最終的に廃棄されている熱の有効活用が、脱炭素化には欠かせない。
蓄熱技術を確立することで、その実現を目指している
日本では、投入する一次エネルギーの6割以上が最終的に熱として廃棄されており、この廃熱量の低減や未利用熱の活用が、2050年脱炭素社会実現に寄与するとの期待は高い。
「捨ててしまっている熱を効率よく回収し使い切る仕組みを構築することで、(生物学で自己恒常性維持を意味する)ホメオスタシス的なエネルギーシステムを実現していきたい」と語るのは、北海道大学大学院工学研究院エネルギー・マテリアル融合領域研究センターの能村貴宏准教授だ。
そのために取り組んでいるのが、熱を高密度に貯蔵・輸送し、高効率に変換する相変化蓄熱材料(PCM)の開発であり、さまざまな分野の企業と連携しながら、技術の確立のみならず事業化を見据えた研究を進めている。
能村准教授が開発したPCMは、アルミニウムとシリコンの合金をマイクロカプセルに充填したもの。
カプセル内の合金が固体から液体に変わる際の潜熱による蓄熱と放熱を利用することで、産業などから排出された熱エネルギーを貯蔵・輸送し、エネルギーを必要とする別の場所で再利用する。「PCMは、産業や発電、家庭の冷暖房や給湯機といった異なるプロセスをつなぐハード。これに情報技術を組み合わせることで、これらのつながりをさらに有機的なものにできる」という。
さらには、再生可能エネルギー由来の電気の余剰を熱に変換して貯蔵し、電力需要の大きい時間帯にその貯蔵した熱で発電する「カルノーバッテリー」としての活用も視野に入れており、「蓄電池と同様、再エネ大量導入に伴い必要とされる蓄エネルギーの手段として熱が果たせる役割は大きい。脱炭素社会に向けたテクノロジーとして、しっかりと政策の中に位置付けられるべきだ」と強調する。
脱炭素の最前線・北海道 熱利用技術の実用化目指す
高校時代は宇宙や地球、歴史などさまざまな学問分野に興味を抱いていたが、道具が石器から鉄器に変わったことで人間の生活が劇的に変わったように、マテリアルの変革が社会に大きな影響を与えることができると、北海道大学工学部に進学し、材料科学を専攻した。研究者を志したのは、大学の図書館で読み切れないほど多くの書籍に触れ、これからも新しい情報が生み出されていく中で、「自らも世の中に新たな学術、技術を生み出す側でありたい」と考えたからだ。
洋上風力開発が進む北海道は、脱炭素社会を目指す日本にとってのエネルギー供給基地となり得る。北海道で活用できる熱利用技術は、30年、50年の北海道の姿だけではなく、日本全体のエネルギー供給の在り方をも左右する。まずは、30年までに研究中の技術が一つでも実用化され、エネルギーの問題を良い方向に変えていることが目標。その先は、「これ以上できることはない」と言えるよう、蓄熱に関する研究は自らの手で終わらせる意気込みだ。






