【原子力】ALPS処理水放出 問われる「胆力」

【業界スクランブル/原子力】

原子力規制委員会の山中伸介委員長は3月10日、福島第一原発の事故から12年となるのを前に、原子力規制庁の職員を前にこう訓示した。

「規制委員会の行う安全規制は科学的な知見に基づき、技術をあるべき姿に近づけていくための仕事だ。福島第一原発のような事故を二度と起こさないために、原子力に100%の安全はないことを肝に銘じながら、常に科学技術に基づいた判断をしてください」

ただ、やみくもに安全性追求だけを訴えても、今日の複雑な問題の解決には役立たない。むしろこの12年間を踏まえ、どういう環境変化があり、それを踏まえて何を反省材料とするかをつまびらかにすべきだったのではないか。近年の原子力を取り巻く環境変化と課題、また3条機関として独立した形で規制を強化するために発足したことの反省点こそを、山中委員長は内外に示すべきだろう。

一方、福島第一原発の廃炉作業の状況はどうか。メルトダウンで溶け落ちて総量880tにも上るとされる核燃料デブリの取り出しが廃炉での最大の難関とされ、今年10月以降に2号機で計画されている。今、それに向けて調査や準備が進められている。

まず必要不可欠なのは、いまも1日100tのペースで増え続け、サイト内にたまり続けるALPS処理水への対応だ。政府は基準の40分の1まで薄めた処理水を今春から夏ごろにかけて海への放出を始める方針。放出に使う海底トンネルの工事は6月には完了する見通しで、工事の完了が近づいている。

しかし、放出には漁業者などを中心に反対の声が根強くある。海洋放出が迫る中で政府や東京電力は関係者からの理解を得られるか―。まさに「胆力」が試される。(S)

AIで社会基盤を最適化 「暗黙知」継承で生産性向上も

【エネルギービジネスのリーダー達】永田 健太郎/ALGO ARTIS社長

社会基盤を支える大企業向けに、AIによる運用計画の最適化ソリューションを提供している。

「人」に依存する技能やノウハウをシステム化し、社会全体の生産性向上にも貢献したい考えだ。

ながた・けんたろう 2008年3月大阪大学大学院理学研究科物理学専攻博士後期課程修了、インクス入社。09年8月、ディー・エヌ・エー入社し、携帯電話向けのコンテンツ開発などに携わる。21年7月にALGO ARTISを創業、社長に就任。

極めて複雑な運用計画に特化し、デジタル技術による最適化ソリューションを提供するALGO ARTIS(アルゴアーティス)。2017年にディー・エヌ・エー(DeNA)のAI(アルゴリズム)を活用した新規事業を手掛ける一部門として事業をスタートし、21年7月に独立・創業した。

AIが導き出す運用の最適解  計画策定の属人化も解消

同社のシステムの強みは、これまでのソリューションでは考慮しきれていなかったあらゆる運用上の要件を織り込んだ上で、より高い収益と低リスクの計画を短時間で自動出力し、収益向上を図ることにある。エネルギー業界では、関西電力が舞鶴発電所の燃料運用に、東北電力が石炭船の配船の最適化に同社のシステムを活用しており、年間数千万~数億円のコスト削減効果をもたらしている。

導入する企業の規模が大きいほど費用面のメリットが大きいこともあり、現在はエネルギー業界に加え、石油化学や物流商社など、重厚長大産業の計画の最適化に力を入れて取り組んでいるが、永田健太郎社長は、「当社のソリューションの効果は単にコスト削減だけではない」と強調する。

数十、数百とある運用計画上の要素を同時に考慮し、全体最適化を図ることは人間の能力をはるかに超えている。発電所や製造の現場でこれを担っているのが、限られた熟練技術者たち。同社のソリューションは、熟練技術者の経験やノウハウ、さらには現場の複雑な運用ルールをAIに落とし込むとともに、非熟練者でも直感的に操作可能なシステムを構築することで、計画策定業務の「属人化」を解消できるというのだ。

労働人口が減少していく中で、属人化したノウハウを失ってしまえば、将来の日本の生産性低下は避けられない。永田社長は、「ノウハウが存在しているうちにシステム化することで、生産性の低下に歯止めをかけるにとどまらず、むしろ現在よりも高度な運用を可能にし、社会全体の生産性向上に貢献していきたい」と意気込む。

同社のシステムは、企業側が求める要件に従って開発し納品すれば完了というものではない。実際に運用している人の「暗黙知」を含めてロジックを組み、それをベースにシステムのプロトタイプを作り、実際に使ってもらいながらエンジニアと現場が双方向にやり取りし、改善を繰り返していく。このため、プロジェクトとして成立するまでには、少なくとも半年から1年を要することになる。 

さらには導入後、継続的に活用し続けることで価値を発揮することにも重点を置く。昨今、燃料調達における地政学上の要件が目まぐるしく変化しているように、今後、さまざまな外的要因で運用が変わっていくことが予想される中で、システムがその変化に追従し常に価値を発揮するように変更していく必要がある。

そして、こうした同社の高度なソリューション提供を支えているのが、さまざまな分野での経験を持つ20人の社員たちだ。特に、半数を占めるアルゴリズムエンジニアは、国内でもトップクラスの技術者が顔をそろえている。国内外でも例のない、より複雑な課題解決のためのシステム構築に携われることが魅力となり、優秀な人材を集めることができているという。

こうしたエンジニアのトップ集団を率いる永田社長自身は、大阪大学大学院で宇宙物理学の博士号を取得したという意外な経歴の持ち主だ。「自然の真理を追究する研究分野ではトップ集団に入れないだろう」と研究者の道は早々に断念し、最初に入社したのが「金型産業の革命児」と呼ばれたインクスだった。

09年に同社が経営破綻したことをきっかけにDeNAに入社。以降、携帯電話向けのエンターテイメントサービスの開発などに携わっていたが、徐々に製造業やリアルな産業の課題解決に携わりたいという気持ちが強くなっていったという。

転機が訪れたのは17年のことだ。AIを活用した新規事業を模索し、100社以上の企業と面談し課題を探る中で、電力会社が抱える課題を解決することが社会的な意義が大きく、事業として収益モデルを描けると考え、現在のアルゴアーティスにつながるAIを活用した最適化に関するプロジェクトに着手した。

持続的な投資へ独立を決断  海外展開も視野に

DeNAから独立したのは、新しい取り組みを社会に浸透させるためには、人や資金といったリソースを適切に集中投資することが不可欠との判断から。積極的、継続的な投資による事業の成長につなげるため、外部から資金調達しつつステークホルダーとしてDeNAの支援も得て独立を果たした。

「グローバルでつながるサプライチェーン全体を最適化することができれば、さらに大きなインパクトをもたらすことができる」と語る永田社長。その視線は既に海外にも向いている。

【石油】OPEC増産か 価格動向は不透明

【業界スクランブル/石油】

今年に入り、原油価格は方向感覚を欠く不安定な動きを示している。年明けは堅調に推移したが、2月には弱含んだ。3月上旬時点では、WTI先物70ドル台後半、ブレント・ドバイ80ドル台前半で動いている。最近の上昇要因は、ロシアの経済制裁への対抗減産懸念、中国のコロナからの経済回復期待。低下要因は米欧の利上げ継続・長期化観測に基づく景気後退懸念。問題は先行きである。

最近新しい要素として挙がっているのは、次回6月のOPECプラス閣僚会合(ONOMM)における増産合意観測である。先行きの需給ひっ迫懸念に対応して、現行の日量200万バレル減産維持方針を増産に転換するのではないかとの見通しだ。

ただ、OPECプラスの期待原油価格が問題である。特に、戦費確保が必要で減産によって先進国に脅しをかけるロシアと脱炭素に向けて高めの価格誘導を図るサウジアラビアが、意図に反する増産に賛成するかは疑問だ。

また一部の専門家は、経済制裁によるロシアの中長期的な減産影響を指摘する。「ハリバートン」や「シュルンベルジュ」といった上流専業の欧米先進国企業のロシア撤退で、開発や生産の維持管理の停滞により、生産の先細り必至との見方だ。戦争長期化で、その影響が出始める時期との観測もある。脱炭素政策による投資不足、増産余力不足と相まって、中長期的懸念事項である。

国内では、6月から燃料油補助金の本格的削減が始まり、9月末には終了の予定である。国内製品価格は、補助金効果で安定的に推移し、ウクライナ戦争や円安の影響がほとんどなかった昨年とは異なり、原油価格への連動が回復することになる。その意味からも価格の先行きが心配だ。(H)

軍事侵攻開始から1年超 サプライチェーンの激変を振り返る

【論点】露・ウクライナ戦争下のエネルギー情勢/藤 和彦 ・大場紀章 ・栗田抄苗

ロシア・ウクライナ戦争が1年以上続き、世界情勢のあらゆる場面に影響を及ぼし続けている。

昨年2月下旬以降に様変わりしたエネルギー事情を、専門家がそれぞれの視点で振り返る。

「ロシア・ファクター」は一服へ  中長期の原油高騰リスクは健在

(藤 和彦 経済産業研究所コンサルティングフェロー)

ロシアのウクライナ侵攻から1年が経った。米WTI原油先物価格(原油価格)はこのところ開戦前の水準(1バレル65~75ドル)で推移している。

昨年の原油市場はロシア情勢に振り回されたと言っても過言ではない。「欧米がロシア産原油を禁輸する」との懸念から、原油価格は開戦当初、130ドルを超えたが、年半ばから下落傾向が顕著になった。インドがロシア産原油を安値で爆買いする一方、欧州は米国や中東産でその穴を埋めるという「市場の調整メカニズム」が働いたからだ。

その後、ロシア産原油に上限価格を設定する制度を導入するG7(主要7カ国)などに対し、ロシア側が報復措置を取ると反発したことから、再び供給不安が懸念されたが、制度導入後に大きな混乱は生じていない。今年1月のロシア産原油が50ドル以下に落ち込む中、タンカー運賃の低下や旺盛な需要などのおかげで、G7などが設定した上限60ドルに向けて価格が上昇している。

世界の原油市場に大きな影響を与えてきた「ロシア・ファクター」だが、筆者はようやく一段落したのではないかと考えている。

足元は各国の中央銀行の利上げによる需要減の懸念があるものの、ゼロコロナ政策を解除した中国の需要が急回復するとの期待が高まるばかりだ。サウジアラビアの国営石油会社・サウジアラムコのナセルCEOは3月初旬、「中国の原油需要は非常に強い」と語った。同様の見方を有する米金融大手ゴールドマン・サックスも「今年下半期まで世界の原油市場は供給不足に陥り、原油価格は再び100ドル超えになる」と予測する。

だが、果たしてそうだろうか。

ゼロコロナ政策が解除されても、中国人の財布のひもは堅く、住宅や耐久消費財の購入需要の戻りが鈍い。持続的な消費回復のためには雇用状況の改善が欠かせないが、さらに悪化しているとの指摘もある。製造業は回復基調にあるとされているが、経済の屋台骨である不動産市場が回復する兆しはほとんど見えていない。中国経済は構造的な課題に直面しており、ゼロコロナ政策の解除程度で経済が急速に回復するとは思えない。

世界経済も今年後半から景気後退(リセッション)入りする可能性が高まっており、「今年の原油価格は高騰するよりもむしろ下落する」と筆者は予測している。

だが、中長期的に原油価格が高騰するリスクは高いと言わざるを得ない。石油輸出国機構とロシアなどで構成するOPECプラスは、昨年11月から日量200万バレルの減産を実施しているが、実際の生産量が目標に達しない状態が続いている。

OPEC第3位の産油国であるアラブ首長国連邦(UAE)のマズルーイ・エネルギー相は2月中旬、「一部の産油国が生産や投資に苦戦している。来年の世界の原油市場は需要よりも供給がより大きな問題になる」と警告を発している。

米国の原油生産量も日量1200万バレル強で頭打ちとなっている。シェール革命やコロナのパンデミック、脱炭素のせいで、世界の原油開発部門の投資が慢性的に不足していることがその要因だ。世界の原油生産量(日量約1億バレル)は今後減少する可能性があり、そうなれば原油価格の高騰は必至だろう。

日本の原油輸入の中東依存度が98%と過去最高レベルになっている点も気掛かりだ。米国が関与を弱めつつある中東の地政学リスクをこれまで以上に警戒しなければならない。

G7 は情勢変化に翻弄され、ロシアも厳しい状況が続く

ふじ・かずひこ 1984年早稲田大学法学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。エネルギー分野で多数経験を重ねる。2003年~11年まで内閣官房に出向(内閣情報分析官)。21年1月から現職。

【ガス】都市ガス会社の好決算 手放しで喜べず

【業界スクランブル/ガス】

1月下旬に発表された第3四半期決算を見ると、東京ガスが3250億円と史上最高益を見通すなど、総じてLNGを輸入している都市ガス事業者は対前年で大幅に利益を伸ばしている。一方、電力会社は東京電力が5020億円の赤字を見通しているように、一様に財務状況は厳しい。電力・ガスで明暗がはっきり分かれた形だ。

ただ共通して言えるのは、高いスポットLNGを購入しなくて済んでいることだ。ウクライナ侵攻後、天然ガス不足の欧州で市場価格高騰に引っ張られる形で、北東アジア向けのスポットLNG価格も値上がりし、長期契約LNG価格の2〜3倍する状況が継続。これに伴い、日本に入着するLNGの平均価格(JLC)が引き上がっており、長期契約で需要量を確保している都市ガス事業者は、JLCよりも安価な価格でLNGを調達できており、その差分が収支上のメリットになっている。

量のリスク回避を優先して長期契約で需要量を固めてきたことが、今の環境下では経営を助ける方に効いている。現在の状況が続けば、「結果オーライ」的に高収益は継続するだろう。しかし、このメリットは他力本願で得られているものだ。

例えば、サハリン2からのLNG供給がストップした瞬間にこのメリットは消えてしまう。不足分を高価なスポットLNGで充てるからだ。欧州の天然ガス価格が下落すると、連動して北東アジアのスポットが長期契約を下回る価格に急落して、今度は安いスポットを購入できず、デメリットに変わる。

今回の高収益は決して手放しで喜べないものだ。このタイミングを好機と捉えて、中長期的なスポットLNG価格のボラティリティを前提とした、リスク管理体制をきちんと構築していくべきだろう。(G)

エネルギー安全保障は安くない

【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

ロシアのウクライナ侵攻で加速したエネルギー危機を背景に「エネルギー安全保障」という言葉が大はやりだ。引き合いに出されるのは、ロシアの天然ガスへの依存を高めてしまったドイツである。

調達の現場にいた自分の感覚で言うと、エネルギー安保とは「ソースの選択肢」、「物流」および「備蓄」の確保ではないかと思う。現下の状況では、ふむふむとうなずいていただけるのだが、平時には「無駄」と言われて評判の悪いものばかりである。「選択肢」の確保とは、最適とは言えないソースも捨てないことだ。また、効率化経営では、余分な備蓄や輸送手段を持たないのが基本だ。安保は決して安くはないことを理解してもらわねばならないのだ。

ドイツの政策は、ある意味、理想的であった。脱原子力を決意した国として、再エネに注力する一方、当面、必要な火力の燃料を低炭素の天然ガスに絞り込む。主要供給元は、世界一の生産を誇り、パイプラインで大量・安定輸送が可能なロシアである。地政学的脅威であるロシアとの相互依存関係を構築するという政治的意義もある。絵にかいたような計画ではないか。ところが「鴨川の水に山法師、賽の目」の如く、世の中、意のままにはならぬこともある。従って、いまドイツはLNGを選択肢に加え、その受入基地という物流を整備し、従来にも増して備蓄を積み上げる努力をしている訳だ。

非常事態になってから繰り出す、こうした泥縄のプランは、「羹に懲りて……」ということになりがちで、高く付くことも多い。資源市場がひっ迫するたびに、割高になった権益を求めに行って失敗するのも、このパターンではないか。平時のうちに、どこまでの無駄を許容するかという議論を重ねて、継続可能な手を打っておくべきものなのだ。

【新電力】足元は安価に推移も 危険な卸市場依存

【業界スクランブル/新電力】

今冬の電力卸市場価格は、懸念された高騰もなく、穏やかに推移した。自社電源を保有しない多くの新電力は存亡の危機を逃れ、安堵していることであろう。

ただ、至近のスポット価格は下落しているとはいえ、3年前と比べLNGは依然として高い。今冬の市場価格をファンダメンタルズだけで分析するには、やや無理があり、大手発電事業者が限界費用での玉出しをせざるを得なかった事情が背景にあるものと推察される。

今後も卸市場は、一部の大手プレーヤーの思惑や動向で左右され続け、市場価格が安定推移している状況に安閑としている限り、新電力はその存続の生殺与奪を握られ、経営の安定化は到底おぼつかないままだろう。

一方で、行政による内外価格差是正の指導徹底により、2023年度の電力相対卸価格は、これまで優遇を受けていた一部の新電力も含め、例外なく、燃料費調達条項を含む限界費用に加え、固定費と一定の利潤を上乗せした価格(個人的には、これが適正価格だと考えているが)で契約したと聞く。これは、足元の電力市場価格を相当上回る水準と推定される。

自社電源を保有しない大多数の新電力は、その比率に差異があるとはいえ、卸市場と相対卸契約双方から電源の調達を行っている。足元は安価であるが一部プレーヤーの動向次第で価格が大きく変動するリスクがある卸市場と、足元は高価であるが卸市場ほど価格変動がなく燃料費調整条項の設計次第では顧客への価格転嫁が可能な相対卸契約、どちらも一長一短がある。

新電力各社は、自社にとり最適な電源調達ポートフォリオを構築するとともに、市場変動・燃料費変動リスクを最小化する独自の小売価格を設定することが経営安定化に不可欠だ。(K)

アジアゼロエミの初会合 G7控えた日本が存在感示す

【ワールドワイド/環境】

3月4日にアジアの脱炭素化で日本と各国が相互協力する枠組み「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」の第1回閣僚会合が開催された。会合には西村康稔経済産業大臣、西村明宏環境大臣に加え、インドネシア、ブルネイ、カンボジア、フィリピン、ラオス、マレーシア、シンガポール、タイ、ベトナム、豪州が参加した。アジア地域は高い経済成長を背景に今後の世界のエネルギー需要、CO2排出量の増分の大部分を占め、パリ協定が目指す脱炭素化の帰趨を握る。同時にウクライナ戦争などによるエネルギー価格高騰はアジア諸国に大きな負担をもたらしている。共同声明の中では、アジアの経済成長を実現しつつ脱炭素化を進めることが重要であること、脱炭素化への道筋は各国の実情に応じた多様で現実的なものであるべきこと、再生可能エネルギー、水素、アンモニア、CCUSなど幅広い技術の開発、普及が必要であることなどを内容とする共同声明が採択された。

パリ協定の下で国際社会は脱炭素化に向けた取り組みを行っているが、気候変動枠組み条約締約国会合(COP)においては、1.5℃目標、2050年カーボンニュートラルを絶対視する観点から化石燃料および化石燃料関連技術を全否定する議論が目立つ。21年のCOP26で採択されたグラスゴー気候合意には石炭火力の段階的削減が盛り込まれた。岸田文雄首相は水素、アンモニア、CCUSの重要性を強調したが、環境NGOは「化石燃料の存在を前提とした技術である」と批判し、日本に化石賞を授賞した。22年のCOP27で欧米先進国は段階的削減の対象を化石燃料火力全体に広げる提案をした(途上国の反対により、決定文書には反映されなかった)。こうしたCOPの議論は、エネルギー供給の大部分を化石燃料に依存し、需要が増大傾向のアジア地域のエネルギーの実情と乖離している。事実、AZEC会合では各国が異口同音に天然ガス投資の必要性、化石燃料使用に伴うCO2削減に対する水素、アンモニア、CCUSの重要性を強調した。

日本がAZECを提唱した背景は、各国の国情を踏まえたプラグマティックで多様な道筋と域内協力の重要性についてアジア地域の声を挙げていこうというものだ。アジア唯一のG7国である日本が23年広島サミットの前にアジア地域の声を集めた意義は大きい。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【電力】市場の信頼を棄損 残念な不正閲覧問題

【業界スクランブル/電力】

昨年末以降、一般送配電事業者が保有する新電力の顧客情報が、グループ内の小売り部門により不正に閲覧されていた事案が、多数発覚している。

一般送配電事業者は電気事業法で、託送業務に関して知り得た顧客情報を託送業務以外の目的で利用あるいは提供することを禁止されている。また、その情報を適切に管理する体制を整備するよう求められている。

この対応としてまず必要なのは、他部門に開示してはいけない情報のマスキングであるが、法律の求めるシステム対応ができておらず、しかもこれがグループ内で長年問題視されずにきた意識の欠落は深刻だ。

そして関西電力が行ったアンケートに関する報道によれば、回答した小売り部門社員の4割が電事法上問題になり得ると認識しながら閲覧し、6割は問題になるとの認識がなかったというのも驚きだ。系統運用部門のように、日常的に新電力情報を扱うわけではないゆえかもしれないが。

今の電事法にはこのような情報閲覧自体を違法とする規定がない。インサイダー取引にも似た市場の信頼を棄損する行為といえ、相応の罰則を設けるべきとの意見が出るのは当然だろう。

適切な情報管理は市場の信頼を確保する肝であり、この点では電力広域的運営推進機関においてこの際点検すべきではないか。広域機関には大手・新電力を問わず小売り・発電部門からの出向者がいる一方、各発電・小売り事業者の供給計画や需給計画の情報が集まってくる。これらの情報を持ち出しはしないという誓約書は作っていると聞くが、それだけで十分なのか。この機に適切なガバナンスを模索するべきだろう。(U)

※3月号本欄で「再稼働したら値上げする」とあるのは「再稼働したら値下げする」の誤りでした。訂正します。

【マーケット情報/4月14日】原油続伸、景気と需要回復の見通し

【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続伸。米国経済のインフレ緩和から、景気と需要回復の見通しが広がった。

米国では、3月の消費者物価指数の伸びが前月から鈍化。前年同月比での上げ幅は、2021年5月以来の最小となった。これにより、米連邦準備理事会による金利引き上げのペースが緩み、景気が改善し、原油需要が増加するとの見方が強まった。

また、フランスでは、労働者ストライキのため停止中だった製油所および港湾施設が再稼働。原油消費が戻るとの観測が台頭した。

供給面では、米エネルギー情報局が、OPECプラス8カ国による自主的な追加減産を受け、世界の原油生産量の予想を下方修正。国際エネルギー機関も、供給が需要を一段と下回るとの予測を発表した。

一方、米メキシコ湾では、英石油メジャーBPがオフショア油田で新規生産を開始。ただ、油価への影響は限定的だった。

【4月14日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=82.52ドル(前週比1.82ドル高)、ブレント先物(ICE)=86.31ドル(前週比1.19ドル高)、オマーン先物(DME)=86.02ドル(前週2.12ドル高)、ドバイ現物(Argus)=85.78ドル(前週比1.14ドル高)

※4月7日はロンドンおよびシンガポールが祝日で休場だったため、4月6日との比較。

重要法案成立で再エネ加速へ ドイツの野心的目標と課題

【ワールドワイド/経営】

ドイツでは、今年1月~2月にかけて「改正再エネ法」や「陸上風力法」などの重要法令が施行された。

前者が掲げる「2030年までに電力消費に占める再エネの割合を80%にする」という目標に向けて、風力・太陽光の導入ペースを従来の3倍に加速する方針だ。ショルツ首相は「30年まで、1日に平均4~5基のペースで陸上風力タービンを建設する」と約束しているが、実現可能なのか。

導入拡大の追い風となる動きもある。ロシアのウクライナ侵攻を契機にエネルギー安全保障がクローズアップされ「自立のためのエネルギー」である再エネの重要性が再認識された。一般家庭では、電気料金高騰対策として自家発自家消費への関心が高まり、ルーフトップPVがブームとなっている。需要の急拡大にパネル設置業者の対応が追い付かず、順番待ちリストができているという。

陸上風力に関しては、連邦政府が各州の立地規制への介入を強めている。冒頭で挙げた陸上風力法は、「30年目標達成のため国土の2%に風力タービンを設置する」方針の下、全16州に対して拘束力のある目標を設定している。例えば、風況に恵まれ全国で風力導入量が最多のニーダーザクセン州では、32年までに州面積の2・2%を風力タービンが設置可能な区域に指定する必要がある。目標未達の州に対しては、風力タービンと住宅地の離隔距離を規制する州法令を無効化し、政府目標の達成を優先する。

野心的な目標の前に、課題も山積している。世界的なインフレによる原材料価格の高騰は、再エネ開発事業者の投資意欲に悪影響を及ぼす可能性がある。許認可手続きのさらなる迅速化や、再エネ開発に従事する技術者の育成・確保も大きな課題である。また、30年目標を達成したとしても、天候に左右されない調整電源は引き続き必要になる。このため、連邦政府は天然ガス火力・バイオマスなどの発電設備容量を倍増させる方針である。

脱原子力・脱石炭を選択したドイツにとって、再エネ導入と調整電源の確保は将来の電力安定供給の要である。これらに十分な投資が集まらなければ、ドイツは供給力不足を回避するため他国からの電力輸入への依存を強めざるを得ない。脱石炭のため電力市場から退出させた石炭火力を、予備電源として使い続けることも考えられる。野心的な目標を理想のままで終わらせないために、ショルツ政権の奔走は今後も続く。

(佐藤 愛/海外電力調査会・調査第一部)

ルラ大統領が返り咲き ブラジル油田開発は停滞か

【ワールドワイド/資源】

2023年1月、ルラ氏がブラジル大統領に返り咲いた。

ルラ氏、ルセフ氏が率いた03年から16年の労働者党政権は、石油産業の発展とともに、経済を発展させ、国内産業の振興を図ることを目指した。国営石油会社ペトロブラスは政府の一機関として、石油・ガス関連の全分野で中心的役割を果たすことを求められた。

そして、輸入したガソリンなどをブラジル国内において割引価格で販売して、その逆ザヤを負担し、多額の負債を抱えた。大規模油田が発見されたプレソルト(リオデジャネイロやサンパウロ沖に延長約1000㎞、幅約100㎞にわたる下部白亜系岩塩層直下の炭酸塩岩を貯留岩とする地質構造)エリア内新規鉱区では、ペトロブラスがオペレーターを務めた上に、鉱区入札があまり実施されず、外資の参入機会が制限された。

その後のテメル政権、ボルソナロ政権は、ビジネス志向、市場志向の探鉱・開発政策をとった。ペトロブラスは、政府から独立した石油会社として活動するようになり、収益性の高いプレソルトの油田開発に注力し、製油所や陸上、浅海の成熟油田や小規模油田、ブラジル国外の資産を売却して、負債削減を図った。

ガソリンなどの価格は国際市場価格に連動させることになり、この件でペトロブラスが新たに負債を抱えることはなくなった。ペトロブラス以外の企業もプレソルトエリア内新規鉱区でオペレーターを務めることが可能になり、鉱区入札も頻繁に実施されたことで、メジャーなど外資の参入が進んだ。一方、ペトロブラスが売却した陸上や浅海の油田をブラジルの地場企業が買収し、長年ペトロブラスが放置していたこれらの油田の開発を進めた。

その結果、プレソルトを中心にブラジルの石油生産量は日量300万バレルを超える水準まで増加した。政府系研究機関によると、同国の石油生産量は29年には日量540万バレルまで増加する見通しだという。

しかし、ルラ政権再起により、以前の労働者党政権と同様、政府がペトロブラスへの関与を強めたり、外資参入を制限したりする政策がとられ、同国の探鉱・開発が停滞するのではないかと懸念する声が浮上している。ルラ新政権は早速、ペトロブラスに対し3月1日から90日間、資産売却を停止するように要請した。また、同日より4カ月間、原油輸出税を課すこととした。今後、どのような政策がとられることになるのか、状況を注視していく必要があろう。

(舩木 弥和子/独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

JAXA会見でネットが炎上 電気新聞が共同記者を「退治」

【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

失敗から学んだのか。そう嘆息する。毎日2月26日「西山太吉さん死去、元本紙記者、沖縄返還密約追求、91歳」である。

まずは比較的公正な産経同日「西山太吉さん死去」から。「昭和47年(1972年)の沖縄返還を巡る密約を報道し、国家公務員法違反で有罪となった元毎日新聞記者、西山太吉氏が24日、北九州市内で死去」とある。取材で有罪とは穏やかではない。「政治部記者だった46年、外務省の女性事務官から沖縄返還での日米密約に関する機密公電のコピーを入手、報道」し、罪に問われた。

問題の「密約」は、返還に伴う日本の費用負担を取り決めた内容とされる。オモテの返還協定にないウラの費用負担が疑われたが、政府は密約の存在を否定した。

政府のウソに肉薄した点は評価する。が、その後は解せない。

西山氏は「(公電の)コピーを当時の社会党国会議員、横路孝弘氏に提供し、横路氏が47年3月の衆院予算委員会で、佐藤栄作内閣を追及したことで、公電の出所が判明。同年4月に事務官とともに国家公務員法違反容疑で警視庁に逮捕、起訴された」という。

取材源の秘匿は記者の鉄則だ。脇が甘い。当局は、女性事務官と西山氏の不倫関係に焦点を当て、事件をスキャンダルに仕立てた。毎日には非難の電話が殺到し購読者数が急減、経営が傾いた。

その毎日の記事は、西山氏について「密約文書を入手、報道し国家公務員法に問われながらも、情報公開請求訴訟などを通じて密約問題の追及を続けた」とヒーロー扱いする。「さらに横路議員(故人)に懇願され、電信文を提供」と、取材源を守れなかった責任を先方の「懇願」に帰す。メディア不信の現状が見えていない。

東京2月18日「H3ロケット発射できず、異常検知」は「衛星打ち上げは失敗」と書く。前日のH3ロケット打ち上げ試行時のトラブルを報じた記事だが、衛星やロケットが壊れた訳ではない。他紙は「打ち上げ中止」だった。

前日の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の記者会見で、東京に記事を配信する共同通信の記者が「失敗ではないか」と問い詰めた。その挙げ句に「それは一般に失敗と言います。ありがとうございま〜す」と捨て台詞。ネットでは「無教養のバカ」と炎上した。

2月28日電気新聞「『誘導』報道、見抜かれている」はこの記者を扱う。ネット炎上により「懐かしい顔を拝見した」からで「10年ほど前に原子力規制委員会の会見でご一緒した」という。

当時、「規制委が行った(原子力発電所の)敷地内断層の活動性に関する審査でも、当該記者は似た対応」「規制委側が『現状のデータでは活動性がないと言い切れない』との判断を示しても、『それはつまり活断層ですよね』などと会見で誘導」「引きずられる形で地方メディアなども『活断層』と報じていた」と振り返る。

その上で「現在は誰でもネットで記者会見を見られる。記者の知識不足が露呈したり誘導質問をしたりすると、SNS上で厳しい指摘を受ける。結果的にマスメディアの信用が失われる」「脚色した記事を流し続けていると、自らの首を絞めるようなものだ」。

全面的に同意する。

H3は3月7日、再び打ち上げに挑んだ。読売8日「『H3』1号機失敗、2段エンジン着火せず」は「大打撃」と伝える。記者と違い技術者は失敗に学ぶ。成功の母なのだから。次回に期待する。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

【コラム/4月14日】コンプライアンス違反と送配電の一層の分離

矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

大手電力会社の送配電子会社が管理する新電力の顧客情報を、同じグループの小売会社に漏洩させていたことが発覚した。送配電子会社には、「行為規制」が導入され、情報交換のみならず、役員人事などの交流も制限されていた。しかし、送配電と小売りの情報遮断ができていなかったことから、法的分離と「行為規制」の限界を指摘し、送配電の中立性を高めるために、送配電の所有権の分離を含むさらなる構造分離を求める声が上がっている。そこで、本コラムでは送配電のさらなる構造分離について考えてみたい。

まず、欧米における送配電の構造分離について見てみたい。指摘しておかなくてならないことは、わが国では、ネットワークは送配電が一括で分離されているが、欧米では、送電と配電それぞれが分離されていることである。配電の分離については、別の機会に論じることとして、ここでは送電の構造分離に焦点を当てることにする。欧州では、送電については、大部分の国が、法的分離か所有権の分離を採用しているが、所有権の分離が主流である。2009年のEU指令で、これらに加え、米国にみられる独立系統運用者も採用可能だが、その例は2か国にとどまる。法的分離については、親会社との人材の異動の制限に加えて、独立の意思決定機関の設置と独立の資金調達・送電計画などが義務づけられており、厳しい規制が課せられている。所有権の分離が多いのは、欧州では電気事業は国営・公営である(であった)国が多いため、送電の分離は、議会の決定のみで可能であったことが大きい。これに対して、民営の電気事業の場合は、所有権の分離の強制は財産権に抵触することになる。

米国では、送電を所有する電気事業の大部分は民営であるため、所有権の分離は憲法上難しいとの判断から、送電資産は電気事業のもとに残し、系統運用のみを独立の機関に委ねる例がほとんどである。同国では、系統運用のみに従事する独立の送電組織は、ISO(independent system operator )またはRTO(regional transmission operator)と呼ばれる。RTOはISOの機能に付加して、複数州での活動、送電拡張の計画策定の責任を要件として加えた形式である。

つぎに、所有権の分離や、独立の系統運用者の設立など一層の構造分離のメリット・デメリットを考えてみたい。法的分離も構造分離の一形態であるが、以下に述べるメリット・デメリットは送電の構造分離が一層進むほど顕著に現れる。メリットは、系統へのアクセス条件を整備することによる競争の活性化である。デメリットには技術的な問題と経済的な問題とがありうる。技術的な問題は、通常は生じないが、事故の復旧の際に情報交流などで生ずる可能性がある。例えば、2003年の北米大停電では、復旧に時間がかかった理由の一つは、送電分離により、発電側と送電側の情報交流がスムーズにいかなかったことが指摘された。経済的な問題としては、まず、範囲の経済性の喪失がある。多くの実証分析が垂直統合の経済性を明らかにしているものの、電力自由化はこのような研究成果を十分考慮していなかったとの指摘がある。

経済的な問題としては、さらに、発電と送電が分離されることによる取引コストの増大が挙げられる。米国の自由化優等生と言われる独立系統運用者pjmの例では、RTOの設立で、発電事業者は、RTOに対して発電電力を入札するが、戦略的な行動を防ぐための膨大なルールが存在し、その監視のためのコストが増えている。従来の電気事業体制では、発電はメリットオーダーに基づき、送電部門によりコマンド・アンド・コントロールでディスパッチされていた。コマンド・アンド・コントロールでは、このような取引コストは発生しない。

一層の構造分離の是非は、このようなメリット・デメリットの比較に基づかなくてはならない。今回の出来事は顧客情報に関するコンプライアスに起因する問題であるが、電気事業は、この機会に、コンプライアンスの総点検をしてみる必要はないか。電気事業としては、これ以上の信用失墜は絶対に避けなくてはならいだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

社会経済が崩壊しては意味なし エネルギー確保を最優先に

【オピニオン】古野 志健男/SOKENエグゼクティブフェロー

ロシアによるウクライナ侵攻から1年。欧州を中心とした世界のエネルギー事情が大きく様変わりした。過去に類を見ないエネルギー危機に直面している。

2022年2月24日の侵攻から約2週間後には欧州委員会(EC)がREPowerEUというアクションプランを発表。30年までの早い段階でロシアの化石燃料依存から自立するというものだ。欧州連合(EU)は、20年時点でロシアから天然ガスと石油はそれぞれ約4割、石炭でさえ約2割を輸入している。

同プランの基本方針は、ロシア以外からの多方面(北海やアフリカ)からパイプラインによる天然ガスの輸入拡大、再生可能エネルギー由来の水素やバイオメタンの拡大であるが、一朝一夕にはいかない。22年度の冬期は、備蓄している天然ガスなどで賄えたようだが、来シーズンにはめどがないという。既にドイツなどでは石炭火力発電が増加している。

22年、ECは課題山積みだった。REPowerEUの推進、21年に提案したCO2を30年には1990年比で55%削減するというFit for 55の欧州議会や理事会などでの決議、延び延びになっていた車の次期排出ガス規制Euro7の提案など。

結果論かもしれないが、結局上記の優先順位で進められ、Euro7提案が約1年も遅れたのだ。もちろん、どれも重要な案件だが、まずエネルギー確保が最優先というのは言うまでもない。大気環境の保全やカーボンニュートラル(CN)だけが先に進んでも、社会経済や国が崩壊しては意味がない。

皮肉にも、プーチンは世界がCNの傘の中に隠していたエネルギー問題をあぶり出したのだ。CNは世界共通言語で、国々のGDPなどに合わせて平等に議論できたのに、エネルギー問題が表に出ると利害関係が平等ではなく、国や地域間の調整がより難しくなる。

今、再エネの豊富さで一番注目されているのがアフリカだ。国際エネルギー機関(IEA)は22年のアフリカエネルギーアウトルックで、現在世界のエネルギー供給量に匹敵するグリーン水素をkg当たり2ドルで生産できるポテンシャルがあると報告する。サハラ砂漠を中心に全土で太陽光・風力・地熱発電、中南部ではバイオマスや水力発電が豊富と、再エネ電力の宝庫である。しかも発電コストが安く、すなわち水電解でのグリーン水素もお手ごろということになる。

ただ現状、再エネ事業は増えているが、アフリカ諸国は足元の電力不足により化石燃料由来の電力政策で手一杯。加えて化石燃料による火力発電への投資が足かせとなっている。ドイツ、中国を中心に世界各国がアフリカの再エネ電力に我先にと投資・参入しているが、さらにアフリカ諸国へ大型投資と強力なプロジェクト体制で支援していくべきだろう。

社会経済がまず安定してこそ、普段の生活ができる、そのためにエネルギーは人類平等に必須である。その基盤の上にCNや大気環境の保全を達成しなければならない。どうする世界?

ふるの・しげお 1982年豊橋技術科学大学電気電子工学専攻修了、現トヨタ自動車入社。2005年エンジン先行開発部長。12年現SOKENに転籍し20年専務。18年から日本自動車部品工業会技術顧問を兼務。