テーマ:電気料金規制見直し
燃料価格の高騰と度重なる電力需給ひっ迫を背景に、経過措置料金規制や最終保障供給約款の在り方が問われ始めている。自由化と需要家保護の間で料金制度はどうあるべきか。
〈出席者〉Aガス業界関係者 B電力小売り事業関係者 C元大手電力関係者
―電力の需給ひっ迫と卸価格高騰が、全面自由化後の電気料金制度の欠陥を露呈させた。
A 今起こっている事象は、電気・ガスを含むエネルギー自由化を選択した日本が通らざるを得ない道だ。規制と保護よりも自由化を選択したはずなのに問題が起きると制度がおかしいという話になるが、こういうことを経験しながら理想的な制度にしていくべきなのだろう。都市ガス業界は、経過措置規制が解除されつつある。電気の経過措置規制も同様に、競争が促進されていることを前提に経過措置を外すのがあるべき姿だ。
B 自由化されたにもかかわらず、旧一般電気事業者も新電力も横並びになっていることに違和感がある。新電力が提供する料金メニューは、旧一電の規制料金に対して何%割り引くといったものばかり。事業者側のこの横並び意識を変えない限り、制度を見直しても何も変わらないし自由化は失敗する。今、特に通信系の新電力が過去の習慣にとらわれない新しいメニューを打ち出し始めている。この期に及んで、これまでの延長線上で戦おうとする事業者は、大手であろうと新電力であろうと淘汰されていくだろうね。
C 旧一電は、料金改定に伴う原価の洗い替えを極端に嫌がっているようだ。需給計画を立てそれに対応する原価を計算した上で料金を算定し、パブコメにかけて経済産業相の承認を得るというプロセスの多さを考えると、料金見直しは割に合わないというのも理解できる。そうであるならば、極めてスピーディーに改定できるようにルールを変更するべきだ。毎年度の決算で利益とコストを出しているのだから、そのデータを元にできるのではないか。その点、都市ガスでは収支状況が逐次反映されている。
A 確かに都市ガスの託送収支については、決算の数字を踏まえ収支計算の報告書を提出するし、改定時の料金原価との整合を見ている。その結果、超過利潤が出ていたり改定の率が低かったりすると電力・ガス取引監視等委員会の指導を受けることになる。経過措置料金についても同様の事後評価を行っており、電気も同様のはずだが。
C いずれにしても、料金改定に踏み切らなければならないタイミングが来ている。新電力の多くは、旧一電の規制料金と同様に燃料費調整制度を設け調整単価に上限を設けている。上限を外してしまうと、燃料費高騰局面では規制料金よりも高くなってしまうからね。本音では上げたいけど、旧一電よりも低廉な価格であることを訴求しているから上げられない。特に家庭向けでシェアを伸ばしているガス、通信系の新電力は、上限撤廃で集客に歯止めがかかってしまうことは相当な痛手になる。
B 多くの小売り事業者が、そろって燃調の上限を撤廃したい、もしくは独自燃調を取り入れたいと言うけど、やっぱり実現は難しい。需要家に料金体系を説明することが難しくなるし、何より燃調次第で規制料金を上回ってしまうリスクがある。分かりやすさにこだわるばかりに、オリジナル性も失っているわけだけど。

大幅な赤字決算でも 料金改定に二の足踏む旧一電
―規制料金が残っていることが、新電力のメニュー作りをマンネリ化させているのかな。
A ガスは、2017年の小売り全面自由化に際して、経過措置料金規制の撤廃を判断する四つの基準を設けた。電気は自由化時にはその基準の設定がなかったが、19年に電力・ガス取引監視等委員会が基準を作り、今後はそれに基づいて撤廃が議論されるのだろう。だけど、果たしていつ撤廃が現実のものになるのだろうか。
C エリア内に5%以上のシェアを持つ事業者が複数いて、競争環境もイコールであれば撤廃するという条件を達成するのはほぼ不可能だよ。東京と関西エリアにはシェア5%以上の新電力があるとはいえ、どちらも大手都市ガス会社がかろうじてクリアしているのみ。KDDIはシェアを伸ばしているけど、大手電力会社の代理販売なのでこの条件では考慮されない。規制撤廃には程遠いよ。
B 今、新電力の経営がますます厳しい状況に追い込まれているから、代理販売や取次が増えていけば、ますます規制撤廃できずに競争者がいなくなる可能性がある。
A 旧一電は、戦略として料金を見直さないのではないかと勘繰ってしまう。見直しによって新電力が息を吹き返してしまうくらいなら、多少の取りっぱぐれをしばらくの間耐え、上限バンドを外した新電力から需要家が自社に戻ってくるのを待とうとしたたかに考えている旧一電がいてもおかしくない。確かに21年度の決算は厳しかったけど、単純に燃調の期ずれの問題だとすると、今年度は、さらに燃料調達コストが上がるようなことがない限り回収局面になって利益が出るのではないか。
B 旧一電側の話を聞いていると、昔は無視できる程度の差分だったが、今は無視できるような金額ではないというよ。料金改定したいのが本音だと思う。
―調整単価が上限に張り付いているところはこれ以上価格に転嫁できず厳しいが、北海道、東京、中部あたりはまだ上限に達していないので回収局面というとらえ方ができるかもしれない。
B 欧州の旺盛な需要を踏まえても、そう簡単に燃料コストが下がることはないだろう。電力需給にしても、18年夏に初めて燃料制約による需給ひっ迫が起きて価格がスパイクしたが、LNGの備蓄基地が整備されたわけでもなく何も変わっていない。むしろ火力の休廃止が進んだ分、悪化してしまっている。
C 危機を乗り切ってしまうと、まあいいかと正常化の流れが止まってしまうのがいつものパターン。この2年、同じような事象が繰り返し起きたことでようやく尻に火が付き議論が前に進み始めた。
B 小売り事業者は、24年度に支払い開始を控える容量市場を懸念している。果たして新電力は容量拠出金に耐えられるだろうか。容量分の単価を転嫁できるよう料金メニューを切り替えておかないと、今度は容量拠出金のために需要家を失うことになる。