【コラム/12月21日】欧州における原子力発電拡大の動き


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

最近、欧州の主要国では、エネルギー自立の動きがあることを6月22日のコラムで述べた。フランス、英国における原子力発電の拡大は、その一環である。欧州最大の原子力大国であるフランスは、2月13日に、2050年までに最大14基の原子炉の新設を発表している(少なくとも6基の原子炉の新設とさらに8基のオプション)。4年前には、原子力発電への依存度を減らす政策の一環として12基閉鎖するとしていたが、拡大に方針転換し、安全が確認された既存の原子力発電については、すべて延命措置を講じる予定である。2月24日のロシアによるウクライナ侵攻により、フランスの原子力発電拡大路線はより強固なものとなっている。7月6日に政府は、原子力発電の新設をバックアップするために、財政難に苦しむ電力会社Électricité de France(EDF) の完全国有化を発表(現在84%のシェア)している。

英国では、4月6日に発表された、「英国エネルギーセキュリティ戦略」(“ British Energy Security Strategy “)で、原子力発電については、2030年までに最大8基を稼働可能にするとしている。また、2050年までに現在の約3倍にあたる最大2,400万kWの発電容量を確保し、国内電力需要の最大25%までを賄う計画である。このため、5月13日には、「未来原子力実現基金」(”Future Nuclear Enabling Fund”:NEF)を立ち上げ、新規の原子力発電所の開発を支援する1億2,000万ポンドの補助金交付制度の設立を発表している。

フランス、英国のような主要国以外でも、原子力発電の開発・拡大に踏み切る国は多い。ベルギーでは、2003年の連邦法で原子力発電の新規建設が禁止されるとともに、既設炉の運転期間は40年と定められたことから、7基ある原子炉は、2025年12月には運転停止される計画であった。しかし、ウクライナ危機を踏まえ、政府は、2022年3月に、2基の運転期間を10年間、2035年まで延長することを発表している。また、オランダは、昨年12月に発表された2021-2025年の連立政権協定で、2030年以降に2基の原子炉の新設を発表したが、今年11月に、設置場所を同国唯一の原子力発電所があり、インフラが整備されているボルセラにすることを決定している。新規の原子力発電所は、2035年までの運開を目指す。

ルーマニアでは、11月上旬、チウカ首相は、米国との戦略的パートナーシップに基づき、同国の融資を受け、チェルナボダ原子力発電所に新たに原子炉(CANDU6)2基(3・4号機)を建設することを発表している。建設工事は、米国、カナダ、フランスの企業連合が担い、2030年までに建設を完了させる予定である。また、昨年11月にルーマニアのNclearelectrica は米国の民間企業NuScale Powerと、モジュール炉を設置する契約を締結しているが、今年5月には、最初の小型モジュール炉を建設するサイトを選定している。

チェコでは、2015年の「国家エネルギー戦略」で、原子力発電のシェアを当時の約30%から2040年には約60%にまで引き上げる必要があると明記し、既存のドコバニとテメリンの両原子力発電所で1基ずつ、可能であれば2基ずつ増設するための準備が必要としていた。そのうちドコバニ原子力発電所の最初の増設(5号機)については今年3月に入札を開始、今後2024年には選定企業と正式な契約を締結し、2036年には建設を完了させる予定である。また今年3月に、チェコの国営電力会社は、テメリン原子力発電所に、チェコのおける最初の小型モジュール炉を2035年までに設置すること発表している。

ポーランドでは、モラヴィエツキ首相が、現在の地政学的状況において、同国では原子力発電は必要不可欠であるとして、10月末に、3つの原子力発電所、6基(6~9GW)の建設計画を発表した。同国最初の原子力発電所は、米国のウェスチングハウスが約200億ドルをかけて建設する予定である。2番目の原子力発電所については、ポーランドのエネルギー企業であるZE PAKとPGE、韓国水力原子力発電株式会社および両国政府は、 韓国炉建設に関する 基本合意書と覚書を両国担当大臣が署名したことを発表している。また、3番目の原子力発電所については現在協議が進行中である。興味深いのは、ポーランドのアンナ・モスクワ気候・環境相は11月10日に、政府のエネルギー戦略の一環として、石炭の増産も計画していると発表したことである。同国では、石炭の国内消費の2/3は国内炭であり、モラヴィエツキ首相は、原子力とともに再生可能エネルギー発電の開発は進めるものの、「我々は安定したエネルギーを必要としており、それは今日、石炭によって確保されている」と強調している。同様なことは、ドイツについても言える。同国では、ロシアからのガス輸入が停止する中で、褐炭火力の発電増も余儀なくされている。地政学的リスクが増大する中では、気候変動問題を先送りしてもエネルギーの安定供給を優先することは当然だろう。

以上述べてきたように、欧州における原子力発電拡大の動きは、ウクライナ危機を踏まえてより確かなものとなっている。振り返って見れば、欧州では、原子力発電は、エネルギーセキュリティ確保の観点から、1970年代に大いに拡大した。それが、1979年の米国のスリーマイルアイランド原発事故や1986年のウクライナのチョルノービリ(チェルノブイリ)原発事故 で、開発は停滞した。しかし、欧州連合では、2009年の気候変動・エネルギー包括指令で温室効果ガス削減に向けての目標が設定されてから、原子力発電が再び注目されるようになった。そして、さらに最近では、天然ガスの高い域外依存からくる地政学的リスクの高まりから、エネルギーセキュリティの観点からもその重要性が再認識されているといえるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【検証 原発訴訟】規制委の審査中に運転差止め命令 泊判決のロジックの矛盾点


【Vol.9 泊判決】森川久範/TMI総合法律事務所弁護士

泊原発の裁判では原告側の主張が概ね認められ、札幌地裁が運転差止めを認めた。

原子力規制委員会による審査中に示された異例の判決に至ったロジックの矛盾を解説する。

 北海道電力の泊発電所1~3号機(計207万kW)について、付近住民らが人格権侵害に基づく運転差止め等を求めた事案に対し、2022年5月31日に札幌地裁が運転差止めを認めた判決(泊判決)を扱う。

札幌地裁は提訴から10年以上、原子炉の変更許可申請から約8年半が経過する中、「泊発電所の安全性に関して、被告が、原子力規制委員会の適合性審査をも踏まえながら行っている主張立証を終える時期の見通しが立たず、他方、原告は、現時点で主張立証を尽くしたとして審理の終結を求めていたこと等の審理経過に鑑みて、合理的な主張立証の時間を確保する要請を考慮してもなお審理を継続することは相当でないと思料し、判決をするものである」と強調。そして「泊発電所は、現在設置されている防潮堤(既存の防潮堤)について、地盤の液状化等のおそれがないことについて被告が相当な資料による説明をしておらず、口頭弁論終結時において、津波に対する安全性を欠いているから、他の争点について判断するまでもなく、その運転によって周辺住民の人格権(生命・身体)を侵害するおそれを有する」と認定した(判決骨子)。

この判決は、13年7月以来、北海道電力が1~3号機の原子炉設置変更許可を申請し、原子力規制委員会による新規制基準への適合性審査が進行中にもかかわらず、行政の判断がなされる前に司法判断を下したものである。運転差止めを認める理由とした、津波に対する安全性の有無等についての判断を検討する。

津波防護に対する安全性なし 人格権侵害の恐れを推定

泊判決では、その判断枠組みとして、「原子力発電所の運転の差止め等の請求が認められるためには、当該原子力発電所が安全性に欠けるところがあり、その運転等に起因する放射線被ばくにより、周辺住民の生命、身体に直接的かつ重大な被害が生じる具体的な危険が存在することをもって足りると解すべき」とした。その上で、主張立証責任については、他の原発を巡る民事差止め訴訟や民事仮処分での従前の主張立証責任の判断枠組みと同様に解した(2月号拙著参照)。

設置許可基準規則5条1項では、設計基準対象施設について、基準津波(当該設計基準対象施設に大きな影響を及ぼすおそれがある津波)に対して安全機能が損なわれるおそれがないよう要求する。判決では、「基準津波の高さが泊発電所の設計基準対象施設の存在する敷地の高さを上回ることになるため、基準津波に対して津波防護施設を設置しなければならないことになる」。さらに、「この津波防護施設について、被告は、泊発電所には既存の防潮堤が存在することや、同防潮堤の地盤に液状化等が生じる可能性が低いことを主張するが、地盤の液状化や揺すり込み沈下が生じる可能性がないことについて、相当な資料によって裏付けていない。また、今後建設予定であるとする新たな防潮堤についても、高さを16・5mとすること以外に、構造等が決まっていない」。故に「泊発電所について基準津波に対して津波防護機能を保持することのできる津波防護施設は存在しておらず、設置許可基準規則5条1項が定める津波に対する安全性の基準を満たしていない」「津波に襲われた場合に予想される事故による人格権侵害のおそれが推定され、この推定を覆すに足りる証拠はない」とした。

泊判決はあり得ない前提から結論を導き出した

規制委の審査を度外視 判決の前提の不自然さ

だが、新規制基準の作成・運用主体である規制委の適合性審査途中であることからすれば、第三者が新規制基準の定める津波に対する安全性の基準を満たしていないと判断できるものではない。泊判決のロジックでは、審査中の原発はすべて適合性審査を完了していないので安全性の基準を満たしておらず、差止めを認める、という不自然な結論となる。

ではどこがおかしいのか。泊判決では「当該原子力発電所が安全性に欠けるところがある」ことを前提に、「その運転等に起因する放射線被ばく」により、「周辺住民の生命、身体に直接的かつ重大な被害が生じる具体的な危険が存在すること」についての判断をしようとしている。審査で停止中の泊発電所が、基準津波に対して津波防護機能を保持できる施設の整備が未完了な状況で運転が行われた場合という、規制委の審査を度外視した、およそ考え難いリスクを前提としている点が最も重要なものと思われる。

「周辺住民の生命・身体に対する具体的な危険」が一般市民への電力供給施設の運転差止めの正当化事由となる以上、基準津波に対して津波防護機能を保持することのできる施設の存在しない状況下で運転が再開される具体的なリスクの存在が不可欠となるが、判決はこの点には触れていない。規制委において、設計基準対象施設が基準津波に対して安全機能が損なわれるおそれがないものであると判断されなければ、設置変更許可処分はなされないし、それに続く設工認、保安規定認可がなされる蓋然性もない。そして、審査基準不適合の状況で運転が再開されることはあり得ない、という至極当然のことに対する検討が行われないまま、道内電力供給設備の24・7%(20年時点)を占める電源を停止させる判断をしているのである。

この点については、建設中の大間原発について、人格権に基づき建設・運転の差止め等が求められた事案において、函館地裁が18年3月19日、「本件設置変更許可申請(新規制基準に基づく14年12月16日の申請)に対する規制委員会の安全審査及び処分がいまだなされておらず、本件原発が運転を開始する具体的な目途も立っていない現時点において、本件原発に重大な事故発生の具体的危険性があると認めることは困難」「かつ、裁判所が規制委員会の審査に先立って、安全性に係る現在の具体的審査基準に適合するか否かについて審理判断をすべきではないから、裁判所が、安全性に係る現在の具体的審査基準に適合しないとの理由で、本件原発の建設及び運転の差止めを命じることはできないというべきである」と判断したことが参考になると思われる。

・【検証 原発訴訟 Vol.1】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8503/

・【検証 原発訴訟 Vol.2】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8818/

【検証 原発訴訟 Vol.3】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8992/

・【検証 原発訴訟 Vol.4】https://energy-forum.co.jp/online-content/9410/

・【検証 原発訴訟 Vol.5】https://energy-forum.co.jp/online-content/9792/

・【検証 原発訴訟 Vol.6】https://energy-forum.co.jp/online-content/10115/

・【検証 原発訴訟 Vol.7】https://energy-forum.co.jp/online-content/10381/

・【検証 原発訴訟 Vol.8】https://energy-forum.co.jp/online-content/10786/

もりかわ・ひさのり 2003年検事任官。東京地方検察庁等を経て15年4月TMI総合法律事務所入所。22年1月カウンセル就任。17年11月~20年11月、原子力規制委員会原子力規制庁に出向。

【ガス】真に強いLPガスへ 対応前倒しを


【業界スクランブル/ガス】

今年も台風など自然災害による被害が相次ぎ、浸水による充てん容器などの流出が発生した。これまでLPガス充てん容器などについては「転落、転倒等による衝撃及びバルブ等の損傷を防止する措置」が義務付けられていたが、これに洪水などの対策として流出防止措置を講ずることが加えられた。

昨年6月に液石法施行規則等を改正し、同年12月に施行した。具体的には1m以上の浸水の恐れのある地域に、ベルトまたは鉄鎖の二重掛けや固定金具の使用等を義務付けるもので、猶予期間は2024年6月1日まで。調査によると、27・2%は対象施設以外でも対策を講じるという前向きな事業者もいるものの、対応を検討中の事業者もいる。猶予期間を待たずに前倒しでの対策を望みたいところだ。

一方、災害といえば雪害によるガス漏えい事故もLPガスの特徴だろう。豪雪の年に多く発生し事故統計の数値を押し上げる。昨年は死者を伴うB級事故も秋田県で発生した。事故分析によると多くの事故が、事故対策に資する供給設備(調整器など)を設置していれば防げたと指摘されている。事業者によっては、期限の到来を待って雪害に強い設備に交換するといった姿勢を示しているが、安全安心にコストをかけるのは事業者の責務である。

「雪害は事故にカウントしなくてもよいのではないか」との事業者の声もあるが、事故件数うんぬんではなく、消費者にとって事故は事故。LPガスは恐いとのイメージが植え付けられれば、オール電化を選択することにもつながりかねない。

自然災害はいつ発生するか分からず、雪害も同様だ。想定外の被害が生じるのが災害であり、「真に災害に強いLPガス」を確立するために前倒しでの対応が強く求められている。(F)

【マーケット情報/12月16日】原油上昇、品薄感と需要増予測が要因


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。カナダと米国を繋ぐキーストーン・パイプラインの稼働停止にともなう供給懸念と、需要回復の予測が強材料となった。

同パイプラインは14日に一部が再稼働したものの、全面復旧には依然至っておらず、品薄感が強い。これを受け、米国は戦略備蓄(SPR)から、エクソンモービル社とフィリップス66社に対し、不足分の原油貸し出しを決定。米SPRは12月9日時点で、1984年1月以来の最低水準を記録している。

また、米国では11月、インフレ率が11か月ぶりに大幅下落。米連邦準備理事会による金利の上げ幅も、過去4回にわたる0.75%から、0.5%に縮小。景気の回復と石油需要の増加へ期待が高まった。

さらに、国際エネルギー機関は、今年と来年における世界の石油需要見通しを上方修正。ガスオイル消費の大幅増加が背景にある。OPECも、地政学的な緊張緩和と、中国のロックダウン解除で、世界的な需要回復を予想し、価格の支えとなった。

ただ、中国では、首都・北京で新型ウイルスの感染者数が増加。同国経済の先行き不透明感が強まり、価格上昇を幾分か抑制した。

【12月16日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=74.29ドル(前週比3.27ドル高)、ブレント先物(ICE)=79.04ドル(前週比2.94ドル高)、オマーン先物(DME)=76.81ドル(前週4.82ドル高)、ドバイ現物(Argus)=76.22ドル(前週比4.19ドル高)

新「運転期間規制」を策定 認識のズレ解消に対話を重視


【インタビュー】山中伸介/原子力規制委員会委員長

やまなか・しんすけ 1979年大阪大学工学部原子力学科卒。大阪大学大学院教授などを経て2017年、原子力規制委員会委員。22年9月、委員長に就任。

9月に原子力規制委員長に就任し、「情報発信と対話」を重点項目として掲げる。

運転期間の見直しについては、年内に新たな制度を取りまとめる考えだ。

 ―9月に原子力規制委員長に就任しました。抱負をお聞きします。

山中 規制委員としての原点は福島第一原子力発電所事故にあり、それは委員長になっても変わりません。9月に原子力規制委員会、原子力規制庁が設立されて10年となりました。当時の委員のすべてが交代しましたが、最も大切なのは、事故を見つめ直し初心を忘れないことだと考えています。

―運転期間延長とそれに伴う安全規制の見直しについて、運転開始から30年を起点に10年ごとに評価をする方針を示しました。

山中 原子炉等規制法(炉規法)では、運転期間を40年、また20年を超えない期間で延長が可能と定められています。利用政策である運転期間について、規制委員会は意見を述べる立場にありません。しかし、どのような運転期間が設定されても、高経年化した原子炉の安全規制を着実に実施できる制度を作る必要があります。

 運転期間についての規制は現在、炉規法による運転延長認可制度と同法下の規則による高経年化技術評価制度の二段構えになっています。これらを一本化し、事業者に運転開始から30年以降、10年ごとに延長認可を判断する新たな制度を年内にも取りまとめます。

新たな安全規制策定へ 現行より〝はるかに厳しい〟

―従来より厳しい規制となりますか。

山中 現在、高経年化技術評価では、事業者による長期施設管理方針のソフト面を審査しています。長期管理方針にはハード面のデータも提示いただいていますが、それを直接審査しているわけではありません。ハード面を審査するのは、運転延長の認可を行う40年目だけです。

 しかし、新たな規制基準では10年おきにハード面も審査することになるので、現行制度よりもはるかに厳しい規制といえるでしょう。

―40年の運転期間から停止期間を除くカウントストップについてどう考えていますか。

山中 規制委員会の仕事は、運転開始から何年目であろうと、一定の時点で原子炉の特性を見て、判断基準に適合しているかを審査することです。審査の開始時期や次の審査までの期間については議論がありますが、審査は運転開始から数えた「暦年」で行うことが最も分かりやすいと思います。運転期間中には原子炉材料の物理的な性質で変化しにくいものもありますが、カウントストップの導入は制度を分かりにくくしてしまうのではないでしょうか。

―電力会社が規制委員会に再稼働を申請した27基のうち、いまだに10基で新規制基準の適合性審査が続いています。難航している地盤・地質の調査を巡っては、規制委員会側が明確な判断基準を示さないからだという声もある。

山中「福島を決して忘れない」という観点から、地震や津波といった外部ハザードに対する審査は極めて慎重に行われなければなりません。地盤・地質調査について、規制委員会は敷地内の断層が活断層でないことの立証を求めています。

 ただ自然が相手であり、すぐに物証が出てくる敷地もあれば、そうでない敷地もある。敷地ごとに性質が異なるので、審査に時間を要することはやむを得ません。事業者も誠意をもって対応してくれていますし、審査は厳正に行う必要があります。

両者が積極的に意見交換を バックフィットは柔軟に対応

―行政手続法で原子力の標準処理期間は2年とされていますが、審査開始から10年近く経過している原発も存在します。審査の迅速化についての考えを教えてください。

山中 これまでのやり方に大きな不備があったとは考えていませんが、事業者と規制委員会の間で判断基準の認識のズレがあるのかもしれません。

 認識のズレを埋めていくためには、事業者と規制委員会の対話が大切です。私は重点的に取り組むべき項目の一つとして、「情報発信と対話」を掲げました。審査に関する意見交換を積極的に行い、忌憚のない意見をいただければと思います。判断基準について疑問があれば、公開の場で意見を戦わせていただきたい。また規制委員会で議論する必要がありますが、審査会合という形を取り、現場レベルでの面談や規制委員が出席しない意見交換を行ってもよいと考えています。

―事業者は審査でのバックフィットについて、「予見できない」と頭を痛めています。就任会見では「何でもかんでもバックフィットをかければいいというものではない」と発言しました。これまで、必要性の乏しいバックフィットはあったのでしょうか。

山中 必要性が乏しいバックフィットがあったとは考えていません。

 事業者が安全への第一義の責任を負っているという考えは変わりませんが、安全保護系のデジタル化ついてはバックフィットを掛けませんでした。事業者が自ら期間を決め、対策を講じる方式を取ったのです。また水素爆発への対策では、すでに設置済みのフィルターベントを活用いただければよいと考えています。そのほかの水素対策でも、各事業者から提案されたものを尊重することに決定しました。バックフィットについては今後、文書体系の整備やマネジメント体制を見直す予定です。

 ただ外部ハザード関連で新たな知見が出てきた場合には、技術情報検討会で検討を行い、そのリスクを規制委員会で議論をしたうえで、バックフィットを掛けるかどうかを判断することになります。

―核物質防護での不備などから、事実上の運転停止措置が取られている柏崎刈羽原子力発電所にはどういう対応を取りますか。

山中 現在、ソフト・ハード両面の検査を進めている段階です。今年2月に現地を視察したので、近いうちにもう一度、発電所に足を運び、来年の春ごろまでに何らかの評価を示せると考えています。

聞き手:佐野 鋭

【新電力】独自の取り組みが不可欠 生き残りの努力を


【業界スクランブル/新電力】

LNG価格の高騰が止まらない。9月の輸入通関統計値(速報)は、ついに16万円を超え、一般的なガス火力発電所の発電単価はkW時当たり30円超になる見通しだ。太陽光発電が稼働しない夜間・早朝の電力卸市場は不需要期でも当面は30円超となると思われる。

想定外の寒波到来あるいは大型火力発電所のトラブル停止発生により、三年連続で冬場の市場価格高騰となれば、自社電源を持たない大部分の新電力にとって、まさに存亡の危機を迎えることになる。

新電力に打つ手はあるのか―。国による電力料金高騰対策は、需要家の負担軽減策が中心であり、事業者への救済はなさそうだ。市場原理に則り、自助努力で生き残れない者は退出もやむなしといったところか。安易に旧一電の施策に追従するのみでは新電力の生き残りは困難である。自社の調達コストを適正に反映した独自の小売価格設定、あるいは調達コスト自体の低減に向けた自助努力を行わない限り、生き残りの道はなさそうだ。

独自の小売価格設定への取り組みとしては、東京電力エナジーパートナーが発表した特高・高圧向けの新料金メニューは、新電力にとっても示唆に富む。市場価格調整項を一定割合取り入れ、自社調達コストを適正に反映する取り組みと思われる。大部分の新電力は、当然の如く旧一電の燃料費調整制度を採用しているが、今後は自社調達コストを適正に反映する独自の調整項を導入すべきであろう。

調達面では、例えばDSS可能な発電所と夜間・早朝時間帯の供給に限定した新たな枠組みの相対契約を締結し、比較的市場価格が安価な日中は全量市場調達とするなど、創意工夫で独自の調達コスト削減策につき真摯に検討すべきだ。(Z)

【電力】電取委が問題提起 改革が機能する意味


【業界スクランブル/電力】

 世界的な燃料費の高騰に見舞われ、旧一般電気事業者は2022年度上期決算は多くの社が赤字、年間でも大幅な赤字が見込まれている。数社は規制がいまだに残置されている経過措置料金の値上げを表明している。そんな中で、経済産業省の広報誌で「電力・ガス市場の番人『電取委』に迫る」という特集が目にとまった。

「電力システム改革が十分に機能していないというご指摘をいただいていることは承知しています。ただ、電力システム改革はまだ道半ばなのです」とのことであるが、電力システム改革が十分に機能するとはどういうことなのか。

政府は、改革の目的を「安定供給の確保」「電気料金の最大抑制」「需要家の選択肢や事業者の事業機会の拡大」としており、この記事の冒頭にも同様の記述があるが、市場原理を最大限活用することを標榜するなら、価格が上がるべき時には上がる市場でなければ、安定供給は確保できない。すなわち、「安定供給の確保」と「電気料金の最大抑制」は簡単に両立できるものではない。

「需要家の選択肢や事業者の事業機会の拡大」についても、今まで新電力の参入が相次いだのは、大手電力に固定費回収を度外視した安価な電気の配給を強制していたからだ。燃料費高騰で市場価格が上がっても、小売価格が経過措置料金で上限を抑えられていれば、事業者の事業拡大など土台無理な話だ。

すなわち、電力システム改革が十分に機能するとは、価格が上がるべき時には上がるという当たり前のことが確保されることなのだが、政府に、国民にその覚悟があったかどうか。経済対策に電気料金への支援が盛り込まれているところを見ると、政府にその覚悟がないことは確かなようだ。(U)

「前門の習近平」、その後


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

すっかり白髪の老人となった胡錦涛前総書記が、付き添われて退席する様は「改革・開放」の退場と重なってみえた。10月に行われた、中国共産党大会での「事件」である。この党大会で、習近平総書記は異例の三期目の選出を受ける一方、胡錦涛配下のエリート集団である共青団出身の李克強首相、汪洋前副首相、胡春華副首相などは軒並み党幹部の座から去った。最高幹部である政治局常務委員会メンバーは、いわゆる「習派」で固められたのである。

習近平政権は、不動産事業への貸付絞り込み、IT企業への締めつけの強化、教育や思想の統制、さらにゼロ・コロナ政策など、経済成長よりも社会の秩序を優先する政策を展開してきた。上海の厳格なロックダウンを仕切った次期首相候補の李強氏など、新指導部のメンバーを見ると、こうした路線は一層強化されそうである。

筆者は、今年1月号の本コラムで「前門の習近平、後門のプーチン」と題して、エネルギー市場における需要・供給それぞれの脅威(虎と狼)として、中・露両国を取り上げた。果たせるかな、狼は大暴れして市場を大混乱に陥れたが、虎は「借りてきた猫」のような1年であった。前述の政策の影響か、1~9月の経済成長率は3.0%と、今年の政府目標の5.5%を大幅に下回る。LNGの輸入は、世界一になった昨年から一転して、2000万t以上減りそうだ。ロシアのガス供給削減に苦しむEUが、LNGの輸入を昨年比4000万t増やし、冬を前にガスの備蓄を積み上げられたのも、虎のおかげといえる。

仮にウクライナでの戦争が終結しても、狼へのエネルギー依存に回帰する者はおるまい。このエネルギー危機は長続きしそうである。虎には今しばらく大人しくしておいてもらいたいものだ。

紛糾の予感漂ったCOP27 火種はロス&ダメージ


【ワールドワイド/環境】

11月7~18日にエジプトのシャルム・アル・シェイクで開催されたCOP27は紛糾が予想されていた。英国が議長を務めたCOP26では野心レベルの引き上げが最優先課題とされたのに対し、エジプトが議長のCOP27では途上国への資金援助、ロス&ダメージ(通称ロスダメ)に焦点が当たるとみられた。ほかには次のことが事前に予想された。

先進国はグラスゴー気候協定を踏まえ、2023年のグローバルストックテークとも絡めて30年までの野心レベルの引き上げのための作業計画や閣僚ラウンドテーブルの開催などを重視している。対してエネルギー価格、食糧品価格の上昇と世界経済の下振れリスクの中で貧しい途上国がこれまで以上に資金面での要求を強めるだろう。最終合意は両方の主張をバランスよく盛り込んだパッケージになるのがこれまでの常道だ。

しかし途上国が強く主張しているロス&ダメージは大きな火種である。ロスダメ対策とは気候変動の影響による経済的・非経済的な財が被る損失や被害を回避・縮小する、あるいは事後的に対処する取り組みである。一見してわかるように適応の一類型であるが、国連交渉の中で適応とは独立したテーマとして扱われている。途上国はロスダメをあらゆる気候被害の損害賠償を先進国に求償するツールとみなしている。

先進国の立場で見れば、ただでさえ年間1000憶ドルの支援目標が達成できていないこと、25年までにこれを大幅に増額する新資金目標を合意する必要があることに加え、経済停滞、軍事支出拡大などで支援を大幅拡大できる地合いではない。緩和、適応とは別途の資金援助メカニズムを作られることは何としてでも避けたいところだが、最貧国、低開発国を中心に途上国のロスダメへのこだわりは強い。中国、インドなどの新興国は自らにプレッシャーがかかることを回避するため、貧しい途上国の背中を押している感もある。

ロスダメを巡る先進国・途上国対立が原因で合意パッケージができない可能性も十分にある。もともと今回のCOPは何かを合意しなければならない「節目のCOP」ではない。他方、ウクライナ戦争の下でも温暖化防止に取り組む姿勢を示したいのは先進国、途上国の交渉官の共通の利害でもある。同床異夢的な文言に合意して成功を取り繕う可能性もある。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

32年までの電源開発案を公表 COP26の目標達成を目指す


【ワールドワイド/経営】

インド中央電力庁(CEA)は2022年9月9日、国家電力計画(NEP)のドラフト版を公表した。NEPは同国の電源開発計画などを5年毎に集約したもので、ドラフト版では、22年4月から27年3月までの5年間の需要予測と具体的な電源開発計画、および32年3月までの見通しが示された。太陽光は27年までに1億kW以上、石炭火力は3000万kW超の新設が計画されている。

27年3月までの5年間では、電力需要の年平均増加率は7%、26年度の電力需要は1兆8740億kW時、最大電力は2億7200万kWと想定され、これを満たすには、2億2854万kWの電源開発が必要になる。主な内訳は太陽光が1億3208万kW、風力が4050万kW、石炭火力が3326万kW(463万kWが廃止されるため、増分は2863万kW)、水力1095万kW、原子力700万kWで、これらがすべて開発された場合、27年3月末の総発電設備容量は6億2290万kWとなる。

この時点で再エネ比率は55%、石炭火力は38%となり、再エネが石炭火力を上回る。一方、32年3月までの見通しでは、31年度の電力需要は2兆5380億kW時、最大電力は3億6300万kWと試算され、総発電設備容量はベースケースシナリオで8億6594万kWとなる。設備容量に占める再エネの割合は66%まで上昇する。

インド政府は8月、国連気候変動枠組条約締約国会議(UNFCCC)事務局に改定版NDC(国が決定する貢献)を提出した。改定版では、30年までに「CO2排出原単位を05年比で45%削減する」「非化石電源の発電設備を全体の50%にする」という目標が示された。前述の通り、27年3月までに再エネだけで発電設備全体の55%に達すると見込まれ、この非化石電源比率50%の目標は順当に行けば達成が見込まれる。

なお、モディ首相が昨年のCOP26で宣言した30年までの目標のうち「非化石電源の発電設備を5億kWにすること」と「10億トンのCO2排出削減」は、国内関係者の反対もありNDCには反映されなかったが、国内目標としては維持されている。NEPドラフト版は「30年非化石電源5億kW」目標達成に向けて作成されたと明記されており、同国のシン電力相も9月24日、米国ピッツバーグで開催された国際会議で演説し、同目標に引き続きコミットしていると明言している。インド政府は今後も、COP26で宣言した野心的な目標を達成するための取り組みを進めていくとみられる。

(栗林桂子/海外電力調査会調査第二部)

独露パイプラインでガス漏洩 厳しい冬に「破壊工作」指摘も


【ワールドワイド/資源】

欧州最大のガス需要国であるドイツと世界最大のガス埋蔵量を誇るロシアを直接結ぶ天然ガスパイプライン、ノルドストリームおよびノルドストリーム2からガスが大規模漏洩したことが明らかになってから数カ月が経つ。

9月26日、それぞれのパイプライン事業会社が、ノルドストリーム、ノルドストリーム2に敷設されているそれぞれ2本のパイプの内、前者は全て、後者は1本についてガス圧の低下を発表した。27日にはさらにもう一箇所で漏洩が新たに見つかり、その規模から小さな亀裂ではなくパイプラインが大きく破損していることが推察された。10月2日、ガス漏洩が止まったことを受けて、スウェーデン政府は現場へ潜水艦を派遣し、ガス漏洩の原因の調査に乗り出すと、強力な爆発が原因で生じたものであると発表。何者かによる破壊工作として捜査を進めていることが明らかになった。

水深50~80ⅿに及ぶパイプラインの破壊には特定の国が関与する可能性が当初から指摘されてきた。プーチン大統領も工作活動にアングロ・サクロンが関与していると発言し、ロシア政府も「その裏にある『真実』が公表されれば、多くの欧州人が驚くことになるだろう」と暗に西側の国が背後にいると発信する。

くしくも漏洩事件の翌日は、01年から構想が始まった、ノルウェーからデンマークを経由してポーランドに至る新たな天然ガスパイプライン「バルト海パイプライン」の開通式典が各国首脳参加の下、ポーランドで行われていた。容量ではポーランドが同パイプラインで輸入する量は依然低いが、ロシア産ガスを排除しようとする欧州政府の方針に合致し、ポーランドが脱ロシアを進める象徴的プロジェクトであり、今回の式典と合わせたようなガス漏洩事件によって、その注目度と重要性はさらに高まったとも言える。

破壊されたパイプラインの修理は容易ではない。この冬の間、再稼働はできず、それ以上続く可能性が高いと考えられている。欧州ではガス貯蔵率が年末までに設定された目標である85%を達成しており、暖冬予報も出ているが、ガス貯蔵率の維持においてはノルドストリームからの冬季を通じての一定供給が前提となっていた。そのガスが失われた今、加盟国に課せられた省エネ(節ガス)が順調に達成できない場合や突発的な寒波が欧州を襲うような事態が生じれば、欧州は厳しい冬を迎えることになるだろう。

(原田大輔/独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構調査部調査課長)

図書館はどう本を選ぶのか エネルギー問題で著しい偏り


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

 本を増やしたくない。なので市区町村の図書館をよく使う。困るのは、蔵書の偏りだ。

例えばエネルギー問題。再生可能エネルギーを推す本は多いが、問題点を指摘したものは少ない。

原子力は、さらに偏る。『原子炉時限爆弾、大地震におびえる日本列島』(広瀬隆著、ダイヤモンド社刊)は、図書館検索サイト「カーリル」で調べると、東京都内の市区町村図書館119館にあるが、安全技術に踏み込んだ解説書『原子力安全基盤科学1:原子力発電所事故と原子力の安全』(山名元編集、京都大学学術出版会刊)は18館にしかない。

税金で運営され中立公正であるべき図書館なのに、なぜか。

朝日11月4日「図書館の自由、揺るがす『依頼』、国『拉致問題の本充実を』司書困惑」「選書、権力から独立してこそ」を読んで事情が少し理解できた。

記事は「文部科学省が公立・学校図書館に出した依頼文が波紋を呼んでいる。『拉致問題の関連本の充実』を求めるもの。『図書館の自由を脅かしかねない』。司書から戸惑いや抗議の声」と書く。

さらに、「図書館には戦前の反省にたった『図書館の自由に関する宣言』がある。『権力の介入または社会的圧力に左右されることなく、自らの責任にもとづき収集した資料を国民の利用に供する』」との解説もある。

違和感を否めない。そもそもの依頼文は「拉致問題に関する図書等の充実に係る御協力等について」という呼びかけに過ぎない。さらに、「拉致問題その他北朝鮮による人権侵害問題への対処に関する法律」第三条は、「地方公共団体は、国と連携し、国民世論の啓発を図る」と定めている。

前出カーリルで検索すると、例えば、『めぐみ、お母さんがきっと助けてあげる』(横田早紀江著、草思社)を所蔵するのは、都内の市区町村の図書館でたった11館だ。拉致被害の当事者が苦悩をつづった本にさえ関心が薄い。依頼文の発出は当然に思える。

選書の実態はどうなっているのか。全国公共図書館協議会事務局の調査では、市町村立図書館で選書の基準が明文化されている館は半数に満たない。非常勤や臨時職員が選書を担う例も多い。要は手続きがあいまい。公開でもない。朝日記者はご存知か。

朝日10月29日「あおられる『電力危機』」の巨大インタビュー記事も理解に苦しむ。

「電力供給の『危機』が声高に叫ばれている。安定供給を錦の御旗に、政府も原発活用など政策転換に動く。この問題に詳しい安田陽・京都大学大学院特任教授は『根拠なく不安をあおる言説が散見される。わかりやすい話には要注意』と言う」に続いて、同氏の見解を紹介する。要点は、見出しの「リスク対処には科学的方法論で根拠ある分析を」と、本文中の「優先順位が高いのは再エネ」「特に風力」らしい。

疑問なのは同氏の肩書だ。「特任教授」と記事にあるが、京大の本人のサイトを見ると「エネルギー戦略研究所株式会社取締役研究部長」の肩書が併記されている。大手風力開発事業者・日本風力開発のグループ企業の幹部である。

利害関係者なのだ。朝日は、その肩書を意図的に省いた。

Newsポストセブン11月1日「深刻化する“朝日新聞離れ”」は、「朝日の発行部数は400万部を割り込み、399万部となった。前年同月比マイナス63万部」と伝える。理由は、さて……。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

【インフォメーション】エネルギー企業の最新動向(2022年12月号)


 【東京ガス/国内初のガス・電気空調の最適制御システムを販売

東京ガスは2023年4月からハイブリッドチラーシステム「スマートミックスチラー」の販売を開始する。ダイキン工業、ヤンマーエネルギーシステムと共同開発を進めているものだ。ダイキン製の高効率電気空調「EHPチラー」とヤンマーES製のガス空調「GHPチラー」に、東京ガスのクラウド制御サービス「エネシンフォ」を組み合わせることで、ガス空調と電気空調を最適制御する。GHPチラーの稼働により契約電力を下げることで、ランニングコストを約15%削減できるという。ガス空調と電気空調を組み合わせたチラーシステムのパッケージ商品は国内初。高い省エネ性を誇る同システムの導入により、業務用建物のZEB化を推進し、脱炭素社会実現への貢献を目指す。

三菱重工業/タイで超大型GTCC発電所が運転開始

三菱重工業が建設したタイ・チョンブリー県の天然ガス火力発電所が10月1日に運転を開始した。タイ最大の独立系発電業者(IPP)であるガルフ・エナジー・デベロップメント社と三井物産の合弁事業会社が進めてきたもの。三菱重工は、チョンブリー県とラヨーン県で、それぞれガスタービン4台で構成される出力265万kWのガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)火力発電所のプロジェクトを2018年に受注し、建設を進めている。今回、運開したことでチョンブリー県のプロジェクトは完成。同社は、引き続きラヨーン県の発電所の建設に取り組むとともに、世界各地の電力の安定確保と環境負荷の低減に貢献していく方針だ。

清水建設/世界最大級のSEP船「BLUE WIND」が完成

清水建設が発注しジャパンマリンユナイテッドが建造した、世界最大級の搭載能力とクレーン性能を持つ自航式SEP船が完成し、「BLUE WIND」と命名された。全幅50m、全長142m、総トン数2万8000tで、クレーンの最大揚重能力は2500t、最高揚重高さは158m。作業時は4本の脚を海底に着床させ、船体を海面上にジャッキアップさせることで、波浪の影響を受けずに作業できる。水深10~65mの海域に対応。8000kW風車の場合は7基、1万2000kW風車の場合は3基分の全部材をフルサイズで一括搭載が可能だ。船体のジャッキアップ・ダウンやクレーン操作などの訓練を行った後、富山県入善町沖での施工を経て、石狩湾新港洋上風力発電施設の施工を行う予定だ。

北海道ガス/風力発電の出力変動をガスエンジンで調整

北海道ガスは日立パワーソリューションズと「北ガス石狩風力発電所」の建設工事に関する発注契約を締結した。石狩LNG基地の隣接地で2023年4月に着工し、24年9月の運転開始を目指す。同発電所内のガスエンジン12台(9万3600kW)を風力発電の調整力として活用。ガスエンジンを調整電源とする風力発電の出力変動調整モデルは、北海道内初の取り組みだ。再エネ電源として電力事業で最大限活用し、安定性・環境性・経済性の高い発電方式の実現を目指す。

ヤンマーエネルギーシステム/合成メタンを燃料に 実証機が基準をクリア

ヤンマーエネルギーシステムは9月14日、東京ガスの横浜テクノステーションに合成メタンを燃料とする出力35kWのマイクロコージェネレーションシステムの実証試験機を納入した。エンジンの燃料系部品を合成メタンに合わせて変更し、都市ガスを燃料とするガスコージェネレーションシステムと同等の発電出力を実現している。都市ガスと同様の燃焼を維持することで、窒素酸化物(NOX)排出基準濃度を達成している。同機は同実証試験施設で生成された合成メタンを燃料として、運転試験に活用される予定だ。

東芝エネルギーシステムズ/タービン発電機が対象 検査ロボットを実用化

東芝エネルギーシステムズはこのほど、発電所用タービン発電機向け検査ロボットのサービス提供を本格的に開始すると発表した。2018年に開発したこのロボットは、中・大型発電機に加え、小型発電機にも対応可能な「薄型検査ロボット」と、バッフル乗り越えを可能とする「高機能型検査ロボット」の2種類のラインナップを用意。このロボットの使用で、検査期間は従来の約半分に短縮される。薄型検査ロボットは、一部の海外発電所でサービスを開始。高機能型検査ロボットは23年度から提供を始める。

商船三井・東北電力/風力推進装置を搭載した石炭船が運航

商船三井と東北電力が建造を進めていた、世界初のウインドチャレンジャー(硬翼帆式風力推進装置)搭載の石炭輸送船が「松風丸」と命名され、運航を開始した。ウインドチャレンジャーは、伸縮可能な帆で風力エネルギーを船の推進力に変換。航行燃料を削減し、温室効果ガス(GHG)の排出抑制などにつながる。東北電力の専用船として豪州やインドネシア、北米などからの石炭を輸送する。従来の同型船と比べ、GHGの削減効果は豪州航路で約5%、北米西海岸航路で約8%を見込む。

レモンガス/80周年記念式典 10月に都内で開催

LPガス販売事業者のレモンガスが、10月に都内のホテルで、創立80周年の式典を開催した。同社は1942年に練炭の製造販売会社として設立し、67年にLPガス販売を開始した。その他、アクアクララのブランド名で宅配水ビジネスの業績を伸ばす一方、最近では電力や都市ガス販売を手掛けている。今後は家庭用のユーティリティー企業として取り組む。

中電ネットワーク・富士通/再エネ拡大への実証 送電線のデータ収集

中国電力ネットワークと富士通は、送電設備を活用して取得・変換した風況などの環境データの実用性についての実証を実施した。2021年から1年間行ったもので、対象は、再エネ導入拡大のために次世代技術として期待される、送変電設備の送電容量を弾力的に運用する技術の実現や、設備の保全業務高度化におけるドローン活用の取り組みだ。

中部電力ミライズほか/イオンモール土岐でPPA 商業施設で最大規模

中部電力ミライズとLooop、中電Looop Solarの3社は、大型商業施設「イオンモール土岐」(岐阜県土岐市)の屋上スペースに太陽光発電設備を設置して、発電した電気を供給するオンサイトPPAサービスの提供を始めた。Looopが太陽光発電設備の調達・設計・施工を行い、中電Looop Solarが設備を保有・運営。中部電力ミライズは発電した再エネ由来の電力を供給する。設置した設備は、パネル容量2870kWで、商業施設としては国内最大規模。発電電力は、同施設で使用する電力の約20%に相当する。

九州電力・ジャパン・インフラ・ウェイマーク/非GPS対応自律型ドローンの国内初実証

九州電力は、ドローン機体・サービスの共同開発を行うジャパン・インフラ・ウェイマークと、複数機体のドローン(米国Skydio社製)による遠隔での自動・自律巡回飛行の国内初の実証を行った。この実証は、九電の苓北発電所(熊本県天草郡苓北町)にて実施。パソコンで同時に3機のドローンを操作しながら、飛行中に撮影した映像をリアルタイムに一元管理し、遠隔地で確認するものだ。活用したSkydio社製のドローンは、非GPS環境下や磁界環境下においても安全な飛行が可能なAIによる自律飛行技術、 360°全方位障害物回避機能を搭載している。両社は今後も、さらなるドローン活用範囲の拡大と高度なインフラ点検サービスの実現を目指していく。

エネルギー政策のビジョンは何か 「3E+S」掘り下げる議論を


【オピニオン】渡辺 凜/キヤノングローバル戦略研究所 研究員

 EU(欧州連合)のエネルギー政策文書では、政策が理想とするエネルギー利用の在り方に関する説明が充実している。例えば再生可能エネルギー導入策についても、単に「気候変動抑止」のための政策ではない。EUが再エネを推進するのは、「クリーン」で、「透明性があり」、「フェア」で「デジタル」で「レジリエント」なインフラを、加盟国間の「連帯」を通じて構築することを目指しているからだ。今年からは「脱ロシア」も重要なキーワードとなった。関連文書の中では、エネルギー産業の技術や燃料に加えて、材料、働き手やスキル、利用者のライフスタイル、国際関係や開発支援など多岐にわたって、各キーワードが目指すエネルギー利用の姿が論じられている。

よく読むと、気候変動も「環境に悪いから対策せよ」という単純な話ではない。エネルギー利用の影響が、利用者とは別の世代や地域の人、さらに他の生物の生活環境まで及び得る点なども問題視されている。EUが取り組む「グリーン変革」には、「他者の被害の上に成り立つエネルギーシステムを使うべきではない」という意識もあるようだ。

翻って日本のエネルギー政策を見るに、3E+S(安定供給、経済効率性、環境適合性+安全性)という端的な理念が掲げられているが、どのようなエネルギーシステムを目指しているのか、もう一歩踏み込んだビジョンは見えてこない。

それは、3E+Sを実際の文脈に当てはめ、さまざまなステークホルダーの声を踏まえながら、3E+Sに関する具体的課題や、3E+S間のバランスの取り方を議論するプロセスが不足してきたからではないか。例えば次のような問いを立てることで、エネルギー政策に資する知見を得られるかもしれない。

まず、「環境」とは何か。社会的に許容できない影響の条件や、再エネの急拡大とのトレードオフといった問題は十分に考えられてきたか。影響をより包括的に、正確に把握し、小さくするための研究開発は十分に行われてきたか。

「エネルギー自給」に関しては、燃料の自給率目標のみならず、エネルギー供給のライフサイクル全体で必要となる各種の資源を踏まえて、望ましい供給構造を考えるべきだろう。産油国を巡る地政学だけでなく、望ましい国際関係や、日本が果たし得る役割を考えていけば、エネルギー政策にとっても重要なインプリケーションがあるはずだ。

「経済効率性」についても、実績ベースの分析や試算のみならず、防災やレジリエンス、働き方改革、地方経済の再生といった課題との中長期的な相互作用を検討することで、新たな方向性や戦略を見出だせるかもしれない。

上述のような問題は非常に難しいからこそ、危機的状況に陥る前に、幅広くヒアリングを行い、議論を重ねていくべきだ。そして、そのような開かれた議論を通じて、3E+S以外にエネルギー政策において重要な理念はないか、という点も継続的に考えていくべきだろう。

わたなべ・りん 2016年東京大学大学院原子力国際専攻修了。アジア太平洋エネルギー研究センターでエネルギー政策研究に従事。2022年から現職および東京大学未来ビジョン研究センター客員研究員を兼務。

【マーケット情報/12月9日】原油急落、経済減速の見込みが重荷


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み急落。経済の減速、それにともなう原油需要の後退見通しで、それぞれ2021年12月下旬以来の最低を記録した。

米連邦準備理事会が、さらに金利を引き上げるとの見方が台頭している。雇用統計で賃金上昇率などが市場予測を上回り、インフレ圧力の懸念が高まったことが背景にある。欧州中央銀行やイングランド銀行も、インフレに対抗し、金利を一段と引き上げる見通しだ。経済がさらに冷え込み、石油消費が減少するとの予想が広がった。

供給面では、G7が、ロシア原油価格の上限設定で合意。ロシアは反発するも、輸出の継続を表明しており、需給の引き締めには至らなかった。また、米国のガソリン在庫は、8月初旬以来の最高を記録。軽油在庫も、過去9カ月で最高となり、需給緩和感を強めた。

他方、中国は、新型ウイルス感染拡大対策のロックダウンを大幅に緩和。経済活動の再開と、石油需要の回復が予想されるが、価格の上方圧力とはならなかった。

【12月9日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=71.0ドル(前週比8.96ドル安)、ブレント先物(ICE)=76.10ドル(前週比9.47ドル安)、オマーン先物(DME)=71.99ドル(前週9.13ドル安)、ドバイ現物(Argus)=72.03ドル(前週比8.93ドル安)