力規制委員会、原子力規制庁が設立されて10年となりました。当時の委員のすべてが交代しましたが、最も大切なのは、事故を見つめ直し初心を忘れないことだと考えています。
―運転期間延長とそれに伴う安全規制の見直しについて、運転開始から30年を起点に10年ごとに評価をする方針を示しました。
山中 原子炉等規制法(炉規法)では、運転期間を40年、また20年を超えない期間で延長が可能と定められています。利用政策である運転期間について、規制委員会は意見を述べる立場にありません。しかし、どのような運転期間が設定されても、高経年化した原子炉の安全規制を着実に実施できる制度を作る必要があります。
運転期間についての規制は現在、炉規法による運転延長認可制度と同法下の規則による高経年化技術評価制度の二段構えになっています。これらを一本化し、事業者に運転開始から30年以降、10年ごとに延長認可を判断する新たな制度を年内にも取りまとめます。
新たな安全規制策定へ 現行より〝はるかに厳しい〟
―従来より厳しい規制となりますか。
山中 現在、高経年化技術評価では、事業者による長期施設管理方針のソフト面を審査しています。長期管理方針にはハード面のデータも提示いただいていますが、それを直接審査しているわけではありません。ハード面を審査するのは、運転延長の認可を行う40年目だけです。
しかし、新たな規制基準では10年おきにハード面も審査することになるので、現行制度よりもはるかに厳しい規制といえるでしょう。
―40年の運転期間から停止期間を除くカウントストップについてどう考えていますか。
山中 規制委員会の仕事は、運転開始から何年目であろうと、一定の時点で原子炉の特性を見て、判断基準に適合しているかを審査することです。審査の開始時期や次の審査までの期間については議論がありますが、審査は運転開始から数えた「暦年」で行うことが最も分かりやすいと思います。運転期間中には原子炉材料の物理的な性質で変化しにくいものもありますが、カウントストップの導入は制度を分かりにくくしてしまうのではないでしょうか。
―電力会社が規制委員会に再稼働を申請した27基のうち、いまだに10基で新規制基準の適合性審査が続いています。難航している地盤・地質の調査を巡っては、規制委員会側が明確な判断基準を示さないからだという声もある。
山中「福島を決して忘れない」という観点から、地震や津波といった外部ハザードに対する審査は極めて慎重に行われなければなりません。地盤・地質調査について、規制委員会は敷地内の断層が活断層でないことの立証を求めています。
ただ自然が相手であり、すぐに物証が出てくる敷地もあれば、そうでない敷地もある。敷地ごとに性質が異なるので、審査に時間を要することはやむを得ません。事業者も誠意をもって対応してくれていますし、審査は厳正に行う必要があります。
両者が積極的に意見交換を バックフィットは柔軟に対応
―行政手続法で原子力の標準処理期間は2年とされていますが、審査開始から10年近く経過している原発も存在します。審査の迅速化についての考えを教えてください。
山中 これまでのやり方に大きな不備があったとは考えていませんが、事業者と規制委員会の間で判断基準の認識のズレがあるのかもしれません。
認識のズレを埋めていくためには、事業者と規制委員会の対話が大切です。私は重点的に取り組むべき項目の一つとして、「情報発信と対話」を掲げました。審査に関する意見交換を積極的に行い、忌憚のない意見をいただければと思います。判断基準について疑問があれば、公開の場で意見を戦わせていただきたい。また規制委員会で議論する必要がありますが、審査会合という形を取り、現場レベルでの面談や規制委員が出席しない意見交換を行ってもよいと考えています。
―事業者は審査でのバックフィットについて、「予見できない」と頭を痛めています。就任会見では「何でもかんでもバックフィットをかければいいというものではない」と発言しました。これまで、必要性の乏しいバックフィットはあったのでしょうか。
山中 必要性が乏しいバックフィットがあったとは考えていません。
事業者が安全への第一義の責任を負っているという考えは変わりませんが、安全保護系のデジタル化ついてはバックフィットを掛けませんでした。事業者が自ら期間を決め、対策を講じる方式を取ったのです。また水素爆発への対策では、すでに設置済みのフィルターベントを活用いただければよいと考えています。そのほかの水素対策でも、各事業者から提案されたものを尊重することに決定しました。バックフィットについては今後、文書体系の整備やマネジメント体制を見直す予定です。
ただ外部ハザード関連で新たな知見が出てきた場合には、技術情報検討会で検討を行い、そのリスクを規制委員会で議論をしたうえで、バックフィットを掛けるかどうかを判断することになります。
―核物質防護での不備などから、事実上の運転停止措置が取られている柏崎刈羽原子力発電所にはどういう対応を取りますか。
山中 現在、ソフト・ハード両面の検査を進めている段階です。今年2月に現地を視察したので、近いうちにもう一度、発電所に足を運び、来年の春ごろまでに何らかの評価を示せると考えています。
聞き手:佐野 鋭