加藤真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長
早いもので今年も9月に突入した。懸念されていた夏の電力需給は、現時点で特に大きなひっ迫もなく、国は節電やデマンドレスポンス(DR)の促進や次の冬に向けた準備(kW公募、最大9基の原子力発電再稼働)、来夏以降の原子力発電追加再稼働の検討などを粛々と始めている。依然として、毎月のように多くの審議会を開催しており、8月前半はお盆休みで一服していたが、月末からまたフル稼働といった状況だ。
さて今回は、審議会でも多くの議論が割かれている再生可能エネルギーの施策について触れたい。再エネ主力電源化という「錦の御旗」が掲げられる中で、単に開発だけを進めればよいというわけではない。そこには、アメ(緩和、補助など)とムチ(規制)の双方が一体となって政策を進めていくことが求められる。
再エネの施策は「推進」と「規制」
昨年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画の中で、再エネは、「S+3Eを大前提に、2050年における主力電源として最優先の原則の下で最大限の導入に取り組む」と記載され、30年度のエネルギーミックス目標では電源構成で36~38%という数値が示された。
主力電源化を進めるにあたっては、①コストダウン(国民負担の抑制)、②地域共生・事業規律の確保、③系統制約の克服といった課題に取り組むことがうたわれている。つまり、「主力になるのであるから、相応の負担や責任は負ってもらいますよ」ということが問われていることになる。
エネ庁の再エネ大量小委の議論では、今後の再エネ政策として、「推進」と「規制」というキーワードを挙げて、具体的な施策の検討に入っている。
「推進」では、既に導入を促進するためにFITやFIP制度が整備されているが、今後、長期安定的に活用していくため、蓄電池併設時のルール緩和や3kWまたは3%以上の太陽光パネル増設・張替え時の価格要件見直し、低圧太陽光へのFIP制度適用、既設再エネの長期活用のための追加投資・再投資の促進といった施策の検討が始まった。そのほか、環境省や経産省では補助金を活用することで特定需要に対して長期間の再エネ供給を行うオフサイトコーポレートPPAの導入を促すなど、「アメ」の政策を講じている。
一方、「規制」については、地域と共生した再エネの適正な導入・管理のあり方について検討会が開催され、7月末に提言(案)が出された。もう一つの規制として、保安に関する規律確保が求められている。こちらは、6月に成立した「高圧ガス保安法等の一部を改正する法律」の中で、小規模再エネ発電設備の保安規律適正化が規定され、従来、一般用電気工作物であった小出力の太陽電池発電設備・風力発電設備を小規模事業用電気工作物と新たに位置付け、事前規制を強化することとなった。
このように、再エネを大量導入する時代には、「アメ」といった支援だけでなく、責任もった事業を長期安定的に行うための規制である「ムチ」を一体で考えていくことが、あらためて重要とされている。
「規制」はライフサイクルの視点で対応
今回は再エネのうち、「規制」部分について取り上げる。電力を使用する企業にとっては、世界的な脱炭素の流れやサプライチェーン上の取引先からのプレッシャーもあり、再エネ電気の利用を高めたいというニーズがあり、系統電力の再エネ比率向上や、オンサイトやオフサイトで自社専用電源を確保する動きが活発化しつつある。供給側である再エネ事業者やサービス事業者側は、その要望に応えようと開発に乗り出すことになるが、そこには、必ず地域との調整や関係法令遵守が前提となってくる。
ここ数年、自然災害の多発もあり、太陽光発電や風力発電の事故をメディアなどで目にするケースが増えている。こうした記事で目にすることで、ある意味、ネガティブイメージが定着し、「だから、再エネはダメなんだ」という短絡的な考えに陥ることも多々ある。こうした考えがもとで、しっかりと規律を確保しながら建設・保守運用している事業者にも悪いイメージがつく懸念もある。
そうしたことを背景に、経産省、環境省、国交省、農水省の4省が連携して、再エネの導入から運用、廃止・廃棄に至る「ライフサイクル」での課題を洗い出し、「速やかに対応」するものと、「法改正含め制度的対応を検討」するものを整理した提言(案)を7月末に出し、8月末までパブリックコメントが実施された。
提言(案)は、ライフサイクルを3つの段階、①土地開発前、②土地開発後~運転開始・運転中、③廃止・廃棄に区分し、さらに各段階における横断的事項の計4つにおける課題を整理している。その上で、法改正等の必要がなく、すぐにできることは速やかに順次、施策を実行し、年内目途に進捗状況のフォローアップを行うこととし、関係法令の改正が必要な対策については、各省庁の審議会等で検討した上で、制度的対応を図ることとしている。
法改正となれば、国会審議が必要になるので、準備期間を考慮すると、来年1月からの通常国会に法案提出されることが想定される。
内容は多岐にわたるので、一例を紹介すると、土地開発前では、急傾斜地や森林伐採を伴う開発が計画に対しては大雨などによる災害発生の懸念があることや、林地開発許可が必要なエリアで許認可取得前に売電を始めるといったことを挙げている。その対策として、「速やかに対応する」こととして、林地開発許可の対象規模の引き下げや再エネ開発の促進区域と抑制区域の情報を環境省のEADASに集約することで、適した区域への開発を誘導するといったことを、「法改正含め制度的対応を検討」することとして、再エネ特措法の認定申請要件に関係許認可の取得を条件にすることや、温対法の促進区域の実効性を高めて地域の目標値と整合する形で再エネ設備の立地を促進区域に誘導する支援策の検討などを挙げている。
こうして検討された内容は、検討会で定期的にフォローアップを行い、関係する自治体や住民、事業者に情報共有されることとなる。やりっ放しではなく、しっかりとフォローアップすることで、実効性を高めていくことは大切なので、状況をまずは見守りたい。
なお、この提言(案)で対策が取られるのは太陽光発電だけでなく、風力発電など、他の再エネも同様になる。具体的な施策は継続検討となりますが、その点も忘れてはいけない点だ。そして、事業規律は、FITやFIP制度という法令に基づいた電源だけでなく、今後、オンサイト/オフサイトコーポレートPPAなどで普及が見込まれている非FIT・FIPについても適用される。サービスを提供する事業者は、この点もよく含みおいて事業を計画・運営していくことが求められる。
業界団体も動き始めている
こうした動きを踏まえ、業界団体である太陽光発電協会は、8月30日に、「地域との共生・共創に基づく太陽光発電の健全な普及を目指して」として、意見表明を発表している。同内容は、その前日29日にマスコミ向けに説明会も開かれている。
意見表明では、国の提言(案)の基本スタンスへの賛同と、業界団体として健全な事業発展のために行っていく施策等について記載されている。
こうした意見表明が、事業者にも浸透され広く適用されることが期待される。
まだまだ多い課題
事業者の規律を確保し、健全な事業運営がなされるだけでは、再エネが主力電源たると言えるかというと、そうでもない。
再エネを大量に導入するために必要な系統の増強や安定化のための運用、そのために必要なコスト負担、事故を起こさないよう運開前の確認検査の徹底、日本全体の電力需給を踏まえた他の電源や需要とバランスの取れた電力システムの構築等、まだ多くの課題が残っている。
ざっと今後の制度設計スケジュールをみても、他の施策同様、多岐に渡り、複雑化している。国には全体最適となるシステム設計を引き続き、期待したいところだ。