【業界紙の目】穐田晴久/交通毎日新聞 編集局記者
日本のモノづくりを長らく支えてきた自動車部品産業。脱炭素化という大きな試練に直面している。
中小企業が多いという特徴を踏まえ、業界一丸となり事業再構築を進めるためのカギは何か。
「2050年カーボンニュートラル(CN)」の実現に向け、全産業がさまざまな取り組みを進めている。とりわけわが国におけるCO2排出量の2割近くを運輸部門が占めていることから、脱炭素化に向けた早急な対応が迫られているのが自動車産業界だ。「CASE」(コネクテッド・自動運転・シェアリング・電動化)と呼ばれる100年に一度の大きな変革の渦中にある自動車産業は、CN化という新たな試練に立ち向かうことになり、CNをキーワードにした動きが活発化してきた。
電動化社会に向け施策展開 経営者の本音と温度差も
日本最大の自動車技術展で知られる「人とくるまのテクノロジー展」。横浜市で5月25~27日に開催された今年の展示会では、CNに関連した新技術や製品などを出展した企業が目立ったほか、主催者の自動車技術会が「新たな脱炭素技術が照らすCNへの道」をテーマにした企画展を開催。世界最高水準の高効率太陽電池パネルを搭載したEⅤの実証車両を展示するなどして話題を集めたのは記憶に新しい。
クルマのCN化を実現する上で最大のテーマとされているのは、電動化社会の構築だ。そのための取り組みとして経済産業省では「電動車の導入加速」「充電・充てんインフラ整備」「蓄電池産業の育成」「サプライヤー等の構造転換支援」を施策の4本柱に掲げている。
その中で特に注目したいのが、自動車部品を中心としたサプライヤーの支援をどう進めるのかという問題だ。
自動車部品産業の最大の特徴は中小企業が多いことと、取り扱う部品の種類が多いことだ。日本自動車部品工業会(部工会)によると、わが国の自動車部品産業では「従業員300人未満」の中小規模の企業が事業所数の9割以上を占め、雇用4割を創出し、製造品出荷額2割以上を占めている。
部品は「エンジン」「駆動・足回り」「車体・外装」「内装」などの部門で多岐にわたっている。このうちエンジン部品やエンジン関係の電装品・電子部品、駆動・伝導・操縦装置部品など内燃機関に関連した部品が、自動車の電動化に移行した場合に影響が大きい領域として指摘されている。CNに向け電動化に対応した事業転換をいかに進められるかが大きな課題と言える。

ある金融機関が今年7月に実施した「中小企業のCNに関する意識調査」によると、CNの流れの中で中小企業の多くは自社の経営に何らかの影響があると感じつつも、具体的な方策については検討が及んでいない状況であることが分かった。
複数の中小部品メーカーの経営者らにCNへの対応を聞いてみると「CNの必要性は理解するが、何から手を付けていいのか分からない」「試作品を作りたいが専門的な技術もないし、投資資金も足りない」などと悩みを打ち明けた。中には「まだまだ先の話だからそんなに慌てることはないよ」と話す経営者もいて、対応の難しさをまざまざと見せつけられた。
経産省ではCNに向けた中小企業支援として、「相談」「設備投資」「事業再構築」「研究開発」など企業のニーズに対応した支援メニューを取りそろえている。その中で22年度の新規事業として「CNに向けた自動車部品サプライヤー事業転換支援事業」(当初予算額4・1億円)を打ち出した。
この事業は、自動車のライフサイクル全体でのCN化や、35年までに乗用車の新車販売で電動車100%を目指すという政府の政策実現のため、大きな影響を受ける中堅・中小企業のサプライヤーの事業再構築を支援するのが目的。
特にバッテリー式電気自動車(BEV)で不要になる部品を製造するサプライヤーの電動車部品製造への挑戦や、軽量化技術をはじめ電動化による車両の変化に伴う技術適応などについて専門家を派遣するといったことで、サプライヤーの事業再構築などを支援するという。事業期間は26年度までの5年間で、初年度は約1000社の支援を目指している。
先駆的取り組みはごく一部 業界一丸での推進のカギは
一方、部工会もCNの推進を22年度の重点施策の一つに掲げている。その実現に向けて「国際競争力の強化」「サプライチェーンのものづくり力維持」「国内の生産・雇用確保」の観点を重視し、会員企業の課題・ニーズの把握や政府への各種要請などの活動を加速させたいとしている。
世界最大手の自動車部品メーカーのボッシュが、日本を含め全世界400超の拠点で自社事業所のCN化を20年春に達成。またデンソーグループでは35年に工場の完全CN化を目指し、取り組みを進めている。自動車部品産業界ではこうした先駆的な取り組み事例はあるものの、中小メーカーによるCN化はまだまだ先の話だ。
岸田文雄首相が6月17日、愛知県豊田市のトヨタ自動車元町工場を視察し、日本自動車工業会会長の豊田章男・同社社長と、部工会会長の有馬浩二・デンソー社長らとCNに向けた取り組みなどについて意見交換した。その席上、有馬会長が「自動車部品産業界は多くの中小企業で構成し、これまで長きにわたって日本のモノづくりを支えてきた。部品業界一丸となってCNに取り組んでいきたい」と抱負を述べた。
部品業界一丸となってのCN化は実現できるのか。そのカギを握っているのは中小企業であり、中小企業がCN対応にいかに取り組むかによってその方向性が見えてくる。
そのためにも、中小企業のCN化に向けてのニーズをしっかり把握し、課題を洗い出し対策を推進することが重要なポイントだ。対策を進める上で政府や業界団体などの多様な支援も欠かせない。しかもその場限りではなく、長期間の継続した支援が求められる。
そして何より大切なのはCN化に向けた中小企業の意識改革。日本のモノづくりを支えてきた中小企業の「やる気」をCN実現に向け発揮できるかどうか注目したい。
〈交通毎日新聞社〉○1924年創刊○発行部数:週2回5万6000部○読者層:自動車・部品・タイヤメーカー、ディーラー、整備事業者など