業界ごとの明暗くっきり 主要エネ各社の21年度決算


 電力、ガスなど主要エネルギー各社の2021年度決算(22年3月期連結)が出そろった。対前年度比で見た全体傾向として、大手電力が減収減益だったのに対し、石油、都市ガス、LPガスは軒並みの増収増益と、明暗がくっきり分かれる格好になった。

大規模増収増益の決算発表で会見する出光興産の木藤俊一社長(5月10日) 提供:朝日新聞社

まず沖縄を含めた大手電力10社については、北海道、九州を除く8社が減収。経常利益では全社が減益となった(収益認識に関する会計基準適用などで、東京が売上高、利益とも、沖縄が売上高で前年度比の記載はなし)。とりわけ利益面で厳しかったのが、東北(赤字492億円)、中部(同593億円)、北陸(同176億円)、中国(同618億円)、四国(同121億円)の5社だ。各社とも、燃料価格高騰による燃料費調整制度の期ズレの影響や、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格高騰が収支を直撃した。

一方でJERAは売上高62・5%増、経常60・9%減益となったものの、燃料調達費の期ズレ要因を除くと大幅増益に。またJパワーは電力販売価格の上昇などを受け、2割近い増収増益と好調だった。新電力大手のイーレックスは、電力調達コストや発電燃料費などが上昇する中で、営業力の強化による販売電力量の増加や価格の見直しなどが奏功し、売上高は62・5%の大幅増、経常は7・4%減にとどまった。

化石系事業者は好業績 過去最高益の更新も

大手電力とは対照的に、決算書上の好業績が目立つのが、化石エネルギー系事業者だ。石油元売りの出光興産は売上高46・7%増、経常323・8%増、ENEOSは売上高42・6%増、経常234・3%増と、いずれも大幅な増収増益。原油価格高騰に伴う在庫評価益の上昇やタイムラグによる製品マージンの改善などが影響した格好だが、在庫影響を除いた営業利益でも増益に変わりはない。コスモエネルギーも同様の状況で、3社ともに過去最高益を更新した。石油資源開発は売上高が3・8%増にとどまったが、経常は原油高騰の影響などで336・7%の大幅増益だった。

都市ガス会社はどうか。東京、大阪、東邦、西部、北海道、広島の主要6社は売上高がいずれも増加した半面、利益面ではLNG調達や電力販売など関連事業の状況により格差が出た格好で、大阪と西部が減益に。特に西部は調達国側のトラブルの影響で、割高なLNGスポット調達を余儀なくされたことが大きく響き、87・5%の大幅減益となった。

LPガス会社については、主要上場企業の岩谷産業や伊藤忠エネクスが増収増益。TOKAIは5期連続の増収に加え、各利益項目で過去最高を記録した。ニチガスは売上高13・3%増、経常8・1%減だったが、当期純利益では過去最高益を更新した。

総じて、大手電力の苦境が際立つ結果といえ、設備投資拡大などで資金不足に陥っている状況も浮かび上がる。一方、脱炭素時代と言われる中で、化石系事業者の多くが好業績だった点は興味深い。これが理想と現実の違いなのか。

原子力発電の現状に強い危機感 審査効率化でより速やかな再稼働を


【自民党の原子力規制に関する特別委員会/鈴木淳司 委員長】

自民党の原子力規制に関する特別委員会は、5月に安全規制・防災の充実・強化について提言をまとめた。

原発再稼働に向けて規制行政の見直しなどを求めるもので、鈴木委員長に提言の骨子を聞いた。

すずき・じゅんじ 1982年早稲田大学法学部卒、松下政経塾入塾。瀬戸市議会議員を経て2003年衆議院議員(当選6回)。経済産業副大臣、自民党副幹事長、総務副大臣などを歴任。

―今年2月に提言の作成に着手しました。どういう心境で臨みましたか。

鈴木 わが国の原子力の現状について非常に危機感を抱いていました。偶然ですが、特別委員会の会合を開いていた3月22日、電力需給がひっ迫し、東北地方と首都圏で停電寸前にまで至った電力危機が起こりました。われわれは将来にわたる原子力の安全確保の議論をしているのですが、今まさに目の前で起こっている危機に原子力発電所が何も対応できていない。そのことに強いもどかしさを覚えました。

 ロシアのウクライナ侵攻に伴う世界的なエネルギー危機や、円安による石油、天然ガスなどの価格高騰は、国民生活や産業活動を圧迫し始めています。また、世界的な要請のカーボンニュートラルへの対応も待ったなしの課題です。電力需給ひっ迫は、今年度の夏、冬も起こり得ると言われています。それらの課題を解決できるのは、当面、原子力しかありません。まず、その点をしっかり位置付けたい思いがありました。

―福島第一原発の事故の後、日本の原子力は著しい停滞が指摘されています。

鈴木 多くの原子力発電所が長期間運転停止をしている間に、実績のある運転員が退職し、稼働経験の乏しい職員がそれに代わることになります。また、運転再開に向けた予見可能性が著しく低いことは、投資へのインセンティブを減少させてしまう。優秀な人材の確保も難しくなり、安全・安定運転の基盤となるサプライチェーンも衰えます。原子力発電所は、止めていれば安全だと考える人が多い。しかし、実は長期の停止はかえって安全を損なることになりかねないのです。

 一方、先日、米国から高速炉(FR)の共同開発を持ち掛けられたように、日本の原子力産業にはまだ豊富なポテンシャルがあり、世界から評価されています。原子力産業を今後も維持、発展させていくことができるか、今はまさに正念場だと思っています。

―まず、どういう課題を優先すべきだと考えましたか。

鈴木 停止中の原子力発電所の再稼働です。今回のエネルギー基本計画でも、2030年に原子力比率20~22%という目標が示されています。しかし、福島第一原子力発電所の事故から11年、原子力規制委員会の発足から10年がたちましたが、まだ再稼働した発電所は10基にすぎません。現在停止中の17基が運転しなければ、この目標は達成できない。その点からも、速やかな再稼働についての検討が絶対に欠かせません。

―原子力規制委員会の新規制基準の適合性審査で、いまだに多くの原発が停止しています。提言では、審査の在り方について、さらなる見直しを求めています。

鈴木 われわれは規制を緩めるべきだとは、一切主張していません。申し上げるまでもなく原子力は安全が最優先ですから、規制はしっかりと行うべきです。ただ、審査は効率よく進めていただきたい。現在の審査の在り方には、まだ改善すべき点が多くあると思います。

断層などの審査で多くが停止している(敦賀2号機)

理学系の論点で審査長期化 事前に問題意識の提示を

―具体的にどういう点を見直すべきですか。

鈴木 規制委の審査会合は、事業者にとって「一発勝負」のような側面があります。いわば事前通告のない国会質問のようなもので、質の高い良い議論にはなりません。しかも、審査が長引いている主要因でもある断層や地震、津波、火山などの自然科学系の論点は、そもそも取得すべきデータが膨大かつ困難です。

 そのような中、事業者は審査会合に備えて、膨大な取得データなどの証拠を整理し、大変な時間と労力をかけて資料を準備します。しかし、規制委の関心事項やポイントと、事業者の認識がずれていると、膨大なロスが生じます。その過程での手戻りで審査がストップし、再開するまでに長い時間がかかってしまう。やはり審査会合の場で、規制委の委員と事業者の議論がしっかりかみ合うようにしなければならない。

―求められていることは。

鈴木 審査の過程で、規制側から事業者に対して「規制当局としては、こういう問題意識と関心事項を持っている」ということがしっかり伝わり、共有されていることが大切です。その点、北海道電力泊3号機の審査では、今年3月末に、規制側から審査会合で論点となるポイントが初めて明文化された形で示されました。これは、これまで例のなかったことで、今回の提言の中でも評価しています。

 審査会合の前に、規制側が質問や確認する項目を文書で示し、それに対して事業者が適切な準備をしっかり積み重ねていけば、会合を効果的・効率的に行うことができます。他のサイトでの審査でも、引き続きこういった取り組みを進めていただきたい。

―今後、提言をどう扱いますか。

鈴木 5月12日に山口壯環境相に提出し、16日には岸田文雄首相に申し入れを行いました。今後、党の総合エネルギー戦略調査会などとも連携して、提言内容の実現を求めていきたいと思います。

―ところで、今回の提言は「中間報告」ですが。

鈴木 われわれは、提言の内容がどう実行されていくか、今後、その状況を引き続き確認していきます。規制の在り方については、引き続き安全第一の原則は堅持しつつ、必要に応じて原子炉等規制法などの改正も視野に入れ、より効果的・効率的な規制に向けて、議論の深掘りを進めていきます。

現実味帯びる首都計画停電 供給システム脆弱化の対策が急務


今年度夏・冬も厳しい電力需給が見通され、計画停電の実施も視野に対策が講じられようとしている。

短期的な停電回避策はもちろん、システムの脆弱化を招く構造的な問題の解決が求められる。

 「東京エリアが暖冬になることをただ祈るしかない。そうでもない限り、いよいよ計画停電の実施は現実のものになるだろう」

そんな話が今、電力業界でまことしやかにささやかれている。業界関係者にとって「予備率マイナス」のインパクトは、東日本大震災発生時以来の計画停電を覚悟しなければならないほど大きかったようだ。

予備率マイナスの衝撃 繰り返される電力危機

資源エネルギー庁が示した今年度冬季の電力需給見通しによると、東京エリアの厳気象H1需要(10年に1度の厳気象を想定した最大需要)に対する安定供給に最低限必要な予備率(需要に対する供給力の余力を表す割合)は、23年1月がマイナス1・7%、2月はマイナス1・5%と惨憺たるものだ。中部、北陸、関西、中国、四国、九州の6エリアでは安定供給に必要な予備率3%を下回っており、全国的にも厳しい。

大手電力会社のOBは、「この予備率の数値が日本の電力需給の実態を表しているのであり、相当深刻だと受け入れざるを得ない」と、電力供給システムの信頼性が崩れつつあることへの失望を隠せない様子だ。

3月22日、福島県沖地震に伴う大規模な供給力の脱落と季節外れの低気温により、東京・東北エリアに全国初の「電力需給ひっ迫警報」が発出されたことは記憶に新しい。このときは、追加的な供給対策に加え、需要家の節電協力も功を奏し、大規模停電という最悪の事態は免れた。だが、なぜこのような電力危機が毎年繰り返されてしまうのか。

その要因として考えられるのが、競争促進と脱炭素化をエネルギー政策で優先した結果、安定供給を支える火力電源の休廃止を促進し、供給力(kW)の減少に歯止めがかからないことだ。このため、ただでさえ高需要となる夏・冬は需給がひっ迫しやすくなっている上に、今年度は福島県沖地震に伴う火力電源停止の長期化の影響が追い打ちをかける。

もう一つは、20年度冬に燃料制約により全国的な電力不足に陥ったことが象徴するように、たとえkWが足りていても燃料確保が不十分であればkW時(発電電力量)が不足してしまうことだ。足元ではロシアのウクライナ侵攻により燃料調達リスクが顕在化しており、kWと合わせてkW時不足への対応の必要性がますます高まっている。

脆弱化した供給システムの根本的な立て直しは急務だが、まずは目の前に迫る危機を回避するべく、エネ庁や電力業界が総力を挙げた対策に乗り出している。

供給側の対策としてエネ庁が打ち出しているのは、「kW公募による休止火力の稼働」と「kW時公募の拡充による燃料在庫水準の引き上げ」、そして燃料調達リスクに影響されない「再生可能エネルギー電源の最大限の稼働の担保」「安全性が確保された原子力発電の最大限の活用」―の四つ。

休止火力の稼働についてはJERAが、夏季の需給ひっ迫回避に向け、4月1日に長期計画停止に入っていた袖ケ浦火力1号機(60万kW)を再稼働させた。さらに、21年度冬季に需給対策として再稼働させていた姉崎火力5号機を含むそのほかの長期計画停止電源についても、運転再開に必要な工事内容や期間の精査を進めている。

夏季、そして冬季のひっ迫回避に向け、「(一般送配電事業者や小売り事業者など)ステークホルダーの要請に応えられるよう準備を進めていく」(JERA)考えだ。

JERAは袖ケ浦火力1号機を再稼働させた

原発再稼働は非現実的 急がれる需要対策

エネ庁が供給対策として再エネと原発を挙げるのは、「休止火力の稼働はkW不足に対しては有効である一方、燃料調達リスク(kW時不足)への対応としては不十分であるため」(エネ庁幹部)だ。

4月8日には、岸田文雄首相が「夏・冬の電力需給ひっ迫を回避するため、再エネ、原子力などエネルギー安全保障と脱炭素に効果が高い電源の最大限の活用を図る」と記者会見で述べるなど、原発再稼働への足場固めは着々と進んでいるかに見える。

しかし、その実現性について大手電力会社の幹部は、「現行ルールのままでは、安全対策工事を進めている原子力を今年度冬季に合わせて再稼働させることは現実的ではない」と否定。そして、「比較的余裕のある他エリアからの電力融通に加え、それでもひっ迫が避けられない場合にはやはり節電しかない」と、より一層の需要側の対策の重要性を強調する。

本来であれば、インセンティブを伴うデマンドレスポンス(DR)で需要を抑制することが望ましいのだろうが、蓄電池などの普及が十分に進んでいない現状では難しく、3月22日と同様、ひっ迫警報により広く需要家に節電を呼び掛けるしかない。

このときは、警報の発令が前日の午後9時と遅れたことが、企業などの対応の遅れを招き十分な節電効果を引き出せなかったとの指摘がある。そこでエネ庁は、これまで前日午後6時をめどとしていた発令のタイミングを4時に前倒しするとともに、警報発令の基準となる予備率3%が確保されていても、5%を下回ることが見込まれる場合に「注意報」を発令することにし、需要家に対する早めの注意喚起につなげる方針だ。

このような需給双方の対策を講じたとしても、そのギャップを埋められるかは不透明なまま。そこで万が一に備え、計画停電の実施や電力使用制限令の発令も視野に準備が進められようとしている。とはいえ、自然災害などが要因でもない限り、経済と国民生活に多大な影響を及ぼす強制措置を講じることに国民の理解を得られるとは考えにくい。

繰り返される需給ひっ迫危機の背景には、政府主導で進めてきた自由化と再エネ政策がもたらした供給システムの構造上の問題があることは間違いない。それによって国民に不利益を強いるというのであれば、その反省を踏まえた問題解決の具体策を指し示す必要があるのではないか。

【マーケット情報/5月27日】原油続伸、需給逼迫感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続伸。品薄感と需要回復の見通しで、需給がさらに引き締まった。

欧州連合は、ロシア産原油の禁輸措置を検討。30~31日の欧州理事会の会合で、方針の決定を目指す。ロシアへの依存度が特に高いハンガリーは反対しているが、欧州連合の高官は禁輸措置に意欲的な姿勢を見せている。ロシア原油回避の動きが強まるなか、サウジアラムコ社は、世界の産油能力の余剰は、2%以下しかないと警告した。

加えて、イランのイスラム革命防衛隊が27日、中東を航行していたギリシャ国旗の船舶2隻を拿捕。26日には、地中海を航行中だったイランの原油タンカーが米国に拿捕されている。中東における政情不安、および安定供給に対する懸念が台頭した。

品薄感が強まる一方で、中国・上海では、新型ウイルス感染拡大対策のロックダウン解除を開始。6月には製油所の稼働率も徐々に上昇すると予測されており、経済再開と石油需要回復の見通しが広がった。また、北半球では夏季に入り、燃料消費の増加見込みが根強い。需給の引き締まりで、買いが一段と優勢になった。

【5月27日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=115.07ドル(前週比1.84ドル高)、ブレント先物(ICE)=119.43ドル(前週比6.88ドル高)、オマーン先物(DME)=112.27ドル(前週比3.76ドル高)、ドバイ現物(Argus)=111.68ドル(前週比3.56ドル高)

入社の決め手は「笑顔」 家族のような関係で二人三脚


【サイサン】小西 杏奈

 サイサンとの出会いは中京大学在学時。日本オリンピック委員会によるアスリート就職支援制度「アスナビ」の企画で、プレゼンテーションを行ったところ「終了直後に真っ先に笑顔で走ってきて『小西さん、ぜひっ!』と名刺をいただいた」。それがサイサン副社長の川本知彦氏だった。

筋力を生かした泳ぎが特徴

当時の印象について「優しそうな笑顔で温かみを感じた。名刺をいただいた瞬間に(就職を)決めた」と和やかな雰囲気を語る。小西選手の入社を決めたサイサンも「(迎え入れた)決め手は笑顔。ポジティブな雰囲気が会社に良い影響を与えてくれる」と話す。笑顔を共通点にした両思いの関係で競技に取り組み、小柄ながら筋力を生かしたバネのある泳ぎで、サイサン入社後さらに力を伸ばした。

これまでのトレーニングが実を結んだのは2021年4月の日本選手権だ。東京五輪代表選考会も兼ねたこの大会、100m背泳ぎと200m背泳ぎで優勝し2冠を達成。東京五輪のメドレーリレー代表に内定した。「会社の皆さんが日本選手権に臨むときに、各拠点で応援動画を作り、送っていただいた」。コロナ禍で会場での応援ができない状況下でも、できる限りの応援を続けるサイサンには「感謝してもしきれないほどの恩しかない」と話す。

東京五輪では女子400mメドレーリレーで8位入賞を果たし、初の五輪の舞台で輝きを見せた。サイサン本社で行われた五輪報告会では、世界中のグループ拠点から祝福を受けるなど、サイサンを「家族のような温かさ」と表現する。「今まで良い成績を残すことができたのは、たくさんの応援をいただいたおかげ。おこがましいが、これからも元気を届けられるよう結果を求めて頑張る」と、4月末から開催する日本選手権での活躍を誓った。

サイサンは、小西選手について「オリンピックに出る、という小学生時代からの夢を実現したことは、誠に素晴らしいこと」と、これが他の社員のモチベーションアップにつながったと評価。競泳に真摯に取り組む姿を通じ、社員への波及効果に期待しているという。アスナビによるアスリート採用は19年から始まり、小西選手らが「一期生」となる。「ガスワン・サイサンというブランドを広めてもらう役割を担っている」と、トップアスリートの競技活動の支援に力を入れる。今後は9月のアジア大会出場、そして24年パリ五輪出場を目指し、小西選手とガスワングループの二人三脚は続いていく。

こにし・あんな
1996年兵庫県出身。姉の影響で2歳から水泳を始める。上半身の強さを生かし、専門の背泳ぎで頭角を現す。2018年アジア大会100m背泳ぎで銀メダル、21年日本選手権では100m、200m背泳ぎで2冠を達成し東京五輪メドレーリレー代表に選出。

次代を創る学識者/所 千晴・早稲田大学理工学術院創造理工学部環境資源工学科教授


資源循環の鍵を握る「分離技術」の研究開発を主導する。

目指すのは、生活の利便性や経済性を損なわない循環型社会の実現だ。

 SDGs(持続可能な開発目標)達成やカーボンニュートラル社会を実現するには、限りある地球資源の循環利用が欠かせない。製品寿命を終えた廃棄物の再資源化に資する「分離技術」の研究開発を進める早稲田大学理工学術院環境資源工学科の所千晴教授は、「省エネルギー、低環境負荷、低コストで高精度の分離を実現することで循環型社会構築に貢献していきたい」と研究の狙いを語る。

循環型社会を目指す上で、人々は「大量生産・消費型社会」で培われた価値観の大転換を促されることになる。同時に製造現場も、性能と価格のみを重視した製品設計から、より資源の循環に配慮したモノづくりへの移行を強く求められる。所教授は、生産の段階から再資源化を考慮した製品づくりを後押しする技術研究の傍ら、製品の供給から回収して再資源化するまでの社会システム構築に向けた研究にも携わり、これまでも積極的に政策提言を行ってきた。

日本では、「環境対応」といえば自己犠牲やボランティア精神を伴うものだと考えられがち。所教授が志すのは、生活の利便性や経済性を損なわずに循環型社会を実現することで、「well-being(幸福)」な暮らしの実現に貢献することであり、研究指導を通じて学生たちにも環境をビジネスに結び付けることの重要性を伝え続けているという。

「環境」に興味を持つきっかけとなったのは、1992年にブラジル・リオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国際会議(地球サミット)」で、当時12歳だった少女が行ったスピーチに感銘を受けたこと。そして、環境問題を解決することで社会に貢献できる人材になりたいと、早大理工学部に進み資源循環工学を専攻しようと決めた。

とはいえ、最初から研究者を目指したわけではなく、「キャリアウーマンになって大手町を闊歩しよう」と、自身の社会人像を思い描いていたことも。転機となったのは、4年生で研究室に入り研究の面白さを知ったことだ。「研究者としての視野を広げるためにも、博士課程に進むのであれば研究室を変えた方がいい」という恩師のアドバイスを受け、修士課程から東京大学大学院工学系研究科に進み、実験やシミュレーション手法など研究者としての基礎を培った。

多岐にわたる社会問題 バランスを考慮し解決を

気候変動問題は、社会が一致して取り組むべき大きな課題だと認識する一方で、「それだけが地球への環境負荷ではないにもかかわらず、政策や企業の取り組みも含めてカーボンニュートラルのみに注力し拙速に進める傾向が強まっているのではないか」と、昨今の風潮に危機感を覚えている様子。

社会問題は、エネルギー安定供給や資源の有限性、環境汚染など多岐にわたる。「さまざまな問題のバランスを図りながら解決していかなければひずみが生まれてしまう。これらを一緒に解決する手法を考えるべきだ」と強調する。

ところ・ちはる
1975年兵庫県生まれ。早稲田大学理工学部資源工学科卒、東京大学大学院工学系研究科地球システム工学専攻修士課程および博士課程修了。博士(工学)。早稲田大学理工学部(現理工学術院)助手、専任講師、准教授を経て、2015年から現職。

【メディア放談】電力需給のひっ迫 停電寸前招いた責任者は誰だ


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ/4名

3月22日、東北地方と首都圏は電力需給が極端にひっ迫し停電の恐れがあった。

火力発電の停止、悪天候と悪い条件が重なったが、底流には構造的な問題がある。

 ―3月22日に東北地方と首都圏で電力需給がひっ迫して、停電寸前にまで陥った。16日の福島県沖地震で太平洋岸の火力発電所が被害を受け停止したこと、季節外れの寒波に見舞われたことが原因だった。

電力 この日は非常に悪い条件が重なった。需給がひっ迫したこと自体は、仕方がなかったと思う。ただ、問題は国側の対応だ。22日は3連休明けの火曜日。本来ならば、連休に入るころに需要家に実態を説明して、節電を頼むべきだった。

 それがずるずると遅れ、政府はようやく21日の夜に需給ひっ迫警報を出した。企業としては、前日の夜に節電を要請されても、とても対応できるものじゃない。

ガス マスコミ対応も同じだ。連休中は当然、記者の動きも鈍くなる。それを考えて、先手先手で事情を説明するべきだった。22日に萩生田光一経済産業相が緊急会見を開いて節電を要請して、経産省の事務方は午前と午後に2回、記者にレクチャーをした。

 記者としても、急に電力需給について説明を受けても、なかなか理解は難しい。そんなこともあったせいか、節電への需要家の反応はいまひとつだった。

マスコミ 事情に詳しい関係者に聞くと、今回の電力危機の一因として、「人」の問題があったという。電力会社を除くと、需給に責任を負うのは広域機関(電力広域的運営推進機関)と資源エネルギー庁になる。しかし、広域機関に出向していた電気事業に詳しい経産省の幹部が去っていて、エネ庁の担当課も知識や経験が足りなかったらしい。 

石油 週刊ダイヤモンド(電子版)が「電力不足を招いた真犯人は誰だ」との記事で、福島第一原発事故の後、電力会社から電気事業の主導権を奪うことに力を入れた官僚の責任を追及していた。まさにその通りだと思った。

太陽光発電は役に立たず 変わらぬ原発=悪の構図

―新聞各紙が電力危機について振り返っている。

電力 読売、産経は原発再稼働の必要性に触れて、朝日、毎日、東京は原発は論外とする。朝日、毎日、東京の原発=悪、再エネ=善とする構図は、もし停電があっても変わらなかっただろう。

石油 今回、FIT(固定価格買い取り制度)で数兆円も普及拡大に費やした太陽光発電が、悪天候で最大電力の2%ほどしか発電できなかった。何の役にも立たなかったわけで、これにはさすがに再エネ推進の新聞も、居心地が悪かったと思う。

ガス ただ、電力危機は太陽光が発電せず、原発が止まっていることだけが理由ではない。西日本は原発も稼働して電力に余裕があった。しかし、周波数変換所(FC)の制約で60万kWしか東日本に送れなかった。福島原発事故の後、東日本では需給バランスが悪い状態が続いているが、国は手を打ってこなかった。

―もし柏崎刈羽原発6、7号機が稼働していたら、ここまでの電力危機は起こらなかったはずだ。

マスコミ 朝日にHさんという経済担当の編集委員がいる。文章がうまく、財政規律などについて正論を主張する。さすが天声人語で有名な深代惇郎や辰濃和男を生んだ朝日の記者だな、と思ってHさんの記事を読むことが多かった。

 そのHさんが、ウクライナで原子力施設が攻撃されたことを踏まえて、コラムで日本の原発がテロやミサイルで攻撃された場合の危険性を書いている。確かに、そういうリスクはある。だけど、原発が止まったままでは、夏場や次の冬に電力危機や価格高騰が起きるリスク、それに天然ガスなどの価格が高止まりして、円安も加わり膨大な額の貿易赤字になり、国富が海外に流出していくリスクがある。それらと比べてどちらのリスクが大きいだろうか。

原発破壊のリスクは 名文家のぎこちない文章

―原発は、沖合に海上保安庁の巡視船が配備されて不審船などから守っているし、サイト内では常に警察官が警備している。

マスコミ 電力会社は特重(特定重大事故等対処施設)までつくっている。原発が破壊されるリスクの方が大きいとはいえない。僕は、実はHさんもそのことが分かっていると思っている。しかし、朝日の編集委員として、原発の負の側面をフォーカスする記事を書かざるを得なかったのではないか。コラムの文章はどこかぎこちなく、名文とはいえないものだった。Hさんとしても、この記事は不本意だったと思う。

電力 急激な円安によって貿易収支の赤字が拡大しているのは、重大な問題だと思っている。1ドル126円台になった4月13日の翌日、日経は1面で貿易赤字の主因は原発停止によるエネルギー輸入の増加として、「円安を止めるために原発を再稼働すべきだという意見は今後、強まる」とみずほ銀行の唐鎌大輔さんのコメントを掲載した。

 ただ、その後で「もっとも再稼働は政治的な合意のハードルが高い」と付け加えている。日経も、まだこの最後の一文を入れなければいけないんだなと思った。

―ウクライナ戦争は長期化しそうな気配だ。エネルギー需給や価格への影響が心配されている。

石油 週刊『エコノミスト』が「世界エネルギー大戦」として特集を組んで解説していた。日本が輸入するLNGプロジェクトと輸入ルートの地図は資料価値も大きい。一方、他の週刊経済誌はなぜか大きく取り上げない。エネルギーや原子力を特集にすると、売り上げが落ちるせいだろう。

―電力危機、価格高騰、国富流出、それに何より戦争。もう言葉も聞きたくない。

変わらない文化からの変革 日印の技術力でDX支援


【リレーコラム】小薗江 隆一/飯野海運 常務執行役員

 船は人類が生み出した最古の乗り物だ。その動力源は、「人の力」、「風の力」と変化してきた。鉄を用いて船が大型化すると化石燃料を利用する「蒸気機関」、「内燃機関」と技術革新をしてきた。そして、船は「より遠く、より早く、より多く」を実現して、時間が読める安定輸送手段として世界の物流を支えてきた。今、その海運にも脱炭素化の波は押し寄せている。グローバル市場における外航海運の脱炭素化の取り組みを紹介していく。

サプライチェーンにおける脱炭素化は重要で、特に運輸部門でのCO2排出量削減が求められている。海上輸送は国際貿易量の90%(重量ベース)を占めており、脱炭素化は避けて通れない。 外航海運のCO2総排出量は年間約7億t。これは全世界のCO2排出量の2・1%で、ドイツ1国の排出量に相当する。国連の国際海事機関が、「2

030年には08年比で40%削減、50年には同じく50%削減」という目標を定めたが、近々「50年はネットゼロ」になる可能性が高いと見られる。

次世代新燃料の台頭が必須

現代の船の構造は貨物の種類によって専用化して積載量を最大化する設計になっており、積載量を犠牲にしない限り、本船でCO2を貯蔵するスペースの余力はない。再生可能エネルギーは補助的な動力として検討されているが、洋上では気象・海象が激しく変わるため動力源としては難しい。つまり、CO2排出量を削減する方法は消費効率が高く、環境に優しい「次世代燃料」が利用だ。燃料の消費量は速力の3乗に正比例する。よって船の速力を遅くする現実的な対応をとりながら次世代燃料への展開を進めることになる。速力を遅くすると物流全般への影響は出るが、サプライチェーンでのCO2削減効果は期待できる。

次世代燃料への展開は、エンジンの対応が必要なため新造船から始まる。既にLNG、LPG、メタノールを燃料とする船は稼働。低炭素化に向けた試みは始まっている。本格的な炭素フリーの燃料としてアンモニアや水素が検討されているが商業運転は26年頃と見られる。次世代燃料の導入には供給能力、価格、インフラ整備が課題だ。

このように脱炭素化は将来の物流にも影響する。外航海運は今、「より遠く、より早く、より多く」を、顧客ともう一度見直す転機を迎えている。海運に従事する者として、船が将来にもわたり人々の暮らしを豊かにして夢と文化を運ぶ安全な輸送手段であり続けるように努力をしていきたい。

おそのえ・りゅういち 1985年飯野海運入社。イイノシンガポール社長、ケミカルタンカーグループチームリーダー、執行役員などを経て2016年から現職。

※次回はアストモスエネルギー国際事業本部長の荒木徹さんです。

【コラム/5月25日】電気事業のノンコアビジネスの可能性


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

内外における電力市場の競争激化で、電力会社の電力販売による利益は減少している。そのような中で、電力会社は、新たな価値創造のために事業分野の拡大を重視している。地域に根差すドイツのユーティリティ企業であるシュタットヴェルケは、その強みを活かして、様々な事業分野への拡大を図っている。2021/11/22のコラム「電気事業のコアビジネスの拡大」では、蓄電池を含む分散型電源、スマートメータリング、エレクトロモビリティの事業分野での活動実態について紹介し、シュタットヴェルケはコアビジネスの延長線上にあるこれらのビジネスに最大のポテンシャルを見出していることを述べた。それでは、エネルギー供給以外のノンコアビジネスの可能性はどうだろうか。本コラムでは、この問題について、業界団体BDEWの調査結果を踏まえて考えてみたい。

シュタットヴェルケは、ノンコアビジネスとしては、電気通信、スマートホーム、スマートシティなどの分野に将来性を見出している。エネルギー供給以外とはいえ、本業への(ある程度の)近さや顧客との地域的近接性ゆえに、シュタットヴェルケは、将来的にはこれらの分野に従事することが自然な流れと受け止めている。しかし、コアとのリンクは小さいため、企業全体の利益に占めるシェアは依然小さく、セクターコンバージェンス(他産業との協調)による利益の増大が課題となっている。

1)電気通信

この分野では、多くのシュタットヴェルケは、現在、光ファイバーケーブルの敷設などインフラの拡充を行っており、その約1/4は、ブロードバンド、デジタルテレビ、インターネットサービスなどに従事している。電気通信サービスは、シュタットヴェルケにとって、長期的に一定の収益をもたらす有望なビジネスとみられている。さらに、同サービスは、スマートメータリング、スマートグリッド、スマートホーム、スマートシティなどの分野におけるさらなるデジタルビジネスの基礎となると考えられている。

電気通信分野におけるシュタットヴェルケの取り組みは、単独でのアプローチが多かったが、最近、Deutsche Telekomとの協調が増えている。電気通信市場のグローバルな特性と、エネルギー供給市場の地域密着的な特性に鑑みて、電気通信事業と電気事業のコンバージェンスは、追加的な収益を獲得できる新たなビジネスモデルを生みだす可能性があるだろう。

2)スマートホーム

スマートホーム事業では、エネルギーマネジメントやホームオートメーションなどのプロダクトが提供されているが、同事業に意義を見出し、これらのプロダクトを提供するシュタットヴェルケは、1割程度に過ぎない。現在、シュタットヴェルケが提供するスマートホームプロダクトは、主に顧客のロイヤルティを高めることを目的としており、企業の収益性に貢献するものではない。

スマートホームの分野では、これまでのところ、統一されたプラットフォームは市場に定着しておらず、多数の規格や技術があり、それらは、通常は互換性がなく相互運用ができない。この点で、スマートホームのプロダクトを総合的に提供するためのプラットフォームの構築を目指して、エコシステムを開発していく大きな可能性が存在しているといえる。

3)スマートシティ

この事業分野の開発は初期段階にあり、エネルギー業界は、現在のところ、他業界とのシナジー効果をほとんど見出していない。

スマートシティに関連して、シュタットヴェルケが提供しているプロダクトは、インテリジェント街路照明が最も多い。2020年時点で約2割の企業が、このプロダクトを提供している。このプロダクトは、エネルギー供給に近いため、最も多く提供されている。インテリジェント街路照明以外のプロダクトは従来のエネルギー供給から遠ざかっていくことになるが、インテリジェントな駐車場管理、リアルタイムデータを活用した環境監視、新しいモビリティコンセプトなど、将来的にシュタットヴェルケが従事すると思われる分野は多岐に亘る。しかし、それぞれの事業に関与している企業は、2020年時点で1割または1割未満である。企業の大部分は、スマートシティのアプローチは、様々なパートナーとの協力関係がなければ成功しないと考えている。

エネルギー供給事業者にとって、ビジネスのさらなる可能性を高めるためには、プラットフォームの開発とその上でのサービス提供が、異なるコンピテンシーを持つ多数のパートナーと共に推進されることが必要と考えられている。エネルギー供給事業者は、初期の段階からこのようなエコシステムプラットフォーム運営者の役割を担うことが多いと考えられるが、その際参加者全員にとってwin-winの状況を作ることが、成功のための必須条件となるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【石橋通宏 立憲民主党 参議院議員】「エネルギーとICTの融合を」


いしばし・みちひろ 1991年米国アラバマ大学大学院修了。全電通(現・NTT労働組合)、国際労働機関(ILO)を経て2010年参院議員(比例区)。22年から参院経済産業委員長。当選2回。

子供たちが安心して学べる社会を実現するため、ICT利活用の推進に奔走。

平和を次代につなぐため、実直に労働、貧困、差別、教育問題に取り組む。

 父は全日本自治団体労働組合(自治労)出身で衆院議員を4期務めた石橋大吉氏。「労働組合のおやじ」として、働く者のために粉骨砕身する背中を見続け、自身も組合活動に身を投じる。全電通(現NTT労働組合)を経て2001年、国際労働機関(ILO)勤務に。労働問題を「一生涯の仕事にしよう」と各国を回り、労働者の権利確立のために奔走した。

最初の5年3カ月はイタリア・トリノに赴任。その際、欧州の働き方や社会保障制度に衝撃と感銘を受けた。労働時間が短く生産性の高い働き方、育児や教育を社会全体で支える姿を見て、日本との差を痛感した。「なぜこんなにも違うのか」―。バブル崩壊以降30年で日本の国際競争力は低下し、賃金も上がらない。次世代が安心して働いて生活できる環境にしなければ日本に未来はない、と感じるようになった。

06年からの3年はフィリピンを拠点に東南アジアや太平洋諸島地域を担当。労働法制、社会保障制度が整っていない国々の実情を見た。一握りの権力者が政治を牛耳り、貧困がまん延し、子供たちは学校に通えず、労働者は声を上げるだけで命まで狙われる世界。結局、国民のための政治が行われないと、その国の人は幸せにはならない。ILOを含めた国際機関の役割は重要だが、国を良くするのはその国の政治だと痛感。「欧州やアジアでの経験を生かし、人々が安心して暮らしていける社会を取り戻したい」と決意し、一生働くつもりだったILOを辞め国政に挑んだ。

「平和を次代に」走り続けた12年 教育分野でICT利活用進める

10年の参院選で初当選。「平和を次代につなげていく」として、戦争や紛争の潜在的要因となり得る貧困や格差、差別や人権侵害の排除に尽力する。専門分野の労働問題では、非正規雇用の拡大に警鐘を鳴らした。「この国の雇用の安心・安定が失われてきた。何年頑張っても賃金が上がらない。もらえるはずの手当がもらえない、だから安心して暮らしていけない。そんな状況を変えるのが政治の責務だと思っている」。立法府に属する一人として、憲法で保障されている人権の保護、そして平和主義、国際協調主義の実現に走り続けた、と議員生活の12年間を振り返る。

また「資源のない日本で、最大の資源は人材。次代を担う子供たちが、家計の状況に関係なく自ら望む教育を受け、成長していける環境をつくらなければならない」と教育分野の情報通信技術(ICT)利活用を推進する。「当初は一部議員から『教育は紙の教科書と黒板・チョークを使うもの。何がパソコンだ』と反発を受けたこともあった」。それでも超党派の勉強会を立ち上げ、議員連盟に衣替えして実務を担い、19年には「学校教育の情報化の推進に関する法律」を議員立法で成立させた。このような取り組みが、全国の児童生徒に一人1台のデバイス環境とネットワークを整備する「GIGAスクール構想」の展開につながっている。「ICTの利活用が子供たちの可能性を広げ、未来をつくる。今後は、大学授業料の低廉化や無償化、給付型奨学金の拡充、教員の負担軽減も進める」と意気込む。

現在は参院の経済産業委員長として、経済産業省などとの調整、法案の議論に汗を流す。「私たちは、この30年で国際競争力が大きく低下してしまった原因を真摯に総括し、これからどう挽回するか与野党挙げて真剣に議論すべき」と10年後、20年後の日本で暮らす子供たちの未来を見据え「エネルギーとICTの融合」を提唱する。日本が国際的な競争力を取り戻すため、再生可能エネルギーのポテンシャルを評価。「より効率的な再エネの活用や省エネの展開にはICTが不可欠」。スマートグリッド(次世代送電網)やスマートシティなどの都市計画をさらに積極的に展開すべきと説いた。

さらに、NTTが研究してきた光技術による大容量データ通信ネットワーク「IOWN(アイオン)構想」のICT利活用も訴えている。「アイオン構想が実現すれば、エネルギー消費量を極めて減らした上で超高速、低遅延の大規模ネットワーク環境をICTデバイスにつなぐことが可能。日本の技術を世界に発信できる」として、国産技術のグローバル化に期待を寄せている。

これまで人権や労働、教育と多くの難題解決に取り組んできた。国会議員になってからは、休日も政策勉強用の書類を読み込む時間に充てて、余暇はほとんど取れていないという。それでも「政策の根幹は平和の実現。恒久平和をつくるためには貧困や差別があってはならない」と理念の実現に突き進む。座右の銘は米国16代大統領、エイブラハム・リンカーンが残した「意志あるところに道は開ける」。これからも明確な意志と実直な仕事で道を切り開いていく。

【需要家】省エネ技術の海外移転 今こそ積極推進を


【業界スクランブル/需要家】

世界の石油輸出の11%、天然ガス輸出の25%を占めるロシアに対する制裁は、欧州など各国のエネルギー安全保障に深刻な問題をもたらしている。ロシア産燃料依存からの脱却を進めれば、世界的な供給不足と価格高騰は免れず、化石燃料を輸入に頼る日本をはじめアジア諸国のエネルギーセキュリティーは深刻な事態に陥る。

3月4日にIEA(国際エネルギー機関)は、EUがロシアへの天然ガス依存から脱却するための10の計画を発表。うち三つが、建築物の断熱化、暖房温度の切り下げなど「省エネ」による需要抑制策である。強力な省エネの推進で燃料消費を抑制できれば、EU域内だけでなく、世界的な供給不足の緩和、価格高騰の抑制効果が期待できる。

そこにわが国の出番があるのではないか。日本は世界トップレベルの省エネ技術を持ち、最小限の化石燃料で無駄なくエネルギーを生み出す技術や知恵を持つ。これらを、輸入燃料に依存するアジア諸国に移転・普及させて燃料消費拡大を緩和すれば、価格高騰の抑制につながり、ひいては日本自身のエネルギー安全保障にも返ってくる。

温暖化防止国際会議・COP26では、パリ協定6条で技術協力による削減量の国際移転の仕組みが合意され、日本の二国間クレジット制度の本格運用の基盤も整った。今こそ日本は産業界の省エネ・高効率技術の海外普及を加速し、世界的なエネルギー危機の緩和に貢献するべきだろう。高効率石炭火力発電技術も除外すべきでない。現状石炭に依存するアジア諸国に、高騰局面にあるLNGへの転換を迫ることには無理がある。世界的なガス不足も助長しかねない。できるだけCO2排出を抑制しつつ石炭を使い続けてもらうことが、世界的なエネルギー危機の緩和につながる。(T)

廃炉と不可分の課題 放射性廃棄物処分場の確保


【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.14】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問

原子炉の廃炉で取り扱うのは全て低レベル廃棄物だが、世界的に嫌われものだ。

廃棄には国・県の了解がいるが、申請が行われず日本の廃炉工事は中断している。

放射性廃棄物の処分問題は廃炉と不可分の課題だが、僕はこの方面の専門でないので、廃炉経験での見聞についてのみ述べる。

原子力が始まったころは、放射性廃棄物は高・中・低の3区分であった。原子力の経験を積むうちに中レベル廃棄物が少ないことが分かり、いま日本では高低の2区分になっている。高レベル廃棄物とは、使用済み燃料と、その再処理過程で発生する高い放射性廃棄物を指し、低レベルはその他全体と考えておけばよい。高低の放射線レベルの差は大きい。目安で百万倍と言っておく。

廃炉工事に先立って、使用済み燃料は再処理工場に運搬されることが定められているから、廃炉で取り扱うものは全て低レベル廃棄物である。低レベル廃棄物は、放射線量の高い物、低い物、極低い物の3種類に分類され、便宜的にL1、L2、L3と呼ばれている。

低レベルといっても、L1には線量の高い物がある。例えば原子炉の内部構造物などは、運転中に中性子を浴びて放射化し続けているので、線量は非常に高い。JPDRの炉内構造物は、運転停止後10年で、10グレイほどの線量があった。ちなみに人間の致死線量は6Svであるから、10グレイといえば30分余りで致死量となる。低レベルだからと油断できない。

廃炉作業では、作業現場の線量からあらかじめ被曝線量を目算して、作業後に線量計の結果と比べる習慣を付けることをお薦めする。

解体を完了した米国発電所 廃棄物は処分場に艀で輸送

世界最初の解体撤去を完了した原子力発電所は、米国東部のペンシルバニア州にあったシッピングポート発電所だ。僕が訪れたのは30年以上の昔で、現場事務所の横手に、箱詰めされた廃棄物がいっぱい置かれていた。聞けば、発電所の建屋は汚染していて狭いので、中で測定すると解体した機器の線量が高く出る。正確を期して、屋外で測定して梱包したという。この話は、汚染度の高い事故炉の廃炉に役立つかもしれない。

廃棄物の送り先は、約3000マイル離れた米国の西海岸、オレゴン州の砂漠にあるハンフォード処分場だが、艀で輸送するという。理由は、TMI事故の余韻が10年経った当時も残り、輸送途中で予想される反対運動によるトラブルを避けるためという。TMI事故後の米国世論は、日本同様に厳しかったのだ。

発電所は名前通り、船着き場近くにある。大きな艀が出入りできるから、船にさえ乗せれば廃棄物は処分場に直行できる。その航路は、船着き場を流れるアレゲニー川からミシシッピー川に入り、カリブ海、パナマ運河を越えて太平洋を北上し、コロンビア川を遡るもので、航程約1万マイルという。

世界初の解体撤去を行ったシッピングポート発電所
提供:米国議会図書館資料

積み荷の大物は、何といっても圧力容器だ。制御棒などの放射線量の高い炉心材料を中に詰め込んで、内外をコンクリートで固めて遮蔽したら、重量が800tを超えたという。これでは重すぎて陸上輸送はできない。蒸気発生器などは、そのまま船積みという。

輸送での問題は、台風で名高いカリブ海を底の浅い艀で乗り切れるかにあった。現代版トム・ソーヤの冒険といえるが、台風に遭遇すれば、積み荷もろとも艀は転覆する。米国がなぜ危険な艀輸送を選んだのか、僕には分からない。

だが、いったん決まれば、米国の開拓者魂は血潮を沸き立たせる。鬼神もこれを避けたのだろう。航海では台風に遭わず、抗議運動もなく、艀輸送は成功した。ただし、天気予報会社の担当者の心労は並大抵でなかったという。

米国の廃棄物は、以降再び陸上輸送に戻る。さすがに米国、ヨーロッパでの激しい廃棄物輸送の反対運動を克服したかと思ったが、早とちりだった。TMIから取り出した溶融炉心の輸送は、反対運動に阻まれて頓挫した(第5回参照)。そういえば、使用済み燃料の処分場ヤッカマウンテンも、州政府の反対でいまだに稼働していない。放射性廃棄物の処分や輸送は米国でも嫌われもので、反対運動が根強い。

米国エネルギー省(DOE)は、こういった国民の気持ちの動きをよくつかんでいる。TMI事故の直後に環境管理計画を策定し、全米に散らばる原爆開発時代の古い研究施設の撤去や除染を行い、後腐れを一掃した。その費用約40兆円という。環境が戻ったことで気持ちが和んだのか、1990年代に起きた原子力ルネサンスは、国民の強い支持があったという。

書いていて、シッピングポートの海上輸送は、米国民の原子力意識を調査するためにDOEが試みたのではないかと、ふと思った。国民の意に沿えば実行し、反対には時の経つのを待つ、だが必須事項は強行を辞さない。米国の政治行政の呼吸は見事だ。

【再エネ】波紋呼んだ洋上風力公募 入札見直しは妥当


【業界スクランブル/再エネ】

昨年末に実施された第1回洋上風力発電占用公募3海域は、商社1社が独占し、これへの反応はマチマチである。政府関係者は、買い取り価格を入札制度に移行させ、予定通り国民負担の軽減となる方向については歓迎。ただ、入札上限価格を大きく下回る落札額になり、事業者の地元貢献策や建設工事が計画通りに進むのか、安定運営に問題はないか、などと危惧する関係者も少なくない。

先日、秋田県主催の洋上風力ロジスティクス講演会を聞いたが、施工体制や作業内容の説明を聞いても、地元請け作業はほとんどなく、対応が難しい潜水作業程度という状況である(数社下請けの作業、コンクリートなどの現場資材調達はある)。本当にこうした進め方がよいのか、かなり疑問が残る。やはり売電価格だけに重点化した入札方式では、地元貢献は難しいと言わざるを得ない。今後、占用公募は第2回、第3回と続く予定だが、入札審査の内容を公表するとともに、事業実現性の評価方式は改善するべきと考える。

他方、100万kW規模の大規模電源立地に伴う地元交付金などは検討されているのだろうか。過去の火力、原子力は電源立地交付金が半永久的に交付される形であり、洋上風力はこれらの政策とは異なるように映る。

もちろん、交付金などの陰に隠れて地元主体の地域活性化支援策が少なく、地元に活気が無いまま箱モノができていく昭和のエネルギー政策に戻ってほしくはない。だが、仮に洋上風力が地元への危険度が少ないと判断されるなら、福島第一原発事故から10年しかたっておらず、かついまだに使用済み燃料対策や最終処分場の方向性も見えない中で、化石燃料価格の高まりに合わせて原子力の再稼働を口にすることはいかがなものかと考える。(S)

【マーケット情報/5月20日】原油上昇、需要回復の見方広がる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。石油製品の需要が回復するとの予測が広がり、買いが優勢になった。

北半球は夏季に入り、燃料消費が増える見通し。先週の米国ガソリン在庫は、需要の強まりと輸出増加を背景に、12月初旬以来の最低を記録した。また、欧州では、5月12日までの一週間におけるフライト数が、パンデミック前の水準まで回復している。南半球のニュージーランドでも、国際便に対する規制撤廃の前倒しが計画されており、ジェット燃料の消費が一段と増加するとみられる。

供給面では、ハンガリーの石油会社MOLが、ロシア産原油の調達を停止する準備に入ったと表明。ハンガリーはロシア産への依存率が高く、政府は欧州共同体の禁輸措置に反対していた。供給減少の見込みが、買い意欲をさらに強めた。

一方、中国では4月、製油所の稼働率が、過去2年で最低を記録。5月はさらなる低下が予想されている。上海では16日からロックダウン緩和に向けた動きが始まるも、北京での規制は強化。経済減速にともなう需要後退の観測が、価格上昇を幾分か抑制した。

【5月20日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=113.23ドル(前週比2.74ドル高)、ブレント先物(ICE)=112.55ドル(前週比1.00ドル高)、オマーン先物(DME)=108.51ドル(前週比3.36ドル高)、ドバイ現物(Argus)=108.12ドル(前週比1.34ドル高)

【火力】需給ひっ迫後の検証 本質外れた議論


【業界スクランブル/火力】

去る3月22日、政府は、東京電力と東北電力のエリアに電力需給ひっ迫警報を初めて発令し、広く節電を呼び掛けた。そのおかげで大規模停電を回避することができたが、事後の検証では、警報発出のタイミングが遅いのではないかなどオペレーションに関わる話ばかりで、原因の本質に迫る議論に踏み込まれていないのは残念だ。

今回の需給ひっ迫の直接的原因は、16日の地震の影響で複数の火力発電所が停止したままのところに真冬並みの寒波と悪天候が重なったことだが、それとは別に、主に二つの要因が背景にあるものと考えている。

一つは太陽光など自然変動電源への対応が十分とはいえないことだ。東京電力エリアでの太陽光発電の最大出力は、前日の1256万kWから22日には175万kWへと激減している。この差は地震で停止していた火力335万kWの3倍以上だ。

もう一つは需要想定の難しさ。昨年10月時点の検証で東電エリアの3月の最大需要は、10年に一度の厳寒でも4536万kWとされていたが、直近の想定需要は4840万kWと300万kWも超過していた。

このように、需要想定の誤差が避けられず、さらに日によって供給力が大きく変動するようになった現状では、単に適正予備率を確保するという従来型の考え方だけでは十分な対応が取れていないのではないか。

頼みの揚水発電は、時間的制約があることが明らかとなる一方、火力の補修作業の時期変更で171万kWの供給力を戦力に加えることができた。この分は、時期をずらすだけなので計画時には予備力としてカウントできないが、だからこそいざというときに役に立つ二枚腰の対策となり得る。予備力についても、発電方式ごとの特性を考慮したきめ細かな対応が必要だ。(N)