【覆面ホンネ座談会】電気料金規制を巡る想定外 電力需給危機で欠陥露呈


テーマ:電気料金規制見直し

 燃料価格の高騰と度重なる電力需給ひっ迫を背景に、経過措置料金規制や最終保障供給約款の在り方が問われ始めている。自由化と需要家保護の間で料金制度はどうあるべきか。

〈出席者〉Aガス業界関係者 B電力小売り事業関係者 C元大手電力関係者 

―電力の需給ひっ迫と卸価格高騰が、全面自由化後の電気料金制度の欠陥を露呈させた。

A 今起こっている事象は、電気・ガスを含むエネルギー自由化を選択した日本が通らざるを得ない道だ。規制と保護よりも自由化を選択したはずなのに問題が起きると制度がおかしいという話になるが、こういうことを経験しながら理想的な制度にしていくべきなのだろう。都市ガス業界は、経過措置規制が解除されつつある。電気の経過措置規制も同様に、競争が促進されていることを前提に経過措置を外すのがあるべき姿だ。

B 自由化されたにもかかわらず、旧一般電気事業者も新電力も横並びになっていることに違和感がある。新電力が提供する料金メニューは、旧一電の規制料金に対して何%割り引くといったものばかり。事業者側のこの横並び意識を変えない限り、制度を見直しても何も変わらないし自由化は失敗する。今、特に通信系の新電力が過去の習慣にとらわれない新しいメニューを打ち出し始めている。この期に及んで、これまでの延長線上で戦おうとする事業者は、大手であろうと新電力であろうと淘汰されていくだろうね。

C 旧一電は、料金改定に伴う原価の洗い替えを極端に嫌がっているようだ。需給計画を立てそれに対応する原価を計算した上で料金を算定し、パブコメにかけて経済産業相の承認を得るというプロセスの多さを考えると、料金見直しは割に合わないというのも理解できる。そうであるならば、極めてスピーディーに改定できるようにルールを変更するべきだ。毎年度の決算で利益とコストを出しているのだから、そのデータを元にできるのではないか。その点、都市ガスでは収支状況が逐次反映されている。

A 確かに都市ガスの託送収支については、決算の数字を踏まえ収支計算の報告書を提出するし、改定時の料金原価との整合を見ている。その結果、超過利潤が出ていたり改定の率が低かったりすると電力・ガス取引監視等委員会の指導を受けることになる。経過措置料金についても同様の事後評価を行っており、電気も同様のはずだが。

C いずれにしても、料金改定に踏み切らなければならないタイミングが来ている。新電力の多くは、旧一電の規制料金と同様に燃料費調整制度を設け調整単価に上限を設けている。上限を外してしまうと、燃料費高騰局面では規制料金よりも高くなってしまうからね。本音では上げたいけど、旧一電よりも低廉な価格であることを訴求しているから上げられない。特に家庭向けでシェアを伸ばしているガス、通信系の新電力は、上限撤廃で集客に歯止めがかかってしまうことは相当な痛手になる。

B 多くの小売り事業者が、そろって燃調の上限を撤廃したい、もしくは独自燃調を取り入れたいと言うけど、やっぱり実現は難しい。需要家に料金体系を説明することが難しくなるし、何より燃調次第で規制料金を上回ってしまうリスクがある。分かりやすさにこだわるばかりに、オリジナル性も失っているわけだけど。

燃料価格高騰局面はしばらく続きそうだ

大幅な赤字決算でも 料金改定に二の足踏む旧一電

―規制料金が残っていることが、新電力のメニュー作りをマンネリ化させているのかな。

A ガスは、2017年の小売り全面自由化に際して、経過措置料金規制の撤廃を判断する四つの基準を設けた。電気は自由化時にはその基準の設定がなかったが、19年に電力・ガス取引監視等委員会が基準を作り、今後はそれに基づいて撤廃が議論されるのだろう。だけど、果たしていつ撤廃が現実のものになるのだろうか。

C エリア内に5%以上のシェアを持つ事業者が複数いて、競争環境もイコールであれば撤廃するという条件を達成するのはほぼ不可能だよ。東京と関西エリアにはシェア5%以上の新電力があるとはいえ、どちらも大手都市ガス会社がかろうじてクリアしているのみ。KDDIはシェアを伸ばしているけど、大手電力会社の代理販売なのでこの条件では考慮されない。規制撤廃には程遠いよ。

B 今、新電力の経営がますます厳しい状況に追い込まれているから、代理販売や取次が増えていけば、ますます規制撤廃できずに競争者がいなくなる可能性がある。

A 旧一電は、戦略として料金を見直さないのではないかと勘繰ってしまう。見直しによって新電力が息を吹き返してしまうくらいなら、多少の取りっぱぐれをしばらくの間耐え、上限バンドを外した新電力から需要家が自社に戻ってくるのを待とうとしたたかに考えている旧一電がいてもおかしくない。確かに21年度の決算は厳しかったけど、単純に燃調の期ずれの問題だとすると、今年度は、さらに燃料調達コストが上がるようなことがない限り回収局面になって利益が出るのではないか。

B 旧一電側の話を聞いていると、昔は無視できる程度の差分だったが、今は無視できるような金額ではないというよ。料金改定したいのが本音だと思う。

―調整単価が上限に張り付いているところはこれ以上価格に転嫁できず厳しいが、北海道、東京、中部あたりはまだ上限に達していないので回収局面というとらえ方ができるかもしれない。

B 欧州の旺盛な需要を踏まえても、そう簡単に燃料コストが下がることはないだろう。電力需給にしても、18年夏に初めて燃料制約による需給ひっ迫が起きて価格がスパイクしたが、LNGの備蓄基地が整備されたわけでもなく何も変わっていない。むしろ火力の休廃止が進んだ分、悪化してしまっている。

C 危機を乗り切ってしまうと、まあいいかと正常化の流れが止まってしまうのがいつものパターン。この2年、同じような事象が繰り返し起きたことでようやく尻に火が付き議論が前に進み始めた。

B 小売り事業者は、24年度に支払い開始を控える容量市場を懸念している。果たして新電力は容量拠出金に耐えられるだろうか。容量分の単価を転嫁できるよう料金メニューを切り替えておかないと、今度は容量拠出金のために需要家を失うことになる。

【イニシャルニュース 】パワハラ問題再燃? 広域機関内部で混乱


 パワハラ問題再燃? 広域機関内部で混乱

5月半ば、エネルギーフォーラムに1通の差出人不明の封書が届いた。中に入っていた手紙は、電力広域的運営推進機関のパワハラ問題を内部告発するもので、このままでは組織が崩壊してしまいかねないと憂う内容が記されていた。その一部を紹介する。

「経済産業省から出向しているX氏のパワハラが日常化している。好き嫌いが激しく、自分に従わない人、仕事が遅い人、自分の思考を理解できない人をいじめまくって出向元に返してしまう。(中略)このままでは誰かが訴訟を起こすか、大きなトラブルが発生してしまうかもしれない」

ただ、あくまでもこれは匿名のいわゆる「怪文書」。真相を探るべく、事情通に聞くと、セクハラ、パワハラのみならず、オフィス内での不適切な行為など、耳を疑うような話が飛び出してきた。その中でも多くの人が深刻に見ているのが、やはりX氏によるパワハラだった。

パワハラ問題で揺れている

「全ての業務を自らの目を通さないと気が済まず、キャパオーバーで業務が滞っているにもかかわらず、その責任を担当者に押し付けて衆目の前で謝罪させる。企業からの出向者は相当参っている」(大手エネルギー関係者A氏)

「社員をメンタル不調にさせられたT社に至っては、この状況が放置される限り、職員を送れないと引き上げさせてしまった」(事情通B氏)

広域機関では昨年8月、理事で事務局長を務めていたT氏が退任したが、これもパワハラが原因だったとみられる。経産省のみならず、民間エネルギー会社からえりすぐりの職員が出向しているはずの広域機関内で、なぜこのようなことが繰り返されるのか。

「新型コロナ禍で多くが在宅勤務をしていて、お互いをよく知らない出向者同士、うまくコミュニケーションが図れず組織の統制が取れていないのかもしれない」(大手エネルギー関係者C氏)

混乱収束の道筋が見通せない中、前任のS氏が再登板するのではないかとの観測も業界内で広がり始めている。今年度夏・冬と厳しい需給が予想されている中で、広域機関に期待される役割は大きいのだが。

NHKの電力危機解説 担当M氏の上から目線

今年度夏、冬の電力需給問題が深刻になっている。政府は停止中の火力発電の稼働などでしのごうとしているが、停電は避けられないとの指摘も出ている。

マスコミも電力不足を問題視し始めた。テレビ各局は朝の情報バラエティー番組で電力危機について取り上げている。その中で、信頼度の点から国民への影響力が強いのは公共放送、NHKだろう。

NHKで情報番組に登場し、電力不足について説明するのはM解説委員だ。専門は科学技術・宇宙・原子力。福島第一原発事故の際は、特別番組で事故原因などの解説に当たっていた。

M氏の原子力についての見解は「かなりのアンチ」(業界関係者)と言われている。だが、その理由からでなく、業界関係者、中でも広報担当者の間でM氏の評判は芳しくない。

「Mさんから『自宅に資料を届けてくれ』と電話があり、休日に自宅へ向かった。近くまで着いたので電話すると、『ポストに入れておいてくれ』の一言。感謝の言葉など全くなかった」

ある広報マンはこう苦々しく話す。視聴者からすれば、正しい説明をしてくれれば人柄は関係ない。だが、「公共」にあぐらをかいた上から目線の人物に、公平な良い解説は期待できるだろうか。

石川県の副知事人事 気になる志賀への影響

経産官僚の西垣淳子氏が7月1日付で石川県の副知事に就任する人事が、エネルギー業界でひそかな話題を呼んでいる。西垣氏は、東大法卒で1991年入省のキャリア組。商務情報産業局生活文化課長、中小企業庁小規模企業振興課長、特許庁審査業務部長などを歴任した。一見、エネルギー畑とは無縁の西垣氏の動向がなぜ業界で話題になっているのか。事情通が言う。

「実は西垣氏は、経産官僚で現在内閣府に出向しているY氏(91年入省)の妻。その影響もあるのか、原発嫌いといわれている。石川県には、北陸電力の志賀原発があり、原子力規制委員会による審査のため長期停止を余儀なくされている。最近明るい兆しも見え始めた矢先だけに、西垣氏の副知事就任が志賀再稼働にマイナスの影響を与えなければいいのだが……」

副知事人事の波紋が広がる(石川県庁)

とはいえ、馳浩知事の期待は高いようだ。女性副知事の登用を知事選の公約に掲げており、県議会でも「私や徳田博副知事とは違った能力、人脈を持つ人が望ましい」と述べている。旧労働省出身の太田芳枝氏以来、28年ぶりとなる女性副知事の誕生で県政はどう動く のか。志賀はともかく、まずは夫の得意分野である再エネの乱開発防止で手腕を発揮してほしい。

選挙後の原子力に注目 自民で推進派が台頭

自民党が原子力の活用にかじを切った。岸田文雄政権が発足した際に、原子力推進派が政権と党の担当に起用され、その人事の影響が出てきた。政治的に難しい問題だった原子力規制改革が、7月の参院選後に動く可能性がある。

原子力を敵視し、再エネを過度に重視するいわゆる「KKコンビ」が、菅政権では党のエネルギー政策を振り回した。そして原子力規制の混乱が放置されてきた。その是正に、今の自民党は動いている。

岸田政権では甘利明議員を当初幹事長にし、高市早苗議員が政調会長になった。岸田首相はエネルギー問題にそれほど関心がないとされるが、この二人は原子力活用を主張し、人事に手を付けた。

自民党の「原子力規制に関する特別委員会」委員長に原子力活用派のS議員、経済産業部会長に高市氏に近いI議員(現在は退任)を据えた。閣僚人事は首相が主導するが、萩生田光一経産相は原子力推進を以前から唱えており、H副大臣は原子力規制改革を党内で主張してきた中心人物だ。

自民党は参院選公約で、原子力の活用を主張。経産省は原子力を減らすという第六次エネルギー基本計画の中身を唱えなくなった。さらに規制特別委では、立地県選出で規制政策批判を重ねたT議員とS議員が幹事長と事務局長に就任。5月に同委員会がまとめた原子力規制の提言では「法改正を視野」という強い言葉が示された。以前に同委員会を仕切ったI議員は環境副大臣を務めた中間派で、法改正は消極的だった。「人事の効果が出た」(自民党筋)とされる。

自民党の原子力規制改革への意気込みは、原子力規制庁、そして経産省も十分認識しているもようだ。7月の参院選後に、原子力規制の改善に向けた、新しい動きがあるかもしれない。

K議員のパワハラ気質 簡単には変わらずか

毛並みの良さと国民への発信力の強さから根強い人気を誇る与党のK議員。これまで政権や党の要職を務め、再生可能エネルギー拡大や脱原発に向けて辣腕を振るってきた。一方、官僚に対する「公衆面前パワハラ」とも取れる言動が物議を醸すこともあり、その気質は簡単には変わらないようだ。

自民党の某調査会にて。その日のテーマであるカーボンプライシングについて経産省幹部が説明をしたところ、出席していたK氏がかみついた。排出権取引について「経産省はやる気がないとちまたで言われているが、どうなんだ」と詰問した。

その一幕をK氏はSNSにも投稿し、「(経産省幹部が)むにゃむにゃと言い逃れ、やる気ありますとは言わない」と不満をあらわにした。ちなみにその投稿後、コアなK氏ファンの間でこの経産省幹部は「むにゃ局長」と呼ばれるようになったという。

ただ、経産省は炭素クレジットの自主的取引を行うGX(グリーントランスフォーメーション)リーグを来年から始め、賛同企業とその詳細な検討を今年進める。また同省は、GXリーグをおいおい義務的な排出量取引に発展させるということも、さまざまな場でおおっぴらに言及するようになってきた。

むしろ排出量取引への積極姿勢を隠さないようになってきたと受け止めるのが自然だが、K氏にはそうは受け止められないようだ。

電力不足の危機感広まる 島根2号機の再稼働に同意


「隕石が原子炉を直撃しても、放射性物質の拡散は防げるのか」「リスクがゼロでないと動かせないというと、隕石や小惑星が衝突したらどうなるのかと荒唐無稽の議論になる。冷静に議論しなければならない」

島根原発は日本で唯一県庁所在地に立地する

島根県の丸山達也知事は6月2日、中国電力島根原子力発電所2号機(82万kW)の再稼働に同意すると表明した。知事の同意は、県議会に設けた原発対策特別委員会の委員長報告に基づくものだ。2021年9月に設置された特別委員会では、冒頭のような議論が県議の間で交わされていた。委員会は7回開催し、さまざまな疑問や懸念に対して、中国電力をはじめ国・県の担当者などが丁寧に回答を行っている。

島根2号機は21年9月に原子炉設置変更許可を取得。島根2、3号機は唯一県庁所在地(松江市)に立地する原発であり、稼働に対して慎重な住民も多いとされる。中国電力は21年10月から松江市と周辺自治体の住民に説明会を開始。既に松江市をはじめ30㎞圏内にある島根県と鳥取県の自治体首長の同意を得ている。素早い対応であり、首長らの同意判断も早い。背景には「電力危機に頭を痛める国の強い意向がある」(業界関係者)とされる。安全対策工事は22年度中に終わるもよう。23年夏までの運転開始を目指す。

西日本では、関西電力美浜3号(82万6000kW)機が運転再開を10月から8月に前倒しする。特定重大事故等対処施設(特重施設)の設置期限を過ぎたため昨年10月から停止していたが、工事を早める。これも国の要請によるもの。電力危機に理解を示す自治体関係者などの協力を得ることで、再稼働が進展し始めている。

法人顧客をサイバー攻撃から守る セキュリティーと保険をセットで提供


【中部電力ミライズ】

 企業に対するサイバー攻撃が増加する一方、「対策方法がわからない」「システム担当を雇用する余裕がない」などの課題を抱える企業は少なくない。中部電力ミライズはこうしたニーズを受け、4月22日から中部エリアの法人顧客に「サイバー対策支援サービス」を開始。NTT西日本のセキュリティーサービスと三井住友海上火災保険のサイバー保険を組み合わせ、ネットワークや端末の監視、運用管理サポート、サイバー保険をワンパッケージで提供する。

ワンパッケージでサイバー攻撃対策

選べるセキュリティー 管理運用サポートも充実

中部電力ミライズは、セキュリティー対策として、ネットワーク監視サービスと端末監視サービスを用意している。ネットワーク監視サービスでは、ウイルスやハッキングからネットワークを守るゲートウェイセキュリティー機器(UTM)を設置、不正な通信がないか、一括で監視・保護する。端末監視サービスでは、ネットワークに接続されている端末を守るエンドポイントセキュリティーで、ウイルスの侵入を防ぎ、駆除を行う。これら二つのサービスは顧客の事情に合わせて選択でき、両サービスの利用でセキュリティーの強化も可能だ。

さらに、顧客の管理運用の負担を軽減するため、サポートを充実させている。サポートセンターでは、顧客が気付かない不正な通信やウイルス攻撃に対し、24時間365日監視を行う。インシデント発生時には、メール・電話での通知や遠隔でのウイルス駆除に加え、訪問でのパソコンの復旧なども行う。また、サイバー攻撃を受け賠償損害・費用損害が発生した場合、保険金が支給される。保険料はサービス利用料に含まれているため、新たな料金負担は不要だ。

中部電力ミライズは「サイバー対策支援サービス」の展開に当たり、2月に情報処理推進機構の「サイバーセキュリティお助け隊サービス」の認証について一部を除き取得している。主に中小企業向けのサイバーセキュリティー支援サービスをワンパッケージで提供する企業に関する認証だ。同社は今後、電気とガスにとどまらない「新しい価値」を届けるサービスの展開を目指す方針だ。

【コラム/7月5日】経済財政運営基本方針と新しい資本主義を考える~まずエネ対策を、見識曖昧・看板塗り替えながら少しの光明か


飯倉 穣/エコノミスト

1,今年も「経済財政運営と改革の基本方針(以下基本方針22という)」の閣議決定があった(22年6月7日)。副題に「新しい資本主義へ ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~」とある。理念と本質的な経済政策の中身はこれからで、効果薄き従来政策の看板塗り替えが多い。

報道は「新しい資本主義 変質 新自由主義の転換めざしたがー旧来型に回帰バラマキ色」(朝日6月1日)、「人への投資 世界水準遠く 3年で4000億円 骨太方針決定 成長へ生産性向上急務」(日経6月8日)等と伝えた。作成過程で自民内の注文報道も目についた。

岸田流で各界から様々な投げ入れがあったであろうか。基本方針22の経済政策を考える。

2,過去、小泉純一郎政権は6回の「骨太の方針(01~06年)」、安倍晋三・福田康夫・麻生太郎短命政権の骨太方針、民主党政権の経済対策中心の後、安倍政権は8回の基本方針(アベノミクスの展開:13~20年)、そして菅義偉政権「基本方針21」(21年)があった。それぞれ現状認識の誤謬と経済論軽視の対応で不適切だった。小泉劇場は、民営化、特区、分権、独法化、貯蓄から投資等で国民を沸かせた。アベノミクスは、三本の矢の旗印で、稼ぐ力、海外成長市場、600兆円経済、1億総活躍社会、Society5.0挑戦等を掲げた。放漫財政・金融の打上花火だった。いずれも金融バブル崩壊等で行き詰まる。

各基本方針は、負担の痛みを回避し「成長可能神話」で彩ったが、思い付きのアイデアだけで、経済健全化と無縁だった。この間国際競争力低下・貿易収支の赤字化、財政頼りの経済運営・国債残高積み上げで、内外不均衡拡大且つ国力消耗となった。繰り言だが、下村治博士が述べた現実直視、内外均衡重視の「節度ある経済運営」とは異なる。政府の失敗続きにもかかわらず、経済活動は、人々のうごめきの中で悲喜こもごも継続している。通常の景気変動では、マクロ政策で何もしない選択も重要ある。

3,基本方針22は、アベノミクスの蹉跌を述べず、引き続き大胆な金融政策・機動的財政政策・成長戦略の堅持で、民需主導自律的成長とデフレ脱却を謳う。そして2段階アプローチ(コロナ・ウクライナ絡み当面の緊急対策とその後の総合的な方策による成長と分配の好循環)を掲げる。

今回は「人への投資」というお題目で政策の再編成を試みている。新機軸は、資産所得倍増プラン、官民連携投資、社会的課題の民間力の活用であろう。中長期的に官民連携の計画的重点投資推進で成長力強化、成長分野への労働移動、省エネ・脱炭素で比較優位確保、産業構造変化で持続的成長を目指す。

現状の経済・社会状況から見て、塗り直し政策がどの程度必要で効果を収めているか。またエネルギー情勢の変化で一般論はあるものの、電力システム改革失敗に起因する電力の供給不安に触れていない。

 基本方針22の認識と政策は、例えば経済変動、経済成長、現経済の不均衡にどんな影響を与え、経済の目的達成の一歩前進となるのであろうか。

4,二段階アプローチは適切か。経済の現状は、コロナの影響が残る中で、資源・エネルギー価格上昇に伴う輸入物価上昇を受け、縮小均衡調整となる。海外への所得流出に伴う経済水準低下はやむを得ない。選択肢は限られている。価格上昇の転嫁(縮小均衡)の受容である。エネルギー対策には限りがある。マクロ政策で総需要抑制の他、供給で原子力発電増、需要面で節約である。すでにコロナ対策で不要・十分な財政出動をしており、屋上屋の緊急対策(財政支出)は抑々余計である。

5,次に民需主導の自立的成長を狙う政策の誤謬が懸念される。現経済の成長力の見方である。過去2000年以降21年までの実質経済成長率は、年平均0.6%(コロナ前19年まで0.7%)である。01年以降の基本方針は、政治的プロパガンダで、思い違いの連続であった。成長力の源泉である民間企業設備投資の現実を見誤っている。当年度の設備投資で翌年度のGDPをどのくらい押し上げるかという比率の推移を見れば、一目瞭然である。現経済は、0.1未満である。80兆円投資して8兆円の実質GDP増加にもならない。民間企業資本ストックは、1000兆円を超えており、毎年の設備投資は、中身の変化はあろうが、ほとんど維持投資と推定される。残念ながら技術革新を体現する独立投資不足である。 

1969年産業政策は、「模倣から創造へ」を掲げた。その課題が半世紀以上継続している。大学等基礎研究体制、企業の研究開発体制に問題があるのか、依然判然としない。米国物真似のベンチャーとベンチャーキャピタル期待一辺倒の政策は観念すべきであろう。

6,成長の本来の原動力は、企業である。過去の日本は、なぜ活力を有していたか。その後バブル経済を経て、米国要求の企業改革が進み、日本企業の多くは活気を低下させた。株主代表訴訟、独禁法、コーポレートガバナンス等投資家重視の改革が、企業経営・従業者に混迷を招いている。その反省と見直しが必要である。

7,経済運営では、内外均衡を重視した運営が基本である。とりわけ中長期的には財政均衡が重要である。00年以降成長期待で財政再建への挑戦が試みられたが、実現していない。唯一民主党野田政権で、野党自民党の見識で、税・社会保障一体改革の消費税増税合意が行われ、その後実施された。その精神も、ばらまき政治で消失した。現在は、財政破綻状況である。財政不均衡は、経済縮小というインフレか重税で、いずれ決着をつける方向になる。基本方針22は、財政健全化の旗を下ろさず「経済立て直し・財政健全化」を掲げた。財政均衡への道は未検討である。

8,繰り言になるが、経済の目的は、第一に雇用、第二に物価の安定、三四無く次が貿易の自由化であろう。経済政策の失敗の帰結であるバブル崩壊・企業リストラの下で、働く人は、早期退職、転職等を余儀なくされた。この結果安易な労働移動の勧めが横行した。それは生産性の低い分野への労働移動をもたらし、不安定な雇用が増大した。多くの働く人にとって重要なことは、生活の糧を確保し、日々安心して働くことである。それを企業経営でも第一とする企業理念とそれを支える制度見直しが必要である。

9,新しい資本主義の知恵はこれからである。現下の課題であるエネ価格高騰・輸入物価上昇への対応は、マクロ政策で金融引き締めという金融政策、財政支出圧縮という縮小均衡調整が妥当である。又エネルギー政策では、限られたエネルギーの選択肢を、情緒で判断せず、節電・再エネの限界も考慮して、過去の教訓を生かした原子力発電の活用以外に方策はない。更に電力の安定供給をより確実にするに電力システム改革(自由化)の見直しが重要である。

日本の科学技術開発力の低迷で、適度の成長は当面困難である。中長期的に基礎研究体制の見直し(大学改革の再考等)、企業活力を阻害する各種負担(コーポレートガバナンス改革等)の排除から手を付けていかざるを得ない。経済運営では、財政均衡を念頭に置いた運営が重要である。そして経済の目的は、雇用であることを再確認して政策を再構築すべきである。

岸田政権提唱の新しい資本主義は、官邸主導でなく、内容を各界が提案し、官僚の勉強と立案を基礎とする建付けである。構造改革の見直し、今後の施策の理論的精査を行い、妥当な政策を決めていくことが期待される。政治の思いでなく、官の知恵が問われている。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

GX移行債の焦点は償還財源 年末に向けCP綱引き加速


5月下旬、クリーンエネルギー戦略に関する有識者懇談会にて突如、岸田文雄首相が表明した「GX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債」。今後10年で政府資金20兆円を確保し、官民で150兆円もの投資を呼び込もうと狙う。4月に自民党環境・温暖化対策調査会がまとめた政府への提言で「ロードマップを年内に策定する」としたカーボンプライシング(CP)とも絡み、今夏設置される「GX実行会議」で中身を詰めていく。

財務省はグリーン国債発行には否定的だったが、炭素税導入には前向きだ

焦点は償還財源だ。可能性としては、①炭素税導入、②GXリーグを発展させ、有償化かつ義務的な排出量取引導入、③GXでの経済成長に伴う法人税・所得税・消費税の増収―といったパターンがあり得る。特に炭素税の議論はエネルギー価格高騰で一時トーンダウンしたが、各所での将来の財源不足が懸念される中、再び水面下で模索する動きが出つつある。

ただし、導入に伴う負担軽減策や既存制度との整理は大きな課題。例えば、燃料に課税しようとすると、ガソリンユーザーの負担軽減策として走行課税を導入するなど、エネルギー諸税の組み直しが必要となるが、こうした議論がどこまで進むかは不透明だ。

ただ、いずれにせよ産業界の負担は増す。EUはCBAM(炭素国境調整措置)や、排出量取引の完全有償化に関する法案を検討中だが、ロシア有事でガスシフトなどのプランが崩れ始め、産業界の反発が強まっている。関係者からは「GX債を発行し大規模に投資しても、経済移行に失敗して期待するようなリターンが無ければ、単なる借金。捨て身の戦略にしか見えない」といった冷ややかな受け止めも出ている。

「笛吹けども踊らず」原発再稼働 東日本ゼロ解消に立ちはだかる壁


国内の原子力発電の稼働を巡る「西高東低」の状況が一段と鮮明化してきた。

深刻な電力不足に見舞われる東日本の50Hz地域で原発の早期再稼働はあり得るのか。

 「島根原発2号機の再稼働は現状においてやむを得ないと考え、再稼働の容認を判断した」―。6月2日、島根県の丸山達也知事は、島根県議会本会議で中国電力島根2号機の再稼働同意を表明した。同社は2021年9月に島根2号機の原子炉設置変更許可を原子力規制委員会から取得。今年に入り、松江市や鳥取県米子市など周辺自治体から再稼働同意の表明を受けていた。今後は規制委への補正申請提出と並行しながら安全対策工事を進め、早ければ23年春にも再稼働が実現する。

お隣の関西電力でも動きがあった。6月10日、美浜3号機の運転再開時期を当初予定していた10月から8月12日に前倒しすると発表したのだ。特定重大事故等対処施設(特重)の運用時期が9月から7月下旬に早まったためで、再稼働に向け「現下の厳しい電力需給状況を踏まえ、原子力プラントの安全・安定運転に努めていく」とコメントしている。

関西電力大飯・高浜、四国電力伊方、九州電力玄海・川内など、西日本の60‌Hz地域では原発の再稼働が順調に進んでいる(特重工事のため5基が停止中)。これに対し、東日本の50‌Hz地域ではいまだに原発ゼロの状態が続く。今年の夏と冬の需要期に、首都圏を中心に深刻な電力不足が予想される中、東北電力女川や東京電力柏崎刈羽の早期再稼働を求める声が日増しに高まっているが、実現は極めて厳しい状況にあるのだ。

安全工事の中断が必要 女川の早期再稼働は困難

まず女川2号機を巡っては、20年2月に原子炉設置変更許可を取得。21年12月に工事計画が認可され、地元宮城県、石巻市、女川町が20年11月に再稼働同意を表明した。規制委審査、地元同意という二つのハードルをクリアしたわけだが、問題は防潮堤の整備や圧力制御室の耐震補強といった安全対策工事が遅れていることだ。現状では、23年11月に工事完了、24年2月に発電開始、4月に営業運転開始の見通しだ。

「もし今冬に緊急再稼働させるとすれば、秋口に工事をいったん中断しなくてはならない。しかし政府は、原発稼働に関して安全確保が大前提という立場を繰り返し強調している。それを考えても、工事を中断しての再稼働などあり得ないだろう」(電力関係者)

政府から緊急再稼働を求められる可能性について、東北電力は「安全工事が完了していないので回答できない」との立場だ。エネルギー関係者の中には、「事故などの問題を起こしていない東北電力の女川であれば、何とか今冬の再稼働を実現できるのではないか」(中堅新電力幹部)と淡い期待を寄せる向きもあるが、現実は厳しいと見るのが自然だ。

女川2号機以外に、東日本で新規制基準に合格している原発は、東京電力柏崎刈羽6号機と7号機、日本原子力発電東海第二原発がある。しかし柏崎刈羽では21年1月、他人のIDカードを使い中央制御室に入室するというセキュリティー面の重大事案が発覚。規制委から核燃料移動禁止という事実上の運転停止を命じられた。また東海第二では避難計画の不備を指摘され、昨年3月の水戸地裁で運転差し止めの判決を受けている。

どちらも再稼働への道のりは遠いように思えるが、関係者によると、柏崎刈羽には情勢次第でわずかながら可能性があるという。端的に言えば、ロシア・サハリン産LNGの禁輸だ。

「ウクライナ戦争が一段と泥沼化し、欧米主要国がロシア産天然ガスの禁輸措置に踏み切れば、これまでサハリン産の調達を継続するとしてきた岸田政権も同調を余儀なくされよう。そうなると、年間約650万tのLNG調達に赤信号がともり、ただでさえ予備率マイナス予想の電力不足に拍車を掛けるのは必至。もし今冬の首都圏で大規模計画停電が確実視されれば、その回避に向けて安定電源の原発を動かさざるを得なくなる。そのときこそ柏崎刈羽の出番だ」(エネルギーアナリスト)

山口環境相(中央)に要請書を手渡す丸山島根県知事

柏崎刈羽に二つの壁 今冬再稼働諦めず!?

そんな柏崎刈羽の再稼働に立ちはだかるのが、規制委と新潟県という二つの壁だ。

参院選後の7月下旬、東電の核セキュリティ専門家評価委員会は、テロ対策など一連の不祥事の改善に関する報告書を提出する予定。これを踏まえ、規制委では追加検査を終えた後、東電の対応の妥当性を判断し、禁止命令解除の是非を判断するわけだが、首都圏の電力危機が現実味を帯びてくれば、この判断時期を早める可能性がある。「一つのタイミングは、更田豊志・規制委員長の任期が終了する直前の8月下旬ごろか」。事情通はこう話す。

一方の新潟県については、1年半近く中断されている「原発事故に関する検証総括委員会」を再開させることが求められる。その上で「萩生田光一経産相か、場合によっては岸田文雄首相が新潟県に足を運び花角英世知事と面談、エネルギー有事下における緊急再稼働の必要性について誠心誠意説明する。そこで初めて、花角知事の同意を得るための道筋が見えてくる」(新潟県関係者)。

大手電力会社の関係者によれば、「東電幹部は(柏崎刈羽の)今冬の再稼働をまだ諦めたわけではないと言っている。あらゆる手を尽くして改善の対応に当たるだろう」。時期として10月ごろまでに柏崎刈羽の燃料棒装填準備が完了すれば、今冬の緊急再稼働はあり得ない話ではない。東電は「コメントできる立場にない。改善措置活動を着実に進めていくのみ」としている。

原発は「可能な限りの低減」から「最大限の活用」へ―。世界的なエネルギー危機を背景に、原発政策に対する政府の姿勢は明らかに変わってきた。世論の変化も追い風となり、原発再稼働はもはや政治的タブーではなくなったと言っていい。ただ足元の電力不足対応だけではなく、中長期的に原発を安定電源として「最大限活用」していくためには、規制委の審査体制・位置付けを含めた規制体系の抜本見直しが不可欠だ。

わが国が、エネルギー安全保障やカーボンニュートラルの観点から、混迷する原子力・核燃料サイクル政策をどう再構築していくのか。政府、学識者、自治体、そして業界が一体となって議論を深めることが求められる。その突破口を開くのは、ほかでもない「時の政権」だ。「最大限の活用」をお題目のように唱えるだけでは何の意味もない。必要なのは、責任を取る「覚悟」と政策の「実行力」だ。

【マーケット情報/7月1日】米国、中東原油が上昇、需給引き締まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油の指標となるWTI先物、および中東原油を代表するドバイ現物が前週比で上昇。需給逼迫感が強まり、買いが優勢になった。

リビア国営石油は、政治体制などへの抗議デモを受け、東部輸出港と一部油田でフォースマジュールを宣言した。リビア最大のエルシャララ油田も既に、フォースマジュールの宣言下にあり、同国からの供給が不調となっている。また、米国では、原油在庫が前週から減少した。さらに、24日までの一週間におけるガソリン消費が増加。前年同月は下回ったものの、前週より需要は戻った。

一方、北海原油の指標となるブレント先物は下落。OPECプラスが、7月に続き8月も、日量64万8,000バレルの増産で合意した。追加増産拡大にともなう供給増加の予測が、ブレント先物の重荷となった。また、ロシアの6月1~29日における原油およびコンデンセートの生産量は日量1,067万バレルとなり、前月比で増加したとの情報だ。

【7月1日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=108.43ドル(前週比0.81ドル高)、ブレント先物(ICE)=116.63ドル(前週比1.49ドル安)、オマーン先物(DME)=106.40ドル(前週比0.11ドル安)、ドバイ現物(Argus)=105.81ドル(前週比0.06ドル高)

CE戦略とデジタル田園都市の接点 官邸主導の背後に巨大通信会社の影


官邸主導で議論が進む「クリーンエネルギー戦略」と「デジタル田園都市国家構想」。

新しい資本主義の中核を成す二つの政策の接点を探ると、あの巨大通信会社の存在が浮かび上がる。

「今後10年間に150兆円超の投資を実現するため(中略)、20兆円ともいわれている必要な政府資金をGX(グリーン・トランスフォーメーション)経済移行債、これは仮称ではありますが、これを先行して調達し、速やかに投資支援に回していくことと一体で検討してまいります」

5月19日に官邸で開かれたクリーンエネルギー(CE)戦略に関する有識者懇談会の第二回会合。

岸田文雄首相による原稿棒読みの総括を聞きながら、多くの委員が心の中でこうつぶやいたに違いない。「ちょっと待って。GX経済移行債なんて話、聞いてないよ」。ある委員の脳裏をよぎったのは、年初の1月18日に開かれた有識者懇の初会合。ここでも、やはり寝耳に水の施策が飛び出した。データセンターを主な需要先として想定した、系統増強に関するマスタープランの策定である。

「このプランは、資源エネルギー庁の専門検討会が1年近くかけて議論してきたものだが、昨年12月16日に開かれた経済産業省のCE戦略合同会合の初会合では、事務局の配布資料を含め、ほとんど話題に上らなかった。なのに、翌月の有識者懇で経産省が配布した資料には『検討を深める重点事項』として例示されている。合同会合とは別の思惑が働いていると感じた」(CE戦略関係者)

重なる海底送電と通信網 岸田首相も年頭に言及

マスタープランとは一体どのようなものか。エネ庁事務局の資料を見ると、説明文には「再エネ大量導入とレジリエンス向上を実現するため、系統のバージョンアップが必要。具体的には、将来的な再エネポテンシャルとデータセンター等の需要を一体的に検討するとともに、災害時や需給ひっ迫時の広域融通等を円滑に行うための、全国大の長期的な系統の在り方を描くマスタープランを2022年度中に策定する」とある。

その下には、全国の地域間連系線増強の構想図(下図参照)。これらを踏まえると、次のような青写真が浮かび上がってくる。

長距離送電網増強のイメージ図
出所:経済産業省資料より

〈北海道や東北エリアの洋上風力で発電した電気を広域融通する海底直流送電網などの連系線強化や、需要先としてのデータセンターなどを一体的に整備していく。必要な投資規模は約3.8~4.8兆円と試算。その財源として、GX経済移行債の活用を検討する〉

実は、このマスタープランと重なる主要政策が、同じく官邸で議論されている。「デジタル田園都市国家構想」だ。これは地域における持続可能な社会形成や経済成長を、デジタル化を通じて実現するもので、光ファイバーや5G、データセンターといったデジタルインフラ整備が柱の一つに掲げられている。そして、その目玉となるのが、日本を周回する海底通信ケーブル「スーパーハイウェイ」の建設計画と、地方データセンター拠点の整備計画である。

事情通によると、通信ケーブルを巡っては直流送電線と一緒に海底に敷設するアイデアが水面下で浮上しているもようだ。実際、両者の構想を見比べてみると、想定ルートやデータセンター拠点との接続など共通部分が少なくない。

「先行して動き出したのが、北海道—秋田間だ。このルートでは昨年10月にNTT、KDDI、ソフトバンク、楽天の4社が光海底ケーブルを共同建設する協定を結んでいるが、これに合わせて海底送電線を敷設する可能性がある。岸田首相が1月4日の会見で、CE戦略に関連して『通信とエネルギーインフラの一体的整備』に言及したことを考えても、あり得ない話ではない」(大手エネルギー会社関係者)

洋上風力、データセンター、海底ケーブルというキーワードを並べてみると、二つの有力企業の存在に気付く。三菱商事とNTTグループ―。先の秋田・銚子沖の洋上風力入札では、三菱系コンソーシアムが落札したが、その協力企業に名を連ねているのがNTTアノードエナジーだ。三菱とアノード社は20年6月にエネルギー分野での協業で合意して以来、再生可能エネルギー発電やエネルギーマネジメント事業の分野でビジネス化の検討を進めている。

アノード社が体制強化 注目のNTT副社長人事

しかもアノード社はここにきて大掛かりな体制強化に踏み切った。7月1日付で、NTTファシリティーズのエネルギー部門を吸収・統合。これに伴い、人員体制を数百人規模から数千人規模へと大幅に拡充する。関係者によれば、エネルギー関連の売上高を25年までに倍増させる計画であり、その本気度がうかがえよう。

これとは別に、NTT本体の役員人事でも興味深い動きがあった。経産省OBでNTTの執行役員だった柳瀬唯夫氏が6月、副社長執行役員(事業企画室長兼経済安全保障担当)に昇格したのだ。1984年入省の柳瀬氏は、岸田内閣の首相秘書官筆頭格の嶋田隆氏(82年)や、第二次~第四次安倍内閣で首相秘書官・補佐官を務め内閣官房参与の今井尚哉氏(82年)とは旧知の間柄。そんな同氏を中枢に据えることで官邸とのパイプを強化し、新しい資本主義政策に積極的に絡んでいこうとする思惑が垣間見える。

「岸田政権が狙う通信・エネルギーインフラの一体的整備。そこに投じられる巨額の政府資金を見据えて、NTTはしたたかに動いていると思う」(前出のCE戦略関係者)。実際のところ、嶋田—今井—柳瀬ラインの存在を巡っては懐疑的な見方もあり、真相は不明だが、エネルギー、デジタルの両分野でNTTが存在感を強めているのは確実。政策と連動したビジネスの行方から目が離せない。

政府が7年ぶりに節電要請 節電量に応じたポイント還元も


 猛暑が予想されるこの夏、政府は足元の厳しい電力需給状況を踏まえ、企業や家庭に対し節電を要請することを決めた。要請は、東日本大震災後、原子力発電所の長期稼働停止で供給力が減少したことに伴い行った2015年以来、7年ぶりのことだ。

萩生田光一経産相は6月16日、電力トップを集め需給ひっ迫に関する対策会議を開いた

政府の節電要請は、熱中症予防に留意した省エネ・節電に資する具体的な行動メニューを作成、周知することに加え、産業界に対しエネルギー消費効率の高い設備や機器への更新を促すことが柱だ。一定の節電をした家庭などに対し、ポイントを還元するなどの新たな支援制度も導入する。燃料費高騰の影響で料金も高止まり。省エネ・節電により需給を安定化させるだけではなく、家庭や企業の料金負担の上昇を抑制したい考えだ。

需給ひっ迫の背景には、原発長期停止中の安定供給を担ってきた火力発電が、老朽化と再生可能エネルギー大量導入による不採算化が相まって大量退出に歯止めがかからないことに加え、ウクライナ情勢の緊迫化で燃料調達リスクが顕在化していることがある。

この夏の「H1需要」(10年に1度の厳気象を想定した最大需要)に対する予備率は、全エリアで安定供給に最低限必要な3%を確保できる見通しだが、7月は東北から中部エリアで3・1%と、非常に厳しい水準だ。供給側では、各エリアの一般送配電事業者が120万kWの追加供給力、10億kW時の追加燃料調達の公募を行い、長期計画停止中のJERAの姉崎火力5号、知多火力5号などが落札。7~8月の間稼働する。こうした供給対策を実施しても、需要の上振れ、トラブルなどによる計画外停止などが重なれば需給がひっ迫するリスクは高いままだ。

より厳しいのは冬季。東京エリアのH1需要に対する予備率は23年1月がマイナス0・6%、2月がマイナス0・5%。ほか6エリアでも、安定供給に最低限必要な予備率3%を軒並み下回る。

このため夏季は節電の数値目標は設けないが、冬季は数値目標を伴う節電要請を検討。さらに、電気事業法に基づく電力使用制限令の発動や計画停電の実施、供給側でも電事法に基づく発電事業者への供給命令の発出を視野に入れる。

厳しい需給に追い打ちも 米LNG出荷基地火災 

欧州各国がロシア産天然ガスの代替調達へと切り替えを急ぎ、国際的なLNG市場が需給、価格両面で不透明感が増す中、さらに先行きに不安を生じさせる出来事が起きた。6月8日に米テキサス州のフリーポートLNG基地で火災が発生。運営会社は当初、3週間で操業を再開すると発表していたが、その後、部分的な稼働開始に90日を要し、フル操業は今年後半になるとの見通しを示したのだ。

同基地は年間約1500万tの生産能力があり、日本企業ではJERAと大阪ガスが約232万tを調達している。両社とも、他のプロジェクトやスポット市場で対応を図り安定調達に支障がないよう努める方針だが、ただでさえ燃料調達リスクに起因するkW時不足が懸念される中、安定供給と価格の両面で影響が懸念される。

名門支えた大黒柱が帰還 「ひたむきな走り」伝える


【中国電力】佐藤 敦之

 早大時代から箱根駅伝やマラソンで活躍。2000年にはびわ湖毎日マラソンで当時の学生最高記録を樹立した。さらにマラソンで強くなりたいと思うなか、早大の先輩である中国電力の坂口泰監督から「一緒にマラソンで世界を目指そう」と熱心な勧誘を受ける。中国地方に由縁がなく不安はあったが、ひたむきに練習する中国電力のスタイルが合っていると感じ、成長できると確信して入社を決めた。

名門復権へ指導に熱が入る

中国電力陸上競技部でも、その実力を遺憾なく発揮した。04年にニューイヤー駅伝で悲願の初優勝を果たすと、07年には4区の選手から7位でタスキを受け6人をごぼう抜き。1位との2分以上の差を逆転した。「ゾーンに入ったような、時間が止まったような不思議な感覚だった。『ひたむきに走り、チームに尽くす』と無心だったのがよかったのかもしれない」。当時をこう振り返る。応援団の大声援も後押しし、中国電力2度目の総合優勝に貢献した。マラソンでも08年北京五輪に出場し、09年世界陸上では日本人トップの6位入賞を果たすなど、日本男子マラソン界をけん引し続けた。

12年からは地元の福島大学でコーチングを学び、13年に現役引退。14年から20年まで京セラ女子陸上競技部で監督を務めた。中国電力には坂口監督から請われ22年1月にヘッドコーチに就任。現在の陸上競技部はニューイヤー駅伝入賞まで、わずかに手が届かない位置にいるが「諦めない精神はチームに残っている。あとは現役時代に培ったひたむきな走りを若い選手にも伝えたい」。指導の根幹には電力会社の陸上部として地域に貢献すること、責任をもって全力を尽くすとの使命感がある。駅伝はチームスポーツだが、区間は一人で責任を背負わなければいけない。「電力会社も地域のインフラを担う責任ある立場。会社に倣い、どんなときも諦めず全力を尽くす姿を走りでも見せたい」という。

目標のニューイヤー駅伝入賞、そして優勝へ向け、現在はトレーニングの指導を行う日々。現役時代、共に走った「ミスター駅伝」こと岡本直己選手は、2月のびわ湖毎日マラソンで自己ベストを更新するなど健在だ。レースの高速化が進むなか「選手たちの自己記録を1km当たり2秒縮めたい。苦しいときも笑顔を作れるチームづくりを目指す」と目標を語る。かつて青春を過ごした中国電力陸上競技部の復権へ、ヘッドコーチとしての業務を全うしていく。

さとう・あつし
1978年福島県出身。早稲田大学卒業後、2001年中国電力入社。全日本実業団対抗(ニューイヤー駅伝)では04、07年の優勝に貢献。03年世界陸上パリ大会10位、08年北京五輪出場。 09年世界陸上ベルリン大会6位入賞。
13年現役引退。22年1月から中国電力陸上競技部ヘッドコーチに就任。

次代を創る学識者/鹿園直毅・東京大学生産技術研究所教授


熱利用分野の技術革新は、脱炭素社会に向けた大きなテーマだ。

鹿園直毅教授は、「経済性」を伴う製品開発を念頭に研究を続けている。

 「採算がとれる」省エネの実現に向け、熱エネルギーシステムの技術開発に取り組む東京大学生産技術研究所の鹿園直毅教授。脱炭素社会を実現するための革新的技術の確立には「日本の強みである素材や加工技術、それらをまとめ上げる力で民生・産業分野の省エネ技術を発展させる必要がある」と強調し、産業界やNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と連携しながら、研究機関としての役割を果たしていきたいと意気込む。

子供のころから工作が好きだったという鹿園教授。「自分が作ったものが実際に社会で使われているのを見たかった」といい、東京大学大学院工学系研究科博士課程を修了すると、日立製作所機械研究所に入社しエアコン製品の開発に携わった。その思いは研究者の道に踏み出してからも変わっておらず、「学者というよりはエンジニア」を自認する。

恩師の招きで東大大学院工学系研究科の助教授に転身したのは2002年のこと。それ以降、ヒートポンプと固体酸化物形燃料電池(SOFC)に関する要素技術の研究開発にいそしんできた。

化石燃料を活用し続けながら脱炭素社会を実現するには、さらなる省エネの促進は避けて通れない。一方で経済性が確保されていなければ、いくら省エネに寄与するといっても製品は普及しない。機能と信頼性を確保しつつ、かつ低廉な製品開発につなげることが、鹿園教授の研究の狙いだ。

ヒートポンプの低廉化 素材転換に活路

実際、環境中の熱を集めることで投入エネルギー以上の熱エネルギーを得られ、省エネやCO2削減効果に優れるヒートポンプは、空調機器や給湯器などで一定程度普及が進んでいる。しかし、今後期待される中温帯の熱を利用する産業用で広く活用されるようになるには、低価格化が絶対の条件。

そこで鹿園教授が着目しているのが、より低廉なアルミニウム材への素材転換だ。銅やステンレスに比べ価格面で優位性がある上に、熱伝導率が高く軽量化につながるメリットもあり、「耐食性などの課題をクリアできれば、ヒートポンプの価格を相当下げられる可能性がある」と、期待を込める。

もう一つの研究テーマであるSOFCは、高温で作動するため「熱源」として活用できることが、興味を持つ発端となった。発電効率が50%以上と燃料電池の中で最も高く、化学燃料と電気の変換を最も効率的に行える上に、電解質中を酸化物イオンが動くため、原理上はあらゆる燃料に対応できる。「脱炭素社会において、最終的に燃料として何が選択されるか不確実な中で、そこにもSOFC研究の意義がある」と見ている。

化石燃料に代わり合成メタンやアンモニアが熱源として実現した時代に、SOFCをどういった形で活用できるのか―。将来のエネルギーシステムの中で熱利用機器が果たす役割を模索しながら、日々の研究活動にまい進している。

しかぞの・なおき 1965年東京都生まれ。東京大学工学部卒、東大大学院工学系研究科博士課程修了。日立製作所機械研究所、同研究開発本部、2002年東大大学院工学系研究科助教授、07年同准教授を経て10年から現職。

【マーケット情報/6月24日】米国、中東原油が下落、需給緩和感が強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油を代表するWTI先物および中東原油の指標となるドバイ現物が続落。特にドバイ現物は、前週比10.35ドルの急落となった。需給緩和の予想が強まり、売りが一段と優勢になった。

米国の急激な金利引き上げを背景とした経済減速、および石油需要後退の見通しが根強い。さらに、米国では、価格の高止まりにより、ガソリン消費の回復が限定的となっている。米大統領は、ガソリンと軽油に対する連邦消費税を3か月間免除し、燃料価格を引き下げることを提案した。ただ、効力には疑問が呈されており、実現する可能性は低いとみられる。

また、欧州勢の禁輸措置を受け、ロシア産原油はアジア太平洋地域に流入しているとの情報。加えて、中東地域へのロシア産ガソリンとナフサの出荷も急増しており、ドバイ現物の重荷となった。 一方、北海原油を代表するブレント先物は、前週から横ばい。供給不足感が、需要後退の見込みを相殺した。ノルウェーの5月産油量は、前月比で減少。6月は定修でさらに減る見通しだ。また、エクアドルの産油量は22日、燃料価格高騰に対するストライキ開始前の12日と比べて、45%減少した。

【6月24日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=107.62ドル(前週比1.94ドル安)、ブレント先物(ICE)=113.12ドル(前週比0.00)、オマーン先物(DME)=106.51ドル(前週比9.82ドル安)、ドバイ現物(Argus)=105.75ドル(前週比10.35ドル安)

【メディア放談】電気・ガス事業とマスコミ あまりにひどい記者の不勉強


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ/4名

エネルギー価格の上昇や電力需給ひっ迫が、生活や産業に影響を与え始めている。

マスコミは対応策などを示すが、目立つのは記者の不勉強だ。

 ―今年も上半期が終わろうとしている。原油・天然ガス価格が高騰し、電力危機があり、それにウクライナ戦争が起きた。エネルギー政策にとって、大きな転機の年になりそうだ。

電力 何から話題にすればいいか分からないほど、大きな出来事があった。その中であらためて思うのは、マスコミの記者がエネルギーのことを知らない、勉強していないことだ。

 地震による火力発電の停止、異常な寒波などが重なって、3月に東北地方と首都圏で停電寸前の電力需給ひっ迫があった。しかし、5月に入って気温が上って電力需要が下がり、好天で太陽光が発電して供給が需要をオーバーすると、「何で再エネの出力制御をするんだ」と書く。中には、「電気が余っているのなら料金を下げろ」という記事もあった。電力の需給について、イロハのイが分かっていない。

マスコミ いい例が100万kW級大規模メガソーラーができた時の「原発1基分」との書き方だ。さずがにkWとkW時の区別がつかない記者はいないだろう。だが、あえてそう書く。原子力に否定的な朝日や東京なら、そういう編集方針だからと分かる。しかし、日経まで「原発1基分」と書く。そして電力需給ひっ迫の記事は、「再エネの普及に送電線の整備が欠かせない」で締めくくる。

石油 夏にまた、電力需給ひっ迫があるといわれている。マスコミはその懸念を書くべきだが、太陽光発電の力を過信しているせいか、取り上げようとしない。

電力 朝日は「送電線整備に財政出動しろ」とまで主張している。再エネが普及すれば、全てが解決すると「盲信」している。電力自由化の議論が始まった時、通商産業省(当時)の審議会で、議論を聞いていたT電力のK氏が、最後に「群盲象を評すだ」と感想を言ったことがある。

審議会委員の理解不足 マスコミは「再エネ万能論」

―あの発言は波紋を呼んだ。T電力関係者が「Kさんは将来、社長になる人だから」と、マスコミに記事にしないよう頼んでいた。

電力 確かに「群盲」は使うべき言葉ではない。だけど、議論を聞いていたKさんの本音だったと思う。今も学者も含めて、経産省の審議会委員が電力システムを深く理解しているとは思えない。その構図は、Kさん発言のあった当時と変わっていない。しかも、FIT(固定価格買い取り制度)で再エネが爆発的に普及して、電力システムはより複雑になっている。

石油 政府が再エネ主力電源化の方針を掲げていることの罪は重い。それでマスコミは「再エネ万能論」で通すし、経産官僚も本当は無理なことが分かっていながら、声に出せない。

マスコミ 電気事業の「プロ」にシステム設計を任せていれば、こんな事態にはならなかった。だけど、東日本大震災・福島第一原発事故で、電力関係者は制度設計の審議会から「パージ」されている。もう電力会社に政策をリードする力はない。電力需給のピンチはしばらく続くことになる。

ガス 西日本は原発が稼働して「戦力」が整う。だが、東日本は厳しい状況が続く。心配しているのは天然ガスの調達だ。EUが脱ロシア産を進めている。おそらくガスの輸入も止める。その時、日本はどうするかだ。LNGの需給がひっ迫する一方、原発は動いていない―。最悪の事態もあり得ると思う。

―資源高で電気・ガス料金が上がっている。電力・ガス会社の経営は厳しい。

ガス 電力は燃調制度の上限に達して、売れば売るほど赤字が増える構造になった。21年度は5社が最終赤字。資源高が続いて2年連続最終赤字になったら、料金改定しかないだろう。一方、ガスはまだ余裕があって、7月ごろまで燃調で値上げができる。もっとも、社会の批判を受けることになってしまうが。

―新電力もバタバタとつぶれ、需要家が電力調達に困っている。

電力 調達に困った需要家は送配電会社の最終保障供給に頼る。標準料金メニューの2割増しで供給するが、それでも逆ざや。いつか破綻する。

マスコミ そもそも、電力小売り自由化の議論を始めたときに、新電力が倒産するという事態を想定していなく、深い議論もしなかった。結局、発電設備を持たない事業者に市場参加させる制度の矛盾が、資源高や脱炭素化などの条件が重なって、一気に噴き出たのだと思っている。

海運業界の高利益 悲しい電力・ガスの商売

―一方、大手商社や海運業界は好決算だ。

ガス 海運業界は21年度、2兆円の利益を出している。LNGのサプライチェーンを担う「仲間」だと思っているが、利益が出るときでも「薄利多売」のわれわれと、これほど差が付くとは思わなかった。つくづく「電力・ガスの商売は悲しいな」と思った。

石油 元売りも業績がいいが、資源高を謳歌しているのがLPガス業界だ。燃調制度はあるが、電力・ガスと違いあくまで自主的な取り組み。料金値上げで、かなりの利益を出している。

マスコミ 電気やガスの料金が上がって、深刻な影響を受けているのは、使わざるを得ない生活困窮者などの社会的弱者だ。マスコミは彼らの声を聞いて、値下げを求める記事を載せなければいけないが、あまり見ない。値下げの「即効薬」は原発再稼働。それが嫌で書かないのなら、日本のマスコミは本当に要らない。

―FITを止めれば料金は下がるけど、さすがにそんな記事は期待できないな。

地方創生と分散型エネルギー バイオLPガスの普及に期待


【リレーコラム】荒木 徹/アストモスエネルギー 国際事業本部長

 LPガスは言うまでもなく化石燃料であり、それを取り扱う会社にとってカーボンニュートラルは21世紀最大かつ業界の存否を賭した課題である。

2011年の東日本大震災の直後にLPガスは貯蔵可能な分散型エネルギーという特長を生かし活躍した。特に被災者に寄り添う「社会的価値」、低炭素社会実現への「環境的価値」、そして膨大な原発建設コストに対峙する「経済的価値」の三要素から優れたエネルギーともてはやされたが、今は残念ながら逆風下にある。災害が起きないときには社会的価値は忘れ去られている。さらに、CO2を排出する一次エネルギーという時点で環境的価値は認められず、原油価格が暴騰する今日では、もはや経済的価値は喪失している。少子高齢化が進む日本で需要は漸減しているが、LPガスの復権はあるのだろうか。一次エネルギーの大半をLPガスに依存する地方や地域にとっては、カーボンニュートラルが地方創生を実現する道だ。

脱炭素というビジネスチャンス

50年にカーボンニュートラルが実現できているかどうかはさておき、今はその実現に向けたトランジションを推進することに論を待たない。とりわけ、人口減少が進む地方都市においてカーボンニュートラルを進めるにはスモール&スマートコミュニティーでのマイクログリッド網の整備が不可欠だ。

エネルギー供給源と消費施設を有し地産地消を目指す場合、供給源には太陽光発電、風力発電、バイオマス発電が重要。さらに加えて、同じく分散型エネルギーであるLPガスも大きな役割を果たすと考えている。災害大国の日本においては分散型電源とLPガスの組み合わせはベストミックスであろう。

問題はLPガスのカーボンニュートラルをどう進めるかだ。しかし、地方創生というキーワードであればプロパネーションなどの合成ガス技術よりは、むしろ地方に散在する稲藁、林地残材、家畜排せつ物、古紙などのバイオマス資源を利活用しLPガスに変えていく技術に目を向けたい。バイオマスから炭化水素を製造する技術は既に確立されている。今後は製品収率向上という課題はあるとはいえ、バイオLPガスの普及は実現不可能ではない。技術的な問題よりも原料確保が課題となるが、いずれにせよ、国、地方自治体、企業、国民といった全ての主体による協力の下、その区域の自然的社会的条件に応じて計画的な施策を策定していくしかない。カーボンニュートラルはピンチでもあるがビジネスチャンスでもあるのだ。

あらき・とおる
1987年三菱商事入社。石油製品のトレーディング、炭素製品の製造販売に従事。シンガポール、テヘラン、韓国など約10年間海外勤務を経験。2019年アストモスエネルギーコーポレート本部長、20年10月から現職。

※次回はサステナブルエネルギー開発の代表取締役社長の光山昌浩さんです。