紛糾の予感漂ったCOP27 火種はロス&ダメージ


【ワールドワイド/環境】

11月7~18日にエジプトのシャルム・アル・シェイクで開催されたCOP27は紛糾が予想されていた。英国が議長を務めたCOP26では野心レベルの引き上げが最優先課題とされたのに対し、エジプトが議長のCOP27では途上国への資金援助、ロス&ダメージ(通称ロスダメ)に焦点が当たるとみられた。ほかには次のことが事前に予想された。

先進国はグラスゴー気候協定を踏まえ、2023年のグローバルストックテークとも絡めて30年までの野心レベルの引き上げのための作業計画や閣僚ラウンドテーブルの開催などを重視している。対してエネルギー価格、食糧品価格の上昇と世界経済の下振れリスクの中で貧しい途上国がこれまで以上に資金面での要求を強めるだろう。最終合意は両方の主張をバランスよく盛り込んだパッケージになるのがこれまでの常道だ。

しかし途上国が強く主張しているロス&ダメージは大きな火種である。ロスダメ対策とは気候変動の影響による経済的・非経済的な財が被る損失や被害を回避・縮小する、あるいは事後的に対処する取り組みである。一見してわかるように適応の一類型であるが、国連交渉の中で適応とは独立したテーマとして扱われている。途上国はロスダメをあらゆる気候被害の損害賠償を先進国に求償するツールとみなしている。

先進国の立場で見れば、ただでさえ年間1000憶ドルの支援目標が達成できていないこと、25年までにこれを大幅に増額する新資金目標を合意する必要があることに加え、経済停滞、軍事支出拡大などで支援を大幅拡大できる地合いではない。緩和、適応とは別途の資金援助メカニズムを作られることは何としてでも避けたいところだが、最貧国、低開発国を中心に途上国のロスダメへのこだわりは強い。中国、インドなどの新興国は自らにプレッシャーがかかることを回避するため、貧しい途上国の背中を押している感もある。

ロスダメを巡る先進国・途上国対立が原因で合意パッケージができない可能性も十分にある。もともと今回のCOPは何かを合意しなければならない「節目のCOP」ではない。他方、ウクライナ戦争の下でも温暖化防止に取り組む姿勢を示したいのは先進国、途上国の交渉官の共通の利害でもある。同床異夢的な文言に合意して成功を取り繕う可能性もある。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

32年までの電源開発案を公表 COP26の目標達成を目指す


【ワールドワイド/経営】

インド中央電力庁(CEA)は2022年9月9日、国家電力計画(NEP)のドラフト版を公表した。NEPは同国の電源開発計画などを5年毎に集約したもので、ドラフト版では、22年4月から27年3月までの5年間の需要予測と具体的な電源開発計画、および32年3月までの見通しが示された。太陽光は27年までに1億kW以上、石炭火力は3000万kW超の新設が計画されている。

27年3月までの5年間では、電力需要の年平均増加率は7%、26年度の電力需要は1兆8740億kW時、最大電力は2億7200万kWと想定され、これを満たすには、2億2854万kWの電源開発が必要になる。主な内訳は太陽光が1億3208万kW、風力が4050万kW、石炭火力が3326万kW(463万kWが廃止されるため、増分は2863万kW)、水力1095万kW、原子力700万kWで、これらがすべて開発された場合、27年3月末の総発電設備容量は6億2290万kWとなる。

この時点で再エネ比率は55%、石炭火力は38%となり、再エネが石炭火力を上回る。一方、32年3月までの見通しでは、31年度の電力需要は2兆5380億kW時、最大電力は3億6300万kWと試算され、総発電設備容量はベースケースシナリオで8億6594万kWとなる。設備容量に占める再エネの割合は66%まで上昇する。

インド政府は8月、国連気候変動枠組条約締約国会議(UNFCCC)事務局に改定版NDC(国が決定する貢献)を提出した。改定版では、30年までに「CO2排出原単位を05年比で45%削減する」「非化石電源の発電設備を全体の50%にする」という目標が示された。前述の通り、27年3月までに再エネだけで発電設備全体の55%に達すると見込まれ、この非化石電源比率50%の目標は順当に行けば達成が見込まれる。

なお、モディ首相が昨年のCOP26で宣言した30年までの目標のうち「非化石電源の発電設備を5億kWにすること」と「10億トンのCO2排出削減」は、国内関係者の反対もありNDCには反映されなかったが、国内目標としては維持されている。NEPドラフト版は「30年非化石電源5億kW」目標達成に向けて作成されたと明記されており、同国のシン電力相も9月24日、米国ピッツバーグで開催された国際会議で演説し、同目標に引き続きコミットしていると明言している。インド政府は今後も、COP26で宣言した野心的な目標を達成するための取り組みを進めていくとみられる。

(栗林桂子/海外電力調査会調査第二部)

独露パイプラインでガス漏洩 厳しい冬に「破壊工作」指摘も


【ワールドワイド/資源】

欧州最大のガス需要国であるドイツと世界最大のガス埋蔵量を誇るロシアを直接結ぶ天然ガスパイプライン、ノルドストリームおよびノルドストリーム2からガスが大規模漏洩したことが明らかになってから数カ月が経つ。

9月26日、それぞれのパイプライン事業会社が、ノルドストリーム、ノルドストリーム2に敷設されているそれぞれ2本のパイプの内、前者は全て、後者は1本についてガス圧の低下を発表した。27日にはさらにもう一箇所で漏洩が新たに見つかり、その規模から小さな亀裂ではなくパイプラインが大きく破損していることが推察された。10月2日、ガス漏洩が止まったことを受けて、スウェーデン政府は現場へ潜水艦を派遣し、ガス漏洩の原因の調査に乗り出すと、強力な爆発が原因で生じたものであると発表。何者かによる破壊工作として捜査を進めていることが明らかになった。

水深50~80ⅿに及ぶパイプラインの破壊には特定の国が関与する可能性が当初から指摘されてきた。プーチン大統領も工作活動にアングロ・サクロンが関与していると発言し、ロシア政府も「その裏にある『真実』が公表されれば、多くの欧州人が驚くことになるだろう」と暗に西側の国が背後にいると発信する。

くしくも漏洩事件の翌日は、01年から構想が始まった、ノルウェーからデンマークを経由してポーランドに至る新たな天然ガスパイプライン「バルト海パイプライン」の開通式典が各国首脳参加の下、ポーランドで行われていた。容量ではポーランドが同パイプラインで輸入する量は依然低いが、ロシア産ガスを排除しようとする欧州政府の方針に合致し、ポーランドが脱ロシアを進める象徴的プロジェクトであり、今回の式典と合わせたようなガス漏洩事件によって、その注目度と重要性はさらに高まったとも言える。

破壊されたパイプラインの修理は容易ではない。この冬の間、再稼働はできず、それ以上続く可能性が高いと考えられている。欧州ではガス貯蔵率が年末までに設定された目標である85%を達成しており、暖冬予報も出ているが、ガス貯蔵率の維持においてはノルドストリームからの冬季を通じての一定供給が前提となっていた。そのガスが失われた今、加盟国に課せられた省エネ(節ガス)が順調に達成できない場合や突発的な寒波が欧州を襲うような事態が生じれば、欧州は厳しい冬を迎えることになるだろう。

(原田大輔/独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構調査部調査課長)

図書館はどう本を選ぶのか エネルギー問題で著しい偏り


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

 本を増やしたくない。なので市区町村の図書館をよく使う。困るのは、蔵書の偏りだ。

例えばエネルギー問題。再生可能エネルギーを推す本は多いが、問題点を指摘したものは少ない。

原子力は、さらに偏る。『原子炉時限爆弾、大地震におびえる日本列島』(広瀬隆著、ダイヤモンド社刊)は、図書館検索サイト「カーリル」で調べると、東京都内の市区町村図書館119館にあるが、安全技術に踏み込んだ解説書『原子力安全基盤科学1:原子力発電所事故と原子力の安全』(山名元編集、京都大学学術出版会刊)は18館にしかない。

税金で運営され中立公正であるべき図書館なのに、なぜか。

朝日11月4日「図書館の自由、揺るがす『依頼』、国『拉致問題の本充実を』司書困惑」「選書、権力から独立してこそ」を読んで事情が少し理解できた。

記事は「文部科学省が公立・学校図書館に出した依頼文が波紋を呼んでいる。『拉致問題の関連本の充実』を求めるもの。『図書館の自由を脅かしかねない』。司書から戸惑いや抗議の声」と書く。

さらに、「図書館には戦前の反省にたった『図書館の自由に関する宣言』がある。『権力の介入または社会的圧力に左右されることなく、自らの責任にもとづき収集した資料を国民の利用に供する』」との解説もある。

違和感を否めない。そもそもの依頼文は「拉致問題に関する図書等の充実に係る御協力等について」という呼びかけに過ぎない。さらに、「拉致問題その他北朝鮮による人権侵害問題への対処に関する法律」第三条は、「地方公共団体は、国と連携し、国民世論の啓発を図る」と定めている。

前出カーリルで検索すると、例えば、『めぐみ、お母さんがきっと助けてあげる』(横田早紀江著、草思社)を所蔵するのは、都内の市区町村の図書館でたった11館だ。拉致被害の当事者が苦悩をつづった本にさえ関心が薄い。依頼文の発出は当然に思える。

選書の実態はどうなっているのか。全国公共図書館協議会事務局の調査では、市町村立図書館で選書の基準が明文化されている館は半数に満たない。非常勤や臨時職員が選書を担う例も多い。要は手続きがあいまい。公開でもない。朝日記者はご存知か。

朝日10月29日「あおられる『電力危機』」の巨大インタビュー記事も理解に苦しむ。

「電力供給の『危機』が声高に叫ばれている。安定供給を錦の御旗に、政府も原発活用など政策転換に動く。この問題に詳しい安田陽・京都大学大学院特任教授は『根拠なく不安をあおる言説が散見される。わかりやすい話には要注意』と言う」に続いて、同氏の見解を紹介する。要点は、見出しの「リスク対処には科学的方法論で根拠ある分析を」と、本文中の「優先順位が高いのは再エネ」「特に風力」らしい。

疑問なのは同氏の肩書だ。「特任教授」と記事にあるが、京大の本人のサイトを見ると「エネルギー戦略研究所株式会社取締役研究部長」の肩書が併記されている。大手風力開発事業者・日本風力開発のグループ企業の幹部である。

利害関係者なのだ。朝日は、その肩書を意図的に省いた。

Newsポストセブン11月1日「深刻化する“朝日新聞離れ”」は、「朝日の発行部数は400万部を割り込み、399万部となった。前年同月比マイナス63万部」と伝える。理由は、さて……。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

【インフォメーション】エネルギー企業の最新動向(2022年12月号)


 【東京ガス/国内初のガス・電気空調の最適制御システムを販売

東京ガスは2023年4月からハイブリッドチラーシステム「スマートミックスチラー」の販売を開始する。ダイキン工業、ヤンマーエネルギーシステムと共同開発を進めているものだ。ダイキン製の高効率電気空調「EHPチラー」とヤンマーES製のガス空調「GHPチラー」に、東京ガスのクラウド制御サービス「エネシンフォ」を組み合わせることで、ガス空調と電気空調を最適制御する。GHPチラーの稼働により契約電力を下げることで、ランニングコストを約15%削減できるという。ガス空調と電気空調を組み合わせたチラーシステムのパッケージ商品は国内初。高い省エネ性を誇る同システムの導入により、業務用建物のZEB化を推進し、脱炭素社会実現への貢献を目指す。

三菱重工業/タイで超大型GTCC発電所が運転開始

三菱重工業が建設したタイ・チョンブリー県の天然ガス火力発電所が10月1日に運転を開始した。タイ最大の独立系発電業者(IPP)であるガルフ・エナジー・デベロップメント社と三井物産の合弁事業会社が進めてきたもの。三菱重工は、チョンブリー県とラヨーン県で、それぞれガスタービン4台で構成される出力265万kWのガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)火力発電所のプロジェクトを2018年に受注し、建設を進めている。今回、運開したことでチョンブリー県のプロジェクトは完成。同社は、引き続きラヨーン県の発電所の建設に取り組むとともに、世界各地の電力の安定確保と環境負荷の低減に貢献していく方針だ。

清水建設/世界最大級のSEP船「BLUE WIND」が完成

清水建設が発注しジャパンマリンユナイテッドが建造した、世界最大級の搭載能力とクレーン性能を持つ自航式SEP船が完成し、「BLUE WIND」と命名された。全幅50m、全長142m、総トン数2万8000tで、クレーンの最大揚重能力は2500t、最高揚重高さは158m。作業時は4本の脚を海底に着床させ、船体を海面上にジャッキアップさせることで、波浪の影響を受けずに作業できる。水深10~65mの海域に対応。8000kW風車の場合は7基、1万2000kW風車の場合は3基分の全部材をフルサイズで一括搭載が可能だ。船体のジャッキアップ・ダウンやクレーン操作などの訓練を行った後、富山県入善町沖での施工を経て、石狩湾新港洋上風力発電施設の施工を行う予定だ。

北海道ガス/風力発電の出力変動をガスエンジンで調整

北海道ガスは日立パワーソリューションズと「北ガス石狩風力発電所」の建設工事に関する発注契約を締結した。石狩LNG基地の隣接地で2023年4月に着工し、24年9月の運転開始を目指す。同発電所内のガスエンジン12台(9万3600kW)を風力発電の調整力として活用。ガスエンジンを調整電源とする風力発電の出力変動調整モデルは、北海道内初の取り組みだ。再エネ電源として電力事業で最大限活用し、安定性・環境性・経済性の高い発電方式の実現を目指す。

ヤンマーエネルギーシステム/合成メタンを燃料に 実証機が基準をクリア

ヤンマーエネルギーシステムは9月14日、東京ガスの横浜テクノステーションに合成メタンを燃料とする出力35kWのマイクロコージェネレーションシステムの実証試験機を納入した。エンジンの燃料系部品を合成メタンに合わせて変更し、都市ガスを燃料とするガスコージェネレーションシステムと同等の発電出力を実現している。都市ガスと同様の燃焼を維持することで、窒素酸化物(NOX)排出基準濃度を達成している。同機は同実証試験施設で生成された合成メタンを燃料として、運転試験に活用される予定だ。

東芝エネルギーシステムズ/タービン発電機が対象 検査ロボットを実用化

東芝エネルギーシステムズはこのほど、発電所用タービン発電機向け検査ロボットのサービス提供を本格的に開始すると発表した。2018年に開発したこのロボットは、中・大型発電機に加え、小型発電機にも対応可能な「薄型検査ロボット」と、バッフル乗り越えを可能とする「高機能型検査ロボット」の2種類のラインナップを用意。このロボットの使用で、検査期間は従来の約半分に短縮される。薄型検査ロボットは、一部の海外発電所でサービスを開始。高機能型検査ロボットは23年度から提供を始める。

商船三井・東北電力/風力推進装置を搭載した石炭船が運航

商船三井と東北電力が建造を進めていた、世界初のウインドチャレンジャー(硬翼帆式風力推進装置)搭載の石炭輸送船が「松風丸」と命名され、運航を開始した。ウインドチャレンジャーは、伸縮可能な帆で風力エネルギーを船の推進力に変換。航行燃料を削減し、温室効果ガス(GHG)の排出抑制などにつながる。東北電力の専用船として豪州やインドネシア、北米などからの石炭を輸送する。従来の同型船と比べ、GHGの削減効果は豪州航路で約5%、北米西海岸航路で約8%を見込む。

レモンガス/80周年記念式典 10月に都内で開催

LPガス販売事業者のレモンガスが、10月に都内のホテルで、創立80周年の式典を開催した。同社は1942年に練炭の製造販売会社として設立し、67年にLPガス販売を開始した。その他、アクアクララのブランド名で宅配水ビジネスの業績を伸ばす一方、最近では電力や都市ガス販売を手掛けている。今後は家庭用のユーティリティー企業として取り組む。

中電ネットワーク・富士通/再エネ拡大への実証 送電線のデータ収集

中国電力ネットワークと富士通は、送電設備を活用して取得・変換した風況などの環境データの実用性についての実証を実施した。2021年から1年間行ったもので、対象は、再エネ導入拡大のために次世代技術として期待される、送変電設備の送電容量を弾力的に運用する技術の実現や、設備の保全業務高度化におけるドローン活用の取り組みだ。

中部電力ミライズほか/イオンモール土岐でPPA 商業施設で最大規模

中部電力ミライズとLooop、中電Looop Solarの3社は、大型商業施設「イオンモール土岐」(岐阜県土岐市)の屋上スペースに太陽光発電設備を設置して、発電した電気を供給するオンサイトPPAサービスの提供を始めた。Looopが太陽光発電設備の調達・設計・施工を行い、中電Looop Solarが設備を保有・運営。中部電力ミライズは発電した再エネ由来の電力を供給する。設置した設備は、パネル容量2870kWで、商業施設としては国内最大規模。発電電力は、同施設で使用する電力の約20%に相当する。

九州電力・ジャパン・インフラ・ウェイマーク/非GPS対応自律型ドローンの国内初実証

九州電力は、ドローン機体・サービスの共同開発を行うジャパン・インフラ・ウェイマークと、複数機体のドローン(米国Skydio社製)による遠隔での自動・自律巡回飛行の国内初の実証を行った。この実証は、九電の苓北発電所(熊本県天草郡苓北町)にて実施。パソコンで同時に3機のドローンを操作しながら、飛行中に撮影した映像をリアルタイムに一元管理し、遠隔地で確認するものだ。活用したSkydio社製のドローンは、非GPS環境下や磁界環境下においても安全な飛行が可能なAIによる自律飛行技術、 360°全方位障害物回避機能を搭載している。両社は今後も、さらなるドローン活用範囲の拡大と高度なインフラ点検サービスの実現を目指していく。

エネルギー政策のビジョンは何か 「3E+S」掘り下げる議論を


【オピニオン】渡辺 凜/キヤノングローバル戦略研究所 研究員

 EU(欧州連合)のエネルギー政策文書では、政策が理想とするエネルギー利用の在り方に関する説明が充実している。例えば再生可能エネルギー導入策についても、単に「気候変動抑止」のための政策ではない。EUが再エネを推進するのは、「クリーン」で、「透明性があり」、「フェア」で「デジタル」で「レジリエント」なインフラを、加盟国間の「連帯」を通じて構築することを目指しているからだ。今年からは「脱ロシア」も重要なキーワードとなった。関連文書の中では、エネルギー産業の技術や燃料に加えて、材料、働き手やスキル、利用者のライフスタイル、国際関係や開発支援など多岐にわたって、各キーワードが目指すエネルギー利用の姿が論じられている。

よく読むと、気候変動も「環境に悪いから対策せよ」という単純な話ではない。エネルギー利用の影響が、利用者とは別の世代や地域の人、さらに他の生物の生活環境まで及び得る点なども問題視されている。EUが取り組む「グリーン変革」には、「他者の被害の上に成り立つエネルギーシステムを使うべきではない」という意識もあるようだ。

翻って日本のエネルギー政策を見るに、3E+S(安定供給、経済効率性、環境適合性+安全性)という端的な理念が掲げられているが、どのようなエネルギーシステムを目指しているのか、もう一歩踏み込んだビジョンは見えてこない。

それは、3E+Sを実際の文脈に当てはめ、さまざまなステークホルダーの声を踏まえながら、3E+Sに関する具体的課題や、3E+S間のバランスの取り方を議論するプロセスが不足してきたからではないか。例えば次のような問いを立てることで、エネルギー政策に資する知見を得られるかもしれない。

まず、「環境」とは何か。社会的に許容できない影響の条件や、再エネの急拡大とのトレードオフといった問題は十分に考えられてきたか。影響をより包括的に、正確に把握し、小さくするための研究開発は十分に行われてきたか。

「エネルギー自給」に関しては、燃料の自給率目標のみならず、エネルギー供給のライフサイクル全体で必要となる各種の資源を踏まえて、望ましい供給構造を考えるべきだろう。産油国を巡る地政学だけでなく、望ましい国際関係や、日本が果たし得る役割を考えていけば、エネルギー政策にとっても重要なインプリケーションがあるはずだ。

「経済効率性」についても、実績ベースの分析や試算のみならず、防災やレジリエンス、働き方改革、地方経済の再生といった課題との中長期的な相互作用を検討することで、新たな方向性や戦略を見出だせるかもしれない。

上述のような問題は非常に難しいからこそ、危機的状況に陥る前に、幅広くヒアリングを行い、議論を重ねていくべきだ。そして、そのような開かれた議論を通じて、3E+S以外にエネルギー政策において重要な理念はないか、という点も継続的に考えていくべきだろう。

わたなべ・りん 2016年東京大学大学院原子力国際専攻修了。アジア太平洋エネルギー研究センターでエネルギー政策研究に従事。2022年から現職および東京大学未来ビジョン研究センター客員研究員を兼務。

【マーケット情報/12月9日】原油急落、経済減速の見込みが重荷


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み急落。経済の減速、それにともなう原油需要の後退見通しで、それぞれ2021年12月下旬以来の最低を記録した。

米連邦準備理事会が、さらに金利を引き上げるとの見方が台頭している。雇用統計で賃金上昇率などが市場予測を上回り、インフレ圧力の懸念が高まったことが背景にある。欧州中央銀行やイングランド銀行も、インフレに対抗し、金利を一段と引き上げる見通しだ。経済がさらに冷え込み、石油消費が減少するとの予想が広がった。

供給面では、G7が、ロシア原油価格の上限設定で合意。ロシアは反発するも、輸出の継続を表明しており、需給の引き締めには至らなかった。また、米国のガソリン在庫は、8月初旬以来の最高を記録。軽油在庫も、過去9カ月で最高となり、需給緩和感を強めた。

他方、中国は、新型ウイルス感染拡大対策のロックダウンを大幅に緩和。経済活動の再開と、石油需要の回復が予想されるが、価格の上方圧力とはならなかった。

【12月9日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=71.0ドル(前週比8.96ドル安)、ブレント先物(ICE)=76.10ドル(前週比9.47ドル安)、オマーン先物(DME)=71.99ドル(前週9.13ドル安)、ドバイ現物(Argus)=72.03ドル(前週比8.93ドル安)

脱炭素で新たなブランド確立へ 災害に強い持続可能な島目指す


【地域エネルギー最前線】 新潟県 佐渡市

「トキ認証米」など自然と経済活動の共生に腐心してきた佐渡市が、今度は脱炭素化に挑戦する。

離島の特性を意識した上で、災害に強く持続可能な新たな島づくりに意欲を見せている。

日本最大の特定有人国境離島で、最近では金山の世界遺産登録を巡っても話題になった新潟県佐渡市は、独自色の強い地域資源を複数有している。真っ先に思い浮かべるのは国の特別天然記念物であるトキ。環境省が長年繁殖に取り組み、さらに市や住民も経済活動につなげようと、15年前にスタートした「朱鷺と暮らす郷」認証米などを軌道に乗せてきた。いわゆる〝トキ認証米〟は、トキの餌場確保と生物多様性の確保に配慮したブランド米で、全国での知名度は高い。 

とはいえ、やはり離島の経済や暮らしはさまざまな面で制約があり、エネルギー供給の課題も多い。島内の電力は独立系統で、東北電力ネットワーク(NW)の石油火力が需要の9割強を支える。災害に対して脆弱であり、ここ数十年ほどで実際に起きてはいないものの、いざ電力供給が途絶すれば、復旧には本土より多くの時間を要することになる。また、市は2050年までの「ゼロカーボンアイランド」を宣言しているが、先述のようなエネルギー事情を抱える離島の脱炭素化は相当ハードルが高い。

エネルギー以外でも、人口減少と、島内の経済循環の低さといった構造的な課題を抱えている。市の人口は現在5万人ほどで、年間1000人ほどのペースで減少しており、県内でも少子高齢化の進行が速い。そして基幹産業の柱の一つである観光業は、目下コロナ禍からの立て直しの最中だ。

市は、環境省の「脱炭素先行地域」でこれらの課題解決のストーリーを描こうと考え、その計画が4月下旬発表の第一弾に選定された。①トキと共生する環境の島、②災害時に安心できる防災の島、③自立分散型の再生可能エネルギーを活用した持続可能な島―がコンセプトだ。

「もともと地域の環境意識は高く、『トキ認証米』では自然保護と農家支援の視点で地域のブランド化に取り組んできた。今度は脱炭素のブランド化で、コロナ禍で傷んだ産業の活性化を図りたい」(市総合政策課)と狙いを説明する。

再エネで自立分散型へ EVの可能性にも期待

エネルギー面では、公共の防災施設や小中学校などの125施設を対象に自立分散化を図る。オンサイトではPPA(電力購入契約)での再エネ調達を進め、11月上旬に第一弾のPPA事業者を決定したところだ。太陽光と蓄電池を組み合わせて導入し、特に主要防災拠点10カ所にはそれぞれ1000kWの蓄電池を設置する。

加えて、オフサイトでは太陽光2000kW、木質バイオマス380kWを目標に掲げている。対象施設の年間電力需要約1460万kW時に対し、トータルの再エネ発電量は年間約1360万kW時を目指している。

地域住民は自然や景観保護への意識の高さから、従来は再エネ開発にややネガティブな感情を持つ傾向もあったという。先行地域の取り組みを機に、脱炭素化への機運を醸成し、地域と共生した再エネの導入を図っていく。

需給管理では、EMS(エネルギーマネジメントシステム)を活用してDR(デマンドレスポンス)も駆使し、効率的な再エネ活用を図る。省エネ面では年間約147万kW時の削減が可能と見込む。EMS関連の事業主体は未定だが、東北電NWが独自でメガソーラーやEMSの計画を進めており、市としては東北電との連携を模索していきたい考えだ。

市民や観光客向けに、EVの利活用にも力を入れる。公用車の入れ替えや、急速充電も含めた充電スポットの拡充、レンタカーやホテル事業者へのEV関連の補助拡充などを予定する。「EVの航続距離を考えると島内でのEV利用は向いている。エコツーリズムといった観光ブランディングを図る上でもEVの活用が重要になる」(同)。

このほか、バイオマス発電用の燃料創出やソーラーシェアリング(営農型発電)による農林業活性化、環境教育の充実化、地域コミュニティの創出・活発化などの仕掛けも、順次進めていく考えだ。

地域のキャパシティー意識 トキとの共存経験生かして

課題は、やはり離島ゆえに本土よりさまざまなコストが割高になってしまうこと。あらゆる設備・部材が海上輸送になる点は仕方ないが、それでも民間が再エネや蓄電池、EVなどを導入し脱炭素化を図っていくためのインセンティブをどう示すかには、工夫が必要だという。さらに、設備の設置やメンテナンスなどを外部人材に頼るのではなく、島内の人材を最大限活用して、地域の企業ができる限り作業を請け負えるような体制づくりも重要になる。

市は、「足元のエネルギー価格高騰ですでに予兆も出始めているが、将来的にはコスト面で再エネの自家消費やEVが有利となるタイミングが来る。それを見越して市が旗を振ってやり方を工夫し、普及させていきたい」(同)と強調する。

市は脱炭素推進会議を民間企業と共に設立し、ビジョンを共有。まずは市が公共施設での取り組みを率先するが、民間での具体的な計画はまだ出来上がっていない。先行地域の制度やその他の国の補助制度をフル活用しつつ、最終的に民主導の産業活性化に落とし込むことを目指す。

トキとの共生の経験を脱炭素化にも生かしていく

さらに市は、「持続可能な事業とするために肝要なのは、再エネ乱開発やオーバーツーリズムなど地域とのあつれきを招かないよう、地域のキャパシティーを考えた上でバランスを取ること。トキ認証米も住民に負担を強いない形でトキとの共存の在り方を探り、結果が出てきた。この成功経験を生かしていきたい」(同)と続ける。

貴重な体験を、持続可能な脱炭素の島づくりにつなげることができるのか。離島の独自色を生かした新たな挑戦が動き出している。

変電設備「低炭素」化への一歩 東電PGが挑戦する日本初の布石


【東京電力パワーグリッド】

脱炭素に向けた取り組みの波は電力系統のインフラ設備にも押し寄せている。

東電PGは業界に先駆けて環境にやさしい次世代型の変電設備を導入した。

 カーボンニュートラルの実現に向けて、今、電力会社の送配電部門は大きく二つの、そして大変に難しい課題に向き合っている。一つは日々導入量が増えている再生可能エネルギーとの共存と、それに対する対応だ。「再エネ主力電源化に向けて何が必要か」。日夜、部門内では技術的かつ経済的な検討を続けている。制度設計の歩みと合わせながら、需給調整機能の大きな役割を担う「火力業界」とのやり取り、需給調整機能の精査……。また、それに伴い、インフラ設備の「保全」や「整備」についても新しい考え方が必要になってきている。従来は、秋や春など需給が緩和するタイミングを見計らって、人員を確保し設備保全やインフラを整備してきたが、再エネ大量導入時代は、そんな常識は通用しない。これらが難事の一つ目だ。

そして二つ目が、インフラ設備そのものにおけるカーボンニュートラルへの挑戦だ。「電力系統設備、とりわけ変電設備部門の環境対策に取り組む業界のリーディングカンパニーでありたいと考えています」。東京電力パワーグリッドで変電設備技術部門の実質トップである、工務部の塚尾茂之変電技術担当部長は、力強くこう話す。まず、塚尾さんが目を付けたのは、変電所の設備のひとつを構成する「開閉装置」だ。

日本初の環境型変電設備 自然由来ガスを利用

東京・府中駅から歩いて20分程度の静かな市街地に、東電PGが運用する6万6千Vクラスの変電所が存在する。変電所とは、その名が示す通り、電圧を調整するインフラだ。ここでは、高い電圧で送られてきた電気を低い電圧に落とし、実際の需要家に電気を送り届けるハブのような拠点だ。

敷地内には、設備を監視する機能を備えた無人の建屋のほか、経年化に伴って多少変色した、白や灰色を基調とした設備がいくつかたたずんでいる。設備を構成するのは、開閉装置(遮断器や断路器)、変圧器、避雷器などだ。

この府中変電所では、今秋から、経年化に伴った一部の設備のリプレース工事を進めている。その対象設備が開閉装置である「ガス絶縁開閉装置」、通称GISだ。そして、この設備こそが、東電PGが国内で初めて導入する、環境対応型次世代設備「AEROXIA(エアロクシア)」(東芝エネルギーシステムズと明電舎の共同開発)だ。

東芝の川崎の工場で出荷を控える開閉設備

ガス絶縁開閉装置と脱炭素―。両者に一体どのような相関関係があるのか。まずは、開閉設備の機能を簡単に説明しよう。この設備は、電気を流したり、あるいはその流れを瞬時に止める「遮断機能」や「絶縁機能」を持つ。落雷などで急激に電圧が高まったり、異常な電気が流れたりする時、瞬時に電力系統から切り離す必要がある。その際の「遮断」や「絶縁」は、

まさに電力インフラに不可欠である。そして、その遮断・絶縁に使っているガスがSF6(六フッ化硫黄)と呼ぶ、自然界には存在しない人工ガスだ。遮断や絶縁性能が優れていることから、設備全体を大変コンパクトに設計できる。1970年頃から、世界的に普及してきた。今回更新の対象設備として、78年に運用開始された府中変電所の初期型GISでも例外ではない。ところが、このガスは、地球温暖化係数(GWP)の値が2万5200と高いという欠点を抱えている。

「これまで、日本の電力会社は、このガスを漏らさないように運用してきました。年間の漏洩率は1%未満で、世界に誇れる運用でした。ところが、近年、世界的な脱炭素の流れの中で、SF6を代替するGWP値の低いガスの使用が求められてきました」。

そうした中、塚尾さんが主幹事となって、国内電力、学識者、メーカーとともに、次世代開閉機器の設計要件を議論してきた。塚尾さんらがユーザーとして志向したのは、人体に与える影響と安全性や環境適合性、代替ガスの供給性、SF6と同レベルの簡易なハンドリングな七つの要件だ。

技術駆使し省スペース設計 次なる課題は大型化

「容易な技術開発ではありませんでした」と塚尾さんは振り返る。設備設計をしたのは、あくまでもメーカーである東芝エネルギーシステムズと明電舎だが、東電PGは、公益的な設備を使用する立場である以上、使用者としての公益的な責任がある。公益事業者として、設備の安全性や環境適合性といった技術要件をしっかりと管理しステークホルダーに説明する責任があるわけだ。そんな使命感から漏れ出た塚尾さんの発言だ。

まず、塚尾さんを悩ませたのは、代替ガスの選定だ。代替ガスには、フッ素系ガスと自然由来ガスの2方式が存在している。前者のフッ素系ガスは、自然由来ガスほどではないが、SF6よりもGWP値が低く、絶縁性能も優れている。大型化への対応も比較的容易に可能だ。ただ、ガス自体や分解生成物の人体への健康面(毒性)での課題が解決し切れていないほか、ガスの供給面で不安を抱えている。

次に志向したのが自然由来ガスだ。GWPは1以下であることから、温暖化対策的には究極のガスだ。ただ、課題は主に絶縁性能だった。SF6ガスはその性能が優れていて、設備をコンパクトにできる。国土面積の狭い日本では、最適なソリューションだったが、自然由来ガスではその性能は約3分の1。単純計算で、設備サイズは約3倍になる。

そこを、ガスが収まる「タンク部」や電気が流れる「導体部」を設計改善した。使用した自然由来ガスは、窒素と酸素を混合したドライエア。遮断部に真空バルブを適用したり、実規模検証試験による最適な圧力設計などで、工夫した。そんな苦労が奏功し、リプレース前と比べても、省スペース設置が可能となり、今回、国内に先駆けて導入にこぎつけた。

次なる技術課題は、自然由来ガスによる「高電圧・大容量化」への挑戦だ。今回導入した府中では、変電所としては「小規模サイズ」。今後、27万5千~50万ボルトクラスへといった高電圧化が必須となる。その際どういった代替ガスを使い、どういった設計にして脱炭素を実現できるのか。安定供給を維持しながら、なおかつ託送コストも抑えないといけない。

高度成長期に大量整備されたインフラの更新時期が静かに訪れている中、複雑で多様な「難事」に東電PGは、今挑んでいる。

電気・ガス料金への補助 値下げの実感は? 出口戦略は?


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.9】関口博之 /経済ジャーナリスト

 政府が10月末の総合経済対策で導入を決めた電気・ガス料金の負担軽減策について、さまざまな議論が起きている。来年1月以降、標準的な世帯で電気料金を約2割、月額2800円、都市ガス料金を1割強の月額900円補助しようというものだ。来年9月までの負担軽減額は延長するガソリン代の補助を含め、4万5000円になると政府は試算する。電気代、ガス代は前年比で2割から3割も高騰しているのだから、国民の暮らしを守るため価格抑制策の必要性は理解できる。

ただエネルギー価格の負担感は、低所得世帯ほど重い。本来ならそこに手厚い支援があるべきだが、今考えられているのは使用量に応じた一律の補助だ。それでいいのか、という批判に政府当局は「それは分かってはいるが」と答えるだろう。確かに所得制限などを盛り込むのは実務上、またシステム上も無理がある。結局、原燃料費調整制度の枠を使って、一律に補てんすることになった。月々の請求書の「原燃料費調整額」の欄に値下げ額は明記される。元々、ウクライナ情勢を受けたLNGなどの高騰に起因しているのだから、原燃料費調整の枠組みで対策をとるのは自然だ。

電力業界首脳との懇談会で発言する岸田文雄首相
提供:時事

気になるのは政府の説明で、企業向け支援は「FIT賦課金の負担を実質的に肩代わりする金額」(単価では家庭向けの半額)としたことだ。賦課金に見合う「相当額」を補てんしますよ、という規模感を示したつもりなのだろうが、そもそもFIT賦課金は国が肩代わりする類のものではない。誤解を招く。

この仕組みで値下げの実感を得られるのかも気がかりだ。来年1月にはいったん、支払額が下がったのは目に見えるはずだが、大手電力は来春には本格的な料金改定・値上げも検討している。引き下げ分も値上げと相殺ということになりかねない。さらに原価が上がり続ければ料金自体また上昇に転じる。国民にこれでメリットが実感できるだろうか。ちなみにドイツが検討する価格抑制策は電気・ガスの単価に上限を設け、これを超える分は国が補てんする。いわば「天井」が設けられる分、安心感はある。

一方、別の観点からは、これは化石燃料利用への補助金であって脱炭素化に逆行するという批判もあろう。またこれまで進めてきた電力・ガスの自由化とも整合しないとも。「それも分かっている」と当局は言うのだろう。だからあくまで激変緩和措置だと位置付けている。

もちろん財政負担も大きい。電気・ガス料金の補助に3.1兆円、ガソリンへの補助の継続に3兆円の補正予算を組む。元手はほとんど赤字国債だ。「それももちろん分かっている。恒久的に続けるつもりはない」。だとすればなおさら『出口』をどう見定めるかが重要だ。「それも分かっている」から来年9月以降は支援の幅を縮小するとはしているが、それもその時点の価格動向次第だという。いやはや、それだけ「分かっている」なら政府には批判に答えられる次の手を今から考えておいてほしい。

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.1】ロシア軍のウクライナ侵攻 呼び覚まされた「エネルギー安保」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.2】首都圏・東北で電力ひっ迫 改めて注目される連系線増強

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.3】日本半導体の「復権」なるか 天野・名大教授の挑戦

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.4】海外からの大量調達に対応 海上輸送にも「水素の時代」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.5】物価高対策の「本筋」 賃上げで人に投資へ

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.6】なじみのない「節ガス」 欠かせない国民へのPR

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.7】外せない原発の選択肢 新増設の「事業主体」は

・【脱炭素時代の経済探訪 Vol.8】豪LNG輸出規制は見送り 「脱炭素」でも関係強化を

せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

「道路利用税」に批判殺到 揮発油税は廃止の公算


政府が2035年乗用車の新車販売で電気自動車(EV)など電動車100%を目指す中、揮発油税や石油ガス税など燃料課税に代わる財源の枠組みについて、10月26日の政府税制調査会で議論が行われた。この場で提起されたのが、走行距離に応じて課税する「道路利用税(仮称)」だ。

EVの重量はガソリン車に比べ2~3割重く道路への負担が大きいことなどが理由だが、SNSでは「重量税との二重搾取ではないか」と批判が殺到し炎上状態に陥った。与党内からも異論が挙がる。自民党の三原じゅん子参院議員は記事を引用し「これは国民の理解を得られないだろう」などと投稿。道路利用税の撤回に向け党内で議論を始めるとした。

ただ要注意なのは「EVには燃料課税が適用されないので、それに代わる新税」という位置付けがあること。このため、道路利用税導入の際には揮発油税廃止という条件が付く公算が大きい。とはいえ、総合経済対策で物価高不況から脱却していこうという時期に、新税の議論はない。消費増税の議論もそうだが、世の中の空気を読めない政府に問題ありだ。

前途多難な料金改定 デフレ念頭の「審査要領」


大手電力6社が料金の値上げ改定を申請した。ウクライナ侵攻で化石燃料価格が急騰。各社ともに燃料費調整制度(規制部門)の上限値を突破し、以後、家庭向けは逆ザヤ状態が続いている。大幅な最終赤字を見込む中、料金改定に踏み切らざるを得なかった。

今回の値上げの理由は明らかに外的要因。しかし経済産業省としては、最大限値上げ幅を圧縮したことを世間にアピールしなければならない。総原価の削減に手心を加えることはないだろう。

電力関係者が懸念するのは、料金改定の『審査要領』がデフレーションを念頭に作成されていることだ。要領には「消費者物価、雇用者所得などの変動見込み(エスカレーション)は原則として原価参入を認めない」の一文がある。今後、円安などでインフレが加速する中、物価上昇を認めなければ人件費、修繕費などを圧縮していくことになりかねない。

また、報酬率も引き下げが避けなれない。福島第一原発事故後に行った前回の改定時から、有利子負債利子率は低下。関係者は「1%ほど引き下がりそうだ。新しい料金では原価算定期間の3年間、持たないかもしれない」と顔を曇らせる。

「捨てない経済」実現へ サーキュラーエコノミーの可能性


【ENEOS】

 ENEOSが主催する新時代のエネルギーを考えるシンポジウムが11月16日、東京国際フォーラムで開催された。同シンポジウムは阪神・淡路大震災によって石油の重要性が再認識されたことを契機にスタートし、今年で27回目。エネルギーの現状や課題、今後の方向性などを考える機会を提供している。

今年のテーマは「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」。大量生産・大量消費・大量廃棄の「リニアエコノミー(線型経済)」の対極に位置する新たな経済モデルとして、欧州で提唱された。

オランダ・アムステルダムでは2050年までにサーキュラーエコノミーへの完全移行を目標として掲げる。また欧州連合(EU)は20年にサーキュラーエコノミー行動計画を発表した。

日本の経済産業省も同年、「循環経済ビジョン2020」を策定している。循環性の高いビジネスモデルへの転換を後押しすべく、循環システムの検討が急がれる分野として、プラスチック、繊維、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、バッテリー、太陽光パネルの五つを挙げている。

識者6人が意見交わす 意義と課題を強調

シンポジウムでは経済ジャーナリストの関口博之氏をコーディネーターとして、岩本美智彦JEPLAN会長、田中加奈子アセットマネジメントOneシニア・サステイナビリティ・サイエンティスト、所千晴早稲田大学教授、畠山陽二郎経済産業省産業技術環境局長、宮田知秀ENEOS副社長、安居昭博サーキュラーエコノミー研究家の6人がパネリストとして登壇。サーキュラーエコノミーを巡る取り組みと課題について、活発な意見を交わした。

パネリスト6人が活発な意見を交わした

サーキュラーエコノミーは、リユース・リデュース・リサイクルの「3R」と似ている。しかし、3Rが消費者中心の取り組みだったのに対して、サキュラーエコノミーは川上を含めた経済構造全体の転換が求められる〝究極の3R〟だ。畠山氏は、「3Rは最終処分量を減らそうという発想だった。サーキュラーエコノミーを目指す背景には、資源の安全保障があり、日本こそ積極的に取り組むべきだ」と強調した。

シンポジウムでは、アムステルダムのサーキュラーエコノミーに向けた取り組みなどが動画で放映され、来場者は真剣に見入っていた。宮田氏は、使用済みタイヤからタイヤ素原料を製造するケミカルリサイクル技術について、自社とブリヂストンの共同プロジェクトを紹介。こうした民間の取り組みについて、所氏は「技術は理論だけでは進まない。実証を繰り返し、課題を克服していくしかない。日本人の技術改善能力に期待したい」と語った。

JOGMEC法改正案に反対したワケ エネルギー政策の失敗に警鐘鳴らす


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

 11月11日の参議院本会議で可決、成立した「ガス事業法及び独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)法改正法案」に、私が所属する有志の会は反対した。立憲民主党、日本維新の会、国民民主党など主要野党が賛成する中で、だ。私たちのメンバーには、エネルギービジネスに携わった元商社マンや元外交官などもおり、それぞれの知見を集めた結果、そのように判断した。

この法案は、ロシアによるウクライナ侵攻を契機とする世界的なLNG需給ひっ迫の中で、①国内のガス需給がタイトになった時に国が大口需要家に対してガス使用の制限命令等が出せること、②緊急時にJOGMECが民間に代わってLNGを調達できるようにすること―が柱。一見もっともらしい内容に見える。電気でも同じような条項がある①については、妥当だろう。問題は②だ。資源エネルギー庁は東京ガスやJERA、大手商社といった日本を代表する企業のガスの調達が困難な状況になった場合、国をバックにした独立行政法人のJOGMECが代わりに出て行ってLNGを調達してくると説明するが、本当に現実的なことなのか。

緊急時に機能できるか 過去の成果見受けられず

JOGMECは「日の丸油田」の開発を目指しながら十分な成果があげられなかった石油公団に代わってできた独立行政法人で、資源の「開発」などが主な任務だが。資源の「調達」を日常の業務としているわけではない。そうした組織が、世界的な需給ひっ迫時に名だたるオイル・ガスカンパニーがしのぎを削る争奪戦の最中、いきなり参入しても機能するわけがない。LNG市場では日常から相手国との緊密な関係の下、長期的な取引関係を結び、それなりの量の取引を続けることが重要であり、いきなり門外漢が登場して何かができるほど甘い世界ではないのだ。

そもそも、日本のLNG調達体制は、電力会社、ガス会社、総合商社などがそれぞれに調達を行っており、世界有数の需要国であるにもかかわらず、それを生かしたバーゲニングパワーを発揮できないことに脆弱性の一つの要因がある。そうした産業構造的な問題に手を付けずして、この程度の法改正で対応できるわけがないのだ。

2010年、12年、16年、20年とエネルギー政策の課題を解決するためJOGMECに新たな業務を追加する法改正を五月雨式に行っている。だが、これらによって何らかの成果が上がっているようには見受けられない。それどころか石油公団失敗を教訓として誕生した組織自体が、鵺のようなわけの分からない組織になろうとしている。

エネルギー政策の失敗に警鐘を鳴らす意味でも、私たちの会派有志の会は反対をしたのである。果たして与党や主要野党内では、この法案に対してどのような議論がなされたのだろうか。

ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【コラム/12月9日】卒FIT時代の再生可能エネルギー


渡邊開也/リニューアブル・ジャパン株式会社 社長室長

以下は、JEPXの取引ガイドの「日本卸電力取引所(J E PX)の役割 はじめに」に以下の記載がある。

 【そもそも電力事業とは,「発電」「送配電」「小売」の3つの事業から成り立ちます。2016年4月以降,電気事業法の改正により,これまで一般電気事業者(電力会社)や特定規模電気事業者(新電力)と統合されていた電力事業を,この事業類ごとに3つに分離されるライセンス制が導入されます。また,2020年までに法人格にグループ化されることも法定されています。事業ごとに分離するということは,それぞれの事業単位での利益を追求していくことになります。例えば,“発電事業者は効率的に発電して高く電力を売る”,“小売事業者は自社の顧客の電気を効率的に卸買いし,それを顧客に届ける”などの活動となります。この発電事業者と小売事業者の間の電力売買の仲介役として,取引所は機能します。取引所での取引を中心として,発電事業者は他の発電事業者より有利となるよう発電効率の向上に努めなければ,売ることが出来なくなります。小売事業者は取引所の価格を仕入れ価格の基準として,取引所から仕入れた電気に,自社の工夫,強みを付加して顧客に届けなければ,顧客に選んでもらえません。

このように発電事業者間,小売事業者間の競争が活発になってこそ,電気事業全体での効率化が図られ,日本の電気事業はさらに発展していくものと考えます。それこそ電力自由化の目的であると考えます。そのためにも安心できる売買を,日本で唯一の卸電力取引所であるJEPXが責任を持って担っていかなければなりません。信頼できる取引所として,JEPX が果たすべき役割を皆さんとともに考え,取り組んでいくことができれば幸いです】

さて、再生可能エネルギーは、FIT→FIP→Non-Fitという流れになっていく中で、発電事業者や電力小売り事業者等はこのJEPX市場において取引をすることが益々増えていくだろう。事実、2007年12月3日のTTVは5,774,500kWh→2022年12月3日のTTVは887,811,500kWhとなっている。直近3年間は8-9億kWh/日の取引量だ。

年月日(受渡日)TTV(kWh)
2007/12/35,774,500
2012/12/324,251,500
2017/12/3190,695,500
2020/12/31816,192,800
2021/12/3910,994,650
2022/12/3887,811,150

ここで①~⑤までのシステムプライスのグラフを見てほしい。①は今から15年前の2007年12月3日のグラフで、夜間が安く(6.25円)、朝方上がりはじめ、お昼に一旦下がって、午後は夕方まで高止まり(15円前後)、夜間に下がる。これはある意味再エネ導入量が少なく、また今のような電力需要が逼迫していない状況を表していると思う。

①2007/12/3受渡分

では直近の②の2022年12月3日はというと、夜間が高止まり(20円)、朝方から昼に向かって下がり、(12時で2円)、また夕方に向かって上がり、夜間に向けて下がるものの20円台くらいで推移している。

②2022/12/3 受渡分

その1年前(③のグラフ)も夜間でも10円超で朝方に向けて上がり、その後お昼にかけて下がり、そこから夕方に向けて上がり(夕方は30円)、夜間も下がりはするが、10円を超えている。

③2021/12/3受渡分

電力の逼迫が騒がれ始めた2020年12月の中旬過ぎ、その後年明けには200円を超えることになったのだが、④は2020年の大晦日のグラフである。夜間が20円以上で高止まり、朝方に40円近くまで上がって、お昼に向けて下がり、夕方に向けて上がる。

④2020/12/31

2017年12月3日(⑤のグラフ)は電力逼迫の年ではなかったので、価格は夜間で10円を超えてはいないが、お昼が一番安く、夕方が高い。

⑤2017/12/3受渡分

こうしてみると、やはり太陽光発電所の導入量が増加し、その発電量が減少する夕方に需給バランスが崩れて高くなるという傾向は今後益々顕著になってくるのではと考える。

今後、発電事業者であれ、小売電気事業者或いは需要家であれ、再エネ(特に太陽光)が普及することで、時間帯による価格が違うことを意識していくことになるであろう。

FIP制度が導入され、「丸紅と東急不、FIT太陽光をFIPに切替、市場高騰でFIPが有利に」といった記事も最近目にしたが、(FIPのメディア関連は主に太陽光のような気もするが)、太陽光は日中にしか発電しない。FITであれば、時間帯による発電量など気にせず、発電量×FIT単価=売電収入で良かった。月次レベルで日射量の違いを考慮する程度の因数分解だ。これが市場取引が前提となっていくと(相対取引でも市場価格を参考にしながら相対価格を決めるであろうことも含めて)、市場高騰といっても、どの時間帯で高騰しているかまでを見なくてはならない。②のグラフのように夜間や夕方が20円を超えてもお昼は2円なら太陽光発電にとっては高騰とは言えない。どの時間帯で、どのくらい発電し、時間帯毎の単価をいくらで想定するのかが重要となる。昼間にどんなに発電量が増えてもここ数年の傾向をみると単価は高くなく、高い単価の夕方の発電量は多くない。

一方、風力発電であれば、基本、24時間発電する。直近の傾向をみると夜間でもそれなりの単価(10~20円台)が見込める可能性がある。24時間発電できることがボラティリティの高い事業の予見性が見えないリスクなのか、収益機会が多いと考えるのか、発電事業者は今後このことを分析していくことになるだろう。

需要サイドにしても、例えば、デジタル化が進むとデータセンターの存在感は益々増し、24時間電気を必要とする。動画やオンラインゲームをする機会が増えたり、サッカーのワールドカップではないが、夜中の中継、しかもテレビだけでなく、インターネットとなればそれなりの電力量になる。我々の生活スタイルの変化が電力の需要カーブを変え、それは時間帯での電力単価がこれまでと異なることを意味する。そういうことを考えながら、今後再エネは普及していくことになるであろう。従って、蓄電池の活用はいよいよ重要になってくる。今後、太陽光発電で価格の安い昼間は電気を貯め、夕方に売るということを実際に行う発電事業者の話題がきっと出てくるだろう。早くそういう事例がメディアに取り上げられる日を見てみたい。

(出典)

取引情報:スポット市場・時間前市場|JEPX
丸紅と東急不、FIT太陽光をFIPに切替、市場高騰でFIPが有利に – ニュース – メガソーラービジネス : 日経BP (nikkeibp.co.jp)