【マーケット情報/9月19日】原油下落、需給緩和の見方が台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

9月12日から19日までの一週間における原油価格は、主要指標が軒並み下落。供給増加と需要後退の見通しが重荷となった。

米国は11月、スイート原油の戦略備蓄1,000万バレルを放出する計画。また、同国では労働者ストライキ終了の目途が立ち、原油の列車輸送が通常に戻る見込みとなっている。週間原油在庫の増加も、需給緩和感を強めた。

また、国際エネルギー機関(IEA)は、今年の石油需要成長予測に下方修正を加えた。中国における新型コロナウイルス対策のロックダウン、それにともなう経済の減速を要因としている。

ただ、中国ではロックダウンがある程度緩和され、石油需要の回復に対する期待が高まりつつある。さらに、IEAは、需要後退を予想する一方で、天然ガス価格の高騰を背景に、今後6カ月間は石油の発電用需要が増えると予測している。そんななか、OPECプラスの8月産油量は、目標を日量358万バレル下回ったもよう。価格下落が幾分か抑制された。

【9月19日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=85.73ドル(前週比2.05ドル安)、ブレント先物(ICE)=92.00ドル(前週比2.00ドル安)、オマーン先物(DME)=90.37ドル(前週比1.98ドル安)、ドバイ現物(Argus)=90.25ドル(前週比2.25ドル安)

【ガス】無償配管問題の行方 企画官廃止の影響は


【業界スクランブル/ガス】

エルピーガス振興センターが「無償配管・無償貸与」是正に向けた懇談会を2回にわたり開き、係争になった場合、近年の司法判断は消費者重視におかれ、LPガス事業者敗訴が約8割であることが報告された。主な理由は「契約解除時には、LPガス事業者は配管やガス機器の所有権は有していない」と消費者契約法第9条1号を適用し、配管などの附合や機器の即時取得などにより所有権を否定するケースが多い。

トラブルには切り替え営業をする特定のLPガス事業者が絡む案件が多く、顧客に対して「裁判したら勝てるので、設備貸与費用の残存価格は払わなくてよい」といった説明をするという。事業者が供給契約締結時に消費者に丁寧に説明した場合でも、係争になれば残存設備費用請求は認められていない。

懇談会メンバーからは、「ガスと関係ない費用を、ガス料金の中に混ぜて回収すること自体が法的に許されるのか」「3部料金制の導入促進を」「設備貸与負担が終わったにもかかわらず、料金を下げないなどが一番の問題」「商慣習が続けば、LPガス業界、事業者の資質が問われる」などの意見が出され、法令改正にも言及している。

朝日新聞の報道で改めてクローズアップされた無償配管・無償貸与問題。当時の萩生田光一経済産業相の「解決すべき課題」との発言から、大きく一歩踏み出した。また、業界積年の課題解決に重要な役割を果たしたのは、資源エネルギー庁石油流通課のLPガス担当企画官であることは言うまでもない。しかし7月1日に同ポストは廃止され、今後は石油流通課が担当する。LPガス業界は料金問題だけではなく、グリーンLPガスなど将来に向けた課題が山積する。スピード感をもったLPガス行政を望みたい。(F)

グリーンテクノロジーを活用 次世代のためにより良い社会を


【エネルギービジネスのリーダー達】西和田 浩平/アスエネ代表取締役CEO

CO2排出量の見える化と削減サービス「アスゼロ」で急成長中のアスエネ。

西和田浩平代表取締役CEOは、ビジネスを通じた社会課題解決を目指している。

にしわだ・こうへい 2009年慶応大学卒、三井物産入社。日本や海外の再生可能エネルギーの新規事業開発・投資・M&Aなどを手掛ける。2019年アスエネを創業、Co-Founder&代表取締役CEOに就任。

 グリーンテクノロジーで脱炭素化の取り組みを後押しし、次世代により良い社会を実現しようと、2019年10月にクライメートテックベンチャーのアスエネを創業した西和田浩平・代表取締役CEO。「気候変動という大きな課題を解決するには、大きなムーブメントを起こし社会を巻き込み影響力を持ちながら事業を推進していくことが大事だ」と信念を語る。

主力事業のアスゼロ 毎月150%の成長率

アスエネを創業した19年当時、欧米では既に、再生可能エネルギーに特化した小売事業を手掛けるベンチャー企業が脱炭素ビジネスをけん引していたが、日本では再エネの価格がまだまだ高く、CO2排出量を見える化したり削減したりといった技術がそれほど普及していなかった。

しかし、西和田CEOには、商社マンとして海外の脱炭素領域でビジネスに携わってきた経験から、「遅かれ早かれ、日本にもそういう流れが押し寄せる。そこに大きなビジネスチャンスが生まれる」との確信があったという。

現在、主力事業としているのは、事業活動の脱炭素化を目指す企業のCO2算出・開示業務を支援するクラウドサービス「アスゼロ」だ。温室効果ガスの排出量算定の国際基準「GHGプロトコル」や環境省の指針に基づき、電気や重油、ガス、蒸気といったエネルギー利用や、サプライチェーンのCO2排出量を見える化する。

創業当初に手掛けていたのは、再エネ特化の小売り電気事業者として再エネ由来の電気と各種証書を組み合わせて、グリーン電力を供給する「アスエネ電気」だったが、そもそも自社がどれだけCO2を排出しているか把握したいというニーズを受け、20年にアスゼロのサービス開発に着手。21年8月のリリース後、1年弱で顧客企業数は350社超に達し、今も平均で毎月150%の伸びを続けるなど、同社の急成長の原動力となっている。

CO2排出量の算出には複雑な作業を伴い、企業が独自に算出しようとすると半年ほどかかってしまう。それが、同社の見える化ソフトを使うことで約6週間と、期間もコストも大幅に削減できる。CO2排出量を見える化した上で、屋根置き太陽光発電設備や電気自動車(EV)の導入、省エネエアコンへの交換、CO2ゼロのアスエネ電気など、脱炭素のためのソリューションをワンストップで提供できるのも、同社のサービスの強みだ。

学生時代はプロのミュージシャンを目指し、ビジネスの世界には興味がなかったという西和田CEO。大学2年生の時に挫折を味わい、ミュージシャンの道あきらめた矢先、尊敬するMr.childrenの桜井和寿氏がプロデューサーの小林武史氏と結成したロックバンド「BANK BAND」が、ライブ活動の収入やCDを販売して得た収益を環境系のベンチャー企業に投資していることを知った。

「お金がなければ支援を継続できないボランティアには、どうしても限界がある。だけど、気候変動など社会課題の解決にビジネスとして取り組むことで、ウィンウィンの関係が継続され、より大きなインパクトを社会に与えられるのではないか」と、ビジネスマンとしての道を歩むことを決めた。

大学卒業後は三井物産に入社。音楽系の会社からも内定は出ていたが、環境系のビジネスに携われる上に、ビジネスのノウハウを身に着けられ、海外にもチャレンジできることが決め手となり総合商社を選んだ。そこで、10年以上にわたって再エネに関する新規事業開発や投資、M&Aを担当し脱炭素領域のビジネスに携わることになった。

当初から起業を志していたとはいえ、それが明確な目標になったのは、出向していたブラジルのベンチャー企業「Ecogen(エコジェン)」での経験がきっかけだ。同社は、太陽光など分散電源や省エネ事業を手掛けていたが、ブラジル人のネルソン社長と、同じく三井物産から出向していた重枝副社長が、迅速に経営判断しつつ、周囲の人のモチベーションを上げて社会にインパクトを与える事業を展開している姿に刺激を受け、自らも経営にチャレンジしたいと強く思うようになった。

アスゼロを海外展開 目標はアジアナンバーワン

まだ詳細は明らかにできないというが、「サステナビリティ×テクノロジー」関連の新事業を、今年中に続々と仕掛けていく予定だという。

目標は、アジアでナンバーワンのクライメートテックと呼ばれる時価総額1兆円超の企業に成長することだ。そのためにもまずは、日本を含めアジアでアスゼロのビジネスモデルを展開していく計画で、既に各国を回りはじめている。アジア市場に脱炭素の波が押し寄せるのはこれから。「世界でも最も人口が多いアジアでシェアを獲得できれば、世界で十分に勝てる」と野心を燃やす。

【新電力】激化する事業環境 ビジネスモデル転換の時期


【業界スクランブル/新電力】

一般送配電事業者による最終保障料金制度の見直しが決まり、大手電力会社の法人需要家や一般家庭向けの自由料金メニューを中心に、電気料金が相当程度値上げされることとなった。小売り電気事業者が待ち望んだ最終保障見直しだが、結果としては電気料金の上昇につながり、利益創出機会に乏しい。燃料価格変動リスクを鑑みたオプション確保が難しい小規模新電力は、ますます厳しい事業環境に追い込まれ、先行き不透明感が増す。常時バックアップを活用して転売している事業者も、来年の契約更改時には接続契約電力が減少することから転売も難しくなる。

来年、再来年も資源価格が低下する可能性は極めて低く、小売り電気事業者は燃料価格高騰が一定期間継続することを前提にした事業運営体制へ転換していく必要がある。

気になるのは、「あるべき卸電力市場、需給調整市場および需給運用の実現に向けた実務検討作業部会」である。欧州でも調整力コストの増大を受け、特に2035年に発電部門の脱炭素化を目指す英国では、BEISからBMU(日本のBGに相当)が取引主体となる電力取引市場と、需給調整市場の統合、GB統一市場の分割、地域調整力市場の創設を目的とした電力市場の見直し(REMA)が提示されており、来年まで議論が行われる見込みである。欧州ACERも独・仏・伊など主要国の市場分割を提案しており、増大する系統混雑とそれに伴う再給電費用の抑制を目指している。

特に英国では物価高騰対策に主眼が置かれており、自由化は一服したものと考えられている。足元では節電ポイントへの対応など、難しい課題を抱えている新電力だが、ビジネスモデルの転換を真剣に考えるタイミングに差し掛かっている。(M)

ロシアに命運握られるEU


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

“アスタ・ラ・ビスタ、ベイビー!” 英国首相、ボリス・ジョンソンは辞任演説の最後をこのセリフで締めた。映画『ターミネーター2』でシュワルツェネッガー扮するT-800が、液体窒素で凍りついた敵役T-1000を拳銃で粉砕する際の決めゼリフだ。直訳なら「また会おう」だが、かの戸田奈津子さんの字幕は「地獄で会おうぜ、ベイビー」である。

いま、エネルギーの世界でロシアから銃口を向けられているのが、EUである。EUはロシアに対するエネルギー分野の制裁として、石炭、石油の禁輸は早々に打ち出したが、同国への依存度の高い天然ガスは思うに任せない。LNG換算で年間1億tを超えるロシア産パイプラインガスの輸入量を、年末には3分の1に削減するという無理筋の計画は立ててみたものの、逆に6月以降、ロシアから早々の供給量削減の揺さぶりを受けて大騒ぎだ。

とりわけガス消費の半分をロシアに依存してきたドイツは深刻だ。この国では電力用のほか、暖房用や、BASFなど世界的化学企業の原材料としても天然ガスは欠かせない。需要が冬に偏る欧州は、10月末までにガスの備蓄を満タン状態に持ち上げねばならないが、その成否はもはやロシアに委ねられている。焦るEUはガス消費の15 %削減を決議した。ドイツは休止中の石炭火力の復活を決め、さらに今年末に廃止予定の最後の原子力3基の運転延長も検討している(8月初現在)。考えてみれば、輸入削減のペースを買い手側で決められると思っていたこと自体が「平和ボケ」である。

 “アスタ・ラ・ビスタ、ベイビー!”

最後通牒が、いまにも欧州の東の果てから聞こえてきそうだ。地獄の道連れにはなりたくないものである。われわれは、ありとあらゆる手段を講じたい。

【電力】平和な時代の終わり 冷静な対応を


【業界スクランブル/電力】

 2月に勃発したロシアによるウクライナ侵略は、資本主義陣営の勝利に見えたポスト冷戦時代の終わりを如実に示す出来事であったが、その後も世界の動きはめまぐるしい。

8月にはペロシ米国下院議長が電撃的に台湾を訪問した。これに反発した中国は事実上台湾を包囲する形で軍事演習を始め、打ち上げた弾道ミサイルは一部が初めて日本のEEZ内に落下した。この訪台については、中間選挙を意識したパフォーマンスだとか、中国に強硬策に出る口実を与えたとか批判もあるようであるが、米国議会内では超党派の支持が広がっており、民主主義の価値観を共有する国とそうでない国による新たな戦いのステージに入った認識を明確に共有しているように見える。香港の二の舞にはさせないという意思もあろう。

さて、海を隔てているとはいえ、ロシアとも中国とも隣接している日本はそういう世界観を共有できているか。エネルギー分野の気候変動政策も市場自由化政策もポスト冷戦の安定した世界情勢を前提に推進されてきたが、今やロシアは欧州諸国に踏み絵を迫る戦略物資として天然ガスを用いているし、中国はいざとなれば日本のエネルギー供給のシーレーンを封鎖する意思をもはや隠そうともしない。

新たなステージに直面し、これら政策の再考は急務なのだが、国内マスコミの関心はもっぱら旧統一教会のようだ。反共の大義が薄れた中でずるずる腐れ縁を続けてきたのは確かに褒められたものではないが、十万票もない団体が自民党の黒幕であろうはずもない。共産主義者が喜ぶだけの陰謀論が堂々と流布されている状況を危惧する。

今更マスコミに冷静な報道は期待できないのであれば、せめて国民の方で踊らされない冷静さを示したい。(U)

気候変動対策で大規模支出へ 民主党「造反」議員が合意


【ワールドワイド/環境】

7月27日、米上院民主党のシューマー院内総務とマンチン上院議員は、昨年来の懸案である税制・エネルギー・気候対策法案を巡り合意に達した。民主党50議席、共和党50議席の米国上院においてカギを握ってきたのがマンチン氏である。

2021年7月、上院民主党は社会保障、気候変動関連で3・5兆ドルに上る大規模歳出を盛り込んだBuilding Back Better法案を進めようとしたが、中道派のマンチン氏、シネマ上院議員がインフレ懸念を理由に、これに反対してきた。

上院民主党は規模を1・75兆ドルに縮小した案を提示したが、マンチン、シネマ両氏の賛同を得るに至らず、今年に入ってもシューマー院内総務とマンチン氏の間で水面下の調整が続いてきたが、7月初めマンチン氏は薬価引き下げには賛同するが、増税や気候・エネルギー関連支出は支持しないと表明した。これでバイデン政権の温暖化政策の財源的裏付けは絶望的かと思われたが、急転直下の合意である。

シューマー、マンチン両氏が同日夜に発表した計画では、推計で歳入7390億ドル(約100兆8000億円)と歳出4330億ドルを盛り込み、財政赤字を10年間で3000億ドル削減するとしている。歳入の財源には15%の法人最低課税や内国歳入庁予算拡充による徴税強化などを盛り込んでいる。

エネルギー・環境関連では3690憶ドルが盛り込まれ、クリーンエネルギー関連の税額控除やグリーン投資を行う銀行、メタンガス漏出防止の奨励金を通じた気候変動対策支出が盛り込まれた。これまでにない大規模支出であり、30年までに温室効果ガス排出が約40%削減されるとしている。バイデン政権の掲げた05年比50~52%減には足りない。さらに同法案には、連邦所有地での原油・天然ガス鉱区の借用権追加売却も盛り込まれた。中道派として化石燃料の役割も重視するマンチン氏の主張を取り入れた形だが、連邦所有地での新たな原油・天然ガス掘削阻止というバイデン大統領の選挙公約に違背するものであり、環境活動家の反発を招く可能性もある。

当初案よりは縮小したとはいえ、中間選挙を3カ月先に控え、支持率低迷に悩むバイデン大統領にとって看板政策である温暖化予算が成立すれば大きな得点となろう。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

独・ユニパーが経営危機に 政府による巨額救済へ


【ワールドワイド/経営】

ロシア政府系ガスプロムは6月16日以降、パイプライン「ノルド・ストリーム1」のドイツ向けガス供給を通常の4割に削減した。石油、ガスなどの豊富な化石燃料資源を武器に西側諸国に圧力をかけるロシアの戦略は、エネルギー事業者の経営にも深刻な影響を及ぼしている。

独エネルギー大手ユニパーは、ロシア産ガスの供給減により経営難に陥り、7月8日に政府に救済を申請した。ユニパーはロシアからのガス輸入量がドイツで最も多く、6月中旬以降は供給減少分を補填するため、割高なスポット市場での追加調達を余儀なくされていた。

同社のマウバッハCEOによると、ガス価格高騰とロシアからの供給減による損失は10月までに62億ユーロ(約8370億円)に達する恐れがある。欧州有数のガス会社であり、かつドイツのナンバー5の発電事業者でもある同社が経営破たんすると、エネルギー市場全体への悪影響が懸念される。

エネルギー政策を所管する連邦経済・気候保護省のハーベック大臣は、「ユニパーの経営危機が他のエネルギー事業者にも波及する『リーマンショック』だけは避けなければならない」と述べ、政府による財政支援が必要との考えを示していた。

ドイツ政府は7月22日、150億ユーロ(約2兆250億円)規模のユニパー救済パッケージを発表した。これは、①10月1日以降すべてのガス輸入事業者がロシア産ガス不足分の代替費用の90%を需要家に転嫁する賦課金を導入する、②復興金融公庫のユニパーに対する与信枠を20億ユーロから90億ユーロに拡大する、③ドイツ政府が同社の株式30%を取得。また、さらなる損失の発生に対処するために、強制転換社債の引き受けにより最大77億ユーロの追加出資を約束する―という3本柱で構成される。

ガス輸入事業者の調達費用を転嫁する賦課金の導入により、需要家負担のさらなる増加が懸念される。また、ガスプロムは7月27日以降「ノルド・ストリーム1」の供給量を通常の2割に削減し、全量遮断への懸念を増幅させた。

ドイツが天然ガスのロシア依存からほぼ脱却するのは早くても24年夏であり、23~24年の冬ごろまでガス危機は続くとされる。ドイツ政府は目下、ガス地下貯蔵設備の充てんや消費抑制の取り組み、LNGターミナルの建設など万策を尽くしているが、ガス供給の命綱は当面ロシアに握られたままである。

(佐藤 愛/海外電力調査会・調査第1部)

米上流企業が欧州市場を重視 エネルギー転換期に対応へ


【ワールドワイド/資源】

 コノコフィリップス、デボン・エナジー、パイオニア・ナチュラル・リソーシズの石油開発企業3社は7月14日、国連環境計画の温室効果ガス削減である石油天然ガス・メタン・パートナーシップへの参加を表明した。天然ガスを事業の中心とするPDCエナジーとEQTコーポレーションに続くもので、欧州系に比べて遅れていた米国上流企業のエネルギートランジション対応として注目される。

米国と欧州ではステークホルダーがエネルギー会社に求めるリスク・リターンのバランスが異なる。水平坑井掘削と水圧破砕といった技術革新や証券市場からの設備資金供給によりシェール革命が進展、大規模な海上油田開発に比べて投資回収期間の短い資産が事業の中心である米系企業は座礁資産化リスクが小さいこともあり、温室効果ガス削減の取り組みでは欧州系に見劣りしていた。エクソンモービルなど大手では水素・アンモニア、CO2回収貯留事業投資を拡大する動きも見られたが、独立系石油企業もエネルギートランジション対応を加速している。

その背景にはエネルギーセキュリティを巡る環境の変化がある。米国のシェールオイル・ガスはアジア市場に浸透するにはコストの高さがネックとなっていたが、このところ欧州向けLNG輸出が増加しており、米国エネルギー情報局は2022年上半期の米国LNG輸出が前年同期から12%増加して112億立方フィートと世界最大になったと発表している。

欧州市場で中東やロシアと競合していく上では、炭素強度が低いことは米国産石油・天然ガスにとってのアドバンテージでもある。国境炭素調整メカニズムを視野にEUタクソノミーで調達先を選別する動きを踏まえ、米国企業がカーボンニュートラル対応を加速するのは現実的な選択でもある。

石油危機以降、幾たびの政権交代があっても米国エネルギー政策の軸足が自国資源によるエネルギーセキュリティ確保という点で揺らいだことはない。シェール革命の推進役を担ってきた独立系上流開発企業は、米国にとって事実上の国営石油会社である。バイデン政権発足以来、排出削減設備に対する税制優遇措置や天然ガス液化設備に対する公的融資などの支援を巡っては紆余曲折もあったが、与党内の保守中道派マンチン上院議員の協力により前進した。エネルギーセキュリティがアジェンダとして登場してきた以上は上流開発企業に対する政策的支援が揺らぐことはないだろう。

(古藤太平/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部担当審議役)

風評被害をつくるのは誰だ 見すごせない「汚染水」報道


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

 江戸時代に流行った遊びに「前句付け」がある。ネット版の学研全訳古語辞典には、「題として示された七・七の前句に、五・七・五の付け句を付け、その優劣を競う遊戯的文芸」とある。具体的には、「たとえば、『恐(こは)い事かな恐い事かな』の題に、『雷をまねて腹掛けやっとさせ』と付ける類である」。江戸時代も、雷さまは臍を取りに来たらしい。

秀作に賞が出ることもある。選者の一人が柄井川柳である。

明和2年(1765年)、応募作から「一句にて句意のわかり易き」句を「誹風柳多留」にまとめて出版した。学研辞典にある雷の句の出典である。他に「これ小判たつた一晩居てくれろ」は、懐具合が心配な現代人にも通じよう。

句集は続編も出た。これが好評で、口語調の五・七・五句は「川柳」と呼ばれるようになった。

元祖も、7月15日、16日の「朝日川柳」には呆れるだろう。

8日に銃撃され亡くなった安倍晋三元首相の死を揶揄する汚い言葉が並ぶ。引用はしない。「朝日川柳」でネット検索すれば、紙面の画像はすぐに見つかる。

同じ朝日に、「吉田調書」事件がある。調書とは、東日本大震災で被災した東京電力福島第一原子力発電所の吉田昌郎所長(当時)が政府の事故調査に対して語った非公開の証言録を指す。

朝日は2014年5月、入手したこの調書を基に「震災4日後の2011年3月15日朝、所員の9割が待機命令に違反し、撤退していた」と報じ、東電職員は逃げていた、との印象を世界に広げた。だが、後に政府が公開した調書を読むと、むしろ現場は必死に闘っていた。これも「朝日」「吉田調書」でネット検索すると情報は多い。

ハフィントンポスト14年9月11日は「朝日新聞が吉田調書の報道を訂正、木村伊量社長『間違った記事』と謝罪」と伝える。さらに「慰安婦報道も『誤った記事を掲載したこと、その訂正が遅きに失したことをお詫びいたします』と重ねて謝罪」と書く。

こちらも、日韓関係を悪化させた大誤報と指弾されてきた。

朝日川柳を機に、1989年の珊瑚事件も改めて注目された。朝日カメラマンが沖縄県の珊瑚に「K・Y」と落書きし、写真を「サンゴ汚したK・Yってだれだ」の記事とともに1面で報じた一件だ。傷つけられた珊瑚の画像は今もネットに残る。安倍元首相は生前、ツイッターで「珊瑚を大切に」と朝日を皮肉っていた。事実をゆがめず報道してほしい、の気持ちだろう。朝日はどう受け止めたか。

夕刊8月3日「処理水放出『協議を』、NPT会議、中国が日本に注文」に実態が浮かぶ。米国で開かれた核不拡散条約(NPT)再検討会議で演説した中国が「(福島第一原子力発電所の)処理水の放出に言及し、『国際社会の正当な懸念に対応し、適切な解決策を』」と注文したという。

問題は文末だ。「日本の軍縮大使は中国が『汚染水』との言葉を使ったことについて反論」と書いている。他人事のようだが、「汚染水」を海洋放出するかのような記事を量産し、国内外で風評を煽ってきたのは朝日だ。記事検索すれば、すぐに分かる。

ジャーナリストの佐々木俊尚氏は8月3日のニッポン放送で「汚染水」の言葉を使うメディアを批判し、「風評被害の原因はメディア」と指摘している。

朝日は、この問題でも正式に謝罪・訂正した方がいい。ネット時代に負の報道は隠し通せない。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

【コラム/9月13日】再エネ導入拡大のための「アメとムチ」


加藤真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長

早いもので今年も9月に突入した。懸念されていた夏の電力需給は、現時点で特に大きなひっ迫もなく、国は節電やデマンドレスポンス(DR)の促進や次の冬に向けた準備(kW公募、最大9基の原子力発電再稼働)、来夏以降の原子力発電追加再稼働の検討などを粛々と始めている。依然として、毎月のように多くの審議会を開催しており、8月前半はお盆休みで一服していたが、月末からまたフル稼働といった状況だ。

さて今回は、審議会でも多くの議論が割かれている再生可能エネルギーの施策について触れたい。再エネ主力電源化という「錦の御旗」が掲げられる中で、単に開発だけを進めればよいというわけではない。そこには、アメ(緩和、補助など)とムチ(規制)の双方が一体となって政策を進めていくことが求められる。

再エネの施策は「推進」と「規制」

昨年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画の中で、再エネは、「S+3Eを大前提に、2050年における主力電源として最優先の原則の下で最大限の導入に取り組む」と記載され、30年度のエネルギーミックス目標では電源構成で36~38%という数値が示された。

主力電源化を進めるにあたっては、①コストダウン(国民負担の抑制)、②地域共生・事業規律の確保、③系統制約の克服といった課題に取り組むことがうたわれている。つまり、「主力になるのであるから、相応の負担や責任は負ってもらいますよ」ということが問われていることになる。

エネ庁の再エネ大量小委の議論では、今後の再エネ政策として、「推進」と「規制」というキーワードを挙げて、具体的な施策の検討に入っている。

「推進」では、既に導入を促進するためにFITやFIP制度が整備されているが、今後、長期安定的に活用していくため、蓄電池併設時のルール緩和や3kWまたは3%以上の太陽光パネル増設・張替え時の価格要件見直し、低圧太陽光へのFIP制度適用、既設再エネの長期活用のための追加投資・再投資の促進といった施策の検討が始まった。そのほか、環境省や経産省では補助金を活用することで特定需要に対して長期間の再エネ供給を行うオフサイトコーポレートPPAの導入を促すなど、「アメ」の政策を講じている。

一方、「規制」については、地域と共生した再エネの適正な導入・管理のあり方について検討会が開催され、7月末に提言(案)が出された。もう一つの規制として、保安に関する規律確保が求められている。こちらは、6月に成立した「高圧ガス保安法等の一部を改正する法律」の中で、小規模再エネ発電設備の保安規律適正化が規定され、従来、一般用電気工作物であった小出力の太陽電池発電設備・風力発電設備を小規模事業用電気工作物と新たに位置付け、事前規制を強化することとなった。

このように、再エネを大量導入する時代には、「アメ」といった支援だけでなく、責任もった事業を長期安定的に行うための規制である「ムチ」を一体で考えていくことが、あらためて重要とされている。

「規制」はライフサイクルの視点で対応

今回は再エネのうち、「規制」部分について取り上げる。電力を使用する企業にとっては、世界的な脱炭素の流れやサプライチェーン上の取引先からのプレッシャーもあり、再エネ電気の利用を高めたいというニーズがあり、系統電力の再エネ比率向上や、オンサイトやオフサイトで自社専用電源を確保する動きが活発化しつつある。供給側である再エネ事業者やサービス事業者側は、その要望に応えようと開発に乗り出すことになるが、そこには、必ず地域との調整や関係法令遵守が前提となってくる。

ここ数年、自然災害の多発もあり、太陽光発電や風力発電の事故をメディアなどで目にするケースが増えている。こうした記事で目にすることで、ある意味、ネガティブイメージが定着し、「だから、再エネはダメなんだ」という短絡的な考えに陥ることも多々ある。こうした考えがもとで、しっかりと規律を確保しながら建設・保守運用している事業者にも悪いイメージがつく懸念もある。

そうしたことを背景に、経産省、環境省、国交省、農水省の4省が連携して、再エネの導入から運用、廃止・廃棄に至る「ライフサイクル」での課題を洗い出し、「速やかに対応」するものと、「法改正含め制度的対応を検討」するものを整理した提言(案)を7月末に出し、8月末までパブリックコメントが実施された。

提言(案)は、ライフサイクルを3つの段階、①土地開発前、②土地開発後~運転開始・運転中、③廃止・廃棄に区分し、さらに各段階における横断的事項の計4つにおける課題を整理している。その上で、法改正等の必要がなく、すぐにできることは速やかに順次、施策を実行し、年内目途に進捗状況のフォローアップを行うこととし、関係法令の改正が必要な対策については、各省庁の審議会等で検討した上で、制度的対応を図ることとしている。

法改正となれば、国会審議が必要になるので、準備期間を考慮すると、来年1月からの通常国会に法案提出されることが想定される。

内容は多岐にわたるので、一例を紹介すると、土地開発前では、急傾斜地や森林伐採を伴う開発が計画に対しては大雨などによる災害発生の懸念があることや、林地開発許可が必要なエリアで許認可取得前に売電を始めるといったことを挙げている。その対策として、「速やかに対応する」こととして、林地開発許可の対象規模の引き下げや再エネ開発の促進区域と抑制区域の情報を環境省のEADASに集約することで、適した区域への開発を誘導するといったことを、「法改正含め制度的対応を検討」することとして、再エネ特措法の認定申請要件に関係許認可の取得を条件にすることや、温対法の促進区域の実効性を高めて地域の目標値と整合する形で再エネ設備の立地を促進区域に誘導する支援策の検討などを挙げている。

こうして検討された内容は、検討会で定期的にフォローアップを行い、関係する自治体や住民、事業者に情報共有されることとなる。やりっ放しではなく、しっかりとフォローアップすることで、実効性を高めていくことは大切なので、状況をまずは見守りたい。

なお、この提言(案)で対策が取られるのは太陽光発電だけでなく、風力発電など、他の再エネも同様になる。具体的な施策は継続検討となりますが、その点も忘れてはいけない点だ。そして、事業規律は、FITやFIP制度という法令に基づいた電源だけでなく、今後、オンサイト/オフサイトコーポレートPPAなどで普及が見込まれている非FIT・FIPについても適用される。サービスを提供する事業者は、この点もよく含みおいて事業を計画・運営していくことが求められる。

業界団体も動き始めている

こうした動きを踏まえ、業界団体である太陽光発電協会は、8月30日に、「地域との共生・共創に基づく太陽光発電の健全な普及を目指して」として、意見表明を発表している。同内容は、その前日29日にマスコミ向けに説明会も開かれている。

意見表明では、国の提言(案)の基本スタンスへの賛同と、業界団体として健全な事業発展のために行っていく施策等について記載されている。

こうした意見表明が、事業者にも浸透され広く適用されることが期待される。

まだまだ多い課題

事業者の規律を確保し、健全な事業運営がなされるだけでは、再エネが主力電源たると言えるかというと、そうでもない。

再エネを大量に導入するために必要な系統の増強や安定化のための運用、そのために必要なコスト負担、事故を起こさないよう運開前の確認検査の徹底、日本全体の電力需給を踏まえた他の電源や需要とバランスの取れた電力システムの構築等、まだ多くの課題が残っている。

ざっと今後の制度設計スケジュールをみても、他の施策同様、多岐に渡り、複雑化している。国には全体最適となるシステム設計を引き続き、期待したいところだ。

オイルショックの教訓 国産・地産の水素製造に知恵を


【オピニオン】最首公司/エネルギージャーナリスト

 戦後の高度経済成長の余韻を残していた1973年秋、突然起こったのがオイルショックだった。

第二次世界大戦で勝利した欧米諸国は、パレスチナの地にイスラエル建国を強行した。だが、そこには先住者のパレスチナ人がいた。土地を失い、家を追われたパレスチナ人は、サウジアラビア、クウェートなど産油国に職を得たのはごく一部で、多くは難民となって中東各地に四散した。遺恨を抱く若者の中から「アラブ・テロリスト」と呼ばれる過激集団が現れた。

アラブ側は三度、イスラエルと戦争した(パレスチナ戦争、スエズ戦争、六日戦争)ものの、勝利感はなく、若者の不満は募る一方だった。

体制の危険を感じたエジプト・サダト大統領は72年夏、密かにサウジアラビアを訪ね、ファイサル国王と密談した。この時、国王の腹心ヤマニ石油相も同席している。同じころ、日本では通商産業省(当時)の外局「資源エネルギー庁」が創設され、エネルギー行政を一元的に扱うことになった。

翌73年秋、エジプト軍はイスラエルに奇襲攻撃(第四次中東戦争)し、これに呼応して、サウジアラビアなどアラブ産油国(OAPEC)は①反アラブ国には石油輸出禁止、②日和見国には削減、③友好国は従来通り―という「石油戦略」を発動した。これこそがサダト・ファイサル両首脳間で練られた戦略だった。

石油輸入国にとっては、文字通り「油断」で、英仏両国は燃費の悪い超音速旅客機、コンコルドの開発を断念、日本ではマツダがロータリーエンジン車の製造を中止した。エレベーターやビルの照明は半減し、電車やバスは間引き運転となった。錯綜する情報に庶民は戸惑い、合成洗剤やトイレットペーパーの買いだめに走った。

時の田中角栄内閣は、三木武夫副総理を団長とする使節団をサウジアラビアなど中東産油国に派遣した。筆者もこれに同行したが、ファイサル国王との会談の後、緊張気味の三木氏が笑顔を浮かべるのを見て、禁輸措置が緩和されるのだと思った。年末には制裁が解かれ、例年通りの新年を迎えた。

この危機を教訓に政府も国民も石油製品の節約に励む一方、原発や太陽光、風力など自然エネルギー開発に力を入れるようになった。

これからは脱炭素=水素の時代になるだろう。中国は既に水素を燃料とする燃料電池車を走らせ、カナダの技術者は水の事前処理によって、数倍も効率のいい水素製造を開発している。ウクライナに侵攻したロシア・プーチン大統領はドイツなど「非友好国」への天然ガス供給を一方的に中断した。日本企業群もサハリンでのガス開発事業を一時停止した。専制国家での長期事業は常に危険が伴う。

政府も民間もオイルショック、プーチン・リスクを教訓に、他国に頼らず、自力での水素供給・利用拡大に取り組まなければならない。

さいしゅ・こうじ 1956年上智大学新聞学科卒、東京新聞入社。編集委員として一貫して中東・エネルギー問題を担当。日本アラブ協会理事。八戸市特派大使。

【マーケット情報/9月9日】原油下落、需要後退の見方が重荷


【アーガスメディア=週刊原油概況】

主要指標、需要後退の観測を受け、軒並み下落。ただ、米国原油の指標となるWTI先物および北海原油を代表するブレント先物は、それぞれ前週比0.08ドルと0.18ドルの小幅下落に留まっている。供給不足の見込みが、価格下落をある程度抑制した。

中国・成都市では、新型コロナウイルスの感染拡大が収まらず、ロックダウンを延長。また、米連邦準備理事会は、インフレ抑制のため、さらなる金利の引き上げを検討している。経済の減速、および石油需要減少の見通しが一段と強まった。

一方、ロシアは欧米の制裁に対抗し、エネルギー製品の出荷を完全に停止すると示唆。さらに、OPECプラスは10月の産油量を、前月比で日量10万バレル削減することで合意した。ただ、元々、一部生産国の増産が計画に追い付いていなかったこともあり、10月の減産による影響は限定的との見方もある。OPECプラスの8月産油量は日量3,869万バレルとなり、目標を日量340万バレル下回っている。

【9月9日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=86.79ドル(前週比0.08ドル安)、ブレント先物(ICE)=92.84ドル(前週比0.18ドル安)、オマーン先物(DME)=90.34ドル(前週比4.33ドル安)、ドバイ現物(Argus)=90.25ドル(前週比4.12ドル安)

欧州規格に準ずるガス検知器 プラントや現場の最前線で活躍


【理研計器】

火力発電所やLNG基地、製油所といったエネルギープラントでの作業は可燃性ガス漏れや酸欠、一酸化炭素中毒など、常に危険と隣り合わせの中で行われる。

理研計器がこのほど発表したガス検知器「GX―Force」は周囲の空気を内蔵ポンプで吸引し、ガスの発生をいち早く検知してガスによる危険から身を守ることができるのが特徴だ。

ガス検知器「GX-Force」

「ガスを扱う製造・開発現場では、酸素など臭いのないガスが気づかないうちに不足していたり、臭いのあるガスが充満していることに気づいてから対応を始めても手遅れとなったりする場合があります。

GX―Forceは危険が常に存在していることを想定し、音や光、振動などあらゆる形でアラートを発して作業員に危険を知らせます」。営業技術課の杉山浩昭課長はそう話す。

GX―Forceは可燃性ガス、酸素、一酸化炭素、硫化水素の4成分をセンサーで検知する。独自のセンサーは世界最小クラス。しかも耐久性に優れ3年間の保証付きだ。

メタネーション開発に貢献 27種類の可燃性ガスを検知

可燃性ガスの読み替え機能では、水素など27種類に対応する。現場に合わせてガス種を設定すると、

ガス濃度を自動で表示。別途計算して読み替える必要なく、電源オン・オフ後も設定は保持される。「同機能は従来の拡散式タイプの検知器にも搭載して大変好評でした。今回、吸引式タイプの同製品でも対応しました。エネルギー事業者は水素やメタネーションなど新たなエネルギーの開発に注力しています。開発現場でも、GX―Forceを利用してもらえたらと考えています」(杉山課長)

このほか、作業中でも使いやすいように、筐体の握る部分を細くし、操作ボタンの数を2個に減らした。こうすることで片手で操作することが可能になった。また、上部にLEDライトを搭載し、プラントの暗部で作業しやすいよう工夫している。このほか、フル充電で連続使用時間を従来比3倍の30時間に延長したのに加え、充電端子をUSBタイプCに対応するなどデジタル機器トレンドに合った規格を採用する。

もちろん、ガス検知器としての重要な耐久性にも優れ、3m落下耐久試験をクリアするほか、IP67相当の防塵防水構造、使用温度範囲はマイナス40〜60℃を確保するなどの性能を有する。

今後、同製品は欧州EN規格に申請予定で取得を目指すという。「欧州の厳しい規格を取得することで、ワールドワイドなスタンダート機として定着することを目指します」と杉山課長。

次世代を見据えた新製品GX―Force―。前機種以上にガスを扱う多くの現場で採用されていきそうだ。

エネ会社と再開発でにぎわいづくり 「グリーン」で新たな価値創造へ


【地域エネルギー最前線】 静岡県静岡市

政令指定都市ながら人口減に悩む静岡市は、にぎわいづくりや地域の新たな価値創出を課題としている。

解決に向け地元エネルギー事業者と進める構想が政府のCN政策とも合致。今年度から本格始動する。

 2003年に旧静岡市、清水市の大合併で誕生した現静岡市。東海道新幹線や東名・新東名高速など交通の便も良いが、実は近年、急速な人口減少に悩んでいる。静岡県内でも最速ペースで減少が進み、20年には政令指定都市で初めて70万人を割り込むまでに。特に進学や就職を機にした若者の流出が顕著だ。

清水港を中心としたエリアはかつて港湾工業都市として栄え、地域経済を支えてきたが、日本の産業構造転換に伴い既存業者の撤退が進み、活気が失われつつある。さらに地域内の資金の流れを分析したところ、エネルギーの域外流出額は1190億円に上り、特に電気代の流出が大きかった。こうした課題解決に向け、市はエネルギー事業者とともに複数エリアの再開発を計画。にぎわいづくりや地域の新たな価値創造、地域資源を生かしたエネルギーの地産地消に取り組み始めていた。

同時にこれは国のカーボンニュートラル(CN)政策にもぴたりと当てはまった。30年度に民生部門のCN化という新たな目標を書き加え、環境省の脱炭素先行地域第一弾に応募し、結果選出された。同事業の一環として、「みなとまちしみずから始まるリノベーション」をキーワードにした3エリアの再開発が今年度からスタート。ENEOSが清水駅東口エリア、鈴与商事が日の出エリア、静岡ガスとゼネコンのフジタが設立した新会社が恩田原・片山エリアを担当する。

地域に根差すエネルギー事業者が複数存在することは強みである一方、CN対応で化石エネルギーへの依存を縮小し、新規事業を確立することが各社共通の経営課題だ。市は、全国的な注目度が高い脱炭素先行地域に3エリアが選ばれたことで、「手厚い交付金でスピーディーに計画を実施できることはもちろん、企業価値の向上にもつながることが大きい」(グリーン政策推進室)と強調する。

PPAに市が補助金用意 地域全体で再エネ拡充図る

3エリア内ではそれぞれ主に太陽光発電の導入を進めるが、それだけでは年間約760万kW時もの需要は賄えない。そこで市内全域で、都市部では屋根置き太陽光を、山間部では小水力発電を導入し、その余剰で3エリアの需要を賄う考えだ。市内の再エネ導入量の合計は、3エリアの民生需要の2倍超を見込む。基本PPA(第三者所有モデル)とし、その下支えとして市独自の補助金を準備、今年度は5000万円を措置した。「地域の再エネ事業がグリッドパリティになるまで補助金を継続する」(同)構えだ。

こうしたコンセプトに基づき、各エリアで三者三様のモデル確立を目指していく。

清水駅東口エリアの取り組みは、ENEOSの清水製油所跡地の有効活用が発端だ。いったんはLNG火力建設計画が持ち上がったものの、事業環境の変化や住民の反対などで計画は白紙に。その後、市とENEOSは〝地域に喜ばれる再開発〟に向け計画を練り直した。約3MW(1MW=1000kW)のメガソーラー、大型蓄電池、自営線などを整備して、同社や近隣ビルへの再エネ電気の供給と、エネルギーマネジメントを行う。今後港湾ではトラックやフォークリフト、船などの水素需要が見込めることから、再エネ由来水素の製造、供給も予定する。同社はほかの製油所跡地でも同様のモデルの展開を模索している。

日の出エリアは、歴史的な石造り倉庫や物流倉庫が立地。さらに大型商業施設や国内外のクルーズ船港など、市内随一の観光交流エリアでもある。ここでは鈴与商事が主導し、建物の耐震性も考慮してエリア内に屋根置き太陽光を設置。導入可能量は最大約1・6MWと見込む。さらに地域マイクログリッド構築も目指す予定だ。

そして恩田原・片山エリアは内陸に位置するものの、「日本平久能山スマートインターチェンジ」に近く、縮小する清水港の機能を補完する工業・物流エリアとして区画整理が進行中だ。エネルギーの地産地消化を参入条件に、十数の企業進出を見込む。倉庫や工場などの建設時に屋根置き太陽光を設置し、導入可能量は最大約8MWと試算。物流会社は倉庫の屋根面積が大きく発電量が多く見込めるものの、電力需要は少ない。一方、工業用の電力需要は多いが、工場屋根上での発電量はそれほど見込めない。特徴を踏まえて面的に融通し、最適な運用を目指す。

工業物流エリア恩田原側。屋根置き太陽光設置が進む
提供:静岡ガス

民間のビジョンとも一致 自走し地域内で資金循環へ

参画事業者の1社である静岡ガスは昨年、50年CNと、30年ビジョンを策定し、その中で「地域共創」での都市ガス以外の新規事業拡大を掲げ、再エネ事業もその一つだ。柿沼卓也・都市デザイングループリーダーは「30年までに再エネ開発20万kWを目指し、太陽光では顧客へのPPA事業に力を入れていくが、PPAだけではおのおの余剰電力の扱いに困る部分も出てくるため、面で融通するサービスが必要になる」と説明。先行地域の経験が、自社ビジョンの推進を後押しすると考えている。

先行地域の事業について、市は他社とも考えが合致していると強調する。田辺信宏市長は常々、「公民連携を進める上では公益性と事業性の両立が必要で、それを行政が下支えするべき」との考えを発信している。初期は公的支援をしつつ、支えを受けた民間がその対価をさらなる投資に振り向け、将来的に自走できる形を重視している。「地元のエネルギー会社がCNで事業形態を変えても引き続き地元にお金を落とし、それが循環する。そういうモデルを市外での水平展開にまで結び付けたい」(市グリーン政策推進室)。

現在のエネルギー高騰局面は、再エネPPAにとっては追い風とも言える。この風をうまく生かせるのか、事業の今後に注目していきたい。